説明

転写用ドナー基板およびそれを用いたデバイスの製造方法

【課題】有機EL材料をはじめとした薄膜の特性を劣化させることなく、大型化かつ高精度の微細パターニングを可能とするパターニング方法、および、かかるパターニング方法を使用するデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に光熱変換層が形成され、前記光熱変換層上に区画パターンが形成され、前記区画パターン内に転写材料が存在するドナー基板をデバイス基板と対向配置し、前記転写材料の少なくとも一部と前記区画パターンの少なくとも一部とが同時に加熱されるように光を光熱変換層に照射することで前記転写材料をデバイス基板に転写することを特徴とするドナー基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子をはじめとするデバイスのパターニングに用いる転写用ドナー基板、および、それを用いたデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが両極に挟まれた有機発光層内で再結合するものである。コダック社のC.W.Tangらによって有機EL素子が高輝度に発光することが示されて以来(非特許文献1参照)、多くの研究機関で検討が行われてきた。
【0003】
この発光素子は、薄型でかつ低駆動電圧下での高輝度発光と、発光層に種々の有機材料を用いることにより、赤(R)、緑(G)、青(B)の三原色をはじめとした多様な発光色を得ることが可能であることから、カラーディスプレイとしての実用化が進んでいる。例えば、図9に有機EL素子の構成を例示する。有機EL素子(デバイス基板)10は、支持体11、その上に形成されたTFT(取出電極込み)12と平坦化膜13、絶縁層14、第一電極15、正孔輸送層16、発光層17R、17G、17B、電子輸送層18、第二電極19からなる。このアクティブマトリクス型カラーディスプレイにおいては、少なくとも発光層17R、17G、17Bを高精度にパターニングする技術が要求される。また、高性能有機EL素子を実現するためには多層構造が必要であり、典型的な膜厚が0.1μm以下である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などを順に積層する必要がある。
【0004】
従来、薄膜の微細パターニングにはフォトリソ法、インクジェット法や印刷法などのウェットプロセスが用いられてきた。しかしながら、ウェットプロセスでは、先に形成した下地層の上にフォトレジストやインクなどを塗布した際に、極薄である下地層の形態変化や望ましくない混合などを完全に防止することが困難であり、使用できる材料が限定される。また、溶液から乾燥させることで形成した薄膜の画素内での膜厚均一性、および、基板内の画素間均一性を達成することが難しく、膜厚ムラに伴う電流集中や素子劣化が起きるために、ディスプレイとしての性能が低下するという問題があった。
【0005】
ウェットプロセスを用いないドライプロセスによるパターニング方法としてマスク蒸着法が検討されている。実際に実用化されている小型有機ELディスプレイの発光層は専ら本方式でパターニングされている。しかしながら、蒸着マスクは金属板に精密な穴を開ける必要があるために、大型化と精度の両立が困難であり、また、大型化するほど基板と蒸着マスクとの密着性が損なわれる傾向にあるために、大型有機ELディスプレイへの適用が難しかった。
【0006】
ドライプロセスで大型化基板にパターニングを行う方法として、フィルム上に予め有機EL材料をパターニングしておき、デバイス基板にこのパターニングされた有機EL材料を転写する方法が提案されている(特許文献1)。これは、有機EL材料を形成したフィルム(これを「ドナー基板」と呼ぶ。)をデバイス基板に密着させ、ドナー基板を加熱することで有機EL材料をデバイス基板に転写させる方法である。
【0007】
さらに、ドナー基板上に隔壁で区画パターンを形成し、その区画パターン内に配置された有機EL材料をデバイス基板との間に隙間をあけて対向配置させ、ホットプレートでドナー基板全体を加熱し、有機EL材料を蒸発させデバイス基板に堆積させる蒸着転写法も提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、上記手法ではドナー基板全体が加熱されて熱膨張するために、ドナー基板上にパターニングされた有機EL材料のデバイス基板に対する相対位置が変位した。しかも変位量は、大型化するほど大きくなるために高精度パターニングが難しいという問題に発展した。さらに、近距離で対向させたデバイス基板が輻射により加熱されたり、区画パターンがある場合には、区画パターンからの脱ガスの影響などを受けたりするために、デバイス性能が悪化するという問題があった。
【0009】
ドナー基板の熱膨張による変位を防ぐ方法として、ドナー基板上に光熱変換層を形成し、その上に有機EL材料を熱蒸着により全面成膜したドナー基板の提案がある。このドナー基板は、光熱変換層に高強度レーザーを部分照射することにより発生した熱を利用して、全面に形成された、または区画パターンを用いずにR、G、Bを塗り分けた有機EL材料の一部分をデバイス基板にパターン転写する選択転写方式に利用されている(特許文献3〜4参照)。
【0010】
しかしながら、この転写方式では、発生した熱はドナー基板の横方向にも拡散するので、レーザー照射範囲より広い領域の有機EL材料が転写され、その境界も明確でなくなる。これを防ぐためには、極めて短時間に高強度のレーザーを照射することが考えられる。しかしこの場合、有機EL材料が極めて短時間のうちに加熱されるため、最高到達温度を正確に制御することが難しい。そのため、有機EL材料が分解温度以上に達する確率が高くなり、結果としてデバイス性能が低下する問題があった。
【0011】
ドナー基板の熱膨張による変位を防ぐ別の方法として、ドナー基板に光熱変換層を形成せずに、ドナー基板上の有機EL材料をレーザーで直接加熱する直接加熱転写法が開示されている(特許文献5参照)。特許文献5では、さらにR、G、Bを区画パターンで塗り分けておくことによりパターニングの際の混色の可能性を小さくしている。
