説明

軟質成形用アクリル系重合体微粒子及びこれを用いた軟質アクリル系樹脂組成物並びにアクリル系軟質シート

【課題】 高い可塑剤吸収性を有するとともに、良好な加工適性を有し、機械的強度を有する軟質成形用アクリル系重合体微粒子を提供すること。
【解決手段】 本発明の要旨は、ジイソノニルフタレートにより可塑化され得る質量平均分子量40万以上の重合体成分(P1)を含有し、アマニ油で測定される吸油量が0.4ml/g以上で且つ窒素ガス吸着法で測定される比表面積が8〜30m/gの範囲である軟質成形用アクリル系重合体微粒子、並びにこれをカレンダー加工して得られるアクリル系軟質シートにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質ポリ塩化ビニルと同等の加工性及び風合いを有し、且つハロゲン系重合体を含有しない軟質成型品を与えることの出来る、アクリル系重合体微粒子及びこれより得られる成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な産業分野で軟質樹脂による成形材料が用いられており、従来その主流となる材料はポリ塩化ビニルを可塑剤によって軟質化したいわゆる軟質ポリ塩化ビニルであったが、近年では環境保護の観点からポリ塩化ビニル樹脂から非ハロゲン系樹脂への代替が求められており、早急な代替材料の開発が求められている。
そうした代替材料の候補として可塑剤を用いない材料(オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー等)の開発が多く報告されているが、可塑剤を用いない場合には柔軟性の調節が自由に出来ず成型品の風合い、硬度のバリエーションが制限されてしまう。また溶融粘度や溶融張力のコントロールにも制約が出てしまう。したがって軟質ポリ塩化ビニルと同等に加工でき且つ同等の風合いを得るためには、可塑剤を用いて、自由に特性をコントロールできる材料が望まれている。
【0003】
このような観点から、可塑剤を用いて軟質化されるアクリル系重合体が提案されている(例えば特許文献1)。また、水系媒体中での重合(乳化重合)により得たアクリル系重合体を乾燥して粉体化する前に可塑剤を投入し、その後に重合体を回収して乾燥させる方法が提案されている(特許文献2)
【特許文献1】特開2003−3033号公報
【特許文献2】特開2003−128711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法においては、重合体の粉体構造に問題があり、粉体自身が可塑剤を多量に吸収することが出来なかった。したがって溶融混練時に可塑剤を投入する必要があり、軟質ポリ塩化ビニルを加工する場合のように、事前に可塑剤を含有した湿粉状のコンパウンドを調製することが出来ない。また重合体が吸収することができる可塑剤の量が極めて少ないため、加えることができる可塑剤の量も重合体100質量部に対して10質量部程度にとどまり、十分な軟質化が出来ないという課題があった。
また、特許文献2の方法では、特許文献1よりは多い量の可塑剤を投入することが可能であるが、目的とする製品に応じて任意の種類・量の可塑剤を配合することが出来ず、あらかじめ定められた種類・量の可塑剤が含有されたコンパウンドしか提供することが出来ないという限界がある。
【0005】
以上のように、従来の可塑剤を用いて軟質化させるアクリル系の軟質成形用材料では、コンパウンド化に際して極めて少ない量の可塑剤しか吸収させることが出来ず、十分な柔軟性を与えるだけの可塑剤を含有したコンパウンドを得ることが出来ないのが現状であった。
また、前述した特許文献に示されるように、可塑剤量が少ない場合にはカレンダー加工が可能となっている例は見られるが、本発明が目的とするような高い可塑剤配合比率において、カレンダー加工などの加工適性および成型品の機械的強度などを満足することのできる重合体の提案は実現できていないのが現状であった。
すなわち本発明は、可塑剤を用いて軟質化させる軟質成形用のアクリル系重合体において、(1)高い可塑剤吸収性を有するアクリル重合体を提供すること、(2)高い可塑剤配合量においても良好な加工適性を有すること、(3)高い可塑剤配合量においても良好な機械的強度を有すること、ができる軟質成形用アクリル系重合体微粒子を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の要旨は、ジイソノニルフタレートにより可塑化される質量平均分子量40万以上の重合体成分(P1)を含有し、アマニ油で測定される吸油量が0.4ml/g以上であり、窒素ガス吸着法で測定される比表面積が8〜30m/gの範囲である軟質成形用アクリル系重合体微粒子にある。
