説明

転移期前立腺癌を治療する方法

対象の転移期前立腺癌の治療のためのデガレリクスを含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
前立腺癌は、男性の癌に関連した死亡の約9%を占める、先進工業国の男性の罹患率および死亡率の主な原因である。前立腺癌は、肺癌に続く、米国人男性の癌死亡の2番目に主な原因である。米国癌協会(American Cancer Society)は、27,050人の米国の男性が2007年に前立腺癌で死亡したと推定している。欧州では、前立腺癌は、欧州の男性の癌による死亡の3番目に最も多い原因であり、2006年に87,400例の死亡が推定されている(Ferlay et al. (2007) Ann. Oncol.; 18:581-92; Lukka et al. (2006) Curr. Oncol.; 13:81-93を参照)。
【0002】
10例中9例を超える前立腺癌が、限局期および局所進行期(localized and locally advansed stages)に発見される。癌がない同じ年齢および人種の男性と比較して(相対生存)、限局期および局所進行期癌があると診断された男性の5年相対生存率は、ほぼ100%である。しかしながら、診断時に身体の遠位部にすでに広がった転移期前立腺癌がある男性の5年相対生存率は、約32%しかない(Cancer Trends Progress Report (http:// progress report.cancer.gov; SEER Program、およびNational Center for Health Statistics;http://seer.cancer.gov/を参照)。この最後の転移期では、生存率の急降下は、痛み(例えば、骨の痛み)、体重減少、および疲労を含む症状を伴う。したがって、骨転移性腫瘍細胞成長の低減または延期につながる治療は、最大で約3年以上となる場合がある、平均余命の増加を提供するだけでなく、これらの症状が改善されるにつれて、生活の質(QoL)の向上も提供する。
【0003】
前立腺癌の大部分がテストステロン依存性に増殖するため、現在の進行前立腺癌の医療管理は、両側精巣摘除によって、またはゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体作用薬の投与によって達成され得る、アンドロゲン遮断等のホルモンに基づいた治療を伴う。精巣の摘出(去勢)が、長年、前立腺癌の成長を低減するための手段として、男性ホルモンの分泌を防止する標準的方法であった。近年、男性ホルモンの分泌を、アンドロゲンの合成を調節する、黄体形成ホルモン(LH)の産生を妨害することによる化学的手段によって障害するようになってきている。無作為研究からの証拠は、リンパ節転移の有無にかかわらず、非転移性局所進行疾患における早期の内分泌療法が、延命効果と関連することを強く示唆している(Granfors et al. (1998) J. Urol. 159:2030-34; Messing et al. (1999) N. Eng. J. Med. 341:1781-88; and (1997) Br. J. Urol. 79:235-46を参照)。
【0004】
ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)は、黄体形成ホルモン(LH)の産生を促進するように下垂体の中の受容体と相互作用する、視床下部によって産生される天然ホルモンである。LH産生を減少させるために、ロイプロリドおよびゴセレリン等の、GnRH受容体(GnRH-R)の作用薬が開発されてきた。GnRH-R作用薬は、最初にLH放出を促進するように作用し、長期治療後に初めて、LHがもはや産生されないように、GnRH-Rを脱感作するように作用する。作用薬によるLH産生の初期刺激は、作用薬療法に対する初期反応が、患者の症状の改善よりもむしろ悪化である(例えば、腫瘍成長が増加する場合がある)ように、男性ホルモンの産生の初期急増につながる。「テストステロン急増」または「発赤反応」として知られている、この減少は、2〜4週間も持続し得る。加えて、作用薬の各連続投与は、症状をさらに悪化させ得る、付加的な少量LH急増(「急性増悪」現象として知られている)を引き起こし得る。テストステロン急増は、前立腺癌を刺激して、現在の症状の悪化、または脊髄圧迫、骨の痛み、および尿道閉塞等の新規症状の出現につながり得る(Thompson et al. (1990) J. Urol. 140:1479-80; Boccon-Gibod et al. (1986) Eur. Urol. 12: 400-402)。GnRH作用薬療法用ロイプロリド(同様に、リュープリンまたはLUPRON DEPOT)の相対的効力および安全性(副作用を含む)が、当技術分野において公知である(例えば、Persad (2002) Int. J. Clin. Pract. 56:389-96; Wilson et al. (2007) Expert Opin. Invest. Drugs 16:1851-63;およびBerges et al. (2006) Curr. Med. Res. Opin. 22:649-55を参照)。テストステロン急増(発赤反応)を回避するために取られている1つのアプローチは、完全アンドロゲン除去療法(AAT)として知られている、フルタミド等の抗アンドロゲンと、GnRH-R作用薬の投与を組み合わせるものである。抗アンドロゲンと組み合わせた、GnRH-R作用薬によるホルモン療法は、補助療法として知られている根治的前立腺摘出術前の前治療として使用されてきた。しかしながら、抗アンドロゲンの使用は、重篤な肝臓および胃腸の副作用と関連する。
【0005】
抗アンドロゲンと関連する欠点は、GnRH作用薬と関連する「テストステロン急増」または「発赤反応」を克服するように、ゴナドトロピン放出ホルモン受容体(GnRH-R)の拮抗薬の開発につながってきた。GnRH拮抗薬は、GnRH受容体に競争的に結合し、それを遮断し、LHおよび卵胞刺激ホルモンホルモン(FSH)分泌の急速な減少を引き起こし、それにより、初期刺激/急増を伴わずにテストステロン産生を低減する。しかしながら、GnRH拮抗薬ペプチドが、しばしば、ヒスタミン放出活性と関連する。ヒスタミン放出が浮腫および掻痒等の副作用をもたらすため、このヒスタミン放出活性は、そのような拮抗薬の臨床的使用にとって深刻な障害を表す。
【0006】
改良されたGnRH拮抗薬の模索によって、アンチド(Antide)、セトロレリックス(Cetrorelix)、およびアンタレリックス(Antarelix)(米国特許第5,516,887号)の作製がもたらされてきた。5位および6位においてそのような著しく修飾されたまたは非天然アミノ酸を有する、GnRH拮抗薬は、良好な生物学的効果を示し、Aph上に構築されたものは、概して、特に効能があると見なされる。特異に有用なものは、アザリンB(Azaline B)である。国特許第5,506,207号はまた、5位および6位に残基のアシル化アミノ置換フェニルアラニン側鎖を伴う、生物学的効能GnRH拮抗薬も開示している。そのようなデカペプチドの1つは、アシリン(Acyline)である。
【0007】
この一群のGnRH拮抗薬の魅力的な性質にもかかわらず、副作用が観察されている。GnRH拮抗薬アバレリックス(PLENAXIS)の相対的効力および安全性(副作用を含む)が報告されている(例えば、Mongiat-Artus et al. (2004) Expert Opin. Pharmacother. 5:2171-9;およびDebruyne et al. (2006) Future Oncol. 2:677-96を参照)。そのようなものとして、なおもさらに改良されたGnRH拮抗薬、特に、生物学的作用の長い持続時間、および改良された安全性プロファイルを組み合わせるものについて、模索が継続されている。
【0008】
前立腺癌の治療のためのGnRH拮抗薬、デガレリクスに関する、いくつかの交付済み特許および特許出願において、これらの望ましい特徴が扱われている(例えば、その内容が全体で参照することにより本明細書に組み込まれる、欧州特許第EP 1003774号、米国特許第US 5,925,730号、米国特許第US6,214,798号、欧州特許第EP 02749000.2号、および米国特許第U.S.S.N. 12/155,897号、および欧州特許第EP 08250703.9号を参照)。加えて、米国特許第U.S.S.N. 61/027,742は、全身性アレルギー反応を伴わずに、デガレリクスが良好な耐性を示すことを実証する、多施設無作為臨床研究における長期評価の結果を開示している。デガレリクス治療はまた、テストステロン(T)急増を伴わずに、テストステロンの急速かつ著しい持続的抑制、ならびに良好な効力および安全性所見をもたらした。
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、継続的調査によって、前立腺および他の癌の一般予防および治療の進歩を可能にしてきたが、癌の後期転移期において罹患している患者に対処することには、ほとんど、または全く焦点が当てられてこなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、部分的には、転移期前立腺癌の患者、および/または50ng/mL以上のPSA値を有する患者へのGnRH拮抗薬デガレリクスの投与が、血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の顕著で長期的な減少を提供するという、驚くべき所見に基づく。この減少は、(例えば、骨格)転移のより良好な制御を示す(実施例1、図1-4、表2を参照)。これらの結果はさらに、デガレリクスの投与が、限局性または局所進行期前立腺癌(localized and locally advulansed stage prostate cancer)から転移期への進行を遅延または予防する場合があることを示す。さらに、これらの結果は、これらの患者へのデガレリクスの投与が、ホルモン抵抗性期への進行を遅らせることに関連することを示す。とりわけ、このS-ALPの顕著な長期的減少は、GnRH作用薬ロイプロリド(leuprolide)の投与後には示されない。
【0011】
一つの側面においては、本発明は、対象の転移期前立腺癌(metastatic stage prastate cancer)を治療する方法を提供する。この方法は、転移期前立腺癌を有する適切な対象を同定する最初のステップと、次いで、160〜320mgのデガレリクスの初回用量を対象に投与するステップとを含む。次いで、対象には、その後、20〜36日ごとに1回、60〜160mgのデガレリクスの維持用量が投与される。それにより、この方法は、対象の転移期前立腺癌を治療する。特定の側面では、本発明は、転移期前立腺癌がある適切な対象を同定する最初のステップと、次いで、約240mgのデガレリクスの初回用量を対象に投与するステップとを含む、対象の転移期前立腺癌を治療する方法を提供する。次いで、対象には、その後、20〜36日ごとに1回、60〜160mgのデガレリクスの維持用量が投与される。それにより、この方法は、対象の転移期前立腺癌を治療する。
【0012】
本発明の方法のある実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、そのS-ALP基準値(baseline S−ALP level)が150IU/L以上、例えば、160IU/L以上であれば、治療の対象として選択することによって、対象を同定する。さらなる実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、そのS-ALP基準値が200IU/L以上であれば、治療対象として選択することによって、治療対象を同定する。なおもさらなる実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、そのS-ALP基準値が300IU/L以上であれば、治療対象として選択することによって、治療対象を同定する。
【0013】
本発明の方法のさらなる実施形態では、対象候補のヘモグロビン(Hb)値を検査し、次いで、そのHb値が130g/L以下であれば、治療対象として選択することによって、治療対象を同定する。なおもさらなる実施形態では、対象候補の前立腺特異抗原(PSA)値を検査し、次いで、そのPSA値が50ng/mL以上であれば、対象として選択することによって、対象を同定する。特定の実施形態では、対象のS-ALPは、治療の第112日から第364日の間に、基準値から少なくとも60IU/L減少する。
【0014】
本発明の方法のさらなる実施形態では、治療対象の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)は、治療の第60日から第364日の間に、基準値から少なくとも50IU/L低減される。他の実施形態では、対象のS-ALPは、治療の第364日から第450日の間に、基準値から少なくとも50IU/L低減される。さらなる実施形態では、治療対象のS-ALPは、治療の第112日から第364日の間に、基準値から少なくとも90IU/L低減される。なおもさらなる実施形態では、治療対象のS-ALPは、治療の第112日から第364日の間に、基準値から少なくとも160IU/L低減される。