【0012】
しかしながら、有機EL材料の典型的な膜厚は25nmと非常に薄いために、レーザーが十分に吸収されずにデバイス基板まで到達し、デバイス基板上の下地層を加熱してしまう問題があった。十分な転写を行うには高強度のレーザーが必要となるが、区画パターンにレーザーが照射されると区画パターンが劣化するので、劣化防止のためには有機EL材料のみにレーザーが照射されるように高精度位置合わせが必要であり、大型化が困難である問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−260854号公報
【特許文献2】特開2000−195665号公報
【特許文献3】特許第3789991号公報
【特許文献4】特開2005−149823号公報
【特許文献5】特開2004−87143号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】“Applied Physics Letters”、(米国)、 1987年、51巻、12号、913−915頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のとおり、従来技術においては、大型化と高精度を両立させながら、有機EL材料に損傷を与えることなく安定に微細パターニングを実現することは困難であった。特に、区画パターンをドナー基板に配置してレーザー転写法を利用することは、区画パターンの劣化、脱ガスや転写材料の温度ムラ誘発といった課題をかかえていた。
【0016】
本発明はかかる問題を解決し、有機EL素子をはじめとするデバイスの特性を劣化させることなく、大型化かつ高精度の微細パターニングを可能とする転写用ドナー基板を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明は、基板と前記基板上に形成された光熱変換層と、少なくとも一部が前記光熱変換層の上面に形成された区画パターンと、前記区画パターン内に形成された転写層を含む転写用ドナー基板である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機EL材料をはじめとした薄膜にダメージを与えず、高精度の位置あわせを行わなくても大型かつ高精度の微細パターニングを可能とするという、効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明によるドナー基板の一例を示す断面図。
【図2】転写補助層が形成された本発明のドナー基板を示す図である。
【図3】本発明のドナー基板で区画パターンが転写層の幅より広い場合のドナー基板を示す平面図である。
【図4】本発明のドナー基板において転写層が相対的に区画パターンと同じになった時の様子を示す図である。
【図5】本発明のドナー基板の斜視図
【図6】本発明のドナー基板を用いた転写に利用できる材料の一例を示す図である。
【図7】本発明のドナー基板を用いて転写する様子を示す図である。
【図8】本発明のドナー基板を用いて転写する際にレーザーをスキャニングする様子を示した図である。
【図9】有機EL素子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に本発明のドナー基板の構成を示す。図1を参照して、ドナー基板30は、支持体31、光熱変換層33、区画パターン34、区画パターン内に存在する転写材料37(有機ELのRGB各発光材料の塗布膜)からなる。
【0021】
支持体31は、光の吸収率が小さく、その上に光熱変換層と区画パターン、転写材料を安定に形成できる材料であれば特に限定されない。樹脂フィルムを使用することも可能である。具体的な樹脂材料としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリエポキシ、ポリプロピレン、ポリオレフィン、アラミド樹脂、シリコーン樹脂などを利用することができる。
【0022】
化学的・熱的安定性、寸法安定性、機械的強度、透明性の面で、好ましい支持体としては、ガラス板を挙げることができる。ソーダライムガラス、無アルカリガラス、含鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、低膨張ガラス、石英ガラスなどから適宜選択することができる。本発明の転写プロセスを真空中で実施する場合には、支持体からのガス放出が少ないことが要求されるので、ガラス板は特に好ましい支持体である。
【0023】
光熱変換層33が高温に加熱されても、支持体自体の温度上昇(熱膨張)を許容範囲内に収める必要があるので、支持体の熱容量は光熱変換層のそれより十分大きいことが好ましい。従って、支持体の厚さは光熱変換層の厚さの10倍以上であることが好ましい。熱膨張の許容範囲は転写領域の大きさやパターニングの要求精度などに依存するために一概には示せないが、例えば、光熱変換層が室温から300℃上昇し、支持体の温度上昇をその1/100である3℃以下に抑制したい場合には、支持体の厚さは光熱変換層の厚さの100倍以上であることが好ましく、支持体の温度上昇を300℃の1/300である1℃以下に抑制したい場合には、支持体の厚さは光熱変換層の厚さの300倍以上であることが好ましい。このようにすることで、大型化しても熱膨張による寸法変位量が少なく、高精度のパターニングが可能になる。
【0024】
光熱変換層33は、支持体31上に形成された層であり、効率よく光を吸収して熱を発生し、発生した熱に対して安定である材料・構成であれば特に限定されない。しかし、急激な温度上昇を防止して、区画パターンへの熱拡散による局所的な温度低下を防ぐためには、熱容量が大きいことが望ましい。
【0025】
