説明

軸ねじれ判定装置及び軸ねじれ判定方法

【課題】 発電所において、常時監視を行っている信号の値を参照するだけで、発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸に生じた軸ねじれを検出する。
【解決手段】 本発明の軸ねじれ判定装置200は、発電機106の回転子の電磁石108に印加される界磁電圧を測定する界磁電圧測定部204と、回転軸120の軸ねじれ角の許容値に基づいて予め定められた界磁電圧の許容振れ幅を記憶する記憶部220と、界磁電圧測定部が測定した界磁電圧の移動平均値を算出する移動平均処理部205と、界磁電圧測定部204が測定した界磁電圧の振幅を検出する振幅検出部206と、算出された移動平均値から振幅検出部206が検出した振幅までの振れ幅が許容振れ幅を超えたか否かを判定する閾値判定部208と、を備えたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸における軸ねじれを検出する軸ねじれ判定装置、及び軸ねじれ判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や原子力発電所等の発電所では、ボイラや原子炉で発生させた高温高圧の蒸気や燃焼ガスをタービン(蒸気タービンやガスタービン等)に衝突させて、回転力を生み出し、回転軸を介してタービンに結合された発電機が回転することによって電気を発生させる。また、例えばガスタービンでは、燃焼ガスの熱を利用して蒸気を生成し、高中圧蒸気タービン、低圧蒸気タービンなどを回すことにより、プラントの熱効率を向上させている。これら複数のタービンの回転軸、および発電機の回転子はそれぞれ連結され、全体として回転している(コンバインドサイクル)。
【0003】
タービンや発電機といった駆動体を結合する回転軸にトルクが作用すると、ねじれ剛性に応じて軸ねじれが発生する。そしてトルクに変動が作用すると、軸ねじれ振動が発生する。軸ねじれ振動は回転軸を有する駆動系においては、避けられないものである。しかし、軸ねじれ振動があまりに大きいと、軸ねじれ振動により発生するねじれ応力も増大し、回転軸が疲労破壊するおそれがある。
【0004】
いうまでもなく、回転軸は想定されたトルクに耐えられる剛性を有するように設計される。しかし、軸ねじれ振動が発生する際に、トルク変動周波数と回転軸のねじれ固有振動数とが近いと共振現象(SSR:Subsynchronous Resonance)が発生して軸ねじれ振動が極端に増加する場合もある。また複数の回転軸を接続するコンバインドサイクルでは、回転軸の継ぎ目の剛性が弱くなる傾向にあり、継ぎ目部分においてねじれ振動が顕著に表れる場合もある。
【0005】
また、発電所においてタービンや発電機の回転軸に軸ねじれが発生した場合、出力する電力に変動が生じる。このため、供給先(需要家)に不安定な低品質の電力を供給してしまうおそれがある。
【0006】
したがって、回転軸を破壊しかねない大きさの軸ねじれ振動を早期に発見し、振動を抑えるように対処する必要がある。
【0007】
そこで、従来からも回転軸の軸ねじれを検出する手段として、回転軸の周方向の異なる所定の2点を変位センサで測定することで、2点の時間差の変動から軸ねじれを検出する装置が開示されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術では、回転軸の表面粗さを検出することで所定の2点を検出できるとしている。
【特許文献1】特開2002−168149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような回転軸に発生する軸ねじれ振動は発生時期が特定できないので、安定した電力供給のためには常に軸ねじれを監視するのが好ましい。
【0009】
そこで特許文献1に記載した装置を常設する方法が考えられるが、近年の火力発電所では複数のタービンを連結(コンバインドサイクル)して発電を行うため、連結軸すなわち回転軸も複数箇所となり、すべての回転軸に上述した装置を常設するにはコスト高になってしまう。
【0010】
また発電所における回転軸は、高温多湿の過酷な環境下にあるため、装置の較正が困難であったり、装置を設置する場所を確保できなかったりする場合もある。
【0011】
そこで、本発明は、従来の軸ねじれ振動の検出が有する上記問題に鑑み、発電所において、常時監視を行っている信号の値を参照するだけで、タービンと発電機の回転軸に生じた軸ねじれを検出することが可能な軸ねじれ判定装置及び軸ねじれ判定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の発明者らが鋭意検討したところ、発電機における回転子に印加する界磁電圧の振幅はタービンと発電機の回転軸の軸ねじれ角と相関関係を有することに着眼した。ここで回転軸に軸ねじれ振動が発生すると、発電機の出力や電流にも振動が生じる。しかし発電機の出力や電流の振動は微細であるのに対し、界磁電圧には顕著な振動が見られることを見出し、さらに研究を重ねることにより、本発明を完成するに到った。
