転炉の操業方法
【課題】3基の転炉を備える転炉設備での操業において、3基の転炉を稼働させる期間と2基の転炉を稼働させる期間とを適切な配分にすることで、溶鋼生産能力を上げる。
【解決手段】3基の転炉2を備えた転炉設備1で、転炉2の少なくとも1つ以上が稼働している期間に対する3/3基稼働の期間の占める割合を3/3基比率として求め、この3/3基比率が50%〜95%となるように転炉2を操業する。
【解決手段】3基の転炉2を備えた転炉設備1で、転炉2の少なくとも1つ以上が稼働している期間に対する3/3基稼働の期間の占める割合を3/3基比率として求め、この3/3基比率が50%〜95%となるように転炉2を操業する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の転炉を効率的に使用する際における転炉の操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、転炉工程では、溶銑を転炉に装入し、副原料添加と酸素吹込みを行うことで脱りん・脱炭を行って、りん濃度や炭素濃度が所定の値となっている溶鋼を生産している。
図11は、従来からある転炉設備を示しているものであって、転炉と、これら転炉に溶銑を供給する取鍋と、この取鍋を搬送するクレーンとを有している。転炉に関しては、全部で3基あり、その中の2基を稼働させ、残るもう1基は休止状態としていた。
詳しくは、転炉には溶銑が装入されるためその内壁は常に高温にさらされており、内壁を構成する耐火レンガは徐々に溶損してゆく。つまり、転炉は、耐火レンガが溶け減って転炉自身の機能を失う炉体寿命をもっている。この寿命を超えて転炉を長期間に亘って稼働させることは不可能であり、転炉は、一定期間稼働した後、転炉内の耐火レンガを張り替えたりする大規模な修理、「炉修」が行われるものとなっている。前記休止中の1基の転炉は、かかる炉修作業中及びそれに続く休止状態中であった。
【0003】
図12は、図11の転炉設備における操業スケジュールを示したものであって、図12(a)には、3基の転炉A,B,Cに関して転炉稼働期間(すなわち転炉寿命)と炉修とのスケジュールが示されている。このスケジュールの如く、転炉寿命内にある2基の転炉では溶銑の精錬を行い、残りの1基の転炉で炉修を行って休業状態としていた。図中のPで示される部分のように、転炉Aと転炉Bとが稼働中であったとして、転炉Aの内壁に張りつけられている耐火レンガを張り替える時期が近づいたとする。そうした場合、転炉Aは炉修作業に入り、その代わりに、今まで休業中であった転炉Cを稼働状態とする。その後、転炉Aの炉修が終了したとしても、転炉Aをバックアップと考え、稼働状態とはせず休業状態のままとしていた。言い換えれば、使用している2基の転炉B,Cの内、1基が故障したり、炉修を行う必要が生じた場合に、その転炉B,Cの稼働を止めて現在休業中の転炉Aを再稼働するようにしていた。
【0004】
図12(b)には、2基の転炉B,Cが稼働している場合における、各転炉B,Cでのチャージ状況を示したものである。転炉のチャージとは、転炉に溶銑が装入され、装入された溶銑に対して吹錬が行われ、生産された溶鋼が排出される一連の工程をいい、この一連の作業の開始から終了までの時間を製鋼時間という。1回の転炉寿命内では約5000回のチャージが行われるのが通常である。図に示すように、必要に応じて、各チャージ間に転炉休止時間を設け、この時間を、転炉の内壁に耐火補修材を吹き付けるなどして簡易的ながら炉寿命を大幅に向上させる修理である「補修」を行う時間としている。
【0005】
転炉寿命を日数に直すと、大雑把ではあるが150日前後であり、炉修は約20日前後である。一方、転炉での1チャージは約35分前後であり、転炉の補修は10分〜数時間を有するものである。このことを鑑みた上で、図12を要約すると、図12(a)は、転炉工程を日単位でマクロ的(巨視的)に見て、炉修期間と稼働期間とに分けたものであり、図12(b)は、転炉工程を時間単位でミクロ的(微視的)に見て、チャージと補修期間で分けたものとなっている。
以上のことから判るように、従来からの一般的な転炉設備においては、マクロ、ミクロいかなる観点からも、転炉は常に2基のみが稼働中であり、残り1基はバックアップとして休業状態にあることが普通である。
【0006】
このような転炉設備において、2基の転炉を効率よく稼働させることに関し、特許文献1や特許文献2の技術が既に開示されている。
特許文献1の技術は、1の転炉で脱りん精錬をした溶湯を受湯鍋に受け、この受湯鍋を作業床開口部を通して他の1の転炉に運搬し、ここで脱炭精錬を行なうものであって、脱燐精錬でのスラグの排さい時間等を少なくすると共に、脱燐精錬時間と脱炭精錬時間とを同程度にすることで、脱炭精錬炉の遊び時間を無くし全体として製鋼能率を向上するものである。換言すれば、1の転炉でのチャージ時間と他の転炉でのチャージ時間とを同程度にすることで、製鋼能率をあげる技術である。
【0007】
特許文献2の技術は、2基の転炉において、吹錬を開始する転炉の煙道のダンパーを開く動作と、吹錬を終了した転炉の煙道のダンパーを閉じる動作とを1段階のダンパー操作で同時並列的に行い、切替え時の停風時間を短縮させるものであって、転炉のチャージ切替時における煙道のダンパー操作方法に関するものである。
【特許文献1】特許第3486886号公報
【特許文献2】特開平6−65653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した転炉設備で、溶鋼生産能力を上げようと考えた場合、2基の転炉を稼働させることはもちろん、休業状態にあるもう1基の転炉を稼働させ、マクロ視で3基の転炉が同時に稼働している状況(3/3基稼働)とするとよい。しかしながら、3基の転炉を全て稼働状態にした場合、転炉は炉修の機会を失うことになり、長期に亘って操業を継続できないという不都合が生じてくる。そこで、炉修を行うために、全操業時間の中の何割かを、1基の転炉を休止させ他の2基のみを操業する2/3基稼働とすることが必要となってくる。つまり、3/3基稼働の期間と2/3基稼働の期間とを適切な割合にすることが非常に重要な事項となってくる。
【0009】
しかしながら、転炉の操業において、転炉の3/3基稼働の期間と2/3基稼働の期間との最適な割合を求める技術は未だ確立されるにいたっていない。前述した特許文献1や特許文献2に着目したとしても、これらの技術は、転炉工程をミクロ視した上で2基の転炉稼働における効率アップを図るものであり、該技術では問題を解決することは困難である。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、2基の転炉を吹錬させる能力しか備えていない転炉周辺設備を有する転炉設備で、3基の転炉の同時稼働状況を操業スケジュールに組み込むことのできる転炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明における課題解決のための技術的手段は、溶銑の吹錬を行う3基の転炉を備えた転炉設備で、炉体寿命を過ぎた転炉に対する修理を「炉修」とすると共に、3基の転炉全てが該炉修中又は休止中ではなく稼働中である期間を3/3基稼働期間とし、転炉の少なくとも1つ以上が稼働している期間を全稼働期間とし、該全稼働期間に対する3/3基稼働期間の占める割合を3/3基比率と定義して、この3/3基比率が50%〜95%となるように3基の転炉を操業することを特徴とする。
【0011】
本願発明人は、転炉の操業において、転炉の3/3基稼働期間と全稼働期間(2/3基稼働期間+3/3基稼働期間)とをどのような割合にすれば溶鋼生産性が最大になるかを、以下に述べるシミュレーションを基に論理的に明らかにした。
[シミュレーションにあたっての条件]
シミュレーションを行うにあたり、以下の条件を仮定した。
・ 1チャージあたりの補修回数である補修確率Aをシミュレーションのパラメータとし、1回の補修量は一定とした。
【0012】
・ 補修効果Cは、図2に示すように、補修確率Aが小さいときは大きいが、補修確率Aが多くなるにつれて小さくなるものとした。すなわち、初めは1回の補修で4チャージ分の転炉工程の延長を図れる効果があるとしているが、それ以降は、補修頻度B(補修確率Aの逆数)が0.1増えるごとに効果が10%減少してゆくとした。これは、炉内耐火物の局所破損部分(局所溶損部)が多い場合は、少ない補修頻度でも補修効果は大きいものとなるが、補修をこまめに実施し局所溶損部が少なくなると、補修効果が小さくなることを反映するものである。
