輸送システムの測定装置
本発明は、膜にある輸送システム(50)特にキャリヤプロテイン又はチャネルプロテインの特性の測定装置(1)に関する。生体輸送分子(50)の特性を高い処理能力で測定できるようにするため、測定装置(1)が光学測定装置(2)、測定データを検出して処理するデータ処理装置(6)、及びプロセス制御装置(7)を持っている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜にある個々の輸送システム特にキャリヤプロテイン又はチャネルプロテイン又は分泌機構のような生体膜を通して物質を輸送する他のシステムの特性を光学的に測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体膜は、細胞を外側の媒体から隔離し、細胞の個々の細胞室を互いに隔離する。輸送プロテイン及びチャネルのような輸送システムは、これらの膜の物質通過を選択的に制御する。これらの輸送体及びチャネルの機能障害は、多数の蔓延した病気に対して責任がある。米国において2004年に最も多く販売された医薬品のうち、膜輸送体が最も頻繁に現れるグループであった。全体で100より多い輸送ターゲットが現在製薬会社において研究され、このことから、これらのターゲットがどれ位大きい経済的意味をもっているかがわかる。
【0003】
このような作用物質のために、輸送ターゲットによる特別な基質の輸送速度及び作用物質候補の影響のような特性を評価できる測定方法が必要である。この場合個々のターゲット分子を自動的に高い処理能力で特徴づけることができる方法が特に必要とされる。
【0004】
イオン及び帯電粒子の輸送速度の分析のため、電気測定を使用することができる。この方法は、バイオテクノロジー及び薬学の研究において高い処理能力で既に利用されている。しかしそれは帯電した輸送基質に限られ、従って一般にイオンチャネルのグループのために使用される。
【0005】
アミノ酸、ペプチド、糖化合物及び脂肪酸のように帯電しない分子や、RNA,DNA及びたんぱく質のような生物学的巨大分子を輸送するため、個々の輸送体(ナノFAST)の蛍光分析と称される蛍光分析方法が適している。この場合担体の測定室で構成される表面へ、輸送システムを含む脂質膜又は生体膜又は細胞が塗布される。輸送システムとして、例えばチャネル又はキャリヤとなり得る膜たんぱく質が問題になる。その場合輸送システムに、蛍光色素で標識づけされているか又は内因性の蛍光を与える基質が与えられるか、又は細胞により形成される光学測定は、例えば共焦点レーザ走査顕微鏡、広域蛍光顕微鏡又はTIRF(全反射蛍光)顕微鏡によって行うことができる。TIRF顕微鏡では、励起光は全反射角をなして入射されるので、蛍光色素はエバネッセント界の空間的拡張内で選択的に励起される。
【0006】
適当な機器が存在しないので、これらの測定は今まで実験室規模でしか行うことができない。しかし方法を工業的範囲例えばバイオテクノロジー研究及び医薬品開発においても使用する必要が大いにある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、輸送生体分子の特性を高い処理能力で測定できる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、膜にある輸送システム特にキャリヤプロテイン又はチャネルプロテインの特性の測定装置において、測定装置が光学測定装置、測定データを検出して処理するデータ処理装置、及びプロセス制御装置を持っていることによって解決される。プロセス制御装置によって顕微鏡の機能が制御され、測定が自動的に行われる。測定データのプロセス制御される検出後、その自動的評価が行われる。
【0009】
好ましい実施形態では、光学測定装置がTIRF顕微鏡である。TIRF測定により、それぞれの輸送システムにより膜を経て測定室へ輸送された蛍光色素が優先的に励起される。これに反し測定室外の蛍光色素は励起されない。これにより一層正確な測定が可能である。
【0010】
プロセス制御装置により制御可能な試料操作器が設けられていることによって、試料処理能力の一層の増大が可能である。この試料操作器は、複数の役割、とりわけ測定のためバイオチップの準備、試料及び基質と共にバイオチップの送り、及び測定装置への供給を引受ける。
【0011】
出願人により提出された特願2010−50−2410号は、試料担体として、複数の測定室を持つ実質的に透明な層として構成されるバイオチップを提案している。このようなバイオチップ又は類似なバイオチップを測定するため、本発明による装置が有利に構成されている。
【0012】
バイオチップの有利な実施形態では、その上側に、その下にある測定室の開口より小さい開口を持つ金層が設けられているので、測定室が金属により一部覆われる。このようなバイオチップの測定の際、光学測定装置がTIRF角に近いけれどもこれにはまで達しない光線案内部を持っていると有利である。ここでTIRFと称される全反射の臨界角は、スネルの屈折法則により、2つの光学媒質の屈折率の比のアークサインから計算される。水/ガラス、水/石英又は水/ポリカーボネイトに対して、それぞれ61.7°,64.7°又は56.2°のTIRF角が生じる。光線案内部の角は、TIRF角より小さく、従って例えば水/ガラスにおける61.7°の代わりに55°である。光線案内部の角が最大でもTIRF角の20%より小さいのがよい。それにより励起光は測定室の下側で全部反射されるのではなく、光の一部が担体及び測定室を直接透過し、他の一部は更に金属で反射されて、再び測定室を透過する。これにより蛍光色素の一層強い励起が行われる。励起光はTIRF角の近くで従って斜めに透明な担体へ入射されるので、金属の開口の範囲で角をなして開口へ入り、この角で開口を出ることはできない。これにより一層有利な信号/雑音比が生じて、その上にある物質は励起光で照らされない。
【0013】
装置は測定すべきバイオチップ用の培養部を持っている。これによりバイオチップ及びプロテオリポソームは、調節可能な時間の間特定の温度で貯蔵され、それにより測定室上に輸送システムを含む膜を形成することができる。
【0014】
装置に上述した特徴により、測定サイクルがプロセス制御されかつ自動化されて実施され、それぞれ1つの測定サイクルが実質的に、測定用バイオチップの準備、それに続く光学的測定、及びそれに続く測定データの評価を含んでいるようにすることができる。
【0015】
測定の準備のため、試料操作器がバイオチップにおいて次の段階を実施する。まずチップが緩衝溶液で平衡せしめられる。平衡によりバイオチップが所望の温度に加熱され、この温度で脂質膜の流動性が保証される。十分な膜流動性においてのみ、脂質が均質に膜に分布される。それからプロテオリポソームの添加が行われる。
【0016】
続いて緩衝液による洗浄によって、過剰な脂質が除去される。生体膜又は細胞の場合、添加及び培養は、その膜が測定室を閉鎖するのに十分である。
