説明

転がり疲労き裂発生予測方法および転がり疲労損傷評価システム、並びに、疲労層削除タイミング決定方法および削除深さ決定方法

【課題】転がり疲労損傷程度を評価して保守作業を効率化する。
【解決手段】対象材に対してX線回折により結晶子サイズおよび不均一ひずみを測定し、結晶子サイズが30nm以下であるとの条件及び不均一ひずみが0.25%以上であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する。また、基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが50%以下であるとの条件、及び、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが2倍以上の変化であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり疲労損傷の発生を定量的に予測する転がり疲労き裂発生予測方法および疲労損傷評価システムに関する。また、本発明は、対象材の疲労層の削除タイミングを決定する疲労層削除タイミング決定方法および対象材の削除深さを決定する削除深さ決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり疲労を受けた材料の疲労損傷程度の評価は、破壊試験を伴う金属組織観察、硬さ測定、電子線回折、非破壊試験可能なX線残留応力や集合組織測定を使用してきた。このような測定手法の結果を、これまで、現地で、転がり疲労損傷抑制の目的で実施されてきたレール削正作業の時間間隔(タイミング)と削正深さの決定に活用されてきた。しかし、これらの測定手法から得られた結果は同一の基準で、評価困難であったため、時間間隔と削正深さを経験的な側面から決定していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
転がり疲労を受けた材料の疲労損傷程度を評価する場合、金属組織観察は定性的に判断可能なものの、対象材に導入されたひずみ量や、微細化し結晶粒界が不明瞭になった結晶粒子の大きさの定量的な評価は困難であった。
【0004】
硬さ測定は、対象材の深さ方向の疲労損傷程度の定量的な評価をある程度可能であるが、転がり疲労が蓄積していく過程における硬さの変化量を、十分に評価できなかった。また、硬さ測定は、対象材の表面近傍を評価するために、硬さ測定の測定領域が小さくなるように、圧子の押込み荷重を小さくすると、測定値が非常にばらつくため、評価困難であった。
【0005】
電子線回折は、ひずみ量および結晶粒子径をともに定量的に評価可能なものの、微細な観察領域での評価になる。特に転がり疲労が塑性変形を伴うような場合、対象材は微視的に不均一な変形を受けるため、微細な観察領域での評価結果が、対象材全体の状態を表しているとは言い難い場合がある。
【0006】
さらに、上記測定は、通常破壊的に行われるため、現地での評価に不適である問題がある。
【0007】
一方、残留応力や集合組織測定は、非破壊的な測定が可能である。しかし、残留応力測定は平面応力を仮定している。このため、転がり疲労等により、三次元的な応力分布を伴った疲労状態の評価や集合組織を有する材料の評価に当該方法を適用することは、難しい。また、当該方法がX線のピーク位置のずれを評価する方法であるため、塑性変形を伴うような疲労状態に対する十分な評価は困難であった。一方、集合組織測定では、集合組織が材料内部に顕著に形成される場合があり、材料表面に蓄積した転がり疲労状態を十分に評価できなかった。
【0008】
鉄道事業者においては、営業線に敷設したレールに発生するシェリング等の転がり疲労損傷を抑制するために定期的な保守作業として、レールを砥石等を用いて削正している。この保守作業は、レール表面および内部に形成される転がり疲労層の除去を目的としている。レール削正には、どれくらいの期間(削正間隔)で、どの程度の深さ(削正量)を削正するのか、という定量的な指標が必要となる。この削正間隔と削正量は、上記の測定方法による結果を活用しているものの、各々の測定結果を定量的に比較できる手法がなく、経験的に決定される傾向が強かった。そのため、レール保守作業を効率化していくためには、レール表面から内部まで同一の評価基準に基づいた定量的な測定手法による精緻化が必要であった。その上、削正間隔を決定するために、転がり疲労き裂発生を予測するには、レール表面を現地測定可能な非破壊検査手法で評価する必要があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、転がり疲労損傷を評価して保守作業を効率化する転がり疲労き裂発生予測方法および転がり疲労損傷評価システムを提供することにある。
【0010】
また、本発明の目的は、対象材の疲労層の削除という保守作業を効率化するために、対象材の疲労層削除タイミング決定方法および削除深さ決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、符号を付して本発明の特徴を説明する。なお、符号は参照のためであり、本発明を実施形態に限定するものでない。
【0012】
本発明の第1の特徴に係わる転がり疲労き裂発生予測方法は、対象材の結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、前記対象材の結晶子サイズ及び不均一ひずみの少なくとも一方に基づいて対象材の転がり疲労損傷を評価して対象材の疲労き裂発生を予測する。
【0013】
以上の第1の特徴にあって、結晶子サイズが30nm以下であるとの条件及び不均一ひずみが0.25%以上であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する。
