説明

軸方向磁界を伴ったGDS用放電ランプ

【課題】 GDSのプラズマにより引き起こされるサンプルの加熱を減らしながらグロー放電分光分析装置の感度と深さ分解能を改善すること。
【解決手段】 本発明は、グロー放電分光分析装置用放電ランプであって、第1にポンプ手段(8)に接続され、第2に不活性ガスを真空容器(6)中に注入する注入手段(10)に接続された前記真空容器(6)を有するランプ本体と、縦軸X−X’を有する中空円筒の第1の電極(2)と、分析用サンプル(12)を受け、前記円筒電極(2)の一端に面する前記サンプル(12)を保持するのに適した第2の電極(4)と、前記両電極(2及び4)の端子に、前記ガス(10)の存在の下にグロー放電プラズマ(11)を発生させるのに適した連続、パルス状、高周波(RF)、又はハイブリッド電界を印加する印加装置(3)を備える電界発生手段と、前記プラズマ(11)の少なくとも一つの成分を測定するのに適した分光計に前記放電ランプを結合する結合手段(16)と、磁界を発生させる磁界発生手段とを備えるグロー放電分光分析装置用放電ランプに関する。本発明によれば、前記磁界発生手段は軸X−X’に沿って向いた磁力線を有する磁界を発生させるのに適しており、前記磁界の強度と向きは、方向X−X’に沿って突き出た前記中空円筒電極(2)の内側面積以上の前記サンプル(12)の面積にわたり均一である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグロー放電分光分析装置(GDS)用放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
グロー放電分光分析装置はプラズマにさらされたサンプルの化学組成を分析する働きをする。ブラズマはサンプルの表面をアブレートする。質量分析計及び/又は分光計はアブレーション中にプラズマ中に取り入れられた化学元素を同定及び定量化するために使用される。従って、グロー放電分光分析装置は、厚膜又は薄膜材料(数10ナノメートルから数10マイクロメートルの範囲の厚さの膜)を正確に分析することを可能にする。さらに、アブレーションプラズマへのサンプルの長い露出は深い浸食孔を生じる。従って、均一な速度でサンプル中にエッチングすることにより浸食が生じれば、すなわち、アブレーション孔が平坦な底をもてば、アブレーション時間の関数としてプラズマを分析することにより深さ分解能を伴ってサンプルの組成を決定することが可能となる。
【0003】
GDS装置において、プラズマは不活性ガス(例えばアルゴン)を入れた容器を備える放電ランプ内に電界(これは直流でも、高周波(RF)でもよく、随意にはパルス状でもよい)を印加することにより得られる。サンプルは一般的に陽極管に面して置かれ、電力(例えばRF電力)はサンプルに接触する印加装置により印加される。グロー放電分光分析装置は、それらがプラズマにおける電界の良好な結合を可能にするので、特に導体又は半導体(例えばシリコン)である基板上のサンプルについて良好な結果をもたらす。しかしながら、サンプルが絶縁基板上にあり、あるいは厚い誘電体膜(例えば、数ミリメートルの厚さを有するガラス又はセラミック)を有するときは、プラズマはサンプルの加熱を生じ、これはその破壊をもたらし得る。さらに、浸食孔の側面はサンプルの表面に対して一般的に明らかに傾斜し、これはGDSの深さ分解能に有害である。
【0004】
非特許文献1は、RF電界と磁界が中で重ね合わされ、その磁力線が非導電サンプル(1ミリメートル(mm)の厚さを有するガラス)の表面付近にプラズマの電子を閉じ込めるように向いているグロー放電ランプを述べている。非特許文献1に述べられた装置はサンプルの背後に置かれた環状磁石を有する。数100ガウスの磁界は閉ループの形をしている磁力線をサンプル上に作り出す。電界(E)と磁界(B)の重ね合わせはアブレーション速度を増加することを可能にするが、環状の浸食孔を生じ、平坦(そうであれば望ましい)ではない底を有する。
【0005】
