説明

転がり軸受の設計装置および設計方法

【課題】 種々異なる制約条件等での設計等につき、複数の演算手段で同時並行的に行う場合に、ジョブ管理が一元化されて効率良く行え、かつ設計の計算結果が継続的に蓄積できるものとする。
【解決手段】 複数の個別演算手段1と、これらを統括する統括手段2とを備える。各個別演算手段1は、軸受技術計算手段3と、最適化手段4とを有する。統括手段1は、設計要求情報準備手段8と、スケジュール管理手段9と、結果集計手段10とを有する。設計要求情報準備手段8は、各個別演算手段1に計算させる設計変数の初期値と制約条件との組である計算ジョブを複数記憶する。スケジュール管理手段9は、設計要求情報準備手段8に記憶された各計算ジョブを、各個別演算手段1へ割り振って投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受の主要寸法や内部諸元等を設計する転がり軸受の設計装置および設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械装置の使用条件に適する軸受を設計するには、使用条件から定格荷重などの要件が満たされるよう、転がり軸受の主要寸法や軸受内部諸元を決定していく。
概略的には、図3に示すように、最適化ソフトウェア81と軸受技術計算手段82とを組み合わせたパーソナルコンピュータ等の演算装置80を用い、主要寸法や内部諸元を設計変数とし、寿命等を制約条件として、最適化問題の解として最適設定値を求めるものである。このとき、JIS規格や設計標準等をデータベース84に記憶させておき、参照しながら最適化設計することが多い。また、軸受技術計算手段82は計算結果分析手段83で分析される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−330917号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】綿林英一編著 「JIS使い方シリーズ転がり軸受の選び方・使い方」第2章日本規格協会(1990 年7 月)
【非特許文献2】A.B.ジョーンズ(A.B.JONES )著, "A General Theory for Elasfically Constraincd Ball and Radial Roller Bearings Under Arbitrary Load and Speed Conditions"Journal of Basic Engineering,June 1960 /309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実用的には、複数の制約条件や設計変数の初期値に対する検討を、同時に並行的に行いたい場合がある。このような場合、図4のように演算装置80を複数台用い、これら複数台の演算手段80でそれぞれ計算することが行われる。このとき、各演算装置80の計算は、個別に人が管理しなければならない。そのため、各演算装置80に演算させる計算ジョブの管理が煩雑で、最適設計の計算結果の集計や、その蓄積による後の軸受設計への反映が難しい。
【0006】
この発明の目的は、転がり軸受の主要寸法や内部諸元等の設計において、種々異なる制約条件等での最適化設計につき、複数の演算手段で同時並行的に行う場合に、ジョブ管理が一元化されて効率良く行え、かつ計算結果が継続的に蓄積できる転がり軸受の設計装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の転がり軸受の設計装置は、複数の個別演算手段1と、これら複数の個別演算手段1を統括する統括手段2とを備える。
各個別演算手段1は、軸受技術計算手段3と、最適化手段4とを有する。軸受技術計算手段3は、転がり軸受の設計を行う各項目の量をそれぞれ示す設計変数の値、および前記転がり軸受の設計上で守るべき条件である制約条件が入力されてこれら設計変数の値および制約条件により定まる転がり軸受の設定項目の軸受性能を設定規則に従って計算する手段である。前記設計変数は、例えば、転がり軸受の主要寸法または内部諸元のうちのいずれかの値をそれぞれ示す変数である。設計変数は、複数であっても一つであっても良い。主要寸法や内部諸元のうち、固定値として設定する項目は、制約条件として設定しても良い。前記設定項目の軸受性能は、例えば負荷容量である。最適化手段4は、前記設計変数の初期値および前記制約条件が入力されることで、この制約条件を前記軸受技術計算手段3へ出力すると共に、前記各設計変数の値を、設定された最適化手法で種々変えて前記軸受技術計算手段3へ出力し、この軸受技術計算手段3で計算された軸受性能の計算結果を設定基準に対して判定する処理を繰り返すことで最適となる設計変数の値を定める手段である。この明細書で言う「最適化」とは、実際に最適であるか否かを問わず、前記最適化手法によって最適と定めることを言う。最適化手法は、より好ましい値を求める手法であれば良い。