【0013】
すなわち上記課題を解決するために、本発明にかかる軸ねじれ判定装置の代表的な構成は、発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸の軸ねじれを判定する軸ねじれ判定装置であって、発電機の回転子の電磁石に印加される界磁電圧を測定する界磁電圧測定部と、回転軸の軸ねじれ角の許容値に基づいて予め定められた界磁電圧の許容振れ幅を記憶する記憶部と、界磁電圧測定部が測定した界磁電圧に対して移動平均処理を行い移動平均値を算出する移動平均処理部と、界磁電圧測定部が測定した界磁電圧の振幅を検出する振幅検出部と、算出された移動平均値から振幅検出部が検出した振幅までの振れ幅が許容振れ幅を超えたか否かを判定する閾値判定部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸の軸ねじれ角は、界磁電圧の振れ幅と相関関係を有するため、予め回転軸の軸ねじれ角の許容値における界磁電圧の振れ幅を既知の装置を利用して測定し、記憶部に許容振れ幅として記憶しておけば、界磁電圧の振幅を検出し移動平均値を算出するだけで、回転軸の軸ねじれ角が許容値を超えたことを非接触で確実に検出することができる。また、発電所において界磁電圧は常に監視しているものであるため、これを利用することにより、簡単かつ迅速に軸ねじれを検出することができる。したがって、既知の装置を常設する必要がなくなるため、コストを削減することが可能となる。ここで振れ幅とは、移動平均値と振幅との差の絶対値である。
【0015】
また、移動平均処理部を備える構成により、出力の変化等で振幅が増減する場合など、他の要因による界磁電圧の振幅の増減を軸ねじれとして検出することがなくなる。
【0016】
上記タービンは複数あり、複数のタービンと発電機とはそれぞれ回転軸で連結されており、記憶部が記憶する許容振れ幅は、回転軸の中で固有振動数における軸ねじれに対して最も弱い回転軸の軸ねじれ角の許容値に基づいて定められているとよい。
【0017】
近年の発電所では、熱エネルギーをより効率的に利用するためコンバインドサイクル発電が採用されている。コンバインドサイクル発電とはガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電方式である。上記構成により、タービンの回転軸の中で固有振動数における軸ねじれに対して最も弱い回転軸を監視することとなり、最も疲労破壊を起こす可能性の高い回転軸を監視することができる。
【0018】
上記軸ねじれ判定装置は、さらに、所定期間内に許容振れ幅を超えた振れ幅が所定回数以上検出されたか否かを判定する回数判定部と、回数判定部が所定期間内に所定回数以上許容振れ幅を超えた振れ幅を検出したと判定した場合に警報を発する警報部と、を備えてもよい。
【0019】
回数判定部を備える構成により、供給先で発生した事故等で振幅が増加する場合など、他の要因による界磁電圧の突発的な(短期的な)振幅の増加を軸ねじれとして検出することがなくなる。また警報部を備える構成により、界磁電圧の振れ幅が許容振れ幅を超えた場合、すなわち回転軸の軸ねじれ角が許容値を越えた場合に、確実に報知することができる。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明にかかる軸ねじれ判定装置の他の構成は、発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸の軸ねじれを判定する軸ねじれ判定装置であって、発電機の回転子の電磁石に印加される界磁電圧を測定する界磁電圧測定部と、回転軸の軸ねじれ角と界磁電圧の振れ幅とを予め対応付けて記憶する記憶部と、界磁電圧測定部が測定した界磁電圧に対して移動平均処理を行い移動平均値を算出する移動平均処理部と、界磁電圧測定部が測定した界磁電圧の振幅を検出する振幅検出部と、算出された移動平均値から振幅検出部が検出した振幅までの振れ幅に基づき記憶部を参照して回転軸の軸ねじれ角を算出するねじれ算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸の軸ねじれ角は、界磁電圧の振れ幅と相関関係を有するため、予め回転軸の軸ねじれ角と界磁電圧の振幅を既知の装置を利用して測定し、記憶部に記憶しておけば、振幅検出部が界磁電圧の振幅を検出し、移動平均処理部が移動平均値を算出するだけで、回転軸の軸ねじれ角を非接触で確実に算出することができる。