説明

軌陸作業機

【課題】クローラ間の拡縮が容易かつ短時間に行なえ、しかもセンタージョイントの液圧回路数を増加させることなく実施できる軌陸作業機を提供する。
【解決手段】旋回体に、拡縮用液圧シリンダ19と上下用液圧シリンダ11の制御に兼用するコントロール弁27と、地面走行用液圧モータ15とレール走行用液圧モータ14の制御に兼用するコントロール弁29、30を設ける。走行体に、拡縮用液圧シリンダ19と上下用液圧シリンダ11とのいずれか一方を旋回体上の対応する兼用のコントロール弁27に選択的に接続する第1の選択弁21を設ける。地面走行用液圧モータ15とレール走行用液圧モータ14の一方を旋回体上の対応する兼用のコントロール弁29、30に選択的に接続する第2の選択弁23A、23Bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の保線作業を行なうための軌陸作業機に係り、より詳しくは、走行体に設ける液圧装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軌陸作業機は、走行体の幅が拡縮用液圧シリンダにより拡縮され、左右にそれぞれ地面走行用液圧モータを有する地面走行用走行体と、この走行体のフレームの前後に突出して、上下動可能に設けられた上下動フレームと、前記上下動フレームの左右に取付けられ、レール走行用液圧モータにより回転駆動されるレール走行用車輪とを備える(例えば特許文献1)。また、前記走行体上に液圧回路接続用センタージョイントを有する旋回装置を介して旋回体が設置され、その上に液圧ポンプが搭載される。前記液圧ポンプは旋回体上に搭載されたコントロール弁および前記旋回装置に設けられたセンタージョイントを介して走行体上の地面走行用液圧モータ、拡縮用液圧シリンダ、レール走行用液圧モータ等に接続される。地面を走行する際には、前記レール走行用車輪を浮かせて走行し、レール上を走行する際には前記レール走行用車輪をレール上に載せ、クローラ等の地面走行用走行体を浮かせて走行する。
【0003】
【特許文献1】特開2004-249757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の軌陸作業機は、旋回装置に設けるセンタージョイントの液圧回路(液圧回路)の数が一般的には最大11等に制限されている。その理由は多くの場合、軌陸作業機が従来の油圧ショベル等の応用機械として製造されているためである。
【0005】
ところが、センタージョイントにおける液圧回路の本数は、地面走行用液圧モータ用の液圧回路が5本(左右の液圧モータにそれぞれ2本、ドレン管が1本)、レール走行用液圧モータ用に2本(ドレン管は前記地面走行用液圧モータ用と兼用)、レール走行用車輪のブレーキ用が2本、地面走行用液圧モータの速度制御用の1本、合計10本が必要になる。
【0006】
また、在来線のような狭軌のレールに使用されている軌陸作業機を、新幹線のように広軌のレールで作業する場合には、広軌のレールを跨げるようにするため、左右のクローラ間の間隔を拡げる必要がある。そして、夜間の作業が終了した後、昼間は線路外で休車させる場合等のために輸送する際に左右のクローラ間を狭める。
【0007】
このような車幅の拡縮用液圧シリンダを備えたものを用いる場合、この拡幅用液圧シリンダには2本の液圧回路が必要になる。しかし、前述のように、センタージョイントの液圧回路はすでに10本使用されているため、拡幅用液圧シリンダを備えた作業機を用いる場合には、前記10本にさらに拡幅用液圧シリンダ用の2本を加えて合計12本必要になり、既存のセンタージョイントの液圧回路の最大本数を超えてしまい、液圧回路を確保できない。このため、広軌レールに適用する軌陸作業機として、拡幅用液圧シリンダを用いた拡縮式作業機を用いることができない。なお、レール走行用の左右の鉄輪間の間隔は、軌陸作業機の本体内に収まり、輸送幅以内であるため、一般的には広軌レール幅に合わせた状態でボルトにより固定しておく。
【0008】
