説明

軸受

【課題】蓋部材5のガタ付を、低コストで確実に押えることができる軸受を提供することである。
【解決手段】外輪1に内輪2を組み合わせ、これら外輪1および内輪2間に転動体3を組み込む。そして、外輪1あるいは内輪2のいずれか一方に転動体挿入孔4を形成し、この転動体挿入孔4に蓋部材5を挿入する。さらに、上記蓋部材5にはねじ孔13を形成するとともに、このねじ孔13の軸線方向に沿った第1スリット15を形成し、上記ねじ孔13にねじ部材14をねじ込んで第1スリット15を押し開き、蓋部材5の外径を拡大する構成にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外輪に内輪を組み込むとともに、これら内輪および外輪間に転動体を組み込んだ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の軸受として、特許文献1に開示されたものが従来から知られている。この従来の軸受の構造を示したのが図4,5である。
この従来の軸受は、外輪1内に内輪2をはめ合わせるとともに、これら外輪1及び内輪2間にころからなる転動体3を介在させている。
上記転動体3は、外輪1に形成した転動体挿入孔4から一つずつ挿入するが、転動体3を挿入し終わったら、この転動体挿入孔4は蓋部材5でふさがれる。このようにして挿入された転動体3は、図5に示すように、内輪2に形成したV字状のトラック6とこのトラック6と対向する図示していない外輪1のトラックとの間で転動することになる。
【0003】
上記のようにした外輪1のV字状のトラックを形成する過程では、上記転動体挿入孔4に蓋部材5をあらかじめ圧入するとともに、このときには外輪1と蓋部材5との相対位置を固定化するためにピン8を圧入しておく。このように蓋部材5を転動体挿入孔4に圧入して固定化したら、外輪1のV字状の上記トラックと蓋部材5のV溝7とを一体的に旋削加工をする。
【0004】
上記のように蓋部材5のV溝7と外輪1のトラックとを一体形成するのは、これらV溝7を外輪1のトラックと面一に連続させるためである。もし、このV溝7と上記トラックとの間に段差などができてしまうと、転動体3のスムーズな転動が損なわれるので、上記したように蓋部材5を転動体挿入孔4に圧入した状態で、外輪1とともに蓋部材5を一体的に旋削加工して、外輪1のトラックと上記V溝7とを面一に連続させるようにしている。
【0005】
上記のように外輪1のトラックと蓋部材5のV溝7とを一体加工したら、蓋部材5を転動体挿入孔4に圧入したまま、外輪1に焼入れなどの熱処理を施す。これによって、外輪1とともに蓋部材5のV溝7の部分にも焼入れが施される。
また、上記転動体挿入孔4を開放したまま熱処理を施せば、外輪1の転動体挿入孔4の周辺とその他の部分との間で熱による変形量が多少異なるので、それが外輪1にひずみを発生させる原因になるが、上記のように蓋部材5を圧入しておくことによって、ひずみの発生量を小さくできる。
【0006】
上記のように外輪1を熱処理してそれを常温に戻したら、再び、転動体挿入孔4から蓋部材5を抜き取り、外輪1に内輪2を入れるとともに、上記転動体挿入孔4から転動体3を挿入する。転動体3を挿入し終えたら、転動体挿入孔4を蓋部材5でふさぐとともに、ピン8を再び圧入して外輪1と蓋部材5との相対位置を固定化する。
なお、図中符号9,10は挿入された転動体3の傾きを保つためのガイド溝である。
【0007】
また、熱処理が終了した外輪1を常温に戻すと、外輪1と蓋部材5との間で収縮量に差が生じる。そのために、転動体挿入孔4に対して蓋部材5の外径を大きくして締め代を確保しておいても、外輪1の外径が300mmを超えるような大径の軸受では、その熱処理変形で、転動体挿入孔4が相対的に大きくなり、蓋部材5が転動体挿入孔4内でガタ付いてしまう。
【0008】
蓋部材5が転動体挿入孔4内でガタ付くと次のような問題が発生する。
1.ガタ付いている蓋部材5の部分で転動体3がスムーズに転動しなくなるので、外輪1と内輪2との円滑な相対回転に支障が生じるだけでなく、回転トルクもバラ付いてしまう。また、転動体3がスムーズに転動しなくなると、外輪1と内輪2との間で、正確な位置決めができなくなることもある。
2.蓋部材5がガタ付いてV溝7と外輪1のトラックとに段差ができると、転動体3がその段差に引っかかって偏磨耗すると寿命が短くなるとともに、転動体3が段差に当たったときの衝撃で騒音が発生する。
