転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法および推定装置
【課題】 短期間のねじり疲労試験の結果から、転がり軸受用鋼等の転がり接触するせん断疲労強度の高い金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定することができる転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法、推定装置、および推定システムを提供する。
【解決手段】 相対優劣の推定方法は、試験過程(S1)と、せん断疲労寿命決定過程(S2)と、相対優劣推定過程(S3)とを含む。試験過程(S1)では、超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求める。せん断疲労寿命決定過程(S2)では、せん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を決定する。相対優劣推定過程(S3)では、決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定する。
【解決手段】 相対優劣の推定方法は、試験過程(S1)と、せん断疲労寿命決定過程(S2)と、相対優劣推定過程(S3)とを含む。試験過程(S1)では、超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求める。せん断疲労寿命決定過程(S2)では、せん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を決定する。相対優劣推定過程(S3)では、決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法および推定装置に関し、実験によって得られるせん断疲労特性から時間強度域におけるせん断疲労寿命を決め、転がり軸受等の転がり接触する機械要素の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する方法および装置、並びにこの推定方法を用いた軸受材料の選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の内部起点型はく離は、表層内部で振幅が最大となる交番せん断応力(ほぼ両振り)の繰り返しによってき裂が発生,進展して起きると考えられている。引張圧縮疲労試験(軸荷重疲労試験、回転曲げ疲労試験)の場合、107 回における疲労強度を疲労限度とすることが慣習的である。それに対し、転がり軸受は、潤滑条件が良好な場合、かなり高い負荷を与えても107 回程度の負荷回数では内部起点型はく離は起こらない。せん断応力で疲労破壊させる試験としてねじり疲労試験があるが(例えば、非特許文献1)、油圧サーボ型ねじり疲労試験の負荷周波数は高々10Hzであり、例えば109 回の負荷回数に到達するには3年以上を要し、評価は実質不可能である。
従来、内部起点型はく離寿命を有限時間内で評価するには、実際の使用条件を大きく上回る5GPa以上もの最大接触面圧を与えて評価されてきた。先行技術では、5.88GPaの最大接触面圧を与えている(例えば、特許文献1)。その場合でも、内部起点型はく離寿命(例えば、10%寿命や50%寿命)は107〜108回のオーダーである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4459240号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】森本洋生, 松原幸生 著, トライボロジー会議予稿集, (東京2007-5), 145-146.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転がり軸受では、使用材料の購入先やロット毎等について、迅速なねじり疲労試験を行って内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定できれば、効率的かつ信頼性向上に効果的である。しかし、従来の技術では、前述のようにねじり疲労試験には長期間を要し、使用材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定は実質不可能であった。
【0006】
この発明の目的は、短期間のねじり疲労試験の結果から、転がり軸受用鋼等の転がり接触するせん断疲労強度の高い金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定することができる転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法、推定装置、および推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法は、転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する方法であって、
超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求める試験過程(S1)と、
この求められたせん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決めるせん断疲労寿命決定過程(S2)と、
このせん断疲労寿命決定過程(S2)で決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、前記内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定する相対優劣推定過程(S3)と、
を含む。
前記超音波ねじり疲労試験は、試験片に対して、正回転方向と逆回転方向のねじりが対称となるねじり振動を与える完全両振りのねじり疲労試験とするのが良い。前記金属材料は、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼であっても良い。
【0008】
前記「内部起点型はく離寿命の相対優劣」とは、内部起点型はく離寿命を数値として示されないまでも、複数の金属材料のうち、比較対象となる金属材料よりも相対的に内部起点型はく離寿命が長く優れているか、劣っているつまり短いかを言う。比較対象となる金属材料は、任意に定める。
前記せん断疲労寿命決定過程で用いる前記の「定められた基準」は、例えば、せん断疲労特性を示す確立された理論の曲線に、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線からせん断疲労寿命を決める処理とされる。具体的には、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS-SD-6-02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS−N線図(破壊確率50%)を用いることができる。疲労限度型折れ線モデルに限らず、連続低下型曲線モデルに当てはめてS−N線図を求めても良い。せん断疲労寿命は任意のせん断応力振幅において上記曲線と交わる寿命とすればよいが、せん断疲労強度が高いものから低いものまでのせん断疲労寿命の優劣を一元に相対比較するためには、せん断応力振幅が700MPa以上800MPa以下におけるせん断疲労寿命を求めるのが良い。
せん断疲労寿命決定過程における前記「時間強度域」とは、図1(C)のS−N線図の斜めの部分、すなわち有限寿命域を指す。
【0009】
この発明方法によると、疲労試験を超音波ねじり疲労試験で行うため、極めて高速な負荷が可能で、短時間で金属材料の超長寿命域までのせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めることができる。このように求めた関係から任意のせん断応力振幅におけるせん断疲労寿命を決める。相対優劣推定過程では、決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、前記内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定することができる。
【0010】
なお、材料の疲労破壊を支配する応力は、突き詰めれば垂直応力かせん断応力のどちらかである。垂直応力による疲労特性を高速に評価するため、超音波軸荷重疲労試験機(完全両振り) が市販されてから数年が経つ。それに対し、せん断応力による疲労特性を高速に評価するための超音波ねじり疲労試験の研究はほとんど行われておらず、これまでに評価された材料は最大せん断応力振幅(完全両振り)が250MPa以下で疲労破壊する軟鋼やアルミ合金である。それに対し、転がり軸受の動定格荷重及び定格寿命の規格であるISO−281:2007で定められている転がり軸受の疲労限面圧は1500MPaであり、線接触状態を考えると、そのときに表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅はτ0=375MPaである。したがって、375MPa以上の最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機が必要であるが、このような大きな最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機は、従来に例がない。そのため、この発明は、超音波ねじり試験機の開発という案出によりなされたものである。
【0011】
この発明方法において、前記試験過程では、複数回の前記超音波ねじり疲労試験を行って、金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を複数求め、前記せん断疲労寿命決定過程では、前記複数回の試験過程で求めたせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記せん断疲労寿命を決めてもよい。
【0012】
この発明方法において、前記超音波ねじり疲労試験は、例えば、交流電力が印加されることで回転中心軸回りの正逆の回転となるねじり振動を発生するねじり振動コンバータと、先端に同心に試験片を取付ける取付部を有し基端でねじり振動コンバータに固定され、基端に与えられた前記ねじり振動コンバータのねじり振動の振幅を拡大する振幅拡大ホーンとを用い、前記試験片の形状,寸法を、前記ねじり振動コンバータの駆動による振幅拡大ホーンの振動に共振する形状,寸法とし、前記ねじり振動コンバータを超音波領域の周波数で駆動し前記試験片を前記振幅拡大ホーンの振動に共振させてせん断疲労破壊させることによって行う。
【0013】
この発明方法において、前記試験過程では、前記超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱を抑制するために、試験片を強制空冷しても良い。また、試験片の発熱を抑制するために、負荷と休止を交互に繰り返しても良い。前記試験過程で、超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱が問題にならない低負荷域では連続負荷しても良い。小径側端面のねじり角の大径側端面のねじり角に対する比である拡大率が43倍以上の振幅拡大ホーンを用いても良い。
この発明は、高速に負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いるようにしており、例えば、加振周波数が20000Hzと極めて高速な超音波ねじり疲労試験を行う。これにより、連続加振すれば、わずか半日余りで109 回の負荷回数に到達する。しかし、ある程度高いせん断応力振幅で連続加振すると試験片が発熱し、精度の良いせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めることができない。そのため、試験片を強制空冷することが好ましい。強制空冷だけでは試験片の発熱抑制が不十分な場合は、加振と休止を交互に繰り返すことが好ましい。休止することで実質の負荷周波数は小さくなるが、加振周波数が20000Hzの超音波ねじり疲労試験機を用いると、休止時間を加振時間の10倍程度としても2000Hz程度と依然高速であり、6日余りで109 回の負荷回数に到達する。
【0014】
この発明の転がり軸受材料の選定方法は、この発明の上記いずれかの構成の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法により決められた時間強度域におけるせん断疲労寿命が、定められたせん断疲労寿命以上である金属材料を、転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用するものである。
【0015】
この発明の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法によれば、短時間の疲労試験の結果から、転がり軸受用の金属材料の時間強度域におけるせん断疲労寿命を精度良く決めることができる。そのため、転がり軸受の軌道輪または転動体に使用する材料の試験項目の一つとして時間強度域におけるせん断疲労寿命を採用することができる。実際に疲労試験して決めた時間強度域のせん断疲労寿命が、定められたせん断疲労寿命以上である材料のみを軸受材料として用いることで、転がり軸受の信頼性向上に大きく役立つ。なお、判定基準となる「定められたせん断疲労寿命」は、目的等に応じて適宜設定すれば良い。また、内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定は、例えば、材料のロット毎や、一度に購入した量毎、購入先毎等に行う。
【0016】
この発明における転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置は、転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定するためにせん断疲労寿命を求める装置であって、
完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、定められた記憶領域に記憶させる入力手段22と、
この記憶されたせん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決めるせん断疲労寿命決定手段23と、
を備える。
前記金属材料は、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼であっても良い。前記入力手段22は、キーボート等の手入力を行う入力装置や、記録媒体の読み出し装置、通信ネットワークなどを用いて、例えば、前記金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を纏めたファイルを、後の計算のために、定められた記憶領域、またはその記憶場所が特定できるように記憶させる手段である。
【0017】
この発明装置によると、この発明方法につき説明したと同様に、極めて高速な負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いることができて、短期間で転がり軸受用鋼のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、時間強度域におけるせん断疲労寿命を精度良く決めることができる。
