説明

転写印刷用積層体

【課題】 マット調加飾成形品の艶消し効果に優れる上に、生産性にも優れた、転写印刷用積層体の提供を目的とする。
【解決手段】 フィラーを含有してなるポリビニルアルコール系フィルムからなるベースフィルム、硬化性樹脂層、意匠層が、この順で積層された転写印刷用積層体、さらに意匠層上に接着層が積層体された転写印刷用積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の内装材又は外装材、幅木、回縁等の造作部材、窓枠、扉枠等の建具、壁、床、天井等の建築物の内装材、テレビ受像機、携帯電話部品、空調機等の家電製品の筐体、容器などに用いられるマット調加飾成形品の製造に用いられる転写印刷用積層体に関するものであり、更に詳しくは、マット調加飾成形品の艶消し効果に優れる上に、生産性にも優れた転写印刷用積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電製品、化粧品容器、雑貨品などの成形品表面に意匠を印刷する方法として、転写法が知られている。転写法とは、転写印刷用積層体を用いて、転写印刷用積層体中の転写層を、成形品表面に転写させる方法である。
【0003】
転写印刷用積層体は、通常、図4に示すように、基体シート11上に離型層12、ハードコート層13、意匠層14、接着層15が、各順に積層されたものである。ハードコート層13、意匠層14、及び接着層15が成形品20表面に転写される転写層Cとなる。すなわち、図4に示すような転写印刷用積層体を、接着層15を介して、成形品表面に接着させた後、離型層12にて剥離すると、成形品20の表面に転写層Cのみを転移させることができる。
【0004】
近年、成形品の表面のギラツキを防止したり、デザインの高級化を図る目的で、成形品表面を粗面化することにより、艶消し(マット調)にした、マット調加飾成形品の要求が増えてきている。
表面をマット調にするための転写法に用いられる転写印刷用積層体としては、例えば、特開2001−260596号(特許文献1)に、基体シート、離型層、マット剤を分散させた水溶性樹脂からなる微細な凹凸を有する部分マット層、ハードコート層、意匠層、接着層が積層された転写印刷用積層体が開示されている(請求項1、段落番号0016、0021)。このような転写印刷用積層体において、部分マット層、ハードコート層、意匠層、接着層が、成形品表面に転写される転写層となる。
【0005】
特許文献1に開示の転写印刷用積層体において、基体シートとしては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム、離型層としてはアミノアルキッド系樹脂などが用いられ(段落番号0016、0039)、部分マット層としては、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂に、シリカ粒子等の無機顔料やフタロシアニン等の有機顔料をマット剤を分散させたものが用いられている(段落番号0017、0040)。ハードコート層としては、紫外線等で硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂が用いられる(段落番号0019)。
【0006】
このような転写印刷用積層体を、被転写体である成形品に転写した後、活性エネルギー線を照射してハードコート層を架橋硬化させ、次いで、部分マット層の水溶性樹脂を水洗により除去して、部分マット調加飾成形品を製造している(段落番号0020、0045)。部分マット層であった部分の除去により、残存した部分の表面が凹凸を有し、マット調となっている。
【0007】
また、特開2008−173858号公報(特許文献2)には、マットハードコート層付き加飾成形品が開示されている。ここに開示されているマット調の加飾成形品は、ハードコート層上に、粒径0.1〜2μmの微粒子を含有するマットハードコート層が形成されたもので、マットハードコート層は、転写印刷用積層体の転写層として転写することにより、あるいは成形型内に、マット剤となる微粒子を含有させた樹脂を注入成形することによって(段落番号0021)、あるいは成形品に、微粒子を含有するハードコート用樹脂溶液をコートすることにより、マットハードコート層を形成している(段落番号0022)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−260596号公報
【特許文献2】特開2008−173858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1の方法では、あくまでも従来から用いられている離型層を有する基材シートに対して、部分マット層を形成する分散液を塗工するものであり、そして、艶消し効果を発揮するための凹凸面は、活性エネルギー線の照射により硬化性樹脂を硬化させた後、部分マット層を水洗除去することにより形成される。一般に用いられている離型層を有する基材シートは高価なものであるが、分散液を塗工するという製法上、必要なものである。また、上記水洗除去工程は、節水、廃水処理の観点、及び作業工程が多くなることによる製造管理の煩雑さの観点から、代替工程が望まれている。更に、部分マットではなく、全体にマット面を形成する場合、艶消し性の点で、まだまだ満足のいくレベルではない。
【0010】
上記特許文献2の方法では、水洗除去工程は不要であるが、艶消し効果が、表層部を構成するマットハードコート層に含有されている微粒子の乱反射に基づいている。従って、十分な艶消し効果を得るためには、表面部に存在する微粒子の割合を高める必要があり、ひいてはマットハードコート層の微粒子含有率を高める必要がある。しかしながら、微粒子含有率の増大にしたがって、樹脂の流動性が低下し、成形型への注入工程にトラブルが発生しやすくなるなど、連続成形性が損なわれる。マットハードコート用樹脂液をコートする方法によれば、このようなトラブルを防止することはできるが、ハードコート形成後、さらに、マットハードコート用樹脂液の塗工作業、さらには乾燥工程が必要になるために、マット調加飾成形品の艶消し効果を得るまでの作業工程が多くなり、製造管理が煩雑で、面倒である。
【0011】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、転写後、艶消し効果に優れた転写層表面を簡易な工程で得ることができ、マット調加飾成形品の生産性に優れた転写印刷用積層体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、加飾成形品、特にマット調加飾成形品を、簡便な方法で生産性アップするためには、活性エネルギー線で活性エネルギー線硬化型樹脂を硬化させた後には、水洗除去工程、塗工工程、乾燥工程等の余分な工程を行わなわないで済むようにすべきであり、剥離するといった簡易な工程が最も効率的であると考えた。転写後、剥離するだけでよい転写印刷積層体としては、ベースフィルムとしてポリビニルアルコールフィルムを用いた転写印刷積層がある。しかしながら、この転写印刷積層体はマット調加飾成形品の製造に用いられるものでなく、転写層の表面に艶消し効果は付与されていない。そこで、本発明者らは、転写後、剥離するだけで、転写層の表面に艶消し効果を付与できる転写印刷用積層体を創出すべく、鋭意研究を重ね、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の転写印刷用積層体は、フィラーを含有してなるポリビニルアルコール系フィルムからなるベースフィルム上に、硬化性樹脂層、意匠層が各順に積層された転写印刷用積層体であることを特徴とする転写印刷用積層体である。
本発明の転写印刷用積層体においては、硬化性樹脂層及び意匠層が転写層となる。本発明の転写印刷用積層体は、意匠層上に、さらに接着層が積層されたものであってもよく、この場合、硬化性樹脂層、意匠層及び接着層が転写層となる。
【0014】
硬化性樹脂層は、成形品表面に転写された後、硬化され、得られた加飾成形品の保護層をなる。硬化性樹脂の硬化後、ベースフィルムを容易に剥がすことができ、これにより艶消し効果を有する保護層表面が形成される。従って、上記構成を有する本発明の転写印刷用積層体は、マット調加飾成形品の製造に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の転写印刷用積層体によれば、加飾成形品の表層部分が、凹凸面となるように転写されるので、硬化性樹脂層を硬化し、ベースフィルムを剥離するだけで、加飾成形品表面に、マット調を有する保護層を形成できる。従って、本発明の転写印刷用積層体を用いることにより、水洗除去工程や塗工工程、乾燥工程といった、余分な工程、廃水処理等の余分な設備を必要とすることなく、優れた艶消し効果を有するマット調加飾成形品を製造することができ、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の転写印刷用積層体の一実施形態の構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の転写印刷用積層体の他の実施形態の構成を示す模式断面図である。
