説明

輸液ポンプ

【課題】 輸液チューブの輸液ポンプ内の収納路への収納が逆である場合に、それを積極的に検出、報知することを可能にする。
【解決手段】 送液中に輸液チューブに接するヒータを加熱する(S2)。そして、ヒータの上流側及び下流側に設けられた温度センサで、輸液チューブ内の薬液に伝播する温度を測定し、下流側で測定した温度と上流側で測定した温度との差と、所定の閾値Thとを比較する(S5)。そして、その差が閾値Th未満であるとき、輸液チューブが逆に装着されているものと判定し、送液を停止し(S6)、逆指しを報知する(S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は輸液ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
輸液ポンプは、例えば集中治療室(ICU)等で使用されて、患者に対して薬剤の送液処置を、高い精度で比較的長時間行うことに用いられている。輸液ポンプは本体と開閉扉とを有している。輸液ポンプの上には所定の薬剤バッグ(輸液バッグ)が配置され、本体と開閉扉との間には、薬剤バッグから下げた輸液チューブを挟みこんで、この輸液チューブを本体内に収容して開閉扉を閉じることで保持している。
【0003】
輸液ポンプの本体内では、定位置にセットされた輸液チューブの外周面が、本体内の複数のフィンガと開閉扉の内面との間に挟まれている。この輸液ポンプは、送液駆動部の複数のフィンガが個別駆動されることで、複数のフィンガが輸液チューブの外周面を長さ方向に沿って順次押圧して薬剤の送液を行う蠕動式輸液ポンプである (特許文献1を参照)。
【0004】
特許文献1に記載の輸液ポンプでは、輸液チューブを輸液ポンプの本体内において上から下に向けて垂直に通して保持している。
【0005】
これに対して、輸液チューブを輸液ポンプの本体内において水平方向に通して保持する輸液ポンプが提案されている。このように、輸液チューブを輸液ポンプの本体において水平方向に通して保持する構造を採用しようとするのは、輸液チューブが輸液ポンプの本体内を上から下に向けて垂直に通っている輸液ポンプとは異なり、複数の輸液ポンプを上下位置にスタックした状態で重ねて保持しても輸液チューブが邪魔にならないという利点があるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−200775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の輸液ポンプでは、輸液チューブを上下方向にセットするため、チューブの上流と下流を間違えてセットするおそれはない。
【0008】
しかし、輸液チューブを水平方向に通して保持する輸液ポンプでは、輸液チューブが輸液ポンプの本体において水平方向にセットされるので、医療従事者(使用者)が輸液チューブの上流側と下流側とを間違えて輸液ポンプの本体に対して水平方向に沿って逆方向にセットする可能性がある。
例えば、輸液ポンプの本体に対して向かって右側部分に輸液チューブの上流側が配置され、輸液ポンプの本体に対して向かって左側部分に輸液チューブの下流側が配置されるように予め決められている場合には、輸液チューブの上流側を輸液ポンプの本体の右側部分に配置し、輸液チューブの下流側を輸液ポンプの本体の左側部分に配置すれば、送液駆動部が駆動することで、薬剤が上流側から下流側に向かって予め定めた送液方向に沿って送液でき、患者に対して正しく送液できる。
【0009】
しかし、医療従事者が、誤って輸液チューブを本体に対して逆方向に配置してしまい、輸液チューブの上流側を輸液ポンプの本体の左側部分に配置し、輸液チューブの下流側を輸液ポンプの本体の右側部分に配置してしまうと、薬剤は正しい方向とは逆の方向に送液されてしまうので、薬剤が患者に対して正しく送液することができない。
【0010】
そこで、本発明は、医療従事者が、輸液チューブを装着する場合に輸液チューブの装着方向を誤って装着した場合に、それを検出、報知することを可能ならしめる輸液ポンプを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、第1の発明の輸液ポンプは以下の構成を備える。すなわち、
