説明

転がり軸受装置

【目的】ほぼ一定方向に加わる軸方向荷重を受けて高速回転するアンギュラ型の玉軸受5a、6aを組み合わせて成る転がり軸受装置の疲れ寿命低下を防止して、耐久性向上を図る。
【構成】回転軸2には、使用時に左方向の荷重が加わる。この荷重を受ける左側の玉軸受5aの接触角を大きく、この荷重を受けない右側の玉軸受6aの接触角を小さくする。又は、右側の玉軸受6aを構成する玉12を小径にしたり、セラミックにより造る事で、この玉12を軽量化する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明に係る転がり軸受装置は、例えばスクリューコンプレッサの回転軸を回転自在に支持する為に利用する。
【0002】
【従来の技術】スクリューコンプレッサの回転軸等、高速で回転する軸を支承する為、図6に示す様な転がり軸受装置が、従来から使用されている。この軸受装置は、スクリューコンプレッサを構成するロータ1を固定した回転軸2の外周面と、ハウジング3の内周面との間に設けられる。尚、図6で4は、ラジアル方向の負荷Fr を支承する為のころ軸受で、本発明の対象ではない。
【0003】本発明の対象である軸受装置は、上記回転軸2の軸方向(図6の左右方向)荷重を支承する為のもので、1対のアンギュラ型の玉軸受5、6を組み合わせる事で構成される。両玉軸受5、6の接触角α(後述する図7参照)の方向は、互いに逆方向(本例では所謂正面組合せ)としている。この為、上記回転軸2が図6の左方に変位しようとする時は、同図で左方の玉軸受5が軸方向荷重を支承し、同じく右方に変位しようとする時は、右方の玉軸受6が軸方向荷重を支承して、回転軸2及びロータ1が、ハウジング3に対し変位する事を防止する。
【0004】本発明に於いては、上記ロータ1の回転に伴なって上記回転軸2には、その使用時に、ほぼ一定方向(図では右から左方向へ)の軸方向荷重Fa が加わる場合を考える。尚、図6で7、8は間座、9は抑え金である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述の様に1対のアンギュラ型の玉軸受5、6を互いの位置関係が変らない(定位置)様に組み合わせて成る転がり軸受装置は、回転軸2が高速(例えば100万dmn 以上)で回転した場合には、必ずしも十分な軸受寿命を得られない事がある。
【0006】図7は、高速回転で生じる遠心力に基づいて、軸受に加わる力を説明する為の図で、即ち、上記回転軸2を高速で回転させた場合、各玉軸受5、6を構成する玉11、12に加わる遠心力に基づいて、各玉軸受5、6の外輪13、13の内周面に、荷重Fc1が加わる。そして、各玉軸受5、6を構成する玉11、12は、この遠心力に基づいて外輪軌道14、14に、Qin1 の力で、接触角α方向から押し付けられる。そして、各玉軸受5、6を構成する玉11、12は、この力Qin1 の軸方向の分力Fain1で各外輪軌道14、14に、アキシャル方向に亙り押し付けられる。
【0007】そして、この分力によりFain1+Fain1に相当する内アキシャル荷重が、組み合わされた各玉軸受5、6に発生し、上記外輪軌道14、14と玉11、12との接触面圧を増大させて、各玉軸受5、6の疲れ寿命を低下させてしまう。
【0008】上述の様な原因による寿命低下を防止すべく、各玉軸受5、6を構成する玉11、12を、軽量なセラミック材により造ったり、或は玉11、12として小径なものを使用し、遠心力に基づいて生じる荷重Fc1を小さくする試みもなされている。
【0009】ところが、玉11、12を、縦弾性係数の大きなセラミック材により造ると、特に外部荷重(例えば上記軸方向荷重Fa )を支承する側の玉軸受5に於いて、玉11が外輪軌道14に押し付けられ、この外輪軌道14と玉11との接触面圧が軸受鋼製の玉を使用した場合よりも増大して玉軸受5の疲れ寿命が低下し、組合せ玉軸受5、6全体の疲れ寿命が低下してしまう。又、玉11、12として小径のものを使用すると、各玉軸受5、6の負荷容量(基本動定格荷重)が小さくなり、やはり疲れ寿命が低下してしまう。