さらに、グロー放電分光分析法は、非常に薄いサンプル、あるいは脆い基板上のサンプル(例えば、数10マイクロメートルの厚さを有するポリマ膜)に適用するのが難しい。なぜならそれらはアブレーションプラズマに耐えないからである。
【0006】
アブレーションプラズマにさらされるサンプルの加熱を減らすために、様々な解決策が使用されている。第1の解決策は、例えばサンプル保持台の背後に液体窒素を循環させることにより、強力な冷却システムを使用することに頼っている。冷却によりいくつかのサンプルに対して成果を得ることができるが、面倒で高価な装置の使用を必要とし、また冷却流体源との接続を必要とする。
【0007】
サンプルの加熱を減らすもう一つの解決策はパルス状RF電界(例えば、キロヘルツ(kHz)オーダの周波数の)を使用してプラズマへの露出時間を減らすことにある。いくつかの環境下では、パルス状電界は加熱を減らすが、アブレーション孔の形状を著しくは改善しない。さらに、いくつかのポリマサンプルは極めて脆く、パルス状RF電界に全く耐えない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Saprykin、Fresenius J. Anal. Chem., 355,pp. 831-835, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、GDSのプラズマにより引き起こされるサンプルの加熱を減らしながらグロー放電分光分析装置の感度と深さ分解能を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
より詳細には、本発明は、
第1にポンプ手段に接続され、第2に不活性ガスを真空容器中に注入する注入手段に接続された前記真空容器を有するランプ本体と、
縦軸X−X’を有する中空円筒の第1の電極と、
分析用サンプルを受け、前記中空円筒電極の一端に面する前記サンプルを保持するのに適した第2の電極と、
前記両電極の端子に、前記ガスの存在の下にグロー放電プラズマを発生させるのに適した連続(直流)、パルス状、高周波(RF)、又はハイブリッド電界を印加する印加装置を備える電界発生手段と、
前記プラズマの少なくとも一つの成分を測定するのに適した分光計に前記放電ランプを結合する結合手段と、
磁界を発生させる磁界発生手段と
を備えるグロー放電分光分析装置用放電ランプ
を提供する。本発明によれば前記磁界発生手段は軸X−X’に沿って向いた磁力線を有する磁界を発生させるのに適しており、前記磁界の強度と向きは、方向X−X’に沿って突き出た前記中空円筒電極の内側面積以上の前記サンプルの面積にわたり均一である。
【0011】
本発明の種々の実施形態において、前記磁界発生手段は、
前記第2の電極の背後に配置された少なくとも一つの磁石であって、その両磁極を結ぶ軸が軸X−X’に平行であり、軸X−X’に直角な方向のその寸法が前記中空電極の突き出た内側面積より大きい少なくとも一つの磁石、及び/又は
軸X−X’を有する中実円筒の形式をし、前記サンプル保持台電極の背後に配置された磁石、及び/又は
前記中空円筒電極の周りに配置され、その両磁極を結ぶ軸が前記電極の軸X−X’に平行な少なくとも一つの環状磁石、及び/又は
軸X−X’に平行な軸を有する電磁石コイル
を備える。
【0012】
本発明の特定の実施形態において、前記磁石の材料はNbFeBである。
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、前記磁界発生手段は金属カプラ内に配置され、電気絶縁部品により前記カプラ内に保持された一つ以上の磁石を備え、前記カプラは、前記磁石の磁気軸が軸X−X’と一致するように第1に前記第2の電極に、第2に前記電界印加装置に接続される。
【0014】
特定の実施形態において、本発明の放電ランプは前記磁界発生手段を冷却するのに適した冷却手段を含む。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、前記磁界発生手段は、前記中空円筒電極の端部に面する前記サンプルの面積にわたり強度と向きが均一な磁界を発生させるように前記中空円筒電極の突き出た内側面積より大きい、軸X−X’に対して直角に伸びる寸法を呈する。