上記センタージョイントにおける液圧回路不足の問題を解決するため、センタージョイントの液圧回路数を増加させるとすれば、新たな設計変更が必要となる等、コスト高になるという問題点がある。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、広軌レールにおける軌道作業を行なう場合、拡幅用液圧シリンダを備えた作業機を用いることができ、もってクローラ間の拡縮が容易かつ短時間に行なえ、しかもセンタージョイントの液圧回路数を増加させることなく実施できる軌陸作業機を提供することを目的とする。また、本発明は、レール走行用車輪の上下動も容易に行なえる軌陸作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の軌陸作業機は、走行体の幅が拡縮用液圧シリンダにより拡縮され、左右にそれぞれ地面走行用液圧モータを有する地面走行用走行体と、
この走行体のフレームの前後に突出して、上下動用液圧シリンダにより上下動可能に設けられた上下動フレームと、
前記上下動フレームの左右に取付けられ、レール走行用液圧モータにより回転駆動されるレール走行用車輪と、
前記走行体上に液圧回路接続用センタージョイントを有する旋回装置を介して設置された旋回体と、
この旋回体上に搭載された液圧ポンプとを備え、
前記旋回体に、前記拡縮用液圧シリンダと前記上下用液圧シリンダの制御に兼用するコントロール弁と、前記地面走行用液圧モータと前記レール走行用液圧モータの制御に兼用するコントロール弁とを設け、
前記走行体に、前記拡縮用液圧シリンダと前記上下用液圧シリンダとのいずれか一方を前記旋回体上の対応する兼用のコントロール弁に選択的に接続する第1の選択弁と、前記地面走行用液圧モータと前記レール走行用液圧モータの一方を前記旋回体上の対応する兼用のコントロール弁に選択的に接続する第2の選択弁とを設け、
前記旋回体に、前記第1の選択弁と前記第2の選択弁を切換えるパイロット弁を設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の軌陸作業機は、請求項1において、
前記パイロット弁は、前記第1の選択弁と前記第2の選択弁に共通に設けたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、前記拡縮用液圧シリンダと前記上下用液圧シリンダとのいずれか一方を前記旋回体上の対応する兼用のコントロール弁に選択的に接続する第1の選択弁と、前記地面走行用液圧モータと前記レール走行用液圧モータの一方を前記旋回体上の対応する兼用のコントロール弁に選択的に接続する第2の選択弁とを設け、旋回体側に設けたパイロット弁によってこれらの選択弁を切換えることで、地面走行用液圧装置とレール走行用液圧装置の切換えが行なえる。このため、広軌レールにおける軌道作業においても、拡幅用液圧シリンダを有する作業機を用い、旋回体上の液圧ポンプによってこの拡幅用液圧シリンダを駆動することにより、左右のクローラ間の拡縮が容易かつ短時間に行なえる。また、軌道作業の開始、終了に際して、旋回体上の液圧ポンプにより上下用液圧シリンダを駆動することにより、レール走行用車輪の上下動が容易かつ短時間に行なえる。しかも従来のセンタージョイントの液圧回路数を増加させることなく経済的に実施できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、第1の選択弁と第2の選択弁とが、1本のパイロット弁により1つの液圧回路で接続されるため、センタージョイントに付加する液圧回路数を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の軌陸作業機の一実施の形態を多関節フロントを省略してレール上における走行状態で示す側面図、図2はその平面図、図3はその正面図である。1はレール、2は地面走行用走行体であり、この走行体2は走行体フレーム3の左右にゴム製のクローラ4を装着するものである。このクローラ4は、レール1以外の地面上の走行に用いられる。15はクローラ4を駆動する地上走行用液圧モータである。
【0015】
走行体2の走行体フレーム3上には旋回装置5を介して旋回体6が設置され、旋回体6上にはエンジン駆動の液圧ポンプ16(図4参照)搭載のパワーユニット7と運転室8とが設置される。また、前記旋回体6の前部には、バケット等の作業具を備えた不図示の多関節フロントが取付けられる。なお、前記多関節フロントは、前記旋回体6に水平揺動装置を介して取付ける場合もある。
【0016】
