説明

転移阻害のための方法

【課題】肝臓組織への原発性腫瘍の転移を阻害する方法の提供。
【解決手段】肝臓組織とタウロリジンを直接接触させる。転移性肝臓腫瘍の場合、肝臓をタウロリジンとの接触前に体循環から隔離しておくことが好ましい。タウロリジンは留置カテーテルによるか、あるいは静脈内に投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府助成金による研究に関する声明
本発明は、米国政府により米国立衛生研究所助成金番号CA-35711およびAA002666の助成を受けたものである。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本発明は癌治療に関する。
【0003】
結腸直腸癌は、米国の男性および女性の中で三番目に多い悪性腫瘍であり、癌による死亡の第2位の原因である。2001年には結腸直腸癌により推定56,700人が死亡した。結腸直腸癌と診断された患者の約60%は肝臓転移を発症し、肝臓転移の治療のゴールドスタンダードは依然として肝臓切除である。外科的処置にもかかわらず、肝臓切除後の患者の大多数は再発し、これらの再発のうち約50パーセントは肝臓内である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、散在性の癌の転移を予防および阻害する方法を特徴とする。例えば、肝臓組織への原発腫瘍の転移を阻害する方法が肝臓組織とタウロリジンを直接接触させることによって行われる。好ましくは、原発腫瘍は肝臓腫瘍でない。原発腫瘍は腹膜腔の臓器に存在する。本発明の利点は肝臓切除の必要性を小さくすることを含む。
【0005】
前記方法はまた、転移性肝臓腫瘍を発症する危険性のある個体を特定する段階を含む。例えば、個体は、結腸直腸腫瘍または別の腫瘍(例えば、肺腫瘍、乳房腫瘍、腎臓腫瘍、結腸腫瘍、食道腫瘍、精巣腫瘍、膵臓腫瘍、黒色腫、または絨毛癌)に罹患していると特定される。肝臓によく転移する、ある種の腫瘍と診断された患者はタウロリジンを用いて治療される。
【0006】
治療される個体はヒト患者などの哺乳動物である。しかしながら、前記方法は、獣医学に関する用途(例えば、イヌもしくはネコなどのペットまたは家畜における腫瘍転移の治療)に適用することができる。
【0007】
転移性肝臓疾患を治療または予防するために、肝臓組織はタウロリジンと接触する前に体循環から隔離される。例えば、インサイチュで肝臓にタウロリジンを灌流させる。肝臓組織が薬物と接触している間、肝臓血液循環は血液体循環から本質的に隔離される。灌流は、原発腫瘍の摘出前または摘出後に行われる。灌流はまた、(例えば、腫瘍除去中に腹腔が外科的に接触可能な場合に)腹部手術と共に行われる。他の投与方法は、ある期間にわたって留置カテーテルを用いて肝臓に接触することを含む。この治療方法は腹腔内投与または静脈内投与(または他の全身投与)を含む。または、前記方法は、タウロリジンの腹腔内投与も静脈内投与も含まない。薬物は、(腫瘍を外科的に除去する手術の前、手術の後、および/または手術中に)肝動脈を通して直接肝臓に注入される。
【0008】
薬物は、腫瘍塊の外科的除去前、外科的除去中、または外科的除去後に腹腔内および/または静脈内に投与される。例えば、タウロリジンは、外科手術の1日前、2日前、3日前、4日前、5日前、10日前、またはそれ以前に投与される。選択的に、腫瘍塊の除去後、切除部位の局所組織がタウロリジン溶液に浸される。外科手術後、続発性腫瘍形成を阻害するために、薬物は、腫瘍除去後数日間(1〜7日)から数週間、数ヶ月まで投与される。
【0009】
タウロリジン組成物は、腫瘍細胞接着を予防または阻害するのに治療的に有効な用量で投与される。本明細書で使用する「治療有効量」という用語は、治療有効量の1種類もしくはそれ以上の種類の化合物または薬学的組成物が組織、系、動物、またはヒトにおいて有益な生物学的反応または医薬的反応を生じさせることを意味する。例えば、治療有効量のタウロリジンは肝臓組織にある転移病巣の数を減らす。治療有効性はまた、治療後の腫瘍関連抗原(例えば、癌胎児抗原(CEA)または前立腺特異的抗原(PSA))量の減少によっても示される。タウロリジンは、単独で、または1種類もしくはそれ以上の種類の他の抗癌組成物と共に投与される。好ましくは、薬物は、細胞接着を阻害するが、細胞傷害性でない用量で投与される。薬物は、細胞のカスパーゼ(例えば、カスパーゼ-3)活性を増加させる用量で投与される。例えば、この用量は、タウロリジンと接触させた細胞のカスパーゼを介したアポトーシスを誘導する。
【0010】
治療組成物は単離または精製される。「単離された」または「精製された」タンパク質またはその生物学的に活性な一部は、それらが得られた細胞もしくは組織供給源に由来する細胞性物質もしくは他の汚染タンパク質を実質的に含まないか、または化学合成された場合、化学前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まない。好ましくは、治療化合物(例えば、タウロリジン)の調製物は、調製物乾燥重量の少なくとも75%、より好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、より好ましくは98%、最も好ましくは99%または100%である。
【0011】