輸液バッグの輸液チューブを収容及び支持し、前記輸液バッグ内の薬液を前記輸液チューブの先端に向けて送液する輸液ポンプであって、
前記輸液ポンプ内に設けられた水平方向に延びる収納路に収納された輸液チューブに対し、前記収納路に沿って設けられた複数のフィンガを駆動することで、輸液チューブ内の薬液を一方向に送出する送出手段と、
前記収納路上に設けられ、当該輸液チューブ内の薬液に向けて熱を放出する熱源と、
前記収納路上に設けられ、前記熱源を挟む位置に設けられた少なくとも2つの温度センサと、
前記送出手段で前記輸液チューブ内の薬液の送出中に、前記熱源から前記薬液に伝播させ、前記2つの温度センサで温度を検出し、当該2つの温度センサによる検出した温度差に従って、前記輸液チューブの前記収納路への収納方向が正常であるか逆であるかを判定する判定手段と、
該判定手段の判定結果を、報知する報知手段とを備える。
【0012】
また、第2の発明の輸液ポンプは、以下の構成を備える。すなわち、
輸液バッグの輸液チューブを収容及び支持し、前記輸液バッグ内の薬液を前記輸液チューブの先端に向けて送液する輸液ポンプであって、
単位時間当たりに送出する薬液の量である流量を設定する操作部と、
前記輸液ポンプ内に設けられた水平方向に延びる収納路に収納された輸液チューブに対し、前記収納路に沿って設けられた複数のフィンガを、前記操作部による操作で設定された流量に応じて前記駆動することで、輸液チューブ内の薬液を一方向に送出する送出手段と、
前記収納路上に設けられ、当該輸液チューブ内の薬液に向けて熱を放出する熱源と、
前記収納路上に設けられ、前記熱源から下流方向に所定距離隔てた位置に設けられた温度センサと、
前記送出手段で前記輸液チューブ内の薬液の送出中に、前記流量、前記熱源と温度センサ間の距離で決まる許容遅延時間内に、前記熱源を駆動し、当該駆動による温度変化を前記温度センサで検出できたか否かを判定する判定手段と、
該判定手段の判定結果を、報知する報知手段とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、輸液チューブの収納路への逆収納を検出できる。そして、逆収納を検出した場合に、外部に報知することにより、正しい収納への再収納操作を促すことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態における輸液ポンプの外観図である。
【図2】輸液ポンプのドア部を開いた状態を示す図である。
【図3】輸液ポンプの電気系統のブロック図である。
【図4】第1の実施形態における輸液チューブの逆指し検出の原理を説明するための図である。
【図5】第1の実施形態における輸液ポンプの制御部の処理手順を示すフローチャートでる。
【図6】第2の実施形態における輸液チューブの逆指し検出の原理を説明するための図である。
【図7】第2の実施形態における輸液ポンプの制御部の処理手順を示すフローチャートでる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に従って本発明に係る実施形態を詳細に説明する。
【0016】
[装置構成の説明]
図1は、輸液バッグ161の輸液チューブ160が正常方向に固定された場合の、本実施形態における輸液ポンプ100の外観構成の一例を示す図である。すなわち、実施形態における輸液ポンプ100は、その正面の右手側が輸液の上流側(輸液バッグ側)、左手側が下流側(患者側)となり、送液方向は右から左に向かう方向であるものとして説明する。図1に示すように、輸液チューブ160の送液方向上流側には、所定の薬液が収容された輸液バッグ161が接続され、また、送液方向下流側には、輸液クレンメ(クランプ部材)162及び静脈刺針163が接続されている。そして、当該静脈刺針163が患者の静脈に刺針され、留置されることで、輸液バッグ161内の薬液が患者へと注入される。そして、図1に示すように、実施形態における輸液ポンプは、輸液チューブ160を水方向に収容することで、輸液ポンプの上下に他の医療機器を近接して設置したとしても、輸液チューブが折れ曲がることななくなる。
【0017】