また、本発明要旨は、前記軟質成形用アクリル系重合体微粒子と可塑剤とを溶融混練して成る軟質アクリル系樹脂組成物にある。
更に本発明の要旨は、前記軟質アクリル系樹脂組成物をカレンダー加工して得られるアクリル系軟質シートにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の軟質成形用アクリル系重合体微粒子によれば、可塑剤とブレンドした際の可塑剤吸収性に極めて優れ、粉体状のコンパウンドを容易に得ることができる。これにより従来から広く用いられてきた軟質ポリ塩化ビニル用の加工設備を転用することが容易となり、作業性も向上する。またこれによって可塑剤の配合量を多くすることが可能となり、柔軟性に優れる成型品を与えることが出来る。更に可塑剤配合量が多い場合においても良好な機械的強度を維持し、かつカレンダー加工などの加工において良好な適性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
アクリル系重合体微粒子(以下単に微粒子という)を可塑剤を用いて軟質化して成形する場合、事前に可塑剤と微粒子とを一様に混合し、加工機に均一に供給する必要がある。そのため微粒子の形状としては、液状の可塑剤を良好に吸収し、なおかつホッパー等から投入しやすい粉体状をしている必要がある(以下、湿粉と表現する)。すなわち微粒子はは高い吸油能を有する微粒子である必要がある。吸油量の指標としては、アマニ油による吸油量(JIS K−5101)を用いることが出来、その範囲としては0.4ml/g以上となることが必要である。
微粒子の吸油量がこれより少ない場合、可塑剤をブレンドしても十分に吸収されず、ゾル状やママコ状になってしまう。
【0009】
一方、重合体微粒子と可塑剤とをブレンドして得られた微粒子状組成物は、長期間その状態で貯蔵してもブロッキングせず良好な粉体性状を保つ必要がある。そのためには、重合体微粒子と可塑剤とをブレンドしただけではすぐに軟質化されず、重合体のガラス転移温度を十分に高く保っていることが必要である。このためには、重合体が可塑剤によって可塑化される速度が(貯蔵温度において)十分に遅いことが必要である。
可塑化速度は、重合体と可塑剤との接触面積によりコントロールすることが可能である。接触面積の指標として比表面積を用いることが出来、その範囲は30m/g以下である必要がある。比表面積が30m/gを超えると、可塑剤との接触面積が増えすぎて貯蔵中に可塑剤が重合体を可塑化し始め、重合体微粒子のガラス転移温度が低下し、ブロッキングが発生してしまう。また、比表面積が8m/g未満となると、吸油量が増大してしまい、ゾル状やママコ状になる弊害が発生する。
【0010】
本発明で用いる微粒子は、可塑剤を良好に保持する高分子ゲルとして機能し、これにより成型品に柔軟性を付与するものである。可塑剤を良好に保持するためには、可塑剤との相溶性が良好であり、且つある程度以上の絡み合いを有する必要がある。また成形品の機械的強度を十分に発現するためにも微粒子を構成するアクリル系重合体の分子量は一定以上に高いことが好ましい。上記の観点から、アクリル系重合体は質量平均分子量が40万以上の重合体成分(P1)を含有することが必要である。質量平均分子量が40万以上の重合体成分(P1)を含有しない場合、機械的強度がやや低下する傾向にあり、特に引張試験時の強度が低下する。
【0011】
ジイソノニルフタレートにより可塑化され得る重合体としては、炭素数4以上のアルキル(メタ)アクリレートを20mol%以上、好ましくは30mol%以上共重合したアクリル系重合体などがこれに該当し、具体的には、メチルメタクリレート/n−ブチルメタクリレート共重合体(共重合比率70/30〜0/100mol%)、メチルメタクリレート/i−ブチルメタクリレート共重合体(共重合比率70/30〜0/100mol%)、メチルメタクリレート/2−エチルヘキシルメタクリレート共重合体(共重合比率80/20〜0/100mol%)等が挙げられる。
