輪郭に合った結合面を有する歯科矯正器具
光開始剤を含有する歯科矯正用接着剤などの一定量の光硬化性組成物を、歯科矯正器具のベースと、患者の歯構造の複製との間に配置する。複製は、化学線を透過させる材料を使用して作製される。複製の歯構造としっかり接触するように器具を押圧する時、光硬化性組成物の外面は、複製の歯構造の下にある部分の形態を呈する。次いで、光硬化性組成物を硬化させるため、化学線を光硬化性組成物に向け、複製の歯型模型を通るように化学線の少なくとも一部を向ける。硬化した組成物は、患者の歯構造の対応する部位に一致する形状を有する、輪郭に合った結合面を提供する。輪郭に合った結合面を有する器具と共に使用する歯科矯正インダイレクトボンディング転移装置の作製方法も開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは、ブラケットおよびバッカルチューブなどの歯科矯正器具を作製する方法および装置に関する。更に詳細には、本発明は、歯に装着するための結合面を有する歯科矯正器具に関し、結合面は、選択される治療目的に応じて、所望の形状に作られる。本発明は、また、輪郭に合った結合面を有する1つ以上の器具を備えるインダイレクトボンディング用転移装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
歯科矯正治療は、位置異常の歯を口腔内の所望の位置に移動させることを要する。歯科矯正治療は、患者の顔の外観を、とりわけ、歯が著しく曲がっている場合、または、顎が互いに整列していない場合、患者の顔の外観を改善することができる。歯科矯正治療は、食べる間の咬合を改善することにより、歯の機能を向上させることもできる。
【0003】
通常の歯科矯正治療の1種には、ブラケットとして知られるスロット付きの小さい器具が使用される。ブラケットは患者の歯に固定され、各ブラケットのスロットの中にアーチワイヤが配置される。アーチワイヤは、歯が所望の位置に移動するように案内する軌道を形成する。
【0004】
歯科矯正用アーチワイヤの端部は、バッカルチューブとして知られる小さい器具に接合されることが多く、また、バッカルチューブは、患者の臼歯に固定される。多くの場合、患者の上顎および下顎歯列弓のそれぞれに、1組のブラケット、バッカルチューブ、およびアーチワイヤが提供される。ブラケット、バッカルチューブ、およびアーチワイヤは、通常、集合的に「ブレース」と称される。
【0005】
これまで、ブラケットおよびバッカルチューブを含む金属製歯科矯正器具は、バンドに溶接されることが多かった。各バンドは、患者の歯の1本を取囲み、歯と器具の間に確実な接合を提供するように構成された。典型的には、バンドと歯のエナメル質の間のあらゆる隙間または空隙を充填し、バンドが歯の上で「揺れ動く」ことを防止するのに役立つように、バンドを歯に配置する前に、バンドセメントなどの組成物がバンドの内面に塗布された。
【0006】
しかし、金属製バンドは、一般に、美的でないと考えられ、望ましくない「メタリックな口元」の外観の一因となる。更に、適切にフィットさせるため、各バンドのサイズと形状が患者の歯のサイズと形状に一致するように、各バンドを注意深く選択しなければならない。更に、バンドは、セラミックおよびプラスチックなどの非金属材料製の器具と共に使用するのに好適であるとは考えられない。
【0007】
近年、接着剤で歯のエナメル質表面に結合される器具の使用に大きな関心がある。これらの器具は、金属性バンドに取り付けられず、その結果、患者の外観が改善される。更に、バンドの費用、並びに、バンドを選択し、器具をバンドに装着するのに必要な時間を回避できる。
【0008】
しかし、歯に接着される器具はどれも、全治療過程にわたって歯にしっかり装着された状態を維持することが重要である。歯科矯正器具は、咀嚼中、器具と歯の間に位置する場合がある食物の存在により口腔内でかなりの力を受けることがある。患者がハードキャンディまたは氷など比較的固い食物を噛むとき、これらの力は比較的大きい可能性があり、器具が歯から剥離する場合もある。
【0009】
残念ながら、歯科矯正器具が無意図的に歯から剥離すると、歯科矯正治療プログラムの進行は突然停止する可能性がある。その場合、患者は、治療を再開できるように、直ぐに臨床医の再診を受けて器具を再装着してもらうか、または取り替えてもらう。器具の偶発的な剥離によって生じる臨床医と患者の両方の時間と費用は、煩わしいものと考えられ、回避されるのが最善である。
【0010】
その結果、歯科矯正器具の製造業者は、器具が全治療過程にわたって歯にしっかり接着した状態を維持することを確実にするため、あらゆる手段を尽くすことが多い。この目的のため、器具のベースに、器具と歯の間の結合強度を改善する特徴が設けられることが多い。一例として、嵌合が得られるように、ベースは、歯の凸状の複雑な表面によく一致する、凹状の複雑な輪郭を有する場合がある。別の例として、ベースは、接着剤と器具との結合強度を向上させる役割をする突起、凹部、または化学処理などの機械的または化学的特徴を備える場合がある。しかし、典型的には、ベースが統計的に「平均的な」患者の期待される形状に一致する形状を有する器具が製造され、販売されているが、それは、治療を受ける特定の患者の歯に形状が類似している場合もあれば、類似していない場合もある。
【0011】
更に、多くの種類の歯科矯正法では、器具のベースの形状は、歯が意図される最終位置に移動することを確実にするのに役立つために重要な要因である。例えば、通常の歯科矯正治療法の1種は、「ストレートワイヤ」法として知られ、この技法では、弾性のあるアーチワイヤは、治療の終了時に水平面にある滑らかな曲線に従う傾向がある。例えば、患者の歯の凹状の形状が、「平均的な」患者のために作製された器具の凹状の形状の向きと異なる方向を向いて配置される場合、器具は、歯に対して適切な向きに配置されず、アーチワイヤスロットが、ストレートワイヤ治療をする歯に対して不適切な角度で延在することになる。治療プログラムの終わり近くに、アーチワイヤが水平な直線状の形態を呈する時、不適切な向きに配置されている器具によって、歯はそれに対応する不適切な位置をとることになる。
【0012】
器具のベースの形状の他の態様も重要である。例えば、アーチワイヤが治療プログラムの終わり近くに滑らかで水平な曲線の形態を呈する時、歯の縦軸が予め選択されたある一定の向きの方に回転するまたは傾くように、「楔形」の形態を有するベースを提供することが望ましい場合がある。この点に関して、歯がその長軸を中心とする回転方向に回転するか、または、或いは歯の長軸が近心−遠心基準軸、または唇側舌側基準軸のどちらかに沿って傾くような向きに楔の形状を配置することが可能である。
【0013】
一般に、患者の歯に接着されるように構成されている歯科矯正器具は、ダイレクトボンディング法またはインダイレクトボンディング法の2つの方法のうちどちらか1つによって歯に配置される。ダイレクトボンディング法では、器具と接着剤が1本のピンセットまたは他の手道具で把持され、臨床医によって歯の表面の適切な所望の位置に配置される。次に、臨床医がその位置に満足するまで、必要に応じて、器具を歯の表面に沿って移動させる。器具がその精密な意図される位置にくると、器具が接着剤の中に設置されるように、器具を歯にしっかり押付ける。器具のベースに隣接する領域の余分な接着剤を除去した後、接着剤を硬化させて器具を所定の位置にしっかり固定する。典型的には、接着剤には、化学線に曝露されると硬化し始める光硬化性接着剤と、構成成分を一緒に混合すると硬化し始める二成分化学硬化接着剤とが挙げられる。
【0014】
前述のダイレクトボンディング法は広く使用されており、多くの人は満足なものであると考えているが、このような技法には固有の欠点がある。例えば、位置異常の歯の表面にアクセスすることが困難な場合がある。場合によっては、特に後方歯に関して、臨床医が歯の表面に対するブラケットの精密な位置を見るのが困難なことがある。更に、器具のベースに隣接する余分な接着剤を取除く間、無意図的にぶつかって器具がその意図される位置から外れる場合がある。
【0015】
前述のダイレクトボンディング法に付随する別の問題は、各器具を各個々の歯に結合させる処置を実施するのに必要な時間が著しく長いということに関する。典型的には、臨床医は、接着剤が硬化する前に、各器具をその精密な意図される位置に位置決めすることを確実にしようとし、臨床医が各器具の位置に満足するまで幾らか時間が必要な場合がある。しかし、同時に、とりわけ患者が青年である場合には、比較的じっとしたままでいることが患者には不快であったり、困難な場合がある。理解され得るように、ダイレクトボンディング法には、臨床医と患者の両方にとって煩わしいと考えられ得る面がある。
【0016】
インダイレクトボンディング法では、前述の問題の多くが回避されることが多い。一般に、これまでに知られているインダイレクトボンディング法では、患者の歯列弓の少なくとも一部の形態に一致する形状を有する転移トレイが使用されてきた。ブラケットなどの1組の器具は、トレイの所定のある一定の位置に取り外し可能に接合される。接着剤を各器具のベースに塗布した後、接着剤が硬化するまで患者の歯を覆うようにトレイを配置する。次に、歯と器具からトレイを取り外すと、その結果、予めトレイに接合された器具は全て、各歯の意図される所定の位置に結合している。
【0017】
更に詳細には、歯科矯正器具のインダイレクトボンディング法の1つは、患者の各歯列弓の印象を採得した後、各印象から複製用焼石膏模型または「石膏(stone)」模型を作製する工程を含む。任意に、石鹸液(ホイップ・ミックス社(Whip Mix Corporation)製のモデル・グロウ(Model Glow)ブランドなど)またはワックスを石膏模型に塗布する。次いで、分離液(GCアメリカ社(GC America,Inc.)製のCOE−SEPブランドのスズ箔代用品など)を石膏模型に塗布し、乾燥させる。必要に応じて、模型の歯に鉛筆で印を付け、ブラケットを理想的な位置に配置することを補助できる。
【0018】
次に、ブラケットを石膏模型に結合させる。任意に、接着剤は、化学硬化接着剤(3M製のコンサイス(Concise)ブランドの接着剤など)または光硬化性接着剤(3M製のトランスボンド(Transbond)XTブランドの接着剤、またはトランスボンド(Transbond)LRブランドの接着剤など)とすることができる。任意に、ブラケットは、米国特許第5,015,180号明細書、同第5,172,809号明細書、同第5,354,199号明細書、および同第5,429,299号明細書に記載されるものなどの、接着剤が予めコーティングされているブラケットであってよい。
【0019】
次いで、模型と模型上に配置されているブラケットを覆うようにマトリックス材料を配置することによって、転移トレイを作製する。例えば、プラスチックシートマトリックス材料を枠で保持し、放射熱に曝露させてもよい。プラスチックシート材料が軟化した後、模型とブラケットを覆うようにそれを配置する。次いで、シート材料と模型の隙間にある空気を排気すると、プラスチックシート材料は、石膏模型の複製の歯とそれに装着されているブラケットの形状に精密に一致する形態を呈する。
【0020】
次いで、プラスチック材料を冷却し、硬化させてトレイを形成する。次いで、トレイと(トレイの内壁に埋設されている)ブラケットを石膏模型から取り外し、トレイの側部を必要に応じて切り落とす。典型的には、ブラケットを石膏模型に予め装着させた接着剤は、ブラケットに接合したままである。この接着剤は、後でブラケットを口腔内の患者の歯に装着するための結合面を提供する外面を有する。場合によっては、この結合面は、複製の歯構造並びに患者の歯構造の形状におおよそ一致する、輪郭に合った形状を有する。
【0021】
患者が治療室に戻ると、一定量の接着剤をブラケットのベースに配置し、次いで、ブラケットが埋設されているトレイを、患者の歯列弓の一致する部分を覆うように配置する。トレイの内部の形態は患者の歯列弓の各部分にぴったり一致するため、各ブラケットは、最終的に、同じブラケットが以前あった石膏模型上の位置に対応する、患者の歯の精密に同じ位置に位置決めされる。
【0022】
光硬化性接着剤と化学硬化接着剤は両方とも、これまで、ブラケットを患者の歯に固定するためインダイレクトボンディング法に使用されてきた。光硬化性接着剤を使用する場合、トレイは、好ましくは透明または半透明である。二成分化学硬化接着剤を使用する場合、接着剤をブラケットに塗布する直前に、構成成分を一緒に混合することができる。或いは、1つの成分を各ブラケットのベースに配置し、もう一方の成分を歯の表面に配置してもよい。どちらの場合も、ブラケットが埋設されているトレイを患者の歯列弓の対応する部分に配置することによって、ブラケットをまとめて歯に結合させることができ、治療室で患者がイスに座っている時間が短くて済む。このような技法を用いると、各ブラケットを歯に逐次的に、個々に配置し、位置決めすることが回避される。
【0023】
これまで、様々な転移トレイ、および転移トレイ用の材料が提案されてきた。例えば、石膏模型および模型上の器具を覆うように配置するのに、柔軟なシート材料(ショイ・デンタル社(Scheu−Dental GmbH)製のバイオプラスト(Bioplast)トレイ材料など)を使用する臨床医もいる。真空を作用させて柔軟な材料を吸引し、模型および模型上の器具と密着させる。次に、再度、真空形成法を使用して、より柔軟なシート材料を覆うように、より剛性の大きいシート材料(ショイ・デンタル社(Scheu−Dental GmbH)またはグレート・レイクス・オーソドンティクス社(Great Lakes Orthodontics,Ltd.)製のバイオクリル(Biocryl)シート材料など)を形成する。より剛性の大きい材料はトレイに骨格を提供するが、一方、より柔軟な材料は最初に器具を保持し、しかもなお、器具が患者の歯に固定された後、器具から外れるのに十分な可撓性がある。
【0024】
また、これまで、シリコーン印象材料または咬合間記録材料(ヘレウス・クルツァー社(Heraeus−Kulzer GmbH &Co.KG)製のメモシル(Memosil)2など)を使用することが提案されてきた。研究用模型に装着されている器具に、器具が部分的に被包されるようにシリコーン材料を塗布する。
【0025】
モスコビッツ(Moskowitz)らによる「インダイレクトボンディングの見直し(A New Look at Indirect Bonding)」と題された記事(臨床矯正歯科学誌、30巻、5号、1996年5月、277頁以下参照(Journal of Clinical Orthodontics, Volume XXX, Number 5, May 1996, pages 277 et sec.))では、レプロシル(Reprosil)印象材料(デンツプライ・インターナショナル(Dentsply International)製)を使用して、インダイレクトボンディングトレイを作製する技法が記載されている。印象材料は、シリンジを用いて、予め石膏模型上に配置されたブラケットを覆うように配置される。次に、真空形成法を使用して、印象材料を覆うように透明な熱可塑性材料のシートを吸引する。次いで、得られる転移トレイを模型から除去し、その後、患者の歯列弓に配置する。
【0026】
インダイレクトボンディング法は、多くの点でダイレクトボンディング法より優れている。1つには、前述のように、複数のブラケットを患者の歯列弓に同時に結合させることが可能であり、それによって、各器具を個々に結合させる必要がない。更に、インダイレクトボンディングトレイは、ブラケットを全部、それらの適切な、意図される位置に配置することに役立ち、そのため、結合前に歯の表面で各ブラケットを調節することが回避される。インダイレクトボンディング法により器具の配置の正確さが増すことが多く、これは、治療の終了時に患者の歯が適切な、意図される位置に移動していることを確実にするのに役立つ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
前述のインダイレクトボンディング法は、多くの臨床医にとって満足なものであることが分かっているが、引き続き、技術的現状を改善する必要がある。更に、当面の特定の患者のために特別に構成されている結合面を有する器具を提供する方法および装置を改善する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、改善された結合面を有する歯科矯正器具、並びに、その作製方法および装置に関する。本発明の結合面は、器具が化学線を透過させない材料で製造されているときでも、その全範囲にわたって同時に比較的硬質の状態に硬化される光硬化性組成物で作製される。更に、結合面は、器具のベースの中心付近の部位でも比較的滑らかである。その結果、患者の歯構造の形状と精密に嵌合する結合面が容易に達成される。
【0029】
