説明

転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常検知方法

【課題】転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常を検知する方法を提供する。
【解決手段】転炉スカート3を吊上げた時の油圧シリンダー4の油圧をそれぞれ測定し、該油圧シリンダー相互間の油圧差を求め、得られた油圧差が予め定めたしきい値を超えた場合に、該油圧シリンダーの異常と判定する。さらに、油圧差の測定と併せて、CCDカメラ10を用いて該転炉スカート3の傾きを測定し、得られた傾きが予め定めたしきい値を超えた場合に、該油圧シリンダー4の異常と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常を検知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転炉は、製鋼工程の中にあって、製品成分の微調整と不純物の除去とを行う重要な作業に使用される設備である。転炉を使用する際に発生する高温副生ガスの温度は1000℃以上もあり、主なガス成分が一酸化炭素COであるため、外部に放出すると、環境や人体に悪影響を与え、加えて火災爆発の危険もあることから回収し、燃焼ガスエネルギーとして再利用することが一般的である。
【0003】
上述した転炉副生ガスの回収率を上げるためには、空気の混入を最小限にすることが重要である。そこで、転炉上部と密着できるように、主に鋼管で構成された内部水冷可動式のスカート(本発明では、OGスカート、転炉スカートまたはスカートとも言う)装置が転炉設備に設置されている。
【0004】
転炉スカートは、その昇降手段として少なくとも3本の油圧シリンダーを備えていて、これらの油圧シリンダーを用いることで転炉スカートは支持され(吊上げられ)ている。ここに、転炉スカートは、一般に、25Ton(25000Kg)程度の重量物であるため、転炉スカートを支持している油圧シリンダーの駆動油をシールするパッキンはその上下動(昇降)毎に劣化する。また、転炉精錬のため1000℃超える高温と巻き上がる粉塵(主成分は酸化鉄)で、シリンダーロッド部のダストシールや内部パッキンが比較的短時間で破損し、駆動油が漏れ出すことで、油圧シリンダーが転炉スカートを保持することができなくなって、転炉スカートが傾いてしまうと言った問題が発生していた。
【0005】
これらの問題、特に油圧シリンダーの不具合に関し、今までにも以下に示すような種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献1および2には、油圧回路の圧力を計測して油圧ポンプの吐出圧を時間領域で解析し、ピーク油圧の状態を把握することでその異常を判定するシステムが提案されている。
【0006】
また、特許文献3には、油圧回路の減圧弁のベント回路に圧力検出センサーを設けその圧力変動で油圧機器の診断を行う方法が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献4および5には、油圧回路にセンサーをつけることなくアクチュエーターの動作結果や故障状況だけから定性推論手法を用いて故障部品を特定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−323013号公報
【特許文献2】特開昭53−034070号公報
【特許文献3】特開平04−251605号公報
【特許文献4】特許第4186503号公報
【特許文献5】特許第4400176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および2に記載された油圧回路の圧力を計測し油圧ポンプの吐出圧を時間領域で解析しピーク油圧の状態で異常を判定するシステムでは、油圧機器に油圧がかかった際の異常を測定することはできるが、その油圧が適切に保持されているか否かの判別はできない。また、少しづつ油がリークしている場合などは、当該シリンダーの圧力が徐々に降圧しているため、上記方法では検知できない。
【0010】
また、特許文献3に記載された油圧回路の減圧弁のベント回路に圧力検出センサーを設けその圧力変動で油圧機器の診断を行う方法は、ベント回路に別途油圧をかける必要があることから、当該設備が別途必要になるとともにメンテナンス箇所も増えてしまう。また、少しづつ油がリークしている場合などは、当該シリンダーの圧力が徐々に降圧しているため、上記方法では検知するのが困難である。
【0011】