【図3】図2の転写印刷用積層体を用いて製造されたマット調加飾成形品の構成を説明するための模式図である。
【図4】従来の転写印刷用積層体の構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の転写印刷用積層体は、図1に示すように、フィラーを含有してなるポリビニルアルコール系フィルムからなるベースフィルム1、硬化性樹脂層2、意匠層3が、各順に積層されたものであり、さらに図2に示すように、意匠層3に接着層4が積層されたものであってもよい。以下、各層について、詳述する。
【0018】
<ベースフィルム>
ベースフィルム1は、フィラーを含有してなるポリビニルアルコール系フィルムからなる。すなわち、フィラーを含有してなるポリビニルアルコール系フィルムをベースフィルム1として用いている。
【0019】
本発明で用いられるポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂及びフィラー、その他必要に応じて可塑剤、界面活性剤等を所定の配合量にて配合したポリビニルアルコール系樹脂組成物を、製膜ベルト上または製膜ドラム上に流延し、乾燥した後、製膜ベルト又は製膜ドラムから剥がすことにより得られる。ポリビニルアルコール系樹脂組成物を流延、乾燥させた後、製膜ベルト上または製膜ドラムから剥離しつつ、連続的に芯材等に巻き取っていくことにより、長尺のポリビニルアルコール系フィルムの巻回体を製造することができる。このようにして製造されるポリビニルアルコール系フィルムは、通常、製膜ベルト又は製膜ドラムと接触していない側の面において、フィラーに起因する凹凸面が形成されている。
【0020】
上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールのいずれでもよいが、中でも本発明では、ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。
【0021】
ポリビニルアルコールは、酢酸ビニルを単独重合し、更にそれをケン化して製造される。変性ポリビニルアルコールは、酢酸ビニルと他の不飽和単量体との重合体をケン化して製造されたり、ポリビニルアルコールを後変性したりして製造される。変性量は、10モル%以下であることが好ましく、特には7モル%以下、更には5モル%以下であることが好ましい。
【0022】
上記で他の不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。
【0023】
また、後変性の方法としては、ポリビニルアルコールをアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化する方法等が挙げられる。
【0024】
また、ポリビニルアルコール系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることも好ましく、かかる側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(a)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、;(b)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法;(c)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法;(d)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0025】
かかるポリビニルアルコール系樹脂の中でも、ケン化度が75モル%以上のものが好ましく、更には78〜99.7モル%、特には85〜95モル%が好ましい。かかるケン化度が低すぎると硬化性樹脂層2の硬化物からなるハードコート層に対する離型性が低下する傾向がある。
【0026】
また、ポリビニルアルコール系樹脂の20℃における4重量%水溶液の粘度としては10〜70mPa・s(20℃)が好ましく、更には15〜60mPa・s(20℃)、特には20〜50mPa・s(20℃)が好ましい。該粘度が低すぎるとフィルム強度等の機械的物性が低下する傾向があり、高すぎると製膜性が低下する傾向がある。
尚、上記粘度はJIS K6726に準じて測定されるものである。
【0027】
更に、かかるポリビニルアルコール系樹脂は、フィルムの着色防止、強度低下防止のために樹脂中に含有される酢酸ナトリウムの量を0.8重量%以下、好ましくは0.5重量%以下に調整することが有利である。かかる酢酸ナトリウムの含有量の調整については、メタノール等のアルコール又は水により洗浄する方法等が一般的である。
【0028】
ポリビニルアルコール系フィルムに含有されるフィラーとしては、多糖類および/または無機類があげられる。多糖類の中でも、澱粉が好ましく、例えば、生澱粉(トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、コムギ澱粉、キッサバ澱粉、サゴ澱粉、タピオカ澱粉、モロコシ澱粉、コメ澱粉、マメ澱粉、クズ澱粉、ワラビ澱粉、ハス澱粉、ヒシ澱粉等);物理的変性澱粉(α−澱粉、分別アミロース、湿熱処理澱粉等);酵素変性澱粉(加水分解デキストリン、酵素分解デキストリン、アミロース等);化学分解変性澱粉(酸処理澱粉、次亜塩素酸酸化澱粉、ジアルデヒド澱粉等);化学変性澱粉誘導体(エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、架橋澱粉等)などが用いられる。なお、化学変性澱粉誘導体のうちエステル化澱粉としては、酢酸エステル化澱粉、コハク酸エステル化澱粉、硝酸エステル化澱粉、リン酸エステル化澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉、キサントゲン酸エステル化澱粉、アセト酢酸エステル化澱粉など、エーテル化澱粉としては、アリルエーテル化澱粉、メチルエーテル化澱粉、カルボキシメチルエーテル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、ヒドロキシプロピルエーテル化澱粉など、カチオン化澱粉としては、澱粉と2−ジエチルアミノエチルクロライドの反応物、澱粉と2,3−エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドの反応物など、架橋澱粉としては、ホルムアルデヒド架橋澱粉、エピクロルヒドリン架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、アクロレイン架橋澱粉などが挙げられる。中でも入手の容易さや経済性点から、生澱粉が好適に用いられる。
【0029】
上記無機類としては、例えば、タルク、クレー、シリカ、ケイ藻土、カオリン、雲母、アスベスト、石膏、グラファイト、ガラスバルーン、ガラスビーズ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ウイスカー状炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドーソナイト、ドロマイト、チタン酸カリウム、カーボンブラック、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、加工鉱物繊維、炭素繊維、炭素中空球、ベントナイト、モンモリロナイト、銅粉などが挙げられる。
【0030】
これらのフィラーは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、好ましくは澱粉である。澱粉をフィラーとして含有した、ポリビニルアルコール系樹脂組成物は、無機類をフィラーとして含有したポリビニルアルコール系樹脂組成物と比べて、ポリビルアルコール系フィルムの製造において、製膜ベルトや製膜ドラムからの剥離性が優れている。従って、澱粉をフィラーとして用いることは、ベースフィルムとなるポリビニルアルコール系フィルムの生産性に優れ、また、剥離し易いことから、薄膜フィルムであっても、剥離面との反対側の面に及ぶ、剥離の影響が小さくて済むので、フィラーの含有量に比例した凹凸面が得られやすいといった利点もある。
【0031】
上記フィラーの含有量については、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、3〜30重量部であることが好ましく、より好ましくは5〜25重量部、特に好ましくは8〜20重量部、殊に好ましくは10〜20重量部である。フィラーの含有量が少なすぎると加飾成形品の艶消し効果が低くなる傾向があり、多すぎるとポリビニルアルコール系フィルムの強度、可撓性が低下するため、彎曲面を有する被転写体のように、被転写体の立体形状に沿って転写させる必要がある場合、転写印刷用積層体としての被転写体への追従性が低下する傾向がある。