【0014】
基準材にとしての未使用の対象材に対して結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが50%以下であるとの条件、及び、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが2倍以上の変化であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する。
【0015】
結晶子サイズおよび不均一ひずみの測定にX線回折を用い、対象材に対してX線の侵入深さを10μm以下になるように入射X線の波長又は入射角度を選択する。
【0016】
本発明の第2の特徴に係わる転がり疲労損傷評価システム(10)は、対象材の結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定する測定装置(11)と、前記対象材の結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方に基づいて対象材の転がり疲労損傷を評価する分析装置(12)とを有する。
【0017】
以上の第2の特徴において、分析装置(12)は、結晶子サイズが30nm以下であるとの条件及び不均一ひずみが0.25%以上であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する。
【0018】
測定装置(11)は基準材としての未使用の対象材に対して結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、分析装置(12)は、基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが50%以下であるとの条件、および、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが2倍以上の変化であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する。
【0019】
測定装置(11)はX線回折装置であり、対象材に対してX線の侵入深さを10μm以下になるような入射X線の波長又は入射角度を選択する。
【0020】
本発明の第3の特徴に係わる削除深さ決定方法は、対象材および基準材としての未使用の対象材のそれぞれの結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、対象材の結晶子サイズが基準材の結晶子サイズと同じになる対象材の表面からの深さ、および、
対象材の不均一ひずみが基準材の不均一ひずみより小さくなる対象材の表面からの深さの少なくとも一方を、対象材の表面からの削除深さとして決定する。
【0021】
本発明の第4の特徴に係わる疲労層削除タイミング決定方法は、対象材の結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、前記対象材の結晶子サイズ及び不均一ひずみの少なくとも一方に基づいて対象材の疲労層の削除タイミングを決定する。
【0022】
以上の第5の特徴において、結晶子サイズが30nm以下であるとの条件及び不均一ひずみが0.25%以上であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材の疲労層の削除タイミングを決定する。
【0023】
基準材にとしての未使用の対象材に対して結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが50%以下であるとの条件、及び、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが2倍以上の変化であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材の疲労層の削除タイミングを決定する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の特徴によれば、疲労損傷の発生を予測できるので、保守作業の効率を向上させることができる。
【0025】
対象材の表面からの削除深さを決定し、また、対象材の疲労層の削除タイミングを決定するので、対象材の疲労層の削除という保守作業を効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係る転がり疲労損傷評価システムの構成要素を示すブロック図である。
【図2】X線回折装置の概要図である。
【図3】転がり疲労き裂発生予測方法の原理を説明する概要図である。
【図4】対象材の表面からの深さに対する不均一ひずみおよび結晶子サイズを示すグラフである。
【図5】対象材の不均一ひずみと結晶子サイズを示すグラフである。
【図6】転がり疲労き裂発生予測方法の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
図1に示すように、転がり疲労損傷評価システム10は、X線回折装置11と、X線回折装置11の測定結果を分析する分析装置12と、分析装置12の分析結果を出力する出力装置13を有する。
【0029】
X線回折装置11は、図2に示すように、試料へ向けてX線を照射するX線発生部11aと、試料から回折されたX線を検知するX線検出部11bを有する。X線回折装置11は、X線検出部11bの走査で、X線の回折方向と入射方向との角度差(回折角:2θ)とX線強度を測定する。
【0030】
分析装置12は、処理プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、処理プログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、CPUの処理に必要なデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)を有する。
