説明

農業用フィルム

【課題】 本発明は、保温性及び雑草の防除性に優れた農業用フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の農業用フィルムは、熱可塑性樹脂100重量部、多孔質ゼオライト1〜10重量部及び有機顔料からなり、400〜700nmの波長領域にて何れの波長においても光線透過率が40%以下で且つ710〜2600nmの波長領域にて何れの波長においても光線透過率が60%以上であることを特徴とするので、農業用フィルムで被覆された土壌の温度を夜間、高く保持することができると共に雑草の光合成を阻止して雑草の繁茂を防止することができ、よって、所望の農作物の成長を促進させつつ、雑草の手入れに必要な手間を少なくして農作業の効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温性と雑草の防除性に優れた農業用フィルムに関し、特に、夜間における土壌温度の保持と雑草の防除を目的として、秋口から春先にかけて好適に用いられる農業用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に農業用フィルムの保温性は、該農業用フィルムで被覆された土壌の温度が夜間に低下するのを防止する特性であって、具体的には、農業用フィルムで被覆された土壌は、日中、太陽などからの熱エネルギーを吸収する一方、夜間には吸収した熱エネルギーを外部に放散するが、この外部に放散された熱エネルギーを農業フィルム外に散逸するのを防止する特性である。
【0003】
透明な農業用フィルムは、日中、太陽などからの熱エネルギーを多量に透過して、農業用フィルムが被覆している土壌の温度を大きく上昇させるものの、夜間には土壌が放散した熱エネルギーを多量に透過させてしまい、透明な農業用フィルムで被覆した土壌の温度は、夜間には急激に低下してしまう。
【0004】
一方、黒色の農業用フィルムは太陽光を遮ってしまい、土壌の温度を上昇させるために有効な710nm以上の波長の光線も遮ってしまうために、日中に土壌への十分な熱の蓄積がおこなわれず、黒色の農業用フィルムで被覆している土壌は、その温度が日中においてもそれほど上がらない。
【0005】
従って、農業用フィルムの保温性の優劣は、熱エネルギーの透過と土壌から放散された熱エネルギーの保持の程度によって決定され、日中においては、太陽などからの熱エネルギーを円滑に透過して農業用フィルムで被覆している土壌の温度を適度に上昇させる一方、夜間においては、土壌が放散する熱エネルギーを保持することができる農業用フィルムが望まれている。
【0006】
一方、農業用フィルムにより被覆された内部は、保温されており育成する植物以外に雑草が繁殖しやすく除草が大変であるという問題があった。最近になって、植物の生育と光の波長との関係が多数研究され、光合成に有効な光波長領域が400〜700nmであることが明らかになってきており、この光合成に有効な波長領域の光を遮断することにより作物の生育に害を及ぼす雑草の繁茂を防止することが課題となっている。
【0007】
この課題を解決することによって作物生産の際に除草にかかる労力を軽減することができる。単に光合成に有効な波長領域の光の透過を阻止するだけならば黒色の農業用フィルムなどの光線透過率を抑えた農業用フィルムを使用すればよいが、それでは上述したように満足な土壌温度を確保することができないといった問題がある。
【0008】
そこで、保温性を確保するために多量のゼオライトを含有しているフィルム(特許文献1参照)が農業用フィルムとして提案されているが、このフィルムは保温性は良いが雑草防除性に問題があった。又、保温性と雑草防除性の双方を兼ね備えたフィルムとして、酸化鉄粒子と顔料を含有しているフィルム(特許文献2参照)が農業用フィルムとして開発されているが、このフィルムは、雑草防除性は良いが保温性が悪いという結果となっており、保温性と雑草防除性の双方を十分に満足した農業用フィルムが切望されている。
【0009】
【特許文献1】特公昭61−44092号公報
【特許文献2】特許第3215581号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、保温性及び雑草防除性に優れた農業用フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の農業用フィルムは、熱可塑性樹脂100重量部、多孔質ゼオライト1〜10重量部及び有機顔料からなり、400〜700nmの波長領域にて何れの波長においても光線透過率が40%以下で且つ710〜2600nmの波長領域にて何れの波長においても光線透過率が60%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、従来から農業用フィルムに使用されているものが用いられ、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体などのポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂;ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂は単独で使用されても、2種類以上が併用されてもよい。上記熱可塑性樹脂としては、これらのなかでも、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを含有していることがより好ましい。
【0013】