輸液ポンプ100の正面は、輸液チューブ160を水平方向に装着可能な送液部110を覆うドア部120と、送液部110及びドア部120の上方に配されたユーザインタフェース部130とで構成される。
【0018】
ドア部120は、ヒンジ121において送液部110と連結されており、矢印122方向(上向き開閉)に開閉可能に構成されている。
【0019】
ユーザインタフェース部130は、操作部130Aと表示部130Bとを備える。操作部130Aには、送液部110において送液を行う際に用いられる各種設定値を入力したり、送液の開始/終了、プライミング等を指示するための操作スイッチ、輸液ポンプ100の電源のON/OFFを指示するための電源スイッチ等が配されている。
【0020】
また、表示部130Bは、操作部130Aより入力された各種設定値を表示したり、送液部110の送液状態を表示したりする。
【0021】
本実施形態に係る輸液ポンプ100は、ユーザインタフェース部130が、ドア部120とは独立して配されているため、ドア部120の開閉状態に関わらず、ユーザは、表示部130Bを視認したり、操作部130Aを介して各種操作を行ったりすることができる。
【0022】
次に、輸液ポンプ100の送液部110の構成について説明する。図2は、ドア部120が開状態にし、輸液チューブを外した輸液ポンプ100の外観構成を示す図である。
【0023】
図2のドア部120において、201はドアベースであり、ヒンジ部121を介して送液部110の本体ベース211に回動可能に接続されている。これにより、ドア部120が送液部110に対して開閉自在となっている。
【0024】
203はバッファプレート機構であり、ドア部120の閉状態で、後述するフィンガによって輸液用チューブが押圧された場合に、該輸液用チューブの背面を支持する。204は閉塞押え板であり、ドア部120の閉状態で、後述する閉塞センサとの間で輸液用チューブを挟持する。
【0025】
図2の送液部110において、218は輸液チューブを収容する収納路であって、図示の如く右端から左端にかけて、輸液チューブを水平に保ち、収納するための溝構造を成している。
【0026】
212はセンサ溝部であり、該センサ溝部212を形成する側壁部には、輸液用チューブ内の気泡を超音波等を用いて検出する気泡センサ(不図示)が配されている。
【0027】
213はポンプ機構であり、輸液用チューブを順次押圧するフィンガ214−1〜214−5が送液方向に複数配列されている。
【0028】
215は閉塞センサであり、永久磁石と、該永久磁石の移動量をアナログ的に検出するためのピックアップとから構成されている。閉塞センサ215では、輸液用チューブの閉塞状態に伴う内圧変化に応じて移動した永久磁石の移動量を検出することで、閉塞状態を検出している。
【0029】
216はチューブクランプ保持部であり、輸液用チューブに取り付けられたクランプを保持するとともに、ドア部120が開状態となった場合に、当該クランプに対して、輸液用チューブを一時的に圧閉するための押圧力を付加する。
【0030】
なお、チューブクランプ保持部216は、輸液用チューブに取り付けられたクランプを保持したことを検知可能な構成となっており、これにより輸液ポンプ100では、輸液用チューブが装着されたか否かを判定している。
【0031】
217はロック/解除レバーであり、当該ロック/解除レバー217が操作されることで、チューブクランプ保持部216による輸液チューブのクランプに対する押圧力を付加したり、それを解除(つまり、クランプによる輸液用チューブの圧閉が解除)される。
【0032】
なお、チューブクランプ保持部216は、輸液用チューブに取り付けられたクランプを保持したことを検知可能とし、これにより輸液ポンプ100では、輸液用チューブが装着されたか否かを判定するようにしても良い。
【0033】
230は実施形態における輸液チューブ逆指し検出部(詳細後述)である。そして、231は、輸液チューブ逆指し検出部230に輸液チューブが保持された状態を維持するため、並びに、輸液チューブを取り出すため、輸液チューブの輸液チューブ逆指し検出部への保持/解除を行うロック/解除レバーである。
【0034】