重合体がジイソノニルフタレートにより可塑化され得るか否かについては、重合体を可塑剤とともに溶融混練して得られる成形品のガラス転移温度を粘弾性測定などにより測定し、ジイソノニルフタレートの添加とともにガラス転移温度の低下が認められることで確認される。例えば、メチルメタクリレート/n−ブチルメタクリレート共重合体(共重合比率60/40mol%)の場合、単独でのガラス転移温度は約58℃であるが、ジイソノニルフタレートを40質量部(重合体100質量部に対して)を添加して得られる成型品のガラス転移温度は40℃以上低下しており、可塑化されていると判断される。
【0012】
本発明の重合体では、質量平均分子量で10万以上40万未満の重合体成分(P2)を併用することが好ましい。(P2)を併用した場合、加熱溶融時の流動性が向上し、射出成型などの加工が容易になる為である。重合体の全体の分子量を下げる場合と異なり、高分子量の成分(P1)と低分子量の成分(P2)とを併用することで、機械的強度と流動性とを両立することが出来るため好ましい。
【0013】
また重合体成分(P2)については、ジイソノニルフタレートにより可塑化されない重合体であることが好ましい。この理由として、低分子量の重合体は可塑剤に可塑化された場合に粘着性を発現しやすくなったり、成型品のブロッキングの原因となりやすい等の傾向がある為である。流動性を得る目的であれば高温で可塑剤に溶融する必要があるものの、常温に戻った場合に可塑化されている必要は必ずしも無い。また常温で可塑化されていない成分を含有することで、成形品の機械的強度は向上する傾向にもあるため好ましい。
なお重合体成分(P1)と重合体成分(P2)とは、相互に相溶していても相分離していても構わないが、機械的強度を重視する場合、完全に相分離しているよりも完全相溶もしくは部分相溶している方が好ましい。
【0014】
本発明の重合体微粒子は、ガラス転移温度が0℃以下のゴム状重合体成分(P3)を含有することが好ましい。重合体を軟質化する場合、ガラス転移温度の高い重合体に対して可塑剤を加えることで軟質化する場合(外部可塑化)と、ガラス転移温度の低い重合体を与えるモノマーを共重合して軟質化する場合(内部可塑化)とがあるが、内部可塑化の場合には可塑剤が浸出してきにくいため好ましい。したがってガラス転移温度が0℃以下のゴム状重合体成分(P3)を含有させることで、同等の柔軟性を得るために必要な可塑剤の量を低減することが可能となる。また成形品の低温特性(低温での伸び、柔軟性など)を向上する上でもガラス転移温度が低いゴム状重合体を用いることが好ましい。
ゴム状重合体の含有量は、全重合体に対して最大で60質量%以下、好ましくは40質量%以下である。ゴム状重合体の含有量が多くなると、成形品の機械的強度(特に引裂強度)が低下する傾向にある為である。
【0015】
本発明の重合体微粒子の製造方法は特に限定せず、重合方法としては乳化重合法、ソープフリー重合法、縣濁重合法、微細縣濁重合法、分散重合法、等が挙げられる。また粉体化の方法としては凝固法もしくはスプレードライ法が挙げられるが、本発明において必要とされる吸油量や比表面積を実現するためには、粉体構造を多孔質な状態で制御できるスプレードライ法が好ましい。
【0016】
本発明の重合体微粒子の製造方法として、粒子径が500nm未満のアクリル系重合体エマルションを乳化重合等の手法により製造し、その後にこれを噴霧乾燥して粉体化することが好ましい。噴霧乾燥の温度条件が同等であれば、エマルションの粒子径が大きいと比表面積は低下する傾向にある。またエマルションの粒子径が同等であれば、噴霧乾燥の温度を上げた方が粒子どうしの熱融着の度合いが高まるため比表面積は低下する傾向にある。
エマルションの粒子径が500nm以上の場合、噴霧乾燥の条件を変更しても、本発明で必要とされる比表面積や吸油量を実現することが困難となる。
【0017】
本発明の重合体微粒子を製造する際、水系媒体中での乳化重合などが推奨されるが、その際に用いる乳化剤は重合性乳化剤であることが好ましい。重合性乳化剤とは分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を有する乳化剤が一般的であり、例えばメタクリロイル基、アクリロイル基、ビニル基、等を含有する乳化剤が挙げられる。重合性乳化剤を用いることで乳化剤が重合体に固定される為、加工時などに乳化剤が遊離して性能低下をもたらす可能性が低減される。例えば、カレンダー加工時に乳化剤の一部が分離して、金属ロールに少しずつ堆積してくる現象(プレートアウト)が抑制できたり、成形品を耐水試験や耐湯試験などに供した場合の白化や物性低下を抑制することが可能となる。