【0032】
なお、フィラーを含有したポリビニルアルコール系フィルムは、通常一般的に水溶性フィルムとして用いられるポリビニルアルコール系フィルムでも知られている。しかしながら、本発明において、転写印刷用積層体のベースフィルムとして用いられるポリビニルアルコール系フィルムは、一般に用いられる水溶性フィルムに含まれているフィラー含有量と比べて多めの量のフィラーを含有しているという特徴がある。すなわち、本発明で使用するポリビニルアルコール系フィルムは、転写印刷用積層体のベースフィルムとしての役割に加えて、十分な凹凸を有する表面を形成して、艶消し効果を発揮させる役割を有しており、フィルムとしての可撓性、強度を損なわない範囲内で、十分量のフィラーを含有させることが好ましいからである。
【0033】
また、上記フィラーの平均粒子径は、0.1〜30μmであることが好ましく、特には0.3〜25μm、更には0.5〜20μmであることが好ましい。平均粒子径が小さすぎると加飾成形品の艶消し効果が低下する傾向がある。一方、平均粒子径が大きすぎると、硬化性樹脂層の材料となる硬化性樹脂組成物を、ベースフィルム1上に塗工する際に気泡などを噛み易くなり、気泡を有する硬化性樹脂層が形成されやすくなってしまう。なお、含有されるフィラーの粒子径については、ポリビニルアルコール系フィルムの厚みとの関係でも適宜調整され、ポリビニルアルコール系フィルム表面にフィラーに起因する凹凸が形成されるように行うことが重要である。
【0034】
ポリビニルアルコール系フィルムを製造するに当たっては、ポリビニルアルコール系樹脂、フィラーの他にも、必要に応じて、可塑剤、界面活性剤を適宜配合することも好ましい。
【0035】
上記可塑剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピリングリコール等のアルキレングリコール類やトリメチロールプロパン等があげられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いられる。
【0036】
上記ポリビニルアルコール系樹脂に配合される可塑剤の含有量は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、20重量部以下であることが好ましく、特に好ましくは1〜15重量部である。上記可塑剤の含有量が少なすぎると可塑効果が低く、得られるベースフィルムの破断の原因となる傾向があり、多すぎると放置安定性が低下する傾向がある。
【0037】
界面活性剤を含有することにより、ポリビニルアルコール系フィルムの製膜装置であるドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性がさらに向上することから、好ましく配合される。界面活性剤としては、具体的には、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、剥離性の点でポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを用いることが好適である。
【0038】
上記界面活性剤の含有量については、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部であることが好ましく、0.03〜15重量部であることがより好ましい。上記界面活性剤の含有量が少なすぎると、製膜装置のドラムやベルト等の金属表面と製膜したフィルムとの剥離性が低下し、ポリビニルアルコール系フィルムの生産性が低下する傾向があり、逆に多すぎるとフィルム表面にブリードして硬化性樹脂層を塗工する際に厚み斑が生じ易くなる傾向がある。
【0039】
ポリビニルアルコール系フィルムは、さらに、本発明の効果を妨げない範囲で、架橋剤、抗酸化剤(フェノール系、アミン系等)、安定剤(リン酸エステル類等)、着色料、香料、増量剤、消泡剤、防錆剤、紫外線吸収剤、さらには他の水溶性高分子化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キトサン、キチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)等の他の添加剤が配合されていてもよい。
【0040】
以上のようなポリビニルアルコール系樹脂及びフィラー、その他必要に応じて可塑剤、界面活性剤等を所定の配合量にて配合してなる樹脂組成物を、フィルム形成材料として用いて、ポリビニルアルコール系フィルムを作製する。
【0041】
ポリビニルアルコール系フィルムは、例えば、Tダイからフィルム形成材料であるポリビニルアルコール系樹脂組成物を製膜ベルト上または製膜ドラム上に流延し、乾燥することにより製造することができる。乾燥後、さらに必要に応じて、熱処理してもよい。
【0042】
ここで、上記製膜ベルトとは、一対のロール間に架け渡されて走行する無端ベルトを有し、Tダイから流れ出たフィルム形成材料を無端ベルト上に流延させるとともに乾燥させるものである。上記無端ベルトは、例えば、ステンレススチールからなり、その外周表面は鏡面仕上げが施されているものが好ましい。
また、上記製膜ドラムとは、回転するドラム型ロールのことであり、Tダイから流れ出たフィルム形成材料を1個以上の回転ドラム型ロール上に流延し乾燥させるものである。
【0043】
乾燥温度について、製膜ベルトを用いる場合は、通常、80〜160℃であることが好ましく、特には90〜150℃が好ましい。乾燥温度が低すぎると乾燥不足となり製品外観を低下させる傾向があり、高すぎると熱処理が高く水分率が低くなりすぎる傾向がある。
製膜ドラムを用いる場合の乾燥温度については、製膜第一ドラムが通常、80〜100℃であることが好ましく、特には82〜99℃であることが好ましい。乾燥温度が低すぎると乾燥不足となり製品外観を低下させる傾向があり、高すぎると熱処理が高く水分率が低くなりすぎる傾向がある。ここで、上記製膜第一ドラムとは、Tダイから流れ出たフィルム形成材料が流延される最上流側に位置するドラム型ロールのことである。
【0044】
以上のように、製膜ドラム又は製膜ベルトを加温することによりフィルムの乾燥を行う場合、フィルムのベルト又はドラム接触側の面と接触していない側の面とで温度、水分量が異なることにより、得られるフィルムがカール等する場合がある。フィルムのカールは、硬化性樹脂層の形成、転写工程の不具合の原因となり得る。従って、フィルムのカールを防止する観点、さらにはフィルム強度向上のために、熱処理を施すことが好ましい。
【0045】
熱処理は、例えば、熱ロール(カレンダーロールを含む)、熱風、遠赤外線、誘電加熱等を用いることにより、行うことができる。熱処理は、乾燥後、フィルムが製膜ベルト又は製膜ドラム上に載置された状態で行ってもよいし、製膜ベルト又は製膜ドラムから取り出されたフィルム単独の状態で行ってもよい。上記熱処理は、通常、フィルム乾燥のための乾燥ロール処理に引き続き、別体の熱処理ロールを用いて行われる。
熱処理を施すフィルムの水分含有量は、通常、4〜8重量%程度であることが好ましく、熱処理により、フィルムの水分含有量を、通常、2〜6重量%とすることができる。
【0046】
熱処理は、50〜180℃で行うことが好ましく、より好ましくは60〜160℃、特に好ましくは70〜150℃である。熱処理の温度が低すぎると、製膜ベルトあるいは製膜第一ドラムに接する面のカールが生じることがある。一方、熱処理の温度が高すぎると、フィルムが柔らかくなるため、皺が入り易くなり、品質が低下する傾向にある。熱処理の時間は、熱処理ロールの場合、その表面温度にもよるが、通常1〜180秒間、好ましくは10〜120秒間とすることが好ましい。また、本発明において、上記熱処理は、ベースフィルムの硬化性樹脂層側の表面に対して行われることが好ましい。
【0047】
さらに、ベースフィルムに用いられるポリビニルアルコール系フィルムの水分率としては、0.5〜10重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜6重量%である。水分率が低過ぎるとフィルムが脆くなり、スリット工程や、硬化性樹脂層の形成工程において、破断しやすくなる傾向があり、逆に水分率が高過ぎるとフィルムが伸びやすく、放置安定性が低下したり、硬化性樹脂層の形成工程において、硬化性樹脂層の厚みに斑が出来やすくなる傾向がある。
なお、ポリビニルアルコール系フィルムの水分率は、例えば、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、「MKS−210」)を用いて測定することができる。
【0048】
ポリビニルアルコール系フィルムの水分率の調整方法としては、例えば、下記(a)〜(c)に示す方法があげられる。
【0049】
