説明

軸シール

【課題】耐ダスト性に優れたダストリップを備える軸シールを提供する。
【解決手段】軸シール200は、補強環210と、シール部220と、から構成される。シール部220は、オイルリップ230と、ダストリップ240とから構成され、ダストリップ240は、先端が軸の外周面に向かって突出する構成を有し、大気からダストの浸入を抑制する。ダストリップ240は補強環210より剛性の弱い補強材300が内在することにより、ダストリップ240の経時的劣化を抑制する。従って、ダストリップ240の耐ダスト性の低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダストリップを備える軸シールに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の上下振動を減衰するショックアブソーバには、振動を吸収するための粘性の高いオイルが封入されている。軸の外周面に動く状態で接触することでオイルを封止する軸シールは、シリンダ内からオイルの漏出を抑制するオイルリップと、大気からダストの浸入を抑制するダストリップと、から構成される。ダストリップの耐ダスト性を向上させるために、ダストリップの大気側側面に沿ってダストを径方向外側に排出するためのダスト排出路を設けた技術が開示されている。(例えば、特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−269712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ダストリップは軸と相対的に動く状態で接触しており、可動することによって劣化してしまう。これより、ダストリップは軸に対する緊迫力及び締代の低下が起こり、耐ダスト性が低下してしまう恐れがあった。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、耐ダスト性に優れたダストリップを備える軸シールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために本発明にかかる軸シールは、軸の外周面に向かって先端が突出し、軸を中心とする環状のダストリップと、前記ダストリップより軸の径方向外側に位置し、軸を中心とする環状の補強環と、前記ダストリップに内在する前記補強環より剛性の弱い補強材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ダストリップに補強材を内在させることにより、耐ダスト性の低下を抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ショックアブソーバの構成の一例を示す全体断面図である。
【図2】ショックアブソーバの構成の一例を示す部分断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる軸シールを示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態にかかるダストリップに内在する補強材を示す側面図である。
【図5】本発明の実施形態にかかるダストリップに内在する補強材を示す上面図である。
【図6】経時的劣化前のダストリップを示す図である。
【図7】経時的劣化後のダストリップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態にかかる軸シールについて図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1はショックアブソーバの構成の一例を示す全体断面図である。ショックアブソーバ100は、自動車のサスペンションを構成する一装置である。ショックアブソーバ100は、ばねによって振動、衝撃を緩衝するシステムにおいて、ばねの特性による周期振動を緩和し収束させる働きをもつ。
【0011】
ショックアブソーバ100は、シリンダ110、ピストン部120、ピストンロッド130、ロッド側オイル室140、ピストン側オイル室150、外筒160、リザーバ170、ベースバルブ180、シリンダヘッド190、軸シール200から構成される。ショックアブソーバ100は、シリンダ110内に減衰力発生機構を設けたピストン部120を介してピストンロッド130が移動自在に挿入される。ピストン部120はシリンダ110内にロッド側オイル室140とピストン側オイル室150とを区画している。
【0012】
外筒160は、シリンダ110の外側に同軸的に配設され、シリンダ110と外筒160との間にはオイル室とガス室とからなるリザーバ170が区画される。リザーバ170はベースバルブ180を介してピストン側オイル室150と連通している。シリンダヘッド190はシリンダ110の上端部に取り付けられる。軸シール200は、外筒160の上端部においてシリンダヘッド190の外周面に取り付けられる。
【0013】
図2は軸シール200周辺におけるショックアブソーバ100の構成の一例を示す部分断面図である。軸シール200は、例えば、補強環210と、シール部220とから構成される。軸シール200はピストンロッド130と同軸的に設けられ、相対的に往復移動するピストンロッド130と外筒160との間隙をシールするためのものである。
【0014】
シール部220は環状の形状であって、内周面がピストンロッド130の外周面に動く状態で接触すると共に、外周面が補強環210によって内側に取り付けられる。シール部220は、補強環210を介して、外筒200と連結されている。
