説明

転がり軸受装置

【課題】生産性の向上およびアウトガスの低減を図るとともに共振周波数変動およびトルク変動の発生を防止する。
【解決手段】同軸に配置された内輪3a,3bおよび外輪5a,5bと、これら内輪3a,3bと外輪5a,5bとの間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数配置される転動体7とを備え、軸方向に間隔をあけて配列される2つの転がり軸受1A,1Bと、内輪3a,3bに嵌合されるシャフト13と、外輪5a,5bを嵌合させる嵌合孔25を有するスリーブ23とを備え、内輪3a,3bとシャフト13との嵌合部分および外輪5a,5bとスリーブ23との嵌合部分の少なくとも一箇所がレーザ溶接され、レーザ溶接された嵌合部分における内輪3a,3bとシャフトとの境界または外輪5a,5bとスリーブ23との境界に対してキーホールHがずらして配置されている転がり軸受装置10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、転がり軸受装置は、同軸に配置された内輪および外輪を備える転がり軸受と、転がり軸受の内輪に嵌合される内筒と、転がり軸受の外輪を嵌合させる外筒とにより構成され、内筒および外筒が転がり軸受により相対回転自在に支持されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。特許文献1に記載の転がり軸受装置は、シャフト(内筒)と内輪およびハウジング(外筒)と外輪がそれぞれ接着剤により接合され、特許文献2に記載の転がり軸受装置では、シャフトと内輪が嫌気性の接着剤により接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−182543号公報
【特許文献2】特開2000−346085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、嫌気性接着剤にはアウトガス成分が多く、転がり軸受装置が使用されるハードディスクドライブ(HDD)の磁気ディスクにアウトガスが付着すると、記録や再生に影響を与えることがある。また、嫌気性接着剤は硬化時間が長いため、生産性が低いという不都合がある。さらに、従来の転がり軸受装置のようにシャフトと内輪およびハウジングと外輪をそれぞれ接着剤により接合した場合、温度変化によって接着剤の剛性が変動し、これにより予圧が変化して共振周波数やトルクが変動する不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、生産性の向上およびアウトガスの低減を図るとともに共振周波数変動およびトルク変動の発生を防止した転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、同軸に配置された内輪および外輪と、これら内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数配置される転動体とを備え、軸方向に間隔をあけて配列される2つの転がり軸受と、該転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材と、前記転がり軸受の前記外輪を嵌合させる嵌合孔を有する第2の部材とを備え、各前記内輪と前記第1の部材との嵌合部分および各前記外輪と前記第2の部材との嵌合部分の少なくとも一箇所がレーザ溶接され、レーザ溶接された前記嵌合部分における前記内輪と前記第1の部材との境界または前記外輪と前記第2の部材との境界に対してレーザ溶接の中心がずらして配置されている転がり軸受装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、第1の部材を各内輪に嵌合させた2つの転がり軸受の各外輪がそれぞれ第2の部材に嵌合され、内輪と第1の部材との嵌合部分または外輪と第2の部材との嵌合部分がレーザ溶接されることにより、第1の部材と第2の部材とが転がり軸受によって相対回転可能に支持される。
【0008】
この場合において、レーザ溶接の中心には溶融した部材が冷却して収縮する際に熱応力が集中し易く、また、溶接部における部材同士の境界は剛性が低いので、内輪と第1の部材との境界または外輪と第2の部材との境界からレーザ溶接の中心をずらしてレーザ溶接することにより、溶融した内輪と第1の部材または溶融した外輪と第2の部材が冷却して収縮する際に熱応力がこれらの境界に集中するのを防止し、溶接部にひび割れが発生するのを防ぐことができる。また、溶接部におけるひび割れの発生を防ぐことで、嵌合部分の接合強度を向上することができる。