【0015】
本発明の方法のさらなる実施形態では、治療対象は、治療の第28日までに、0.5ng/ml以下の治療上低い血清テストステロン値を維持するという、少なくとも95%の可能性を有する。特定の実施形態では、治療対象は、治療の第28日から第365日に、0.5ng/ml以下の治療的に低い血清テストステロン値を維持するという、少なくとも95%の可能性を有する。
【0016】
本発明の方法のなおもさらなる実施形態では、治療対象は、治療の第14日までに、前立腺特異抗原(PSA)の値の少なくとも60%の減少を有する。ある実施形態では、治療対象は、治療の第28日までに、PSAの値の少なくとも75%の減少を有する。さらなる実施形態では、治療対象は、治療中、5ng/ml未満の前立腺特異抗原(PSA)値を維持するという、少なくとも80%の可能性を有する。
【0017】
さらなる側面では、本発明は、最初に、対象候補(potential subject)の前立腺特異抗原(PSA)を検査し、次いで、そのPSA値が50ng/mL以上であれば、治療対象として選択することによって、前立腺癌を治療する方法を提供する。この方法はさらに、60〜320mgのデガレリクスの初回用量を、このようにして同定された対象に投与するステップと、次いで、対象の前立腺癌を治療するよう、その後、20〜36日ごとに1回、60〜160mgのデガレリクスの維持用量を投与するステップとを含む。
【0018】
本発明の方法のある実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、その基準S-ALP値が150IU/L以上、例えば、160IU/L以上であれば、治療対象として選択することによって、治療対象を同定する。ある実施形態では、治療対象のS-ALPは、治療の第112日から第364日の間に、基準値から少なくとも60IU/L低減される。さらなる実施形態では、対象候補のヘモグロビン(Hb)値を検査し、次いで、そのHb値が130g/L以下であれば、治療対象として選択することによって治療する対象を同定する。
【0019】
別の側面では、本発明は、対象の転移期前立腺癌の治療のためのデガレリクスを使用する方法を提供する。このデガレリクスの使用方法は、転移期前立腺癌がある適切な対象を同定する最初のステップを含む。次いで、このようにして同定された対象には、160〜320mgのデガレリクスの初回用量が投与され、その後、20〜36日ごとに1回ずつ、60〜160mgのデガレリクスの維持用量が投与され、それにより、転移期前立腺癌の治療のためのデガレリクスを使用する。
【0020】
デガレリクスの使用方法のある実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、その基準S-ALP値が160IU/L以上であれば、治療対象として選択することによって、転移期前立腺癌がある対象を同定する。さらなる実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、その基準S-ALP値が200IU/L以上であれば、治療対象として選択することによって、転移期前立腺癌がある対象を同定する。なおもさらなる実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、そのS-ALP基準値が300IU/L以上であれば、対象として選択することによって、転移期前立腺癌がある対象を同定する。ある実施形態では、対象候補のヘモグロビン(Hb)値を検査し、次いで、そのHb値が130g/L以下であれば、治療対象として選択することによって、転移期前立腺癌がある対象を同定する。他の実施形態では、対象候補の前立腺特異抗原(PSA)値を検査し、次いで、そのPSA値が50ng/mL以上であれば、治療対象として選択することによって、転移期前立腺癌がある対象を同定する。
【0021】
別の側面では、本発明は、対象の局所進行性前立腺癌の転移期前立腺癌への進行を予防するために、デガレリクスを使用する方法を提供する。局所進行性前立腺癌の進行を予防するためのデガレリクスの使用方法は、局所進行性前立腺癌がある適切な対象を同定する最初のステップを含む。次いで、このようにして同定された対象に、160〜320mgのデガレリクスの初回用量が投与され、その後、20〜36日ごとに1回ずつ、60〜160mgのデガレリクスの維持用量が投与される。それにより、このデガレリクスの使用方法は、対象の局所進行性前立腺癌の転移期前立腺癌への進行を予防する。
【0022】
転移期前立腺癌を予防するためのデガレリクスの使用方法のある実施形態では、予防的治療対象候補の前立腺特異抗原(PSA)値を検査し、次いで、そのPSAが10〜50ng/mLであれば、予防的治療の対象として選択することによって、局所進行性前立腺癌がある対象を同定する。さらなる実施形態では、対象候補の前立腺特異抗原(PSA)値を検査し、次いで、そのPSAが20〜50ng/mLであれば、予防的治療対象として選択することによって、局所進行性前立腺癌がある対象を同定する。なおもさらなる実施形態では、対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、そのS-ALP基準値が約160IU/L未満、例えば、44〜147IU/Lの間および/または50〜160IU/Lの間であれば、予防的治療対象として選択することによって、局所進行性前立腺癌がある対象を同定する。
【0023】
一つの側面における本発明によれば、対象の転移期前立腺癌を治療するためのデガレリクスを含む組成物(例えば、医薬組成物、薬剤)が提供される。一つの側面における本発明によれば、50ng/mL以上のPSA値を有する対象の前立腺癌の治療のためのデガレリクスを含む組成物(例えば、医薬組成物、薬剤)が提供される。
【0024】
本明細書で使用されるような、転移という用語は、癌が、発生部位から、身体のより遠隔または遠位部、例えば、リンパ節、骨、および/または脳あるいは肝臓等の他の器官に広がった時に形成する、悪性腫瘍の2次転移性成長を指す。したがって、「転移性」または「転移期前立腺癌」という用語は、腫瘍原発部位、例えば前立腺、から遠位器官に広がった癌を指す。
【0025】
本明細書では、「転移期前立腺癌の治療」および「転移期前立腺癌を治療する」関連方法は、例えば、骨、脳、肺、および/またはリンパ節における転移性病変等の、転移性病変(腫瘍)の数および/またはサイズを低減することによって、癌組織の量を低減する治療および関連方法を含む。本明細書で使用されるような、「転移期前立腺癌の治療」および「転移期前立腺癌を治療する」関連方法は、骨格転移(例えば、骨のスキャンまたは他の撮像技法によって、骨格で同定される転移性病変)を低減する治療および関連方法を含む。
【0026】
本明細書では、「転移期前立腺癌の治療」および「転移期前立腺癌を治療する」関連方法はさらに、転移期前立腺癌と関連する1つ以上の症状を低減および/または改善する治療および関連方法、例えば、尿障害(例えば、閉塞、弱い、または断続排尿、頻尿、排尿困難、排尿中の痛み、血尿)の症状を改善および/または低減する治療、(例えば、腰背部、腰部、または大腿部における)骨の痛みを低減および/または改善する治療、および/または体重減少、疲労を低減および/または改善する治療を含む。
【0027】
本発明の別の側面では、転移性病変の数および/またはサイズを低減するように、および/または、転移期前立腺癌と関連する1つ以上の症状を低減および/または改善するように、転移期前立腺癌の治療のためのデガレリクスを含む組成物が提供される。
【0028】
「転移期前立腺癌の予防」および「転移期前立腺癌を予防する」関連方法という用語はさらに、局所進行期にある、前立腺癌の治療を受けている対象において、転移活性の発現を予防する、または転移活性のレベルを維持する(例えば、投薬の開始時に分かっているレベル、すなわち、基準(baseline)において)、または(例えば、S-ALPによって測定されるような)転移活性の回復(return)を低減および/または遅延する、治療および関連方法を含む。この文脈における「転移活性のレベル」という表現は、対象における転移性腫瘍のサイズおよび/または数を指すが、対象の転移率を指すものではない。
【0029】
したがって、本発明は、疾患の進行を遅延または予防する、および/または、疾患の退行または寛解(regression or remission)をもたらすかまたは増進する、治療および関連方法を含む。例えば、「転移期前立腺癌の予防」および「転移期前立腺癌を予防する」関連方法という用語は、患者の寿命を延ばす、および/または生活の質(QoL)を増加させる、治療および関連方法を含む。
【0030】
本明細書では、「転移性(期)前立腺癌の治療」および「転移性(期)前立腺癌を治療する関連方法」、または「前立腺癌の治療」および「前立腺癌を治療する関連方法」という用語はまた、ホルモン抵抗性疾患期(hormone−refractory disease stage)の発現を遅延または予防する、治療および関連方法を含んでもよい。
【0031】
したがって、さらに別の側面における本発明によれば、対象の前立腺癌の治療のためのデガレリクスを含む組成物と、転移性腫瘍活性の回復の見込みを低減する、および/または回復を遅延する、および/または疾患の進行を遅延または予防する、および/または疾患の退行または寛解をもたらすか、または増大させる、および/または、患者の寿命を延ばす、および/または生活の質(QoL)を増加させる、および/またはホルモン抵抗性疾患期の発現を遅延または予防する、関連治療方法とが、提供される。
【0032】
「前立腺癌の治療」および「前立腺癌を治療する関連方法」という用語はまた、前立腺癌を治癒させる治療および関連方法も含む。
【0033】
ここで、出願人らは、転移期前立腺癌の患者、および/または50ng/mL以上のPSA値を有する患者へのGnRH拮抗薬デガレリクスの投与が、血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の顕著で長期的な低減を提供することを開示する(図1および4、表2を参照)。S-ALP値の低減が著しいだけでなく、より重要なことには、長期間にわたるS-ALP値の安定に維持された低値(図3参照)は、(例えば、骨の)転移のより良好な制御をも示すものである。このS-ALPの顕著な長期的低減は、GnRH作用薬ロイプロリドの投与後には示されない。
【0034】
転移期前立腺癌の患者、および/または50ng/mL以上のPSA値を有する患者へのGnRH拮抗薬デガレリクスの投与後の、S-ALPの顕著な長期的低減は、これらの患者へのデガレリクスの投与が、ホルモン抵抗性期への癌の進行を遅延するかもしれないことを示す。
【0035】
対象は、約150IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値(つまり、治療前、すなわち、テストステロンの初回用量の投与前のS-ALP値)、例えば、約160IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値、例えば、約200IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値、例えば、約300IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値を有してもよい(表2参照)。
【0036】
デガレリクス組成物は、デガレリクスの初回用量の投与後、約60〜364日の間の期間に、血清アルカリホスファターゼ値(S-ALP)を基準値より少なくとも約50IU/L低減(または、言い換えれば、基準値からの負の変化)させてもよく、および/または、デガレリクスの初回用量の投与後、約112〜364日の間の期間に、基準値より少なくとも約90IU/L低減させてもよい(表2、図1〜3参照)。ある実施形態では、血清アルカリホスファターゼ値(S-ALP)の基準値より少なくとも約50IU/Lの低減は、364日を超える期間にわたって延長してもよい(治療の継続/維持用量に応じる、以下参照)。
【0037】
治療される対象は、約130g/L以下のヘモグロビン(Hb)値を有してもよい。S-ALP基準値は、転移性疾患およびHb<130g/を伴う患者のサブグループにおいて、特に上昇した。例えば、300IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値は、Hb<130g/Lを有する患者集団で見出された(表2参照)。上記の低下したHb値を伴う対象はまた、デガレリクスの初回用量の投与後、約112〜364日の間の期間にわたって、基準値を下回る少なくとも160IU/Lの血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の低減(或いは、基準値からの負の変化)を示す可能性がある(図2参照)。骨転移は、骨髄に影響を及ぼし、骨転移がある患者は、貧血になるかもしれないので、したがって、骨転移がある患者の正常よりも低いHbは、より程度の大きい転移(より重篤な疾患)の指標となる。本明細書でさらに詳細に説明されるように、本発明は、この正常よりも低いHb値を伴う患者の部分集団において、デガレリクスによる、S-ALPの驚くべき長期的かつ効果的な抑制を提供する可能性がある。
