説明

転写加飾品の製造方法、転写加飾装置及び転写加飾品

【課題】被加飾体の表面に簡易かつ確実に転写層による加飾が施される転写加飾品の製造方法、転写加飾装置及び転写加飾品を得る。
【解決手段】第1型1に被加飾体20を配置する工程と、転写層を有する転写シート12を被加飾体20の表面に対向する位置に配置する工程と、第1型1と第2型2とを型締めして、第2型2と転写シート12との間にキャビティを形成する工程と、キャビティに媒体30を注入して、当該媒体30により転写シート12を被加飾体20に押し付けて被加飾体20に転写層を転写する工程と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加飾体の一方の面に転写による加飾が施された転写加飾品の製造方法、転写加飾装置及び転写加飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や樹脂等の成形品の表面に加飾が施された製品は、自動車、家庭用電化製品、携帯電話、パーソナルコンピュータ等あらゆる分野で使用されている。成形品の表面への加飾は、例えば、転写層を有する転写シートを成形品の表面に接触させて転写層の模様を転写することで行う。しかしながら、転写される成形品の表面形状が立体形状である場合には、転写シートを成形品の表面に沿って接触させるため、例えば、特許文献1に示す圧空成形装置を用いることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−79573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被加飾体として金属体に転写加飾する場合、金属体に対して転写シートを押し付ける圧力がある程度大きくないと、転写層が金属体の表面に密着しない。また、被加飾体の表面が絞りの深い形状等の立体形状の場合には、圧空成形装置を用いたとしても、被加飾体の表面に転写シートが均等に密着するように、均一で十分な圧力を付与することは困難であり、必要な圧力を付与するためには設備自体も大掛かりなものとなる。
【0005】
本発明は、被加飾体の表面に簡易かつ確実に転写層による加飾が施される転写加飾品の製造方法、転写加飾装置及び転写加飾品を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る転写加飾品の製造方法の第1特徴手段は、第1型に被加飾体を配置する工程と、転写層を有する転写シートを前記被加飾体の表面に対向する位置に配置する工程と、前記第1型と第2型とを型締めして、前記第2型と前記転写シートとの間にキャビティを形成する工程と、前記キャビティに媒体を注入し当該媒体により前記転写シートを前記被加飾体に押し付けるとともに、当該媒体で前記転写シートを加熱して前記被加飾体に前記転写層を転写する工程と、を備えた点にある。
【0007】
このように、転写シートを被加飾体の表面に対向する位置に配置した後、第2型と転写シートとの間に形成されたキャビティに媒体を注入し、媒体により転写シートを被加飾体に押し付けるので、被加飾体の表面が絞りの深い形状等の立体形状であったとしても、転写シートと被加飾体との間にエア溜まりが発生し難く、転写シートと被加飾体との密着性が向上し、被加飾体に確実に転写層が転写される。
また、転写シートを被加飾体に向けて押し付ける媒体として、例えば溶融樹脂を用いることで、転写シートに対し圧力と共に熱が付与される。その結果、転写シートを媒体の熱により軟化させつつ被加飾体に押し付けることができ、被加飾体に対して転写層を転写し易くすることができる。さらに、大掛かりな製造装置を用いることなく、簡易な射出金型により転写加飾品の製造が可能となった。
【0008】
本発明に係る転写加飾品の製造方法の第2特徴手段は、前記媒体が熱可塑性樹脂である点にある。
【0009】
第2型と転写シートとの間に形成されたキャビティに注入される媒体は、転写シートを被加飾体の表面に押し付けるために用いられるだけであり、最終的に製造される転写加飾品には何ら含まれない。したがって、使用済みの媒体はそのまま廃棄されてしまう可能性が高くなり、媒体が例えば溶融樹脂である場合には環境に対して悪影響を及ぼすことにもなる。しかし、媒体が熱可塑性樹脂であると、転写シートを被加飾体の表面に押し付ける際には、高温の状態で射出され、その後低温となって固化したとしても再び熱を加えることで軟化する。よって、転写シートを被加飾体の表面に押し付けるために用いられた熱可塑性樹脂は、廃棄することなく再度利用することができる。