【0017】
続いて作用物質候補が添加される。作用物質候補は物質例えば有機分子であり、それが輸送に特定の作用を及ぼし、例えば輸送を阻止するものと思われる。続いて蛍光色素で標識付けされるか又は本質的に蛍光性の輸送基質が添加され、特別に輸送システムにより膜を通る。更にスペクトル的に分離可能で蛍光で標識付けされる監視基質が添加されるが、膜を通るか又は輸送システムによることはない。最後に顕微鏡の測定範囲へバイオチップの供給が行われる。
【0018】
バイオチップの準備後、バイオチップの測定室において基質の時間分解された蛍光測定がプロセス制御されて行われ、その際検出された測定データが処理される。測定はマルチスペクトルにより種々の波長で行うことができる。
【0019】
蛍光測定後データ処理装置によって、パターン認識により個々の測定室に対して時間分解された蛍光強度が求められる。こうして求められた測定データに、サブプログラムにより数学曲線が合わされる。数学曲線は、3つのカテゴリ、しかも蛍光信号を持つ密閉測定室、蛍光信号なしの密閉測定室及び開いた測定室への測定室の分類を可能にする。自動的な区別は、数学曲線のパラメータにより行われる。蛍光信号なしの密閉測定室及び開いた測定室の測定データは拒否される。拒否されない測定データ即ち蛍光信号を持つ密閉測定室に対して、輸送のための速度定数が計算される。
【0020】
それからデータ処理装置によりなるべくヒストグラムが形成され、計算されたすべての輸送のための速度定数が、その頻度に対して記入される。ヒストグラムから、輸送のためのそれぞれの速度定数に、測定室毎に輸送システムの適当な数が対応せしめられる。対応により、輸送のためのすべての速度定数を測定室毎の輸送システムに標準化することができる。輸送のためのヒストグラムの最大値は数学関数により決定されて、輸送システムとして特有な速度を高い精度で再現し、この速度で輸送システムが、測定された輸送基質を膜を経て輸送する。作用物質候補の存在下で、輸送のための速度定数が低下されるか又は上昇されていると、作用物質候補が輸送システムをそのつど制御するか又は加速しており、例えば可能性のある薬剤として問題になる。
【0021】
図面を参照して本発明が好ましい実施形態で説明され、その際それ以外の有利な詳細が図面の図からわかる。そこでは機能的に部分は同じ符号を付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】 測定装置1の概略図を示す。
【図2】 測定の重要な段階の流れ図を示す。
【図3】 時間に関係する蛍光の測定曲線を示す。
【図4】 輸送のための異なる速度定数を持つヒストグラムを示す。
【図5】 バイオチップ9の詳細な垂直断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は測定装置の概略図を示す。光学測定装置としてTIRF(全反射蛍光)顕微鏡2が用いられ、図2においてFMとも称される。しかし従来の蛍光顕微鏡も使用できる。TIRF顕微鏡2の作用はプロセス制御装置(Ps)7により自動的に制御される。顕微鏡2はマルチスペクトル測定用に調整されている。それにより輸送基質60(図5参照)及び監視基質(図示せず)を同時に並行して測定することが可能である。監視基質の測定により、上に張られる膜40(図5参照)を持つ測定室30(図5参照)が密閉されているか否かが確かめられる。
【0024】
試料40,50,60(図5参照)及びバイオチップ9(図5参照)の準備、調製及び供給も同様に自動的に行われる。このため機械的試料操作器(PM)4が設けられて、同様にプロセス制御装置7により制御される。試料操作器4はバイオチップ9(図5参照)用の受入れ装置5を持っている。試料40,50(図5参照)の調製及び準備後、バイオチップ9(図5参照)が、同様にプロセス制御装置7によって制御される培養部8において培養される。調節可能な時間後、試料操作器4がバイオチップ9(図5参照)を持つ受入れ装置5をTIRF顕微鏡2の光路へ運び、測定が開始される。蛍光画像はCCDカメラ3により撮影され、データ処理装置(DV)6に記憶され、自動的に評価される。
【0025】
図2は測定の重要な段階の流れ図を示す。全測定過程は自動的に推移し、プロセス制御装置7(図1参照)により制御される。プロセス制御装置7はまず、新しい測定サイクルを開始すべきか否かを問い合わせる。yesの場合、測定のためバイオチップ9(図5参照)が準備される。そのためバイオチップ9(図5参照)が、試料操作器4により貯蔵容器(図示せず)からそのために設けられた受入れ装置5へ導かれ、それからこの受入れ装置が装置1の調製範囲へもたらされる。適当なバイオチップ(図5参照)は、励起光又は蛍光に対して透明な少なくとも1つの層20(図5参照)から成っている。バイオチップは上方へ開いた測定室30(図5参照)を持っている。
【0026】
それからバイオチップ9(図5参照)は、試料操作器4により、固定的に設定されたpH値を持つ緩衝溶液と平衡せしめられる。更に試料操作器4は、前もって準備されたプロテオリポソームをバイオチップ9(図5参照)上へピペットで供給する。剛性プロテオリポソームは、輸送システムとしてキャリヤプロテイン又は穴形成チャネルプロテインを含んでいる。それからバイオチップ9(図5参照)は、調節可能な時間培養部8に貯蔵される。特定の温度で培養することによって、脂質がプロテオリポソーム中で流動性になり、バイオチップ9(図5参照)の個々の測定室30(図5参照)を密閉する膜層40(図5参照)を形成する。続いて緩衝液で洗浄すると、過剰な脂質小胞及び輸送システムが除去される。
【0027】
しかし自然の生体膜又は細胞も使用され、それにより輸送速度の測定のほかに、細胞からの分泌速度の測定も可能である。生体膜又は細胞に対して、生体膜により個々の測定室30(図5参照)を閉鎖するため、段階が添加及び続く培養及び洗浄段階に減少する。
【0028】
続いて試料操作器4が、蛍光色素で標識付けされた輸送基質60(図5参照)及び監視基質をバイオチップ9(図5参照)上へピペットで供給する。両方の基質を異なる波長範囲において並行して測定できるようにするため、それらがスペクトル的に分離可能な異なる蛍光色素で標識付けされる。一般に作用物質候補が更に添加される。これは例えば輸送システム50(図5参照)に結合する阻害剤であってもよい。
【0029】
準備段階後、試料操作器4がバイオチップ9(図5参照)を蛍光顕微鏡2の測定範囲へ導く。測定範囲において、バイオチップ9(図5参照)の1点で、基質色素がレーザで励起され、蛍光発光がCCDカメラ3で測定される。撮影された蛍光画像は時刻表示を設けられ、データ処理装置6に記憶される。こうして画像堆積が形成されて、蛍光の時間的変化についての情報を含んでいる。
【0030】