【0010】本発明の転がり軸受装置は、上述の様な事情に鑑みて発明されたものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の転がり軸受装置は何れも、前述した従来の転がり軸受装置と同様に、軸の外周面とハウジングの内周面との間に、少なくとも1対のアンギュラ型の玉軸受を、互いの接触角の方向を異ならせて設け、使用時に上記軸とハウジングとの間に、外部からほぼ一定方向に加わる軸方向荷重を、上記1対の玉軸受の内の一方の玉軸受により支承する。
【0012】特に、本発明の転がり軸受装置の内、請求項1に記載されたものに於いては、上記一方の玉軸受(負荷側)の接触角よりも、他方の玉軸受(反負荷側)の接触角を小さくした事を特徴としている。
【0013】又、請求項2に記載された転がり軸受装置に於いては、上記一方の玉軸受(負荷側)を構成する玉の径よりも、他方の玉軸受(反負荷側)を構成する玉の径を小さくした事を特徴としている。
【0014】更に、請求項3に記載された転がり軸受装置に於いては、上記一方の玉軸受(負荷側)を構成する玉を軸受鋼製とし、他方の玉軸受(反負荷側)を構成する玉をセラミック製とした事を特徴としている。
【0015】
【作用】上述の様に構成される本発明の転がり軸受装置は何れも、使用時に外部から加わる軸方向荷重を支承する、一方の玉軸受の負荷容量として大きいものを使用し、又、使用時にこの軸方向荷重を支承しない他方の玉軸受は、遠心力に基づく内部アキシャル荷重の増大を抑える構成とする。この為、1対のアンギュラ型の玉軸受を組み合わせて成る転がり軸受装置全体としての、転がり疲れ寿命の低下を抑える事が出来る。
【0016】
【実施例】図1〜2は、請求項1に対応する、本発明の第一実施例を示している。前述の図6〜7に示した従来装置と同等部分には同一符号を付して重複する説明を省略し、以下、本発明の特徴部分に就いて説明する。本発明の転がり軸受装置に於いては、使用時に外部から回転軸2に加わる軸方向荷重Fa を支承する側(図1〜2の左側)に設けられた、一方の玉軸受5aの接触角α1 よりも、使用時に上記軸方向荷重Fa を支承しない側(図1R>1〜2の右側)に設けられた他方の玉軸受6aの接触角α2 を小さく(α2 <α1 )している。
【0017】上述の様に、一方の玉軸受5aの接触角α1 を他方の玉軸受6aの接触角α2よりも大きくする事で、上記一方の玉軸受5aの負荷容量を十分に確保出来る。この場合に於いて、上記接触角α1 を、前記従来装置に組み込まれた転がり軸受5、6の接触角αと同じ(α=α1 )とすれば、遠心力に基づいてこの一方の玉軸受5aに作用する軸方向分力は、Fain1となる。又、他方の玉軸受6aに加わる軸方向分力はFain2となる。この場合に於いて、この他方の玉軸受6aの接触角α2 は、上記一方の玉軸受5aの接触角α1 よりも小さい為、上記他方の玉軸受6aに加わる軸方向分力Fain2は、前記従来装置の他方の玉軸受6に作用する軸方向分力Fain1よりも小さく(Fain2<Fain1)なる。この結果、組み合わせられた玉軸受に発生する、遠心力に基づく内部アキシャル荷重は、Fain1+Fain2となり、前記従来装置に生じる内部アキシャル荷重Fain1+Fain1よりも小さくなる。
【0018】この為、上記各玉軸受5a、6aを構成する玉11、12と外輪軌道14、14との接触面圧が低下する。そして、各玉軸受5a、6aの転がり疲れ寿命が低下する事が抑えられ、1対のアンギュラ型の玉軸受5a、6aを組み合わせて成る転がり軸受装置の寿命低下を抑える事が出来る。