【0010】
本発明に係る転写加飾品の製造方法の第3特徴手段は、型締め前において、前記転写シートと前記被加飾体とが当接するように減圧吸引する工程を備えた点にある。
【0011】
本特徴手段により、転写シートを被加飾体の表面に押し付ける媒体の注入前に、転写シートが被加飾体に当接した状態となるので、媒体が転写シートを被加飾体の表面に押し付ける際に、被加飾体の表面に対する転写シートの当接ムラが起き難い。したがって、転写シートと被加飾体との密着性が向上し、被加飾体に確実に転写層が転写される。
【0012】
本発明に係る転写加飾品の製造方法の第4特徴手段は、前記転写シートを前記第1型と前記第2型との型締め方向に沿って挟持する工程を備えた点にある。
【0013】
本特徴手段により、転写シートが第1型と第2型との型締め方向に沿って挟持されるので、転写シートが被加飾体の表面からずれることが抑制されるとともに、被加飾体の表面に対し転写シートを確実に挟持して当接離間することができる。
【0014】
本発明に係る転写加飾装置の第1特徴構成は、内部にキャビティを形成しつつ互いに型締め可能な第1型及び第2型と、転写層を有する転写シートと当接させた状態で被加飾体を載置可能に、前記第1型の内面に形成された載置部と、前記転写シートを前記被加飾体に押圧する媒体を前記キャビティに注入する媒体注入機構と、を備えた点にある。
【0015】
本構成により、被加飾体を転写シートと当接させた状態で載置部に載置し、第2型と転写シートとの間に形成されたキャビティに、媒体注入機構から媒体を注入して媒体により転写シートを被加飾体に押し付けることができ、結果として、確実に転写層が転写された転写加飾品を製造できる。
【0016】
本発明に係る転写加飾装置の第2特徴構成は、前記転写シートを、前記第1型と前記第2型との型締め方向に沿って挟持し、前記転写シートを前記被加飾体に対して近接離間させる挟持クランプを備えた点にある。
【0017】
本構成により、転写シートが挟持クランプで挟持された状態で被加飾体に対して当接離間するので、被加飾体の表面に転写シートが当接する状態と、被加飾体の表面から転写シートが離間する状態が確実に保持される。その結果、被加飾体の表面に転写シートが当接する状態では、被加飾体に対し転写シートの位置がずれることが抑制され、被加飾体の表面から転写シートが離間する状態では、被加飾体の第1型の載置部への載置及び、転写加飾品の第1型からの取出しが容易となる。
【0018】
本発明に係る転写加飾装置の第3特徴構成は、前記載置部に前記被加飾体を載置した状態で、前記被加飾体の周縁部が前記第1型の内面から離間するよう前記載置部の高さを設定してある点にある。
【0019】
本構成のように、載置部に被加飾体を載置した状態で、被加飾体の周縁部が第1型の内面から離間するよう載置部の高さを設定することで、被加飾体の周縁部の内方にまで転写シートを回り込ませることができ、被加飾体の表面の転写領域を拡げることができる。
【0020】
本発明に係る転写加飾装置の第4特徴構成は、前記第1型の内面に、前記転写シートから転写層が転写されるのを防止する付着防止コーティングを施してある点にある。
【0021】
本構成のように、第1型の内面に、転写シートから転写層が転写されるのを防止する付着防止コーティングを施してあると、金型の内面への転写層の転写を確実に防止することができる。
【0022】
本発明に係る転写加飾装置の第5特徴構成は、前記キャビティに前記媒体を注入した状態で、前記媒体の圧力を高める加圧機構を備えている点にある。
【0023】
本構成のように、前記キャビティに前記媒体を注入した状態で、前記媒体の圧力を高める加圧機構を備えていると、キャビティに注入された媒体が圧縮されて転写シートの被加飾体の表面への押付力がさらに全体的に増すこととなり、転写層の被加飾体の表面への転写をより確実に行うことができる。
【0024】
本発明に係る転写加飾品の特徴構成は、被加飾体の表面に形成された凹部または凸部に対して、前記第1乃至第4特徴手段を用いて転写層が転写された点にある。
【0025】
