説明

軸受用潤滑油組成物

【課題】高温環境下での蒸発量が少なく、かつ幅広い温度領域で低粘度である軸受用潤滑油組成物を提供することにある。
【解決手段】ジエステル(A)とジエステル(B)を含有する軸受用潤滑油であって、(A)が下記一般式(1)で表され総炭素数が22〜26であるジエステルからなる群より選ばれる1種のジエステルであり、総炭素数yを有し、(A)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて90重量%以上100重量%未満であり、(B)がジオールと1価脂肪酸から得られる総炭素数が(y−1)以下であるジエステルであり、(B)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0重量%を超え0.3重量%以下である軸受用潤滑油(X)。
【化1】


[式中、k及びmは5〜7の整数を表し、Aはエチレン基を表し、nは、3〜4の整数を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブなどに使用されるスピンドルモータには、処理スピードの高速化から、年々、高速回転が要求されるようになってきている。軸受の高速回転時の性能(主に回転トルク)は、用いられる潤滑油の粘度によって定まることが多く、回転時のエネルギーロスを低くするために潤滑油の低粘度化が要求されている。また、上述の機器が使用される場所については、機器の大衆化が進み過酷な環境での使用が拡大しているため、寒冷地から炎天下での使用に耐えるものでなければならない。従って、スピンドルモータに用いられる潤滑油は、低温環境下で流動性があり、かつ高温環境下で蒸発損失量が少なく、焼き付きや液漏れが発生しない粘度であり、かつ幅広い温度領域で低粘度であることが要求されている。これらの要求に対して、低粘度、かつ幅広い温度領域で問題なく使用できるエステル系潤滑油が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−232434号公報
【特許文献2】特開2006−193723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の潤滑油は、低温環境下で流動性があり、かつ幅広い温度領域で粘度が低いものの、高温環境下での蒸発量が多いため、長期間の使用において潤滑油量が少なくなりモータの故障を引き起こす問題があった。
【0005】
本発明の目的は、従来の潤滑油に比べて高温環境下での蒸発量が少なく、かつ幅広い温度領域で低粘度である軸受用潤滑油組成物を提供することにある。
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、ジエステル(A)とジエステル(B)を含有する軸受用潤滑油であって、(A)が下記一般式(1)で表され総炭素数が22〜26であるジエステルからなる群より選ばれる1種のジエステルであり、総炭素数yを有し、(A)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて90重量%以上100重量%未満であり、(B)がジオールと1価脂肪酸から得られる総炭素数が(y−1)以下であるジエステルであり、(B)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0重量%を超え0.3重量%以下である軸受用潤滑油(X);さらに酸化防止剤を含有する軸受用潤滑油組成物(K);該潤滑油(X)の製造方法である。
【0007】
【化1】

[式中、k及びmは5〜7の整数を表し、Aはエチレン基を表し、nは、3〜4の整数を表す。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の軸受用潤滑油組成物(K)は、幅広い温度領域で粘度が低く、低温環境下で流動性があり、かつ高温環境下で潤滑油の蒸発損失量が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の軸受用潤滑油組成物(K)の各成分について説明する。
[ジエステル(A)]
本発明のジエステル(A)は、下記一般式(1)で表され総炭素数が22〜26であるジエステルからなる群より選ばれる1種のジエステルであり総炭素数yを有する。(A)は軸受用潤滑油(X)の主成分であり(X)の重量に基づいて90重量%以上100重量%未満(X)中に含有される。
【0010】
【化1】

