説明

軟質樹脂デバイス

【課題】湿潤状態で使用される軟質樹脂デバイスにおいて、当該軟質樹脂デバイスの使用に好ましい湿潤状態を使用者が容易に把握することができる軟質樹脂デバイスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】軟質樹脂デバイス10は、基材11と、該基材11の表面の少なくとも一部に形成された親水性ポリマーからなり、大気中において厚さが変化すると共に、該厚さに応じて、厚さ範囲が大きい方から順に完全湿潤状態、準湿潤状態、および、乾燥状態を取るコーティング層12とを有し、上記準湿潤状態においてコーティング層12に凹部13が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質樹脂デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイドロゲル、シリコーンゴム、シリコーンハイドロゲル等の軟質材料が、ソフトコンタクトレンズ(軟質眼用レンズ)や皮膚用被覆材といった医療デバイスや、細胞培養シートといったバイオテクノロジー用デバイスや、顔用パックといった美容デバイス等として用いられている(たとえば、特許文献1〜5を参照)。
【0003】
このような軟質材料は、用途(デバイス)に応じた表面改質(コーティング等)がなされて使用される。たとえば、医療デバイスの一つである軟質眼用レンズの場合、軟質材料によって形成された基材(以下、軟質基材という)の表面に対して親水性を付与するための処理が施される。軟質基材の表面を改質する方法としては、種々の方法があるが、その中で2種類以上のポリマー材料の層を1層ずつコーティングして積層する方法が知られている(たとえば、特許文献6〜8を参照)。中でも反対の荷電を有する2つのポリマー材料を1層ずつ交互にコーティングする方法は、LbL法などと呼ばれ、材料の各々の層が、異なる材料の他の層と非共有結合的に結合されると考えられている。なお、この方法の有用性が明示されている高酸素透過性軟質眼用レンズは、シリコーンハイドロゲル素材のものだけであり、それ以外の素材(例えば低含水性軟質基材)に対する有用性は知られていなかった。また、従来のLbLコーティングは4層〜20層程度といった多層で行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54−81363号公報
【特許文献2】特開昭54−24047号公報
【特許文献3】特表2001−527141号公報
【特許文献4】特表2003−500686号公報
【特許文献5】特表2010−513608号公報
【特許文献6】特表2002−501211号公報
【特許文献7】特表2005−538418号公報
【特許文献8】特表2009−540369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、軟質の樹脂材料によって形成された軟質樹脂デバイスの内、軟質眼用レンズのように湿潤状態で使用される軟質樹脂デバイスは、通常、保存液中に保管されている。このような軟質樹脂デバイスにおいては、軟質樹脂デバイスを保存液から取り出した直後から湿潤状態が失われ始める。そのため、使用者は、軟質樹脂デバイスを保存液から取り出してから速やかに、軟質樹脂デバイスを使用(所定部位に装着)しなければならない。また、軟質樹脂デバイスの乾燥が進み、湿潤状態が所定の状態(使用に適した状態)を超えて失われてしまった場合、使用者は、軟質樹脂デバイスを再度保存液に浸漬するなどして、湿潤状態を取り戻す措置を取るか、その軟質樹脂デバイスの使用を取りやめるといった対応を取る必要がある。しかしながら、軟質樹脂デバイスが使用に適した状態にあるか否かを使用者が把握するのは非常に困難である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、湿潤状態で使用される軟質樹脂デバイスにおいて、当該軟質樹脂デバイスが使用に適した状態にあるか否かを使用者が容易に把握することができる軟質樹脂デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は下記の構成を有する。
【0008】
本発明の軟質樹脂デバイスは、基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成された親水性ポリマーからなり、大気中において厚さが変化すると共に、該厚さに応じて、厚さ範囲が大きい方から順に完全湿潤状態、準湿潤状態、および、乾燥状態を取る層と、を有し、前記準湿潤状態において前記層に凹部が形成されることを特徴とする。かかる凹部を、以下、単に「凹部」と表現する場合がある。
【0009】
好ましくは、上記軟質樹脂デバイスにおいて、前記凹部は、前記層が前記完全湿潤状態から前記準湿潤状態に移行した場合に出現することを特徴とする。
【0010】
好ましくは、上記軟質樹脂デバイスにおいて、前記凹部は、前記層が前記準湿潤状態から前記乾燥状態に移行した場合に消失することを特徴とする。
【0011】
好ましくは、上記軟質樹脂デバイスにおいて、前記凹部の径は0.1μm以上200μm以下であり、前記凹部の深さは1μm以上1000μm以下であることを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記親水性ポリマーが、酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーからなることを特徴とする。
【0013】
本発明の軟質樹脂デバイスは、湿潤状態および準湿潤状態で好ましく使用される。
【0014】
上記において、基材が、下記成分Aの重合体、または下記成分Aおよび成分Bとの共重合体を主成分とすることが好ましい;
成分A:1分子あたり複数の重合性官能基を有し、数平均分子量が6000以上のポリシロキサン化合物
成分B:フルオロアルキル基を有する重合性モノマー。
【0015】
本明細書において、ポリシロキサン化合物とは、Si−O−Si−O−Si結合を有する化合物である。
【0016】
また、本発明の軟質樹脂デバイスは、好ましくは軟質眼用レンズであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の軟質樹脂デバイスは、基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成された親水性ポリマーからなる層と、からなる軟質樹脂デバイスであって、該軟質樹脂デバイスを純水またはホウ酸緩衝液に浸漬した状態から大気中に取り出したときに、取り出してから5秒後から30分後までの間の少なくとも一部の時間範囲において、表面に目視観察可能な凹部が形成され、かつ、取り出してから5秒後まで、および取り出してから30分以降に、該凹部が少なくとも目視観察されない程度に消失することを特徴とするものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の軟質樹脂デバイスにおいては、軟質樹脂デバイス表面の層が準湿潤状態にある場合に、該層に凹部が形成される。このため、使用者は、軟質樹脂デバイスの表面を観察することにより、当該軟質樹脂デバイスが、使用に適した状態にあるか否かを容易に把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の軟質樹脂デバイスの構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の軟質樹脂デバイスは、基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成された親水性ポリマーからなり、大気中において厚さが変化すると共に、該厚さに応じて、厚さ範囲が大きい方から順に完全湿潤状態、準湿潤状態、および、乾燥状態を取る層とを有し、上記層が準湿潤状態にあるとき、該層に凹部が形成されることを特徴とする。この凹部は、上記層が完全湿潤状態から準湿潤状態に移行した場合に出現し、上記層が準湿潤状態から乾燥状態に移行した場合に消失する。この凹部の径は、視認性の観点からは大きい方が好ましく、具体的には、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。一方、凹部の径は、外観品位の観点からは小さい方が好ましく、具体的には、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましく、20μm以下が最も好ましい。同様に、凹部の深さは、視認性の点からは深い方が好ましく、具体的には、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、7μm以上が最も好ましい。一方、凹部の深さは、外観品位の点からは浅い方が好ましく、具体的には、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、200μm以下が最も好ましい。なお、凹部が複数出現した場合、少なくとも1つの凹部は上記範囲の径および深さを有する。また、凹部の大きさは経時的に変化するが、上記の径および深さの凹部が出現している時間帯が存在すればよい。好ましくは凹部の深さが最大の時点で、該凹部は上記の径および深さを有する。
【0021】
ここで、本明細書において、完全湿潤状態とは、上記層が液体によりほぼ膨潤しており、上記層の厚さが、当該軟質樹脂デバイスが取り得る値の内でほぼ最大となっている状態のことをいう。また、準湿潤状態とは、完全湿潤状態と比較して、層内の水分が低減し、層の厚さが薄くなった状態をいい、上記層の表面に凹部が出現することにより判別される。なお、これらの完全湿潤状態および準湿潤状態が、所謂潤っている状態(湿潤状態)に含まれる。乾燥状態とは、準湿潤状態よりもさらに層内の水分が低減して、層の厚さが薄くなった状態をいい、上記凹部が観察されなくなることにより判別される。
【0022】
また、本発明の軟質樹脂デバイスは、基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成された親水性ポリマーからなる層と、からなる軟質樹脂デバイスであって、該軟質樹脂デバイスを純水またはホウ酸緩衝液に浸漬した状態から大気中に取り出したときに、取り出してから5秒後から30分後までの間の少なくとも一部の時間範囲において、表面に目視観察可能な凹部が形成され、かつ、取り出してから5秒後まで、および取り出してから30分以降に、該凹部が少なくとも目視観察されない程度の消失することを特徴とするものであってもよい。
【0023】
ここで、大気とは、常温(20±15℃)、常湿(相対湿度45〜85%)、実質的に無風状態の大気である。また、より厳密には、気温25±3℃、相対湿度55±5%、実質的に無風状態の大気である。大気中に取り出した後、軟質樹脂デバイスの表面は、大気以外には触れないような状態で保持されるものとする。
【0024】
該軟質樹脂デバイスを純水またはホウ酸緩衝液から取り出した後、表面に凹部が形成されて目視観察される時間範囲は、取り出した後、5秒後から5分後までの間の少なくとも一部の時間範囲であることがより好ましく、10秒後から1分後までの間の少なくとも一部の時間範囲であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明の軟質樹脂デバイスとして、具体的には、軟質眼用レンズ、眼内レンズ、人工角膜、角膜インレイ、角膜オンレイ等の眼用レンズ、生体表面に貼付して用いられ、生体表面を保護または治療する被覆材(皮膚用被覆材、創傷用被覆材、皮膚用保護材、皮膚用薬剤担体等)といった医療デバイスや、気液分離膜、液液分離膜といった分離膜デバイスや、版材、スタンプ類、スタンプ台(朱肉)といった画像形成用デバイスや、細胞培養シートもしくは組織再生用足場材料といったバイオテクノロジー用デバイスや、顔用パックといった美容デバイスや、魚介類の鮮度保持シート、熱冷ましシートといった日用品等が挙げられる。上記基材は、軟質樹脂デバイスの用途に応じて、球冠形状(コンタクトレンズ形状)、シート状、フィルム状等、様々な形態に成形される。
【0026】
上記基材は、好ましくは低含水性軟質材料によって形成されている。低含水性とは含水率が10質量%以下であることを意味する。また、軟質とは引張弾性率が10MPa以下であることを意味する。
【0027】
ここで、含水率は、たとえばフィルム形状の乾燥状態Tの試験片の質量(乾燥状態Tでの質量)と、湿潤状態Tの該試験片の表面水分を拭き取った際の質量(湿潤状態Tでの質量)とから、{(湿潤状態Tでの質量)−(乾燥状態Tでの質量)/湿潤状態Tでの質量}×100により与えられる。
【0028】
本明細書において、湿潤状態Tとは、試料を室温(25℃)の純水あるいはホウ酸緩衝液中に24時間以上浸漬した状態を意味する。湿潤状態での物性値の測定は、試料を純水中あるいはホウ酸緩衝液中から取り出した後、可及的速やかに実施される。
【0029】
また、本明細書において、乾燥状態Tとは、湿潤状態Tの試料を40℃で16時間真空乾燥した状態を意味する。該真空乾燥における真空度は2hPa以下とする。乾燥状態Tでの物性値の測定は、上記真空乾燥の後、可及的速やかに実施される。
【0030】
本明細書においてホウ酸緩衝液とは、特表2004−517163号公報の実施例1中に記載の「塩溶液」である。具体的には塩化ナトリウム8.48g、ホウ酸9.26g、ホウ酸ナトリウム(四ホウ酸ナトリウム十水和物)1.0g、およびエチレンジアミン四酢酸0.10gを純水に溶かして1000mLとした水溶液である。
【0031】
本発明の軟質樹脂デバイスが、低含水性軟質材料を基材とする眼用レンズである場合、装用者の眼の乾燥感が小さく装用感に優れるという特徴を有する。また、本発明の軟質樹脂デバイスがたとえば皮膚用被覆材や創傷用被覆材といった医療デバイスや、顔用パックといった美容デバイスである場合、生体表面に貼付している間に使用者が感じる乾燥感が小さく、装用感に優れるという特徴を有する。
【0032】
さらに、本発明の軟質樹脂デバイスが、低含水性軟質材料を基材とする医療デバイスやバイオテクノロジー用デバイスである場合、細菌の繁殖リスクが小さいという利点を有する。含水率は5%以下がより好ましく2%以下がさらに好ましく、1%以下が最も好ましい。含水率が高すぎると、たとえば眼用レンズ装用者の眼の乾燥感が大きくなったり、細菌の繁殖リスクが高まるなどするために好ましくない。
【0033】
本発明の軟質樹脂デバイスの引張弾性率は、0.01〜5MPaが好ましく、0.1〜3MPaがより好ましく、0.1〜2MPaがさらに好ましく、0.1〜1MPaがよりいっそう好ましく、0.1〜0.6MPaが最も好ましい。引張弾性率が小さすぎると、軟らかすぎてハンドリングが難しくなる傾向がある。引張弾性率が大きすぎると、硬すぎて装用感が悪くなる傾向がある。引張弾性率2MPa以下になると良好な装用感が得られ、1MPa以下になるとさらに良好な装用感が得られるので好ましい。引張弾性率は、ホウ酸緩衝液による湿潤状態Tの試料にて測定される。
【0034】
本発明の軟質樹脂デバイスの引張伸度は100%〜1000%が好ましく、200%〜700%がより好ましい。引張伸度が小さいと、軟質樹脂デバイスが破れやすくなるので好ましくない。引張伸度が大きすぎる場合には、軟質樹脂デバイスが変形しやすくなる傾向があり好ましくない。引張伸度は、ホウ酸緩衝液による湿潤状態Tの試料にて測定される。
【0035】
本発明の軟質樹脂デバイスは表面の濡れ性に優れることが生体への馴染みという観点から重要であり、動的接触角(前進時、浸漬速度:0.1mm/sec)が100゜以下が好ましく、90゜以下がより好ましく、80゜以下がさらに好ましい。装用者の角膜への貼り付きを防止する観点からは、動的接触角はより低いことが好ましく、65゜以下が好ましく、60゜以下がより好ましく、55゜以下がさらに好ましく、50゜以下が一層好ましく、45゜以下が最も好ましい。動的接触角は、ホウ酸緩衝液による湿潤状態Tの試料にて、ホウ酸緩衝液に対して測定される。
【0036】
また、本発明の軟質樹脂デバイスは、表面の濡れ性に優れることが生体への馴染みという観点から重要である。特に軟質樹脂デバイスが眼用レンズである場合、表面の優れた濡れ性は、装用者の角膜への眼用レンズの貼り付きを防止する観点から重要である。かかる観点から、軟質樹脂デバイスの表面の液膜保持時間が長いことが好ましい。ここで、液膜保持時間とは、ホウ酸緩衝液に浸漬した軟質樹脂デバイスを液から引き上げ、空中に表面(球冠形状の場合は直径方向)が垂直になるように保持した際に、軟質樹脂デバイス表面の液膜が切れずに保持される時間である。液膜保持時間は、5秒以上が好ましく、10秒以上がさらに好ましく、20秒以上が最も好ましい。ここで直径とは、球冠の縁部が構成する円の直径である。また、液膜保持時間はホウ酸緩衝液による湿潤状態の試料にて測定される。
【0037】
体組織に接触した際の動きを円滑にする観点、特に眼用レンズの場合は装用者の角膜への貼り付きを防止する観点からは、軟質樹脂デバイスの表面が優れた易滑性を有することが好ましい。易滑性を表す指標としては、本明細書の実施例に示した方法で測定される摩擦が小さい方が好ましい。摩擦は、60gf(0.59N)以下が好ましく、50gf(0.49N)以下がより好ましく、40gf(0.39N)以下がさらに好ましく、30gf(0.29N)以下が最も好ましい。また、摩擦が極端に小さいと脱着用時の取扱が難しくなる傾向があるので、摩擦は5gf(0.049N)以上、好ましくは10gf(0.098N)以上であることが好ましい。摩擦は、ホウ酸緩衝液による湿潤状態Tの試料にて測定される。
【0038】
眼用レンズ等の軟質樹脂デバイスにおいて、防汚性は、ムチン付着、脂質(パルミチン酸メチル)付着、および人工涙液浸漬試験により、評価することができる。これらの評価による付着量が少ないものほど、装用感に優れるとともに、細菌繁殖リスクが低減されるために好ましい。ムチン付着量は5μg/cm以下が好ましく、4μg/cm以下がより好ましく、3μg/cm以下が最も好ましい。
【0039】
本発明の軟質樹脂デバイスは、患者の体組織(眼用レンズの場合は眼)への大気からの酸素供給の観点から、高い酸素透過性を有することが好ましい。酸素透過係数[×10−11(cm/sec)mLO/(mL・hPa)]は50〜2000が好ましく、100〜1500がより好ましく、200〜1000がさらに好ましく、300〜700が最も好ましい。酸素透過性を大きくしすぎると機械物性などの他の物性に悪影響が出る場合があり好ましくない。酸素透過係数は、乾燥状態Tの試料にて測定される。
【0040】
基材は、高い酸素透過性を有するため、および、表面にコーティングされるポリマーとの間に共有結合を介さずに強固な密着性を得るために、ケイ素原子を5質量%以上含むことが好ましい。ケイ素原子の含有量(質量%)は、乾燥状態の基材質量を基準(100質量%)として算出される。基材のケイ素原子含有率は5質量%〜36質量%が好ましく、7質量%〜30質量%がより好ましく、10質量%〜30質量%がさらに好ましく、12質量%〜26質量%が最も好ましい。ケイ素原子の含有率が大きすぎる場合は引張弾性率が大きくなる場合があり好ましくない。
【0041】
基材におけるケイ素原子の含有量は以下の方法で測定することができる。十分乾燥した基材を白金るつぼに秤取し、硫酸を加えてホットプレートおよびバーナーで加熱灰化する。灰化物を炭酸ナトリウムで融解し、水を加えて加熱溶解した後、硝酸を加え水で定容する。この溶液について、ICP発光分光分析法によりケイ素原子を測定し、基材中の含有量を求める。
【0042】
基材は、1分子あたり複数の重合性官能基を有し、数平均分子量が6000以上のポリシロキサン化合物である成分Aの重合体、または、上記成分Aおよび重合性官能基を有する化合物であって、成分Aとは異なる化合物との共重合体を主成分とすることが好ましい。ここで、主成分とは乾燥状態の基材質量を基準(100質量%)として50質量%以上含まれる成分であることを意味する。
【0043】
成分Aの数平均分子量は6000以上であることが好ましい。発明者らは、成分Aの数平均分子量がこの範囲にあることで、柔軟で装用感に優れ、しかも耐折り曲げ性などの機械物性に優れた軟質樹脂デバイスが得られることを見出した。成分Aのポリシロキサン化合物の数平均分子量は、耐折り曲げ性などの機械物性により優れた軟質樹脂デバイスが得られることから、8000以上が好ましい。成分Aの数平均分子量は8000〜100000の範囲にあることが好ましく、9000〜70000の範囲にあることがより好ましく、10000〜50000の範囲にあることが一層好ましい。成分Aの数平均分子量が小さすぎる場合には耐折り曲げ性などの機械物性が低くなる傾向があり、特に6000未満では耐折り曲げ性が低くなる。成分Aの数平均分子量が大きすぎる場合には、柔軟性や透明性が低下する傾向があり好ましくない。
【0044】
本発明の軟質樹脂デバイスが眼用レンズである場合、眼用レンズは光学製品であるので、透明性が高いことが好ましい。透明性の基準としては、目視した際に透明で濁りがないことが好ましい。さらに眼用レンズは、レンズ投影機で観察した場合、濁りがほとんど、または、全く観察されないことが好ましく、濁りが全く観察されないことが最も好ましい。
【0045】
成分Aの分散度(質量平均分子量を数平均分子量で除した値)は、6以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましく、1.5以下が最も好ましい。成分Aの分散度が小さい場合、他の成分との相溶性が向上し、得られるレンズの透明性が向上する、得られるレンズに含まれる抽出可能な成分が減る、レンズ成型に伴う収縮率が小さくなる、などの利点が生じる。レンズ成型に伴う収縮率は、レンズ成型比=[レンズ直径]/[モールドの空隙部の直径]で評価することができる。レンズ成型比は、1に近いほど高品位のレンズを安定に製造することが容易となる。成型比は0.85〜2.0の範囲が好ましく、0.9〜1.5の範囲がより好ましく、0.91〜1.3の範囲が最も好ましい。
【0046】
本発明において、成分Aの数平均分子量は、クロロホルムを溶媒として用いたゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量である。質量平均分子量および分散度(質量平均分子量を数平均分子量で除した値)も同様の方法で測定される。
【0047】
なお、本明細書においては、質量平均分子量をMw、数平均分子量をMnで表す場合がある。また分子量1000を1kDと表記することがある。たとえば「Mw33kD」という表記は「質量平均分子量33000」を表す。
【0048】
成分Aは、複数の重合性官能基を有するポリシロキサン化合物である。成分Aの重合性官能基の数は、1分子あたり2個以上であればよいが、より柔軟(低弾性率)な軟質樹脂デバイスが得られやすいという観点からは、1分子あたり2個が好ましい。特に分子鎖の両末端に重合性官能基を有する構造が好ましい。
【0049】
成分Aの重合性官能基としては、ラジカル重合可能な官能基が好ましく、炭素炭素二重結合を有するものがより好ましい。好ましい重合性官能基の例としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、α−アルコキシメチルアクリロイル基、マレイン酸残基、フマル酸残基、イタコン酸残基、クロトン酸残基、イソクロトン酸残基、およびシトラコン酸残基などである。これらの中でも高い重合性を有することから(メタ)アクリロイル基が最も好ましい。
【0050】
なお、本明細書において(メタ)アクリロイルという語はメタクリロイルおよびアクリロイルの両方を表すものであり、(メタ)アクリル、(メタ)アクリレートなどの語も同様である。
【0051】
成分Aとしては、下記式(A1)の構造を有するものが好ましい。
【0052】
【化1】

