説明

軟体害虫駆除剤、二液型軟体害虫駆除剤、および、軟体害虫駆除剤ゲル化物の製造方法

【課題】植物を枯死させず、環境に優しく、それでいて、ヤマビルを含む軟体害虫を効果的に駆除することができる、新規な構成の軟体害虫駆除剤を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸を有効成分として含有してなる、軟体害虫駆除剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟体害虫駆除剤、二液型軟体害虫駆除剤、および、軟体害虫駆除剤ゲル化物の製造方法に関する。詳細には、周辺の植物を枯死させず、環境に優しい軟体害虫駆除剤、二液型軟体害虫駆除剤、および、軟体害虫駆除剤ゲル化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、里山が荒廃したこと、鹿などの野生生物が増加したことから、ヤマビルの被害が増加、拡大しており大きな社会問題となっている。ヤマビルは、じめじめとした環境を好むが、里山の荒廃がそのような環境を作りだし、また、ヤマビルが鹿などの野生生物に寄生することから、野生動物が生息域を拡大すれば、同時にヤマビルもその生息域を拡大させている。
【0003】
ヤマビル被害が多く報告されている有名な地域としては、東北地方では秋田県、関東方面では、群馬県四万温泉、神奈川県丹沢など、関西方面では、三重県鈴鹿山など、が挙げられる。しかし、近年では、上記ヤマビルの増加、生息域の拡大、ならびに、定年退職された方の趣味として山歩き、登山がブームとなっていることから、ヤマビルの被害は、各県へ拡大、被害数は年々増加傾向にある。
【0004】
ヤマビルは、同じ吸血害虫の蚊やダニと違い病気を媒介することはなく、また、ハチのように著しく有害な毒素を注入することはないので、命に関わる被害を及ぼすわけではない。しかし、ヤマビルは、吸盤にある歯で皮膚を傷つけ出血させ、血液凝固を阻害する物質(ヒルジン)を出して吸血するため、吸血後に体から離れた後でもしばらく出血が止まらないことから、知らないうちに衣服が血に染まっていることがある。また、上記物質は痛みを感じさせない作用もあるため、知らないうちに体の数箇所にヤマビルが付着しているという事態に遭遇する人も少なくない。
【0005】
体長2〜5センチの円筒形のヤマビルが靴の中、ふくらはぎ、太ももに等に、数匹付着して、吸血されている状況は、想像するだけでも苦痛が伴い、実際の肉体的な被害は少ないとしても、精神的な被害は甚大といえる。ましてや、休日の山歩きなどの楽しい気分が、台無しとなり、各観光地のイメージにも関わるため、各地方自治体はその効果的な駆除方法を熱望している。
【0006】
また、ヤマビルを特に好んで食べる鳥獣はいないことから、ヤマビルが増加する環境となってしまった現状、里山を元の状態に戻すという根本的な解決策を採るのはもちろんのこと、それと同時に、より即効性のある解決方法が必要である。よって、植物を枯死させずに里山の環境を破壊しないような、ヤマビル駆除剤が求められている。また、国立公園、あるいは、世界遺産登録地域など、植物を保護する必要がある地域においても使用できるような、環境に優しいヤマビル駆除剤が求められている。
【0007】
また、ヤマビル以外の、ナメクジ、カタツムリ、毛虫等の軟体害虫は、花、野菜などの植物を食べ、傷めてしまうことから、これら軟体害虫を駆除することが必要とされている。
【0008】
従来、ヤマビルの駆除剤としては、DEETが使用されてきた。DEETは植物を枯死させないが、人体に対する危険性がカナダ政府などで指摘されており、水源地等での散布ができないという問題があった。また、他の駆除剤としては、シトロネラが使用されてきた。シトロネラは、植物由来であるので、環境、人体に対して悪影響がなく安全ではあるが、シトロネラが揮発性物質であるので、ヤマビル駆除効果が持続しないという問題があった。
【0009】
特許文献1には、木酢液、竹酢液、酢酸、乳酸等を含有してなる有害生物用忌避材が記載されている。該忌避材によると、ヤマビル、マツノマダラカミキリ、アルゼンチンアリ等の有害生物を忌避できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−120608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の忌避材の成分である、木酢酸、竹酢酸、酢酸、乳酸、クエン酸は、同時に除草効果をも有するため、住宅地などの除草効果が必要な場所での使用には適しているが、国立公園、あるいは、世界遺産登録地域など、植物を保護する必要がある地域では使用できなかった。また、特許文献1に記載の忌避材の成分である、唐辛子およびからしは、高価であるので忌避材の成分として適しておらず、ナフタレンおよびパラジクロールベンゼンは、天然成分ではないので、大量に散布すると環境および人体に悪影響を与える虞がある。