前記せん断疲労寿命決定手段23におけるせん断応力振幅は、例えば700MPa以上800MPa以下とする。
【0018】
この発明装置において、前記入力手段22は、複数回の各超音波ねじり疲労試験によって求められた金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、定められた記憶領域に記憶させる機能を有し、前記せん断疲労寿命決定手段23は、前記複数回の試験におけるせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、せん断疲労寿命を決めるものであっても良い。
【0019】
この発明の転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システムは、転がり接触する金属材料の試験片1について、完全両振りの超音波ねじり疲労試験を行う超音波ねじり疲労試験機本体3と、この超音波ねじり疲労試験機本体3を、入力された試験条件に従って制御する試験機制御装置4と、この発明の上記いずれかの構成の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置5とを備えたシステムである。
このシステムにおいても、この発明方法につき説明したと同様に、極めて高速な負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いることができて、短期間で転がり軸受用鋼等のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、時間強度域におけるせん断疲労寿命を精度良く決めることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明の転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法、推定装置および推定システムは、超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めるため、極めて高速な負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いることができて、転がり軸受用鋼等の疲労強度の高い金属材料であっても、短期間でせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、時間強度域におけるせん断疲労寿命を精度良く決定することができる。この決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定することができ、このため短期間のねじり疲労試験の結果から、転がり軸受用鋼等の転がり接触するせん断疲労強度の高い金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定することができる。
【0021】
この発明の転がり軸受材料の選定方法は、この発明の上記いずれかの構成のせん断疲労寿命の相対優劣の推定方法により推定されたせん断疲労寿命の相対優劣が、定められたせん断疲労寿命以上である金属材料を、転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用するため、従来では発想になかった試験項目の採用により、転がり軸受の信頼性向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(A)はこの発明の一実施形態に係る内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法を示す流れ図、(B)はその内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システムの概略図、(C)はS−N線図とせん断疲労寿命を示す説明図である。
【図2】同内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システムのブロック図である。
【図3】同内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システムにおける試験機制御装置兼内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置の概念図である。
【図4】内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置の概念構成を示すブロック図である。
【図5】超音波ねじり疲労試験機の本体の正面図である。
【図6】試験片の模式図である。
【図7】試験片の正面図である。
【図8】ねじり角θと表面のせん断応力τ (端面のねじり角θendが0.01radの場合)の軸方向分布を示すグラフである。
【図9】静止時の試験片肩部円筒面下端を示す顕微鏡写真である。
【図10】加振時の試験片肩部円筒面下端を示す顕微鏡写真である。
【図11】図10の範囲2aと端面ねじり角θendの関係を示す説明図である。
【図12】アンプ出力Pと端面ねじり角θendの関係を示すグラフである。
【図13】ねじり疲労破壊した試験片の例の顕微鏡写真および試験片全体の説明図である。
【図14】超音波ねじり疲労試験で得たせん断応力振幅と負荷回数の関係とS−N 線図(実線)とそれから求めた破壊確率10%のP−S−N 線図(破線)を示すグラフである。
【図15】線接触状態でPmax =1500MPaが作用する場合の接触面下周方向断面の交番せん断応力τyzと深さ方向の垂直応力σz の分布 (y: 周方向、z: 深さ方向) の説明図である。
【図16】交番せん断応力の絶対値が最大になる深さ辺りに見られた表面に平行な微小き裂を示す周方向断面の顕微鏡写真である。
【図17】超音波ねじり疲労試験機の制御装置の試験条件入力画面例を示す説明図である。
【図18】試験過程の詳細の流れ図である。
【図19】疲労限度型折れ線S−N線図の決め方に関する疲労試験結果の模式図である。
【図20】任意の負荷回数における強度分布が正規分布に従い、標準偏差が同一であることを示す模式図である。
【図21】P−S−N線図の求め方(連続低下型曲線モデルの場合、破壊確率10%)である。
【図22】(A)は、S53C素材の高周波焼入れのヒートパターンを示す図、(B)は、同素材の焼戻しのヒートパターンを示す図である。
【図23】(A)は、高周波焼入れパターンを概略示す試験片の正面図、(B)は同試験片の側面図である。
【図24】SUJ2ずぶ焼入れ、M50NiL浸炭、S53C高周波焼入れの試験片のせん断疲労特性を示す図である。
【図25】転動疲労寿命試験機の模式図である。
【図26】SUJ2ずぶ焼入れ、M50NiL浸炭、S53C高周波焼入れの内部起点型はく離寿命とせん断疲労寿命の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。以下の説明は、転がり軸受材料の選定方法についての説明をも含む。この転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法は、転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する方法であって、図1(A)のように、試験過程(S1)と、せん断疲労寿命決定過程(S2)と、このせん断疲労寿命決定過程(S2)で決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、前記内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定する相対優劣推定過程(S3)とを含む。前記金属材料は、例えば、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼であるが、この他に、転がり接触する機械要素に用いられる金属材料一般に適用できる。
【0024】
試験過程(S1)は、完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求める過程である。この試験は、同図(B)に示す金属材料の試験片1に対して完全両振りの超音波ねじり振動を与える超音波ねじり疲労試験機2を用いる。この超音波ねじり疲労試験機2は、加振周波数が20000Hzと極めて高速な超音波ねじり疲労試験(完全両振り)を用いることにした。この超音波ねじり疲労試験機2は、市販のものをそのまま使用することができず、種々の改良を施したものである。
【0025】
せん断疲労寿命決定過程(S2)は、試験過程(S1)で求められたせん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決める。せん断疲労寿命決定過程(S2)で言う上記の「定められた基準」は、例えば、せん断疲労強度を示す確立された理論の曲線に、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線からせん断疲労強度を求める処理とされる。具体的には、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS−N線図(破壊確率50%)(同図(C)参照)を用いることができる。疲労限度型折れ線モデルに限らず、連続低下型曲線モデルに当てはめてS−N線図を求めても良い。せん断疲労寿命は時間強度域において上記曲線と交わる寿命とすればよいが、せん断疲労強度が高いものから低いものまでのせん断疲労寿命の優劣を一元に相対比較するためには、せん断応力振幅が700MPa以上800MPa以下におけるせん断疲労寿命を求めるのがよい。
【0026】
日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02の疲労限度型折れ線モデルは、次式にあてはめて回帰する。
σ=-Alog10N+B(N<NW)
σ=E(N≧NW)
ここで、A、B、E、Nwは定数である。疲労限度(上式のE)は、N=5×106以上の負荷回数における打ち切りデータが1点以上存在する場合、以下のように推定する。破断データ応力最小値σf minと、これより低応力の打ち切りデータ応力最大値σr maxの平均値を疲労限度とする(図19参照)。なお、σf minと同じ応力レベルに打ち切りデータがあり、かつこれより低い応力レベルで打切りデータが存在しない場合は、このσf minを疲労限度とする。こうして疲労限度を決めた上で、この値を固定して破断データのみから上式中の他のパラメータを推定する。
連続低下型曲線モデルはストロメイヤー(Stromeyer)の基礎式である次式にあてはめて回帰する。
【数1】
ここで、A、B、Dは定数である。
疲労強度、疲労寿命にはバラツキがある。本来、確率疲労特性は、複数の応力振幅で複数個の試験片を評価し、ある破壊確率におけるP−S−N線図を求めて評価する。しかしながら、P−S−N線図を求めるには多大な工数と時間を要する。金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02では、S−N線図から任意の破壊確率におけるP−S−N線図を求める方法が提案されている。それは、図20のように、任意の疲労寿命における強度分布は正規分布に従い、その標準偏差σは一定と仮定する。得られたS−N線図を破壊確率50%の疲労強度曲線とする。疲労限度型折れ線モデルでは時間強度部(傾斜直線部)の破損データ、連続低下型曲線モデルは全範囲の破損データを対象とする。図21は連続低下型曲線モデルの例である。直線または曲線に沿って個々の破損データを任意の疲労寿命に平行移動し、それらが正規分布するとして標準偏差を求める。例えば、得られた標準偏差をsとすると、破壊確率50%の疲労強度曲線を1.282sだけ下に平行移動したものが破壊確率10%のP−S−N線図となる。
【0027】
この実施形態の推定方法によると、疲労試験を超音波ねじり疲労試験で行うため、極めて高速な負荷が可能で、短時間で金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めることができる。このように求めた関係からせん断疲労寿命を決定する。そして、例えば図26にて示す相関関係に基づいて、前記決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、前記内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定でき、ねじり疲労試験の結果から精度よく内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定することができる。このため、前記せん断疲労寿命が強い材質である転がり軸受用鋼の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定を行う場合に、その短時間の試験で済むという効果がより一層効果的に発揮される。
【0028】
この実施形態では、上記のように、加振周波数が20000Hzと極めて高速な完全両振りの超音波ねじり疲労試験により、短期間で転がり軸受用鋼のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、時間強度域におけるせん断疲労寿命を決め、内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する。例えば、20000Hzで連続加振すれば、わずか半日余りで109 の負荷回数に到達する。しかし、ある程度高いせん断応力振幅で連続加振すると試験片1が発熱するため、試験片1を冷却する必要があり、強制空冷を行う。強制空冷だけでは試験片1の発熱抑制が不十分な場合は、加振と休止を交互に繰り返すようにする。休止することで実質の負荷周波数は小さくなるが、加振周波数が20000Hzの試験機2であれば、休止時間を加振時間の10倍程度としても2000Hz程度と依然高速であり、6日余りで109 回の負荷回数に到達する。
【0029】
なお、材料の疲労破壊を支配する応力は、突き詰めれば垂直応力かせん断応力のどちらかである。垂直応力による疲労特性を高速に評価するため、超音波軸荷重疲労試験機(完全両振り) が市販されてから数年が経つ。それに対し、せん断応力による疲労特性を高速に評価するための超音波ねじり疲労試験の研究はほとんど行われておらず、これまでに評価された材料は最大せん断応力振幅(完全両振り) が250MPa以下で疲労破壊する軟鋼やアルミ合金である。それに対し、転がり軸受の動定格荷重及び定格寿命の規格であるISO−281:2007で定められている転がり軸受の疲労限面圧は1500MPaであり、線接触状態を考えると、そのときに表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅はτ0 =375MPaである。したがって、375MPa以上の最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機が必要であるが、このような大きな最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機は、従来に例がない。そのため、この発明は、超音波ねじり試験機の開発という案出によりなされたものである。
【0030】
