説明

転がり軸受装置及び転がり軸受の予圧方法

【課題】予圧を付与しつつクリープの発生を防止する転がり軸受装置及び転がり軸受装置の予圧方法を提供する。
【解決手段】ハウジング11と、回転軸12と、内輪131と外輪132間に配置された複数の玉138により回転軸12をハウジング11に対して回転自在に支持するアンギュラ玉軸受13と、軸方向においてハウジング11と外輪132間に配置されアンギュラ玉軸受13に予圧を付与するばね14と、を備え、ハウジング11の内周面112と外輪132の外周面133との間には所定の隙間が設けられてばね14の弾性力により外輪132が軸方向に移動可能な転がり軸受装置10において、外輪132がハウジング11に対して周方向に変位することを規制するクリープ防止手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置及び転がり軸受の予圧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位置固定のハウジングと、各種機械に連結されて回転する回転軸と、回転軸をハウジングに対して回転自在に支持する転がり軸受とからなる転がり軸受装置では、支持能力を高めるために転がり軸受を予圧することがある(例えば特許文献1〜4参照)。軸受に予圧をかける方法の一つに、ばね等の弾性手段を利用して軸受に予圧を与える「定圧予圧」がある。この予圧方法は、予圧ばねの剛性は軸受の剛性に比較して小さいので、予圧された軸受の相対的な位置が多少変化しても、予圧の大きさはほぼ一定となる特徴を有する。
【0003】
従来の転がり軸受装置の定圧予圧方法の一例として、図2には、ハウジング2と、回転軸3と、内輪4と外輪5間に配置された複数の転動体6により回転軸3をハウジング2に対して回転自在に支持する転がり軸受7と、軸方向においてハウジング2と外輪5間に配置され転がり軸受7に予圧を付与するばね8と、を備える転がり軸受装置1が記載されている。
【0004】
この転がり軸受装置1は、温度が変化しても予圧量が変化しないようにハウジング2の内周面と外輪5との外周面との間には所定の隙間が設けられており、ハウジング2の底壁と外輪の側面間に配置されたばね8の弾性力により転がり軸受7は軸方向に移動可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭58−122017号公報
【特許文献2】登録実用新案昭60−495号公報
【特許文献3】特開昭63−280918号公報
【特許文献4】特開2001−304254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この転がり軸受装置1においては、回転軸3の回転に伴って回転輪である内輪4が回転する影響で、固定輪である外輪5がハウジング2に対して周方向に変位(すべり)する、いわゆるクリープが発生するおそれがあった。このクリープの発生は、金属摩耗を引き起こし、ひいては軸受内部への摩耗粉の進入や異音、温度上昇等の要因となっていた。
【0007】
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、予圧を付与しつつクリープの発生を防止する転がり軸受装置及び転がり軸受装置の予圧方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)固定部材と、回転部材と、回転輪と固定輪間に配置された複数の転動体により前記回転部材を前記固定部材に対して回転自在に支持する転がり軸受と、軸方向において前記固定部材と前記固定輪間に配置され前記転がり軸受に予圧を付与する弾性部材と、を備え、前記固定部材の内周面と前記固定輪の外周面との間には所定の隙間が設けられて前記弾性部材の弾性力により前記固定輪が軸方向に移動可能な転がり軸受装置において、
前記固定輪が前記固定部材に対して周方向に変位することを規制するクリープ防止手段を備える、
ことを特徴とする転がり軸受装置。
(2)前記クリープ防止手段は、前記固定部材の壁部に形成された凹部又は凸部と、前記固定輪の側面に形成された凹部又は凸部から構成され、
前記弾性部材が前記固定部材の壁部に形成された前記凹部又は凸部と前記固定輪の側面に形成された前記凹部又は凸部に係合する、
ことを特徴とする(1)に記載の転がり軸受装置。
