説明

転位反応によるアルキルクロロシランの製造方法

本発明の対象は、一般式(1)RabSiCl4-a-bのシランの製造方法であって、本方法は、一般式(2)RcSiCl4-c及び(3)RdeSiCl4-d-e[式中、Rは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基であり、aの値は1、2、又は3であり、bの値は0、又は1であり、cの値は1、2、3、又は4であり、dの値は0、1、又は2であり、eの値は0、1、又は2である]のシランからの混合物を、酸化アルミニウム100質量部に対して塩化アルミニウムを1〜10質量部、並びに酸化マグネシウム、酸化銅、酸化亜鉛、及びこれらの混合物から選択される金属酸化物を0.5〜10質量部含む酸化アルミニウム触媒の存在下で反応させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を有していてよいアルキルクロロシランを、酸化アルミニウム触媒の存在下で製造する方法に関する。
【0002】
直接合成(Mueller-Rochow合成)によるアルキルクロロシランの製造からは、主生成物のジアルキルジクロロシランの他に、さらなるシラン、例えばテトラアルキルシラン、トリアルキルクロロシラン、アルキルトリクロロシランなどが生成する。これらについては代替要求が存在し、過剰な場合には活用する可能性が必要である。アルキルクロロシラン及びクロロシランの直接合成から未精製のシラン混合物を蒸留する場合、容易には加工のためにさらに利用できない前駆体及び中間フラクションが生じる。
【0003】
そこで、あらゆる形態の塩化アルミニウム(担体材料上、例えば酸化アルミニウム上のものも含む)が、転位反応を触媒することは、文献から充分に公知である。US 2003 0109735では、トリメチルシラン+メチルトリクロロシラン又はトリメチルクロロシラン+メチルトリクロロシランという反応の反応率改善のために、塩化アルミニウムに、例えば酸化マグネシウムが添加される。DE 2351258では、このような反応に反応促進剤(Promotor)を添加することが記載されており、この促進剤は、反応槽からの塩化アルミニウム搬出物を最小にするものである。これに対してEP 0971932には、可能な限り純粋な酸化アルミニウムを触媒として使用することが記載されている。ここにも、EP 0146148と同様にゼオライトの使用が充分に記載されている。
【0004】
本発明の課題は、可能な限り効果的な触媒を有する装置中で考えられるあらゆる転位反応を、純物質だけではなく、シランと、塩素、水素、及び置換基としてのアルキル基との混合物でも行うことである。
【0005】
本発明の対象は、一般式(1)
【化1】

のシランの製造法であって、
この際、一般式(2)及び(3)
【化2】

[式中、Rは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基であり、aの値は1、2、又は3であり、bの値は0、又は1であり、cの値は1、2、3、又は4であり、dの値は0、1、又は2であり、eの値は0、1、又は2である]
のシランからの混合物を、酸化アルミニウム100質量部に対して塩化アルミニウムを1〜10質量部、並びに酸化マグネシウム、酸化銅、酸化亜鉛、及びこれらの混合物から選択される金属酸化物を0.5〜10質量部含む酸化アルミニウム触媒の存在下で反応させる、前記製造方法である。
【0006】
一般式(1)のシランの製造は、塩化アルミニウム及び金属酸化物の割合によって、純粋な酸化アルミニウムと比較すると著しく促進される。一般式(2)及び(3)のシランの反応は、転位反応である。
【0007】
基Rは好ましくは、1〜3個の炭素原子を有する。基Rは特に、メチル基又はエチル基である。
【0008】
好ましい生成物は、ジアルキルジクロロシラン、トリアルキルクロロシラン、及びアルキル水素クロロシランである。
【0009】
好ましくは、転位反応[1]〜[11]が行われる:
【化3】