【0011】
式中、k及びmは5〜7の整数を表し、Aはエチレン基を表し、nは、3〜4の整数を表す。
【0012】
k及びmは、4以下であると蒸発損失量が大きく粘度指数は低くなり、8以上であると粘度が高くなり流動点が高くなる。
【0013】
ジエステル(A)の総炭素数yは、21以下であると蒸発損失量が大きくなり、粘度指数は低くなる。27以上であると粘度が高くなり流動点が高くなる。
【0014】
ジエステル(A)が選ばれる総炭素数が22〜26であるジエステルからなる群の例としては、トリエチレングリコールジn−オクタノエート(総炭素数:22)、テトラエチレングリコールジn−ヘプタノエート(総炭素数:22)、テトラエチレングリコールとn−ヘプタン酸、及びn−オクタン酸とのジエステル(総炭素数:23)、テトラエチレングリコールジn−オクタノエート(総炭素数:24)、テトラエチレングリコールとn−オクタン酸、及びn−ノナン酸とのジエステル(総炭素数:25)、テトラエチレングリコールジn−ノナノエート(総炭素数:26)等である。
【0015】
本発明のジエステル(A)は、ポリアルキレングリコールと一価脂肪酸とを常法に従って、好ましくは窒素等の不活性ガス雰囲気中、常圧または減圧下において、エステル化触媒の存在下または無触媒下で加熱撹拌しながらエステル化し、分別蒸留により精製することより調製することができる。
分別蒸留に使用する分留管としては、ヴィグリュー型、同心円筒型、回転バンド型、充填カラム等の薄膜式分留管や泡鐘型、多孔板型等のプレート式分留管が好適に用いられる。ジエステル(A)は、加熱温度を160℃以上、真空度を2.66×10−1Pa以下の条件で上記分留管を備えた装置を用いることにより分別蒸留することができる。
【0016】
[ジエステル(B)]
本発明の軸受用潤滑油(X)は、ジエステル(A)とジエステル(B)を含有する軸受用潤滑油であって、(A)が下記一般式(1)で表され総炭素数が22〜26であるジエステルからなる群より選ばれる1種のジエステルであり総炭素数yを有し、(B)がジオールと1価脂肪酸から得られる総炭素数が(y−1)以下であるジエステルであり、(B)の含有量がが軸受用潤滑油の重量に基づいて0重量%を超え0.3重量%以下であり、より好ましくは0.001〜0.2重量%であり、さらに好ましくは0.001〜0.1重量%である。ジエステル(B)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0.3重量%を超えると蒸発損失量が高くなる。
(X)が含有するジエステル(B)であって、総炭素数が(y−1)以下のものは、総炭素数が(y−1)と(y−2)のものであって、総炭素数が(y−3)以下のものは通常含有量が非常に少ない。
【0017】
本発明のジエステル(B)は、下記一般式(2)で表されることが好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
式中、p及びrは0〜7の整数を表し、Aはエチレン基を表し、qは、1〜4の整数を表す。
【0020】
ジエステル(B)の具体例としては、ジエステル(A)がトリエチレングリコールジn−オクタノエート(総炭素数:22)の場合、トリエチレングリコールとn−ヘキサン酸、及びn−オクタン酸のジエステル(総炭素数:20)、ジエチレングリコールジn−オクタノエート(総炭素数:20)が挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールジn−ヘプタノエート(総炭素数:22)の場合、テトラエチレングリコールとn−ヘキサン酸、及びn−ヘプタン酸のジエステル(総炭素数:21)、テトラエチレングリコールジn−ヘキサノエート(総炭素数:20)、トリエチレングリコールジn−ヘプタノエート(総炭素数20)が挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールとn−ヘプタン酸、及びn−オクタン酸とのジエステル(総炭素数:23)の場合、テトラエチレングリコールジn−ヘプタノエート(総炭素数:22)、テトラエチレングリコールとn−ヘキサン酸、及びn−オクタン酸のジエステル(総炭素数:22)、テトラエチレングリコールとn−ヘキサン酸、及びn−ヘプタン酸のジエステル(総炭素数:21)、トリエチレングリコールとn−ヘプタン酸、及びn−オクタン酸のジエステル(総炭素数:21)が挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールジn−オクタノエート(総炭素数:24)の場合、テトラエチレングリコールとn−ヘキサン酸、及びn−オクタン酸のジエステル(総炭素数:22)、トリエチレングリコールジn−オクタノエート(総炭素数:22)が挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールとn−オクタン酸、及びn−ノナン酸とのジエステル(総炭素数:25)の場合、テトラエチレングリコールジn−オクタノエート(総炭素数24)、テトラエチレングリコールとn−ヘプタン酸、及びn−ノナン酸のジエステル(総炭素数24)、テトラエチレングリコールとn−ヘプタン酸、及びn−オクタン酸のジエステル(総炭素数:23)、トリエチレングリコールとn−オクタン酸、及びn−ノナン酸のジエステル(総炭素数:23)、(A)がテトラエチレングリコールジn−ノナノエート(総炭素数:26)の場合、テトラエチレングリコールとn−オクタン酸、及びn−ノナン酸のジエステル(総炭素数:25)、テトラエチレングリコールジn−オクタノエート(総炭素数:24)、トリエチレングリコールジn−ノナノエート(総炭素数:24)が挙げられる。
【0021】
[モノエステル(D)]
本発明の軸受用潤滑油(X)は、モノエステル(D)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0.2重量%以下であり、より好ましくは0.15重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以下である。モノエステル(D)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0.2重量%以下であると蒸発損失量が高くならない。
【0022】
本発明のモノエステル(D)は、下記一般式(3)で表される。
【0023】
【化3】