なぜなら熱容量が小さいと、熱しやすく冷めやすいので、転写材料をゆっくり転写させることができなくなるからである。なお、熱容量は体積と体積比熱の積であり、体積比熱そのものが大きい材料が望ましい。具体的に光熱変換層33の体積比熱は2J/cmK以上であるのが好ましい。また、光熱変換層33の熱伝導率は、大きい方が均一な加熱が可能であり、局所的な温度低下が軽減されるのでより望ましい。具体的に光熱変換層33の熱伝導率は50W/mK以上であるのが好ましい。ここで、光熱変換層33が異なる材料の複数の層あるいは合金からなる場合は、前記熱伝導率および体積比熱は、光熱変換層全体としての値をいうものとする。この全体としての値は、異なる材料の複数の積層薄膜からなる場合は、材料単独の熱伝導率や体積比熱の値をそれぞれの膜厚で重み付け平均した計算値を用いる。また、合金のように計算が困難な場合は、レーザーフラッシュ法やスキャニングレーザーAC加熱法、示差法、3ω法などの公知手法により測定できる。
【0026】
このような材料としては、カーボンブラックや黒鉛、チタンブラック、有機顔料、金属粒子などを樹脂に分散させた薄膜を利用することができる。また、本発明では、光熱変換層が300℃程度に加熱されることがあるので、光熱変換層は耐熱性に優れ、熱伝導率と体積比熱の高い無機薄膜からなることが好ましい。従って、光吸収や成膜性の面で、金属薄膜からなることが特に好ましい。具体的には、金属材料としては、タングステン、タンタル、モリブデン、チタン、クロム、金、銀、銅、白金、鉄、亜鉛、アルミニウム、コバルト、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、ジルコニウム、シリコン、カーボンなどの単体や合金の薄膜、それらの積層薄膜を使用できる。
【0027】
上記の中でも、光熱変換層33は化学反応に対して安定的な金属を用いることが望ましい。これは少なくとも最表面が安定的な金属であれば最表面の輻射率を低く抑えることができるため熱によるデバイス基板側のダメージを低減できるためである。また反応性のある金属を用いると区画パターンのプロセス中の残留物が残りやすく発光層に不純物として転写され大きく輝度を低下させる原因にもなるからである。自然酸化により安定的な薄い不動態層を形成する金属として五族の金属、すなわちバナジウム、ニオブ、タンタルがあげられる。また表面が酸化されない貴金属として金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムなどがあげられる。これらの五族の金属および貴金属類を光熱変換層33に用いることが望ましい。また光熱変換層を2層以上の複数層として支持体側にレーザーを吸収しやすい素材をスパッタリング法により形成し、さらに最表面に安定的な金属をスパッタリング法により形成することにより、内部を保護しながらレーザーの光熱変換効率を向上させることもできる。表面以外の層の材質は特に限定されないが、成膜容易性やコスト(必要に応じてパターニング性)などを考慮すると、クロムやモリブデンなどを好ましい材質として例示できる。
【0028】
五族の金属の内、タンタルとニオブは熱伝導率が50W/mK以上あり、局所的な温度低下が軽減されるのでさらに望ましい。さらにタンタルは表面の不動態層がきわめて安定であり、フッ酸以外の酸・アルカリに侵されることがない。このためレーザーを照射して光熱変換層が高温になったとき表面の酸化も進行しにくく表面の安定化に良い。表面の反応性が小さくなると、基板表面のまた耐酸・アルカリ性に優れていることから、有機洗浄工程やアルカリ洗浄工程や酸洗浄工程の複数の工程を経るドナー基板の洗浄工程による繰り返し利用回数が向上し、リサイクル性に優れているためタンタルを用いることが特に望ましい。
【0029】
また、後述のように光熱変換層に転写材料と溶媒とからなる溶液を塗布した際、溶液のはじきが発生することがある。この現象の対策として光熱変換層の表面に凹凸を付ける方法により回避できることがある。特に表面がきわめて安定なタンタルの表面に凹凸をつける方法としてはフッ酸、フッ化アンモニウム等の薬液によるウェットエッチング法、CFプラズマなどによるドライエッチング法等があげられる。
【0030】
光熱変換層33の支持体31側には必要に応じて反射防止層を形成することができる。さらに、支持体31の光入射側の表面にも反射防止層を形成してもよい。これらの反射防止層は屈折率差を利用した光学干渉薄膜が好適に使用され、シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタンなどの単体や混合薄膜、それらの積層薄膜を使用できる。
【0031】
光熱変換層33の転写材料37側には必要に応じて転写補助層を形成することができる。転写補助層の機能の一例は、加熱された光熱変換層の触媒効果により転写材料が劣化することを防止する機能であり、タングステンやタンタル、モリブデン、シリコンや酸化物・窒化物など不活性な無機薄膜を使用することができる。転写補助層の機能の別の一例は、転写材料を塗布法により成膜する際の表面改質機能であり、例示した不活性な無機薄膜の粗表面薄膜や金属酸化物の多孔質膜などを使用することができる。
【0032】
転写補助層の機能の別の一例は、転写材料の加熱均一化であり、例えば、図2(a)に示すように、比較的厚い転写材料37を均一に加熱するために、熱伝導性に優れた金属などの材料により、スパイク状の(もしくは多孔質状の)構造をもつ転写補助層39を形成し、その間隙に転写材料37を担持するように配置することができる。この機能を有する転写補助層は、図2(b)に示すように、光熱変換層33と一体化してもよい。
【0033】
光熱変換層は転写材料の蒸発に十分な熱を与える必要があるので、光熱変換層の熱容量は転写材料のそれより大きいことが好ましい。従って、光熱変換層の厚さは転写材料より厚いことが好ましく、転写材料の厚さの5倍以上であることが更に好ましい。数値としては0.02〜2μmが好ましく、さらに0.1〜1μmが更に好ましい。急激な温度上昇や区画パターン付近での温度降下を避けるためには、0.2μm以上であることが特に好ましい。
【0034】
また、光熱変換層は光の90%以上、更に95%以上を吸収することが好ましいので、これらの条件を満たすように光熱変換層の厚さを設計することが好ましい。転写補助層を設ける場合は光熱変換層にて発生した熱を効率よく転写材料に伝える妨げにならないように、要求される機能を満たす範囲内で薄くなるように設計することが好ましい。
【0035】
