説明

転写箔、転写物及びその製造方法

【課題】高分子液晶材料を含んだ転写材層を基材から物品上へと部分的に転写させる場合に、より小さな力で基材を剥離可能とするか又はバリや欠けなどの不良を生じ難くする。
【解決手段】本発明の転写箔10は、基材と、これと向き合い且つ高分子液晶材料を含有した複屈折性層を備え、基材に剥離可能に支持された転写材層と、これを被覆した接着層とを具備し、転写材層は、可視像及び/又は潜像が記録されており、基材から被転写体へと転写される表示領域R1a,R1bと、表示領域R1a,R1bを縁取っており、表示領域R1a,R1bの転写の際にその輪郭に沿った破断を生じる縁取り領域R2とを含み、縁取り領域R2のうち、表示領域R1a,R1bを転写する際に破断の起点となる破断開始部において、高分子液晶材料のメソゲン基は表示領域R1a,R1bの剥離方向と交差する方向に配向していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写材層を基材から物品上へと転写する転写技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証媒体並びに商品券及び株券などの有価証券媒体には、偽造が困難であることが望まれる。そのため、従来から、そのような媒体には、その偽造を抑止すべく、偽造が困難なラベルが貼り付けられている。
【0003】
また、近年では、認証媒体及び有価証券媒体以外の物品についても、偽造品の流通が問題視されている。そのため、このような物品に、認証媒体及び有価証券媒体に関して上述した偽造防止技術を適用する機会が増えている。
【0004】
偽造防止技術は、オバート技術とコバート技術とに分類することができる。
オバート技術は、一般のユーザが物品への適用を容易に認めることができ且つ容易に真偽判定をすることができる偽造防止技術である。代表的なオバート技術では、ホログラムなどの回折構造又はOptically Variable Ink(OVI)などの多層干渉膜を利用する。
【0005】
コバート技術は、物品への適用が一般のユーザに分かり難く、物品へのコバート技術の適用を知っている特定のユーザのみが真偽判定できることを狙った偽造防止技術である。代表的なコバート技術では、蛍光印刷又は万線モアレを利用する。
【0006】
特許文献1には、他のコバート技術が記載されている。このコバート技術では、反射層と配向膜と高分子液晶材料からなる複屈折性層とを含んだ表示体を使用する。複屈折性層は、遅相軸の方向が異なる2つの部分を含んでいる。これら2つの部分は、肉眼で互いから識別することは不可能又は困難であり、偏光フィルムを介して観察することにより互いから容易に区別できるようになる。即ち、これら2つの部分は、偏光フィルムを介して観察することにより可視化する潜像を形成している。
【0007】
ところで、この表示体は、例えば、粘着ラベル又は転写箔の形態で利用する。表示体は、転写箔の形態で利用した場合、粘着ラベルの形態で利用した場合と比較してより薄くすることができる。表示体を薄くすると、物品に貼り付けられた表示体を剥離する際に、その破壊を容易に生じさせることができる。即ち、表示体の再使用を不可能とすることができる。従って、上記の表示体は、特に偽造防止の目的で利用する場合は、転写箔の形態とすることが多い。
【0008】
しかしながら、高分子液晶材料は高強度である。そのため、転写箔の転写材層を基材から物品上へと部分的に転写させる場合、基材を物品から剥離する際に、転写材層が熱及び圧力印加部と非印加部との境界で容易に破断せず、基材の剥離に大きな力が必要となる。また、高分子液晶材料を含んだ転写材層は、基材から物品上へと転写させた場合に、バリや欠けなどの不良を生じ易い。
【特許文献1】特開平8−43804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高分子液晶材料を含んだ転写材層を基材から物品上へと部分的に転写させる場合に、より小さな力で基材を剥離可能とするか又はバリや欠けなどの不良を生じ難くする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1側面によると、基材と、前記基材と向き合い且つ高分子液晶材料を含有した複屈折性層を備え、前記基材に剥離可能に支持された転写材層と、前記転写材層を被覆した接着層とを具備し、前記転写材層は、可視像及び/又は潜像が記録されており、前記基材から被転写体へと転写される表示領域と、前記表示領域を縁取っており、前記表示領域の転写の際にその輪郭に沿った破断を生じる縁取り領域とを含み、前記縁取り領域のうち、前記表示領域を転写する際に破断の起点となる破断開始部において、前記高分子液晶材料のメソゲン基は前記表示領域の剥離方向と交差する方向に配向していることを特徴とする転写箔が提供される。
【0011】
本発明の第2側面によると、基材と、前記基材と向き合い且つ高分子液晶材料を含有した複屈折性層を備え、前記基材に剥離可能に支持された転写材層と、前記転写材層を被覆した接着層とを具備し、前記転写材層は、可視像又は潜像が記録されている表示領域と、前記表示領域を縁取っている縁取り領域とを含み、前記縁取り領域内において前記高分子液晶材料のメソゲン基は前記表示領域の輪郭に沿って配向していることを特徴とする転写箔が提供される。
【0012】
本発明の第3側面によると、被転写体としての物品と、第1側面に係る転写箔を用いた転写によって前記物品上に貼り付けられ、前記表示領域と前記縁取り領域の一部とを含んだ表示体とを具備したことを特徴とする転写物が提供される。
【0013】
本発明の第4側面によると、表示体と、これを支持している物品とを具備し、前記表示体は、高分子液晶材料を含有した複屈折性層を備えると共に、可視像及び/又は潜像が記録されている表示領域と、前記表示領域を縁取っている縁取り領域とを含み、前記縁取り領域内において前記高分子液晶材料のメソゲン基は前記表示領域の輪郭に沿って配向していることを特徴とする転写物が提供される。
【0014】