前記統括手段2は、設計要求情報準備手段8と、スケジュール管理手段9と、結果集計手段10とを有する。設計要求情報準備手段8は、前記各個別演算手段1に計算させる設計変数の初期値と制約条件との組である計算ジョブを複数記憶する手段である。スケジュール管理手段9は、設計要求情報準備手段8に記憶された各計算ジョブを、設定ジョブ投入規則に従い前記各個別演算手段1へ割り振って投入する手段である。結果集計手段10は、各個別演算手段1の計算結果を集計する手段である。
【0008】
この構成によると、複数の個別演算手段1を統括する統括手段2を設け、この統括手段2に上記機能を有する設計要求情報準備手段8およびスケジュール管理手段9を設けたため、各個別演算手段1の計算ジョブの管理を一元化して行えて、効率良く行える。すなわち、転がり軸受の主要寸法や内部諸元の設計において、種々異なる制約条件での設計や、設計変数とする項目を種々変えて行う最適化計算につき、複数の個別演算手段1で同時並行的に行うときに、計算ジョブの管理を一元化して行える。また、上記機能の結果集計手段10を統括手段2に設けたため、継続的に、各個別演算手段1の計算結果による設計データを蓄積することができる。
【0009】
この発明において、前記統括手段2の前記結果集計手段10は、前記各個別演算手段1の最適化された計算結果および最適化の履歴を収集し、これら複数の個別演算手段1の計算結果の集計を行うものとするのが良い。前記最適化の履歴は、最適化の過程で仮定した設計変数の値とその設計変数を用いたときの設定項目の軸受性能の値である。上記集計については、各個別演算手段1につき横断的に計算結果の集計を行うのが良い。この集計結果を横断的にディスプレイ等に表示させることで、複数の最適化計算の推移を同時に鳥瞰することができる。前記の横断的な集計としては、例えば制約条件として転動体サイズ等を順次変えた計算ジョブを各個別演算手段1で計算させる場合、その制約条件の順に計算結果を並べる処理等である。
【0010】
この発明において、前記統括手段2の前記設計要求情報準備手段8は、各計算ジョブ毎に、複数の設計変数のうち、前記個別演算手段1で変数値を変えさせる設計変数と、変数値を変えずに固定値として扱わせる設計変数とに切替える設計変数オンオフ手段11を有するものとするのが良い。オンオフの設定は、例えばオペレータの入力により行うようにする。
設計変数とする転がり軸受の主要寸法または内部諸元等の値のうちのいずれかは、固定値として設計したい場合がある。また、場合によって、どの寸法等を固定値とするかの要求が異なる。そのため、転がり軸受の主要寸法,内部諸元の各項目は、いずれも変数としておき、場合に応じてその変数を固定値として取扱可能としておくことが、個別演算手段1の演算プログラム等の簡素化の点で望ましい。なお、主要寸法や内部諸元の各項目によっては、設計目的等に応じて、上記のようなオンオフ可能な変数としても良く、また前記制約条件として定めるようにして良い。
【0011】
この発明において、前記結果集計手段10の集計内容を設定規則により正規化する一般化手段12と、この一般化手段12で正規化された集計内容を記憶するノウハウデータベース13と、荷重条件が入力されると前記ノウハウデータベース13と照合して前記設計変数の初期値とする推奨値を計算する推奨値計算手段14を設けるのが良い。
一般化手段12による正規化は、例えば、軸受主要寸法で正規化した内部諸元と荷重条件との組み合わせからなるものを求める処理であり、ニューラルネット等の学習アルゴリズムにより構成され、類似案件に対して荷重条件を入力すると推奨値が得られるものとする。ノウハウデータベース13は、順次拡張されて、設計データの蓄積と適応を行う。
【0012】
この発明において、前記統括手段2は、複数の項目の制約条件を組み合わせた情報である制約条件基本セットを複数記憶した制約条件基本セット記憶手段15を有し、前記設計要求情報準備手段8は、前記制約条件基本セット記憶手段15に記憶された各制約条件基本セットを、各計算ジョブにおける制約条件とするものとしても良い。