3.蓋部材5のV溝7が、外輪1のトラックから退避していると、転動体3が蓋部材5の部分で浮いた状態になるので、荷重を受けられなくなる。そのために、全体的にも荷重を受けるバランスが崩れて、モーメント荷重等が作用したときには、荷重作用点等での位置決め精度に支障が出たり、定格荷重が低下したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−13540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように従来の軸受は、蓋部材5のガタ付を押さえる手段はピン8しかないので、ピン8で蓋部材5を正確に位置決めしてガタ付を押さえようとすると、そのピン8を挿入するピン孔に対してピン自体をぴったりとはめいれなければならない。しかし、ピン孔にピン8をぴったりとはめ入れるためには、ピン孔の形成位置も含めて、それらの寸法精度を厳密に管理しなければならないが、それは非常に難しく、しかも、コストがかかるという問題があった。
この発明の目的は、蓋部材のガタ付を、低コストで確実に押えることができる軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、外輪に内輪を組み合わせ、これら外輪および内輪間に転動体を組み込むとともに、外輪あるいは内輪のいずれか一方に転動体挿入孔を形成し、この転動体挿入孔に蓋部材を挿入した軸受において、上記蓋部材にはねじ孔を形成するとともに、このねじ孔の軸線方向に沿った第1スリットを形成し、上記ねじ孔にねじ部材をねじ込んで第1スリットを押し開き、蓋部材の外径を拡大する構成にした点に特徴を有する。
【0012】
第2の発明は、上記第1スリットが押し開かれて蓋部材の外径が拡大するときの拡大起点になる位置に、蓋部材の円周方向に伸びる第2スリットを形成した点に特徴を有する。
第3の発明は、上記転動体をころにするとともに、これらころを互いにクロスさせてクロスローラ型にした点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
第1〜3の発明によれば、蓋部材に形成したねじ孔にねじ部材をねじ込むことによって、蓋部材をその第1スリットから拡大させられるので、外輪あるいは内輪の熱処理後に、外径を事後的に拡大した蓋部材が、上記ねじ孔に圧入されたと同じになる。
したがって、熱処理後に、蓋部材の外径が転動体挿入孔の内径よりも小さくなったとしても、転動体挿入孔に蓋部材を、圧入状態でぴったりと挿入することができ、当該蓋部材の位置決めをすることができる。
しかも、上記したように蓋部材は、上記のように事後的に圧入状態を維持できるので、その寸法精度を厳密にしなくてもよく、その分、コストダウンを図ることができる。
【0014】
第2の発明によれば、第1スリットに加えて、蓋部材の円周方向に伸びる第2スリットを形成したので、第1スリットがさらに開きやすくなり、その分、小さな力で蓋部材の外径を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】外輪に内輪を組み付けた状態の部分断面図である。
【図2】蓋部材とピンとを示した斜視図である。
【図3】蓋部材とねじ部材とを示した斜視図である。
【図4】従来の軸受を示すもので、外輪と内輪とを組み合わせた状態の斜視図である。
【図5】従来の軸受を示すもので、外輪に内輪を組み付けた状態の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜図3は、この発明の実施形態を示すものであるが、その外輪1内に内輪2をはめ合わせるとともに、これら外輪1及び内輪2間に転動体であるころ3を介在させる。
さらに、上記外輪1に転動体挿入孔4を形成するとともに、この転動体挿入孔4から上記ころ3を一つずつ挿入するが、ころ3を挿入し終わったら、この転動体挿入孔4は蓋部材5でふさがれる。
【0017】
このようにして挿入されたころ3は、図1に示すように、内輪2に形成したV字状のトラック6とこのトラック6と対向する図示していない外輪1のトラックとの間で転動することになる。
なお、上記ころ3は、それらの回転中心線を互いにクロスさせてクロスローラ型にしている。
【0018】
そして、上記蓋部材5には蓋部材5を貫通するピン圧入孔11を形成するとともに、外輪1にも上記転動体挿入孔4の軸線に直交する方向のピン圧入孔12を貫通させている。
さらに、上記蓋部材5であって、転動体挿入孔4に対する挿入方向後端面にはねじ孔13を形成しているが、このねじ孔13に図3に示したねじ部材14をねじ込むようにしている。なお、上記ねじ孔13の開口部には外に向かって拡大するテーパー面13aを形成するとともに、このねじ部材14はその頭部端面に向かって徐々に外径を大きくしたテーパー部14aを形成している。
【0019】
また、この蓋部材5には上記ねじ孔の軸線方向に沿った第1スリット15を形成するとともに、この第1スリット15が押し開かれて蓋部材5の外径が拡大するときの拡大起点になる位置に、蓋部材5の円周方向に伸びる第2スリット16を形成している。
【0020】