この実施形態の転がり軸受材料の選定方法は、上記いずれかの構成の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法により推定されたせん断疲労寿命が、定められたせん断疲労寿命以上である金属材料を、転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用するものである。
この実施形態の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法によれば、短時間の疲労試験の結果から、転がり軸受用の金属材料の時間強度域におけるせん断疲労寿命を精度良く決めることができる。そのため、転がり軸受の軌道輪または転動体に使用する材料の試験項目の一つとして時間強度域におけるせん断疲労寿命を採用することができる。実際に疲労試験して求めた時間強度域におけるせん断疲労寿命が、定められたせん断疲労寿命以上である材料のみを軸受材料として用いることで、転がり軸受の信頼性向上に大きく役立つ。なお、判定基準となる「定められたせん断疲労寿命」は、目的等に応じて適宜設定すれば良い。また、内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定は、例えば、材料のロット毎や、一度に購入した量毎、購入先毎等に行う。
【0031】
図2は、上記推定方法に用いる転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システムの概念構成を示す。この推定システムは、超音波ねじり疲労試験機2と、図1のせん断疲労寿命決定過程(S2)の処理を行う内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置5とで構成される。
【0032】
図2において、超音波ねじり疲労試験機2は、試験機本体3と試験機制御装置4とで構成される。試験機本体3は、フレーム6の上部に設置したねじり振動コンバータ7に、下向きに突出する振幅拡大ホーン8を取付け、その先端に試験片1を着脱可能に取付け、ねじり振動コンバータ7で発生した超音波振動を、振幅拡大ホーン8の軸心回りの正逆回転方向の振動として拡大して試験片1に伝えるものである。
【0033】
試験機制御装置4は、コンピュータ10と、このコンピュータ10で実行可能な試験機制御プログラム11とで構成される。コンピュータ10は、デスクトップ型等のパーソナルコンピュータであり、中央処理装置12、メモリ等の記憶手段13、および入出力インタフェース14を備える。記憶手段13に上記試験機制御プログラム11が記憶され、記憶手段13の残りの記憶領域が、データ記憶エリア13aや作業エリアとなる。この他に、キーボードやマウス等の入力装置15と、液晶表示装置等の画像を表示する表示装置やプリンタ等の出力装置16が、コンピュータ10の一部として、またはコンピュータ10に接続して設けられている。
試験機制御装置4は、試験機本体3のねじり振動コンバータ7を制御する装置であり、制御出力は、入出力インタフェース14から、アンプ17を介して振動コンバータ7に与えられる。この試験機制御装置4は、試験機制御プログラム11に従って次の処理を行う。まず、図17に画面例を示すように、試験条件(出力、間欠運転と連続運転のいずれとするか、試験終了条件、データ採取条件等)の入力を促す画面を出力装置16となる表示装置に出力し、入力装置15から上記試験条件が入力され、試験開始命令が入力されると、入力された条件に従って試験機本体3を駆動し制御する。なお、最大せん断応力振幅の値は、入力したアンプ出力P(%)に対し、後述の(9)式によって換算表示される。
【0034】
図2において、内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置5は、コンピュータ10と、このコンピュータ10で実行可能な内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定プログラム19とで構成される。コンピュータ10は、試験機制御装置4を構成するコンピュータと同じものであっても良く、また別のものであってよく、中央処理装置12、メモリ等の記憶手段13、および入出力インタフェース14を備える。また上記入力装置15および出力装置16が、コンピュータ10の一部として、またはコンピュータ10に接続して設けられている。図3は、試験機制御プログラム11と内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定プログラム19とを同じコンピュータ10に記憶させ、試験機制御装置兼内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置9とした例を示す。
【0035】
内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置5は、コンピュータ10と前記内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定プログラム19とで、図4に概念構成で示す各手段が構成されたものである。この内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置5は、転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定するためにせん断疲労寿命を求める装置であって、入力手段22、せん断疲労寿命決定手段23を備え、また記憶手段13、出力手段4Aが構成されている。
【0036】
入力手段22は、完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって求められた金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、記憶手段13の定められた記憶領域に記憶させる手段である。入力手段22は、詳しくは、キーボート等の手入力を行う入力装置や、記録媒体の読み出し装置、通信ネットワークなどを用いて、例えば、前記金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を纏めたファイルを、後の計算のために、定められた記憶領域、またはその記憶場所が特定できるように記憶させる手段である。
せん断疲労強度決定手段23は、前記記憶領域に記憶されたせん断応力振幅と負荷回数の関係から、時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決める手段である。
【0037】
次に、超音波ねじり疲労試験機2の詳細、およびこの内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法の詳細を説明する。この超音波ねじり疲労試験機2は、転がり軸受用鋼に極めて高速にせん断疲労が与えられる完全両振りの超音波ねじり疲労試験機として設計したものである。ねじり振動コンバータ7の加振周波数範囲は20000±500Hzである。なお、超音波軸荷重疲労試験に用いられる縦振動コンバータには様々な出力のものがあるのに対し、ねじり振動コンバータの市販品は低出力のものしかなく、自作することも実質不可能であった。したがって、振幅拡大ホーン8と試験片1の形状を最適化して高強度な転がり軸受用鋼にねじり疲労を与える必要があった。
【0038】
振幅拡大ホーン8は、指数関数型であり、ねじり振動コンバータ7に固定する大径側端面の直径は38mm、試験片1を固定する小径側端面の直径は13mmである。なるべく拡大率(小径側のねじり角の大径側のねじり角に対する比)を大きく、かつ20000Hz付近で共振するように設計・調整されている。なお、振幅拡大ホーン8の大径側の端面にはねじり振動コンバータに固定するための雄ねじ部が軸方向に突出して設けられ、小径側の端面には試験片を固定するための雌ねじが開けられている。振幅拡大ホーン8の素材はチタン合金である。ヤング率E、ポアソン比ν、密度ρを実測した結果、それぞれE=1.16×1011Pa、ν=0.27、ρ=4460kg/m3であった。FEM解析ソフト(Marc Mentat 2008 r1)(登録商標)を用い、上記のE 、ν、ρを物性値として、自由ねじり共振の固有値解析を行った。その結果、拡大率は43.1倍になった。
【0039】
図6に試験片の模式図を示す。実際の試験片1の一端には、振幅拡大ホーン8の先端に固定するための雄ネジ部が設けられている。図6において、試験片1はダンベル型で、肩部長さL1、半弦長さL2、肩部半径R2、最小半径R1、円弧半径Rで決定される。
【0040】
試験片1の設計にあたっては、半弦長さL2、肩部半径R2 、最小半径R1 を適当に与え(いずれも単位はm)、共振周波数f(=20000Hz)、ヤング率E 、ポアソン比ν、密度ρ(標準熱処理した軸受鋼SUJ2の実測値はE=2.04×1011Pa、ν=0.29、ρ=7800kg/m3)とともに、次式(1)〜(6) 式に代入すれば肩部長さL1が求まる(単位はm)。円弧半径RはR1,R2,L2から求まる。
【0041】
【数2】
【0042】
ここで、なるべく大きなせん断応力が試験片最小径部の表面に作用するように事前検討したL2=0.0065m、R2=0.0045m、R1=0.002m を、上記のf、E、ν、ρとともに(1)〜(6)式に代入するとL1=0.00753m となる。しかし、標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2でL1=0.00753mとした試験片を製作したところ共振しなかった。そこで、FEM解析ソフト(Marc Mentat 2008 r1)(登録商標)を用い、上記のf、E 、ν、ρを物性値として自由ねじり共振の固有値解析を行った。その結果,L1=0.00753mでねじり共振する周波数は19067Hzとなり、ねじり振動コンバータの加振周波数範囲である20000±500Hzを外れた。そのため、20000Hzでねじり共振するL1を求めた結果、L1=0.00677mとなった。標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2でL1=0.00677mとした試験片を製作したところ20000Hz付近で共振した。図7に試験片図面を示す(単位はmm)。
図8は、図7の試験片モデルで自由ねじり共振の固有値解析を行って得たねじり角θと表面のせん断応力τである。図8は端面ねじり角θendが0.01radの場合であり、このときの試験片最小径部の表面に作用する最大せん断応力τmax は526.18MPaとなった。すなわち、線形弾性の範疇では、端面ねじり角θendと試験片最小径部における表面の最大せん断応力τmax の関係は(7)式のようになる。ただし,τmax の単位はMPa、θendは無次元である。
τmax =52618θend (7)
【0043】
図7の形状の標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2製の試験片1を3本用い、アンプ出力P(%)を変えて端面ねじり角θemdを測定した。表1に試験片素材の合金成分を示す。硬さは722HVであった。なおSUJ2素材に、焼入れと焼戻しの熱処理を施したものを、「SUJ2標準」という場合がある。
【0044】
【表1】
【0045】
加振中の試験片肩部下端の写真をデジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX−900)にて200倍で撮影した。それに先立ち、ボール盤で試験片肩部にエメリー研磨(#500、#2000)とダイヤモンドラッピング(1μm)を施して鏡面状態にした。試験片を試験機に取り付けた後、肩部にカラーチェックの現像剤を塗布した。図9は静止時の写真であり、所々に現像剤が塗布されない箇所ができる。それら塗布されない箇所の加振時の挙動を観察した。図9の場合、矢印を付した箇所の挙動に着目した。アンプ出力Pを10%から90%まで5%刻みで変えて1 秒間加振し、その間にシャッタースピード1/15secで写真撮影した。図10はP=50%で加振中に撮影した写真で、範囲2aが図9の着目箇所の軌跡である。
【0046】
アンプ出力P(%)を変えて測定した範囲2aから、図11のように端面ねじり角θend を求めた。その結果、図12のように、3本の試験片1とも、Pとθendの間にはほぼ同一の直線関係が見られ、回帰直線として(8)式が得られた。
【0047】
(7)式と(8)式から、アンプ出力Pと試験片最小径部における表面の最大せん断応力振幅τmaxの関係は(9)式のようになった。(9)式から、P=90%でτmax=951MPaとなり、高強度な転がり軸受用鋼にねじり疲労を与えられることが十分に見込める。
【0048】
【数3】
【0049】
製作した超音波ねじり疲労試験機2は、図2と共に前述したパーソナルコンピュータ10および試験機制御プログラム11で構成した試験機制御装置4で、アンプ17を制御するようになっている。図17に、超音波ねじり疲労試験機2の試験条件を入力する画面を示す。図18は試験過程の詳細の流れ図であり、試験過程では、入力された試験条件に従って、同図のようにアンプ出力の制御や、連続発振または間欠発振を選択した制御、情報取得(周波数とアンプ状態の取得)、試験の終了等の制御等が行われる。
【0050】
図17の入力画面例で、計測準備の欄に共振周波数が19.97と表示されているのは、アンプ出力10%で試験片が19.97kHzで共振したことを示しており、ねらいの20000Hzにほぼ等しい。この試験機制御装置4によると、計測条件の欄にアンプ出力を入力すると、あらかじめ初期設定画面に入力した(9)式の直線の傾きと切片から、最大せん断応力振幅に変換される。同欄では、加振し続ける連続運転か、加振と休止を交互に繰り返す間欠運転のどちらかを選択する。
【0051】
試験片1にき裂が発生し、ある程度の寸法に成長すると共振周波数が低下する。同欄の周波数変動幅に50.00 と入力されているのは、共振周波数が試験時よりも50Hz以上低下したら疲労破壊したとして試験を停止させるためである。なお、この値は可変であり、試験片材質に応じて適切な値を入力すべきである。図13にねじり疲労破壊した試験片の例を示す。軸方向のせん断き裂が発生し、ある程度の長さに成長した後、引張型に遷移して斜め方向に逸れていったことを示している。
【0052】
常温大気中にて標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2を、加振と休止を交互に繰り返す間欠運転で評価した。最大せん断応力振幅の大小によらず、一貫して加振時間は110msec、休止時間は1100msecとした。試験片は上記の端面ねじり角測定に用いたものと同ロットである。1010回まで損傷が起きなければ試験を打ち切った。
【0053】
図14に超音波ねじり疲労試験で得られたせん断応力振幅と負荷回数の関係を示す。図14中の実線は、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS−N 線図(破壊確率50%)である。せん断応力振幅が700MPaにおけるせん断疲労寿命は5.703×107回となった。なお、疲労限度型折れ線モデルではなく、連続低下型曲線モデルに当てはめてS−N 線図を求めてもよい。
【0054】