なお乳化剤の種別(アニオン系、ノニオン系、カチオン系)は特に問わない。
【0018】
本発明のアクリル系重合体は、その粒子構造については特に限定しない。重合体成分(P1)〜(P3)が独立した別個の粒子の混合状態で存在してもよく、また単一の粒子の内部に何らかの構造を持って存在しても良い。粒子内部に構造を持つ例として好ましくはコアシェル構造(多段構造)が挙げられる。例えば、コアとして重合体成分(P1)を、シェルとして重合体成分(P2)を有することが可能である。また、第1層目としてゴム状重合体成分(P3)を、第2層目として高分子量重合体成分(P1)を、第3層目として低分子量重合体成分(P2)を、順次積層してなる多段構造の粒子が可能である。
なお粒子構造をコアシェルまたは多段とする場合、製造方法としてそれぞれの重合体成分を与えると明らかに推測されるモノマー混合物を、順次滴下していくことでこのような粒子構造を与えることは古くから公知である。
【0019】
本発明のアクリル系重合体を与える主たる単量体の例を下記に挙げる;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類、あるいはシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類。
ゴム状の重合体成分を含有させる場合、架橋剤として例えば下記の単量体を用いることが可能である。(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリルメタクリレート等。
その他、アクリル系単量体以外の共重合成分として、例えば屈折率を調整する等の目的でスチレンや、低温物性を付与する等の目的でシリコーン変性アクリレート類などを任意に共重合することもできる。
【0020】
本発明の重合体微粒子は、適当な可塑剤と混合して軟質化し、成形品に供することが出来る。利用可能な可塑剤の例として、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル等のフタル酸ジアルキル系、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸アルキルベンジル系、フタル酸アルキルアリール系、フタル酸ジベンジル系、フタル酸ジアリール系、リン酸トリクレシル等のリン酸トリアリール系、リン酸トリアルキル系、リン酸アルキルアリール系、アジピン酸エステル系、エーテル系、ポリエステル系、エポキシ化大豆油等の大豆油系、その他広く利用可能であるがこれらに限定されるものではない。
可塑剤の添加部数は、アクリル系重合体に十分な柔軟性を付与するために、アクリル系重合体100質量部に対して、20質量部以上とすることが好ましく、更に好ましくは30質量部以上である。また、成形品のブロッキングや経時的な可塑剤のブリードアウトを抑制することを考慮すると、アクリル系重合体100質量部に対して120質量部以下とすることが好ましく、更に好ましくは80質量部以下である。
【0021】
重合体微粒子と可塑剤の混合方法は特に限定せず、加工時に同時に混合することも出来るし、また加工に先立って事前混合しておくことも可能であるが、可塑剤の配合量が多い場合には事前に混合しておく方が作業性が良好である。事前に混合するための方法としては、軟質塩化ビニルの場合と同様の設備・方法で取り扱うことが出来、例えばヘンシェルミキサーやバンバリーミキサー等を用いることが出来る。
【0022】
本発明では必要に応じてさらに炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、パーライト、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、珪砂、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、ガラス粉末、酸化アルミニウム、フライアッシュ、シラスバルーンなどの充填材を配合しても良い。充填材を配合する目的や種類、量などは任意である。また更に必要に応じて、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、さらにミネラルターペン、ミネラルスピリット等の希釈剤、さらに消泡剤、防黴剤、防臭剤、抗菌剤、安定剤、加工助剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、発泡剤、レベリング剤、接着剤、艶消し剤、等を自由に配合することが可能である。