【0013】
・ 補修を行わない場合の転炉の寿命Dを2500チャージとした。
・ 3/3基操業時の溶鋼生産性(チャージ数)を80とし、3/3基操業時には、補修を1回行うごとに生産性が0.07減少するとした。
・ 2/3基操業時の溶鋼生産性(チャージ数)を68とし、2/3基操業の時には補修は行わないものとした。
・ 炉修の日数を14日で一定とした。
【0014】
[シミュレーション式]
シミュレーションに用いた変数や関係式は、以下の通りである。
・A: 補修確率→チャージ1回あたりの補修回数(回/ch)。
・B: 補修頻度→何チャージ毎に補修を行うかを示す値。Aの逆数である。
・C: 補修効果→1回の補修で何チャージ分、転炉の寿命を延ばすかを意味する。図2にその関係が示されている。
・D: 転炉寿命(ch)
D(n+1)=D(n)
+D(n)×(A(n+1)−A(n))×C ・・・(2)
ある補修確率を実施している転炉に、更に補修を行った場合の転炉効果は、転炉寿命×補修確率の増加分×補修効果=D(n)×(A(n+1)−A(n))×Cであるとし、これを現在の転炉寿命D(n)に加算することで、補修後の転炉寿命D(n+1)としている。ここで、補修確率=0の場合にn=1とし、補修確率=0.1の場合にn=2、補修確率=0.2の場合にn=3というように、補修確率の刻み分を0.1として補修確率=0〜1.0の間で計算した。
・E: 転炉稼働日数
E=D×(F×3+(1−F)×2)/I ・・・(3)
転炉稼働日数Eは、転炉寿命Dを転炉1基あたりの一日平均チャージ数I/(F×3+(1−F)×2)で割ることで算出される。なお、Fは以下述べる3/3基比率である。
・F: 3/3基比率
本願発明では、転炉の3/3基比率を次式で求めるようにしている。
3/3基比率F = 1−CH×R/L ・・・(1)
CH:転炉設備における一日の全チャージ数(ch/日)
R :転炉が炉修中あるいは休止中である日数(日)
L :転炉の炉体寿命(ch)
式(1)の導出過程は次の通りである。つまり、転炉は一年、365日を通して連続操業されており、かかる365日の操業日(期間)は基本的に3/3基操業とする。しかしながら、炉修が行われている期間は1基の転炉が操業停止となるため、2/3基操業となる。それらのことより、
3/3基比率=(3/3基稼働期間)/全稼働期間
=(全稼働期間−2/3基稼働期間)/全稼働期間
=(365日−炉修が行われている日数)/365日
と考えられる。この式を順次変形して、
3/3基比率= 1−炉修回数×R/365
ここで、Rは、1回の炉修にかかる日数(転炉の休止を含む)である。
【0015】
なお、炉修回数R=一日のチャージ数CH(ch/日)×365日/転炉寿命L(ch)であるため、
3/3基比率=1−CH×R/L ・・・(1)
となる。
・G: 3/3基時の生産チャージ数
G=80−A×μ×80/F ・・・(4)
ここで、μは生産影響係数であり、0.07又は0.15を採用していて、補修を1回実施することにより減じるチャージ数を意味する。ゆえに、A×μ×80/Fは、補修により実際に減する生産性(チャージ数)を意味するものとなっている。
・H: 2/3基時の生産チャージ数→1日68chで固定値とする。
・I: 一日における全チャージ数(トータル生産チャージ数)
I=G×F+H×(1−F) ・・・(5)
・J: 補修を考慮しない場合の一日における全チャージ数
J=80×F+H×(1−F) ・・・(6)
式(5)でG=80とすることで本式は導出できる。
・K: 補修による生産性の減少量
K=J−I ・・・(7)
前述のJからIを引くことにより、Kを求めることができるようになる。
【0016】
[シミュレーション結果]
以上の関係式(2)〜(7)を用いて、補修確率Aをパラメータとした溶鋼生産性のシミュレーション行った結果が、図3〜図7に示してある。図3は計算結果を表の形にしたもので、それらを基にグラフ化したものが図4〜図7である。
図4は、横軸に補修確率A、縦軸に転炉寿命Dを取ったものである。この図から、補修確率Aが0すなわち全く補修を行わない際には、転炉の寿命は初期値の2500チャージであり、補修確率Aが増えるに従って、約20000chまで転炉寿命Dが増加していることがわかる。補修を数多く行うことで転炉の寿命をあげることができることが明らかとなっている。
図5には、3/3基比率Fと補修を考慮しないトータル生産チャージ数Jとの関係が示されている。この図からわかるように、3/3基比率Fが増加するに従ってトータルの生産チャージ数Jは線形的に増えており、3/3基比率Fが0%の時、J=68であるものが、F=約100%の時、J=80と大幅に増加している。
【0017】
一方、図6には、3/3基比率Fと補修による生産性の減少量Kとの関係が示されている。この図から、3/3基比率Fが55%までは、補修による生産性の減少量Kが0であるものの、それ以上になると減少量Kは著しく多くなることが判別できる。
以上の結果を要約すると、
(i) 3/3基比率Fを上げることで、3基の転炉が連続稼働に近くなり、溶鋼生産性は上がる(図5)。
(ii) 3/3基比率Fを上げることで、3基の転炉がフル稼働している状況となり、転炉の炉修を行う機会が減る。当然、それをカバーし炉寿命を延ばすために、転炉の補修を数多く行うようにしている(図4)。
【0018】
(iii) しかしながら、補修は30分〜数時間ではあるものの転炉を止める作業であるため、(ii)の状況、すなわち補修回数が多い状況下では、生産性が減ることになる(1回の補修で0.07ch)。ゆえに、3/3基比率Fを上げることで、補修量に伴う溶鋼生産性の減少が起こる(図6)。
(i)と(iii)の傾向、換言すれば図5と図6とをそれぞれ加味したものが、図7であり、横軸に3/3基比率F、縦軸にトータル生産チャージ数Iが示してある。図中のグラフは、3/3基比率Fが増加するにつれ上に凸となっており、3/3基比率Fが約80%において、トータル生産チャージ数Iが約76と最高値を取るものとなっている。
【0019】
この結果より考えて、本願発明では、トータル生産チャージ数Iの最高値の約2〜3%減まですなわちI=74を許容値と考えて、3/3基比率Fが50%〜95%となるように3基の転炉を操業することとしている。
また、本発明における課題解決のための技術的手段は、前記転炉設備に設けられ且つ転炉を稼働させるに必要な機能を有する転炉周辺設備の修理を実施するに際し、2基の転炉が稼働中であり他の1基が炉修中又は休止中にある状況を2/3基稼働と定義して、前記転炉周辺設備の修理時間が所定時間以上の場合は2/3基稼働を行い、所定時間以内の場合は3基全ての転炉が稼働する3/3基稼働を行うことを特徴とする。
【0020】
転炉の操業においては、ランスが装入口から挿入できないなどの転炉周辺設備の故障が発生することがある。そのような場合、その修理は、短時間(30分程度)で済むこともあれば比較的長い時間(例えば5時間以上)かかることもある。
本願発明人は、そのような転炉周辺設備の故障例を数々検討した結果、転炉周辺設備の修理時間が短時間である場合は、3/3基稼働とした上で、チャージの順番を工夫するなどして転炉の休止時間を確保し、この休止時間を転炉周辺設備の修理時間として利用すると、溶鋼生産性の観点からは非常に有利であることを突き止めた。
【0021】
一方、転炉周辺設備の修理時間が5時間以上かかるような場合は、修理に該当する転炉を休止し、炉修の際と同じように2基の転炉を稼働状態(2/3基稼働)とすると、溶鋼生産性の観点から有利であることも明らかにしている。
3基の転炉をこのように操業することで、溶鋼生産性をなるべく落とすことなく転炉を操業することができる。
なお、本発明における課題解決のための技術的手段として、前記転炉の内壁に対する簡易的な修理である「補修」を行うに際し、補修にかかる時間を、T/4〜3Tの範囲内(Tは製鋼時間)としていることを特徴とする。以下、その理由について説明する。
【0022】
図10には、補修時間が約5〜600分まで変化した場合における、転炉寿命の延長の度合い(補修効果)と、地金取りにかかる時間とをシミュレーションした結果が示されている。全ての計算において、製鋼時間は35分であり、クレーンでの溶銑供給時間は15分である。