【0016】
特定の実施形態において、本発明の放電ランプは、磁界の強度を測定し、サンプルにおける磁界の強度を所定の閾値と比較するのに適した手段を含む。
【0017】
本発明はまた、
以下の同時ステップを備えた、グロー放電分光分析装置用放電ランプを改良する方法を提供する。
放電ランプの両電極の端子に、サンプルの表面をアブレートするプラズマを発生させるのに適した連続、パルス状、RF、又はハイブリッド電界を印加するステップと、
前記放電ランプの前記中空円筒電極の軸X−X’に平行な磁力線を有する軸方向磁界を印加するステップであって、前記磁界の向きと強度が、方向X−X’に沿って突き出た前記中空円筒電極の内側面積以上の前記サンプルの面積にわたり均一であるステップ。
【0018】
本発明は詳細には、半導体又は非導電性であるサンプルのGDS分析に適用される。
【0019】
非限定的例として与えられる以下の説明は、本発明がどのように実施できるかを理解することを容易にし、以下の添付図面を参照して与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のGDS用放電ランプの模式的軸方向断面図である。
【図2】本発明の実施形態におけるRF磁気カプラの斜視図である。
【図3】本発明のGDS用放電ランプにおける磁力線のシミュレーションを示し、断面図で示される。
【図4】第1のサンプルに関連し、先行技術のグロー放電分光分析装置により得られたGDS分析曲線をプロットする。
【図5】サンプル保持台が液体窒素により冷却される先行技術のグロー放電分光分析装置により得られた、図4のものと同様のサンプルのGDS分析曲線をプロットする。
【図6】本発明のグロー放電分光分析装置により得られた、図4及び5のものと同様のサンプルのGDS分析曲線をプロットする。
【図7】先行技術のグロー放電分光分析装置と本発明のグロー放電分光分析装置により得られた第2のタイプのサンプルのGDS分析曲線をプロットした単一のグラフである。
【図8】本発明のグロー放電分光分析装置を用いた分析により得られた厚いガラスサンプルにおけるアブレーション孔のプロファイル測定曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明の実施形態におけるGDS用放電ランプの模式的軸方向断面である。放電ランプ1はポンプ8と不活性ガス(例えばアルゴン)源10とに接続された真空容器6を含む。放電ランプ1は中空円筒の第1の電極2と、サンプルを保持する働きをする第2の電極4とを含む。円筒電極2の軸X−X’は放電ランプの軸である。サンプル12は陽極管2に面する電極4上に保持される。平面のサンプルに対し、電極4は概ね平面である。RF印加装置3は電極4にRF電界を印加し、電極2は接地されている。アブレーションプラズマ11は陽極内側に形成され、中空円筒陽極2の端部に面するプラズマに露出されるサンプル12の表面をエッチングする。サンプル12をエッチングしながらプラズマ中に取り入れられた化学種を分析するために、真空容器は分光計又は質量分析計を結合する結合手段16を含む。分光計が使用されるときは、結合手段16はプラズマ発光の光強度の一部を受光できるように窓又はレンズを備える。質量分析計が使用されるときは、質量分析計がプラズマ成分の少量を測定できるように質量分析計に接続された真空チャンバに通じる小開口を備える。
【0022】
図1に示される例において、放電ランプ1は、その磁極がランプの軸X−X’と一致する軸の上にある磁石13を含む。磁石13は、方向X−X’に沿ってサンプル上に突き出た陽極2の内側面積以上のサンプル12の面積にわたり軸X−X’に実質的に平行な磁力線を有する軸方向磁界を発生させ、前記磁界の向きと強度は前記突き出た面積にわたり均一である。本明細書では、用語「概ね均一」は、強度が±10%まで変化し、向きが軸X−X’に対して±5°まで変化し得る磁界について使用される。図1の磁石13は、第1にサンプル保持電極4と、第2に磁界RF印加装置3と電気接触しているカプラ15に入れられる。カプラ15は印加装置3と電極4の間で電気を伝える。磁石13は金属筐体から電気絶縁される。