【0012】
そこで、本発明は、植物を枯死させず、環境に優しく、安価であって、それでいて、ヤマビルを含む、ナメクジ、カタツムリ、毛虫等の軟体害虫を効果的に駆除することができる、新規な構成の軟体害虫駆除剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、本発明について説明する。
第1の本発明は、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸を有効成分として含有してなる、軟体害虫駆除剤である。
第1の本発明において、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸の含有割合は、駆除剤全体を100質量%として、0.1〜10質量%であることが好ましい。本発明の軟体害虫駆除剤は、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸の含有量が低濃度であっても、十分な軟体害虫駆除効果を発揮することができる。
【0014】
カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸としては、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸などが挙げられる。リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸などはそれぞれ単独で駆除剤に含有させてもよいし、混合して含有させてもよい(下記第2、第3の発明においても同様。)。
軟体害虫としては、例えば、ヤマビル、ナメクジ、カタツムリ、毛虫等が挙げられる。中でも、本発明の駆除剤は、ヤマビルに対して特に効果的である(下記第2、第3の発明においても同様。)。
【0015】
第1の本発明の軟体害虫駆除剤は、さらに、海藻由来の多糖類高分子を含有していることが好ましい。該海藻由来の多糖類高分子としては、カラギーナンまたはアルギン酸若しくはその塩が好ましい。また、海藻由来の多糖類高分子の含有割合は、駆除剤全体を100質量%として、1〜3質量%であることが好ましい。海藻由来の多糖類高分子は、駆除剤をゲル化させるために加えられる。ゲル化した駆除剤は、内部からゆっくりと有効成分を放出させるため、駆除効果が長続きする。ゲル化しているので、雨等によって流されることがなく、また、土壌中にしみ込み、土中生物に影響を与えることもない。
【0016】
第2の本発明は、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸および海藻由来の多糖類高分子を含有してなる第一液、並びに、ゲル化促進剤を含有してなる第二液からなり、使用に際してこれら第一液および第二液を混合してゲル化させる二液型軟体害虫駆除剤である。第2の本発明によると、軟体害虫を駆除したい現場において、所望の量の軟体害虫駆除剤を、所望の形態にてゲル化させることができる。また、液状の第1液および第2液を設置箇所の形状に沿ってゲル化させるので、ゲル化物の付着性、密着性が良好となる。
【0017】
第2の本発明において、ゲル化促進剤は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であることが好ましい。また、第一液および第二液における、海藻由来の多糖類高分子に対するゲル化促進剤の質量比(ゲル化促進剤(リン酸二水素カリウムの場合)/海藻由来の多糖類高分子)が、0.2/3以上0.5/1以下であることが好ましい。
【0018】
第3の本発明は、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸および海藻由来の多糖類高分子を含有してなる第一液を所定箇所に塗布する工程、該所定箇所にゲル化促進剤を含有してなる第二液を塗布する工程、を備え、該塗布した箇所において第一液および第二液をゲル化させる、軟体害虫駆除剤ゲル化物の製造方法である。第一液と第二液の塗布順序としては、表面を効率よくゲル化させる観点から、まず、第一液を塗布してから、次に、第二液を塗布することが好ましい。また、これを繰り返すことにより、より強固なゲルを得ることができる。ここで、「塗布」とは、液を散布、噴霧するなど、所定箇所に液体を付着できるような方法であれば、いずれの方法をも含む概念である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の軟体害虫駆除剤によると、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸を有効成分としているため、植物を枯死させず、環境に優しく、それでいて軟体害虫を効果的に駆除することができる。本発明のようなカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸を有効成分とする軟体害虫駆除剤は、従来知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<軟体害虫駆除剤>
(カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸)
本発明の軟体害虫駆除剤は、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸を有効成分として含有している。カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸としては、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸などが挙げられる。これらカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸は、植物を枯死させず、環境に優しい。これらの有機酸の中でも、リンゴ酸、酒石酸が好ましく、特に、リンゴ酸が好ましい。
【0021】
リンゴ酸とは、2−ヒドロキシブタン二酸であり、酸味を持つことから飲料や食品の酸味料として用いられている。またpH調整剤、乳化剤など、食品工業において様々な用途に利用されている。しかしながら、食酢の微量副成分として含有されていることが知られていたものの、リンゴ酸を、ヤマビル駆除剤の有効成分とすることは、従来は知られていなかった。
【0022】
リンゴ酸と乳酸との違いは、植物に対する影響である。リンゴ酸をカラギーナンを用いて散布すると、葉の表面に均一に分布し、水分が蒸発後に結晶化して酸としての働きが弱まり、やがて風で飛ばされたり、雨に洗い流されたりして、消滅する。乳酸の場合は、常温で液体として存在するため、水分が蒸発するにつれて高濃度となり、植物に対してダメージを与えてしまう。その結果、乳酸が残った葉の表面はスポット状に茶色く変色するなどの影響が残り、観光地などでは景観に悪影響を与えてしまう。
【0023】
また、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸は、低濃度で軟体害虫駆除効果を発揮する。本発明の軟体害虫駆除剤では、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸の含有割合は、駆除剤全体を100質量%として、下限は好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上であり、上限は好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは4質量%以下である。カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸は、もともと環境への影響が小さい物質であるが、本発明の駆除剤では、低濃度のカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸で効果を発揮できるので、環境への影響がさらに小さい。しかしながら、濃度が高くなるにつれて影響を受ける植物種が増え、また、低濃度でも複数回の散布や過剰の散布をすると水分の蒸発に伴い最終濃度が増加してしまうため、2.5〜3.5質量%での使用が最も望ましい。一時的な植物への影響が問題にならないのならば、3.5〜4.5質量%での使用が軟体害虫駆除に効率が良い。
【0024】
(海藻由来の多糖類高分子)
本発明の軟体害虫駆除剤は、さらに海藻由来の多糖類高分子を含有していることが好ましい。海藻由来の多糖類高分子としては、カラギーナン、または、アルギン酸もしくはその塩が挙げられる。カラギーナンとは、直鎖含硫黄多糖類の一種で、D−ガラクトース(または、3,6−アンヒドロ−D−ガラクトース)と硫酸から構成される陰イオン性高分子化合物である。カラギーナンは、紅藻類からアルカリ抽出により得られる天然成分である。
【0025】
海藻由来の多糖類高分子は、軟体害虫駆除剤をゲル化させるために加えられる。ゲル化した軟体害虫駆除剤は、内部からゆっくりと有効成分を放出させるため、軟体害虫駆除効果が長続きする。また、ゲル化しているので、雨等によって流されることがなく、土壌中にしみ込み、土中生物に影響を与えることもない。
【0026】
カラギーナンは、イオタ、カッパ、および、ラムダの三種類に大別される。イオタタイプカラギーナンは流動性のある粘性を持ち、弾力のある弱いゲルを形成する。カッパタイプカラギーナンは硬く脆いゲルを形成する。ラムダタイプカラギーナンは冷水に可溶して粘調な水溶液となり、ゲル化能力はない。本発明においては、イオタタイプカラギーナンを用いることが好ましい。なお、いずれのカラギーナンも、後に説明するゲル化促進剤に触れると、直ちにゲル化する。
【0027】
