説明

軸受劣化判断方法と装置

【課題】回転体のアンバランス修正において、軸受の劣化によるアンバランス修正精度の低下を防止できるようにすることにある。
【解決手段】影響係数の変動を検出するために変動追跡処理を時間間隔を置いて行う。最初の変動追跡処理で取得した影響係数を初期影響係数とする(S1)。2回目以降に行う各変動追跡処理(S8〜S11)では、当該処理で取得した影響係数と初期影響係数とのずれを求め、このずれが許容値より大きいかどうかを判断する(S9)。この判断に基づいて軸受の劣化を示す劣化通知信号を出力する(S11)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の回転機械の回転体を順に軸受で支持して該回転体のアンバランスデータを取得して該回転体のアンバランスを修正する場合に、このように使用される軸受の劣化を判断する軸受劣化判断方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械は、例えば、流体と力を及ぼし合う回転翼が回転体に設けられた流体機械である。流体機械には、原動機と被動機がある。原動機は、流体が回転翼に作用させる圧力により回転体が回転駆動されることで、流体の持つエネルギーを回転運動エネルギーに変換する。原動機としては、例えば、ガスタービン(軸流タービン、ラジアルタービン)がある。被動機は、回転駆動されている回転翼が流体に圧力を作用させることで、回転運動エネルギーを流体に与える。被動機としては、例えば、圧縮機(遠心圧縮機、航空エンジンなどに設けられる軸流圧縮機、斜流圧縮機、横流圧縮機、ポンプ)がある。また、流体機械には、原動機と被動機の両方の機能を持つ過給機もある。なお、本願において、回転機械は、流体機械に限定されない。
【0003】
回転体のアンバランス修正に影響係数が用いられる。影響係数は、回転機械に設けられる回転体のバランス変化に対する回転体の振動変化を示す。影響係数は、回転体のバランスを修正する前に予め取得される。
【0004】
影響係数は、例えば、次のように試し錘を使用して求めることができる。まず、試し錘を使用せずに、回転体を回転させ、回転体を支持する支持体の振動を計測する。次に、試し錘を回転体に取り付けて、回転体を回転させ、回転体を支持する支持体の振動を計測する。その上で、試し錘を使用しない時の振動と、試し錘を取り付けた時の振動と、試し錘の質量および取付位置とから、影響係数を算出する。なお、影響係数の算出に使用する振動は、回転体の回転速度(即ち、1秒間での回転数)と同じ周波数成分の振動であるのがよい。
【0005】
このように取得した影響係数を用いて、次のように回転体のアンバランスを計測して修正する。まず、軸受で支持した回転体を回転させた状態で、当該回転により生じる振動に基づいて振動データを生成する。次いで、この振動データと上述の影響係数とに基づいて、回転体のアンバランスデータを算出する。このアンバランスデータが示す修正位置において、アンバランスデータが示す質量だけ回転体を切削する。これにより、回転体のバランスを修正する。このようなアンバランス修正方法は、影響係数法といい、例えば、下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−102049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
同一の機種である複数の回転機械に対し、上述のアンバランス計測を繰り返し行う場合、上述の軸受が劣化(例えば、摩耗)してくると、アンバランス計測を精度よく行えなくなる。すなわち、軸受が劣化してくると、軸受で支持した回転体を回転させた時の振動が、回転体のアンバランスに起因するだけでなく、軸受の劣化にも起因することになるので、アンバランス計測を精度よく行えない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、軸受の劣化によるアンバランス計測精度の低下を防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、複数の回転機械の回転体を順に軸受で支持して該回転体のアンバランスデータを取得することにおいて、前記軸受で支持された回転体のバランス変化に対する該回転体の振動変化を示すデータを影響係数として、影響係数の変動を検出する変動追跡処理を時間間隔をおいて繰り返し行い、この変動に基づいて前記軸受の劣化を判断する軸受劣化判断方法であって、
前記各変動追跡処理では、
(A)前記軸受で支持した回転体を回転させ、当該回転により生じる振動に基づいて振動データを生成し、
(B)前記回転体にバランス変化を与え、
(C)前記軸受で支持した前記回転体を回転させ、当該回転により生じる振動に基づいて振動データを生成し、
(D)前記(A)と(C)で生成した振動データと、前記(B)で与えたバランス変化とに基づいて、前記回転体の影響係数を算出し、
最初に行った前記変動追跡処理の前記(D)で算出した影響係数を初期影響係数として、2回目以降に行う前記各変動追跡処理では、さらに、
(E)当該変動追跡処理の前記(D)で算出した影響係数と初期影響係数とのずれを求め、このずれが許容値より大きいかどうかを判断し、
(F)当該判断に基づいて前記軸受の劣化を示す劣化通知信号を出力する、ことを特徴とする軸受劣化判断方法が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によると、前記(E)において、前記ずれが前記許容値よりも大きいと判断する度に、当該判断をした回数であるカウント数を1つ増やし、
前記カウント数が、予め設定した回数に達したら、前記(F)において前記劣化通知信号を出力する。
【0011】
本発明の別の実施形態によると、前記(E)において、前記ずれが前記許容値よりも大きいと判断したら前記(F)において前記劣化通知信号を出力する。
【0012】
好ましくは、影響係数取得用の同じ回転体を用いて前記各変動追跡処理を行う。
【0013】
また、上述の目的を達成するため、本発明によると、複数の回転機械の回転体を順に軸受で支持して該回転体のアンバランスデータを取得することにおいて、前記軸受で支持された回転体のバランス変化に対する該回転体の振動変化を示すデータを影響係数として、影響係数の変動を検出する変動追跡処理を時間間隔をおいて繰り返し行い、この変動に基づいて前記軸受の劣化を判断するために使用される軸受劣化判断装置であって、
影響係数の前記変動を取得するための影響係数変動データ取得装置と、
前記変動に基づいて、前記軸受の劣化を判断する劣化判断部と、を備え、
前記影響係数変動データ取得装置は、前記各変動追跡処理において、
(a)前記軸受で支持した回転体を回転させることで生じる振動に基づいて振動データを生成し、
(b)バランス変化が与えられ前記軸受で支持された前記回転体を回転させることで生じる振動に基づいて振動データを生成し、
(c)前記(a)と(b)で生成された振動データと、前記(b)で与えられた前記バランス変化とに基づいて、前記回転体の影響係数を算出し、
最初に行った前記変動追跡処理の前記(c)で算出した影響係数を初期影響係数として、前記劣化判断部は、2回目以降に行う前記各変動追跡処理について、
(d)当該変動追跡処理の前記(c)で算出した影響係数と初期影響係数とのずれを求め、このずれが許容値より大きいかどうかを判断し、
(e)当該判断に基づいて前記軸受の劣化を示す劣化通知信号を出力する、ことを特徴とする軸受劣化判断装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明によると、影響係数の変動を検出するために変動追跡処理を時間間隔を置いて行うようにし、最初の変動追跡処理で取得した影響係数を初期影響係数とし、2回目以降に行う前記各変動追跡処理では、当該処理で取得した影響係数と初期影響係数とのずれを求め、このずれが許容値より大きいかどうかを判断し、当該判断に基づいて前記軸受の劣化を示す劣化通知信号を出力するので、この劣化通知信号により軸受が劣化したと判断できる。
よって、このように軸受が劣化したと判断したら、例えば、軸受を新しいものに交換することで、軸受の劣化によるアンバランス計測精度の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の軸受劣化判断方法に使用可能な軸受劣化判断装置を示す。
【図2】振動データの説明図である。
【図3】本発明の第1実施形態または第2実施形態による軸受劣化判断方法を示すフローチャートである。
【図4】(A)は、第1実施形態における影響係数取得方法を示し、(B)は、第2実施形態における影響係数取得方法を示す。
【図5】回転体を支持する軸受として気体軸受を用いる場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図1(A)は、回転機械に設けられる回転体13のアンバランスを修正するアンバランス修正装置20を示す。図1(B)は、図1(A)のB−B矢視図である。