出力装置13は、例えば、液晶表示装置、有機EL(Electro-Luminescence)表示装置のような画像表示装置、及び、インクジョット方式又はレーザプリンタ方式の印刷装置を有する。
【0031】
次に、図3、4を用いて転がり疲労き裂発生予測方法の原理を説明する。
【0032】
図3(B)に示すように、対象材が、加工等を受けずに、ひずみを有しない場合、同図(A)に示すように、測定結果の回折ピークの幅は狭くなり、回折ピークの高さは大きくなり、鋭いピークとなる。
【0033】
一方、同図(D)に示すように、対象材が繰返し応力を受けて疲労し、ひずみが導入された場合、結晶粒は微細化し、不均一な格子ひずみ(以下、不均一ひずみと称する。)を有する。この場合、同図(C)に示すように、測定結果の回折ピークの幅は広くなり、回折ピークの高さは低くなる。
【0034】
そこで、Hallの方法を利用して、結晶子のサイズと不均一ひずみを分離して決定する。
【0035】
β(cosθ/λ)=2η(sinθ/λ)+1/ε・・・(1)
【0036】
式(1)において、βは回折ピークの拡がり、ηは不均一ひずみ、εは結晶子のサイズ、λは波長である。回折ピーク幅からβ(cosθ/λ)を計算し、縦軸、β(cosθ/λ)に対して横軸、sinθ/λをプロットする。得られた直線の勾配から不均一ひずみ2ηを得る。また、直線の縦軸(β(cosθ/λ))との交点から結晶子の大きさの逆数1/εを得る。
【0037】
次に、図4は、表面からの深さに従って測定試料としてのレールの不均一ひずみおよび結晶子サイズを測定したものである。●は未使用レールの不均一ひずみを示す。■は使用済みレールの不均一ひずみを示す。○は未使用レールの結晶子サイズを示す。□は使用済みレールの結晶子サイズを示す。
【0038】
使用済みレールの不均一ひずみは、未使用レールの不均一ひずみに対して大きくなった。 使用済みレールの結晶子サイズは、未使用レールの結晶子サイズに対して小さくなった。また、使用済みレールの不均一ひずみはレール表面で最も大きくなった。また、結晶子サイズはレールの表面で最も小さくなった。よって、不均一ひずみ及び結晶子のサイズはレールの表面で測定することが、レール削正間隔を決める転がり疲労き裂発生予測に有効である。又、深さ方向の測定は、レール削正深さを決定する転がり疲労損傷評価に有効である。
【0039】
図5のグラフでは、新品のレールA(図中の新品A)、白色層の発生を伴った微細き裂の発生したレールB(図中の微細き裂ありB)、シェリング損傷で折損したレール近傍部C(図中の近傍部折損C)の各表面について、不均一ひずみおよび結晶子サイズを測定した。
【0040】
その結果、新品のレールAの不均一ひずみは、0.1%程度であった。レールBの不均一ひずみは、白色層は、高ひずみを有するマルテンサイト相を主相としているため、その影響により、1.0%程度であった。これに対して、レール近傍部Cの不均一ひずみは、0.25%程度であった。以上から、不均一ひずみが0.25%以上の条件で、すでに転がり疲労き裂が生じている可能性が高い。
【0041】
さらに、新品のレールAの結晶子サイズは80nm程度であり、レールBの結晶子サイズは、白色層生成の影響のため、10nm程度であった。これに対して、レール近傍部Cの結晶子サイズは30nm程度であった。以上から、結晶子サイズが30nmになると、既に、転がり疲労き裂が発生している可能性が高い。
【0042】
次に、図6を用いて、転がり疲労き裂発生予測方法について説明する。
X線回折装置11を作動させる。X線発生部11aは対象材21にX線11cを照射し、X線検出部11bを走査させて角度差およびX線強度を測定する(ステップS11、図2参照)。
【0043】
ここで、対象材の最表面での測定を可能にするために、入射X線は、X線侵入深さが10μm以内に小さくなるように選択するのがよい。結晶子サイズと不均一ひずみの測定には、できるだけたくさんの回折角からの情報を必要とするため、鉄系材料を対象材としてθ/2θスキャンをする場合、特性X線としてCuKα線を入射X線に選択するのがよい。なお、任意の波長を入射X線に選択できる場合は、この限りでない。
【0044】
また、斜入射法で、入射X線の侵入深さを10μm以下にできるように、入射角度を設定してもよい。斜入射法は、図2に示すように、X線発生部11cとX線検出部11bとを中心線C1に対して非対称に配置する。
【0045】
また、平行ビーム法でより分解能を向上させてもよいが、基準材からの変化量を測定することでもかまわない。
また、統計精度を向上させるために、各測定角度でFT(時間固定)またはFC(X線光子カウント数固定)を使用し、ゴニオメータのステップは0.05°以下としてもよい。
【0046】
分析装置12は、測定結果から対象材の不均一ひずみと結晶子サイズを決定する(ステップS12、S13)。分析装置12は、対象材の不均一ひずみ、または、結晶子サイズが条件を満たすか決定する(ステップS14)。すなわち、分析装置12は、対象材の不均一ひずみが閾値の0.25%以上の条件、又は、対象材の結晶子サイズが閾値の30nm以下の条件で(ステップS14のYES)、処理はステップS15へ進む。分析装置12は対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する(ステップS15)。なお、予測精度を向上させるために、不均一ひずみおよび結晶子サイズの両方の条件を満たす場合に転がり疲労き裂の発生予測を決定してもよい。
【0047】
最後に、分析装置12は、測定結果および判定結果を出力装置13に出力させる。
【0048】