所定の時間における蛍光の変化が測定された後、パターン認識ルーチンにより画像が評価され、蛍光信号が個々の測定室30(図5参照)に対応せしめられる。それからデータ処理装置6が時刻表示及び画像堆積に記憶されている各測定室30(図5参照)の時間に関係する蛍光強度から、測定時間における蛍光推移を再現する測定データ点を計算する。
【0031】
それからデータ処理装置6が、各測定室に対する測定データ点を数学曲線に合わせる(図3参照)。
【0032】
理想的な場合、個々の測定室30(図5参照)が、ちょうど輸送システム50(図5参照)が存在する膜40(図5参照)により密閉されている。しかし測定室(図5参照)が密閉されず開いており、従って基質60(図5参照)も監視基質も測定室30(図5参照)へ侵入できる可能性もある。更に測定室30(図5参照)は密閉されているが、輸送システム50(図5参照)を含んでおらず、従って基質60も監視基質も測定室30へ侵入しない可能性がある。その場合3つの前記カテゴリへの測定室30の分類は、サブプログラムにより曲線推移に基いて行われる。開いた測定室又は蛍光信号なしの測定室の測定データは拒否される(典型的な測定曲線の推移は図3に示されている)。
【0033】
残っている測定曲線は、データ処理装置6により比速度定数を求めるため更に評価される。その際サブプログラムによりなるべくヒストグラムが作成され、輸送のためすべての計算された速度定数が、その頻度に対してヒストグラムに記入される(図4参照)。ヒストグラムから、輸送のための角速度定数に、測定室ごとに特定数の輸送システムが対応せしめられ、測定室毎の輸送システムに標準化される。輸送システムに対するヒストグラムの最大値から、この輸送システムに対して特有な速度定数が、所定の基質の輸送に対して得られる(図4参照)。
【0034】
それにより完全な測定サイクルが終了している。測定されるバイオチップは、試料操作器4により蛍光顕微鏡2の測定範囲から出され、場合によっては別のバイオチップが測定のために準備される。
【0035】
上述した装置は、典型的に薬剤開発の範囲で可能性のある作用物質の選抜のために使用することができる。作用物質候補の存在下で輸送のための速度定数が作用物質なしの場合より小さい(大きい)と、これは、作用物質候補が輸送システムを減速(加速)させ、例えば可能性のある医薬品として問題になることを意味している。このような場合装置1は、複数の測定サイクルにおいて作用物質を異なる濃度で自動的に測定して、結合定数及び別の特性を自動的に求めることができる。
【0036】
図3は、装置により測定された時間に関係する蛍光の典型的ただし好例の測定曲線を示す。異なる蛍光曲線A,B,C,D,Eの5つの形式が示され、これらの曲線はバイオチップの測定の際典型的に現れる。各測定曲線はバイオチップの担体上のそれぞれ1つの特定の測定室に対応している。
【0037】
曲線Aは、膜40(図5参照)により全く又は完全には覆われていない測定室30(図5参照)における蛍光の時間的推移を示す。従って測定室30は密閉されておらず、基質60(図5参照)もスペクトル的に分離可能な蛍光色素を持つ監視基質も、妨げられることなく非常に短い時間に測定室へ拡散することができる。従って監視基質の波長範囲にある蛍光は、非常に短い時間後に既にその最大強度に達している。
【0038】
曲線Bは、輸送システムを含まないか又は活性輸送システムを含まない測定室30における蛍光の模範的な時間的推移を示す。標識付けされた基質の測定された蛍光強度は非常に小さく、測定時間中に僅かな変化しか示さない。曲線A及びBは利用可能な測定データを含まず、従ってデータ処理装置6により自動的に拒否される。
【0039】
曲線Cは曲線Bに類似しているが、標識付けされた監視基質のスペクトル的に分離された波長範囲において測定される。標識付けされた監視基質の蛍光強度は非常に小さく、全測定時間中僅かな変化しか示さない。従って監視基質は測定室から排除され、それによりこの測定室は密閉されてない。
【0040】
曲線Dは、密閉されかつ活性輸送システムを含む測定室30内の基質の蛍光の時間的推移を示す。
【0041】
曲線Eは、曲線Dにおけるように密閉された測定室30内の基質の蛍光の時間的推移を示す。しかし蛍光の時間に関係する強度が曲線Dにおけるより速く増大することが認められる。これは、膜部分においてこの測定室30上に2つ又はそれ以上の輸送システムが存在することに因る。従って輸送70に対する比速度定数を計算するために輸送システム60の数を考慮せねばならない。これがどのように起こるかを図4が示す。
【0042】
図4は輸送に対して種々の速度定数を持つヒストグラムを示す。ここでは横座標に、輸送に対する速度定数kの測定されたすべての値が記入されている。縦座標には、輸送に対する測定されたすべての速度定数kの相対数即ちその頻度が記入されている。第1のピークIは、測定室において1つの輸送システムにより測定されたすべての速度定数を再現している。第2のピークIIは、測定室において2つの輸送システムにより測定されたすべての速度定数を再現し、第3のピークIIIは、測定室30(図5参照)において3つの輸送システム50(図5参照)により測定されたすべての速度定数を再現している。従ってヒストグラムから、輸送に対する各速度定数に、測定室30毎の輸送システム50の数を対応させることができる。
【0043】
ヒストグラムによりデータ処理装置6が、数学関数により、ピークの最大値に属する速度定数を求め、これら従ってすべての測定された速度定数を測定室毎の輸送システムに標準化することができる。こうして求められた輸送システム50の輸送に対するこれらの速度定数は、所望の実験条件下で輸送基質60に対するこの輸送システム50の比速度定数に、高い精度で一致している。
【0044】
図5は、測定装置1に使用できるようなバイオチップ9の詳細な垂直断面図を示す。バイオチップ9は、励起する蛍光に対して透明なガラスの層から成る担体10を持っている。担体10上に二酸化珪素から成る別の層20が設けられている。この層20は、上方へ開く測定室30として形成される凹所を持っている。凹所30は約200nmの内径を持ち、深さは約500nmである。
【0045】
測定のためバイオチップ9の表面に脂質膜40が塗布されるので、測定室30が閉鎖される。脂質膜40は、輸送たんぱく質50を含む脂質層である。脂質膜40へ、蛍光色素で標識付けされかつ蛍光法で検出可能な1つ又は複数の基質分子60が添加される。基質分子60は、輸送たんぱく質50により膜40を経て測定室30へ輸送される。測定の際励起光(図示せず)が、斜めに下からTIRF角で入射される。担体10から測定室30内の測定用液(図示せず)への移行部に、光の全反射の際エバネセント界が形成されて、測定室30内の基質分子80を励起するが、脂質膜40より上の基質分子60を励起しない。反射する上面(図示せず)を持つバイオチップでは、測定装置1の光線案内部の角はTIRF角より小さい。
【0046】
