説明

近接場光発生装置、近接場光発生方法及び情報記録再生装置

【課題】散乱体の形状に依存することなく、高効率な近接場光を容易に発生させる。
【解決手段】光の照射により近接場光を発生させるための導電性の散乱体10と、導電性膜20とを備える。近接場光の発生箇所と散乱体10の重心とを結ぶ基準線Lと、導電性膜20の散乱体10に臨む側の縁部21の少なくとも一部とが、導電性膜20が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となるように構成する。散乱体10で発生する近接場光の強度を増幅することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性材料より成る散乱体に光を照射して近接場光を発生する近接場光発生装置、近接場光発生方法及び情報記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光の回折限界を超える小さなスポットの形成方法として、近接場光と呼ばれる局所電磁場の利用が注目されている。例えば情報記録装置の分野においては、この小さなスポットを用いた熱アシスト磁気記録が、次世代高密度磁気記録の有望な技術として注目を集めている。この技術は熱揺らぎに強い高保磁力を有する磁気記録媒体に対して磁気記録を行うものである。具体的には、磁気記録媒体の表面に光を集光し、局所的に磁気記録媒体の温度を上げる。温度が上がった部位では、磁気記録媒体の保磁力が減少するため通常の磁気ヘッドによる磁気記録が可能になる。高密度磁気記録を達成するためには集光スポットサイズをより小さくする必要があり、光の回折限界を超えた近接場を用いる技術が考案されている。この非常に小さな集光スポットサイズを実現する一つの手法として、導電性材料から成る散乱体による表面プラズモン共鳴を利用する方法があり、その構造が集光効率やスポットサイズに大きな影響を与えるため、様々な検討がなされている。
【0003】
このような散乱体による表面プラズモン共鳴現象を利用して微小な集光スポットを実現する方法の一例について、図37を用いて説明する。図37に示すように、一般的には光透過性の材料より成る基板401の平坦な表面上に、導電性の金属による棒状の散乱体410が形成される。散乱体410の長手方向と照射される伝搬光Liの偏光方向を合わせて配置し、且つ散乱体410の長手方向の長さを表面プラズモンが励起される条件に合わせて適切に選定することによって、表面プラズモンを励起することができる。
【0004】
このように適切な条件に合わせて配置構成した散乱体410に対して基板401側から伝搬光Liを照射すると、図37中破線Tで示す面における断面図を図38に示すように、散乱体410の伝搬光Liが照射される面である受光面410dと、その受光面410dとは反対側の面であり、近接場光が照射される被照射体450に対向する表面である発光面410eにおいて、入射伝搬光Liの電界によって電荷の偏りが生じる。この電荷の偏りの振動が表面プラズモンであり、表面プラズモンの共鳴波長と入射光の波長が一致すると表面プラズモン共鳴と呼ばれる共振状態となり、散乱体410は図38中矢印Pで示す入射伝搬光の偏光方向に対応する方向に強く分極した電気双極子となる。電気双極子となると散乱体410の長手方向両端近傍に大きな電磁界が生じ、近接場光Lnが発生する。図38に示すように、近接場光Lnは散乱体410の受光面410d及び発光面410eの両方に発生するが、周囲の構造体の材料や形状が違うとそれぞれの最適共鳴波長は異なる。情報記録媒体等の被照射体450への近接場光の照射を考える場合、発光面410eにおける近接場光が強くなるように、その形状を調整するとよい。
【0005】
上述の方法を採ることにより、伝搬光から非常に小さなスポットの近接場光を生成することができるが、その変換効率は高いことが望ましい。これは、変換効率が高いと所望の近接場光のパワーを得るのに必要なLD等の発光源のパワーを抑えることができ、近接場光発生装置の低消費電力化及び小型化に寄与するためである。また、発光源の光を集光素子にて集光して照射する場合に、低開口数の集光素子を使用できることとなり、高開口数の集光素子を必要とする場合と比べると光学調整が格段に簡易化されるので、装置の歩留まりを上げることができるためである。
【0006】
高い変換効率を得るため、最適な散乱体の形状として近接場光が発生する先端部分に向かって幅を小さくする形状、例えば平面三角形状とする方法が提案されている。また、このように幅が小さくなった形状の散乱体を2つ用いて、これらの幅狭の先端部を近接させて組み合わせ配置することによって、発生する近接場光を更に増大化する方法も提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−114184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載されているように、近接場光が発生する部分に向かって幅を小さくする形状を実現するには、一般に散乱体の寸法は波長以下と非常に小さいため、この散乱体を作製したい箇所やプロセスの条件によっては最適形状に近づけることが難しい場合もある。また、上述したように、幅が微小となった一対の散乱体を用いて、その先端部分(近接場光が発生する領域)を近接配置して更なる高効率化を実現するには、先端間のギャップを数10nm以下とする必要がある。したがって、散乱体の作製が非常に困難となり、量産化が非常に難しいという問題がある。
