説明

転写用原盤基板の型の製造方法、及び転写用原盤基板の製造方法

【課題】 転写用原盤基板の型の製造方法において、転写用原盤基板の型からの剥離性と、転写用原盤の被転写体への転写精度の両立を図ると共に、平坦基板のエッチング工程におけるエッチング精度/エッチング効率/形成されるパターンの精細化のバランスを図る。
【解決手段】 平坦基板20へのレジスト31の塗布、露光及び現像を実施して、レジストパターンRを形成する工程(A)と、レジストパターンRをマスクとして平坦基板20をエッチングし、エッチング部分を凹部21とする、転写する信号パターンに応じた表面凹凸パターンP1と補完的な反転パターンP2を形成する工程(B)とを順次実施し、かつ、工程(B)を、凹部21の壁角度αを60〜90°とし、平坦基板20のエッチング深さE1とレジストパターンRのエッチング深さE2の比を0.5以上として、実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被転写体の表面に所定の信号パターンを磁気転写するために使用される転写用原盤を構成する転写用原盤基板の型の製造方法、及び該方法により製造された型を用いる転写用原盤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の製造技術として、所定の表面凹凸パターンを有し、少なくとも表面が磁性を有する転写用原盤(マスタ担体)を用い、該転写用原盤の表面に、被転写体(スレーブ媒体)を密着させて、被転写体に転写用原盤の表面凹凸パターンに応じた信号パターンを磁気転写する技術がある。
【0003】
転写用原盤としては、表面凹凸パターンを有する転写用原盤基板(マスタ基板)の上に磁性層が積層されたものが広く使用されている。また、転写用原盤基板は、転写用原盤基板の反転パターンを有する型を用いて効率よく製造される。
【0004】
特許文献1には、転写用原盤基板の型の製造方法として、平坦基板の表面に、レジストの塗布・露光・現像を実施してレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして、平坦基板をエッチングし、さらに残存レジストを除去し、エッチングされた部分を凹部とする反転パターンを有する型を製造する方法が開示されている。
【0005】
また、同文献には、上記型を用いて電鋳により転写用原盤基板を成形し、得られた転写用原盤基板の上に磁性層を成膜して転写用原盤を製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−256644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の転写用原盤の製造方法では、転写用原盤基板の型からの剥離性と、製造される転写用原盤の被転写体への転写精度が重要である。しかしながら、従来は、これらを両立する製造条件について充分に検討が行われていない。
【0007】
また、型を製造する際のエッチング工程では、平坦基板だけでなく、マスクであるレジストパターン自体もエッチングされる。そのため、レジストパターンが過度にエッチングされると、マスクとして良好に機能しなくなり、エッチング精度が低下する恐れがある。レジストパターンを厚くすれば、レジストパターンが深くエッチングされても、残存するレジストパターンがマスクとして機能するため、かかる恐れはなくなるが、エッチング効率が悪くなる上、精細なパターンが形成し難くなる。しかしながら、従来は、エッチング条件について充分に検討が行われていない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、転写用原盤基板の型からの剥離性と、転写用原盤の被転写体への転写精度の両立を図ると共に、平坦基板のエッチング工程におけるエッチング精度/エッチング効率/形成されるパターンの精細化のバランスが良好な転写用原盤基板の型の製造方法、及び該製造方法により得られる転写用原盤基板の型を用いた転写用原盤の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の転写用原盤基板の型の製造方法は、被転写体の表面に所定の信号パターンを磁気転写するために使用され、前記信号パターンに応じた表面凹凸パターンを有する転写用原盤基板の上に少なくとも磁性層が積層されてなる転写用原盤の前記転写用原盤基板を成形する型の製造方法において、