図の横軸は製鋼時間Tで換算された補修時間であり、縦軸には補修効果ならびに地金取り時間が示されている。
図中のグラフIは、補修効果の変化を示したものであり、補修時間を長くすることで、補修作業を確実に行うことができて1回の補修で延びるチャージ数が多くなることが示されている。補修時間を約0.25T(T/4)まで長くすると、転炉寿命が約3チャージ延長する。その一方、補修時間を約0.4T以上とすると、補修効果=5.0チャージでそれ以上は増えなくなる。
【0023】
グラフIIは、地金取りにかかる時間の変化を示したものである。補修時間が3T以下では、地金取り時間はゼロであり、補修時間が3T以上になると、地金取り時間が発生するようになる。このことは、補修時間が長くなることで転炉自体の温度が降下し、転炉の装入口に地金等が付着する可能性が大きくなることを反映している。ゆえに、補修時間を極端に長くすることは得策ではなく、グラフIIからわかるように、補修時間を3T以下とすれば、地金取り作業の作業時間をなしとすることができる。
これらのことを鑑み、補修時間をT/4〜3Tの範囲内とすることで、補修効果を適切なものとしつつ、地金取り作業の時間増加を防ぐことができるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、3基の転炉を備える転炉設備での操業において、3基の転炉を稼働させる期間と2基の稼働期間とを適切な配分にすることで、溶鋼生産能力を大幅に向上することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明にかかる転炉への溶銑供給方法の実施形態を、図を基に説明する。
本実施形態の転炉設備1は、図11に示される従来例とほぼ同一であり、3基の転炉2と、これら転炉2に溶銑を供給する取鍋3と、この取鍋3を搬送する2基のクレーン4とを有している。さらに、3基の転炉2のそれぞれには、吹錬で発生した排ガスを集煙して有害物質を除去したり一酸化炭素を回収したりする排ガス処理設備5が備えられていると共に、各転炉2に酸素を供給したりする酸素供給設備6が設けられている。この酸素供給設備6は、転炉1基が吹錬に使用する酸素量の2倍を供給できるものであると共に、排ガス処理設備5は、2基の転炉1から排出されるCOガスなどを回収する能力を有している。つまり、排ガス処理設備5や酸素供給設備6から構成される転炉周辺設備7は、2基の転炉2で同時に吹錬を行わせる能力を有するものとなっており、3基の転炉2での同時吹錬は不可能なものとなっている。
【0026】
本願発明は、図1〜図7に示す如く、溶銑の吹錬を行う3基の転炉2を備えた転炉設備1で、炉体寿命を過ぎた転炉2に対する修理である「炉修」が行われておらず且つ稼働中である転炉2の数が3基である期間を3/3基稼働期間と定義し、前記転炉2の少なくとも1つ以上が稼働している期間に対する前記3/3基稼働期間の占める割合を3/3基比率として求め、この3/3基比率が50%〜95%となるように3基の転炉2を操業するものである。
前記転炉設備1での各工程を詳しく説明すると、まず、取鍋3に入った溶銑はクレーン4により搬送され、転炉2に装入される。具体的には、転炉2を傾動し、炉内にスクラップ等を装入した上で溶銑を流し入れるようにする。
【0027】
その後、溶銑中のりんPを主に取り除くと共に炭素Cを適切なものとするために、転炉2の炉口からランス(図示せず)を挿入し、溶銑上面に近づけ、酸素ガスを吹き付けると同時に、炉底から吹き込みガスで溶銑を撹拌しつつ精錬(吹錬)を開始する。同時に、石灰CaO等の造滓材や酸化鉄FexOy等の冷却材、すなわち副原料を投入することで、りんPは投入された酸素と反応してスラグ相に移行し、溶銑の上方に浮いた状態で積層するようになる。
このように、転炉2に溶銑が装入され、この溶銑が吹錬されることで成分調整された溶鋼となり、この溶鋼が転炉2から排出される一連の工程を「チャージ」といい、1チャージは約35分程度で行われる。
【0028】
一方、転炉2の内壁は溶銑により常に高温にさらされていて、内壁を構成する耐火レンガは徐々に溶け減ってゆく。ゆえに、転炉2は、耐火レンガが溶け減って転炉自身の機能を失う「寿命」をもっている。この寿命を超えて転炉2を長期間に亘って稼働させることは不可能であるため、図1(a)に示すように、転炉2では、一定期間稼働した後、転炉2内の耐火レンガを張り替えたりする大規模な修理、「炉修」が行われるものとなっている。転炉2の寿命を日数に直すと、大雑把ではあるが150日前後であり、炉修は約20日前後である。また、1回の転炉寿命内では約5000回のチャージが行われるのが通常である。
【0029】
加えて、通常の転炉操業においては、転炉2に対する地金取りや孔巻き、耐火物の補修などの補修作業が随時行われ、これらの作業は転炉2の安定操業のためには必須である。
ここでいう地金取り作業とは、転炉2の溶銑装入口近傍にスロッピング等により溶銑が固着し地金となっており、この地金を除去する作業である。約10チャージに1回程度行われるもので約30分程度の時間を有する。
孔巻き作業とは、転炉2の出銑口の耐火レンガが溶鋼により徐々に劣化していくため、所定間隔で、かかる耐火レンガを取り替える作業である。孔巻き作業は約100チャージに1回行われるものであり、約60分の作業時間を必要とする。
【0030】
耐火レンガ(耐火物)の補修は、転炉2の内壁に耐火補修材を吹き付けるなどして簡易的ながら炉寿命を大幅に向上させる修理であって、約10チャージ毎に行われ、1回の補修に約30分の時間を必要とする。
図1(a)は、3基の転炉2の稼働状況を、例えば1日を最小単位とするマクロの観点で記載したものであり、図1(b)は、時間を最小単位とするミクロの観点で記載したものである。
まず、図1(a)中のPに示されているように、転炉Aと転炉Bとが稼働中であって、転炉Cは炉修ならびにそれに続く休止中となっているとする。その後、転炉Cも稼働状態とし、溶銑の吹錬を行わせるようにする。この状態は、3基の転炉2が同時に稼働しており、3/3基稼働期間となっている。
【0031】
その後、転炉Aの炉寿命がやってきて、転炉Aの炉修を行う必要が出てくる。炉修とは、一旦転炉2の温度を常温まで下げた後、溶損した耐火レンガを取り外し、転炉2の装入口などから搬入した新しい耐火レンガを炉内側に貼り付けていくものであって、炉修の期間は数日から20日ほどかかる。炉修中は、転炉Bと転炉Cの2基で吹錬が行われており、この状況を2/3基稼働期間と定義する。
3/3基稼働期間中においては、図1(b)に示すように、3基の転炉2を順次稼働させており、各チャージが完全に並列で重なるようにはなっていない。詳細は後述するものの、転炉周辺設備7が3基の転炉2を同時に稼働するだけの能力を有していないためである。転炉2を順次稼働させることで、マクロ的には3基の転炉2が稼働している状況であるものの、ミクロ的には2基の転炉2が稼働し、チャージが順次行われ、大きく生産性を向上させることができるものとなっている。
【0032】
しかしながら、溶鋼生産能力を上げようとして、3基の転炉2を全て稼働状態にした場合、転炉2は炉修の機会を失うことになり、長期に亘って操業が継続できないという不都合が生じてくる。そこで、炉修を行うために、全操業時間の中の何割かを、1基の転炉2を休止させ他の2基のみを操業する2/3基稼働とすることが必要となってくる。つまり、3/3基稼働の期間と2/3基稼働の期間とを適切な割合にすることが非常に重要な事項となってくる。
本実施形態では、転炉2の少なくとも1つ以上が稼働している期間に対する3/3基稼働期間の占める割合である3/3基比率を、式(1)を使って求めるようにし、かかる3/3基比率が50%〜95%となるようにしている。
【0033】
図7からわかるように、3/3基比率を50%〜95%とすることで、トータル生産チャージ数Iが最高値の約2〜3%減までで抑えられて、トータル生産チャージ数Iを常に74以上としている。こうすることで、高い溶鋼生産性を維持すると共に、転炉の炉修を確実に行って高寿命とすることが可能となっている。
次に、転炉2の3/3基稼働期間中における、各転炉2のチャージの順番について述べる。
図8は、本実施形態における3基の転炉2でのチャージの順番を示したものである。この図は、図1(b)を詳しくしたものであり、転炉2の操業状況をミクロ視したもので、本実施形態における3基の転炉2でのチャージの順番を示したものである。