本発明の第5側面によると、転写箔を用いた転写によって転写物を製造する方法であって、前記転写箔は、基材と、前記基材と向き合い且つ高分子液晶材料を含有した複屈折性層を備え、前記基材に剥離可能に支持された転写材層と、前記転写材層を被覆した接着層とを具備し、前記転写材層は、可視像及び/又は潜像が記録されている表示領域と、前記表示領域を縁取っている縁取り領域とを含み、前記転写は、前記表示領域が前記接着層を間に挟んで前記被転写体と向き合うように前記転写箔と前記被転写体とを配置し、前記表示領域と前記縁取り領域のうち前記表示領域に隣接した部分とに前記基材側から熱及び圧力を印加してそれらを前記被転写体に接着させ、次いで、前記転写箔と前記被転写体とを互いから引き離すことにより前記縁取り領域において前記表示領域の輪郭に沿った破断を生じさせると共に前記表示領域を前記基材から剥離させることを含み、前記縁取り領域のうち前記破断の起点となる破断開始部及び/又は前記破断の終点となる破断終了部において、前記高分子液晶材料のメソゲン基の配向方向が前記表示領域の剥離方向と交差するように前記転写箔と前記被転写体とを互いから引き離すことを特徴とする転写物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、高分子液晶材料を含んだ転写材層を基材から物品上へと部分的に転写させる場合に、より小さな力で基材を剥離すること又はバリや欠けなどの不良を生じ難くすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全ての図面を通じて同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明の一態様に係る転写箔を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す転写箔の一部を拡大して示す平面図である。図3は、図2に示す転写箔のIII−III線に沿った断面図である。図4は、図2に示す転写箔が含んでいる高分子液晶材料のメソゲン基の配向状態を概略的に示す平面図である。
【0018】
なお、図4では、後述する反射層を省略している。また、図4において、矢印は、後述するメソゲン基の配向方向を示している。
【0019】
図1乃至図4に示す転写箔10は、長さ方向がX方向に平行であり、幅方向がX方向と直交するY方向に平行であり、厚さ方向がX方向及びY方向と直交するZ方向に平行な帯形状を有している。ここでは、一例として、後述する剥離方向は、X方向に平行であるとしている。
【0020】
この転写箔10は、図3に示すように、基材110と転写材層120と接着層130とを含んでいる。
【0021】
基材110は、例えば、樹脂からなるフィルム又はシートである。基材110は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。基材110の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン又はポリイミドを使用することができる。
【0022】
基材110に多層構造を採用する場合、基材110は、転写材層120側の最表面層として、剥離抵抗の調節に利用可能な離型層を含んでいてもよい。離型層の材料としては、例えば、メラミン若しくはイソシアネートを硬化剤として用いた熱硬化性樹脂又はアクリレート若しくはエポキシ樹脂を含んだ紫外線又は電子線硬化樹脂に、離型剤としてフッ素系又はシリコン系のモノマー又はポリマーを添加してなるものを使用することができる。
【0023】
基材110上には、転写材層120が形成されている。転写剤層120は、剥離保護層1201と複屈折性層1202と回折構造形成層1203と反射層1204とマスク層1205とを含んでいる。剥離保護層1201、回折構造形成層1203、反射層1204及びマスク層1205の各々は、省略することができる。
【0024】
剥離保護層1201は、転写剤層120の基材110からの剥離を安定化すると共に、転写後に複屈折性層1202を保護する役割を果たす。剥離保護層1201の材料としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、硝化綿及び酢酸セルロースなどの熱可塑性樹脂、紫外線硬化型アクリル樹脂及び焼付け型メラミン樹脂などの硬化性樹脂を使用することができる。剥離保護層1201は、例えば、グラビアコータ、マイクログラビアコータ又はロールコータなどのコータを用いて基材110上に形成することができる。
【0025】
剥離保護層1201には、例えば、ポリエチレンワックス及びステアリン酸亜鉛などの滑剤を添加してもよい。こうすると、剥離保護層1201の耐摩耗性が向上する。
【0026】
複屈折性層1202は、高分子液晶材料を含有している。複屈折性層1202は、複屈折性を有している複数の領域を含んでいる。各領域は、例えば、位相差層としての役割を果たす。これら領域の一部と他の一部とは、屈折率異方性及び/又は遅相軸の向きが互いに異なっており、典型的には、肉眼で観察した場合には互いからの識別が不可能又は困難な潜像を形成している。
【0027】
複屈折性層1202は、例えば、以下の方法により形成する。
まず、複屈折性層1201の下地として利用する層に、光配向処理又はラビング処理などの配向処理を施す。これにより、下地表面に、メソゲン基を異なる方向に配向させる複数の領域を形成する。
【0028】
光配向処理は、複屈折性層1201の下地に、偏光を照射するか又は非偏光を斜めに照射して、下地内の分子の再配列又は異方的な化学反応を誘起する配向処理である。即ち、光配向処理によると、光学的手法によって下地に異方性が与えられ、メソゲン基の配向方向は、この異方性によって制御される。
【0029】
光配向処理には、アゾベンゼン誘導体の光異性化反応、桂皮酸エステル、クマリン、カルコン及びベンゾフェノンなどの光二量化若しくは架橋反応、又はポリイミドなどの光分解反応を利用することができる。即ち、光配向処理を行う場合、典型的には、まず、これらの反応を生じる材料からなる配向膜を下地として形成する。この配向膜は、例えば、グラビアコーティング法及びマイクログラビアコーティング法などのコーティング法を用いて形成することができる。
【0030】
次に、この配向膜に、フォトマスクを介して第1偏光を照射する第1露光を行い、次いで、他のフォトマスクを介して第1偏光とは偏光面が異なる第2偏光を照射する第2露光を行う。或いは、この配向膜に、フォトマスクを介して第1斜め方向から非偏光を照射する第1露光を行い、次いで、他のフォトマスクを介して第1斜め方向とは被照射面への正射影の向きが異なる第2斜め方向から非偏光を照射する第2露光を行う。こうすると、複屈折性層1201のうち、第1露光を行った部分に隣接した領域と、第2露光を行った部分に隣接した領域とで、メソゲン基を異なる方向に配向させることができる。
【0031】
メソゲン基を異なる方向に配向させる複数の部分を形成する場合、又は、メソゲン基の配向方向を連続的に変化させる場合、旋光子を利用することができる。例えば、旋光子に直線偏光を入射させた場合、入射光の偏光面と旋光子が射出する直線偏光の偏光面とが為す角度は、旋光子の厚さに応じて変化する。例えば、水晶Z板は、21.7°/mmの旋光能を有している。従って、例えば、厚さが異なる複数の部分を含んだ水晶Z板を介して直線偏光を照射すると、メソゲン基を異なる方向に配向させる複数の部分を形成することができる。また、厚さが連続的に変化している部分を含んだ水晶Z板を介して直線偏光を照射すると、メソゲン基の配向方向を連続的に変化させることができる。