【0038】
さらなる側面における本発明によれば、50ng/mL以上のPSA値を有する対象の前立腺癌の治療のためのデガレリクスを含む、組成物が提供される(図4参照)。前立腺癌は、転移性前立腺癌であってもよい。
【0039】
組成物は、160〜320mgの初回用量におけるデガレリクスの投与、及びその後、20〜36日ごとに1回ずつ60〜160mgの維持用量における投与のためのもの、例えば、約240mgのデガレリクスの初回用量における投与、およびその後、治療の約28日ごとに1回ずつ約80mgのデガレリクスの維持用量における投与のためのものであってもよい。
【0040】
デガレリクスを含む組成物は、対象が、少なくとも95%の可能性で、治療の第28日までに0.5ng/ml以下の治療的に低い血清テストステロン値を維持する、例えば、対象が、少なくとも95%の可能性で、治療の第28日から第364日まで0.5ng/ml以下の治療的に低い血清テストステロン値を維持する、という治療のためのものであってもよい(例えば、図7-8を参照)。
【0041】
デガレリクスを含む組成物は、転移性前立腺癌の治療のためのものであってもよく、治療の第14日までにPSAの少なくとも60%の減少を提供してもよい。デガレリクスを含む組成物(または薬剤)は、治療の第28日までに前立腺特異抗原(PSA)の少なくとも60%の減少、例えば、少なくとも75%の減少を提供してもよい(例えば、図9参照)。
【0042】
組成物は、5ng/ml未満の前立腺特異抗原(PSA)値を治療中維持する、少なくとも80%、例えば95%、の可能性を伴う治療のためのものであってもよい。
【0043】
本発明の別の側面によれば、160〜320mgのデガレリクスの初回用量を対象に投与するステップと、その後、20〜36日ごとに1回、60〜160mgのデガレリクスの維持用量を対象に投与するステップ、例えば、約240mgのデガレリクスの初回用量を対象に投与するステップと、その後、約28日ごとに1回、約80mgのデガレリクスの維持用量を対象に投与するステップとを含む、対象の転移性前立腺癌を治療するための方法が提供される。
【0044】
さらなる側面における本発明によれば、対象(例えば、限局性または局所進行性前立腺癌を有する対象)の限局期または局所進行性前立腺癌の転移期前立腺癌への進行を遅延または予防するためのデガレリクスを含む、組成物が提供される。対象は、10〜50ng/mLのPSA、例えば、20〜50ng/mLのPSA値を有してもよい。対象は、44〜147IU/Lの間の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を有してもよい。対象は、160IU/L未満、例えば、50〜160IU/Lの間の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を有してもよい。組成物は、160〜320mgデガレリクスの初回用量投与、及び、その後20〜36日ごとに1回60〜160mgデガレリクスの維持用量投与のためのもの、例えば、約240mgのデガレリクスの初回用量投与、及びその後、約28日ごとに1回約80mgのデガレリクスの維持用量投与のためのものであってもよい。
【0045】
局所進行性前立腺癌の進行の遅延または予防は、例えば、予防的治療対象候補の前立腺特異抗原(PSA)値を検査し、次いで、そのPSAが10〜50ng/mL、例えば、20〜50ng/mLであれば、予防的治療対象として選択することによって、局所進行性前立腺癌を有する適切な対象を同定する最初のステップを含んでもよい。予防的治療対象候補の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を検査し、次いで、そのS-ALP基準値が160IU/L未満、例えば、44〜147IU/Lであれば、予防的治療対象として選択することによって、局所進行性前立腺癌を有する対象を同定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】局所(限局性)、局所進行性、および転移性集団について、デガレリクス(degarelix)(240/80mg)およびロイプロリド(leuprolide)(7.5mg)治療による、S-ALP基準値の時間に対する平均変化を比較するグラフ表示である。
【図2】転移性(+Hb<130g/L)部分集団について、デガレリクス(240/80mg)、デガレリクス(240/160mg)、およびロイプロリド(7.5mg)治療による、S-ALP基準値の時間に対する平均変化を示すグラフ表示である。
【図3】S-ALP基準値の時間に対する平均変化を示すグラフ表示であり、デガレリクス(240/80mg)治療を、第364日後にデガレリクスに「切り替えられた」ロイプロリド(7.5mg)治療と比較し、低減したS-ALP基準値が基準値に戻る時間の差を示すものである。
【図4】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、<10ng/mL、10〜20ng/mL、20〜50ng/mL、および>50ng/mLのPSA値を有する対象における、S-ALP基準値の時間に対する平均変化を比較するグラフ表示である。
【図5】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、基準の限局性、局所進行性、および転移性前立腺癌期の患者における、PSA再発(PSA failure)の発症率を示す、グラフ表示である。
【図6】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、<10ng/mL、10〜20ng/mL、20〜50ng/mL、および>50ng/mLのPSA基準値を伴う対象における、PSA再発の発症率を示す、グラフ表示である。
【図7】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、第0日から第364日までのテストステロン値の中央値(median)の減少を示す、グラフ表示である。
【図8】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、第0日から第28日までのテストステロン値の変化率の中央値を示す、グラフ表示である。
【図9】デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、第0日から第56日までのPSA値の変化率の中央値を示す、グラフ表示である。
【図10】デガレリクス(240/160mg)、デガレリクス(240/80mg)、およびロイプロリド(7.5mg)治療による、第0日から第364日までのLH値の中央値を示す、グラフ表示である。
【図11】デガレリクス(240/160mg)、デガレリクス(240/80mg)、およびロイプロリド(7.5mg)治療による、第0日から第364日までのFSH値の中央値を示す、グラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
用語および定義
本発明の特定の側面を、以下でより詳細に説明する。本明細書で明確にされるように本願で使用されるような専門用語は、本発明の開示において出願人らの意図を表すことを目的としている。本明細書で参照される特許および科学文献は、それらの全体として本明細書に組み込まれる。
【0048】
単数形「a」、「an」および「the」は、文脈からそうでないことが明らかに指示されない限り、複数形への言及も含む。
【0049】
用語「およそ(approximately)」および「約(about)」は、言及する数または値とほぼ同じであることを意味する。本明細書で使用する場合、用語「およそ」および「約」は一般に、特定する量、頻度または値の±10%までを包含すると理解されたい。「CI」という用語は、統計的信頼区間を指す。例えば、血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)、前立腺特異抗原(PSA)、ヘモグロビン(Hb)、テストステロン、黄体形成ホルモン(LH)、および卵胞刺激ホルモン(FSH)の特定値に関して、対象集団(例えば、以下で説明される臨床研究CS21の対象)について本明細書で説明される特定値は、例えば、中央値として特に記述がない限り、平均(すなわち、平均値)を表す。したがって、対象のS-ALP、PSA、および/またはHb値の特定値を必要とする本発明の側面は、本明細書において、実質的には集団データ(ここでは関係する数値データが対象集団の意味ある限界(meaningful delimitation)と評価される)によってサポートされる。
【0050】
概して、本発明は、対象の転移性前立腺癌を治療するためのデガレリクスGnRH拮抗薬を含む組成物の使用と、関連治療方法とを提供する。本発明の開示は、臨床研究、具体的には、デガレリクスについてのCS21研究(欧州特許出願第08250703.9号、および米国仮出願第61/027,741号)から得られたデータによって例示されている。ある患者の部分集団に対する安全性、効力、および選択的利点の分析を含む、本明細書で説明される種類の比較臨床研究を行い、分析するための基本的方法が利用可能である(Spilker (1991) Guide to Clinical Trials Raven Press, New York;およびSpilker (1996) Quality of Life and Pharmacoeconomics in Clinical Trials Lippincott - Raven Publishers New Yorkを参照)。
【0051】
「前立腺癌」という用語は、前立腺の細胞が突然変異し、制御不能で増殖し始める、前立腺の癌を指す。前立腺癌が患者において進行した程度は、臨床および病理組織学的情報を考慮して評価される。癌の病期は、腫瘍サイズ(T)、リンパ節転移があるかどうか(N)、転移の存在(M)、および腫瘍悪性度(tumour grading)(G)に基づいて分類される。T1として分類される腫瘍は、前立腺に限定され、小さすぎて直腸指診によって触知することができない。T1はさらに、T1a(組織サンプル中に5%未満の癌細胞)およびT1b(5%以上)細分を含む。T1cは、患者が上昇した前立腺特異抗原(PSA、以降の定義を参照)を有することを示す。腫瘍が直腸指診中に触知されるほど大きければ、T2として分類される。T2aは、前立腺の片側のみ(左または右)が関与することを意味し、T2bは、両側に腫瘍があることを意味する。T2は、一般的に「限局性癌」と称される。癌がT3であれば、前立腺付近の結合組織(T3a)または精嚢(T3b)に広がっている。T4は、癌が前立腺の隣の組織、例えば、膀胱括約筋、直腸、または骨盤壁に広がっていることを示す。前立腺癌はまた、骨盤の所属リンパ節の中へ広がる場合もあり、これは、前立腺癌のN1期として評価される。これらのT3、T4、およびN1期は、まとめて、「局所進行」(locally advanced)または局所癌(regional cancer)と称される。癌が骨等の遠隔部位に広がっている場合は、「転移した」またはM1期であると言われる。遠位リンパ節に広がった前立腺癌がM1aとして分類される一方で、骨に広がったものはM1bであり、肝臓または脳等の器官に広がったものはM1cとして評価される。未治療で放置されると、前立腺癌は、ほぼ例外なく骨に転移する。
【0052】
「骨転移」、「骨格転移」、「骨病変」、「転移性病変」等の、本願で使用されるような用語は、転移期を指し、交換可能に使用されてもよい。痛み(例えば、骨の痛み)、体重減少、および疲労がしばしば、M1期に付随して起こる。生存率も、転移性前立腺癌がある対象については有意に降下する。骨転移の低減につながる治療は、痛みの減少等の生活の質(QoL)の向上、骨量の減少だけでなく、より重要なことには、最大で約3年以上の平均余命の増加も示唆する。しかしながら、ある時点で、転移性患者は、ホルモンに基づいた治療に応答できない場合があり、これは、「ホルモン抵抗性」病期として知られている。この専門用語による、かつ本願で採用されるような「転移性前立腺癌の治療」という用語は、M1a、M1bまたはM1c、および/またはN1として分類される対象の治療を含む。
【0053】
一般に、アンドロゲン遮断は、進行前立腺癌がある男性の80〜90パーセントにおいて緩和(remission)を誘導し、中央値12〜33ヶ月の無増悪生存率をもたらす。その時に、アンドロゲン非依存性表現型が、通常は出現する。ホルモン抵抗性前立腺癌(ホルモン耐性前立腺癌またはホルモン非依存性前立腺癌と呼ばれる場合もある)は、ホルモン遮断療法によって引き起こされる、去勢レベルのテストステロン値(20ng/dL未満のT)を有するにもかかわらず、患者の血中PSAが上昇している前立腺癌として、本明細書で広く定義される。[Murphy D. (1993) Cancer 72: 3888-3895; Hellerstedt BA and Pienta KJ (2002) CA Cancer J. Clin. 52: 154-179.]