なお、エチレン−α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられ、又、プロピレン−α−オレフィン共重合体を構成するα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0014】
そして、熱可塑性樹脂として、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを含む場合、熱可塑性樹脂中における低密度ポリエチレンの含有量は、少ないと、フィルムの成形安定性が低下することがある一方、多いと、製膜したフィルムの機械強度が不足することがあるので、10〜30重量%が好ましい。又、熱可塑性樹脂中における直鎖状低密度ポリエチレンの含有量は、少ないと、製膜したフィルムの機械強度が不足することがある一方、多いと、フィルムの成形安定性が低下することがあるので、70〜90重量%が好ましい。
【0015】
上記多孔質ゼオライトとは、天然もしくは人工ゼオライト鉱物であり、一般に、方沸石群、方ソーダ石群、リョウ沸石群、ソーダ沸石群、ジュウジ沸石群、モルデン沸石群で構造的に分類されるものである。そして、多孔質ゼオライトは、比表面積が非常に大きく多量の水分を吸収することによって熱エネルギーの吸収効果が著しく増大し、農業用フィルムの保温性を大きく向上させる。
【0016】
そして、農業用フィルム中における多孔質ゼオライトの含有量は、少ないと、熱エネルギーを吸収する効果が低下する一方、多いと、農業用フィルムの機械的強度が低下するので、熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜10重量部に限定され、2〜5重量部が好ましい。
【0017】
又、上記有機顔料としては、特に限定されないが、紫色の有機顔料、青色の有機顔料及び緑色の有機顔料からなる群から選ばれた少なくとも一種の有機顔料が好ましい。このような有機顔料として、例えば、ジオキサジンバイオレット、フタロシアニンブルー、ダイアモンドグリーンレーキ、ピグメントグリーンB、グリーンゴールド、フタロシアニングリーンなどが挙げられる。
【0018】
農業用フィルム中における有機顔料の含有量は、少ないと、農業用フィルムにおける400〜700nmの波長領域での光線透過量が多くなって、雑草が光合成を行い繁茂してしまう一方、多いと、農業用フィルムにおける400〜700nmの波長領域での光線透過率が低くなり雑草の繁茂は防げるが、710〜2600nmの波長領域における光線透過率も小さくなってしまって、農業用フィルムで被覆している土壌の温度上昇を阻害してしまう。従って、農業用フィルムにおける、400〜700nmの波長領域にて何れの波長においても光線透過率が40%以下に且つ710〜2600nmの波長領域にて何れの波長においても光線透過率が60%以上になるように、農業用フィルム中における有機顔料の含有量を調整することが好ましい。
【0019】
上記熱可塑性樹脂には、必要に応じて、物性を損なわない範囲において、ヒンダードアミン系光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防霧剤、滑剤などが添加されても良い。
【0020】
又、上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−[(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]}などが挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0021】
そして、上記酸化防止剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、カルボン酸の金属塩、フェノール系抗酸化剤、有機亜燐酸エステルなどのキレーターが挙げられる。
【0022】
又、上記紫外線吸収剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤などが挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0023】
更に、上記防霧剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。又、上記滑剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、ステアリン酸アマイドなどの飽和脂肪酸アマイド、エルカ酸アマイド、オレイン酸アマイドなどの不飽和脂肪酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイドなどのビスアマイドなどが挙げられる。
【0024】
本発明の農業用フィルムは、上記熱可塑性樹脂、多孔質ゼオライト及び有機顔料、並びに、必要に応じて添加される添加剤を含有する樹脂組成物をフィルムに成形することにより得られる。フィルムの成形方法としては、公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、インフレーション法、Tダイ法、カレンダー法などが採用される。
【0025】
上記農業用フィルムとしては、単層の熱可塑性樹脂層からなるものでもよいが、熱可塑性樹脂層が複数層積層されているものでもよい。
【0026】