制約条件の項目としては、軸受の剛性、寿命、摩擦トルク、面圧、予圧、はみ出し量、コスト、熱処理と材料の組み合わせ、環境負荷物資含有率、転動体サイズと配置寸法との組み合わせ等がある。このような制約条件の複数の組み合わせを、制約条件基本セットとして複数または一つ準備しておくことで、設計要求情報準備手段8への制約条件の設定が容易となる。
【0013】
この発明において、前記統括手段2は、前記結果集計手段10で集計した最適化結果に対して、設計変数を最適値周辺の値とした場合の軸受性能の計算を行って分析する最適値周辺分析手段15を設けても良い。最適値周辺分析手段15は、例えば実験計画法などで最適値周辺の分析を行う。
【0014】
この発明の転がり軸受の設計方法は、複数の個別演算手段1と、これら複数の個別演算手段1を統括する統括手段2とを用い、
前記各個別演算手段1は、軸受技術計算手段3および最適化手段4を有していて、前記軸受技術計算手段3により、転がり軸受の設計を行う各項目の量をそれぞれ示す設計変数の値、および前記転がり軸受の設計上で守るべき条件である制約条件が入力されてこれら設計変数の値および制約条件により定まる転がり軸受の設定項目の軸受性能を設定規則に従って計算し、前記最適化手段4により、前記設計変数の初期値および前記制約条件が入力されることで、この制約条件を前記軸受技術計算手段3へ出力すると共に、前記各設計変数の値を、設定された最適化手法で種々変えて前記軸受技術計算手段3へ出力し、この軸受技術計算手段3で計算された軸受性能の計算結果を設定基準に対して判定する処理を繰り返すことで最適となる設計変数の値を定め、
前記統括手段2は、設計要求情報準備手段8、スケジュール管理手段9、および結果集計手段10を有していて、前記設計要求情報準備手段8により、前記各個別演算手段1に計算させる設計変数の初期値と制約条件との組である計算ジョブを複数記憶し、前記スケジュール管理手段9により、前記設計要求情報準備手段8に記憶された各計算ジョブを、設定ジョブ投入規則に従い前記各個別演算手段1へ割り振って投入し、前記結果集計手段10により、前記各個別演算手段1の計算結果を集計する。
この設計方法によると、転がり軸受の主要寸法や内部諸元の設計において、種々異なる制約条件での設計や、設計変数の種々異なる初期値での最適化計算につき、複数の演算手段で同時並行的に行う場合に、ジョブ管理が一元化されて効率良く行え、かつ設計の計算結果が継続的に蓄積できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明の転がり軸受の設計装置は、複数の個別演算手段と、これら複数の個別演算手段を統括する統括手段とを備え、前記各個別演算手段は、転がり軸受の設計を行う各項目の量をそれぞれ示す設計変数の値、および前記転がり軸受の設計上で守るべき条件である制約条件が入力されてこれら設計変数の値および制約条件により定まる転がり軸受の設定項目の軸受性能を設定規則に従って計算する軸受技術計算手段と、前記設計変数の初期値および前記制約条件が入力されることで、この制約条件を前記軸受技術計算手段へ出力すると共に、前記各設計変数の値を、設定された最適化手法で種々変えて前記軸受技術計算手段へ出力し、この軸受技術計算手段で計算された軸受性能の計算結果を設定基準に対して判定する処理を繰り返すことで最適となる設計変数の値を定める最適化手段とを有し、前記統括手段は、前記各個別演算手段に計算させる設計変数の初期値と制約条件との組である計算ジョブを複数記憶する設計要求情報準備手段と、この設計要求情報準備手段に記憶された各計算ジョブを、設定ジョブ投入規則に従い前記各個別演算手段へ割り振って投入するスケジュール管理手段と、前記各個別演算手段の計算結果を集計する結果集計手段とを有するため、転がり軸受の主要寸法や内部諸元の設計において、種々異なる制約条件等での最適化設計につき、複数の演算手段で同時並行的に行う場合に、ジョブ管理が一元化されて効率良く行え、かつ設計の計算結果が継続的に蓄積できる。
【0016】