【0032】
ラビング処理は、下地である樹脂層の表面をラビング布で擦る配向処理である。ラビング処理を行うと、樹脂層の表面の性質が変化する。これにより、メソゲン基の配向方向は、ラビング方向とほぼ等しい方向に制御される。
【0033】
ラビング処理を行う場合、まず、例えば、樹脂からなる配向膜を下地として形成する。この樹脂としては、例えば、ポリイミド又はポリビニルアルコールを使用することができる。また、この配向膜は、例えば、グラビアコーティング法及びマイクログラビアコーティング法などのコーティング法を用いて形成することができる。
【0034】
次に、この配向膜の全面をラビング布で一方向に擦る。続いて、配向膜をマスクで覆い、これをラビング布で別の方向に擦る。これにより、複屈折性層1201のうち、マスクで覆った部分に隣接した領域と、マスクの開口に対応した領域とで、メソゲン基を異なる方向に配向させることができる。なお、マスクの開口の輪郭が曲線を含んでいる場合、この曲線に沿ってラビング処理を行えば、メソゲン基の配向方向を先の曲線に沿って連続的に変化させることができる。
【0035】
配向膜は、光学的に等方性であってもよく、光学的に異方性であってもよい。後者の場合、配向膜を複屈折性層1201の一部として利用することができる。また、剥離保護層1201を省略する場合、基材110の最表面層を配向膜として利用することができる。
【0036】
上述した配向処理を終えた後、配向膜上に、複屈折性層1202の材料として、例えば、メソゲン基の両端にアクリレートを有する光硬化型液晶モノマーを塗布する。複屈折性層1202の材料としては、電子線又は紫外線を照射することにより硬化するものを使用する。硬化後の材料は、主鎖にメソゲン基を含んだ主鎖型の高分子液晶材料であってもよく、側鎖にメソゲン基を含んだ側鎖型の高分子液晶材料であってもよい。
【0037】
次いで、必要に応じ、これを、ネマチック相から等方性液体への相転移温度よりも僅かに低い温度で熱処理する。こうすると、メソゲン基の配向を促進することができる。
【0038】
その後、塗膜を硬化させる。以上のようにして、複屈折性層1202を得る。
【0039】
複屈折性層1202上には、回折構造形成層1203及び反射層1204がこの順に形成されている。回折構造形成層1203の一方の主面は、凸パターン又は凹パターンを含んでいる。回折構造形成層1203と反射層1204との界面であって凸パターン又は凹パターンに対応した領域は、回折構造としてホログラム又は回折格子を形成している。
【0040】
ホログラムは、例えば、以下の方法により形成することができる。まず、光学的な撮影方法を利用して、微細な凸パターン又は凹パターンからなるレリーフ型のマスター版を作製する。次いで、電気メッキ法を利用して、マスター版から凹パターン又は凸パターンを複製したニッケル製のプレス版を作製する。その後、回折構造形成層1203に、プレス版を加熱しながら押し付ける。これにより、回折構造形成層1203に、凸パターン又は凹パターンを転写する。更に、回折構造形成層1203上に反射層1204を形成する。以上のようにして、ホログラムを形成することができる。
【0041】
ホログラムは、他の方法で形成することも可能である。即ち、まず、平坦な回折構造形成層1203上に、反射層1204を形成する。次に、反射層1204に、プレス版を加熱しながら押し付ける。これにより、反射層1204及び回折構造形成層1203に、凸パターン又は凹パターンを転写する。以上のようにして、ホログラムを形成することができる。
なお、このタイプのホログラムは、レリーフ型ホログラムと呼ぶ。
【0042】
回折格子は、光学的な撮影方法を利用しないこと以外はホログラムに関して説明したのと同様の方法により形成することができる。回折格子を形成する場合、各々が回折格子を含んだ複数の画素を配置することにより、グレーティングイメージ又はドットマトリクス(ピクセルグラム等)と呼ばれる画像を表示させてもよい。
【0043】
回折構造形成層1203の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂又は光若しくは熱硬化性樹脂を使用することができる。
【0044】
回折構造形成層1203は、複屈折性層1202上に形成する代わりに、複屈折性層1202と剥離保護層1201との間に設置してもよい。この場合、典型的には、回折構造形成層1203と複屈折性層1202との間に、複屈折性層1202に平坦な下地を提供する平坦化層を設ける。平坦化層は、配向膜の下地であってもよく、配向膜自体であってもよい。
【0045】
反射層1204は、例えば、金属層、合金層、又は高屈折率層である。金属層の材料としては、例えば、アルミニウム、錫、銀、クロム、ニッケル又は金を使用することができる。合金層の材料としては、例えば、ニッケル−クロム−鉄合金、青銅又はアルミ青銅を使用することができる。高屈折率層の材料としては、例えば、二酸化チタン、硫化亜鉛及び三酸化二鉄などの無機誘電体を使用することができる。反射層1204として、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層してなる誘電体多層膜を使用してもよい。
【0046】
反射層1204は、例えば、蒸着、スパッタリング、又はイオンプレーティングにより形成することができる。反射層1204の厚さは、例えば、約10nm乃至約100nmの範囲内とする。
【0047】
反射層1204は、例えば、水洗シーライト加工、エッチング加工又はレーザ加工を利用することによりパターニングされた層として形成することができる。即ち、反射層1204は、回折構造形成層1203の全体を被覆していてもよく、或いは、回折構造形成層1203の一部のみを被覆していてもよい。
【0048】
水洗シーライト加工を利用すると、以下の方法により、反射層1204をパターニングされた層として形成することができる。まず、反射層1204の成膜に先立って、例えば水洗インキを用いた印刷により、形成すべき反射層1204のネガパターンを回折構造形成層1203上に形成する。次に、回折構造形成層1203及びネガパターン上に、反射層1204の材料を堆積させる。その後、水洗インキを、その上に堆積させた材料と共に洗い流す。これにより、パターニングされた反射層1204を得る。
【0049】