【0009】
また、嵌合部分をレーザ溶接により固定することで、これらの嵌合部分を嫌気性接着剤を用いて固定する場合のようなアウトガスの発生を防止できるとともに、嵌合部分を固定するのにかかる時間を短縮して生産性の向上を図ることができる。また、接着剤を用いた場合のような温度変化による接着剤の剛性変動に起因する予圧変化を回避し、共振周波数およびトルクの安定化を図ることができる。
なお、レーザ溶接の中心は、内輪側または外輪側にずらしてもよいし、第1の部材側または第2の部材側にずらすこととしてもよい。
【0010】
上記発明においては、前記レーザ溶接の中心が、前記内輪と前記第1の部材との境界または前記外輪と前記第2の部材との境界から溶接部の径の1/8以上3/8以下の距離をずらして配置されていることとしてもよい。
【0011】
レーザ溶接の中心を内輪と第1の部材との境界または外輪と第2の部材との境界から溶接部の径の1/8以下の距離しかずらさないと、溶接部にひび割れが発生する確率が高い。一方、レーザ溶接の中心をこれらの境界から溶接部の径の3/8以上の距離ずらすと、嵌合部分を固定するのに十分な接合強度が得られない。したがって、レーザ溶接の中心をこれらの境界から溶接部の径の1/8以上3/8以下の距離をずらすことで、溶接部にひび割れが発生するのを防止するとともに嵌合部分の十分な接合強度を確保することができる。
【0012】
本発明は、同軸に配置される内輪および外輪と、これら内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数配置される転動体とを備え、軸方向に間隔をあけて配列される2つの転がり軸受と、該転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材と、前記転がり軸受の前記外輪を嵌合させる嵌合孔を有する第2の部材と、前記内輪および前記外輪の少なくとも1つに軸方向に隣接して配置され、半径方向に隣接する前記第1の部材または前記第2の部材に対してこれらとの境界からレーザ溶接の中心をずらしてレーザ溶接されている固定部材を備える転がり軸受装置を提供する。
【0013】
本発明によれば、固定部材が第1の部材または第2の部材にレーザ溶接されることにより、固定部材に隣接して配置される内輪または外輪を軸方向に固定することができる。この場合において、固定部材が内輪または外輪と物理的に分離されているので、レーザ溶接時に固定部材の熱変形が内輪または外輪に伝わらず、これらに熱変形が生じるのを防ぐことができる。したがって、内輪または外輪の真円度を悪化させることなく嵌合部分を固定し、生産性の向上およびアウトガスの低減を図るとともに共振周波数変動およびトルク変動の発生を防止することができる。
【0014】
上記発明においては、前記固定部材が、前記第1の部材を嵌合させる内輪側リングまたは前記第2の部材に嵌合される外輪側リングであることとしてもよい。
このように構成することで、第1の部材または第2の部材により内輪側リングまたは外輪側リングの半径方向の移動が規制されるので、内輪側リングまたは外輪側リングを精度よく固定することができる。また、内輪側リングまたは外輪側リングにより、内輪または外輪の周方向全体にわたる軸方向の位置ずれを防ぐことができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記内輪間または前記外輪間の一方に軸方向に挟まれるスペーサ部を備え、他方の前記内輪または前記外輪が、軸方向に隣接する前記内輪または前記外輪に対して相対的に近接する方向に押圧された状態で前記第1の部材または前記第2の部材に固定されていることとしてもよい。
【0016】
このように構成することで、内輪間または外輪間の一方にスペーサ部が挟まれることにより、他方の外輪間または内輪間にスペーサ部の長さに応じた隙間が形成されるので、他方の内輪または外輪を軸方向に押圧するだけで内輪どうしまたは外輪どうしを近接させて2つの転がり軸受に予圧をかけることができる。したがって、内輪または外輪を押圧した状態でレーザ溶接を施すことにより、転がり軸受に予圧をかけた状態を簡易に維持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生産性の向上およびアウトガスの低減を図るとともに共振周波数変動およびトルク変動の発生を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の縦断面図である。
