説明

農作業機及び不耕起播種方法

【課題】湿潤な圃場における播種作業を行うに際して、良好な作業性と作物の安定した生産性を得ることができる不耕起播種用の農作業機を提供する。
【解決手段】走行機体の進行方向後方に装着され、圃場面を進行しながら播種作業を行う農作業機1であって、走行機体の進行方向に沿って圃場面に排水溝を形成する排水溝形成爪3と、排水溝形成爪3の背後に設けられ圃場面に形成された排水溝を埋め戻す埋め戻し爪4と、埋め戻し爪4の後方で埋め戻された排水溝上に播種を行う播種機部5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場面に播種作業を行う農作業機及び不耕起播種方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二毛作によって限られた作付面積の圃場を有効利用して食糧生産性の向上を図ることが、我が国の食糧自給率を高めるためには重要である。二毛作の場合には前作物の収穫から次作物の播種までの間に時間的な余裕がない場合があり、これに対応するためにロータリ耕耘作業と施肥播種作業を同時に行う作業機等が用いられることがある。また、水田輪換畑では地域によって水稲収穫後の圃場が湿潤で作物の播種前にロータリ耕耘作業を行うことができない場合がある。これに対しては、いわゆるチゼルプラウシーダ或いはサブソイラシーダと呼ばれる簡易耕同時施肥播種機による作業が検討されている。
【0003】
前述した簡易耕同時施肥播種作業を行う作業機として、下記特許文献1に記載のものが提案されている。この従来技術は、所定幅に亘って圃場に施肥する施肥機構と、所定幅に亘って圃場に播種する播種機構とを前後に備え、施肥機構と播種機構のぞれぞれの下方前側に多数のチゼル爪を配設し、これらのチゼル爪の後方に播種機構から繰り出される種を分散して圃場に散播する播種分散板を設け、この播種分散板の後方にチゼル爪により掘り起こされた土壌表面を砕土するともに、種と土壌を混和して覆土する砕土・覆土ローラを設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−286003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に大豆作は、湿潤な水田輪換畑での栽培が大半を占めており、更に日本の多くの地域では大豆作の播種時期が梅雨と重なる。このため大豆作では、播種作業が遅延したり播種後の湿害によって出芽不良となったりして、雑草繁茂や減収を引き起こしやすく、これらが大豆生産安定化のための大きな課題になっている。この課題を解決するためには、湿潤な圃場においても効率的な播種作業が可能であり、且つ播種後の湿害を防ぐために圃場の排水性を改善する作業が必要になる。これは、大豆作に限らず、湿潤な圃場への播種作業を行う作物、特に水田輪換畑で作付けを行う麦,ソバ,ナタネなどの作物に共通な要求である。
【0006】
これに対して、前述した従来の作業機では、チゼル爪で形成された条溝の底に播かれた種に覆土を行い、その後土壌表面を砕土するので、チゼル爪で形成される溝の深さをある程度浅くせざるを得ない。これによって、チゼル爪で形成される溝を排水用の溝として有効に活用することができない問題がある。また、排水性を確保するためにチゼル爪で形成される溝を深くすると、チゼル溝の底に播かれた種が湿害を受けやすくなり、発芽不良などで安定した生産性を確保できない問題が生じる。
【0007】
また、播種後の掘り起こされた土壌表面を砕土するとともに、種と土壌を混和して覆土する砕土・覆土ローラを設けているので、湿潤程度が高い圃場では、砕土・覆土ローラに土壌が付着して作業性が悪化しやすく、効率的な播種作業を行うことができない問題がある。
【0008】
また、二毛作における前作の収穫残渣が多く散在する圃場面への播種を行う場合には、残渣を掻き分けて圃場面に精度良く播種を行う必要があるが、従来のチゼル爪では、チゼル爪が残渣に絡んで牽引抵抗の増大を招くだけでなく、溝内に残渣が引き込まれることで播種深さが不安定になり、精度の高い播種作業を行うことができない問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、湿潤な圃場における播種作業を行うに際して、良好な作業性と作物の安定した生産性を得ることができる不耕起播種用の農作業機を提供すること、より具体的には、良好な排水性を得るための深い排水溝を形成すると同時に、播かれた種が湿害を受けることがない播種床の形成を可能にすること、湿潤程度が高い圃場であっても効率的な播種作業を行うことができること、前作の収穫残渣が圃場面に多く散在する場合にも精度の高い播種作業を行うことができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0011】