【0009】
以上の問題に鑑みて、本発明は、散乱体の形状に依存することなく、比較的簡易な構造で近接場光の強度を増幅させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明による近接場光発生装置は、光の照射により近接場光を発生させるための導電性の散乱体と、導電性膜とを備え、近接場光の発生箇所と散乱体の重心とを結ぶ直線を基準線としたとき、この基準線と導電性膜の散乱体に臨む側の縁部の少なくとも一部とが、導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となる構成とする。
【0011】
本発明による近接場光発生方法は、近接場光を発生させるための導電性の散乱体と、導電性膜とを用いて、近接場光の発生箇所と散乱体の重心とを結ぶ直線を基準線としたとき、基準線と導電性膜の前記散乱体に臨む側の縁部の少なくとも一部とを、導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となるように配置して、散乱体に発生する近接場光の強度を、導電性膜が配置されない場合と比較して増幅する。
【0012】
また本発明による近接場光発生装置は、光の照射により近接場光を発生させるための導電性の散乱体と、導電性膜とを備え、散乱体に照射される光の偏光方向と、導電性膜の散乱体に臨む側の縁部の少なくとも一部とが、前記導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となる構成とする。
【0013】
また、本発明による近接場光発生方法は、近接場光を発生させるための導電性の散乱体と、導電性膜とを用いて、散乱体に照射される光の偏光方向と、導電性膜の散乱体に臨む側の縁部の少なくとも一部を、導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となるように配置して、散乱体に発生する近接場光の強度を、導電性膜が配置されない場合と比較して増幅する。
【0014】
更に、本発明による情報記録再生装置は、光源と、情報記録媒体と対向する散乱体と、散乱体に光源からの出射光を導く機能を有する光学系とを有し、散乱体から発生する近接場光を情報記録媒体の所定位置に照射して記録及び/又は再生が行われる。そして散乱体の近傍に導電性膜を備え、この導電性膜がない場合と比較して散乱体が配置される位置の光強度が大きくなるように導電性膜を配置する構成とする。
【0015】
上述したように、本発明の近接場光発生装置、近接場光発生方法及び情報記録再生装置においては、散乱体の近傍に導電性膜を配置し、特にこの導電性膜の縁部を散乱体や散乱体に入射する照射光の偏光方向等に対する配置を特定するものである。すなわち、近接場光の発生箇所と散乱体の重心とを結ぶ直線を基準線としたとき、基準線と導電性膜の前記散乱体に臨む側の縁部の少なくとも一部とを、導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となるように配置する。または、散乱体に照射される光の偏光方向と、導電性膜の散乱体に臨む側の縁部の少なくとも一部とが、前記導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となるように配置する。
【0016】
このような配置とすることによって、照射光が導電性膜に入射する入射光と導電性膜からの反射光との干渉によって、導電性膜の照射光入射側の縁部近傍において光強度が増幅される位置が生じる。この位置に散乱体を配置することによって、光強度が照射光の元の強度よりも強くなるような位置関係となる。したがって、この増幅された光で散乱体に表面プラズモン共鳴を励起することで、近接場光を増幅して発生することができる。
つまり、このような構成をもって導電性膜を散乱体の近傍に配置する場合、散乱体の表面近傍において、導電性膜を設けない場合と比較して強い近接場光が発生する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の近接場光発生装置、近接場光発生方法及び情報記録再生装置によれば、散乱体の形状に依存することなく、比較的簡易な構造で近接場光の強度を増幅させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
まず、本発明の実施の形態に係る近接場光発生装置の一例の概略構成図を図1に示す。この近接場光発生装置100は、光源101からの伝搬光Lがコリメータレンズ102、集光レンズ103を介して照射されることによって表面プラズモンによる近接場光を発生させる散乱体10が、例えば光透過性の基体1上に形成されて成る。散乱体10は、破線Sで照射スポット形状を示すように伝搬光Lpを受けた際に(以下、伝搬光Lpの、散乱体10及び導電性膜20に照射される光を照射光と呼ぶ。)、その表面、例えば情報記録媒体等の被照射体側に臨む面において表面プラズモンが励起されるように、伝搬光すなわち照射光の矢印pで示す偏光方向と平行な方向の長さが適切に選定されて形成される。図示の例では端部を半円状とした角丸長方形状、いわゆる棒状とした例を示すが、その他長方形状、三角形状、円形状等としてもよい。
