説明

軌陸作業機

【課題】油圧パワーユニットのトラブルによる停止時における軌陸作業機のレール外への脱出が、その場で労力少なく迅速に行なえる非常脱出手段を有する軌陸作業機を提供する。
【解決手段】地面走行用走行体のフレームの前後に突出して駆動装置により上下動可能に上下動フレーム10を設ける。この上下動フレーム10の左右にレール走行用車輪13を設ける。前記上下動フレーム10に上下位置変更可能に、、左右に向いた横引き用車輪18を有する横引き装置15を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の保線作業を行なうための軌陸作業機に係り、より詳しくは、エンジン停止等によるパワーユニット停止時に軌陸作業機を鉄道の外部に退避するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軌陸作業機は、パワーユニットのトラブルによる停止時に軌陸作業機をレール外に非常脱出させるための装置を、軌陸作業機と別に用意している。また、従来の軌陸作業機の別の例として、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1に記載された軌陸作業機は、地面を走行するための走行体と、その走行体フレームに取付けられたレール走行用駆動輪と、レール走行用従動輪とを備え、さらに軌陸作業機のパワーユニットのトラブルによる停止時にレールの外に作業機を脱出させるため、前記駆動輪、従動輪以外に駆動輪側に補助輪を上下動可能に設け、この補助輪は通常の保線作業時には持ち上げておき、パワーユニット停止時には、前記駆動輪の代わりに前記補助輪を降ろして従動輪と補助輪とをレール上に載せ、人力あるいは牽引車による牽引により脱出可能な踏み切り等まで移動させるものである。
【0003】
【特許文献1】特開平5-305804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の軌陸作業機のうち、非常脱出装置を軌陸作業機と別に用意しておくものは、非常脱出時にそのための装置を軌陸作業機に改めて取付けなければならず、労力および時間を要するとともに、保管、取付けが面倒であるという問題点がある。また、前記特許文献1に記載のように、油圧パワーユニットのトラブルによる停止時に脱出可能な箇所まで軌陸作業機を移動させるものは、その場所まで軌陸作業機を移動させなければ軌陸作業機をレール外に脱出させることができず、迅速な脱出が困難であるという問題点がある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、油圧パワーユニットのトラブルによる停止時における軌陸作業機のレール外への脱出が、その場で労力少なく迅速に行なえる非常脱出手段を有する軌陸作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の軌陸作業機は、地面走行用走行体と、
この走行体のフレームの前後に突出して駆動装置により上下動可能に設けられた上下動フレームと、
この上下動フレームの左右に取付けられたレール走行用車輪と、
前記上下動フレームに上下位置変更可能に設けられ、前記レール走行用車輪の回転方向以外の方向を向いた横引き用車輪を有する横引き装置とを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2の軌陸作業機は、請求項1において、
前記横引き装置は、前記各上下動フレームのアーム部に添って回動可能に取付けられたブラケットと、このブラケットに取付けられた前記横引き用車輪と、前記ブラケットを不使用時の上げ位置と使用時の下げ位置とでそれぞれ固定する固定手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項3の軌陸作業機は、請求項1において、