【0034】
まず、第1の転炉2(転炉A)での吹錬が終了する前に、第2の転炉2(転炉B)での吹錬を開始するように設定し、第3の転炉2(転炉C)の吹錬開始を、第2の転炉2での吹錬が終了する前で、且つ第1の転炉2での前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間に設定している。
詳しくは、転炉Aでは、時間0minの前から溶銑装入が開始され、時間0minを過ぎたあたりで吹錬が開始される。吹錬は20min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、30min過ぎに出鋼が完了する。
【0035】
転炉Bでは、時間10minの前から溶銑装入が開始され、時間10minを過ぎたあたりで吹錬が開始される。吹錬は30min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、40min過ぎに出鋼が完了する。図からわかるように、転炉Bでの吹錬の開始は転炉Aの吹錬途中であり、時間10min〜20minの間では、転炉A,Bの両者で吹錬が行われるものとなっている。
転炉Cでは、時間20minの前から溶銑装入が開始され、時間25minあたりで吹錬が開始される。吹錬は45min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、55min過ぎに出鋼が完了する。転炉Cでの吹錬の開始は転炉Bの吹錬途中であると共に、転炉Aでの吹錬終了後である。すなわち、吹錬が行われる順番はA0→B0→C0であり、図上で右斜め下がりの矢印上に並ぶものとなっている。
【0036】
さらに、当該転炉Cでの吹錬が終了する前に、再び転炉Aへの溶銑装入が開始され、それに続いて吹錬が行われるようになる。その後同様に、転炉Aでの吹錬途中に、転炉Bでの吹錬が開始され、転炉Bの吹錬途中であって転炉Aの吹錬終了後に、転炉Cでの吹錬が開始されるようになっている。つまり、吹錬が行われる順番はA1→B1→C1であり、図上で右斜め下がりの矢印上に並ぶものとなる。
このようにすることで、いかなるフェーズ(時間)においても、吹錬中の転炉2は2基であり、転炉周辺設備7の能力を超えるものとはなっていない。しかしながら、マクロ的に見ると、図1(a)の如く、3基が同時に稼働している3/3基稼働期間となっており、溶銑生産能力が著しく向上可能な状況となっている。図8においては、約35分間の間に3回の吹錬開始が含まれているため、本稼働状態の転炉設備1は、35分で3チャージ、すなわち1時間で5チャージの生産能力を有していることになる。
【0037】
図8の吹錬A0を含むチャージに着目してみると、かかる吹錬A0の開始から、次チャージでの吹錬A1の開始との間には、転炉Bの吹錬開始と転炉Cの吹錬開始がそれぞれ1回ずつ存在することがわかる。このような状況下にあるチャージを「順次稼働している転炉」におけるチャージであると定義する。加えて、3基の転炉2による全チャージ数に対する、順次稼働している転炉2のチャージ数を「順次稼働比率」と定義するようにする。
この順次稼働比率が上がれば上がるほど、3基の転炉2が待ち時間なく稼働していることになり、理論上は溶鋼生産能力が向上することになる。
【0038】
しかしながら、現実には、前述した「転炉の補修」のための時間(期間)が必ず必要であり、転炉2の順次稼働比率が大きい場合、これらの補修時間を確保することが困難となり、溶鋼生産性が落ちるようになる。
本実施形態の場合は、3基の転炉2の順次稼働比率を40%〜95%の間としている。より好ましくは50%〜90%の範囲とするとよく、順次稼働比率を75%とすることで生産性の最大値を得ることができるようになる。
また、本実施形態では、かかる補修時間を確実に得るために、図9に示すように、A→B→Cと続いていた転炉2の稼働順番をC→B→Aと変えることで、転炉Aに補修を行うことのできる時間を作るようにしている。つまり、転炉Cを稼働した後、転炉Bを稼働させ、その後転炉Aを稼働させることで、転炉Aにおける1チャージに近い時間を非稼働状態とでき、その期間を補修時間とするようにしている。
【0039】
なお、以上述べた補修時間は、図10に示すように、T/4〜3Tの範囲内とすることで、補修効果を適切なものとしつつ、地金取り作業の時間増加を防ぐことができるようになる。より好ましくは、補修時間をT/4〜1.5Tとするとよい。
また、転炉2の操業においては、ランスが装入口から挿入できないなどの転炉周辺設備7の故障が発生することがある。そのような場合、その修理は、短時間(30分程度)で済むこともあれば比較的長い時間(例えば5時間以上)かかることもある。
そこで、転炉周辺設備7の修理時間が短時間である場合は、3/3基稼働とした上で、本実施形態で述べたように、チャージの順番を逆順とするなどして補修時間を確保し、この補修時間を転炉周辺設備7の修理時間として利用すると、溶鋼生産性の観点からは非常に有利である。
【0040】
一方、転炉周辺設備7の修理時間が5時間以上かかるような場合は、逆順などで修理時間を確保するよりは、修理に該当する転炉2を休止し、炉修の際と同じように2基の転炉2を稼働状態(2/3基稼働)とすると、溶鋼生産性の観点から有利である。転炉周辺設備7の修理時間を確保すべく、転炉2を3/3基稼働とするか2/3基稼働とするかの境としては、転炉2の再稼働時の昇温に必要な約3時間を採用し「修理時間=3時間」を境界値とすることが好ましい。
なお、本発明の転炉2への溶銑供給方法は、上記実施の形態に限定されるものではない。また、転炉2は上吹き転炉、底吹き転炉、又は上底吹き転炉のいずれであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明にかかる転炉操業の順番を示したものであり、(a)はマクロ的に見たもの、(b)はミクロ的に見たものである。
【図2】補修確率と補修効果との関係を示した図である。
【図3】補修確率をパラメータとした溶鋼生産性のシミュレーション結果である。
【図4】補修確率と転炉寿命との関係を示した図である。
【図5】3/3基比率と溶鋼生産性との関係を示した図である。
【図6】3/3基比率と補修による溶鋼生産性の減少量との関係を示した図である。
【図7】3/3基比率とトータルの溶鋼生産性との関係を示した図である。
【図8】転炉のチャージの順番を示した図である。
【図9】転炉のチャージの順番を示した図である(逆順の場合)。
【図10】補修時間と補修効果ならびに地金取り時間との関係を示した図である。
【図11】従来及び本発明にかかる転炉設備の正面概略図である。
【図12】従来の転炉操業の順番を示したものであり、(a)はマクロ的に見たもの、(b)はミクロ的に見たものである。
【符号の説明】
【0042】
1 転炉設備
2 転炉
7 転炉周辺設備
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の転炉を効率的に使用する際における転炉の操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、転炉工程では、溶銑を転炉に装入し、副原料添加と酸素吹込みを行うことで脱りん・脱炭を行って、りん濃度や炭素濃度が所定の値となっている溶鋼を生産している。
図11は、従来からある転炉設備を示しているものであって、転炉と、これら転炉に溶銑を供給する取鍋と、この取鍋を搬送するクレーンとを有している。転炉に関しては、全部で3基あり、その中の2基を稼働させ、残るもう1基は休止状態としていた。
詳しくは、転炉には溶銑が装入されるためその内壁は常に高温にさらされており、内壁を構成する耐火レンガは徐々に溶損してゆく。つまり、転炉は、耐火レンガが溶け減って転炉自身の機能を失う炉体寿命をもっている。この寿命を超えて転炉を長期間に亘って稼働させることは不可能であり、転炉は、一定期間稼働した後、転炉内の耐火レンガを張り替えたりする大規模な修理、「炉修」が行われるものとなっている。前記休止中の1基の転炉は、かかる炉修作業中及びそれに続く休止状態中であった。
【0003】