したがって、回転軸の軸ねじれの経時変化を捉えることができ、軸ねじれの許容値を超える前に軸ねじれの動向(例えば軸ねじれが増大すること)を認識することが可能となる。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明にかかる軸ねじれ判定方法の代表的な構成は、発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸の軸ねじれを判定する軸ねじれ判定方法であって、発電機の電磁石に印加される界磁電圧を測定し、測定した界磁電圧に対して移動平均処理を行い移動平均値を算出し、界磁電圧の振幅を検出し、算出された移動平均値から振幅検出部が検出した振幅までの振れ幅が回転軸の軸ねじれ角の許容値に基づいて予め定められた界磁電圧の許容振れ幅を超えたか否かを判定することを特徴とする
上述した軸ねじれ判定装置の技術的思想に基づく構成要素やその説明は、当該軸ねじれ判定方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明の軸ねじれ判定装置によれば、発電所において、常時監視を行っている信号の値を参照するだけで、発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸に生じた軸ねじれを検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
ここでは、本実施形態にかかる軸ねじれ判定装置を利用する施設として、火力発電所を例に用いて説明するが、これに限定されず、原子力発電所等他の発電所でもよい。また、本実施形態の理解を容易にするため、最初に火力発電所の全体構成について説明し、その後実施形態の特徴を詳述する。
【0026】
(火力発電所100)
図1は、軸ねじれ判定装置を利用する施設の例としての火力発電所100の全体構成を説明する説明図である。本実施形態において火力発電所100は、1500℃級コンバインドサイクル発電(MACC発電)であり、燃焼機102と、タービン104(ガスタービン104a、高中圧蒸気タービン104b、低圧蒸気タービン104c)と、発電機106と、復水器114と、回転軸120と、を含んで構成される。
【0027】
燃焼機102は、燃料供給ライン102aから供給されたLNG(Liquefied Natural Gas)気化ガスを燃焼させ、燃焼ガスを発生させガスタービン104aを回転させる。なお火力発電所の燃料としては、LNG気化ガスの他に石油、石炭などを用いることができる。
【0028】
タービン104は、ガス(気体)や蒸気が保有するエネルギーを動力に変える機械であり、ガスタービン104aは、燃焼機102にて発生した燃焼ガスをガスタービン104aを構成する羽根に衝突させることにより回転力を作出する。高中圧蒸気タービン104bおよび低圧蒸気タービン104cは、ガスタービン104aを回転させた燃焼ガスの熱を利用してボイラ102bにて発生させた蒸気を、高中圧蒸気タービン104bおよび低圧蒸気タービン104cを構成する羽根に衝突させることにより回転力を作出する。
【0029】
タービン104は、回転軸120で発電機106の回転子(後述する電磁石108)と同軸でつながっており、タービン104の回転が直接、発電機106に伝わり電気を発生させる。
【0030】
図2は、発電機106を説明するための説明図である。図2に示すように発電機106は、回転子としての電磁石108と、コイル110と、電磁石108に界磁電圧を印加する界磁電圧印加部112と、を含んで構成される。
【0031】
発電機106を構成する電磁石108は、回転軸120を介したタービン104の回転により回転し、コイル110に電気を発生させ、発生させた電気は、変圧器へと送電され電力として様々な場所へ供給される。
【0032】
復水器114は、タービン104を回した水蒸気を回収し、冷却し、水に戻す。凝縮した(液化した)水蒸気は、再度ボイラ102bへ送られる。復水器114には、常に冷却水が循環しており、水蒸気を急激に冷却し液化する。このとき、水蒸気の体積が急激に減少するので、タービン付近の水蒸気の流通がよくなり、タービン104が勢いよく回転する。
【0033】
以下、火力発電所100の回転軸120の軸ねじれ角を検出する軸ねじれ判定装置の構成を説明する。
【0034】
(軸ねじれ判定装置200)
図3は、本実施形態にかかる軸ねじれ判定装置200の概略的な機能を示した機能ブロック図である。図3に示すように、軸ねじれ判定装置200は、検出装置制御部202と、界磁電圧測定部204と、警報部222、表示部224を含んで構成される。
【0035】
検出装置制御部202は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路により軸ねじれ判定装置200全体を管理および制御する。