エッチング加工を利用すると、以下の方法により、反射層1204をパターニングされた層として形成することができる。まず、反射層1204を連続膜として成膜する。次に、反射層1204上に、例えばマスキング剤を用いた印刷により、形成すべき反射層1204のポジパターンを回折構造形成層1203上に形成する。次に、ポジパターンをマスクとして用いて、反射層1204をウェットエッチングする。これにより、パターニングされた反射層1204を得る。
【0050】
また、レーザ加工を利用すると、以下の方法により、反射層1204をパターニングされた層として形成することができる。まず、反射層1204を連続膜として成膜する。次に、反射層1204にレーザビームを部分的に照射して、その照射部を除去する。レーザとしては、例えば、Nd:YAGレーザ又はCO2ガスレーザを使用することができる。
【0051】
反射層1204の形成に伴う熱によって回折構造形成層1203などに劣化を生じる可能性がある場合は、回折構造形成層1203上に、これよりも耐熱性に優れた耐熱層を設け、この耐熱層上に反射層1204を形成してもよい。耐熱層は、例えば、マイクログラビア法及びダイレクトグラビア法などのウェットコーティング法を用いて形成することができる。
【0052】
マスク層1205は、反射層1204のうち、回折構造形成層1203の凸パターン又は凹パターンに対応した部分を被覆している。マスク層1205は、例えば、連続膜をエッチングすることにより反射層1204を形成する場合、エッチングマスクとしての役割を果たす。或いは、マスク層1205は、凸パターン又は凹パターンの複製を困難とする役割を果たす。マスク層1205の材料としては、例えば、樹脂を使用することができる。なお、マスク層1205の材料として熱可塑性樹脂を使用した場合、マスク層1205を接着層130の一部として利用することができる。
【0053】
転写材層120は、他の層を更に含むことができる。例えば、転写材層120は、偏光層を更に含むことができる。偏光層としては、例えば、一方向に配向させた二色性染料を含み、直線偏光子としての役割を果たす層、又は、コレステリック液晶層を含み、選択反射性を示す層を使用することができる。
【0054】
転写材層120は、図2及び図3に示すように、領域R1a、R1b、R2及びR3を含んでいる。なお、図2において、破線B1a1bは、領域R1aと領域R1bとの境界を示している。破線B1b2は、領域R1bと領域R2との境界を示している。破線B23は、領域R2と領域R3との境界を示している。
【0055】
領域R1aと領域R1bとは、表示領域を構成している。領域R2は、表示領域を縁取っている縁取り領域である。領域R3は、領域R2を間に挟んで表示領域と隣接した周辺領域である。この転写箔10では、図2に示す構造は、図1に示すようにX方向に配列している。
【0056】
領域R1aと領域R1bとでは、メソゲン基が異なる方向に配向し且つ複屈折性層1202の厚さが等しいか、メソゲン基が同じ方向に配向し且つ複屈折性層1202の厚さが異なっているか、又はメソゲン基が異なる方向に配向し且つ複屈折性層1202の厚さが異なっている。領域R2では、メソゲン基はX方向と交差する方向に配向している。領域R3では、メソゲン基は配向していないか、又は、任意の方向に配向している。
【0057】
図4には、一例として、領域R1a及びR1bは複屈折性層1202の厚さが等しく、領域R1aにおいてメソゲン基がX方向に対して平行に配向し、領域R1bにおいてメソゲン基がX方向に対して45°の角度を為すように配向し、領域R2においてメソゲン基がX方向に対して垂直に配向し、領域R3においてメソゲン基がX方向に対して斜めに配向している構造を示している。
【0058】
転写材層120上には、図3に示す接着層130が形成されている。接着層130は、例えば、熱を印加したときに粘着性を発現する感熱接着剤を含んでいる。感熱接着剤としては、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂及びエチレン−ビニルアルコール共重合体などの熱可塑性樹脂を使用することができる。接着層130は、例えば、上述した樹脂を、グラビアコータ、マイクログラビアコータ及びロールコータなどのコータを用いて転写材層120上に塗布することにより得られる。
【0059】
接着層130は、着色剤を更に含有していてもよい。反射層1204が光透過性を有している場合、又は、反射層1204がパターニングされている場合、可視化した潜像又は回折構造が表示する像の視認性が向上することがある。
【0060】
図5は、図1に示す転写箔を用いて製造することが可能な転写物の一例を概略的に示す平面図である。
【0061】
この転写物20は、表示体210と、被転写体としての物品220とを含んでいる。図5に示す例では、転写物20は、ID(identification)カード、磁気カード及び無線カードなどのカードである。
【0062】
表示体210は、図2乃至図4を参照しながら説明した領域R1a及びR1bからなる表示領域と、縁取り領域R2のうち領域R1bに隣接した部分とを含んでいる。表示体210は、図3に示す接着層130の一部を介して、物品220に貼り付けられている。
【0063】
物品220は、この例では、プラスチック基材を含んでいる。この物品220は、典型的には、プラスチック基材上に設けられた印刷層を更に含んでいる。
【0064】
転写物20は、例えば、キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証媒体であってもよく、商品券及び株券などの有価証券媒体であってもよい。或いは、転写物20は、美術品、工芸品、タグ、包装材料、玩具又は学習教材であってもよい。
【0065】
物品220は、プラスチック基材の代わりに、紙、ガラス及び金属などの他の基材を含んでいてもよい。物品220は、典型的には層形状を有しているが、他の形状を有していてもよい。
【0066】
物品220は、転写材層120について説明した層のうち、複屈折性層1202以外の層を含んでいてもよい。即ち、転写材層120に反射層1204や偏光層などを設ける代わりに、物品220に反射層1204や偏光層などを設けてもよい。
【0067】
次に、肉眼で観察した場合に表示体210が表示する像について説明する。
領域R1a及びR1bは、複屈折性を有している。複屈折は、光学的異方性を有している媒質に光を入射させた場合に電場ベクトルの振動面が互いに垂直な2つの屈折光、例えば異常光線及び常光線が現われる現象である。
【0068】