219、220は、マグネット等の吸着部及び被吸着部であり、相互に吸着することで、ドア部120の閉状態を維持する。なお、吸着部219及び被吸着部220は相互に吸着しているか否かを検知可能な構成となっており、これにより輸液ポンプ100では、ドア部120の開閉状態を判定している。219をフックとし、220をこのフックと係合する形状にしてもよい。
【0035】
図3は実施形態における輸液ポンプの電気系統のブロック構成図である。
【0036】
図示において、300は装置全体の制御を司る制御部であって、マイクロプロセッサ、その処理手順であるプログラムを格納したROM、ワークエリアとして使用されるRAMで構成される。301はフィンガ214−1乃至214−5を駆動する駆動部であり、フィンガー214−1から214−5を順番に輸液チューブを押圧するように周期的に駆動することで、輸液チューブ内の薬液を図2の右側から左側に向けて送出することができる。302は気泡センサであって、先に説明したように、図2におけるセンサ溝部212の近傍に配置され、収容した輸液チューブ内が、薬液で満たされているか、気泡が混じっているかを検出するものである。
【0037】
上記構成における一般的な操作手順を簡単に説明すると、次の通りである。
【0038】
先ず、輸液ポンプ100のドア部120を開き、輸液バッグのチューブを、収納路218a,b,cに収納する作業を行い、ドア部120を閉める。この後、ユーザインタフェース130における電源スイッチを操作して、輸液ポンプ100の電源をONにする。次いで、クレンメ162を開き、操作部130Aに設けられたプライミングスイッチを操作する。この結果、制御部300は、駆動部301を駆動制御し、フィンガ214−1乃至214−5を駆動して、輸液バッグ161からの薬液がチューブ160に満たされる。
【0039】
この後、操作者は、操作部130Bを見ながら、操作部130Aを操作することで、輸液の単位時間当たりの流量(mL/h)、注入量(mL)を設定する(フィンガ214−1乃至214−5の駆動周期を決定する)。そして、静脈刺針163を患者に静脈に刺針し、操作部130Aの輸液の開始スイッチを操作する。
【0040】
この輸液処理中、気泡センサ302により気泡が検出、閉塞センサ215による閉塞を検出すると、その旨を報知するため、表示部130Aに警告メッセージを点滅表示したり、スピーカ303からアラーム音を発生させる。
【0041】
更に、実施形態では、輸液開始を指示したとき、輸液チューブ逆指し検出部230による輸液チューブ160の逆指しを検出した場合にも、その逆指し状態であることを外部に報知するため、表示部130Aに警告メッセージを点滅表示したり、スピーカ303からアラーム音を発生させる。
【0042】
ここで、気泡センサ302による気泡の検出、閉塞センサ215による閉塞の検出は、公知のものであるのでここでの詳述は省略し、以下、輸液チューブ逆指し検出部230の構造とその原理を以下に説明する。
【0043】
図4(a)は実施形態における輸液チューブ逆指し検出部230と輸液チューブとの関係を示している。実施形態における輸液チューブ逆指し検出部230は、図示の如く、輸液チューブ160を収納路218a,b,cに収納したとき、ヒータ400、温度センサ(サーミスタ)410a、410bに密接するようになっている。ヒータ400と温度センサ410aとの距離と、ヒータ400と温度センサ410bとの距離は同じになるように設計されている。また、ヒータ400は、サーモスタットを内蔵し、予め設定された目標温度に到達した以降は、その温度が維持されるようになっている。
【0044】
さて、実施形態における輸液ポンプ100は、図示の右側から左側に向けてチューブ160内の薬液を送出するものとしている。従って、今、輸液バッグ161のチューブ160を図1に示すように、正常な方向に輸液ポンプ100にセットし、フィンガー214−1乃至214−5を駆動して送出を開始したとすると、図4(b)に示す矢印450に示されるように、スムーズに薬液が輸液チューブ160内を流れていくことになる。従って、ここでヒータ400を加熱駆動すると、その熱は図示の円弧で示されるように伝播し、ヒータ400の下流側に位置する温度センサ410bではその温度上昇を検出できる。しかし、ヒータ400の上流側に位置する温度センサ410aではその温度上昇を検出できないか、できても温度上昇する度合は小さい。故に、温度センサ410a、410bで検出した温度をTa、Tbとした場合、閾値Thに対して、次式(1)が正立する。