膜40に含まれる輸送たんぱく質50により基質分子80の測定室30内への時間に関係する輸送70は、含まれる輸送システム50にとって特有であり、上述したように時間分解された蛍光測定によって決定される。測定装置1により、輸送基質80に対する輸送システム50の比速度定数が測定される。新しい医薬品を開発するため、作用物質候補(図示せず)が添加される。これらの作用物質候補は例えば輸送たんぱく質50に結合し、それにより膜40を介する輸送70の速度定数が変化する。速度定数の測定された変化により、治療上重要な可能性のある作用物質候補の作用が証明される。こうして測定装置1及び上述した測定方法により、新しい医薬品の開発を量的にも質的にも著しく改善することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 測定装置
2 蛍光顕微鏡
3 CCDカメラ
4 試料操作器
5 チップ用受入れ装置
6 データ処理装置
7 プロセス制御装置
8 培養部
9 バイオチップ
10 担体層
20 層
30 測定室
40 脂質膜
50 輸送たんぱく質
60 基質分子
70 輸送
80 輸送される基質分子
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜にある個々の輸送システム特にキャリヤプロテイン又はチャネルプロテイン又は分泌機構のような生体膜を通して物質を輸送する他のシステムの特性を光学的に測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体膜は、細胞を外側の媒体から隔離し、細胞の個々の細胞室を互いに隔離する。輸送プロテイン及びチャネルのような輸送システムは、これらの膜の物質通過を選択的に制御する。これらの輸送体及びチャネルの機能障害は、多数の蔓延した病気に対して責任がある。米国において2004年に最も多く販売された医薬品のうち、膜輸送体が最も頻繁に現れるグループであった。全体で100より多い輸送ターゲットが現在製薬会社において研究され、このことから、これらのターゲットがどれ位大きい経済的意味をもっているかがわかる。
【0003】
このような作用物質のために、輸送ターゲットによる特別な基質の輸送速度及び作用物質候補の影響のような特性を評価できる測定方法が必要である。この場合個々のターゲット分子を自動的に高い処理能力で特徴づけることができる方法が特に必要とされる。
【0004】
イオン及び帯電粒子の輸送速度の分析のため、電気測定を使用することができる。この方法は、バイオテクノロジー及び薬学の研究において高い処理能力で既に利用されている。しかしそれは帯電した輸送基質に限られ、従って一般にイオンチャネルのグループのために使用される。
【0005】
アミノ酸、ペプチド、糖化合物及び脂肪酸のように帯電しない分子や、RNA,DNA及びたんぱく質のような生物学的巨大分子を輸送するため、個々の輸送体(ナノFAST)の蛍光分析と称される蛍光分析方法が適している。この場合担体の測定室で構成される表面へ、輸送システムを含む脂質膜又は生体膜又は細胞が塗布される。輸送システムとして、例えばチャネル又はキャリヤとなり得る膜たんぱく質が問題になる。その場合輸送システムに、蛍光色素で標識づけされているか又は内因性の蛍光を与える基質が与えられるか、又は細胞により形成される光学測定は、例えば共焦点レーザ走査顕微鏡、広域蛍光顕微鏡又はTIRF(全反射蛍光)顕微鏡によって行うことができる。TIRF顕微鏡では、励起光は全反射角をなして入射されるので、蛍光色素はエバネッセント界の空間的拡張内で選択的に励起される。
【0006】
適当な機器が存在しないので、これらの測定は今まで実験室規模でしか行うことができない。しかし方法を工業的範囲例えばバイオテクノロジー研究及び医薬品開発においても使用する必要が大いにある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、輸送生体分子の特性を高い処理能力で測定できる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、膜にある輸送システム特にキャリヤプロテイン又はチャネルプロテインの特性の測定装置において、測定装置が光学測定装置、測定データを検出して処理するデータ処理装置、及びプロセス制御装置を持っていることによって解決される。プロセス制御装置によって顕微鏡の機能が制御され、測定が自動的に行われる。測定データのプロセス制御される検出後、その自動的評価が行われる。
【0009】
好ましい実施形態では、光学測定装置がTIRF顕微鏡である。TIRF測定により、それぞれの輸送システムにより膜を経て測定室へ輸送された蛍光色素が優先的に励起される。これに反し測定室外の蛍光色素は励起されない。これにより一層正確な測定が可能である。
【0010】
プロセス制御装置により制御可能な試料操作器が設けられていることによって、試料処理能力の一層の増大が可能である。この試料操作器は、複数の役割、とりわけ測定のためバイオチップの準備、試料及び基質と共にバイオチップの送り、及び測定装置への供給を引受ける。
【0011】
出願人により提出された特願2010−50−2410号は、試料担体として、複数の測定室を持つ実質的に透明な層として構成されるバイオチップを提案している。このようなバイオチップ又は類似なバイオチップを測定するため、本発明による装置が有利に構成されている。
【0012】
バイオチップの有利な実施形態では、その上側に、その下にある測定室の開口より小さい開口を持つ金層が設けられているので、測定室が金属により一部覆われる。このようなバイオチップの測定の際、光学測定装置がTIRF角に近いけれどもこれにはまで達しない光線案内部を持っていると有利である。ここでTIRFと称される全反射の臨界角は、スネルの屈折法則により、2つの光学媒質の屈折率の比のアークサインから計算される。水/ガラス、水/石英又は水/ポリカーボネイトに対して、それぞれ61.7°,64.7°又は56.2°のTIRF角が生じる。光線案内部の角は、TIRF角より小さく、従って例えば水/ガラスにおける61.7°の代わりに55°である。光線案内部の角が最大でもTIRF角の20%より小さいのがよい。それにより励起光は測定室の下側で全部反射されるのではなく、光の一部が担体及び測定室を直接透過し、他の一部は更に金属で反射されて、再び測定室を透過する。これにより蛍光色素の一層強い励起が行われる。励起光はTIRF角の近くで従って斜めに透明な担体へ入射されるので、金属の開口の範囲で角をなして開口へ入り、この角で開口を出ることはできない。これにより一層有利な信号/雑音比が生じて、その上にある物質は励起光で照らされない。
【0013】
装置は測定すべきバイオチップ用の培養部を持っている。これによりバイオチップ及びプロテオリポソームは、調節可能な時間の間特定の温度で貯蔵され、それにより測定室上に輸送システムを含む膜を形成することができる。