複屈折性を示す媒質の異常光線に関する屈折率neと常光線に関する屈折率noとの差Δn=ne−noは屈折率異方性と呼ばれている。また、屈折率異方性Δnと、光が通過する媒質の距離dとの積δ=Δndは、リターデイションと呼ばれている。
【0069】
領域R1a及びR1bは、屈折率異方性Δnが互いに等しく、距離dも互いに等しい。即ち、領域R1a及びR1bは、リターデイションδが互いに等しい。そして、領域R1a及びR1bは、図4に示すように、メソゲン基の配向方向が45°異なっている。即ち、領域R1a及びR1bは、それらが射出する異常光線又は常光線の電場ベクトルの振動面が45°異なっている。
【0070】
領域R1a及びR1bを肉眼で観察した場合、観察者は、領域R1a及びR1bの各々が射出する異常光線及び常光線の双方を知覚する。観察者は、電場ベクトルの振動面の相違を判別することはできない。それゆえ、表示体210を肉眼で観察した場合、反射層1204の位置では、領域R1a及びR1bを互いから識別することは不可能又は困難である。
【0071】
なお、反射層1204の前面には、回折構造形成層1203の凸パターン又は凹パターンに対応した凹パターン又は凸パターンが設けられており、この凹パターン又は凸パターンは、回折構造としてホログラム又は回折格子を形成している。従って、表示体210を肉眼で観察した場合、その反射層1204に対応した領域は、可視像として回折像を表示する。
【0072】
次に、偏光子を介して観察した場合に表示体210が表示する像について説明する。
図6は、図5に示す転写物に偏光子を重ねた場合に表示体が表示する像の一例を概略的に示す平面図である。
【0073】
図6では、一例として、偏光子30として直線偏光板を使用し、この偏光子30を、その透過軸がX方向と平行となるように表示体210に重ねている。ここでは、領域R1a及びR1bの各々のリターデイションδは、ここで着目する光の波長λの1/4であるとする。
【0074】
図6に示すように偏光子30を表示体210に重ねると、表示体210には、電場ベクトルの振動面がX方向に平行な直線偏光が入射する。
【0075】
領域R1aに入射した直線偏光は、電場ベクトルの振動面を回転させることなしに、図3に示す複屈折性層1202を透過し、反射層1204によって反射され、複屈折性層1202を再び透過する。それゆえ、領域R1aが射出する光は、領域R1aに入射した直線偏光と電場ベクトルの振動面が等しい直線偏光である。この直線偏光は、理想的には、吸収されることなしに偏光子30を透過する。従って、図6に示すように偏光子30を重ねて観察した場合、領域R1aは明るく見える。
【0076】
他方、領域R1bに入射した直線偏光は、図3に示す複屈折性層1202を透過することにより右円偏光へと変換され、反射層1204によって反射されて左円偏光へと変換され、複屈折性層1202を再び透過することにより直線偏光へと変換される。この直線偏光と、領域R1bに入射した直線偏光とは、電場ベクトルの振動面が垂直である。それゆえ、この直線偏光は、理想的には、偏光子30を透過することなしに吸収され。従って、図6に示すように偏光子30を重ねて観察した場合、領域R1aは暗く見える。
【0077】
このように、表示体210の反射層1204に対応した領域を肉眼で観察した場合、領域R1a及びR1bは、互いからの識別が不可能又は困難である。そして、表示体210に偏光子30を重ねると、領域R1a及びR1bを互いから容易に識別することが可能となる。
【0078】
次に、物品220への表示体210の転写について説明する。
図7は、転写方法の一例を概略的に示す側面図である。図8は、図7に示す構造の上面図である。図7及び図8において、矢印AR1は転写箔10の送り方向を示し、矢印AR2は物品220の搬送方向を示している。
【0079】
転写箔から物品に表示体を転写する場合、例えば、アップダウン式熱転写、ロール式熱転写又は真空プレス転写を行う。図7及び図8には、一例として、アップダウン式熱転写機を用いた転写方法を示している。
【0080】
アップダウン式熱転写機を用いた転写プロセスでは、例えば、巻き出しロールに巻かれている転写箔10を巻き出し、これを、図3に示す接着層130がテーブル410と向き合うようにその正面へと案内する。テーブル410の正面へと案内した転写箔10は、その表示領域、即ち、図2乃至図4に示す領域R1a及びR1bからなる領域が、テーブル410の上方に昇降可能に設置されたホットスタンプ420と向き合うように位置合わせする。
【0081】
テーブル410上に、物品220を搬送する。物品220の搬送方向は、例えば、図7に示すようにテーブル410の正面における転写箔10の送り方向と一致させるか、又は、テーブル410の正面における転写箔10の送り方向と略直交させる。物品220は、表示体210が転写される部分がホットスタンプ420と向き合うように位置合わせする。
【0082】
次に、ホットスタンプ420を下降させ、転写箔10を物品220に押し当てると共に、転写箔10を加熱する。転写箔10を加熱すると、その加熱部で、図3に示す接着層130は粘着性を発現する。その結果、転写材層120は、接着層130を介して物品220に接着する。なお、ホットスタンプ420のテーブル410との対向面は、これを転写箔10に押し当てたときに、輪郭が図2に示す境界B1b2と境界B23との間に位置するように設計されている。
【0083】
その後、ホットスタンプ420を上昇させ、次いで、転写箔10、特には基材110を物品220から剥離する。この剥離は、例えば、物品220を静止させたまま、転写箔10を巻き取ることにより行う。こうすると、図3に示す転写材層120は、まず、図8に示すホットスタンプ420によって加熱された部分の輪郭と破線L1との接点から破断を開始する。転写材層120の破断は、転写箔10を巻き取りが進行するのに伴い、加熱部の輪郭に沿って進行する。そして、転写材層120の破断は、加熱部の輪郭と破線L3との接点で終了する。
【0084】
なお、縁取り領域R2のうち、上述した破断の起点となる部分は破断開始部であり、上述した破断の終点となる部分は破断終了部である。また、この例では、剥離方向は、転写箔10の長さ方向である。
【0085】
転写材層120の破断が終了すると、転写材層120の加熱部を物品220上に残したまま、転写箔10は物品220から剥がれる。これにより、1回の転写動作が終了し、図5に示す転写物20が得られる。
【0086】
その後、転写物20をテーブル410上から搬送する。そして、上述した動作を繰り返すことにより、複数の転写物20を製造する。
【0087】
この方法によると、より小さな力で基材110を剥離可能とすることと、バリや欠けなどの不良を生じ難くすることとが可能である。これについて、以下に説明する。