【0015】
補強環210は、シール部220をピストンロッド130に対して動く状態で接触させるために設けられており、剛性の高い材料が用いられる。
【0016】
図3は本発明の実施形態にかかる軸シール200を示す断面図である。シール部220は、ピストンロッド130の外周面に対して動く状態で接触した状態で、シリンダ内からオイルの漏出を抑制するオイルリップ230と、大気からダストの浸入を抑制するダストリップ240とからなる。オイルリップ230及びダストリップ240は、ニトリルゴム(NBR)やフッ素ゴム(FKM)等のゴムで一体的に成形され、ピストンロッド130と同軸的に設置される。
【0017】
オイルリップ230は、ピストンロッド130の外周面に付着したオイルを内部側へかき戻し、ハウジング内に設置されたリザーバ170へ還流させる。オイルリップ230の内周面には、シリンダ内からオイルの漏出を抑制するため、主オイルリップ230a及び副オイルリップ230bが突設されている。
【0018】
主オイルリップ230a及び副オイルリップ230bは、ピストンロッド130の外周面に向かって延びている環状部材であって、主オイルリップ230a及び副オイルリップ230bの断面は三角形状である。主オイルリップ230a及び副オイルリップ230bの最小内径寸法はピストンロッド130の外形寸法よりもわずかに小さくなるよう形成される。主オイルリップ230a及び副オイルリップ230bはピストンロッド130の外周面に対して液密に動く状態で接触する。
【0019】
主オイルリップ230aは、ピストンロッド130とハウジングとの相対的な往復移動に伴い、ピストンロッド130によって引き摺られ変形されることがある。この変形が繰り返されると、主オイルリップ230aのシール性が損なわれる。そこで、主オイルリップ230aの変形を抑制するため、副オイルリップ230bが主オイルリップ230aより側面から視ると上方(大気側)に設置されている。副オイルリップ230bの先端部分におけるシール部220の内径寸法は、主オイルリップ230aの先端部分におけるシール部220の内径寸法よりもわずかに大きく形成されている。
【0020】
オイルリップ230の外周面には、主オイルリップ230aに対応する位置に、バネ環250が装着されている。バネ環250は、例えばガータスプリングであって、ダストリップ240に装着されることもある。バネ環250は、径方向への緊迫力によって、主オイルリップ230aの先端をピストンロッド130の外周面に付勢している。緊迫力とは、ピストンロッド130に軸シール200(すなわち、オイルリップ230及びダストリップ240)を締め付ける径方向の力である。これにより、オイルリップ230とピストンロッド130との密着性を高めることができる。そして、軸シール200の液密性を高めることにより、オイルリップ230はシリンダ内からのオイル漏出を抑制することができる。
【0021】
ダストリップ240は、オイルリップ230よりも側面から視ると上方(大気側)に配置される。ダストリップ240の内周面には、大気からダストの浸入を抑制するため、主ダストリップ240a及び副ダストリップ240bが突設されている。
【0022】
主ダストリップ240a及び副ダストリップ240bは、ピストンロッド130の外周面に向かって延びている環状部材であって、主ダストリップ240a及び副ダストリップ240bの断面は三角形状である。主ダストリップ240a及び副ダストリップ240bの最小内径寸法はピストンロッド130の外形寸法よりもわずかに小さくなるよう形成される。軸の径方向外側に位置する環状の補強環によって、主ダストリップ240a及び副ダストリップ240bはピストンロッド130の外周面に対して相対的に動く状態で接触する。
【0023】
主ダストリップ240aは、ピストンロッド130の径方向の内側、かつ、側面から視ると上方へ斜めに突出し、断面で視ると先端ほど肉薄になる構成を有する。すなわち、主ダストリップ240aは、ピストンロッド130の軸方向に沿って側面から視ると上方に行くほど肉薄になると共にピストンロッド130の外周面に近づく構成を有する。つまり、主ダストリップ240aは、所謂スクレーパタイプのものである。したがって、断面で視ると主ダストリップ240aの先端側は、ピストンロッド130に追従することができる。また、主ダストリップ240aに大きな負荷がかからないように、副ダストリップ240bが主ダストリップ240aよりシリンダ側に設置されている。副ダストリップ240bの先端部分におけるシール部220の内径寸法は、主オイルリップ230aの先端部分におけるシール部220の内径寸法よりもわずかに大きく形成されている。
【0024】
主ダストリップ240aは、特徴的な構成として、図3に示すように、補強環210から主ダストリップ240aの先端に向かって延びる補強材300が内在している。補強材300は、補強環210より剛性が低い材料であり、例えばバネ鋼や樹脂が適切である。ただし、補強材300は補強環210と異なり、適切な弾性が必要となる。すなわち、補強材300は、主ダストリップ240aの弾性を向上することが求められる。
【0025】
補強材300は、側面から視ると図4に示すような形状になっている。また、補強材300は、上面から視ると図5に示すような形状になっている。これらの図のように、補強材300は、補強環210に固着している環状の平面部300a及び環状の平面部300aからピストンロッド130に向かって突出しているバネ部300bとから構成されている。