図12は、図11の転炉設備における操業スケジュールを示したものであって、図12(a)には、3基の転炉A,B,Cに関して転炉稼働期間(すなわち転炉寿命)と炉修とのスケジュールが示されている。このスケジュールの如く、転炉寿命内にある2基の転炉では溶銑の精錬を行い、残りの1基の転炉で炉修を行って休業状態としていた。図中のPで示される部分のように、転炉Aと転炉Bとが稼働中であったとして、転炉Aの内壁に張りつけられている耐火レンガを張り替える時期が近づいたとする。そうした場合、転炉Aは炉修作業に入り、その代わりに、今まで休業中であった転炉Cを稼働状態とする。その後、転炉Aの炉修が終了したとしても、転炉Aをバックアップと考え、稼働状態とはせず休業状態のままとしていた。言い換えれば、使用している2基の転炉B,Cの内、1基が故障したり、炉修を行う必要が生じた場合に、その転炉B,Cの稼働を止めて現在休業中の転炉Aを再稼働するようにしていた。
【0004】
図12(b)には、2基の転炉B,Cが稼働している場合における、各転炉B,Cでのチャージ状況を示したものである。転炉のチャージとは、転炉に溶銑が装入され、装入された溶銑に対して吹錬が行われ、生産された溶鋼が排出される一連の工程をいい、この一連の作業の開始から終了までの時間を製鋼時間という。1回の転炉寿命内では約5000回のチャージが行われるのが通常である。図に示すように、必要に応じて、各チャージ間に転炉休止時間を設け、この時間を、転炉の内壁に耐火補修材を吹き付けるなどして簡易的ながら炉寿命を大幅に向上させる修理である「補修」を行う時間としている。
【0005】
転炉寿命を日数に直すと、大雑把ではあるが150日前後であり、炉修は約20日前後である。一方、転炉での1チャージは約35分前後であり、転炉の補修は10分〜数時間を有するものである。このことを鑑みた上で、図12を要約すると、図12(a)は、転炉工程を日単位でマクロ的(巨視的)に見て、炉修期間と稼働期間とに分けたものであり、図12(b)は、転炉工程を時間単位でミクロ的(微視的)に見て、チャージと補修期間で分けたものとなっている。
以上のことから判るように、従来からの一般的な転炉設備においては、マクロ、ミクロいかなる観点からも、転炉は常に2基のみが稼働中であり、残り1基はバックアップとして休業状態にあることが普通である。
【0006】
このような転炉設備において、2基の転炉を効率よく稼働させることに関し、特許文献1や特許文献2の技術が既に開示されている。
特許文献1の技術は、1の転炉で脱りん精錬をした溶湯を受湯鍋に受け、この受湯鍋を作業床開口部を通して他の1の転炉に運搬し、ここで脱炭精錬を行なうものであって、脱燐精錬でのスラグの排さい時間等を少なくすると共に、脱燐精錬時間と脱炭精錬時間とを同程度にすることで、脱炭精錬炉の遊び時間を無くし全体として製鋼能率を向上するものである。換言すれば、1の転炉でのチャージ時間と他の転炉でのチャージ時間とを同程度にすることで、製鋼能率をあげる技術である。
【0007】
特許文献2の技術は、2基の転炉において、吹錬を開始する転炉の煙道のダンパーを開く動作と、吹錬を終了した転炉の煙道のダンパーを閉じる動作とを1段階のダンパー操作で同時並列的に行い、切替え時の停風時間を短縮させるものであって、転炉のチャージ切替時における煙道のダンパー操作方法に関するものである。
【特許文献1】特許第3486886号公報
【特許文献2】特開平6−65653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した転炉設備で、溶鋼生産能力を上げようと考えた場合、2基の転炉を稼働させることはもちろん、休業状態にあるもう1基の転炉を稼働させ、マクロ視で3基の転炉が同時に稼働している状況(3/3基稼働)とするとよい。しかしながら、3基の転炉を全て稼働状態にした場合、転炉は炉修の機会を失うことになり、長期に亘って操業を継続できないという不都合が生じてくる。そこで、炉修を行うために、全操業時間の中の何割かを、1基の転炉を休止させ他の2基のみを操業する2/3基稼働とすることが必要となってくる。つまり、3/3基稼働の期間と2/3基稼働の期間とを適切な割合にすることが非常に重要な事項となってくる。
【0009】
しかしながら、転炉の操業において、転炉の3/3基稼働の期間と2/3基稼働の期間との最適な割合を求める技術は未だ確立されるにいたっていない。前述した特許文献1や特許文献2に着目したとしても、これらの技術は、転炉工程をミクロ視した上で2基の転炉稼働における効率アップを図るものであり、該技術では問題を解決することは困難である。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、2基の転炉を吹錬させる能力しか備えていない転炉周辺設備を有する転炉設備で、3基の転炉の同時稼働状況を操業スケジュールに組み込むことのできる転炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明における課題解決のための技術的手段は、溶銑の吹錬を行う3基の転炉を備えた転炉設備で、炉体寿命を過ぎた転炉に対する修理を「炉修」とすると共に、3基の転炉全てが該炉修中又は休止中ではなく稼働中である期間を3/3基稼働期間とし、転炉の少なくとも1つ以上が稼働している期間を全稼働期間とし、該全稼働期間に対する3/3基稼働期間の占める割合を3/3基比率と定義して、この3/3基比率が50%〜95%となるように3基の転炉を操業することを特徴とする。
【0011】
本願発明人は、転炉の操業において、転炉の3/3基稼働期間と全稼働期間(2/3基稼働期間+3/3基稼働期間)とをどのような割合にすれば溶鋼生産性が最大になるかを、以下に述べるシミュレーションを基に論理的に明らかにした。
[シミュレーションにあたっての条件]
シミュレーションを行うにあたり、以下の条件を仮定した。
・ 1チャージあたりの補修回数である補修確率Aをシミュレーションのパラメータとし、1回の補修量は一定とした。
【0012】
・ 補修効果Cは、図2に示すように、補修確率Aが小さいときは大きいが、補修確率Aが多くなるにつれて小さくなるものとした。すなわち、初めは1回の補修で4チャージ分の転炉工程の延長を図れる効果があるとしているが、それ以降は、補修頻度B(補修確率Aの逆数)が0.1増えるごとに効果が10%減少してゆくとした。これは、炉内耐火物の局所破損部分(局所溶損部)が多い場合は、少ない補修頻度でも補修効果は大きいものとなるが、補修をこまめに実施し局所溶損部が少なくなると、補修効果が小さくなることを反映するものである。
【0013】
・ 補修を行わない場合の転炉の寿命Dを2500チャージとした。
・ 3/3基操業時の溶鋼生産性(チャージ数)を80とし、3/3基操業時には、補修を1回行うごとに生産性が0.07減少するとした。
・ 2/3基操業時の溶鋼生産性(チャージ数)を68とし、2/3基操業の時には補修は行わないものとした。
・ 炉修の日数を14日で一定とした。
【0014】
[シミュレーション式]
シミュレーションに用いた変数や関係式は、以下の通りである。
・A: 補修確率→チャージ1回あたりの補修回数(回/ch)。
・B: 補修頻度→何チャージ毎に補修を行うかを示す値。Aの逆数である。
・C: 補修効果→1回の補修で何チャージ分、転炉の寿命を延ばすかを意味する。図2にその関係が示されている。
・D: 転炉寿命(ch)
D(n+1)=D(n)
+D(n)×(A(n+1)−A(n))×C ・・・(2)
ある補修確率を実施している転炉に、更に補修を行った場合の転炉効果は、転炉寿命×補修確率の増加分×補修効果=D(n)×(A(n+1)−A(n))×Cであるとし、これを現在の転炉寿命D(n)に加算することで、補修後の転炉寿命D(n+1)としている。ここで、補修確率=0の場合にn=1とし、補修確率=0.1の場合にn=2、補修確率=0.2の場合にn=3というように、補修確率の刻み分を0.1として補修確率=0〜1.0の間で計算した。
・E: 転炉稼働日数
E=D×(F×3+(1−F)×2)/I ・・・(3)
転炉稼働日数Eは、転炉寿命Dを転炉1基あたりの一日平均チャージ数I/(F×3+(1−F)×2)で割ることで算出される。なお、Fは以下述べる3/3基比率である。
・F: 3/3基比率
本願発明では、転炉の3/3基比率を次式で求めるようにしている。
3/3基比率F = 1−CH×R/L ・・・(1)
CH:転炉設備における一日の全チャージ数(ch/日)
R :転炉が炉修中あるいは休止中である日数(日)
L :転炉の炉体寿命(ch)