【0053】
式(A1)中、XおよびXはそれぞれ独立に重合性官能基を表す。R〜Rはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基、および炭素数1〜20のフルオロアルキル基から選ばれた置換基を表す。LおよびLは、それぞれ独立に2価の基を表す。aおよびbは、それぞれ独立に0〜1500の整数を表す。ただしaとbは同時に0ではない。
【0054】
およびXとしては、ラジカル重合可能な官能基が好ましく、炭素炭素二重結合を有するものが好ましい。好ましい重合性官能基の例としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、α−アルコキシメチルアクリロイル基、マレイン酸残基、フマル酸残基、イタコン酸残基、クロトン酸残基、イソクロトン酸残基、およびシトラコン酸残基などである。これらの中でも高い重合性を有することから(メタ)アクリロイル基が最も好ましい。
【0055】
〜Rの好適な具体例は、水素;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基などの炭素数1〜20のアルキル基;フェニル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロプロピル基、テトラフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、ペンタフルオロブチル基、ヘプタフルオロペンチル基、ノナフルオロヘキシル基、ヘキサフルオロブチル基、ヘプタフルオロブチル基、オクタフルオロペンチル基、ノナフルオロペンチル基、ドデカフルオロヘプチル基、トリデカフルオロヘプチル基、ドデカフルオロオクチル基、トリデカフルオロオクチル基、ヘキサデカフルオロデシル基、ヘプタデカフルオロデシル基、テトラフルオロプロピル基、ペンタフルオロプロピル基、テトラデカフルオロオクチル基、ペンタデカフルオロオクチル基、オクタデカフルオロデシル基、およびノナデカフルオロデシル基などの炭素数1〜20のフルオロアルキル基である。これらの中で、軟質樹脂デバイスに良好な機械物性と高酸素透過性を与えるという観点からさらに好ましいのは、水素およびメチル基であり、最も好ましいのはメチル基である。
【0056】
およびLとしては、炭素数1〜20の2価の基が好ましい。中でも式(A1)の化合物が高純度で得られやすい利点を有することから、下記式(LE1)〜(LE12)で表される基が好ましく、中でも下記式(LE1)、(LE3)、(LE9)および(LE11)で表される基がより好ましく、下記式(LE1)および(LE3)で表される基がさらに好ましく、下記式(LE1)で表される基が最も好ましい。なお、下記式(LE1)〜(LE12)は、左側が重合性官能基XまたはXに結合する末端、右側がケイ素原子に結合する末端として描かれている。
【0057】
【化2】