【0014】
装置に上述した特徴により、測定サイクルがプロセス制御されかつ自動化されて実施され、それぞれ1つの測定サイクルが実質的に、測定用バイオチップの準備、それに続く光学的測定、及びそれに続く測定データの評価を含んでいるようにすることができる。
【0015】
測定の準備のため、試料操作器がバイオチップにおいて次の段階を実施する。まずチップが緩衝溶液で平衡せしめられる。平衡によりバイオチップが所望の温度に加熱され、この温度で脂質膜の流動性が保証される。十分な膜流動性においてのみ、脂質が均質に膜に分布される。それからプロテオリポソームの添加が行われる。
【0016】
続いて緩衝液による洗浄によって、過剰な脂質が除去される。生体膜又は細胞の場合、添加及び培養は、その膜が測定室を閉鎖するのに十分である。
【0017】
続いて作用物質候補が添加される。作用物質候補は物質例えば有機分子であり、それが輸送に特定の作用を及ぼし、例えば輸送を阻止するものと思われる。続いて蛍光色素で標識付けされるか又は本質的に蛍光性の輸送基質が添加され、特別に輸送システムにより膜を通る。更にスペクトル的に分離可能で蛍光で標識付けされる監視基質が添加されるが、膜を通るか又は輸送システムによることはない。最後に顕微鏡の測定範囲へバイオチップの供給が行われる。
【0018】
バイオチップの準備後、バイオチップの測定室において基質の時間分解された蛍光測定がプロセス制御されて行われ、その際検出された測定データが処理される。測定はマルチスペクトルにより種々の波長で行うことができる。
【0019】
蛍光測定後データ処理装置によって、パターン認識により個々の測定室に対して時間分解された蛍光強度が求められる。こうして求められた測定データに、サブプログラムにより数学曲線が合わされる。数学曲線は、3つのカテゴリ、しかも蛍光信号を持つ密閉測定室、蛍光信号なしの密閉測定室及び開いた測定室への測定室の分類を可能にする。自動的な区別は、数学曲線のパラメータにより行われる。蛍光信号なしの密閉測定室及び開いた測定室の測定データは拒否される。拒否されない測定データ即ち蛍光信号を持つ密閉測定室に対して、輸送のための速度定数が計算される。
【0020】
それからデータ処理装置によりなるべくヒストグラムが形成され、計算されたすべての輸送のための速度定数が、その頻度に対して記入される。ヒストグラムから、輸送のためのそれぞれの速度定数に、測定室毎に輸送システムの適当な数が対応せしめられる。対応により、輸送のためのすべての速度定数を測定室毎の輸送システムに標準化することができる。輸送のためのヒストグラムの最大値は数学関数により決定されて、輸送システムとして特有な速度を高い精度で再現し、この速度で輸送システムが、測定された輸送基質を膜を経て輸送する。作用物質候補の存在下で、輸送のための速度定数が低下されるか又は上昇されていると、作用物質候補が輸送システムをそのつど制御するか又は加速しており、例えば可能性のある薬剤として問題になる。
【0021】
図面を参照して本発明が好ましい実施形態で説明され、その際それ以外の有利な詳細が図面の図からわかる。そこでは機能的に部分は同じ符号を付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】 測定装置1の概略図を示す。
【図2】 測定の重要な段階の流れ図を示す。
【図3】 時間に関係する蛍光の測定曲線を示す。
【図4】 輸送のための異なる速度定数を持つヒストグラムを示す。
【図5】 バイオチップ9の詳細な垂直断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は測定装置の概略図を示す。光学測定装置としてTIRF(全反射蛍光)顕微鏡2が用いられ、図2においてFMとも称される。しかし従来の蛍光顕微鏡も使用できる。TIRF顕微鏡2の作用はプロセス制御装置(Ps)7により自動的に制御される。顕微鏡2はマルチスペクトル測定用に調整されている。それにより輸送基質60(図5参照)及び監視基質(図示せず)を同時に並行して測定することが可能である。監視基質の測定により、上に張られる膜40(図5参照)を持つ測定室30(図5参照)が密閉されているか否かが確かめられる。
【0024】
試料40,50,60(図5参照)及びバイオチップ9(図5参照)の準備、調製及び供給も同様に自動的に行われる。このため機械的試料操作器(PM)4が設けられて、同様にプロセス制御装置7により制御される。試料操作器4はバイオチップ9(図5参照)用の受入れ装置5を持っている。試料40,50(図5参照)の調製及び準備後、バイオチップ9(図5参照)が、同様にプロセス制御装置7によって制御される培養部8において培養される。調節可能な時間後、試料操作器4がバイオチップ9(図5参照)を持つ受入れ装置5をTIRF顕微鏡2の光路へ運び、測定が開始される。蛍光画像はCCDカメラ3により撮影され、データ処理装置(DV)6に記憶され、自動的に評価される。
【0025】
図2は測定の重要な段階の流れ図を示す。全測定過程は自動的に推移し、プロセス制御装置7(図1参照)により制御される。プロセス制御装置7はまず、新しい測定サイクルを開始すべきか否かを問い合わせる。yesの場合、測定のためバイオチップ9(図5参照)が準備される。そのためバイオチップ9(図5参照)が、試料操作器4により貯蔵容器(図示せず)からそのために設けられた受入れ装置5へ導かれ、それからこの受入れ装置が装置1の調製範囲へもたらされる。適当なバイオチップ(図5参照)は、励起光又は蛍光に対して透明な少なくとも1つの層20(図5参照)から成っている。バイオチップは上方へ開いた測定室30(図5参照)を持っている。
【0026】
それからバイオチップ9(図5参照)は、試料操作器4により、固定的に設定されたpH値を持つ緩衝溶液と平衡せしめられる。更に試料操作器4は、前もって準備されたプロテオリポソームをバイオチップ9(図5参照)上へピペットで供給する。剛性プロテオリポソームは、輸送システムとしてキャリヤプロテイン又は穴形成チャネルプロテインを含んでいる。それからバイオチップ9(図5参照)は、調節可能な時間培養部8に貯蔵される。特定の温度で培養することによって、脂質がプロテオリポソーム中で流動性になり、バイオチップ9(図5参照)の個々の測定室30(図5参照)を密閉する膜層40(図5参照)を形成する。続いて緩衝液で洗浄すると、過剰な脂質小胞及び輸送システムが除去される。
【0027】
しかし自然の生体膜又は細胞も使用され、それにより輸送速度の測定のほかに、細胞からの分泌速度の測定も可能である。生体膜又は細胞に対して、生体膜により個々の測定室30(図5参照)を閉鎖するため、段階が添加及び続く培養及び洗浄段階に減少する。
【0028】