平坦基板へのレジストの塗布、露光及び現像を実施して、レジストパターンを形成する工程(A)と、前記レジストパターンをマスクとして前記平坦基板をエッチングし、エッチング部分を凹部とする、前記表面凹凸パターンと補完的な反転パターンを形成する工程(B)とを有し、前記工程(B)を、前記凹部の壁角度を60〜90°とし、前記平坦基板のエッチング深さ(E1)と前記レジストパターンのエッチング深さ(E2)の比(E1/E2)を0.5以上として、実施することを特徴とする。
【0010】
本明細書において、「反転パターン」とは、信号パターンに応じた表面凹凸パターンの凸部に対応する部分が凹部、同表面凹凸パターンの凹部に対応する部分が凸部のパターンである。また、凹部の「壁角度」は、凹部の底面を隣接する凸部側に延長した面と、凹部の壁面とのなす角度と定義する(図2(c)の符号α参照)。
【0011】
本発明の転写用原盤の製造方法は、上記の本発明の転写用原盤基板の型の製造方法により製造された型を用いて、転写用原盤基板を成形し、該転写用原盤基板の表面に少なくとも磁性層を積層することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法では、転写用原盤基板の型を製造する際の工程(B)、すなわち平坦基板のエッチング工程において、形成される凹部の壁角度を特定の範囲として、エッチングを行う構成としているので、転写用原盤基板の型からの剥離性と、転写用原盤の被転写体への転写精度との両立を図ることができる。本発明の製造方法ではまた、工程(B)、すなわち平坦基板のエッチング工程において、エッチング選択比(平坦基板のエッチング深さとレジストパターンのエッチング深さの比)を特定の範囲として、エッチングを行う構成としているので、エッチング工程におけるエッチング精度/エッチング効率/形成されるパターンの精細化のバランスが良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、図面を参照し、本発明に係る実施形態について説明する。各図においては、視認しやすくするため、実際のものとは縮尺を異ならせてある。
【0014】
「転写用原盤、及び磁気転写方法」
本発明は特に「転写用原盤基板の型」の製造方法が特徴的であるが、はじめに、本発明の転写用原盤基板の型を用いて製造される転写用原盤の一例、及びこれを用いた磁気転写方法について簡単に説明する。図1は転写用原盤等の厚み方向断面図である。
【0015】
転写用原盤10は中心部に開口部を有するディスク状物であり、図1(b)に示すように、被転写体13に転写する信号パターンに応じた表面凹凸パターンP1を有する金属製の転写用原盤基板(マスタ基板)11と、その表面形状に沿って積層された磁性層12とを備えている。
【0016】
被転写体13としては、片面又は両面に磁気記録層(図示略)を有するディスク状のスレーブ媒体が使用される。図1(a)に示すように、あらかじめ、被転写体13に対して、トラック方向又は厚み方向に磁界Hinを印加し、磁気記録層(図示略)を初期磁化させる(トラック方向に磁界Hinを印加した場合について図示してある)。この状態で、被転写体13を転写用原盤10の表面に供給し、両者を密着させる。次に、図1(b)に示すように、密着させた転写用原盤10及び被転写体13に対して、初期磁化の方向と略反対方向に転写用磁界Hduを印加する。この際、転写用磁界Hduは、転写用原盤10において、被転写体13と密着した磁性層12の凸部12aにのみ略選択的に吸い込まれる。その結果、面内記録の場合、被転写体13の磁気記録層では、凸部12aに密着した部分の初期磁化は反転せず、その他の部分の初期磁化が反転する。垂直記録の場合には逆に、被転写体13の磁気記録層では、凸部12aに密着した部分の初期磁化が反転し、その他の部分の初期磁化は反転しない。このようにして、転写用原盤10の表面凹凸パターンP1に応じた磁化パターンが被転写体13に磁気転写され、磁気記録媒体が製造される。
【0017】
「転写用原盤基板の型の製造方法、転写用原盤の製造方法」
次に、図2に基づいて、上記転写用原盤10を製造する場合を例として、本発明に係る実施形態の転写用原盤基板の型の製造方法、及び転写用原盤の製造方法について説明する。図2は、図1と同様の厚み方向断面図である。
【0018】
(転写用原盤基板の型の製造方法)
<工程(A)>
はじめに、図2(a)に示す如く、平坦基板20を用意し、該平坦基板20の表面全体に、スピンコート法等により、ポジ型又はネガ型のレジスト31を塗布する。平坦基板20としては制限されない。ただし、平坦基板20としては、以下の工程において、半導体技術で使用される装置をそのまま利用できることから、シリコンウエハが好ましく用いられる。
【0019】