式(1)の導出過程は次の通りである。つまり、転炉は一年、365日を通して連続操業されており、かかる365日の操業日(期間)は基本的に3/3基操業とする。しかしながら、炉修が行われている期間は1基の転炉が操業停止となるため、2/3基操業となる。それらのことより、
3/3基比率=(3/3基稼働期間)/全稼働期間
=(全稼働期間−2/3基稼働期間)/全稼働期間
=(365日−炉修が行われている日数)/365日
と考えられる。この式を順次変形して、
3/3基比率= 1−炉修回数×R/365
ここで、Rは、1回の炉修にかかる日数(転炉の休止を含む)である。
【0015】
なお、炉修回数R=一日のチャージ数CH(ch/日)×365日/転炉寿命L(ch)であるため、
3/3基比率=1−CH×R/L ・・・(1)
となる。
・G: 3/3基時の生産チャージ数
G=80−A×μ×80/F ・・・(4)
ここで、μは生産影響係数であり、0.07又は0.15を採用していて、補修を1回実施することにより減じるチャージ数を意味する。ゆえに、A×μ×80/Fは、補修により実際に減する生産性(チャージ数)を意味するものとなっている。
・H: 2/3基時の生産チャージ数→1日68chで固定値とする。
・I: 一日における全チャージ数(トータル生産チャージ数)
I=G×F+H×(1−F) ・・・(5)
・J: 補修を考慮しない場合の一日における全チャージ数
J=80×F+H×(1−F) ・・・(6)
式(5)でG=80とすることで本式は導出できる。
・K: 補修による生産性の減少量
K=J−I ・・・(7)
前述のJからIを引くことにより、Kを求めることができるようになる。
【0016】
[シミュレーション結果]
以上の関係式(2)〜(7)を用いて、補修確率Aをパラメータとした溶鋼生産性のシミュレーション行った結果が、図3〜図7に示してある。図3は計算結果を表の形にしたもので、それらを基にグラフ化したものが図4〜図7である。
図4は、横軸に補修確率A、縦軸に転炉寿命Dを取ったものである。この図から、補修確率Aが0すなわち全く補修を行わない際には、転炉の寿命は初期値の2500チャージであり、補修確率Aが増えるに従って、約20000chまで転炉寿命Dが増加していることがわかる。補修を数多く行うことで転炉の寿命をあげることができることが明らかとなっている。
図5には、3/3基比率Fと補修を考慮しないトータル生産チャージ数Jとの関係が示されている。この図からわかるように、3/3基比率Fが増加するに従ってトータルの生産チャージ数Jは線形的に増えており、3/3基比率Fが0%の時、J=68であるものが、F=約100%の時、J=80と大幅に増加している。
【0017】
一方、図6には、3/3基比率Fと補修による生産性の減少量Kとの関係が示されている。この図から、3/3基比率Fが55%までは、補修による生産性の減少量Kが0であるものの、それ以上になると減少量Kは著しく多くなることが判別できる。
以上の結果を要約すると、
(i) 3/3基比率Fを上げることで、3基の転炉が連続稼働に近くなり、溶鋼生産性は上がる(図5)。
(ii) 3/3基比率Fを上げることで、3基の転炉がフル稼働している状況となり、転炉の炉修を行う機会が減る。当然、それをカバーし炉寿命を延ばすために、転炉の補修を数多く行うようにしている(図4)。
【0018】
(iii) しかしながら、補修は30分〜数時間ではあるものの転炉を止める作業であるため、(ii)の状況、すなわち補修回数が多い状況下では、生産性が減ることになる(1回の補修で0.07ch)。ゆえに、3/3基比率Fを上げることで、補修量に伴う溶鋼生産性の減少が起こる(図6)。
(i)と(iii)の傾向、換言すれば図5と図6とをそれぞれ加味したものが、図7であり、横軸に3/3基比率F、縦軸にトータル生産チャージ数Iが示してある。図中のグラフは、3/3基比率Fが増加するにつれ上に凸となっており、3/3基比率Fが約80%において、トータル生産チャージ数Iが約76と最高値を取るものとなっている。
【0019】
この結果より考えて、本願発明では、トータル生産チャージ数Iの最高値の約2〜3%減まですなわちI=74を許容値と考えて、3/3基比率Fが50%〜95%となるように3基の転炉を操業することとしている。
また、本発明における課題解決のための技術的手段は、前記転炉設備に設けられ且つ転炉を稼働させるに必要な機能を有する転炉周辺設備の修理を実施するに際し、2基の転炉が稼働中であり他の1基が炉修中又は休止中にある状況を2/3基稼働と定義して、前記転炉周辺設備の修理時間が所定時間以上の場合は2/3基稼働を行い、所定時間以内の場合は3基全ての転炉が稼働する3/3基稼働を行うことを特徴とする。
【0020】
転炉の操業においては、ランスが装入口から挿入できないなどの転炉周辺設備の故障が発生することがある。そのような場合、その修理は、短時間(30分程度)で済むこともあれば比較的長い時間(例えば5時間以上)かかることもある。
本願発明人は、そのような転炉周辺設備の故障例を数々検討した結果、転炉周辺設備の修理時間が短時間である場合は、3/3基稼働とした上で、チャージの順番を工夫するなどして転炉の休止時間を確保し、この休止時間を転炉周辺設備の修理時間として利用すると、溶鋼生産性の観点からは非常に有利であることを突き止めた。
【0021】
一方、転炉周辺設備の修理時間が5時間以上かかるような場合は、修理に該当する転炉を休止し、炉修の際と同じように2基の転炉を稼働状態(2/3基稼働)とすると、溶鋼生産性の観点から有利であることも明らかにしている。
3基の転炉をこのように操業することで、溶鋼生産性をなるべく落とすことなく転炉を操業することができる。
なお、本発明における課題解決のための技術的手段として、前記転炉の内壁に対する簡易的な修理である「補修」を行うに際し、補修にかかる時間を、T/4〜3Tの範囲内(Tは製鋼時間)としていることを特徴とする。以下、その理由について説明する。
【0022】
図10には、補修時間が約5〜600分まで変化した場合における、転炉寿命の延長の度合い(補修効果)と、地金取りにかかる時間とをシミュレーションした結果が示されている。全ての計算において、製鋼時間は35分であり、クレーンでの溶銑供給時間は15分である。
図の横軸は製鋼時間Tで換算された補修時間であり、縦軸には補修効果ならびに地金取り時間が示されている。
図中のグラフIは、補修効果の変化を示したものであり、補修時間を長くすることで、補修作業を確実に行うことができて1回の補修で延びるチャージ数が多くなることが示されている。補修時間を約0.25T(T/4)まで長くすると、転炉寿命が約3チャージ延長する。その一方、補修時間を約0.4T以上とすると、補修効果=5.0チャージでそれ以上は増えなくなる。
【0023】
グラフIIは、地金取りにかかる時間の変化を示したものである。補修時間が3T以下では、地金取り時間はゼロであり、補修時間が3T以上になると、地金取り時間が発生するようになる。このことは、補修時間が長くなることで転炉自体の温度が降下し、転炉の装入口に地金等が付着する可能性が大きくなることを反映している。ゆえに、補修時間を極端に長くすることは得策ではなく、グラフIIからわかるように、補修時間を3T以下とすれば、地金取り作業の作業時間をなしとすることができる。
これらのことを鑑み、補修時間をT/4〜3Tの範囲内とすることで、補修効果を適切なものとしつつ、地金取り作業の時間増加を防ぐことができるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、3基の転炉を備える転炉設備での操業において、3基の転炉を稼働させる期間と2基の稼働期間とを適切な配分にすることで、溶鋼生産能力を大幅に向上することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明にかかる転炉への溶銑供給方法の実施形態を、図を基に説明する。
本実施形態の転炉設備1は、図11に示される従来例とほぼ同一であり、3基の転炉2と、これら転炉2に溶銑を供給する取鍋3と、この取鍋3を搬送する2基のクレーン4とを有している。さらに、3基の転炉2のそれぞれには、吹錬で発生した排ガスを集煙して有害物質を除去したり一酸化炭素を回収したりする排ガス処理設備5が備えられていると共に、各転炉2に酸素を供給したりする酸素供給設備6が設けられている。この酸素供給設備6は、転炉1基が吹錬に使用する酸素量の2倍を供給できるものであると共に、排ガス処理設備5は、2基の転炉1から排出されるCOガスなどを回収する能力を有している。つまり、排ガス処理設備5や酸素供給設備6から構成される転炉周辺設備7は、2基の転炉2で同時に吹錬を行わせる能力を有するものとなっており、3基の転炉2での同時吹錬は不可能なものとなっている。