アンバランス修正装置20は、軸受劣化判断装置10と除去加工装置11を備える。
【0018】
軸受劣化判断装置10は、後述する第1実施形態または第2実施形態におけるアンバランス修正中での軸受劣化判断方法に使用される。すなわち、軸受劣化判断装置10は、複数の回転機械毎に、当該回転機械の回転体13のアンバランスを修正するために、当該回転体13を軸受3aで支持した状態で回転させ、これにより生じる振動に基づいて当該回転体13のアンバランスデータを取得する場合に、前記軸受3aの劣化を判断するために使用される。より具体的には、軸受劣化判断装置10は、回転体13のアンバランスデータの取得に用いる影響係数の変動を検出する変動追跡処理を時間間隔を置いて繰り返し行い、この変動に基づいて前記軸受3aの劣化を判断するために使用される。なお、回転体13は、例えば、ガスタービンの回転体であってよいが、他の回転機械(例えば、過給機)の回転体であってもよい。
【0019】
軸受劣化判断装置10は、影響係数変動データ取得装置10a、劣化判断部10bおよび劣化通知装置10cを備える。
【0020】
影響係数変動データ取得装置10aは、影響係数の変動を取得するためのものである。すなわち、影響係数変動データ取得装置10aは、前記各変動追跡処理において、後述の図4(A)または図4(B)のフローチャートのように、(a)前記軸受3aで支持した回転体13を回転させることで生じる振動に基づいて振動データを生成し、(b)バランス変化が与えられ前記軸受3aで支持された前記回転体13を回転させることで生じる振動に基づいて振動データを生成し、(c)前記(a)と(b)で生成された振動データと、前記(b)で与えられた前記バランス変化とに基づいて、前記回転体13の影響係数を算出する。なお、最初に行った前記変動追跡処理の前記(c)で算出した影響係数を初期影響係数とする。
【0021】
劣化判断部10bは、2回目以降に行う前記各変動追跡処理について、(d)当該変動追跡処理の前記(c)で算出した影響係数と初期影響係数とのずれを求め、このずれが許容値より大きいかどうかを判断し、(e)当該判断に基づいて前記軸受3aの劣化を示す劣化通知信号を劣化通知装置10cへ出力する。
【0022】
劣化通知装置10cは、劣化通知信号を受けることで劣化通知を実行する。劣化通知装置10cは、例えば、劣化通知用の光を発することで劣化通知を実行する発光装置、劣化通知用の音を発することで劣化通知を実行する音発生器、または、劣化通知用の表示をすることで劣化通知を実行するディスプレイ装置であってよい。
【0023】
影響係数変動データ取得装置10aは、支持体3、第1の振動センサ5a、第2の振動センサ5b、角度センサ7および演算装置9を備える。
【0024】
支持体3は、軸受3aを有し、軸受3aを介して、回転機械の回転体13を回転自在に支持する。すなわち、回転体13は、支持体3の軸受3aにより支持された状態で、回転体13の中心軸C回りに回転可能である。
【0025】
第1および第2の振動センサ5a,5bは、支持体3に取り付けられる。振動センサ5a,5bは、回転体13が回転している状態で、支持体3の振動(即ち、加速度、速度、変位、または荷重)を計測し、該振動を示す振動信号を演算装置9に出力する。振動センサ5a,5bとして、影響係数の取得に使用可能な公知のセンサを使用できる。
図1では、第1および第2の振動センサ5a,5bが、支持体3において互いに異なる位置に取り付けられている。
【0026】
角度センサ7は、回転体13の回転角を計測し、該回転角を示す回転角信号を演算装置9に出力する。この回転角は、回転体13が1回転することでゼロ度〜360度まで変化する。角度センサ7は、例えば、光電式のロータリーエンコーダや磁気式のロータリーエンコーダであってよい。
【0027】
演算装置9は、前記振動信号(計測された振動)と前記回転角信号(計測された回転角)に基づいて振動データを生成する。振動データは、振動の振幅と位相θからなる。図2(A)は、振動の振幅と位相θを示す。図2(A)において、横軸は、角度センサ7により計測された回転体13の回転角を示し、縦軸は、振動センサ5aまたは5bにより検出された振動のうち1次振動の強度を示す。1次振動は、回転体13の回転速度と同じ周波数成分の振動である。即ち、1次振動は、振動センサ5aまたは5bによる振動計測時における回転体13の回転速度(1秒間での回転数)と同じ周波数[Hz]の成分を、振動センサ5aまたは5bが出力した前記振動信号から抽出した振動である。図2(A)において、位相θは、基準回転角(図2(A)の例では、ゼロ度)に対する1次振動のずれを示す。即ち、位相θは、基準回転角に対する、1次振動の周期の始点となる回転角のずれを示す。
振動データを、複素数で表す。図2(B)は、複素数で表した振動データを示す。図2(B)のように、1次振動の振幅の大きさ(絶対値)をRとし、上述の位相θを偏角として、振動データは複素数で表わされる(以下、同様)。演算装置9は、振動センサ5aまたは5bからの振動信号と角度センサ7からの回転角信号から、複素数の振動データを生成する(以下、同様)。
【0028】
除去加工装置11は、回転体13の修正対象部13aまたは13bを切削する切削工具11a(例えば、エンドミル)と、該切削工具11aを3次元的(例えば、図1(A)の互いに直交するX軸方向、Y軸方向、Z軸方向)に移動させる駆動機構11bと、該駆動機構11bの動作を制御することで切削工具11aの位置を制御する位置制御部11cとを有する。位置制御部11cは、入力されるアンバランスデータに従って修正対象部13aまたは13bを切削する。
なお、第1および第2の修正対象部13aおよび13bは、回転体13の中心軸C方向に関する位置が互いに異なっている。
【0029】
以下において、アンバランス修正方法(軸受劣化判断方法)の第1実施形態と第2実施形態を順に説明する。
好ましくは、第1実施形態は、中心軸C方向の長さが短い回転体13を対象とし、第2実施形態は、中心軸C方向に長い回転体13を対象とする。また、第1実施形態では、1つの振動センサ5aを使用し、第2実施形態では、第1および第2の振動センサ5a,5bを使用する。
【0030】
[第1実施形態]
図3は、上述したアンバランス修正装置20を用いた第1実施形態によるアンバランス修正方法を示すフローチャートである。第1実施形態によるアンバランス修正方法の実行中に、上述した軸受劣化判断装置10により第1実施形態による軸受劣化判断方法(変動追跡処理)が実行される。
なお、第1実施形態による軸受劣化判断方法(すなわち、変動追跡処理)は、後述するステップS1およびステップS8〜S11からなる。
【0031】
ステップS1において、影響係数αを取得する。なお、ステップS1で取得する影響係数を、以下において初期影響係数という。
ステップS1では、後で行うステップS2で使用する軸受3aにより影響係数取得用の回転体13を回転自在に支持するように当該回転体13を支持体3に設置し、この状態で、ステップS1(すなわち、ステップS21、S22)において回転体13を回転させる。
【0032】
影響係数取得用の回転体13は、後述のステップS2やS3で使用する回転体13の回転機械と同じ機種の回転機械のものであるが、以降に繰り返して行うステップS1やS8でも使用する。これにより、ステップS1やS8で取得する影響係数の変動要因を減らすことができる。
また、影響係数取得用の回転体13は、後述のステップS2、S3で使用する回転体13と異なる。
【0033】
ステップS1は、図4(A)に示すステップS21〜S23を有する。
【0034】
ステップS21では、軸受3aで支持した回転体13を回転させている時に、振動センサ5aが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。
また、ステップS21では、このように振動センサ5aが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、振動データaを生成する。
【0035】
ステップS22では、回転体13における第1の修正対象部13aにバランス変化ΔMを与え、バランス変化ΔMを与えられた回転体13を軸受3aで支持し、この状態で回転体13を回転させる。この回転時に、振動センサ5aが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。この例では、回転体13における第1の修正対象部13aに試し錘を取り付けることで、第1の修正対象部13aにバランス変化を与える。
また、ステップS22では、このように振動センサ5aが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、振動データaを生成する。
【0036】
ステップS23において、ステップS21で生成した振動データaと、ステップS22で生成した振動データaと、ステップS22で与えたバランス変化ΔMとに基づいて、演算装置9により影響係数αを算出する。この算出は、次式(1)により行われる。