(3)固定部材と、回転部材と、回転輪と固定輪間に配置された複数の転動体により前記回転部材を前記固定部材に対して回転自在に支持する転がり軸受と、軸方向において前記固定部材と前記固定輪間に配置され前記転がり軸受に予圧を付与する弾性部材と、を備え、前記固定部材の内周面と前記固定輪の外周面との間には所定の隙間が設けられて前記弾性部材の弾性力により前記固定輪が軸方向に移動可能な転がり軸受装置の予圧方法において、
前記弾性部材を前記固定部材の壁部に形成された凹部又は凸部と、前記固定輪の側面に形成された凹部又は凸部に係合させて、前記固定輪に軸方向の予圧を付与しながら前記固定輪が前記固定部材に対して周方向に変位することを規制する、
ことを特徴とする転がり軸受装置の予圧方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転がり軸受装置及び転がり軸受装置の予圧方法によれば、固定部材の内周面と固定輪の外周面に隙間があり固定輪が軸方向に移動可能であるにも関わらず、固定輪が固定部材に対して周方向に変位するクリープ現象を防止することができる。これにより、クリープ現象に起因する金属摩耗により、軸受内部への摩耗粉の侵入や異音、温度上昇等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の転がり軸受装置の断面図である。
【図2】従来の転がり軸受装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る転がり軸受装置の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る転がり軸受装置の一実施形態の断面図である。
本実施形態に係る転がり軸受装置10は、有底円筒状のハウジング11(固定部材)と、不図示の機械要素に連結されて回転する回転軸12(回転部材)と、回転軸12をハウジング11に対して回転自在に支持するアンギュラ玉軸受13(転がり軸受)と、アンギュラ玉軸受13に予圧を付与するばね14(弾性部材)と、を備えて構成されている。
【0012】
アンギュラ玉軸受13は、内輪131(回転輪)と、外輪132(固定輪)と、内輪131と外輪132との間に不図示の保持器により周方向に所定の間隔で配置された複数の玉138(転動体)と、を備え、内輪131が回転軸12に外嵌され、外輪132がその外周面133とハウジング11の筒状部111の内周面112との間に所定の隙間を介して遊嵌(隙間ばめ)されている。従って、本実施形態では、内輪131が回転輪であり、外輪132が固定輪となっており、内輪131の内輪軌道面と外輪132の外輪軌道面間を玉138が転動することにより回転軸12がハウジング11に回転可能に支持されている。
【0013】
ばね14は、円環状の環状部140と、環状部140から軸方向両側に突出する突出部141、142とを備え、突出部141、142の弾性により軸方向に弾性力を付与可能に構成され、ばね14はハウジング11の底壁113と底壁113と対向する外輪132の側面134間に配置されている。
【0014】
ここで、本実施形態においては、外輪132の側面134には、周方向の少なくとも1ヶ所に凹部135が形成されるとともに、ハウジング11の底壁113にも、周方向の少なくとも1ヶ所に凹部114が形成されている。凹部135は外輪132の外周面133から内周面まで延びて軸方向に窪んだ凹溝であり、ばね14の突出部142が係合可能に構成されている。一方、凹部114は底壁113の外輪132の側面134と対向する位置に部分的に切り欠かれた切り欠きであり、ばね14の突出部141が係合可能に構成されている。
【0015】
このように構成された転がり軸受装置10は、ハウジング11の底壁113と外輪132の側面134間に配置されたばね14により、ハウジング102の内周面に遊嵌された外輪132がばね14の弾性力を受けて、軸方向に沿ってハウジング102の底壁122と反対側に付勢される。これにより、アンギュラ玉軸受103には予圧が付与され、内輪軌道面と外輪軌道面における玉138の接触角が調整され支持剛性が高められる。
【0016】
また、ばね14の突出部141がハウジング11の底壁113に形成された凹部114と係合し、突出部142が外輪132の側面134に形成された凹部135に係合するので、ハウジング11に対し外輪132が周方向に変位する、いわゆるクリープが防止される。即ち、回転軸12の回転により内輪131が回転し、外輪132には内輪131に連れまわされるように回転方向の力が作用するが、突出部141、142と凹部114、134との係合によりハウジング11と外輪132の周方向の相対変位が規制される。これにより、クリープに起因する軸受内部への摩耗粉の侵入や、異音、温度上昇等を防止することができる。