(a)ポリビニルアルコール系樹脂を溶解したドープを乾燥して製膜する際の乾燥機温度を上下させてポリビニルアルコール系フィルムの加湿・除湿を行い、水分率の調整を行う。
ドープの温度は、乾燥効率に対して影響を及ぼすため、70〜98℃の範囲内にて調整する。また、乾燥に際しては、好ましくは150〜50℃の間で、より好ましくは145〜60℃の間で温度勾配を有する少なくとも2つ以上の熱風乾燥機中にて行うことが好ましく、さらに1〜15分間、より好ましくは1〜10分間乾燥を行うことが水分調整という観点から好ましい。
【0050】
上記乾燥温度の勾配範囲が大きすぎたり、乾燥時間が長すぎたりすると、乾燥過多となる傾向があり、逆に乾燥温度の勾配範囲が小さすぎたり、乾燥時間が短すぎたりすると、乾燥不足となる傾向がある。
【0051】
上記温度勾配は、150〜50℃の間で段階的に乾燥温度を変えていくものであり、通常は、乾燥開始時から温度を徐々に上げていき、所定の含水率になるまで一旦設定した乾燥温度範囲の、最高の乾燥温度に至らせ、つぎに徐々に乾燥温度を低くすることにより最終的に目的とする含水率とすることが効果的である。これは結晶性や剥離性、生産性等を制御するために行われるものであり、例えば、120℃−130℃−115℃−100℃、130℃−120℃−110℃、115℃−120℃−110℃−90℃等の温度勾配設定があげられ、適宜選択され実施される。
【0052】
(b)ポリビニルアルコール系フィルムの巻き取り前に調湿槽に通過させることによりポリビニルアルコール系フィルムの加湿・除湿を行い、水分率の調整を行う。
(c)ポリビニルアルコール系フィルムの巻き取り前、もしくは巻き取り後に、前述の熱処理を行うことによりポリビニルアルコール系フィルムの除湿を行い、水分率の調整を行う。
【0053】
以上のようにして得られるポリビニルアルコール系フィルムをベースフィルムとして用いる。
ベースフィルムとして用いられるポリビニルアルコール系フィルムの厚みは、塗料の塗工性や転写時の被転写体との追従性の点から5〜120μmであることが好ましく、特には10〜80μm、更には15〜70μmが好ましい。かかる厚みが薄すぎると塗料の塗工斑や、転写時に破断し易くなる傾向があり、厚すぎるとフィラーに起因する凹凸形状が生じがたい傾向があり、また転写時に皺などが入り易く、転写物の表面が不均一になる傾向がある。
【0054】
ベースフィルムとして用いられるポリビニルアルコール系フィルムの破断伸度としては、23℃、50%RH調湿条件下において、150%以上であることが好ましく、さらには180%以上が好ましい。破断伸度が低過ぎるとスリット工程や、硬化性樹脂層を連続的に形成する工程に断紙が発生する傾向がある。なお、破断伸度の上限としては通常350%である。ここで、ベースフィルムの破断伸度は、JIS K 7127(1999年)に準拠して測定される。
【0055】
また、ベースフィルム1の硬化性樹脂層2が積層される側の表面粗さ(Ra)は、0.3〜5μmであることが艶消し効果の点で好ましく、より好ましくは1〜4.5μm、更に好ましくは1.5〜4μmである。かかる表面粗さ(Ra)が小さすぎると艶消し効果が顕著には得られない傾向があり、大きすぎるとフィルム強度が低下する傾向がある。
【0056】
ポリビニルアルコール系フィルムの表面粗さ(Ra)を上記範囲に調整する方法としては、フィラーの配合量により調整したり、フィラーの種類や粒子径により調整したりする方法や両者を組み合わせる方法等が挙げられる。なお、表面粗さ(Ra)は、株式会社キーエンス社製「カラー3Dレーザー顕微鏡VK−9700」を用い、JIS B 0601−2001に準拠し算術平均粗さ(Ra)を計測したものである。
【0057】
以上のようなポリビニルアルコール系フィルムを、所定期間の経過後にベースフィルムとして用いる場合には、例えば、従来公知の防湿包装の処理を行い、10〜25℃の雰囲気下、宙づり状態にて保存しておくことが好ましい。
【0058】
<硬化性樹脂層>
硬化性樹脂層2は、被転写体に転写された後、ベースフィルム1を剥離するまでの間に硬化され、被転写体(加飾成形品)の最外面となる層である。硬化性樹脂層の硬化物は、被転写体に転写された意匠層を保護するための保護層としての役割だけでなく、マット調加飾成形品の艶消し効果を発揮する層でもある。
【0059】
(1)硬化性樹脂組成物
硬化性樹脂層を構成する硬化性樹脂組成物としては、例えば、ポリアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ゴム樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂等が用いられる他に、紫外線硬化性樹脂組成物や電子線硬化性樹脂組成物などの活性エネルギー線硬化性樹脂組成物や熱硬化性樹脂組成物も好ましく用いられる。本発明においては、成形品の耐薬品性、耐磨耗性の点で活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0060】
かかる活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、例えば、(i)アクリル系樹脂及び(ii)ウレタン(メタ)アクリレート系化合物を含有してなる組成物、好ましくは、更に(iii)光重合性モノマーを含有してなる組成物である。また、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が紫外線硬化性樹脂組成物の場合には、更に(iv)光重合開始剤を含有することが好ましい。電子線硬化性樹脂組成物の場合には光重合開始剤は不要である。
【0061】
(i)アクリル系樹脂
アクリル系樹脂としては、例えば、アクリル酸エステル系モノマーの単独重合体又は共重合体や、その他のエチレン性不飽和モノマーを共重合成分とするアクリル系共重合体などが挙げられる。
【0062】
アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられ、中でもアルキル基の炭素数が1〜12のアクリル酸アルキルエステルが好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが特に好ましく用いられる。
【0063】
その他のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の水酸基含不飽和モノマー;
グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有不飽和モノマー;
2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基含有不飽和モノマー;
アクリルアミド、メタクリルアミド、N−(n−ブトキシアルキル)アクリルアミド、N−(n−ブトキシアルキル)メタクリルアミド等のアミド基含有不飽和モノマー;
アクリルアミド−3−メチルブチルメチルアミン、ジメチルアミノアルキルアクリルアミド、ジメチルアミノアルキルメタクリルアミド等のアミノ基含有不飽和モノマー;
エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸あるいはその塩等のスルホン酸基含有不飽和モノマー;
スチレン、酢酸ビニル、アクリルニトリル、アクリルアミド等が挙げられる。
【0064】
かかるアクリル酸エステル系モノマー及びその他のエチレン性不飽和モノマーの含有割合(共重合比)は特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステル系モノマーを20〜100重量%、その他のエチレン性不飽和モノマーを0〜80重量%とすることが好ましく、特にはアクリル酸エステル系モノマーを40〜100重量%、その他のエチレン性不飽和モノマーを0〜60重量%、更にはアクリル酸エステル系モノマーを80〜100重量%、その他のエチレン性不飽和モノマーを0〜20重量%とすることが好ましい。アクリル酸エステル系モノマーの含有割合が少なすぎると硬化塗膜が耐水性・耐湿熱性等の耐久性が低下する傾向がある。
【0065】
上記のアクリル系樹脂は、当業者周知の方法、具体的には、前記重合成分を有機溶剤中でラジカル共重合等により重合させることによって容易に製造される。
【0066】
かくして本発明で用いるアクリル系樹脂が得られるわけであるが、かかるアクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は20〜130℃であることが好ましく、より好ましくは30〜120℃、更に好ましくは40〜110℃である。ガラス転移点(Tg)が低すぎると活性エネルギー線硬化性樹脂組成物等からなる硬化性樹脂層が粘着性を帯びて後加工を施す際に不具合(工程中でも巻き付き・印刷不良等)を生じる原因となる傾向があり、高すぎると活性エネルギー線硬化性樹脂組成物等からなる硬化性樹脂層の硬化物が脆くなる傾向がある。
【0067】