【0036】
本実施形態において検出装置制御部202は、記憶部220、移動平均処理部205、振幅検出部206、閾値判定部208、回数判定部210、ねじれ算出部212としても機能する。
【0037】
記憶部220は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成され、検出装置制御部202で処理されるプログラム等を記憶する。
【0038】
また本実施形態において記憶部220は、回転軸120の軸ねじれ角の許容値に基づいて定められた界磁電圧の許容れ振幅(閾値)を記憶している。後述するように、この許容振れ幅と界磁電圧とを対比することにより、軸ねじれ振動が許容値を超えたか否かを判定することができる。さらに記憶部220には、回転軸120の軸ねじれ角および界磁電圧の振れ幅を対応付けて記憶している。対応付けは、複数点について記憶しておき、判定時に中間値を線形補間することによって、界磁電圧から軸ねじれ角を算出することができる。また対応付けとしては軸ねじれ角と界磁電圧の関係を近似関数によって記憶しておき、関数に代入演算することによって界磁電圧から軸ねじれ角を算出してもよい。
【0039】
本実施形態において、振れ幅とは後述する移動平均処理部205が算出した移動平均値と界磁電圧の振幅との差の絶対値である。
【0040】
図4は、回転軸120の軸ねじれ角および界磁電圧の振れ幅の相関関係を説明するための説明図である。図4に示すように、本実施形態では発電電力の出力を上げた場合、回転軸120の軸ねじれ角および界磁電圧振れ幅が上昇し、具体的には軸ねじれ角が約0.005radの場合界磁電圧の振れ幅は約20Vとなった。これにより、回転軸120の軸ねじれ角と界磁電圧は相関関係を有していることがわかる。したがって、予め既知の方法を用いて回転軸120の軸ねじれ角および界磁電圧を測定することにより、回転軸120の軸ねじれ角と界磁電圧の振れ幅の相関関係を得ることができる。例えば、定期点検時や、試運転時等にこの相関関係のデータを得ておき記憶部220に記憶させるとよい。また、本実施形態では界磁電圧の振れ幅と軸ねじれ角の相関関係を利用するが、界磁電圧のPeak to Peak(振幅の2倍)を用いてもよい。
【0041】
本実施形態において軸ねじれ角の許容値は、軸ねじれによって発生する回転軸120に対する応力の最大許容値に基づいて決定している。当該応力は、以下の式1を用いて算出することができる。
【数1】

【0042】
式(1)中、σaは応力の最大許容値、σbは自重曲げによる繰り返し応力、τは軸ねじれの固有振動数における共振時の軸ねじれ応力である。応力の最大許容値σaを超えて長時間運転した場合に回転軸120に応力割れ等が生じるおそれがある。
【0043】
したがって、記憶部220が記憶する軸ねじれ角の許容値を、応力の最大許容値σaにおける軸ねじれ角とすることにより、軸ねじれ角の許容値に基づいて回転軸120が破損するおそれのある応力を認識することができる。本実施形態において、記憶部220が記憶する軸ねじれ角の許容値は、応力の最大許容値σaにおける軸ねじれ角としているが、これに限定されず、安定してタービン104および発電機106を運転できれば足り、回転軸120にかかる応力の最大許容値σaの半値(σa/2)における軸ねじれ角としてもよい(このとき安全率2)。
【0044】
本実施形態において、記憶部220が記憶する回転軸120の軸ねじれ角の許容値は、回転軸120の中で固有振動数における軸ねじれに対して最も弱い回転軸120である。
【0045】
タービン104が複数ある場合、タービン104それぞれの回転軸120によって軸ねじれ角の許容値が異なる場合がある。したがって、記憶部220が記憶する軸ねじれ角の許容値を固有振動数における軸ねじれに対して最も弱い回転軸120のものとすることにより、それぞれのタービン104および発電機106の回転軸120の中で固有振動数における軸ねじれに対して最も弱い回転軸120を監視することとなり、最も疲労破壊を起こす可能性の高い回転軸120を監視することができる。
【0046】
移動平均処理部205は、界磁電圧測定部204が測定した界磁電圧を、所定期間、移動平均値処理を行い、移動平均値を算出する。所定期間は任意の値とすることができ、例えば5秒とする。
【0047】
振幅検出部206は、界磁電圧測定部204が測定した界磁電圧の振幅を検出する。
【0048】
図5は、発電機の出力および界磁電圧の振幅および移動平均値を説明するための説明図であり、図5中振幅を実線で、移動平均値を点線で示す。図5に示すように移動平均値と界磁電圧の振幅との差の絶対値である振れ幅が100V程度であった場合、振れ幅は100Vとなる。
【0049】