【0088】
図8に示す破線L1の位置は、剥離開始位置である。剥離開始位置では、転写材層120を破断させるのに必要な力である破断抵抗RSと、転写材層120を基材120から剥離させるのに必要な力である剥離抵抗RRと、転写材層120と物品220との接着力FAとが作用する。破断抵抗RSと剥離抵抗RRとの和が接着力FAを上回ると、図5に示す表示体210に欠けを生じ易くなる。
【0089】
図8に示す破線L2の位置は、剥離中間位置である。接着力FAが剥離抵抗RRを上回っていれば、欠けなどを生じることなく、剥離は安定に進行する。
【0090】
図8に示す破線L3の位置は、剥離終了位置である。剥離終了位置では、破断抵抗RSが剥離抵抗RRよりも大きいと、図5に示す表示体210にバリを生じ易くなる。
【0091】
高分子液晶材料からなる層は、メソゲン基の短軸に沿った方向に破断させる場合の破断抵抗RCが、メソゲン基の長軸に沿った方向に破断させる場合の破断抵抗RPと比較してより小さい。これは、メソゲン基の絡み合いなどに由来する力が、メソゲン基の長軸に沿った方向と比較して、メソゲン基の短軸に沿った方向においてより小さいためであると考えられる。
【0092】
剥離開始位置及び剥離終了位置に関して上述した破断抵抗Rsは、破断抵抗RC及びRPを用いると、以下の等式で表すことができる。なお、下記等式において、θは、剥離方向に対して垂直な方向とメソゲン基の配向方向とが為す角度を示している。
【0093】
S=RPsinθ+RCcosθ
この等式から明らかなように、角度θを小さくすると、破断抵抗RSを小さくすることができる。そして、角度θを90°とすると破断抵抗RSは最大となり、角度θを0°とすると破断抵抗RSは最小となる。
【0094】
上述した方法では、縁取り領域R2において破断を生じさせ、その破断開始部及び破断終了部の双方において、高分子液晶材料のメソゲン基を剥離方向と交差する方向に配向させている。それゆえ、この場合、破断抵抗RSは、高分子液晶材料のメソゲン基を剥離方向に対して平行に配向させた場合と比較してより小さい。
【0095】
従って、剥離開始位置において破断抵抗RSと剥離抵抗RRとの和が接着力FAを上回るのを抑制できると共に、剥離終了位置において破断抵抗RSが剥離抵抗RRよりも大きくなるのを抑制できる。それゆえ、図5に示す表示体210に欠けやバリが生じるのを抑制することが可能となる。
【0096】
また、この方法では、破断抵抗RSが比較的小さい。それゆえ、この方法によると、より小さな力で基材110を剥離することができる。従って、転写箔10の破断、転写物20の搬送不良、転写箔10の蛇行によって生じる位置ずれなどの発生を抑制することができる。
【0097】
破断開始部及び破断終了部の各々において、角度θは、90°未満であれば上述した効果を得ることができるが、通常は0°乃至45°の範囲内とする。そして、縁取り領域R2の破断開始部及び破断終了部の各々において、典型的には、メソゲン基の配向方向を剥離方向に対して直交させる。こうすると、破断抵抗RSを最小とすることができる。
【0098】
上述した技術には、様々な変形が可能である。
例えば、破断開始部及び破断終了部の双方において、高分子液晶材料のメソゲン基を剥離方向と交差する方向に配向させる代わりに、破断開始部及び破断終了部の一方のみにおいて、高分子液晶材料のメソゲン基を剥離方向と交差する方向に配向させてもよい。
【0099】
また、アップダウン式熱転写の代わりに、ロール式熱転写及び真空プレス転写などの他の転写を行ってもよい。
【0100】
物品220を静止させたまま転写箔10を巻き取ることによって基材110を物品220から剥離する代わりに、転写箔を静止させたまま転写物20を搬送することによって基材110を物品220から剥離してもよい。この場合、物品220の搬送方向は、図7に示すようにテーブル410の正面における転写箔10の送り方向と一致させてもよく、テーブル410の正面における転写箔10の送り方向と略直交させてもよい。なお、後者の場合、剥離方向は、転写箔10の幅方向に対してほぼ平行である。従って、この場合、破断開始部及び破断終了部の各々におけるメソゲン基の配向方向を変更する必要がある。
【0101】
転写箔10には、図9に示す構造を採用してもよい。
図9は、図1に示す転写箔の一変形例を概略的に示す平面図である。
この転写箔10は、縁取り領域R2において、高分子液晶材料のメソゲン基が表示領域の輪郭、即ち領域R1bの外周に沿って配向していること以外は、図1乃至図4を参照しながら説明した転写箔10と同様である。
【0102】
上述した技術では、転写箔10は、特定の剥離方向を想定して設計する。そして、転写プロセスは、この設計に従って行う。即ち、特定の剥離方向を想定して設計した転写箔10を用いていながらも、その方向とは異なる方向に剥離を行うことはない。しかしながら、同じ転写物20を異なる転写機を用いて製造する場合、或る転写機と他の転写機とで転写方向が異なることがある。
【0103】
図9に示す転写箔10を使用した場合、剥離方向が如何様であっても、破断開始部及び破断終了部の双方において、メソゲン基の配向方向は剥離方向と交差する。従って、剥離方向に依存することなしに、上述した効果を得ることができる。
【0104】
また、表示領域の形状や転写箔10における表示領域の方位には、様々な変形が可能である。
図10乃至図18は、図1に示す転写箔の他の変形例を概略的に示す平面図である。なお、図10乃至図18において、反射層1204は省略している。また、図10乃至図18では、表示領域を参照符号R1で示している。
【0105】
図10及び図11に示す転写箔10では、表示領域10は平行四辺形である。図12乃至図15に示す転写箔10では、表示領域10はハート形である。図16乃至図18に示す転写箔10では、表示領域10は、環とその中心を通る直線とを組み合わせた形状を有している。
【0106】
図10乃至図18に示す転写箔10を用いた転写プロセスにおいて、これら転写箔10を紙面の上方から下方へと剥離する場合、縁取り領域R2のうち、一点鎖線LSで囲んだ部分は破断開始部に相当し、一点鎖線LEで囲んだ部分は破断終了部に相当する。
【0107】
破断開始部LSにおいて、メソゲン基を、剥離方向と交差する方向、ここではX方向と交差する方向に配向させると、表示体に欠けが生じるのを抑制できる。また、破断終了部LEにおいて、メソゲン基を、剥離方向と交差する方向に配向させると、表示体にバリが生じるのを抑制できる。なお、図11及び図12に示すように、剥離終了部LSにおいて、表示領域R1の輪郭が剥離方向に沿って先細りしている場合、メソゲン基を、剥離方向に対して平行に交差させても、表示体にバリが生じるのを抑制できることがある。