【0054】
アルカリホスファターゼ(ALP)は、ヌクレオチド、タンパク質、およびアルカロイドを含む、多くの種類の分子からリン酸基を除去することに関与する、加水分解酵素である。ヒトでは、ALPは、身体全体を通した全ての組織に存在するが、肝臓、胆管、腎臓、骨、および胎盤において特に濃縮されている。その濃度値は、診断ツールとして使用されてもよく、異常に上昇した値(高ホスファターゼ血症)は、いくつかの疾患を示してもよい。これらは、肝臓疾患、骨疾患、悪性腫瘍、骨軟化症、腎疾患(2次甲状腺機能低下症)、および1次甲状腺機能低下症等の、他の原発性疾患の骨格関与を含む。一方で、ALPの異常に低下した値(低ホスファターゼ血症)は、男性の重度貧血、または軟骨形成不全症、クレチン病、または小児の重度腸炎等の、他の疾患を示すこともある。一般に、対象の血清中に存在するALPの値(S-ALP値)は、本明細書で説明される治療方法および組成物と関連して用いられる。
【0055】
S-ALP検査が当技術分野で周知である(Chernecky CC, Berger BJ (2008), Laboratory Tests and Diagnostic Procedures, 5th ed., WB Saunders & Company, Philadelphia)。それは、概して、肝臓機能の検査として使用されるが、さまざまの悪性腫瘍(乳房、前立腺、および結腸)の骨の転移性病変の指標として知られている。転移性前立腺癌では、S-ALP基準値(あるいは「ALP値」)は、骨病変を反映して、限局性または局所進行疾患よりも一貫して高い。本発明で開示されるように、対象は、約150IU/L以上、例えば、160IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値(つまり、治療前、すなわち、テストステロンの初回用量投与前のS-ALP値)、例えば、200IU/L以上の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値を有してもよい。したがって、転移性前立腺癌患者の治療におけるS-ALP基準値の減少は、ある状況下では、治療への肯定的応答を示すものである。
【0056】
前立腺癌の診断のための最も重要な技法のうちの1つは、血液検査であり、具体的には、血液中の前立腺特異抗原(PSA)値の測定である。「前立腺特異抗原」または「PSA」という用語は、健常男性の血清中に少量で存在する、前立腺の細胞によって産生されるタンパク質を指すが、しばしば、前立腺癌の存在および他の前立腺疾患において上昇している。PSAを測定する血液検査は、前立腺癌の早期検出のために現在利用可能な最も効果的な検査である。正常よりも高いPSAの値は、限局性および転移性前立腺癌の両方と関連する。本発明によれば、限局性または転移期前立腺癌を有する対象は、50ng/mL以上のPSA値を有してもよい。
【0057】
デガレリクスおよび関連製剤処方
デガレリクスは、5位および6位においてp-ウレイド-フェニルアラニンを組み込むGnRHデカペプチド(pGlu-His-Trp-Ser-Tyr-Gly-Leu-Arg-Pro-Gly-NH)の類似体である、強力なGnRH拮抗薬である(Jiang et al. (2001) J. Med. Chem. 44:453-67)。それは、アンドロゲン遮断が保証される前立腺癌の患者(前立腺切除術または放射線療法をすでに受けた後にPSA値上昇を伴う患者を含む)の治療に適応される。
【0058】
デガレリクスは、下垂体GnRH受容体に競合的かつ可逆的に結合し、それにより、ゴナドトロピン、その結果としてテストステロン(T)の放出を急速に低減する、選択的GnRH受容体拮抗薬(遮断薬)である。前立腺癌は、ホルモン感受性前立腺癌の治療における中心原理である、テストステロン遮断に敏感である。GnRH作用薬とは異なり、GnRH受容体遮断薬は、治療の開始後の後続テストステロン急増/腫瘍刺激および潜在的症候性発赤を伴う黄体形成ホルモン(LH)急増を誘導しない。
【0059】
活性成分デガレリクスは、そのうちの5つがD-アミノ酸である7つの非天然アミノ酸を含有する、合成直鎖デカペプチドアミドである。この薬剤物質は、酢酸塩であるが、この物質の活性部分は、遊離塩基としてのデガレリクスである。デガレリクスの酢酸塩は、低密度の白色からオフホワイトの非結晶粉末として凍結乾燥後に得られる。化学名は、D-アラニンアミド,N-アセチル-3-(2-ナフタレニル)-D-アラニル-4-クロロ-D-フェニルアラニル-3-(3-ピリジニル)-D-アラニル-L-セリル-4-[[[(4S)-ヘキサヒドロ-2,6-ジオキソ-4-ピリミジニル]カルボニル]アミノ]-Lフェニルアラニル-4-[(アミノアルボニル)アミノ]-D-フェニルアラニル-Lロイシル-N6-(1-メチルエチル)-L-リシル-L-プロリルである。それは、C821031816Clの実験式および1,632.3Daの分子量を有する。デガレリクスの化学構造は、以前に示されており(欧州特許第EP 1003774号、米国特許第US 5,925,730号、米国特許第U.S.6,214,798号)、以下の式によって表されてもよい。
Ac-D-Nal-D-Cpa-D-Pal-Ser-Aph(Hor)-D-Aph(Cbm)-Leu-Lys(iPr)-Pro-D-Ala-NH
【0060】
投与および投薬
デガレリクスは、以下でさらに詳細に説明されるように、一般に、腹部において(静脈内とは異なり)皮下投与するために製剤化してもよい。皮下注射によって投与される他の薬剤と同様に、注射部位を周期的に変えて、治療を注射部位の不快感に適応させるようにしてもよい。一般に、患者が圧力にさらされないような部位、例えば、ウエストバンドまたはベルトに近くなく、かつ肋骨に近くない部位、に注射すべきである。
【0061】
皮下または筋肉内注射によるデガレリクスの投与は有効であるが、毎日の注射は、一般に受け入れられにくいから、デガレリクスのデポ製剤が、国際公開第WO 03/006049号ならびに米国公報第20050245455号および第20040038903号でさらに詳細に説明されるように利用されてもよい。簡潔に言えば、デガレリクスの皮下投与に、(典型的には)1〜3ヶ月の期間にわたってペプチドが生分解性ポリマー基質から放出されるデポ技術を使用してもよい。デガレリクス(および関連GnRH拮抗薬ペプチド)は、GnRH受容体に対する高親和性を有し、他のGnRH類似体よりもはるかに水中で可溶性である。デガレリクスおよびこれらの関連GnRH拮抗薬は、皮下注射後にゲルを形成することが可能であり、このゲルは、数週間または数ヶ月もの期間にわたってペプチドが放出されるデポとしての役割を果たすことができる。
【0062】
効果的なデガレリクスデポの形成のための鍵となる変数は、投与物質の量と組み合わさった溶液の濃度である。濃度は、機能を示す範囲内でなければならない。製剤が希薄すぎる場合は、与えられた薬剤物質の量にかかわらず、デポが形成されず、作用の持続性が失われる。製剤が濃すぎる場合は、薬剤を投与できる前に、ゲル形成が生じる。デガレリクスの効果的なデポ形成製剤は、概して、5mg/mL以上のデガレリクス、例えば、5〜40mg/mLのデガレリクス濃度を有する。
【0063】
したがって、デガレリクスは、注射(例えば、上記で説明されるようなデポを形成する、例えば、皮下注射)用の溶液として(溶媒と)再構成するための粉末として提供されてもよい。この粉末は、デガレリクス(例えば、酢酸塩として)およびマンニトールを含有する凍結乾燥物として提供されてもよい。好適な溶媒は、水(例えば、注射用の水、またはWFI)である。例えば、液剤各1mLが約40mgのデガレリクスを含有するように、3mLのWFIを用いて再構成するために、120mgのデガレリクス(酢酸塩)を含有するバイアル中に、デガレリクスを提供することができる。別の例では、80mgのデガレリクス(酢酸塩)を含有するバイアル中に、デガレリクスを提供することができる。約4mLのWFI、例えば、4.2mLのWFIを用いて再構成すると、液剤各1mLは約20mgのデガレリクスを含有する。
【0064】
本発明によれば、160〜320mgのデガレリクスの初回用量を対象に投与するステップと、その後、20〜36日ごとに1回、60〜160mgのデガレリクスの維持用量を対象に投与するステップ、例えば、約240mgのデガレリクスの初回用量を対象に投与するステップと、その後、約28日ごとに1回、約80mgのデガレリクスの維持用量を対象に投与するステップとを含む、対象の転移性前立腺癌を治療するための方法が提供される。
【0065】
組成物は、初回用量160〜320mgのデガレリクス、及びその後、20〜36日ごとに1回、維持用量60〜160mgのデガレリクスを投与するためのものであってもよい。
【0066】
前立腺癌を有する成人男性を治療するための好ましい投薬計画は、単回開始用量240mgのデガレリクスを120mgの2回の皮下注射として投与し、その後約28日または1ヶ月後から、毎月のデガレリクス維持用量80mgを単回皮下注射として投与するものである。
【0067】
例えば、デガレリクス投与計画では、初回開始用量240mgを2回に分けて、各3mLの約40mg/mLデガレリクス製剤を注射して投与し、続いて、維持用量80mgを、4mLの約20mg/mLデガレリクス製剤を月1回単回皮下注射して投与することができる。あるいは、例えば、約40mg/mLデガレリクスの4mLを月1回投与することで、月1回維持用量160mgを利用してもよい。
【0068】
再構成された溶液は、未溶解物質を含まない、透明な液体となるべきである。デガレリクスの単回用量240mg、それに続く月1回維持用量80mgによって、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、それに続いて、テストステロンの濃度減少が急速に引き起こる。ジヒドロテストステロン(DHT)の血漿濃度も、テストステロンと同様に減少する。
【0069】
デガレリクスは、医学的去勢レベルである0.5ng/mLを十分下回るテストステロン抑制を達成し、維持するのに効果的である。以下でさらに詳細に説明されるように、月1回維持用量80mgの投与によって、97%の患者において、少なくとも1年間持続的テストステロン抑制が得られた。特に、そのような治療1年後のテストステロンの中央値は、0.087ng/mLであった。
【0070】
前立腺癌患者において評価したデガレリクスに関連する薬物動態パラメータを以下の表1に要約する。
【表1】

【0071】
濃度20mg/mLで80mgの維持相におけるデガレリクス トラフ濃度の中央値は、10.9ng/mLであった。
【0072】
前立腺癌患者への240mgデガレリクスの皮下投与(濃度40mg/mLで6mL)後、デガレリクスは二相性で排除され、消失半減期(terminal half−life)の中央値は約43日である。
【0073】
皮下投与後の長い半減期は、注射部位において形成されるデポからのデガレリクスの非常に遅い放出の結果である。
【0074】
この薬剤の薬物動態挙動は、注射懸濁液中の薬剤濃度によって強い影響を受ける。
【0075】
健常高齢男性の分布容量は、約1L/kgである。血漿タンパク質結合は、約90%と見積もられる。