前記横引き装置は、前記各上下動フレームのアーム部に添って垂直方向に移動可能に取付けられたブラケットと、このブラケットに取付けられた前記横引き用車輪と、前記ブラケットを不使用時の上げ位置と使用時の下げ位置とでそれぞれ固定する固定手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、レール上にレール走行用車輪を載せて保線作業を行なっている際に、エンジン停止等により油圧パワーユニットのトラブルにより軌陸作業機が停止した場合、レールに直角に横引き走行用部材を敷き、その横引き走行用部材上に横引き装置の車輪を載せ、人力を用いて軌陸作業機をレール外に脱出させる。このように、本発明の装置を用いれば、エンジンが停止したその場所で軌陸作業機を迅速に退避させることができる。また、本発明においては、上下動フレームに横引き装置を常備しているので、横引き装置の保管を要することなく、容易に使用可能な状態とすることができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、前記各上下動フレームの左右のアーム部に添って回動可能に取付けられたブラケットを、上げ位置と下げ位置とで固定することにより、横引き装置の不使用姿勢、使用姿勢をとるようにしたので、前記上下動フレームの左右方向に回動自在に前記ブラケットを取付ける場合のように左右の走行体が回動の邪魔になることがない。このため、前記ブラケットを走行体よりも前後に突出させた位置に設ける必要がなく、前記上下動フレームを含むレール上走行装置を小型に構成することができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、前記各上下動フレームに添って上下方向に移動可能に取付けられたブラケットを、上げ位置と下げ位置とで固定することにより、横引き装置の不使用姿勢、使用姿勢をとるようにしたので、請求項2の場合と同様に、レール上走行装置を小型に構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の軌陸作業機を一実施の形態を多関節フロントを省略してレール上における走行状態で示す側面図、図2はその正面図、図3はその走行体部分を示す平面図である。1はレール、2は走行体であり、走行体2は走行体フレーム3の左右にゴム製のクローラ4を装着するものである。このクローラ4は、レール1以外の地面上の走行に用いられる。
【0013】
走行体2の走行体フレーム3上には旋回装置5を介して旋回体6が設置され、旋回体6上にはエンジン搭載の油圧パワーユニット7と運転室8とが設置される。また、前記旋回体6の前部には、バケット等の作業具を備えた不図示の多関節フロントが取付けられる。なお、前記多関節フロントは、前記旋回体6に水平揺動装置を介して取付ける場合もある。
【0014】
10は走行体フレーム3の前後に取付けられた上下動フレームである。各上下動フレーム10は、左右のアーム部10aの根元部が、左右のクローラ4、4間において、ピン12を中心として、油圧シリンダ11の伸縮により上下動するように回動可能に取付けられる。前記各上下動フレーム10の左右のアーム部10aの先端には、クローラ4の端部より前後に突出した位置となるように横フレーム10bが設けられ、これらの横フレーム10bの左右の端部にレール1上を走行させるための車輪13が取付けられる。左右の車輪13、13間の幅は図2の正面図に示すように両車輪が左右のレール1、1上に載るように設定される。
【0015】
なお、レール1、1間が軌陸作業機によって電気的に短絡されるを防止する構造や、レール1、1間の間隔に合わせて車輪13、13間の間隔を調整可能に構成されるが、詳細な説明を省略する。
【0016】
図3に示すように、前後の上下動フレーム10のうち、一方(本例では後方)の上下動フレーム10の横フレーム10bには、レール走行用車輪13を駆動する油圧モータ14が取付けられる。この油圧モータ14および前記油圧シリンダ11は、旋回体6上の油圧パワーユニット7からの作動油の供給を受けて作動するものである。
【0017】
前記上下動フレーム10の左右にはそれぞれ横引き装置15が取付けられる。各横引き装置15は、図4(A)〜(C)に示すように、前記各上下動フレーム10の左右のアーム部10aに嵌まる2又状をなし、アーム部10aに添ってピン16を中心に回動可能に取付けられたブラケット17と、このブラケット17に取付けられた横引き用車輪18とを有する。この横引き用車輪18は、レール走行用車輪13によりレール1上にある軌陸作業機をレール1外(軌道外)へ移動させて退避させるもので、回転方向がレール走行用車輪13の回転方向以外の向き、例えば直交する向きに設けられる。19、20はそれぞれ前記左右のアーム部10aとブラケット17に前記ピン16を挿着するためのピン穴である。
【0018】
前記ブラケット17には、これを左右のアーム部10aに横引き装置15の不使用時の上げ位置と使用時の下げ位置とでそれぞれ固定するための固定手段としてのピン21(ボルトでもよい)を挿着するためのピン穴22、23を有し、ブラケット17にも前記ピン21を挿着するピン穴24を有する。