また、アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)が、10,000〜500,000であることが好ましく、更には20,000〜100,000、特には30,000〜80,000であることが好ましい。
【0068】
かかるアクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)が小さすぎると硬化性樹脂層が柔軟化および粘着性を帯びてしまうために、この層の上に後加工を施す際に不具合(工程中での巻き付き・印刷不良等)を生じる原因となる傾向があり、大きすぎると硬化性樹脂組成物の塗工時の膜厚均一性が得難くなると共に乾燥後の塗膜の硬度が必要以上に高くなり後加工を施す際に不具合(塗膜の亀裂が生じる・層間剥離等)を生じる原因となる傾向がある。
【0069】
(ii)ウレタン(メタ)アクリレート系化合物
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、分子内にウレタン結合を有する(メタ)アクリレート系化合物であり、水酸基を含有する(メタ)アクリル系化合物と多価イソシアネート化合物を、更に、必要に応じてポリオールを反応させて製造できる。
【0070】
上記水酸基を含有する(メタ)アクリル系化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられ、中でも3個以上のアクリロイル基を有する水酸基含有(メタ)アクリル系化合物が好ましく用いられる。また、これらは1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0071】
上記多価イソシアネート化合物としては、例えば、芳香族系、脂肪族系、脂環式系等のポリイソシアネートが挙げられ、中でもトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルメタンポリイソシアネート、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、フェニレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等のポリイソシアネート或いはこれらポリイソシアネートの3量体化合物又は多量体化合物、ビュレット型ポリイソシアネート、水分散型ポリイソシアネート(例えば、日本ポリウレタン工業(株)製の「アクアネート100」、「アクアネート110」、「アクアネート200」、「アクアネート210」等)、又は、これらポリイソシアネートとポリオールの反応生成物等が挙げられる。
【0072】
上記ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、ポリカプロラクトン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ポリトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、グリセリン、ポリグリセリン、ポリテトラメチレングリコール等の多価アルコール;ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドのブロック又はランダム共重合の少なくとも1種の構造を有するポリエーテルポリオール;該多価アルコール又はポリエーテルポリオールと無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、無水イタコン酸、イタコン酸、アジピン酸、イソフタル酸等の多塩基酸との縮合物であるポリエステルポリオール;カプロラクトン変性ポリテトラメチレンポリオール等のカプロラクトン変性ポリオール;ポリオレフィン系ポリオール;水添ポリブタジエンポリオール等のポリブタジエン系ポリオール等が挙げられる。
この他、例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酪酸、酒石酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシプロピル)プロピオン酸、ジヒドロキシメチル酢酸、ビス(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、ホモゲンチジン酸等のカルボキシル基含有ポリオールや、1,4−ブタンジオールスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基又はスルホン酸塩基含有ポリオール等を用いることもできる。
【0073】
ポリイソシアネートとポリオールの反応生成物を用いる場合は、例えば、上記ポリオールと上記ポリイソシアネートを反応させて得られる末端イソシアネート基含有ポリイソシアネートとして用いればよい。かかるポリイソシアネートとポリオールの反応においては、反応を促進する目的でジブチルスズジラウレートのような金属触媒や、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7のようなアミン系触媒等を用いることも好ましい。
【0074】
上記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、以上のような水酸基含有(メタ)アクリル系化合物と多価イソシアネート化合物を不活性ガス雰囲気で混合し、通常、30〜80℃、2〜10時間反応させることにより、製造することができる。この反応では、オクテン酸スズ、ジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ、オクチル酸鉛、オクチル酸カリウム、酢酸カリウム、スタナスオクトエート、トリエチレンジアミン等のウレタン化触媒を用いるのが好ましい。
【0075】
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物の重量平均分子量は、好ましくは300〜4000、更に好ましくは1000〜3500、特に好ましくは1200〜3000である。かかる重量平均分子量が小さすぎると硬化性樹脂層を硬化した後に凝集力不足となる傾向があり、大きすぎると粘度が高くなりすぎ、製造が困難となる傾向がある。
【0076】
なお、上記の重量平均分子量とは、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量であり、高速液体クロマトグラフィー(昭和電工社製、「Shodex GPC system−11型」)に、カラム:Shodex GPC KF−806L(排除限界分子量:2×10、分離範囲:100〜2×10、理論段数:10,000段/本、充填剤材質:スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:10μm)の3本直列を用いることにより測定される。
【0077】
(iii)光重合性モノマー
光重合性モノマーは、紫外線等の光線が照射された際に、それ自身が重合しポリマーを形成するものであって、一般に、官能基が一つある単官能性モノマーと、官能基が二つ以上ある多官能性モノマーとがある。かかる光重合性モノマーとしては、例えば、以下のものが例示される。
【0078】
上記単官能モノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、α−メチルスチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、酢酸ビニル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリルレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキサイド変性(n=2)(メタ)アクリレート、ノニルフェノールプロピレンオキサイド変性(n=2.5)(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルフタレート等のフタル酸誘導体のハーフ(メタ)アクリレート、フルフリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、2−ビニルピリジン、ポリオキシエチレン第2級アルキルエーテルアクリレート等があげられる。
【0079】
また、上記多官能モノマーのうち2官能モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジグリシジルエステルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジアクリレート等があげられる。
【0080】
そして、上記多官能モノマーのうち3官能以上のモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリロイルオキシエトキシトリメチロールプロパン、グリセリンポリグリシジルエーテルポリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート等があげられる。