次に、レジスト31の露光及び現像を実施し、転写用原盤基板11に形成する表面凹凸パターンP1に対応した、図2(b)に示すレジストパターンRを形成する。露光は、平坦基板20を回動させながら、レジスト31に対して、転写用原盤基板11に形成する表面凹凸パターンP1に対応して変調したレーザ光又は電子線を照射することで、実施できる。レーザ光又は電子線は、用いるレジスト31の種類に応じて、製造される転写用原盤基板11の型において凸部となる部分にレジスト31が残るよう、照射する。露光後現像前には、必要に応じて、熱処理(PEB:Post Exposure Bake)を実施する。
【0020】
レジスト31としては、高感度かつ高解像度を有し、高精細パターンを形成できることから、化学増幅型レジストが好ましく用いられる。化学増幅型レジストは、電子線等による露光で酸が発生し、露光後に熱処理(PEB)することで、発生した酸を触媒としてレジスト反応が進行するものである。通常、化学増幅型レジストでは、露光部分に発生した酸は、熱処理(PEB)時に周辺に拡散するため、現像後に現れるパターンは露光部分より広がった形状となる。
【0021】
<工程(B)>
次に、図2(c)に示す如く、レジストパターンRをマスクとして、平坦基板20をエッチングし、平坦基板20に凹部21を形成する。凹部21は、製造される型を用いて得られる転写用原盤10において凸部12aとなる部分である。この工程では、レジスト31の表層もエッチングされる。エッチング終了後、図2(d)に示す如く、酸素プラズマアッシング等により、残存するレジスト31を除去する。
【0022】
工程(B)終了後、表面凹凸パターンP1と補完的な反転パターンP2を有する型40が製造される。反転パターンP2は、表面凹凸パターンP1の凸部に対応する部分が凹部(21)、表面凹凸パターンP1の凹部に対応する部分が凸部(22)のパターンである。
【0023】
本実施形態では、工程(B)において、図2(c)に示す凹部21の壁角度αが60〜90°となるよう、エッチングを実施する。凹部21の壁角度αが小さくなる程、型40からの転写用原盤基板11の剥離性はよくなるが、製造される型40を用いて得られる転写用原盤10の被転写体13への転写精度は低下する傾向にある。本発明者は、凹部21の壁角度αを上記範囲とすることで、転写用原盤基板11の型40からの剥離性と、製造される転写用原盤10の被転写体13への転写精度のバランスが良好となることを見出している。凹部21の壁角度αが70〜85°となるよう、エッチングを実施することがより好ましい。
【0024】
平坦基板20のエッチング方法としては、制限されない。ただし、高精細エッチングが可能で、凹部21の壁角度αを上記範囲に比較的簡易に制御できることから、ドライエッチングが好ましく、特にRIE(リアクティブ・イオン・エッチング)が好ましい。
【0025】
凹部21の壁角度αは、例えば、用いるエッチングガスの種類を変更することで、制御できる。エッチングガスとしては、CF、SF等が挙げられ、凹部21の壁角度αが上記範囲となるよう選択すればよい。
【0026】
工程(B)においてはさらに、図2(c)に示す平坦基板20のエッチング深さ(凹部21の深さ)E1とレジストパターンRのエッチング深さE2の比(E1/E2、以下「エッチング選択比」と言う。)が0.5以上となるよう、エッチングを実施する。図2(c)では、レジストパターンRのエッチング前の表面を符号31sで示してある。
【0027】
平坦基板20だけでなく、マスクであるレジストパターンRの表層もエッチングされるが、本発明者は、上記条件でエッチングを実施することで、レジストパターンRを必要以上に厚くすることなく、レジストパターンRが良好にマスクとして機能し、良好なエッチング精度が得られることを見出している。レジストパターンRを比較的薄くできることは、エッチング効率と精細なパターン形成の点で好ましい。すなわち、本実施形態の製造方法では、エッチング精度、エッチング効率が良好で、しかも精細なパターンが形成できる。特に、エッチング選択比が1以上となるよう、エッチングを実施することが好ましい。
【0028】
エッチング選択比は、平坦基板20の種類、レジスト31の種類、エッチング条件の組み合わせで制御できる。平坦基板20としてはシリコンウエハが好ましく、レジスト31としては化学増幅型レジストが好ましいことを述べた。平坦基板20とレジスト31の組合わせを決定した上で、エッチング条件を調整すれば、エッチング選択比を制御できる。凹部21の壁角度αと同様、エッチング選択比は例えば、ドライエッチング、好ましくはRIE(リアクティブ・イオン・エッチング)を実施し、用いるエッチングガスの種類を変更することで、制御できる。
【0029】
(転写用原盤の製造方法)
<工程(C)>
