説明

軟組織増大材料

【課題】粒子径(膨潤前)が15μmから40μmのpH応答吸水膨潤性高分子微粒子からなることを特徴とする軟組織増大材料を提供する。
【解決手段】水分が少ない生理的環境下(例えば皮下、粘膜下)で即座に含水膨張する粒子径のpH応答吸水膨潤性高分子微粒子は、注入が容易であり(より細い注射針で注入が可能である)、注入後の異物反応による他臓器への移行リスクが小さく、皮下または粘膜下への生体内埋め込み材料として適している。37℃、10mMリン酸緩衝生理食塩液(pH7)に浸漬後、10分以内に膨潤を終了する、平均粒子径が15μmから40μmのpH応答吸水膨潤性高分子微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟組織、例えば尿失禁あるいは膀胱尿管逆流症の改善・治療等に用いられる軟組織増大材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟組織増大を必要とする治療として、尿失禁や膀胱尿管逆流症の患者に対する尿道周囲や尿管口近傍に組織内注入剤を注入する治療方法が知られている。古くは、Polytetrafluoroethylene(PTFE)からなる注入剤が検討された(非特許文献1参照)が、このような注入剤は、PTFE微粒子とグリセリン液のペースト状混合物で、生体内に注入後、ある程度時間が経過するとグリセリンは生体内に散逸し、新陳代謝されるが、PTFE微粒子は生体内で加水分解等を受けることなくそのままの形状で残存し、肺、脳などの体の他の部位に移動したりして肺塞栓などの問題を引き起こすとされている。
【0003】
また、この様な微粒子の他の多くの臓器への移行は微粒子の粒子サイズによるとされており、その大きさが40μm以下であれば起こる可能性が高いといわれている。また注入療法としてヒドロゲル中に懸濁させたシリコーンの利用も試みられた。しかしながら、該シリコーン微粒子はマクロファージを介して他の臓器に移行することによって非局在化している可能性があるといわれている。これらの点からPTFE微粒子、シリコーン注入のいずれも安全性の懸念がある。
【0004】
一方、微粒子の粒子径を40μmより大きくすることでマクロファージによる貪食、他臓器への移行を防ぐ製品が開発されてきているが、粒子径が大きいため、注入時に用いる注入針を太くせねばならず、患者への侵襲(穿刺時の疼痛)は大きかった。
【0005】
また、生体由来材料の検討が行われてきており、天然高分子であるコラーゲンなどを用いた注入剤が使用さている(特許文献2参照)。コラーゲン注入剤は生体内の組織反応が緩慢であり馴染みが良く、上述した問題はかなり改善されている。しかしながら、コラーゲンの吸収が速く治療の効果を維持するのが困難である。体内での吸収時間を長くするために、グルタルアルデヒドのような架橋剤が必要となるが、残留グルタルアルデヒドの毒性の問題を排除しきれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-193055号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Berg, S.,「Polytef augmentation urethroplasty;correction of surgically incurable urinary incontinence by injection technique」,Arch. Surg.,107,379−381(1973)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題点を改善するような、生体内で異物性を与えない合成高分子材料からなり、他臓器への移行のない生体内注入可能な微粒子を提供しようとするものである。また、生体内注入可能な微粒子として、生体内への注入が簡便かつ、生体内に注入された移植部位で異物反応や炎症反応が小さい球状微粒子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の(1)ないし(4)の構成を有する。
(1) 37℃、10mMリン酸緩衝生理食塩液(pH7)に浸漬後、10分以内に膨潤を終了する、平均粒子径が15μmから40μmのpH応答吸水膨潤性高分子微粒子からなる軟組織増大材料。
【0010】
(2) 前記生理食塩液により粒子径が2〜4倍に膨潤する前記(1)に記載の軟組織増大材料。
