説明

輻射熱センサーと輻射熱の測定方法

【課題】本発明は、極めて簡単な構成にも関わらず、高精度な輻射熱センサーが実現できるので、極めて有用である。
【解決手段】(1)輻射熱の受光面温度が測定環境の温度と等しく保たれるように受光面から排熱しながら測定を行うので受光面から入射側周囲への熱流出が起こらず、精確な測定ができること。(2)熱流値の測定に熱電素子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射熱センサーと輻射熱測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある物体からどれだけの光放射や輻射エネルギーが放出されているか、あるいはある場所にどれだけの光放射や輻射エネルギーが到達しているかを正確に知る事は、熱・エネルギー管理上重要である。その事によってエネルギーの無駄な流出を防ぐ対策を立てることができ、また過剰なエネルギーの集積によって高温になる危険性を予知する事ができる。また現在広く使用されている赤外線放射温度計の較正にも使用できる。
【0003】
そこで、従来より、サーミスタや熱伝対を用いた輻射熱センサーが提案されている。
例えば、前面を開口させた逆おわん状の凹面鏡と、この凹面鏡の焦点付近に設けたサーミスタを設け、上記凹面鏡によって外部からの輻射熱を、該サーミスタに集める輻射熱センサーが開示されている。(特許文献1)
また、輻射熱受熱物体を、ガラスおよび密閉栓で作った真空密閉室の中に支持ピンで固定し、熱電対測温部を、輻射熱受熱物体に接合し、熱電対導線を密閉栓を通して真空密閉室の外へ導き、輻射熱受熱物体には輻射加熱による入熱のみとして、輻射熱受熱物体に接合した熱電対の測温部により輻射伝熱量のみを測定する輻射熱センサーが開示されている。(特許文献2)
あるいは、特性の等しい2個の感熱素子と2個の抵抗でブリッジ回路を組み、切替え手段を設けて、該2個の感熱素子を輻射熱の検出素子か雰囲気温度の補償素子に切り替え、切り替えたときの2個の感熱素子と2個の抵抗のそれぞれの中点の電位差を差動増幅器で増幅してその出力電圧を、それぞれ記憶回路部に記憶し、その差を演算回路で演算して検出値とすることにより、感度が2倍でかつ周囲温度の変動による検出値の変動が極めて小さくなり測定精度が向上させた輻射熱センサーが開示されている。(特許文献3)
【0004】
【特許文献1】特開平5−079676号公報
【特許文献2】特開平7−128149号公報
【特許文献3】特開平9−005169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の輻射熱センサーでは、以下のような課題があり、正確な輻射熱の測定には不十分であった。
特許文献1は、輻射熱流測定法・装置は輻射熱によって受光面温度が上昇する現象を用い、その上昇温度より入射エネルギー量を算出するものである。この方法では受光面温度の上昇によって高温の受光面から入射側周囲への熱流出が起こり、正確な入射エネルギー量を測定することが難しい。
【0006】
このため、特許文献2は、受光面温度の上昇の影響を防ぐため、少なくとも輻射熱受熱面に黒色メッキや黒色塗料等輻射熱を吸収しやすい皮膜を施した物体を、少なくとも一部分を、ガラス等輻射熱を透過する材料で作った真空又は減圧した密閉容器内に固定することにより輻射加熱のみを吸収する構造とし、外部から赤外線放射温度計等でこの物体の温度上昇を計測することを特徴とする。しかしながら、輻射熱を吸収しやすい皮膜を施した物体を、真空又は減圧した密閉容器内に固定するため、製造することが難しい。また、この方法では検出器周辺の空気等による熱伝導や対流による熱流出はなくせるが、輻射による熱放出は減らすことができない。
【0007】
特許文献3は、サーミスタボロメータタイプの輻射熱センサーである。2つのセンサーを切り替えるための切替え手段、例えば、回転する反射鏡の角度を変えて輻射熱をどちらか一方の感熱素子に交互に切り替え、または、感熱素子を薄膜状に形成して断熱シートを挟んで貼り合わせモータで回転して、どちらか一方の感熱素子が輻射熱を検知するようにモータの回転角度を制御して交互に切り替える装置が必要になる。ここでも昇温部からの熱リークをなくすことはできない。また、サーミスタの経年劣化により、更正が必要になる。そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、極めて簡単な構成で、高精度な輻射熱センサーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、先に「熱電素子の特性評価法」などを特許出願し、熱電素子を熱流センサーとして用いた高感度・高信頼度の熱測定法・装置を開発し、使用している。また「組立式机上実験システム」に関する特許出願し、机上スペースで使用可能な小型の実験装置開発を継続している。この組立式机上実験システムで、輻射熱エネルギーの実験に使用される輻射熱センサーを、鋭意、開発した。
【0009】