本構成のように、被加飾体の表面に形成された凹部または凸部に対し、前記第1乃至第4特徴手段を用いて転写層が転写されていると、被加飾体の表面に形成された凹部または凸部が微細であっても、媒体の熱と圧力を受けた転写層は凹部または凸部に沿って密接する。その結果、転写加飾品において、被加飾体の表面に形成された凹部または凸部は転写層によって確実に転写されて加飾されることとなる。また、転写加飾品において、被加飾体の表面加工(シボやローレット等)と絵柄の位置とを合わせることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態の転写加飾装置の構成を示す図である。
【図2】加飾シートを第1型に引き寄せた状態を示す図である。
【図3】型締めが完了した状態を示す図である。
【図4】樹脂注入の状態を示す図である。
【図5】型開き後の状態を示す図である。
【図6】転写加飾品を取り出した状態を示す図である。
【図7】第2実施形態の転写加飾装置の要部であり、(a)は樹脂注入の状態を示し、(b)は樹脂圧縮状態を示す。
【図8】別実施形態の転写加飾装置の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
〔第1実施形態〕
図1〜図6は、いずれも転写加飾品の製造工程を示す図である。転写加飾品は、被加飾体20に対し、加飾シートとして転写シート12を用いて加飾が施されて製造される。
【0029】
転写加飾品の製造に用いられる転写加飾装置は、第1型1、第2型2、転写シート保持機構、及び媒体注入機構を備える。転写加飾品は、凸状部20aを有する被加飾体20と、被加飾体20の表面に形成された転写層12aと、を備えており、以下の製造工程を経て製造される。
【0030】
[転写シート]
転写シート12は、基体シート12bと基体シート12b上に形成された転写層12aとを備えている。基体シート12bは、転写層12aを支持するシート体である。基体シート12bは、公知の転写シートの基体シートを使用することができる。基体シート12bの構成材料としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂及びアクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂が好ましく挙げられる。基体シート12bは、上記の合成樹脂から形成された単層シート、単層シートを2以上積層した積層シート、上記の合成樹脂を用いた共重合シート等が挙げられる。特に、この発明の各実施形態による転写加飾品の製造方法では、寸法安定性のよい、印刷乾燥により変形しにくいポリエチレンテレフタレート樹脂等の基体シートを容易に選択することができる。尚、真空吸引により転写シート12を被加飾体20に密着させた後、ゴム体で加圧する従来の転写では、所定の範囲で熱圧変形し易い基体シート12bを選択する必要がある。
【0031】
転写層12aは、例えば、文字や絵柄を表現する図柄層、被加飾体と転写層との接着性を向上させる接着層を備えている。被加飾体20の表面の強度を確保し耐擦傷性を向上させるハードコート層や層間密着性を向上させるアンカー層を備えたり、複数の図柄層等同種の層を複数備えたりしてもよい。基体シート12bと転写層12aとの間に基体シート12bからの転写層12aの剥離性を向上させる離型層を備えてもよい。図柄層等は、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等の印刷法、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法等のコート法により基体シート12b上に形成される。
【0032】
[被加飾体]
被加飾体20は、例えば、凸状部20aを有する金属プレス板、樹脂成形体、ガラス等である。被加飾体20の表面には、何ら前処理はなされないか、アルマイト処理(被加飾体20がアルミの場合)、フレーム処理、プラズマ処理等の表面処理がなされているか、転写層12aが形成され易いように予め接着剤の塗付等の表面処理がなされているか、転写層12aが接着し易いシートが予め貼り付けられる。被加飾体20の表面処理や表面の被覆材は、被加飾体20と表面に形成される転写層12aの各組合せに応じて適合する材質を選択する必要がある。
【0033】
[第1型]