【0011】
(3) 生体内で、体液により、10分以内に膨潤を終了する、平均粒子径が15μmから40μmのpH応答吸水膨潤性高分子微粒子からなる軟組織増大材料。
【0012】
(4) 前記(1)ないし(3)に記載の皮下または粘膜下に使用するの軟組織増大材料。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、より細い注射針で注入が可能であるので注入が容易であり、注入後の異物反応による他臓器への移行リスクが小さく、柔軟組織の増大による機能の回復・改善、例えば尿失禁、膀胱尿管逆流症、更に骨修復材等に安全で安心して使用できる微粒子が提供でき、軟組織増大材料として適している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、皮下や粘膜下への埋め込み材料自体の生体内における異物認識反応、他臓器への移行を低減させ、より細い注入針での注入を可能にする設計として、注射針で注入可能な大きさの材料が、生体内で即座に生体成分を吸収することによって、マクロファージや好中球といった貪食機能を持つ炎症性細胞による貪食を受けにくい大きさまで膨潤し、その結果として、他臓器への移行が起こりにくくなる設計について、鋭意検討した結果、膨潤前の粒子径が15μmから40μmのpH応答吸水膨潤性高分子微粒子は、24G以下細い注入針での注入が可能であり、注入後、即時に生体内の水分等を吸収、膨張、サイズが大きくなることを見出した。これは臓器移行のリスクが非常に小さいものであると考えられる。
【0015】
本発明者らは、さらに本発明の材料が、皮下あるいは粘膜下へ注入後、即時に生体内の水分等を吸収するlことによって、材料自体が生体成分に似た特性となるためか、炎症性細胞の異物認識反応を受けにく、組織反応が極めて少なくなることを見出した。これは皮下あるいは粘膜下への埋め込み材料として非常に有用である。
【0016】
以下の典型的な実施例を用いて詳細な説明する。
【0017】
本発明に用いられるpH応答吸水膨潤性高分子微粒子はヒドロゲルであり、その製造には、モノマー、和架橋剤、造孔剤、および溶媒からなるモノマー溶液が用いられる。溶媒中のモノマーの好ましい濃度は20〜30w/w%の範囲である。また、本発明の微粒子は、逆相懸濁重合法により製造することができる。
【0018】
本発明の用いられる前記モノマーとしては、エチレン性不飽和モノマーが好ましく、本モノマーの少なくとも一部、好ましくは10〜15%、より好ましくは10〜30%は、アクリル酸、メタクリル酸、あるいはメタクリル酸およびアクリル酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらのカルボン酸を有するモノマーと組み合わせて用いられるモノマーとしては、比較的に機械的特性に優れるモノマーを選択でき、アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)は、特に制限されない。具体的な例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、N−s−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド 、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これら(メタ)アクリルアミド系単量体(a1)は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
また、本発明に用いられる架橋剤は、任意の多官能エチレン性不飽和化合物であってよいが、N,N−メチレンビスアクリルアミドが好ましい架橋剤である。溶媒中の架橋剤の好ましい濃度は、1w/w%未満、より好ましくは0.1w/w%未満の範囲である。
【0019】
本発明に用いられる孔形成剤は、本発明の微粒子に多孔性を付与するものであり、モノマー溶液中に孔形成剤を過飽和懸濁することによって得られる。モノマー溶液には不溶であるが洗浄溶液には可溶である塩化ナトリウムなどが好ましい。塩化カリウム、氷、スクロースおよび重炭酸ナトリウム等を用いてもよい。孔形成剤の粒径は、好ましくは10μm未満、より好ましくは5μm未満である。粒径が小さいと溶媒中の孔形成剤の懸濁が促進される。孔形成剤の好ましい濃度は、モノマー溶液中5〜50w/w%、より好ましくは10〜20w/w%の範囲である。