図2(e)に示す如く、転写用原盤基板の型40の上に、転写用原盤基板11を形成する。転写用原盤基板11は、型40の表面全体に金属スパッタリング等により、導電層51を成膜し、電鋳を実施することで、形成できる。導電層51は、反転パターンP2が壊れないよう、薄く成膜する。導電層51は、転写用原盤基板11と同一材質(例えば、ニッケル)で成膜することが好ましい。導電層51は、電鋳により転写用原盤基板11の一部となる。
【0030】
<工程(D)>
次に、図2(f)に示す如く、転写用原盤基板11を型40から剥離し、転写用原盤基板11が製造される。
【0031】
本実施形態によれば、上記工程(C)と(D)を繰り返し実施することで、1つの型40から複数の転写用原盤基板11を簡易に効率よく製造できる。
【0032】
<工程(E)>
成形された転写用原盤基板11の表面に磁性材料をスパッタリングするなどして、転写用原盤基板11の表面形状に沿って磁性層12を積層し、図1(b)に示した転写用原盤10が完成する。磁性層12は、少なくとも転写用原盤基板11の表面凸部の上に成膜すればよい。
【0033】
転写用原盤10の製造にあたっては、磁性層12の他、必要に応じて他の層を成膜することができる。例えば、転写用原盤基板11と磁性層12との間に非磁性層を介在させたり、磁性層12の上に保護層を設けることができる。
【0034】
上記実施形態の製造方法では、転写用原盤基板の型を製造する際の工程(B)、すなわち平坦基板20のエッチング工程において、形成される凹部21の壁角度αを特定の範囲として、エッチングを行う構成としているので、転写用原盤基板11の型40からの剥離性と、転写用原盤10の被転写体13への転写精度との両立を図ることができる。
【0035】
上記実施形態の製造方法ではまた、工程(B)、すなわち平坦基板20のエッチング工程において、エッチング選択比(平坦基板のエッチング深さE1/レジストパターンのエッチング深さE2)を特定の範囲として、エッチングを行う構成としているので、エッチング工程におけるエッチング精度/エッチング効率/形成されるパターンの精細化のバランスが良好である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の技術は、被転写体の表面に所定の信号パターンを磁気転写するために使用される転写用原盤に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】転写用原盤の一例と、磁気転写方法を示す図である。
【図2】本発明に係る実施形態の転写用原盤基板の型の製造方法、及び転写用原盤基板の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0038】
10 転写用原盤
11 転写用原盤基板
12 磁性層
12a 表面凹凸パターンの凸部
13 被転写体
20 平坦基板
21 凹部
31 レジスト
40 転写用原盤基板の型
P1 表面凹凸パターン
P2 反転パターン
R レジストパターン
E1 平坦基板のエッチング深さ
E2 レジストパターンのエッチング深さ
α 凹部の壁角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被転写体の表面に所定の信号パターンを磁気転写するために使用され、前記信号パターンに応じた表面凹凸パターンを有する転写用原盤基板の上に少なくとも磁性層が積層されてなる転写用原盤の前記転写用原盤基板を成形する型の製造方法において、
平坦基板へのレジストの塗布、露光及び現像を実施して、レジストパターンを形成する工程(A)と、前記レジストパターンをマスクとして前記平坦基板をエッチングし、エッチング部分を凹部とする、前記表面凹凸パターンと補完的な反転パターンを形成する工程(B)とを有し、
前記工程(B)を、前記凹部の壁角度を60〜90°とし、前記平坦基板のエッチング深さと前記レジストパターンのエッチング深さの比を0.5以上として、実施することを特徴とする転写用原盤基板の型の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の転写用原盤基板の型の製造方法により製造された型を用いて、転写用原盤基板を成形し、該転写用原盤基板の表面に少なくとも磁性層を積層することを特徴とする転写用原盤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−155774(P2006−155774A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345989(P2004−345989)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】