【0024】
式中、sは0〜7の整数を表し、Aはエチレン基を表し、tは、1〜4の整数を表す。
【0025】
モノエステル(D)の具体例としては、ジエステル(A)がトリエチレングリコールジn−オクタノエートの場合、トリエチレングリコールモノn−オクタノエートが挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールジn−ヘプタノエートの場合、テトラエチレングリコールモノn−ヘプタノエートが挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールとn−ヘプタン酸、及びn−オクタン酸とのジエステルの場合、テトラエチレングリコールモノn−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールモノn−オクタノエートが挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールジn−オクタノエートの場合、テトラエチレングリコールモノn−オクタノエートが挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールとn−オクタン酸、及びn−ノナン酸とのジエステルの場合、テトラエチレングリコールモノn−オクタノエート、テトラエチレングリコールモノn−ノナノエートが挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールジn−ノナノエートの場合、テトラエチレングリコールモノn−ノナノエートが挙げられる。
【0026】
[ポリエチレングリコール(E)]
本発明の軸受用潤滑油(X)は、ポリエチレングリコール(E)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0.1重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05重量%以下である。ポリエチレングリコールの含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0.1重量以下であると蒸発損失量が高くならない。
【0027】
本発明のポリエチレングリコール(E)は、下記一般式(4)で表される。
【0028】
【化4】