【図2】図1の内輪とシャフトとの嵌合部分を軸方向に切断した縦断面図である。
【図3】図1の内輪とシャフトとの嵌合部分を示す斜視図である。
【図4】図3の内輪とシャフトとの嵌合部分を軸方向に切断した縦断面図である。
【図5】参考例としての内輪とシャフトとの嵌合部分を示す斜視図である。
【図6】キーホールの位置とひび割れの発生率との関係を示した図である。
【図7】キーホールの位置と接合強度との関係を示した図である。
【図8】接合強度とキーホールの位置の関係を示した別の図である。
【図9】本発明の一実施形態の変形例としての内輪とシャフトとの嵌合部分を示す斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態の変形例に係る転がり軸受装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る転がり軸受装置10は、例えば、図1に示すように、磁気記録装置(HDD)や光記録装置等に用いられるスイングアーム等を揺動するためのものである。この転がり軸受装置10は、軸方向に間隔をあけて同軸に配列される第1の転がり軸受1Aおよび第2の転がり軸受1B(以下、第1の転がり軸受1Aと第2の転がり軸受1Bを合わせて「転がり軸受1A,1B」という。)と、これら転がり軸受1A,1Bに嵌合されるシャフト(第1の部材)13と、転がり軸受1A,1Bを嵌合させる嵌合孔25を有するスリーブ(第2の部材)23とを備えている。
【0020】
第1の転がり軸受1Aは、同軸に配置された内輪3aおよび外輪5aと、これら内輪3aと外輪5aとの間の円環状空間に周方向に間隔をあけて内蔵される複数個の転動体7とを備えている。なお、転動体7は、図示しないリテーナにより等間隔配置された状態で転動可能に保持されている。
【0021】
第1の転がり軸受1Aの内輪3aの外周面には、深溝型若しくはアンギュラ型の内輪軌道が設けられている。また、外輪5aの内周面には、深溝型若しくはアンギュラ型の外輪軌道が設けられている。
【0022】
また、内輪3aにはシャフト13が嵌合されている。内輪3aとシャフト13との嵌合部分は、図2に示すように、シャフト13の外周面と内輪3aの端面とが交差する部分に施されたレーザ溶接により固定されている。同図において符号33はレーザ溶接された部材どうしの溶接部(以下、溶接部を「ウェルド」という。)を示している。
【0023】
ウェルド33においては、図3および図4に示すように、レーザ溶接の中心(以下、レーザ溶接の中心を「キーホール」という。)Hが、内輪3aとシャフト13との境界(以下、部材どうしの境界を「部材境界K」という。)から内輪3aの端面側に所定の距離をずらして配置されている。キーホールHのずらし量としては、部材境界Kからウェルド33の径(以下「ウェルド径」という。)Dの1/8以上3/8以下の距離が好ましい。ウェルド径Dは、図3,5,9に示す略長円形のウェルド33の長軸の長さとする。なお、ウェルド33は、同一の嵌合部分において周方向に間隔をあけて複数配置されている。
【0024】
外輪5aはスリーブ23の嵌合孔25に嵌合されている。これらの嵌合部分は、嵌合孔25の内周面と外輪5aの端面とが交差する部分に施されたレーザ溶接により固定されている。外輪5aと嵌合孔25との嵌合部分のウェルド33においても、部材境界Kに対してキーホールHがずらして配置されている。
【0025】
第2の転がり軸受1Bは、第1の転がり軸受1Aと同様に、内輪3bおよび外輪5bと、転動体7と、リテーナ(図示略)とを備えている。内輪3bの外周面には深溝型若しくはアンギュラ型の内輪軌道が設けられ、外輪5bの内周面には深溝型若しくはアンギュラ型の外輪軌道が設けられている。
【0026】
また、内輪3bにはシャフト13が嵌合されるとともに、外輪5bはスリーブ23の嵌合孔25に嵌合され、これらの嵌合部分がそれぞれレーザ溶接に固定されている。また、各嵌合部分のウェルド33においては、部材境界Kに対してキーホールHがずらして配置されている。
【0027】
シャフト13は、略円柱状部材または略円筒状部材であり、軸方向の一端に全周にわたって半径方向外方に突出する鍔状のフランジ部15が設けられている。このシャフト13には、フランジ部15側から順に第1の転がり軸受1Aおよび第2の転がり軸受1Bが嵌め込まれており、第1の転がり軸受1Aの内輪3aの端面がフランジ部15に突き当てられている。