【0081】
さらに、その他アクリル酸のミカエル付加物あるいは2−アクリロイルオキシエチルジカルボン酸モノエステルもあげられ、アクリル酸のミカエル付加物としては、アクリル酸ダイマー、メタクリル酸ダイマー、アクリル酸トリマー、メタクリル酸トリマー、アクリル酸テトラマー、メタクリル酸テトラマー等があげられる。また、2−アクリロイルオキシエチルジカルボン酸モノエステルとしては、特定の置換基をもつカルボン酸であり、例えば2−アクリロイルオキシエチルコハク酸モノエステル、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸モノエステル、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸モノエステル、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸モノエステル、2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸モノエステル等があげられる。さらに、その他オリゴエステルアクリレートもあげられる。
【0082】
本発明において、上記アクリル系樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物、光重合性モノマーの含有割合としては、アクリル系樹脂100重量部に対して、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物が20〜300重量部が好ましく、特に40〜250重量部、更に60〜200重量部が好ましく、光重合性モノマーが5〜80重量部が好ましく、特に10〜60重量部、更に15〜50重量部が好ましい。
【0083】
(iv)光重合開始剤
光重合開始剤としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリド等のチオキサントン類;2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフォンオキサイド類;などが挙げられる。なお、これらの光重合開始剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0084】
上記光重合開始剤の含有量は、用いるウレタン(メタ)アクリレート系化合物(光重合性モノマーを配合する場合はその合計量)100重量部に対して、0.5〜15重量部であることが好ましく、特には0.5〜10重量部、さらには1〜8重量部であることが好ましい。
【0085】
(v)助剤
また、これらの助剤として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4,4′−ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4,4′−ジエチルアミノベンゾフェノン、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等を併用することも可能である。
【0086】
これらの中でも、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイルイソプロピルエーテル、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンを用いることが好ましい。
【0087】
(2)硬化性樹脂層
硬化性樹脂層2は、上記のような硬化性樹脂組成物を、グラビアコート法、ロールコート法、バーコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法により、ベースフィルム上に積層することにより形成される。
【0088】
尚、硬化性樹脂層が活性エネルギー線樹脂組成物で構成される場合、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化は、例えば、(a)ベースフィルム上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物層を積層した後、活性エネルギー線を照射し硬化;(b)ベースフィルム上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物層を積層した後、後述の意匠層を形成し、その後ベースフィルム側より活性エネルギー線を照射して硬化;(c)更に後述の接着層まで積層した後にベースフィルム側より活性エネルギー線を照射して硬化;(d)本発明の転写印刷用積層体を被転写体に接着させた後にベースフィルム側より活性エネルギー線を照射して硬化;(e)本発明の転写印刷用積層体を被転写体に接着させた後に、ベースフィルムを剥離し活性エネルギー線を照射して硬化させることにより行うことができる。熱転写時の被転写体への追従性の点から、転写後に硬化させる(d)または(e)の方法が好ましく、特に(e)の方法が好ましい。なお、本発明の転写印刷用積層体は、上記(a)〜(c)のように、硬化性樹脂層が硬化された積層体として供することも可能であるが、上記(d)及び(e)のように、硬化前の硬化性樹脂層を含有する積層体として供することが好ましい。
【0089】
硬化性樹脂層2の厚みは、耐磨耗性、耐薬品性の点で1〜150μmであることが好ましく、特には2〜120μm、更には2〜100μmであることが好ましい。かかる厚みが薄すぎると耐磨耗性や耐薬品性が低下することとなる傾向があり、厚すぎると転写後の膜切れが不充分となり、バリ等の原因となる傾向がある。
【0090】
<意匠層>
意匠層3は、マット調加飾成形品表面において、図柄等の意匠を形成する層である。
意匠層3は、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキで構成される。
【0091】
意匠層3は、硬化性樹脂層2上に、着色インキを用いて、図柄等の意匠を、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの通常の印刷法により、印刷することにより形成される。多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷法やグラビア印刷法が好適である。
また、離型性を有するフィルムに上記の印刷法を用いて形成した意匠層を、ベースフィルム上に硬化性樹脂層を積層した積層体と、意匠面と硬化性樹脂層表面とが接触するように、ドライラミネーション法により貼り合わせることにより、硬化性樹脂層上に、意匠層を形成してもよい。
【0092】
本発明の転写印刷用積層体は、以上のようにして形成されるベースフィルム1、硬化性樹脂層2、及び意匠層3を、この順で積層された、3層構造の積層体であってもよいし、図2に示すように、さらに意匠層3上に接着層4が積層されたものであってもよい。成形品と意匠層との親和性が低く、接着力が弱い場合に、接着層を設けた転写印刷用積層体が好ましく用いられる。
【0093】
<接着層>
接着層4を有する転写印刷用積層体の場合、転写層は、接着層4、意匠層3、硬化性樹脂層2となる。従って、被転写体と意匠層との親和性が低く、接着力が弱い場合に、接着層を介在させることにより、被転写体への転写層の接着力を改善することができる。
【0094】
接着層4の構成材料は、被転写体である成形品の材質に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用すればよく、成形品の材質、意匠層を構成する樹脂等の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂等が挙げられる。
【0095】
接着層4は、意匠層3上に、グラビアコート法、ロールコート法、バーコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法により印刷することにより形成してもよいし、接着層構成材料からなるシートを、ラミネート法などにより、意匠層3に貼り合わせることにより、意匠層3上に接着層4を形成するようにしてもよい。
【0096】
接着層4の厚みは、被転写体への追従性の点で0.5〜50μmであることが好ましく、より好ましくは1〜40μm、更に好ましくは2〜30μmである。かかる厚みが薄すぎると転写時の被転写体への追従性が低下する傾向があり、厚すぎるとコスト高となる傾向があり不経済である。
【0097】
以上のような構成を有する転写印刷用積層体は、特にマット調加飾成形品の製造に好適である。以下に、本発明の転写印刷用積層体を用いて、マット調加飾成形品を製造する方法について説明する。
【0098】
〔マット調加飾成形品の製造方法〕
マット調加飾成形品は、予め成形された成形品表面に、本発明の転写印刷用積層体の転写層を転移させることにより製造する方法(後転写法)、射出成形による成形品の製造と転写を同時に行う方法(成形同時転写法)のいずれによっても製造することができる。