【0017】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。例えば、転がり軸受としてアンギュラ玉軸受を例示したが、取り付けによって隙間を調整することのできる形式の軸受、例えば円錐ころ軸受等に採用してもよい。
【0018】
また、本実施形態においてはクリープ防止手段として凹部114、134を例示したが、これに限定されず、ハウジングの底壁と外輪の側面から突出する凸部としてもよい。凹部又は凸部の形状は周方向に少なくとも1つ以上形成されていればよく、弾性部材が係合してハウジングの底壁と外輪の周方向の相対変位を規制することができれば任意の形状を採用することができる。
さらに、本実施形態においては壁部としてハウジング11の底壁113にクリープ防止手段としての凹部114を形成したが、これに限らず、ハウジングの筒状部から内径側に突出する突出部に設けてもよい。
【0019】
また、弾性部材として円環状のばね14を例示したがこれに限定されず、ハウジングの底壁と外輪の側面間にコイルばねを設ける等、軸方向に弾性を有し、凹部又は凸部間に係合可能な公知のばねを採用することができる。
【0020】
さらに、本実施形態においては、内輪131を回転輪とし、外輪132を固定輪としたが、これに限定されず、外輪を回転輪とし、内輪を固定輪とした転がり軸受装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0021】
10 転がり軸受装置
11 ハウジング(固定部材)
111 筒状部
112 内周面
113 底壁(壁部)
114 凹部(クリープ防止手段)
12 回転軸(回転部材)
13 アンギュラ玉軸受(転がり軸受)
131 内輪(回転輪)
132 外輪(固定輪)
133 外周面
134 側面
135 凹部(クリープ防止手段)
138 玉(転動体)
14 ばね(弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材と、回転部材と、回転輪と固定輪間に配置された複数の転動体により前記回転部材を前記固定部材に対して回転自在に支持する転がり軸受と、軸方向において前記固定部材と前記固定輪間に配置され前記転がり軸受に予圧を付与する弾性部材と、を備え、前記固定部材の内周面と前記固定輪の外周面との間には所定の隙間が設けられて前記弾性部材の弾性力により前記固定輪が軸方向に移動可能な転がり軸受装置において、
前記固定輪が前記固定部材に対して周方向に変位することを規制するクリープ防止手段を備える、
ことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記クリープ防止手段は、前記固定部材の壁部に形成された凹部又は凸部と、前記固定輪の側面に形成された凹部又は凸部から構成され、
前記弾性部材が前記固定部材の壁部に形成された前記凹部又は凸部と前記固定輪の側面に形成された前記凹部又は凸部に係合する、
ことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
固定部材と、回転部材と、回転輪と固定輪間に配置された複数の転動体により前記回転部材を前記固定部材に対して回転自在に支持する転がり軸受と、軸方向において前記固定部材と前記固定輪間に配置され前記転がり軸受に予圧を付与する弾性部材と、を備え、前記固定部材の内周面と前記固定輪の外周面との間には所定の隙間が設けられて前記弾性部材の弾性力により前記固定輪が軸方向に移動可能な転がり軸受装置の予圧方法において、
前記弾性部材を前記固定部材の壁部に形成された凹部又は凸部と、前記固定輪の側面に形成された凹部又は凸部に係合させて、前記固定輪に軸方向の予圧を付与しながら前記固定輪が前記固定部材に対して周方向に変位することを規制する、
ことを特徴とする転がり軸受装置の予圧方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−190274(P2010−190274A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33633(P2009−33633)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】