【0023】
図2は磁極軸X−X’を有する一つ以上の磁石13を有する磁気RFカプラ15の図である。RF印加装置3とサンプル間の良好なRF結合を与えるために、磁石13は好ましくは、金属構造に入れられて絶縁体により保持されたNdFeB磁石である。磁石13は好ましくは中が詰まった円板タイプのものであるが、それらは随意には他の形状(例えば矩形)のタイプでもよく、それにもかかわらず、それは陽極2の内側に軸方向磁界を発生させる働きをする。もう一つのあり得る磁石13の形状は例えば、磁石を陽極2の周りに配置できるトロイダル形状(穴空き円板)である。そのような形状は、サンプル12の背後にあるサンプル保持台4又はRF印加装置3を変形することなく磁石13を放電ランプ1の構造内に組み入れることを可能にする。
【0024】
何れの場合も、磁石13が加熱されることを避けることが望ましい。なぜなら、それがその急速な消磁をもたらすことになるからである。在来の冷却システムが好都合には、装置の磁石13を冷却するように取り付けられてもよい。図2に示されるカプラ15は、例えば流体を循環させる冷却手段19を含む。もう一つの実施形態(図示せず)において、磁気RFカプラ15はRF印加装置3内に組み込まれてもよい。
【0025】
サンプルでの磁界強度は少なくとも数100ガウスである。磁界強度が磁気RFカプラ15の正常動作範囲内に留まっていることを確認するためにそれを周期的に検査することが望ましい。この確認は絶対測定を与えるテスラメータにより行われてもよく、あるいは外部にある、あるいはカプラ15内部に配置された磁界検出器であって、磁界がプラズマ内の結合効果を得るための所定の最小値を超えることを確かめる働きをする磁界検出器により単に行われてもよい。
【0026】
図3は図1及び2を参照して述べられたRF印加装置と磁気カプラ15を含むGDS用放電ランプ内の磁力線のシミュレーションを示す。サンプル12において、陽極2の端部に面して、磁力線は、軸X−X’に実質的に平行であり、実質的に均一な強度を有する。
【0027】
例として、軸方向磁界はサンプルおよびサンプル保持台4の背後に置かれた一つ以上の磁石13により発生してもよい。
【0028】
磁界の向きと強度が、陽極2に面してアブレーションプラズマ11に露出されるサンプル12の表面にわたり均一であることを保証するために、磁石13の大きさは軸X−X’に沿って突き出た円筒陽極2の内側面積よりかなり大きくなければならない。使用される磁石13の寸法は用途により選択されてもよいが、推奨される装置は、広範な用途に対して最適化される寸法を有する単一タイプの磁石13を有するものである。図1ないし3に模式的に示される実施形態において、電極2は4mmの内径を有する円形断面の円筒である。使用される磁石13は約28mmの直径を有する中実円板であり、それはアブレーションプラズマに接触するサンプルの表面において約600ガウス(G)の磁界を発生させる。
【0029】
図4ないし6は、それぞれ、先行技術(図4及び5)と本発明(図6)による、片面が金属薄膜で覆われてRFプラズマにさらされるポリマ膜を備える同じタイプのサンプル12について得られたGDS分析結果を示す。ポリマ膜は極めて脆く、それらはGDS装置内でのプラズマ露出中に概ね炭化される。図4ないし6の曲線は、それぞれ金属(曲線20a、20b、20c)及びカーボン(曲線21a、21b、21c)製の部品の測定に対応するグロー放電分光分析測定値を示す。
【0030】