Tb−Ta≧Th …(1)
【0045】
一方、図4(c)に示すように、輸液チューブ160を輸液ポンプ100の収容路218に対して左右逆に接続し、薬液の送出を開始した場合や、下流閉塞が発生した場合を考える。この場合、輸液バック161は薬液で一杯になっており、尚且つ、輸液ポンプ10よりも高い位置に固定されているから、輸液ポンプ10による薬液送出を開始したとしても、その流速は図4(b)と比較すると遅くなるか、場合によっては流れが止まる。従って、この状態でヒータ400を加熱駆動すると、その熱は図4(c)の円弧で示されるように伝播し、その場合の温度センサ410a,410b間の温度差は、同図(b)よりは小さくなり、次式(2)の関係になる。
Tb−Ta<Th …(2)
【0046】
以上の通りであるから、ヒータ400の加熱駆動と、ヒータの上流、下流側で温度検出を行うことで、輸液チューブの逆指し、又は、下流閉塞を検出できることが理解出来よう。
【0047】
なお、ヒータ400と温度センサ410a、410bは固定であり、それらの間隔は同じとしている。また、ヒータ400の加熱駆動で与える単位時間当たりの熱量が一定とする。流量が多ければ多いほど、熱量を受ける薬液の体積が増える。従って、上記の閾値Thは、操作者が設定した流量(単位時間当たりに送出する薬液の量で、薬液チューブ内の流速と言うこともできる)に依存したものとなる点に注意されたい。すなわち、閾値Thは、操作者が設定した流量から、演算によって求めるか、或いは、予め記憶したルックアップテーブルを参照して決定すれば良い。
【0048】
[処理手順の説明]
次に実施形態における輸液ポンプ100の制御部300の処理手順を図5のフローチャートに従って説明する。なお、同図は操作部130Aの送液開始スイッチが操作された場合の処理であって、それ以前に、輸液チューブ161が実施形態の輸液ポンプ100の収納路218に収納されているのは勿論のこと、プライミング処理、流量(単位時間当たりに送出する薬液量)等に係る入力も済み、静脈刺針163も患者の静脈中に導入されているものとする。また、設定した流量に従い、閾値Thも決定しているものとして説明する。
【0049】
制御部300は操作部130Aにおける送出開始スイッチが操作されると、設定された流量に従い駆動部301を駆動することで、フィンガ214−1乃至214−5を駆動し、チューブ内の薬液の送出を開始する(ステップS1)。
【0050】
この後、輸液チューブ逆指し検出部230のヒータ400の加熱駆動を開始する(ステップS2)。この結果、ヒータ400の温度が上昇するが、その目的温度に到達するまで或る程度の時間がかかる。また、ヒータ400からの熱量が薬液チューブ内の薬液を介して、下流に位置する温度センサ410bに到達するまでには、ヒータ400と温度センサ410b間の距離と、設定した流量とを加味した時間Tだけ経過しなければならない。そこで、これらを十分に満たすまで温度センサ410a,410bによる温度検出を行なわないようにするため、時間Tだけ経過するのを待つ(ステップS3)。
【0051】
さて、ヒータ400の加熱を開始してから、時間Tだけ経過すると、処理はステップS4に進み、温度センサ410a,410bによる温度Ta,Tbを測定する。
【0052】
この測定の結果、条件式『Tb−Ta≧Th』を満たしているか否かを判定する(ステップS5)。この条件式を満たしていると判定した場合には、輸液チューブ162は正常方向にセットされているものとして見なす。
【0053】
一方、条件式『Tb−Ta≧Th』を満たしていないと判断した場合には、輸液チューブ162が収納路218に左右逆に収納している、もしくは下流閉塞が発生していると判断し、送液を停止するため、駆動部301によるフィンガ214−1乃至214−5の駆動を停止する(ステップS6)。そして、表示部130Aに輸液チューブが逆指し状態になっている、又は、下流閉塞が発生している旨の警告メッセージを点滅表示し、スピーカ303によるアラーム音を発生させ、処理を終える(ステップS7)。なお、ステップS7の警告報知は、画面と音の両方で行うものとしたが、一方だけでも構わないし、更に、輸液ポンプがネットワークに接続されているのであれば、その警告メッセージをサーバに通報するようにしても構わない。