【0026】
本願発明は、図1〜図7に示す如く、溶銑の吹錬を行う3基の転炉2を備えた転炉設備1で、炉体寿命を過ぎた転炉2に対する修理である「炉修」が行われておらず且つ稼働中である転炉2の数が3基である期間を3/3基稼働期間と定義し、前記転炉2の少なくとも1つ以上が稼働している期間に対する前記3/3基稼働期間の占める割合を3/3基比率として求め、この3/3基比率が50%〜95%となるように3基の転炉2を操業するものである。
前記転炉設備1での各工程を詳しく説明すると、まず、取鍋3に入った溶銑はクレーン4により搬送され、転炉2に装入される。具体的には、転炉2を傾動し、炉内にスクラップ等を装入した上で溶銑を流し入れるようにする。
【0027】
その後、溶銑中のりんPを主に取り除くと共に炭素Cを適切なものとするために、転炉2の炉口からランス(図示せず)を挿入し、溶銑上面に近づけ、酸素ガスを吹き付けると同時に、炉底から吹き込みガスで溶銑を撹拌しつつ精錬(吹錬)を開始する。同時に、石灰CaO等の造滓材や酸化鉄FexOy等の冷却材、すなわち副原料を投入することで、りんPは投入された酸素と反応してスラグ相に移行し、溶銑の上方に浮いた状態で積層するようになる。
このように、転炉2に溶銑が装入され、この溶銑が吹錬されることで成分調整された溶鋼となり、この溶鋼が転炉2から排出される一連の工程を「チャージ」といい、1チャージは約35分程度で行われる。
【0028】
一方、転炉2の内壁は溶銑により常に高温にさらされていて、内壁を構成する耐火レンガは徐々に溶け減ってゆく。ゆえに、転炉2は、耐火レンガが溶け減って転炉自身の機能を失う「寿命」をもっている。この寿命を超えて転炉2を長期間に亘って稼働させることは不可能であるため、図1(a)に示すように、転炉2では、一定期間稼働した後、転炉2内の耐火レンガを張り替えたりする大規模な修理、「炉修」が行われるものとなっている。転炉2の寿命を日数に直すと、大雑把ではあるが150日前後であり、炉修は約20日前後である。また、1回の転炉寿命内では約5000回のチャージが行われるのが通常である。
【0029】
加えて、通常の転炉操業においては、転炉2に対する地金取りや孔巻き、耐火物の補修などの補修作業が随時行われ、これらの作業は転炉2の安定操業のためには必須である。
ここでいう地金取り作業とは、転炉2の溶銑装入口近傍にスロッピング等により溶銑が固着し地金となっており、この地金を除去する作業である。約10チャージに1回程度行われるもので約30分程度の時間を有する。
孔巻き作業とは、転炉2の出銑口の耐火レンガが溶鋼により徐々に劣化していくため、所定間隔で、かかる耐火レンガを取り替える作業である。孔巻き作業は約100チャージに1回行われるものであり、約60分の作業時間を必要とする。
【0030】
耐火レンガ(耐火物)の補修は、転炉2の内壁に耐火補修材を吹き付けるなどして簡易的ながら炉寿命を大幅に向上させる修理であって、約10チャージ毎に行われ、1回の補修に約30分の時間を必要とする。
図1(a)は、3基の転炉2の稼働状況を、例えば1日を最小単位とするマクロの観点で記載したものであり、図1(b)は、時間を最小単位とするミクロの観点で記載したものである。
まず、図1(a)中のPに示されているように、転炉Aと転炉Bとが稼働中であって、転炉Cは炉修ならびにそれに続く休止中となっているとする。その後、転炉Cも稼働状態とし、溶銑の吹錬を行わせるようにする。この状態は、3基の転炉2が同時に稼働しており、3/3基稼働期間となっている。
【0031】
その後、転炉Aの炉寿命がやってきて、転炉Aの炉修を行う必要が出てくる。炉修とは、一旦転炉2の温度を常温まで下げた後、溶損した耐火レンガを取り外し、転炉2の装入口などから搬入した新しい耐火レンガを炉内側に貼り付けていくものであって、炉修の期間は数日から20日ほどかかる。炉修中は、転炉Bと転炉Cの2基で吹錬が行われており、この状況を2/3基稼働期間と定義する。
3/3基稼働期間中においては、図1(b)に示すように、3基の転炉2を順次稼働させており、各チャージが完全に並列で重なるようにはなっていない。詳細は後述するものの、転炉周辺設備7が3基の転炉2を同時に稼働するだけの能力を有していないためである。転炉2を順次稼働させることで、マクロ的には3基の転炉2が稼働している状況であるものの、ミクロ的には2基の転炉2が稼働し、チャージが順次行われ、大きく生産性を向上させることができるものとなっている。
【0032】
しかしながら、溶鋼生産能力を上げようとして、3基の転炉2を全て稼働状態にした場合、転炉2は炉修の機会を失うことになり、長期に亘って操業が継続できないという不都合が生じてくる。そこで、炉修を行うために、全操業時間の中の何割かを、1基の転炉2を休止させ他の2基のみを操業する2/3基稼働とすることが必要となってくる。つまり、3/3基稼働の期間と2/3基稼働の期間とを適切な割合にすることが非常に重要な事項となってくる。
本実施形態では、転炉2の少なくとも1つ以上が稼働している期間に対する3/3基稼働期間の占める割合である3/3基比率を、式(1)を使って求めるようにし、かかる3/3基比率が50%〜95%となるようにしている。
【0033】
図7からわかるように、3/3基比率を50%〜95%とすることで、トータル生産チャージ数Iが最高値の約2〜3%減までで抑えられて、トータル生産チャージ数Iを常に74以上としている。こうすることで、高い溶鋼生産性を維持すると共に、転炉の炉修を確実に行って高寿命とすることが可能となっている。
次に、転炉2の3/3基稼働期間中における、各転炉2のチャージの順番について述べる。
図8は、本実施形態における3基の転炉2でのチャージの順番を示したものである。この図は、図1(b)を詳しくしたものであり、転炉2の操業状況をミクロ視したもので、本実施形態における3基の転炉2でのチャージの順番を示したものである。
【0034】
まず、第1の転炉2(転炉A)での吹錬が終了する前に、第2の転炉2(転炉B)での吹錬を開始するように設定し、第3の転炉2(転炉C)の吹錬開始を、第2の転炉2での吹錬が終了する前で、且つ第1の転炉2での前回吹錬終了〜次回吹錬開始の間に設定している。
詳しくは、転炉Aでは、時間0minの前から溶銑装入が開始され、時間0minを過ぎたあたりで吹錬が開始される。吹錬は20min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、30min過ぎに出鋼が完了する。
【0035】
転炉Bでは、時間10minの前から溶銑装入が開始され、時間10minを過ぎたあたりで吹錬が開始される。吹錬は30min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、40min過ぎに出鋼が完了する。図からわかるように、転炉Bでの吹錬の開始は転炉Aの吹錬途中であり、時間10min〜20minの間では、転炉A,Bの両者で吹錬が行われるものとなっている。
転炉Cでは、時間20minの前から溶銑装入が開始され、時間25minあたりで吹錬が開始される。吹錬は45min過ぎに終了し、その後、溶鋼の払い出しが行われ、55min過ぎに出鋼が完了する。転炉Cでの吹錬の開始は転炉Bの吹錬途中であると共に、転炉Aでの吹錬終了後である。すなわち、吹錬が行われる順番はA0→B0→C0であり、図上で右斜め下がりの矢印上に並ぶものとなっている。
【0036】
さらに、当該転炉Cでの吹錬が終了する前に、再び転炉Aへの溶銑装入が開始され、それに続いて吹錬が行われるようになる。その後同様に、転炉Aでの吹錬途中に、転炉Bでの吹錬が開始され、転炉Bの吹錬途中であって転炉Aの吹錬終了後に、転炉Cでの吹錬が開始されるようになっている。つまり、吹錬が行われる順番はA1→B1→C1であり、図上で右斜め下がりの矢印上に並ぶものとなる。