【0019】
そしてこの例においては、散乱体の近傍の基体1上に導電性膜20が配置される。図1に示す例では、導電性膜20の散乱体10に臨む縁部21を、近接場光の発生箇所と散乱体10の重心とを結ぶ直線を基準線Lとしたとき、この基準線Lと導電性膜20の縁部21の少なくとも一部とが、導電性膜20が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となる構成とする。
或いは、導電性膜20の縁部21の少なくとも一部を、照射光の偏光方向pと略平行に配置する。なお、図示の例のように光透過性等の基体1上に散乱体10及び導電性膜20を配置して、散乱体10と基体1の界面側に光が照射される場合は、伝搬光Lpは基体1を介して伝搬される照射光となる。
【0020】
[導電性膜による光強度の変化の解析]
このように導電性膜20を散乱体10の近傍に配置することによって、散乱体10の位置における照射光の強度を増幅することができ、結果的に散乱体10の表面において発生する近接場光の強度を増幅することができる。これは以下の理由によるものと思われる。
簡単のために、散乱体を設けずに導電性膜のみが存在し、且つこの導電体の形状をモデル化する場合について、解析例として検討する。図2A〜Cにこの場合の概略構成図を示す。この解析例では、空気15中に一定の間隙を挟んで一対の導電性膜20A及び20Bを配置するモデルを用いる。導電性膜20A及び20Bは完全導体とする。そして導電性膜20A及び20Bの間の間隙、すなわちスリット22の形状は、矢印pで示す光の偏光方向に対し無限大に延長し、光の偏光方向及び矢印Ldで示す光の進行方向に垂直な方向には有限な間隔Saとする。図2Aにおいては間隔Saが小、図2BにおいてはSaが中程度、図2CにおいてはSaが大である例を示す。この様な形状のスリット22を介して配置される導電性膜20A及び20Bに向かって光をLdで示すように伝搬させるとき、スリット22の内部を伝搬していく光についてカットオフ周波数が存在することが知られている。すなわち、ある波長λの光はSaがある値より小さくなるとスリット22を伝搬できなくなる。その場合、スリットに入射した光は全て反射される。
【0021】
完全導体の界面において光の電界の接線成分が0になり、また光強度はその電界の2乗に比例することに注意して考えると、図2Aに示すように、間隔Saの値が波長よりも非常に小さい場合、破線E1で示すスリット22の開口部の光強度は、スリットが無い場合とほぼ同様に0に近くなる。一方、スリット22の開口部から少しはなれた場所では入射波と反射波が干渉によって強めあう位置(破線E2で示す)が発生し、ここにおいては光強度が極大となる。
間隔Saの値が伝搬可能な条件よりもやや小さい場合は、図2Bに示すように、スリット22の開口部から矢印Ldで示す入射光進行方向に向かって光強度は急速に減少するものの、開口部に少し入り込む形となる。したがって、間隔Saを適切に調整すると上述した入射波と反射波との干渉によって強めあう場所も開口部側にもってくることが出来る。
間隔Saの値が伝搬可能な条件よりもやや大きい場合は、スリット22内を伝搬する光が、スリット22の壁面では光強度がゼロでスリット22の中央では最も強度が強くなる、いわゆる基本モードとなる。この場合も、図2Bに示す例と同様、光を強めあう場所を開口部側にもってくることが出来る。
これに対し、図2Cに示すように距離Saが必要以上に大きい場合は、伝搬光は矢印Ld’で示すようにスリット22内を進行し、スリット22の開口部近傍の破線R0で囲んで示す中央部分において、スリット22のエッジ部からの反射光の影響が小さくなってしまう。このため、スリット22の開口部における光強度は入射光強度とほぼ等しくなるので、増幅効果が低くなる。
【0022】
次に、図3A及びBに示すように、導電性膜20A及び20Bの間のスリット22の形状が、光の偏光方向pに対して有限の間隔Sbとされ、光の偏光方向p及び進行方向Ldに垂直な方向には無限大の場合を考える。このときは間隔Sbが非常に小さくてもカットオフが存在しないため、スリット22の破線Rで囲んで示す開口部において反射は生じず、干渉による増幅を期待することは出来ない。それどころか逆に間隔Sbがある程度小さくなってくると、図3Bに示すように入射光の電界E0を受けて、スリット22の開口部に表面電荷が誘起され、この表面電荷による電界δE0が破線で示すように発生する。入射光の電界E0とδE0は逆方向のベクトルであるため、キャンセルされることとなる。結果的に開口部における光強度は逆に弱くなってしまうこととなる。
【0023】
図2及び図3に示す例について、FDTD法(Finite Difference Time Domain、有限差分時間領域法)によってシミュレーションした結果をそれぞれ図4A及びB、図4C及びDに示す。図4A及びBは間隔Saを280nmとする場合でそれぞれ光強度を白−黒の明暗及び等高線で示す図である。図4C及びDは間隔Sbを280nmとする場合で同様にそれぞれ光強度を白−黒の明暗及び等高線で示す図である。