図4の曲線は、直流電界がサンプル12に印加される先行技術の放電ランプにおいて得られた。サンプル保持台は冷却されなかった。そのような条件の下で、ポリマサンプルはプラズマによる大量の加熱にさらされた。カーボン発光ピーク(曲線21a)はポリマサンプルの一部が燃焼して強い発光ピークを生じる瞬間に対応する。サンプルは従ってGDS測定により深刻な損傷を受け、測定時間は非常に短かった。金属膜を測定する曲線(曲線20a)はアブレーションが深さ分解能を与えなかったことを示すピークも含む。
【0031】
図5の曲線は、直流電界がサンプル12に印加され、サンプル保持台が液体窒素により冷却された放電ランプにおける同じ分光分析測定値に対応する。曲線21a及び21bにおけるピークの消滅は、図4の曲線20a及び21aにおけるピークの原因はサンプルの過度の加熱であったことを示唆する。サンプルを損傷することなく金属膜(曲線20b)及びポリマ基板(曲線21b)を測定することは可能であった。それにもかかわらず、金属膜とポリマ膜間の移行部は非常に広く、金属膜と基板の両方における浸食を示唆し、深さ分解能の点で正確な分析を妨げる。さらに、液体窒素冷却を含む配置は複雑で煩わしく、適合するのが難しいサンプルもある。
【0032】
図6の曲線は同じ分光分析測定値に対応するが、直流電界と軸方向磁界がサンプル12に同時に印加され、しかしサンプル保持台を冷却しない放電ランプの測定値である。それは加熱に関して最も不都合な環境に対応するので、非パルス状動作モードが選択された。曲線20c及び21cにはピークがないことが分かり、これは軸方向磁界がサンプルの加熱の抑制を可能にしたことを意味する。さらに、曲線20c及び21cの信号対雑音(S/N)比は図5の曲線20b及び21bと比較してかなり改善されている。プラズマへの露出時に最初にエッチングされたポリマ基板と金属膜間の界面はよりはっきりと観察でき、これはより良好な深さ分解能に対応する。RF電界と磁界の結合は従って脆いポリマサンプルがGDS測定を受けることを可能にし(かつてはそのような測定は強力な冷却システムなしには困難であった)、結合は優れたS/N比を良好な深さ分解能を伴って得ることも可能する。
【0033】
本発明の装置は従って、GDS分析の新しい応用、例えば厚い絶縁性サンプルの使用にも適している。RF電界や、パルス状電界さえ印加しながらGDSにより厚い絶縁性サンプルを測定することは、電極とプラズマの間の電気結合が悪いために一般的に不可能である。さらに、絶縁性サンプル、例えばガラスサンプルに対してGDSにより引き起こされる高度の加熱はサンプルの破裂を招き得る。
【0034】
図7は、それぞれ連続RFプラズマ(曲線22及び23)と、軸方向磁界に結合されたRFプラズマ(曲線24及び25)とにさらされた種々のアルミナ(Al)サンプルを用いて得られたGDS分析の例を示す。測定の再現性を評価するために、二つの測定値が各環境において取られた。曲線24及び25は曲線22及び23の水準より約30%高い水準にあることが分かる。この増加はプラズマにおけるより良好な電磁結合を表わし、それにより、より大きい電力をプラズマ内で効率的に結合することを可能にする。このより良好な結合はより速い浸食、従ってより大きい信号強度を生じる。この応用において、GDS測定のS/N比の改良があることも分かる。
【0035】
軸方向磁界を印加する効果は、たとえそれが厚くても(数ミリメートル)、絶縁性基板上のサンプルを分析することを可能にすることである。
【0036】
従って、図8は、厚いガラスサンプルが軸方向磁界に結合されたRFプラズマに露出された後のサンプル内のアブレーション孔のプロファイル26を示す。図8のプロファイル26はほとんど完全に平坦な底を有する数マイクロメートル深さの孔を示す。従って、エッチングプラズマはガラス基板体積中に異方性浸食を得ることを可能にした。そのような平坦底の孔は過去において、このタイプのサンプルに連続又はパルス状RF電界のみを使用するGDS用放電ランプにおいて決して得られなかった。
【0037】
電磁結合が絶縁性サンプルを介して改良された効率で行われることが分かる。さらに、均一な軸方向磁界の著しい効果は実質的に平坦な底を有するアブレーション孔を生じることである。この特性は優れた深さ分解能を伴って、かなりのエッチング深さにわたりGDSによりサンプルの組成を分析することを可能にする。