【0058】
式(A1)中、aおよびbは、それぞれ独立に各繰返し単位の数を表す。aおよびbはそれぞれ独立に0〜1500の範囲が好ましい。aとbの合計値(a+b)は、80以上が好ましく、100以上がより好ましく、100〜1400がより好ましく、120〜950がより好ましく、130〜700がさらに好ましい。
【0059】
〜Rが全てメチル基の場合、b=0であり、aは、80〜1500が好ましく、100〜1400がより好ましく、120〜950がより好ましく、130〜700がさらに好ましい。この場合、aの値は、成分Aのポリシロキサン化合物の分子量によって決まる。
【0060】
本発明の成分Aは1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
成分Aと共重合させる他の化合物としては、フルオロアルキル基を有する重合性モノマーである成分Bが好ましい。成分Bはフルオロアルキル基に起因する臨界表面張力の低下により、撥水撥油性の性質を持ち、これにより、軟質樹脂デバイス表面が涙液や体液中のタンパク質や脂質などの成分によって汚染されることを抑える効果がある。また、成分Bは、柔軟で装用感に優れ、しかも耐折り曲げ性などの機械物性に優れた軟質樹脂デバイスを与える効果がある。成分Bのフルオロアルキル基の好適な具体例は、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロプロピル基、テトラフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、ペンタフルオロブチル基、ヘプタフルオロペンチル基、ノナフルオロヘキシル基、ヘキサフルオロブチル基、ヘプタフルオロブチル基、オクタフルオロペンチル基、ノナフルオロペンチル基、ドデカフルオロヘプチル基、トリデカフルオロヘプチル基、ドデカフルオロオクチル基、トリデカフルオロオクチル基、ヘキサデカフルオロデシル基、ヘプタデカフルオロデシル基、テトラフルオロプロピル基、ペンタフルオロプロピル基、テトラデカフルオロオクチル基、ペンタデカフルオロオクチル基、オクタデカフルオロデシル基、およびノナデカフルオロデシル基などの炭素数1〜20のフルオロアルキル基である。より好ましくは、炭素数2〜8のフルオロアルキル基、たとえば、トリフルオロエチル基、テトラフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、オクタフルオロペンチル基、およびドデカフルオロオクチル基であり、最も好ましくはトリフルオロエチル基である。
【0062】
成分Bの重合性官能基としてはラジカル重合可能な官能基が好ましく、炭素炭素二重結合を有するものがより好ましい。好ましい重合性官能基の例としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、α−アルコキシメチルアクリロイル基、マレイン酸残基、フマル酸残基、イタコン酸残基、クロトン酸残基、イソクロトン酸残基、およびシトラコン酸残基などであるが、これらの中でも高い重合性を有することから(メタ)アクリロイル基が最も好ましい。
【0063】
柔軟で装用感に優れ、しかも耐折り曲げ性などの機械物性に優れた軟質樹脂デバイスが得られる効果が大きいことから、成分Bとして最も好ましいのは(メタ)アクリル酸フルオロアルキルエステルである。かかる(メタ)アクリル酸フルオロアルキルエステルの具体例としては、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロブチル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ノナフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ドデカフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、ドデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、およびトリデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレートが挙げられる。トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ドデカフルオロオクチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。最も好ましくはトリフルオロエチル(メタ)アクリレートである。
【0064】
本発明のB成分は1種類のみ用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0065】
共重合体中における成分Bの好ましい含有量は、成分A100質量部に対して、10〜500質量部、より好ましくは20〜400質量部、さらに好ましくは20〜200質量部である。成分Bの使用量が少なすぎる場合は、得られる軟質樹脂デバイスに白濁が生じたり、耐折り曲げ性などの機械物性が不十分になったりする傾向がある。
【0066】
また、基材に用いる共重合体としては、成分Aおよび成分Bに加えて、成分Aおよび成分Bとは異なる成分(以下成分C)をさらに共重合させたものを用いてもよい。
【0067】
成分Cとしては、共重合体のガラス移転点を室温あるいは0℃以下に下げるものがよい。これらは凝集エネルギ−を低下させるので、共重合体にゴム弾性と柔らかさを与える効果がある。
【0068】
成分Cの重合性官能基としてはラジカル重合可能な官能基が好ましく、炭素炭素二重結合を有するものがより好ましい。好ましい重合性官能基の例としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、α−アルコキシメチルアクリロイル基、マレイン酸残基、フマル酸残基、イタコン酸残基、クロトン酸残基、イソクロトン酸残基、およびシトラコン酸残基などであるが、これらの中でも高い重合性を有することから(メタ)アクリロイル基が最も好ましい。
【0069】
成分Cとして、柔軟性や耐折り曲げ性などの機械的特性の改善のために好適な例は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、好ましくはアルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、およびn−ステアリル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、より好ましくは、n−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレートである。これらの中でアルキル基の炭素数が1〜10の(メタ)アクリル酸アルキルエステルはさらに好ましい。アルキル基の炭素数が大きすぎると得られるレンズの透明性が低下する場合があり好ましくない。
【0070】
さらに、機械的性質、表面濡れ性、軟質樹脂デバイスの寸法安定性などを向上させるためには、所望に応じ、以下に述べるモノマーを共重合させることができる。
【0071】
機械的性質を向上させるためのモノマーとしては、たとえばスチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
【0072】
表面濡れ性を向上させるためのモノマーとしては、たとえばメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、グリセロールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルアセトアミド、およびN−ビニル−N−メチルアセトアミド等が挙げられる。中でもN,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルアセトアミド、およびN−ビニル−N−メチルアセトアミドなどのアミド基を含有するモノマーが好ましい。
【0073】
軟質樹脂デバイスの寸法安定性を向上させるためのモノマーとしては、たとえばエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、ビニルメタクリレート、アクリルメタクリレートおよびこれらのメタクリレート類に対応するアクリレート類、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0074】
成分Cは、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
成分Cの好ましい使用量は、成分A100質量部に対して、0.001〜400質量部、より好ましくは0.01〜300質量部、さらに好ましくは0.01〜200質量部、最も好ましくは0.01〜30質量部である。成分Cの使用量が少なすぎる場合は成分Cに期待する効果が得られにくくなる。成分Cの使用量が多すぎる場合は得られる軟質樹脂デバイスに白濁が生じたり耐折り曲げ性などの機械物性が不十分になったりする傾向がある。
【0076】
さらにまた、基材に用いる共重合体として、成分Aに加えて、成分Mをさらに共重合させたものを用いてもよい。成分Mは、「1分子あたり1個の重合性官能基、およびシロキサニル基を有する単官能モノマー」である。
【0077】
本明細書において、シロキサニル基とはSi−O−Si結合を有する基を意味する。
【0078】
成分Mのシロキサニル基は直鎖状であることが好ましい。シロキサニル基が直鎖状であれば、得られる軟質樹脂デバイスの形状回復性が向上する。ここで直鎖状とは、重合性基を有する基と結合したケイ素原子を起点とする、一本の線状に連なるSi−(O−Si)n−1−O−Si結合で示される構造を指す(ただし、nは2以上の整数を表す)。得られる軟質樹脂デバイスが十分な形状回復性を得るためにはnは3以上の整数が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、6以上が最も好ましい。ここで、「シロキサニル基が直鎖状である」とはシロキサニル基が上記の直鎖状構造を有し、かつ直鎖状構造の条件を満たさないSi−O−Si結合を有さないことを意味する。
【0079】
基材は、数平均分子量が300〜120000である成分Mを含む共重合体を主成分とすることが好ましい。ここで、主成分とは乾燥状態の基材質量を基準(100質量%)として50質量%以上含まれる成分であることを意味する。
【0080】
成分Mの数平均分子量は、300〜120000であることが好ましい。成分Mの数平均分子量がこの範囲にあることで、柔軟(低弾性率)で装用感に優れ、しかも耐折り曲げ性などの機械物性に優れた基材が得られる。成分Mの数平均分子量は、耐折り曲げ性などの機械物性により優れ、かつ形状回復性に優れた基材が得られることから、500以上がより好ましい。成分Mの数平均分子量は、1000〜25000の範囲にあることがより好ましく、5000〜15000の範囲にあることが一層好ましい。成分Mの数平均分子量が小さすぎる場合には耐折り曲げ性や形状回復性などの機械物性が低くなる傾向があり、特に500未満では耐折り曲げ性、および形状回復性が低くなることがある。成分Mの数平均分子量が大きすぎる場合には、柔軟性や透明性が低下する傾向があり好ましくない。
【0081】
成分Mの重合性官能基としては、ラジカル重合可能な官能基が好ましく、炭素炭素二重結合を有するものがより好ましい。好ましい重合性官能基の例としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、α−アルコキシメチルアクリロイル基、マレイン酸残基、フマル酸残基、イタコン酸残基、クロトン酸残基、イソクロトン酸残基、およびシトラコン酸残基などである。これらの中でも高い重合性を有することから(メタ)アクリロイル基が最も好ましい。
【0082】
成分Mとしては、下記式(ML1)の構造を有するものが好ましい。
【0083】
【化3】

【0084】
式中、Xは重合性官能基を表す。R11〜R19はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基、および炭素数1〜20のフルオロアルキル基から選ばれた置換基を表す。Lは2価の基を表す。cおよびdは、それぞれ独立に0〜700の整数を表す。ただしcとdは同時に0ではない。
【0085】
としては、ラジカル重合可能な官能基が好ましく、炭素炭素二重結合を有するものが好ましい。好ましい重合性官能基の例としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基、α−アルコキシメチルアクリロイル基、マレイン酸残基、フマル酸残基、イタコン酸残基、クロトン酸残基、イソクロトン酸残基、およびシトラコン酸残基などである。これらの中でも高い重合性を有することから(メタ)アクリロイル基が最も好ましい。
【0086】
また、成分Mの重合性官能基は、良好な機械物性の軟質樹脂デバイスが得られやすいことから、成分Aの重合性官能基と共重合可能であることがより好ましく、成分Mと成分Aが均一に共重合されることで良好な表面特性を有する軟質樹脂デバイスが得られやすいことから、成分Aの重合性官能基と同一であることがさらに好ましい。
【0087】
11〜R19の好適な具体例は、水素;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基などの炭素数1〜20のアルキル基;フェニル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロプロピル基、テトラフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、ペンタフルオロブチル基、ヘプタフルオロペンチル基、ノナフルオロヘキシル基、ヘキサフルオロブチル基、ヘプタフルオロブチル基、オクタフルオロペンチル基、ノナフルオロペンチル基、ドデカフルオロヘプチル基、トリデカフルオロヘプチル基、ドデカフルオロオクチル基、トリデカフルオロオクチル基、ヘキサデカフルオロデシル基、ヘプタデカフルオロデシル基、テトラフルオロプロピル基、ペンタフルオロプロピル基、テトラデカフルオロオクチル基、ペンタデカフルオロオクチル基、オクタデカフルオロデシル基、およびノナデカフルオロデシル基などの炭素数1〜20のフルオロアルキル基である。これらの中で、軟質樹脂デバイスに良好な機械物性と高酸素透過性を与えるという観点からさらに好ましいのは、水素およびメチル基であり、最も好ましいのはメチル基である。
【0088】
としては、炭素数1〜20の2価の基が好ましい。中でも式(ML1)の化合物が高純度で得られやすい利点を有することから、下記式(LE1)〜(LE12)で表される基が好ましく、中でも下記式(LE1)、(LE3)、(LE9)および(LE11)で表される基がより好ましく、下記式(LE1)および(LE3)で表される基がさらに好ましく、下記式(LE1)で表される基が最も好ましい。なお、下記式(LE1)〜(LE12)は、左側が重合性官能基Xに結合する末端、右側がケイ素原子に結合する末端として描かれている。
【0089】
【化4】

【0090】
式(ML1)中、cとdの合計値(c+d)は、3以上が好ましく、10以上がより好ましく、10〜500がより好ましく、30〜300がより好ましく、50〜200がさらに好ましい。
【0091】
11〜R18が全てメチル基の場合、d=0であり、cは、3〜700が好ましく、10〜500がより好ましく、30〜300がより好ましく、50〜200がさらに好ましい。この場合、cの値は、成分Mの分子量によって決まる。
【0092】
本発明の軟質樹脂デバイスの基材において、成分Mは1種類のみ用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0093】
本発明の軟質樹脂デバイスの基材が適当な量の成分Mを含有することにより、架橋密度が減少してポリマーの自由度が大きくなり、適度に柔らかい低弾性率の基材を実現することができる。これに対し、成分Mの含有量が少なすぎると架橋密度が高くなり、基材が硬くなる。また、成分Mの含有量が多すぎると軟らかくなりすぎ、破れやすくなるため好ましくない。
【0094】
また、本発明の軟質樹脂デバイスの基材において、成分Mと成分Aとの質量比は、成分A100質量部に対して成分Mが5〜200質量部、より好ましくは7〜150質量部、最も好ましくは10〜100質量部、であることが好ましい。成分Mの含有量が、成分A100質量部に対し5質量部を下まわると、架橋密度が高くなり、基材が硬くなる。また、成分Mの含有量が、成分A100質量部に対し200質量部を超えると、軟らかくなりすぎ、破れやすくなるため好ましくない。
【0095】
本発明の軟質樹脂デバイスは、紫外線吸収剤、色素、着色剤、湿潤剤、スリップ剤、医薬および栄養補助成分、相溶化成分、抗菌成分、離型剤等の成分をさらに含んでいてもよい。上記した成分はいずれも、非反応性形態または共重合形態で含有され得る。
【0096】
本発明の軟質樹脂デバイスが眼用レンズであり、基材が紫外線吸収剤を含む場合、眼用レンズ装用者の眼を有害紫外線から保護することができる。また、着色剤を含む場合、眼用レンズが着色されて、識別が容易になり、取扱時の利便性が向上する。
【0097】
上記した成分はいずれも、非反応性形態または共重合形態で含有され得る。上記成分を共重合した場合、すなわち重合性基を有する紫外線吸収剤、重合性基を有する着色剤などを使用した場合は、該成分が基材に共重合されて固定化されるので溶出の可能性が小さくなるので好ましい。
【0098】
基材は、紫外線吸収剤および着色剤から選ばれる成分、ならびに、これら以外の2種類以上の成分C(以下、成分Ck)からなることが好ましい。その場合、成分Ckとしては、炭素数1〜10の(メタ)アクリル酸アルキルエステルから少なくとも1種類、上記表面濡れ性を向上させるためのモノマーから少なくとも1種類が選ばれることが好ましい。成分Ckを2種類以上使用することにより、紫外線吸収剤や着色剤との親和性が増し、透明な基材を得ることが容易になる。
【0099】
紫外線吸収剤を用いる場合、その好ましい使用量は、成分A100質量部に対して、0.01〜20質量部、より好ましくは0.05〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜2質量部である。着色剤を用いる場合、その好ましい使用量は、成分A100質量部に対して、0.00001〜5質量部、より好ましくは0.0001〜1質量部、さらに好ましくは0.0001〜0.5質量部である。紫外線吸収剤や着色剤の含有量が少なすぎる場合は、紫外線吸収効果や着色効果が得られにくくなる。逆に、多すぎる場合はこれらの成分を基材中に溶解せしめることが難しくなる。成分Ckの好ましい使用量は、それぞれ、成分A100質量部に対して、0.1〜100質量部、より好ましくは1〜80質量部、さらに好ましくは2〜50質量部である。成分Ckの使用量が少なすぎる場合は、紫外線吸収剤や着色剤との親和性が不足して透明な基材を得るのが難しくなる傾向がある。成分Ckの使用量が多すぎる場合も得られる軟質樹脂デバイスに白濁が生じたり耐折り曲げ性などの機械物性が不十分になったりする傾向があり好ましくない。
【0100】
また、本発明の軟質樹脂デバイスの基材は、架橋度が2.0〜18.3の範囲であることが好ましい。架橋度は、下記式(Q1)で表される。
【0101】
【化5】