以上の実施形態によれば、転がり疲労き裂の発生を予測し、転がり疲労損傷の評価が可能になるので、保守作業の効率を向上させることができる。
【0049】
第2の実施形態
本実施形態は、未使用の対象材を基準材とし、基準材と使用済みの対象材とを比較して対象材の疲労き裂発生予測する。
【0050】
図5に示す結果から、レールAの不均一ひずみに対してレールB、レール近傍部Cの不均一ひずみは2倍以上の変化である。また、レールAの結晶子サイズに対してレールB、レール近傍部Cの結晶子サイズは、50%以下である。
【0051】
以上から、基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが50%以下となる条件、又は、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが2倍以上変化する条件で対象材に対して転がり疲労き裂が発生していると推定される。なお、基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが40%以下又は30%以下の条件でもよい。また、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが1.5倍以上変化する条件としてもよい。
【0052】
転がり疲労き裂発生予測方法では、図6において、基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが50%以下の条件、又は、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが2倍以上の条件を満たすか決定する(ステップS14)。何れかの条件を満たす場合(ステップS14のYES)、処理はステップS15へ進む。分析装置12は対象材に対して転がり疲労き裂発生を決定する(ステップS15)。なお、予測精度を向上させるために、不均一ひずみのおよび結晶子サイズの両方の条件を満たす場合に疲労損傷の発生予測を決定してもよい。
【0053】
第3の実施形態
本実施形態は、対象材の疲労層の削除タイミングを決定する。
【0054】
第1の実施形態と同様に、X線回折により対象材の結晶子サイズおよび不均一ひずみを測定する。
【0055】
図5に示す結果から、対象材の結晶子サイズが30nm以下であると、対象材は疲労損傷している疲労層を有すると推定される。また、対象材の不均一ひずみが0.25%以上であると、対象材は疲労損傷している疲労層を有すると推定される。
【0056】
以上から、結晶子サイズが30nm以下であるとの条件、及び、対象材の不均一ひずみが0.25%以上であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材の疲労層の削除タイミングを決定する。
【0057】
以上の実施形態によれば、対象材の結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方に基づいて対象材の疲労層の削除タイミングを決定し、対象材が疲労損傷するまでの時間間隔を決めることができる。これにより、対象材の疲労層の削除という保守作業を効率化することができる。
【0058】
第4の実施形態
本実施形態は、対象材と基準材にとしての未使用の対象材とを比較して、対象材の疲労層の削除タイミングを決定する。
【0059】
図5に示す結果から、基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが50%以下であるとの条件、又は、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが2倍以上の変化であるとの条件で、対象材は疲労損傷していると推定される。よって、何れかの条件で対象材の疲労層の削除タイミングを決定する。また、両方の条件で対象材の疲労層の削除タイミングを決定してもよい。なお、基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが40%以下又は30%以下の条件でもよい。また、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが1.5倍以上変化する条件としてもよい。
【0060】
以上の実施形態によれば、対象材及び基準材の結晶子サイズ又は不均一ひずみを比較して対象材の疲労層の削除タイミングを決定し、対象材が疲労損傷するまでの時間間隔を決めることができる。これにより、対象材の疲労層の削除という保守作業を効率化することができる。
【0061】
第5の実施形態
本実施形態は、対象材と基準材としての未使用の対象材とを比較して対象材の削除深さを決定する。
【0062】
図4において、使用レールの結晶子サイズが未使用レールの結晶子サイズと同じになるまで、使用レールを表面から削除すれば、使用レールの疲労層は取り除かれ、使用レールに対する転がり疲労き裂発生の可能性は低くなる。また、使用レールの不均一ひずみが未使用レールの不均一ひずみより小さくなるまで、使用レールを表面から削除すれば、使用レールの疲労層は取り除かれ、使用レールの転がり疲労き裂発生の可能性は低くなる。
【0063】
以上から、対象材の結晶子サイズが基準材の結晶子サイズと同じになる対象材の表面からの深さ、および、対象材の不均一ひずみが基準材の不均一ひずみより小さくなる対象材の表面からの深さの少なくとも一方を、対象材の表面からの削除深さとして決定する。なお、結晶子のサイズ及び不均一ひずみの両方を用いる場合、より大きな表面からの深さを削除深さとして選択してもよい。
【0064】
以上の実施形態によれば、対象材および基準材のそれぞれの結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を比較して、対象材の削除深さを決定するので、対象材の疲労層の削除という保守作業を効率化することができる。