海藻由来の多糖類高分子の含有割合は、本発明の軟体害虫駆除剤をゲル化させることができる量であればよく、例えば、軟体害虫駆除剤全体を100質量%として、好ましくは1質量%以上5質量%以下、より好ましくは2質量%以上3質量%以下である。海藻由来の多糖類高分子の含有割合が少なすぎると、軟体害虫駆除剤をゲル化させる効果が出難くなる虞があり、逆に、海藻由来の多糖類高分子の含有割合が高すぎると、ゲル化効果が飽和したり、または、駆除剤を所定の位置に設置する前の保存状態において駆除剤がゲル化してしまう虞がある。但し、海藻由来の多糖類高分子を溶解後にすぐ使用する場合は、3質量%以上5質量%以下でも使用可能で、ゲル化促進剤を添加することで強固なゲルをつくることができる。
【0028】
本発明の軟体害虫駆除剤は、上記したカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸および海藻由来の多糖類高分子を含有する水溶液であることが好ましい。また、防腐剤、着色剤、界面活性剤などの一般的な添加剤を含有していてもよい。
【0029】
<二液型軟体害虫駆除剤>
本発明の軟体害虫駆除剤は、上記したカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸および海藻由来の多糖類高分子を含有してなる軟体害虫駆除剤からなる第一液、および、ゲル化促進剤を含有してなる第二液からなり、使用に際してこれら二液を混合してゲル化させる二液型軟体害虫駆除剤として構成することもできる。
このようにして、ゲル化促進剤を含有してなる第二液と組み合わせることにより、ゲル化させたい所望の時に、所望の場所にて、所望量、所望形状のゲル化物を形成することができる。
【0030】
海藻由来の多糖類高分子のゲル化を促進させるゲル化促進剤としては、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を用いることができる。アルカリ金属塩としては、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、塩化ナトリウム等を用いることができ、アルカリ土類金属塩としては、塩化カルシウム等を用いることができる。尚、本発明の軟体害虫駆除剤を植物に塗布する場合には、ゲル化促進剤としてリン酸二水素カリウム、または塩化カリウムを用いることが好ましい。
【0031】
第一液および第二液における、海藻由来の多糖類高分子に対するゲル化促進剤の質量比(ゲル化促進剤(リン酸二水素カリウムの場合)/海藻由来の多糖類高分子)は、軟体害虫駆除剤を効果的にゲル化させる観点から、0.2/3以上0.5/1以下とすることが好ましい。ゲル化促進剤の割合が少なすぎると、ゲル化が十分に進行しない虞があり、逆に、ゲル化促進剤の割合が多すぎると、ゲル化させる効果が飽和してしまう。
【0032】
第二液は、上記割合のゲル化促進剤および水を含んだ水溶液であることが好ましく、その他、防腐剤、着色剤、界面活性剤等の一般的な添加剤を含有していてもよい。第二液中のゲル化促進剤の含有割合は、第二液全体を100質量%として、リン酸二水素カリウムの場合、0.2質量%以上0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0033】
また、第一液における、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸および海藻由来の多糖類高分子の含量は、第一液と第二液とを混合した際における含量が、上記した一液型の軟体害虫駆除剤における含量と同様となるように配合すればよい。また、第一液を海藻由来の多糖類高分子のみ、第二液をカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸およびゲル化促進剤を含有するものとしてもよいし、第一液および第二液の両方にカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸を含有させてもよい。いずれにせよ、海藻由来の多糖類高分子とゲル化促進剤は、別液に含有させ、使用に際して互いに接触させてゲル化を起こさせるようにする必要がある。
【0034】
<軟体害虫駆除剤の使用方法>
本発明の軟体害虫駆除剤の使用方法としては、以下の態様が挙げられる。
(i)カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸を含有してなる液体状の軟体害虫駆除剤をそのまま使用する。
(ii)カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸および海藻由来の多糖類高分子を含有してなる軟体害虫駆除剤をそのまま使用する。または、あらかじめ所定形状にゲル化させて、軟体害虫駆除剤ゲル化物として使用する。
(iii)二液型軟体害虫駆除剤を使用し、軟体害虫を駆除したい現地において、これらをゲル化させる。