【0102】
式(Q1)において、Qnは1分子あたりn個の重合性基を有するモノマーの合計ミリモル量、Wnは1分子あたりn個の重合性基を有するモノマーの合計質量(kg)を表す。また、モノマーの分子量が分布を有する場合は、数平均分子量を用いてミリモル量を計算することとする。
【0103】
本発明の基材の架橋度が、2.0より小さくなると、柔らかすぎてハンドリングが難しくなり、18.3より大きくなると硬すぎて装用感又は使用感が悪くなる傾向があるので好ましくない。架橋度のより好ましい範囲は3.5〜16.0であり、さらに好ましい範囲は8.0〜15.0であり、最も好ましい範囲は9.0〜14.0である。
【0104】
本発明の軟質樹脂デバイスの基材、例えばレンズ形状やシート状等の成型体を製造する方法としては、公知の方法を使用することができる。たとえば、いったん、丸棒や板状の重合体を得て、これを切削加工等によって所望の形状に加工する方法、モールド重合法、およびスピンキャスト重合法などを使用することができる。レンズを切削加工で得る場合には、低温での冷凍切削が好適である。
【0105】
一例として、成分Aを含む原料組成物をモールド重合法により重合して軟質樹脂デバイスとして眼用レンズを製造する方法について、次に説明する。まず、一定の形状を有する2枚のモールド部材間の空隙に原料組成物を充填する。モールド部材の材料としては、樹脂、ガラス、セラミックス、金属等が挙げられる。光重合を行う場合は光学的に透明な素材が好ましいので、樹脂またはガラスが好ましく使用される。モールド部材の形状や原料組成物の性状によっては、眼用レンズに一定の厚みを与え、かつ、空隙に充填した原料組成物の液モレを防止するために、ガスケットを用いてもよい。空隙に原料組成物を充填したモールドは、続いて紫外線、可視光線またはこれらの組み合わせなどの活性光線を照射されるか、もしくはオーブンや液槽中などで加熱されることにより、充填した原料組成物を重合する。2通りの重合方法を併用する方法もありうる。すなわち、光重合の後に加熱重合したり、または加熱重合後に光重合することもできる。光重合の具体的態様は、たとえば水銀ランプや紫外線ランプ(たとえばFL15BL、東芝)の光のような紫外線を含む光を短時間(通常は1時間以下)照射する。熱重合を行う場合には、組成物を室温付近から徐々に昇温し、数時間ないし数十時間かけて60℃〜200℃の温度まで高めて行く条件が、眼用レンズの光学的な均一性および品位を保持し、かつ再現性を高めるために好まれる。
【0106】
重合においては、重合をしやすくするために過酸化物やアゾ化合物に代表される熱重合開始剤または光重合開始剤を添加することが好ましい。熱重合を行う場合は、所望の反応温度において最適な分解特性を有するものが選択される。一般的には、10時間半減期温度が40〜120℃のアゾ系開始剤および過酸化物系開始剤が好適である。光重合を行う場合の光開始剤としてはカルボニル化合物、過酸化物、アゾ化合物、硫黄化合物、ハロゲン化合物、および金属塩などを挙げることができる。これらの重合開始剤は単独または混合して用いられる。重合開始剤の量は、重合混合物に対し最大で5質量%までが好ましい。
【0107】
重合する際は、重合溶媒を使用することができる。溶媒としては有機系、無機系の各種溶媒が適用可能である。溶媒の例としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、t−アミルアルコール、テトラヒドロリナロール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールおよびポリエチレングリコール等のアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルおよびポリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、乳酸エチルおよび安息香酸メチル等のエステル系溶媒;ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタンおよびノルマルオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロへキサンおよびエチルシクロへキサン等の脂環族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;並びに石油系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0108】
本発明の軟質樹脂デバイスは、基材表面の少なくとも一部に、親水性ポリマーからなる層(以下、コーティング層と呼ぶ)が形成されていることが必要である。コーティング層を有することで、レンズの表面に良好な濡れ性と易滑性が付与され、優れた装用感を与えることができる。
【0109】
本発明において、親水性ポリマーとは、次のいずれかの条件を満たすポリマーである。
(1)25℃において0.01質量%以上の濃度で水に溶解するポリマー。ただし溶解過程においては加熱してもよい。
(2)コーティング層を形成したときに、25℃において該コーティング層の含水率が10質量%以上となるポリマー。ただし該コーティング層の乾燥質量を基準とする。ここで含水率とは、表面に付着した水の質量は含まない値である。
【0110】
発明者らは、本発明の軟質樹脂デバイスが、基材が低含水性かつ軟質であっても、また基材が中性であっても、表面に親水性ポリマー、好ましくは酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーからなるコーティング層を形成することによって、軟質樹脂デバイス表面に十分な濡れ性、易滑性および防汚性を付与することが可能であることを見出した。これにより、本発明の軟質樹脂デバイスを例えば低含水性軟質眼用レンズとして用いる場合に、従来の低含水性軟質眼用レンズにおいて問題とされていた、装用時に角膜に貼り付く現象を大幅に低減ないし回避することができる。
【0111】
本発明の軟質樹脂デバイスのコーティング層は、基材との間に共有結合を有する必要はない。簡便な工程での製造が可能となることから、コーティング層は基材との間に共有結合を有さないことが好ましい。コーティング層は、基材との間に共有結合を有さなくても、実用的な耐久性を有する。
【0112】
本発明の軟質樹脂デバイスのコーティング層は、下記に詳細に説明する酸性ポリマー溶液(「溶液」は、水溶液を意味する)、および塩基性ポリマー溶液(「溶液」は、水溶液を意味する)で基材表面を処理することにより形成することが好ましい。ここで、水溶液とは水を主たる成分とする溶液である。
【0113】
本発明の酸性ポリマー溶液および塩基性ポリマー溶液は、通常、1種(1種とは、1の合成反応により製造されたポリマー群を意味する。1種(同一)のポリマーであっても、濃度が異なる溶液は1種とはみなさない。また、構成するモノマー種が同一であっても、配合比を変えて合成したポリマーは1種ではない)のポリマーを含有する溶液を意味する。
【0114】
コーティング層は、1種以上の酸性ポリマー、および1種以上の塩基性ポリマーからなることが好ましい。2種以上の酸性ポリマーまたは2種以上の塩基性ポリマーを用いると、軟質樹脂デバイス表面に易滑性や防汚性などの性質を発現させやすいためにより好ましい。特に2種以上の酸性ポリマーと1種以上の塩基性ポリマーを使用した場合にその傾向が強まるのでさらに好ましい。
【0115】
コーティング層は、1種以上の酸性ポリマー溶液による処理を1回以上、および1種以上の塩基性ポリマー溶液による処理を1回以上行うことにより形成されることが好ましい。
【0116】
また、コーティング層は、1種以上の酸性ポリマー溶液による処理および1種以上の塩基性ポリマー溶液による処理を、好ましくはそれぞれ1〜5回、より好ましくはそれぞれ1〜3回、さらに好ましくはそれぞれ1〜2回行うことにより基材の表面に形成される。酸性ポリマー溶液による処理の回数と塩基性ポリマー溶液による処理の回数は異なっていてもよい。
【0117】
本発明の軟質樹脂デバイスにおいて、1種以上の酸性ポリマー溶液による処理および1種以上の塩基性ポリマー溶液による処理が合計2回または3回という極めて少ない回数で優れた濡れ性や易滑性を付与しうることを見出した。これは製造工程の短縮化という観点から、工業的に非常に重要な意味を持つ。その意味で、本発明の軟質樹脂デバイスにおいて、酸性ポリマー溶液による処理および塩基性ポリマー溶液による処理の合計は2回または3回が好ましい。
【0118】
本発明の軟質樹脂デバイスにかかるコーティング層は、2種の酸性ポリマー溶液による処理を各1回および塩基性ポリマー溶液による処理を1回行うことが好適である。
【0119】
なお、発明者らは、コーティング層が、酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーのいずれか一方のみを含むだけでは、濡れ性や易滑性の発現がほとんど見られないことも確認している。
【0120】
塩基性ポリマーとしては、塩基性を有する複数の基をポリマー鎖に沿って有するホモポリマーまたは共重合ポリマーを好適に用いることができる。塩基性を有する基としてはアミノ基およびその塩が好適である。たとえば、このような塩基性ポリマーの好適な例は、ポリ(アリルアミン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルベンジルトリメチルアミン)、ポリアニリン、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(N,N−ジアルキルアミノエチルメタクリレート)などのアミノ基含有(メタ)アクリレート重合体、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)などのアミノ基含有(メタ)アクリルアミド重合体およびこれらの塩などである。以上はホモポリマーの例であるが、これらの共重合体(すなわち上記塩基性ポリマーを構成する塩基性モノマーどうしの共重合体、あるいは塩基性モノマーと他のモノマーの共重合体)も好適に用いることができる。
【0121】
塩基性ポリマーが共重合体である場合、該共重合体を構成する塩基性モノマーとしては、重合性の高さという点でアリル基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが最も好ましい。該共重合体を構成する塩基性モノマーとして好適なものを例示すれば、アリルアミン、ビニルアミン(前駆体としてN−ビニルカルボン酸アミド)、ビニルベンジルトリメチルアミン、アミノ基含有スチレン、アミノ基含有(メタ)アクリレート、アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、およびこれらの塩である。これらの中でも重合性の高さからアミノ基含有(メタ)アクリレート、アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、およびこれらの塩がより好ましく、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、およびこれらの塩が最も好ましい。
【0122】
塩基性ポリマーは、第四級アンモニウム構造を有するポリマーであってもよい。第四級アンモニウム構造を有するポリマー化合物は、たとえば軟質眼用レンズのコーティングに使用されると、軟質眼用レンズに抗微生物性を付与することができる。
【0123】
酸性ポリマーとしては、酸性を有する複数の基をポリマー鎖に沿って有するホモポリマーまたは共重合ポリマーを好適に用いることができる。酸性を有する基としては、カルボキシル基、スルホン酸基およびこれらの塩が好適であり、カルボキシル基およびその塩が最も好適である。たとえば、このような酸性ポリマーの好適な例は、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリ(ビニル安息香酸)、ポリ(チオフェン−3−酢酸)、ポリ(4−スチレンスルホン酸)、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)およびこれらの塩などである。以上はホモポリマーの例であるが、これらの共重合体(すなわち上記酸性ポリマーを構成する酸性モノマーどうしの共重合体、あるいは酸性モノマーと他のモノマーの共重合体)も好適に用いることができる。
【0124】
酸性ポリマーが共重合体である場合、該共重合体を構成する酸性モノマーとしては、重合性の高さという点でアリル基、ビニル基、および(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが最も好ましい。該共重合体を構成する酸性モノマーとして好適なものを例示すれば、(メタ)アクリル酸、ビニル安息香酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩である。これらの中で、(メタ)アクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩がより好ましく、最も好ましいのは(メタ)アクリル酸、およびその塩である。
【0125】
塩基性ポリマーおよび酸性ポリマーのうちの少なくとも1種が、アミド基および水酸基から選ばれた基を有するポリマーであることが好ましい。塩基性ポリマーおよび/または酸性ポリマーがアミド基を有する場合、濡れ性のみならず易滑性のある表面が形成されやすいために好ましい。塩基性ポリマーおよび/または酸性ポリマーが水酸基を有する場合、濡れ性のみならず涙液等に対する防汚性に優れた表面を形成できるために好ましい。
【0126】
上記酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーのうちの2種以上が、水酸基およびアミド基から選ばれた基を有するポリマーであることがより好ましい。すなわち、軟質樹脂デバイスが、水酸基を有する酸性ポリマー、水酸基を有する塩基性ポリマー、アミド基を有する酸性ポリマーおよびアミド基を有する塩基性ポリマーから選ばれた2種以上を含むことが好ましい。この場合、易滑性のある表面が形成される効果、または涙液に対する防汚性に優れた表面を形成できる効果がより顕著に発現できるために好ましい。
【0127】
また、コーティング層が、水酸基を有する酸性ポリマーおよび水酸基を有する塩基性ポリマーから選ばれた少なくとも1種、ならびにアミド基を有する酸性ポリマーおよびアミド基を有する塩基性ポリマーから選ばれた少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。この場合、易滑性のある表面が形成される効果、および涙液に対する防汚性に優れた表面を形成できる効果の両方が発現できるために好ましい。
【0128】
アミド基を有する塩基性ポリマーの例としては、アミノ基を有するポリアミド類、部分加水分解キトサン、塩基性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体などを挙げることができる。
【0129】
アミド基を有する酸性ポリマーの例としては、カルボキシル基を有するポリアミド類、酸性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体などを挙げることができる。
【0130】
水酸基を有する塩基性ポリマーの例としては、キチンなどのアミノ多糖類、塩基性モノマーと水酸基を有するモノマーの共重合体などを挙げることができる。
【0131】
水酸基を有する酸性ポリマーの例としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシプロピルセルロースなどの酸性基を有する多糖類、酸性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体などを挙げることができる。
【0132】
アミド基を有するモノマーとしては、重合の容易さの点で(メタ)アクリルアミド基を有するモノマーおよびN−ビニルカルボン酸アミド(環状のものを含む)が好ましい。かかるモノマーの好適な例としては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、およびアクリルアミドを挙げることができる。これら中でも易滑性の点で好ましいのは、N−ビニルピロリドンおよびN,N−ジメチルアクリルアミドであり、N,N−ジメチルアクリルアミドが最も好ましい。
【0133】
水酸基を有するモノマーの好適な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、グリセロール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール(前駆体としてカルボン酸ビニルエステル)を挙げることができる。水酸基を有するモノマーとしては、重合の容易さの点で(メタ)アクリロイル基を有するモノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸エステルモノマーはより好ましい。これらの中で、涙液に対する防汚性の点で好ましいのは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、およびグリセロール(メタ)アクリレートであり、中でもヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが最も好ましい。
【0134】
塩基性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体として好ましい具体例は、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート/N−ビニルピロリドン共重合体、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド/N−ビニルピロリドン共重合体、およびN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体である。最も好ましくはN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体である。
【0135】
酸性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体として好ましい具体例は、(メタ)アクリル酸/N−ビニルピロリドン共重合体、(メタ)アクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/N−ビニルピロリドン共重合体、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体である。最も好ましくは(メタ)アクリル酸/N,N−ジメチルアクリルアミド共重合体である。
【0136】
塩基性モノマーと水酸基を有するモノマーの共重合体として好ましい具体例は、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート/グリセロール(メタ)アクリレート共重合体、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、およびN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド/グリセロール(メタ)アクリレート共重合体である。最も好ましくはN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体である。
【0137】
酸性モノマーとアミド基を有するモノマーの共重合体として好ましい具体例は、(メタ)アクリル酸/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体、(メタ)アクリル酸/グリセロール(メタ)アクリレート共重合体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/グリセロール(メタ)アクリレート共重合体である。最も好ましくは(メタ)アクリル酸/ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体である。
【0138】
上記塩基性モノマーあるいは酸性モノマーと他のモノマーの共重合体を用いる場合、その共重合比率は[塩基性モノマーあるいは酸性モノマーの質量]/[他のモノマーの質量]が、1/99〜99/1が好ましく、2/98〜90/10がより好ましく、10/90〜80/20がさらに好ましい。共重合比率がこの範囲にある場合に、易滑性や涙液に対する防汚性などの機能を発現しやすくなる。
【0139】
コーティング層の種々の特性、たとえば厚さを変えるために、酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーの分子量を変えることができる。具体的には、分子量を増すと、一般にコーティング層の厚さは増す。しかし、分子量が大きすぎる場合、粘度増大により取り扱い難さが増す可能性がある。そのため、本発明で使用される酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーは、2000〜2000000の分子量を有することが好ましい。より好ましくは、分子量5000〜1000000であり、さらに好ましくは、7500〜700000である。酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(水系溶媒)で測定されるポリエチレングリコール換算の質量平均分子量である。
【0140】
コーティング層の塗布は、たとえばWO99/35520、WO01/57118または米国特許公報第2001−0045676号に記載されているような多数の方法で達成することができる。
【0141】
本発明の軟質樹脂デバイスは、基材表面の少なくとも一部に、親水性ポリマーからなる層(以下、コーティング層と呼ぶ)が形成されているが、該層内の少なくとも一部が架橋されていても良い。また、本発明の軟質樹脂デバイスにおいては、上記基材と上記層との間で少なくとも一部が架橋されていても良い。ここで、架橋とは、ポリマー同士が自らの官能基又は架橋剤を用いて橋架け構造を作って結合することである。
【0142】
上記架橋は、基材に少なくとも親水性ポリマーを付着させた状態で放射線を照射することにより生じさせることができる。放射線は、各種のイオン線、電子線、陽電子線、エックス線、γ線、中性子線が好ましく、より好ましくは電子線およびγ線である。最も好ましくのはγ線である。
【0143】
上述のようにコーティング層内やコーティング層と基材との間で架橋を生じさせることにより、軟質樹脂デバイスの表面に良好な濡れ性と易滑性が付与され、優れた装用感を与えることができる。一方で、放射線照射により基材内部にも架橋を生じ、軟質樹脂デバイスが硬くなりすぎる場合がある。その場合は基材中の成分Aを適宜、成分Mに置き換えて共重合することにより、基材内部の過度の架橋を抑制することができる。
【0144】
次に、本発明の軟質樹脂デバイスの製造方法について説明する。本発明の軟質樹脂デバイスは、基材の表面に、1種以上の酸性ポリマー溶液と1種以上の塩基性ポリマー溶液をそれぞれ1〜5回、より好ましくはそれぞれ1〜3回、さらに好ましくはそれぞれ1〜2回塗布してコーティング層を形成することにより得られる。酸性ポリマー溶液の塗布工程と塩基性ポリマー溶液の塗布工程の回数は異なっていてもよい。
【0145】
発明者らは、本発明の軟質樹脂デバイスの製造方法において、1種以上の酸性ポリマー溶液の塗布工程および1種以上の塩基性ポリマー溶液の塗布工程が合計2回または3回という極めて少ない回数で優れた濡れ性や易滑性を付与しうることを見出した。これは製造工程の短縮化という観点から、工業的に非常に重要な意味を持つ。その意味で、酸性ポリマー溶液の塗布工程および塩基性ポリマー溶液の塗布工程の合計は2回または3回が好ましい。
【0146】
なお、発明者らは、本発明の軟質樹脂デバイスにおいて、酸性ポリマー溶液の塗布工程または塩基性溶液の塗布工程のいずれか一方のみを1回施すだけでは、濡れ性や易滑性の発現がほとんど見られないことも同時に確認している。
【0147】
濡れ性、易滑性、および製造工程短縮の観点から、コーティング層の塗布は、下記の構成1〜4から選ばれた構成で施されることが好ましい。下記の表記は、成型体表面に左から順に各塗布工程が施されることを表している。
【0148】
構成1:塩基性ポリマー溶液の塗布/酸性ポリマー溶液の塗布
構成2:酸性ポリマー溶液の塗布/塩基性ポリマー溶液の塗布
構成3:塩基性ポリマー溶液の塗布/酸性ポリマー溶液の塗布/塩基性ポリマー溶液の塗布
構成4:酸性ポリマー溶液の塗布/塩基性ポリマー溶液の塗布/酸性ポリマー溶液の塗布
これらの構成の中でも、構成1と構成4が、得られる軟質樹脂デバイスが特に優れた濡れ性を示すためにより好ましい。
【0149】
酸性ポリマー溶液および塩基性ポリマー溶液を塗布するにあたって、基材の表面は、未処理であっても、処理済みであってもよい。ここで基材の表面が処理済みであるとは、基材の表面を公知の手法によって表面処理または表面改質することをいう。表面処理または表面改質の好適な例としては、プラズマ処理、化学的改質、化学的官能化、およびプラズマコーティングなどである。
【0150】
本発明の軟質樹脂デバイスの製造方法の好ましい態様の1つは、下記工程1〜工程3をこの順に含むものである。
<工程1>
モノマーの混合物を重合し、レンズ形状やシート状といった所望の形状の成型体を得る工程。
<工程2>
成型体を塩基性ポリマー溶液に接触させた後、余剰の該塩基性ポリマー溶液を洗浄除去する工程。
<工程3>
成型体を酸性ポリマー溶液に接触させた後、余剰の該酸性ポリマー溶液を洗浄除去する工程。
【0151】