【0023】
本発明の軟質成形用重合体組成物の加工方法は特に限定しないが、軟質塩化ビニルと同様の加工方法により成形することが可能である。例えば、カレンダー成形、射出成型、Tダイ押出成形、異型押出成形、ブロー成形、真空成形、インフレーション成形など従来より知られる各種の成形方法にて成形することが可能であるが、特に好ましくはカレンダー成形である。
【0024】
本発明の軟質成形材料用樹脂組成物の用途は特に限定せず、従来の軟質塩化ビニル樹脂が用いられてきた分野に広く適用可能である。好ましくはカレンダー加工により得られるレザー分野であり、詳しくは農業用フィルム用、壁紙やドア材などの建装材用、ソファーや椅子等の家具用、衣服用、雑貨用、掲示板用、手帳等の装丁用、自動車内装用、等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
[重合体エマルション(E1)の調製]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した300mlの4つ口フラスコに純水80.0g、初期乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名「ペレックスO−TP」)0.10gを入れ、200rpmで攪拌しつつ30分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、モノマー混合物(メチルメタクリレート51.4g、n−ブチルメタクリレート48.6g)の1/10量を投入し、80℃に昇温した。内温が80℃で安定した後、5.0gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.10gを一度に添加し、発熱ピークを確認することでソープフリー重合によるシード粒子の形成を確認した。
引き続き、上記モノマー混合物の残り(9/10量)に乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製、商品名「ペレックスO−TP」)0.50gを溶解させ、更に純水50.0gを加えて全体をホモディスパーを用いて強制乳化させ、安定なモノマー乳化液を得た。このモノマー乳化液を、フラスコ内に30g/hrの速度で滴下し重合を行った。重合中は内温が80℃となるよう湯浴の温度を制御した。滴下が終了後、引き続き80℃にて60分攪拌を継続した後、室温にまで冷却して重合体エマルション(E1)を得た。
【0026】
[重合体エマルション(E2)〜(E7)の調製]
重合体エマルション(E1)の調製と同様に、重合体エマルション(E2)〜(E7)を調製した。ただし、初期乳化剤の量、重合開始剤の量、モノマー混合物の組成及びそれに溶解させて用いる連鎖移動剤の量、を変更した。その一覧について表1に記載する。
【0027】
【表1】

表中の略号は下記の通り。
MMA:メチルメタクリレート
nBMA:n−ブチルメタクリレート
初期乳化剤:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
連鎖移動剤:n−オクタンチオール
開始剤:過硫酸カリウム
【0028】
[重合体エマルション(E8)の調製]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した300mlの4つ口フラスコに純水80.0g、メチルメタクリレート3.3g、n−ブチルメタクリレート2.5gを入れ、200rpmで攪拌しつつ30分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、80℃に昇温し、5.0gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.05gを一度に添加し、発熱ピークを確認することでソープフリー重合によるシード粒子の形成を確認した。