走行機体の進行方向後方に装着され、圃場面を進行しながら播種作業を行う農作業機であって、前記走行機体の進行方向に沿って圃場面に排水溝を形成する排水溝形成爪と、該排水溝形成爪の背後に設けられ圃場面に形成された排水溝を埋め戻す埋め戻し爪と、前記埋め戻し爪の後方で埋め戻された前記排水溝上に播種を行う播種機部を備える。
【0012】
走行機体の進行に沿って不耕起圃場に播種作業を行う不耕起播種方法であって、前記走行機体の進行に沿って排水溝を形成する排水溝形成作業と、前記排水溝を埋め戻す排水溝埋め戻し作業と、埋め戻された前記排水溝上に播種を行う播種作業とを有し、前記排水溝形成作業、前記排水溝埋め戻し作業、前記播種作業を前記走行機体の進行に伴って同行程で行う。
【発明の効果】
【0013】
前述した特徴を有する農作業機或いはこの農作業機によって行われる不耕起播種方法によると、排水溝形成爪によって形成される排水溝を比較的深い溝にして、形成した排水溝を同行程で埋め戻し、埋め戻された排水溝上に同行程で播種機部による播種作業を行う。これによって比較的深い排水溝で有効な圃場排水性を確保しながら、埋め戻された排水溝上の比較的浅い位置に播種を行って種の湿害を回避する。排水溝形成爪によって形成された排水溝は、その側面を切り崩す埋め戻し爪によって埋め戻されても排水性能を維持することができ、埋め戻された排水溝上は播種床としても良好な状態になる。
【0014】
このような特徴を有する本発明によると、良好な排水性を得るための深い排水溝を形成すると同時に、播かれた種が湿害を受けることがない播種床の形成が可能になり、湿潤程度が高い圃場であっても効率的な播種作業を行うことができ、且つ安定した生産性を確保することができる。また、基本構成では耕耘や整地を省くことができるので、湿潤な圃場であっても良好な作業性で播種作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る農作業機の全体構成を示した説明図(側面図)である。
【図2】本発明の一実施形態に係る農作業機の全体構成を示した説明図(平面図)である。
【図3】本発明の実施形態に係る農作業機を用いた不耕起播種方法を示した説明図である。
【図4】本発明の実施形態における埋め戻し爪の形態例を示した説明図である。
【図5】本発明の実施形態における埋め戻し爪の形態例を示した説明図である。
【図6】本発明の実施形態における排水溝形成爪の形態例を示した説明図である。
【図7】本発明の実施形態における排水溝形成爪の形態例を示した説明図である。
【図8】本発明の実施形態における排水溝形成爪の変形例を示した説明図である。
【図9】本発明の実施形態に係る農作業機の播種機部の配置の変形例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1及び図2は本発明の一実施形態に係る農作業機の全体構成を示した説明図である。図1が側面図であり、図2が平面図である。農作業機1は、図示省略の走行機体(例えばトラクタ)の進行方向後方に装着され、圃場を進行しながら播種作業を行うものである。以下の説明では、農作業機1は、トラクタ直装式の作業機を例に説明するが、これに限らず走行機体と一体に構成される自走式の作業機であってもよい。
【0017】
農作業機1は、トラクタの三点リンクヒッチに装着される装着部2Aを備える機体(フレーム)2を備えており、この機体2に構成要素が配備されている。農作業機1は、排水溝形成爪3、埋め戻し爪4、播種機部5を主要部として備える。また、農作業機1は、施肥部6と整地器7を付属的な構成要素として備えることができる。特に、整地器7を設けた場合には、播種作業の精度を向上させることができる。しかしながら、湿潤度合いの高い圃場の場合は、寧ろ整地器7を省くことで土の付着などが抑えられ播種作業の精度作業を高めることができる。以下、各部の構成を詳細に説明する。
【0018】
