説明

軟骨形成分化誘導用非免疫抑制ピペコリン酸誘導体類の用途

FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体を、軟骨形成分化誘導のために提供する。このような化合物を含む組成物もまた、開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨形成分化誘導用FKBPタイプのイムノフィリン類リガンドの新規用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ある免疫抑制ピペコリン酸誘導体は、FK506のようにFKBPタイプのイムノフィリンに対してアフィニティを有し、軟骨形成分化を誘導することが公知となっている(WO 00/74665)。
【0003】
WO 96/40140は、FKBPタイプのイムノフィリンに対してアフィニティを有するある非免疫抑制ピペコリン酸誘導体が損傷末梢神経の成長刺激活性または神経再生促進活性を有していることを明らかにしている。
【0004】
下記に示した化合物(1)自体が公知である(WO 89/05304)。さらにまた、それが、神経保護効果を有すること(WO 01/05385)および高度の神経栄養活性を有しかつ低レベルの免疫抑制活性を有することが公知である(WO 02/053159)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、FKBPタイプイムノフィリンに対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体が軟骨形成分化を誘発することは、これまで公知でなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、FKBPタイプのイムノフィリンに対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体が軟骨形成分化誘導活性を有することを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、軟骨形成分化誘導のため、FKBPタイプのイムノフィリン類に対するアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体の新規用途を提供する。
【0008】
さらに、本発明は、軟骨形成分化誘導剤を提供し、本剤は、FKBPタイプのイムノフィリン類に対するアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体を含む。
【0009】
さらに、本発明は、軟骨形成分化誘導方法を提供し、本方法は、FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する前記非免疫抑制ピペコリン酸誘導体を哺乳類に投与することを含む。
【0010】
さらに、本発明は、軟骨障害を予防または治療する方法を提供し、前記方法は、FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する前記非免疫抑制ピペコリン酸誘導体を哺乳類に投与することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における“FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体”の好適な“FKBPタイプのイムノフィリン類”は、FKBP−12である。その結合アフィニティは、周知の結合アッセイ法類によって評価できる。たとえば、WO 02/053159、実施例5に示された“FKBP12の結合アッセイ”を例示できる。
【0012】
“非免疫抑制ピペコリン酸誘導体”の免疫抑制活性は、周知の試験方法類によって評価できる。たとえば、“三環性化合物類(I)のIL−2産生阻害”(USP 4,929,611の試験12)または“混合リンパ球反応(MLR)”(WO 02/053159、実施例5)を例示できる。本発明の“非免疫抑制ピペコリン酸誘導体”とは、実質的に免疫抑制活性を有していない‘ピペコリン酸誘導体’を意味する。特に、それは、実質的にIL−2産生を阻害しない。
【0013】
“FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体”の好適な例として、WO 96/40140に示された化合を例示でき、その開示を本文で参考として引用する。
【0014】
最も好適な“FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体”は、下記式の化合物(1)である。
【0015】
【化1】