本発明の他の特徴、目的、および利点は、説明および特許請求の範囲から明らかであろう。特に定めのない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書で引用された全ての特許および刊行物は参考として組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】LS-180細胞増殖に及ぼすタウロリジンの影響を示す折れ線グラフである。LS-180細胞を、96ウェルマイクロタイタープレート内で10μm濃度、25μm濃度、50μm濃度、75μm濃度、および100μm濃度のタウロリジンで処理した。100μm濃度のタウロリジンはMTTアッセイ法によって40〜50%の減少をもたらし、これはタウロリジン曝露後9時間と早くに現れた。
【図1B】LS-180細胞増殖に及ぼすタウロリジンの影響を示す折れ線グラフである。LS-180細胞を100μM濃度、200μM濃度、および400μM濃度のタウロリジンとインキュベートした。12時間、24時間、および36時間でテトラゾリウム塩WST-8を用いて、細胞数を評価した。結果は、未処理細胞(対照)との平均パーセント差±SEとして示した。
【図2A】クリスタルバイオレットアッセイ法によるLS-180細胞生存率に及ぼすタウロリジンの影響を示す折れ線グラフである。細胞を10μm濃度、25μm濃度、50μm濃度、75μm濃度、および100μm濃度のタウロリジンで処理し、細胞生存率を96ウェルマイクロタイタープレートにおいて測定した。このクリスタルバイオレットアッセイ法は、MTTアッセイ法と比較して対応する細胞生存率の減少(接着細胞数の減少に相当する)を証明した。データから、タウロリジンは細胞接着の消失を引き起こすことが分かる。培地および非接着細胞はクリスタルバイオレットを用いた固定および染色の前に除去した。
【図2B】クリスタルバイオレットアッセイ法によるLS-180細胞生存率に及ぼすタウロリジンの影響を示す折れ線グラフである。細胞を100μM濃度、200μM濃度、および400μM濃度のタウロリジンで処理した。このクリスタルバイオレットアッセイ法は、MTTアッセイ法と比較して対応する細胞生存率の減少(接着細胞数の減少に相当する)を証明した。データから、タウロリジンは細胞接着の消失を引き起こすことが分かる。培地および非接着細胞はクリスタルバイオレットを用いた固定および染色の前に除去した。結果は、未処理細胞(対照)との平均パーセント差±SEとして示した。
【図3】50μm濃度および100μm濃度のタウロリジンで24時間処理されたLS-180細胞に対して行ったフローサイトメトリー分析の結果を示すヒストグラムである。図3Aは対照細胞(タウロリジン非存在下の細胞)を示す。図3Bは50μmタウロリジンで処理された細胞を示す。図3Cは100μmタウロリジンで処理された細胞を示す。DNA蛍光色素ヨウ化プロビジウムを用いたフローサイトメトリーはsub-G1ピークを示さず、細胞周期進行の有意な変化を示さなかった。10,000回の事象を集めた。
【図4】タウロリジンがヒト結腸癌細胞においてアポトーシスを誘導することを示すヒストグラムである。図4A〜Cでは、LS-180細胞を100μM濃度、200μM濃度、および400μM濃度のタウロリジンで処理した。24時間後、細胞をトリプシン処理で採取し、ヨウ化プロピジウムで標識し、そのDNA含有量をフローサイトメトリーで測定した。サブディプロイドDNA含有量(アポトーシス細胞におけるDNA分解に相当する)のパーセントを示す。図4Dは、タウロリジンが用量依存的にカスパーゼ-3活性を増加させることを示す棒グラフである。LS-180細胞を100μM濃度、200μM濃度、および400μM濃度のタウロリジンで処理し、12時間、24時間、および36時間でトリプシン処理で採取した。カスパーゼ-3活性は、DEVD-pNA比色基質を切断する能力によって評価した。示したデータは平均活性±SDを示し、3回の独立した実験で行われた。P<0.001、ボンフェローニ(Bonferroni)/ダン(Dunn)検定。
【図5】LDH放出により測定された、タウロリジン処理LS-180細胞において生じた細胞傷害性を示す棒グラフである。LS-180細胞を、50μm濃度、100μm濃度、および400μm濃度のタウロリジンで24時間処理した。トライトン X-100細胞は最大のLDH放出を生じた(高対照、材料と方法を参照)。タウロリジンは400μm濃度でさえ、ほとんど細胞傷害性を生じなかった。50μm群、100μm群、および400μm群の細胞傷害性パーセントは、それぞれ、-0.07%、0.15%、および1.58%であった。
【図6】図6A〜Bは折れ線グラフであり、図6Cは、タウロリジンのアポトーシス作用がカスパーゼ活性化を介して引き起こされることを示す棒グラフである。図6AのデータはLS-180細胞を用いて作成された。タウロリジン処理前に、細胞を50μM濃度の阻害ペプチドZ-VAD-fmkで処理した。次いで、LS-180細胞を100μM濃度、200μM濃度、および400μM濃度のタウロリジンとインキュベートし、12時間、24時間、および36時間でテトラゾリウム塩WST-8を用いて、細胞数を評価した。結果は、等希釈のDMSO中の未処理細胞(対照)との平均パーセント差±SEとして示した。図6Bは、細胞接着の消失がカスパーゼ阻害の影響を受けないことを示す。50μM Z-VAD-fmkによるカスパーゼ阻害後のタウロリジン処理LS-180細胞の対応するクリスタルバイオレットアッセイ法を示す。培地および非接着細胞は、クリスタルバイオレットを用いた固定および染色の前に除去した。結果は、等希釈のDMSO中の未処理細胞(対照)との平均パーセント差±SEとして示した。Z-VAD-fmkによるカスパーゼ阻害を確認するために、DEVD-pNA比色基質を用いてカスパーゼ-3活性を評価した(図6C)。試験した全てのタウロリジン濃度で、未処理LS-180細胞(対照)と比較して、Z-VAD-fmk処理細胞における有意なカスパーゼ-3活性増加はなかった。カスパーゼ阻害なしで400μM濃度のタウロリジンで処理した細胞を陽性対照とした。全ての細胞を等濃度のDMSOで処理した。示したデータは平均活性±SDを示し、3回の独立した実験で行われた。