続いて試料操作器4が、蛍光色素で標識付けされた輸送基質60(図5参照)及び監視基質をバイオチップ9(図5参照)上へピペットで供給する。両方の基質を異なる波長範囲において並行して測定できるようにするため、それらがスペクトル的に分離可能な異なる蛍光色素で標識付けされる。一般に作用物質候補が更に添加される。これは例えば輸送システム50(図5参照)に結合する阻害剤であってもよい。
【0029】
準備段階後、試料操作器4がバイオチップ9(図5参照)を蛍光顕微鏡2の測定範囲へ導く。測定範囲において、バイオチップ9(図5参照)の1点で、基質色素がレーザで励起され、蛍光発光がCCDカメラ3で測定される。撮影された蛍光画像は時刻表示を設けられ、データ処理装置6に記憶される。こうして画像堆積が形成されて、蛍光の時間的変化についての情報を含んでいる。
【0030】
所定の時間における蛍光の変化が測定された後、パターン認識ルーチンにより画像が評価され、蛍光信号が個々の測定室30(図5参照)に対応せしめられる。それからデータ処理装置6が時刻表示及び画像堆積に記憶されている各測定室30(図5参照)の時間に関係する蛍光強度から、測定時間における蛍光推移を再現する測定データ点を計算する。
【0031】
それからデータ処理装置6が、各測定室に対する測定データ点を数学曲線に合わせる(図3参照)。
【0032】
理想的な場合、個々の測定室30(図5参照)が、ちょうど輸送システム50(図5参照)が存在する膜40(図5参照)により密閉されている。しかし測定室(図5参照)が密閉されず開いており、従って基質60(図5参照)も監視基質も測定室30(図5参照)へ侵入できる可能性もある。更に測定室30(図5参照)は密閉されているが、輸送システム50(図5参照)を含んでおらず、従って基質60も監視基質も測定室30へ侵入しない可能性がある。その場合3つの前記カテゴリへの測定室30の分類は、サブプログラムにより曲線推移に基いて行われる。開いた測定室又は蛍光信号なしの測定室の測定データは拒否される(典型的な測定曲線の推移は図3に示されている)。
【0033】
残っている測定曲線は、データ処理装置6により比速度定数を求めるため更に評価される。その際サブプログラムによりなるべくヒストグラムが作成され、輸送のためすべての計算された速度定数が、その頻度に対してヒストグラムに記入される(図4参照)。ヒストグラムから、輸送のための角速度定数に、測定室ごとに特定数の輸送システムが対応せしめられ、測定室毎の輸送システムに標準化される。輸送システムに対するヒストグラムの最大値から、この輸送システムに対して特有な速度定数が、所定の基質の輸送に対して得られる(図4参照)。
【0034】
それにより完全な測定サイクルが終了している。測定されるバイオチップは、試料操作器4により蛍光顕微鏡2の測定範囲から出され、場合によっては別のバイオチップが測定のために準備される。
【0035】
上述した装置は、典型的に薬剤開発の範囲で可能性のある作用物質の選抜のために使用することができる。作用物質候補の存在下で輸送のための速度定数が作用物質なしの場合より小さい(大きい)と、これは、作用物質候補が輸送システムを減速(加速)させ、例えば可能性のある医薬品として問題になることを意味している。このような場合装置1は、複数の測定サイクルにおいて作用物質を異なる濃度で自動的に測定して、結合定数及び別の特性を自動的に求めることができる。
【0036】
図3は、装置により測定された時間に関係する蛍光の典型的ただし好例の測定曲線を示す。異なる蛍光曲線A,B,C,D,Eの5つの形式が示され、これらの曲線はバイオチップの測定の際典型的に現れる。各測定曲線はバイオチップの担体上のそれぞれ1つの特定の測定室に対応している。
【0037】
曲線Aは、膜40(図5参照)により全く又は完全には覆われていない測定室30(図5参照)における蛍光の時間的推移を示す。従って測定室30は密閉されておらず、基質60(図5参照)もスペクトル的に分離可能な蛍光色素を持つ監視基質も、妨げられることなく非常に短い時間に測定室へ拡散することができる。従って監視基質の波長範囲にある蛍光は、非常に短い時間後に既にその最大強度に達している。
【0038】
曲線Bは、輸送システムを含まないか又は活性輸送システムを含まない測定室30における蛍光の模範的な時間的推移を示す。標識付けされた基質の測定された蛍光強度は非常に小さく、測定時間中に僅かな変化しか示さない。曲線A及びBは利用可能な測定データを含まず、従ってデータ処理装置6により自動的に拒否される。
【0039】
曲線Cは曲線Bに類似しているが、標識付けされた監視基質のスペクトル的に分離された波長範囲において測定される。標識付けされた監視基質の蛍光強度は非常に小さく、全測定時間中僅かな変化しか示さない。従って監視基質は測定室から排除され、それによりこの測定室は密閉されてない。
【0040】
曲線Dは、密閉されかつ活性輸送システムを含む測定室30内の基質の蛍光の時間的推移を示す。
【0041】
曲線Eは、曲線Dにおけるように密閉された測定室30内の基質の蛍光の時間的推移を示す。しかし蛍光の時間に関係する強度が曲線Dにおけるより速く増大することが認められる。これは、膜部分においてこの測定室30上に2つ又はそれ以上の輸送システムが存在することに因る。従って輸送70に対する比速度定数を計算するために輸送システム60の数を考慮せねばならない。これがどのように起こるかを図4が示す。
【0042】
図4は輸送に対して種々の速度定数を持つヒストグラムを示す。ここでは横座標に、輸送に対する速度定数kの測定されたすべての値が記入されている。縦座標には、輸送に対する測定されたすべての速度定数kの相対数即ちその頻度が記入されている。第1のピークIは、測定室において1つの輸送システムにより測定されたすべての速度定数を再現している。第2のピークIIは、測定室において2つの輸送システムにより測定されたすべての速度定数を再現し、第3のピークIIIは、測定室30(図5参照)において3つの輸送システム50(図5参照)により測定されたすべての速度定数を再現している。従ってヒストグラムから、輸送に対する各速度定数に、測定室30毎の輸送システム50の数を対応させることができる。
【0043】
ヒストグラムによりデータ処理装置6が、数学関数により、ピークの最大値に属する速度定数を求め、これら従ってすべての測定された速度定数を測定室毎の輸送システムに標準化することができる。こうして求められた輸送システム50の輸送に対するこれらの速度定数は、所望の実験条件下で輸送基質60に対するこの輸送システム50の比速度定数に、高い精度で一致している。
【0044】
図5は、測定装置1に使用できるようなバイオチップ9の詳細な垂直断面図を示す。バイオチップ9は、励起する蛍光に対して透明なガラスの層から成る担体10を持っている。担体10上に二酸化珪素から成る別の層20が設けられている。この層20は、上方へ開く測定室30として形成される凹所を持っている。凹所30は約200nmの内径を持ち、深さは約500nmである。