統計的要因という観点から、複数応力水準で複数本の評価を行ってP−S−N 線図を得ればよい。しかしながら、時間的制約から実施が困難な場合が多いであろう。図14のS−N線図を求めるためには、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02を用い、疲労限度型折れ線モデルにあてはめた。それには少ないデータ数でP−S−N 線図を得る機能がある。図14中の破線は、それによって得た破壊確率10%のP−S−N 線図である。ここでは適当な破壊確率として10%としたが、超音波ねじり疲労試験片の危険体積と実際の転がり軸受の危険体積を比較するなどし、妥当な破壊確率を考慮すべきである。任意のせん断応力振幅におけるP−S−N線図との交点をせん断疲労寿命としてもよい。
【0055】
上記のように、超音波ねじり疲労試験(完全両振り) によって転がり軸受用鋼のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、それから時間強度域におけるせん断疲労寿命を決め、内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する方法を示した。
【0056】
ところで、図15に線接触状態でPmax =1500MPaが作用する場合の接触面下の周方向断面の交番せん断応力τyzと深さ方向の垂直応力σz の分布を示す(y: 周方向、z: 深さ方向) 。座標は接触楕円の単軸半径bで無次元化してある。交番せん断応力τyzは点線の深さで絶対値が最大になる。図16は、はく離が起きる前に転がり疲労試験を中止し、周方向断面を観察したところ、交番せん断応力の絶対値が最大になる深さ辺りに見られた表面に平行な微小き裂である。表面に平行に進展した駆動力は交番せん断応力と考えられる。つまり、き裂の進展様式はモードII型(面内せん断型)である。図16に示したように、き裂面に垂直な方向の垂直応力σz は圧縮なので、モードI型(引張型)は有り得ず、かつσz はき裂面間を干渉させるため、モードII進展を妨げるように作用する。
【実施例】
【0057】
SUJ2ずぶ焼入れ(SUJ2素材全体を焼入れ)、M50NiL浸炭、S53C高周波焼入れのせん断疲労特性を評価してせん断疲労寿命を決め、内部起点型はく離寿命と比較した。
【0058】
表2に、試験片に用いたSUJ2素材の合金成分を示す。
【表2】
【0059】
上記表2のSUJ2素材を順次、旋削 → 熱処理 → 研削仕上げして試験片を製作した。熱処理条件は加熱(830℃×80min、RXガス雰囲気) → 油焼入れ → 焼戻し(180℃×180min)である。前記RXガス雰囲気とは、ブタン、メタン等の炭化水素系ガスに空気を混合した後、触媒を充填し高温加熱してなるCO,H2,N2を主な成分とする雰囲気ガスである。
【0060】
表3に、試験片に用いたM50NiL素材の合金成分を示す。
【表3】
【0061】
上記表3のM50NiL素材を順次、旋削 → 熱処理 → 研削仕上げして試験片を製作した。熱処理条件は、浸炭・拡散(浸炭: 960℃×15h、RXガス雰囲気、カーボンポテンシャルを1.2に保持、拡散: 960℃×74h、RXガス雰囲気) → 油焼入れ → 中間焼鈍(650℃×6h)→ 炉冷 → 2次加熱(850℃×40min → 1090℃×25min、真空)→ 油焼入れ → サブゼロ(−80℃×180min) → 焼戻し(450℃×60min → 550℃×180min)である。
【0062】
表4に、試験片に用いたS53C素材の合金成分を示す。
【表4】
【0063】
上記表4のS53C素材を順次、旋削 → 熱処理 → 研削仕上げして試験片を製作した。この場合の熱処理は、高周波焼入れと焼戻しである。図22(A)は、S53C素材の高周波焼入れのヒートパターンを示す図であり、同図(B)は、同素材の焼戻しのヒートパターンを示す図である。図23(A)は、高周波焼入れパターンを概略示す試験片の正面図であり、同図(B)は同試験片の側面図である。図23(A)におけるハッチング部が概略の高周波焼入れパターンである。図23(A)に示すように、最小径部φdmin(φdminは4mm)は全硬化とする。焼逃げ幅W(4隅)は3mm以下とする。端面まで焼抜けても構わない。最小径部φdminの旧γ結晶粒度は♯8程度にする。
【0064】
図24は、SUJ2ずぶ焼入れ、M50NiL浸炭、S53C高周波焼入れの試験片のせん断疲労特性を示す図である。同図中の実線は、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS−N線図である。表5に各鋼種のせん断疲労寿命として、せん断応力振幅700MPaにおけるS−N線図との交点の負荷回数を示す。
【0065】
【表5】
【0066】
表6にSUJ2ずぶ焼入れ(9ロット)、M50NiL浸炭(3ロット)、S53C高周波焼入れ(2ロット)の転動疲労寿命試験結果として、ワイブル解析で得られた50%寿命の平均値を示す。
【0067】
【表6】
【0068】
前記転動疲労寿命試験では、鋼種によって異なるが、試験個数のいくつかには表面起点型の短寿命はく離が起きる。上記表6の50%寿命の平均値は、内部起点型はく離のものだけを対象としてロット毎にワイブル解析して得られた値を平均したものである。図25に転動疲労寿命試験機の模式図を示す。試験片は直径12mm、長さ22mmの円筒形状であり、円筒面は超仕上げが施されている。表7に試験条件を示す。
【0069】
この転動疲労寿命試験機は、駆動ロール24と、3個の案内ロール25と、2個の負荷ボール26とを有する。各案内ロール25は、軸27に嵌合された軸受28,28により回転可能で各軸心が平行に支持されている。また駆動ロール24の軸心もこれら案内ロール25の軸心に平行に設けられる。各案内ロール25の外周面には、負荷ボールを保持する断面円弧状の環状溝25aが形成されている。3個の案内ロール25が近接して配置されると共に、各負荷ボール26が、隣接する2個の案内ロール25にわたって案内される。これら負荷ボール26と駆動ロール24との間に試験片Wを介在させ、駆動ロール24を試験条件に基づき回転駆動することで、試験片Wが転動するようになっている。
【0070】
【表7】
【0071】
図26は、横軸を表6の50%寿命の平均値、縦軸を表5のせん断疲労寿命としたグラフであり、両者にはよい直線相関が見られる。超音波ねじり疲労試験片に発生する初期き裂(図13参照)、内部起点型はく離に先立つ表層に発生する初期き裂(図16参照)は、ともにせん断応力の作用方向に沿うき裂であることから、等価であるといる。そのため、図26のように、50%寿命の平均値とせん断疲労寿命の間にはよい直線関係が見られたといえる。なお、図26では、内部起点型はく離寿命として、ワイブル解析で得られた50%寿命としたが、その代わりに10%寿命などをとってもよい。また、図26では、せん断疲労寿命として、せん断応力振幅700MPaにおけるS−N線図との交点の負荷回数としたが、その代わりに、せん断疲労寿命は時間強度域における任意の破壊確率のP−S−N線図との交点の負荷回数としてもよい。
【0072】
超音波ねじり疲労試験にて、SUJ2標準の他、M50NiL浸炭、S53C高周波焼入れを評価したのは、SUJ2標準の内部起点型はく離寿命に対し、M50NiL浸炭のそれは長く、S53C高周波焼入れのそれは短いことがわかっていたためである。図26のように、3鋼種を一元に相対比較するためには、図24からわかるように、せん断応力振幅は700MPa以上800MPa以下としなければならない。
超音波ねじり試験では、せん断応力は試験片最小径部の表面で最大、中心でゼロになる。したがって、図13のように、初期き裂は試験片最小径部の表面に発生する。そのため、ずぶ焼入れはもちろんのこと、浸炭焼入れ鋼(今回のM50NiL浸炭など)、高周波焼入れ鋼(今回のS53C高周波焼入れなど)など、広い意味での表面改質材も評価することができる。
【0073】
なお、超音波軸荷重疲労試験機(島津製作所製USF−2000、加振速度20000Hz、完全両振り)を用い、各種ずぶ焼入鋼の軸荷重疲労特性を求め、時間強度域における垂直疲労寿命と内部起点型はく離寿命を比較したが、相関は見られなかった。
【符号の説明】
【0074】
1…試験片
2…超音波ねじり疲労試験機
3…試験機本体
4…試験機制御装置
5…内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置
7…ねじり振動コンバータ
8…振幅拡大ホーン
10…コンピュータ
11…試験機制御プログラム
17…アンプ
19…内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定プログラム
22…入力手段
23…せん断疲労寿命決定手段
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法および推定装置に関し、実験によって得られるせん断疲労特性から時間強度域におけるせん断疲労寿命を決め、転がり軸受等の転がり接触する機械要素の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する方法および装置、並びにこの推定方法を用いた軸受材料の選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の内部起点型はく離は、表層内部で振幅が最大となる交番せん断応力(ほぼ両振り)の繰り返しによってき裂が発生,進展して起きると考えられている。引張圧縮疲労試験(軸荷重疲労試験、回転曲げ疲労試験)の場合、107 回における疲労強度を疲労限度とすることが慣習的である。それに対し、転がり軸受は、潤滑条件が良好な場合、かなり高い負荷を与えても107 回程度の負荷回数では内部起点型はく離は起こらない。せん断応力で疲労破壊させる試験としてねじり疲労試験があるが(例えば、非特許文献1)、油圧サーボ型ねじり疲労試験の負荷周波数は高々10Hzであり、例えば109 回の負荷回数に到達するには3年以上を要し、評価は実質不可能である。
従来、内部起点型はく離寿命を有限時間内で評価するには、実際の使用条件を大きく上回る5GPa以上もの最大接触面圧を与えて評価されてきた。先行技術では、5.88GPaの最大接触面圧を与えている(例えば、特許文献1)。その場合でも、内部起点型はく離寿命(例えば、10%寿命や50%寿命)は107〜108回のオーダーである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4459240号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】森本洋生, 松原幸生 著, トライボロジー会議予稿集, (東京2007-5), 145-146.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転がり軸受では、使用材料の購入先やロット毎等について、迅速なねじり疲労試験を行って内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定できれば、効率的かつ信頼性向上に効果的である。しかし、従来の技術では、前述のようにねじり疲労試験には長期間を要し、使用材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定は実質不可能であった。
【0006】
この発明の目的は、短期間のねじり疲労試験の結果から、転がり軸受用鋼等の転がり接触するせん断疲労強度の高い金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定することができる転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法、推定装置、および推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法は、転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する方法であって、
超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求める試験過程(S1)と、
この求められたせん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決めるせん断疲労寿命決定過程(S2)と、
このせん断疲労寿命決定過程(S2)で決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、前記内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定する相対優劣推定過程(S3)と、
を含む。
前記超音波ねじり疲労試験は、試験片に対して、正回転方向と逆回転方向のねじりが対称となるねじり振動を与える完全両振りのねじり疲労試験とするのが良い。前記金属材料は、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼であっても良い。
【0008】
前記「内部起点型はく離寿命の相対優劣」とは、内部起点型はく離寿命を数値として示されないまでも、複数の金属材料のうち、比較対象となる金属材料よりも相対的に内部起点型はく離寿命が長く優れているか、劣っているつまり短いかを言う。比較対象となる金属材料は、任意に定める。
前記せん断疲労寿命決定過程で用いる前記の「定められた基準」は、例えば、せん断疲労特性を示す確立された理論の曲線に、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線からせん断疲労寿命を決める処理とされる。具体的には、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS-SD-6-02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS−N線図(破壊確率50%)を用いることができる。疲労限度型折れ線モデルに限らず、連続低下型曲線モデルに当てはめてS−N線図を求めても良い。せん断疲労寿命は任意のせん断応力振幅において上記曲線と交わる寿命とすればよいが、せん断疲労強度が高いものから低いものまでのせん断疲労寿命の優劣を一元に相対比較するためには、せん断応力振幅が700MPa以上800MPa以下におけるせん断疲労寿命を求めるのが良い。
せん断疲労寿命決定過程における前記「時間強度域」とは、図1(C)のS−N線図の斜めの部分、すなわち有限寿命域を指す。
【0009】
この発明方法によると、疲労試験を超音波ねじり疲労試験で行うため、極めて高速な負荷が可能で、短時間で金属材料の超長寿命域までのせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めることができる。このように求めた関係から任意のせん断応力振幅におけるせん断疲労寿命を決める。相対優劣推定過程では、決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、前記内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定することができる。
【0010】