排水溝形成爪3は、トラクタ(走行機体)の進行方向に沿って圃場面に排水溝を形成する部位である。図示の例では、機体2に5つの爪取付部3Aが設けられ、この爪取付部3Aに高さ調整自在に排水溝形成爪3を取り付けられるようになっている。この例では、トラクタの一行程で5条の排水溝を形成することができ、5個の排水溝形成爪3が、機体2の前段に2列、機体2の後段に3列、千鳥状に配列されている。何列の排水溝形成爪3を配備するかは、圃場の面積やトラクタの牽引能力を考慮して適宜設計可能であり、播種条数に対応させて設定することができる。また、播種条の条間の設定に合わせて排水溝形成爪3の間隔を任意に調整可能にすることができる。
【0019】
排水溝形成爪3によって形成される排水溝は、後述する埋め戻しを簡易に行うことを考慮すると溝幅が狭い方が好ましい。したがって、圃場の排水効果が十分に得られる範囲で、できる限り排水溝形成爪3の厚さ(進行方向に垂直な方向の厚さ)を小さく設定することが好ましい。一例として、排水溝形成爪3の厚さは10〜15mm(好ましくは12mm程度)にしている。また、排水溝形成爪3によって圃場に形成される排水溝の深さは13〜30cm程度が好ましく、これに応じて排水溝形成爪3の長さが設定される。
【0020】
埋め戻し爪4は、排水溝形成爪3の背後に設けられ圃場面に形成された排水溝を埋め戻す機能を有する。埋め戻し爪4による排水溝の埋め戻しは、形成された排水溝による排水効果を低下させることなく、排水溝内の播種床を比較的浅めに形成するために行われる。
【0021】
より具体的には、埋め戻し爪4は、排水溝形成爪3によって形成された排水溝の側面を崩す爪先部4Aを有している。埋め戻し爪4の具体的な形態例は後述するが、爪先部4Aを排水溝形成爪3の爪幅(排水溝の幅)に対して幅広に形成するか、排水溝形成爪3に対して側方に若干シフトした位置に爪先部4Aが配置されるようにすることで、排水溝の側面を効果的に崩すことが可能になる。
【0022】
図示の例では、排水溝形成爪3自体の後方側に取付部40を設けて、そこに埋め戻し爪4を取り付けているが、これに限らず、機体2に埋め戻し爪4を取り付けるための取付部を設けてもよい。また、埋め戻し爪4は排水溝形成爪3に対して高さ調整自在に取り付けられることが好ましい。これによると、湿潤状態などの圃場状態に応じて埋め戻し爪4の高さを調整し、排水溝内を播種床に適する埋め戻し状態にすることが可能になる。
【0023】
播種機部5は、埋め戻し爪4の後方で埋め戻された排水溝上に播種を行うものである。播種機部5は、排水溝形成爪3の各配列に応じて個別の播種機構を備える。播種機構としては、周知の播種機構(ロール式、目皿式など)を採用することができる。図示の例では、播種機部5は、埋め戻された排水溝上に播種溝を形成する作溝器5Aと、播種溝内に播種する播種装置5Bと、播種後の播種溝を覆土する覆土器5Cと、覆土された播種溝上を鎮圧する鎮圧輪5Dを備える。この例では、ホッパ5Eに種が収められ、ホッパ5Eから播種装置5Bの播種機構に供給された種は作溝器5Aと覆土器5Cの間に落下する。
【0024】
施肥部6は、排水溝形成爪3によって形成された排水溝内に施肥を行うものである。図示の例では、施肥部6は肥料ホッパ6Aと肥料供給部6Bと肥料供給ホース6Cを備えており、排水溝形成爪3によって排水溝が形成された直後に(埋め戻し爪4で埋め戻される前に)排水溝内に肥料を落下させる。
【0025】
整地器7は、埋め戻し爪4の後方且つ播種機部5の前方位置に設置され、排水溝上とその周囲を整地するものである。整地器7としてはクランブルローラや整地板など非駆動式のものを採用することができる。不耕起圃場での作業を前提とする場合には、播種機部5の前段に整地器7を設けることで播種機部5の播種精度を向上させることができる。
【0026】
図3は、本発明の実施形態に係る農作業機を用いた不耕起播種方法を示した説明図である。同図(a)は、第1の作業工程である、走行機体の進行に沿って排水溝Vを形成する排水溝形成作業を示している。この工程では、不耕起圃場に排水溝形成爪3による排水溝Vが形成される。農作業機1が施肥部6を備える場合には、排水溝Vの底に肥料Fが播かれる。排水溝は、幅tが10〜15mm、好ましくは12mm程度に形成され、深さhは13〜30cm程度に形成される。排水溝の幅tは前述したように後の埋め戻しを考慮すると狭い方が好ましい。また排水溝の深さhは圃場の湿潤状態に応じて有効な排水効果が得られるように設定される。
【0027】
同図(b)は、第2の作業工程である、排水溝Vを埋め戻す排水溝埋め戻し作業を示している。この工程では、埋め戻し爪4による排水溝Vの埋め戻しが行われる。埋め戻し爪4は排水溝Vの側面Vaを崩して排水溝V内を土塊S1で埋める。この際、側面Vaを崩すことによって得られる土塊S1は比較的粗く、排水溝Vの排水機能がこれによって妨げられることはない。また、この埋め戻しによって比較的深い排水溝V内の地上に近いところに播種床を形成することができる。