第1型1には、被加飾体20が配置される載置部1Aが内面から突出して形成されている。載置部1Aは、被加飾体20の裏面の形状に対応する形状である。したがって、載置部1Aは、平面状や、凹状に形成されていてもよい。また、第1型1は、型締めの際に、被加飾体20に沿って加飾シートとして転写シート12が配置されるよう構成されている。第1型1の載置部1Aへの被加飾体20の配置が終了した段階で、被加飾体20と第2型2との間に転写シート12が配置される。転写シート12は転写層12aと基体シート12bとで構成されており、転写層12aが被加飾体の表面を加飾する。当該転写シート12は、例えば、ロール状の長尺フィルムを当該位置に展開配置したものである。
【0034】
[第2型]
第2型2には、被加飾体20の表面に沿った形状を有するキャビティ面2Aが形成されており、第1型1との型締めによって、被加飾体20とキャビティ面2Aとの間に樹脂が注入可能なキャビティ空間Vを形成する。
【0035】
[転写シート保持機構]
転写シート保持機構として、第1型1には、型面1aに向けて弾性付勢された第1クランプ4と第2クランプ5とが設けられている。詳細には、図1に示すように、第1クランプ4は第2クランプ5よりも型面1aに近い位置に設けられ、第1型1の内部を貫通する作動ロッド6が第1型1の内部に設けられた空間部1Bの可動プレート7に取付けられている。また、第2クランプ5は、第1型1の内部を貫通する作動ロッド8が第1型1の内部に設けられた空間部1Bの可動プレート9に取付けられている。
【0036】
可動プレート9は第1クランプ4の作動ロッド6が取り付けられる可動プレート7よりも型面1aから離間した位置に設けられており、作動ロッド8は可動プレート7を貫通して可動プレート9に取り付けられている。空間部1Bにおいて、可動プレート7は、可動プレート7と空間部1Bの型面1a側の壁面との間に配置された弾性部材7aによって型面1aから離間する方向に付勢されている。可動プレート9は可動プレート7に弾性部材9aを介して連結されており、弾性部材9aは可動プレート9を型面1aから離間する方向に付勢する。その結果、第1クランプ4、5が型面1aに向けて弾性付勢される。また、空間部1Bには可動プレート7及び9より型面1aに近い位置に固定プレート10が備えられている。
【0037】
可動プレート9がエジェクトロッド、エアシリンダ等による押圧力を受け、弾性部材9aに抗して第1型1の型面1aに近づく方向に移動すると、弾性部材9aを介して可動プレート7も同方向に移動して、作動ロッド6,8が第1クランプ4及び第2クランプ5を型面1aから離間させる。このとき、転写シート12は第1クランプ4及び第2クランプ5によって挟持された状態にある。可動プレート9がさらに型面1aに近づく方向に移動すると、可動プレート7は固定プレート10に当接して停止する。しかし、可動プレート9は可動プレート7の停止後も弾性部材9aに抗して型面1aに移動する。その結果、第2クランプ5が第1クランプ4から離間して転写シート12の移動を許容する位置となる。
【0038】
一方、可動プレート9がエジェクトロッド、エアシリンダ等の押圧力を受けない場合は、可動プレート9は弾性部材9aの弾性付勢力を受けて第1型1の型面1aから遠ざかる方向に移動し、可動プレート7も弾性部材7aの弾性付勢力を受けて第1型1の型面1aから遠ざかる方向に移動する。すなわち、第1クランプ4及び第2クランプ5は型面1aに近接し、第2クランプ5が第1クランプ4と当接して転写シート12を挟持して保持する位置となる。
【0039】
[媒体注入機構]
第2型2には、媒体注入機構として溶融樹脂(媒体)30を射出して注入するゲート11が備えられている。ゲート11は、載置部1Aに配置された被加飾体20の表面に対向するようにキャビティ面2Aに形成されている。そして、第1型1と第2型2との型締めした状態において、キャビティ面2Aと被加飾体20の表面に配置された転写シート12との間に形成されるキャビティVにゲート11から媒体が注入される。
【0040】
[媒体]
注入される媒体30は、粘度を有する液体や流動性を有する溶融樹脂等である。溶融樹脂については、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでであっても構わない。ただ、キャビティ面2Aと転写シート12との間に形成されたキャビティVに注入される媒体30は、転写シート12を被加飾体20の表面に押し付けるためだけに用いられる。よって、本発明では、使用済みの媒体30はそのまま廃棄するのではなく、再利用する。そのためには、溶融樹脂としては例えば熱可塑性樹脂を用いる。媒体30が熱可塑性樹脂であると、転写シート12を被加飾体20の表面に押し付ける際に高温の状態で注入され、その後低温となって固化したとしても再び熱を加えることで軟化するため、再利用が容易である。熱可塑性樹脂としては、例えば、PC/ABS、PE、ABS、PS、SAN、EVA、PVC、PMMA、PA、POM、PBT等が挙げられる。