α=(a−a)/ΔM ・・・(1)

【0037】
上式(1)におけるΔMは、次式(2)で表わされる。

ΔM=A(cosθ+jsinθ) ・・・(2)

ここで、jは虚数単位であり、Aは、ステップS22で第1の修正対象部13aに取り付けた試し錘の質量と、第1の修正対象部13aにおいて当該試し錘を取り付けた位置と回転体13の中心軸Cとの距離との積であり、θは、回転体13において当該試し錘を取り付けた周方向位置(中心軸C回り方向における位置。以下同様)を示す位相である。なお、θの原点は、角度センサ7による検出回転角の原点と一致する。
【0038】
ステップS2において、アンバランス修正対象の回転機械の回転体13を軸受3aで支持する。すなわち、当該回転体13を、ステップS1で使用した軸受3aで回転自在に支持するように支持体3に設置する。この状態で次のステップS3を行う。
【0039】
ステップS3において、回転機械の回転体13を回転させ、この状態で、振動センサ5aが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。このように振動センサ5aが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、振動データaを生成する。
【0040】
ステップS4において、ステップS1で取得した初期影響係数と、ステップS3で生成した振動データaとに基づいて、演算装置9が、次式(3)により、第1および第2のアンバランスデータUを算出する。

U=a/α ・・・(3)