図4A及びBに示す例では導電性膜の間のスリット開口端近傍に光強度がピークとなる位置が存在するが、図4C及びDに示す例では光強度がピークとなる位置が現れないことが分かる。
【0024】
以上の解析結果から、入射光偏光方向に対し略平行となる導電性膜の縁部がある場合は、散乱体が配置される位置から適切な距離に配置することで、特定の位置の光強度を増幅することができることが分かる。この特定の位置に散乱体を配置すれば近接場光を増幅することができる。
一方、偏光方向と垂直となる縁部がある場合は、散乱体が配置される位置からある程度離れた場所に配置することで、散乱体における光強度を低下させる作用、すなわち上述したように表面電荷による逆向きの電界の発生を抑制ないし回避することが出来る。結果として散乱体によって発生する近接場光を強くする、又は近接場光強度の低下を抑制することが出来る。
【0025】
したがって、本発明によれば、散乱体自体の形状構成を複雑化することなく、すなわちその製造を煩雑化することなく、導電性膜を散乱体の近傍に適切な条件をもって配置するという比較的簡易な構成をもって、この導電性膜を配置しない場合と比較して、散乱体の表面で発生する近接場光の強度を確実に高めることが可能となる。
【0026】
なお、照射光が複数の偏光成分を含む場合は、増幅を行いたい偏光成分に対して前記の配置となるようにすればよい。
また上記の解析例においてはスリット型のモデルで考えたが、上記の通りエッジ部による反射や分極によってその効果が決まるため、散乱体の両側に導電性膜がある必要はなく、片側のみでもよい。
【0027】
[導電性膜と散乱体との配置構成の考察]
次に、導電性膜を配置することによって、散乱体において発生する近接場光強度を高めるにあたり、適切な増幅率を得ることができる形状について検討した結果を説明する。以下の各例においても、FDTD法により解析を行った。
散乱体及び導電性膜の一般的な平面形状を図5の平面構成図に示す。図5に示すように、散乱体10上の目的の近接場光が発生する箇所をN、散乱体10の重心をGとし、位置NとGとを結ぶ直線を基準線Lとする。基準線Lが照射光の進行方向と直交する面から傾く場合は、導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見た直線と等価とする。例えば散乱体の一端が基体の表面に露出し、他端に向かって段差状や斜め方向に基体内に埋め込まれている場合、基体の表面に投影された線を基準線とすればよい。
図5に示す例では、このように定義する基準線Lに対し、散乱体10への照射光の偏光方向pを略平行とする。また照射光は図5の紙面に垂直な方向から入射さ矢印kで示すように入射される。散乱体10の基準線Lに沿う方向の長さをl、導電性膜20の散乱体10に臨む縁部21Bの基準線Lに平行な方向の長さをmとする。導電性膜20の長さが部分的に異なる場合は、散乱体10と対向する側の面の長さをmとする。
【0028】
また、導電性膜の散乱体に臨む縁部のうち基準線Lに対して±20°以内の略平行を成す部分を縁部21Aとし、±45°を超える±90°以下(すなわち+45°を超える+90°以下、又は−90°以上−45°未満)の角度を成す部分を縁部21Bとする。そして、散乱体10からこの縁部21A及び21Bまでの最短の距離を、それぞれa’及びbとし、散乱体10の基準線Lと直交する方向に沿う最大の幅をwとして、縁部21Aと散乱体10との間隔として
a=a’+w/2
で表される距離aを定義する。
なお、縁部21A及び21Bは散乱体10及び導電性膜20が例えば基体1上に形成され、その形成面に対し垂直な側面を有する場合は対向する側面を縁部とすることができる。一方、側面が傾斜面であるとか段差等を有する場合は、側面のうち最も散乱体に近い位置、すなわち最近接部を縁部と定義する。散乱体も同様である。
【0029】
本発明の近接場光発生装置を例えば情報記録再生装置に用いる場合等においては、目的とする近接場光発生箇所以外においては、近接場光の強度ができるだけ小さいことが望ましい。つまり、散乱体の近傍に配置する導電性膜において発生する近接場光の強度を十分に小さく抑える必要がある。このため、導電性膜上においては表面プラズモン共鳴が生じないようにする必要がある。そこで、照射光の偏光方向に沿う導電性膜の形状を表面プラズモン共鳴が生じる条件から外しておけばよく、例えば導電性膜を散乱体の長さより十分長くしておくことで、導電性膜上で発生する近接場光強度を十分抑えることができる。また前述のとおり導電性膜で反射波と入射波とを干渉させて光強度を上げるためには、十分な反射光を生成する必要がある。したがって、導電性膜は波長に対してある程度の大きさが必要である。
【0030】
先ず、散乱体及び導電性膜を図6に示す配置形状として、散乱体で発生する近接場光強度の増幅率が導電性膜の形状によってどのように変化するかを計算により求めた。図6に示すように、この計算例では棒状の散乱体10を用いて、基準線Lと平行な方向の長さをl、これとは直交し且つ照射光の進行方向とも直交する方向の幅をwとすると、l=100nm、w=24nmとした。また、照射光の偏光方向pは基準線Lと平行とした。散乱体10の基準線Lと平行な中心線を破線矢印x、これとは直交する方向であり、近接場光が発生する散乱体10の先端の幅方向の延長線を破線矢印yとして示す。導電性膜20は散乱体10の長手方向に沿う側面に対向して、散乱体10の両側に1つずつ、合計2つ配置する。導電性膜20及び散乱体10の材料は金(Au)として、これらはSiOより成る基体(図示せず)上に配置する。各導電性膜20の散乱体10と対向する縁部21Aと、散乱体の導電性膜と対向する側面との距離をa’とするとa’=140nmとした。なお、各導電性膜20は共に、散乱体10からの距離を等しくする。