上記農業用フィルムの表面には、その表面に生じた結露水を水膜状にして円滑に下方に向かって流下させるために、コロイダルシリカを主成分とする防曇剤を塗布、乾燥させて得られる防曇層や、ポリビニルアルコールなどの親水性樹脂からなる防曇層などが一体的に設けられてもよい。これらの防曇剤を塗布する方法としては、例えば、グラビアコーターなどのロールコート法、バーコード法、ディップコート法、スプレー法、はけ塗り法などが挙げられる。
【0027】
又、上記農業用フィルムの厚さは、薄いと、農業用フィルムの機械的強度が低下して破損し易くなる一方、厚いと、農業用フィルムの裁断、接合、展張作業などが困難になって、取り扱い性が低下するので、10〜100μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の農業用フィルムは、多孔質ゼオライトが所定量、含有されており、この農業用フィルムで被覆された土壌の温度を夜間、高く保持することができると共に、特定の波長領域での光線透過率が特定範囲内の値になるように有機顔料が加えられており、雑草の光合成を阻止して雑草の繁茂を防止することができる上に、農業用フィルムで被覆された土壌を日中に十分に加熱することができ、よって、所望の農作物の成長を促進させつつ、雑草の手入れに必要な手間を少なくして、農作業の効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
表1に示した所定量の直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.920g/cm3 、メルトインデックス:1.0g/10分)、低密度ポリエチレン(密度:0.922g/cm3 、メルトインデックス:0.9g/10分)、多孔質ゼオライト(日本クリーンパック社製 商品名「SP2300」)及び緑色の有機顔料(東京インキ社製 商品名「PEXダーク」)からなる樹脂組成物を用いてインフレーション法により厚さ30μmの農業用フィルムを得た。なお、メルトインデックスは、JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重21.18Nの条件下にて測定された値である。
【0031】
得られた農業用フィルムにおける400〜700nmの波長領域及び710〜2600nmの波長領域での光線透過率、保温性能、雑草の防除性、及び、引張破断点荷重を下記に示した方法にて測定し、その結果を表1に示した。
【0032】
(光線透過率)
紫外・可視・近赤外分光光度計(日立製作所製)を用いて、200〜2600nmの波長領域において、波長を200nmから2600nmに連続的に上げていき、200〜2600nmの波長領域における農業用フィルムの光線透過率を連続的に測定した。そして、400〜700nmの波長領域における最大光線透過率及び710〜2600nmの波長領域における最小光線透過率を表1に示した。
【0033】
(保温性能)
内部に土を充填したプランター(縦70cm×横40cm×高さ50cm)7個を鉄骨ハウス(縦6m×横6m×高さ4m)内に設置した。そして、各プランターの上端開口部に実施例又は比較例で得られた農業用フィルムをそれぞれ全面的に張設して、プランターの上端開口部を被覆した。なお、基準用にもう一つプランターを用意し、このプランターの上端開口部に透明な農業用フィルムを上記と同様の要領で張設した。
【0034】
そして、各プランターの土壌に熱電対を配設して地中10cmの深さの土壌温度を1時間毎に1週間に亘って連続的に測定し続けた。測定された全温度をプランター毎に相加平均して測定温度とし、基準用のプランターの測定温度(基準測定温度)との温度差を下記式に基づいてプランター毎に算出し、下記基準に基づいて評価した。
温度差(℃)=測定温度−基準測定温度
【0035】
○:温度差が2℃以上であった。
△:温度差が0.5℃以上且つ2℃未満であった。
×:温度差が0.5℃未満であった。
【0036】
(雑草の防除性)
積水フィルム株式会社仙台工場内の農地で平成16年7月1日に農業用フィルムを敷設し、30日後の雑草の繁茂状況によって評価した。
○:雑草の繁茂は認められなかった。
△:雑草が少量繁茂したが殆ど問題にならなかった。
×:雑草が多量に繁茂した。
【0037】
(引張破断点荷重)
農業用フィルムの引張破断点荷重をテンシロン(東洋精機製作所製)を用いてJIS K7127に準拠して測定し、以下の基準により評価した。
○:1000g未満の加重では破断しなかった。
△:500g以上且つ1000g未満の荷重で破断した。
×:500g未満の荷重で破断した。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100重量部、多孔質ゼオライト1〜10重量部及び有機顔料からなり、400〜700nmの波長領域にて何れの波長においても光線透過率が40%以下で且つ710〜2600nmの波長領域にて何れの波長においても光線透過率が60%以上であることを特徴とする農業用フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂が、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを含むことを特徴とする請求項1に記載の農業用フィルム。

【公開番号】特開2007−43(P2007−43A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181738(P2005−181738)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】