【図7】タウロリジン処理により24時間後に有意な細胞崩壊が生じないことを示す棒グラフである。LS-180細胞を100μM濃度、200μM濃度、および400μM濃度のタウロリジンで処理し、培地のLDH活性を、24時間後の原形質膜損傷を定量する手段として測定した。処理細胞と、未処理細胞(低対照)およびトライトン X-100で溶解した細胞(高対照)を比較した。それぞれの棒は平均LDH活性±SEを示す。有意でない,ターキィ(Tukey)のHSD検定;**P<0.01,ターキィのHSD検定。
【図8】タウロリジン治療により全身腫瘍組織量が減少したことを示す顕微鏡写真である。ヒト結腸癌細胞(LS-180)を脾臓に腫瘍注射した5日後および10日後のマウス肝臓からのH&E調製物の顕微鏡写真。
【図9】対照動物と比較してタウロリジンで処理した動物が肝臓腫瘍と著しくかかわりを持たないことを示す肝臓組織写真である。食塩水処理(対照)またはタウロリジン治療後の全身腫瘍組織量。対照マウス(図9A)およびLS-180細胞を脾臓に腫瘍注射した2日後に治療を開始したタウロリジン治療マウス(図9B)。対照マウス(図9C)および脾臓に腫瘍注射した5日後に治療を開始したタウロリジン治療マウス(図9D)。
【図10】3週間のタウロリジンを完了した後の実験動物対対照動物の平均肝臓重量を示す棒グラフである。タウロリジン治療動物は、2日群および5日群それぞれにおいて18〜22%の減少を示した。これは治療動物における全身腫瘍組織量の減少を示す。
【図11】対照およびタウロリジン治療動物における血清中癌胎児抗原濃度を示す棒グラフである。治療動物は、3週間の治療後、2日群および5日群それぞれにおいて血清中CEAレベルの69%および78%の減少を示した。CEA減少は、タウロリジン治療動物における全身腫瘍組織量の減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
アミノ酸タウリンの誘導体であるタウロリジン(ビス(1,1-ジオキソパーヒドロ-1,2,4-チアジアジニル-4)メタン)は、局所感染および全身感染の治療における抗生物質として用いられてきた。タウロリジン組成物および製剤は、例えば、米国特許第5,210,083号に記載のように当技術分野において周知である。
【0014】
タウロリジンは局所薬剤として用いられ、ならびにヒト結腸癌細胞株LS-180を用いた肝臓転移モデルにおける確立した腫瘍に対して全身投与された。肝臓転移を生じるこの確立した肝臓転移モデルにおいて、ヌードマウスは腫瘍細胞が脾臓に注射された後に脾臓が切除された。微小転移性病態が肝臓内に広がった注射後2日目または5日目から、マウスの毎日腹腔内タウロリジン治療を開始した。タウロリジン治療により全身腫瘍組織量が著しく減少した(これは肉眼的腫瘍ならびに血清中CEA濃度の減少により示される)。
【0015】
インビトロ研究から、タウロリジンとのインキュベーション後に接着性腫瘍細胞の数が減少することが証明された。この効果はアポトーシスも細胞崩壊も関与していないように見える。
【0016】
肝臓組織への腫瘍転移
肝臓は転移性癌の一般的な部位である。例えば、結腸直腸癌患者の約半分は肝臓転移を発症する。門脈は腹部内蔵から血液が流れ込み、結腸および直腸、胃、膵臓、胆管、小腸、および乳房などの他の臓器で生じた原発腫瘍からの転移を導く管である。肝臓に転移することが多い他の原発性癌として、悪性黒色腫、肺癌、およびリンパ腫が挙げられる。
【0017】
転移性肝臓癌を罹患している個体または発症する危険性のある個体を診断する方法は当技術分野において周知である。例えば、以前に癌と診断された個体における腹部の疼痛、腹部の膨張、黄疸、腹水、または異常肝臓試験(例えば、アルカリホスファターゼもしくはトランスアミナーゼ)の検出は、個体が肝臓転移を有する、または肝臓転移を発症する危険性があることを示している。CTスキャンまたは超音波もまた腹膜腔内の腫瘍を確認するのに用いられる。上記で列挙した原発腫瘍のいずれか1つの診断は、個体が転移性肝臓腫瘍を発症する危険性があることを示している。多くの場合、複数の転移病巣が見られるが、転移が1つしか見られない場合もある。選択的に、転移性肝臓癌を確認するために肝臓生検が行われる。
【0018】
外科的切除は、依然として転移性肝臓腫瘍の最も重要な治療選択肢である。結腸直腸癌は、転移により肝臓だけに、または主に肝臓に広がるので、優先的にまたは特異的に肝臓を標的にすることが好ましい治療選択肢である。
【0019】
本明細書に記載の方法はまた、原発部位が分からない肝臓腫瘍と診断された患者を治療するのにも有用である。場合によっては、転移性肝臓疾患と多中心性肝細胞癌を区別することが不可能なこともある。このような患者もタウロリジンを用いた局所的な肝臓治療から治療的利益を得る。
【0020】
現在、肝臓癌を治療するために、肝臓切除および/または化学傷害剤(例えば、フロクスウリジン(FUDR))と肝臓切除を併用する局部的化学療法が用いられている。しかしながら、場合によっては、腫瘍は切除が不可能な解剖学的位置にある。このような場合、本明細書に記載の方法は最良または唯一の治療選択肢であるかもしれない。本明細書に記載の方法は、標準的な肝臓腫瘍治療法に代わる毒性のない、または最小限の毒性しかない方法を提供する。