本発明は、化学線を透過させる模型を使用することにより実施される。模型を通過する化学線の一部は、器具のベースの中心付近に位置する光硬化性組成物の部分に到達する。それらの部分は、光硬化性組成物の残りの部分と実質的に同程度まで硬化する。その結果、器具を複製から取り外す時、それらの中心部分の形状が変わらず、結合面は歯の形状に精密に一致する形態を有する。
【0030】
更に詳細には、本発明は、一態様において、歯科矯正器具の結合面を作製する方法に関し、本方法は、
化学線を透過させる材料で構成された患者の歯構造の複製を用意する工程と、
少なくとも1つの歯科矯正器具のベースに光硬化性組成物を配置する工程と、
各器具の光硬化性組成物を歯構造の複製と係合させる工程と、
化学線の少なくとも一部を歯構造の複製を通るように方向付けることにより、光硬化性組成物に化学線を向かわせる工程と、
を含む。
【0031】
本発明は、また、別の態様において、インダイレクトボンディングのための歯科矯正用転移装置を作製する方法に関する。本方法は、
化学線を透過させる材料で構成された患者の歯構造の複製を作製する工程と、
少なくとも1つの歯科矯正器具のベースに光硬化性組成物を配置する工程と、
各器具の光硬化性組成物を複製の歯構造と係合させる工程と、
光硬化性組成物に化学線を向かわせる工程であって、該工程が、患者の歯構造の複製を通るように化学線を向けることによって少なくとも部分的に実施される、工程と、
各器具および歯構造の複製を覆うように転移装置を形成する工程と、
を含む。
【0032】
本発明は、また、歯科矯正器具の結合面を作製する装置にも関する。本装置は、歯構造の複製を含み、複製は化学線を透過させる材料で作製される。装置は、また、歯科矯正器具、および、器具と複製の間にある光硬化性組成物も備える。装置は、更に、複製を通る経路に沿って、および、光硬化性組成物の方に化学線の少なくとも一部を向かわせるように操作可能な化学線源を備える。
【0033】
本発明の更なる詳細は、特許請求の範囲の特徴に定義されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
まず、本発明の一態様による、1つ以上の歯科矯正器具のインダイレクトボンディング法を説明する。図1は、歯科矯正患者の歯列弓の一部の複製20を表す。例示の目的のため、複製20は患者の下顎歯列弓を表す。しかし、図示されている下顎歯列弓の追加として、または代替として患者の上顎歯列弓の複製が提供されてもよい。別の選択肢として、複製20は、歯列弓の四分円、または、歯列弓の歯1本若しくは2本だけなど、歯列弓の一部だけを表してもよい。図示されている実施例では、複製20は、患者の下顎歯列弓の各歯に対応する多数の複製の歯22を備える。
【0035】
任意に、まず、過度の歪が生じないように注意して、患者の下顎歯列弓の印象を採得することによって複製20を作製する。好適な印象材料の例には、ハイドロコロイド印象材料、およびビニルポリシロキサン印象材料(3M ESPE製のポジション・ペンタ(Position Penta)ブランドのビニルポリシロキサン印象材料など)が挙げられる。場合によっては、および、複製の製造に使用される材料の種類に応じて、3Mユニテック(3M Unitek)製のユニジェル(Unijel)IIブランドのアルジネート印象材料などのアルジネート印象材料を使用してもよい。
【0036】
次いで、印象から模型または複製20を作製する。選択肢として、複製20は、複製の歯22、および複製の歯22を一緒に保持するのに十分な複製の歯肉組織24だけを備える。
【0037】
複製の歯22を備える複製20は、化学線を透過させる材料から作製される。好適な材料には、硬化時に透明または半透明なエポキシ樹脂が挙げられる。好ましくは、材料は、光学的に透明で無孔性である。好適なエポキシの一例は、ユナイテッド・レジン社(United Resin Corporation)製のE−キャスト(E−CAST)F−82透明エポキシ樹脂、および、302番(またはUCE−302)硬化剤である。他の好適な材料には、ポリエステルおよびウレタンが挙げられる。
【0038】
複製20の作成中、泡および/または小さい空隙が存在しないように注意する。小さい空隙が存在する場合、化学線を透過させない追加量の材料を空隙に充填することができる。
【0039】
代替として、患者の歯および隣接する歯肉組織を表すデジタルデータを使用して複製20を作製してもよい。手持ち式の口内スキャナまたは当該技術分野で既知の他のデバイスを使用して、デジタルデータを得てもよい。別の選択肢として、印象または石膏模型を走査することによってデジタルデータを得てもよい。次いで、例えば、立体解析プリンタ、および化学線を透過させる材料を使用して、デジタルデータから複製20を作製してもよい。
【0040】
また、デジタルデータを切削プロセスに使用し、複製20を作製してもよい。例えば、スイス、ブエラッハ(Buelach,Switzerland)のセレック・ネットワーク(Cerec Network)により販売されているCAD/CIMミリングマシンに類似のCNCミリングマシンを使用して、セラミック、複合材料、または他の材料で製造されている複製を切削してもよい。セレック(Cerec)マシンに関連するカメラに類似の口内カメラを使用して、歯列弓の形状を表すデジタルデータを得てもよい。或いは、スキャナを使用して印象または印象の模型を走査し、デジタルデータを得てもよい。
【0041】
好ましくは、複製20は、患者の口腔構造を正確に表す。特に、複製の歯22は、対応する歯科矯正患者の歯の形態および向きと同一の形態および向きを有する。更に、複製の歯肉組織24は、対応する患者の歯肉組織部分の形状に一致する形状を有する。
【0042】
次に、図2および図3に示されるように、スペーサー材料を複製20に貼付する。この実施例では、スペーサー材料は、複製の歯22の適切な所定の位置に配置されている、材料の一連の別個のダブ(dabs)または予備形成されたセグメントを含む第1のスペーサー材料26を備える。スペーサー材料26のダブまたはセグメントは、それぞれ、後の歯科矯正器具の位置に対応する位置に配置され、全体の寸法が、選択された器具と少なくとも同じ大きさである。例えば、スペーサー材料26のセグメントは、それぞれ、対応する歯の顔面軸点(または、「FA」点)に対応する位置に配置されるが、他の位置も可能である。後述のように、スペーサー材料26のセグメントは、それぞれ、歯科矯正器具を収容する転移装置に後でクリアランスを提供する機能をする。
【0043】
スペーサー材料26のセグメントの代替として、スペーサー材料26は代わりにストリップの形態の細長い形態を有する。ストリップは、複製の歯22の少なくとも幾つか、好ましくは全部にわたって延在するのに十分な長さを有し、後のアーチワイヤの位置に対応する経路に従う。ストリップは、後でアーチワイヤに固定される器具のそれぞれにクリアランスを提供するのに十分な幅を有する。実際には、(図1に見られる歯のように)歯が略整列している場合には、ストリップの形状のスペーサー材料が好ましいことがあり、歯がかなり曲がっている、および/または互いにあまり整列していない場合には、別個のセグメントまたはダブの形状のスペーサー材料が好ましいことがある。
【0044】
この実施形態では、スペーサー材料は、また、好ましくは複製の歯22の表面のかなりの部分にわたって、好ましくは複製の歯肉組織24の表面の少なくとも一部にわたって延在するスペーサー材料28のシートを包含する。図3に表されるように、シートスペーサー材料28は、また、スペーサー材料26のセグメントを覆うように延在する。表されている例では、スペーサー材料28のシートは、複製の歯22の頬面唇面の表面領域全体を覆うように、複製の歯22の咬合側縁部に沿って、および、複製の歯22の舌側全体にわたって延在するが、他の構成も可能である。
【0045】
別の代替として、2つの材料を別々に操作することが回避されるように、スペーサー材料26、28を一体化した単一の材料区分として提供してもよい。更に、(単独、またはスペーサー材料26と一体の)材料28のシートを歯列弓の形状に近似した形態に予備形成してもよい。後述のように、このような構成によって、シート材料28を後で複製の歯22に適合させることが容易になる。
【0046】
スペーサー材料26、28は、複数の材料のいずれでもよい。好適な材料は、ゼネラルエレクトリック(General Electric)製の「RTV615」などのシリコーン材料である。任意に、感圧接着剤などの接着剤を使用して、スペーサー材料26を複製20上の所定の位置に一時的に保持してもよい。任意に、スペーサー材料26のセグメントまたはストリップを予備形成し、一方側に感圧接着剤層をコーティングし、使用するのに必要とされる時まで、最初、離型材のシートに接合していてもよい。或いは、シリンジから一定量の流動性硬化性材料を分配した後、必要に応じて手道具で各ダブを成形することにより、スペーサー材料のダブを提供してもよい。
【0047】
次に、スペーサー材料28のシートを複製の歯22および歯肉組織24の形態に形成するため、複製20およびスペーサー材料26、28に真空を作用させる。本明細書で使用する場合、「真空」の用語は、必ずしも絶対真空に限定されず、大気よりも低い任意の圧力を意味するものと理解されたい。実際には、複製20はスペーサー材料26と共に、真空ポンプと連通するチャネルを有する円盤形の支持体上に配置される。次いで、複製を覆うようにスペーサー材料28のシートを配置し、真空ポンプを作動させてスペーサー材料28のシートを吸引し、複製の歯22と歯肉組織24の形状にぴったり一致するように適合させる。
【0048】
その後、図4に表されるように、スペーサー材料26、28を覆うようにトレイ30を形成する。好ましくは、トレイ30は、スペーサー材料28のシートを覆うように材料のシートを真空形成することにより、成形される。トレイ30に好適な材料は、バイエル(Bayer)製のマクロロン(Makrolon)ブランドの材料、または、GE製のレキサン(Lexan)ブランドのポリカーボネートなどの、厚さ1.5mm(0.06インチ)のポリカーボネートのシートである。ポリエチレンテレフタレートグリコール(「PETG」)など、他の材料を使用してもよい。シートがスペーサー材料28のシートの形態に適合することを容易にするため、真空形成プロセス中に熱を加える。
【0049】
トレイ30が硬化した後、トレイ30をスペーサー材料26、28から取り外す。次いで、スペーサー材料26、28を複製20から取り外し、取っておく。トレイ30の余分な部分を必要に応じて切り落としてもよい。
【0050】
次いで、複製20に離型剤を薄層状に塗布し、乾燥させる。好適な離型剤の一例は、カリフォルニア州サンタフェスプリングズ、PTM&W社製の「PA0810」などの水溶性ポリビニルアルコールである。
【0051】
次に、複製の歯22における各器具の適切な意図される位置を決定するが、これは、対応する患者の歯における同器具の最終的な所望の位置に対応する。器具の位置を決定するため、様々な方法が利用可能である。例えば、臨床医、臨床医の助手、または技工士は、各複製の歯22の唇側表面を横切る印を鉛筆で付ける。好ましくは、MBT(登録商標)ブラケット位置決めゲージ、またはブーン(Boone)ブラケット位置決めゲージ(共に3Mユニテック(3M Unitek)社製)などのハイトゲージを補助として用い、鉛筆で印を付ける。各歯科矯正器具(歯科矯正ブラケットなど)のアーチワイヤスロットに配置するための位置案内の役割をするように、各複製の歯22の唇側表面を横切る線を鉛筆で引く。
【0052】
例えば、患者の下顎歯列弓を表す複製20では、複製の前歯22の咬合側縁部から3.5mmの距離に、一治療法による咬合面に平行な線を鉛筆で引いてもよい。複製の下顎犬歯22および複製の下顎双頭歯22の咬合側縁部から4.0mmの距離に類似の線を引く。また、(対応する患者の歯が、バンド上に取り付けられる器具を受容しない限り)各複製の臼歯22の咬合側縁部から3.5mmの距離に咬合面に平行な線を引く。図5に、前述の鉛筆の線の幾つかを数字32で示す。
【0053】
次に、臨床医によって選択される歯科矯正器具34(歯科矯正ブラケットおよびバッカルチューブなど)を、対応する複製の歯22に、好ましくは、各器具34のアーチワイヤスロットが各鉛筆の線32とほぼ整列するような位置に配置する。各器具34を各複製の歯22に配置する前に、一定量の組成物を各器具とそれに対応する歯22の間に配置する。好ましくは、組成物は、光開始剤を含有する歯科矯正用接着剤などの光硬化性組成物であり、接着剤は各器具34のベース全体にコーティングされる。
【0054】
好ましくは、器具34は、接着剤を予めコーティングされた器具であり、製造業者によって、各器具34のベースに光硬化性接着剤層が塗布されている。接着剤をコーティングされたこのような器具は、米国特許第5,015,180号明細書、同第5,172,809号明細書、同第5,354,199号明細書、および同第5,429,299号明細書に記載されており、これらは全て本発明の譲受人に譲渡されている。器具34は、金属(例えば、ステンレス鋼)、セラミック(例えば、半透明多結晶性アルミナ)またはプラスチック(例えば、半透明ポリカーボネート)などの任意の好適な材料で製造されてもよい。
【0055】
器具34が製造業者によって接着剤を予めコーティングされていない場合、臨床医が各器具34のベースに接着剤コーティングを塗布してもよい。好適な接着剤には、複合材料、コンポマー、グラスアイオノマー、および樹脂強化グラスアイオノマーが挙げられる。光硬化性接着剤の例には、3Mユニテック(3M Unitek)製のトランスボンド(Transbond)XTブランドまたはトランスボンド(Transbond)LRブランドの接着剤が挙げられる。化学硬化接着剤の例には、3Mユニテック(3M Unitek)製のコンサイス(Concise)ブランドの接着剤、およびマルチキュア(Multi−Cure)ブランドのグラスアイオノマーセメントが挙げられる。
【0056】
器具34を複製の歯22に配置した後、必要に応じて器具34を近心−遠心方向に移動させ、器具34の咬合−歯肉中心軸を各複製の歯22の長軸と整列させる。また、下にある鉛筆の線32の真上に各ブラケットのアーチワイヤスロットを配置するため、必要に応じて、器具34を咬合側または歯肉側方向に移動させる。任意に、再び、前述のMBT(登録商標)ゲージまたはブーン(Boone)ブラケット位置決めゲージなどのゲージを使用して、各器具34のアーチワイヤスロットを対応する複製の歯22の咬合側縁部から前述の距離に精密に位置決めする。
【0057】
次に、器具34が複製の歯22にしっかり設置されることを確実にするため、臨床医は、好ましくは、スケーラーまたは各器具34のアーチワイヤスロットに力を加える他の手道具を使用して、各器具34にしっかり圧力を加える。次いで、歯科用探針などの道具を使用し、設置中に器具34のベースの周縁部付近に押出される場合がある接着剤のバリを除去する。
【0058】
図6では、接着剤は数字36で示され、必ずしも一律の縮尺通りには描かれていない。歯科矯正医の助手または技工士が、直前に記載した工程を実施した後、複製20を歯科矯正医または技巧室の管理者に渡すことができるため、光硬化性接着剤36の使用は好都合である。次いで、接着剤36が硬化する前に、各器具34がそれに対応する複製の歯22に精密に配置されるかを、歯科矯正医または管理者が最終点検してもよい。一例として、助手または技工士は複製20を多数準備し、歯科矯正医または管理者が検査するまで、黒いプラスチックの箱などの不透明容器に貯蔵してもよい。このようにして、歯科矯正医または管理者は、接着剤36を過度にまたは尚早に硬化させることなく、都合のよい時に多数の異なる複製20上における器具34の配置を検査することができる。
【0059】
器具の位置が正確であるかを確認した後、接着剤36の方に化学線を向けるため、化学線源を作動させる。化学線が接着剤に到達すると、光重合反応が開始され、接着剤36が硬化する。好適な化学線源には、手持ち式の光硬化装置、ならびに据置き型の硬化チャンバが挙げられる。
【0060】
好適な硬化チャンバの一例は、デンツプライ(Dentsply)製のトリアド(Triad)2000ブランドの可視光線硬化システムである。好ましくは、硬化チャンバは、多数の複製20上の接着剤36を同時に硬化することができるように、多数の複製20を収容するのに十分な大きさがある。このようなチャンバでは、光源と複製20は、好ましくは、光源の通電中、互いに対して移動し、接着剤36の各部分の硬化を容易にする。
【0061】
器具34が金属または他の不透明な材料で製造されている場合、接着剤36が十分に硬化することを確実にするため、複製20を3分〜5分などの比較的長時間、キュアリングライトに曝露させることが好ましい。前述の光硬化チャンバの代替として、3Mユニテック(3M Unitek)製のオーソラックス(Ortholux)XTブランドのキュアリング装置などの手持ち式の硬化装置を使用してもよい。