そこで、上記課題を解決するために、輻射熱の受光面温度が測定環境の温度と等しく保たれるように受光面から排熱しながら、該排熱量の測定を行えば、受光面から入射側周囲への熱流出が起こらず、精確な測定ができること。また、熱流値の測定に熱電素子を用いれば、構造がシンプルであることに着目した。そこで、本発明を以下のように構成する。
【0010】
請求項1の発明は、熱電素子対(2)を基板(3A、B)で挟んだ熱電素子(1)と、該基板(3A)の一方に配設された排熱部(4)と、該基板(3A)と該排熱部(4)の接合部に配設した温度センサー(5)と、他方の基板(3B)に配設した温度センサー(6)を有することを特徴とする輻射熱センサーである。
【0011】
請求項2の発明は、上記基板(3A)と排熱部(4)の接合部に配設した温度センサー(5)が、周辺温度と一致するように制御する温度制御部を有することを特徴とする請求項1記載の輻射熱センサーである。
【0012】
請求項3の発明は、上記他方の基板(3A)の温度センサー(5)により検出した温度と周辺温度が同じになるように、熱電素子(1)に電流を供給する電流供給部を有することを特徴とする請求項1または2記載の輻射熱センサーである。
【0013】
請求項4の発明は、熱電素子(1)の端子間電圧を測定する電圧測定部を有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の輻射熱センサーである。
【0014】
請求項5の発明は、上記基板(3B)の表面は黒体であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の輻射熱センサーである。
【0015】
請求項6の発明は、上記熱電素子(1)は、複数の熱電素子対(2)を組み合わせたサーモモジュールであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項に記載の輻射熱センサーである。
【0016】
請求項7の発明は、外部からの輻射熱を受光面に集め、受光面温度が測定環境の温度と等しく保たれるように受光面から排熱して、該排熱量を測定し、該排熱量を受光輻射熱量とすることを特徴とする輻射熱の測定方法である。
請求項8の発明は、外部からの輻射熱を、受光面を有する熱電素子に集め、該輻射熱の受光面温度が測定環境の温度と等しく保たれるように該熱電素子の受光面から排熱し、該熱電素子の端子間電位差を測定し、該測定値により、排熱量を決定することを特徴とする請求項7記載の輻射熱の測定方法である。
【0017】
請求項8の発明は、外部からの輻射熱を、受光面を有する熱電素子に集め、該輻射熱の受光面温度が測定環境の温度と等しく保たれるように該熱電素子の受光面から排熱し、該熱電素子の端子間電位差を測定し、該測定値により、排熱量を決定することを特徴とする請求項7記載の輻射熱の測定方法である。
【発明の効果】
【0018】
上記のように構成した本発明は、輻射熱の受光面温度が測定環境の温度と等しく保たれるように受光面から排熱しながら測定を行うので、光面温度の上昇によって高温の受光面から入射側周囲への熱流出が起らず、正確な入射エネルギー量を測定することができる。
【0019】
また、熱流値の測定に熱電素子を用いているので構造が比較的シンプルである。真空又は減圧した密閉容器内に固定する必要がないため製造が容易であり、小型化も可能である。従って, 机上スペースで、組み立て使用可能な小型の実験装置のモジュールとして、実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、この発明の実施形態(以下本発明という)を、図面により説明する。なお、本発明の技術的範囲は、実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
(基本構造)
熱電素子(サーモモジュール、TM)1を熱流センサーとして使用する。TMの配置を図1aに示す。TM1は、多数の熱電素子対(TE)2を、二つの絶縁基板(A,B)3ではさんだ構造になっている。片方の基板3Aを、排熱部(HS)4に取付け、その接合部に温度センサー(TS1)5を取付ける。排熱部は、スタックフィン、空冷ファン、ペルチェモジュール、ヒートパイプ、水冷ヒートシンク等の様々な放熱部品を用いることができる。
(温度制御)
【0022】
上記のように構成した本発明において、TS1での温度が、周辺温度Trと一致するように、制御する。TMの他方の基板3Bを、輻射熱の受光部とし、該基板3Bの受光表面に、温度センサー(TS2)6を取付ける。受光表面に一定の輻射熱JRを入射させるとTS2の温度は上昇し、やがて定常値Tsに達する。
(TN内部の熱流)
【0023】
TM1に、電流Iを流しペルティエ熱輸送を起こすと、Tsの値は変化する。例えば、スイッチング電源により、この電流の向きと大きさを適当な値に調節すると、Ts=Trとすることができる。このときの電流をI0とする。このとき、TM1内部の温度分布は図1bのようになっていて、TE2上下の接点間には温度差△Tができている。
【0024】