図1に示すような、転写層Aが硬化性樹脂層及び意匠層である転写印刷用積層体、図2に示すような、転写層Bが硬化性樹脂層、意匠層及び接着層である転写印刷用積層体のいずれを用いる場合であっても、後転写法及び成形同時転写法の双方を適用できる。
【0099】
尚、本発明の転写印刷用積層体を用いてマット調装飾が行われる成形品の種類は特に限定されず、樹脂製成形品、金属製成形品、複合材料成形品など、種々の成形品に対して、適用可能である。
【0100】
<後転写法>
予め成形された成形品に加飾する方法であることから、樹脂成形品だけでなく、金属製成形品、複合材料成形品などの種々の材料に成形品に適用できる。
まず、被転写体面に、転写印刷用積層体を被着させる。図1のタイプの転写印刷用積層体を用いる場合には、意匠層を被着させ、図2のタイプの転写印刷用積層体を用いる場合には、接着層を被着させる。
次に、シリコンラバーなどの耐熱ゴム状弾性体を備えたロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用い、温度80〜270℃程度、圧力490〜1960Pa程度の条件に設定した耐熱ゴム状弾性体を介して転写印刷用積層体のベースフィルム側から加熱、加圧する。これにより、意匠層(接着層を有する転写印刷用積層体の場合には接着層)が被転写体表面に密着する。
【0101】
転写印刷用積層体が密着した状態で冷却した後、硬化性樹脂層を硬化させる。硬化性樹脂層が、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物で構成されている場合には、活性エネルギー線を照射することにより硬化させる。
【0102】
活性エネルギー線としては、例えば、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の電磁波の他、電子線、プロトン線、中性子線等が利用できるが、硬化速度、照射装置の入手のし易さ、価格等から紫外線照射による硬化が有利である。
【0103】
紫外線照射により硬化させる方法としては、150〜450nm波長域の光を発する高圧水銀ランプ、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ等を用いて、0.01〜10J/cm程度照射すればよい。紫外線照射後は、必要に応じて加熱を行って硬化の完全を図ることもできる。
【0104】
硬化性樹脂層2を硬化させた後、ベースフィルム1を剥がすと、成形品表面に、意匠層及びこれを被覆する硬化性樹脂層の硬化物(以下、成形品表面に形成された硬化性樹脂層の硬化物を、単に「保護層」という)が形成された状態となる。保護層の表面は、ベースフィルムとの界面に基づき、凹凸を有する粗面となっていることから、艶消し状態となっている。このようにして、マット調加飾成形品が得られる。
【0105】
<成形同時転写法>
射出成形により成形されるプラスチック成型品に加飾する場合に、成形品の製造と同時に、表面をマット調に加飾することができるので、マット調加飾プラスチック成形品の生産性を向上できる方法として便利である。
まず、可動型と固定型とからなる成形用金型内に転写印刷用積層体を送り込む。その際、枚葉の転写印刷用積層体を1枚づつ送り込んでもよいし、長尺の積層体の必要部分を間欠的に送り込んでもよい。長尺の転写印刷用積層体を使用する場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、転写印刷用積層体の意匠層と成形用金型との見当が一致するようにするとよい。また、転写印刷用積層体を間欠的に送り込む際に、転写印刷用積層体の位置をセンサーで検出した後に転写印刷用積層体を可動型と固定型とで固定するようにすれば、常に同じ位置で転写印刷用積層体を固定することができ、意匠層の位置ずれが生じないので便利である。
【0106】
成形用金型を閉じた後、ゲートから溶融した成形樹脂を金型内に射出充満させ、被転写体を形成するのと同時にその面に転写印刷用積層体を接着させる。成形樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AN樹脂などの汎用樹脂を挙げることができる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂などの汎用エンジニアリング樹脂やポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂などのスーパーエンジニアリング樹脂を使用することもできる。さらに、ガラス繊維や無機フィラーなどの補強材を添加した複合樹脂も使用できる。これらの樹脂成形品は、透明、半透明、不透明のいずれでもよい。また、成形品は着色されていても、着色されていなくてもよい。
【0107】
被転写体である樹脂成形品を冷却した後、成形用金型を開いて樹脂成形品を取り出す。成形品を取り出した後、硬化性樹脂層を硬化させる。硬化性樹脂層が活性エネルギー線硬化性樹脂組成物で構成されている場合には、当該成形品に貼着している転写印刷用積層体に、活性エネルギー線を照射することにより、硬化性樹脂層を硬化させる。硬化後、ベースフィルムを剥がすと、ベースフィルムと保護層との境界面で剥離が起こり、ベースフィルムの凹凸を有する表面に対応する凹凸面を有する保護層が、成形品表面に形成されることになる。
【0108】
以上のように、本発明の転写印刷用積層体は、ベースフィルムとして、剥離性に優れた、ポリビニルアルコール系フィルムを用いているので、離型層などを別途設けなくても、硬化性樹脂層から剥離除去することができる。しかも、フィラーの配合により粗面化されたポリビニルアルコール系フィルムをベースフィルムとして使用し、その粗面の上に、硬化性樹脂層を積層しているので、硬化性樹脂層にマット剤等を配合しなくても、形成される保護層とベースフィルムとの境界面は、凹凸面となっている。従って、ベースフィルムを剥離除去すると、凹凸を有する保護層の表面が表れ、艶消し面となる。
【0109】
図3は、図2に示す構成を有する転写印刷用積層体を用いて製造されたマット調加飾成形品の構成を示す模式断面図である。転写印刷用積層体の転写層(硬化性樹脂層、意匠層、接着層)が、被転写体10に転写され、接着層4′を介して、意匠層3′、硬化性樹脂層の硬化物(すなわち保護層)2′が積層されている。最表面となる保護層4′の表面、すなわちベースフィルム1との剥離面が、艶消し効果を有する凹凸面となっている。
【0110】
このように、本発明の転写印刷用積層体を用いる転写法を適用することにより、転写後、水洗、乾燥といった余分な作業工程を行わなくても、ベースフィルムの剥離だけで、優れた艶消し面を有する保護層を形成でき、経済的である。また、転写、硬化性樹脂層の硬化、ベースフィルムの剥離といった工程を連続的に行うことができるので、加飾成形品の生産性アップにつながる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
〔測定評価方法〕
はじめに、以下の実施例で行った測定評価方法について説明する。
(1)ポリビニルアルコールフィルムの表面粗さ
株式会社キーエンス社製「カラー3Dレーザー顕微鏡VK−9700」を用いて、JIS B0601−2001に準拠し、算術平均粗さ(Ra)を計測した。
【0112】
(2)評価用サンプルの作製
作製した転写印刷用積層体と青板ガラス基板(厚さ2.8mm)とを130℃に暖めた乾燥機内で3分間予熱し、積層体の熱圧着接着剤を融解させ、融解させた面を青板ガラス基板にハンドローラーで押しつけて貼合せた。その後、ベースフィルム越しに紫外線を1000mJ照射し、硬化性樹脂層を硬化させ、評価用サンプルとした。
【0113】
(3)ベースフィルムの剥離性
評価用サンプルにおいて、硬化された硬化性樹脂層、即ちハードコート層(加飾成形品においては保護層となる)から、ベースフィルムを剥離除去し、下記の基準により、ベースフィルムの剥離性を評価した。
○:容易に剥離可能
×:剥離不能
【0114】
(4)艶消し性
評価用サンプルにおいて、ベースフィルムを剥離除去した後、硬化された硬化性樹脂層(ハードコート層:加飾成形品の保護層)の表面(ベースフィルムが積層されていた側の面)に蛍光灯を反射させ、蛍光灯の散乱度合いを目視観察し、下記の基準により評価した。
◎:蛍光灯の輪郭が確認できない。
○:蛍光灯の輪郭がぼやけて見える。
×:蛍光灯の輪郭がはっきり見える。
【0115】
(5)写像性
評価用サンプルにおいて、ベースフィルムを剥離除去した後、硬化された硬化性樹脂層(ハードコート層:加飾成形品の保護層)の表面(ベースフィルムが積層されていた側の面)に対して、スガ試験機の写像性測定装置ICM−1DPを用いて、以下の条件で測定を行い、下記の基準により評価した。
【0116】
(測定条件)
測定方法 :反射
測定角度 :45°入射、45°受光
スリット :0.03mm