【0035】
(i)の態様としては、液体状の軟体害虫駆除剤を、軟体害虫の発生場所に散布したり、スプレーボトルに入れた軟体害虫駆除剤を衣服、皮膚に、スプレーしたり、ワセリン等炭化水素油の基剤と混合して塗布したりすることにより、使用することができる。また、液体状の軟体害虫駆除剤を、ゼオライトや珪藻土等の多孔性物質に含浸させて使用することもできる。
【0036】
(ii)の態様としては、液体状の軟体害虫駆除剤を、軟体害虫の発生場所に散布して、放置することにより、所定時間後にゲル化させることができる。また、あらかじめ所定の形状にゲル化させて、該ゲル化物の有効成分を徐々に放出する駆除剤として、軟体害虫発生場所に設置することができる。また、ゲル化物を、皮膚に塗布したり、長靴に巻きつけたり、腕に巻きつけることによりして、使用することもできる。さらには、ワセリン等炭化水素油の基剤と混合することにより、その用途が広がる。
【0037】
(iii)の態様としては、カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸および海藻由来の多糖類高分子を含有してなる軟体害虫駆除剤からなる第一液を所定箇所に塗布する工程、該所定箇所にゲル化促進剤を含有してなる第二液を塗布する工程、を備え、該塗布した箇所において前記第一液および第二液をゲル化させる使用方法が挙げられる。
【0038】
第一液と第二液の塗布順序としては、どちらを最初に塗布してもゲル化物を形成することができるが、表面を効率よくゲル化させる観点から、まず、第一液を塗布してから、次に、第二液を塗布することが好ましい。
また、第一液を海藻由来の多糖類高分子のみ、第二液をカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸およりゲル化促進剤を含有するものとしてもよいし、第一液および第二液の両方にカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸を含有させてもよい。いずれにせよ、海藻由来の多糖類高分子とゲル化促進剤は、別液に含有させ、使用に際して互いに接触させてゲル化を起こさせるようにする必要がある。
【0039】
なお、ゲルの内部に有効成分であるカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸を含有し、表面を効果的にゲル化させて、有効成分を徐々に放出することができるゲルを形成する観点からは、第一液をカルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸および海藻由来の多糖類高分子を含有してなるものとし、第二液をゲル化促進剤を含有してなるものとして、使用に際して、まず、第一液を塗布してから、次に、第二液を塗布することが好ましい。
【実施例】
【0040】
<カラギーナンの濃度の決定>
まず最初にカラギーナンの濃度の決定を行った。殺ヒル効果を有する濃度である3質量%のリンゴ酸を含有し、カラギーナンを1〜4質量%含む水溶液を作製した。なお、各含量は水溶液全量基準である。
その結果、1質量%では常温でゆるいゲルになり、2質量%で固化、3質量%と4質量%とでは強く固化した。2質量%の場合、固化しても、ぬるま湯で暖めると容易に液化するので、この結果から適切なカラギーナン含有量を2質量%とした。
【0041】
<有機酸の濃度の決定>
植物由来の有機酸の濃度については、次の実験で決定した。カラギーナンを2質量%含有し、リンゴ酸あるいは酒石酸を2〜10質量%含有する水溶液(試料液)を調整した。この各種有機酸濃度の試料液を、霧吹きを用いて三種の植物に10回ずつ噴霧した。なお、霧吹きの一回の噴霧量は1.5mLであり、噴射口から植物までの直線距離を30cmとして噴霧した。また、10回の噴霧とは、同一箇所に対して10回繰り返して噴霧したということである。
リンゴ酸を用いた場合の結果を表1に示した。なお、各結果は、各試料液を植物に噴霧後、3日経過後に観察した植物の様子である。また、酒石酸でもほぼ同様の結果が得られた。
【0042】
【表1】

【0043】
実験の結果、カラギーナンの濃度は2質量%、有機酸(リンゴ酸、酒石酸)の濃度は4質量%以下が、それぞれ望ましいことが明らかになった。
【0044】
以上の結果より、以下の構成の二液型駆除剤を作製して、ヤマビルとナメクジに対しての駆除効果を確認した。なお、ゲル化促進剤の濃度は、リン酸二水素カリウムの植物へ肥料として散布する際の、標準的な濃度である0.2〜0.5質量%から、0.5質量%を採用した。
第一液:リンゴ酸を2〜4質量%、カラギーナンを2質量%含有する水溶液、
第二液:ゲル化促進剤としてリン酸二水素カリウムを0.5質量%含有する水溶液、