この発明の転がり軸受の設計方法は、複数の個別演算手段と、これら複数の個別演算手段を統括する統括手段とを用い、前記各個別演算手段は、軸受技術計算手段および最適化手段を有していて、前記軸受技術計算手段により、転がり軸受の設計を行う各項目の量をそれぞれ示す設計変数の値、および前記転がり軸受の設計上で守るべき条件である制約条件が入力されてこれら設計変数の値および制約条件により定まる転がり軸受の設定項目の軸受性能を設定規則に従って計算し、前記最適化手段により、前記設計変数の初期値および前記制約条件が入力されることで、この制約条件を前記個別演算手段へ出力すると共に、前記各設計変数の値を、設定された最適化手法で種々変えて前記軸受技術計算手段へ出力し、この軸受技術計算手段で計算された軸受性能の計算結果を設定基準に対して判定する処理を繰り返すことで最適となる設計変数の値を定め、前記統括手段は、設計要求情報準備手段、スケジュール管理手段、および結果集計手段を有していて、前記設計要求情報準備手段により、前記各個別演算手段に計算させる設計変数の初期値と制約条件との組である計算ジョブを複数記憶し、前記スケジュール管理手段により、前記設計要求情報準備手段に記憶された各計算ジョブを、設定ジョブ投入規則に従い前記各個別演算手段へ割り振って投入し、前記結果集計手段により、前記各個別演算手段の計算結果を集計するため、転がり軸受の主要寸法や内部諸元の設計において、種々異なる制約条件等での最適化設計につき、複数の演算手段で同時並行的に行う場合に、ジョブ管理が一元化されて効率良く行え、かつ設計の計算結果が継続的に蓄積できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施形態に係る転がり軸受の設計装置および設計方法を概念的に示すブロック図である。
【図2】同設計装置,設計方法で設計する転がり軸受の一例の断面図である。
【図3】従来例のブロック図である。
【図4】他の従来例のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の一実施形態を図1及び図2と共に説明する。この転がり軸受の設計装置は、機械装置に用いる転がり軸受の主要寸法、内部諸元等を設計する装置であって、複数の個別演算手段1と、これら複数の個別演算手段1を統括する統括手段2とを備える。転がり軸受の主要寸法とは、軸受内径d(図2参照)、軸受外径D、軸受幅(または軸受高さ)B、面取り寸法rなどの輪郭を示す寸法である。内部諸元とは、主要寸法の他の軸受の構造を定める要素であり、転動体径、転動体数、接触角、ピッチ円径、ピッチ円径位置、内部隙間、予圧などである。上記機械装置は、例えば、工作機械、産業機械、搬送装置、ロボット、および各種車両等を含む。
【0019】
図1において、各個別演算手段1は、例えばそれぞれが、1台のパーソナルコンピュータ等のコンピュータ(ハードウェアおよびオペレーションシステムを含む)と、これに実行される各種アプリケーションプログラム等のソフトウェアとでなる。統括手段2は、例えばサーバ機等となるコンピュータ(ハードウェアおよびオペレーションシステムを含む)と、これに実行される各種アプリケーションプログラム等のソフトウェアとでなる。これら複数台の個別演算手段1と統括手段2とは、ローカルエリアネットワークや、インターネット等の通信ネットワークにより互いに双方向の通信が可能に接続されている。この通信ネットワークには、各種のデータベース6も接続されている。
【0020】
各個別演算手段1は、軸受技術計算手段3、最適化手段4、および計算結果/履歴管理手段5とを有している。軸受技術計算手段3は技術計算プログラムにより構成され、最適化手段4は最適化プログラムによって構成される。
【0021】
軸受技術計算手段3は、転がり軸受の主要寸法または内部諸元の値をそれぞれ示す複数または一つの設計変数の値、および転がり軸受の設計上の制約条件が入力されると、これら設計変数の値および制約条件により定まる転がり軸受の設定項目の軸受性能を設定規則に従って計算する手段である。計算する軸受性能の設定項目には、例えば、少なくとも負荷容量が含まれる。制約条件の項目としては、例えば、軸受の剛性、寿命、摩擦トルク、面圧、予圧、はみ出し量、コスト、熱処理と材料の組み合わせ、環境負荷物資含有率、転動体サイズと配置寸法との組み合わせ等がある。軸受性能を計算する設定規則は、任意に設定された規則で良い。
【0022】