【0076】
デガレリクスは、肝胆系の通過中に一般的なペプチド分解を受け、主に排泄物中にペプチド断片として排泄される。皮下投与後の血漿サンプル中に、顕著な代謝産物は検出されなかった。インビトロ試験によって、デガレリクスがヒトCYP450(シトクロムP450)系に対する基質ではないことが示されている。したがって、他の薬剤との臨床的顕著な薬物動態相互作用は起こりにくい。
【0077】
健常男性では、投与されたデガレリクスの約20%が腎臓で排泄されており、ヒトにおいては約80%が肝胆系を介して排泄されると示唆するものである。健常高齢男性におけるクリアランスは、35〜50mL/hr/kgである。
【0078】
有害事象(副作用)
デガレリクスは、臨床試験において、概して、良好な耐用性を示すことが見出されている。治療中に最もよく観察された有害反応は、テストステロン抑制の予期された生理学的効果によるものであり、主に、顔面紅潮および体重増加、ならびに注射部位に関連する有害事象(注射部位に関連する副作用)、主に、注射部位の痛みおよび注射部位の紅斑であった。
【実施例】
【0079】
実施例1:ロイプロリドと対比した、デガレリクスで治療された前立腺癌患者のS-ALP値
実施例1は、デガレリクス(240/80mg)又はロイプロリド(7.5mg)治療をした、前立腺癌の治療を受けた患者の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)分析の結果を与える。
【0080】
方法:
アンドロゲン遮断療法が適応された、組織学的に確認された前立腺癌(全ての病期)の患者を採用した。610名の患者(平均年齢72歳、PSAの中央値19.0ng/mL)を、次の3つの投薬計画のうちの1つに無作為に割りつけた:1ヶ月間のデガレリクスs.c.240mg(開始用量)、これに続く160mg(n=202)若しくは80mg(n=207)のデガレリクスs.c.の月1回の維持用量又はロイプロリド デポ7.5mg(n=201)の月1回の筋肉内注射。ロイプロリドを投与された患者にも、臨床的発赤予防のためにビカルタミドを与えることができた。
S-ALP分析:
血液サンプルを採取してS-ALP分析をして、様々の時点におけるS-ALP値を、各患者で測定した。S-ALP値は、p-ニトロフェニルリン酸塩AMP緩衝方法に基づく標準化比色分析(standardised colorimetric assay)を使用して測定した。S-ALPの正常範囲は、44〜147IU/Lである。転移のない患者のS-ALP値は、対照としての役割を果たす。治療および日数を要因(factor)とし、基準値を共変量(covariate)とするANOVA分析を、第364日における治療差を判定するために使用した。治療および日数を要因とし、基準値を共変量とする反復測定分析(第112日からの全ての時点を組み込む)を、第112日から第364日までの治療差を判定するために用いた。
結果:
進行前立腺癌患者における、デガレリクス240/80およびロイプロリド7.5mg群の分析の結果を、表2および図1に表す。基準特性は、群間で均衡が取れていた。患者の約半分に、基準において局所進行性(29.2%)または転移性(20.5%)疾患があり、全体的な平均年齢は72歳、テストステロンの中央値は39.3ng/mL、PSAの中央値は19.0ng/mLであった。
限局性疾患では、S-ALP値は、治療群(ロイプロリドまたはデガレリクス)に関係なく、研究期間にわたって正常範囲内でわずかだが漸増を示した。同様に、局所進行性疾患では、両方の治療群において、研究の終了までにわずかな増加が観察された。表2は、S-ALP基準値が転移性患者で高く、いずれの治療でも、Hb<130g/Lの患者ではさらに高いことを示す。しかしながら、両群における初期ピーク後、ホルモン治療について前述したように、S-ALP値は、デガレリクス80mgおよびロイプロリドの両方で基準値より下に抑制されたが、デガレリクスではより顕著に抑制された。S-ALPの初期増加(ピーク)は、骨における活性増加と関連し、転移性患者は、骨格転移に影響を及ぼす全ての治療法の開始時に、S-ALPの急増を経験する。これは、よく説明されている現象であり、テストステロン急増とは完全に無関係である。
【0081】
図1は、デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療による、時間に対するS−ALP基準値からの変化の平均値を、限局性、局所進行性、および転移性集団について比較する。これらの結果は、デガレリクスを使用したS-ALPの長期抑制を明確に例証する。前立腺癌に罹患している治療対象におけるS-ALP基準値の減少は、例えば、骨格転移活性を低減することによって、治療への肯定的応答を示す。逆に、S-ALPの増加は、増加した転移活性を示す。図1は、デガレリクス治療が(初期および予期される急増後に)S-ALPを有意に低減し、次いで、この研究の継続中、低減を維持することを示す。最も顕著には、S-ALPは、研究の後期にロイプロリドにより上昇しており、転移活性の回復を示している。このような回復は、デガレリクスでは非常に後期になるまで観察されなかった(図3)。したがって、図1は、デガレリクスが長期間にわたって骨格転移のレベルを低減する(または、少なくとも増加を伴わずに同じレベルを維持する)ことができることを示す。対照的に、ロイプロリドは、デガレリクスと比べて、短期的にはあまり効果的ではなく、長期的にはかなり効果的ではなかった。同様の結果が、デガレリクスの240/160mg用量についても得られた。
【0082】
この効果を転移性疾患全体と比較してみると、転移性疾患およびHb<130g/Lのヘモグロビン(Hb)含有量を伴う患者において、さらに増強されている(表2および図2を参照)。骨転移は骨髄に影響を及ぼし、骨転移がある患者は貧血になる場合がある。骨転移がある患者における正常より低いHbは、より程度の大きい転移の指標となる(言い換えれば、より重篤な疾患の指標となる)。表2および図2は、デガレリクスによるS-ALPの長期抑制が、より重篤な疾患を有するこの部分集団において、さらに効果的であったことを示す。
【0083】
PSA基準値≦50ng/mLを伴う患者群では、S-ALP値がわずかな増加に向かうという一般的傾向が、経時的に両治療群で観察された。しかしながら、PSA基準値≧50ng/mLを伴う患者においては、異なる傾向が見られる。表2(第2区分)は、デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療をした、基準PSA(<10ng/mL)、(10〜20ng/mL)、(20〜50ng/mL)、および(>50ng/mL)集団のS−ALP値(IU/L)を比較する。図1で説明したS-ALP応答と同パターンが、基準PSA≧50ng/mLを伴う患者で見られた(図4および表2の第2区分を参照)。初期低減はロイプロリドでは維持されず、研究終了まで(例えば、第364日に)基準値を上回っており、これらの患者における骨病変を反映するものである。対照的に、ALP値の初期減少は、デガレリクス(240/80mg治療計画)を使用した研究の全体を通して維持された。これらの結果は、デガレリクスが、基準PSA≧50ng/mLで前立腺癌を有する対象(患者)を治療するのに、特に効果的であり得ることを示す。
【表2】

【0084】
表2の区分(a)は、デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療をした、限局性、局所進行性、転移性集団、および転移性(Hb<30g/L)部分集団のS-ALP値(IU/L)を示す。
【0085】
表2の区分(b)は、デガレリクス(240/80mg)およびロイプロリド(7.5mg)治療をした、基準PSA(<10ng/mL)、(10〜20ng/mL)、(20〜50ng/mL)、(>50ng/mL)集団のS-ALP値(IU/L)を示す。
【0086】
結論:
転移性疾患の患者および/または基準においてPSA値≧50ng/mLを伴う患者は、ロイプロリドよりもデガレリクスでS-ALP値の大きな低減を経験した。より重要なことには、転移活性の回復を示す、研究後期のロイプロリドによるS-ALPの上昇(または基準値への復帰)が、それよりずっと後期になるまでデガレリクス(240/80mg)では観察されなかったことである。この所見は、第364日の著しく低いALP値によって示されるように、デガレリクス群の患者が治療の失敗の兆候を示さなかったという観察から良く理解される。最後に、転移性疾患全体と比較すると、この効果は、転移性疾患を有しHb<130g/Lのヘモグロビン含有量を示す患者において、さらに増強されている。したがって、これらの結果は、デガレリクスが、ロイプロリドよりも良好に骨格転移のレベルを低減および/または維持することが可能であり得ることを示す。
【0087】
実施例2:ロイプロリドと対比した、デガレリクスで治療された前立腺癌患者におけるPSA再発
この実施例は、前立腺癌治療の12ヶ月にわたってロイプロリドと比較してデガレリクスの効力および安全性を検討した第3相臨床試験CS21(本明細書で説明される)からの、追加のPSA値分析を提供する。具体的には、PSA再発と称される二次的エンドポイントの分析は、特に、転移期前立腺癌の患者について、ロイプロリド治療と比較すると、デガレリクス治療の驚くべき有利な効果を明らかにした。
【0088】
前立腺特異抗原(PSA)は、前立腺癌の診断における、一般的に使用されているマーカーであり、近年では、治療への応答ならびに疾患の再発および進行を監視するためにも使用されている(Fleming et al. (2006) Nat. Clin. Pract. Oncol. 3: 658-67; Lilja, et al. (2008) Nat. Rev. Cancer 8: 268-78)。一般に、PSAのより高い値は、より重度の形の前立腺癌と関連し、転移期前立腺癌は、PSAの最高値(例えば、>50ng/mL)と関連する。したがって、前立腺癌治療を受けている患者の上昇するPSA値は、治療の不完全な、または失敗した効果と関連する。
【0089】
この分析について、PSA再発(二次的エンドポイント)は、最下点と比較して、2回連続した50%の上昇および≧5ng/mLとして定義された。PSA再発までの時間は、最初の投薬から、少なくとも2週間隔てた2つの連続した機会に測定された、最下点から≧50%および≧5ng/mLの血清PSAの増加が認められたときまでの日数として定義された。2つ目の機会は、この基準を満たした時点であった。PSA再発率も、病期およびPSA基準値で分析された。これらの分析では、ロイプロリド7.5mgと対比したデガレリクス240/80mgの比較に焦点が当てられたが、これはこの用量が進行前立腺癌の治療のために現在FDAによって承認されているデガレリクス用量だからである。
【0090】
PSA再発の発症率は、他の2つの治療群と比較して、デガレリクス240/80mg群でより低かった。第364日までにPSA再発を経験せずに研究を完了する確率は、デガレリクス240/80mg群について最も高かった(91.1%;95%CI:85.9〜94.5)。ロイプロリド7.5mgの観察された第364日の確率は、85.9%であった(95%CI:79.9〜90.2)。