【0041】
[樹脂成形の処理手順]
図1に示すように、図外のマニピュレータ等を用いて被加飾体20を第1型1の載置部1Aに配置し、第2型2と第1型1に配置された被加飾体20との間に転写シート12を配置する。このとき、第1型1の載置部1Aに配置された被加飾体20は、第1型1に設けられた吸引部13により吸引されて保持される。
【0042】
次に、第1クランプ4及び第2クランプ5により転写シート12を挟持し、必要に応じてヒータで転写シート12を加熱した後、図2に示すように、第1クランプ4及び第2クランプ5を第1型の型面1aの方向に移動して、転写シート12を被加飾体20の表面に沿わせる。このとき、転写シート12は、第1型1に設けられた吸引部13により吸引されて保持される。
【0043】
図3に示すように、第1型1と第2型2との型締めが完了すると、第2型2のキャビティ面2Aと被加飾体20の表面に配置された転写シート12との間にキャビティVが形成される。
【0044】
次に、図4に示すように、形成されたキャビティVに第2型2に備えられゲート11から溶融樹脂30を注入する。このとき、キャビティVに注入された溶融樹脂30によって転写シート12が被加飾体20の表面に向けて押圧され、その結果、被加飾体20の表面に転写シート12が確実に接着されることとなる。ここで、キャビティVに注入される溶融樹脂30が高温である場合には、溶融樹脂30が転写シート12を加熱し、被加飾体20の表面をさらに加熱することとなり、被加飾体20の表面への転写シート12の転写層12aの転写がより確実に行われる。ここで、射出される溶融樹脂の温度は、例えば280℃以上になるよう設定されており、第1型1及び第2型は例えば80℃以上になるよう設定されている。
【0045】
図5に示すように、溶融樹脂30が硬化した後、第2型を第1型から離間して型締めを開放し、転写フィルム12を第1クランプ4及び第2クランプ5で挟持した状態のまま被加飾体20の表面から離間する。その後、図6に示すように、第1型1に設けられた押し出し棒(図示せず)により転写加飾品Pを押し出して取り出すとともに、第2型2に設けられた押し出し棒(図示せず)により硬化した溶融樹脂30を押し出し、転写シート12の送りを再開する。
【0046】
得られた転写加飾品Pは、被加飾体20の表面が転写層12aにより確実に加飾される。こうして、本発明に係る製造方法及び転写加飾装置により、被加飾体20の表面の加飾を行うことができる。また、溶融樹脂30として熱可塑性樹脂を用いた場合には、硬化した樹脂に熱を加えて溶融樹脂に戻す等の別処理を行い、キャビティVに注入する媒体として再利用する。
【0047】
〔第2実施形態〕
この実施形態では、第1実施形態の構成と異なる構成についてのみ説明し、同じ構成については説明を省略する。本実施形態では、キャビティVに媒体30を注入した状態で、媒体30の圧力を高める加圧機構が設けられている。図7(a)は溶融樹脂が注入された直後の状態を示し、図7(b)は注入された溶融樹脂が圧縮された状態を示す。
【0048】
図7(a)、図7(b)に示すように、キャビティV内の媒体30の圧力を高める加圧機構として、第2型2のキャビティ面の内部にスライド型3が備えられている。スライド型3は、第2型2に対して型締め方向に相対移動可能であり、スライド型3と第2型2との間には、スライド型3を第1型1から離間する方向に付勢する弾性部材3aが設けられている。型締め後において溶融樹脂30が射出される際には、スライド型3は第2型2のキャビティ面から後退した位置に保持され(図7(a))、溶融樹脂30の射出が完了した後に、スライド型3を弾性部材3aに抗して第1型1に向けて前進させる(図7(b))。その結果、キャビティVの領域は小さくなり、注入された溶融樹脂30が圧縮され、転写シート12の被加飾体20の表面全体への押圧力が増すこととなり、被加飾体20への転写層による転写がより確実に行われる。
