説明

農業用フィルム

【課題】 本発明は、厚みが薄くても機械的強度に優れ、取扱性にも優れた農業用フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の農業用フィルムは、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂100重量部及びポリエチレン系樹脂40〜250重量部を含有し且つ厚みが10〜20μmであることを特徴としているので、農業用フィルムは、優れた機械的強度及び透明性を有し且つ取扱性に優れた柔軟性も有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用フィルムは、一般的に熱可塑性樹脂を用いて空冷インフレーション成形法によって製膜されている。特に、農業用フィルムは、厚さが20〜30μmと非常に薄く、経費削減や作業効率の向上を目指して更なる薄肉化が進められている。
【0003】
そして、熱可塑性樹脂としてポリエチレン系樹脂を用いて空冷インフレーション成形法によって薄肉化を図ろうとすると、農業用フィルムの機械的強度が低下するといった問題点を生じる。
【0004】
又、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン系樹脂を用いることも考えられるが、ポリプロピレン系樹脂は空冷インフレーション成形法に適しておらず、得られる農業用フィルムの透明性が低下し或いは硬くなってしまい畝などの土壌表面に密着しにくくなるといった問題点を生じる。
【0005】
そこで、特許文献1には、厚み10μmのフィルムを形成した場合に、ダートインパクト強度が100g以上であり、かつ、MD方向およびTD方向の引張ヤング率がともに2.5×103kg/cm2以上であるフィルムを形成することができるエチレン・α-オレフィン共重合体からなり、膜厚が5〜30μmのフィルムであるエチレン系樹脂製農業用被覆フィルムが提案されている。
【0006】
しかしながら、上記農業用被覆フィルムは、厚みが10μmでの弾性率が3.0×103kg/cm2であって非常に柔らかく、取扱性が悪いという問題点があった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−195140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、厚みが薄くても機械的強度に優れ、取扱性にも優れた農業用フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の農業用フィルムは、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂100重量部及びポリエチレン系樹脂40〜250重量部を含有し且つ厚みが10〜20μmであることを特徴とする。
【0010】
農業用フィルムを構成しているポリプロピレン系樹脂は、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたものである。ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、プロピレン成分を50重量%以上含有するプロピレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられ、これらは単独で使用されても二種以上が併用されてもよい。なお、α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0011】
上記メタロセン化合物とは、一般に、遷移金属をπ電子系の不飽和化合物で挟んだ構造の化合物をいい、ビス(シクロペンタジエニル)金属錯体が代表的なものである。
【0012】
そして、メタロセン化合物としては、具体的には、チタン、ジルコニウム、ニッケル、パラジウム、ハフニウム、白金などの四価の遷移金属に、1又は2以上のシクロペンタジエニル環又はその類縁体がリガンド(配位子)として存在する化合物が挙げられる。
【0013】
上記リガンドとしては、例えば、シクロペンタジエニル環;炭化水素基、置換炭化水素基又は炭化水素−置換メタロイド基により置換されたシクロペンタジエニル環;シクロペンタジエニルオリゴマー環;インデニル環;炭化水素基、置換炭化水素基又は炭化水素−置換メタロイド基により置換されたインデニル環などが挙げられる。これらのπ電子系の不飽和化合物以外にも、リガンドとして、塩素や臭素などの一価のアニオンリガンド又は二価のアニオンキレートリガンド、炭化水素、アルコキシド、アリールアミド、アリールオキシド、アミド、アリールアミド、ホスフィド、アリールホスフィドなどが遷移金属原子に配位結合していてもよい。
【0014】
更に、シクロペンタジエニル環に置換する炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、セチル基、フェニル基などが挙げられる。
【0015】
このような四価の遷移金属を含むメタロセン化合物としては、例えば、シクロペンタジエニルチタニウムトリス(ジメチルアミド)、メチルシクロペンタジエニルチタニウムトリス(ジメチルアミド)、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−t−ブチルアミドジルコニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−t−ブチルアミドハフニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−p−n−ブチルフェニルアミドジルコニウムクロリド、メチルフェニルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−t−ブチルアミドハフニウムジクロリド、インデニルチタニウムトリス(ジメチルアミド)、インデニルチタニウムトリス(ジエチルアミド)、インデニルチタニウムトリス(ジ−n−プロピルアミド)、インデニルチタニウムビス(ジ−n−ブチルアミド)(ジ−n−プロピルアミド)などが挙げられる。
【0016】
上記メタロセン化合物は、金属の種類や配位子の構造を変え、特定の共触媒(助触媒)と組み合わせることにより、各種オレフィンの重合の際、触媒としての作用を発揮する。具体的には、重合は、通常、これらメタロセン化合物に共触媒としてメチルアルミノキサン(MAO)、ホウ素系化合物などを加えた触媒系で行われる。なお、メタロセン化合物に対する共触媒の使用割合は、10〜1,000,000モル倍が好ましく、50〜5,000モル倍がより好ましい。
【0017】
メタロセン化合物は、活性点の性質が均一であり各活性点が同じ活性度を備えているため、合成する合成樹脂の分子量、分子量分布、組成、組成分布などの均一性が高まる。従って、これらメタロセン化合物を重合触媒として用いて重合されたポリプロピレン系樹脂は、分子量分布が狭く、共重合体の場合、どの分子量成分にも共重合体成分がほぼ等しい割合で導入されているという特徴を有する。