【0054】
以上説明したように本実施形態によれば、輸液ポンプ内に輸液チューブに熱を伝播させる熱源と、輸液チューブ内の薬液に伝播した熱を検出する温度センサを設け、送液中における熱源からの熱の伝播の程度から、輸液チューブの輸液ポンプに対する誤装着を検出できる。従って、逆指し警報により、輸液チューブの正常方向での装着を促すことが可能となる。
【0055】
なお、実施形態では、輸液チューブ逆指しを検出した場合にのみ警報を発するものとしたが、逆指しを検出するまで、又は、正常であると判定中であっても、その旨を示すマークを表示部130Bに表示させて外部に報知するようにしても良い。また、実施形態では、熱源をヒータとして説明したが、温度を下げる熱源を用いても構わない。温度を下げる素子としては、ペルチェ素子があげられる。温度を下げる場合、正常に輸液チューブを収納路218に収納した場合、下流側の温度センサで検出する温度が、上流側の温度センサ(室温に近い温度を検出する)で検出する温度よりも低くなる点が異なる。
【0056】
[第2の実施形態]
上記はヒータ400を挟む両隣の温度センサ410a、410bによる温度Ta,Tbを計測し、その温度差から輸液チューブ160の輸液ポンプへの逆指しを検出した。本第2の実施形態では、温度の伝播する遅延時間を計測することで、輸液チューブ160の逆指しを検出する例を説明する。
【0057】
本第2の実施形態が、第1の実施形態と異なる点は、輸液チューブ逆指し検出部230の構造とその検出処理にあるので、その部分について説明し、他の構成についての説明は省略する。
【0058】
図6(a)は第2の実施形態における輸液チューブ逆指し検出部230の構成を示しており、ヒータ500と、輸液ポンプによる送液の下流側に設けた温度センサ510で構成される。図4との違いは、温度センサが1つとなり、ヒータ500と温度センサ510とが、後述する遅延時間を精度良く計測するための距離だけ隔てている点である。
【0059】
図4(a)に示すように、輸液チューブ160が、正しい向きで収納路218に収納し、駆動部301を駆動して送液を行うと、図示の矢印550のように薬液がスムースに流れていく。輸液チューブ160の輸液の流れる部分の断面積をS、輸液ポンプ100に設定した流量(単位時間当たりの薬液の送出量(体積))をMとしたとき、薬液の流速vは次式で与えられる。
v=M/S
【0060】
ここで、ヒータ500と温度センサ510間の距離をLとしたとき、ヒータ500の熱量が温度センサ510に伝わるまでに要する時間t0は、次式で得られる。
t0=L/V=L*S/M
ただし、仮に流速が0であっても温度は薬液中を伝播していくし、輸液チューブ160の材質の熱伝導率も考慮する必要がある。従って、それらの諸条件を含む調整値αを上記t0に加算し、この加算結果を許容遅延時間Tとする。なお、このαは、幾つもの条件下でサンプリングして、そこから導き出せばよいし、流速に応じて決定するためにルックアップテーブルで用意しておけばよい。
【0061】
本実施形態では、ヒータ500を、間欠的に加熱駆動する。すなわち、所定時間加熱し、その後に加熱を止める処理を繰り返す。送液中であるので、加熱と非加熱の繰り返しにより、温度センサ510は温度の上下変化として検出できることになる。1サイクルの加熱とそれに後続する非加熱処理を加熱/非加熱処理と定義したとき、1回の加熱/加熱処理を行ってから時間T以内に下流の温度センサ510で、直前に測定した温度に対してΔC(予め設定した閾値)を超える温度上昇を検出できたとき、輸液チューブ160は正しい方向に収納路218に収納されているものと見なし、以降、この加熱/非加熱処理を繰り返していく。
【0062】