閾値判定部208は、移動平均処理部205によって算出された移動平均値から振幅検出部206が検出した振幅までの振れ幅が許容振れ幅を超えたか否かを判定する。許容振れ幅は、軸ねじれ角の許容値に基づいて定めることができ、例えば軸ねじれ角の許容値(例えば0.01rad)の半値である0.005radに対応する界磁電圧の振れ幅である20Vとしてもよい。
【0050】
上述したように本実施形態において、記憶部220が記憶する軸ねじれ角の許容値を応力の最大許容値σaにおける軸ねじれ角としているため、許容振れ幅は、許容値の半値に対応する値とした。しかし本発明はこれに限定されず、安定してタービン104および発電機106を運転できれば足り、記憶部220が記憶する軸ねじれ角の許容値を応力の最大許容値σaの半値における軸ねじれ角とした場合は、許容振れ幅を軸ねじれ角の許容値に対応させてもよい。
【0051】
回数判定部210は、所定期間内に許容振れ幅を超えた振れ幅が所定回数以上検出されたか否かを判定する。所定期間および所定回数は任意の値とすることができ、例えば所定期間を2分間、許容振れ幅を20V、所定回数を10回とする。
【0052】
これにより、供給先で発生した事故等で継続的でなく振れ幅が増加する場合等他の要因による界磁電圧の振れ幅の増加を検出することがなくなる。
【0053】
ねじれ算出部212は、移動平均処理部205によって算出された移動平均値から振幅検出部206が検出した振幅までの振れ幅と記憶部220に記憶されている界磁電圧の振れ幅と軸ねじれ角に基づいて回転軸120の軸ねじれ角を算出する。本実施形態において、ねじれ算出部212が算出した軸ねじれ角は、後述する表示部224にレベルメータとして表示する。したがって、回転軸120の軸ねじれの経時変化を捉えることができ、軸ねじれの許容値を超える前に軸ねじれを検出することが可能となり、事前に軸ねじれを制振させるための処置を行うことができる。
【0054】
界磁電圧測定部204は、発電機106の回転子の電磁石108に印加される界磁電圧を測定する(図2参照)。
【0055】
上記警報部222は、回数判定部210が所定期間内に所定回数以上許容振れ幅を超えた振幅を検出したと判定した場合警報を発する。
【0056】
これにより、界磁電圧の振れ幅が増加した場合すなわち回転軸120の軸ねじれが発生した場合、確実に報知することができる。
【0057】
上記表示部224は、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)、PDP(Plasma Display Panel)等で構成され、界磁電圧測定部204が測定した界磁電圧、振幅検出部206が検出した界磁電圧の振幅および移動平均処理部205が処理した移動平均値の偏差、振れ幅、閾値判定部208の結果、回数判定部210の結果、ねじれ算出部212が算出した軸ねじれ角を経時的に表示する。
【0058】
(軸ねじれ判定方法)
次に、軸ねじれ判定装置200を用いた軸ねじれ判定方法を説明する。図6は、本実施形態にかかる軸ねじれ判定方法の流れを示したフローチャートである。
【0059】
界磁電圧測定部204が、発電機106の電磁石108に印加される界磁電圧を測定する(S400)。移動平均処理部205は、界磁電圧測定部204が測定した界磁電圧を、所定期間、移動平均値処理を行い移動平均値を算出し(S402)、振幅検出部206は、S400において界磁電圧測定部204が測定した界磁電圧の振幅を検出し(S404)、算出された移動平均値から振幅検出部が検出した振幅までの振れ幅または波形と記憶部220を参照して(S406)、界磁電圧の振れ幅と算出した軸ねじれ角を表示部224に表示する(S408)。
【0060】
移動平均処理部205によって算出された移動平均値から振幅検出部206が検出した振幅までの振れ幅が回転軸の軸ねじれ角の許容値に基づいて定められた界磁電圧の許容振れ幅を超えたか否かを判定する(S410)。さらに回数判定部210が、所定期間内に許容振れ幅を超えた振れ幅が所定回数以上検出されたか否かを判定する(S412)。S412において回数判定部210が所定期間内に所定回数以上許容振れ幅を超えた振れ幅を検出したと判定した場合、警報部222が警報を発する(S414)。
【0061】
上述した如く、タービン104もしくは発電機106のいずれかまたは両方の回転軸120の軸ねじれ角は、界磁電圧の振れ幅と相関関係を有するため、予め回転軸120の軸ねじれ角に対する界磁電圧の振幅を既知の装置を利用して測定しておけば、界磁電圧の振れ幅を検出するだけで、回転軸120の軸ねじれ角を非接触で確実に検出することができる。また、発電所において界磁電圧は常に監視しているものであるため、これを利用することにより、簡単かつ迅速に軸ねじれを検出することができる。したがって、既知の装置を常設する必要がなくなるため、コストを削減することが可能となる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