【0091】
PSA再発−病期基準別
PSA再発は、全治療群にわたって、進行性疾患の患者で発生頻度がより高く、PSA再発の大部分は、基準(baseline)で転移性疾患であった患者で発生した(図5)。このサブグループの患者では、より少ない割合のPSA再発が、ロイプロリドと比較してデガレリクス240/80mg治療中に観察された(21.6%対36.2%;p=0.1559)。これらの結果は、デガレリクスが、PSA再発の発症率の低減によって評価されるような転移期前立腺癌の効果的な治療を、提供することを示すものである。
【0092】
PSA再発−PSA基準値別
PSA再発は、全治療群にわたって、より高いPSA基準値の患者でより頻繁に発生し、PSA再発の大部分は、基準PSA>50ng/mLの患者で発生した(図6)。このサブグループの患者では、ロイプロリドと比較してより少ない割合のPSA再発が、デガレリクス240/80mg治療中に観察された(29.2%対40.0%;p=0.10)。同様に、基準PSA20〜50ng/mLの患者では、デガレリクス治療中に、PSA再発がより少なかった。したがって、これらの結果は、デガレリクスが、進行期前立腺癌を有する対象(>50ng/mLのPSA基準値で反映されるような)におけるPSA再発の発症率の低減によって評価されるような効果的な治療を、提供することを例証するものである。
【0093】
実施例3:前立腺癌の治療のためのデガレリクスの臨床研究
この実施例では、デガレリクスの1か月投薬計画の効力および安全性を調査するために、非盲検多施設無作為並行群研究を行った。2つのデガレリクス治療群の患者は、約40mg/mLの濃度で240mgのデガレリクス開始用量を投与され、その後に、160mg(約40mg/mL)の月1回の投与及び80mg(約20mg/mL)の月1回の投与の2つの異なる投与計画のうち、いずれか一方を受けた。これらのデガレリクス投薬計画を、アンドロゲン除去療法を必要とする前立腺癌の患者における7.5mgのロイプロリドと比較した。
【0094】
また、この研究では、去勢値までのテストステロン抑制の達成および維持(12ヶ月間の治療でテストステロン抑制0.5ng/mL以下の患者の割合として評価した)に関して、デガレリクスが安全かつ効果的であるかどうかも調査し、デガレリクス投薬計画を用いた治療の最初の28日間のテストステロンおよび前立腺特異抗原(PSA)の血清値を、ロイプロリド7.5mgで治療した場合と比較して評価した。この研究はさらに、デガレリクス投薬計画を使用した場合の安全性および耐性を、ロイプロリド7.5mgによる治療の場合と比較し、さらに、デガレリクス投薬計画によるテストステロン、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、およびPSA応答を、ロイプロリド7.5mgと比較した。この研究はさらに、患者報告の結果(生活の質に関わる要因および顔面紅潮)を、デガレリクス投薬計画で治療した場合とロイプロリド7.5mgで治療した場合とで比較した。この研究はまた、デガレリクス投薬計画の薬物動態も評価した。最終的に、この研究は、異なる病期の癌に罹患している患者に対するデガレリクス治療の効果を検討した。
【0095】
研究デザイン
合計620名の患者を、3つの治療群のうちの1つに、1:1:1で無作為化した。これらのうち、610名の患者(平均年齢72歳、平均PSA19.0ng/mL)に、デガレリクスを投与した。10名の無作為化患者が投薬前に研究から離脱した。
【0096】
2つの治療群の患者は、第0日に40mg/mL(240@40)の濃度で240mgのデガレリクス開始用量を、120mgずつの2回の同等皮下(s.c.)注射として投与された。その後、患者は、28日ごとに、20mg/mLの濃度で80mg(80@20:デガレリクス240/80mg群)または40mg/mLの濃度で160mg(160@40:デガレリクス240/160mg群)のいずれか一方の追加単回デガレリクス用量(s.c.)を、12回受けた。第3治療群では、患者は、第0日、および28日ごとに、ロイプロリド7.5mgを単回筋肉内(i.m.)注射として投与される積極的治療を受けた。ロイプロリド7.5mgによる治療を受ける患者に対して、研究者の判断で、ビカルタミドを臨床的発赤予防として与えることができた。
【0097】
地理的地域(中央および東ヨーロッパ、西ヨーロッパおよび南北アメリカ)および体重(<90kgおよび≧90kg)に従って、患者を階層化した。
【0098】
デガレリクス240/160mg群
この群は、第0日に40mg/mLの濃度で240mg(240@40)の初回用量を受けた。この開始用量は、120mgずつの2回の同等皮下(s.c.)注射として投与された。次いで、この群は、12回の維持用量を受けたが、28日ごとにデガレリクスの単回s.c.用量として、40mg/mLの濃度で160mg(160@40)を投与された。
【0099】
デガレリクス240/80mg群
この群も、第0日に40mg/mLの濃度で240mg(240@40)の初回用量を受けた。この開始用量は、120mgずつの2回の同等s.c.注射として投与された。次いで、この群は12回の維持用量を受けたが、28日ごとにデガレリクスの単回s.c.用量として、20mg/mLの濃度で80mg(80@20)を与えられた。
【0100】
ロイプロリド7.5mg群
この群は、参照療法用ロイプロリド7.5mgを受けた。この治療は、第0日から開始して28日ごとに1回、単回筋肉内(i.m.)注射として投与された。これらの治療計画を以下の表3に要約する。
【表3】

【0101】
患者は、継続的に監視され、最大で1年間、毎月診療所を訪れた。患者は、研究薬剤の各投与後に少なくとも1時間にわたって臨床的に観察された。研究を完了し、適切な基準を満たす患者には、延長研究における長期治療および支援を受ける機会が提供された。
【0102】
合計807名の患者をスクリーニングし、620名の患者を、デガレリクス240/160mg、デガレリクス240/80mg、およびロイプロリド7.5mgの3つの治療群に、1:1:1で無作為化した。無作為化された620名の患者のうち、それぞれ、デガレリクス240/160mg、デガレリクス240/80mg、およびロイプロリド7.5mg治療群の202名、207名、および201名の患者を含む、610名の患者が、実際に研究薬剤を投与された。合計504名の患者が研究を完了した。
【0103】
診断および研究対象基準
アンドロゲン除去治療が適応され(ネオアジュバントホルモン療法を除く)、(グリソングレードにより)組織学的に確認された前立腺癌(全ての病期)がある、18歳以上の男性に参加資格対象とした。研究に関連する活動を開始する前に、署名されたインフォームドコンセントを得た。患者は、スクリーニング時に基準テストステロン値>1.5ng/mLおよび2ng/mL以上のPSA値を有するものであった。根治目的で前立腺切除術または放射線療法を受けた後に、PSA上昇を伴う患者を、この研究に含むことができた。患者は、≦2のECOGスコアおよび少なくとも12ヶ月の平均余命を有することが要求された。以前または現在、前立腺癌のホルモン管理(外科的去勢または他のホルモン操作、例えば、GnRH作用薬、GnRH拮抗薬、抗アンドロゲン、またはエストロゲン)がある場合は、研究から除外された。しかしながら、根治目的で前立腺切除術または放射線療法を受けたことのある患者で、ネオアジュバントホルモン療法がスクリーニング診療前の少なくとも6ヶ月前に打ち切られていた場合には、ネオアジュバントホルモン療法を最大6ヶ月にわたって受けている場合でも研究対象として認めた。5-α-還元酵素阻害剤による併用治療もまた、研究から除外された。根治療法(すなわち、前立腺切除術または放射線療法)の候補者であった患者は除外された。研究者によって研究の結果に影響を及ぼす場合があると判断されるような、重度の超過敏反応または臨床的顕著な障害(前立腺癌以外)の既往歴がある患者には、研究に参入する資格がなかった。QT/QTcF間隔(>450ミリ秒)の顕著な基準延長を伴う患者、またはQT/QTcF間隔を延長する場合がある併用薬を使用していた患者、またはトルサードドポアンツ心室性不整脈の追加危険因子の既往歴があった患者は除外された。スクリーニングの来診時に正常範囲の上限レベルを上回る血清ALTまたはビリルビン値を有した患者、あるいは、既知の、または疑わしい肝臓症候性胆道疾患があった患者も除外された。患者はまた、治験薬の任意の成分に対して既知の過敏性があれば除外された。加えて、前立腺癌および外科的に摘出された皮膚の基底または扁平上皮細胞癌を除いて、過去5年以内にいずれかの形態の癌に罹患した患者は、研究から除外された。十分な理解または協力を不可能にする精神的無能力または言語障壁があった患者にも、研究に参加する資格がなかった。選別診療に先行する28日以内に、他の研究中の薬剤は投与されないものとした。
【0104】
治療の持続時間
デガレリクス治療群の患者には、第0日に240@40の開始用量、および28日ごとに、160@40(デガレリクス240/160mg群)または80@20(デガレリクス240/80mg群)ずつの維持用量を12回投与した。デガレリクスの投与は、第0日に、およびその後、研究診療の終了、すなわち、第364日(±7日)まで28日(±7日)ごとに行われた。研究を完了し、適切な基準を満たした患者には、延長研究における長期治療および支援を受ける機会が提供された。
【0105】
参照療法群の患者は、第0日にロイプロリド7.5mgによる治療を受け、その後、28日ごとに12回の維持用量による治療を受けた。研究を完了した患者は、合計で13回の投与を受けた。研究を完了し、適切な基準を満たした患者には、継続研究においてデガレリクス治療への切り替えが提供された。これらの患者を、デガレリクス治療240/80mgまたは240/160mgに無作為化した。研究の第0日に、以前は研究CS21においてロイプロリド7.5mgで治療された患者には、240mg(40mg/mL)のデガレリクス開始用量を投与し、その後に、80mg(20mg/mL)または160mg(40mg/mL)のいずれか一方の維持用量を月1回投与した。
【0106】
比較群の患者は、二重チャンバシリンジに充填済みのロイプロリド7.5mgを筋肉内(i.m.)注射して治療された。患者は、第0日に、およびその後28日ごとに1回ずつ、単回i.m.注射としてロイプロリド7.5mgを投与された。研究者の判断で、ビカルタミドを臨床的発赤予防として与えることができた。
【0107】
効力の評価のための基準
本発明の一側面では、組成物(または薬剤)は、治療のためのものであってもよく、治療対象は、少なくとも95%の可能性で、治療の第28日までに、0.5ng/ml以下の治療的に低い血清テストステロン値を維持し、例えば、治療対象は、少なくとも95%の可能性で、治療の第28日から第364日まで、0.5ng/ml以下の治療的に低い血清テストステロン値を維持する。
【0108】
組成物(または薬剤)は、治療のためのものであってもよく、治療対象は、治療の第28日までに前立腺特異抗原(PSA)が少なくとも60%減少(例えば、少なくとも75%の減少)する。組成物(または薬剤)は、少なくとも80%の可能性で治療中に5ng/ml未満の前立腺特異抗原(PSA)値を維持する治療のためのものであってもよい。