【0019】
図4において、横引き装置15は実線で示すaの状態が使用姿勢であり、この時は、ブラケット17のピン穴24をアーム部10aのピン穴23に合わせ、ピン21を挿着してアーム部10aにブラケット17を固定する。また、2点鎖線で示すbの状態が不使用状態であり、この時は、ブラケット16のピン穴24をアーム部10aのピン穴22に合わせ、ピン21を挿着してアーム部10aにブラケット17を固定する。
【0020】
この軌陸作業機を用いて作業を行なう際、図5に示すように、前記横引き装置15をアーム部10aに対して密着させた上げ位置に固定し、油圧シリンダ11を収縮させて上下動フレーム10を横引き装置15地面からHで示す高さに浮かせ、クローラ4、4でレール1、1を跨ぎ、油圧シリンダ11を伸長させて車輪13をレール1上に載せて図1の状態とし、後方の上下動フレーム10に取付けた油圧モータ14を作動させて目的地まで自走により移動する。
【0021】
保線作業中にエンジンが停止する等の理由により油圧パワーユニット7が停止した場合、図6、図7に示すように、左右のレール1、1間および一方のレール1の外側における横引き装置15の下に位置する箇所にレール1、1と直交するようにそれぞれ横引き走行用部材30、31を敷く。
【0022】
そして横引き装置15のブラケット17をアーム部10aに固定しているピン21を抜き、ブラケット17のピン穴24の位置を上下動フレームのアーム部10aのピン穴23に合わせ、これらのピン穴23、24にピン21を挿着して横引き装置15を下げ位置、すなわち使用位置に変更して固定する。
【0023】
続いて携帯用油圧源あるいは手動式油圧源の配管を油圧シリンダ11に接続し、この油圧シリンダ11を伸長させ、横引き用車輪18を横引き走行用部材30上に載せてクローラ4を地面から浮かせる。このとき、レール走行用車輪13もレール1から浮いた状態となる。このようにして軌陸作業機を人力により押してレール1の外に軌陸作業機を退避させる。
【0024】
このように、本発明の装置を用いれば、エンジン故障等により油圧パワーユニット7が停止した場合、その場所で軌陸作業機をレール1から迅速に退避させることができる。また、上下動フレーム10に横引き装置15を常備しているので、横引き装置15の保管を要することなく、容易に使用可能な状態とすることができる。
【0025】
また、本実施の形態においては、前記各上下動フレーム10の側面、すなわちアーム部10aに添って回動可能に取付けられたブラケット17を、上げ位置と下げ位置とで固定することにより、横引き装置の不使用姿勢、使用姿勢をとるようにしたので、前記上下動フレーム10の左右方向に回動可能に前記ブラケット17を取付ける場合のように左右の走行体が回動の邪魔になることがなく、このため、前記ブラケット17を走行体2よりも前後に突出させた位置に設ける必要がなく、前記上下動フレーム10を含むレール上走行装置を小型に構成することができる。
【0026】
図8は本発明の他の実施の形態であり、この実施の形態においては、横引き用車輪18を取付けたブラケット33を、垂直方向に位置変更可能に取付けたものである。このようにブラケット33を垂直方向に移動させて固定可能にするため、図8(C)に示すように、ブラケット33には、縦長の長穴34と上下方向の穴35とを設けると共に、アーム部10aには、図8(B)に示すように縦方向に3つの穴36、37、38を設ける。
【0027】
この横引き装置において、上位置すなわち不使用位置にブラケット33を固定する際には、図8(A)に実線cで示すと共に、図8(D)に示すように、ブラケット33の上部の穴35とアーム部10aの上部の穴36を合わせてこれらの穴にボルト39を挿通し、ナこのボルト39をナット40に螺合して締め付けることにより固定する。また、ブラケット33の長穴34とアーム部10aの下部の穴37に挿通しておいたボルト41とこれに螺合しておいた不図示のナットを締め付けることにより、ブラケット33をアーム部10aを上げ位置で固定する。
【0028】
一方、ブラケット33を図8(A)の2点鎖線dで示すように下位置すなわち使用位置に固定する場合は、前記ボルト39を外し、かつボルト41とこれに螺合しているナットを緩め、ボルト41に長穴34に摺動させながらブラケット33を下げる。これにより、ボルト41に長穴34の上端が当接すると、ブラケット33の上部の穴35の高さがアーム部10aの中間部の穴37の高さに合い、これらの穴35、37に前記ボルト39を挿通してナット40に螺合して締め付けると共に、ボルト41とこれに螺合するナットを締め付けることにより、ブラケット33を下げ位置で固定する。