【0028】
また、転がり軸受1A,1Bの内輪3a,3bが相互に近接する方向に押圧された状態でシャフト13に固定されている。これにより、転がり軸受1A,1Bに予圧がかけられた状態となり、内輪3a,3bおよび外輪5a,5bと転動体7とが隙間なく接触させられている。
【0029】
スリーブ23の嵌合孔25の内面には、軸方向の略中央に内側に向かって突出する凸部(以下、「スペーサ部」という。)27が設けられている。この嵌合孔25には、スペーサ部27を挟んで軸方向の一方に第1の転がり軸受1A、他方に第2の転がり軸受1Bがそれぞれ嵌め込まれており、外輪5a,5bの互いに対向する端面がそれぞれスペーサ部27に突き当てられている。以下、嵌合孔25の第1の転がり軸受1Aが嵌め込まれている部分を「第1の嵌合部29A」といい、第2の転がり軸受が嵌め込まれている部分を「第2の嵌合部29B」という。
【0030】
次に、このように構成された本実施形態に係る転がり軸受装置10の組み立て方法について説明する。
まず、第1の転がり軸受1Aの内輪3aにシャフト13を嵌合させ、内輪3aの端面をフランジ部15に突き当てる。そして、この嵌合部分のうち内輪3aのフランジ部15に突き当てられた端面とは反対側の端面とシャフト13の外周面とが交差する部分をレーザ溶接し、内輪3aとシャフト13との嵌合部分を固定する。
この場合において、部材境界Kから内輪3aの端面側にキーホールHをずらしてレーザ溶接する。
【0031】
ここで、キーホールHには溶融した部材(ここでは、内輪3aとシャフト13)が冷却して収縮する際に熱応力が集中し易く、また、ウェルド33のうち部材境界K付近は特に剛性が低い。そのため、例えば、図5に参考例として示すように、キーホールHと部材境界Kとがほぼ一致する場合等、部材境界Kからウェルド径Dの1/8以下の距離にキーホールHが配置されている場合には、図6に示されるように、ウェルド33にひび割れが発生する確率がきわめて高い。
【0032】
また、ほぼ内輪3aの端面のみにレーザ光が照射された場合等、部材境界KからキーホールHが離れすぎている場合(具体的には、部材境界からウェルド径Dの3/8以上の距離にキーホールHが配置されている場合)には、ひび割れの発生率は低いもののシャフト13側への溶け込み量が少ないため、図7に示されるように、嵌合部分を固定するのに十分な接合強度が得られない。同図において、符号◎は実用強度を大幅に上回ることを示し、符号○は実用強度が得られることを示し、符号×は実用強度が得られないことを示している。
【0033】
これに対し、本実施形態にかかる転がり軸受装置10では、キーホールHを部材境界Kから所定の距離、具体的には、ウェルド径Dの1/8以上3/8以下の距離ずらしてレーザ溶接することにより、溶融した内輪3aとシャフト13が冷却して収縮する際に熱応力が部材境界Kに集中するのを防止し、ウェルド33にひび割れが発生するのを抑制することができる(図6参照)。さらに、図8に示されるように、ウェルド33にひび割れが存在しない場合は接合強度を大幅に向上することができ、仮にひび割れが生じたとしても嵌合部分に十分な接合強度を確保することができる(図7参照)。図8において、縦軸は接合強度を示し、横軸はキーホールHの位置を示している。
【0034】
次に、スリーブ23の第2の嵌合部29Bに第2の転がり軸受1Bの外輪5bを嵌合させ、外輪5bの端面を嵌合孔25のスペーサ部27に突き当てる。そして、この嵌合部分のうち外輪5bのスペーサ部27に突き当てられた端面とは反対側の端面と嵌合孔25の内周面とが交差する部分をレーザ溶接し、外輪5bと嵌合孔25との嵌合部分を固定する。この場合に、内輪3aとシャフト13との嵌合部分と同様に、部材境界Kに対してキーホールHをずらしてレーザ溶接する。
【0035】
次に、第1の転がり軸受1Aに嵌め込まれたシャフト13をフランジ部15が鉛直下向きになるように固定した状態で、第2の転がり軸受1Bが嵌め込まれたスリーブ23を嵌め合わせる。具体的には、スリーブ23に嵌め込まれている第2の転がり軸受1Bの内輪3bにシャフト13を嵌合させるとともに、シャフト13が嵌め込まれている第1の転がり軸受1Aの外輪5aを第1の嵌合部29Aに嵌合させて、外輪5aの端面をスペーサ部27に突き当てる。
【0036】