【0041】
ステップS5において、演算装置9は、ステップS4で算出したアンバランスデータUが示すアンバランス量が、しきい値以下であるかを判断する。
【0042】
ステップS5における前記判断が、YESである場合には、現在対象としている回転体13のアンバランス修正を終了してステップS7へ進む。
一方、ステップS5における判断がNOである場合には、ステップS6へ進む。
【0043】
ステップS6において、ステップS4で算出したアンバランスデータUが示す除去加工位置と除去加工量に基づいて、回転体13の第1の修正対象部13aを除去加工(切削)する。
【0044】
ステップS6における第1の修正対象部13aの除去加工は、次のように行われる。ステップS4で算出したアンバランスデータUは、演算装置9から位置制御部11cに入力される。位置制御部11cは、このアンバランスデータUに基づいて駆動機構11bを制御することで切削工具11aを移動させ、これにより、修正対象部13aがアンバランスデータUに従って除去加工される。
Aを絶対値とし、偏角をθとし、jを虚数単位として、アンバランスデータUを次式(4)で表す。

U=A(cosθ+jsinθ) ・・・(4)

ここで、Aは、アンバランス量を示し、Aはxとyの積であるとした場合に、xは、回転体13の中心軸CからステップS6での除去加工位置までの半径方向距離であり、yは、ステップS6で除去加工(切削)する質量である。一方、θは、前記除去加工位置の周方向位置を示す。従って、ステップS6において、切削工具11aは、xとθが示す半径方向位置と周方向位置に位置決めされた状態で、除去加工質量がyになるまで中心軸Cと平行な方向に移動する。この時、位置制御部11cは、切削工具11aの寸法や修正対象部13aの密度などに基づいて、切削工具11aを中心軸Cと平行な方向に移動させる距離を算出し、該距離に基づいて駆動機構11bを制御する。
なお、ステップS6の除去加工を、切削対象の回転体13が支持体3に支持された状態で行ってもよいし、別の場所で行ってもよい。前者の場合、位置制御部11cは、角度センサ7の回転角に基づいて、中心軸C回り方向に関して切削工具11aを前記周方向位置に位置決めしてよい。また、第1の修正対象部13aの除去加工では、例えば、回転体13における修正対象部13aと反対側の軸方向端部を、適宜の手段で把持して回転体13が回転しないようにしておくのがよい。
【0045】
ステップS6を行ったら、ステップS3へ戻る。
【0046】
ステップS7において、影響係数を前回取得してから設定時間以上経過したかを判断する。すなわち、ステップS1またはS8を前回行ってから設定時間以上経過したかを判断する。この設定時間は、例えば、半日、1日、1週間などであってもよい。
【0047】
ステップS7における前記判断が、YESである場合には、ステップS8へ進む。
一方、ステップS7の判断がNOである場合には、ステップS2へ戻る。この場合、戻ったステップS2では、前回のステップS1やS3で使用した軸受3aで次の回転体13を支持するように当該回転体13を支持体3に設置する。この状態で次のステップS3を行う。以降の処理は、上述と同じである。
【0048】
ステップS8において、影響係数βを取得する。
ステップS8では、前回のステップS1やS3で使用した軸受3aで影響係数取得用の回転体13を支持するように当該回転体13を支持体3に設置し、この状態で、ステップS8を行う。
ステップS8は、上述したステップS21〜S23を有する。すなわち、ステップS8では、ステップS1と同じ処理を行う。
【0049】
ステップS9において、劣化判断部10bにより、ステップS1で取得した初期影響係数αとステップS8で取得した影響係数βとのずれDを求め、このずれDが許容値より大きいかどうかを判断する。
【0050】
具体的には、以下のようにする。
次式(5)により前記ずれDを算出する。式(5)において||は絶対値を意味する。

D=|β−α| ・・・(5)