引き続き第1モノマー乳化液(メチルメタクリレート3.9g、n−ブチルアクリレート12.5g、スチレン3.0g、エチレングリコールジメタクリレート0.67g、アゾ系ラジカル重合開始剤V−65(和光純薬(株))0.20g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.20g、純水10.0g、を強制乳化させた液)を30g/hrの速度で滴下し重合を行った。重合中は内温が80℃となるよう湯浴の温度を制御した。滴下が終了後、引き続き80℃にて30分攪拌を継続した。
引き続き第2モノマー乳化液(メチルメタクリレート22.7g、n−ブチルメタクリレート17.3g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.10g、純水20.0g、を強制乳化させた液)を30g/hrの速度で滴下し重合を行った。重合中は内温が80℃となるよう湯浴の温度を制御した。滴下が終了後、引き続き80℃にて30分攪拌を継続した。
引き続き第3モノマー乳化液(メチルメタクリレート38.9g、n−ブチルアクリレート1.1g、n−オクチルメルカプタン0.08g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.20g、純水20.0g、を強制乳化させた液)を30g/hrの速度で滴下し重合を行った。重合中は内温が80℃となるよう湯浴の温度を制御した。滴下が終了後、引き続き80℃にて60分攪拌を継続し、多層構造の一次粒子からなる重合体エマルションを得た。
【0029】
[重合体エマルション(E9)の調製]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した300mlの4つ口フラスコに純水80.0g、メチルメタクリレート3.3g、n−ブチルメタクリレート2.5gを入れ、200rpmで攪拌しつつ30分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、80℃に昇温し、5.0gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.05gを一度に添加し、発熱ピークを確認することでソープフリー重合によるシード粒子の形成を確認した。
引き続き第1モノマー乳化液(メチルメタクリレート3.9g、n−ブチルアクリレート12.5g、スチレン3.0g、エチレングリコールジメタクリレート0.67g、アゾ系ラジカル重合開始剤V−65(和光純薬(株))0.20g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.20g、純水10.0g、を強制乳化させた液)を30g/hrの速度で滴下し重合を行った。重合中は内温が80℃となるよう湯浴の温度を制御した。滴下が終了後、引き続き80℃にて30分攪拌を継続した。
引き続き第2モノマー乳化液(メチルメタクリレート22.7g、n−ブチルメタクリレート17.3g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.10g、純水20.0g、を強制乳化させた液)を30g/hrの速度で滴下し重合を行った。重合中は内温が80℃となるよう湯浴の温度を制御した。滴下が終了後、引き続き80℃にて30分攪拌を継続した。
引き続き第3モノマー乳化液(メチルメタクリレート38.9g、n−ブチルアクリレート1.1g、n−オクチルメルカプタン0.04g、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.20g、純水20.0g、を強制乳化させた液)を30g/hrの速度で滴下し重合を行った。重合中は内温が80℃となるよう湯浴の温度を制御した。滴下が終了後、引き続き80℃にて60分攪拌を継続し、多層構造の一次粒子からなる重合体エマルションを得た。
【0030】
[重合体エマルション(E10)の調製]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した300mlの4つ口フラスコに純水80.0g、メチルメタクリレート3.3g、n−ブチルメタクリレート2.5gを入れ、200rpmで攪拌しつつ30分間十分に窒素ガスを通気し、純水中の溶存酸素を置換した。窒素ガス通気を停止した後、80℃に昇温し、5.0gの純水に溶解した過硫酸カリウム0.05gを一度に添加し、発熱ピークを確認することでソープフリー重合によるシード粒子の形成を確認した。