上記のように、所望の形状の成型体を酸性ポリマー溶液および塩基性ポリマー溶液に順次接触させることにより、該成型体上に酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーからなる層を形成することができる。その後、余剰のポリマーを十分に洗浄除去することが好ましい。
【0152】
該成型体を酸性ポリマー溶液または塩基性ポリマー溶液に接触させる方法としては、浸漬法(ディップ法)、刷毛塗り法、スプレーコーティング法、スピンコート法、ダイコート法、スキージ法などの種々のコーティング手法を適用できる。
【0153】
溶液の接触を浸漬法で行う場合、浸漬時間は、多くの因子に応じて変化させることができる。酸性ポリマー溶液または塩基性ポリマー溶液への成型体の浸漬は、好ましくは、1〜30分間、より好ましくは2〜20分間、そして最も好ましくは1〜5分間の間行う。
【0154】
酸性ポリマー溶液および塩基性ポリマー溶液の濃度は、酸性ポリマーないし塩基性ポリマーの性質、所望のコーティング層の厚さ、およびその他の多数の因子に応じて変化させることができる。好ましい酸性ポリマーまたは塩基性ポリマーの濃度は、0.001〜10質量%、より好ましくは0.005〜5質量%、そして最も好ましくは0.01〜3質量%である。
【0155】
また、易滑性の観点からは、酸性ポリマー溶液および塩基性ポリマー溶液の濃度は、0.1質量%〜20質量%が好ましく、0.5質量%〜10質量%がより好ましく、1質量%〜5質量%がさらに好ましい。
【0156】
酸性ポリマー溶液および塩基性ポリマー溶液pHは、好ましくは2〜5、より好ましくは2.5〜4.5に維持することが好ましい。
【0157】
余剰の酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーの洗浄除去は、一般に清浄な水または有機溶媒を用いて、コーティング後の成型体をすすぐことによって行われる。すすぎは該成型体を水または有機溶媒に浸漬したり、水流や有機溶媒流にさらすことで行うことが好ましい。すすぎは、1つの工程で完了させてもよいが、すすぎの工程を複数回行うほうが、効率的であることが認められた。2〜5の工程ですすぎを行うのが好ましい。すすぎ溶液へのそれぞれの浸漬には、1〜3分間を費やすのが好ましい。
【0158】
すすぎ溶液としては純水も好ましいが、コーティング層の密着を高めるために、好ましくは2〜7、より好ましくは2〜5、そしてさらにより好ましくは2.5〜4.5のpHに緩衝された水溶液も好適に用いられる。
【0159】
過剰のすすぎ溶液の乾燥または除去を行う工程を含んでも良い。成型体を大気雰囲気下に単に放置することによって、成型体はある程度乾燥させることができるが、緩やかな空気流を表面に送ることによって、乾燥を亢進することが好ましい。空気流の流速は、乾燥する材料の強度、および材料の機械的固定(fixturing)の関数として調節することができる。成型体を完全に乾燥してしまう必要はない。ここでは、成型体の乾燥よりはむしろ、成型体表面に密着した溶液の液滴を除去することが重要である。したがって、成型体表面上の水または溶液の膜が除去される程度にまで乾燥するだけでよく、その方が工程時間の短縮のつながるために好ましい。
【0160】
酸性ポリマーと塩基性ポリマーとは交互に塗布することが好ましい。交互に塗布することで、一方のポリマーのみでは得られない優れた濡れ性や易滑性、さらには優れた装用感を有する軟質樹脂デバイスを得ることができる。
【0161】
コーティング層は、非対称であることができる。ここで「非対称」とは、軟質樹脂デバイスの第一の面と反対側の第二の面とで異なるコーティング層を有することをいう。ここで「異なるコーティング層」とは、第一の面に形成されたコーティング層と第二の面に形成されたコーティング層とが、異なる表面特性または機能性を有することをいう。
【0162】
コーティング層の厚さは、塩化ナトリウムなどの一つまたはそれ以上の塩を酸性ポリマー溶液または塩基性ポリマー溶液に加えることによって、調節することができる。好ましい塩濃度は、0.1質量%〜2.0質量%である。塩の濃度が上昇するにつれて、高分子電解質は、より球状の立体構造をとる。しかし濃度が高くなりすぎると、高分子電解質は、成型体表面に、沈着するとしても良好には沈着しない。より好ましい塩濃度は、0.7質量%〜1.3質量%である。
【0163】
本発明の軟質樹脂デバイスの製造方法の別の好ましい態様の1つは、さらに下記工程4を含むものである。
<工程4>
上記工程1〜3をこの順に含む方法で得た成型体に放射線を照射する工程。
【0164】
放射線の照射は、成型体をコーティング液に浸漬した状態で行っても良いし、成型体をコーティング液から引き出して洗浄した後で行っても良い。また、成型体をコーティング液以外の液体に浸漬した状態で放射線の照射を行うことも好ましく行われる。この場合、照射線がより効率的に作用するために好ましい。この場合、コーティングした成型体を浸漬するために使用する液体のための溶媒は有機系、無機系の各種溶媒が適用可能であり特に制限はない。例を挙げれば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、tert−アミルアルコール、3,7−ジメチル−3−オクタノールなどの各種アルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの各種芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、ケロシン、リグロイン、パラファインなどの各種脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの各種ケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジオクチル、二酢酸エチレングリコールなどの各種エステル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールランダム共重合体などの各種グリコールエーテル系溶媒であり、これらは単独あるいは混合して使用することができる。これらのうち、最も好ましいのは水である。成型体を水系の液体に浸漬した状態で放射線の照射を行う場合、水系の液体としては、純水のほかに、生理食塩水、リン酸系の緩衝液(好ましくはpH7.1〜7.3)、ホウ酸系の緩衝液(好ましくはpH7.1〜7.3)が好適である。
【0165】
成型体を容器に密閉した状態で放射線を照射すれば、成型体の滅菌を同時に行うことができるという利点がある。
【0166】
放射線としては、好ましくはγ線を用いると良い。この場合、照射するγ線の線量は少なすぎると成型体とコーティング層の十分な結合が得られず、多すぎると成型体の物性低下を招くことから、0.1〜100kGyが好ましく、15〜50kGyがより好ましく、20〜40kGyが最も好ましい。これにより、コーティング層内の少なくとも一部及びコーティング層と成型体との間の少なくとも一部が架橋され、コーティング層の耐久性(例えば擦り洗い耐久性)を向上させることができる。
【0167】
次に、このように作製された本発明の軟質樹脂デバイスのさらなる特徴を説明する。
図1は、本発明の軟質樹脂デバイスの構造の一部を模式的に示す断面図である。図1(a)〜(c)に示すように、軟質樹脂デバイス10は、基材11と、基材11の表面に形成された酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーからなるコーティング層12とを有する。
【0168】
図1(a)は軟質樹脂デバイス10の表面全体が保存液等の所定の液体で覆われ、コーティング層12がほぼ完全に膨潤している完全湿潤状態を示す。このとき、コーティング層12の厚さtは、当該軟質樹脂デバイス10が取り得る範囲で最大となっている。また、このとき、コーティング層12の表面はほぼ平坦であり、凹凸等はほとんど観察されない。
【0169】
図1(b)は、軟質樹脂デバイス10が液体から取り出されて大気中に晒され、若干乾燥が進んだ準湿潤状態を示す。たとえば、軟質樹脂デバイス10を液体から取り出した後、若干の時間(たとえば、30秒程度)が経過すると、コーティング層12は準湿潤状態となる。コーティング層12の厚さt(t<t)は、軟質樹脂デバイス10の乾燥が進むにつれて徐々に薄くなる。
【0170】
また、コーティング層12が完全湿潤状態から準湿潤状態に移行すると、コーティング層12の表面に凹部13が出現する。この凹部13のサイズは、コーティング層12の厚さtやコーティング層12の成分にもよるが、たとえば、径Dが0.1μm程度〜200μm程度であり、深さdが1μm程度〜1000μm程度である。
【0171】
なお、コーティング層12に凹部13が出現した際には、軟質樹脂デバイス10を上記所定の液体に浸漬させるなどして、コーティング層12を再び完全湿潤状態に戻すことができる。この場合、コーティング層12が膨潤するに従って、凹部13は消失する。
【0172】
図1(c)は、コーティング層12が準湿潤状態を超えて乾燥した乾燥状態を示す。たとえば、軟質樹脂デバイス10を液体から取り出してから1分程度経過すると、コーティング層12は乾燥状態となる。このとき、コーティング層12の厚さtは厚さtよりもさらに薄くなっており、完全湿潤状態における厚さtの1/100以下になることもある。たとえば、厚さtが90μm以上である場合に、厚さtが0.1μm以下となる場合もある。
【0173】
また、コーティング層12が準湿潤状態から乾燥状態に移行すると、コーティング層12に生じていた凹部13は消失する。
【0174】
ここで、軟質樹脂デバイス10が眼用レンズである場合、コーティング層12が完全湿潤状態および準湿潤状態(所謂潤っている状態)にあるとき、その軟質樹脂デバイス10は使用に適した状態または使用可能な状態と言える。一方、軟質樹脂デバイスが乾燥状態になると、コーティング層12の厚さtが不十分になると共に、上述したコーティング層12の好ましい特性が失われて、使用に適さない状態または使用不可能な状態となる。
【0175】
そのため、使用者は、上記軟質樹脂デバイス10を使用する際に、軟質樹脂デバイス10の表面を観察することにより、軟質樹脂デバイス10が使用に適した状態にあるか否かを容易に判別することができる。たとえば、軟質樹脂デバイス10を液体から取り出した後、未だ凹部13が現れていない場合、使用者は、軟質樹脂デバイス10が使用に適した状態にあると判断することができる。この場合、使用者はそのまま軟質樹脂デバイス10を使用(所定部位に装着)すれば良い。また、軟質樹脂デバイス10を液体から取り出した後、軟質樹脂デバイス10の表面に凹部13が現れ始めた場合、使用者は、軟質樹脂デバイス10は完全湿潤状態に比べると乾燥は若干進んでいるが、使用可能な状態であると判断することができる。この場合、使用者は、早急に軟質樹脂デバイス10を使用するか、軟質樹脂デバイス10を保存液等の液体に再び浸漬するなどして湿潤状態を回復させてから使用することが好ましい。さらに時間が経過し、軟質樹脂デバイス10の表面に一旦現れた凹部13が消滅した場合、使用者は、軟質樹脂デバイス10は使用に適した状態ではないと判断することができる。この程度まで乾燥すると、軟質樹脂デバイス10をそのまま使用することは好ましくないので、使用者は、軟質樹脂デバイス10を保存液等の液体に再び浸漬するなどして湿潤状態を回復させてから使用するか、あるいは、その軟質樹脂デバイス10の使用を取りやめるなどの処置を取ることが好ましい。
【0176】
ここで、本発明の軟質樹脂デバイスに現れる凹部の数は、多すぎると外観品位が低下するために好ましくない。一方、凹部の数が少なすぎると視認性が低下し、完全湿潤状態、準湿潤状態、および乾燥状態の区別が難しくなるので好ましくない。凹部の数は、視認性の観点からは多い方が好ましく、軟質樹脂デバイスの表面積10cmあたり1個以上が好ましく、5個以上が好ましく、10個以上が最も好ましい。一方、凹部の数は、外観品位の観点からは少ない方が好ましく、軟質樹脂デバイスの表面積10cmあたり10000個以下が好ましく、1000個以下がより好ましく、300個以下が最も好ましい。なお、「軟質樹脂デバイスの表面積10cmあたり」とは、「軟質樹脂デバイスの表面であって、酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーからなる層を有する部分のうち、任意の連続する面積10cmの部分を観察したときに」という意味である。また、該当する表面積が10cmに満たない軟質樹脂デバイスの場合は、任意の複数個の軟質樹脂デバイスの表面(合計面積10cm)を観察するものとする。ここで、「任意の複数個」は「無作為の複数個」であればより好ましい。
【0177】
このような本発明の軟質樹脂デバイスは、たとえばシート状またはフィルム状をなす軟質部材を備える。具体的には、本発明の軟質樹脂デバイスとして、生体表面に貼付して用いられる皮膚用被覆材、創傷被覆材、皮膚用保護材、もしくは皮膚用薬剤担体といった医療デバイスや、細胞培養シートもしくは組織再生用足場材料といったバイオテクノロジー用デバイスや、気液分離膜、液液分離膜といった分離膜デバイスや、版材、スタンプ類、スタンプ台(朱肉)といった画像形成用デバイスや、顔用パック(軟質基材に美容液を含水させたもの)といった美容デバイスや、魚介類の鮮度保持シート、熱冷ましシートといった日用品等を挙げることができる。
【0178】
また、本発明の軟質樹脂デバイスは、たとえば球冠形状をなす部材を備える。具体的には、本発明の軟質樹脂デバイスとして、軟質眼用レンズ(ソフトコンタクトレンズ)、眼内レンズ、人工角膜、角膜インレイ、角膜オンレイ、メガネレンズといった眼用医療デバイスを挙げることができる。
【0179】
この他にも、本発明の軟質樹脂デバイスは、上記例示した軟質樹脂デバイスに限定されず、様々な形状に成型して用いることができる。
【実施例】
【0180】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0181】
分析方法および評価方法
(1)含水率
コンタクトレンズ形状の試験片を使用した。試験片をホウ酸緩衝液に浸漬し室温で24時間以上おいた後、表面水分をワイピングクロス(日本製紙クレシア製”キムワイプ(登録商標)”)で拭き取って質量(Ww)を測定した。その後、該試験片を真空乾燥器で40℃、16時間乾燥し質量(Wd)を測定した。これらの質量Ww、Wdから、次式にて含水率を求めた。得られた値が1%未満の場合は測定限界以下と判断し、「1%未満」と表記した。
【0182】
含水率(%)=100×(Ww−Wd)/Ww
(2)凹部の数
ホウ酸緩衝液による湿潤状態Tのコンタクトレンズ形状の試験片を、室温でビーカー中のホウ酸緩衝液中に浸漬した。試験片とホウ酸緩衝液の入ったビーカーを超音波洗浄器にかけた(30秒間)。試験片をホウ酸緩衝液から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持した際の水が完全に切れる3分以内の表面の様子を目視観察し、現れた凹部の数を計測した。以後、直径とは、球冠形状(コンタクトレンズ形状)の場合、縁部が構成する円の直径を指す。
(3)凹部の大きさ、深さ
カラー3Dレーザー顕微鏡(KEYENCE)を使用し、倍率10倍で凹部の大きさおよび深さ測定を実施した。ビーカー中のホウ酸緩衝液に24時間以上浸漬させたコンタクトレンズ形状の試験片を取り出し、プレパラート上に試験片を上に凸の状態で置き、水が完全に切れる3分以内に現れた凹部の大きさおよび深さを測定した。なお、凹部が複数現れた場合には、任意の凹部を選択して大きさおよび深さを測定した。
(4)易滑性
コンタクトレンズ形状の試験片を、室温でビーカー中のホウ酸緩衝液中に24時間以上浸漬した。試験片とホウ酸緩衝液の入ったビーカーを超音波洗浄器にかけた(30秒間)。試験片をホウ酸緩衝液から引き上げ、人指で5回擦った時の感応評価で行った。
【0183】
A:非常に優れた易滑性がある。
【0184】
B:AとCの中間程度の易滑性がある。
【0185】
C:中程度の易滑性がある。
【0186】
D:易滑性がほとんど無い(CとEの中間程度)。
【0187】
E:易滑性が無い。
(5)擦り洗い耐久性
手のひらの中央に窪みを作ってそこにホウ酸緩衝液による湿潤状態のサンプル(コンタクトレンズ形状)を置き、そこに洗浄液(ボシュロム、“レニュー(登録商標)”)を加えて、もう一方の手の人差し指の腹で表裏10回ずつ擦った。その後、さらに親指と人差し指でサンプルを挟み洗浄液をサンプルにかけながら両面を20回擦った。擦り洗い後のサンプルをホウ酸緩衝液中に浸漬した。その後、(4)易滑性評価を行った。
(6)引張弾性率、引張伸度(破断伸度)
ホウ酸緩衝液による湿潤状態Tの試験片を用いて測定を実施した。コンタクトレンズ形状のサンプルから規定の打抜型を用いて幅(最小部分)5mm、長さ14mm、厚さ0.2mmの試験片を切り出した。該試験片を用い、オリエンテック社製のテンシロン RTM−100型を用いて引張試験を実施した。引張速度は100mm/分で、グリップ間の距離(初期)は5mmであった。
(7)水濡れ性
サンプルを、室温でビーカー中のホウ酸緩衝液中に24時間以上浸漬した。試験片とホウ酸緩衝液の入ったビーカーを超音波洗浄器にかけた(1分間)。試験片をホウ酸緩衝液から引き上げ、サンプルの表面(コンタクトレンズの場合は縁部が形成する円の直径方向)が垂直になるように空中に保持した際の表面の様子を目視観察し、下記の基準で判定した。
【0188】
A:表面の液膜が20秒以上保持する
B:表面の液膜が10秒以上20秒未満で切れる
C:表面の液膜が5秒以上10秒未満で切れる
D:表面の液膜が1秒以上5秒未満で切れる
E:表面の液膜が瞬時に切れる(1秒未満)。
(8)煮沸耐久性
密閉バイアル瓶中にサンプル(コンタクトレンズ形状)をホウ酸緩衝液に浸漬した状態で入れた。121℃、30分間、オートクレーブ滅菌を行った後、室温まで冷却した。これを1サイクルとして、5サイクルを繰り返した。その後、上記(7)の水濡れ性評価を行った。
(9)ムチン付着
ムチンとしてCALBIOCHEM社のMucin, Bovine Submaxillary Gland(カタログ番号499643)を使用した。コンタクトレンズ形状のサンプルを0.1%濃度のムチン水溶液に20時間37℃の条件で浸漬させた後、BCA(ビシンコニン酸)プロテインアッセイ法によってサンプルに付着したムチンの量を定量した。
(10)人工涙液浸漬試験
人工涙液として、オレイン酸プロピルエステルの代わりにオレイン酸を使用する以外は国際公開第2008/127299号パンフレット、32頁、5〜36行に記載の方法にしたがって調製した涙様液(TLF)緩衝溶液を使用した。培養用マルチプレート(24ウェル型、材質ポリスチレン、放射線滅菌済み)の1ウェル中に人工涙液2mLを入れ、サンプル(コンタクトレンズ形状)1枚を浸漬した。100rpm、37℃で24時間振とうした。その後サンプルを取り出し、リン酸緩衝塩溶液(PBS;pH約7.2)で軽く洗浄した後、人工涙液2mLを入れ替えたウェル中にサンプルを浸漬した。さらに、100rpm、37℃で24時間振とうした後、PBSで軽く洗浄し、目視でサンプルの白濁度合いを評価することで付着物量を観察した。評価は下記基準で行った。
【0189】
A:白濁が観察されない。
【0190】
B:白濁した部分がわずかにある(面積で1割未満)。
【0191】
C:白濁した部分が相当程度ある(面積で1割〜5割)。
【0192】
D:大部分(面積で5割〜10割)が白濁しているが裏側が透けて見える。
【0193】
E:全体が濃く白濁しており、裏側が透けて見えにくい。
【0194】
(11)透明性
ホウ酸緩衝液による湿潤状態のコンタクトレンズ形状の試験片を目視観察し、下記の基準で透明性を評価した。
【0195】
A:濁りがなく透明。
【0196】
B:AとCの中間程度の白濁。
【0197】
C:白濁があり半透明。
【0198】
D:CとEの中間程度の白濁。
【0199】
E:白濁し透明性が全くない。
(12)装用感
ホウ酸緩衝液による湿潤状態のコンタクトレンズ形状のサンプルを、2名の被験者が6時間装用した。下記の基準で評価した。乾燥感には乾燥に伴う異物感(いわゆるゴロゴロ感)も含めた。
【0200】
A:2名とも乾燥感を感じなかった。
【0201】
B:1名のみが乾燥感を感じた。
【0202】
C:2名とも乾燥感を感じた。
【0203】
D:1名が乾燥感もしくは眼への貼り付き感を強く感じたので装用中止した。
【0204】
E:2名が乾燥感もしくは眼への貼り付き感を強く感じたので装用中止した。
<合成例>
実施例においてコーティングに供した共重合体の合成例を示すが、本合成例において共重合体の分子量は以下に示す条件で測定した。
(GPC測定条件)
装置:島津製作所製 Prominence GPCシステム
ポンプ:LC−20AD
オートサンプラ:SIL−20AHT
カラムオーブン:CTO−20A
検出器:RID−10A
カラム:東ソー社製GMPWXL(内径7.8mm×30cm、粒子径13μm)
溶媒:水/メタノール=1/1(0.1N硝酸リチウム添加)
流速:0.5mL/分
測定時間:30分
サンプル濃度:0.1質量%
注入量:100μL
標準サンプル:Agilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1kD〜1258kD)。
(合成例1)
以下、純水とは逆浸透膜で濾過して精製した水を表す。
<CPDA:N,N−ジメチルアクリルアミド/アクリル酸(モル比2/1)>
500mL三口フラスコにN,N−ジメチルアクリルアミド(59.50g、0.600mol)、アクリル酸(21.62g、0.300mol)、純水(325.20g)、重合開始剤VA−061(和光純薬、0.1408g、0.562mmol)、2−メルカプトエタノール(43.8μL、0.63mmol)を加え、三方コック、還流冷却管、温度計、メカニカルスターラを装着した。モノマー濃度は20質量%であった。三口フラスコ内部を真空ポンプで脱気して、アルゴン置換を3回繰り返した後、50℃で0.5時間撹拌し、その後70℃に昇温して、6.5時間撹拌した。重合終了後、重合反応液をエバポレータで400gまで濃縮し、2−プロパノール/n−ヘキサン=500mL/500mL中に注ぎ入れて静置後、上澄み液をデカンテーションで除いた。得られた固形分を2−プロパノール/n−ヘキサン=250mL/250mLで3回洗浄した。固形分を真空乾燥機で60℃、一晩乾燥させた。液体窒素を入れ、スパチュラで破砕した後、真空乾燥機で60℃、3時間乾燥させた。このようにして得られた共重合体の分子量はMn:55kD、Mw:192kD(Mw/Mn=3.5)であった。
(合成例2)
<CPVPA:N−ビニルピロリドン/アクリル酸(モル比90/10)>
500mL三口フラスコにN−ビニルピロリドン(NVP、90.02g、0.81mol)、アクリル酸(6.49g、0.09mol)、ジメチルスルホキシド(386.8g)、重合開始剤VA−061(和光純薬、0.1408g、0.562mmol)、2−メルカプトエタノール(2−ME、43.8μL、0.63mmol)を加え、三方コック、還流冷却管、温度計、メカニカルスターラを装着した。モノマー濃度は20質量%であった。三口フラスコ内部を真空ポンプで脱気して、アルゴン置換を3回繰り返した後、50℃で0.5時間撹拌し、その後70℃に昇温して、6.5時間撹拌した。重合終了後、重合反応液を室温まで冷却し、水100mLを加えた後、アセトン500mL中に注ぎ入れて一晩静置した。次の日、アセトンをさらに200mL、ヘキサンを100mL加えた後、上澄み液をデカンテーションで除いた。得られた固形分をアセトン/水=500mL/100mLで7回洗浄した。固形分を真空乾燥機で60℃、一晩乾燥させた。液体窒素を入れ、スパチュラで破砕した後、真空乾燥機で60℃、3時間乾燥させた。このようにして得られた共重合体の分子量はMn:35kD、Mw:130kD(Mw/Mn=3.8)であった。
(合成例3)
<CPHA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート/アクリル酸(モル比3/1)>
300mL三口フラスコに2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、17.1g、0.15mol)、アクリル酸(AA、3.6g、0.05mol)、ジメチルスルホキシド(48.4g)、重合開始剤VA−061(和光純薬、0.0310g、0.124mmol)を加え、三方コック、還流冷却管、温度計、メカニカルスターラを装着した。モノマー濃度は30質量%であった。三口フラスコ内部を真空ポンプで脱気して、アルゴン置換を3回繰り返した後、60℃で0.5時間撹拌し、その後70℃に昇温して、4.5時間撹拌した。重合終了後、重合反応液を室温まで冷却し、エタノール100mLを加えた後、水500mL中に注ぎ入れて一晩静置した。翌日、上澄み液を捨て、得られた固形分を水500mLでさらに2回洗浄した。固形分を真空乾燥機で60℃、一晩乾燥させた。液体窒素を入れ、スパチュラで破砕した後、真空乾燥機で60℃、3時間乾燥させた。このようにして得られた共重合体の分子量はMn:61kD、Mw:267kD(Mw/Mn=4.4)であった。
(参考例1)
着色剤の作製
50mLスクリュー瓶に20g純水を入れた。UniBlue A(品番298409、シグマアルドリッチ)を0.5g加え、37℃のインキュベータ中で溶解させた。溶解後、1N塩酸を4g添加し、pH試験紙でpH約1〜2を確認した。酢酸エチルを24g添加し、軽く攪拌した。100mLナスララスコに移し、静置した。UniBlue Aが酢酸エチル側に移るので下層の水層を捨てた。酢酸エチル層を100mLナスフラスコに移し、20℃のエバポレータで蒸発させた。その後、真空乾燥器で40℃、16時間乾燥させ、酸型UniBlue A〔推定構造式(M3)〕を得た。
【0205】
【化6】