光熱変換層33は転写材料が存在する部分に形成されていれば、その平面形状は特に限定されず、上記において例示したようにドナー基板全面に形成されていても、例えば、区画パターンの下部で不連続となるようにパターニングされていてもよい。区画パターンが光熱変換層との密着性に乏しい場合には、このようにして支持体との密着性を利用することで密着性を改善することができる。なお、図2の符号35は、このような区画パターンを例示するものである。
【0036】
光熱変換層がパターニングされる場合には、区画パターンと同種の形状となる必要はなく、区画パターンが格子状で、光熱変換層はストライプ状であってもよい。光熱変換層33は光吸収率が大きいことから、ドナー基板の位置マークを光熱変換層を利用して形成することが好ましい。ドナー基板の位置を光学的に検出して、転写時のドナー基板とデバイス基板との位置合わせをより容易に行うことができる。
【0037】
光熱変換層や転写補助層の形成方法としては、スピンコートやスリットコート、真空蒸着、EB蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなど、材料に応じて公知技術を利用できる。パターニングする場合には公知のフォトリソ法やレーザーアブレーションなどを利用できる。
【0038】
図1を再び参照して、区画パターン34は、転写材料の境界を規定し、光熱変換層33で発生した熱に対して安定である材料・構成であれば特に限定されない。無機物では酸化ケイ素や窒化ケイ素をはじめとする酸化物・窒化物、ガラス、セラミックスなどを、有機物ではポリビニル、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリスチレン、アクリル、ノボラック、シリコーンなどの樹脂を利用することができる。プラズマテレビにおける隔壁をガラスペースト法により製造する公知技術を使用することもできる。区画パターンの熱導電性は特に限定されないが、区画パターンを介して対向するデバイス基板に熱が拡散するのを防ぐ観点から、有機物のように熱伝導率が小さい方が好ましい。さらに、パターニング特性と耐熱性を考慮すると、ポリイミドとポリベンゾオキサゾールを利用するのが好適である。
【0039】
区画パターンがないと、RGB有機EL材料層は互いに接することになり、その境界は一様ではなく、少なからず混合部分が形成される。これを防ぐために、互いに接しないように隙間を空けて形成すると、境界領域の膜厚を中央と同一にすることが困難である。いずれの場合も、この境界領域はデバイスの性能低下を招くために転写することができないので、ドナー基板上の有機EL材料パターンよりも幅の狭い領域を選択的に転写する必要がある。従って、実際に使用可能な有機EL材料の幅が狭くなり、有機ELディスプレイを作製した際には、開口率の小さな(非発光領域の面積が大きな)画素となってしまう。
【0040】
境界領域を除いて転写しなければならないとすると、複数の転写材料を1つの単位として一括転写ができないので、R、G、Bを順次にレーザー照射して、それぞれ独立に転写する必要がある。つまり高強度レーザー照射の高精度位置合わせが必要となる。すると転写作業の工数が増えることに繋がる。
【0041】
一方、ドナー基板上に転写材料以外の異物である区画パターンを形成することは、区画パターン自体が剥離して転写されたり、区画パターンから転写材料に不純物が混入する恐れがあるために、本来は好ましくない。まして、ドナー基板上に光熱変換層を設置して光を吸収させ、発生した熱により転写材料を転写させる蒸着転写法のように、転写材料が比較的高温に加熱される方式においては、デバイスの性能を悪化させる可能性が高いものとして、前例がなかった。
【0042】
しかし、本発明は、あえて光熱変換層が設置されたドナー基板を用いることにより、高精細な位置あわせを必要とせずに高精細なパターニングを可能としたものである。すなわち、このようなドナー基板を用いれば、転写材料と同時に区画パターンを加熱するように光を照射した場合に、区画パターンと転写材料の境界における温度低下が抑制されるので、境界に存在する転写材料をも十分に加熱して転写することができる。従って、転写薄膜の膜厚分布は従来より均一化されるので、デバイス性能への悪影響を防止できる。また、本発明においては用いる光の強度を小さくすることができることがわかった。そのため、転写材料と区画パターンが同時に加熱されるように光を当てた場合であっても、区画パターンの剥離や区画パターンからの脱ガスなどに起因するデバイス性能への悪影響を最小限に抑制できる。
【0043】
区画パターン34の成膜方法は特に限定されず、無機物を用いる場合には真空蒸着、EB蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD、レーザーアブレーションなどの公知技術を、有機物を用いる場合には、スピンコート、スリットコート、ディップコートなどの公知技術を利用できる。区画パターンのパターニング方法は特に限定されず、公知のフォトリソ法が利用できる。フォトレジストを使用したエッチング(あるいはリフトオフ)法によって区画パターンをパターニングしてもよいし、例示した上記樹脂材料に感光性を付加させた材料を用いて、区画パターンを直接露光、現像することでパターニングしてもよい。さらに、全面形成した区画パターン層に型を押しつけるスタンプ法やインプリント法、樹脂材料を直接パターニング形成するインクジェット法やノズルジェット法、各種印刷法などを利用することもできる。
【0044】
区画パターン34の形状としては、既に例示した格子状(マトリクス状)構造に限定されるのではなく、例えば、図1で例示したように、ドナー基板30上に3種類の転写材料37R、37G、37Bが形成されている場合には、区画パターン34の平面形状がy方向に伸びるストライプであってもよい。また、図3に示すように、転写材料37よりも幅の広い区画パターン34を形成することもできる。R、G、Bの3色に対して1色ずつ転写するためである。
【0045】
この場合は、3種類の転写材料37R、37G、37Bがそれぞれ形成された3枚のドナー基板30を用意して、1枚のデバイス基板にそれぞれを対向させて本発明により転写する工程を3回繰り返すことで、転写材料37R、37G、37Bを1枚のデバイス基板上にパターニングすることができる。転写材料37R、37G、37Bのピッチあるいは間隙を小さくする必要がある高精細パターニングにおいて有効な形状の一例である。