【0026】
平面部300aは、溶接等により補強環210に固着された後、シール部220を形成するゴムを配されて加硫成形される。これより、シール部220は、補強環210と、補強材300とを各々固定する必要が無く、容易に成形しやすくなる。また、シール部220は補強環210と、補強材300とが一体となっているため、剛性を向上させることができる。
【0027】
バネ部300bは、平面部300aからピストンロッド130の外周面に向かって突出しており、先端に向かって先細りの三角形になっている。図4及び図5に示すように、補強材300は平面部300a及び平面部300aからピストンロッド130に延びる8枚のバネ部300bから構成されている。ただし、バネ部300bは、補強環210からダストリップ240の先端に近づくにつれて剛性が弱くなっていればよく、側面から視ると1枚の台形形状となる円筒部材であってもよい。
【0028】
ダストリップ240に内在する補強材300が平面部300a及びバネ部300bから構成されることにより、ダストリップ240の先端がピストンロッド130に動く状態で接触して可動しても経時的劣化を防ぐことができる。これより、ダストリップ240の形状変化を極力少なくすることにより、耐ダスト性を向上させることができる。
【0029】
周知のダストリップ1240は、図6に示すように、ダストリップ1240とピストンロッドとの締代が所定量(矢印Aで示される長さ)になるように配置されている。ただし、図の一点鎖線は側面から視たピストンロッドの外周面を示している。締代とは、側面から視てピストンロッドとダストリップ1240とが径方向に重なる部分の長さである。これより、ダストリップ1240がピストンロッドに対して動く状態で接触させることにより、緊迫力が発生しシリンダ内にダストが浸入することを抑制することができる。
【0030】
しかし、図7に示すように、ショックアブソーバを所定期間使用することにより、ダストリップ1240は初期の形状(鎖線)から経時的に劣化(変形)する(実線)。これより、ダストリップ1240の締代は所定量(矢印Aで示される長さ)から減少してしまう(矢印Bで示される長さ)。従って、締代が減少することによって、緊迫力が減少し、耐ダスト性が減少してしまう恐れがある。
【0031】
これに対し、本発明はダストリップ240に補強材300を内在させることにより、ダストリップ240の経時的劣化を抑制することができる。これより、ダストリップ240の耐ダスト性の低下を抑制することができる。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0033】
例えば、上記実施形態によれば、補強材300が平面部300a及びバネ部300bから構成されているが、補強材300は平面部300aを持たずバネ部300bのみの構成であってもよい。また、バネ部300bはバネ環250、すなわち、ガータスプリングであってもよい。
【0034】
更に、上記実施形態によれば、シール部220のオイルリップ230及びダストリップ240はそれぞれ主オイルリップ230a及び副オイルリップ230b、主ダストリップ240a及び副ダストリップ240bから構成されているが、オイルリップ230及びダストリップ240はそれぞれ主オイルリップ230a及び主ダストリップ240aのみから構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0035】
200…軸シール、210…補強環、220…シール部、230…オイルシール、230a…主オイルシール、230b…副オイルシール、240…ダストシール、240a…主ダストシール、240b…副ダストシール、300…補強材、300a…平面部、300b…バネ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の外周面に向かって先端が突出し、軸を中心とする環状のダストリップと、
前記ダストリップより軸の径方向外側に位置し、軸を中心とする環状の補強環と、
前記ダストリップに内在する前記補強環より剛性の弱い補強材と、
を備える軸シール。
【請求項2】
前記補強材は前記補強環から前記ダストリップの先端に向かって延びる補強材である請求項1に記載の軸シール。
【請求項3】
前記補強材は前記補強環から前記ダストリップの先端に近づくにつれて剛性が弱くなる補強材である請求項1及び請求項2に記載の軸シール。
【請求項4】
前記補強材はばね環である請求項1に記載の軸シール。
【請求項5】
軸の外周面に向かって先端が突出し、軸を中心とする環状の第1のダストリップと、
前記軸の外周面に向かって先端が突出し、先端部分における内径寸法が前記第1のダストリップの先端部分における内径寸法より小さく、軸を中心とする環状の第2のダストリップと、
前記第1のダストリップ及び前記第2のダストリップより軸の径方向外側に位置し、軸を中心とする環状の補強環と、
前記第1のダストリップに内在する前記補強環より剛性の弱い補強材と、
を備える軸シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−167698(P2012−167698A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27164(P2011−27164)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】