引き続き第1モノマー乳化液(メチルメタクリレート3.9g、n−ブチルアクリレート12.5g、スチレン3.0g、エチレングリコールジメタクリレート0.67g、アゾ系ラジカル重合開始剤V−65(和光純薬(株))0.20g、反応性乳化剤(花王(株)製、商品名「ラテムルS180」)0.20g、純水10.0g、を強制乳化させた液)を30g/hrの速度で滴下し重合を行った。重合中は内温が80℃となるよう湯浴の温度を制御した。滴下が終了後、引き続き80℃にて30分攪拌を継続した。
引き続き第2モノマー乳化液(メチルメタクリレート22.7g、n−ブチルメタクリレート17.3g、反応性乳化剤(花王(株)製、商品名「ラテムルS180」)0.10g、純水20.0g、を強制乳化させた液)を30g/hrの速度で滴下し重合を行った。重合中は内温が80℃となるよう湯浴の温度を制御した。滴下が終了後、引き続き80℃にて30分攪拌を継続した。
引き続き第3モノマー乳化液(メチルメタクリレート38.9g、n−ブチルアクリレート1.1g、n−オクチルメルカプタン0.08g、反応性乳化剤(花王(株)製、商品名「ラテムルS180」)0.20g、純水20.0g、を強制乳化させた液)を30g/hrの速度で滴下し重合を行った。重合中は内温が80℃となるよう湯浴の温度を制御した。滴下が終了後、引き続き80℃にて60分攪拌を継続し、多層構造の一次粒子からなる重合体エマルションを得た。
【0031】
[重合体微粒子(A1)〜(A11)の調製]
得られた重合体エマルションは#100メッシュナイロン濾布で濾過した後、スプレードライヤー(大河原化工機(株)L-8型)を用いて噴霧乾燥して粉体化し、重合体微粒子(A1)〜(A11)を得た。
スプレードライヤーのアトマイザ形式は回転ディスク式であり、回転数は22,000rpmで行った。その際に用いた原料エマルション、及びスプレードライヤーの運転条件を表2に示す。ここで「入口温度」とはスプレードライヤーの乾燥室に入る熱風の温度、「出口温度」とはスプレードライヤーの乾燥室の出口付近の温度をそれぞれ意味する。
また、得られた微粒子について、比表面積、吸油量、DINPによる可塑化の有無、分子量を測定した結果を併せて表2に記載する。
【0032】
【表2】

【0033】
[比表面積測定法]
重合体微粒子の表面積を窒素吸着式表面積測定器(堀場製作所(株)製、SA−6200)を用いて測定し、重合体微粒子1gあたりの比表面積(単位:m2/g)を算出した。
[吸油量測定法]
重合体微粒子の吸油量(単位:ml/g)をJIS K−5101に記載された方法により測定した。
[重合体の分子量の測定法]
得られた重合体微粒子の分子量は、重合体のクロロホルム可溶分をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。分子量のピークが2つ以上検出された際には、それぞれのピークについて数値を記載した。
なお本明細書中では特に記載の無い場合、質量平均分子量を指すものとする。
[DINPによる可塑化の有無]
重合体100質量部とジイソノニルフタレート40質量部とを溶融混練し、得られた成形品のガラス転移温度を粘弾性測定により測定し、ガラス転移温度の低下が認められるか否かで判断した。
【0034】
[実施例1]
重合体微粒子(A1)100g、可塑剤ジイソノニルフタレート(商品名「モノサイザーDINP」、大日本インキ化学工業(株))40.0g、安定剤(商品名「アデカスタブAO−60」、旭電化工業(株))0.50g、安定剤(商品名「アデカスタブ2662」、旭電化工業(株))0.10g、の比率で計量し、ラボプラストミル(東洋精機(株)製)を用いて40℃にてブレンドを行い、粉体状のコンパウンドを調製した。得られた粉体状のコンパウンドは、小型2軸押出機を用いて溶融混練し、引き続きペレタイズを行った(押出条件はバレル温度180℃、ダイ温度160℃、スクリュー回転数100rpm)。
得られたペレットを用いてプレスシートを作成し、後述する方法によりテンシロン試験機による引張試験及び引裂試験を行った。また得られたペレットを用いて、メルトフローレート(MFR)の測定を行った。
配合処方を表3に、評価結果を表4に記載する。
また、重合体微粒子100gをラボプラストミル(東洋精機(株)製、P-200型プラネタリミキサー使用)に投入し、40℃において50rpmで攪拌しながら可塑剤(ジイソノニルフタレート)をゆっくり注入した。注入が完了した後、更に2分間攪拌を継続し、以下の湿粉化の評価を行った。