【0019】例えば、本発明者が内径25mm、外径62mm、幅17mmのアンギュラ型玉軸受(7305型)を2個、製作時の測定アキシャル隙間が0.030mmとなる様にして、正面組み合わせ(各図に示した様な組み合わせ)で組み合わせ、33.5kgf の軸方向荷重を受けつつ、回転数23000r.p.m.で回転する回転軸に装着した場合に於ける、各玉軸受の転がり疲れ寿命を計算した結果を、下記の第1表に示す。尚、軸方向荷重を受ける一方の側の玉軸受(負荷側軸受)の接触角は総て30度とし、他方の側の玉軸受(反負荷側軸受)の接触角は、15度、30度、40度の3種類に就いて計算した。
【0020】第1表
【表1】


【0021】この計算結果から明らかな通り、本発明の転がり軸受装置は、従来の転がり軸受装置に比べて大幅に寿命が長くなる。
【0022】次に、図3〜4は、請求項2に対応する、本発明の第二実施例を示している。使用時に外部から回転軸2に加わる軸方向荷重Fa を支承する側(図3〜4の左側)に設けられた、一方の玉軸受5bを構成する玉11aの径を、前記従来の転がり軸受装置の玉軸受5、6(図6〜7)を構成する玉11、12の径と同様に大きくし、使用時に上記軸方向荷重Fa を支承しない側(図3〜4の右側)に設けられた、他方の玉軸受6bを構成する玉12aの径を、これよりも小さくしている。
【0023】上述の様に、一方の玉軸受5bを構成する玉11aの径を大きく、他方の玉軸受6bを構成する玉12aの径を小さくする事で、上記一方の玉軸受5bの負荷容量を十分に確保出来る。この場合に於いて、遠心力に基づいてこの一方の玉軸受5bに作用する軸方向分力は、Fain1となる。又、他方の玉軸受6bに加わる軸方向分力はFain3となる。この場合に於いて、この他方の玉軸受6bを構成する玉12aの径は小さく、従ってこの玉12aに作用する遠心力も小さい為、上記他方の玉軸受6bに加わる軸方向分力Fain3は、前記従来装置の玉軸受6に作用する軸方向分力Fain1よりも小さく(Fain3<Fain1)なる。この為、組み合わせられた玉軸受に発生する、遠心力に基づく内部アキシャル荷重は、Fain1+Fain3となり、前記従来装置に生じる内部アキシャル荷重Fain1+Fain1よりも小さくなる。
【0024】この結果、上記各玉軸受5b、6bを構成する玉11a、12aと外輪軌道14、14との接触面圧が低下する。そして、各玉軸受5b、6bの転がり疲れ寿命が低下する事が抑えられ、1対のアンギュラ型の玉軸受5b、6bを組み合わせて成る転がり軸受装置の寿命低下を抑える事が出来る。
【0025】次に、図5は、請求項3に対応する、本発明の第三実施例を示している。使用時に外部から回転軸2に加わる軸方向荷重Fa を支承する側(図5の左側)に設けられた、一方の玉軸受5cを構成する玉11を、前記従来の転がり軸受装置の玉軸受5、6(図6〜7)を構成する玉11、12と同様に、軸受鋼により造り、使用時に上記軸方向荷重Fa を支承しない側(図5の右側)に設けられた、他方の玉軸受6cを構成する玉12bを、軸受鋼よりも軽量なセラミックにより造っている。
【0026】上述の様に、一方の玉軸受5cを構成する玉11を軸受鋼により造る事で、この上記一方の玉軸受5cの負荷容量を十分に確保出来る。この場合に於いて、遠心力に基づいてこの一方の玉軸受5cに作用する軸方向分力は、Fain1となる。又、他方の玉軸受6cに加わる軸方向分力は、Fain4となる。この場合に於いて、この他方の玉軸受6cを構成する玉12bは軽量で、従ってこの玉12bに作用する遠心力も小さい為、上記他方の玉軸受6cに加わる軸方向分力Fain4は、前記従来装置の他方の玉軸受6に作用する軸方向分力Fain1よりも小さく(Fain4<Fain1)なる。この為、組み合わせられた玉軸受に発生する、遠心力に基づく内部アキシャル荷重は、Fain1+Fain4となり、前記従来装置に生じる内部アキシャル荷重Fain1+Fain1よりも小さくなる。