一方、図5(b)に示すように、輸液チューブ160が収納路218に逆に収納したとき、図示の矢印560に示すように流速は正常装着時と比較して小さい。ただし、輸液バッグ161が輸液ポンプ100よりも高い位置に設置していない可能性もある。また、送液開始直後は、輸液バッグ161の収納スペースに或る程度の余裕がある場合もあり、薬液がスムースに流れる可能性は否定できない。つまり、逆指しの状態でも、送液開始直後の状態では、時間T以内に温度上昇を検出できる可能性がある。しかし、ある程度の時間だけ経過すると、次第に流速が遅くなり、時間T経過しても温度上昇を温度センサ510で検出できなくなるので、その際には、輸液チューブ160が逆指ししているものとして警告処理を行えば良い。
【0063】
[処理手順の説明]
次に第2の実施形態における輸液ポンプ100の制御部300の処理手順を図7のフローチャートに従って説明する。なお、同図は操作部130Aの送液開始スイッチが操作された場合の処理であって、それ以前に、輸液チューブ161が実施形態の輸液ポンプ100の収納路218に収納されているのは勿論のこと、プライミング処理、流量(単位時間当たりに送出する薬液量)等に係る入力も済み、静脈刺針163も患者の静脈中に導入されているものとする。また、設定した流量に従い、許容遅延時間Tも決定しているものとして説明する。
【0064】
制御部300は操作部130Aにおける送出開始スイッチが操作されると、設定された流量に従い駆動部301を駆動することで、フィンガ214−1乃至214−5を駆動し、チューブ内の薬液の送出を開始する(ステップS11)。
【0065】
この後、輸液チューブ逆指し検出部230のヒータ500を所定時間だけ加熱駆動し、その時間が経過したとき加熱を停止する処理を行う(ステップS12)。この結果、薬液の中に部分的に温度の高い部分が形成され、その部分が下流に向かって流れていく。制御部300は温度センサ501による温度を測定し、前回測定した温度との差がΔC以上になったか否かを判定する(ステップS13)。否の場合には、ヒータの加熱/非加熱処理を行ってから許容遅延時間Tが経過したか否かを判定する(ステップS14)。許容遅延時間Tが経過していないと判断した場合には、ステップS13に戻る。
【0066】
以上の結果、ヒータ500の加熱/非加熱を行ってから許容遅延時間T内に温度変化(温度上昇)が検出できた場合、ステップS13の判定がYesとなり、次の加熱/非加熱処理を行うこととなる。
【0067】
一方、許容遅延時間Tが経過しても、温度変化が検出できなかった場合、送液速度が設定した流量になっていず、輸液チューブ160が収納路218に左右逆に収納していると判断し、送液を停止するため、駆動部301によるフィンガ214−1乃至214−5の駆動を停止する(ステップS15)。そして、表示部130Aに輸液チューブが逆指し状態になっている旨の警告メッセージを点滅表示し、スピーカ303によるアラーム音を発生させ、処理を終える(ステップS16)。なお、ステップS7の警告報知は、画面と音の両方で行うものとしたが、一方だけでも構わないし、更に、輸液ポンプがネットワークに接続されているのであれば、その警告メッセージをサーバに通報するようにしても構わない。
【0068】
以上説明したように本第2の実施形態によっても、送液中における熱源からの薬液に対する熱の伝播の程度から、輸液チューブの輸液ポンプに対する誤装着を検出できる。
【0069】
なお、上記第2の実施形態では、温度の上昇を検出するものとして説明したが、温度の下降を検出するようにしても良い。また、上昇と下降の両方とも検出するようにしても良い。特に、温度を積極的に下げるのであれば、ペルチェ素子を利用すれば、室温以下にまでさげることもでき、温度の上昇や下降の検出精度を上げることができる。
【符号の説明】
【0070】
100:輸液ポンプ、130:ユーザインタフェース部、130A:操作部、130B:表示部、160:輸液チューブ、161:輸液バッグ、218:収納路、213:ポンプ機構、214−1〜214−5:フィンガ、215:閉塞センサ、216:チューブクランプ保持部、217:解除レバー、230:輸液チューブ逆指し検出部、400、500:ヒータ、410a、410b、510:温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸液バッグの輸液チューブを収容及び支持し、前記輸液バッグ内の薬液を前記輸液チューブの先端に向けて送液する輸液ポンプであって、