なお、材料の疲労破壊を支配する応力は、突き詰めれば垂直応力かせん断応力のどちらかである。垂直応力による疲労特性を高速に評価するため、超音波軸荷重疲労試験機(完全両振り) が市販されてから数年が経つ。それに対し、せん断応力による疲労特性を高速に評価するための超音波ねじり疲労試験の研究はほとんど行われておらず、これまでに評価された材料は最大せん断応力振幅(完全両振り)が250MPa以下で疲労破壊する軟鋼やアルミ合金である。それに対し、転がり軸受の動定格荷重及び定格寿命の規格であるISO−281:2007で定められている転がり軸受の疲労限面圧は1500MPaであり、線接触状態を考えると、そのときに表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅はτ0=375MPaである。したがって、375MPa以上の最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機が必要であるが、このような大きな最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機は、従来に例がない。そのため、この発明は、超音波ねじり試験機の開発という案出によりなされたものである。
【0011】
この発明方法において、前記試験過程では、複数回の前記超音波ねじり疲労試験を行って、金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を複数求め、前記せん断疲労寿命決定過程では、前記複数回の試験過程で求めたせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記せん断疲労寿命を決めてもよい。
【0012】
この発明方法において、前記超音波ねじり疲労試験は、例えば、交流電力が印加されることで回転中心軸回りの正逆の回転となるねじり振動を発生するねじり振動コンバータと、先端に同心に試験片を取付ける取付部を有し基端でねじり振動コンバータに固定され、基端に与えられた前記ねじり振動コンバータのねじり振動の振幅を拡大する振幅拡大ホーンとを用い、前記試験片の形状,寸法を、前記ねじり振動コンバータの駆動による振幅拡大ホーンの振動に共振する形状,寸法とし、前記ねじり振動コンバータを超音波領域の周波数で駆動し前記試験片を前記振幅拡大ホーンの振動に共振させてせん断疲労破壊させることによって行う。
【0013】
この発明方法において、前記試験過程では、前記超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱を抑制するために、試験片を強制空冷しても良い。また、試験片の発熱を抑制するために、負荷と休止を交互に繰り返しても良い。前記試験過程で、超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱が問題にならない低負荷域では連続負荷しても良い。小径側端面のねじり角の大径側端面のねじり角に対する比である拡大率が43倍以上の振幅拡大ホーンを用いても良い。
この発明は、高速に負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いるようにしており、例えば、加振周波数が20000Hzと極めて高速な超音波ねじり疲労試験を行う。これにより、連続加振すれば、わずか半日余りで109 回の負荷回数に到達する。しかし、ある程度高いせん断応力振幅で連続加振すると試験片が発熱し、精度の良いせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めることができない。そのため、試験片を強制空冷することが好ましい。強制空冷だけでは試験片の発熱抑制が不十分な場合は、加振と休止を交互に繰り返すことが好ましい。休止することで実質の負荷周波数は小さくなるが、加振周波数が20000Hzの超音波ねじり疲労試験機を用いると、休止時間を加振時間の10倍程度としても2000Hz程度と依然高速であり、6日余りで109 回の負荷回数に到達する。
【0014】
この発明の転がり軸受材料の選定方法は、この発明の上記いずれかの構成の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法により決められた時間強度域におけるせん断疲労寿命が、定められたせん断疲労寿命以上である金属材料を、転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用するものである。
【0015】
この発明の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法によれば、短時間の疲労試験の結果から、転がり軸受用の金属材料の時間強度域におけるせん断疲労寿命を精度良く決めることができる。そのため、転がり軸受の軌道輪または転動体に使用する材料の試験項目の一つとして時間強度域におけるせん断疲労寿命を採用することができる。実際に疲労試験して決めた時間強度域のせん断疲労寿命が、定められたせん断疲労寿命以上である材料のみを軸受材料として用いることで、転がり軸受の信頼性向上に大きく役立つ。なお、判定基準となる「定められたせん断疲労寿命」は、目的等に応じて適宜設定すれば良い。また、内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定は、例えば、材料のロット毎や、一度に購入した量毎、購入先毎等に行う。
【0016】
この発明における転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置は、転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定するためにせん断疲労寿命を求める装置であって、
完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、定められた記憶領域に記憶させる入力手段22と、
この記憶されたせん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決めるせん断疲労寿命決定手段23と、
を備える。
前記金属材料は、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼であっても良い。前記入力手段22は、キーボート等の手入力を行う入力装置や、記録媒体の読み出し装置、通信ネットワークなどを用いて、例えば、前記金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を纏めたファイルを、後の計算のために、定められた記憶領域、またはその記憶場所が特定できるように記憶させる手段である。
【0017】
この発明装置によると、この発明方法につき説明したと同様に、極めて高速な負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いることができて、短期間で転がり軸受用鋼のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、時間強度域におけるせん断疲労寿命を精度良く決めることができる。
前記せん断疲労寿命決定手段23におけるせん断応力振幅は、例えば700MPa以上800MPa以下とする。
【0018】
この発明装置において、前記入力手段22は、複数回の各超音波ねじり疲労試験によって求められた金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、定められた記憶領域に記憶させる機能を有し、前記せん断疲労寿命決定手段23は、前記複数回の試験におけるせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、せん断疲労寿命を決めるものであっても良い。
【0019】
この発明の転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システムは、転がり接触する金属材料の試験片1について、完全両振りの超音波ねじり疲労試験を行う超音波ねじり疲労試験機本体3と、この超音波ねじり疲労試験機本体3を、入力された試験条件に従って制御する試験機制御装置4と、この発明の上記いずれかの構成の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置5とを備えたシステムである。
このシステムにおいても、この発明方法につき説明したと同様に、極めて高速な負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いることができて、短期間で転がり軸受用鋼等のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、時間強度域におけるせん断疲労寿命を精度良く決めることができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明の転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法、推定装置および推定システムは、超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めるため、極めて高速な負荷が可能な超音波ねじり疲労試験を用いることができて、転がり軸受用鋼等の疲労強度の高い金属材料であっても、短期間でせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、時間強度域におけるせん断疲労寿命を精度良く決定することができる。この決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定することができ、このため短期間のねじり疲労試験の結果から、転がり軸受用鋼等の転がり接触するせん断疲労強度の高い金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定することができる。
【0021】
この発明の転がり軸受材料の選定方法は、この発明の上記いずれかの構成のせん断疲労寿命の相対優劣の推定方法により推定されたせん断疲労寿命の相対優劣が、定められたせん断疲労寿命以上である金属材料を、転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用するため、従来では発想になかった試験項目の採用により、転がり軸受の信頼性向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(A)はこの発明の一実施形態に係る内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法を示す流れ図、(B)はその内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システムの概略図、(C)はS−N線図とせん断疲労寿命を示す説明図である。
【図2】同内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システムのブロック図である。
【図3】同内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システムにおける試験機制御装置兼内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置の概念図である。
【図4】内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置の概念構成を示すブロック図である。
【図5】超音波ねじり疲労試験機の本体の正面図である。
【図6】試験片の模式図である。
【図7】試験片の正面図である。
【図8】ねじり角θと表面のせん断応力τ (端面のねじり角θendが0.01radの場合)の軸方向分布を示すグラフである。
【図9】静止時の試験片肩部円筒面下端を示す顕微鏡写真である。
【図10】加振時の試験片肩部円筒面下端を示す顕微鏡写真である。
【図11】図10の範囲2aと端面ねじり角θendの関係を示す説明図である。
【図12】アンプ出力Pと端面ねじり角θendの関係を示すグラフである。
【図13】ねじり疲労破壊した試験片の例の顕微鏡写真および試験片全体の説明図である。
【図14】超音波ねじり疲労試験で得たせん断応力振幅と負荷回数の関係とS−N 線図(実線)とそれから求めた破壊確率10%のP−S−N 線図(破線)を示すグラフである。
【図15】線接触状態でPmax =1500MPaが作用する場合の接触面下周方向断面の交番せん断応力τyzと深さ方向の垂直応力σz の分布 (y: 周方向、z: 深さ方向) の説明図である。
【図16】交番せん断応力の絶対値が最大になる深さ辺りに見られた表面に平行な微小き裂を示す周方向断面の顕微鏡写真である。
【図17】超音波ねじり疲労試験機の制御装置の試験条件入力画面例を示す説明図である。
【図18】試験過程の詳細の流れ図である。
【図19】疲労限度型折れ線S−N線図の決め方に関する疲労試験結果の模式図である。
【図20】任意の負荷回数における強度分布が正規分布に従い、標準偏差が同一であることを示す模式図である。
【図21】P−S−N線図の求め方(連続低下型曲線モデルの場合、破壊確率10%)である。
【図22】(A)は、S53C素材の高周波焼入れのヒートパターンを示す図、(B)は、同素材の焼戻しのヒートパターンを示す図である。
【図23】(A)は、高周波焼入れパターンを概略示す試験片の正面図、(B)は同試験片の側面図である。
【図24】SUJ2ずぶ焼入れ、M50NiL浸炭、S53C高周波焼入れの試験片のせん断疲労特性を示す図である。
【図25】転動疲労寿命試験機の模式図である。
【図26】SUJ2ずぶ焼入れ、M50NiL浸炭、S53C高周波焼入れの内部起点型はく離寿命とせん断疲労寿命の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。以下の説明は、転がり軸受材料の選定方法についての説明をも含む。この転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法は、転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する方法であって、図1(A)のように、試験過程(S1)と、せん断疲労寿命決定過程(S2)と、このせん断疲労寿命決定過程(S2)で決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、前記内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定する相対優劣推定過程(S3)とを含む。前記金属材料は、例えば、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼であるが、この他に、転がり接触する機械要素に用いられる金属材料一般に適用できる。
【0024】
試験過程(S1)は、完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求める過程である。この試験は、同図(B)に示す金属材料の試験片1に対して完全両振りの超音波ねじり振動を与える超音波ねじり疲労試験機2を用いる。この超音波ねじり疲労試験機2は、加振周波数が20000Hzと極めて高速な超音波ねじり疲労試験(完全両振り)を用いることにした。この超音波ねじり疲労試験機2は、市販のものをそのまま使用することができず、種々の改良を施したものである。
【0025】