【0206】
(参考例2)
コーティング溶液の調製
<PAA溶液>
ポリアクリル酸(169−18591、和光純薬工業、分子量25万)を純水に溶解して1.2質量%水溶液とした。
<PEI溶液>
ポリエチレンイミン(P3143、シグマアルドリッチ、分子量75万)を純水に溶解して1質量%水溶液とした。
<PAAM溶液>
ポリアリルアミン(PAA−25、日東紡、分子量2.5万)を純水に溶解して1質量%水溶液とした。
<CPDA溶液>
合成例1のCPDAを純水に溶解して1質量%水溶液とした。
<CPVPA溶液>
合成例2のCPVPAを純水に溶解して1質量%水溶液とした。
<CPHA溶液>
合成例3のCPHAを0.5質量%メタノール水溶液に溶解してCPHA濃度0.1質量%とした。
<PAMPS溶液>
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ポリマー(シグマアルドリッチ、分子量200万、15質量%水溶液)を純水に溶解して1.5質量%水溶液とした。
(参考例3)
成分Aとして両末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(FM7726、JNC、式(M4)の化合物、質量平均分子量29kD、数平均分子量26kD)(50質量部)、成分Bとしてトリフルオロエチルアクリレート(ビスコート3F、大阪有機化学工業)(45質量部)、成分Cとして2−エチルヘキシルアクリレート(3質量部)、成分Cとしてジメチルアミノエチルアクリレート(1質量部)、成分Cとして重合性基を有する紫外線吸収剤(RUVA−93、大塚化学)(1質量部)、成分Cとして酸型UniBlue A(参考例1)(0.04質量部)、重合開始剤“イルガキュア(登録商標)”819(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、0.75質量部)およびt−アミルアルコール(10質量部)を混合し撹拌した。メンブレンフィルター(0.45μm)でろ過して不溶分を除いてモノマー混合物を得た。
【0207】
【化7】