このようにすることで、いかなるフェーズ(時間)においても、吹錬中の転炉2は2基であり、転炉周辺設備7の能力を超えるものとはなっていない。しかしながら、マクロ的に見ると、図1(a)の如く、3基が同時に稼働している3/3基稼働期間となっており、溶銑生産能力が著しく向上可能な状況となっている。図8においては、約35分間の間に3回の吹錬開始が含まれているため、本稼働状態の転炉設備1は、35分で3チャージ、すなわち1時間で5チャージの生産能力を有していることになる。
【0037】
図8の吹錬A0を含むチャージに着目してみると、かかる吹錬A0の開始から、次チャージでの吹錬A1の開始との間には、転炉Bの吹錬開始と転炉Cの吹錬開始がそれぞれ1回ずつ存在することがわかる。このような状況下にあるチャージを「順次稼働している転炉」におけるチャージであると定義する。加えて、3基の転炉2による全チャージ数に対する、順次稼働している転炉2のチャージ数を「順次稼働比率」と定義するようにする。
この順次稼働比率が上がれば上がるほど、3基の転炉2が待ち時間なく稼働していることになり、理論上は溶鋼生産能力が向上することになる。
【0038】
しかしながら、現実には、前述した「転炉の補修」のための時間(期間)が必ず必要であり、転炉2の順次稼働比率が大きい場合、これらの補修時間を確保することが困難となり、溶鋼生産性が落ちるようになる。
本実施形態の場合は、3基の転炉2の順次稼働比率を40%〜95%の間としている。より好ましくは50%〜90%の範囲とするとよく、順次稼働比率を75%とすることで生産性の最大値を得ることができるようになる。
また、本実施形態では、かかる補修時間を確実に得るために、図9に示すように、A→B→Cと続いていた転炉2の稼働順番をC→B→Aと変えることで、転炉Aに補修を行うことのできる時間を作るようにしている。つまり、転炉Cを稼働した後、転炉Bを稼働させ、その後転炉Aを稼働させることで、転炉Aにおける1チャージに近い時間を非稼働状態とでき、その期間を補修時間とするようにしている。
【0039】
なお、以上述べた補修時間は、図10に示すように、T/4〜3Tの範囲内とすることで、補修効果を適切なものとしつつ、地金取り作業の時間増加を防ぐことができるようになる。より好ましくは、補修時間をT/4〜1.5Tとするとよい。
また、転炉2の操業においては、ランスが装入口から挿入できないなどの転炉周辺設備7の故障が発生することがある。そのような場合、その修理は、短時間(30分程度)で済むこともあれば比較的長い時間(例えば5時間以上)かかることもある。
そこで、転炉周辺設備7の修理時間が短時間である場合は、3/3基稼働とした上で、本実施形態で述べたように、チャージの順番を逆順とするなどして補修時間を確保し、この補修時間を転炉周辺設備7の修理時間として利用すると、溶鋼生産性の観点からは非常に有利である。
【0040】
一方、転炉周辺設備7の修理時間が5時間以上かかるような場合は、逆順などで修理時間を確保するよりは、修理に該当する転炉2を休止し、炉修の際と同じように2基の転炉2を稼働状態(2/3基稼働)とすると、溶鋼生産性の観点から有利である。転炉周辺設備7の修理時間を確保すべく、転炉2を3/3基稼働とするか2/3基稼働とするかの境としては、転炉2の再稼働時の昇温に必要な約3時間を採用し「修理時間=3時間」を境界値とすることが好ましい。
なお、本発明の転炉2への溶銑供給方法は、上記実施の形態に限定されるものではない。また、転炉2は上吹き転炉、底吹き転炉、又は上底吹き転炉のいずれであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明にかかる転炉操業の順番を示したものであり、(a)はマクロ的に見たもの、(b)はミクロ的に見たものである。
【図2】補修確率と補修効果との関係を示した図である。
【図3】補修確率をパラメータとした溶鋼生産性のシミュレーション結果である。
【図4】補修確率と転炉寿命との関係を示した図である。
【図5】3/3基比率と溶鋼生産性との関係を示した図である。
【図6】3/3基比率と補修による溶鋼生産性の減少量との関係を示した図である。
【図7】3/3基比率とトータルの溶鋼生産性との関係を示した図である。
【図8】転炉のチャージの順番を示した図である。
【図9】転炉のチャージの順番を示した図である(逆順の場合)。
【図10】補修時間と補修効果ならびに地金取り時間との関係を示した図である。
【図11】従来及び本発明にかかる転炉設備の正面概略図である。
【図12】従来の転炉操業の順番を示したものであり、(a)はマクロ的に見たもの、(b)はミクロ的に見たものである。
【符号の説明】
【0042】
1 転炉設備
2 転炉
7 転炉周辺設備
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑の吹錬を行う3基の転炉を備えた転炉設備で、炉体寿命を過ぎた転炉に対する修理を「炉修」とすると共に、3基の転炉全てが該炉修中又は休止中ではなく稼働中である期間を3/3基稼働期間とし、転炉の少なくとも1つ以上が稼働している期間を全稼働期間とし、該全稼働期間に対する3/3基稼働期間の占める割合を3/3基比率と定義して、
この3/3基比率が50%〜95%となるように3基の転炉を操業することを特徴とする転炉の操業方法。
【請求項2】
前記3/3基比率を次式で求めることを特徴とする請求項1に記載の転炉の操業方法。
3/3基比率 = 1−CH×R/L ・・・(1)
CH:転炉設備における一日の全チャージ数(ch/日)
R :転炉が炉修中あるいは休止中である日数(日)
L :転炉の炉体寿命(ch)
【請求項3】
前記転炉設備に設けられ且つ転炉を稼働させるに必要な機能を有する転炉周辺設備の修理を実施するに際し、
2基の転炉が稼働中であり他の1基が炉修中又は休止中にある状況を2/3基稼働と定義して、前記転炉周辺設備の修理時間が所定時間以上の場合は2/3基稼働を行い、所定時間以内の場合は3基全ての転炉が稼働する3/3基稼働を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の転炉の操業方法。
【請求項4】
前記転炉の内壁に対する簡易的な修理である「補修」を行うに際し、補修にかかる時間を、T/4〜3Tの範囲内(Tは製鋼時間)としていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転炉の操業方法。
【請求項1】
溶銑の吹錬を行う3基の転炉を備えた転炉設備で、炉体寿命を過ぎた転炉に対する修理を「炉修」とすると共に、3基の転炉全てが該炉修中又は休止中ではなく稼働中である期間を3/3基稼働期間とし、転炉の少なくとも1つ以上が稼働している期間を全稼働期間とし、該全稼働期間に対する3/3基稼働期間の占める割合を3/3基比率と定義して、
この3/3基比率が50%〜95%となるように3基の転炉を操業することを特徴とする転炉の操業方法。
【請求項2】
前記3/3基比率を次式で求めることを特徴とする請求項1に記載の転炉の操業方法。
3/3基比率 = 1−CH×R/L ・・・(1)
CH:転炉設備における一日の全チャージ数(ch/日)
R :転炉が炉修中あるいは休止中である日数(日)
L :転炉の炉体寿命(ch)
【請求項3】
前記転炉設備に設けられ且つ転炉を稼働させるに必要な機能を有する転炉周辺設備の修理を実施するに際し、
2基の転炉が稼働中であり他の1基が炉修中又は休止中にある状況を2/3基稼働と定義して、前記転炉周辺設備の修理時間が所定時間以上の場合は2/3基稼働を行い、所定時間以内の場合は3基全ての転炉が稼働する3/3基稼働を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の転炉の操業方法。
【請求項4】
前記転炉の内壁に対する簡易的な修理である「補修」を行うに際し、補修にかかる時間を、T/4〜3Tの範囲内(Tは製鋼時間)としていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転炉の操業方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−117973(P2006−117973A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304863(P2004−304863)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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