せん断疲労寿命決定過程(S2)は、試験過程(S1)で求められたせん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決める。せん断疲労寿命決定過程(S2)で言う上記の「定められた基準」は、例えば、せん断疲労強度を示す確立された理論の曲線に、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線からせん断疲労強度を求める処理とされる。具体的には、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS−N線図(破壊確率50%)(同図(C)参照)を用いることができる。疲労限度型折れ線モデルに限らず、連続低下型曲線モデルに当てはめてS−N線図を求めても良い。せん断疲労寿命は時間強度域において上記曲線と交わる寿命とすればよいが、せん断疲労強度が高いものから低いものまでのせん断疲労寿命の優劣を一元に相対比較するためには、せん断応力振幅が700MPa以上800MPa以下におけるせん断疲労寿命を求めるのがよい。
【0026】
日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02の疲労限度型折れ線モデルは、次式にあてはめて回帰する。
σ=-Alog10N+B(N<NW)
σ=E(N≧NW)
ここで、A、B、E、Nwは定数である。疲労限度(上式のE)は、N=5×106以上の負荷回数における打ち切りデータが1点以上存在する場合、以下のように推定する。破断データ応力最小値σf minと、これより低応力の打ち切りデータ応力最大値σr maxの平均値を疲労限度とする(図19参照)。なお、σf minと同じ応力レベルに打ち切りデータがあり、かつこれより低い応力レベルで打切りデータが存在しない場合は、このσf minを疲労限度とする。こうして疲労限度を決めた上で、この値を固定して破断データのみから上式中の他のパラメータを推定する。
連続低下型曲線モデルはストロメイヤー(Stromeyer)の基礎式である次式にあてはめて回帰する。
【数1】
ここで、A、B、Dは定数である。
疲労強度、疲労寿命にはバラツキがある。本来、確率疲労特性は、複数の応力振幅で複数個の試験片を評価し、ある破壊確率におけるP−S−N線図を求めて評価する。しかしながら、P−S−N線図を求めるには多大な工数と時間を要する。金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02では、S−N線図から任意の破壊確率におけるP−S−N線図を求める方法が提案されている。それは、図20のように、任意の疲労寿命における強度分布は正規分布に従い、その標準偏差σは一定と仮定する。得られたS−N線図を破壊確率50%の疲労強度曲線とする。疲労限度型折れ線モデルでは時間強度部(傾斜直線部)の破損データ、連続低下型曲線モデルは全範囲の破損データを対象とする。図21は連続低下型曲線モデルの例である。直線または曲線に沿って個々の破損データを任意の疲労寿命に平行移動し、それらが正規分布するとして標準偏差を求める。例えば、得られた標準偏差をsとすると、破壊確率50%の疲労強度曲線を1.282sだけ下に平行移動したものが破壊確率10%のP−S−N線図となる。
【0027】
この実施形態の推定方法によると、疲労試験を超音波ねじり疲労試験で行うため、極めて高速な負荷が可能で、短時間で金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求めることができる。このように求めた関係からせん断疲労寿命を決定する。そして、例えば図26にて示す相関関係に基づいて、前記決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、前記内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定でき、ねじり疲労試験の結果から精度よく内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定することができる。このため、前記せん断疲労寿命が強い材質である転がり軸受用鋼の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定を行う場合に、その短時間の試験で済むという効果がより一層効果的に発揮される。
【0028】
この実施形態では、上記のように、加振周波数が20000Hzと極めて高速な完全両振りの超音波ねじり疲労試験により、短期間で転がり軸受用鋼のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、時間強度域におけるせん断疲労寿命を決め、内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する。例えば、20000Hzで連続加振すれば、わずか半日余りで109 の負荷回数に到達する。しかし、ある程度高いせん断応力振幅で連続加振すると試験片1が発熱するため、試験片1を冷却する必要があり、強制空冷を行う。強制空冷だけでは試験片1の発熱抑制が不十分な場合は、加振と休止を交互に繰り返すようにする。休止することで実質の負荷周波数は小さくなるが、加振周波数が20000Hzの試験機2であれば、休止時間を加振時間の10倍程度としても2000Hz程度と依然高速であり、6日余りで109 回の負荷回数に到達する。
【0029】
なお、材料の疲労破壊を支配する応力は、突き詰めれば垂直応力かせん断応力のどちらかである。垂直応力による疲労特性を高速に評価するため、超音波軸荷重疲労試験機(完全両振り) が市販されてから数年が経つ。それに対し、せん断応力による疲労特性を高速に評価するための超音波ねじり疲労試験の研究はほとんど行われておらず、これまでに評価された材料は最大せん断応力振幅(完全両振り) が250MPa以下で疲労破壊する軟鋼やアルミ合金である。それに対し、転がり軸受の動定格荷重及び定格寿命の規格であるISO−281:2007で定められている転がり軸受の疲労限面圧は1500MPaであり、線接触状態を考えると、そのときに表層内部に作用する最大交番せん断応力振幅はτ0 =375MPaである。したがって、375MPa以上の最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機が必要であるが、このような大きな最大せん断応力振幅で評価できる超音波ねじり試験機は、従来に例がない。そのため、この発明は、超音波ねじり試験機の開発という案出によりなされたものである。
【0030】
この実施形態の転がり軸受材料の選定方法は、上記いずれかの構成の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法により推定されたせん断疲労寿命が、定められたせん断疲労寿命以上である金属材料を、転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用するものである。
この実施形態の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法によれば、短時間の疲労試験の結果から、転がり軸受用の金属材料の時間強度域におけるせん断疲労寿命を精度良く決めることができる。そのため、転がり軸受の軌道輪または転動体に使用する材料の試験項目の一つとして時間強度域におけるせん断疲労寿命を採用することができる。実際に疲労試験して求めた時間強度域におけるせん断疲労寿命が、定められたせん断疲労寿命以上である材料のみを軸受材料として用いることで、転がり軸受の信頼性向上に大きく役立つ。なお、判定基準となる「定められたせん断疲労寿命」は、目的等に応じて適宜設定すれば良い。また、内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定は、例えば、材料のロット毎や、一度に購入した量毎、購入先毎等に行う。
【0031】
図2は、上記推定方法に用いる転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システムの概念構成を示す。この推定システムは、超音波ねじり疲労試験機2と、図1のせん断疲労寿命決定過程(S2)の処理を行う内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置5とで構成される。
【0032】
図2において、超音波ねじり疲労試験機2は、試験機本体3と試験機制御装置4とで構成される。試験機本体3は、フレーム6の上部に設置したねじり振動コンバータ7に、下向きに突出する振幅拡大ホーン8を取付け、その先端に試験片1を着脱可能に取付け、ねじり振動コンバータ7で発生した超音波振動を、振幅拡大ホーン8の軸心回りの正逆回転方向の振動として拡大して試験片1に伝えるものである。
【0033】
試験機制御装置4は、コンピュータ10と、このコンピュータ10で実行可能な試験機制御プログラム11とで構成される。コンピュータ10は、デスクトップ型等のパーソナルコンピュータであり、中央処理装置12、メモリ等の記憶手段13、および入出力インタフェース14を備える。記憶手段13に上記試験機制御プログラム11が記憶され、記憶手段13の残りの記憶領域が、データ記憶エリア13aや作業エリアとなる。この他に、キーボードやマウス等の入力装置15と、液晶表示装置等の画像を表示する表示装置やプリンタ等の出力装置16が、コンピュータ10の一部として、またはコンピュータ10に接続して設けられている。
試験機制御装置4は、試験機本体3のねじり振動コンバータ7を制御する装置であり、制御出力は、入出力インタフェース14から、アンプ17を介して振動コンバータ7に与えられる。この試験機制御装置4は、試験機制御プログラム11に従って次の処理を行う。まず、図17に画面例を示すように、試験条件(出力、間欠運転と連続運転のいずれとするか、試験終了条件、データ採取条件等)の入力を促す画面を出力装置16となる表示装置に出力し、入力装置15から上記試験条件が入力され、試験開始命令が入力されると、入力された条件に従って試験機本体3を駆動し制御する。なお、最大せん断応力振幅の値は、入力したアンプ出力P(%)に対し、後述の(9)式によって換算表示される。
【0034】
図2において、内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置5は、コンピュータ10と、このコンピュータ10で実行可能な内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定プログラム19とで構成される。コンピュータ10は、試験機制御装置4を構成するコンピュータと同じものであっても良く、また別のものであってよく、中央処理装置12、メモリ等の記憶手段13、および入出力インタフェース14を備える。また上記入力装置15および出力装置16が、コンピュータ10の一部として、またはコンピュータ10に接続して設けられている。図3は、試験機制御プログラム11と内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定プログラム19とを同じコンピュータ10に記憶させ、試験機制御装置兼内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置9とした例を示す。
【0035】
内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置5は、コンピュータ10と前記内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定プログラム19とで、図4に概念構成で示す各手段が構成されたものである。この内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置5は、転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定するためにせん断疲労寿命を求める装置であって、入力手段22、せん断疲労寿命決定手段23を備え、また記憶手段13、出力手段4Aが構成されている。
【0036】
入力手段22は、完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって求められた金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、記憶手段13の定められた記憶領域に記憶させる手段である。入力手段22は、詳しくは、キーボート等の手入力を行う入力装置や、記録媒体の読み出し装置、通信ネットワークなどを用いて、例えば、前記金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を纏めたファイルを、後の計算のために、定められた記憶領域、またはその記憶場所が特定できるように記憶させる手段である。
せん断疲労強度決定手段23は、前記記憶領域に記憶されたせん断応力振幅と負荷回数の関係から、時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決める手段である。
【0037】
次に、超音波ねじり疲労試験機2の詳細、およびこの内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法の詳細を説明する。この超音波ねじり疲労試験機2は、転がり軸受用鋼に極めて高速にせん断疲労が与えられる完全両振りの超音波ねじり疲労試験機として設計したものである。ねじり振動コンバータ7の加振周波数範囲は20000±500Hzである。なお、超音波軸荷重疲労試験に用いられる縦振動コンバータには様々な出力のものがあるのに対し、ねじり振動コンバータの市販品は低出力のものしかなく、自作することも実質不可能であった。したがって、振幅拡大ホーン8と試験片1の形状を最適化して高強度な転がり軸受用鋼にねじり疲労を与える必要があった。
【0038】
振幅拡大ホーン8は、指数関数型であり、ねじり振動コンバータ7に固定する大径側端面の直径は38mm、試験片1を固定する小径側端面の直径は13mmである。なるべく拡大率(小径側のねじり角の大径側のねじり角に対する比)を大きく、かつ20000Hz付近で共振するように設計・調整されている。なお、振幅拡大ホーン8の大径側の端面にはねじり振動コンバータに固定するための雄ねじ部が軸方向に突出して設けられ、小径側の端面には試験片を固定するための雌ねじが開けられている。振幅拡大ホーン8の素材はチタン合金である。ヤング率E、ポアソン比ν、密度ρを実測した結果、それぞれE=1.16×1011Pa、ν=0.27、ρ=4460kg/m3であった。FEM解析ソフト(Marc Mentat 2008 r1)(登録商標)を用い、上記のE 、ν、ρを物性値として、自由ねじり共振の固有値解析を行った。その結果、拡大率は43.1倍になった。
【0039】
図6に試験片の模式図を示す。実際の試験片1の一端には、振幅拡大ホーン8の先端に固定するための雄ネジ部が設けられている。図6において、試験片1はダンベル型で、肩部長さL1、半弦長さL2、肩部半径R2、最小半径R1、円弧半径Rで決定される。
【0040】