【0029】
式中、Aはエチレン基を表し、uは、1〜4の整数を表す。
【0030】
ポリエチレングリコール(E)の具体例としては、ジエステル(A)がトリエチレングリコールジn−オクタノエートの場合、トリエチレングリコールが挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールジn−ヘプタノエートの場合、テトラエチレングリコールが挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールとn−ヘプタン酸、及びn−オクタン酸とのジエステルの場合、テトラエチレングリコールが挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールジn−オクタノエートの場合、テトラエチレングリコールが挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールとn−オクタン酸、及びn−ノナン酸とのジエステルの場合、テトラエチレングリコールが挙げられ、(A)がテトラエチレングリコールジn−ノナノエートの場合、テトラエチレングリコールが挙げられる。
【0031】
本発明の軸受用潤滑油(X)の全酸価は、腐食防止性、耐磨耗性、および安定性の観点から、好ましくは0.1mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは0.05mgKOH/g以下である。
【0032】
本発明の軸受用潤滑油(X)の水酸基価は、蒸発損失量の観点から、好ましくは1mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは0.5mgKOH/g以下である。
【0033】
本発明の軸受用潤滑油(X)のヨウ素価は、耐熱性の観点から、好ましくは0.5Ig/100g以下であり、さらに好ましくは0.3Ig/100g以下である。
【0034】
本発明の軸受用潤滑油組成物(K)は、熱・酸化安定性の観点から酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0035】
酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,2’−メチレンビス−4−メチル−6−tert−ブチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]等のフェノール系、N−フェニル−α−ナフチルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジノニルジフェニルアミン、混合ジアルキルジフェニルアミン等のアミン系、フェノチアジン等の硫黄系化合物等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、単独又は組合わせて用いてもよく、酸化防止剤の添加量は軸受用潤滑油組成物(K)の重量に基づいて、好ましくは0.01〜5重量%であり、さらに好ましくは0.01〜3重量%である。
【0036】
本発明の軸受用潤滑油組成物(K)の100℃、40℃、0℃、及び−10℃における動粘度は、以下の範囲であることが好ましい。
100℃における動粘度は、液漏れや焼き付き防止の観点から、好ましくは2.0mm/s以上、さらに好ましくは2.5mm/s以上であり、摩擦損失低減の観点から好ましくは5.0mm/s以下、さらに好ましくは4.5mm/s以下である。
40℃における動粘度は、摩擦損失低減の観点から好ましくは4〜20mm/s、さらに好ましくは4〜15mm/sである。
0℃における動粘度は、低温環境下での摩擦損失低減の観点から好ましくは20〜80mm/s、さらに好ましくは20〜70mm/sである。
−10℃における動粘度は、低温環境下での摩擦損失低減の観点から好ましくは60〜160mm/s、さらに好ましくは60〜140mm/sである。
(K)の粘度指数は、好ましくは100〜300、さらに好ましくは120〜300である。
【0037】
本発明の軸受用潤滑油組成物(K)が含有することができる添加剤としては、酸化防止剤の他に、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄剤、分散剤、油性向上剤、耐磨耗剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤、腐食防止剤、防錆剤、加水分解防止剤、酸化防止剤などが挙げられる。合計添加量は軸受用潤滑組成物(K)の重量に基づいて、好ましくは15重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0038】
本発明の軸受用潤滑油組成物(K)は、特に流体軸受用潤滑油組成物として用いられるのが好ましい。流体軸受とは薄い液体の膜によって支持される軸受であり、具体的にはファンモータ、DCモータ、および磁気ディスク装置、光ディスク装置、光磁気ディスク装置、多面鏡駆動装置などのスピンドルモータ等に使用される軸受である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されない。以下において部は重量部、%は重量%を示す。
【0040】
実施例1
軸受用潤滑油(X−1)
撹拌装置、温度計、窒素導入管、および冷却管付き水分分留受器を備えた反応容器に、トリエチレングリコール186.5部、n−オクタン酸429.9部、キシレン30部、チタニウムテトライソプロポキシド(TPT)0.6部仕込み、窒素雰囲気下、200℃まで昇温した。理論生成水量(45g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約8時間行った。反応終了後、過剰の酸およびキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。
次いで、得られたエステル化粗物をヴィグリュー分留管を備えたナス型フラスコに移し、減圧下(8.0×10−2Pa)、220℃で蒸留を行った。減圧蒸留により初留分を20体積%除いた後、70体積%を本留分として採取した。得られた本留分のトリエチレングリコールジn−オクタノエートを軸受用潤滑油(X−1)とした。(X−1)を下記記載のLC−MS測定法で測定し、その純度をピーク面積より算出した重量%で表し、その結果を表1に示した。また、(X−1)の全酸価は0.01mgKOH/g、水酸基価は0.1mgKOH/g以下、ヨウ素価は0.1Ig/100g以下であった。
【0041】
実施例2
軸受用潤滑油(X−2)
仕込みをテトラエチレングリコール232.0部、n−ヘプタン酸373.2部に変更した以外は、実施例1と同様に行い、テトラエチレングリコールジn−ヘプタノエート(X−2)を得た。(X−2)を下記記載のLC−MS測定法で測定し、その純度をピーク面積より算出した重量%で表し、その結果を表1に示した。また、(X−2)の全酸価は0.01mgKOH/g、水酸基価は0.1mgKOH/g以下、ヨウ素価は0.1Ig/100g以下であった。
【0042】
実施例3
軸受用潤滑油(X−3)
仕込みをテトラエチレングリコール217.4部、n−オクタン酸387.4部に変更した以外は、実施例1と同様に行い、テトラエチレングリコールジn−オクタノエート(X−3)を得た。(X−3)を下記記載のLC−MS測定法で測定し、その純度をピーク面積より算出した重量%で表し、その結果を表1に示した。また、(X−3)の全酸価は0.01mgKOH/g、水酸基価は0.1mgKOH/g以下、ヨウ素価は0.1Ig/100g以下であった。
【0043】
比較例1
比較軸受用潤滑油(X’−1)