【0049】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、被加飾体20は、その周縁部が第1型の型面1aに当接した状態で第1型1の載置部1Aに載置された例を示したが、図8に示すように、第1型1に形成された載置部1Aが、載置部1Aに被加飾体20が載置された状態で、被加飾体20の周縁部20bが第1型1の型面1aから離間するよう高さ設定されていてもよい。こうして、被加飾体の周縁部20bが第1型1の型面1aから離間していると、転写シート12は被加飾体20の周縁部20bからその内方に回り込むことが可能となり、被加飾体20の転写領域が拡がることとなる。なお、転写シート12及び溶融樹脂30が被加飾体20の周縁部20bからその内方に回り込んでいると、型開きの際に、被加飾体20の表面から溶融樹脂30及び転写シート12がスムーズに離間しない場合が発生する。このような場合には、溶融樹脂30をゴム、ウレタン系の柔らかい樹脂で構成し、転写シート12は枚葉にする。あるいは、アンダーカットをはずす機構を金型に組み込む。
【0050】
(2)図8に示すように、第1型1の型面1aに、転写シート12から転写層が転写されるのを防止する付着防止コーティング14が施されていてもよい。このように、型面1aに付着防止コーティング14が施されていると、型面1aへの転写層12aの転写を確実に防止することができる。付着防止コーティング14としては、型面1aにシリコンやフッ素加工を施したり、表面凹凸処理(ブラスト・エッチング)をしたり、これら両者を併用して行う。
【0051】
(3)第1クランプ4及び第2クランプ5の転写シート12を保持する面にテフロン(登録商標)やコーティング済みリング等の摩擦を低減する部材を配置してもよい。こうすると、型締め前に被加飾体20の凸状部20aに転写シート12を押し付ける際に、転写シート12の移動が許容され、転写シート12を無理に引き伸ばすことなく、被加飾体20の凸状部20aに沿わせることが可能となる。
【0052】
(4)上記の実施形態では、被加飾体20の表面に凹凸は形成されていないが、図8に示すように、被加飾体20は例えば貫通部20c等を備えて表面に凹凸が形成されていてもよい。この場合であっても、溶融樹脂(媒体)30が転写シート12を貫通部20cに密着するように押し付けて被加飾体20に転写層12aを確実に転写することとなる。
【0053】
(5)上記の実施形態では、被加飾体20の表面に転写層12aによる加飾のみを施したが、第1型1にも樹脂を射出するゲートを設け、被加飾体20の表面に転写層12aによる加飾と同時に被加飾体20の裏面に樹脂部を成形するようにしてもよい。また、第1型1に金型の温度を調整する温度調整機構を設けて、被加飾体20の温度を調整するようにしてもよい。こうすると、被加飾体20が例えば金属体である場合には、温度調整機構によって加熱された被加飾体20の表面に対し、転写シートの転写層は転写し易くなる。
【0054】
(6)上記の実施形態では、転写加飾装置を垂直方向(縦向き)に配置したが、水平方向(横向き)に配置してもよい。
【0055】
(7)上記の実施形態では、転写層12aを有する転写シート12を用いる例を示したが、これに代えて、被加飾体20の表面に対し、無地の基体シートまたは基体シート上に模様等が付されたインサートシートをそのまま一体にして加飾する構成にしてもよい。また、上記の実施形態では、転写シート12をロール状の長尺フィルムにして被加飾体20の表面に対向する位置に展開配置する例を示したが、被加飾体20の外形に合わせてカッティングしたものを配置してもよいし、被加飾体20より大きい任意の形状(例えば、長方形の枝葉シート)でもよい。
【0056】
本発明の各実施形態による転写加飾品の製造方法では、被加飾体20の表面に転写シート12を密着させ、転写層12aを転写させるにあたって、溶融樹脂30による加圧及び加熱を用いている。加圧は転写シート12への直接的な加圧であり、加熱は、転写シート12への直接的な加熱及び被加飾体20への加熱である。溶融樹脂30といった流体により転写シート12を被加飾体20の表面に密着させているため、被加飾体20の表面がなめらかな場合はもとより、エンボスやシボといった微細な凹凸形状の場合であっても、その凹凸形状に溶融樹脂30が流れ込み、転写シート12が凹凸形状に精度よく密着し、凹凸形状に精度よく転写層12aを転写させることができる。あるいは、大きな凹凸形状であっても、その凹凸形状の隅部にまで精度よく転写層12aを転写させることができる。また、溶融樹脂30の流入地点から徐々に拡大する、溶融樹脂30の流れによる連続的な加圧であるため、転写シート12を密着させる過程での、転写シート12と被加飾体20との間に空気溜まりを作ってしまう、いわゆるエアかみの発生も効果的に防止することができる。