【0051】
また、前回のステップS1を行った以降において、劣化判断部10bにより、ステップS9でYESと判断した回数をカウントする。すなわち、ステップS9において、劣化判断部10bは、前記ずれが前記許容値よりも大きいと判断する度に、当該判断をした回数であるカウント数を1つ増やす。このカウント数は、ステップS1に戻る度に0にリセットされる。
【0052】
ステップS9における前記判断が、YESである場合には、ステップS10へ進む。
一方、ステップS9における判断がNOである場合には、ステップS12へ進む。
【0053】
ステップS10において、劣化判断部10bにより、上述のカウント数が、予め設定した回数(2以上の整数)に達したかどうかを判断する。これにより、信頼性の高い劣化通知信号を後述のステップS11で出力できる。
【0054】
ステップS10における前記判断が、YESである場合には、ステップS11へ進む。
一方、ステップS10における判断がNOである場合には、ステップS12へ進む。
【0055】
ステップS11において、劣化判断部10bは、劣化通知信号を劣化通知装置10cへ出力し、これにより、劣化通知装置10cは、劣化通知を実行する。この劣化通知に基づいて、作業者が、ステップS2で使用する軸受3aを新しい軸受3aに交換する。すなわち、支持体3に取り付けられていた軸受3aを新しい軸受3aに交換する。なお、ステップS11では、支持体3と軸受3aの両方を新しい支持体3と軸受3aに交換してもよい。
【0056】
従って、以降において、新しい軸受3aが取り付けられた支持体3を用いてステップS1、S2、S3およびS8を行う。
ステップS11を行ったら、次に、ステップS1へ戻る。
【0057】
ステップS12において、支持体3に取り付けられている軸受3aを交換せずに、前回のステップS1、S2、S3およびS8で使用した当該軸受3aを、以降のステップS2、S3およびS8においても使用することにする。ステップS12の次に、ステップS2へ戻る。この場合、戻ったステップS2では、前回のステップS1、S2、S3およびS8で使用した軸受3aで次の回転機械の回転体13を回転自在に支持するように当該回転体13を支持体3に設置する。この状態で次のステップS3を行う。今回のステップS2で設置する次の回転体13は、前回のステップS2で設置した回転体13の回転機械と同じ機種であるが別の回転機械に設けられるものである。以降の処理は、上述と同じである。
【0058】
[第2実施形態]
図3は、上述したアンバランス修正装置20を用いた第2実施形態によるアンバランス修正方法を示すフローチャートでもある。第2実施形態によるアンバランス修正方法の実行中に、上述し軸受劣化判断装置10により第2実施形態による軸受劣化判断方法(変動追跡処理)が実行される。
なお、第2実施形態による軸受劣化判断方法(すなわち、変動追跡処理)は、後述するステップS1およびステップS8〜S11からなる。
【0059】
ステップS1において、影響係数を取得する。なお、ステップS1で取得する影響係数を、以下において初期影響係数という。
ステップS1では、後で行うステップS2で使用する軸受3aにより影響係数取得用の回転体13を回転自在に支持するように当該回転体13を支持体3に設置する。この状態で、ステップS1(すなわち、ステップS31〜S33)において回転体13を回転させる。
【0060】
影響係数取得用の回転体13は、後述のステップS2やS3で使用する回転体13の回転機械と同じ機種の回転機械のものであるが、以降に繰り返して行うステップS1やS8でも使用する。
また、影響係数取得用の回転体13は、後述のステップS2、S3で使用する回転体13と異なる。
【0061】
ステップS1は、図4(B)に示すステップステップS31〜S34を有する。
【0062】
ステップS31では、軸受3aで支持した回転体13を回転させている時に、第1および第2の振動センサ5a,5bが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。
また、ステップS31では、このように第1の振動センサ5aが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、第1の振動データap0を生成するとともに、このように第2の振動センサ5bが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、第2の振動データaq0を生成する。
【0063】
ステップS32では、回転体13における第1の修正対象部13aにバランス変化ΔMTbを与え、このバランス変化ΔMTbを与えられ、軸受3aで支持した回転体13を回転させる。この回転時に、第1および第2の振動センサ5a,5bが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。この例では、回転体13における第1の修正対象部13aのみに試し錘を取り付けることで、第1の修正対象部13aにバランス変化ΔMTbを与える。
また、ステップS32では、このように第1の振動センサ5aが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、第1の振動データapbを生成するとともに、このように第2の振動センサ5bが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、第2の振動データaqbを生成する。
【0064】
ステップS33では、回転体13における第2の修正対象部13bにバランス変化ΔMTdを与え、このバランス変化ΔMTdを与えられ、軸受3aで支持した回転体13を回転させる。この回転時に、第1および第2の振動センサ5a,5bが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。この例では、回転体13における第2の修正対象部13bのみに試し錘を取り付けることで、第2の修正対象部13bにバランス変化ΔMTdを与える。
また、ステップS33では、このように第1の振動センサ5aが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、第1の振動データapdを生成するとともに、このように第2の振動センサ5bが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、第2の振動データaqdを生成する。
【0065】
ステップS34において、ステップS31で生成した第1および第2の振動データap0、aq0と、ステップS32で生成した第1および第2の振動データapb、aqbと、ステップS33で生成した第1および第2の振動データapd、aqdと、ステップS32で与えたバランス変化ΔMTbと、ステップS33で与えたバランス変化ΔMTdとに基づいて、影響係数α1,b、α1,d、α2,b、α2,dを算出する。この算出は、次の[数1]の式(6)により行われる。
【0066】
【数1】

【0067】
[数1]の式(6)におけるΔMTbは、次式(7)で表わされる。

ΔMTb=ATb(cosθTb+jsinθTb) ・・・(7)

ここで、jは虚数単位であり、ATbは、ステップS32で第1の修正対象部13aに取り付けた試し錘の質量と、第1の修正対象部13aにおいて当該試し錘を取り付けた位置と回転体13の中心軸Cとの距離との積であり、θTbは、回転体13において当該試し錘を取り付けた周方向位置を示す位相である。なお、θTbの原点は、角度センサ7による検出回転角の原点と一致する。
同様に、[数1]の式(6)におけるΔMTdは、次式(8)で表わされる。

ΔMTd=ATd(cosθTd+jsinθTd) ・・・(8)

ここで、jは虚数単位であり、ATdは、ステップS33で第2の修正対象部13bに取り付けた試し錘の質量と、第2の修正対象部13bにおいて当該試し錘を取り付けた位置と回転体13の中心軸Cとの距離との積であり、θTdは、回転体13において当該試し錘を取り付けた周方向位置を示す位相である。なお、θTdの原点は、角度センサ7による検出回転角の原点と一致する。
【0068】
ステップS2において、アンバランス修正対象の回転機械の回転体13を軸受3aで支持する。すなわち、当該回転体13を、ステップS1で使用した軸受3aで回転自在に支持するように支持体3に設置する。この状態で次のステップS3を行う。
【0069】
ステップS3において、回転機械の回転体13を回転させ、この状態で、第1および第2の振動センサ5a,5bが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。このように第1の振動センサ5aが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、第1の振動データap,1を生成するとともに、このように第2の振動センサ5bが計測した振動と角度センサ7が計測した回転角に基づいて、演算装置9が、第2の振動データaq,1を生成する。
【0070】
ステップS4において、ステップS1で取得した初期影響係数α1,b、α1,d、α2,b、α2,dと、ステップS3で生成した第1および第2の振動データap,1、aq,1とに基づいて、演算装置9が、次の[数2]の式(9)により、アンバランスデータU、Uを算出する。
【0071】
【数2】