【0046】
区画パターンの厚さについては特に限定されない。図4は、ドナー基板30にデバイス基板20を対向させて、ドナー基板から転写材料37を飛ばす場合のそれぞれの配置を示した。図4に示すように、区画パターン34が転写材料37と同じ厚さ、あるいは薄いとしても、ドナー基板30とデバイス基板20との間隙を保持すれば、転写時に蒸発した転写材料がやや広がって支持体21上に堆積する程度なので、転写膜27R、27G、27B間の混合を起こさずに転写することができる。
【0047】
転写材料はデバイス基板に直接接しない方が好ましく、また、ドナー基板とデバイス基板との間隙は、1〜100μm、より好ましくは2〜20μmの範囲に保つことが好ましいので、区画パターンは転写材料の厚さより厚く、また、1〜100μm、より好ましくは2〜20μmの厚さであることが好ましい。このような厚さの区画パターンをデバイス基板に対向ざせることで、ドナー基板とデバイス基板との間隙を一定値に保つことが容易になり、また、蒸発した転写材料が他の区画へ侵入する可能性を低減できる。
【0048】
図9で例示したように、デバイス基板10の上に絶縁層14のようなパターンが存在する場合には区画パターン34の幅(特に上部の幅)よりも絶縁層14の幅(特に上部の幅)の方が広いことが好ましい。また、位置合わせの際には、区画パターン34の上部の幅の中に絶縁層14の上部の幅が収まるように配置することが好ましい。この場合には、区画パターン34が薄くても、絶縁層14を厚くすることで、ドナー基板30とデバイス基板10とを所望の間隙に保持することができる。区画パターンの典型的な幅は5〜50μm、ピッチは25〜300μmであるが、用途に応じて最適な値に設計すればよく、特に限定はされない。
【0049】
区画パターンの断面形状は、蒸発した転写材料がデバイス基板に均一に堆積することを容易にするために、順テーパー形状であることが好ましい。ここで「順テーパー形状」とは光熱変換層側での断面幅67が上面側の幅66より長い形状をいう。図5はドナー基板の一部を斜視図で示す。基板31上に光熱変換層33が形成されており、その光熱変換層33が形成されている。区画パターン34は断面が台形状をしており、断面幅67が上面側幅66より長い。なお、符号60は区画パターンの高さである。
【0050】
区画パターン内に転写材料を配置する際に、後述の塗布法を利用する場合には、溶液が他の区画へ混入したり、区画パターンの上面に乗りあげたりすることを防ぐために、区画パターン上面61に撥液処理(表面エネルギー制御)を施すことができる。撥液処理としては、区画パターンを形成する樹脂材料へフッ素系材料などの撥液性材料を混合したり、さらに撥液性材料の高濃度領域を表面あるいは上面へ選択形成することができる。撥液処理をされた部分は撥液層64と呼ぶ。図5では撥液層を斜線で表し、パターン上面の一部に示したが、パターン上面全体にわたって撥液層を形成してよい。
【0051】
区画パターンを表面エネルギーの異なる材料の多層構造とすることもでき、また、区画パターン形成後に光照射やフッ素系材料含有ガスによるプラズマ処理を施すことで、表面エネルギー状態を制御するなど、公知技術を利用することができる。
【0052】
転写層37は、各色を示す有機EL素子の材料からなる層である。また、転写材料が薄膜形成の前駆体であり、転写前あるいは転写中に熱や光によって薄膜形成材料に変換されて転写膜が形成されてもよい。なお、転写材料は、有機TFTや光電変換素子、各種センサーなどのデバイスを構成する薄膜を形成する材料であってもよい。すなわち、本発明のドナー基板は、有機EL素子だけでなく、有機材料、金属を含む無機材料いずれでも、加熱された際に、蒸発、昇華、あるいはアブレーション昇華するか、あるいは、接着性変化や体積変化を利用して、ドナー基板から転写先基板へと転写されればよい。
【0053】
転写層37の厚さは、それらの機能や転写回数により一概に示すことは難しい。例えば、フッ化リチウムなどのドナー材料(電子注入材料)の1回転写分の転写材料は、典型的な厚さは1nm以下である。また、電極材料の転写材料の膜厚は100nm以上になる場合もある。本発明の好適なパターニング薄膜である有機EL発光層の場合は、1回転写分の転写材料の厚さは10〜100nmが好ましく、より好ましくは20〜50nmである。
【0054】
転写層は、ドナー基板全体に渡って、単一材料で構成させる必要はなく、区画パターン毎に異なる色の転写層を配置してもよい。転写先のデバイスで必要とされる色の配置に従うべきだからである。
【0055】
転写層の形成方法は特に限定されず、真空蒸着やスパッタリングなどのドライプロセスを利用することもできる。しかし、大型化に対応が容易な方法として、少なくとも転写材料と溶媒からなる溶液を区画パターン内に塗布し、前記溶媒を乾燥させて転写層を形成することが好ましい。塗布法としては、インクジェット、ノズル塗布、電界重合や電着、オフセットやフレキソ、平版、凸版、グラビア、スクリーンなどの各種印刷などを例示できる。特に、本発明では各区画パターン内に定量の転写材料を正確に形成することが重要であり、この観点から、望ましくはインクジェットによる塗布がよい。
【0056】
転写材料と溶媒とからなる溶液を塗布法で用いる場合には、一般的には界面活性剤や分散剤などを添加することで溶液の粘度や表面張力、分散性などを調整してインク化することが多い。しかしながら、本発明では、それらの添加物が転写材料に残留物として存在すると、転写時にも転写膜内に取り込まれて、デバイス性能に悪影響を及ぼすことが懸念される。すなわち、転写膜に含まれる分散剤などの不純物は少ないほうがよい。そのため乾燥後の転写材料の純度が95%以上、さらに98%以上となるように溶液を調製することが好ましい。
【0057】