【0021】
タウロリジンは結腸癌からの肝臓転移発症を阻害する
タウロリジンは、転移表現型によって高度に選択されたヒト結腸癌細胞クローンを用いる確立した転移性肝臓疾患の技術的に認められた動物モデルにおいて全身性抗腫瘍剤として用いられた。肝臓に播種するために腫瘍細胞を脾臓に注射した後、腫瘍細胞注射の5日後と早くに、確立した腫瘍転移が組織学的に認められた。腫瘍注射の15日後、目視可能な転移病巣が肝臓実質内および被膜上に小さな斑点状の結節として観察された。観察の24日後、肝臓はほぼ完全に結腸癌と置き換わった。5日連続×3週間、10mg/日を腹腔内に注射するタウロリジン治療計画を用いて、全身腫瘍組織量の著しい減少が未治療対照動物と比較して観察された。腫瘍を脾臓に注射して2日後および5日後に治療を開始したマウスにおいて抗腫瘍効果が観察されたが、対照動物と比較してCEA濃度が78%減少した後者の群においてより顕著であった。タウロリジンは忍容性が高く、3週間の治療の間、動物は死ななかった。小さな残存する結節にもかかわらず、タウロリジンは肝臓転移の発症および進行を著しく阻害した。
【0022】
データはまた抗新生物剤としてのタウロリジンの役割を裏付けている。腫瘍細胞生存率の85%減少がWST-8およびクリスタルバイオレットアッセイ法によって認められ、これは用量依存的に起こった。12時間の処理後に著しい抗腫瘍効果が観察され、同様の結果が他のタイプの腫瘍細胞で(例えば、ヒト結腸癌細胞株SKCO-1ならびにヒト肝細胞癌細胞株Hep3B、HUH-7、HepG2、およびFOCUSを用いて)認められた。タウロリジンがその抗腫瘍活性を発揮する機構として、カスパーゼを介するアポトーシスが特定された。アポトーシス誘導は、化学療法剤が新生細胞に対してその細胞傷害作用を発揮する重要な機構である。
【0023】
アポトーシスすなわちプログラム細胞死の経路には多くの成分があるが、重要な構成要素として、DNAエンドヌクレアーゼによるDNA断片化および細胞内システインプロテアーゼ(カスパーゼ)の活性化が挙げられる。細胞をタウロリジンで処理すると、サブディプロイド(sub-diploid)DNAピークが用量依存的に増加した。これは、内因性ヌクレアーゼによるDNAの部分的な消失ならびにカスパーゼ-3活性化の用量依存的な増加を示している。タウロリジンによる細胞傷害性の著しい抑制が、広範囲特異性カスパーゼ阻害剤Z-VAD-fmkを用いて照明された。
【0024】
細胞をタウロリジンで処理すると、LS-180細胞の接着性が失われる。細胞接着の消失は、アポトーシス経路の下流事象として起こるのかもしれないが、タウロリジンで処理したLS-180細胞では、細胞接着の消失は生細胞の減少より前に起こり、カスパーゼ活性化とは独立した初期の事象であるように思われる。従って、細胞接着の消失は、LS-180細胞では、タウロリジンのカスパーゼを介したアポトーシス作用とは異なる別個のプロセスであるように思われる。細胞接着の消失は、タウロリジンの抗新生物効果の1つの要素である。
【0025】
技術的に認められた現実的な実験モデル系を用いて作成された本明細書に記載のデータから、タウロリジンは、結腸癌からの確立した肝臓転移を治療するための驚くほど有効な化学療法剤であることが分かる。
【0026】
肝臓組織への局所投与
転移を阻害または予防するために、肝臓組織とタウロリジンを直接接触させる。例えば、タウロリジン溶液を肝動脈に導入するために、肝臓灌流用のカテーテル装置が用いられる。カテーテルは一時的に挿入されるか、留置されてもよい。1回またはそれ以上の薬物投与が肝臓組織になされる。単回用量は、注入1回につき50μg、1mg、1.5mg、2mg、4mg、および5mgまでを含む。注入量は0.1〜5mlである。例えば、タウロリジンは、0.1〜100mlの容量で、食塩水または別の薬学的に許容される賦形剤に溶かして送達される。例えば、タウロリジン溶液は、単回投与では1ml、5ml、10ml、25ml、50ml、75ml、または100mlの容量で投与される。肝臓への腫瘍転移を阻害または予防するために必要に応じて、反復量が投与される。肝臓組織は、当技術分野において周知の方法(例えば、CTスキャン、超音波、または肝臓生検)によってモニターされる。
【0027】
肝臓に局所送達する方法は、外科的にまたは非外科的に、優先的に肝臓を標的にし、肝臓に灌流することを含む。肝臓灌流の方法および装置は、米国特許第5,069,662号および同第6,287,273号に記載されている。例えば、米国特許第6,287,273号は灌流システムについて述べており、これは、臓器が体循環から本質的に隔離されるように肝臓の上流で血流を止めるのに用いられる。バイパス回路および灌流回路の循環を開始する前に、空気が回路を通って身体に確実に入らないようにするために、回路に液体が満たされる。ポンプ注入によって、肝臓を通過した血液がバイパス回路内を循環する。下半身および門脈の静脈血圧は、血液をはるばる灌流回路の出口まで押し出すほど高くない。この処置は、腎臓、肝臓、膵臓、膀胱、および骨盤などの入口の血管および出口の血管が十分に特定されている臓器の優先的な標的化局所治療に用いられる。周囲組織または体循環との接触は最小限であるか、または無い。治療剤は、自然に起こる血流の方向に、または隔離された臓器の逆行性灌流によって導入される。逆行性灌流は、血流のかなりの部分が主要な入口の血管に入らず、主要な出口の血管を通って出て行かない場合に(例えば、肝臓において)有用である。
【0028】