最適化手段4は、設計変数の初期値および前記制約条件が入力されることで、この制約条件を前記軸受技術計算手段3へ出力すると共に、前記各設計変数の値を、設定された最適化手法で種々変えて前記軸受技術計算手段3へ出力し、この軸受技術計算手段3で計算された軸受性能の計算結果を設定基準に対して判定する処理を繰り返すことで最適となる設計変数の値を定める手段である。最適化手段4は、設定終了条件、例えば計算結果が目標値を超えるか、それ以上計算しても今までに得られた計算結果よりも優れた結果が得られないことが確定すること等の終了条件を充足するまで、設計変数の値を変えて計算を行う繰り返し処理を続ける。なお、最適化手段4は、軸受技術計算手段3で計算される軸受性能の設定項目が複数ある場合、各設定項目の計算結果に対して、重み付け等を行い、その重み付けされた値を加算して評価値を得るようにしても良い。その場合、上記の判定はその評価を用いて行う。
最適化手法は、必ずしも実際に最適となる結果を得るものでなくても良く、設計変数を許容範囲で種々異ならせて計算することで、その計算された中で最も良い結果を得ることができる手法であれば良い。その最も良い結果を効率良く得るにつき、あるいは最も実際の最適値に近い値を得るにつき、種々のアルゴリズムが提案されている。最適化の手法のアルゴリズムとしては、数理的手法,応答曲線法などの近似的手法、実験計画法,遺伝的アルゴリズム(GA)、シミュレーテッドアニーリング(SA)などの探索的手法、その他の任意の手法で良い。
【0023】
計算結果/履歴管理手段5は、軸受技術計算手段3により計算された最適化された計算結果およびそのときの設計変数を対応させて記憶すると共に、最適化手段4による最適化の過程で軸受技術計算手段3により繰り返し計算された各回の計算結果とそのときの設計変数との記録である履歴を記憶する手段である。計算結果/履歴管理手段5は、軸受技術計算手段3の計算結果を最適化手段4に送る機能、および統括手段2に送信する機能を有する。
【0024】
前記各種データベース6は、軸受のJIS規格や設計標準、材料のJIS規格等を整理して記憶した手段である。軸受技術計算手段3および最適化手段4は、各種データベース6の記憶内容を用いて、前記軸受性能の演算や最適化を処理を行う。
【0025】
前記統括手段1は、設計要求情報準備手段8と、ジュブ毎計算結果/履歴記憶手段17と、計算サーバ制御部7と、結果集計手段10と、一般化手段12と、最適値周辺分析手段16とを有し、計算サーバ制御部7にスケジュール管理手段9が設けられている。統括手段1となるコンピュータには、入出力装置18が設けられている。入出力装置18は、キーボードマウス等の入力手段、ディスプレイ、プリンタ等の出力手段と、入力および出力が可能な入出力ポート等の総称である。
【0026】
設計要求情報準備手段8は、前記各個別演算手段1に計算させる設計変数の初期値と制約条件との組である計算ジョブを複数記憶する手段である。前記計算ジョブには、個々の設計変数毎に、その設計変数を変数として扱うか、または固定値として扱うかの区別の情報であるフラグ等のON/OFF情報が含まれる。変数として扱う場合はON、固定値とする場合はOFFとされる。設計要求情報準備手段8に各計算ジョブを記憶させる処理は、例えば入力出力装置18からオペレータによる入力により行うようにされる。
設計要求情報準備手段8には、設計変数オンオフ手段11が設けられていて、この設計変数オンオフ手段11により各計算ジョブにおける設計変数を変数として扱うか固定値とするかの上記のON/OFFの切替えを行う。設計要求情報準備手段8は、入力出力装置18からのオペレータによる入力によって上記ON/OFFの切替えを行うものであっても、また適宜の設定規則により、上記ON/OFFの切替えを自動で行うものとしても良い。
【0027】
計算サーバ制御部7は、統括手段2と各個別演算手段1との間の双方向の通信制御や、統括手段2により各個別演算手段1に行わせるジョブの管理等を行う手段である。
【0028】
スケジュール管理手段9は、設計要求情報準備手段8に記憶された各計算ジョブを、設定ジョブ投入規則に従い前記各個別演算手段1へ割り振って投入する手段である。上記設定ジョブ投入規則は、各計算ジョブを割り振ることができる何らかの規則であれぱ良い。上記設定ジョブ投入規則は、例えば、設計要求情報準備手段8に記憶された各計算ジョブを、それぞれ一つずつ別の個別演算手段1に投入する規則であっても良く、また個別演算手段1の負荷を監視しながら、各個別演算手段1の負荷状況や処理能力に応じて、計算ジョブを割り振る規則であっても良い。
【0029】