【0062】
器具34が不透明な材料で製造されている場合、化学線は複製20を透過し、器具のベースの中央に隣接して位置する接着剤36の部分を硬化できるため、複製20の作製に透明または半透明な材料を使用することは特に好都合である。さもなければ、それらの部分は、接着剤を満足のいく程度まで硬化できるのに十分な化学線を受容しない場合がある。接着剤36に含有される開始剤の種類に応じて、化学線は、可視領域の波長(即ち、約400nm〜約750nm)、紫外領域の波長(即ち、約4nm〜約400nm)、赤外領域の波長(即ち、約750nm〜約1000マイクロメートル)、またはこれらのいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0063】
複製20を通過する化学線は、1つ以上の異なる経路に沿って進む場合がある。例えば、化学線は、器具のちょうど反対側の複製20の舌側に位置する線源から放射され、器具のベースの方に頬面唇面方向に移動する場合がある。別の例では、化学線源は、器具のちょうど反対側の位置から偏倚し、化学線が頬面唇面−舌側の基準軸に対して一定の角度で延在する経路に沿って進むように位置決めされる場合がある。本明細書で使用される場合、複製を「通る」経路は、複製の両側で出入りする経路に限定されず、また、複製の同じ側で出入りする経路も包含する。
【0064】
更に、複製20は、化学線を透過する材料から全体が構成される必要はない。例えば、複製20は、化学線を透過させない材料で作製されているコアまたは他の区分を備えてもよく、その後、コアまたは他の区分を覆うように光透過性材料層を塗布する。その場合、接着剤36への化学線の通過を容易にするため、光透過性材料層とコアまたは他の区分との間に反射材料層を配置してもよい。
【0065】
前述の手による配置の代替として、ロボット設備で器具34を複製の歯22に配置してもよい。例えば、ロボット設備は、1組の器具から適切な器具34を選び取って、選択された器具を適切な複製の歯22に配置するようにプログラムされている把持アームを備えてもよい。次いで、ロボットアームは、別の器具34を把持し、別の複製の歯22に配置することを続ける。
【0066】
任意に、ロボットアームの移動経路および配置された器具34の最終的な位置は、複製20の仮想模型を表すデジタルデータにアクセスできるコンピュータソフトウェアで決定される。ソフトウェアは、好ましくは、患者の現状の不正咬合を分析し、当面の特定の不正咬合を治療するための適切な器具を選択するのに好適なサブプログラムを備える。任意に、ソフトウェアにより、臨床医、患者、または他の観察者は、歯の特定の位置に配置される選択された器具を使用する治療の終了時の患者の歯を表す、患者の歯の仮想画像をモニターまたは他のビデオ出力で見ることができる。
【0067】
好ましくは、ソフトウェアは、器具を選択するため、不正咬合を分析するため、および/または、歯の移動および歯の最終位置を予測するためのサブプログラムを備える。器具を選択するためのソフトウェアの一例は、「歯科矯正ブラケットの選択(Selection of Orthodontic Brackets)」と題された、米国特許出願公開第2003/0163291号明細書に記載されている。任意に、ソフトウェアは、前述の現存する1組の器具から器具を選択するのではなく、例えば、コンピュータ数字制御ミリングマシンを使用して、受注製作の歯科矯正器具を作製するためのサブプログラムを備える。
【0068】
追加の選択肢として、歯科矯正用アーチワイヤを器具34のスロット内に配置し、所定の位置に結紮してもよい。この工程は、後で、イスに座って過ごす患者の時間を更に短縮するのに役立つ。
【0069】
複製20は、器具34(および、あればアーチワイヤ)と一緒に、図5に示されるような歯科矯正患者のセットアップ治療模型38を表す。次いで、模型38、またはトレイ30のチャネルのどちらかにマトリックス材料を塗布する。例えば、マトリックス材料が比較的高粘度で、半液体またはゲルに類似している場合、シリンジ、ブラシ、または他の技法を使用して、図5に示されるように、模型38にマトリックス材料を塗布してもよい。或いは、マトリックス材料が比較的低粘度で、液体に類似している場合、トレイ30のチャネルの開放側が図6に示されるように上向きになるように、トレイ30を倒置させることが好ましい場合がある。トレイ30を倒置させる場合、液体マトリクス材料がトレイのチャネル内に収容されるように、最初は、トレイ30を最外部の遠位側(歯列弓の端部に対応する)に沿って切り落とさない。
【0070】
その後、マトリックス材料がトレイ30のチャネル内、および、トレイ30と模型38の間に収容されるように、模型38をトレイ30の中に位置決めする。図6では、マトリックス材料は数字40で示され、器具34並びに複製の歯22の唇側および舌側表面を取囲む。次いで、マトリックス材料40を硬化させる。
【0071】
好ましくは、マトリックス材料40と器具34の密接が確実になるように、マトリックス材料は、硬化前、比較的低粘度である。このようにして、マトリックス材料40は、器具34の様々な凹部、空洞、および他の構造的特徴に十分に貫入することができるため、器具34とマトリックス材料40の間に確実な接合を生じることができる。比較的低粘度の好適なマトリックス材料の一例は、前述のゼネラルエレクトリック(General Electric)製の「RTV615」シリコーン材料などのシリコーン材料である。また、このシリコーンマトリックス材料は比較的低粘度であるため、マトリックス材料が、隣接する複製の歯22の表面の形状にぴったり一致する形態を呈することが確実になる。
【0072】
或いは、マトリックス材料40は、歯科印象材料または咬合間記録材料を含んでもよい。好適な材料には、ヘレウス・クルツァー社(Heraeus−Kulzer Inc.)製のメモシル(Memosil)2ブランドのビニルポリシロキサン材料、またはディスカス・デンタル(Discus Dental)製のペパーミント・スナップ(Peppermint Snap)ブランドの透明な咬合間記録材料などのポリビニルシロキサン印象材料が挙げられる。器具34を患者の歯に結合させるため、光硬化性接着剤を使用する場合、マトリックス材料40は、好ましくは光学的に透明であり、化学線を透過させ、実質的に吸収しない。
【0073】
マトリックス材料40が硬化した後、トレイ30をマトリックス材料40および器具34と一緒に複製20から取り外す。前述の離型剤を使用すると、対応する複製の歯22から器具34を取り外し易くなる。次いで、必要に応じて、トレイ30の余分な材料および余分なマトリックス材料40を切り落とし、廃棄する。図7に、切り落とされて得られた転移装置44(トレイ30、マトリックス材料40、および器具34を含む)の断面図を示す。
【0074】
患者が治療室に戻った後、必要に応じて、チークリトラクタ、タングガード、コットンロール、ドライアングルおよび/または他の物品を使用して、器具を受容する患者の歯を隔離する。次いで、空気シリンジからの加圧空気を使用して歯を完全に乾燥させる。次いで、エッチング液が流れて隣接面と接触したり、または、皮膚若しくは歯肉に付着しないように注意して、器具34で被覆される歯の全域に、エッチング液(3Mユニテック・トランスボンド(3M Unitek Transbond)XTブランドのエッチングジェルなど)を軽く塗り付ける。
【0075】
エッチング液を選択された歯の表面に約30秒間、残留させた後、エッチング液を流水で15秒間、歯からすすぎ落とす。次いで、空気シリンジからの加圧空気を(例えば、30秒間)当てて患者の歯を乾燥させ、余分な水を吸引して除去する。また、唾液が、エッチングされたエナメル質表面と接触しないことが確実になるように、注意しなければならない。必要に応じて、再び、コットンロールおよび他の吸収デバイスを交換し、唾液がエッチングされたエナメル質と接触しないことを確実にする。次いで、再び、空気シリンジからの空気を歯に当てて、歯が完全に乾燥することを確実にする。
【0076】
次に、接着剤を、硬化した接着剤36および/または患者の歯の選択された領域に塗布する。任意に、接着剤は、図7に表される二成分接着剤である。例えば、第1の構成成分41は、トランスボンド(Transbond)ブランドのMIP水分非感受性プライマーであり、第2の構成成分43は、トランスボンド(Transbond)ブランドのプラス(Plus)セルフエッチングプライマーであり、これらは共に3Mユニテック(3M Unitek)製である。(セルフエッチングプライマーを使用する場合、前述のエッチング工程は省略される。)第1の構成成分41を、硬化した接着剤36に塗布し、第2の構成成分43を、器具34を受容する患者の歯の領域に塗布する。図7では、患者の歯を数字42で示す。
【0077】
第1の構成成分41を硬化した接着剤36に塗布し、第2の構成成分43を対応する患者の歯42の領域に塗布した後、任意に蝶番式に揺動させて、対応する歯を覆うようにトレイ30を位置決めし、設置する。マトリックス材料40の空洞の形状は、下にある歯の形状に一致し、器具34は、器具34が複製20上に以前あった位置に対応する精密に同じ位置に、下にある歯42に当たるように同時に設置される。次いで、好ましくは、接着剤が十分に硬化するまで、トレイ30の咬合側、唇側、および頬側の表面に圧力を加える。任意に、指圧を使用して、器具34を患者の歯42のエナメル質表面にしっかりと押し当ててもよい。
【0078】
好適な二成分化学硬化接着剤の他の例には、サンディ(Sondhi)ブランドのラピッド・セット(Rapid−Set)インダイレクトボンディング接着剤、ユナイト(Unite)ブランドの接着剤、および、コンサイス(Concise)ブランドの接着剤(全て3Mユニテック(3M Unitek)製)が挙げられる。或いは、樹脂強化グラスアイオノマーセメントを使用してもよい。
【0079】
接着剤が硬化した後、トレイ30を患者の歯列弓から注意深く除去する。好ましくは、まず、歯列弓を器具34と共に覆うように所定の位置に残留するマトリックス材料40からトレイ30を分離する。次に、マトリックス材料40を器具34から取り外す。マトリックス材料40を器具34から剥離させる時、任意に、各器具34を患者の各歯42の表面に当てて保持することに役立つスケーラーなどの手道具を使用してもよい。しかし、比較的柔軟なマトリックス材料が使用される場合、または、さもなければ器具34から容易に外れる場合、新しい接着が破壊しないようにすることに役立つスケーラーの使用は、任意選択的である。
【0080】
別の選択肢として、接着剤が硬化する前に、マトリックス材料40からトレイ30を分離してもよい。この選択肢は、接着剤が光硬化性接着剤であるとき、特に有用である。
【0081】
マトリックス材料40を器具34から取り外した後、アーチワイヤを器具34のスロット内に配置し、所定の位置に結紮する。好適な結紮デバイスには、小さい弾性Oリング、並びに、器具34の周囲にループ状に結び付けられるワイヤの区分が挙げられる。別の選択肢として、器具34は、米国特許第6,302,688号明細書、およびPCT国際公開第02/089693号パンフレットに記載されているものなどの、アーチワイヤに取り外し可能に係合するラッチを備える自己結紮器具であってよい。
【0082】
理解されるように、硬化した接着剤36は、対応する器具34のベースに、「受注製作」のベースまたは結合面を提供する。この結合面の形態は、患者の歯の表面の形状にぴったり一致し、その結果、器具34と歯42との間に生じる、(接着剤構成成分41、43を使用して)後でなされる結合を容易にする。結合面は、器具34が治療中に無意図的に歯から外れる可能性を低減する。
【0083】
光透過性の複製20は、多数の重要な利点を提供する。光透過性の複製20は、化学線が、器具のベースの中央付近の部分を含む接着剤36の全ての部分に到達することを可能にするが、さもなければ化学線は到達し難い場合がある。その結果、器具34が複製20から取り外される前に、接着剤36の全ての部分が硬化し、得られる結合面の形は変わらない。得られる結合面の形態は、対応する複製の表面の形状に精密に一致する。
【0084】
また、複製20の外面は比較的滑らかであり、とくに、複製20がエポキシ樹脂などのポリマー材料で作製されるとき、滑らかである。その結果、複製20の表面は、印象の形状およびテクスチャを忠実に表し、粗さまたはテクスチャをあまり加えない。更に、この滑らかな表面は、患者の歯との精密な嵌合を達成できるように、硬化した接着剤36の結合面が比較的滑らかな形状となることを可能にする。このようなものとして、複製20は、多孔質の石膏模型を使用する慣用的な技法に関して前述したような石鹸液またはワックスでコーティングする必要がない。
【0085】
光透過性の複製20の使用は、焼石膏製の複製など、化学線を透過させない材料で作製される複製を使用する技法よりも改善されている。不透明な複製を不透明な器具と一緒に使用するとき、器具のベースの中心付近に位置する接着剤の部分が十分に硬化しない場合がある。器具が複製から引き離される時、接着剤の未硬化部分は、移動および変形する傾向があり、その結果、複製の対応する領域の形態に一致する形状を保持しない場合がある。
【0086】
更に、前述の不透明な複製を使用するときに見られる未硬化部分は、器具を複製から取り外す時、器具のベースに隣接する領域から引き離される場合がある。それらの部分は、環境光の影響で後に硬化したときでも、硬化した接着剤と器具の結合を弱め、治療過程で器具が無意図的に外れ易くなる場合がある。
【0087】
また、このような未硬化部分は、隣接する硬化した部分の比較的透明な外観とは対照的に、曇った外観を表すことが観察された。曇った外観は、未硬化部分の表面粗さが増大していること、並びに、器具のベースから接着剤が外れることによるものと考えられる。曇った未硬化部分は、透明な硬化した部分と一緒に、幾分、見苦しいまだらの外観を表す傾向があり、これは、未硬化部分が環境光の影響で硬化した後でさえ無くならない。
【0088】
前述の方法におけるスペーサー材料26、28の使用は、トレイ30内にマトリックス材料40を収容する適切な部位が提供されるという点で、重要な利点がある。その部位の容積および形態を所望されるように精密に提供するため、スペーサー材料26、28を必要に応じて成形することができる。例えば、器具34に隣接する領域を例外として、スペーサー材料28のシートにより、後で歯42のかなりの範囲でマトリックス材料が均一な厚さに形成されることが確実になる。
【0089】
更に、スペーサー材料26、28を使用すると、液体の稠度を有するマトリックス材料などの、比較的低粘度のマトリックス材料の使用が容易になる。トレイ30は比較的剛性があり、その結果、マトリックス材料40の形成中、その形状を維持する。その結果、転移装置44は、トレイ30が患者の歯または歯肉組織と直接接触しないように構成される。代わりに、マトリックス材料40だけが患者の歯と接触し、このような口腔構造とぴったり一致して嵌合する。
【0090】
本発明の別の利点は、比較的柔軟なマトリックス材料40は可撓性があり、限られた量の歯の移動に適応できるということである。例えば、患者の歯は、印象を採得する時と、器具34を結合させるため患者の口腔内に転移装置44を嵌める時との間に、僅かに移動している場合がある。マトリックス材料40は、患者の歯の位置の少しの移動または調節に適応するほど十分な可撓性を有するため、器具34は患者の歯の意図される所定の位置に適切に結合する。
【0091】
マトリックス材料40は、好ましくは、硬化前に、約60Pa・s(60,000cp)未満の粘度を有する。更に好ましくは、マトリックス材料40は、硬化前に、約25Pa・s(25,000cp)未満の粘度を有する。最も好ましくは、マトリックス材料40は、硬化前に、約8Pa・s(8000cp)未満の粘度を有する。硬化した後、マトリックス材料40は約10〜約80の範囲、更に好ましくは約30〜約60の範囲、最も好ましくは約40〜約50の範囲のショアA硬度を有する。
【0092】
更に、スペーサー材料26、28を使用すると、結果として得られるトレイ30およびそれに収容されるマトリックス材料40の形状を含む転移装置の構成を制御し易くなる。例えば、スペーサー材料28のシートによって、結果として得られるマトリックス材料40の厚さを比較的均一に、好ましくは比較的薄くすることができる。このように厚さが均一で寸法が比較的小さいため、器具を患者の歯に結合させるのに使用される光硬化性接着剤の硬化が容易になる。特に、光硬化性接着剤を使用して器具34を患者の歯に結合させるとき、マトリックス材料40の均一な厚さは、各器具34の下にある光硬化性接着剤がどの器具34でも同程度に十分硬化されることを確実にするのに役立つ。このようにして、使用者は、マトリックス材料の様々な厚さを補償する必要がなく、それぞれの量の接着剤と関連する硬化時間を器具34ごとに変える必要がない。
【0093】