【0072】
この[数2]の式(9)において、−1は、逆行列を示す。
【0073】
ステップS5において、演算装置9は、ステップS4で算出した第1のアンバランスデータUと、ステップS4で算出した第2のアンバランスデータUとによるアンバランス量が、しきい値以下であるかを判断する。
【0074】
例えば、ステップS4で算出した第1のアンバランスデータUが示すアンバランス量と、ステップS4で算出した第2のアンバランスデータUが示すアンバランス量との和もしくは平均値がしきい値以下であるかを判断する。
または、ステップS4で算出した第1のアンバランスデータUが示すアンバランス量と、ステップS4で算出した第2のアンバランスデータUが示すアンバランス量とのうち大きい方の値がしきい値以下であるかを判断する。
または、ステップS4で算出した第1のアンバランスデータUが示すアンバランス量が、第1のアンバランスデータ用のしきい値以下であり、かつ、ステップS4で算出した第2のアンバランスデータUが示すアンバランス量が、第2のアンバランスデータ用のしきい値以下であるかを判断する。この場合、好ましくは、第1のアンバランスデータ用のしきい値は、第2のアンバランスデータ用のしきい値と異なるのがよい。
【0075】
ステップS5における前記判断が、YESである場合には、現在対象としている回転体13のアンバランス修正を終了してステップS7へ進む。
一方、ステップS5における判断がNOである場合には、ステップS6へ進む。
【0076】
ステップS6において、ステップS4で算出した第1のアンバランスデータUが示す除去加工位置と除去加工量に基づいて、回転体13の第1の修正対象部13aを除去加工(切削)する。なお、ここでの除去加工位置は、回転体13の軸方向先端部分の外周部13a上にあり、図1(B)において一点鎖線L1上にある。図1(B)において、一点鎖線L1上に重複している破線で描いた円は、一点鎖線L1上に位置決めされた状態の切削工具11aを示す。
また、ステップS6において、ステップS4で算出した第2のアンバランスデータUが示す除去加工位置と除去加工量に基づいて、回転体13の第2の修正対象部13bを除去加工(切削)する。なお、ここでの除去加工位置は、回転体13に設けた前記円盤状部材の外周部13b上にあり、図1(B)において一点鎖線L2上にある。図1(B)において、一点鎖線L2上に重複している破線で描いた円は、一点鎖線L2上に位置決めされた状態の切削工具11aを示す。
【0077】
ステップS6における第1の修正対象部13aの除去加工は、第1実施形態のステップS6と同様に行われる。ステップS6における第2の修正対象部13bの除去加工も、第1実施形態のステップS6と同様に行われる。
【0078】
ステップS6を行ったら、ステップS3へ戻る。
【0079】
ステップS7において、影響係数を前回取得してから設定時間以上経過したかを判断する。すなわち、ステップS1またはS8を前回行ってから設定時間以上経過したかを判断する。この設定時間は、例えば、半日、1日、1週間などであってもよい。
【0080】
ステップS7における前記判断が、YESである場合には、ステップS8へ進む。
一方、ステップS7における判断がNOである場合には、ステップS2へ戻る。この場合、戻ったステップS2では、前回のステップS1やS3で使用した軸受3aで次の回転体13を支持するように当該回転体13を支持体3に設置する。この状態で次のステップS3を行う。以降の処理は、上述と同じである。
【0081】
ステップS8において、影響係数を取得する。
ステップS8では、前回のステップS1やS3で使用した軸受3aにより、前記影響係数取得用の回転体13を回転自在に支持するように当該回転体13を支持体3に設置し、この状態で、ステップS8を行う。
ステップS8は、上述したステップS31〜S34を有する。すなわち、ステップS8では、ステップS1と同じ処理を行うことで、次の[数3]の式(11)により影響係数β1,b、β1,d、β2,b、β2,dを算出する。
【0082】
【数3】

【0083】
ステップS9において、劣化判断部10bにより、ステップS1で取得した初期影響係数α1,b、α1,d、α2,b、α2,dとステップS8で取得した影響係数β1,b、β1,d、β2,b、β2,dと初期影響係数とのずれを求め、このずれが許容値より大きいかどうかを判断する。
【0084】
具体的には、以下のようにする。
以下の式(12)〜(15)により、D1,b、D1,d、D2,b、D2,dを算出する。各式(12)〜(15)において||は絶対値を意味する。

1,b = |β1,b−α1,b| ・・・(12)

1,d = |β1,d−α1,d| ・・・(13)

2,b = |β2,b−α2,b| ・・・(14)

2,d = |β2,d−α2,d| ・・・(15)