さらに、特許文献4および5に記載された油圧回路にセンサーをつけることなくアクチュエーターの動作結果や故障状況だけから定性推論手法を用いて故障部品を特定する手法は、システムの制約上、起きた現象を手入力する必要があって、自動化システムには向いていないという問題があった。
【0012】
本発明は、上記した現状に鑑み開発されたもので、転炉スカートの昇降用油圧シリンダーが転炉スカートを保持している際の異常を的確に検知する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.転炉スカートの昇降手段として少なくとも3本の油圧シリンダーを用いて転炉スカートを支持するに際し、該転炉スカートを吊上げた時における油圧シリンダーの油圧をそれぞれ測定して該油圧シリンダー相互間の油圧差を求め、得られた油圧差が予め定めたしきい値を超えた場合に、該油圧シリンダーの異常と判定することを特徴とする転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常検知方法。
【0014】
2.前記油圧差の測定と併せて、CCDカメラを用いて上記転炉スカートの傾きを測定し、得られた傾きが予め定めたしきい値を超えた場合に、該油圧シリンダーの異常と判定することを特徴とする前記1に記載の転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常検知方法。
【0015】
3.前記油圧差のしきい値を、前記昇降用油圧シリンダーの油圧のうち最大となった油圧から10%以内とすることを特徴とする前記1または2に記載の転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常検知方法。
【0016】
4.前記転炉スカートの傾きのしきい値を、水平から5度以内とすることを特徴とする前記2または3に記載の転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常検知方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常を正確に検知しその程度を判断し、的確なメンテナンス時期を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に従う転炉スカートの昇降用油圧シリンダーを備えた設備の構成図である。
【図2】(a)および(b)は、昇降用油圧シリンダーの油圧を測定した結果を示すグラフである。
【図3】転炉スカートの傾きを測定する要領を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体的に説明する。
転炉吹錬作業においては、酸素吹き込み時や溶鋼排出時などその作業の時々に応じて、転炉炉口に水冷管を備えるOGスカート3を昇降させる。スカートの昇降手段としては、少なくとも3本の油圧シリンダーを用いて転炉スカートを支持する。OGスカートは、一般に25Ton(25000Kg)程度の重量物のため、転炉スカートを吊上げる油圧シリンダーの駆動油をシールするパッキン等はその上下動(昇降)毎に劣化し、最終的には駆動油をシールすることができなくなる。
【0020】
上記のようにパッキン等に劣化が生じた場合には、当該油圧シリンダーに所定の圧力がかけられなくなる。その結果、残りの油圧シリンダーに過大な負荷がかかるだけでなく、支えきれない場合には、スカートの転炉への落下という大災害をもたらす危険性もある。また、上記の事象は吊上げ直後に生じるとは限らず、少しづつ油がリークしている場合などは、当該シリンダーの圧力が当初は所定の圧力に達しているものの徐々に降圧していき、作業者が監視していなければ、スカートが大きく傾くまで気が付かないおそれもある。
【0021】
そこで、本発明は、油圧シリンダーの圧力を常時監視することで、パッキン等の劣化をいち早く検知し、正常なシリンダーに過大な負担がかかる前に、油圧シリンダーの異常を的確に判定するものである。
【0022】
図1に、本発明に従う転炉スカートの昇降用油圧シリンダーを備えた設備の一例を示す。なお、図中、1はランス、2はOG上部フード(水冷式)、3はOGスカート(水冷式)、4はOGスカート昇降油圧シリンダー、5は地金、6は転炉炉体、7は溶鋼、8は油圧配管、9は圧力センサー、10はCCDカメラ、11は警報灯(パトライト)、12は画像変換ボード、13は圧力信号、14は操業信号、15はA/D変換ボード、16は表示機(CRT)、17は処理装置(パソコン)および18は記録媒体(ハードディスク)である。
【0023】