撹拌装置、温度計、窒素導入管、および冷却管付き水分分留受器を備えた反応容器に、トリエチレングリコール186.5部、n−オクタン酸429.9部、キシレン30部、チタニウムテトライソプロポキシド(TPT)0.6部仕込み、窒素雰囲気下、200℃まで昇温した。理論生成水量(45g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約8時間行った。反応終了後、過剰の酸およびキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物の全酸価に対して過剰の水酸化ナトリウム水溶液で中和し、中性になるまで水洗を行った後、活性炭処理を行った。次いで、濾過により活性炭を取り除き、エステル化粗物中の水分を蒸留により除去し、トリエチレングリコールジn−オクタノエート(X’−1)を得た。(X’−1)を下記記載のLC−MS測定法で測定し、その純度をピーク面積より算出した重量%で表し、その結果を表1に示した。また、(X’−1)の全酸価は0.01mgKOH/g、水酸基価は0.1mgKOH/g以下、ヨウ素価は0.1Ig/100g以下であった。
【0044】
比較例2
比較軸受用潤滑油(X’−2)
仕込みをテトラエチレングリコール232.0部、n−ヘプタン酸373.2部を変更した以外は、比較例1と同様に行い、テトラエチレングリコールジn−ヘプタノエート(X’−2)を得た。(X’−2)を下記記載のLC−MS測定法で測定し、その純度をピーク面積より算出した重量%で表し、その結果を表1に示した。また、(X’−2)の全酸価は0.03mgKOH/g、水酸基価は0.1mgKOH/g以下、ヨウ素価は0.1Ig/100g以下であった。
【0045】
比較例3
比較軸受用潤滑油(X’−3)
仕込みをテトラエチレングリコール217.4部、n−オクタン酸387.4部に変更した以外は、比較例1と同様に行い、テトラエチレングリコールジn−オクタノエート(X’−3)を得た。(X’−3)を下記記載のLC−MS測定法で測定し、その純度をピーク面積より算出した重量%で表し、その結果を表1に示した。また、(X’−3)の全酸価は0.01mgKOH/g、水酸基価は0.1mgKOH/g以下、ヨウ素価は0.1Ig/100g以下であった。
【0046】
比較例4
比較軸受用潤滑油(X’−4)
撹拌装置、温度計、窒素導入管、および冷却管付き水分分留受器を備えた反応容器に、トリエチレングリコール200.5部、n−ヘプタン酸417.1部、キシレン30部、チタニウムテトライソプロポキシド(TPT)0.6部仕込み、窒素雰囲気下、200℃まで昇温した。理論生成水量(48g)を目処にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながらエステル化反応を約8時間行った。反応終了後、過剰の酸およびキシレンを蒸留により除去してエステル化粗物を得た。次いで、得られたエステル化粗物をヴィグリュー分留管を備えたナス型フラスコに移し、減圧下(8.0×10−2Pa)、220℃で蒸留を行った。減圧蒸留により初留分を20体積%除いた後、70体積%を本留分として採取した。得られた本留分のトリエチレングリコールジn−ヘプタノエートを比較軸受用潤滑油(X’−4)とした。(X’−4)を下記記載のLC−MS測定法で測定し、その純度をピーク面積より算出した重量%で表し、その結果を表1に示した。また、(X’−4)の全酸価は0.01mgKOH/g、水酸基価は0.1mgKOH/g以下、ヨウ素価は0.1Ig/100g以下であった。
【0047】
比較例5
比較軸受用潤滑油(X’−5)
仕込みをテトラエチレングリコール193.2部、n−デカン酸411.2部に変更し、蒸留の減圧度を(2.0×10−2Pa)、加熱温度を240℃に変更した以外は、比較例4と同様に行い、テトラエチレングリコールジn−デカノエート(X’−5)を得た。(X’−5)を下記記載のLC−MS測定法で測定し、その純度をピーク面積より算出した重量%で表し、その結果を表1に示した。また、(X’−5)の全酸価は0.01mgKOH/g、水酸基価は0.1mgKOH/g以下、ヨウ素価は0.1Ig/100g以下であった。
【0048】
実施例4
潤滑油組成物(K−1)の製造
フェノール系酸化防止剤IRGANOX 1010(BASFジャパン製) 0.5部、アミン系酸化防止剤Vanlube−81(Vanderbilt製)0.5部を軸受用潤滑油(X−1)99.0部に溶解し、潤滑油組成物(K−1)を得た。
【0049】
実施例5
潤滑油組成物(K−2)の製造
フェノール系酸化防止剤IRGANOX 1010(BASFジャパン製) 0.5部、アミン系酸化防止剤Vanlube−81(Vanderbilt製)0.5部を軸受用潤滑油(X−2)99.0部に溶解し、潤滑油組成物(K−2)を得た。
【0050】
実施例6
潤滑油組成物(K−3)の製造
フェノール系酸化防止剤IRGANOX 1010(BASFジャパン製) 0.5部、アミン系酸化防止剤Vanlube−81(Vanderbilt製)0.5部を軸受用潤滑油(X−3)99.0部に溶解し、潤滑油組成物(K−3)を得た。
【0051】
比較例6
比較潤滑油組成物(K’−1)の製造
フェノール系酸化防止剤IRGANOX 1010(BASFジャパン製) 0.5部、アミン系酸化防止剤Vanlube−81(Vanderbilt製)0.5部を比較軸受用潤滑油(X’−1)99.0部に溶解し、比較潤滑油組成物(K’−1)を得た。
【0052】
比較例7
比較潤滑油組成物(K’−2)の製造
フェノール系酸化防止剤IRGANOX 1010(BASFジャパン製) 0.5部、アミン系酸化防止剤Vanlube−81(Vanderbilt製)0.5部を比較軸受用潤滑油(X’−2)99.0部に溶解し、比較潤滑油組成物(K’−2)を得た。
【0053】
比較例8
比較潤滑油組成物(K’−3)の製造
フェノール系酸化防止剤IRGANOX 1010(BASFジャパン製) 0.5部、アミン系酸化防止剤Vanlube−81(Vanderbilt製)0.5部を比較軸受用潤滑油(X’−3)99.0部に溶解し、比較潤滑油組成物(K’−3)を得た。
【0054】
比較例9
比較潤滑油組成物(K’−4)の製造
フェノール系酸化防止剤IRGANOX 1010(BASFジャパン製) 0.5部、アミン系酸化防止剤Vanlube−81(Vanderbilt製)0.5部を比較軸受用潤滑油(X’−4)99.0部に溶解し、比較潤滑油組成物(K’−4)を得た。
【0055】
比較例10
比較潤滑油組成物(K’−5)の製造
フェノール系酸化防止剤IRGANOX 1010(BASFジャパン製) 0.5部、アミン系酸化防止剤Vanlube−81(Vanderbilt製)0.5部を比較軸受用潤滑油(X’−5)99.0部に溶解し、比較潤滑油組成物(K’−5)を得た。
【0056】
比較例11
比較潤滑油組成物(K’−6)の製造
フェノール系酸化防止剤IRGANOX 1010(BASFジャパン製) 0.5部、アミン系酸化防止剤Vanlube−81(Vanderbilt製)0.5部をセバシン酸ジ2−エチルヘキシル(総炭素数26)99.0部に溶解し、比較潤滑油組成物(K’−6)を得た。
【0057】
実施例1〜3で得られた軸受用潤滑油(X−1)〜(X−3)、及び比較例で得られた比較軸受用潤滑油(X’−1)〜(X’−5)ジエステル(A)、及びジエステル(B)の総炭素数、及びジエステル(A)、ジエステル(B)、モノエステル(D)、及びポリエチレングリコール(E)の含有量を表1〜3に示す。また、実施例4〜6で得られた軸受用潤滑油組成物(K−1)〜(K−3)、及び比較例6〜11の比較軸受用潤滑油組成物(K’−1)〜(K’−6)の−10℃、0℃、40℃、及び100℃動粘度、粘度指数、蒸発損失量の結果を表4に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