【0045】
測定のためバイオチップ9の表面に脂質膜40が塗布されるので、測定室30が閉鎖される。脂質膜40は、輸送たんぱく質50を含む脂質層である。脂質膜40へ、蛍光色素で標識付けされかつ蛍光法で検出可能な1つ又は複数の基質分子60が添加される。基質分子60は、輸送たんぱく質50により膜40を経て測定室30へ輸送される。測定の際励起光(図示せず)が、斜めに下からTIRF角で入射される。担体10から測定室30内の測定用液(図示せず)への移行部に、光の全反射の際エバネセント界が形成されて、測定室30内の基質分子80を励起するが、脂質膜40より上の基質分子60を励起しない。反射する上面(図示せず)を持つバイオチップでは、測定装置1の光線案内部の角はTIRF角より小さい。
【0046】
膜40に含まれる輸送たんぱく質50により基質分子80の測定室30内への時間に関係する輸送70は、含まれる輸送システム50にとって特有であり、上述したように時間分解された蛍光測定によって決定される。測定装置1により、輸送基質80に対する輸送システム50の比速度定数が測定される。新しい医薬品を開発するため、作用物質候補(図示せず)が添加される。これらの作用物質候補は例えば輸送たんぱく質50に結合し、それにより膜40を介する輸送70の速度定数が変化する。速度定数の測定された変化により、治療上重要な可能性のある作用物質候補の作用が証明される。こうして測定装置1及び上述した測定方法により、新しい医薬品の開発を量的にも質的にも著しく改善することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 測定装置
2 蛍光顕微鏡
3 CCDカメラ
4 試料操作器
5 チップ用受入れ装置
6 データ処理装置
7 プロセス制御装置
8 培養部
9 バイオチップ
10 担体層
20 層
30 測定室
40 脂質膜
50 輸送たんぱく質
60 基質分子
70 輸送
80 輸送される基質分子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜にある輸送システム特にキャリヤプロテイン又はチャネルプロテインの特性の測定装置において、測定装置(1)が光学測定装置(2)、測定データを検出して処理するデータ処理装置(6)、及びプロセス制御装置(7)を持っていることを特徴とする、装置(1)。
【請求項2】
光学測定装置(2)がTIRF顕微鏡であることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
装置(1)のために、プロセス制御装置(7)により制御可能な試料操作器(4)が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項4】
複数の測定室(30)を有する透明な層(20)を持つバイオチップ(9)を測定する装置(1)が設けられていることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項5】
光学測定装置(2)が光線案内部を持ち、この光線案内部の角がTIRF角より小さく、最大でもTIRF角の20%より小さいことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項6】
装置(1)が、測定すべきバイオチップ(9)のためプロセス制御装置(7)により制御可能な培養部(8)を持っていることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項7】
測定サイクルがプロセス制御されかつ自動化されて実施されるように装置(1)が構成され、それぞれ1つの測定サイクルが実質的に、測定用バイオチップ(9)の準備、それに続く光学的測定、及びそれに続く測定データの評価を含んでいることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項8】
試料操作器(4)がバイオチップ(9)において次の段階を実施するように構成されている
a)緩衝液による平衡
b)プロテオリポソーム又は生物膜又は細胞の添加
c)緩衝溶液による洗浄
d)基質及び/又は作用物質候補の添加
e)測定範囲への供給
ことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項9】
バイオチップ(9)の準備後、バイオチップ(9)の測定室(30)の時間分解された蛍光測定を行い、測定データを検出して処理するように、装置(1)が構成されていることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項10】
データ処理装置(6)が、蛍光測定後次の段階を実施するように構成されている
a)パターン認識により個々の測定室(30)のため時間分解された蛍光強度を求め、
b)数学曲線を時間分解された蛍光強度に合わせ、
c)数学曲線に基いて測定室(30)を次の3つのカテゴリ、i)蛍光信号を持つ密閉測 定室、ii)蛍光信号なしの密閉測定室、iii)開いた測定室に分類し、
d)蛍光信号なしの密閉測定室及び開いた測定室の測定データを拒否しかつ
e)蛍光測定信号を持つ各密閉測定室に対して、輸送の速度のためのパラメータ、なるべ く輸送のための速度定数を計算する
ことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項11】
データ処理装置(6)が次の段階を実施するように構成されている
a)輸送のためすべての計算された速度定数をその頻度に対してヒストグラムに記入し、
b)測定室(30)当たり輸送システムの適当な数をそれぞれの速度定数に対応させ、
c)測定室(30)当たり輸送システム(50)のために使用される輸送基質(60)の 比速度定数を求める
ことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項12】
膜(40)にある輸送システム(50)特にキャリヤプロテイン又はチャネルプロテイン及び分泌機構の特性の光学測定方法であって、次の段階を含む
a)パターン認識によりバイオチップ(9)の個々の測定室(30)のため時間分解され た蛍光強度を求め、
b)数学曲線を時間分解された蛍光強度に合わせ、
c)数学曲線に基いて測定室(30)を次の3つのカテゴリ、i)蛍光信号を持つ密閉測 定室、ii)蛍光信号なしの密閉測定室、iii)開いた測定室に分類する
方法。
【請求項13】
次の段階を含む
d)蛍光信号なしの密閉測定室及び開いた測定室の測定データを拒否しかつ
e)蛍光測定信号を持つ各密閉測定室に対して、輸送の速度のためのパラメータ、なるべ く輸送のための速度定数を計算する
ことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
次の段階を含む