【0028】
同図(c)は、第3の作業工程である、埋め戻された排水溝V上に播種を行う播種作業を示している。播種作業は、埋め戻された排水溝V上に作溝,播種,覆土,鎮圧を同行程で行う。すなわち、土塊S1の表面に播種溝S2が形成され、その播種溝S2内に種S3が播かれ、その上が覆土S4で覆われ、最後に鎮圧がなされる。
【0029】
農作業機1による不耕起播種方法は、前述した排水溝形成作業、排水溝埋め戻し作業、播種作業を走行機体の進行に伴って同行程で行う。これによって、耕耘作業が行われていない圃場に対して、効率的に播種作業又は施肥播種作業を行うことができる。この際、圃場が水田輪換畑のような湿潤な状態であっても、排水溝Vの形成によって圃場の排水性を高めることができ、更に、排水溝V内に形成する播種床を比較的浅くすることで、種の湿害を効果的に抑止することができる。
【0030】
図4及び図5は、本発明の実施形態における埋め戻し爪の形態例を示した説明図である。図4及び図5の(a)は正面図、図4及び図5の(b)は側面図を示している。各例の埋め戻し爪4は、爪先部4Aと柄部4Bを備えている。爪先部4Aの形態は各種の形態が可能であり、図4の例は、排水溝Vの両側面を切り崩すように三角形状又は扇形形状を有している。また、図5の例は、排水溝Vの片側面を切り崩すように傾斜した板形状を有している。
【0031】
図6及び図7は、本発明の実施形態における排水溝形成爪の形態例を示した説明図である。各図においては、いずれも埋め戻し爪を図示省略した排水溝形成爪単独の形態を示しており、図示のm1が圃場面を示し、m2が溝底を示している。
【0032】
図6(a)に示した排水溝形成爪3の形態例は、図示省略の機体(フレーム)に装着される縦柄部3aが下方に向けて延在しており、この縦柄部3aの下方に矢印fで示した進行方向に向けた縦刃部3bを有する。そして、この縦刃部3bが下向き傾斜部3b1を有しており、その下向き傾斜部3b1の下方にはチゼル部3cが設けられている。このような排水溝形成爪3の形態例によると、縦刃部3bにおける下向き傾斜部3b1がチゼル部3cによって形成される溝内の土塊を圧迫して崩す作用を示し、溝内の土塊の細分化が可能になる。これによると、溝内が砕土された土で埋め戻され、均一な深さの安定した播種床を形成することができる。
【0033】
図6(b)に示した排水溝形成爪3の形態例は、図6(a)と同様に、縦柄部3aと縦刃部3bとチゼル部3cを有する。そして、縦刃部3bが上向き傾斜部3b2を有している。このような排水溝形成爪3の形態例によると、縦刃部3bにおける上向き傾斜部3b2が圃場面上の残渣Zを傾斜に沿って引き上げるので、チゼル部3cによる溝形成時に溝内に残渣Zが引き込まれるのを抑止でき、また残渣Zが土塊に絡まって牽引抵抗が増大するのを抑止することができる。これによると、溝内に残渣が引き込まれて播種床が不安定になるのを抑止できるので、前作の収穫残渣が圃場面に多く散在する場合にも精度の高い播種作業を行うことができる。
【0034】
図7(a)に示した排水溝形成爪3の形態例は、図6(a)と同様に、縦柄部3aと縦刃部3bとチゼル部3cを有する。そして、縦刃部3bが上向き傾斜部3b2と下向き傾斜部3b1を共に有しており、上向き傾斜部3b2が上側に下向き傾斜部3b1が下側に配置されている。このような排水溝形成爪3の形態例によると、縦刃部3bにおける上向き傾斜部3b2が圃場面上の残渣Zを傾斜に沿って引き上げるので、チゼル部3cによる溝形成時に溝内に残渣Zが引き込まれるのを抑止でき、また残渣Zが土塊に絡まって牽引抵抗が増大するのを抑止することができる。また、縦刃部3bにおける下向き傾斜部3b1がチゼル部3cによって形成される溝内の土塊を圧迫して崩す作用を示し、溝内の土塊の細分化が可能になる。これによると、溝内の土塊が砕土化されると共に溝内に残渣が引き込まれるのを抑止できるので、溝内の播種床の安定化が可能になり、精度の高い播種作業を行うことができる。
【0035】
図7(b)に示した排水溝形成爪3の形態例は、図6(b)と同様に、縦柄部3aと縦刃部3bとチゼル部3cを有し、縦刃部3bが上向き傾斜部3b2を有している。この形態例は、上向き傾斜部3b2が、鉛直軸に対する上向き傾斜角度が異なる第1傾斜部3b2−1と第2の傾斜部3b2−2を備えている。そして、第1傾斜部3b2−1における上向き傾斜角度θ1が第2傾斜部3b2−2における上向き傾斜角度θ2より大きく、第2傾斜部3b2−2が第1傾斜部3b2−1に対して下方に配置されている。