【0085】
その上で、次の(C1)〜(C3)のいずれかにより、ステップS9の判断を行う。
(C1)D1,b、D1,d、D2,b、D2,dのうち最も大きい値が、前記許容値より大きいかどうかを判断する。
(C2)D1,b、D1,d、D2,b、D2,dの和または平均値が、前記許容値より大きいかどうかを判断する。
(C3)D1,bがD1,b用の許容値より大きく、かつ、D1,dがD1,d用の許容値より大きく、かつ、D2,bがD2,b用の許容値より大きく、かつ、D2,dがD2,d用の許容値より大きいかどうかを判断する。
【0086】
また、前回のステップS1を行った以降において、劣化判断部10bにより、ステップS9でYESと判断した回数をカウントする。すなわち、ステップS9において、劣化判断部10bは、前記ずれが前記許容値よりも大きいと判断する度に、当該判断をした回数であるカウント数を1つ増やす。このカウント数は、ステップS1に戻る度に0にリセットされる。
【0087】
ステップS9における前記判断が、YESである場合には、ステップS10へ進む。
一方、ステップS9における判断がNOである場合には、ステップS12へ進む。
【0088】
ステップS10において、劣化判断部10bにより、上述のカウント数が、予め設定した回数(2以上の整数)に達したかどうかを判断する。
【0089】
ステップS10における前記判断が、YESである場合には、ステップS11へ進む。
一方、ステップS10における判断がNOである場合には、ステップS12へ進む。
【0090】
ステップS11において、劣化判断部10bは、劣化通知信号を劣化通知装置10cへ出力し、これにより、劣化通知装置10cは、劣化通知を実行する。この劣化通知に基づいて、作業者が、ステップS2で使用する軸受3aを新しい軸受3aに交換する。すなわち、支持体3に取り付けられていた軸受3aを新しい軸受3aに交換する。なお、ステップS11では、支持体3と軸受3aの両方を新しい支持体3と軸受3aに交換してもよい。
【0091】
従って、以降において、新しい軸受3aが取り付けられた支持体3を用いてステップS1、S2、S3およびS8を行う。
ステップS11を行ったら、次に、ステップS1へ戻る。
【0092】
ステップS12において、支持体3に取り付けられている軸受3aを交換せずに、前回のステップS1、S2、S3およびS8で使用した当該軸受3aを、以降のステップS2、S3およびS8においても使用することにする。ステップS12の次に、ステップS2へ戻る。この場合、戻ったステップS2では、前回のステップS1、S2およびS3で使用した軸受3aで、次の回転機械の回転体13を回転自在に支持するように当該回転体13を支持体3に設置する。この状態で次のステップS3を行う。今回のステップS2で設置する次の回転体13は、前回のステップS2で設置した回転体13の回転機械と同じ機種であるが別の回転機械に設けられるものである。以降の処理は、上述と同じである。
【0093】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下の変形例1〜9を任意に組み合わせて採用してもよいし、変形例1〜9のいずれかを採用してもよい。この場合、他の点は、上述と同じであってもよいし、適宜変更してもよい。
【0094】
(変形例1)
上述の第1実施形態または第2実施形態において、ステップS10を省略してもよい。この場合には、ステップS9の判断がYESの場合には、ステップS11へ進む。
【0095】
(変形例2)
上述の第2実施形態では、2つの振動センサ5a,5bを支持体3に取り付けていたが、代わりに、1つの振動センサを支持体3に取り付けてもよい。この場合、次のようにステップS1またはステップS8を行う。
【0096】
ステップS31において、回転機械の回転体13を第1の回転速度で回転させ、この状態で、振動センサが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。このように計測した振動と回転角に基づいて、演算装置9が、第1の振動データap0を生成する。
また、ステップS31において、回転機械の回転体13を第1の回転速度と異なる第2の回転速度で回転させ、この状態で、振動センサが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。このように計測した振動と回転角に基づいて、演算装置9が、第2の振動データaq0を生成する。
【0097】
ステップS32では、回転体13における第1の修正対象部13aにバランス変化を与え、このバランス変化を与えられ、軸受3aで支持した回転体13を前記第1の回転速度で回転させる。この回転時に、振動センサが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。このように計測した振動と回転角に基づいて、演算装置9が、第1の振動データapbを生成する。
ステップS32では、第1の振動データapbを生成した場合と同じバランス変化を与えられ、軸受3aで支持した回転体13を前記第2の回転速度で回転させる。この回転時に、振動センサが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。このように計測した振動と回転角に基づいて、演算装置9が、第2の振動データaqbを生成する。
【0098】
ステップS33では、回転体13における第2の修正対象部13bにバランス変化を与え、このバランス変化を与えられ、軸受3aで支持した回転体13を前記第1の回転速度で回転させる。この回転時に、振動センサが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。このように計測した振動と回転角に基づいて、演算装置9が、第1の振動データapdを生成する。
ステップS33では、第1の振動データapdを生成した場合と同じバランス変化を与えられ、軸受3aで支持した回転体13を前記第2の回転速度で回転させる。この回転時に、振動センサが、回転体13を支持する支持体3の振動を計測しながら、角度センサ7が回転角を計測する。このように計測した振動と回転角に基づいて、演算装置9が、第2の振動データaqdを生成する。
【0099】
このように生成した振動データap0、aq0、apb、aqb、apd、aqdが、それぞれ、上述の[数1]または[数3]におけるap0、aq0、apb、aqb、apd、aqdとなる。
【0100】
(変形例3)
上述では、修正対象部13a、13bの除去加工は、軸方向に行われたが、半径方向に行われてもよい。
【0101】
(変形例4)
上述では、初期影響係数を、試し錘を用いて回転体13にバランス変化を与えることで取得したが、初期影響係数を、回転体13を除去加工して回転体13にバランス変化を与えることで取得してもよい。
【0102】
(変形例5)
上述の実施形態では、除去加工装置11は、修正対象部13a、13bを切削することにより修正対象部13a、13bを除去加工したが、代わりに、除去加工装置11は、修正対象部13a、13bにレーザビームを照射して、修正対象部13a、13bを溶融して除去加工するレーザ加工装置であってもよい。この場合、ステップS6の除去加工では、アンバランスデータUの上記xとθが示す修正対象部13a、13b上の半径方向位置と周方向位置(除去加工位置)にレーザビームを照射し除去加工質量が上述したyになるまでレーザ加工を行う。なお、除去加工質量とレーザ加工条件(例えば、レーザビームの照射時間やエネルギー密度)との関係を予め実験で求めておき、この関係に基づいてレーザ加工を行うのがよい。
【0103】
(変形例6)