本発明の別の実施形態により構成される転移装置44aを図8に示す。転移装置44aは、チャネルを有するトレイ30a、およびチャネル内に収容されるマトリックス材料40aを備える。このことを除けば、トレイ30aおよびマトリックス材料40aは、前述のトレイ30およびマトリックス材料40と実質的に同一である。
【0094】
転移装置44aは、マトリックス材料40aの空洞45aに隣接して延在する通路を備える。空洞45aは、患者の歯の複製に一致する形態を有する。図8に示される実施形態の通路は、一定の長さの可撓性チュービング46a内に提供されるが、他の種類の通路も可能である。
【0095】
チュービング46aは、空洞45aに開放している一連の小さい穴を有する。チュービング46aは、また、マトリックス材料40aおよびトレイ30aを通り転移装置44aのほぼ近心遠心の中心に延在する出口区分48aも備える。空洞41aの遠心端に隣接して位置するチュービング46aの端部は、閉鎖している。
【0096】
好ましくは、チャネルまたは通路66aは、チュービング46aから各器具34aの硬化した接着剤36aまで延在する。トレイ30と複製の歯との間にマトリックス材料を配置する前に、複製の歯に沿って、一定の長さのワイヤ、ひも、またはモノフィラメントコードを配置することにより、通路66aを作製してもよい。マトリックス材料が硬化した後、ひもまたはコードを除去すると、通路66aが残る。
【0097】
出口48aは真空源に接続される。結合処置の間、患者の歯構造を覆うように転移装置44aを配置した後、真空源を作動させる。真空圧力を作用させると、空洞45aから空気が排出される。結果として得られる空洞45a内の負圧は、マトリックス材料40aによって保持されている器具(器具34aを包含する)が患者の歯のエナメル質表面にしっかり押し当てられるように、マトリックス材料40aおよびトレイ30aを患者の歯構造の方に引き寄せる傾向がある。
【0098】
器具を患者の歯に結合させる接着剤が硬化するまで、出口48aに真空を作用させる。その後、真空圧力を解放し、空洞45a内の圧力を大気圧に戻す。次いで、トレイ30aおよびマトリックス材料40aを除去すると、器具34aは患者の歯にしっかり結合している。
【0099】
本発明の別の実施形態による転移装置44bを図9に表す。転移装置44bは、後述のことを除いて、前述され図6および図7に表されているトレイ30およびマトリックス材料40に本質的に同一のトレイ30bおよびマトリックス材料40bを備える。
【0100】
転移装置44bは、加圧空気などの流体で加圧することができる1つ以上の嚢50bを備える。1つの嚢50bの断面図を図9に表す。導管または通路で嚢を入口52bに接続し、また、入口52bを加圧空気などの流体源に取り外し可能に接続する。
【0101】
嚢50bはトレイ30bとマトリックス材料40bとの間に、器具(器具34bなど)と反対側に位置する。結合処置の間、加圧空気を入口52bに通し、嚢50bに向ける。嚢50bが膨張する時、転移装置44bは、嚢50bの方向に付勢され、器具34bのベースにある接着剤36bが隣接する患者の歯の表面を支持する。
【0102】
図示されている例では、転移装置が患者の口腔内に配置されるとき、嚢50bは患者の歯列弓の舌側に沿って位置する。器具34bは、患者の歯の頬面唇面に結合するように構成された頬面唇面器具である。嚢50が膨張する時、転移装置44bは器具34bと共に舌側方向に付勢される。
【0103】
しかし、図9に例示される概念は、舌側器具を患者の歯の舌側表面に結合させるのに使用するように構成されてもよい。例えば、嚢50bは、患者の歯列弓の頬面唇面側に沿って、マトリックス材料40bとトレイ30bの間の位置に延在してもよい。器具34bは、マトリックス材料40b内に患者の歯列弓の舌側に沿って位置決めされる。この実施例では嚢50bが膨張する時、転移装置44bは頬面唇面方向に付勢され、器具34bのベースが患者の歯の舌側表面をしっかりと支持する。
【0104】
図8および図9の実施形態では、嚢または通路と共に正または負の空気圧によって、隣接する患者の歯のエナメル質表面と接触する器具のベースがしっかり保持される傾向がある。このようにしっかり接触すると、器具と歯の間に比較的高い結合強度が生じ易くなる。更に、このような構成は、接着剤が硬化する時、転移装置44a、44bの無意図的な移動を阻止するのに役立つが、さもなければ、接着剤が十分に硬化する前に患者の顎が動く場合、または転移装置に何かぶつかる場合、そのような無意図的な移動が起こり得る。
【0105】
本発明の別の実施形態による転移装置44cを図10に表す。転移装置44cは、トレイ30cおよびマトリックス材料40cを備える。後述のことを除いて、トレイ30cおよびマトリックス材料40cは、前述のトレイ30およびマトリックス材料40と本質的に同じである。
【0106】
転移装置44cは、マトリックス材料40cに少なくとも部分的に埋設されるコード66cを備える。好ましくは、コード66cは細長く可撓性があり、任意に、ナイロンまたは他の材料で製造されているひもである。コード66cは、概ね、マトリックス材料40cの空洞の縦軸に沿った方向に延在する。
【0107】
コード66cは、結合処置が完了した後、患者の口腔からマトリックス材料を除去することを容易にする。例えば、トレイ30cをマトリックス材料40cから取り外した後、臨床医は、マトリックス材料40cから延出するコード66cの自由端を引張ってもよい。コードを引張ると、マトリックス材料がコードの経路に沿って破断し、マトリックス材料40cは2つの区分に分割される(または本質的に分割される)。次いで、必要に応じて、2つの区分を口腔から容易に除去することができ、器具34cと患者の歯の結合が破壊される可能性が低減する。
【0108】
図10に示される実施形態では、コード66cは、ほぼ患者の歯列弓の咬合側縁部に対応する経路に沿ってマトリックス材料40cの空洞内に延在する。図11に示される転移装置44dは、幾分類似している。しかし、転移装置44dでは、コード66dは、意図されるアーチワイヤの経路に略対応する位置に沿って延在する。このような構成は、マトリックス材料40dを器具から取り外すことを容易にし、器具がマトリックス材料40dに確実に接合される場合、とりわけ望ましいことがある。
【0109】
また、他の様々な実施形態も可能であり、当業者には明らかであろう。例えば、図8〜図11に示される実施形態では、マトリックス材料が十分な強度と剛性を有する場合、トレイを省略してもよい。更に、図に記載される様々な特徴を互いに組み合わせてもよい。
【0110】
別の選択肢として、ブラケット、チューブ、およびリンガルシースなどの器具を患者の歯の舌側表面に結合させるため、前記の様々な実施形態に記載される転移装置を使用してもよい。その場合、嚢およびコード(嚢およびコードを使用するとき)は、必要に応じて構成および変更される。
【0111】
更に、患者の1本の歯に器具を1個だけ結合させるために、転移装置を使用してもよい。例えば、最初に、1本の歯へのアクセスが他の歯によって妨げられている場合など、他の器具を結合させた後、前述の転移装置の一部を使用して、1個の器具を1本の歯に結合させてもよい。別の例として、歯から無意図的に外れた器具を再結合させるため、または、元の器具と取り替えて歯に新しい器具を結合させるため、前述の転移装置の一部を使用してもよい。
【0112】
また、本発明の趣旨から逸脱することなく、他の多数の変形、変更、および追加も可能である。従って、本発明を前述の特定の実施形態に限定して考えるべきではなく、公正な特許請求の範囲およびその同等物によってのみ考えるべきである。
【実施例】
【0113】
硬化した模型用石膏のサンプルの表面粗さと硬化したエポキシ樹脂のサンプルの表面粗さを比較する試験を行った。一定量のクイックストーン(Quickstone)ブランドの技工用石膏(ホイップ・ミックス社(Whip Mix Corporation)製)を製造業者の指示に従って調製することにより、石膏サンプルを作製した。次いで、石膏調製物をポリプロピレン支持体の凹部に入れ、硬化させた。
【0114】
表面粗さ試験機(型番SJ−301、日本、神奈川県、株式会社ミツトヨ(Mitutoyo Corporation, Kanagawa, Japan)製)を硬化した石膏の5つの別個の位置で使用し、表面粗さを決定した。5つの位置における、硬化した石膏の平均表面粗さは1350μm(53.16マイクロインチ(マイクロインチRa))、標準偏差は107(4.22)であった。
【0115】
模型用石膏の代わりにエポキシを使用したこと以外、前述のように表面粗さ試験を繰り返した。エポキシは、前述のユナイテッド・レジン社(United Resin Corporation)製のE−キャスト(E−CAST)F−82樹脂、および、302番硬化剤であった。5つの位置における、硬化したエポキシの平均表面粗さは、282μm(11.12マイクロインチ)、標準偏差は24(0.93)であった。
【0116】
表面粗さ試験を再度繰返し、ポリプロピレン支持体の表面粗さを決定した。5つの位置における、支持体の平均表面粗さは、246μm(9.7マイクロインチ)、標準偏差は42(1.64)であった。
【0117】
エポキシは、鋳造表面(即ち、ポリプロピレン支持体)の粗さに非常に類似した粗さを示したが、石膏は、著しく高い表面粗さを示したことがデータから分かる。その結果、エポキシ材料は、鋳造中に、鋳造面の表面によく類似した形態を取ったが、石膏は、鋳造中に、テクスチャが著しく粗い形態を呈した。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】歯科矯正患者の1つの歯列弓の身体的複製を示す上正面図であり、治療開始前に見え得る患者の歯構造と隣接する歯肉組織の複製の一例を表す図である。
【図2】図1に示される歯列弓の複製および複製に貼付されたスペーサー材料の図である。
【図3】図2に表される複製の歯の1本とスペーサー材料の拡大側面断面図である。
【図4】スペーサー材料を覆うように形成されたトレイを更に示す、図3に幾分類似する図である。
【図5】スペーサー材料とトレイを除去した後の、図1に表される歯構造の複製の図であって、複製上の所定の位置に配置された多数の歯科矯正器具を更に示す図である。
【図6】図5に表される複製の歯と器具の1つの拡大側面断面図であって、転移装置を作製するため、複製とトレイを倒置させた後、図4に示される複製とトレイの間に配置された一定量のマトリックス材料を更に示す図である。
【図7】患者の歯の1本に転移装置を適用する工程を示す拡大側面断面図である。
【図8】本発明の別の実施形態によるインダイレクトボンディング用の別の転移装置の拡大側面断面図である。
【図9】本発明の別の実施形態による転移装置を示すこと以外、図8に幾分類似する図である。
【図10】本発明の更に別の実施形態による転移装置を示すこと以外、図8に幾分類似する図である。
【図11】本発明の更にまた別の実施形態による転移装置を示すこと以外、図8に幾分類似する図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは、ブラケットおよびバッカルチューブなどの歯科矯正器具を作製する方法および装置に関する。更に詳細には、本発明は、歯に装着するための結合面を有する歯科矯正器具に関し、結合面は、選択される治療目的に応じて、所望の形状に作られる。本発明は、また、輪郭に合った結合面を有する1つ以上の器具を備えるインダイレクトボンディング用転移装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
歯科矯正治療は、位置異常の歯を口腔内の所望の位置に移動させることを要する。歯科矯正治療は、患者の顔の外観を、とりわけ、歯が著しく曲がっている場合、または、顎が互いに整列していない場合、患者の顔の外観を改善することができる。歯科矯正治療は、食べる間の咬合を改善することにより、歯の機能を向上させることもできる。
【0003】
通常の歯科矯正治療の1種には、ブラケットとして知られるスロット付きの小さい器具が使用される。ブラケットは患者の歯に固定され、各ブラケットのスロットの中にアーチワイヤが配置される。アーチワイヤは、歯が所望の位置に移動するように案内する軌道を形成する。
【0004】
歯科矯正用アーチワイヤの端部は、バッカルチューブとして知られる小さい器具に接合されることが多く、また、バッカルチューブは、患者の臼歯に固定される。多くの場合、患者の上顎および下顎歯列弓のそれぞれに、1組のブラケット、バッカルチューブ、およびアーチワイヤが提供される。ブラケット、バッカルチューブ、およびアーチワイヤは、通常、集合的に「ブレース」と称される。
【0005】
これまで、ブラケットおよびバッカルチューブを含む金属製歯科矯正器具は、バンドに溶接されることが多かった。各バンドは、患者の歯の1本を取囲み、歯と器具の間に確実な接合を提供するように構成された。典型的には、バンドと歯のエナメル質の間のあらゆる隙間または空隙を充填し、バンドが歯の上で「揺れ動く」ことを防止するのに役立つように、バンドを歯に配置する前に、バンドセメントなどの組成物がバンドの内面に塗布された。
【0006】
しかし、金属製バンドは、一般に、美的でないと考えられ、望ましくない「メタリックな口元」の外観の一因となる。更に、適切にフィットさせるため、各バンドのサイズと形状が患者の歯のサイズと形状に一致するように、各バンドを注意深く選択しなければならない。更に、バンドは、セラミックおよびプラスチックなどの非金属材料製の器具と共に使用するのに好適であるとは考えられない。
【0007】
近年、接着剤で歯のエナメル質表面に結合される器具の使用に大きな関心がある。これらの器具は、金属性バンドに取り付けられず、その結果、患者の外観が改善される。更に、バンドの費用、並びに、バンドを選択し、器具をバンドに装着するのに必要な時間を回避できる。
【0008】
しかし、歯に接着される器具はどれも、全治療過程にわたって歯にしっかり装着された状態を維持することが重要である。歯科矯正器具は、咀嚼中、器具と歯の間に位置する場合がある食物の存在により口腔内でかなりの力を受けることがある。患者がハードキャンディまたは氷など比較的固い食物を噛むとき、これらの力は比較的大きい可能性があり、器具が歯から剥離する場合もある。
【0009】
残念ながら、歯科矯正器具が無意図的に歯から剥離すると、歯科矯正治療プログラムの進行は突然停止する可能性がある。その場合、患者は、治療を再開できるように、直ぐに臨床医の再診を受けて器具を再装着してもらうか、または取り替えてもらう。器具の偶発的な剥離によって生じる臨床医と患者の両方の時間と費用は、煩わしいものと考えられ、回避されるのが最善である。
【0010】
その結果、歯科矯正器具の製造業者は、器具が全治療過程にわたって歯にしっかり接着した状態を維持することを確実にするため、あらゆる手段を尽くすことが多い。この目的のため、器具のベースに、器具と歯の間の結合強度を改善する特徴が設けられることが多い。一例として、嵌合が得られるように、ベースは、歯の凸状の複雑な表面によく一致する、凹状の複雑な輪郭を有する場合がある。別の例として、ベースは、接着剤と器具との結合強度を向上させる役割をする突起、凹部、または化学処理などの機械的または化学的特徴を備える場合がある。しかし、典型的には、ベースが統計的に「平均的な」患者の期待される形状に一致する形状を有する器具が製造され、販売されているが、それは、治療を受ける特定の患者の歯に形状が類似している場合もあれば、類似していない場合もある。
【0011】
更に、多くの種類の歯科矯正法では、器具のベースの形状は、歯が意図される最終位置に移動することを確実にするのに役立つために重要な要因である。例えば、通常の歯科矯正治療法の1種は、「ストレートワイヤ」法として知られ、この技法では、弾性のあるアーチワイヤは、治療の終了時に水平面にある滑らかな曲線に従う傾向がある。例えば、患者の歯の凹状の形状が、「平均的な」患者のために作製された器具の凹状の形状の向きと異なる方向を向いて配置される場合、器具は、歯に対して適切な向きに配置されず、アーチワイヤスロットが、ストレートワイヤ治療をする歯に対して不適切な角度で延在することになる。治療プログラムの終わり近くに、アーチワイヤが水平な直線状の形態を呈する時、不適切な向きに配置されている器具によって、歯はそれに対応する不適切な位置をとることになる。
【0012】
器具のベースの形状の他の態様も重要である。例えば、アーチワイヤが治療プログラムの終わり近くに滑らかで水平な曲線の形態を呈する時、歯の縦軸が予め選択されたある一定の向きの方に回転するまたは傾くように、「楔形」の形態を有するベースを提供することが望ましい場合がある。この点に関して、歯がその長軸を中心とする回転方向に回転するか、または、或いは歯の長軸が近心−遠心基準軸、または唇側舌側基準軸のどちらかに沿って傾くような向きに楔の形状を配置することが可能である。
【0013】