溶媒としては、水、アルコール、炭化水素、芳香族化合物、複素環化合物、エステル、エーテル、ケトンなど公知の材料を使用することができる。本発明において好適に使用されるインクジェット法では、100℃以上、さらに150℃以上の比較的高沸点の溶媒が使用されること、さらに、有機EL材料の溶解性に優れていることから、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、γ−ブチルラクトン(γBL)、安息香酸エチル、テトラヒドロナフタレン(THN)、シクロヘキサノンなどを好適な溶媒として利用することができる。
【0058】
転写材料が溶解性と転写耐性、転写後のデバイス性能を全て満たす場合には、転写材料の原型を溶媒に溶解させることが好ましい。転写材料が溶解性に乏しい場合には、転写材料に、アルキル基などの溶媒に対する可溶性基を導入することで、可溶性を改良することができる。デバイス性能面で優れる転写材料の原型に可溶性基を導入した場合には、性能が低下することがある。その場合には、例えば転写時の熱において、この可溶性基を脱離させて原型材料をデバイス基板に堆積させることもできる。
【0059】
可溶性基を導入した転写材料を転写する際に、ガスの発生や転写膜への脱離物の混入を防止するためには、転写材料が塗布時に溶媒に対する可溶性基をもち、塗布後に熱または光によって可溶性基を変換または脱離させた後に、転写材料を転写することが好ましい。例えば、ベンゼン環を有する材料を例に挙げると、図6(1)に示すように、可溶性基としてアセチル基をもつ材料に光を照射してメチル基に変換することができる。また、図6(2)および(3)に示すように、可溶性基としてエチレン基やジケト基などの分子内架橋構造を導入し、そこからエチレンや一酸化炭素を脱離するプロセスによって原型材料に復帰させることもできる。
【0060】
可溶性基の変換または脱離は乾燥前の溶液状態でも、乾燥後の固体状態でもよいが、プロセス安定性を考慮すると、乾燥後の固体状態で実施することが好ましい。転写材料の原型分子は非極性的であることが多いために、固体状態にて可溶性基を脱離する際に脱離物を転写材料内に残留させないためには、脱離物の分子量は小さく極性的(非極性的な原型分子に対して反発的)であることが好ましい。また、転写材料内に吸着されている酸素や水を脱離物と一緒に除去するためには、脱離物がこれらの分子と反応しやすいことが好ましい。これらの観点からは一酸化炭素を脱離するプロセスで可溶化基を変換または脱離することが特に好ましい。
【0061】
ベンゼン環を有する材料としては、ベンゼン自体の他に、縮合多環化合物が挙げられる。縮合多環化合物としては、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ピレン、ペリレンなどの縮合多環炭化水素化合物の他、縮合多環複素化合物が挙げられる。もちろん、これらは置換されていても無置換であっても良い。これらの化合物の有する1または2以上のベンゼン環に対し、前記変換や脱離を行うことができる。
【0062】
次に本発明のドナー基板の使い方を説明する。図7および図8は、本発明の薄膜パターニング方法の一例を示す断面図および平面図である。なお、本明細書中で使用する図は、カラーディスプレイにおける多数の画素を構成するRGB副画素の最小単位を抜き出して説明している。また、理解を助けるために、横方向(基板面内方向)に比較して縦方向(基板垂直方向)の倍率を拡大している。
【0063】
図7において、ドナー基板30は、支持体31、光熱変換層33、区画パターン34、区画パターン内に存在する転写材料37(有機ELのRGB各発光材料の塗布膜)からなる。有機EL素子(デバイス基板)10は、支持体11、その上に形成されたTFT(取出電極込み)12と平坦化膜13、絶縁層14、第一電極15、正孔輸送層16からなる。なお、これらは例示であるため、後述のように各基板の構成はこれらに限定されない。
【0064】
ドナー基板30の区画パターン34と、デバイス基板10の絶縁層14との位置を合わせた状態で、両基板は対向するように配置される。ドナー基板30の支持体31側からレーザーを入射して光熱変換層33に吸収させ、そこで発生する熱により転写材料37R、37G、37Bを同時に加熱・蒸発させ、それらをデバイス基板10の正孔輸送層16上に堆積させることで、発光層17R、17G、17Bを一括して転写、形成するものである。転写材料37R、37G、37Bに挟まれる区画パターン34の全域と、転写材料37R、37Bの外側に位置する区画パターン34の一部の領域が転写材料37と同時に加熱されるようにレーザーを照射することが可能である。
【0065】
さらに、本発明の好ましい形態の1つとして、区画パターンの厚さを転写材料より厚くする場合には、区画パターンのうち転写層より厚い部分の温度はそれほど上昇しない。区画パターンは下から加熱されるので、上の方は距離があるので暖まりにくいからである。そのため、区画パターンを通じてデバイス基板が高温に加熱されることもなく、区画パターンからの脱ガスの影響などもほとんどなく、デバイス性能が悪化しない。
【0066】
また、本発明によれば、区画パターンに隔てられて存在する異なる転写材料に対して、区画パターンを跨ぐようにして同時に光を照射して加熱できるので、異なる転写材料を一括して転写できる。例えば、有機ELディスプレイにおけるRGB各発光層を本発明によりパターニングする場合は、RGB各発光層を一組としてまとめて転写することができるので、RGB各発光層に順次光を照射する必要があった従来法と比べてパターニング時間の短縮が可能になる。
【0067】
光は光熱変換層で十分に吸収されるために、異なる光吸収スペクトルをもつRGB各発光層でも同一の光源を用いて同程度の温度に加熱することができ、透過光によりデバイス基板が加熱される心配もない。区画パターンが存在することで、隣接する異なる転写材料同士が混合したり、その境界位置の揺らぎがある部分の転写を排除できるので、一括転写してもデバイス性能を損なうことがない。
【0068】
また、区画パターンはフォトリソグラフィ法などにより高精度にパターニングすることができるために、異なる転写材料の転写パターンの隙間を最小にすることができる。これは、より開口率を高めて耐久性に優れた有機ELディスプレイを作製できるという効果につながる。
【0069】