【0031】
この場合の基準線Lと平行な方向の長さmと、基準線Lと垂直な方向の長さnとをそれぞれ変化させたときの、散乱体10の近接場光強度の増幅率を計算した。この結果を図7及び図8に示す。図7においては導電性膜の基準線Lと垂直な方向の長さnを十分大きく設定し、また図8においては、導電性膜の基準線Lと平行な方向の長さmを十分大きく設定する。各例共に、光源から出射される光の波長を780nm、導電性膜及び散乱体の膜厚を30nmとする。基体1は縦及び横の長さが共に2000nmであり、厚さは250nm、基体の屈折率nbは1.5とする。
なお、近接場光強度の増幅率は、散乱体の表面から破線x及びyで示す方向と直交する方向に向かって8nmの間隙を介して厚さ6nmのTbFeCo薄膜を配置し、その表面における電界の2乗の強度について、周囲に導電性膜が存在しない場合のピーク値と導電性膜を設ける場合のピーク値の比にて評価を行った。なお、横軸は距離m又はnを、照射光の波長をλ、基体の屈折率をnbとしたときに、λ/nbで規格化した値、すなわちnb/λを乗じた値を示す。また距離m又はnを()内数値として併記する。
【0032】
図7の結果から、導電性膜の長さmを変化させる場合の増幅率は1.8倍程度で飽和しており、この飽和値の90%(約1.6倍)に達する長さはm=230nm、すなわちm×(nb/λ)≒0.4であり、1.2倍に達する長さはm=150nm、すなわちm×(nb/λ)≒0.3であることがわかる。倍率が1.2倍であれば、導電性膜を設けない場合と比較して効果が明らかといえる。増幅率が1.2倍未満の場合は、製造工程数の増加や、また材料によってはコスト等の面で効果が十分得られない恐れがある。このため増幅率は1.2倍以上得られることを基準とする。
ここで照射光の真空中の波長をλ、照射光が伝搬してくる基体の屈折率をnbとすると、基体内の空間波長はλ/nbとなり、このλ/nbを基準とすると、増幅率1.2倍とするためには、導電性膜の基準線Lに平行な方向の長さmは、
m≧0.3×λ/nb
とすることが望ましいといえる。
【0033】
また、図8の結果から、導電性膜の幅nを変化させる場合においても、最大増幅率は1.8倍近くまで飽和していることがわかる。この場合、飽和値の90%に達する条件はn=140nm≒0.27×λ/nbとなっている。また、増幅率が1.2倍に達する幅はn=40nm≒0.08×λ/nbであることがわかる。したがって、導電性膜の基準線Lに垂直な方向の長さnは、
n≧0.08×λ/nb
を満たすことが望ましいといえる。
【0034】
次に、散乱体と導電性膜との距離について増幅効果を効果的に発揮するための距離の条件を計算により求めた。この例では、散乱体及び導電性膜を図9Aの概略平面図、図9Bの概略断面図に示す形状及び配置構成とする。図9A及びBにおいて、図6と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。図9Aに示すように、この計算例においては、SiO等より成る基体1の上に、棒状の金より成る散乱体10が配置され、その長手方向と直交する方向に関して両側に金より成る導電性膜20が配置される。散乱体10の大きさは、図6に示す例と同様とし、すなわち基準線Lと平行な方向の長さlを100nm、基準線Lと直交する方向の幅wを24nmとする。また、照射光の偏光方向pは基準線Lと平行とした。導電性膜20は略長方形とし、基準線Lと平行な方向の長さmを1600nm、基準線Lと垂直な方向の長さnを600nmとする。これら散乱体10及び導電性膜20が配置される基体1の大きさは、基準線Lと平行な方向の長さLa及び基準線Lと垂直な方向の長さLbを共に2000nmとする。また、散乱体及び導電性膜の厚さは共に30nm、基体1の厚さは250nmとする。図9Bに示すように、この例においても、散乱体10及び導電性膜20の上部すなわち図9A中破線x及びyで示す方向と直交する方向に向かって8nmの間隙31を介してTbFeCo薄膜32が全面的に配置される。照射光の波長λは780nm、基体1の屈折率nbは1.5である。この構成において、散乱体10と導電性膜20との距離aを変化させた場合のTbFeCo薄膜32の表面における電界の2乗の強度について、周囲に導電性膜が存在しない場合のピーク値と導電性膜を設ける場合のピーク値の比にて増幅率の評価を行った。この結果を図10に示す。図10においても、横軸は距離aをλ/nbで規格化した値、すなわちnb/λを乗じた値を示す。また距離aを()内数値として併記する。
【0035】
図10から明らかなように、距離aが非常に小さい領域では、周囲に導電体を配置しない場合よりもむしろ電界強度ピーク値が減少してしまい、距離aが大きくなるにつれ増幅率が大きくなることが分かる。そしてある距離で最大の増幅度を示したあと減少に転じ、更に距離aを大きくしていくと1倍に漸近していく傾向が見られる。この理由は前述の通りである。