【0038】
本発明の装置の唯一の欠陥は放電の初めにおける陽極の非常にわずかな浸食であるかもしれない(陽極が小さい直径を持つときに観察されるものと同一)。
【0039】
要約すれば、軸方向磁界の印加はグロー放電分光分析装置のいくつかの面を改良する働きをする。
【0040】
第1に、分析用サンプルが絶縁性であり、あるいは厚い誘電層(例えば1センチメートル(cm)厚のガラス)を含むときに、プラズマ内の電磁界の結合において改良が観察される。
【0041】
プラズマの分布は軸方向磁界に電界を同時に印加することにより修正される。サンプルの表面付近のプラズマ密度を増加することを追求する先行技術の装置と違って、本発明の装置においては、プラズマが陽極2の軸に沿ってより強くなり、軸X−X’に垂直な放射方向に、より制限されることが観察される。
【0042】
安定した浸食を伴うプラズマを得るために、いわゆる「アルファ」モード(高インピーダンスモード)から、サンプル表面に垂直な連続電界を用いて薄膜を形成することを意味するいわゆる「ガンマ」モード(低インピーダンスモード)に移行することが必要である。
【0043】
軸方向磁界が印加されるので、陽極壁に対するプラズマ損失が最小化され、プラズマ電子は磁力線の周りを回ることを強要され、それらは従って、拡散によりより緩やかに失われる。
【0044】
軸方向磁界により引き起こされたプラズマ閉じ込めは従って、誘電体又は半導体サンプルにとってより好都合な熱量で、より低いRF電力でのアルファ−ガンマ遷移を得ることを可能にする。
【0045】
結合の改善は従って、より低い印加電力で稼働すること、あるいは同一の印加電力に対してサンプルの加熱を減らすことを可能にする(その密度がサンプル近辺で減少するので、高速の中性元素との衝突による加熱が少ない)。
【0046】
本発明はまた薄くかつ/あるいは脆いいくつかのサンプルを用いたグロー放電分光分析法への新しい応用を可能にする。なぜなら、本発明の装置はそのようなサンプルに対するグロー放電の破壊効果を減らす働きをするからである。
【0047】
本発明は第1にGDS測定値のS/N比を、第2に平坦な底を有する浸食孔を得ることによりそのような測定値の深さ分解能を著しく改善することを可能にする。これらの特徴の改善は半導体又は非導電性サンプルにとって特に重要である。
【0048】
本発明は絶縁性サンプル、又は絶縁膜を含むサンプルへの、また薄くかつ/あるいは脆いサンプルへのGDSの応用分野を拡大することを可能にする。
【符号の説明】
【0049】
1 GDS用放電ランプ
2 中空円筒の第1の電極
3 RF印加装置
4 第2の電極
6 真空容器
8 ポンプ
10 不活性ガス源
11 アブレーションプラズマ
12 サンプル
13 磁石
15 カプラ
16 結合手段
19 冷却手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グロー放電分光分析装置用放電ランプ(1)において、
第1にポンプ手段(8)に接続され、第2に不活性ガスを真空容器(6)中に注入する注入手段(10)に接続された前記真空容器(6)を有するランプ本体と、
縦軸X−X’を有する中空円筒の第1電極(2)と、
分析用サンプル(12)を受け、前記中空円筒電極(2)の一端に面する前記サンプル(12)を保持するのに適した第2の電極(4)と、
前記両電極(2及び4)の端子に、前記ガス(10)の存在の下にグロー放電プラズマ(11)を発生させるのに適した連続、パルス状、高周波(RF)、又はハイブリッド電界を印加する印加装置(3)を備える電界発生手段と、
前記プラズマ(11)の少なくとも一つの成分を測定するのに適した分光計に前記放電ランプを結合する結合手段(16)と、
磁界を発生させる磁界発生手段と
を備えるグロー放電分光分析装置用放電ランプであって、