【0108】
図11、図13、図14、図17及び図18に示す転写箔を用いた転写プロセスでは、これら転写箔10を紙面の上方から下方へと剥離する場合、縁取り領域R2のうち、一点鎖線LS’で囲んだ部分は、表示体に欠けを生じ易い。従って、これら部分LS’では、メソゲン基を、剥離方向と交差する方向に配向させてもよい。
【0109】
また、図14乃至図18に示す転写箔を用いた転写プロセスでは、これら転写箔10を紙面の上方から下方へと剥離する場合、縁取り領域R2のうち、一点鎖線LE’で囲んだ部分は、表示体にバリを生じ易い。従って、これら部分LE’では、メソゲン基を、剥離方向と交差する方向に配向させてもよい。
【実施例】
【0110】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例)
図1乃至図3を参照しながら説明した転写箔10を製造した。ここでは、メソゲン基は、図9を参照しながら説明したように配向させた。
【0111】
具体的には、まず、帯形状を有している厚さが16μmのPETフィルム110上に、マイクログラビアコーティング法を用いて、大日本インキ化学工業社製の光配向剤IA−01を0.1μmの厚さに塗布した。
【0112】
次に、厚さが連続的に変化している部分を含んだ水晶Z板に波長が365nmの直線偏光を入射させ、その透過光を先の塗膜の全面に1J/cm2の照度で照射した。この光照射は、先の塗膜のうち、領域R2に対応した部分において、電場ベクトルの振動面が領域R2の内周に対して平行になるように行った。
【0113】
次いで、先の塗膜に、フォトマスクを介して、波長が365nmの直線偏光を1J/cm2の照度で照射した。この光照射は、先の塗膜のうち、領域R2に対応した部分が遮光されるように行った。また、直線偏光は、その電場ベクトルの振動面がフィルム110の長さ方向に対して45°の角度を為すように照射した。
【0114】
続いて、先の塗膜に、フォトマスクを介して、波長が365nmの直線偏光を1J/cm2の照度で照射した。この光照射は、先の塗膜のうち、領域R1b、R2及びR3に対応した部分が遮光されるように行った。また、直線偏光は、その電場ベクトルの振動面がフィルム110の長さ方向に対して平行となるように照射した。
以上のようにして、配向膜を兼ねた剥離保護層1201を得た。
【0115】
次に、剥離保護層1201上に、マイクログラビアコーティング法を用いて、大日本インキ化学工業社製のUVキュアラブル液晶UCL−008を0.8μmの厚さに塗布した。この塗膜に熱風を1分間当ててメソゲン基の配向を促進した後、窒素ガス雰囲気下で塗膜に波長が365nmの紫外線を0.5mJ/cm2の照度で照射して、塗膜を硬化させた。これにより、複屈折性層1202を得た。この複屈折性層1202では、メソゲン基は、図9に示すように配向していた。
【0116】
次に、複屈折性層1202上に、マイクログラビアコーティング法を用いて、アクリルポリオールとイソシアネートとを用いて得られる熱可塑性樹脂層を形成した。続いて、熱を加えながら型押しして、この樹脂層の表面に回折構造に対応した凸パターンを形成した。凸パターンは、後で反射層1204を形成する部分にのみ設けた。これにより、回折構造形成層1203を得た。
【0117】
次いで、回折構造形成層1203上に、蒸着法を用いて、厚さが50nmのアルミニウム層を形成した。このアルミニウム層上に、グラビア印刷法を用いて、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなる厚さが1μmのマスク層1205を形成した。マスク層1205は、回折構造形成層1203の表面のうち凸パターンが形成された部分のみを被覆するように形成した。続いて、アルミニウム層を、50℃に設定した1.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いた10秒間のウェットエッチングに供し、その露出部を除去した。これにより、反射層1204を得た。
【0118】
更に、回折構造形成層1203及びマスク層1205上に、コーティング法を用いて、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなる接着層130を形成した。接着層130は、回折構造形成層1203のうちマスク層1205によって被覆されていない部分の位置で厚さが2μmとなるように形成した。
【0119】
以上のようにして、転写箔10を完成した。以下、この転写箔10を「転写箔A」と呼ぶ。
【0120】
(比較例)
本例では、転写箔Aについて説明したのと同様に、まず、帯形状を有している厚さが16μmのPETフィルム110上に、マイクログラビアコーティング法を用いて、大日本インキ化学工業社製の光配向剤IA−01を0.1μmの厚さに塗布した。
【0121】
次に、厚さが連続的に変化している部分を含んだ水晶Z板に波長が365nmの直線偏光を入射させ、その透過光を先の塗膜の全面に1J/cm2の照度で照射した。本例では、この光照射は、先の塗膜のうち、領域R2に対応した部分において、電場ベクトルの振動面が領域R2の内周に対して垂直になるように行った。
【0122】
次いで、先の塗膜に、フォトマスクを介して、波長が365nmの直線偏光を1J/cm2の照度で照射した。この光照射は、転写箔Aについて説明したのと同様に行った。すなわち、この光照射は、先の塗膜のうち、領域R2に対応した部分が遮光されるように行った。また、直線偏光は、その電場ベクトルの振動面がフィルム110の長さ方向に対して45°の角度を為すように照射した。
【0123】
続いて、先の塗膜に、フォトマスクを介して、波長が365nmの直線偏光を1J/cm2の照度で照射した。この光照射は、転写箔Aについて説明したのと同様に行った。即ち、この光照射は、先の塗膜のうち、領域R1b、R2及びR3に対応した部分が遮光されるように行った。また、直線偏光は、その電場ベクトルの振動面がフィルム110の長さ方向に対して平行となるように照射した。
以上のようにして剥離保護層1201を形成したこと以外は、転写箔Aについて説明したのと同様の方法により転写箔10を製造した。以下、この転写箔10を「転写箔B」と呼ぶ。
【0124】
次に、転写箔A及びBの各々を用いて、図7及び図8を参照しながら説明した転写プロセスを実施した。ここでは、被転写体220として紙を使用した。また、ここでは、ギーツ社製の転写機を使用し、剥離は、被転写体220を静止させたまま、転写箔10を巻き取ることにより行った。
【0125】