ジュブ毎計算結果/履歴記憶手段17は、設計要求情報準備手段8に記憶された各計算ジョブ毎に、個別演算手段1で計算された最適値となる計算結果、およびその計算の履歴を記憶する手段である。ジュブ毎計算結果/履歴記憶手段17は、例えば各個別演算手段1の計算結果/履歴管理手段5の記憶内容を全て記憶するものとされる。
【0030】
結果集計手段10は、各個別演算手段1の計算結果を集計する手段であり、各個別演算手段1の最適化された計算結果および最適化の履歴を収集し、これら複数の個別演算手段1の計算結果の集計を行うものとされる。結果集計手段10は、この実施形態では、ジュブ毎計算結果/履歴記憶手段17に記憶された情報を集計して、上記の集計を行う。
【0031】
一般化手段12は、前記結果集計手段10の集計内容を設定規則により正規化する手段であり、その正規化された集計内容がノウハウデータベース13に記憶される。上記の正規化は、例えば、定められた軸受主要寸法で正規化した内部諸元と荷重条件との組み合わせを得る処理とされる。一般化手段12は、ニューラルネット等の学習アルゴリズムにより構成され、その正規化の結果としてノウハウデータベース13に記憶される内容は、類似案件に対して荷重条件を入力すると推奨値が得られるものとする。ノウハウデータベース13は、順次拡張されて、設計データの蓄積と適応を行う。
【0032】
推奨値計算手段14は、荷重条件が入力されると、ノウハウデータベース13に記憶された正規化された集計内容を用いて、前記設計変数の初期値とする推奨値を計算する手段である。
【0033】
最適値周辺分析手段16は、前記結果集計手段10で集計した最適化結果に対して、設計変数を最適値周辺の値とした場合の軸受性能の計算を行って分析する手段である。最適値周辺分析手段16は、例えば実験計画法などで最適値周辺の分析を行う。
【0034】
上記構成の設計装置による転がり軸受の設計方法の一例を説明する。まず、統括手段2の設計要求情報準備手段8に、計算ジョブとなる設計変数と制約条件の組を複数設定する。設計変数の設定としては、入出力装置18からの入力等により、各設計変数の初期値の設定と、個々の設計変数をオンにするかオフにするかの切替えとを行う。設計変数は、内部諸元のうちのいずれか、例えば転動体径、転動体数、接触角、ピッチ円径、ピッチ円径位置、内部隙間などである。設計変数の初期値の設定は、例えば、推奨値計算手段14に荷重条件を与えることで計算させた推奨値を設計要求情報準備手段8に設定しても良い。制約条件は、例えば、軸受の剛性、寿命、摩擦トルク、面圧、予圧、はみ出し量、コスト、熱処理と材料の組み合わせ、環境負荷物資含有率、転動体サイズと配置寸法との組み合わせ等である。制約条件の設定は、制約条件基本セット記憶手段15に記憶されたいずれかのセットを選択することで、設計要求情報準備手段8に設定しても良い。また、制約条件は、個々に入出力装置18から入力して設定しても良い。設計要求情報準備手段8に準備する複数の各計算ジョブは、例えば、それぞれ制約条件が異なるものとする。
【0035】
スケジュール管理手段9は、このように設計要求情報準備手段8に準備された各計算ジョブを、設定ジョブ投入規則(図示せず)に従い、各個別演算手段1へ割り振って投入する。
個々の個別演算手段1は、投入された計算ジョブに対して、最適化手段4と技術計算手段3とで、最適化された各設計変数の値の値を定め、その値と軸受性能とを計算結果として計算結果/履歴管理手段5に記憶する。
【0036】
このとき、個別演算手段1の技術計算手段3は、設計変数の値と制約条件とから、設定項目の軸受性能(例えば負荷容量)を設定規則に従って計算する。計算には、各種データベース6の記憶情報を利用する。最適化手段4は、計算ジョブとして投入された設計変数の初期値および制約条件が入力されることで、この制約条件を軸受技術計算手段3へ出力すると共に、各設計変数の値を、設定された最適化手法で種々変えて軸受技術計算手段3へ出力し、かつこの軸受技術計算手段3で計算された軸受性能の計算結果を設定基準に対して判定する処理を繰り返すことで、最適となる設計変数の値を定める。計算結果/履歴管理手段5には、最適化された設計変数の値と軸受性能の値の他に、最適化の過程で技術計算手段3により計算された設計変数の値と軸受性能の値を履歴として記憶する。
【0037】
統括手段2は、上記のようにして個々の個別演算手段1で計算された計算結果と履歴とを、計算結果/履歴記憶手段17に、設計要求情報準備手段8の各計算ジョブと対応して記憶する。また、結果集計手段10は、これらの最適化された計算結果および最適化の履歴を収集し、その計算結果の集計を行う。