【0029】
この実施の形態においても、横引き装置を使用する際は、前記実施の形態と動揺に、下げ位置で前記携帯用油圧源や手動式油圧源を用いて油圧シリンダ11を伸長させて横引き走行用部材30に載せてクローラ4を浮き上がらせ、レール1の外に退避させる。
【0030】
図8の実施の形態においても前記実施の形態と同様に、狭いスペースを用いてブラケット33の上下位置の変更を行なうことができるので、前記上下動フレーム10を含むレール上走行装置を小型に構成することができる。なお、図8の実施の形態において、前記ボルト39、41の代わりにピンを固定手段として用いることができる。
【0031】
また、ブラケット33を上下位置で固定する構造は、図8の例に限らず、種々に変更可能であるが、ブラケット33に長穴34を設けたことにより、ブラケット33の上下位置を変更する場合は、ボルト41とこれに螺合するナットを緩めることでブラケット33の上下動を可能にしているから、ボルト41を外すことなく、すなわちブラケット33をアーム部10aから外すことなく保持させた状態で上下でき、位置変更作業が容易になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による軌陸作業機の一実施の形態をレール走行可能状態で示す側面図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】図1、図2の実施の形態の軌陸作業機における走行体部分を示す平面図である。
【図4】(A)は本実施の形態の上下動フレームおよび横引き装置を示す側面図、(B)は上下動フレームのアーム部のピン穴の配置を示す側面図、(C)は横引き装置の側面図である。
【図5】本実施の形態において、上下動フレームを上げた状態を示す側面図である。
【図6】本実施の形態において、横引き装置による退避作業状態を示す側面図である。
【図7】図6の正面図である。
【図8】(A)は本発明の他の実施の形態の横引き装置を示す側面図、(B)はその上下動フレームのアーム部のピン穴の配置を示す側面図、(C)はこの実施の形態の横引き装置を示す側面図、(D)は横引き装置のアーム部への取付け構造を示す平面図である。
【符号の説明】
【0033】
1:レール、2:走行体、3:走行体フレーム、4:クローラ、5:旋回装置、6:旋回体、7:油圧パワーユニット、8:運転室、10:上下動フレーム、10a:アーム部、10b:横フレーム、11:油圧シリンダ、12:ピン、13:レール走行用車輪、14:油圧モータ、15:横引き装置、16:ピン、17:ブラケット、18:横引き用車輪、19、20:ピン穴、21:ピン、22〜24:ピン穴、30、31:横引き走行用部材、33:ブラケット、34:長穴、35〜38:ピン穴、39、41:ボルト、40:ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面走行用走行体と、
この走行体のフレームの前後に突出して駆動装置により上下動可能に設けられた上下動フレームと、
この上下動フレームの左右に取付けられたレール走行用車輪と、
前記上下動フレームに上下位置変更可能に設けられ、前記レール走行用車輪の回転方向以外の方向を向いた横引き用車輪を有する横引き装置とを備えたことを特徴とする軌陸作業機。
【請求項2】
請求項1に記載の軌陸作業機において、
前記横引き装置は、前記各上下動フレームの左右のアーム部に添って回動可能に取付けられたブラケットと、このブラケットに取付けられた前記横引き用車輪と、前記ブラケットを不使用時の上げ位置と使用時の下げ位置とでそれぞれ固定する固定手段とを備えたことを特徴とする軌陸作業機。
【請求項3】
請求項1に記載の軌陸作業機において、
前記横引き装置は、前記各上下動フレームの左右のアーム部に添って垂直方向に移動可能に取付けられたブラケットと、このブラケットに取付けられた前記横引き用車輪と、前記ブラケットを不使用時の上げ位置と使用時の下げ位置とでそれぞれ固定する固定手段とを備えたことを特徴とする軌陸作業機。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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