【0027】この結果、上記各玉軸受5c、6cを構成する玉11、12bと外輪軌道14、14との接触面圧が低下する。そして、各玉軸受5c、6cの転がり疲れ寿命が低下する事が抑えられ、1対のアンギュラ型の玉軸受5c、6cを組み合わせて成る転がり軸受装置の寿命低下を抑える事が出来る。
【0028】例えば、本発明者が、各玉軸受5c、6cを構成する玉11、12bの材質を変えた場合に於ける、各玉軸受5c、6cの転がり疲れ寿命を計算した結果を、下記の第2表に示す。尚、各玉軸受5c、6cの接触角を何れも30度とし、軸方向荷重を67kgf とした以外、前記第一実施例の場合と同様の条件で計算した。
【0029】第2表
【表2】


【0030】この計算結果から明らかな通り、本発明の転がり軸受装置は、従来の転がり軸受装置に比べて大幅に寿命が長くなる。
【0031】尚、本発明は、1対のアンギュラ型玉軸受を正面組み合わせで組み合わせた転がり軸受装置に限らず、3個以上の玉軸受を組み合わせ、その内の少なくとも1個の玉軸受の接触角を変えた場合でも、或は背面組み合わせにより組み合わせた転がり軸受装置でも、適用可能である。又、組み合わされた玉軸受同士の間に間座を介在させる構造の場合でも適用可能である。又、請求項1、2、3は各々単独でも効果があるが、二つ或は三つの請求項を組み合わせる事により、更に大きな効果を得られる。
【0032】
【発明の効果】本発明は、以上に述べた通り構成され作用する為、外部アキシャル荷重に対する負荷容量を十分に確保しつつ、内部アキシャル荷重の低減を図って、転がり軸受装置の耐久性向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施例を示す断面図。
【図2】同じく要部断面図。
【図3】本発明の第二実施例を示す断面図。
【図4】同じく要部断面図。
【図5】本発明の第三実施例を示す要部断面図。
【図6】従来装置を示す断面図。
【図7】同じく要部断面図。
【符号の説明】
1 ロータ
2 回転軸
3 ハウジング
4 ころ軸受
5、5a、5b、5c 玉軸受
6、6a、6b、6c 玉軸受
7、8 間座
9 抑え金
10 内輪
11、11a 玉
12、12a、12b 玉
13 外輪
14 外輪軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸の外周面とハウジングの内周面との間に、少なくとも1対のアンギュラ型の玉軸受を、互いの接触角の方向を異ならせて設け、使用時に上記軸とハウジングとの間に、外部からほぼ一定方向に加わる軸方向荷重を、上記1対の玉軸受の内の一方の玉軸受により支承する転がり軸受装置に於いて、上記一方の玉軸受の接触角よりも、他方の玉軸受の接触角を小さくした事を特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】 軸の外周面とハウジングの内周面との間に、少なくとも1対のアンギュラ型の玉軸受を、互いの接触角の方向を異ならせて設け、使用時に上記軸とハウジングとの間に、外部からほぼ一定方向に加わる軸方向荷重を、上記1対の玉軸受の内の一方の玉軸受により支承する転がり軸受装置に於いて、上記一方の玉軸受を構成する玉の径よりも、他方の玉軸受を構成する玉の径を小さくした事を特徴とする転がり軸受装置。
【請求項3】 軸の外周面とハウジングの内周面との間に、少なくとも1対のアンギュラ型の玉軸受を、互いの接触角の方向を異ならせて設け、使用時に上記軸とハウジングとの間に、外部からほぼ一定方向に加わる軸方向荷重を、上記1対の玉軸受の内の一方の玉軸受により支承する転がり軸受装置に於いて、上記一方の玉軸受を構成する玉を軸受鋼製とし、他方の玉軸受を構成する玉をセラミック製とした事を特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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