転写箔Aを用いた転写プロセスでは、比較的小さな力で基材130を剥離することができ、転写箔10の蛇行に起因した位置ずれを生じることはなかった。他方、
転写箔Bを用いた転写プロセスでは、基材130の剥離に比較的大きな力が必要であり、転写箔10の蛇行に起因した位置ずれを生じた。
【0126】
また、転写箔A及びBを用いて得られた転写物の各々を観察したところ、転写箔Aを用いて得られた転写物では、表示体に欠け及びバリは発生していなかった。他方、転写箔Bを用いて得られた転写物では、表示体に欠け及びバリが発生していた。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明の一態様に係る転写箔を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す転写箔の一部を拡大して示す平面図。
【図3】図2に示す転写箔のIII−III線に沿った断面図。
【図4】図2に示す転写箔が含んでいる高分子液晶材料のメソゲン基の配向状態を概略的に示す平面図。
【図5】図1に示す転写箔を用いて製造することが可能な転写物の一例を概略的に示す平面図。
【図6】図5に示す転写物に偏光子を重ねた場合に表示体が表示する像の一例を概略的に示す平面図。
【図7】転写方法の一例を概略的に示す側面図。
【図8】図7に示す構造の上面図。
【図9】図1に示す転写箔の一変形例を概略的に示す平面図。
【図10】図1に示す転写箔の他の変形例を概略的に示す平面図。
【図11】図1に示す転写箔の他の変形例を概略的に示す平面図。
【図12】図1に示す転写箔の他の変形例を概略的に示す平面図。
【図13】図1に示す転写箔の他の変形例を概略的に示す平面図。
【図14】図1に示す転写箔の他の変形例を概略的に示す平面図。
【図15】図1に示す転写箔の他の変形例を概略的に示す平面図。
【図16】図1に示す転写箔の他の変形例を概略的に示す平面図。
【図17】図1に示す転写箔の他の変形例を概略的に示す平面図。
【図18】図1に示す転写箔の他の変形例を概略的に示す平面図。
【符号の説明】
【0128】
10…転写箔、20…転写物、30…偏光子、110…基材、120…転写材層、130…接着層、210…表示体、220…被転写体、1201…剥離保護層、1202…複屈折性層、1203…回折構造形成層、1204…反射層、1205…マスク層、B1a1b…境界、B1b2…境界、B23…境界、R1…表示領域、R1a…領域、R1b…領域、R2…縁取り領域、R3…周辺領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材と向き合い且つ高分子液晶材料を含有した複屈折性層を備え、前記基材に剥離可能に支持された転写材層と、前記転写材層を被覆した接着層とを具備し、前記転写材層は、可視像及び/又は潜像が記録されており、前記基材から被転写体へと転写される表示領域と、前記表示領域を縁取っており、前記表示領域の転写の際にその輪郭に沿った破断を生じる縁取り領域とを含み、前記縁取り領域のうち、前記表示領域を転写する際に破断の起点となる破断開始部において、前記高分子液晶材料のメソゲン基は前記表示領域の剥離方向と交差する方向に配向していることを特徴とする転写箔。
【請求項2】
前記縁取り領域のうち、前記表示領域を転写する際に破断の終点となる破断終了部において、前記高分子液晶材料のメソゲン基は前記剥離方向と交差する方向に配向していることを特徴とする請求項1に記載の転写箔。
【請求項3】
前記破断開始部及び前記破断終了部の双方において、前記高分子液晶材料のメソゲン基は前記表示領域の剥離方向と直交する方向に配向していることを特徴とする請求項2に記載の転写箔。
【請求項4】
基材と、前記基材と向き合い且つ高分子液晶材料を含有した複屈折性層を備え、前記基材に剥離可能に支持された転写材層と、前記転写材層を被覆した接着層とを具備し、前記転写材層は、可視像又は潜像が記録されている表示領域と、前記表示領域を縁取っている縁取り領域とを含み、前記縁取り領域内において前記高分子液晶材料のメソゲン基は前記表示領域の輪郭に沿って配向していることを特徴とする転写箔。
【請求項5】
前記転写材層は前記複屈折性層と前記接着層との間に介在した反射層を更に含んだことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の転写箔。
【請求項6】
前記反射層は回折構造を含んでいることを特徴とする請求項5に記載の転写箔。
【請求項7】
被転写体としての物品と、請求項1乃至3の何れか1項に記載の転写箔を用いた転写によって前記物品上に貼り付けられ、前記表示領域と前記縁取り領域の一部とを含んだ表示体とを具備したことを特徴とする転写物。
【請求項8】
表示体と、これを支持している物品とを具備し、前記表示体は、高分子液晶材料を含有した複屈折性層を備えると共に、可視像及び/又は潜像が記録されている表示領域と、前記表示領域を縁取っている縁取り領域とを含み、前記縁取り領域内において前記高分子液晶材料のメソゲン基は前記表示領域の輪郭に沿って配向していることを特徴とする転写物。
【請求項9】
転写箔を用いた転写によって転写物を製造する方法であって、
前記転写箔は、基材と、前記基材と向き合い且つ高分子液晶材料を含有した複屈折性層を備え、前記基材に剥離可能に支持された転写材層と、前記転写材層を被覆した接着層とを具備し、前記転写材層は、可視像及び/又は潜像が記録されている表示領域と、前記表示領域を縁取っている縁取り領域とを含み、
前記転写は、前記表示領域が前記接着層を間に挟んで前記被転写体と向き合うように前記転写箔と前記被転写体とを配置し、前記表示領域と前記縁取り領域のうち前記表示領域に隣接した部分とに前記基材側から熱及び圧力を印加してそれらを前記被転写体に接着させ、次いで、前記転写箔と前記被転写体とを互いから引き離すことにより前記縁取り領域において前記表示領域の輪郭に沿った破断を生じさせると共に前記表示領域を前記基材から剥離させることを含み、
前記縁取り領域のうち前記破断の起点となる破断開始部及び/又は前記破断の終点となる破断終了部において、前記高分子液晶材料のメソゲン基の配向方向が前記表示領域の剥離方向と交差するように前記転写箔と前記被転写体とを互いから引き離すことを特徴とする転写物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−90464(P2009−90464A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260061(P2007−260061)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】