図9A及びBに示す計算例では、距離aが150nm、すなわちa×nb/λ≒0.29のとき最大増幅率となり、その値の90%に達するaの範囲は0.2×λ/nb≦a≦0.4×λ/nbである。また増幅率が1.2倍に達する範囲は0.1×λ/nb≦a≦0.6×λ/nbである。
この結果から、距離aは、
0.1×λ/nb≦a≦0.6×λ/nb
の範囲であれば、導電性膜を設けない場合と比較して十分な増幅率が得られるといえる。
【0036】
以上の計算例では導電性膜の散乱体と対向する縁部21Aの形状が基準線Lと平行な方向となる場合について検討したが、この導電性膜の散乱体に臨む縁部21Aの形状が基準線Lに対して垂直に近くなると想定される場合も検討した。すなわちこの計算例では、図11の概略平面図に示すように、導電性膜の散乱体に臨む縁部21Bが基準線Lに対し垂直に近い形状となる導電性膜40を配置する。図11において、図9Aと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。図11に示すように、導電性膜40は略長方形として、基準線Lと平行な方向の長さqを500nm、基準線Lと垂直な方向の長さuを1600nmとする。その他散乱体10や基体1の平面形状、各部の厚さについては図8Aに示す例と同様とし、評価条件も同様として、導電性膜の散乱体に臨む縁部21Bの散乱体10との距離bに対する増幅率の評価を行った。この結果を図12に示す。図12においても、横軸は距離bをλ/nbで規格化した値、すなわちnb/λを乗じた値を示す。また距離bを()内数値として併記する。
【0037】
図12から明らかなように、距離bが比較的近い場合は、増幅率が1に達しない。また、その最大値も比較的低い。この理由は前述の通りであり、縁部21Bの表面電荷による電界が散乱体に影響しない距離まで離しておくことが望ましい。
【0038】
図12の結果からは、導電体を設けない場合と同様の近接場光強度に達する距離bの範囲は、b≧0.3×λ/nbである。
したがって、導電性膜の散乱体に臨む縁部が基準線Lと平行な方向では存在せず、基準線Lと垂直な方向に沿う縁部21Bより構成される場合は、その散乱体からの距離bについて、
b≧0.3×λ/nb
を満たすことが望ましいといえる。
【0039】
次に、導電性膜の散乱体に臨む縁部の形状について、基準線Lに対して平行となる部分と垂直となる部分の両方を含む場合についても検討した。この計算例では、図13の概略平面図に示すように、散乱体10を取り囲むように導電性膜20が配置され、導電性膜20の散乱体10に臨む縁部が基準線Lと平行に近い縁部21Aと、垂直に近い縁部21Bを持つ形状として導電性膜20を配置する。図13において図9及び図11と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。この例では、導電性膜20の基準線Lと垂直な方向の幅w1を600nm、基準線Lと平行な方向の幅w2を500nmとし、その他の部分の寸法形状、材料構成を図9及び図11において説明した例と同様として、散乱体10の長手方向に沿う側面に臨む縁部21Aの散乱体10の側面との距離をa’、散乱体の両端部に臨む縁部21Bの散乱体10の端部との距離をbとし、a=a’+w/2で定義されるaとbをそれぞれ変化させて、増幅率を計算した。この結果を図14に示す。
【0040】
図14において、実線g1はb=100nm、すなわちb×nb/λ=0.19とした場合、実線g2はb=150nm、すなわちb×nb/λ=0.29とした場合、実線g3はb=200nm、すなわちb×nb/λ=0.38とした場合、実線g4はb=250nm、すなわちb×nb/λ=0.48とした場合、実線g5はb=350nm、すなわちb×nb/λ=0.67とした場合を示す。図14から、a=150nm、b=350nm、すなわちa=150×nb/λ=0.29、b=350×nb/λ=0.67のとき、1.8倍の増幅効果が得られることがわかる。なお、b=100nm、すなわち100×nb/λ=0.19とする実線g1においては、距離aによっては1倍以上となるが、1.2倍以上の増幅率を得ることができないことが分かる。したがって、距離bは少なくとも
b≧0.2×λ/nb
を満たし、さらに、
b>0.2×λ/nb
とすることがより望ましい。また、距離aをある範囲内に選定することが望ましいといえる。
以上の考察においては増幅率が1.2倍以上得られる範囲として導電性膜の長さm及びn、散乱体との距離a及びbの好適な範囲を選定したが、1倍を超える増幅率が得られる配置であれば、導電性膜を配置してもよい。
【0041】
また、aとbの関係について、
a≦b
を満たす配置構成であれば、十分な散乱体20の近接場光強度の増幅効果を得ることが可能であるといえる。
【0042】
なお、これら距離a及びbは、上述したように導電性膜の散乱体に臨む縁部のうち基準線Lに対する傾斜角度によって定義する。すなわち、基準線Lに対して±20°以内の略平行を成す縁部と散乱体の近接場光発生位置との距離をa、±45°を超える±90°以下の角度を成す縁部と散乱体の近接場光発生位置との最短距離をbとする。これらの傾斜角度の中間の縁部、すなわち基準線Lに対して角度が±20°を超える±45°以下の縁部については、その散乱体との距離については、距離aよりも大きくすることが近接場光強度の増幅効果を得る上で望ましいといえる。