なお、本明細書の軸ねじれ判定方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、軸ねじれ判定装置及び軸ねじれ判定方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】軸ねじれ判定装置を利用する施設の例としての火力発電所の全体構成を説明する説明図である。
【図2】発電機を説明するための説明図である。
【図3】本実施形態にかかる軸ねじれ判定装置の概略的な機能を示した機能ブロック図である。
【図4】回転軸の軸ねじれ角および界磁電圧の振れ幅の相関関係を説明するための説明図である。
【図5】界磁電圧の振幅を説明するための説明図である。
【図6】本実施形態にかかる軸ねじれ判定方法の流れを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
100 …火力発電所、102 …燃焼機、104 …タービン、106 …発電機、
108 …電磁石、110 …コイル、112 …界磁電圧印加部、114 …復水器
120 …回転軸、200 …軸ねじれ判定装置、202 …検出装置制御部、204 …界磁電圧測定部、205 …移動平均処理部、206 …振幅検出部、208 …閾値判定部、210 …回数判定部、212 …ねじれ算出部、220 …記憶部、222 …警報部、224 …表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸の軸ねじれを判定する軸ねじれ判定装置であって、
前記発電機の回転子の電磁石に印加される界磁電圧を測定する界磁電圧測定部と、
前記回転軸の軸ねじれ角の許容値に基づいて予め定められた前記界磁電圧の許容振れ幅を記憶する記憶部と、
前記界磁電圧測定部が測定した界磁電圧に対して移動平均処理を行い移動平均値を算出する移動平均処理部と、
前記界磁電圧測定部が測定した界磁電圧の振幅を検出する振幅検出部と、
前記算出された移動平均値から前記振幅検出部が検出した振幅までの振れ幅が前記許容振れ幅を超えたか否かを判定する閾値判定部と、を備えたことを特徴とする軸ねじれ判定装置。
【請求項2】
前記タービンは複数あり、前記複数のタービンと前記発電機とはそれぞれ回転軸で連結されており、
前記記憶部が記憶する許容振れ幅は、前記回転軸の中で固有振動数における軸ねじれに対して最も弱い回転軸の軸ねじれ角の許容値に基づいて定められていることを特徴とする請求項1に記載の軸ねじれ判定装置。
【請求項3】
前記軸ねじれ判定装置は、さらに、
所定期間内に前記許容振れ幅を超えた振れ幅が所定回数以上検出されたか否かを判定する回数判定部と、
前記回数判定部が前記所定期間内に前記所定回数以上前記許容振れ幅を超えた振れ幅を検出したと判定した場合に警報を発する警報部と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の軸ねじれ判定装置。
【請求項4】
発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸の軸ねじれを判定する軸ねじれ判定装置であって、
前記発電機の回転子の電磁石に印加される界磁電圧を測定する界磁電圧測定部と、
前記回転軸の軸ねじれ角の許容値に基づいて予め定められた前記界磁電圧の許容振れ幅を記憶する記憶部と、
前記界磁電圧測定部が測定した界磁電圧に対して移動平均処理を行い移動平均値を算出する移動平均処理部と、
前記界磁電圧測定部が測定した界磁電圧の振幅を検出する振幅検出部と、
前記算出された移動平均値から前記振幅検出部が検出した振幅までの振れ幅に基づき前記記憶部を参照して前記回転軸の軸ねじれ角を算出するねじれ算出部と、
を備えたことを特徴とする軸ねじれ判定装置。
【請求項5】
発電機もしくはタービンのいずれかまたは両方の回転軸の軸ねじれを判定する軸ねじれ判定方法であって、
前記発電機の電磁石に印加される界磁電圧を測定し、
前記測定した界磁電圧に対して移動平均処理を行い移動平均値を算出し、
前記界磁電圧の振幅を検出し、
前記算出された移動平均値から前記振幅検出部が検出した振幅までの振れ幅が前記回転軸の軸ねじれ角の許容値に基づいて予め定められた前記界磁電圧の許容振れ幅を超えたか否かを判定することを特徴とする軸ねじれ判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−228607(P2009−228607A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76952(P2008−76952)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】