【0036】
このような排水溝形成爪3の形態例によると、上向き傾斜部3b2の第1傾斜部3b2−1が圃場面上の残渣Zを傾斜に沿って引き上げるので、チゼル部3cによる溝形成時に溝内に残渣Zが引き込まれるのを抑止でき、また残渣Zが土塊に絡まって牽引抵抗が増大するのを抑止することができる。また、上向き傾斜部3b2においてより垂直に近い第2傾斜部3b2−2がチゼル部3cによって形成される溝内の土塊を崩す作用を示し、溝内の土塊の細分化が可能になる。これによると、溝内の土塊が砕土化されると共に溝内に残渣が引き込まれるのを抑止できるので、溝内の播種床の安定化が可能になり、精度の高い播種作業を行うことができる。
【0037】
図8は、本発明の実施形態における排水溝形成爪の変形例を示した説明図である。同図(a)が斜視図、同図(b)が背面図を示している。図示の例の排水溝形成爪30は、一対の爪部30A,30Aと、この爪部30A,30Aを連結する連結部30Bと、連結部30Bの中央から上方に延びて機体2へ装着される柄部30Cを備える。この例は、爪部30Aと柄部30Cを分離させているところに特徴があり、爪部30Aに掛かった圃場上の残渣などを柄部30Cに溜めることなく後方に逃がすことができる。これによって、残渣の多い圃場での牽引抵抗を低減させることが可能になる。
【0038】
図9は、本発明の実施形態に係る農作業機の播種機部の配置の変形例を示した説明図である。この例では、排水溝形成爪3が形成する排水溝Vの側方に距離Lだけオフセットした位置を播種位置としている。すなわち、前述した播種機部5は、土塊S1によって埋め戻された排水溝Vの側方のオフセット位置に、播種溝S2を形成する作溝器5Aと、播種溝S2内に種S3を播種する播種装置5Bと、播種後の播種溝S2を覆土する覆土器5Cと、覆土された播種溝S2上を鎮圧する鎮圧輪5Cを備えている。ここでの距離Lは3〜5cm程度が好ましい。その程度の距離Lであれば、排水溝Vが形成される影響で圃場面が比較的柔らかくなっている。このような実施形態によると、播種溝S2が排水溝Vが形成されることで柔らかくなった圃場面上に直接形成されるので、播種溝S2の深さを安定化することができ、安定した播種深度で精度の高い播種作業を行うことができる。
【0039】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る農作業機1或いはこの農作業機1によって行われる不耕起播種方法によると、排水溝形成爪3によって形成される排水溝Vを比較的深い溝にして、形成した排水溝Vを同行程で埋め戻し、埋め戻された排水溝V上に同行程で播種機部5による播種作業を行う。これによって比較的深い排水溝Vで有効な圃場排水性を確保しながら、埋め戻された排水溝V上の比較的浅い位置に播種を行って種の湿害を回避する。排水溝形成爪3によって形成された排水溝Vは、その側面を切り崩す埋め戻し爪4によって埋め戻されても排水性能を維持することができ、埋め戻された排水溝上は播種床としても良好な状態になる。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。上述の各図で示した実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの記載内容を組み合わせることが可能である。また、各図の記載内容はそれぞれ独立した実施形態になり得るものであり、本発明の実施形態は各図を組み合わせた一つの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0041】
1:農作業機,2:機体,3,30:排水溝形成爪,4:埋め戻し爪,
5:播種機部,6:施肥部,7:整地器,
3A:爪取付部,4A:爪先部,
5A:作溝器,5B:播種装置,5C:覆土器,5D:鎮圧輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の進行方向後方に装着され、圃場面を進行しながら播種作業を行う農作業機であって、
前記走行機体の進行方向に沿って圃場面に排水溝を形成する排水溝形成爪と、
該排水溝形成爪の背後に設けられ圃場面に形成された排水溝を埋め戻す埋め戻し爪と、
前記埋め戻し爪の後方で埋め戻された前記排水溝上に播種を行う播種機部とを備え、