【0016】
化合物(1)はその塩の形態であることもでき、それには、無機または有機塩基類との塩のような無毒性の薬学的に許容できる従来の塩を含み、特にナトリウム塩およびカリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩およびトリエチルアミン塩およびN−ベンジル−N−メチルアミン塩のようなアミン塩を含む。
【0017】
本発明に使用した化合物(1)に関して、非対称炭素原子(類)または二重結合(類)によるコンフォーマー類および1種以上の立体異性体類があり得ることがわかり、このようなコンフォーマー類および異性体類もまた、本発明の化合物(1)の範囲に含まれる。さらに、前記化合物(1)は、溶媒和物の形態であることもでき、それも本発明の範囲に含まれる。前記溶媒和物には、好適には、水和物およびエタノール和物が含まれる。
【0018】
本発明で使用できる“FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体”は、純粋な化合物類としてまたは化合物類の混合物類として投与できるが、好適には、薬学的媒体すなわち担体中化合物類の混合物類として投与することができる。
【0019】
本発明の薬学的組成物類は、例えば、固体、半固体または液体形状の薬剤調製物の形状で使用でき、それは、活性成分としての本発明のマクロライド化合物類を、外用(局所)、腸内、静脈内、筋肉内または非経口適用に適した有機または無機担体または賦形剤との混合物として含む。前記活性成分は、例えば、錠剤、ペレット、カプセル、点眼剤、坐剤、液剤(例えば生理食塩水)、乳剤、懸濁剤(例えばオリーブオイル)、軟膏および使用に適した他のあらゆる形態のための通常の、無毒性の薬学的に許容できる担体類とともに組成物とすることができる。使用できる単体類は、水、グルコース、ラクトース、アカシアゴム、ゼラチン、マンニトール、スターチペースト、三ケイ酸マグネシウム、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイド状シリカ、馬鈴薯デンプン、尿素および固体、半固体または液体形状の調製物製造における使用に適した他の担体類であり、さらに、補助剤、安定化剤、粘稠剤および着色剤類さらに香料も使用できる。前記活性目的化合物も、疾患の進行または状態に所望の効果をもたらすのに十分な有効量で、薬剤組成物中に含まれる。
【0020】
本発明の方法を用いて治療できる哺乳類には、ウシ、ウマのような家畜類、イヌ、ネコ、ネズミのような屋内動物類およびヒトが含まれる。
【0021】
治療有効量の“FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する前記非免疫抑制ピペコリン酸誘導体”の投与量は、治療する個人の年齢や状態によって異なるまたはそれに応じて変化するが、1日当たり約0.0001−1000mg、好適には0.001−500mg、さらに好適には0.01−100mgの前記活性成分投与量を一般的に、疾患治療のために投与し、平均的な単回投与量は、約0.001−0.01mg、0.2−0.5mg、1mg、5mg、10mg、50mg、100mg、250mgおよび500mgを一般的に投与する。ヒトに対して長期投与するための1日用量は、約0.1−0.3mg/kg/dayの範囲であろう。
【実施例】
【0022】
下記の実施例で本発明をさらに詳細に述べるが、これらの実施例が本発明の範囲を限定することを意味していないことを理解されたい。
【0023】
(実施例1)
軟骨形成分化に対する化合物(1)の誘導活性を、下記方法で評価した。
(1)RIKEN CELL BANK(Tsukuba,Japan)提供ATDC5細胞株を、10%熱不活化ウシ胎児血清(Intergen,Purchase,NY)を添加したダルベッコの改良イーグル培地とハムのF12培地(Nikken Biomedical Laboratory,Kyoto、Japan)の1:1混合物中で増殖させた。ATDC5細胞はこれらの条件下で軟骨形成前駆体様のままであり、軟骨表現型類を発現しなかった。
(2)上記ATCD5細胞を密度1×10細胞/ウェルで培地中の12−マルチウェルプラスチックプレートに接種した。4時間後、培地を化合物(1)かあるいはサイクロスポリンA(CsA)を含む新鮮培地と交換し、培養をさらに24日継続し、その間、培地を2または3日毎に交換した。細胞をメタノールで固定し、0.1M塩酸に溶解した0.1%アルシアンブルー(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO)で16時間、室温で染色した。その後細胞を3回蒸留水で洗浄し、6Mグアニジン−HClで抽出(300μl/ウェル)後、細胞結合色素量を620nmで測定した。
【0024】
結果
ATDC5細胞を、化合物(1)またはCsAと24日間インキュベーションし、プロテオグリカンの量をアッセイした。
【0025】
化合物(1)は、濃度依存的に(1−10000ng/ml)軟骨細胞への分化を誘発した。一方、CsAは、この分化を誘発しなかった。この結果を図1に示した。
【産業上の利用可能性】
【0026】
上記の結果は、化合物(1)のような“FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する前記非免疫抑制ピペコリン酸誘導体”が、外傷、炎症性疾患、自己免疫疾患などが原因の軟骨障害(例 硝子軟骨、線維軟骨、弾性軟骨)を防止するかまたは治療するために有用であることを示している。
【0027】
特に、本剤は、軟骨ジストロフィ、関節炎(例 リウマチ性関節炎、変形性関節炎等)、骨粗しょう症等の軟骨細胞不全の防止または治療に有用である。
【0028】
さらに、本発明のマクロライド類は、また、結合組織(例 軟骨組織等)および/または骨組織のような組織再生に有用である。
【0029】
本文に引用した特許類、特許出願類および公報類は、参照して本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ATDC5細胞の軟骨形成分化に及ぼす化合物(1)の効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟骨形成分化誘導方法であって、軟骨障害を防止または治療するためにFKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体の有効量を哺乳類に投与することからなる方法。
【請求項2】
FKBPタイプのイムノフィリン類に対するアフィニティを有する前記非免疫抑制ピペコリン酸誘導体が下記式の化合物(1)
【化1】

である請求項1記載の方法。
【請求項3】
軟骨障害が軟骨細胞不全または骨粗しょう症である請求項1記載の方法。
【請求項4】
軟骨障害が、硝子軟骨、線維軟骨、弾性軟骨、軟骨ジストロフィ、リウマチ性関節炎、変形性関節炎、または骨粗しょう症である請求項1記載の方法。
【請求項5】
軟骨障害防止または治療用医薬製造のためのFKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体の使用。
【請求項6】
FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体を担体または賦形剤との混合物として含む軟骨形成分化誘導用薬剤組成物。
【請求項7】
FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する非免疫抑制ピペコリン酸誘導体を含む薬剤組成物とそれに関連する書面を含む市販用パッケージで、前記書面が、FKBPタイプのイムノフィリン類に対してアフィニティを有する前記非免疫抑制ピペコリン酸誘導体を軟骨障害防止または治療に使用できるかまたは使用すべきであると述べていることを特徴とする前記市販用パッケージ。

【図1】
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【公表番号】特表2006−519254(P2006−519254A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507651(P2006−507651)
【出願日】平成16年3月1日(2004.3.1)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002502
【国際公開番号】WO2004/078167
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】