【0020】
本発明に用いられるモノマー溶液の溶媒は、モノマー、架橋剤、および孔形成剤の溶解度、逆相懸濁重合に用いる連続相に基づいて選択される。好ましい溶媒は水である。溶媒の好ましい濃度は20〜80w/w%、より好ましくは50〜80w/w%の範囲である。
【0021】
本発明に用いられる逆相懸濁重合に用いる連続相は、流動パラフィン、シクロヘキサン、トルエンなどが好適に用いることが出来るが、連続相の比重とモノマー溶液の溶媒の比重が近いほど、モノマー溶液の分散状態が良好に保たれるため、流動パラフィンがより好ましい。
【0022】
架橋結合密度は本発明の微粒子の機械的特性に実質的に影響を与える。架橋結合密度(および、それによる機械的特性)は、モノマー濃度、架橋剤濃度、および溶媒濃度を変えることによって操作するのが最も適切である。 また、モノマーの架橋結合は、酸化還元、放射線、および熱によって行なわれ得るが、好ましいタイプの架橋開始剤は、過硫酸アンモニウムおよびN,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミンを例とする酸化還元を介して作用するものである。 重合完了後、前記微粒子を、水、アルコールまたは他の適当な洗浄溶液で洗浄して、孔形成剤、未反応の残留モノマーおよび取り込まれていないオリゴマーを除去する。
【0023】
本発明の微粒子の膨張速度の制御は、ヒドロゲル網目構造上に存在するイオン性多官能基をプロトン化/脱プロトン化することによって達成される。ヒドロゲルを調製し、過剰なモノマーおよび孔形成剤を洗い流したら、膨張速度を制御するステップを実施し得る。ヒドロゲル網目構造にカルボン酸基を有するpH感受性モノマーが組み込まれている実施形態においては、ヒドロゲルを低pH溶液中でインキュベートする。この溶液中の遊離プロトンがヒドロゲル網目構造上のカルボン酸基をプロトン化する。インキュベーションの持続時間および温度と溶液のpHは膨張速度の制御量に影響を与える。一般に、インキュベーションの持続時間と温度は膨張制御量に正比例し、溶液のpHは反比例する。インキュベーション完了後、ヒドロゲル材料から過剰な処理溶液を洗い流し、乾燥させる。低pH溶液で処理したヒドロゲルは、乾燥させると、非処理ヒドロゲルより寸法が小さくなり、内径の小さな注入針で注入することができる。
【0024】
ヒドロゲル網目構造にアミン基を有するpH感受性モノマーが組み込まれている場合には、ヒドロゲルを高pH溶液中でインキュベートする。高pH下では、ヒドロゲル網目構造のアミン基上で脱プロトン化が生じる。インキュベーションの持続時間および温度と溶液のpHは膨張速度の制御量に影響を与える。一般に、インキュベーションの持続時間および温度と溶液のpHは膨張制御量に正比例する。インキュベーション完了後、ヒドロゲル材料から過剰な処理溶液を洗い流し、乾燥させる。
【0025】
本発明の微粒子の粒径は、逆相懸濁重合法により作成後、乾燥状態で篩を用いた分球により、所望の粒径範囲のものを得ることができる。
本発明の微粒子の乾燥時の粒径は、15μmから40μmであり、好ましくは20μm から35μm、より好ましくは25μmから30μmである。また、37℃、10mMリン酸緩衝生理食塩液(pH7)に浸漬後、粒子径が 2.0〜5.0倍に膨潤するものであり、好ましくは、2.5〜4.5倍に膨潤するものであり、さらに好ましくは2.7〜4.0倍に膨潤するものである。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
本発明の軟組織増大材料の逆相懸濁重合法によるpH応答含水膨潤高分子微粒子(乾燥時粒径20μm)の1実施例について説明する。
まず、300mlのビーカーに入れたシクロヘキサン75g、流動パラフィン75gおよびセスキオレイン酸ソルビタン2.0gをマグネチックスターラーで攪拌し、逆相懸濁重合の連続相を調製した。さらに、窒素気流を30分間通じて溶存酸素の除去を行った。一方、50ml容量の褐色ガラス瓶にアクリルアミド3.8g、アクリル酸ナトリウム2.2g、N,Nメチレンビスアクリルアミド0.013gおよび塩化ナトリウム6.09gを秤量し、蒸留水19.9gを添加、マグネチックスターラーで攪拌、溶解しモノマー水溶液を調製した。