図8は、図7におけるレーザー照射の様子をドナー基板30の支持体31側から見た模式図である。全面に形成された光熱変換層33があるために、支持体31(ガラス板)側から区画パターン34や転写材料37R、37G、37Bは実際には見えないが、レーザーとの位置関係を説明するために点線にて図示した。レーザービームは矩形をしており、転写材料37R、37G、37Bを跨ぐようにして照射され、かつ、転写材料37R、37G、37Bの並びに対して垂直方向にスキャンされる。なお、レーザービームは相対的にスキャンされればよく、レーザーを移動させても、ドナー基板30とデバイス基板20とのセットを移動させても、その両方でもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0071】
実施例1乃至3
ドナー基板を以下のとおり作製した。支持体として無アルカリガラス基板を用い、洗浄/UVオゾン処理後に、光熱変換層として厚さ0.2μm、0.4μm、0.6μmのタタンタル膜をスパッタリング法により全面形成した。次に、前記光熱変換層をUVオゾン処理した後に、上にポジ型ポリイミド系感光性コーティング剤(東レ株式会社製、DL−1000)をスピンコート塗布し、プリベーキング、UV露光した後に、現像液(東レ株式会社製、ELM−D)により露光部を溶解・除去した。
【0072】
このようにパターニングしたポリイミド前駆体膜をホットプレートで350℃、10分間ベーキングして、ポリイミド系の区画パターンを形成した。この区画パターンの高さは2μmで、断面は順テーパー形状であった。区画パターン内部には幅80μm、長さ280μmの光熱変換層を露出する開口部が、それぞれ100、300μmのピッチで配置されていた。この基板上に、Alqを3wt%含むクロロホルム溶液をスピンコート塗布することで区画パターン内(開口部)にAlqからなる平均厚さ25nmの転写材料を形成した。
【0073】
なお、光熱変換層の厚みが0.2μmの場合を実施例1、0.4μmの場合を実施例2、0.6μmの場合を実施例3とした。
【0074】
実施例4、5
光熱変換層としてモリブデンまたはクロムを0.2μm形成したものを実施例4および5とした。光熱変換層の材質を変更した以外は、実施例1乃至3と同じように作製した。
【0075】
実施例6
光熱変換層としてチタンを0.2μmで形成した以外は実施例1乃至3と同じように作製した。
【0076】
実施例7
光熱変換層が0.1μmの厚みのチタンで作製した。その他の部分は実施例1乃至3と同じように作製した。
【0077】
実施例8
光熱変換層としてバナジウムを0.2μmで形成した以外は実施例1乃至3と同じように作製した。
【0078】
実施例9
光熱変換層としてニオブを0.2μmで形成した以外は実施例1乃至3と同じように作製した。
【0079】
実施例10
無アルカリガラス基板上に光熱変換層としてクロム0.1μmを形成し、その層上にタンタルを0.1μmで形成した以外は実施例1乃至3と同じように作製した。この光熱変換層の熱伝導率と体積比熱の計算値はそれぞれ60.9W/mK、3.00J/cmKであった。
【0080】
実施例11
無アルカリガラス基板上に光熱変換層としてクロム0.18μmを形成し、その層上にタンタルを0.02μmで形成した以外は実施例1乃至3と同じように作製した。この光熱変換層の熱伝導率と体積比熱の計算値はそれぞれ65.9W/mK、3.42J/cmKであった。
【0081】
実施例12
光熱変換層として白金を0.2μmで形成した以外は実施例1乃至3と同じように作製した。
【0082】
実施例13
光熱変換層として金を0.2μmで形成した以外は実施例1乃至3と同じように作製した。
【0083】
実施例14
無アルカリガラス基板上に光熱変換層としてクロム0.1μmを形成し、その層上に金を0.1μmで形成した以外は実施例1乃至3と同じように作製した。この光熱変換層の熱伝導率と体積比熱の計算値はそれぞれ183W/mK、3.03J/cmKであった。
【0084】
比較例1
転写層を形成する部分にのみ光熱変換層をクロムで0.2μm形成した。区画パターンの下には光熱変換層が重ならない。その他の部分は実施例1乃至3と同じように作製した。
【0085】
デバイス基板は以下のとおり作製した。ITO透明導電膜を140nm堆積させた無アルカリガラス基板(ジオマテック株式会社製、スパッタリング成膜品)を38×46mmに切断し、フォトリソ法によりITOを所望の形状にエッチングした。次に、ドナー基板と同様にパターニングされたポリイミド前駆体膜を、300℃、10分間ベーキングして、ポリイミド系の絶縁層を形成した。
【0086】
この絶縁層の高さは1.8μmで、断面は順テーパー形状であった。絶縁層のパターン内部には幅70μm、長さ270μmのITOを露出する開口部が、それぞれ100、300μmのピッチで配置されていた。この基板をUVオゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、正孔輸送層として、銅フタロシアニン(CuPc)を20nm、NPDを40nm、発光領域全面に蒸着により積層した。
【0087】
このデバイス基板に対して実施例および比較例のドナー基板を用いて、転写層を転写した。具体的には、前記ドナー基板の区画パターンと前記デバイス基板の絶縁層との位置を合わせて対向させ、3×10−4Pa以下の真空中で保持した後に、大気中に取り出した。絶縁層と区画パターンとで区画される転写空間は真空に保持されていた。この状態で、転写材料の一部と区画パターンの一部が同時に加熱されるように、ドナー基板のガラス基板側から波長800nm前後のレーザー(光源:半導体レーザーダイオード)を照射し、転写材料のAlqをデバイス基板の下地層である正孔輸送層上に転写した。レーザー強度は光熱変換層の膜厚に応じて10〜80W/mmに調整し、スキャン速度は0.1であり、発光領域全面に転写されるように、レーザーをオーバーラップさせる方式で繰り返しスキャンを実施した。
【0088】