【0043】
以下、本発明の近接場光発生装置の各実施形態について説明する。
[1]第1の実施形態
先ず、導電性膜を前述の図9A及びBとする場合において、散乱体の形状を変えた各実施形態について、図11の配置とする比較例と共に説明する。各実施形態において、近接場光のピーク値強度の増幅率がどのように変化するかについて検討した。この例では、図15の概略断面構成図に示すように、断面略長方形で厚さ30nmとする散乱体を、SiOより成る基体1上に配置する。そして厚さ方向に8nmの間隙31を介して厚さ6nmのTbFeCo薄膜32を設ける構成とし、散乱体の平面形状を図16A〜Dに示すように変化させて、それぞれの近接場光ピーク値強度について計算した。図16Aにおいては、平面長方形とする例で、基準線Lと平行な方向の長さlを70nm、基準線Lと垂直な方向の幅wを12nmとする。また、図16Bにおいては、角部を半円状とする角丸長方形いわゆる棒状とする場合で、長さlを100nm、幅wを24nmとする。図16Cに示す例は、正三角形状とする場合で、長さlを110nmとする。更に図16Dに示す例では、円形とし、直径を130nmとする。
【0044】
図16A〜Dに示す各形状の散乱体について、周囲に導電体を配置しない場合の近接場光強度ピーク値を1として、図9A及びB、図11に示す導電性膜を配置した際の増幅率を図17及び図18にそれぞれ示す。散乱体以外の各部の寸法形状、配置構成、照射条件は図9及び図11に示す例と同様とする。図17及び図18において、A1〜D1、A2〜D2はそれぞれ、図16A〜Dに示す各形状の散乱体による結果を示す。図17及び図18においても、横軸は距離aをλ/nbで規格化した値、すなわちnb/λを乗じた値を示す。
【0045】
図17の結果より、導電性膜を図9A及びBの配置とする場合、すなわち基準線Lに平行に近い縁部21Aを有する場合は、その散乱体からの距離が一定の距離の範囲内であれば、全ての形状の散乱体10に対して増幅効果が得られることが分かる。
一方図18の結果から、導電性膜を基準線Lに垂直に近い縁部21Bのみ有する形状として配置する比較例においては、大きな増幅効果はなく、この場合は散乱体の形状に関わらず、散乱体との距離が近すぎると逆に近接場光強度を低下させてしまうことが分かる。このため、所定の距離以上離しておくことが望ましい。
【0046】
散乱体の形状については、図16に示す例に限定されるものではなく、例えば楕円、多角形、扇形など、又はこれらの形状と図16に示す形状との組み合わせやその他の曲線を有する形状などでもよい。また、厚み方向に変形したもの、すなわち厚さが途中で変わっている形状でもよく、表面プラズモン共鳴によって所定の箇所に強い近接場光を発生させることができる形状であれば本発明の近接場光発生装置に適用可能である。
【0047】
(2)第2の実施形態
次に、導電体の構成材料、及び照射光の波長を変化させた各実施形態について、同様に検討した。図19A〜Dに各例の散乱体の概略平面図を示す。図19に示す例では、散乱体10を全て角丸長方形(棒状)とする。図19Aに示す例では散乱体の長さlを100nm、幅wを24nmとし、材料を銀として、基体1の材料を石英、入射光の波長を780nmとする。図19Bに示す例では、散乱体の長さlを100nm、幅wを24nm、材料を金として、基体1の材料を石英、入射光の波長を780nmとする。図19Cに示す例では、散乱体の長さlを60nm、幅wを24nm、材料を金とし、基体1の材料をダイヤモンドとし、照射光の波長を780nmとする。図19Dに示す例では、散乱体の長さlを50nm、幅wを24nm、材料を金とし、基体1の材料を石英、入射光の波長を650nmとする。
【0048】
これらの散乱体及び基体1に対して、周囲に導電体を配置しない場合の近接場光強度ピーク値を1として、図9A及びBに示す導体20を配置した際の増幅率を、図11に示す配置とする比較例と共に、図20及び図21にそれぞれ示す。散乱体、基体1以外の各部の寸法形状、配置構成は図9及び図11に示す例と同様とする。なお図20A及び図21Aにおいては横軸を距離とし、図20B及び図21Bにおいては横軸をλ/nbで規格化した距離の値として示す。
【0049】
図20A及びBの結果から、図17に示す例と同様に、導電性膜の基準線Lと平行に近い縁部21Aを、散乱体10からの距離を一定の範囲内の位置に配置することで、全て散乱体及び基体材料の例に対して、増幅効果が得られることが分かる。また、増幅効果が得られる距離aの範囲は、照射光波長λと基体の屈折率nbに依存していることも分かる。そして、距離をnb/λで規格化した値とすることにより、照射光の伝搬する媒質材料や波長によらずにほぼ統一して比較することができるといえる。
また、図21A及びBから明らかなように、導電性膜を基準線Lに垂直に近い縁部21Bのみ有する形状とする比較例においては、大きな増幅効果はなく、この場合は散乱体及び基体の材料や照射光の波長に関わらず、散乱体との距離が近すぎると逆に近接場光強度を低下させてしまうことが分かる。このため、図11に示す配置の導電性膜は所定の距離以上離しておくことが望ましいといえる。
【0050】