次に、過硫酸アンモニウム0.27gを2.0gの蒸留水に溶解したものを前記モノマー水溶液に添加した後、前記連続相溶媒に、全量加えた。そして、200rpmの回転数でメカニカルスターラーを回転させ、攪拌し、前記モノマー溶液を連続相溶媒中に分散させた。30分間攪拌した後、40℃まで昇温し、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン 500μLを添加した。更に攪拌を1時間継続した後、ビーカー内容物を1Lのジメチルスルホキシド中に移した。沈殿物をろ紙上に回収し、エタノール、ヘキサンで洗浄、減圧乾燥した。2.5規定の塩酸を添加し、55℃のオーブンに24時間静置した。酸処理後のものを蒸留水中に移し、蒸留水のpH変化がなくなるまで蒸留水を交換した。洗浄後のものをエタノール中に入れ、マグネチックスターラーで解砕した。ステンレス製篩で分球し(目開き25μm)、平均粒子径20μmの微粒子を得た。、尚、微粒子の乾燥時平均粒径は、本微粒子をエタノールに浸漬した状態で、コールターカウンター(ベックマン社製 型番:LS230)で測定した。以下、膨潤前の平均粒子径として、同じ方法で測定した。
【0027】
(実施例2)
実施例1で作成した分球前のサンプルをステンレス製篩で分球し(目開き40μm篩の通過画分であって、目開き25μm篩の残留分)、平均粒子径34μmの微粒子を得た。
【0028】
(比較例1)
本発明の軟組織増大材料の逆相懸濁重合法によるpH応答含水膨潤高分子微粒子(乾燥時粒径150μm)の1比較例について説明する。
まず、300mlのビーカーに入れたシクロヘキサン75g、流動パラフィン75gおよびセスキオレイン酸ソルビタン2.0gをマグネチックスターラーで攪拌し、逆相懸濁重合の連続相を調製した。さらに、窒素気流を30分間通じて溶存酸素の除去を行った。一方、50ml容量の褐色ガラス瓶にアクリルアミド3.8g、アクリル酸ナトリウム2.2g、N,Nメチレンビスアクリルアミド0.013gおよび塩化ナトリウム6.09gを秤量し、蒸留水19.9gを添加、マグネチックスターラーで攪拌、溶解しモノマー水溶液を調製した。
次に、過硫酸アンモニウム0.27gを2.0gの蒸留水に溶解したものを前記モノマー水溶液に添加した後、前記連続相溶媒に、全量加えた。そして、100rpmの回転数でメカニカルスターラーを回転させ、攪拌し、前記モノマー溶液を連続相溶媒中に分散させた。30分間攪拌した後、40℃まで昇温し、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン 500μLを添加した。更に攪拌を1時間継続した後、ビーカー内容物を1Lのジメチルスルホキシド中に移した。沈殿物をろ紙上に回収し、エタノール、ヘキサンで洗浄、減圧乾燥した。2.5規定の塩酸を添加し、55℃のオーブンに24時間静置した。酸処理後のものを蒸留水中に移し、蒸留水のpH変化がなくなるまで蒸留水を交換した。洗浄後のものをエタノール中に入れ、マグネチックスターラーで解砕した。ステンレス製篩で分球し(目開き500μm篩の通過画分であって、目開き100μm篩残留分)、平均粒子径150μmの微粒子を得た。
【0029】
(比較例2)
比較例1で得た微粒子(平均粒径150μm)を10mMリン酸緩衝生理食塩液(pH7)中に72時間入れ、含水膨潤させた。
【0030】
(試験例1.)
ラット皮下埋め込み試験
本発明の実施例および比較例の微粒子のin vivoにおけるSD系ラットを用いた組織学的評価について以下試験例として説明する。微粒子の皮下埋入試験は、ラットをソムノペンチル麻酔下にラット背部皮下に該微粒子を3mg埋入し、所定時間後、ラットを炭酸ガス下に屠殺し、剖検を行った。その後、検体とその周辺組織を10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定し、パラフィン包埋処理を行って、ミクロトームにて薄切し、組織片を作製した。得られた薄切切片をヘマトキシリン&エオジン染色により染色し、光学顕微鏡下で観察した。
【0031】