【0109】
一次有効性エンドポイントは、第28日から第364日まで、テストステロン値が≦0.5ng/mLにとどまる可能性であった。
【0110】
二次有効性エンドポイントは、治療の最初の2週間にテストステロン急増を伴う患者の割合;第3日にテストステロン値≦0.5ng/mLを伴う患者の割合;第28日までのPSAの基準からの変化率;第56日から第364日までのテストステロン≦0.5ng/mLの確率;研究を通した経時的な血清テストステロン、LH、FSH、およびPSAの値;最下点と比較して2回連続した50%の上昇および少なくとも5ng/mLと定義されるPSA再発(PSA failure)までの時間;最初の1ヶ月にわたるデガレリクス濃度ならびに第308日および第336日におけるトラフ値;第252日におけるテストステロン値と比較した第255日および/または第259日におけるテストステロン増加の頻度および大きさ;第0日、第28日、第84日、第168日、および研究診療の終了時における生活の質;経験した顔面紅潮の頻度および強度(研究開始から研究診療の終了まで毎日採点される)であった。加えて、第28日から第364日までの十分なテストステロン応答の確率(患者が第28日以降に>1.0ng/mLのテストステロン値を1回か、または>0.5ng/mLのテストステロン値を連続して2回示した場合に、この患者は不十分なテストステロン応答を示したとみなした)、および第14日までのPSAの基準からの変化率といった、2つのさらなる二次的エンドポイントが追加された。
【0111】
安全性の評価基準
有害事象(AE)の頻度および重篤性、検査パラメータ(臨床化学、血液学、および検尿)の臨床的に有意な変化の存在、心電図(ECG)およびバイタルサインの変化、身体検査によって検出される変化、および体重について、この研究の安全性変数を評価した。
【0112】
体重を、スクリーニング時および研究診療の終了時に測定した。身長(裸足で)を、スクリーニング時に測定した。体格指数(BMI)は、身長の二乗で割られた個人の体重として定義される。医学で広く使用されている公式は、kg/mの測定単位を生じる。体格指数は、当技術分野で公知の公式のうちのいずれかを使用して、正確に計算されてもよい。
【0113】
統計学的方法
統計的分析ソフトウェアSAS(商標)のバージョン9以上を使用して、全ての統計的分析を行い、統計値の概要を計算した。分析のための集団は、以下の通りであった。
【0114】
包括解析(ITT)分析セットは、デガレリクスの少なくとも1つの用量を投与した全ての無作為化患者を含んだ。
【0115】
パープロトコル(PP分析セット)は、主要なプロトコル違反がない全てのITT分析セットを含んだ。
【0116】
安全性集団は、ITT分析セットと同一であり、したがって、全ての安全性分析は、ITT分析セットで行われた。
【0117】
一次的有効性エンドポイントを、ITTおよびPP分析セットの両方について分析し、ITT分析セットが一次と見なされた。一次的有効性エンドポイントを、カプラン・マイヤー法を使用して分析した。3つの治療群のそれぞれについて、生存者関数の両対数変換によって、95%信頼区間(CI)を伴うテストステロン応答率を計算した。デガレリクス治療群とロイプロリド7.5mgとの間の差異は、合併標準誤差(pooled standard error)を使用した正規近似によって計算された97.5%CIを使用して評価した。
【0118】
デガレリクスの効力を評価するために、2つの仮説を検証した。
【0119】
(1)米国食品医薬品局(Food & Drug Administration/FDA)基準は、第28日から第364日までのテストステロン≦0.5ng/mLの累積確率に対する95%信頼区間(CI)の下限が90%以内であったかどうかを判定することであった。
【0120】
(2)欧州医薬品庁(European Medicines Agency/EMEA)基準は、第28日から第364日までのテストステロン≦0.5ng/mLの累積確率に関して、デガレリクスがロイプロリド7.5mgに劣らないかどうかを判定することであった。治療間(デガレリクス対ロイプロリド7.5mg)の差異に対する非劣性限界(non−inferiority limit)は、−10パーセントであった。
【0121】
特に記述がない限り、全ての二次的有効性エンドポイントをITTおよびPP分析セットの両方について分析した。フィッシャーの直接確率検定を使用して、治療の最初の2週間にテストステロン急増を伴った患者の割合を分析した。第3日にテストステロン値≦0.5ng/mLを示した患者の割合を分析するためにも、フィッシャーの直接確率検定を使用した。第28日終点までのPSAの基準からの変化率を、ウィルコクソン検定によって分析した。フィッシャーの直接確率検定およびウィルコクソン検定の両方について、治療群別、地理的地域別、体重層(<90kg、≧90kg)別、およびロイプロリド7.5mgサブグループについて、別個のデータを提示した。
【0122】
二次的エンドポイントである、第56日から第364日までのテストステロン≦0.5ng/mLの確率、PSA再発までの時間、および第28日から第364日までの十分なテストステロン応答の確率を、カプラン・マイヤー法によって分析した。
【0123】
有効性の結果
本研究の主要な目的は、治療の12ヶ月間にテストステロン抑制≦0.5ng/mLを示した患者の割合として評価された、テストステロン抑制の去勢値までの達成および維持における、デガレリクスの有効性を実証することであった。
【0124】
結果は、240/80mg投薬計画で供給されたデガレリクスが、テストステロン値の急速かつ効果的な抑制を生じ、この値が治療の364日間の全体を通して低いままであったことを示す(図7)。
【0125】
第28日から第364日までにテストステロン≦0.5ng/mLとなる確率のカプラン・マイヤー推定値は、それぞれ、デガレリクス240/160mg、デガレリクス240/80mg、およびロイプロリド7.5mg群について、98.3%、97.2%、および96.4%であった。3つの治療群全てについて、95%CIの下限は、あらかじめ特定された90%閾値を上回った。第28日から第364日までのテストステロン≦0.5ng/mLとなる確率に関して、デガレリクスによる治療は、ロイプロリド7.5mg療法に劣らないことが実証された。両方のデガレリクス治療群について、ロイプロリド7.5mg群と比較した確率の差異についての全97.5%CIは、非劣性限界である−10パーセントよりも大きかった。したがって、この研究は、有効性についてのFDAおよびEMEA基準を満たした。
【0126】
一次的有効性エンドポイントの結果のロバスト性は、観察された症例分析によって裏付けられた。この分析によって、第28日から第364日までに≦0.5ng/mLのテストステロンを示す患者の全体的な比率について類似の推定値が得られ、それらは、デガレリクス240/160mg群、デガレリクス240/80mg群およびリュープロリド7.5mg群それぞれについて、98.2%、97.0%および96.0%であった。1次分析の知見は、第56日から第364日までのテストステロン≦0.5ng/mLの確率の2次の有効性分析によってさらに裏付けられた。
【0127】
予期されたように、治療の最初の2週間のテストステロン急増(基準から増加≧15%)は、合併デガレリクス群(the pooled degarelix group)(0.2%:1患者)と比較して、ロイプロリド7.5mg群の患者で有意に高い割合(80.1%)で生じた(p<0.0001、フィッシャーの直接確率検定)。デガレリクスで治療された患者は、基準値においてテストステロン値が低い(0.0065ng/mL)から、したがって、そのような低い基準値からの急増は顕著とはならないため、これらの患者はアーチファクトと見なすことができる。逆に、第3日には、ロイプロリド7.5mg群の患者はテストステロン抑制を示さなかったのと比較して、デガレリクスを投与した患者の96%は、テストステロン抑制を示した(p<0.0001、フィッシャーの直接確率検定)。図7および8に示されるように、デガレリクス240/80mg投薬計画が、テストステロン値を急速かつ効率的に抑制した一方で、ロイプロリド7.5mgは、はるかに徐々に、最初のテストステロン急増後にようやく作用した。
【0128】
図9に示されるように、デガレリクス240/80mg投薬計画は、ロイプロリド7.5mgによる治療よりも急速かつ効率的なPSA値の低減をも生じた。PSA値の急速な低減は、デガレリクスで治療された患者について観察された。対照的に、ロイプロリド7.5mg群のPSA値は、治療の最初の1週間でプラトーに達してから、抑制値まで指数関数的に減少した。デガレリクス患者については、ロイプロリド7.5mg患者と比較して、PSA値の中央値の基準からの有意に大きな低下が(p<0.0001、ウィルコクソン検定)、第14日および第28日に観察された。合併デガレリクス群からのPSAが1より小さい確率は、ロイプロリド7.5mg群から、第28日(0.70)よりも第14日(0.82)でわずかに高かった。PSA再発を経験せずに研究を完了する確率は、デガレリクス240/80群で最も高く(91.2%)、デガレリクス240/160mgおよびロイプロリド7.5mg群の両方についてはわずかに低かったが(約85.8%)、この差異は統計的に有意ではなかった。
【0129】
プロトコル通りの抗アンドロゲン療法を、発赤予防のために、ロイプロリド7.5mg群の22名の患者に治療の開始時に行った。これらの患者のPSAデータは、抗アンドロゲン療法を受けなかったロイプロリド7.5mg群の患者と比較して、第14日(61.7%低減)および第28日(89.1%)に、基準値からの変化率の中央値がより大きかった。この場合、抗アンドロゲン療法を受けなかったロイプロリド7.5mg群の患者の低減率は、それぞれ、第14日および第28日に15.3%および61.7%であった。ロイプロリドに抗アンドロゲン薬を加えた患者におけるPSA値の変化率の中央値は、デガレリクスで治療された患者に類似しており、したがって、これによって、治療の開始時のPSAの抑制に関して、デガレリクスが従来のGnRH作用薬療法よりも効果的であることが確認されたことに留意されたい。デガレリクスは、発赤の予防として追加併用薬を必要とせず、しかも240mgの開始用量は、PSA値に対して、GnRH作用薬と抗アンドロゲンの組み合わせと同様の効果がある。
【0130】
経時的なLHの血清値のプロファイルは、テストステロンについて観察されたものと同様であった。デガレリクスの投与後、ITT分析セットのLH値の中央値は急速に減少し、第1日に<0.7IU/Lであり、これは基準値から約88%の減少であった。両方のデガレリクス治療群について、LH値の中央値は、研究の終了時である第364日まで抑制されたままであった。対照的に、ロイプロリド7.5mg群の患者については、LH値の中央値の急増が観察され、第1日に31.0IU/Lでピークになった後(基準から>400%増加)、第56日までに0.035IU/Lまで指数関数的に減少し、第364日までこの値にとどまった(図10参照)。