上記のようにした蓋部材5は、そのねじ孔13にねじ部材14をねじ込むと、このねじ部材14のテーパー部14aがねじ孔13のテーパー面13aに圧入されることになるが、そのときのくさび効果で第1スリット15が押し開かれる。そして、第1スリット15が押し開かれて蓋部材5の外径が拡大するときの拡大起点になる位置に第2スリット16が形成されているので、上記ねじ孔13にそれほど大きな力が作用しなくても、第1スリット15が押し開かれることになる。
【0021】
次に、外輪1および内輪2の加工および組み合わせ工程を説明する。
先ず、従来と同様に外輪1の旋削加工時に転動体挿入孔4内に蓋部材5圧入して、外輪1のトラックとともに、蓋部材5にV溝7を一体に旋削加工する。なお、この旋削加工時には、ピン8をピン圧入孔11,12に圧入して転動体挿入孔4と蓋部材5との相対位置を固定化しておく。
【0022】
上記のように外輪1のトラックとともに蓋部材5のV溝7を形成したら、その状態を保ちながら外輪1および蓋部材5に焼入れ等の熱処理を施す。そして、熱処理が終了したら、ピン8を抜くとともに蓋部材5を転動体挿入孔4から抜き取る。このように蓋部材5を抜き取った状態で、外輪1に内輪2をはめ合わせるとともに、上記転動体挿入孔4からころ3を一つずつ、それらの回転中心線を交互にクロスさせながら挿入する。
【0023】
ころ3を挿入し終えたら、上記転動体挿入孔4に蓋部材5を挿入するとともに、外輪1のピン孔12と蓋部材5のピン孔11とを一致させて、それらにピン8を再び圧入して、外輪1と蓋部材5との相対位置を特定する。このようにピン8を圧入して、外輪1と蓋部材5との相対位置を特定するのは、蓋部材5のV溝7と外輪1のトラックとの相対位置を特定するのが目的である。
【0024】
そして、上記の状態では、前記したように外輪1と蓋部材5との熱収縮率の相違により、蓋部材5は転動体挿入孔4に対して多少ガタ付いているが、この段階で蓋部材5の位置を微調整して、ねじ部材14をねじ孔13にねじ込む。このようにねじ孔13にねじ部材14をねじ込むことによって、そのときのくさび効果で第1スリット15が押し開かれ、蓋部材5が転動体挿入孔4に圧入された状態を事後的に実現できる。
【0025】
したがって、この実施形態によれば、ピン8は、蓋部材5と外輪1との相対的な位置関係を特定できればよく、厳密な寸法管理は要求されない。しかも、蓋部材5を転動体挿入孔4に圧入した状態を事後的に実現できるので、この状態では蓋部材5がガタ付いたりしない。
【0026】
なお、上記実施形態では皿ねじ状のねじ部材14を用いたが、第1スリット15を押し開く力を作用させられるものであれば、テーパーねじ等どのようなねじ部材を用いてもよい。
また、このねじ部材14を締め付けるのに、レンチを用いてもよいし、ドライバーを用いてもよい。したがって、ねじ部材14の頭部には、レンチやドライバーなどの工具に応じて多角形穴やプラスあるいはマイナス溝が形成される。あるいはこの頭部が多角形であってもよい。ただし、ねじ部材14を締め付けるトルクを調整して、蓋部材の外径の拡大量を調整して外輪1にひずみ等が生じないように考慮しなければならない。
さらに、蓋部材5のねじ部にはロックタイト等の緩み止めをしてもよいし、蓋部材5の外径ないし転動体挿入孔4に接着剤を塗布してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
ターンテーブル等の旋回対象を支持する軸受として最適である。
【符号の説明】
【0028】
1 外輪
2 内輪
3 転動体
4 転動体挿入孔
5 蓋部材
13 ねじ孔
14 ねじ部材
15 第1スリット
16 第2スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪に内輪を組み合わせ、これら外輪および内輪間に転動体を組み込むとともに、外輪あるいは内輪のいずれか一方に転動体挿入孔を形成し、この転動体挿入孔に蓋部材を挿入した軸受において、上記蓋部材にはねじ孔を形成するとともに、このねじ孔の軸線方向に沿った第1スリットを形成し、上記ねじ孔にねじ部材をねじ込んで第1スリットを押し開き、蓋部材の外径を拡大する構成にした軸受。
【請求項2】
上記第1スリットが押し開かれて蓋部材の外径が拡大するときの拡大起点になる位置に、蓋部材の円周方向に伸びる第2スリットを形成した請求項1記載の軸受。
【請求項3】
上記転動体をころにするとともに、これらころを互いにクロスさせてクロスローラ型にした請求項1または2記載の軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−230053(P2010−230053A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76551(P2009−76551)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】