治療は、血液体循環が灌流臓器と接触することなく身体が持ちこたえられる期間にわたって続けられる。治療後、灌流回路に液体(例えば、初めのほうで患者から引き抜かれた血液または別の血液供給から採取された血液)が満たされる。
【0029】
タウロリジンを肝臓に局所送達する別の処置では、門脈および肝動脈が微細動脈瘤クリップを用いて締め付けられ、適切なゲージを有する針がクリップの近くの門脈にカニューレ挿入され、薬物が注入される。必要に応じて、門脈に直接圧力を加え、局所的にトロンビンを投与することで止血が行われる。クリップが取り外され、腹部が縫合され、被検体を回復させる。または、この処置は化合物の門脈注入によって行われ、この場合、門脈にカニューレが挿入され、ある期間にわたって溶液が門脈にポンプ注入される。
【0030】
臓器から正常血流を遮断した後、選択的に肝臓に灌流するのに肝臓血液灌流(sanguineous perfusion)が用いられる。肝臓の血管を遮断するために、肝動脈、門脈、肝臓上大動脈、右副腎静脈、および肝臓下大動脈が締め付けられる。次いで、肝臓下大動脈の前壁が切開されると同時に、門脈に適切なゲージのカテーテルがカニューレ挿入され、流出物を集めるために吸引カニューレが大動脈に留置される。ポンプを用いて肝臓灌流が行われる。流速は肝臓1グラムにつき0.1ml/分から肝臓1グラムにつき10ml/分でもよい。灌流後、門脈および大静脈の切開が縫合され、肝臓が血管再生される。
【0031】
全身治療剤投与
他の標準的な投与法も用いられる。薬物は、錠剤またはカプセルなどの経口投与に適した形状で調製される。一般的に、化合物の薬学的に許容される塩が担体と混ぜ合わされ、錠剤に成形される。適切な担体として、デンプン、糖、リン酸二カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムが挙げられる。このような組成物は、選択的に、湿潤剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、着色添加物などの1種類またはそれ以上の補助物質を含む。組成物は、1日または1週間に1回またはそれ以上投与される。このような薬学的組成物の有効量は、肥満に対して臨床的に有意な効果をもたらす量である。このような量は、ある程度、治療する特定の状態、患者の年齢、体重、および全身の健康状態、ならびに当業者に明らかな他の要因によって決まる。組成物はある期間にわたって複数回の投与量で投与されるか、肝臓などの組織または他の組織への移植に適した徐放製剤として投与される。移植片は、所望の期間(数年まででもよい)にわたって活性化合物を放出するように処方される。カプセル化薬物を徐放するための、このような生分解性組成物は、例えば、米国特許第6,277,413号に記載のように当技術分野において周知である。
【0032】
タウロリジンは、単独で、または癌を治療する他の薬物と併用して投与される。例えば、タウロリジンは外科手術前に投与されるか、腫瘍を切除する外科手術の間に投与されるか、または摘出プロセスの間に原発腫瘍からこぼれた可能性のある腫瘍細胞の転移を阻害するために外科手術の後に投与される。タウロリジン治療と共に放射線または他の化学療法アプローチが用いられる。
【0033】
組成物は、従来の毒性のない薬学的に許容される担体またはビヒクルを含む投与単位製剤の状態で、経口で(per os)投与されるか、経口的に(orally)投与されるか、非経口投与されるか(皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、間質内注射(intrastemal injection)、または注入法を含む)、または直腸投与される。腫瘍の外科的切除後の二次部位への腫瘍転移の予防または低減には、タウロリジンの連続全身投与が有効である。タウロリジンは、副作用および強力な抗新生物効果にほとんど関連しないか、または全く関連しないので、結腸癌を阻害し、転移を予防するのに安全および強力な化学療法剤である。
【0034】
タウロリジンは転移を阻害する
肝臓組織への腫瘍細胞転移の阻害を評価するために、以下の試薬および手順が用いられた。
【0035】
細胞株
ヒトLS-180細胞株を使用し、5%CO2の加湿雰囲気内、37℃で、10%熱不活化胎仔ウシ血清(シグマ(Sigma),St.Louis,MO)および非必須アミノ酸(ギブコビーアールエル(GIBCO BRL),Grand Island,NY)を添加したイーグルの最小必須培地(EMEM,シグマ,St.Louis,MO)中で維持した。動物。69匹の8週齢ヌードマウス(ハルラン・スプラーグ・ドーリー(Harlan Sprague Dawley),Indianapolis,IN)を、試験前の少なくとも7日間、環境および光サイクル制御環境に馴化させた。標準的な実験用飼料および水を任意にとれるようにして動物を飼育した。
【0036】
インビボ腫瘍モデル