また、TM1内部の熱流は図1a中の矢印のようになっている。ここでJRは入射する輻射熱流、Jrは受光表面での反射熱流、JNBは基板3B中の伝導熱流、JNEはTE2中の伝導熱流、JPはペルティエ輸送熱、JNAは基板A中の伝導熱流、JNHSは、HS4中の伝導熱流である。TM中を流れる熱流JNは、以下のようになる。
【数1】

(輻射熱の測定)
【0025】
そこで、図2に示すブロック図の回路構成で、通電中のTM7の端子間電位差Vmを測定すれば、JNの値は次式で求まる(本発明者らによる参考文献1を参照)。なお、図中で、7は、TM)(サーモモジュール)、8は排熱部を示す。
【数2】

ここでnは熱電素子の対数、Πはペルティエ係数、ηはゼーベック係数、ZはTEの熱抵抗、RはTEの電気抵抗である。Π、η、Z、Rの値は、本発明者らによる参考文献2で述べた方法で測定することができる。図3に、上記測定ステップの一例を示す。これらを、パーソナルコンピュータにより制御して、測定結果を表示する。
(高精度化)
【0026】
なお、受光表面での反射熱流Jrは、受光表面の状態に依存する。少なくとも、基板3B面
を黒体にすることで、これを減らす事ができる。
(本発明者らによる参考文献)
【0027】
1) K.Tozaki, Y.Kido, Y.Koga and K.Nishikawa; Novel
Method of Measuring Heat Capacity of Supercritical Fluid Using Peltier
Elements, Jpn. J. Appl. Phys., 45 (2006) 269-273
2) K.Tozaki and K. Sou; Novel Determination of
Peltier Coefficient, Seebeck Coefficient and Thermal Resistance of
Thermoelectric Module, Jpn. J. Appl. Phys.45 (2006) 5272-5273
【産業上の利用可能性】
【0028】
上記のように、本発明は、極めて簡単な構成にも関わらず、極めて簡単な構成で、高精度な輻射熱センサーが実現できるので、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の輻射熱センサーの構成と内部の熱の流れ(a)、TM内部の温度分布(b)。
【図2】本発明の測定系のブロック図。
【図3】本発明の測定工程
【符号の説明】
【0030】
1…熱電素子(サーモモジュール、TM)
2…熱電素子対(TE)
3…基板(A、B)
4…排熱部
5…温度センサー(TS1)5
6…温度センサー(TS2 )6
7…熱電素子(サーモモジュール、TM)
8…排熱部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電素子対(2)を基板(3A、B)で挟んだ熱電素子(1)と、
該基板(3A)の一方に配設された排熱部(4)と、
該基板(3A)と該排熱部(4)の接合部に配設した温度センサー(5)と、
他方の基板(3B)に配設した温度センサー(6)とを有することを特徴とする輻射熱センサー。
【請求項2】
上記基板(3A)と排熱部(4)の接合部に配設した温度センサー(5)が、周辺温度と一致するように制御する温度制御部を有することを特徴とする請求項1記載の輻射熱センサー。
【請求項3】
上記他方の基板(3A)の温度センサー(5)により検出した温度と周辺温度が同じになるように、熱電素子(1)に電流を供給する電流供給部を有することを特徴とする請求項1または2記載の輻射熱センサー。
【請求項4】
熱電素子(1)の端子間電圧を測定する電圧測定部を有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の輻射熱センサー。
【請求項5】
上記基板(3)の表面は黒体であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の輻射熱センサー。
【請求項6】
上記熱電素子(1)は、複数の熱電素子対(2)を組み合わせたサーモモジュールであることを特徴とする請求項1から5いずれか1項に記載の輻射熱センサー。
【請求項7】
外部からの輻射熱を受光面に集め、受光面温度が測定環境の温度と等しく保たれるように受光面から排熱して、該排熱量を測定し、該排熱量を受光輻射熱量とすることを特徴とする輻射熱の測定方法。
【請求項8】
外部からの輻射熱を、受光面を有する熱電素子に集め、該輻射熱の受光面温度が測定環境の温度と等しく保たれるように該熱電素子の受光面から排熱し、該熱電素子の端子間電位差を測定し、該測定値により、排熱量を決定することを特徴とする請求項7記載の輻射熱の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−26179(P2008−26179A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199741(P2006−199741)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】