【0038】
最適値周辺分析手段16は、結果集計手段10で集計した最適化結果に対して、設計変数を最適値周辺の値とした場合の軸受性能の計算を行って分析する。この分析は、例えば実験計画法などで行う。
【0039】
結果集計手段10の集計内容は、一般化手段12により設定規則に従って正規化され、その正規化された集計内容がノウハウデータベース13に記憶される。上記の正規化は、例えば、定められた軸受主要寸法で正規化した内部諸元と荷重条件との組み合わせを得る処理とされる。一般化手段12は、ニューラルネット等の学習アルゴリズムにより構成され、その正規化の結果としてノウハウデータベース13に記憶される内容は、類似案件に対して荷重条件を入力すると推奨値が得られるものとする。ノウハウデータベース13は、順次拡張されて、設計データの蓄積と適応を行う。
【0040】
推奨値計算手段14は、ノウハウデータベース13に記憶される内容を用い、入力された荷重条件から、推奨値を出力する。ノウハウデータベース13が拡張されるに従い、推奨値計算手段14の推奨値がより適切な値となる。
【0041】
この転がり軸受の設計装置,設計方法によると、上記のように、複数の個別演算手段1を統括する統括手段2を設け、この統括手段2に上記機能を有する設計要求情報準備手段8およびスケジュール管理手段9を設けたため、各個別演算手段1の計算ジョブの管理を一元化して行えて、効率良く行える。すなわち、転がり軸受の主要寸法や内部諸元の設計において、種々異なる制約条件での設計や、設計変数とする項目を種々変えて行う最適化計算につき、複数の個別演算手段1で同時並行的に行うときに、計算ジョブの管理を一元化して行える。また、上記機能の結果集計手段10を統括手段2に設けたため、継続的に、各個別演算手段1の計算結果による設計データを蓄積することができる。
また、各構成により、次のような利点が得られる。
【0042】
前記結果集計手段10を設け、各個別演算手段1の最適化された計算結果および最適化の履歴を収集してその計算結果を集計するようにしため、各個別演算手段1につき横断的に計算結果の集計が行える。この集計結果を横断的にディスプレイ等に表示させることで、複数の最適化計算の推移を同時に鳥瞰することができる。
【0043】
設計変数オンオフ手段11を設け、各計算ジョブ毎に、複数の設計変数のうち、前記個別演算手段1で変数値を変えさせる設計変数と、変数値を変えずに固定値として扱わせる設計変数とに切替えるようにしたため、個別演算手段1の演算プログラム等が簡素化できる。
【0044】
結果集計手段10の集計内容を設定規則により正規化する一般化手段12と、その正規化された集計内容を記憶するノウハウデータベース13とを設けため、荷重条件が入力されるとノウハウデータベース13と照合して設計変数の初期値とする推奨値を計算する推奨値計算手段14を設けることができる。
【0045】
制約条件基本セット記憶手段15を設け、複数の項目の制約条件を組み合わせた情報である制約条件基本セットを複数記憶させるようにしたため、設計要求情報準備手段8への制約条件の設定が容易となる。
【0046】
最適値周辺分析手段15を設け、結果集計手段10で集計した最適化結果に対して、設計変数を最適値周辺の値とした場合の軸受性能の計算を行って分析する最適値周辺分析手段15を設けたため、最適値を若干変更したい場合等に、適切な変更となるか否かの検討が付けやすい。
【符号の説明】
【0047】
1…個別演算手段
2…統括手段
3…軸受技術演算手段
4…最適化手段
8…設計要求情報準備手段
9…スケジュール管理手段
10…結果集計手段
11…設計変数オンオフ手段
12…一般化手段
13…ノウハウデータベース
14…推奨値計算手段
15…制約条件基本セット記憶手段
16…最適値周辺分析手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の個別演算手段と、これら複数の個別演算手段を統括する統括手段とを備え、
前記各個別演算手段は、
転がり軸受の設計を行う各項目の量をそれぞれ示す設計変数の値、および前記転がり軸受の設計上で守るべき条件である制約条件が入力されてこれら設計変数の値および制約条件により定まる転がり軸受の設定項目の軸受性能を設定規則に従って計算する軸受技術計算手段と、