一般に、患者の歯に接着されるように構成されている歯科矯正器具は、ダイレクトボンディング法またはインダイレクトボンディング法の2つの方法のうちどちらか1つによって歯に配置される。ダイレクトボンディング法では、器具と接着剤が1本のピンセットまたは他の手道具で把持され、臨床医によって歯の表面の適切な所望の位置に配置される。次に、臨床医がその位置に満足するまで、必要に応じて、器具を歯の表面に沿って移動させる。器具がその精密な意図される位置にくると、器具が接着剤の中に設置されるように、器具を歯にしっかり押付ける。器具のベースに隣接する領域の余分な接着剤を除去した後、接着剤を硬化させて器具を所定の位置にしっかり固定する。典型的には、接着剤には、化学線に曝露されると硬化し始める光硬化性接着剤と、構成成分を一緒に混合すると硬化し始める二成分化学硬化接着剤とが挙げられる。
【0014】
前述のダイレクトボンディング法は広く使用されており、多くの人は満足なものであると考えているが、このような技法には固有の欠点がある。例えば、位置異常の歯の表面にアクセスすることが困難な場合がある。場合によっては、特に後方歯に関して、臨床医が歯の表面に対するブラケットの精密な位置を見るのが困難なことがある。更に、器具のベースに隣接する余分な接着剤を取除く間、無意図的にぶつかって器具がその意図される位置から外れる場合がある。
【0015】
前述のダイレクトボンディング法に付随する別の問題は、各器具を各個々の歯に結合させる処置を実施するのに必要な時間が著しく長いということに関する。典型的には、臨床医は、接着剤が硬化する前に、各器具をその精密な意図される位置に位置決めすることを確実にしようとし、臨床医が各器具の位置に満足するまで幾らか時間が必要な場合がある。しかし、同時に、とりわけ患者が青年である場合には、比較的じっとしたままでいることが患者には不快であったり、困難な場合がある。理解され得るように、ダイレクトボンディング法には、臨床医と患者の両方にとって煩わしいと考えられ得る面がある。
【0016】
インダイレクトボンディング法では、前述の問題の多くが回避されることが多い。一般に、これまでに知られているインダイレクトボンディング法では、患者の歯列弓の少なくとも一部の形態に一致する形状を有する転移トレイが使用されてきた。ブラケットなどの1組の器具は、トレイの所定のある一定の位置に取り外し可能に接合される。接着剤を各器具のベースに塗布した後、接着剤が硬化するまで患者の歯を覆うようにトレイを配置する。次に、歯と器具からトレイを取り外すと、その結果、予めトレイに接合された器具は全て、各歯の意図される所定の位置に結合している。
【0017】
更に詳細には、歯科矯正器具のインダイレクトボンディング法の1つは、患者の各歯列弓の印象を採得した後、各印象から複製用焼石膏模型または「石膏(stone)」模型を作製する工程を含む。任意に、石鹸液(ホイップ・ミックス社(Whip Mix Corporation)製のモデル・グロウ(Model Glow)ブランドなど)またはワックスを石膏模型に塗布する。次いで、分離液(GCアメリカ社(GC America,Inc.)製のCOE−SEPブランドのスズ箔代用品など)を石膏模型に塗布し、乾燥させる。必要に応じて、模型の歯に鉛筆で印を付け、ブラケットを理想的な位置に配置することを補助できる。
【0018】
次に、ブラケットを石膏模型に結合させる。任意に、接着剤は、化学硬化接着剤(3M製のコンサイス(Concise)ブランドの接着剤など)または光硬化性接着剤(3M製のトランスボンド(Transbond)XTブランドの接着剤、またはトランスボンド(Transbond)LRブランドの接着剤など)とすることができる。任意に、ブラケットは、米国特許第5,015,180号明細書、同第5,172,809号明細書、同第5,354,199号明細書、および同第5,429,299号明細書に記載されるものなどの、接着剤が予めコーティングされているブラケットであってよい。
【0019】
次いで、模型と模型上に配置されているブラケットを覆うようにマトリックス材料を配置することによって、転移トレイを作製する。例えば、プラスチックシートマトリックス材料を枠で保持し、放射熱に曝露させてもよい。プラスチックシート材料が軟化した後、模型とブラケットを覆うようにそれを配置する。次いで、シート材料と模型の隙間にある空気を排気すると、プラスチックシート材料は、石膏模型の複製の歯とそれに装着されているブラケットの形状に精密に一致する形態を呈する。
【0020】
次いで、プラスチック材料を冷却し、硬化させてトレイを形成する。次いで、トレイと(トレイの内壁に埋設されている)ブラケットを石膏模型から取り外し、トレイの側部を必要に応じて切り落とす。典型的には、ブラケットを石膏模型に予め装着させた接着剤は、ブラケットに接合したままである。この接着剤は、後でブラケットを口腔内の患者の歯に装着するための結合面を提供する外面を有する。場合によっては、この結合面は、複製の歯構造並びに患者の歯構造の形状におおよそ一致する、輪郭に合った形状を有する。
【0021】
患者が治療室に戻ると、一定量の接着剤をブラケットのベースに配置し、次いで、ブラケットが埋設されているトレイを、患者の歯列弓の一致する部分を覆うように配置する。トレイの内部の形態は患者の歯列弓の各部分にぴったり一致するため、各ブラケットは、最終的に、同じブラケットが以前あった石膏模型上の位置に対応する、患者の歯の精密に同じ位置に位置決めされる。
【0022】
光硬化性接着剤と化学硬化接着剤は両方とも、これまで、ブラケットを患者の歯に固定するためインダイレクトボンディング法に使用されてきた。光硬化性接着剤を使用する場合、トレイは、好ましくは透明または半透明である。二成分化学硬化接着剤を使用する場合、接着剤をブラケットに塗布する直前に、構成成分を一緒に混合することができる。或いは、1つの成分を各ブラケットのベースに配置し、もう一方の成分を歯の表面に配置してもよい。どちらの場合も、ブラケットが埋設されているトレイを患者の歯列弓の対応する部分に配置することによって、ブラケットをまとめて歯に結合させることができ、治療室で患者がイスに座っている時間が短くて済む。このような技法を用いると、各ブラケットを歯に逐次的に、個々に配置し、位置決めすることが回避される。
【0023】
これまで、様々な転移トレイ、および転移トレイ用の材料が提案されてきた。例えば、石膏模型および模型上の器具を覆うように配置するのに、柔軟なシート材料(ショイ・デンタル社(Scheu−Dental GmbH)製のバイオプラスト(Bioplast)トレイ材料など)を使用する臨床医もいる。真空を作用させて柔軟な材料を吸引し、模型および模型上の器具と密着させる。次に、再度、真空形成法を使用して、より柔軟なシート材料を覆うように、より剛性の大きいシート材料(ショイ・デンタル社(Scheu−Dental GmbH)またはグレート・レイクス・オーソドンティクス社(Great Lakes Orthodontics,Ltd.)製のバイオクリル(Biocryl)シート材料など)を形成する。より剛性の大きい材料はトレイに骨格を提供するが、一方、より柔軟な材料は最初に器具を保持し、しかもなお、器具が患者の歯に固定された後、器具から外れるのに十分な可撓性がある。
【0024】
また、これまで、シリコーン印象材料または咬合間記録材料(ヘレウス・クルツァー社(Heraeus−Kulzer GmbH &Co.KG)製のメモシル(Memosil)2など)を使用することが提案されてきた。研究用模型に装着されている器具に、器具が部分的に被包されるようにシリコーン材料を塗布する。
【0025】
モスコビッツ(Moskowitz)らによる「インダイレクトボンディングの見直し(A New Look at Indirect Bonding)」と題された記事(臨床矯正歯科学誌、30巻、5号、1996年5月、277頁以下参照(Journal of Clinical Orthodontics, Volume XXX, Number 5, May 1996, pages 277 et sec.))では、レプロシル(Reprosil)印象材料(デンツプライ・インターナショナル(Dentsply International)製)を使用して、インダイレクトボンディングトレイを作製する技法が記載されている。印象材料は、シリンジを用いて、予め石膏模型上に配置されたブラケットを覆うように配置される。次に、真空形成法を使用して、印象材料を覆うように透明な熱可塑性材料のシートを吸引する。次いで、得られる転移トレイを模型から除去し、その後、患者の歯列弓に配置する。
【0026】
インダイレクトボンディング法は、多くの点でダイレクトボンディング法より優れている。1つには、前述のように、複数のブラケットを患者の歯列弓に同時に結合させることが可能であり、それによって、各器具を個々に結合させる必要がない。更に、インダイレクトボンディングトレイは、ブラケットを全部、それらの適切な、意図される位置に配置することに役立ち、そのため、結合前に歯の表面で各ブラケットを調節することが回避される。インダイレクトボンディング法により器具の配置の正確さが増すことが多く、これは、治療の終了時に患者の歯が適切な、意図される位置に移動していることを確実にするのに役立つ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
前述のインダイレクトボンディング法は、多くの臨床医にとって満足なものであることが分かっているが、引き続き、技術的現状を改善する必要がある。更に、当面の特定の患者のために特別に構成されている結合面を有する器具を提供する方法および装置を改善する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、改善された結合面を有する歯科矯正器具、並びに、その作製方法および装置に関する。本発明の結合面は、器具が化学線を透過させない材料で製造されているときでも、その全範囲にわたって同時に比較的硬質の状態に硬化される光硬化性組成物で作製される。更に、結合面は、器具のベースの中心付近の部位でも比較的滑らかである。その結果、患者の歯構造の形状と精密に嵌合する結合面が容易に達成される。
【0029】
本発明は、化学線を透過させる模型を使用することにより実施される。模型を通過する化学線の一部は、器具のベースの中心付近に位置する光硬化性組成物の部分に到達する。それらの部分は、光硬化性組成物の残りの部分と実質的に同程度まで硬化する。その結果、器具を複製から取り外す時、それらの中心部分の形状が変わらず、結合面は歯の形状に精密に一致する形態を有する。
【0030】
更に詳細には、本発明は、一態様において、歯科矯正器具の結合面を作製する方法に関し、本方法は、
化学線を透過させる材料で構成された患者の歯構造の複製を用意する工程と、
少なくとも1つの歯科矯正器具のベースに光硬化性組成物を配置する工程と、
各器具の光硬化性組成物を歯構造の複製と係合させる工程と、
化学線の少なくとも一部を歯構造の複製を通るように方向付けることにより、光硬化性組成物に化学線を向かわせる工程と、
を含む。
【0031】
本発明は、また、別の態様において、インダイレクトボンディングのための歯科矯正用転移装置を作製する方法に関する。本方法は、
化学線を透過させる材料で構成された患者の歯構造の複製を作製する工程と、
少なくとも1つの歯科矯正器具のベースに光硬化性組成物を配置する工程と、
各器具の光硬化性組成物を複製の歯構造と係合させる工程と、
光硬化性組成物に化学線を向かわせる工程であって、該工程が、患者の歯構造の複製を通るように化学線を向けることによって少なくとも部分的に実施される、工程と、
各器具および歯構造の複製を覆うように転移装置を形成する工程と、
を含む。
【0032】
本発明は、また、歯科矯正器具の結合面を作製する装置にも関する。本装置は、歯構造の複製を含み、複製は化学線を透過させる材料で作製される。装置は、また、歯科矯正器具、および、器具と複製の間にある光硬化性組成物も備える。装置は、更に、複製を通る経路に沿って、および、光硬化性組成物の方に化学線の少なくとも一部を向かわせるように操作可能な化学線源を備える。
【0033】
本発明の更なる詳細は、特許請求の範囲の特徴に定義されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
まず、本発明の一態様による、1つ以上の歯科矯正器具のインダイレクトボンディング法を説明する。図1は、歯科矯正患者の歯列弓の一部の複製20を表す。例示の目的のため、複製20は患者の下顎歯列弓を表す。しかし、図示されている下顎歯列弓の追加として、または代替として患者の上顎歯列弓の複製が提供されてもよい。別の選択肢として、複製20は、歯列弓の四分円、または、歯列弓の歯1本若しくは2本だけなど、歯列弓の一部だけを表してもよい。図示されている実施例では、複製20は、患者の下顎歯列弓の各歯に対応する多数の複製の歯22を備える。
【0035】
任意に、まず、過度の歪が生じないように注意して、患者の下顎歯列弓の印象を採得することによって複製20を作製する。好適な印象材料の例には、ハイドロコロイド印象材料、およびビニルポリシロキサン印象材料(3M ESPE製のポジション・ペンタ(Position Penta)ブランドのビニルポリシロキサン印象材料など)が挙げられる。場合によっては、および、複製の製造に使用される材料の種類に応じて、3Mユニテック(3M Unitek)製のユニジェル(Unijel)IIブランドのアルジネート印象材料などのアルジネート印象材料を使用してもよい。
【0036】
次いで、印象から模型または複製20を作製する。選択肢として、複製20は、複製の歯22、および複製の歯22を一緒に保持するのに十分な複製の歯肉組織24だけを備える。
【0037】
複製の歯22を備える複製20は、化学線を透過させる材料から作製される。好適な材料には、硬化時に透明または半透明なエポキシ樹脂が挙げられる。好ましくは、材料は、光学的に透明で無孔性である。好適なエポキシの一例は、ユナイテッド・レジン社(United Resin Corporation)製のE−キャスト(E−CAST)F−82透明エポキシ樹脂、および、302番(またはUCE−302)硬化剤である。他の好適な材料には、ポリエステルおよびウレタンが挙げられる。
【0038】
複製20の作成中、泡および/または小さい空隙が存在しないように注意する。小さい空隙が存在する場合、化学線を透過させない追加量の材料を空隙に充填することができる。
【0039】
代替として、患者の歯および隣接する歯肉組織を表すデジタルデータを使用して複製20を作製してもよい。手持ち式の口内スキャナまたは当該技術分野で既知の他のデバイスを使用して、デジタルデータを得てもよい。別の選択肢として、印象または石膏模型を走査することによってデジタルデータを得てもよい。次いで、例えば、立体解析プリンタ、および化学線を透過させる材料を使用して、デジタルデータから複製20を作製してもよい。
【0040】
また、デジタルデータを切削プロセスに使用し、複製20を作製してもよい。例えば、スイス、ブエラッハ(Buelach,Switzerland)のセレック・ネットワーク(Cerec Network)により販売されているCAD/CIMミリングマシンに類似のCNCミリングマシンを使用して、セラミック、複合材料、または他の材料で製造されている複製を切削してもよい。セレック(Cerec)マシンに関連するカメラに類似の口内カメラを使用して、歯列弓の形状を表すデジタルデータを得てもよい。或いは、スキャナを使用して印象または印象の模型を走査し、デジタルデータを得てもよい。
【0041】
好ましくは、複製20は、患者の口腔構造を正確に表す。特に、複製の歯22は、対応する歯科矯正患者の歯の形態および向きと同一の形態および向きを有する。更に、複製の歯肉組織24は、対応する患者の歯肉組織部分の形状に一致する形状を有する。
【0042】
次に、図2および図3に示されるように、スペーサー材料を複製20に貼付する。この実施例では、スペーサー材料は、複製の歯22の適切な所定の位置に配置されている、材料の一連の別個のダブ(dabs)または予備形成されたセグメントを含む第1のスペーサー材料26を備える。スペーサー材料26のダブまたはセグメントは、それぞれ、後の歯科矯正器具の位置に対応する位置に配置され、全体の寸法が、選択された器具と少なくとも同じ大きさである。例えば、スペーサー材料26のセグメントは、それぞれ、対応する歯の顔面軸点(または、「FA」点)に対応する位置に配置されるが、他の位置も可能である。後述のように、スペーサー材料26のセグメントは、それぞれ、歯科矯正器具を収容する転移装置に後でクリアランスを提供する機能をする。
【0043】