試験片1の設計にあたっては、半弦長さL2、肩部半径R2 、最小半径R1 を適当に与え(いずれも単位はm)、共振周波数f(=20000Hz)、ヤング率E 、ポアソン比ν、密度ρ(標準熱処理した軸受鋼SUJ2の実測値はE=2.04×1011Pa、ν=0.29、ρ=7800kg/m3)とともに、次式(1)〜(6) 式に代入すれば肩部長さL1が求まる(単位はm)。円弧半径RはR1,R2,L2から求まる。
【0041】
【数2】
【0042】
ここで、なるべく大きなせん断応力が試験片最小径部の表面に作用するように事前検討したL2=0.0065m、R2=0.0045m、R1=0.002m を、上記のf、E、ν、ρとともに(1)〜(6)式に代入するとL1=0.00753m となる。しかし、標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2でL1=0.00753mとした試験片を製作したところ共振しなかった。そこで、FEM解析ソフト(Marc Mentat 2008 r1)(登録商標)を用い、上記のf、E 、ν、ρを物性値として自由ねじり共振の固有値解析を行った。その結果,L1=0.00753mでねじり共振する周波数は19067Hzとなり、ねじり振動コンバータの加振周波数範囲である20000±500Hzを外れた。そのため、20000Hzでねじり共振するL1を求めた結果、L1=0.00677mとなった。標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2でL1=0.00677mとした試験片を製作したところ20000Hz付近で共振した。図7に試験片図面を示す(単位はmm)。
図8は、図7の試験片モデルで自由ねじり共振の固有値解析を行って得たねじり角θと表面のせん断応力τである。図8は端面ねじり角θendが0.01radの場合であり、このときの試験片最小径部の表面に作用する最大せん断応力τmax は526.18MPaとなった。すなわち、線形弾性の範疇では、端面ねじり角θendと試験片最小径部における表面の最大せん断応力τmax の関係は(7)式のようになる。ただし,τmax の単位はMPa、θendは無次元である。
τmax =52618θend (7)
【0043】
図7の形状の標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2製の試験片1を3本用い、アンプ出力P(%)を変えて端面ねじり角θemdを測定した。表1に試験片素材の合金成分を示す。硬さは722HVであった。なおSUJ2素材に、焼入れと焼戻しの熱処理を施したものを、「SUJ2標準」という場合がある。
【0044】
【表1】
【0045】
加振中の試験片肩部下端の写真をデジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX−900)にて200倍で撮影した。それに先立ち、ボール盤で試験片肩部にエメリー研磨(#500、#2000)とダイヤモンドラッピング(1μm)を施して鏡面状態にした。試験片を試験機に取り付けた後、肩部にカラーチェックの現像剤を塗布した。図9は静止時の写真であり、所々に現像剤が塗布されない箇所ができる。それら塗布されない箇所の加振時の挙動を観察した。図9の場合、矢印を付した箇所の挙動に着目した。アンプ出力Pを10%から90%まで5%刻みで変えて1 秒間加振し、その間にシャッタースピード1/15secで写真撮影した。図10はP=50%で加振中に撮影した写真で、範囲2aが図9の着目箇所の軌跡である。
【0046】
アンプ出力P(%)を変えて測定した範囲2aから、図11のように端面ねじり角θend を求めた。その結果、図12のように、3本の試験片1とも、Pとθendの間にはほぼ同一の直線関係が見られ、回帰直線として(8)式が得られた。
【0047】
(7)式と(8)式から、アンプ出力Pと試験片最小径部における表面の最大せん断応力振幅τmaxの関係は(9)式のようになった。(9)式から、P=90%でτmax=951MPaとなり、高強度な転がり軸受用鋼にねじり疲労を与えられることが十分に見込める。
【0048】
【数3】
【0049】
製作した超音波ねじり疲労試験機2は、図2と共に前述したパーソナルコンピュータ10および試験機制御プログラム11で構成した試験機制御装置4で、アンプ17を制御するようになっている。図17に、超音波ねじり疲労試験機2の試験条件を入力する画面を示す。図18は試験過程の詳細の流れ図であり、試験過程では、入力された試験条件に従って、同図のようにアンプ出力の制御や、連続発振または間欠発振を選択した制御、情報取得(周波数とアンプ状態の取得)、試験の終了等の制御等が行われる。
【0050】
図17の入力画面例で、計測準備の欄に共振周波数が19.97と表示されているのは、アンプ出力10%で試験片が19.97kHzで共振したことを示しており、ねらいの20000Hzにほぼ等しい。この試験機制御装置4によると、計測条件の欄にアンプ出力を入力すると、あらかじめ初期設定画面に入力した(9)式の直線の傾きと切片から、最大せん断応力振幅に変換される。同欄では、加振し続ける連続運転か、加振と休止を交互に繰り返す間欠運転のどちらかを選択する。
【0051】
試験片1にき裂が発生し、ある程度の寸法に成長すると共振周波数が低下する。同欄の周波数変動幅に50.00 と入力されているのは、共振周波数が試験時よりも50Hz以上低下したら疲労破壊したとして試験を停止させるためである。なお、この値は可変であり、試験片材質に応じて適切な値を入力すべきである。図13にねじり疲労破壊した試験片の例を示す。軸方向のせん断き裂が発生し、ある程度の長さに成長した後、引張型に遷移して斜め方向に逸れていったことを示している。
【0052】
常温大気中にて標準焼入焼戻した軸受鋼SUJ2を、加振と休止を交互に繰り返す間欠運転で評価した。最大せん断応力振幅の大小によらず、一貫して加振時間は110msec、休止時間は1100msecとした。試験片は上記の端面ねじり角測定に用いたものと同ロットである。1010回まで損傷が起きなければ試験を打ち切った。
【0053】
図14に超音波ねじり疲労試験で得られたせん断応力振幅と負荷回数の関係を示す。図14中の実線は、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS−N 線図(破壊確率50%)である。せん断応力振幅が700MPaにおけるせん断疲労寿命は5.703×107回となった。なお、疲労限度型折れ線モデルではなく、連続低下型曲線モデルに当てはめてS−N 線図を求めてもよい。
【0054】
統計的要因という観点から、複数応力水準で複数本の評価を行ってP−S−N 線図を得ればよい。しかしながら、時間的制約から実施が困難な場合が多いであろう。図14のS−N線図を求めるためには、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02を用い、疲労限度型折れ線モデルにあてはめた。それには少ないデータ数でP−S−N 線図を得る機能がある。図14中の破線は、それによって得た破壊確率10%のP−S−N 線図である。ここでは適当な破壊確率として10%としたが、超音波ねじり疲労試験片の危険体積と実際の転がり軸受の危険体積を比較するなどし、妥当な破壊確率を考慮すべきである。任意のせん断応力振幅におけるP−S−N線図との交点をせん断疲労寿命としてもよい。
【0055】
上記のように、超音波ねじり疲労試験(完全両振り) によって転がり軸受用鋼のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求め、それから時間強度域におけるせん断疲労寿命を決め、内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する方法を示した。
【0056】
ところで、図15に線接触状態でPmax =1500MPaが作用する場合の接触面下の周方向断面の交番せん断応力τyzと深さ方向の垂直応力σz の分布を示す(y: 周方向、z: 深さ方向) 。座標は接触楕円の単軸半径bで無次元化してある。交番せん断応力τyzは点線の深さで絶対値が最大になる。図16は、はく離が起きる前に転がり疲労試験を中止し、周方向断面を観察したところ、交番せん断応力の絶対値が最大になる深さ辺りに見られた表面に平行な微小き裂である。表面に平行に進展した駆動力は交番せん断応力と考えられる。つまり、き裂の進展様式はモードII型(面内せん断型)である。図16に示したように、き裂面に垂直な方向の垂直応力σz は圧縮なので、モードI型(引張型)は有り得ず、かつσz はき裂面間を干渉させるため、モードII進展を妨げるように作用する。
【実施例】
【0057】
SUJ2ずぶ焼入れ(SUJ2素材全体を焼入れ)、M50NiL浸炭、S53C高周波焼入れのせん断疲労特性を評価してせん断疲労寿命を決め、内部起点型はく離寿命と比較した。
【0058】
表2に、試験片に用いたSUJ2素材の合金成分を示す。
【表2】
【0059】
上記表2のSUJ2素材を順次、旋削 → 熱処理 → 研削仕上げして試験片を製作した。熱処理条件は加熱(830℃×80min、RXガス雰囲気) → 油焼入れ → 焼戻し(180℃×180min)である。前記RXガス雰囲気とは、ブタン、メタン等の炭化水素系ガスに空気を混合した後、触媒を充填し高温加熱してなるCO,H2,N2を主な成分とする雰囲気ガスである。
【0060】
表3に、試験片に用いたM50NiL素材の合金成分を示す。
【表3】
【0061】
上記表3のM50NiL素材を順次、旋削 → 熱処理 → 研削仕上げして試験片を製作した。熱処理条件は、浸炭・拡散(浸炭: 960℃×15h、RXガス雰囲気、カーボンポテンシャルを1.2に保持、拡散: 960℃×74h、RXガス雰囲気) → 油焼入れ → 中間焼鈍(650℃×6h)→ 炉冷 → 2次加熱(850℃×40min → 1090℃×25min、真空)→ 油焼入れ → サブゼロ(−80℃×180min) → 焼戻し(450℃×60min → 550℃×180min)である。
【0062】
表4に、試験片に用いたS53C素材の合金成分を示す。
【表4】
【0063】
上記表4のS53C素材を順次、旋削 → 熱処理 → 研削仕上げして試験片を製作した。この場合の熱処理は、高周波焼入れと焼戻しである。図22(A)は、S53C素材の高周波焼入れのヒートパターンを示す図であり、同図(B)は、同素材の焼戻しのヒートパターンを示す図である。図23(A)は、高周波焼入れパターンを概略示す試験片の正面図であり、同図(B)は同試験片の側面図である。図23(A)におけるハッチング部が概略の高周波焼入れパターンである。図23(A)に示すように、最小径部φdmin(φdminは4mm)は全硬化とする。焼逃げ幅W(4隅)は3mm以下とする。端面まで焼抜けても構わない。最小径部φdminの旧γ結晶粒度は♯8程度にする。
【0064】
図24は、SUJ2ずぶ焼入れ、M50NiL浸炭、S53C高周波焼入れの試験片のせん断疲労特性を示す図である。同図中の実線は、日本材料学会の金属材料疲労信頼性評価標準JSMS−SD−6−02の疲労限度型折れ線モデルにあてはめて求めたS−N線図である。表5に各鋼種のせん断疲労寿命として、せん断応力振幅700MPaにおけるS−N線図との交点の負荷回数を示す。
【0065】
【表5】
【0066】
表6にSUJ2ずぶ焼入れ(9ロット)、M50NiL浸炭(3ロット)、S53C高周波焼入れ(2ロット)の転動疲労寿命試験結果として、ワイブル解析で得られた50%寿命の平均値を示す。
【0067】
【表6】
【0068】
前記転動疲労寿命試験では、鋼種によって異なるが、試験個数のいくつかには表面起点型の短寿命はく離が起きる。上記表6の50%寿命の平均値は、内部起点型はく離のものだけを対象としてロット毎にワイブル解析して得られた値を平均したものである。図25に転動疲労寿命試験機の模式図を示す。試験片は直径12mm、長さ22mmの円筒形状であり、円筒面は超仕上げが施されている。表7に試験条件を示す。
【0069】
この転動疲労寿命試験機は、駆動ロール24と、3個の案内ロール25と、2個の負荷ボール26とを有する。各案内ロール25は、軸27に嵌合された軸受28,28により回転可能で各軸心が平行に支持されている。また駆動ロール24の軸心もこれら案内ロール25の軸心に平行に設けられる。各案内ロール25の外周面には、負荷ボールを保持する断面円弧状の環状溝25aが形成されている。3個の案内ロール25が近接して配置されると共に、各負荷ボール26が、隣接する2個の案内ロール25にわたって案内される。これら負荷ボール26と駆動ロール24との間に試験片Wを介在させ、駆動ロール24を試験条件に基づき回転駆動することで、試験片Wが転動するようになっている。
【0070】
【表7】
【0071】
図26は、横軸を表6の50%寿命の平均値、縦軸を表5のせん断疲労寿命としたグラフであり、両者にはよい直線相関が見られる。超音波ねじり疲労試験片に発生する初期き裂(図13参照)、内部起点型はく離に先立つ表層に発生する初期き裂(図16参照)は、ともにせん断応力の作用方向に沿うき裂であることから、等価であるといる。そのため、図26のように、50%寿命の平均値とせん断疲労寿命の間にはよい直線関係が見られたといえる。なお、図26では、内部起点型はく離寿命として、ワイブル解析で得られた50%寿命としたが、その代わりに10%寿命などをとってもよい。また、図26では、せん断疲労寿命として、せん断応力振幅700MPaにおけるS−N線図との交点の負荷回数としたが、その代わりに、せん断疲労寿命は時間強度域における任意の破壊確率のP−S−N線図との交点の負荷回数としてもよい。
【0072】
超音波ねじり疲労試験にて、SUJ2標準の他、M50NiL浸炭、S53C高周波焼入れを評価したのは、SUJ2標準の内部起点型はく離寿命に対し、M50NiL浸炭のそれは長く、S53C高周波焼入れのそれは短いことがわかっていたためである。図26のように、3鋼種を一元に相対比較するためには、図24からわかるように、せん断応力振幅は700MPa以上800MPa以下としなければならない。
超音波ねじり試験では、せん断応力は試験片最小径部の表面で最大、中心でゼロになる。したがって、図13のように、初期き裂は試験片最小径部の表面に発生する。そのため、ずぶ焼入れはもちろんのこと、浸炭焼入れ鋼(今回のM50NiL浸炭など)、高周波焼入れ鋼(今回のS53C高周波焼入れなど)など、広い意味での表面改質材も評価することができる。
【0073】
なお、超音波軸荷重疲労試験機(島津製作所製USF−2000、加振速度20000Hz、完全両振り)を用い、各種ずぶ焼入鋼の軸荷重疲労特性を求め、時間強度域における垂直疲労寿命と内部起点型はく離寿命を比較したが、相関は見られなかった。
【符号の説明】
【0074】
1…試験片
2…超音波ねじり疲労試験機
3…試験機本体
4…試験機制御装置
5…内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置
7…ねじり振動コンバータ
8…振幅拡大ホーン
10…コンピュータ
11…試験機制御プログラム
17…アンプ
19…内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定プログラム
22…入力手段
23…せん断疲労寿命決定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する方法であって、