上述の実施形態では、除去加工装置11は、修正対象部13a、13bを切削することにより修正対象部13a、13bを除去加工したが、代わりに、除去加工装置11は、放電加工で、修正対象部13a、13bを溶融し当該溶融部分を吹き飛ばすことにより修正対象部13a、13bを除去加工する放電加工機であってもよい。この場合、ステップS6の除去加工では、支持体3から回転体13を取り外して、支持体3と別の場所に設けた放電加工機に回転体13を設置し、放電加工機の電極を、アンバランスデータUの上記xとθが示す半径方向位置と周方向位置(除去加工位置)に位置決めした状態で、除去加工質量が上述したyになるまで放電加工を行う。なお、除去加工質量と放電加工条件(例えば、放電時間、放電電圧)との関係を予め実験で求めておき、この関係に基づいて放電加工を行うのがよい。
【0104】
(変形例7)
上述のステップS7において、影響係数を前回取得してから設定時間以上経過したかを判断する代わりに、ステップS1またはS8を前回行ってから、アンバランス処理を実行した回転体13の数が設定数に達したかを判断してもよい。すなわち、ステップS1またはS8を前回行ってからステップS2を行った回数が、設定数に達したかを判断してもよい。
【0105】
(変形例8)
潤滑油が供給される軸受3aの代わりに、気体軸受を用いてもよい。気体軸受15は、図5に示すように、支持体3に組み込まれており、ラジアル軸受面17、スラスト軸受面19、給気孔21、23および排気孔25から構成される。給気孔21はラジアル軸受面17に開口し、給気孔23はスラスト軸受面19に開口する。図示しない気体供給源から給気孔21を通して、加圧気体が、ラジアル軸受面17と回転体13のラジアルジャーナル27との間に供給される。図示しない気体供給源から給気孔23を通して、加圧気体が、スラスト軸受面19と回転体13のスラストジャーナル29との間に供給される。ラジアル軸受面17とラジアルジャーナル27との間に供給された加圧気体により、回転体13のラジアルジャーナル27を支持し、スラスト軸受面19とスラストジャーナル29との間に供給された加圧気体により、回転体13のスラストジャーナル29を支持する。このように、気体軸受15により回転体13を回転自在に支持する。なお、ラジアル軸受面17とラジアルジャーナル27との間に供給された加圧気体は、排気孔25から支持体3の外部に排出される。
【0106】
気体軸受15を用いる場合、ステップS3を行ったら、支持体3から回転体13を取り外し、支持体3とは別の場所にこの回転体13を設置してステップS6の除去加工を行う。
【0107】
ステップS11において、支持体3自体を新しい支持体3に交換することにより、劣化した気体軸受15を新しい気体軸受15に交換する。
なお、気体軸受15の劣化とは、ラジアル軸受面17やスラスト軸受面19が回転体13と擦れて傷ついたり摩耗したりすることを意味する。
【0108】
(変形例9)
回転体13において、複数の回転翼(例えば、タービン翼)が周方向に間隔をおいて設けられている場合には、角度センサ7が検出する回転角の原点を、光電センサと近接センサとにより検出する。
光電センサに関して、この場合、回転体13において、1つの回転翼が位置する、回転軸C周りの周方向位置に光反射部を設ける。光を反射する光反射部は、例えば、塗装によるマーキングである。静止側における前記周方向に関する設置位置に光電センサを設ける。光反射部が、回転体13の回転により前記設置位置に来た時に、光電センサは、前記光反射部を検出して検出信号を出力する。
近接センサは、回転体13の回転により各回転翼が前記設置位置に来た時に、該回転翼を検出できる位置に設けられる。従って、各回転翼が、回転により当該設置位置に来た時に、近接センサも検出信号を出力する。
光電センサと近接センサの両方から検出信号が出力されている時に、角度センサ7が検出する回転角をゼロ(原点)にする。これにより、角度センサ7の回転角検出精度が向上する。例えば、前記塗装の色むら、位置ずれ、剥がれ等により、回転角検出精度の低下を防止できる。
【符号の説明】
【0109】
3 支持体、3a 軸受、5a,5b 振動センサ、7 角度センサ、9 演算装置、10 軸受劣化判断装置、10a 影響係数変動データ取得装置、10b 劣化判断部、10c 劣化通知装置、11 除去加工装置、13 回転体、15 気体軸受、20 アンバランス修正装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の回転機械の回転体を順に軸受で支持して該回転体のアンバランスデータを取得することにおいて、前記軸受で支持された回転体のバランス変化に対する該回転体の振動変化を示すデータを影響係数として、影響係数の変動を検出する変動追跡処理を時間間隔をおいて繰り返し行い、この変動に基づいて前記軸受の劣化を判断する軸受劣化判断方法であって、
前記各変動追跡処理では、
(A)前記軸受で支持した回転体を回転させ、当該回転により生じる振動に基づいて振動データを生成し、
(B)前記回転体にバランス変化を与え、
(C)前記軸受で支持した前記回転体を回転させ、当該回転により生じる振動に基づいて振動データを生成し、
(D)前記(A)と(C)で生成した振動データと、前記(B)で与えたバランス変化とに基づいて、前記回転体の影響係数を算出し、
最初に行った前記変動追跡処理の前記(D)で算出した影響係数を初期影響係数として、2回目以降に行う前記各変動追跡処理では、さらに、
(E)当該変動追跡処理の前記(D)で算出した影響係数と初期影響係数とのずれを求め、このずれが許容値より大きいかどうかを判断し、
(F)当該判断に基づいて前記軸受の劣化を示す劣化通知信号を出力する、ことを特徴とする軸受劣化判断方法。
【請求項2】
前記(E)において、前記ずれが前記許容値よりも大きいと判断する度に、当該判断をした回数であるカウント数を1つ増やし、
前記カウント数が、予め設定した回数に達したら、前記(F)において前記劣化通知信号を出力する、ことを特徴とする請求項1に記載の軸受劣化判断方法。
【請求項3】
前記(E)において、前記ずれが前記許容値よりも大きいと判断したら前記(F)において前記劣化通知信号を出力する、ことを特徴とする請求項1に記載の軸受劣化判断方法。
【請求項4】
影響係数取得用の同じ回転体を用いて前記各変動追跡処理を行う、ことを特徴とする請求項1、2または3に記載の軸受劣化判断方法。
【請求項5】
複数の回転機械の回転体を順に軸受で支持して該回転体のアンバランスデータを取得することにおいて、前記軸受で支持された回転体のバランス変化に対する該回転体の振動変化を示すデータを影響係数として、影響係数の変動を検出する変動追跡処理を時間間隔をおいて繰り返し行い、この変動に基づいて前記軸受の劣化を判断するために使用される軸受劣化判断装置であって、
影響係数の前記変動を取得するための影響係数変動データ取得装置と、
前記変動に基づいて、前記軸受の劣化を判断する劣化判断部と、を備え、
前記影響係数変動データ取得装置は、前記各変動追跡処理において、
(a)前記軸受で支持した回転体を回転させることで生じる振動に基づいて振動データを生成し、
(b)バランス変化が与えられ前記軸受で支持された前記回転体を回転させることで生じる振動に基づいて振動データを生成し、
(c)前記(a)と(b)で生成された振動データと、前記(b)で与えられた前記バランス変化とに基づいて、前記回転体の影響係数を算出し、
最初に行った前記変動追跡処理の前記(c)で算出した影響係数を初期影響係数として、前記劣化判断部は、2回目以降に行う前記各変動追跡処理について、
(d)当該変動追跡処理の前記(c)で算出した影響係数と初期影響係数とのずれを求め、このずれが許容値より大きいかどうかを判断し、
(e)当該判断に基づいて前記軸受の劣化を示す劣化通知信号を出力する、ことを特徴とする軸受劣化判断装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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