全身麻酔を、抱水クロラール(2%)400μlを用いて導入した。無菌状態を用いて、脾臓を曝露するのに垂直傍正中切開が用いられた。無血清培地0.4mlに溶解した1×105個の腫瘍細胞を脾臓内に注射し、その後、血管制御のためにヘモクリップ(hemoclip)を用いて脾臓切除を行った。次いで、外科用ステープルを用いて切開を閉じた。注射後2日目または5日目から、0.45%正常食塩溶液(n=10/群)またはタウロリジン(n=20/群)をマウスに腹腔内注射した。タウロリジン(ベーリンガーインゲルハイム(Boehringer Ingelheim),Germany)は、合計3週間、1週間に5日連続して、1日2%溶液(25mg/kg)0.5mlの腹腔内注射として与えた。タウロリジンまたは0.45%NSの最後の治療の翌日、マウスを屠殺し、肉眼的腫瘍を調べた。血液を右心室から採取し、直ぐに遠心分離し、CEAアッセイ用に血清を集めた。肝臓を秤量し、ヒストフィックス(HistoFix)で固定し、H&E顕微鏡検査用に代表的な切片を採取した。さらに、この腫瘍モデルを研究するために9匹のマウス(n=3/群)を使用した。様々な時点での全身腫瘍組織量を評価するために、脾臓に腫瘍細胞を注射したマウスをこれ以上介入することなく5日目、10日目、および15日目に屠殺した。肝臓を肉眼的腫瘍について評価し、全て組織学的検査にまわした。
【0037】
細胞増殖および生存率アッセイ法
細胞増殖は、570nmで標準的なMTT(臭化3,(4,5-ジメチルチアゾール-2イル)2,5-ジフェニルテトラゾリウム;シグマ,St.Louis,MO)色素を用いて評価した。細胞を、培地200μlを用いて96ウェルマイクロタイタープレート(2×105細胞/ウェル)に播種した。12時間のインキュベーション後、タウロリジンを6時間、9時間、12時間、24時間、または48時間加えた。それぞれの時点で、MTT(5mg/ml)20μlを添加し、細胞を37℃でさらに30分間インキュベートした。培地を除去し、色素を酸性イソプロピルアルコール(0.04N HCl)を用いて溶出した。細胞生存率はクリスタルバイオレット色素を用いて測定した。細胞を播種し、MTTアッセイ法に記載のようにタウロリジンで処理した。次いで、培地を除去し、細胞を、0.75%クリスタルバイオレット、50%EtOH、0.25%NaCl、および1.75%ホルムアルデヒドを含有するクリスタルバイオレット染色液を用いて室温で10分間染色および固定した。染色および固定の後、細胞を水で洗浄し、風乾させた。クリスタルバイオレット色素を、PBS溶液に溶解した1%SDSを用いて溶出し、吸光度をマイクロタイタープレートリーダーで540nmで測定した。
【0038】
細胞傷害性アッセイ法
細胞傷害性は、標準的な乳酸デヒドロゲナーゼ細胞傷害性アッセイ法(細胞傷害性検出キット(Cytotoxicity Detection Kit),ロシュ(Roche))を用いて定量した。LS-180細胞(2.5×105細胞/ウェル)を、37℃、5%CO2の加湿インキュベーター内でファルコン(Falcon)96ウェルマイクロタイタープレートにおいて培養した。細胞が接着性になる12時間後に、細胞を完全培地中で(低対照)、または50μm、100μm、もしくは400μm濃度のタウロリジンを含有する培地中で12時間または24時間培養した。細胞を溶解し、LDH酵素の最大放出を測定するために、トライトン(Triton)X-100(1%最終濃度)を使用した(高対照)。製造業者のプロトコールに従って細胞傷害性を測定し、吸光度をマイクロタイタープレートリーダーで490nmで測定した。
【0039】
細胞周期分析
LS-180細胞を、接着性になるように100mmファルコンプレート(5×106細胞/プレート)において12時間培養した。細胞を、完全培地(対照)または50μm濃度、100μm濃度、および400μm濃度のタウロリジンと共に12時間、14時間、および48時間インキュベートした。次いで、細胞を10μmブロモデオキシウリジン(BrdU)で30分間処理し、70%エタノール固定用に浮遊細胞および接着細胞を両方とも採取した。DNAを2N HClを用いて変性させ、FITC結合抗BrdU抗体(抗ブロモデオキシウリジン-フルオレセインモノクローナル抗体;ロシュ,Indianapolis,IN)で標識した。フローサイトメトリーによる分析の前に、細胞を、リボヌクレアーゼ(DNアーゼフリーのリボヌクレアーゼ,ロシュ,Indianapolis,IN)およびヨウ化プロピジウム(シグマ,St.Louis,MO)で処理した。FACs分析をFACscanフローサイトメーター(ベクトンディキンソン(Becton Dickinson),NJ))で行った。
【0040】
カスパーゼ-3アッセイ法
カスパーゼ活性を測定するために、細胞を6ウェルファルコンプレート(1×106細胞/ウェル)においてインキュベートし、トリプシン処理により採取した。次いで、細胞を、製造業者(エムビーエル(MBL),名古屋,日本)の推奨に従ってペレット化および溶解し、サイトゾルのタンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイ試薬(ピアス(Pierce),Rockford,IL)を用いて定量した。タンパク質100μgおよび4mM DEVD-pNA基質(CPP32/カスパーゼ-3比色プロテアーゼアッセイキット;エムビーエル,名古屋,日本)5μlを用いて、カスパーゼ-3アッセイ法を96ウェルマイクロタイタープレートで行った。次いで、タンパク質および試薬を37℃で2時間インキュベートした。細胞溶解産物およびDEVD-pNA基質を含まない緩衝液からのバックグラウンド測定値を試料から差し引いた。アッセイ法を3回繰り返して行った。試料をマイクロタイタープレートリーダーにおいて405nmで測定した。
【0041】
カスパーゼ阻害
カスパーゼ阻害剤I(Z-VAD-fmk;z-Val-Ala-Asp(OMe)-CH2F,カルバイオケム(Calbiochem);La Jolla,CA)を、DMSOに溶解した21mM保存液(使用するまで-20℃で保存)から使用し、次いで、加える直前に組織培地に入れて希釈した。細胞をカスパーゼ阻害剤と2時間インキュベーションした後、タウロリジンで処理した。使用するカスパーゼ阻害剤濃度を、数種類の濃度の阻害剤の影響を調べることで最適化し、カスパーゼ-3活性が変化しないことを証明することで確認した。未処理細胞には同じ希釈のDMSOを添加した。