【0018】
従って、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂を用いることによって、透明性が高く且つ機械的強度に優れた農業用フィルムを得ることができる。
【0019】
又、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイトは、低いと、農業用フィルムの製膜性が低下し且つ農業用フィルムの透明性が低下することがあり、高いと、農業用フィルムの機械的強度が低下し且つ空冷インフレーション成形法におけるチューブの安定性が低下することがあるので、1〜20g/10分が好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイトは、JIS K6921−2:1997付属書(230℃、21.18N荷重)に準拠して測定された値をいう。
【0020】
更に、本発明の農業用フィルムはポリエチレン系樹脂を含有している。このポリエチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体などが挙げられ、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。なお、ポリエチレン系樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0021】
そして、農業用フィルム中におけるポリエチレン系樹脂の含有量は、少ないと、農業用フィルムが裂け易くなり、多いと、農業用フィルムが柔らかくなり過ぎて取扱性が低下するので、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂100重量部に対して40〜250重量部に限定され、50〜250重量部が好ましい。
【0022】
次に、本発明の農業用フィルムの製造方法について説明する。農業用フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂を押出機に供給し溶融混練して押出機から押出し空冷インフレーションフィルム成形法によって農業用フィルムを製造する方法が挙げられる。
【0023】
ここで、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とをそれぞれ単独で用いた場合には得られる農業用フィルムの機械的強度が低く、特に、ポリエチレン系樹脂単独で得られる農業用フィルムは軟らか過ぎて取扱性にも欠ける。
【0024】
しかるに、本発明では、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とを所定割合で混合することによって、両者を単独で用いた時に生じる問題点が解消できることを見出したものであり、上述のように空冷インフレーションフィルム成形法によって幅が広く且つ厚みの薄い農業用フィルムを容易に製造することができる。
【0025】
得られた農業用フィルムは、優れた機械的強度を有し且つ取扱いに適した柔軟性を有しており、更に、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂を単独で用いた時のような裂けが生じるようなことはない。
【0026】
この農業用フィルムは、優れた透明性をも有しており種々の農業用途に用いることができるが、特に、畝を被覆して畝に植えた作物を雨風や寒さから保護するためのマルチフィルムとして好適に用いることができる。
【0027】
又、本発明の農業用フィルムの厚さは、薄いと、農業用フィルムの機械的強度が低下し、厚いと、農業用フィルムの柔軟性が低下して取扱性が低下するので、10〜20μmに限定され、12〜16μmが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の農業用フィルムは、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂100重量部及びポリエチレン系樹脂40〜250重量部を含有し且つ厚みが10〜20μmであることを特徴とするので、優れた機械的強度及び透明性を有し且つ取扱性に優れた柔軟性も有している。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0030】
(実施例1〜3、比較例1、2)
重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂(日本ポリプロピレン社製 商品名「ウィンテックWFX4TC」、メルトフローレイト:7.0g/10分)と、直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製 商品名「ノバテックUA421」)とを表1に示した所定量づつ押出機に供給して175℃にて溶融混練し、押出機の先端に取り付けたサーキュラ金型から円筒状に押出した上で空冷インフレーションフィルム成形によって厚みが15μmの農業用フィルムを得た。なお、表1において、「重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂」を「PP」と、「直鎖状低密度ポリエチレン」を「PE」と表記した。
【0031】
得られた農業用フィルムの製膜性、引裂強度及び弾性率を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0032】
(製膜性)
得られた農業用フィルムを目視観察して下記の基準によって評価した。
○・・農業用フィルムには皺が発生していなかった。
△・・農業用フィルムに皺が発生していた。
×・・農業用フィルムの製造が困難であった。
【0033】
(引裂強度)
得られた農業用フィルムの引裂強度をJIS K7128に準拠してエンメンドルフ引裂強度測定機(東洋精機製作所社製)を用いて長さ方向の引裂強度を測定した。
【0034】
(弾性率)
得られた農業用フィルムの長さ方向及び幅方向の弾性率をJIS K7127に準拠してオートグラフ(島津製作所社製)を用いて測定した。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂100重量部及びポリエチレン系樹脂40〜250重量部を含有し且つ厚みが10〜20μmであることを特徴とする農業用フィルム。
【請求項2】
重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリプロピレン系樹脂100重量部及びポリエチレン系樹脂50〜250重量部を含有していることを特徴とする請求項1に記載の農業用フィルム。

【公開番号】特開2010−75080(P2010−75080A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245573(P2008−245573)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】