[評価項目]
【0062】
ジエステル(A)、ジエステル(B)、モノエステル(D)、及びポリエチレングリコール(E)の含有量の測定方法
本発明の軸受用潤滑油(X)を液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)(株式会社島津製作所、LC/MS 2010EV)を用いてSCAN法により測定した。SCAN法により検出されなかった(B)、(D)、(E)は含有量を0重量%とした。SCAN法により検出された(B)、(D)、(E)は、それぞれの分子関連イオンの検量線を作成し、ジエステル(A)を液体クロマトグラフ−質量分析計を用いて選択イオン検出(SIM)法により測定し、(B)、(D)、(E)の含有量を定量した。また、ジエステル(A)の含有量は下記計算式(1)により算出した。
<LC条件>
・カラム:ODS−II(ID2mm、長さ15cm)
・溶離液:メタノール/10mM酢酸アンモニウム水溶液=88/12
・流速:0.2mL/分
<MS条件>
・イオン源:ESI(+)
・測定モード:SCAN(質量100〜600)、SIM
<ジエステル(A)の含有量>
ジエステル(A)の含有量(重量%)=100.0−([B]+[D]+[E])
・・・(1)
[B]:ジエステル(B)の含有量(重量%)
[D]:モノエステル(D)の含有量(重量%)
[E]:ポリエチレングリコール(E)の含有量(重量%)
【0063】
全酸価の測定方法
JIS K 2501(2003年)に準じて全酸価を測定した。
【0064】
水酸基価の測定方法
JIS K 0070(1992年)に準じて水酸基価を測定した。
【0065】
ヨウ素価の測定方法
JIS K 0070(1992年)に準じてヨウ素価を測定した。
【0066】
動粘度及び粘度指数の試験方法
JIS K 2283(2000年)に準じて測定した。
【0067】
蒸発損失量試験方法
潤滑油組成物(K)を容器容量20ml(口内径14.5mm、胴径27.0mm、高さ55mm)のガラス製容器に1000.0mg入れ、160℃に温調した乾燥器に静置し、25時間加熱後の蒸発損失量を測定した。蒸発損失量は下記計算式(2)により算出した。
蒸発損失量(重量%)=((G1−G2)/1000.0)×100 (2)
G1:1000.0(mg)+容器重量(mg)
G2:10時間加熱後の試料重量(mg)+容器重量(mg)
【0068】
表4の結果から、本発明の軸受用潤滑油組成物である実施例4の(K−1)は、主成分が同じでジエステル(B)の含有量が多い比較例6の(K’−1)に比べ蒸発損失量が少ない。同様に実施例5と比較例7、実施例6と比較例8を比較しても、実施例の蒸発損失量が少ないことがわかる。
また、実施例4〜6は、従来から汎用されている軸受用潤滑油組成物である比較例11の(K’−6)に比べて、蒸発損失量が少なく、かつ高温から低温まで幅広い温度領域で低粘度であることがわかった。また、比較例10の(K’−5)は0℃で凝固し使用不能であった。
したがって、本発明の潤滑油組成物は高温環境下でも潤滑油の蒸発損失量が少なく、かつ低温で凝固することなく、高温から低温まで幅広い温度領域で低粘度であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の軸受用潤滑油組成物は、ファンモータ、DCモータ、および磁気ディスク装置、光ディスク装置、光磁気ディスク装置、多面鏡駆動装置などのスピンドルモータに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエステル(A)とジエステル(B)を含有する軸受用潤滑油であって、(A)が下記一般式(1)で表され総炭素数が22〜26であるジエステルからなる群より選ばれる1種のジエステルであり、総炭素数yを有し、(A)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて90重量%以上100重量%未満であり、(B)がジオールと1価脂肪酸から得られる総炭素数が(y−1)以下であるジエステルであり、(B)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0重量%を超え0.3重量%以下である軸受用潤滑油(X)。
【化1】