10は走行体フレーム3の前後に突出して取付けられた上下動フレームである。各上下動フレーム10は、左右のアーム部10aの根元部が、左右のクローラ4、4間において、ピン12を中心として、液圧シリンダ11の伸縮により上下動するように回動可能に取付けられる。前記各上下動フレーム10の左右のアーム部10aの先端には横フレーム10bが設けられ、これらの横フレーム10bの左右の端部にレール走行用車輪13が取付けられる。左右の車輪13、13間の幅は図2の正面図に示すように両車輪が左右のレール1、1上に載るように設定される。
【0017】
なお、レール1、1間が軌陸作業機によって電気的に短絡されるのを防止する構造や、レール1、1間の間隔に合わせて車輪13、13間の間隔を調整可能に構成されるが、詳細な説明を省略する。
【0018】
図3に示すように、前後の上下動フレーム10のうち、一方(本例では後方)の上下動フレーム10の横フレーム10bには、レール走行用車輪13を駆動するレール走行用液圧モータ14が取付けられる。この液圧モータ14および前記液圧シリンダ11は、旋回体6上のパワーユニット7の液圧ポンプ16からの作動液の供給を受けて作動するものである。
【0019】
図2に示すように、クローラ4は左右のサイドフレーム17に掛け回されたものであり、左右のサイドフレーム17、17間にはこれらの間の間隔を変更する拡縮用液圧シリンダ19を設けている。20は走行体上の液圧装置に液圧ポンプ16からの作動液を供給する液圧回路接続用センタージョイントである。
【0020】
図4は本発明による軌陸作業機の液圧回路図である。図4において、図1〜図3と同じ符号は同じ構成機器を示す。図4において、センタージョイント20より図面上の上部は走行体2側に設けられる機器であり、下側は旋回体6上に設けられる機器である。21は、前記拡縮用液圧シリンダ19と前記上下用液圧シリンダ11とのいずれか一方を液圧回路22に選択的に接続する第1の選択弁である。23A、23Bは、前記レール走行用液圧モータ14、14と、地面走行用液圧モータ15、15とを、液圧回路24、25に対して選択的に接続する第2の選択弁である。
【0021】
26は不図示のパイロット弁により操作されるコントロール弁群である。このコントロール弁群は、前記液圧回路22、24、25がセンタージョイント20を介して接続されるコントロール弁27、29、30が含まれる。31は前記液圧ポンプ16と同様にエンジンにより駆動されるパイロット液圧ポンプである。32は前記第1の選択弁21と前記第2の選択弁23A、23Bに共通に設けたパイロット弁である。このパイロット弁32の二次側の回路33は前記第1の選択弁21の操作室aと前記第2の選択弁23A、23Bの操作室b、cに共通に接続される。
【0022】
34は前記レール走行用車輪13のブレーキを作動させるために左右にそれぞれ1本ずつ設けられた液圧シリンダである。35はこの液圧シリンダ34に接続される液圧回路、36はこれらの液圧シリンダ34のパイロット弁である。
【0023】
37は前記液圧モータ14、15から出るドレンをタンク39に戻すドレン管である。40は速度制御液圧信号41により傾転角制御装置42を介して液圧モータ15の速度を制御するパイロット回路である。
【0024】
この構成において、パイロット弁32が図示の右位置にあるときは、前記選択弁21、23A、23Bの操作室a、b、cにはパイロット液が供給されないため、これらの選択弁21、23A、23Bは図示の位置にある。従ってコントロール弁27の二次側回路22は上下用液圧シリンダ11に接続される。また、コントロール弁29、30の二次側回路24、25はレール走行用液圧モータ14、14に接続される。従って、コントロール弁27を操作することにより、上下用液圧シリンダ11を作動させてレール走行用車輪13をレール1上に降ろして車体を押し上げることにより、クローラ4を浮かせた図1、図3のレール上を走行可能な状態とすることができる。そしてコントロール弁29、30を操作することにより、レール走行用液圧モータ14を駆動してレール1上を走行させることができる。
【0025】
一方、パイロット弁32を左位置に切換えると、その二次側回路33にパイロット液圧ポンプ31から作動液が供給されるので、選択弁21、23A、23Bが図示の状態から切換わる。このため、コントロール弁27の二次側回路22は拡縮用液圧シリンダ19に接続される。また、コントロール弁29、30の二次側回路24、25は地面走行用液圧モータ15、15に接続される。従って、コントロール弁27を操作することにより、拡縮用液圧シリンダ19を作動させて車幅を変更することができる。また、コントロール弁29、30を操作することにより、地面走行用液圧モータ15を駆動して地面上を走行させることができる。