測定孔 :20mm
光学くし幅:2.0mm
写像性 :C=〔(M−m)/(M+m)〕×100(%)
C:光学くし幅(mm)の時の像鮮明度(%)
M:光学くし幅(mm)の時の最高光量
m:光学くし幅幅(mm)の時の最低光量
(評価基準)
◎・・・C値30%未満(充分な艶消し効果あり)
○・・・C値30〜70%未満(艶消し効果あり)
△・・・C値70〜90%未満(やや艶消し効果あり)
×・・・C値90%以上(艶消し効果なし)
【0117】
〔転写印刷用積層体の作製及び評価〕
(1)ベースフィルムの製造
ケン化度88モル%、20℃における4%水溶液粘度23mPa・sのポリビニルアルコール樹脂100部、フィラーとして澱粉(平均粒子径15μm)を表1に示す量、界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)0.5部、可塑剤としてグリセリン5部からなる20%水溶液をTダイより表面温度が90℃に調整された回転するステンレス製エンドレスベルトに吐出して流延製膜し、引き続き95℃に調整された熱ロールにて、アンチカール処理を兼ねた熱処理を行った。以上のようにして、フィラーの含有量が異なる、厚み40μmのポリビニルアルコールフィルムを得、これを転写印刷用積層体のベースフィルムとした。各ポリビニルアルコールフィルムの表面粗さは、表1に示す通りである。
【0118】
(2)硬化性樹脂組成物の調製
株式会社カネカ製、ポリメチルメタクリレート「MN」の固形分50部に対し、日本合成化学工業社製、ウレタンアクリレート「UV−3520」の固形分40部および大阪有機化学工業社製、光重合性モノマー「ビスコート#300」10部を、全固形分濃度50%となるように2−ブタノンにより希釈混合した溶液に、光重合開始剤として長瀬産業社製「イルガキュア819」を固形分100部に対し3部となるように混合し、硬化性樹脂層を構成する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を得た。
【0119】
(3)意匠印刷用インキの調製
黒色顔料10部、ニトロセルロース5部、アルキッド樹脂15部、トルエン30部、酢酸エチル30部、イソプロピルアルコール10部からなるグラビア印刷用インキを調製した。
【0120】
(4)熱圧着接着層用塗布液の調製
日本合成化学工業社製、ポリエスター「SP−185」(ポリエステル樹脂)をトルエンと2−ブタノンの4:1(重量比)の混合溶媒に対して20%となるように加熱環流条件下で撹拌溶解した。
【0121】
(5)転写印刷用積層体の製造
上記のベースフィルムの熱処理面上に、上記で調製した活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を厚さ160μmとなるようにバーコーターにて塗布し、これを80℃で15分間乾燥することで、ベースフィルム上に厚さ80μmの硬化性樹脂層を積層した。この硬化性樹脂層面上に、上記の印刷用インキを用いて、格子状の絵柄をグラビア印刷法により形成して意匠層を形成し、更に、この意匠層上に、上記の熱圧着接着層用塗布液を厚さ100μmとなるようにバーコーターで塗布し、これを80℃で15分乾燥することで、厚さ20μmの熱圧着接着層を形成した。以上のようにして、ベールフィルム/硬化性樹脂層/意匠層/接着層からなる、転写印刷用積層体を得た。得られた積層体について、上記測定評価方法に基づき、剥離性、艶消し性、写像性を評価した。結果を表1に示す。
尚、比較のために、フィラーを配合しなかった以外は同様にして製造したポリビニルアルコールフィルムをベースフィルムとし、この上に、硬化性樹脂層、意匠層、接着層を、上記と同様にして積層することにより、作製した転写印刷用積層体を比較例として、同様に評価した。この比較例の結果も併せて表1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
表1から、実施例の転写印刷用積層体については、フィラーを含有してなるポリビニルアルコール系フィルムをベースフィルムとして用いているため、剥離性だけでなく、艶消し性にも優れていたことがわかる。これに対して、比較例1では、フィラーを含有しないポリビニルアルコール系フィルムを用いているため、写像性評価ではやや艶消し効果を示すものの、蛍光灯による艶消し性評価では蛍光灯の輪郭がはっきりと見え艶消し性としては満足の行くものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の転写印刷用積層体は、転写後、ベースフィルムを剥離除去することができ、しかも剥離後に表出される硬化性樹脂層の硬化物(ハードコート層)表面は艶消し効果を発揮できる凹凸面となっているので、マット調加飾成形品の製造に便利である。従って、自動車等の車両の内装材又は外装材、幅木、回縁等の造作部材、窓枠、扉枠等の建具、壁、床、天井等の建築物の内装材、テレビ受像機、携帯電話部品、空調機等の家電製品の筐体、容器などの用途のマット調加飾成形品の生産性の向上に非常に有用である。
【符号の説明】
【0125】
1 ベースフィルム
2 硬化性樹脂層
3 意匠層
4 接着層
10 被転写体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラーを含有してなるポリビニルアルコール系フィルムからなるベースフィルム、硬化性樹脂層、意匠層が、この順で積層されたことを特徴とする転写印刷用積層体。
【請求項2】
フィラーの含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して3〜30重量部であることを特徴とする請求項1記載の転写印刷用積層体。
【請求項3】
フィラーが、澱粉であることを特徴とする請求項1または2記載の転写印刷用積層体。
【請求項4】
ベースフィルムの硬化性樹脂層側の表面粗さ(Ra)が0.3〜5μmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の転写印刷用積層体。
【請求項5】
ベースフィルムの硬化性樹脂層側の表面が、50〜180℃の温度で熱処理されたものであることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の転写印刷用積層体。
【請求項6】
ポリビニルアルコール系フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が75モル%以上、20℃での4重量%水溶液粘度が10〜70mPa・sであることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の転写印刷用積層体。
【請求項7】
ベースフィルムの厚みが5〜120μmであることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の転写印刷用積層体。
【請求項8】
ポリビニルアルコール系フィルムが、界面活性剤を含有してなることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の転写印刷用積層体。
【請求項9】
フィラーが澱粉であり、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して3〜30重量部で含有され、且つベースフィルムの硬化性樹脂層側の表面粗さ(Ra)が0.3〜5μmであることを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の転写印刷用積層体。
【請求項10】
ポリビニルアルコール系フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が75モル%以上、20℃での4重量%水溶液粘度が10〜70mPa・sであり、フィラーが平均粒子径0.1〜30μmの澱粉であり、フィラーの含有量がポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して3〜30重量部であり、ベースフィルムの厚みが5〜120μmであることを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の転写印刷用積層体。
【請求項11】
意匠層上に、さらに、接着層が積層されていることを特徴とする請求項1〜10いずれか記載の転写印刷用積層体。
【請求項12】
マット調加飾成形品の製造に用いられることを特徴とする請求項1〜11いずれか記載の転写印刷用積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−144040(P2012−144040A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259884(P2011−259884)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】