前記設計変数の初期値および前記制約条件が入力されることで、この制約条件を前記軸受技術計算手段へ出力すると共に、前記各設計変数の値を、設定された最適化手法で種々変えて前記軸受技術計算手段へ出力し、この軸受技術計算手段で計算された軸受性能の計算結果を設定基準に対して判定する処理を繰り返すことで最適となる設計変数の値を定める最適化手段とを有し、
前記統括手段は、
前記各個別演算手段に計算させる設計変数の初期値と制約条件との組である計算ジョブを複数記憶する設計要求情報準備手段と、
この設計要求情報準備手段に記憶された各計算ジョブを、設定ジョブ投入規則に従い前記各個別演算手段へ割り振って投入するスケジュール管理手段と、
前記各個別演算手段の計算結果を集計する結果集計手段とを有する、
ことを特徴とする転がり軸受の設計装置。
【請求項2】
請求項1において、前記設計変数は、転がり軸受の主要寸法または内部諸元のうちのいずれかの値をそれぞれ示す変数である転がり軸受の設計装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記統括手段の前記結果集計手段は、前記各個別演算手段の最適化された計算結果および最適化の履歴を収集し、これら複数の個別演算手段の計算結果の集計を行う転がり軸受の設計装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記統括手段の前記設計要求情報準備手段は、各計算ジョブ毎に、複数の設計変数のうち、前記個別演算手段で変数値を変えさせる設計変数と変数値を変えずに固定値として扱わせる設計変数とに切替える設計変数オンオフ手段を有する転がり軸受の設計装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記結果集計手段の集計内容を設定規則により正規化する一般化手段と、この一般化手段で正規化された集計内容を記憶するノウハウデータベースと、荷重条件が入力されると前記ノウハウデータベースと照合して前記設計変数の初期値とする推奨値を計算する推奨値計算手段を設けた転がり軸受の設計装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記統括手段は、複数の項目の制約条件を組み合わせた情報である制約条件基本セットを複数記憶した制約条件基本セット記憶手段を有し、前記設計要求情報準備手段は、前記制約条件基本セット記憶手段に記憶された各制約条件基本セットを、各計算ジョブにおける制約条件とする転がり軸受の設計装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記統括手段は、前記結果集計手段で集計した最適化結果に対して、設計変数を最適値周辺の値とした場合の軸受性能の計算を行って分析する最適値周辺分析手段を設けた転がり軸受の設計装置。
【請求項8】
複数の個別演算手段と、これら複数の個別演算手段を統括する統括手段とを用い、
前記各個別演算手段は、軸受技術計算手段および最適化手段を有していて、前記軸受技術計算手段により、転がり軸受の設計を行う各項目の量をそれぞれ示す設計変数の値、および前記転がり軸受の設計上で守るべき条件である制約条件が入力されてこれら設計変数の値および制約条件により定まる転がり軸受の設定項目の軸受性能を設定規則に従って計算し、前記最適化手段により、前記設計変数の初期値および前記制約条件が入力されることで、この制約条件を前記個別演算手段へ出力すると共に、前記各設計変数の値を、設定された最適化手法で種々変えて前記軸受技術計算手段へ出力し、この軸受技術計算手段で計算された軸受性能の計算結果を設定基準に対して判定する処理を繰り返すことで最適となる設計変数の値を定め、
前記統括手段は、設計要求情報準備手段、スケジュール管理手段、および結果集計手段を有していて、前記設計要求情報準備手段により、前記各個別演算手段に計算させる設計変数の初期値と制約条件との組である計算ジョブを複数記憶し、前記スケジュール管理手段により、前記設計要求情報準備手段に記憶された各計算ジョブを、設定ジョブ投入規則に従い前記各個別演算手段へ割り振って投入し、前記結果集計手段により、前記各個別演算手段の計算結果を集計する、
ことを特徴とする転がり軸受の設計方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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