この状態で、外輪5aと嵌合孔25との嵌合部分のうち外輪5aのスペーサ部27に突き当てられた端面とは反対側の端面と嵌合孔25の内周面とが交差する部分をレーザ溶接し、外輪5aとスリーブ23の嵌合孔25とを固定する。ここでも外輪5aと嵌合孔25との嵌合部分と同様に、部材境界Kに対してキーホールHをずらしてレーザ溶接する。
【0037】
続いて、内輪3bとシャフト13との嵌合部分をレーザ溶接により接合する。
ここで、転がり軸受1A,1Bの外輪5a,5b間に挟まれたスペーサ部27により、内輪3a,3b間にはスペーサ部27の長さに応じた隙間が形成されているので、内輪3aと内輪3bとを相互に近接させる方向に押圧して転がり軸受1A,1Bに予圧をかける。
【0038】
この場合に、第1の転がり軸受1Aの内輪3aがシャフト13のフランジ部15に突き当てられているので、内輪3aに対して軸方向の反対側に配置された第2の転がり軸受1Bの内輪3bを軸方向に押圧するだけで、転がり軸受1A,1Bの両方に予圧をかけることができる。
【0039】
そこで、内輪3bを軸方向に押圧し、転がり軸受1A,1Bに予圧をかけた状態で、内輪3bの端面とシャフト13の外周面とが交差する部分をレーザ溶接し、内輪3bとシャフト13とを固定する。この場合も内輪3aとシャフト13との嵌合部分と同様に、部材境界KからキーホールHをずらしてレーザ溶接する。
【0040】
このようにして、転がり軸受1A,1Bに予圧をかけた状態で転がり軸受1A,1Bとシャフト13およびスリーブ23との各嵌合部分がレーザ溶接により固定された転がり軸受装置10が完成する。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係る転がり軸受装置10によれば、部材境界Kに対してキーホールHが所定距離ずらして配置されることにより、ウェルド33にひび割れが発生するのを防止するとともに嵌合部分の接合強度を向上することができる。また、嵌合部分をレーザ溶接により固定することで、嫌気性接着剤を用いて嵌合部分を固定する場合のようなアウトガスの発生を防止できるとともに、嵌合部分を固定するのにかかる時間を短縮して生産性の向上を図ることができる。また、接着剤を用いた場合のような温度変化による接着剤の剛性変動に起因する予圧変化を回避し、共振周波数およびトルクの安定化を図ることができる。
【0042】
なお、本実施形態では、内輪3aとシャフト13との嵌合部分において、部材境界Kから内輪3aの端面側にキーホールHをずらすこととしたが、例えば、図9に示すように、部材境界Kからシャフト13の外周面側にキーホールHをずらして配置することとしてもよい。内輪3bとシャフト13との嵌合部分および外輪5bとスリーブ23の嵌合孔25との嵌合部分においても同様である。
【0043】
また、本実施形態においては、内輪3a,3bとシャフト13との嵌合部分および外輪5a,5bとスリーブ23との嵌合部分のすべてがレーザ溶接されることとしたが、嵌合部分の少なくとも一箇所がレーザ溶接されることとすればよい。この場合、他の嵌合部分は接着剤により固定することとしてもよい。また、レーザ溶接による固定と接着剤による固定とを併用することとしてもよい。
【0044】
また、本実施形態は以下のように変形することができる。
例えば、本実施形態においては、内輪3a,3bとシャフト13および外輪5a,5bとスリーブ23の嵌合孔25とをそれぞれ直接レーザ溶接することとしたが、これに代えて、例えば、図10に示す転がり軸受装置110ように、シャフト13を嵌合させるリング部材(固定部材)134A,134Bを内輪3a,3bの軸方向に隣接して配置し、リング部材134A,134Bとシャフト1との嵌合部分をレーザ溶接により固定することとしてもよい。
【0045】
この場合においては、リング部材134A,134Bとシャフト13との部材境界KからキーホールHをずらしてレーザ溶接することとすればよい。このようにすることで、ウェルド33のひび割れを防止するとともに十分な接合強度を確保してリング部材134A,134Bとシャフト13との嵌合部分を固定することができる。そして、シャフト13に固定されたリング部材134A,134Bにより、これらに隣接して配置される内輪3a、3bを軸方向に固定することができる。また、リング部材134A,134Bが内輪3a、3bと物理的に分離されているので、レーザ溶接時にリング部材134A,134Bの熱変形が内輪3a、3bに伝わらず、これらに熱変形が生じるのを防ぐことができる。したがって、内輪3a、3bの真円度を悪化させることなく嵌合部分を固定し、生産性の向上およびアウトガスの低減を図るとともに共振周波数変動およびトルク変動の発生を防止することができる。