○:良好に可塑剤を吸収し、粉体状のコンパウンドが得られる
×:ゾル化、またはママコ化してしまい、粉体状のコンパウンドが得られない
更に得られた湿粉状組成物を用いて、後述する方法により耐ブロッキング性を評価した。
得られた結果を表4に示す。
【0035】
【表3】

表中の略号
可塑剤:ジイソノニルフタレート
安定剤1:旭電化工業(株)、商品名「アデカスタブAO-60」
安定剤2:旭電化工業(株)、商品名「アデカスタブ2662」
【0036】
【表4】

【0037】
[MFRの測定]
得られたペレットは、メルトインデクサー(TAKARA社、L244)を用いてメルトフローレート(MFR)を測定した。測定温度は180℃、荷重は10kgで行った。(単位:g/10分)
◎:10以上
○:1以上10未満
×:1未満
[引張試験]
得られたペレットを37tonプレス機(王子機械(株)製)および5mm厚みの平板金型を用いて溶融させプレスした(プレス機温度 上段:180℃、下段:180℃、5MPa×5分)。その後ただちに100tonプレス機(庄司鉄鋼(株)製)で冷却し(水冷、5MPa×3分)、プレスシートを作成した。なお平板金型には1mm厚のスペーサーを設けた。
得られたプレスシートは、JIS K−6251記載のダンベル形状2号型に裁断して試験片とし、テンシロン試験機により引張試験時の破断強度および初期弾性率の測定を行った。なお、試験速度は200mm/分、ロードセル定格980N、測定した時の環境温度は25℃であった。
破断強度(単位:MPa)
○:8以上
△:2以上8未満
×:2未満
初期弾性率(単位:MPa)
○:30未満
△:30以上100未満
×:100以上
[湿粉の耐ブロッキング試験]
湿粉状組成物を20gを計量し、断面積20cmの円筒状ケースに入れ、そこに荷重1kgの錘を乗せた(50g/cm)。この状態で50℃恒温槽に5日間保持した後に室温に戻し、圧力を開放した後に粉体のブロッキング状態を評価した。
◎:容器から出すと自然に粉状に戻る
○:指で揉みほぐすと粉状に戻すことができる
×:粉どうしが熱融着しており、粉状には戻らない
【0038】
[実施例2〜7、比較例1〜4]
表3に記載の配合比率にて所定の重合体微粒子およびその他の添加剤を配合し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
【0039】
[実施例8〜10]
実施例5〜7の樹脂組成物を用いて、カレンダー加工性を評価した。
カレンダー加工性の目安として、ロール試験機によるバンク回り及びシート剥離性、プレートアウトの有無を評価した。ロール試験機は8インチテストロールを使用し、設定温度は180℃とした。
得られた結果を表5に示す。
【0040】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジイソノニルフタレートにより可塑化される質量平均分子量40万以上の重合体成分(P1)を含有し、アマニ油で測定される吸油量が0.4ml/g以上であり、窒素ガス吸着法で測定される比表面積が8〜30m/gの範囲である軟質成形用アクリル系重合体微粒子。
【請求項2】
質量平均分子量10万以上40万未満の重合体成分(P2)を含有することを特徴とする請求項1記載の軟質成形用アクリル系重合体微粒子。
【請求項3】
ガラス転移温度が0℃以下のゴム状重合体成分(P3)を含有することを特徴とする請求項1または2記載の軟質成形用アクリル系重合体微粒子。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか記載の軟質成形用アクリル系重合体微粒子と可塑剤とを溶融混練して成る軟質成形用アクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4記載の軟質成形用アクリル系樹脂組成物をカレンダー加工して得られるアクリル系軟質シート。

【公開番号】特開2008−24867(P2008−24867A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200625(P2006−200625)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】