【0042】
タウロリジンは細胞壊死もアポトーシスも誘導することなく接着細胞を消失させる
ヒトLS-180結腸癌細胞株を25μm濃度、50μm濃度、75μm濃度、および100μm濃度のタウロリジンとインキュベートし、MTTアッセイ法を、タウロリジン投与の6時間、9時間、12時間、24時間、および48時間後に行った。付随するクリスタルバイオレットアッセイ法を同じ条件下で行った。両アッセイ法により明らかなように、タウロリジンは細胞数を用量依存的に減少させた。図1A〜Bおよび図2A〜Bにより示されるように、100μ濃度を用いて24時間後、細胞数は40〜50%減少した。400μmの高濃度でさえ、処理細胞は、光学顕微鏡下またはDNA染色蛍光色素ヘキスト(Hoechst) 33258を使用して観察した時に、細胞の収縮、細胞質の凝縮、核の断片化、または小胞形成を示さなかった。さらに、DNA蛍光色素ヨウ化プロピジウムを用いたフローサイトメトリーはsub-G1ピーク(存在するとアポトーシスがあることを示唆する知見)を示さなかった。フローサイトメトリーはまた、S期細胞の割合の定量および細胞増殖の評価の助けとなるようにブロモデキオキシウリジン(BrdU)を用いて行った。図3A〜Cおよび図4A〜Dに示されるように、処理細胞と未処理細胞の間には増殖にも細胞周期にも有意な変化はなかった。
【0043】
細胞傷害性は、損傷細胞のサイトゾルから放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性を測定することによって評価した。LS-180細胞を50μm濃度、100μm濃度、および400μm濃度のタウロリジンに曝露し、12時間または24時間インキュベートした。タウロリジンは400μm濃度でさえ、LS-180細胞に対してわずかな細胞傷害作用しか生じなかった。図7に示されるように、全ての場合において、細胞傷害性パーセントは2%未満であった。これらのデータから、タウロリジンは接着性LS-180細胞の数を減少させるが(これはMTTアッセイ法およびクリスタルバイオレットアッセイ法における減少により明らかである)、細胞崩壊をもたらさずアポトーシスも誘導しないことが分かる(図1A〜Bおよび2A〜B)。これは、以前に報告された悪性細胞株におけるタウロリジンのインビトロ研究とは対照的である。
【0044】
タウロリジンは肝臓転移発症を阻害する
本発明者らの肝臓転移モデルにおいて腫瘍発症を研究するために、3つの時点で腫瘍を注射した後、マウスにこれ以上に介入しなかった。脾臓に注射した5日後および10日後に腫瘍は目視で観察されなかったが、図8に示されるように、小さな腫瘍病巣がH&E調製物において光学顕微鏡を用いて観察された。15日目までに、肉眼的腫瘍が肝臓表面上および肝臓実質内の小さな堅い斑点状の病巣として切断面に観察された(図8)。
【0045】
タウロリジンおよび対照試験群において、全てのマウスが合計3週間の治療に耐えた。目視検査において、タウロリジンで治療した動物の全身腫瘍組織量は対照と比較して著しく減少していたが(図6A〜D)、完全に腫瘍がない対照はなかった。腫瘍注射の5日後に治療を開始した群の全身腫瘍組織量は、2日後に治療を開始した群と比較して治療群および対照群の両方で大きかった。これらの発見は、肝臓重量および血清中CEA濃度の測定により裏付けられた。腫瘍を脾臓に注射してから2日後にタウロリジン治療を開始した群では肝臓重量が18%減少し、5日後に治療を開始した群では22%減少した(図10)。さらに、LS-180細胞はCEAを発現することが知られており、タウロリジンで治療した動物は、対照動物と比較して2日群では血清中CEA濃度が69%減少し、5日群では血清中CEAが78%減少した(図11および表1)。
【0046】
(表1)血清中CEA(ng/ml)

【0047】
表1は、血清中CEA濃度に対するタウロリジン治療の効果を示す。タウロリジン治療完了後の血清中CEA濃度を、食塩水を与えた未治療対照と比較した。タウロリジンで治療したマウスは、脾臓に注射した2日後に治療を開始した群ではCEA濃度が69%(P<0.01)減少し、5日後に治療を開始した群では78%(P<0.01)減少した。3匹の正常ヌードマウスの血清からCEAレベルは検出できず、負の対照とした。データは平均血清中CEAレベル±SEとして示した。P<0.01(ターキィのHSD検定による)。
【0048】
タウロリジンは抗生物質として用いられてきたが(特に、腹腔洗浄液として用いられる重篤な腹膜炎の場合)、最近、推定抗新生物薬としての役割が発見された。ヒト結腸癌細胞株からの確立した肝臓転移に対する局所薬剤または全身薬剤としてのタウロリジンの使用が研究された。本明細書に記載の動物モデルでは、門脈系を介して肝臓に播種するために脾臓への腫瘍細胞の注射が用いられた。確立した転移は、注射の5日後と早くに組織学的に証明された。15日後、目視により、腫瘍は肝臓実質内の小さな斑点状の結節として認められた。24日後、肝臓が腫瘍とほぼ完全に置き換わる場合もあった。タウロリジンの毎日腹腔内注射計画を用いて、全身腫瘍組織量の著しい減少が対照動物と比較して証明された。これは、脾臓に腫瘍を注射した2日後に治療を開始した動物および5日後に治療を開始した動物の両方で観察されたが、対照動物と比較してCEA濃度が78%減少した後者の群でより顕著であった。これらの知見から、タウロリジンは、確立した肝臓転移の発症および進行を著しく阻害することが分かった。