第一液と第二液とを霧吹きを用いてそれぞれ二回ずつ交互に、ヤマビルとナメクジに対して噴霧した。なお、霧吹きの一回の噴霧量は1.5mLであり、噴射口から害虫までの直線距離を30cmとして噴霧した。また、それぞれ二回ずつの噴霧は、同一箇所に対して行った。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果より、2〜4質量%のいずれのリンゴ酸濃度であっても、ヤマビルとナメクジの駆除効果が認められた。また、濃度が高い方が即効性が認められた。
【0047】
なお、比較として、ゲル化促進剤を含む第二液を用いずに、ヤマビルに対して駆除試験を行ったところ、駆除剤を散布してもヤマビルが粘液を出して、洗い流してしまうため、駆除剤に完全に浸らないと効果が表れにくく、結果として、ゲル化促進剤を用いた際の4倍程度の駆除剤を必要とした。
【0048】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う軟体害虫駆除剤、および、軟体害虫駆除剤ゲル化物の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の軟体害虫駆除剤は、植物を枯死させず、環境に優しい。よって、国立公園または世界遺産登録地域など、植物を保護する必要がある地域において好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸を有効成分として含有してなる、軟体害虫駆除剤。
【請求項2】
前記カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸の含有割合が、駆除剤全体を100質量%として、0.1〜10質量%である、請求項1に記載の軟体害虫駆除剤。
【請求項3】
前記カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸が、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸から選ばれる一種または二種以上の混合物である、請求項1または2に記載の軟体害虫駆除剤。
【請求項4】
さらに、海藻由来の多糖類高分子を含有してなる、請求項1〜3のいずれかに記載の軟体害虫駆除剤。
【請求項5】
前記海藻由来の多糖類高分子が、カラギーナンまたはアルギン酸若しくはその塩である、請求項4に記載の軟体害虫駆除剤。
【請求項6】
前記海藻由来の多糖類高分子の含有割合が、駆除剤全体を100質量%として、1〜3質量%である、請求項4または5に記載の軟体害虫駆除剤。
【請求項7】
カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸および海藻由来の多糖類高分子を含有してなる第一液、並びに、ゲル化促進剤を含有してなる第二液からなり、使用に際してこれら二液を混合してゲル化させる二液型軟体害虫駆除剤。
【請求項8】
前記カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸が、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸から選ばれる一種または二種以上の混合物である、請求項7に記載の二液型軟体害虫駆除剤。
【請求項9】
前記ゲル化促進剤が、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である、請求項7または8に記載の二液型軟体害虫駆除剤。
【請求項10】
前記第一液および第二液における、海藻由来の多糖類高分子に対するゲル化促進剤の質量比が、0.2/3以上0.5/1以下である、請求項7〜9のいずれかに記載の二液型軟体害虫駆除剤。
【請求項11】
カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸および海藻由来の多糖類高分子を含有してなる第一液を所定箇所に塗布する工程、該所定箇所にゲル化促進剤を含有してなる第二液を塗布する工程、を備え、該塗布した箇所において前記第一液および前記第二液をゲル化させる、軟体害虫駆除剤ゲル化物の製造方法。
【請求項12】
前記カルボキシル基を二つ有する植物由来の有機酸が、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸から選ばれる一種または二種以上の混合物である、請求項11に記載の軟体害虫駆除剤ゲル化物の製造方法。

【公開番号】特開2012−72101(P2012−72101A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219896(P2010−219896)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(502117778)中央シリカ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】