【0046】
なお、本変形例においては、内輪3a,3b側に配置されるリング部材134A,134Bを例示して説明したが、スリーブ23の嵌合孔25に嵌合されるリング部材(固定部材)を外輪5a,5bの軸方向に隣接して配置し、これらのリング部材と嵌合孔25との嵌合部分をレーザ溶接により固定することとしてもよい。また、固定部材として環状のリング部材を例示して説明したが、これに代えて、例えば、円弧状の固定部材を採用し、シャフト13またはスリーブ23に対して周方向に間隔をあけて複数の固定部材をレーザ溶接することとしてもよい。
【0047】
また、本実施形態においては、第2の部材として、嵌合孔25の内面にスペーサ部27を備えるスリーブ23を例示して説明したが、これに代えて、スペーサ部27を備えないスリーブを採用し、転がり軸受1A,1Bの内輪3a,3b間にリング状の間座を挟む構成としてもよい。この場合、外輪5a,5b間に間座の長さに応じた隙間が形成されるので、外輪5a,5bどうしを近接させる方向に押圧し、この状態で、外輪5a,5bと嵌合孔とをレーザ溶接により固定することとすればよい。
【符号の説明】
【0048】
1A 第1の転がり軸受
1B 第2の転がり軸受
3a,3b 内輪
5a,5b 外輪
7 転動体
10,110 転がり軸受装置
13 シャフト(第1の部材)
23 スリーブ(第2の部材)
25 嵌合孔
27 スペーサ部
33 ウェルド(溶接部)
134A,134B リング部材(固定部材)
H キーホール(レーザ溶接の中心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸に配置された内輪および外輪と、これら内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数配置される転動体とを備え、軸方向に間隔をあけて配列される2つの転がり軸受と、
該転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材と、
前記転がり軸受の前記外輪を嵌合させる嵌合孔を有する第2の部材とを備え、
各前記内輪と前記第1の部材との嵌合部分および各前記外輪と前記第2の部材との嵌合部分の少なくとも一箇所がレーザ溶接され、レーザ溶接された前記嵌合部分における前記内輪と前記第1の部材との境界または前記外輪と前記第2の部材との境界に対してレーザ溶接の中心がずらして配置されている転がり軸受装置。
【請求項2】
前記レーザ溶接の中心が、前記内輪と前記第1の部材との境界または前記外輪と前記第2の部材との境界から溶接部の径の1/8以上3/8以下の距離をずらして配置されている請求項1に記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
同軸に配置される内輪および外輪と、これら内輪と外輪との間の円環状空間に周方向に間隔をあけて複数配置される転動体とを備え、軸方向に間隔をあけて配列される2つの転がり軸受と、
該転がり軸受の前記内輪に嵌合される第1の部材と、
前記転がり軸受の前記外輪を嵌合させる嵌合孔を有する第2の部材と、
前記内輪および前記外輪の少なくとも1つに軸方向に隣接して配置され、半径方向に隣接する前記第1の部材または前記第2の部材に対してこれらとの境界からレーザ溶接の中心をずらしてレーザ溶接されている固定部材を備える転がり軸受装置。
【請求項4】
前記固定部材が、前記第1の部材を嵌合させる内輪側リングまたは前記第2の部材に嵌合される外輪側リングである請求項3に記載の転がり軸受装置。
【請求項5】
前記内輪間または前記外輪間の一方に軸方向に挟まれるスペーサ部を備え、
他方の前記内輪または前記外輪が、軸方向に隣接する前記内輪または前記外輪に対して相対的に近接する方向に押圧された状態で前記第1の部材または前記第2の部材に固定されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−75067(P2011−75067A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228967(P2009−228967)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】