前記埋め戻し爪は、前記排水溝形成爪によって形成された排水溝の側面を崩す爪先部を有することを特徴とする農作業機。
【請求項2】
前記爪先部は前記排水溝形成爪の爪幅に対して幅広に形成されることを特徴とする請求項1記載の農作業機。
【請求項3】
前記埋め戻し爪は前記排水溝形成爪に対して高さ調整自在に取り付けられることを特徴とする請求項1又は2の農作業機。
【請求項4】
前記排水溝形成爪は、下方に向けて延在する縦柄部の下方に前記進行方向に向けた縦刃部を有し、前記縦刃部は上向き傾斜部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の農作業機。
【請求項5】
前記上向き傾斜部は、鉛直軸に対する上向き傾斜角度が異なる第1傾斜部と第2の傾斜部を備え、前記第1傾斜部における前記上向き傾斜角度が前記第2傾斜部における前記上向き傾斜角度より大きく、前記第2傾斜部が前記第1傾斜部に対して下方に配置されていることを特徴とする請求項4記載の農作業機。
【請求項6】
前記排水溝形成爪は、下方に向けて延在する縦柄部の下方に前記進行方向に向けた縦刃部を有し、前記縦刃部は下向き傾斜部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の農作業機。
【請求項7】
前記排水溝形成爪は、下方に向けて延在する縦柄部の下方に前記進行方向に向けた縦刃部を有し、前記縦刃部は下向き傾斜部と上向き傾斜部を共に有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の農作業機。
【請求項8】
前記播種機部は、埋め戻された前記排水溝上に、播種溝を形成する作溝器と、該播種溝内に播種する播種装置と、播種後の前記播種溝を覆土する覆土器と、覆土された前記播種溝上を鎮圧する鎮圧輪を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の農作業機。
【請求項9】
前記播種機部は、埋め戻された前記排水溝側方のオフセット位置に、播種溝を形成する作溝器と、該播種溝内に播種する播種装置と、播種後の前記播種溝を覆土する覆土器と、覆土された前記播種溝上を鎮圧する鎮圧輪を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の農作業機。
【請求項10】
前記排水溝形成爪によって形成された排水溝内に施肥を行う施肥部を備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の農作業機。
【請求項11】
前記埋め戻し爪の後方且つ前記播種機部の前方位置に前記排水溝上とその周囲を整地する整地器を設けることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の農作業機。
【請求項12】
走行機体の進行に沿って不耕起圃場に播種作業を行う不耕起播種方法であって、
前記走行機体の進行に沿って排水溝を形成する排水溝形成作業と、前記排水溝を埋め戻す排水溝埋め戻し作業と、埋め戻された前記排水溝上に播種を行う播種作業とを有し、
前記排水溝形成作業、前記排水溝埋め戻し作業、前記播種作業を前記走行機体の進行に伴って同行程で行い、
前記排水溝形成作業は前記走行機体の後方に装着される農作業機が備える排水溝形成爪によって行い、前記排水溝埋め戻し作業は、前記排水溝形成爪の背後に設けられ前記排水溝の側面を崩す爪先部を有する埋め戻し爪によって行うことを特徴とする不耕起播種方法。
【請求項13】
前記播種作業は、埋め戻された前記排水溝上に作溝,播種,覆土,鎮圧を同行程で行うことを特徴とする請求項12記載の不耕起播種方法。
【請求項14】
前記播種作業は、埋め戻された前記排水溝側方のオフセット位置に作溝,播種,覆土,鎮圧を同行程で行うことを特徴とする請求項13記載の不耕起播種方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−205588(P2012−205588A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47979(P2012−47979)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(597041747)アグリテクノ矢崎株式会社 (56)
【出願人】(391057937)スガノ農機株式会社 (25)
【Fターム(参考)】