スペーサー材料26のセグメントの代替として、スペーサー材料26は代わりにストリップの形態の細長い形態を有する。ストリップは、複製の歯22の少なくとも幾つか、好ましくは全部にわたって延在するのに十分な長さを有し、後のアーチワイヤの位置に対応する経路に従う。ストリップは、後でアーチワイヤに固定される器具のそれぞれにクリアランスを提供するのに十分な幅を有する。実際には、(図1に見られる歯のように)歯が略整列している場合には、ストリップの形状のスペーサー材料が好ましいことがあり、歯がかなり曲がっている、および/または互いにあまり整列していない場合には、別個のセグメントまたはダブの形状のスペーサー材料が好ましいことがある。
【0044】
この実施形態では、スペーサー材料は、また、好ましくは複製の歯22の表面のかなりの部分にわたって、好ましくは複製の歯肉組織24の表面の少なくとも一部にわたって延在するスペーサー材料28のシートを包含する。図3に表されるように、シートスペーサー材料28は、また、スペーサー材料26のセグメントを覆うように延在する。表されている例では、スペーサー材料28のシートは、複製の歯22の頬面唇面の表面領域全体を覆うように、複製の歯22の咬合側縁部に沿って、および、複製の歯22の舌側全体にわたって延在するが、他の構成も可能である。
【0045】
別の代替として、2つの材料を別々に操作することが回避されるように、スペーサー材料26、28を一体化した単一の材料区分として提供してもよい。更に、(単独、またはスペーサー材料26と一体の)材料28のシートを歯列弓の形状に近似した形態に予備形成してもよい。後述のように、このような構成によって、シート材料28を後で複製の歯22に適合させることが容易になる。
【0046】
スペーサー材料26、28は、複数の材料のいずれでもよい。好適な材料は、ゼネラルエレクトリック(General Electric)製の「RTV615」などのシリコーン材料である。任意に、感圧接着剤などの接着剤を使用して、スペーサー材料26を複製20上の所定の位置に一時的に保持してもよい。任意に、スペーサー材料26のセグメントまたはストリップを予備形成し、一方側に感圧接着剤層をコーティングし、使用するのに必要とされる時まで、最初、離型材のシートに接合していてもよい。或いは、シリンジから一定量の流動性硬化性材料を分配した後、必要に応じて手道具で各ダブを成形することにより、スペーサー材料のダブを提供してもよい。
【0047】
次に、スペーサー材料28のシートを複製の歯22および歯肉組織24の形態に形成するため、複製20およびスペーサー材料26、28に真空を作用させる。本明細書で使用する場合、「真空」の用語は、必ずしも絶対真空に限定されず、大気よりも低い任意の圧力を意味するものと理解されたい。実際には、複製20はスペーサー材料26と共に、真空ポンプと連通するチャネルを有する円盤形の支持体上に配置される。次いで、複製を覆うようにスペーサー材料28のシートを配置し、真空ポンプを作動させてスペーサー材料28のシートを吸引し、複製の歯22と歯肉組織24の形状にぴったり一致するように適合させる。
【0048】
その後、図4に表されるように、スペーサー材料26、28を覆うようにトレイ30を形成する。好ましくは、トレイ30は、スペーサー材料28のシートを覆うように材料のシートを真空形成することにより、成形される。トレイ30に好適な材料は、バイエル(Bayer)製のマクロロン(Makrolon)ブランドの材料、または、GE製のレキサン(Lexan)ブランドのポリカーボネートなどの、厚さ1.5mm(0.06インチ)のポリカーボネートのシートである。ポリエチレンテレフタレートグリコール(「PETG」)など、他の材料を使用してもよい。シートがスペーサー材料28のシートの形態に適合することを容易にするため、真空形成プロセス中に熱を加える。
【0049】
トレイ30が硬化した後、トレイ30をスペーサー材料26、28から取り外す。次いで、スペーサー材料26、28を複製20から取り外し、取っておく。トレイ30の余分な部分を必要に応じて切り落としてもよい。
【0050】
次いで、複製20に離型剤を薄層状に塗布し、乾燥させる。好適な離型剤の一例は、カリフォルニア州サンタフェスプリングズ、PTM&W社製の「PA0810」などの水溶性ポリビニルアルコールである。
【0051】
次に、複製の歯22における各器具の適切な意図される位置を決定するが、これは、対応する患者の歯における同器具の最終的な所望の位置に対応する。器具の位置を決定するため、様々な方法が利用可能である。例えば、臨床医、臨床医の助手、または技工士は、各複製の歯22の唇側表面を横切る印を鉛筆で付ける。好ましくは、MBT(登録商標)ブラケット位置決めゲージ、またはブーン(Boone)ブラケット位置決めゲージ(共に3Mユニテック(3M Unitek)社製)などのハイトゲージを補助として用い、鉛筆で印を付ける。各歯科矯正器具(歯科矯正ブラケットなど)のアーチワイヤスロットに配置するための位置案内の役割をするように、各複製の歯22の唇側表面を横切る線を鉛筆で引く。
【0052】
例えば、患者の下顎歯列弓を表す複製20では、複製の前歯22の咬合側縁部から3.5mmの距離に、一治療法による咬合面に平行な線を鉛筆で引いてもよい。複製の下顎犬歯22および複製の下顎双頭歯22の咬合側縁部から4.0mmの距離に類似の線を引く。また、(対応する患者の歯が、バンド上に取り付けられる器具を受容しない限り)各複製の臼歯22の咬合側縁部から3.5mmの距離に咬合面に平行な線を引く。図5に、前述の鉛筆の線の幾つかを数字32で示す。
【0053】
次に、臨床医によって選択される歯科矯正器具34(歯科矯正ブラケットおよびバッカルチューブなど)を、対応する複製の歯22に、好ましくは、各器具34のアーチワイヤスロットが各鉛筆の線32とほぼ整列するような位置に配置する。各器具34を各複製の歯22に配置する前に、一定量の組成物を各器具とそれに対応する歯22の間に配置する。好ましくは、組成物は、光開始剤を含有する歯科矯正用接着剤などの光硬化性組成物であり、接着剤は各器具34のベース全体にコーティングされる。
【0054】
好ましくは、器具34は、接着剤を予めコーティングされた器具であり、製造業者によって、各器具34のベースに光硬化性接着剤層が塗布されている。接着剤をコーティングされたこのような器具は、米国特許第5,015,180号明細書、同第5,172,809号明細書、同第5,354,199号明細書、および同第5,429,299号明細書に記載されており、これらは全て本発明の譲受人に譲渡されている。器具34は、金属(例えば、ステンレス鋼)、セラミック(例えば、半透明多結晶性アルミナ)またはプラスチック(例えば、半透明ポリカーボネート)などの任意の好適な材料で製造されてもよい。
【0055】
器具34が製造業者によって接着剤を予めコーティングされていない場合、臨床医が各器具34のベースに接着剤コーティングを塗布してもよい。好適な接着剤には、複合材料、コンポマー、グラスアイオノマー、および樹脂強化グラスアイオノマーが挙げられる。光硬化性接着剤の例には、3Mユニテック(3M Unitek)製のトランスボンド(Transbond)XTブランドまたはトランスボンド(Transbond)LRブランドの接着剤が挙げられる。化学硬化接着剤の例には、3Mユニテック(3M Unitek)製のコンサイス(Concise)ブランドの接着剤、およびマルチキュア(Multi−Cure)ブランドのグラスアイオノマーセメントが挙げられる。
【0056】
器具34を複製の歯22に配置した後、必要に応じて器具34を近心−遠心方向に移動させ、器具34の咬合−歯肉中心軸を各複製の歯22の長軸と整列させる。また、下にある鉛筆の線32の真上に各ブラケットのアーチワイヤスロットを配置するため、必要に応じて、器具34を咬合側または歯肉側方向に移動させる。任意に、再び、前述のMBT(登録商標)ゲージまたはブーン(Boone)ブラケット位置決めゲージなどのゲージを使用して、各器具34のアーチワイヤスロットを対応する複製の歯22の咬合側縁部から前述の距離に精密に位置決めする。
【0057】
次に、器具34が複製の歯22にしっかり設置されることを確実にするため、臨床医は、好ましくは、スケーラーまたは各器具34のアーチワイヤスロットに力を加える他の手道具を使用して、各器具34にしっかり圧力を加える。次いで、歯科用探針などの道具を使用し、設置中に器具34のベースの周縁部付近に押出される場合がある接着剤のバリを除去する。
【0058】
図6では、接着剤は数字36で示され、必ずしも一律の縮尺通りには描かれていない。歯科矯正医の助手または技工士が、直前に記載した工程を実施した後、複製20を歯科矯正医または技巧室の管理者に渡すことができるため、光硬化性接着剤36の使用は好都合である。次いで、接着剤36が硬化する前に、各器具34がそれに対応する複製の歯22に精密に配置されるかを、歯科矯正医または管理者が最終点検してもよい。一例として、助手または技工士は複製20を多数準備し、歯科矯正医または管理者が検査するまで、黒いプラスチックの箱などの不透明容器に貯蔵してもよい。このようにして、歯科矯正医または管理者は、接着剤36を過度にまたは尚早に硬化させることなく、都合のよい時に多数の異なる複製20上における器具34の配置を検査することができる。
【0059】
器具の位置が正確であるかを確認した後、接着剤36の方に化学線を向けるため、化学線源を作動させる。化学線が接着剤に到達すると、光重合反応が開始され、接着剤36が硬化する。好適な化学線源には、手持ち式の光硬化装置、ならびに据置き型の硬化チャンバが挙げられる。
【0060】
好適な硬化チャンバの一例は、デンツプライ(Dentsply)製のトリアド(Triad)2000ブランドの可視光線硬化システムである。好ましくは、硬化チャンバは、多数の複製20上の接着剤36を同時に硬化することができるように、多数の複製20を収容するのに十分な大きさがある。このようなチャンバでは、光源と複製20は、好ましくは、光源の通電中、互いに対して移動し、接着剤36の各部分の硬化を容易にする。
【0061】
器具34が金属または他の不透明な材料で製造されている場合、接着剤36が十分に硬化することを確実にするため、複製20を3分〜5分などの比較的長時間、キュアリングライトに曝露させることが好ましい。前述の光硬化チャンバの代替として、3Mユニテック(3M Unitek)製のオーソラックス(Ortholux)XTブランドのキュアリング装置などの手持ち式の硬化装置を使用してもよい。
【0062】
器具34が不透明な材料で製造されている場合、化学線は複製20を透過し、器具のベースの中央に隣接して位置する接着剤36の部分を硬化できるため、複製20の作製に透明または半透明な材料を使用することは特に好都合である。さもなければ、それらの部分は、接着剤を満足のいく程度まで硬化できるのに十分な化学線を受容しない場合がある。接着剤36に含有される開始剤の種類に応じて、化学線は、可視領域の波長(即ち、約400nm〜約750nm)、紫外領域の波長(即ち、約4nm〜約400nm)、赤外領域の波長(即ち、約750nm〜約1000マイクロメートル)、またはこれらのいずれかの組み合わせを含むことができる。
【0063】
複製20を通過する化学線は、1つ以上の異なる経路に沿って進む場合がある。例えば、化学線は、器具のちょうど反対側の複製20の舌側に位置する線源から放射され、器具のベースの方に頬面唇面方向に移動する場合がある。別の例では、化学線源は、器具のちょうど反対側の位置から偏倚し、化学線が頬面唇面−舌側の基準軸に対して一定の角度で延在する経路に沿って進むように位置決めされる場合がある。本明細書で使用される場合、複製を「通る」経路は、複製の両側で出入りする経路に限定されず、また、複製の同じ側で出入りする経路も包含する。
【0064】
更に、複製20は、化学線を透過する材料から全体が構成される必要はない。例えば、複製20は、化学線を透過させない材料で作製されているコアまたは他の区分を備えてもよく、その後、コアまたは他の区分を覆うように光透過性材料層を塗布する。その場合、接着剤36への化学線の通過を容易にするため、光透過性材料層とコアまたは他の区分との間に反射材料層を配置してもよい。
【0065】
前述の手による配置の代替として、ロボット設備で器具34を複製の歯22に配置してもよい。例えば、ロボット設備は、1組の器具から適切な器具34を選び取って、選択された器具を適切な複製の歯22に配置するようにプログラムされている把持アームを備えてもよい。次いで、ロボットアームは、別の器具34を把持し、別の複製の歯22に配置することを続ける。
【0066】
任意に、ロボットアームの移動経路および配置された器具34の最終的な位置は、複製20の仮想模型を表すデジタルデータにアクセスできるコンピュータソフトウェアで決定される。ソフトウェアは、好ましくは、患者の現状の不正咬合を分析し、当面の特定の不正咬合を治療するための適切な器具を選択するのに好適なサブプログラムを備える。任意に、ソフトウェアにより、臨床医、患者、または他の観察者は、歯の特定の位置に配置される選択された器具を使用する治療の終了時の患者の歯を表す、患者の歯の仮想画像をモニターまたは他のビデオ出力で見ることができる。
【0067】
好ましくは、ソフトウェアは、器具を選択するため、不正咬合を分析するため、および/または、歯の移動および歯の最終位置を予測するためのサブプログラムを備える。器具を選択するためのソフトウェアの一例は、「歯科矯正ブラケットの選択(Selection of Orthodontic Brackets)」と題された、米国特許出願公開第2003/0163291号明細書に記載されている。任意に、ソフトウェアは、前述の現存する1組の器具から器具を選択するのではなく、例えば、コンピュータ数字制御ミリングマシンを使用して、受注製作の歯科矯正器具を作製するためのサブプログラムを備える。
【0068】
追加の選択肢として、歯科矯正用アーチワイヤを器具34のスロット内に配置し、所定の位置に結紮してもよい。この工程は、後で、イスに座って過ごす患者の時間を更に短縮するのに役立つ。
【0069】
複製20は、器具34(および、あればアーチワイヤ)と一緒に、図5に示されるような歯科矯正患者のセットアップ治療模型38を表す。次いで、模型38、またはトレイ30のチャネルのどちらかにマトリックス材料を塗布する。例えば、マトリックス材料が比較的高粘度で、半液体またはゲルに類似している場合、シリンジ、ブラシ、または他の技法を使用して、図5に示されるように、模型38にマトリックス材料を塗布してもよい。或いは、マトリックス材料が比較的低粘度で、液体に類似している場合、トレイ30のチャネルの開放側が図6に示されるように上向きになるように、トレイ30を倒置させることが好ましい場合がある。トレイ30を倒置させる場合、液体マトリクス材料がトレイのチャネル内に収容されるように、最初は、トレイ30を最外部の遠位側(歯列弓の端部に対応する)に沿って切り落とさない。
【0070】
その後、マトリックス材料がトレイ30のチャネル内、および、トレイ30と模型38の間に収容されるように、模型38をトレイ30の中に位置決めする。図6では、マトリックス材料は数字40で示され、器具34並びに複製の歯22の唇側および舌側表面を取囲む。次いで、マトリックス材料40を硬化させる。
【0071】
好ましくは、マトリックス材料40と器具34の密接が確実になるように、マトリックス材料は、硬化前、比較的低粘度である。このようにして、マトリックス材料40は、器具34の様々な凹部、空洞、および他の構造的特徴に十分に貫入することができるため、器具34とマトリックス材料40の間に確実な接合を生じることができる。比較的低粘度の好適なマトリックス材料の一例は、前述のゼネラルエレクトリック(General Electric)製の「RTV615」シリコーン材料などのシリコーン材料である。また、このシリコーンマトリックス材料は比較的低粘度であるため、マトリックス材料が、隣接する複製の歯22の表面の形状にぴったり一致する形態を呈することが確実になる。
【0072】
或いは、マトリックス材料40は、歯科印象材料または咬合間記録材料を含んでもよい。好適な材料には、ヘレウス・クルツァー社(Heraeus−Kulzer Inc.)製のメモシル(Memosil)2ブランドのビニルポリシロキサン材料、またはディスカス・デンタル(Discus Dental)製のペパーミント・スナップ(Peppermint Snap)ブランドの透明な咬合間記録材料などのポリビニルシロキサン印象材料が挙げられる。器具34を患者の歯に結合させるため、光硬化性接着剤を使用する場合、マトリックス材料40は、好ましくは光学的に透明であり、化学線を透過させ、実質的に吸収しない。
【0073】
マトリックス材料40が硬化した後、トレイ30をマトリックス材料40および器具34と一緒に複製20から取り外す。前述の離型剤を使用すると、対応する複製の歯22から器具34を取り外し易くなる。次いで、必要に応じて、トレイ30の余分な材料および余分なマトリックス材料40を切り落とし、廃棄する。図7に、切り落とされて得られた転移装置44(トレイ30、マトリックス材料40、および器具34を含む)の断面図を示す。