【0049】
データは、抗新生物治療のためのタウロリジン単独またはタウロリジンと他の化学療法剤の併用の役割を裏付けている。接着性腫瘍細胞の60%減少がMTTおよびクリスタルバイオレットアッセイ法において示された。この減少は用量依存的に起こり、著しい効果が治療のほんの9時間後に観察された。以前の報告とは異なり、タウロリジンはLS-180細胞株においてアポトーシスも細胞崩壊も誘導することが見出されなかった。その代わりに、タウロリジン処理後の細胞数の減少は細胞接着の消失から派生したように見えた。薬物を曝露してほんの9時間後に接着細胞数が減少したが、細胞傷害性の証拠もアポトーシスの証拠もなかった。
【0050】
タウロリジンおよび腫瘍細胞接着
タウロリジンは腫瘍細胞の接着を阻害する。正常上皮細胞は、細胞生存のために細胞マトリックス相互作用に極めて依存しており、この相互作用がなければアノイキスと呼ばれる一種のアポトーシスを受ける。ある悪性上皮細胞はこの点で異なり、アノイキスに対する感受性が低下しているのでマトリックス接着がなくても生き残ることができ、このため離れた転移の形成が容易である。この現象は、なぜ一部の細胞株ではタウロリジンがアポトーシスを生じるのか、なぜLS-180細胞では細胞接着の消失しか生じないのかについての説明となる。いろいろな細胞株が足場の消失およびアノイキスに対する感受性が変えた。タウロリジンの作用は細胞接着の低下に直接左右される可能性がある。
【0051】
肝臓は依然として最も一般的な結腸直腸からの転移部位であり、治療した患者の5年生存率は24〜46%のままである。本明細書に記載のデータから、タウロリジンは肝臓への転移の予防および結腸癌のような原発腫瘍からの確立した肝臓転移の治療に有効な化学療法剤であることが分かる。転移性疾患と闘うのに、優先的に肝臓を標的とする腹腔内注射、静脈内注射、および局所注射が有用である。タウロリジンはまた、身体の他の場所への腫瘍転移を治療するのに用いられる。タウロリジンは、その非常に低い毒性および著しい抗新生物効果のために腫瘍転移を予防および阻害するのに安全および強力な薬剤である。
【0052】
他の態様は添付の特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓組織への原発腫瘍の転移を阻害する方法であって、以下の段階を含む方法:
該肝臓組織とタウロリジンを直接接触させる段階。
【請求項2】
原発腫瘍が肝臓腫瘍でない、請求項1記載の方法。
【請求項3】
原発腫瘍が腹膜腔の臓器に存在する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
転移性肝臓腫瘍を発症する危険性のある個体を特定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
個体が哺乳動物である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
個体がヒトである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
個体が結腸直腸腫瘍に罹患していると特定される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
個体が、肺腫瘍、乳房腫瘍、腎臓腫瘍、結腸腫瘍、食道腫瘍、精巣腫瘍、膵臓腫瘍、黒色腫、および絨毛癌からなる群より選択される腫瘍に罹患していると特定される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
肝臓がタウロリジンとの接触前に体循環から隔離される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
インサイチュで肝臓にタウロリジンを灌流させる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
肝臓血液循環が血液体循環から本質的に隔離される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
灌流が原発腫瘍摘出の前に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
灌流が腹部手術と共に行われる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
タウロリジンが留置カテーテルにより投与される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
タウロリジンが細胞のカスパーゼ活性を増加させる用量で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
タウロリジンが静脈内に投与される、請求項1記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−209101(P2010−209101A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107880(P2010−107880)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【分割の表示】特願2003−531978(P2003−531978)の分割
【原出願日】平成14年10月1日(2002.10.1)
【出願人】(508326459)ガイストリッヒ ファーマ アーゲー (2)
【Fターム(参考)】