【0026】
このように、兼用のコントロール弁27に対し、前記拡縮用液圧シリンダ19と前記上下用液圧シリンダ11とのいずれか一方を選択的に接続する第1の選択弁21と、兼用のコントロール弁29、30に対し、前記地面走行用液圧モータ15と前記レール走行用液圧モータ14の一方に選択的に接続する第2の選択弁23A、23Bとを設け、旋回体6側に設けたパイロット弁32によって選択弁21、23A、23Bを切換えることで、地面走行用液圧装置とレール走行用液圧装置の切換えが行なえる。
【0027】
このため、広軌レールにおける軌道作業においても、拡幅用液圧シリンダ19を備えた作業機を用い、この拡幅用液圧シリンダ19を、旋回体上の液圧ポンプ16によって駆動することにより、左右のクローラ4、4間の拡縮が容易かつ短時間に行なえる。また、軌道作業の開始、終了に際して、旋回体上の液圧ポンプ16により上下用液圧シリンダ11を駆動することにより、レール走行用車輪13の上下動が容易かつ短時間に行なえる。しかも従来のセンタージョイント20の液圧回路数(11本)を増加させることなく経済的に実施できる。
【0028】
また、本実施の形態によれば、第1の選択弁21と第2の選択弁23A、23Bとが、1本のパイロット弁32により1つの回路33で接続されるため、センタージョイント20に付加する液圧回路数を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による軌陸作業機の一実施の形態をレール走行可能状態で示す側面図である。
【図2】図1の実施の形態の軌陸作業機における走行体部分を示す平面図である。
【図3】図1の平面図である。
【図4】本実施の形態の液圧回路図である。
【符号の説明】
【0030】
1:レール、2:走行体、3:走行体フレーム、4:クローラ、5:旋回装置、6:旋回体、7:パワーユニット、8:運転室、10:上下動フレーム、10a:アーム部、10b:横フレーム、11:液圧シリンダ、13:レール走行用車輪、14:レール走行用液圧モータ、15:地面走行用液圧モータ、16:液圧ポンプ、17:サイドフレーム、19:拡縮用液圧シリンダ、20:センタージョイント、21:第1の選択弁、23A、23B:第2の選択弁、24、25:液圧回路、26:コントロール弁群、27、29、30:コントロール弁、31:パイロット液圧ポンプ、32:パイロット弁、34:ブレーキ用液圧シリンダ、35:液圧回路、36:パイロット弁、37:ドレン管、40:パイロット回路、41:速度制御液圧信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体の幅が拡縮用液圧シリンダにより拡縮され、左右にそれぞれ地面走行用液圧モータを有する地面走行用走行体と、
この走行体のフレームの前後に突出して、上下動用液圧シリンダにより上下動可能に設けられた上下動フレームと、
前記上下動フレームの左右に取付けられ、レール走行用液圧モータにより回転駆動されるレール走行用車輪と、
前記走行体上に液圧回路接続用センタージョイントを有する旋回装置を介して設置された旋回体と、
この旋回体上に搭載された液圧ポンプとを備え、
前記旋回体に、前記拡縮用液圧シリンダと前記上下用液圧シリンダの制御に兼用するコントロール弁と、前記地面走行用液圧モータと前記レール走行用液圧モータの制御に兼用するコントロール弁とを設け、
前記走行体に、前記拡縮用液圧シリンダと前記上下用液圧シリンダとのいずれか一方を前記旋回体上の対応する兼用のコントロール弁に選択的に接続する第1の選択弁と、前記地面走行用液圧モータと前記レール走行用液圧モータの一方を前記旋回体上の対応する兼用のコントロール弁に選択的に接続する第2の選択弁とを設け、
前記旋回体に、前記第1の選択弁と前記第2の選択弁を切換えるパイロット弁を設けたことを特徴とする軌陸作業機。
【請求項2】
請求項1に記載の軌陸作業機において、
前記パイロット弁は、前記第1の選択弁と前記第2の選択弁に共通に設けたものであることを特徴とする軌陸作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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