【0131】
FSH値の急速な減少も、デガレリクスで治療された患者で観察された。デガレリクスを投与すると、第7日までに≦1.5IU/Lまでの平均FSH値の低減をもたらし、これは基準から>80%減少であった。両方のデガレリクス治療群について、FSH値の中央値は、第364日の研究の終了まで抑制されたままであった。ロイプロリド7.5mg群の患者については、LH値について観察されたものと類似するFSH値の初期急増があり、第1日に22.5IU/Lでピークになり(基準から146%増加)、第14日までに2.0IU/Lまで指数関数的に減少し、それに続いてFSH値の中央値は、第56日頃に約4.40IU/Lのプラトーまで増加し、第364日までそこにとどまった(図11参照)。
【0132】
デガレリクスの薬力学的プロファイルは、GnRH拮抗薬に特徴的であり、テストステロン、LH、およびFSHの血清値が急速に抑制された。対照的に、ロイプロリド7.5mg群の患者については、テストステロン、LH、およびFSHの血清値は、治療の最初の1週間以内に急速に増加してから、抑制値まで下がった(図7、8、10、および11を参照)。
【0133】
安全性の結果
安全性および耐容性は、観察および報告された治療中に発生したAEによって評価され、これらは、注射部位反応、血液学、臨床化学、および検尿の検査パラメータ、生存兆候/臨床的観察、ならびに体重測定および理学的検査、ECGおよび併用薬を含んだ。
【0134】
安全性パラメータを、ITT分析セットに含めた全患者について評価し、このセットは、少なくとも研究薬剤の1用量を投与された610名の無作為化された患者全てを含んた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の転移期前立腺癌(metastatic stage prostate cancer)を治療するためのデガレリクス(degarelix)を含む組成物。
【請求項2】
前記対象の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の基準値(baseline level)(治療前)が約150IU/L以上、例えば、約160IU/L以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記対象の血清アルカリホスファターゼの基準値が200IU/L以上である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
治療のおよそ第60日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ値が、前記基準値(S-ALP)より少なくとも50IU/L以上減少する、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
治療の第364日から第450日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ値が、前記基準値(S-ALP)より約50IU/L以上減少する、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
治療の第112日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ値が、前記基準値(S-ALP)より約90IU/L以上減少する、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記対象のヘモグロビン(Hb)値が130g/L以下である、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記対象の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の基準値が300IU/L以上である、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
治療の第112日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ値が、前記基準値(S-ALP)より約160IU/L以上減少する、請求項6および7のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記対象は、50ng/mL以上のPSA値を有する、請求項1から9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
治療の第112日から第364日の間の期間において、前記対象の血清アルカリホスファターゼ値が、前記基準値(S-ALP)より、約60IU/L以上減少する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
デガレリクスを初回用量160〜320mgで投与し、及びその後は維持用量60〜160mgで20〜36日ごとに1回投与するための、請求項1から11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
デガレリクスを、初回用量約240mgで投与し、及びその後は維持用量約80mgで約28日ごとに1回投与するための、請求項1から12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
少なくとも95%の可能性で、前記対象が、治療の第28日までに、0.5ng/ml以下という治療上低い血清テストステロン値を維持する、請求項1から13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
少なくとも95%の可能性で、前記対象が、治療の第28日から第365日まで、0.5ng/ml以下という治療上低い血清テストステロン値を維持する、請求項1から14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記対象のPSAが、治療の第14日までに少なくとも60%減少する、例えば治療の第28日までに少なくとも75%減少する、請求項1から15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
少なくとも80%の可能性で、PSA値を、治療中5ng/ml未満に維持する治療のための、請求項1から16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
PSA値が50ng/mL以上である対象の前立腺癌を治療するためのデガレリクスを含む組成物。
【請求項19】
対象の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)の基準値が約150IU/L以上であり、例えば、約160IU/L以上である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
第112日から第364日の間の期間の、前記対象の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)基準値が、約60IU/L以上の負の変化をする、請求項18または19に記載の組成物。
【請求項21】
前記対象は、130g/L以下のヘモグロビン(Hb)値を有する、請求項18から20のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
対象の限局性または局所進行性前立腺癌(localized or locally advanced prostate cancer)が転移期前立腺癌へ進行することを遅延または予防するためのデガレリクスを含む組成物。
【請求項23】
前記対象は、10〜50ng/mLのPSA値を有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記対象は、20〜50ng/mLのPSA値を有する、請求項22または請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記対象は、44〜147IU/Lの間の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を有する、請求項22から24のいずれかに記載の組成物。
【請求項26】
前記対象は、160IU/L未満の血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を有する、請求項22から24のいずれかに記載の組成物。
【請求項27】
前記対象は、50〜160IU/Lの血清アルカリホスファターゼ(S-ALP)値を有する、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
デガレリクス160〜320mgの初回用量投与、及びその後20〜36日ごとに1回ずつのデガレリクス60〜160mgの維持用量投与をするための、請求項18から27のいずれかに記載の組成物。
【請求項29】
対象の転移性前立腺癌の治療のための薬剤の製造におけるデガレリクスの使用であって、前記治療は、デガレリクスの、160〜320mgの初回用量における投与と、その後、20〜36日ごとに1回ずつ60〜160mgの維持用量における投与とを含む使用。
【請求項30】
対象の限局性または局所進行性前立腺癌の転移期前立腺癌への進行を遅延または予防するための薬剤の製造における、デガレリクスの使用であって、前記治療は、デガレリクスの、160〜320mgの初回用量における投与と、その後、20〜36日ごとに1回で60〜160mgの維持用量における投与とを含む使用。
【請求項31】
前記治療は、約240mgのデガレリクスの初回用量における投与と、その後、約28日ごとに1回ずつ約80mgのデガレリクスの維持用量における投与とを含む、請求項29から30のいずれかに記載の使用。
【請求項32】
対象の転移期前立腺癌を治療する方法であって、約240mgのデガレリクスの初回用量を前記対象に投与するステップ、および、その後、約28日ごとに1回、約80mgのデガレリクスの維持用量を前記対象に投与するステップ等の、160〜320mgのデガレリクスの初回用量を前記対象に投与するステップと、その後、20〜36日ごとに1回ずつ60〜160mgのデガレリクスの維持用量を前記対象に投与するステップとを含む方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−511786(P2011−511786A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545576(P2010−545576)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【国際出願番号】PCT/IB2009/000370
【国際公開番号】WO2009/101533
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(508265619)フェリング インターナショナル センター エス.アー. (6)
【Fターム(参考)】