【0208】
このモノマー混合物を試験管に入れ、タッチミキサーで攪拌しながら減圧20Torr(27hPa)にして脱気を行い、その後アルゴンガスで大気圧に戻した。この操作を3回繰り返した。窒素雰囲気のグローブボックス中で透明樹脂(ベースカーブ側ポリプロピレン、フロントカーブ側ゼオノア)製のコンタクトレンズ用モールドにモノマー混合物を注入し、蛍光ランプ(東芝、FL−6D、昼光色、6W、4本)を用いて光照射(1.01mW/cm、20分間)して重合した。重合後に、モールドごと60質量%イソプロピルアルコール水溶液中に浸漬して、モールドからコンタクトレンズ形状の成型体を剥離した。得られた成型体を、大過剰量の80質量%イソプロピルアルコール水溶液に60℃、2時間浸漬した。さらに、成型体を大過剰量の50質量%イソプロピルアルコール水溶液に室温、30分間浸漬し、次に大過剰量の25質量%イソプロピルアルコール水溶液に室温、30分間浸漬し、次に大過剰量の純水に室温、2時間以上浸漬した。得られたレンズの縁部の直径は約14mm、中心部の厚みは約0.07mmであった。
(参考例4)
成分Aとして両末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン(FM7726、JNC、式(M4)の化合物、質量平均分子量29kD、数平均分子量26kD)(50質量部)、成分Bとしてトリフルオロエチルアクリレート(ビスコート3F、大阪有機化学工業)(48.5質量部)、成分Cとしてメタクリル酸メチル(0.5質量部)、成分Cとして重合性基を有する紫外線吸収剤(RUVA−93、大塚化学)(1質量部)、重合開始剤“イルガキュア(登録商標)”819(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ、0.75質量部)およびt−アミルアルコール(10質量部)を混合し撹拌した。その後、参考例3と同様の操作を行い、レンズを作製した。得られたレンズの縁部の直径は約14mm、中心部の厚みは約0.07mmであった。
(参考例5)
式(M5)で表されるシリコーンモノマー(13.4質量部)、N,N−ジメチルアクリルアミド(37.0質量部)、式(M6)で表されるシリコーンモノマー(36.6質量部)、光開始剤イルガキュア1850(1.26質量部)、紫外線吸収剤(RUVA−93、大塚化学)(1.26質量部)メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(9.2質量部)、トリエチレングリコールジメタクリレート(1.26質量部)、UniBlue A(品番298409、シグマアルドリッチ、式(M7)の構造、0.02質量部)、テトラヒドロリナロール(23.9質量部)を混合し撹拌した。メンブレンフィルター(0.45μm)でろ過して不溶分を除いてモノマー混合物を得た。このモノマー混合物を試験管に入れ、タッチミキサーで攪拌しながら減圧20Torr(27hPa)にして脱気を行い、その後アルゴンガスで大気圧に戻した。この操作を3回繰り返した。窒素雰囲気のグローブボックス中で透明樹脂(ベースカーブ側ポリプロピレン、フロントカーブ側ゼオノア)製のコンタクトレンズ用モールドにモノマー混合物を注入し、蛍光ランプ(東芝、FL−6D、昼光色、6W、4本)を用いて光照射(1.01mW/cm、20分間)して重合した。重合後に、モールドごと60質量%イソプロピルアルコール水溶液中に浸漬して、モールドからコンタクトレンズ形状の成型体を剥離した。得られた成型体を、大過剰量の80質量%イソプロピルアルコール水溶液に60℃、2時間浸漬した。さらに、成型体を大過剰量の50質量%イソプロピルアルコール水溶液に室温、30分間浸漬し、次に大過剰量の25質量%イソプロピルアルコール水溶液に室温、30分間浸漬し、次に大過剰量の純水に室温、2時間以上浸漬した。得られたレンズの縁部の直径は約14mm、中心部の厚みは約0.07mmであった。
【0209】
【化8】