超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求める試験過程と、
この求められたせん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決めるせん断疲労寿命決定過程と、
このせん断疲労寿命決定過程で決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、前記内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定する相対優劣推定過程と、
を含む転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項2】
請求項1において、前記超音波ねじり疲労試験は、試験片に対して、正回転方向と逆回転方向のねじりが対称となるねじり振動を与える完全両振りのねじり疲労試験とする転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記金属材料が、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記せん断疲労寿命決定過程におけるせん断応力振幅は、700MPa以上800MPa以下である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記せん断疲労寿命決定過程における、前記時間強度域におけるせん断疲労寿命を決める前記定められた基準は、せん断疲労強度を示す疲労限度型折れ線モデルに、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線から時間強度域におけるせん断疲労寿命を求める処理である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記せん断疲労寿命決定過程における、前記時間強度域におけるせん断疲労寿命を決める前記定められた基準は、せん断疲労強度を示す連続低下型曲線モデルに、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線から時間強度域におけるせん断疲労寿命を求める処理である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記試験過程では、複数回の前記超音波ねじり疲労試験を行って、金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を複数求め、前記せん断疲労寿命決定過程では、前記複数回の試験過程で求めたせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記せん断疲労寿命を決める転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記超音波ねじり疲労試験は、交流電力が印加されることで回転中心軸回りの正逆の回転となるねじり振動を発生するねじり振動コンバータと、先端に同心に試験片を取付ける取付部を有し基端でねじり振動コンバータに固定され、基端に与えられた前記ねじり振動コンバータのねじり振動の振幅を拡大する振幅拡大ホーンとを用い、前記試験片の形状,寸法を、前記ねじり振動コンバータの駆動による振幅拡大ホーンの振動に共振する形状、寸法とし、前記ねじり振動コンバータを超音波領域の周波数で駆動し前記試験片を前記振幅拡大ホーンの振動に共振させてせん断疲労破壊させることによって行う転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記試験過程では、前記超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱を抑制するために、試験片を強制空冷する転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記試験過程では、前記超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱を抑制するために、負荷と休止を交互に繰り返す転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記試験過程では、超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱が問題にならない低負荷域では連続負荷する転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、小径側端面のねじり角の大径側端面のねじり角に対する比である拡大率が43倍以上の振幅拡大ホーンを用いる転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法により決められた時間強度域におけるせん断疲労寿命が、定められたせん断疲労寿命以上である金属材料を、転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用する転がり軸受材料の選定方法。
【請求項14】
転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定するためにせん断疲労寿命を求める装置であって、
完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、定められた記憶領域に記憶させる入力手段と、
この記憶されたせん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決めるせん断疲労寿命決定手段と、
を備えた転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置。
【請求項15】
請求項14において、前記金属材料が、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置。
【請求項16】
請求項14または請求項15において、前記入力手段は、複数回の前期超音波ねじり疲労試験によって求められた金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、定められた記憶領域に記憶させる機能を有し、前記せん断疲労寿命決定手段は、前記複数回の試験におけるせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記せん断疲労寿命を決めるものである転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置。
【請求項17】
請求項14ないし請求項16のいずれか1項において、前記せん断疲労寿命決定手段におけるせん断応力振幅は、700MPa以上800MPa以下である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置。
【請求項18】
転がり接触する金属材料の試験片について、完全両振りの超音波ねじり疲労試験を行う超音波ねじり疲労試験機本体と、この超音波ねじり疲労試験機本体を、入力された試験条件に従って制御する試験機制御装置と、請求項14ないし請求項17のいずれか1項に記載のせん断疲労寿命決定装置とを備えた転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システム。
【請求項1】
転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定する方法であって、
超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を求める試験過程と、
この求められたせん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決めるせん断疲労寿命決定過程と、
このせん断疲労寿命決定過程で決定したせん断疲労寿命が優れている金属材料が、前記内部起点型はく離寿命の相対優劣が優れていると推定する相対優劣推定過程と、
を含む転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項2】
請求項1において、前記超音波ねじり疲労試験は、試験片に対して、正回転方向と逆回転方向のねじりが対称となるねじり振動を与える完全両振りのねじり疲労試験とする転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記金属材料が、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記せん断疲労寿命決定過程におけるせん断応力振幅は、700MPa以上800MPa以下である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記せん断疲労寿命決定過程における、前記時間強度域におけるせん断疲労寿命を決める前記定められた基準は、せん断疲労強度を示す疲労限度型折れ線モデルに、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線から時間強度域におけるせん断疲労寿命を求める処理である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記せん断疲労寿命決定過程における、前記時間強度域におけるせん断疲労寿命を決める前記定められた基準は、せん断疲労強度を示す連続低下型曲線モデルに、試験結果のせん断応力振幅と負荷回数の関係を当てはめた曲線を求め、その曲線から時間強度域におけるせん断疲労寿命を求める処理である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記試験過程では、複数回の前記超音波ねじり疲労試験を行って、金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を複数求め、前記せん断疲労寿命決定過程では、前記複数回の試験過程で求めたせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記せん断疲労寿命を決める転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記超音波ねじり疲労試験は、交流電力が印加されることで回転中心軸回りの正逆の回転となるねじり振動を発生するねじり振動コンバータと、先端に同心に試験片を取付ける取付部を有し基端でねじり振動コンバータに固定され、基端に与えられた前記ねじり振動コンバータのねじり振動の振幅を拡大する振幅拡大ホーンとを用い、前記試験片の形状,寸法を、前記ねじり振動コンバータの駆動による振幅拡大ホーンの振動に共振する形状、寸法とし、前記ねじり振動コンバータを超音波領域の周波数で駆動し前記試験片を前記振幅拡大ホーンの振動に共振させてせん断疲労破壊させることによって行う転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記試験過程では、前記超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱を抑制するために、試験片を強制空冷する転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記試験過程では、前記超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱を抑制するために、負荷と休止を交互に繰り返す転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記試験過程では、超音波ねじり疲労試験において前記金属材料の試験片の発熱が問題にならない低負荷域では連続負荷する転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、小径側端面のねじり角の大径側端面のねじり角に対する比である拡大率が43倍以上の振幅拡大ホーンを用いる転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定方法により決められた時間強度域におけるせん断疲労寿命が、定められたせん断疲労寿命以上である金属材料を、転がり軸受の軌道輪または転動体の材料として使用する転がり軸受材料の選定方法。
【請求項14】
転がり接触する金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣を推定するためにせん断疲労寿命を求める装置であって、
完全両振りの超音波ねじり疲労試験によって金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、定められた記憶領域に記憶させる入力手段と、
この記憶されたせん断応力振幅と負荷回数の関係から時間強度域におけるせん断疲労寿命を、定められた基準に従って決めるせん断疲労寿命決定手段と、
を備えた転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置。
【請求項15】
請求項14において、前記金属材料が、転がり軸受の軌道輪または転動体となる転がり軸受用鋼である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置。
【請求項16】
請求項14または請求項15において、前記入力手段は、複数回の前期超音波ねじり疲労試験によって求められた金属材料のせん断応力振幅と負荷回数の関係を、定められた記憶領域に記憶させる機能を有し、前記せん断疲労寿命決定手段は、前記複数回の試験におけるせん断応力振幅と負荷回数の関係から任意の破壊確率のP−S−N線図を求め、このP−S−N線図から、前記せん断疲労寿命を決めるものである転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置。
【請求項17】
請求項14ないし請求項16のいずれか1項において、前記せん断疲労寿命決定手段におけるせん断応力振幅は、700MPa以上800MPa以下である転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定装置。
【請求項18】
転がり接触する金属材料の試験片について、完全両振りの超音波ねじり疲労試験を行う超音波ねじり疲労試験機本体と、この超音波ねじり疲労試験機本体を、入力された試験条件に従って制御する試験機制御装置と、請求項14ないし請求項17のいずれか1項に記載のせん断疲労寿命決定装置とを備えた転がり接触金属材料の内部起点型はく離寿命の相対優劣の推定システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
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【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2013−15367(P2013−15367A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147287(P2011−147287)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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