【0057】
また、本発明の各実施形態による転写加飾品の製造方法では、基体シート12bに寸法安定性のよい、印刷乾燥により変形しにくい材料を選択することができるため、図柄の位置や大きさの印刷精度の高い転写シート12を用いて、転写を行うことができる。そのため、結果として、図柄の位置や大きさと被加飾体20の凹凸形状との位置精度の高い転写加飾品Pを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、自動車、家庭用電化製品、携帯電話、パーソナルコンピュータ等、さまざまな分野において、内装品、外装品を問わず、使用される転写加飾品及び、被加飾体の表面に転写層が形成された転写加飾品の製造に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 第1型
2 第2型
3 スライド型
4 第1クランプ
5 第2クランプ
11 ゲート
12 転写シート(加飾シート)
13 吸引部
14 付着防止コーティング
20 被加飾体
20a 凸状部
30 媒体(溶融樹脂)
V キャビティ
P 転写加飾品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1型に被加飾体を配置する工程と、
転写層を有する転写シートを前記被加飾体の表面に対向する位置に配置する工程と、
前記第1型と第2型とを型締めして、前記第2型と前記転写シートとの間にキャビティを形成する工程と、
前記キャビティに媒体を射出して、当該媒体の圧力で前記転写シートを前記被加飾体に押し付けるとともに、当該媒体で前記転写シートを加熱して前記被加飾体に前記転写層を転写する工程と、を備えた転写加飾品の製造方法。
【請求項2】
前記媒体が熱可塑性樹脂である請求項1記載の転写加飾品の製造方法。
【請求項3】
型締め前において、前記転写シートと前記被加飾体とが当接するように減圧吸引する工程を備えた請求項1又は2に記載の転写加飾品の製造方法。
【請求項4】
前記転写シートを前記第1型と前記第2型との型締め方向に沿って挟持する工程を備えた請求項1〜3のいずれか一項に記載の転写加飾品の製造方法。
【請求項5】
内部にキャビティを形成しつつ互いに型締め可能な第1型及び第2型と、
転写層を有する転写シートと当接させた状態で被加飾体を載置可能に、前記第1型の内面に形成された載置部と、
前記転写シートを前記被加飾体に押圧する媒体を前記キャビティに注入する媒体注入機構と、を備えた転写加飾装置。
【請求項6】
前記転写シートを、前記第1型と前記第2型との型締め方向に沿って挟持し、前記転写シートを前記被加飾体に対して近接離間させる挟持クランプを備えた請求項5記載の転写加飾装置。
【請求項7】
前記載置部に前記被加飾体を載置した状態で、前記被加飾体の周縁部が前記第1型の型面から離間するよう前記載置部の高さを設定してある請求項5又は6に記載の転写加飾装置。
【請求項8】
前記第1型の型面に、前記転写シートから転写層が転写されるのを防止する付着防止コーティングを施してある請求項5〜7の何れか一項に記載の転写加飾装置。
【請求項9】
前記キャビティに前記媒体を注入した状態で、前記媒体の圧力を高める加圧機構を備えている請求項5〜8のいずれか一項に記載の転写加飾装置。
【請求項10】
被加飾体の表面に形成された凹部または凸部に対し、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法を用いて転写層が転写された転写加飾品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−35550(P2012−35550A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178966(P2010−178966)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】