Alq転写後のデバイス基板を、再び真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、電子輸送層として下記に示すE−1を25nm、発光領域全面に蒸着した。次に、ドナー材料(電子注入層)としてフッ化リチウムを0.5nm、さらに、第二電極としてアルミニウムを100nm蒸着して、5mm角の発光領域をもつ有機EL素子を作製した。
【0089】
その後、ドナー基板の区画パターン内を顕微鏡にて目視観察した。結果は、区画パターン内に転写層の転写残りがない場合を「良好」と判断し、区画パターンと光熱変換層の境界付近に転写材料がわずかに残った場合を「良」と判断し、境界部分に転写材料が明確に残った場合を「不良」と判断した。
【0090】
結果を表2に示す。また、実施例で用いたクロム、モリブデン、タンタル、チタン、ニオブ、バナジウム、白金および金の熱伝導率、体積比熱、密度、比熱は表1に示す。8つの金属の中で熱伝導率が最も低いのはチタンで17.1W/mKである。このチタンを用いて厚み0.2μmの光熱変換層を構成した実施例6は、光熱変換層と区画パターンの境界にわずかに転写材料の残留が認められ、「良」と判断した。それ以外の実施例1乃至5は全て転写残りはなく、「良好」と判断できた。
【0091】
また、チタンをさらに薄くした(0.1μm)実施例7では、区画パターンの境界で転写材料の転写残りが僅かに認められ、「良」乃至「不良」と判断した。なお、転写材を転写した相手であるEL素子側では、この時発光層の薄い領域があり、わずかに正孔輸送層からの青色発光が混在し、「わずかに異常」と判断した。これは、光熱変換層が薄いと区画パターンに熱を奪われて局所的に冷めやすくなり、温度ムラが大きくなるからと考えられる。
【0092】
一方、区画パターンの下側が直接支持板に接触して構成された比較例1は、光熱変換層と区画パターンの境界で転写材料の転写残りが認められ、「不良」と判断した。光熱変換層は照射されたレーザーが熱に変換されるが、光熱変換層の熱容量が小さいために、区画パターンに熱拡散が起きた際に、光熱変換層の温度低下が大きく、転写が十分に行われなかったためと考えられる。
【0093】
また、比較例1は、作製した有機ELでも発光層の薄い異常領域が認められ、正孔輸送層からの青色発光が混在した。現象は実施例7と似ていたが、実施例7より発光色の混在が明らかであったため、EL素子側を「異常」と判断した。
【0094】
EL素子側に異常が認められなかった有機EL素子は、さらに10mA/cmの電流条件で発光させ、分光放射輝度計により正面輝度を測定し、発光効率(cd/A)を算出した。発光層(Alqを25nm)を含むすべての層を蒸着によって同様に作製した有機EL素子を基準とし、発光効率の低下割合が10%未満であれば「正常」、また、10%以上40%未満の低下であれば「少し低下」、40%以上の低下であれば「大きく低下」とした結果を表2に示した。転写材料と接する光熱変換層表面の材質が五族の金属や貴金属である場合に、性能低下が抑制される傾向が認められた。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【符号の説明】
【0097】
10 有機EL素子(デバイス基板)
11 支持体
12 TFT(取り出し電極含む)
13 平坦化膜
14 絶縁層
15 第一電極
16 正孔輸送層
17 発光層
18 電子輸送層
19 第二電極
20 デバイス基板
21 支持体
27 転写膜
30 ドナー基板
31 支持体
33 光熱変換層
34 区画パターン
37 転写材料
39 転写補助層
60 区画パターン高さ
61 区画パターン上面
64 撥液層
66 区画パターン上面幅
67 断面幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された光熱変換層と、少なくとも一部が前記光熱変換層の上面に形成された区画パターンと、前記区画パターン内に形成された転写層を含む転写用ドナー基板。
【請求項2】
前記転写層は、少なくとも1の区画パターン内と他の区画パターン内で異なる転写材料で構成される請求項1に記載された転写用ドナー基板。
【請求項3】
前記光熱変換層が厚さ0.2μm以上の金属膜を含むことを特徴とする請求項1または2のいずれか1の請求項に記載された転写用ドナー基板。
【請求項4】
前記光熱変換層の熱伝導率が50W/mK以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の請求項に記載された転写用ドナー基板。
【請求項5】
前記光熱変換層の体積比熱が2J/cmK以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1の請求項に記載された転写用ドナー基板。
【請求項6】
前記光熱変換層が単一の金属層であり、前記金属がバナジウム、ニオブ、タンタル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムおよびオスミウムからなる群より選ばれる金属である請求項1乃至5のいずれか1の請求項に記載された転写用ドナー基板。
【請求項7】
前記光熱変換層が複数層からなり、前記複数層のうち前記転写層と接触する層がバナジウム、ニオブ、タンタル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムおよびオスミウムからなる群より選ばれる金属である請求項1乃至5のいずれか1の請求項に記載された転写用ドナー基板。
【請求項8】
前記転写層は有機EL素子構成材料で構成された請求項1乃至7のいずれか1の請求項に記載された転写用ドナー基板。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1の請求項に記載された転写用ドナー基板をデバイス基板と対向させる工程と、前記光熱変換層に光を照射する工程を有するデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−80439(P2010−80439A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199558(P2009−199558)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】