前記輸液ポンプ内に設けられた水平方向に延びる収納路に収納された輸液チューブに対し、前記収納路に沿って設けられた複数のフィンガを駆動することで、輸液チューブ内の薬液を一方向に送出する送出手段と、
前記収納路上に設けられ、当該輸液チューブ内の薬液に向けて熱を放出する熱源と、
前記収納路上に設けられ、前記熱源を挟む位置に設けられた少なくとも2つの温度センサと、
前記送出手段で前記輸液チューブ内の薬液の送出中に、前記熱源から前記薬液に伝播させ、前記2つの温度センサで温度を検出し、当該2つの温度センサによる検出した温度差に従って、前記輸液チューブの前記収納路への収納方向が正常であるか逆であるかを判定する判定手段と、
該判定手段の判定結果を、報知する報知手段と
を備えることを特徴とする輸液ポンプ。
【請求項2】
前記熱源は電気駆動のヒータであって、
送出手段で送出する方向に対し、前記熱源より上流に位置する温度センサで検出した温度をTa、下流に位置する温度センサで検出した温度をTb、予め設定した閾値をThとしたとき、
前記判定手段は、
条件:Tb−Ta≧Th
を満たしているとき、前記収納路に前記輸液チューブが正しく収納されていると判定し、
前記条件を満たさないとき、前記収納路に前記輸液チューブが逆に収納されていると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の輸液ポンプ。
【請求項3】
前記閾値Thは、輸液ポンプで設定する単位時間あたりに送出する流量に依存して決定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の輸液ポンプ。
【請求項4】
輸液バッグの輸液チューブを収容及び支持し、前記輸液バッグ内の薬液を前記輸液チューブの先端に向けて送液する輸液ポンプであって、
単位時間当たりに送出する薬液の量である流量を設定する操作部と、
前記輸液ポンプ内に設けられた水平方向に延びる収納路に収納された輸液チューブに対し、前記収納路に沿って設けられた複数のフィンガを、前記操作部による操作で設定された流量に応じて前記駆動することで、輸液チューブ内の薬液を一方向に送出する送出手段と、
前記収納路上に設けられ、当該輸液チューブ内の薬液に向けて熱を放出する熱源と、
前記収納路上に設けられ、前記熱源から下流方向に所定距離隔てた位置に設けられた温度センサと、
前記送出手段で前記輸液チューブ内の薬液の送出中に、前記流量、前記熱源と温度センサ間の距離で決まる許容遅延時間内に、前記熱源を駆動し、当該駆動による温度変化を前記温度センサで検出できたか否かを判定する判定手段と、
該判定手段の判定結果を、報知する報知手段と
を備えることを特徴とする輸液ポンプ。
【請求項5】
前記熱源は電気駆動のヒータであって、
前記判定手段は、前記熱源を所定時間加熱した後、当該非加熱状態にする処理を1サイクル分の処理としたとき、当該1サイクル分の処理を行う度に、前記許容遅延時間内に、前記温度センサで、前回測定した温度に対して予め設定した閾値以上の温度上昇を検出した場合に、前記収納路に前記輸液チューブが正しく収納されていると判定し、
前記許容遅延時間経過しても、前記温度センサで、前回測定した温度に対して予め設定した閾値以上の温度上昇を検出しない場合に、前記収納路に前記輸液チューブが逆に収納されていると判定する
ことを特徴とする請求項4に記載の輸液ポンプ。
【請求項6】
前記熱源はペルチェ素子を含み、前記熱源の当該非加熱状態では前記ペルチェ素子に電力を供給することで、温度を下げることを特徴とする請求項4又は5に記載の輸液ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−228481(P2012−228481A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100073(P2011−100073)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】