本試験例の結果により次の評価が可能である。材料を生体内に埋込むと異物であるため、顆粒球(好中球、好酸球)や、リンパ球、マクロファージ等の炎症性細胞による炎症反応が引き起こされるので、材料の生体適合性を判断する埋込試験により、好中球、リンパ球、マクロファージがどのような挙動を示すかを観察する。好中球は盛んな遊走性と貪食機能を有し、炎症反応の初期に現れ壊死組織の処理や細菌等の微生物感染や異物に対して反応する。マクロファージも盛んな貪食機能を有し、有害物質の無毒化、または消化・分解を行う。リンパ球は貪食機能を持たないが、ウイルス感染に対する炎症や慢性炎症で主役となる。埋込試験で好中球やマクロファージは貪食機能を有するため、埋込材を貪食しようとする。リンパ球は貪食機能を持たないが、埋込材の生体適合性が低いほど多く出現するので材料の生体適合性程度を判断するのに適している。また、炎症性細胞の量が多くなると局部で壊死等が起き、他の炎症性細胞の遊走を引き起こす可能性がある。
【0032】
光学顕微鏡下での観察結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
組織病理学的に埋込材のサイズが小さくなるほど、炎症反応は激しくなることが知られている。しかし、実施例1(膨潤前平均粒径25μm)、実施例2(膨潤前平均粒径34μm)は、比較例1(膨潤前平均粒径150μm)に比べて炎症反応が弱かった。まず埋込7日後、貪食細胞(好中球、マクロファージといった貪食機能を有する細胞)に関して、実施例1と2は生体内に異物である埋込材を埋め込んだことへの応答反応で出現した以上の貪食細胞は観察されなかった。そのため埋め込んだ微粒子の貪食もほとんど観察されなかった。それに比べ比較例1は貪食細胞の量が増えていた。細胞の量が増えただけでなく、埋め込んだ微粒子の周囲から貪食を行い泡沫化したマクロファージが多数観察された。リンパ球に関しては、実施例1、2共に、埋込材に対する応答反応で出現した以上のリンパ球は観察されなかった。それに比べ比較例1は、明らかにリンパ球の量が増え、広いエリアを湿潤していた。埋込から28日経過すると炎症反応も落ち着いてきているが、比較例1に関しては、まだ貪食細胞が数多く存在し、泡沫化したマクロファージが観察された。実施例1と2では、貪食細胞、リンパ球共に数が減り、泡沫化したマクロファージは観察されなかった。
実施例1、2は乾燥状態の微粒子を埋め込み、埋込後生体内で体液を吸収しながら膨潤させた。そのため微粒子の大部分は自己の生体由来物質で占められているため、生体適合性を高めていると考えられる。比較例1は、乾燥状態での埋め込みであったが、埋込7日後において、実施例1、2に比べ炎症反応が強かった。比較例2(膨潤前平均粒径150μm)として10mMリン酸緩衝生理食塩液(pH7)で膨潤させた状態の微粒子を埋め込んだ。埋込7日後では、実施例1、2、比較例1に比べ非常に激しい炎症反応を呈していた。また同じ粒径である比較例1に比べて貪食細胞、リンパ球共に明らかに多く存在し、貪食細胞が多いため微粒子への貪食も激しくなっていた。埋込から28日経過すると、埋込材中のリン酸緩衝液(pH7)と体液との交換が済んだためか、貪食細胞・リンパ球の数、微粒子の貪食作用共に比較例1と同程度まで落ち着いていた。
【0035】
(試験例2.)
膨潤状態の経時変化
実施例1〜3の微粒子50mgを5mlの10mMリン酸緩衝生理食塩液(pH7)(PBS)に入れ、粒子径の経時的な変化を観察した。CCDカメラで画像を取得、50個の粒子を無作為に選択、粒子径を測定、平均粒子径を算出した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2より、比較例1は、PBSに浸漬後10分を経過しても、膨潤が終了していないことがわかる。詳細な理由は不明だが、比較例1は、乾燥状態での埋め込みであったが、埋込7日後において、実施例1、2に比べ炎症反応が強かった結果を考慮し、PBSに浸漬後10分を経過した時に既に膨潤が終了していることが、本発明の軟組織増大材料に重要であること考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
37℃、10mMリン酸緩衝生理食塩液(pH7)に浸漬後、10分以内に膨潤を終了する、平均粒子径が15μmから40μmのpH応答吸水膨潤性高分子微粒子からなることを特徴とする軟組織増大材料。
【請求項2】
37℃、10mMリン酸緩衝生理食塩液(pH7)に浸漬後、粒子径が2〜5倍に膨潤することを特徴とする請求項1に記載の軟組織増大材料。
【請求項3】
生体内で、体液により、10分以内に膨潤を終了する、平均粒子径が15μmから40μmのpH応答吸水膨潤性高分子微粒子からなる軟組織増大材料。
【請求項4】
請求項1ないし3に記載の皮下または粘膜下に使用する軟組織増大材料