【0010】
酸化アルミニウムは、α−酸化アルミニウム、又は好ましくはγ−酸化アルミニウムであってよい。
【0011】
酸化アルミニウム触媒は好適には、酸化アルミニウム100質量部に対して、塩化アルミニウムを3〜6質量部有する。酸化アルミニウム触媒は好適には、酸化アルミニウム100質量部に対して、金属酸化物を1〜5質量部有する。金属酸化物又は混合酸化物としては、金属のマグネシウム、銅、及び亜鉛のあらゆる任意の酸化物又は混合酸化物が使用可能である。特に好ましいのは、酸化マグネシウムである。
【0012】
酸化アルミニウム触媒は好適には、BET表面が少なくとも100m2/g、特に好適には少なくとも230m2/g、かつ好適には最高600m2/gである。酸化アルミニウム触媒は好適には、細孔体積が少なくとも0.2cm3/g、特に好ましくは少なくとも0.5cm3/g、かつ好適には最高1.5cm3/gである。
【0013】
酸化アルミニウム触媒として好適には、塩化アルミニウムで被覆されている酸化アルミニウム−金属酸化物担体材料を使用する。
【0014】
酸化アルミニウム触媒は粉末として、又は好ましくは成形体として使用することができる。
【0015】
本方法は、好ましくは少なくとも180℃、特に好ましくは少なくとも200℃、とりわけ少なくとも220℃、かつ好適には最高370℃、特に好ましくは最高350℃、とりわけ最高300℃で実施する。本方法は、好ましくは少なくとも1bar、特に好ましくは少なくとも2bar、とりわけ少なくとも4bar、かつ好適には最高30bar、特に好適には最高15bar、とりわけ最高10barで実施する。
【0016】
本方法のための反応器としては、固体触媒について取り扱いが容易な、温度調節可能なあらゆる装置が適している。特に好ましくは、有利な温度導入を可能にする、熱媒循環付き管型反応器を使用する。
【0017】
一般式(3)のシラン(eの値が1又は2のもの)は、一般式(2)及び(3)のシラン(式(3)中、eの値が0のもの)の間の転位をも必要とするので、このような反応の場合、好適には、一般式(3)のシラン(eの値が1又は2のもの)を添加する。よって一般式(3)のシラン(eの値が1又は2のもの)は、助触媒作用を有する。
【0018】
一般式(2)及び(3)のシランからの使用混合物中における、一般式(3)のシラン(eの値が1又は2のもの)の割合は、好適には少なくとも0.5質量%、特に好適には少なくとも5質量%、とりわけ少なくとも10質量%である。
【0019】
一般式(3)の使用シラン(eの値が1又は2のもの)は、混合物として、例えばCH3HSiCl2、(CH32HSiCl、及びHSiCl3が含まれている、例えば蒸留フラクションとしても使用可能である。
【0020】
酸化アルミニウム触媒は好適には、金属酸化物含有酸化アルミニウムを塩化水素で、好適には少なくとも100℃、特に好適には少なくとも180℃、かつ好適には最高250℃で処理することによって製造する。
【0021】
こうして製造された酸化アルミニウム触媒を引き続き、熱いガス流中、好適には減圧下で、又はトリメチルクロロシランで乾燥させる。
【0022】
前記式の全ての前記の記号は、それらの意味を、それぞれ互いに無関係に有する。全ての式中でケイ素原子は四価である。
【0023】
以下の実施例及び比較例において、特に記載がない限り、全ての量の表記及びパーセントの表記は、質量に対するものであり、かつ全ての反応は、6.5bar(絶対)及び300℃の温度で実施される。表中のシランについては、以下の略号を使用した:
TCS:トリクロロシラン
M1:メチルトリクロロシラン
M2:ジメチルジクロロシラン
M3:トリメチルクロロシラン
HM:メチル水素ジクロロシラン
HM2:ジメチル水素クロロシラン。
【0024】
実施例は、Hastelloy(登録商標)製のHB3という、熱媒加熱式連続稼働型管型反応器(直径50mm、全長700mm、前接続された出発原料蒸発器、熱媒供給温度300℃、及び5.5barの反応器過圧を備えるもの)で実施した。この反応器には、約2.5×8mmの前処理された酸化アルミニウム押出成形体が充填されていた。
【0025】
純粋な酸化アルミニウムは、BET表面積が247m2/gであり、細孔体積が0.9cm3/gであった。2%の酸化マグネシウム添加物を有する酸化アルミニウムは、BET表面積が227m2/gであり、細孔体積が0.87cm3/gであった。塩化水素流中での処理により、4.5%の塩化アルミニウムが酸化アルミニウムから形成された。
【0026】
これらの生成物を、GC(質量%で較正)で分析した。
【0027】
実施例1
触媒量は、1.5lである。本発明による方法により、反応率は同じに保ったままで処理量の向上が可能である。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例2:
触媒量は、0.5lである。本発明による方法により、処理量は同じに保ったままで反応率の向上が可能である。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例3
触媒量は、1.5lである。本発明による方法により、処理量が基本的に向上できる。
【0032】
【表3】

【0033】
実施例4:
触媒量は、0.5lである。本発明による方法により、処理量は同じに保ったままで反応率の向上が可能である。
【0034】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

のシランの製造方法であって、
一般式(2)及び(3)
【化2】

[式中、
Rは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基であり、
aの値は1、2、又は3であり、
bの値は0、又は1であり、
cの値は1、2、3、又は4であり、
dの値は0、1、又は2であり、
eの値は0、1、又は2である]
のシランからの混合物を、酸化アルミニウム100質量部に対して塩化アルミニウムを1〜10質量部、並びに酸化マグネシウム、酸化銅、酸化亜鉛、及びこれらの混合物から選択される金属酸化物を0.5〜10質量部含む酸化アルミニウム触媒の存在下で反応させる、前記製造方法。
【請求項2】
基Rがメチル基又はエチル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化アルミニウム触媒が、少なくとも100m2/gのBET表面積を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化アルミニウム触媒が、少なくとも0.5cm3/gの細孔体積を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
酸化アルミニウム触媒として、塩化アルミニウムで被覆されている酸化アルミニウム−金属酸化物担体材料を使用する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
温度が200℃〜350℃である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−506890(P2012−506890A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533700(P2011−533700)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064092
【国際公開番号】WO2010/049395
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】