f)輸送のためすべての計算された速度定数をその頻度に対してヒストグラムに記入し、
g)測定室(30)当たり輸送システムの適当な数をそれぞれの速度定数に対応させ、
h)測定室(30)当たり輸送システム(50)のために使用される輸送基質(60)の 比速度定数を求める
ことを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項1】
膜にある輸送システム特にキャリヤプロテイン又はチャネルプロテインの特性の測定装置において、測定装置(1)が光学測定装置(2)、測定データを検出して処理するデータ処理装置(6)、及びプロセス制御装置(7)を持っていることを特徴とする、装置(1)。
【請求項2】
光学測定装置(2)がTIRF顕微鏡であることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
装置(1)のために、プロセス制御装置(7)により制御可能な試料操作器(4)が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項4】
複数の測定室(30)を有する透明な層(20)を持つバイオチップ(9)を測定する装置(1)が設けられていることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項5】
光学測定装置(2)が光線案内部を持ち、この光線案内部の角がTIRF角より小さく、最大でもTIRF角の20%より小さいことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項6】
装置(1)が、測定すべきバイオチップ(9)のためプロセス制御装置(7)により制御可能な培養部(8)を持っていることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項7】
測定サイクルがプロセス制御されかつ自動化されて実施されるように装置(1)が構成され、それぞれ1つの測定サイクルが実質的に、測定用バイオチップ(9)の準備、それに続く光学的測定、及びそれに続く測定データの評価を含んでいることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項8】
試料操作器(4)がバイオチップ(9)において次の段階を実施するように構成されている
a)緩衝液による平衡
b)プロテオリポソーム又は生物膜又は細胞の添加
c)緩衝溶液による洗浄
d)基質及び/又は作用物質候補の添加
e)測定範囲への供給
ことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項9】
バイオチップ(9)の準備後、バイオチップ(9)の測定室(30)の時間分解された蛍光測定を行い、測定データを検出して処理するように、装置(1)が構成されていることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項10】
データ処理装置(6)が、蛍光測定後次の段階を実施するように構成されている
a)パターン認識により個々の測定室(30)のため時間分解された蛍光強度を求め、
b)数学曲線を時間分解された蛍光強度に合わせ、
c)数学曲線に基いて測定室(30)を次の3つのカテゴリ、i)蛍光信号を持つ密閉測 定室、ii)蛍光信号なしの密閉測定室、iii)開いた測定室に分類し、
d)蛍光信号なしの密閉測定室及び開いた測定室の測定データを拒否しかつ
e)蛍光測定信号を持つ各密閉測定室に対して、輸送の速度のためのパラメータ、なるべ く輸送のための速度定数を計算する
ことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項11】
データ処理装置(6)が次の段階を実施するように構成されている
a)輸送のためすべての計算された速度定数をその頻度に対してヒストグラムに記入し、
b)測定室(30)当たり輸送システムの適当な数をそれぞれの速度定数に対応させ、
c)測定室(30)当たり輸送システム(50)のために使用される輸送基質(60)の 比速度定数を求める
ことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の装置(1)。
【請求項12】
膜(40)にある輸送システム(50)特にキャリヤプロテイン又はチャネルプロテイン及び分泌機構の特性の光学測定方法であって、次の段階を含む
a)パターン認識によりバイオチップ(9)の個々の測定室(30)のため時間分解され た蛍光強度を求め、
b)数学曲線を時間分解された蛍光強度に合わせ、
c)数学曲線に基いて測定室(30)を次の3つのカテゴリ、i)蛍光信号を持つ密閉測 定室、ii)蛍光信号なしの密閉測定室、iii)開いた測定室に分類する
方法。
【請求項13】
次の段階を含む
d)蛍光信号なしの密閉測定室及び開いた測定室の測定データを拒否しかつ
e)蛍光測定信号を持つ各密閉測定室に対して、輸送の速度のためのパラメータ、なるべ く輸送のための速度定数を計算する
ことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
次の段階を含む
f)輸送のためすべての計算された速度定数をその頻度に対してヒストグラムに記入し、
g)測定室(30)当たり輸送システムの適当な数をそれぞれの速度定数に対応させ、
h)測定室(30)当たり輸送システム(50)のために使用される輸送基質(60)の 比速度定数を求める
ことを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公表番号】特表2011−519017(P2011−519017A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538323(P2010−538323)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【国際出願番号】PCT/DE2008/002010
【国際公開番号】WO2009/071065
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(509283432)シネンテツク・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【国際出願番号】PCT/DE2008/002010
【国際公開番号】WO2009/071065
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(509283432)シネンテツク・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (2)
【Fターム(参考)】
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