【0074】
患者が治療室に戻った後、必要に応じて、チークリトラクタ、タングガード、コットンロール、ドライアングルおよび/または他の物品を使用して、器具を受容する患者の歯を隔離する。次いで、空気シリンジからの加圧空気を使用して歯を完全に乾燥させる。次いで、エッチング液が流れて隣接面と接触したり、または、皮膚若しくは歯肉に付着しないように注意して、器具34で被覆される歯の全域に、エッチング液(3Mユニテック・トランスボンド(3M Unitek Transbond)XTブランドのエッチングジェルなど)を軽く塗り付ける。
【0075】
エッチング液を選択された歯の表面に約30秒間、残留させた後、エッチング液を流水で15秒間、歯からすすぎ落とす。次いで、空気シリンジからの加圧空気を(例えば、30秒間)当てて患者の歯を乾燥させ、余分な水を吸引して除去する。また、唾液が、エッチングされたエナメル質表面と接触しないことが確実になるように、注意しなければならない。必要に応じて、再び、コットンロールおよび他の吸収デバイスを交換し、唾液がエッチングされたエナメル質と接触しないことを確実にする。次いで、再び、空気シリンジからの空気を歯に当てて、歯が完全に乾燥することを確実にする。
【0076】
次に、接着剤を、硬化した接着剤36および/または患者の歯の選択された領域に塗布する。任意に、接着剤は、図7に表される二成分接着剤である。例えば、第1の構成成分41は、トランスボンド(Transbond)ブランドのMIP水分非感受性プライマーであり、第2の構成成分43は、トランスボンド(Transbond)ブランドのプラス(Plus)セルフエッチングプライマーであり、これらは共に3Mユニテック(3M Unitek)製である。(セルフエッチングプライマーを使用する場合、前述のエッチング工程は省略される。)第1の構成成分41を、硬化した接着剤36に塗布し、第2の構成成分43を、器具34を受容する患者の歯の領域に塗布する。図7では、患者の歯を数字42で示す。
【0077】
第1の構成成分41を硬化した接着剤36に塗布し、第2の構成成分43を対応する患者の歯42の領域に塗布した後、任意に蝶番式に揺動させて、対応する歯を覆うようにトレイ30を位置決めし、設置する。マトリックス材料40の空洞の形状は、下にある歯の形状に一致し、器具34は、器具34が複製20上に以前あった位置に対応する精密に同じ位置に、下にある歯42に当たるように同時に設置される。次いで、好ましくは、接着剤が十分に硬化するまで、トレイ30の咬合側、唇側、および頬側の表面に圧力を加える。任意に、指圧を使用して、器具34を患者の歯42のエナメル質表面にしっかりと押し当ててもよい。
【0078】
好適な二成分化学硬化接着剤の他の例には、サンディ(Sondhi)ブランドのラピッド・セット(Rapid−Set)インダイレクトボンディング接着剤、ユナイト(Unite)ブランドの接着剤、および、コンサイス(Concise)ブランドの接着剤(全て3Mユニテック(3M Unitek)製)が挙げられる。或いは、樹脂強化グラスアイオノマーセメントを使用してもよい。
【0079】
接着剤が硬化した後、トレイ30を患者の歯列弓から注意深く除去する。好ましくは、まず、歯列弓を器具34と共に覆うように所定の位置に残留するマトリックス材料40からトレイ30を分離する。次に、マトリックス材料40を器具34から取り外す。マトリックス材料40を器具34から剥離させる時、任意に、各器具34を患者の各歯42の表面に当てて保持することに役立つスケーラーなどの手道具を使用してもよい。しかし、比較的柔軟なマトリックス材料が使用される場合、または、さもなければ器具34から容易に外れる場合、新しい接着が破壊しないようにすることに役立つスケーラーの使用は、任意選択的である。
【0080】
別の選択肢として、接着剤が硬化する前に、マトリックス材料40からトレイ30を分離してもよい。この選択肢は、接着剤が光硬化性接着剤であるとき、特に有用である。
【0081】
マトリックス材料40を器具34から取り外した後、アーチワイヤを器具34のスロット内に配置し、所定の位置に結紮する。好適な結紮デバイスには、小さい弾性Oリング、並びに、器具34の周囲にループ状に結び付けられるワイヤの区分が挙げられる。別の選択肢として、器具34は、米国特許第6,302,688号明細書、およびPCT国際公開第02/089693号パンフレットに記載されているものなどの、アーチワイヤに取り外し可能に係合するラッチを備える自己結紮器具であってよい。
【0082】
理解されるように、硬化した接着剤36は、対応する器具34のベースに、「受注製作」のベースまたは結合面を提供する。この結合面の形態は、患者の歯の表面の形状にぴったり一致し、その結果、器具34と歯42との間に生じる、(接着剤構成成分41、43を使用して)後でなされる結合を容易にする。結合面は、器具34が治療中に無意図的に歯から外れる可能性を低減する。
【0083】
光透過性の複製20は、多数の重要な利点を提供する。光透過性の複製20は、化学線が、器具のベースの中央付近の部分を含む接着剤36の全ての部分に到達することを可能にするが、さもなければ化学線は到達し難い場合がある。その結果、器具34が複製20から取り外される前に、接着剤36の全ての部分が硬化し、得られる結合面の形は変わらない。得られる結合面の形態は、対応する複製の表面の形状に精密に一致する。
【0084】
また、複製20の外面は比較的滑らかであり、とくに、複製20がエポキシ樹脂などのポリマー材料で作製されるとき、滑らかである。その結果、複製20の表面は、印象の形状およびテクスチャを忠実に表し、粗さまたはテクスチャをあまり加えない。更に、この滑らかな表面は、患者の歯との精密な嵌合を達成できるように、硬化した接着剤36の結合面が比較的滑らかな形状となることを可能にする。このようなものとして、複製20は、多孔質の石膏模型を使用する慣用的な技法に関して前述したような石鹸液またはワックスでコーティングする必要がない。
【0085】
光透過性の複製20の使用は、焼石膏製の複製など、化学線を透過させない材料で作製される複製を使用する技法よりも改善されている。不透明な複製を不透明な器具と一緒に使用するとき、器具のベースの中心付近に位置する接着剤の部分が十分に硬化しない場合がある。器具が複製から引き離される時、接着剤の未硬化部分は、移動および変形する傾向があり、その結果、複製の対応する領域の形態に一致する形状を保持しない場合がある。
【0086】
更に、前述の不透明な複製を使用するときに見られる未硬化部分は、器具を複製から取り外す時、器具のベースに隣接する領域から引き離される場合がある。それらの部分は、環境光の影響で後に硬化したときでも、硬化した接着剤と器具の結合を弱め、治療過程で器具が無意図的に外れ易くなる場合がある。
【0087】
また、このような未硬化部分は、隣接する硬化した部分の比較的透明な外観とは対照的に、曇った外観を表すことが観察された。曇った外観は、未硬化部分の表面粗さが増大していること、並びに、器具のベースから接着剤が外れることによるものと考えられる。曇った未硬化部分は、透明な硬化した部分と一緒に、幾分、見苦しいまだらの外観を表す傾向があり、これは、未硬化部分が環境光の影響で硬化した後でさえ無くならない。
【0088】
前述の方法におけるスペーサー材料26、28の使用は、トレイ30内にマトリックス材料40を収容する適切な部位が提供されるという点で、重要な利点がある。その部位の容積および形態を所望されるように精密に提供するため、スペーサー材料26、28を必要に応じて成形することができる。例えば、器具34に隣接する領域を例外として、スペーサー材料28のシートにより、後で歯42のかなりの範囲でマトリックス材料が均一な厚さに形成されることが確実になる。
【0089】
更に、スペーサー材料26、28を使用すると、液体の稠度を有するマトリックス材料などの、比較的低粘度のマトリックス材料の使用が容易になる。トレイ30は比較的剛性があり、その結果、マトリックス材料40の形成中、その形状を維持する。その結果、転移装置44は、トレイ30が患者の歯または歯肉組織と直接接触しないように構成される。代わりに、マトリックス材料40だけが患者の歯と接触し、このような口腔構造とぴったり一致して嵌合する。
【0090】
本発明の別の利点は、比較的柔軟なマトリックス材料40は可撓性があり、限られた量の歯の移動に適応できるということである。例えば、患者の歯は、印象を採得する時と、器具34を結合させるため患者の口腔内に転移装置44を嵌める時との間に、僅かに移動している場合がある。マトリックス材料40は、患者の歯の位置の少しの移動または調節に適応するほど十分な可撓性を有するため、器具34は患者の歯の意図される所定の位置に適切に結合する。
【0091】
マトリックス材料40は、好ましくは、硬化前に、約60Pa・s(60,000cp)未満の粘度を有する。更に好ましくは、マトリックス材料40は、硬化前に、約25Pa・s(25,000cp)未満の粘度を有する。最も好ましくは、マトリックス材料40は、硬化前に、約8Pa・s(8000cp)未満の粘度を有する。硬化した後、マトリックス材料40は約10〜約80の範囲、更に好ましくは約30〜約60の範囲、最も好ましくは約40〜約50の範囲のショアA硬度を有する。
【0092】
更に、スペーサー材料26、28を使用すると、結果として得られるトレイ30およびそれに収容されるマトリックス材料40の形状を含む転移装置の構成を制御し易くなる。例えば、スペーサー材料28のシートによって、結果として得られるマトリックス材料40の厚さを比較的均一に、好ましくは比較的薄くすることができる。このように厚さが均一で寸法が比較的小さいため、器具を患者の歯に結合させるのに使用される光硬化性接着剤の硬化が容易になる。特に、光硬化性接着剤を使用して器具34を患者の歯に結合させるとき、マトリックス材料40の均一な厚さは、各器具34の下にある光硬化性接着剤がどの器具34でも同程度に十分硬化されることを確実にするのに役立つ。このようにして、使用者は、マトリックス材料の様々な厚さを補償する必要がなく、それぞれの量の接着剤と関連する硬化時間を器具34ごとに変える必要がない。
【0093】
本発明の別の実施形態により構成される転移装置44aを図8に示す。転移装置44aは、チャネルを有するトレイ30a、およびチャネル内に収容されるマトリックス材料40aを備える。このことを除けば、トレイ30aおよびマトリックス材料40aは、前述のトレイ30およびマトリックス材料40と実質的に同一である。
【0094】
転移装置44aは、マトリックス材料40aの空洞45aに隣接して延在する通路を備える。空洞45aは、患者の歯の複製に一致する形態を有する。図8に示される実施形態の通路は、一定の長さの可撓性チュービング46a内に提供されるが、他の種類の通路も可能である。
【0095】
チュービング46aは、空洞45aに開放している一連の小さい穴を有する。チュービング46aは、また、マトリックス材料40aおよびトレイ30aを通り転移装置44aのほぼ近心遠心の中心に延在する出口区分48aも備える。空洞41aの遠心端に隣接して位置するチュービング46aの端部は、閉鎖している。
【0096】
好ましくは、チャネルまたは通路66aは、チュービング46aから各器具34aの硬化した接着剤36aまで延在する。トレイ30と複製の歯との間にマトリックス材料を配置する前に、複製の歯に沿って、一定の長さのワイヤ、ひも、またはモノフィラメントコードを配置することにより、通路66aを作製してもよい。マトリックス材料が硬化した後、ひもまたはコードを除去すると、通路66aが残る。
【0097】
出口48aは真空源に接続される。結合処置の間、患者の歯構造を覆うように転移装置44aを配置した後、真空源を作動させる。真空圧力を作用させると、空洞45aから空気が排出される。結果として得られる空洞45a内の負圧は、マトリックス材料40aによって保持されている器具(器具34aを包含する)が患者の歯のエナメル質表面にしっかり押し当てられるように、マトリックス材料40aおよびトレイ30aを患者の歯構造の方に引き寄せる傾向がある。
【0098】
器具を患者の歯に結合させる接着剤が硬化するまで、出口48aに真空を作用させる。その後、真空圧力を解放し、空洞45a内の圧力を大気圧に戻す。次いで、トレイ30aおよびマトリックス材料40aを除去すると、器具34aは患者の歯にしっかり結合している。
【0099】
本発明の別の実施形態による転移装置44bを図9に表す。転移装置44bは、後述のことを除いて、前述され図6および図7に表されているトレイ30およびマトリックス材料40に本質的に同一のトレイ30bおよびマトリックス材料40bを備える。
【0100】
転移装置44bは、加圧空気などの流体で加圧することができる1つ以上の嚢50bを備える。1つの嚢50bの断面図を図9に表す。導管または通路で嚢を入口52bに接続し、また、入口52bを加圧空気などの流体源に取り外し可能に接続する。
【0101】
嚢50bはトレイ30bとマトリックス材料40bとの間に、器具(器具34bなど)と反対側に位置する。結合処置の間、加圧空気を入口52bに通し、嚢50bに向ける。嚢50bが膨張する時、転移装置44bは、嚢50bの方向に付勢され、器具34bのベースにある接着剤36bが隣接する患者の歯の表面を支持する。
【0102】
図示されている例では、転移装置が患者の口腔内に配置されるとき、嚢50bは患者の歯列弓の舌側に沿って位置する。器具34bは、患者の歯の頬面唇面に結合するように構成された頬面唇面器具である。嚢50が膨張する時、転移装置44bは器具34bと共に舌側方向に付勢される。
【0103】
しかし、図9に例示される概念は、舌側器具を患者の歯の舌側表面に結合させるのに使用するように構成されてもよい。例えば、嚢50bは、患者の歯列弓の頬面唇面側に沿って、マトリックス材料40bとトレイ30bの間の位置に延在してもよい。器具34bは、マトリックス材料40b内に患者の歯列弓の舌側に沿って位置決めされる。この実施例では嚢50bが膨張する時、転移装置44bは頬面唇面方向に付勢され、器具34bのベースが患者の歯の舌側表面をしっかりと支持する。
【0104】
図8および図9の実施形態では、嚢または通路と共に正または負の空気圧によって、隣接する患者の歯のエナメル質表面と接触する器具のベースがしっかり保持される傾向がある。このようにしっかり接触すると、器具と歯の間に比較的高い結合強度が生じ易くなる。更に、このような構成は、接着剤が硬化する時、転移装置44a、44bの無意図的な移動を阻止するのに役立つが、さもなければ、接着剤が十分に硬化する前に患者の顎が動く場合、または転移装置に何かぶつかる場合、そのような無意図的な移動が起こり得る。
【0105】
本発明の別の実施形態による転移装置44cを図10に表す。転移装置44cは、トレイ30cおよびマトリックス材料40cを備える。後述のことを除いて、トレイ30cおよびマトリックス材料40cは、前述のトレイ30およびマトリックス材料40と本質的に同じである。
【0106】
転移装置44cは、マトリックス材料40cに少なくとも部分的に埋設されるコード66cを備える。好ましくは、コード66cは細長く可撓性があり、任意に、ナイロンまたは他の材料で製造されているひもである。コード66cは、概ね、マトリックス材料40cの空洞の縦軸に沿った方向に延在する。
【0107】
コード66cは、結合処置が完了した後、患者の口腔からマトリックス材料を除去することを容易にする。例えば、トレイ30cをマトリックス材料40cから取り外した後、臨床医は、マトリックス材料40cから延出するコード66cの自由端を引張ってもよい。コードを引張ると、マトリックス材料がコードの経路に沿って破断し、マトリックス材料40cは2つの区分に分割される(または本質的に分割される)。次いで、必要に応じて、2つの区分を口腔から容易に除去することができ、器具34cと患者の歯の結合が破壊される可能性が低減する。
【0108】
図10に示される実施形態では、コード66cは、ほぼ患者の歯列弓の咬合側縁部に対応する経路に沿ってマトリックス材料40cの空洞内に延在する。図11に示される転移装置44dは、幾分類似している。しかし、転移装置44dでは、コード66dは、意図されるアーチワイヤの経路に略対応する位置に沿って延在する。このような構成は、マトリックス材料40dを器具から取り外すことを容易にし、器具がマトリックス材料40dに確実に接合される場合、とりわけ望ましいことがある。
【0109】
また、他の様々な実施形態も可能であり、当業者には明らかであろう。例えば、図8〜図11に示される実施形態では、マトリックス材料が十分な強度と剛性を有する場合、トレイを省略してもよい。更に、図に記載される様々な特徴を互いに組み合わせてもよい。
【0110】
別の選択肢として、ブラケット、チューブ、およびリンガルシースなどの器具を患者の歯の舌側表面に結合させるため、前記の様々な実施形態に記載される転移装置を使用してもよい。その場合、嚢およびコード(嚢およびコードを使用するとき)は、必要に応じて構成および変更される。