[式中、k及びmは5〜7の整数を表し、Aはエチレン基を表し、nは、3〜4の整数を表す。]
【請求項2】
ジエステル(B)が下記一般式(2)で表されるジエステルである請求項1に記載の潤滑油(X)。
【化2】

[式中、p及びrは0〜7の整数を表し、Aはエチレン基を表し、qは、1〜4の整数を表す。]
【請求項3】
ジエステル(B)を軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0.001〜0.2重量%含有する請求項1又は2に記載の潤滑油(X)。
【請求項4】
ジエステル(B)の総炭素数が(y−2)〜(y−1)である請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑油(X)。
【請求項5】
全酸価0.1mgKOH/g以下、水酸基価1mgKOH/g以下、ヨウ素価0.5Ig/100g以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の潤滑油(X)。
【請求項6】
下記一般式(3)で表されるモノエステル(D)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0.2重量%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の軸受用潤滑油(X)。
【化3】

[式中、sは0〜7の整数を表し、Aはエチレン基を表し、tは、1〜4の整数を表す。]
【請求項7】
下記一般式(4)で表されるポリエチレングリコール(E)の含有量が軸受用潤滑油(X)の重量に基づいて0.1重量%以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の軸受用潤滑油(X)。
【化4】

[式中、Aはエチレン基を表し、uは、1〜4の整数を表す。]
【請求項8】
さらに酸化防止剤を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の軸受用潤滑油組成物(K)。
【請求項9】
流体軸受用である請求項8に記載の組成物(K)。
【請求項10】
分別蒸留により精製することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の潤滑油(X)の製造方法。


【公開番号】特開2013−32429(P2013−32429A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168621(P2011−168621)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】