前記磁界発生手段は軸X−X’に沿って向いた磁力線を有する磁界を発生させるのに適しており、前記磁界の強度と向きは、方向X−X’に沿って突き出た前記中空円筒電極(2)の内側面積以上の前記サンプル(12)の面積にわたり均一であることを特徴とするグロー放電分光分析装置用放電ランプ。
【請求項2】
前記磁界発生手段は、前記電極(4)の背後に配置された少なくとも一つの磁石(13)であって、その両磁極を結ぶ軸が軸X−X’に平行であり、軸X−X’に直角な方向のその寸法が前記電極(2)の突き出た内側面積より大きい少なくとも一つの磁石(13)を備えることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記磁界発生手段は、軸X−X’を有する中実円筒の形式をし、前記電極(4)の背後に配置された磁石(13)を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記磁界発生手段は、前記中空円筒電極(2)の周りに配置され、その両磁極を結ぶ軸が前記電極(2)の軸X−X’に平行な少なくとも一つの環状磁石(13)を備えることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一つに記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記磁界発生手段は一つ以上のNbFeB磁石を備えることを特徴とする請求項1ないし4の何れか一つに記載の放電ランプ。
【請求項6】
前記磁界発生手段は、金属カプラ(15)内に配置され、電気絶縁部品により前記カプラ(15)内に保持された一つ以上の磁石(13)を備え、前記カプラ(15)は、前記磁石(13)の磁気軸が軸X−X’と一致するように第1に前記第2の電極(4)に、第2に前記電界印加装置(3)に接続されることを特徴とする請求項1ないし5の何れか一つに記載の放電ランプ。
【請求項7】
前記磁界発生手段は軸X−X’に平行な軸を有する電磁コイルを備えることを特徴とする請求項1ないし6の何れか一つに記載の放電ランプ。
【請求項8】
前記磁界発生手段を冷却するのに適した冷却手段を含むことを特徴とする請求項1ないし7の何れか一つに記載の放電ランプ。
【請求項9】
前記磁界発生手段は、前記中空円筒電極(2)の端部に面する前記サンプル(12)の面積にわたり強度と向きが均一な磁界を発生させるように前記中空円筒電極の突き出た内側面積より大きい、軸X−X’に対して直角に伸びる寸法を呈することを特徴とする請求項1ないし8の何れか一つに記載の放電ランプ。
【請求項10】
磁界の強度を測定し、前記サンプル(12)における磁界の強度を所定の閾値と比較するのに適した手段を含むことを特徴とする請求項1ないし9の何れか一つに記載の放電ランプ。
【請求項11】
グロー放電分光分析装置用放電ランプ(1)を改良する方法であって、
請求項1ないし10の何れか一つに記載された放電ランプの両電極(2、4)の端子に、サンプル(12)の表面をアブレートするプラズマを発生させるのに適した連続、パルス状、RF、又はハイブリッド電界を印加するステップと、
同時に、前記放電ランプの前記中空円筒電極(2)の軸X−X’に平行な磁力線を有する軸方向磁界を印加するステップであって、前記磁界の向きと強度が、方向X−X’に沿って突き出た前記中空円筒電極(2)の内側面積以上の前記サンプル(12)の面積にわたり均一であるステップと
を備えた方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−517586(P2012−517586A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548761(P2011−548761)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050226
【国際公開番号】WO2010/092301
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(504458736)
【Fターム(参考)】