OGスカート昇降用に接続されている4台(うち2台は図示せず)のスカート昇降シリンダー4に、テール側油圧圧力センサー9を各々直結する。ついで、水冷管からなるOGスカート3を吊上げる。その際、圧力センサー9を4台同時に常時監視し、転炉スカートを吊上げた際の油圧シリンダーの油圧をそれぞれ測定する(図2(a)参照)。その圧力信号13を電圧信号変換装置15を介して処理装置(パソコン)17に入力し、処理装置(パソコン)17において、上記測定値から油圧シリンダー相互間の油圧差を求める。その後、得られた油圧差を予め定めたしきい値と比較し、図2(b)に示すように、しきい値を超えた油圧シリンダーがあった場合、当該油圧シリンダーを異常と判定する。なお、圧力センサーによる圧力の測定間隔に特別の限定はないものの、0.1〜60秒程度とするのが好ましい。
【0024】
本発明において、異常と判定する油圧差のしきい値は、4本の油圧シリンダーの油圧のうち最大となった油圧から10%以内とすることが好ましい。
油圧シリンダーの油圧というのは、昇降の度毎に若干の数値変動がある。従って、ある一定の数値をしきい値とすると、油圧シリンダーの油圧が全体的に高い値の場合、1本だけ低い値であっても、異常と判断されないおそれがある。他方、油圧シリンダーの油圧が全体的に低い値であった場合には、異常のない油圧シリンダーまで異常と判断するおそれが生じる。
【0025】
そのため、本発明では、その時々に応じた最適なしきい値を設定するものであって、かつ油圧シリンダーに異常が発生した場合には、的確にその程度を判断できるように、比較基準を、4本の油圧シリンダーの油圧で、10秒間の計測期間のうち、常にまたは平均で最大の値を示した油圧値とする。また、異常の判断を実際に用いる上記しきい値は、転炉設備に応じて適宜定めることができるが、上記最大の油圧から10%以内とすることが好ましい。なお、15〜50%程度の範囲で、しきい値の数値を定めることもできる。
【0026】
本発明では、上記した測定間隔で取得したそれぞれの圧力データを、上記のしきい値と都度比較することで、油圧シリンダーを常時監視することができ、1本の油圧シリンダーだけが徐々に降圧していくようなタイプの故障の場合も、的確に捉えることができる。
【0027】
さらに、必要に応じて、しきい値の内側に要警戒値を設けることができる。要警戒値を設けることで、この値を超えた場合には、すぐに修理の必要はないものの、その後直近の定期メンテナンス時などに当該油圧シリンダーを点検する、などの計画をたてることができる。
なお、要警戒値としては、2〜8%程度の範囲から定めることが好ましい。
【0028】
上記油圧差がしきい値10%を超えた場合は、警報灯11の吹鳴や表示機16における警告表示などにより、工場転炉操業オペレーターに異常を知らしめる。
なお、油圧差をしきい値と比較する場合の計算は、以下の式1に従う。
油圧差(%)=(Pmax − Pc)/Pmax ×100 ・・・1
但し、Pmax:油圧シリンダーの油圧のうちで最大の油圧、Pc:確認したい油圧シリンダーの油圧とする。
【0029】
ここに、図1では、磁気記録部18を用いることで、警報情報履歴と採取データ履歴と操業信号14を磁気記録部18に記録することができる。この記録を解析することで、油圧シリンダーのシール部等の寿命を定量的に把握することができ、計画的なメンテナンスの指標とすることができる。
【0030】
さらに、本発明では測定の精度を高めるために、図3に示すように、工業用監視カメラの映像を参考画像として収集し、その画像から画像処理を行ってOGスカートの傾き(図中のθ)を求め、水平と比較することで監視精度を上げることができる。なお、図3中の符号は、図1と同じ番号は同じ機器を意味している。
その際、カメラのレンズに光学フィルターを用いることが好ましい。というのは、カメラのレンズに光学フィルターを用いると、溶鋼からの光を効果的に利用してOGスカートの下端の線を正確に把握することができ、その結果、OGスカートの傾きを正確に測定することができるからである。
なお、上記光学フィルターとしては、炎の強烈な光による影響を軽減するためにNDフィルター(減光フィルターとも呼ばれている)を用いることができる。その際、本発明では、炉口周辺のスペクトル分析により得られたデータに基づき、光の周波数である550nm〜600nmの周波数帯だけが通過する特殊なバンドパスフィルターを用いることが望ましい。
また、一般的な製鉄所では2台以上の転炉を装備しているため、隣の転炉の炎の影響を効果的に低減する目的で、PLフィルター(偏光フィルターとも呼ばれている)を用いることができる。
【0031】