【0111】
更に、患者の1本の歯に器具を1個だけ結合させるために、転移装置を使用してもよい。例えば、最初に、1本の歯へのアクセスが他の歯によって妨げられている場合など、他の器具を結合させた後、前述の転移装置の一部を使用して、1個の器具を1本の歯に結合させてもよい。別の例として、歯から無意図的に外れた器具を再結合させるため、または、元の器具と取り替えて歯に新しい器具を結合させるため、前述の転移装置の一部を使用してもよい。
【0112】
また、本発明の趣旨から逸脱することなく、他の多数の変形、変更、および追加も可能である。従って、本発明を前述の特定の実施形態に限定して考えるべきではなく、公正な特許請求の範囲およびその同等物によってのみ考えるべきである。
【実施例】
【0113】
硬化した模型用石膏のサンプルの表面粗さと硬化したエポキシ樹脂のサンプルの表面粗さを比較する試験を行った。一定量のクイックストーン(Quickstone)ブランドの技工用石膏(ホイップ・ミックス社(Whip Mix Corporation)製)を製造業者の指示に従って調製することにより、石膏サンプルを作製した。次いで、石膏調製物をポリプロピレン支持体の凹部に入れ、硬化させた。
【0114】
表面粗さ試験機(型番SJ−301、日本、神奈川県、株式会社ミツトヨ(Mitutoyo Corporation, Kanagawa, Japan)製)を硬化した石膏の5つの別個の位置で使用し、表面粗さを決定した。5つの位置における、硬化した石膏の平均表面粗さは1350μm(53.16マイクロインチ(マイクロインチRa))、標準偏差は107(4.22)であった。
【0115】
模型用石膏の代わりにエポキシを使用したこと以外、前述のように表面粗さ試験を繰り返した。エポキシは、前述のユナイテッド・レジン社(United Resin Corporation)製のE−キャスト(E−CAST)F−82樹脂、および、302番硬化剤であった。5つの位置における、硬化したエポキシの平均表面粗さは、282μm(11.12マイクロインチ)、標準偏差は24(0.93)であった。
【0116】
表面粗さ試験を再度繰返し、ポリプロピレン支持体の表面粗さを決定した。5つの位置における、支持体の平均表面粗さは、246μm(9.7マイクロインチ)、標準偏差は42(1.64)であった。
【0117】
エポキシは、鋳造表面(即ち、ポリプロピレン支持体)の粗さに非常に類似した粗さを示したが、石膏は、著しく高い表面粗さを示したことがデータから分かる。その結果、エポキシ材料は、鋳造中に、鋳造面の表面によく類似した形態を取ったが、石膏は、鋳造中に、テクスチャが著しく粗い形態を呈した。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】歯科矯正患者の1つの歯列弓の身体的複製を示す上正面図であり、治療開始前に見え得る患者の歯構造と隣接する歯肉組織の複製の一例を表す図である。
【図2】図1に示される歯列弓の複製および複製に貼付されたスペーサー材料の図である。
【図3】図2に表される複製の歯の1本とスペーサー材料の拡大側面断面図である。
【図4】スペーサー材料を覆うように形成されたトレイを更に示す、図3に幾分類似する図である。
【図5】スペーサー材料とトレイを除去した後の、図1に表される歯構造の複製の図であって、複製上の所定の位置に配置された多数の歯科矯正器具を更に示す図である。
【図6】図5に表される複製の歯と器具の1つの拡大側面断面図であって、転移装置を作製するため、複製とトレイを倒置させた後、図4に示される複製とトレイの間に配置された一定量のマトリックス材料を更に示す図である。
【図7】患者の歯の1本に転移装置を適用する工程を示す拡大側面断面図である。
【図8】本発明の別の実施形態によるインダイレクトボンディング用の別の転移装置の拡大側面断面図である。
【図9】本発明の別の実施形態による転移装置を示すこと以外、図8に幾分類似する図である。
【図10】本発明の更に別の実施形態による転移装置を示すこと以外、図8に幾分類似する図である。
【図11】本発明の更にまた別の実施形態による転移装置を示すこと以外、図8に幾分類似する図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科矯正器具の結合面を作製する方法であって、
化学線を透過させる材料で構成された患者の歯構造の複製を用意する工程と、
少なくとも1つの歯科矯正器具のベースと前記歯構造の複製との間の位置に、光硬化性組成物を配置する工程と、
前記化学線の少なくとも一部を前記歯構造の複製を通るように方向付けることにより、前記光硬化性組成物に化学線を向かわせる工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記材料がポリマー材料を含む、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項3】
前記材料がエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項4】
前記光硬化性組成物が接着剤である、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項5】
前記光硬化性組成物が、可視領域の化学線に曝露されたときに硬化し始める、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項6】
前記器具が金属材料製の歯科矯正用ブラケットである、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの歯科矯正器具のベースと前記歯構造の複製との間の位置に光硬化性組成物を配置する工程が、前記少なくとも1つの歯科矯正器具のベースに光硬化性組成物を配置する工程と、前記光硬化性組成物が前記歯構造の複製と係合するように各器具および前記歯構造の複製を相対的に移動させる工程とを含む、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項8】
各器具および前記歯構造の複製を相対的に移動させる工程は、前記歯構造の複製が静止している間に各器具を移動させる工程を含む、請求項7に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項9】
前記化学線が可視領域の放射線を備える、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項10】
請求項1の方法により作製される結合面を有する歯科矯正用器具。
【請求項11】
前記器具が、請求項1に記載の方法で作製される結合面を有する、歯科矯正器具を歯に結合させる方法。
【請求項12】
インダイレクトボンディングのための歯科矯正用転移装置を作製する方法であって、
化学線を透過させる材料で構成された患者の歯構造の複製を作製する工程と、
少なくとも1つの歯科矯正器具のベースと前記歯構造の複製との間の位置に、光硬化性組成物を配置する工程と、
前記光硬化性組成物に化学線を向かわせる工程であって、該工程が、前記患者の歯構造の複製を通るように化学線を向けることによって少なくとも部分的に実施される、工程と、
各器具および前記歯構造の複製を覆うように転移装置を形成する工程と、
を含む方法。
【請求項13】
前記転移装置を形成する工程が、約10〜約80の範囲のショアA硬度を有するマトリックス材料を用意する工程を含む、請求項12に記載の歯科矯正用転移装置を作製する方法。
【請求項14】
前記転移装置を形成する工程が、硬化前に約60Pa・s未満の粘度を有する硬化性マトリックス材料を用意する工程を含む、請求項12に記載の歯科矯正用転移装置を作製する方法。
【請求項15】
前記転移装置を形成する工程が、前記複製の少なくとも一部を覆うようにスペーサー材料を配置する工程を含む、請求項12に記載の歯科矯正用転移装置を作製する方法。
【請求項16】
各器具および歯構造の複製を覆うように転移装置を形成する前記工程が、前記スペーサー材料を覆うように前記転移装置の少なくとも一部を形成することにより実施される、請求項15に記載の歯科矯正用転移装置を作製する方法。
【請求項17】
請求項12に記載の方法により作製される歯科矯正用転移装置を使用して、1つ以上の歯科矯正器具を患者の歯構造に結合させる方法。
【請求項18】
前記複製材料がポリマー材料から構成される、請求項12に記載の歯科矯正用転移装置を作製する方法。
【請求項19】
歯科矯正器具の結合面を作製する装置であって、
化学線を透過させる材料から作製された歯構造の複製と、
歯科矯正器具と、
前記器具と前記複製との間にある光硬化性組成物と、
前記複製の少なくとも一部の経路に沿って、かつ、前記光硬化性組成物の方に前記化学線の少なくとも一部を向かわせるように操作可能な化学線源と、
を含む装置。
【請求項20】
前記光硬化性組成物が接着剤である、請求項18に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する装置。
【請求項21】
前記複製材料がポリマー材料を含む、請求項18に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する装置。
【請求項22】
前記複製材料がエポキシ樹脂を含む、請求項18に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する装置。
【請求項23】
前記歯構造が、歯の複製の舌側表面を備え、前記光硬化性組成物が前記複製の舌側表面と接触している、請求項18に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する装置。
【請求項24】
前記化学線源が可視波長の化学線を提供する、請求項18に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する装置。
【請求項1】
歯科矯正器具の結合面を作製する方法であって、
化学線を透過させる材料で構成された患者の歯構造の複製を用意する工程と、
少なくとも1つの歯科矯正器具のベースと前記歯構造の複製との間の位置に、光硬化性組成物を配置する工程と、
前記化学線の少なくとも一部を前記歯構造の複製を通るように方向付けることにより、前記光硬化性組成物に化学線を向かわせる工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記材料がポリマー材料を含む、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項3】
前記材料がエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項4】
前記光硬化性組成物が接着剤である、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項5】
前記光硬化性組成物が、可視領域の化学線に曝露されたときに硬化し始める、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項6】
前記器具が金属材料製の歯科矯正用ブラケットである、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの歯科矯正器具のベースと前記歯構造の複製との間の位置に光硬化性組成物を配置する工程が、前記少なくとも1つの歯科矯正器具のベースに光硬化性組成物を配置する工程と、前記光硬化性組成物が前記歯構造の複製と係合するように各器具および前記歯構造の複製を相対的に移動させる工程とを含む、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項8】
各器具および前記歯構造の複製を相対的に移動させる工程は、前記歯構造の複製が静止している間に各器具を移動させる工程を含む、請求項7に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項9】
前記化学線が可視領域の放射線を備える、請求項1に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する方法。
【請求項10】
請求項1の方法により作製される結合面を有する歯科矯正用器具。
【請求項11】
前記器具が、請求項1に記載の方法で作製される結合面を有する、歯科矯正器具を歯に結合させる方法。
【請求項12】
インダイレクトボンディングのための歯科矯正用転移装置を作製する方法であって、
化学線を透過させる材料で構成された患者の歯構造の複製を作製する工程と、
少なくとも1つの歯科矯正器具のベースと前記歯構造の複製との間の位置に、光硬化性組成物を配置する工程と、
前記光硬化性組成物に化学線を向かわせる工程であって、該工程が、前記患者の歯構造の複製を通るように化学線を向けることによって少なくとも部分的に実施される、工程と、
各器具および前記歯構造の複製を覆うように転移装置を形成する工程と、
を含む方法。
【請求項13】
前記転移装置を形成する工程が、約10〜約80の範囲のショアA硬度を有するマトリックス材料を用意する工程を含む、請求項12に記載の歯科矯正用転移装置を作製する方法。
【請求項14】
前記転移装置を形成する工程が、硬化前に約60Pa・s未満の粘度を有する硬化性マトリックス材料を用意する工程を含む、請求項12に記載の歯科矯正用転移装置を作製する方法。
【請求項15】
前記転移装置を形成する工程が、前記複製の少なくとも一部を覆うようにスペーサー材料を配置する工程を含む、請求項12に記載の歯科矯正用転移装置を作製する方法。
【請求項16】
各器具および歯構造の複製を覆うように転移装置を形成する前記工程が、前記スペーサー材料を覆うように前記転移装置の少なくとも一部を形成することにより実施される、請求項15に記載の歯科矯正用転移装置を作製する方法。
【請求項17】
請求項12に記載の方法により作製される歯科矯正用転移装置を使用して、1つ以上の歯科矯正器具を患者の歯構造に結合させる方法。
【請求項18】
前記複製材料がポリマー材料から構成される、請求項12に記載の歯科矯正用転移装置を作製する方法。
【請求項19】
歯科矯正器具の結合面を作製する装置であって、
化学線を透過させる材料から作製された歯構造の複製と、
歯科矯正器具と、
前記器具と前記複製との間にある光硬化性組成物と、
前記複製の少なくとも一部の経路に沿って、かつ、前記光硬化性組成物の方に前記化学線の少なくとも一部を向かわせるように操作可能な化学線源と、
を含む装置。
【請求項20】
前記光硬化性組成物が接着剤である、請求項18に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する装置。
【請求項21】
前記複製材料がポリマー材料を含む、請求項18に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する装置。
【請求項22】
前記複製材料がエポキシ樹脂を含む、請求項18に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する装置。
【請求項23】
前記歯構造が、歯の複製の舌側表面を備え、前記光硬化性組成物が前記複製の舌側表面と接触している、請求項18に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する装置。
【請求項24】
前記化学線源が可視波長の化学線を提供する、請求項18に記載の歯科矯正器具の結合面を作製する装置。
【図1】
【図2】
【図5】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図5】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2006−525076(P2006−525076A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509905(P2006−509905)
【出願日】平成16年4月12日(2004.4.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/011142
【国際公開番号】WO2004/098439
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月12日(2004.4.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/011142
【国際公開番号】WO2004/098439
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】
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