【0210】
【化9】

【0211】
【化10】

【0212】
(実施例1)
参考例3で得られたレンズをPAMPS溶液に室温で30分間浸漬した後、ビーカー中の純水で軽く濯ぎ洗いした。レンズを新しい純水が入ったビーカーに移し、超音波洗浄器にかけた(30秒間)。さらに、新しい純水が入ったビーカー中で軽く濯ぎ洗いした。次いで、PEI溶液、CPDA溶液の順に同様の操作を繰り返した。コーティング操作を終えた後、コーティングしたレンズを密閉バイアル瓶中のホウ酸緩衝液中に浸漬した状態で入れ、121℃で30分間、オートクレーブ滅菌を行った後、室温で24時間以上静置した。レンズをホウ酸緩衝液から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持した際、凹部が目視観察された。さらに、現れた凹部は少なくとも3分経過後には目視では確認できなくなっていた。これにより、レンズが潤っている間(準湿潤状態にある間)、凹部が現れており、レンズ表面の水分が切れると(乾燥状態になると)凹部が消失することが確認できた。評価結果を表1に示した。
【0213】
【表1】

【0214】
(実施例2)
参考例4で得られたレンズをPAMPS溶液に室温で30分間浸漬した後、ビーカー中の純水で軽く濯ぎ洗いした。レンズを新しい純水が入ったビーカーに移し、超音波洗浄器にかけた(30秒間)。さらに、新しい純水が入ったビーカー中で軽く濯ぎ洗いした。次いで、PEI溶液、CPDA溶液の順に同様の操作を繰り返した。コーティング操作を終えた後、コーティングしたレンズを密閉バイアル瓶中のホウ酸緩衝液中に浸漬した状態で入れ、121℃で30分間、オートクレーブ滅菌を行った後、室温で24時間以上静置した。レンズをホウ酸緩衝液から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持した際、凹部が目視観察された。さらに、現れた凹部は少なくとも3分経過後には目視では確認できなくなっていた。これにより、レンズが潤っている間に凹部が現れており、レンズ表面の水分が切れると凹部が消失することが確認できた。評価結果を表1に示した。
(実施例3)
参考例3で得られたレンズをPAMPS溶液に室温で30分間浸漬した後、ビーカー中の純水で軽く濯ぎ洗いした。レンズを新しい純水が入ったビーカーに移し、超音波洗浄器にかけた(30秒間)。さらに、新しい純水が入ったビーカー中で軽く濯ぎ洗いした。次いで、PEI溶液、PAMPS溶液の順に同様の操作を繰り返した。コーティング操作を終えた後、コーティングしたレンズを密閉バイアル瓶中のホウ酸緩衝液中に浸漬した状態で入れ、121℃で30分間、オートクレーブ滅菌を行った後、室温で24時間以上静置した。レンズをホウ酸緩衝液から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持した際、凹部が目視観察された。さらに、現れた凹部は少なくとも3分経過後には目視では確認できなくなっていた。これにより、レンズが潤っている間に凹部が現れており、レンズ表面の水分が切れると凹部が消失することが確認できた。評価結果を表1に示した。
(実施例4)
参考例4で得られたレンズをPAMPS溶液に室温で30分間浸漬した後、ビーカー中の純水で軽く濯ぎ洗いした。レンズを新しい純水が入ったビーカーに移し、超音波洗浄器にかけた(30秒間)。さらに、新しい純水が入ったビーカー中で軽く濯ぎ洗いした。次いで、PEI溶液、PAMPS溶液の順に同様の操作を繰り返した。コーティング操作を終えた後、コーティングしたレンズを密閉バイアル瓶中のホウ酸緩衝液中に浸漬した状態で入れ、121℃で30分間、オートクレーブ滅菌を行った後、室温で24時間以上静置した。レンズをホウ酸緩衝液から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持した際、凹部が目視観察された。さらに、現れた凹部は少なくとも3分経過後には目視では確認できなくなっていた。これにより、レンズが潤っている間に凹部が現れており、レンズ表面の水分が切れると凹部が消失することが確認できた。評価結果を表1に示した。
(比較例1)
市販品ソフトコンタクトレンズ“Acuvue Oasys(登録商標)”(ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド社製)をビーカー中の純水で軽く濯ぎ洗いした。次に、新しい純水が入ったビーカーに移し、超音波洗浄器にかけた(30秒間)。さらに、新しい純水が入ったビーカー中で軽く濯ぎ洗いした。レンズをホウ酸緩衝液に室温で24時間以上浸漬した。レンズをホウ酸緩衝液から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持した際、凹部は目視観察されなかった。従って、レンズが準湿潤状態にあるか乾燥状態にあるかを判別することができなかった。評価結果を表1に示した。
(比較例2)
市販品ソフトコンタクトレンズ“FOCUS DAILIES AQUA(登録商標)”(CIBA Vision社製)をビーカー中の純水で軽く濯ぎ洗いした。次に、新しい純水が入ったビーカーに移し、超音波洗浄器にかけた(30秒間)。さらに、新しい純水が入ったビーカー中で軽く濯ぎ洗いした。レンズをホウ酸緩衝液に室温で24時間以上浸漬した。レンズをホウ酸緩衝液から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持した際、凹部は目視観察されなかった。従って、レンズが準湿潤状態にあるか乾燥状態にあるかを判別することができなかった。評価結果を表1に示した。
(比較例3)
参考例3で得られたレンズを1質量%PVP K90水溶液(ポリビニルピロリドン、シグマアルドリッチジャパン、分子量36万)に室温で30分間浸漬した後、取り出し人指で触ったところ非常に優れた易滑性があった。易滑性評価基準でAであった。その後、ビーカー中の純水で軽く濯ぎ洗いし、人指で触ったところ易滑性がなかった。易滑性評価基準でEであった。
(実施例5〜19および比較例4〜8)
表2中に示した各参考例で得られた成型体を、表2中に示した第1溶液に室温で30分間浸漬した後、ビーカー中の純水で軽く濯ぎ洗いし、次に新しい純水が入ったビーカーに移し、超音波洗浄器に30秒間かけ、さらに、新しい純水が入ったビーカー中で軽く濯ぎ洗いした。次に該成型体を表2中に示した第2溶液に室温で30分間浸漬した後、ビーカー中の純水で軽く濯ぎ洗いし、次に新しい純水が入ったビーカーに移し、超音波洗浄器に30秒間かけ、さらに、新しい純水が入ったビーカー中で軽く濯ぎ洗いした。同様の操作を繰り返して第5溶液まで行った(ただし、表2中の第1溶液〜第5溶液欄の−はその溶液による操作が行われていないことを意味する。)。得られた成型体を密閉バイアル瓶中のホウ酸緩衝液中に浸漬した状態で入れ、121℃で30分間、オートクレーブ滅菌を行った後、室温で24時間以上静置して低含水性ソフトコンタクトレンズを得た。
【0215】
【表2】

【0216】
実施例5〜19で得られた低含水性ソフトコンタクトレンズをホウ酸緩衝液から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持すると、最初は凹部が目視観察されないが、5秒〜1分経過するまでの間に凹部が目視観察された。さらに、現れた凹部は少なくとも3分経過後には目視では確認できなくなっていた。これにより、レンズが潤っている間(準湿潤状態にある間)、凹部が現れており、レンズ表面の水分が切れると(乾燥状態になると)凹部が消失することが確認できた。一方、比較例4〜8で得られた低含水性ソフトコンタクトレンズをホウ酸緩衝液から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持したが、引き上げ直後から30分経過後までの間に凹部が現れて目視観察されることはなかった。低含水性ソフトコンタクトレンズのその他の評価結果を表2に示した。ただし、表2中の評価結果欄の−はその評価を実施していないことを意味する。
(比較例9)
参考例で得られた成型体に、特表2005−538418号公報の実施例3に記載のコーティングAを施した。得られた成型体を密閉バイアル瓶中のホウ酸緩衝液中に浸漬した状態で入れ、121℃で30分間、オートクレーブ滅菌を行った後、室温で24時間以上静置して低含水性ソフトコンタクトレンズを得た。得られた低含水性ソフトコンタクトレンズをホウ酸緩衝液から引き上げ、空中に直径方向が垂直になるように保持したが、引き上げ直後から30分経過後までの間に凹部が現れて目視観察されることはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明は、軟質基材によって形成された軟質樹脂デバイスに関するものであり、眼用レンズ、眼内レンズ、人工角膜、角膜インレイ、角膜オンレイ等の眼用、もしくは生体表面に貼付して用いられる被覆材等の医療デバイス、バイオテクノロジー用デバイス、または、美容デバイス等において有用である。
【符号の説明】
【0218】
10 軟質樹脂デバイス
11 基材
12 コーティング層
13 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材の表面の少なくとも一部に形成された親水性ポリマーからなり、大気中において厚さが変化すると共に、該厚さに応じて、厚さ範囲が大きい方から順に完全湿潤状態、準湿潤状態、および、乾燥状態を取る層と、を有し、
前記準湿潤状態において前記層に凹部が形成されることを特徴とする軟質樹脂デバイス。
【請求項2】
前記凹部は、前記層が前記完全湿潤状態から前記準湿潤状態に移行した場合に出現することを特徴とする請求項1に記載の軟質樹脂デバイス。
【請求項3】
前記凹部は、前記層が前記準湿潤状態から前記乾燥状態に移行した場合に消失することを特徴とする請求項1または2に記載の軟質樹脂デバイス。
【請求項4】
前記凹部の径が0.1μm以上200μm以下であり、前記凹部の深さが1μm以上1000μm以下であることを特徴とする軟質樹脂デバイス。
【請求項5】
前記親水性ポリマーが、酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーからなることを特徴とする軟質樹脂デバイス。
【請求項6】
前記基材が、下記成分Aの重合体、または下記成分Aおよび成分Bとの共重合体を主成分とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の軟質樹脂デバイス;
成分A:1分子あたり複数の重合性官能基を有し、数平均分子量が6000以上のポリシロキサン化合物;
成分B:フルオロアルキル基を有する重合性モノマー。
【請求項7】
前記成分Aが1分子あたり2個の重合性官能基を有するポリシロキサン化合物であることを特徴とする請求項6に記載の軟質樹脂デバイス。
【請求項8】
前記成分Aが下記式(A1)で表されるポリシロキサン化合物であることを特徴とする請求項7に記載の軟質樹脂デバイス。
【化1】

式中、XおよびXはそれぞれ独立に重合性官能基を表す。R〜Rはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基、および炭素数1〜20のフルオロアルキル基から選ばれた置換基を表す。LおよびLは、それぞれ独立に2価の基を表す。aおよびbは、それぞれ独立に0〜1500の整数を表す。ただしaとbは同時に0ではない。
【請求項9】
前記基材がケイ素原子を5質量%以上含むことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の軟質樹脂デバイス。
【請求項10】
前記成分Bが(メタ)アクリル酸フルオロアルキルエステルであることを特徴とする請求項6に記載の軟質樹脂デバイス。
【請求項11】
前記酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーからなる層が、1種以上の酸性ポリマー溶液による処理を1回以上、および1種以上の塩基性ポリマー溶液による処理を1回以上行うことにより形成されていることを特徴とする請求項5に記載の軟質樹脂デバイス。
【請求項12】
前記酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーからなる層が、前記酸性ポリマー溶液による処理を1回または2回、および前記塩基性ポリマー溶液による処理を1回または2回、合計で3回処理を行うことにより形成されていることを特徴とする請求項11に記載の軟質樹脂デバイス。
【請求項13】
前記酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーからなる層が、2種の酸性ポリマー溶液による処理を2回および前記塩基性ポリマー溶液による処理を1回行うことにより形成されていることを特徴とする請求項11に記載の軟質樹脂デバイス。
【請求項14】
前記酸性ポリマーおよび塩基性ポリマーからなる層を形成する前記酸性ポリマーおよび前記塩基性ポリマーのうちの少なくとも1種が、水酸基およびアミド基から選ばれた基を有するポリマーであることを特徴とする請求項1〜13いずれか1項に記載の軟質樹脂デバイス。
【請求項15】
軟質眼用レンズであることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の軟質樹脂デバイス。
【請求項16】
基材と、
該基材の表面の少なくとも一部に形成された親水性ポリマーからなる層と、
からなる軟質樹脂デバイスであって、
該軟質樹脂デバイスを純水またはホウ酸緩衝液に浸漬した状態から大気中に取り出したときに、
取り出してから5秒後から30分後までの間の少なくとも一部の時間範囲において、表面に目視観察可能な凹部が形成され、
かつ、取り出してから5秒後まで、および取り出してから30分以降は、前記凹部が少なくとも目視観察されない程度に消失する、
ことを特徴とする軟質樹脂デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2013−57932(P2013−57932A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−178086(P2012−178086)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】