なお、本発明は本実施形態に限定されず、また、各実施形態は発明の趣旨を変更しない範囲で変更、修正可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 転がり疲労損傷評価システム
11 X線回折装置
12 分析装置
13 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象材の結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、
前記対象材の結晶子サイズ及び不均一ひずみの少なくとも一方に基づいて対象材の転がり疲労損傷を評価して対象材の疲労き裂発生を予測する、
転がり疲労き裂発生予測方法。
【請求項2】
結晶子サイズが30nm以下であるとの条件及び不均一ひずみが0.25%以上であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する、
請求項1に記載の転がり疲労き裂発生予測方法。
【請求項3】
基準材にとしての未使用の対象材に対して結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、
基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが50%以下であるとの条件、及び、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが2倍以上の変化であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する、
請求項1に記載の転がり疲労き裂発生予測方法。
【請求項4】
結晶子サイズおよび不均一ひずみの測定にX線回折を用い、
対象材に対してX線の侵入深さを10μm以下になるように入射X線の波長又は入射角度を選択する、
請求項2又は3に記載の転がり疲労き裂発生予測方法。
【請求項5】
対象材の結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定する測定装置と、
前記対象材の結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方に基づいて対象材の転がり疲労損傷を評価する分析装置と、
を有する転がり疲労損傷評価システム。
【請求項6】
前記分析装置は、結晶子サイズが30nm以下であるとの条件及び不均一ひずみが0.25%以上であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する、
請求項5に記載の転がり疲労損傷評価システム。
【請求項7】
前記測定装置は基準材としての未使用の対象材に対して結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、
前記分析装置は、基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが50%以下であるとの条件、および、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが2倍以上の変化であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材に対して転がり疲労き裂の発生予測を決定する、
請求項5に記載の転がり疲労損傷評価システム。
【請求項8】
前記測定装置はX線回折装置であり、
対象材に対してX線の侵入深さを10μm以下になるような入射X線の波長又は入射角度を選択する、
請求項6又は7に記載の転がり疲労損傷評価システム。
【請求項9】
対象材および基準材としての未使用の対象材のそれぞれの結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、
対象材の結晶子サイズが基準材の結晶子サイズと同じになる対象材の表面からの深さ、および、対象材の不均一ひずみが基準材の不均一ひずみより小さくなる対象材の表面からの深さの少なくとも一方を、対象材の表面からの削除深さとして決定する、
削除深さ決定方法。
【請求項10】
対象材の結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、
前記対象材の結晶子サイズ及び不均一ひずみの少なくとも一方に基づいて対象材の疲労層の削除タイミングを決定する、
疲労層削除タイミング決定方法。
【請求項11】
結晶子サイズが30nm以下であるとの条件及び不均一ひずみが0.25%以上であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材の疲労層の削除タイミングを決定する、
請求項10に記載の疲労層削除タイミング決定方法。
【請求項12】
基準材にとしての未使用の対象材に対して結晶子サイズおよび不均一ひずみの少なくとも一方を測定し、
基準材の結晶子サイズに対して対象材の結晶子サイズが50%以下であるとの条件、及び、基準材の不均一ひずみに対して対象材の不均一ひずみが2倍以上の変化であるとの条件の少なくとも一方の条件で対象材の疲労層の削除タイミングを決定する、
請求項10に記載の疲労層削除タイミング決定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−18114(P2012−18114A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156484(P2010−156484)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】