具体的には、転炉6とスカート3を同時に撮影するCCDカメラ10により取得した画像信号を、画像信号変換装置を用いて画像処理を行って、スカートの傾きを計算し、あらかじめ定めた転炉スカートの傾きのしきい値と比較して、しきい値を超えたときには警報装置(パトライト)や表示部(CRT)により工場転炉操業オペレーターに異常を知らしめることができる。
なお、カメラは1台であっても傾きの判定をすることができる。さらに精度や信頼性を上げるために、2台以上、特に3〜4台のカメラを用いることが好ましい。
【0032】
本発明において、上記転炉スカートの傾きのしきい値は、特別の限定はないものの、水平から5度以内とすることが好ましい。この程度の傾きで、転炉スカートの不具合を感知することが出来れば、十分安全に補修をすることができる。
また、本発明は、前述した油圧差と併用し、少なくともどちらかがそのしきい値を超えた時に警報を出すまたは両方で超えて始めて異常とする、などの使い方が選択できる。
【0033】
さらに、必要に応じて、前記した油圧差と同様に、傾きのしきい値にも要警戒値を設けることができる。この値を超えた場合は、やはり、すぐに修理の必要はないものの、その後の直近の定期メンテナンス時などに、当該油圧シリンダーを点検するなどの計画をたてることができる。
なお、要警戒値としては、2〜3度程度の範囲から定めることが好ましい。
【0034】
本発明は、上記したように、転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常を検知するものであるが、異常の発生箇所としては、シリンダーのシール部に限らず、シリンダーに接続する油圧ユニットの健全性、例えば、油圧発生部のシールや油圧ユニットへの命令信号系統の不具合等も含まれていて、いずれの箇所が故障しても本発明に従う検知方法によって検知することができる。
【0035】
本発明において、上述したそれぞれの機器、すなわち、OGスカート昇降油圧シリンダー、圧力センサー、CCDカメラ(TVカメラでも代替可能である)、警報灯(パトライト)、画像変換ボード、A/D変換ボード、表示機(CRT)、処理装置(パソコン)および記録媒体(ハードディスク)は、いずれも特別の制限はなく公知のもの使用することができる。なお、OGスカート昇降油圧シリンダーは、少なくとも3本必要であって、4本でスカートを保持することが好ましいが、スカートを安定的に昇降することが出来れば何本でも問題はない。
【符号の説明】
【0036】
1 ランス
2 OG上部フード(水冷式)
3 OGスカート(水冷式)
4 OGスカート昇降油圧シリンダー
5 地金
6 転炉炉体
7 溶鋼
8 油圧配管
9 圧力センサー
10 CCDカメラ
11 警報灯(パトライト)
12 画像変換ボード
13 圧力信号
14 操業信号
15 A/D変換ボード
16 表示機(CRT)
17 処理装置(パソコン)
18 記録媒体(ハードディスク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉スカートの昇降手段として少なくとも3本の油圧シリンダーを用いて転炉スカートを支持するに際し、該転炉スカートを吊上げた時における油圧シリンダーの油圧をそれぞれ測定して該油圧シリンダー相互間の油圧差を求め、得られた油圧差が予め定めたしきい値を超えた場合に、該油圧シリンダーの異常と判定することを特徴とする転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常検知方法。
【請求項2】
前記油圧差の測定と併せて、CCDカメラを用いて上記転炉スカートの傾きを測定し、得られた傾きが予め定めたしきい値を超えた場合に、前記油圧シリンダーの異常と判定することを特徴とする請求項1に記載の転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常検知方法。
【請求項3】
前記油圧差のしきい値を、前記油圧シリンダーの油圧のうち最大となった油圧から10%以内とすることを特徴とする請求項1または2に記載の転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常検知方法。
【請求項4】
前記転炉スカートの傾きのしきい値を、水平から5度以内とすることを特徴とする請求項2または3に記載の転炉スカートの昇降用油圧シリンダーの異常検知方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−246562(P2012−246562A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121574(P2011−121574)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】