なお、散乱体及び導電性膜の材質は、上述の各例に限定されるものではない。これらの材料としては、金属(例えばPt、Cu、Al、Ti、W、Ir、Pd、Mg、Cr)や半導体(例えばSi、GaAs)やカーボンナノチューブなどの導電性の良好な材料であれば適用可能である。また散乱体は、単一の材質である必要はなく、前述したような導電性材料を複数含むものであってもよい。また散乱体と導電性膜の材料は異なるものであってもよい。
【0051】
散乱体及び導電性膜が形成される基体1の材料は、使用波長において光透過性のあるもの、例えば使用波長帯域で透過率が70%以上程度あることが望ましい。基体1を通して効率よく光を散乱体及び導電性膜に入射させるためである。
例えば基体1の材料としては、Si、Ge等のIV属半導体、GaAs、AlGaAs、GaN、InGaN、InSb、GaSb、AlNに代表されるIII−V属化合物半導体、ZnTe、ZnSe、ZnS、ZnO等のII−VI属化合物半導体、ZnO、Al、SiO、TiO、CrO、CeO等の酸化物絶縁体、SiNなどの窒化物絶縁体、プラスチックなどが適用可能である。
【0052】
また、散乱体と基体1との密着性を向上させるために、基体1を酸化物絶縁体や窒化物絶縁体で構成する場合は、散乱体との間に、Zn、Ti、Cr、Alなどから構成される密着層(中間金属層)を形成することが望ましい。これにより、散乱体の基体1からの剥がれを確実に抑制することができ、強度が向上する。
また、照射光の波長については散乱体において表面プラズモン共鳴を励起できる波長であれば適用できる。
【0053】
[3]第3の実施形態
次に、散乱体を複数設ける実施形態において、導電性膜を配置することによる近接場光の増幅効果について検討した結果を説明する。
近接場光強度を増幅するために、近接場光が発生する散乱体の先端近傍に、第2の散乱体を配置する方法が知られている。以下の例では、図22に示すように、2つの散乱体10A及び10Bを基体1上に配置する。各散乱体10A及び10Bはそれぞれ幅wを24nm、基準線L及び照射光の偏光方向に沿う長さlを90nm、厚さを30nmとし、角丸長方形の平面形状として構成する。また各先端部の間隔dsを20nmとする。照射光の波長λは780nm、基体の屈折率は1.5である。この散乱体10A及び10Bに対し、前述の図9A及び9Bにおける場合と同様の形状の導電性膜を配置して、近接場光強度の増幅率を導電性膜の散乱体の側面(導電性膜と対向する面)からの距離a’を変化させて計算した。a=a’+w/2に対する増幅率の結果を図23に示す。図23においても、横軸は距離aをλ/nbで規格化した値、すなわちnb/λを乗じた値を示す。
【0054】
図23より、複数の散乱体10A及び10Bが配置されている場合においても、基準線Lと平行に近い対向面を有する導電体を散乱体10A及び10Bから所定の距離以上の距離をもって配置すると、近接場光強度の増幅効果が得られることがわかる。
上述の例では同じ形状の導電体を2つ並べた場合を示すが、導電体の形状が異なっていてもよいし、3つ以上の導電体で構成されていてもよい。その場合の各導電体との距離の定義は、近接場光を発生させる散乱体の側面から導体の対向面までをa’の距離とする。
【0055】
[4]第4の実施形態
次に、散乱体を段差のある形状として構成する場合において、導電性膜を近接して配置することによる近接場光の増幅効果について検討した結果を説明する。
以下の例では、図24Aの概略平面図、図24Bの概略断面図に示すように、基体1上に段差1Sを設け、この段差1Sに跨って平面が角丸長方形の散乱体10を形成する。基体1上の比較的高い領域上の散乱体の表面を第1の領域11、比較的低い領域上の散乱体の表面を第2の領域12とする。第1及び第2の領域11及び12の間の領域を段差領域11Sとする。このような構成とすると、近接場光を照射する被照射体、例えば情報記録媒体からは、近接場光を発生する第1の領域11のみが近接しており、不要な近接場光が発生する第2の領域12が比較的離間しているため、所望の位置のみに目的とする強度をもって近接場光を照射することができるという利点を有する。このような効果を得るには、段差領域11Sの傾斜角度θgは例えば90°未満であればよい。
【0056】
以下の例では、散乱体の基準線Lに平行な方向の長さlを100nm、照射光の偏光方向と垂直な方向の幅wを24nm、厚さhを30nm、第1の領域11の照射光の偏光方向と平行な方向の長さl1を10nmとする。そして、基体1の段差1Sによって生じる第1の領域11と第2の領域12との高さの差dを20nmとする。また散乱体の材料は金、基体1の材料は石英とする。これに対し、前述の図9A及びBにおいて説明した例と同様の寸法形状、材料構成の導電性膜を配置するが、図25Aに示すように、片側のみ配置する場合と、図25Bに示すように、両側に配置する場合について検討する。図25A及びBにおいて、図24A及びBと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。なお、導電性膜も基体1上の段差1Sに跨って形成し、同様に段差を有する形状とする。またこの場合も照射光の波長λを780nm、基体1の屈折率は1.5である。これらの例における近接場光の増幅率の結果を図26に示す。
【0057】
図26において実線e1は図25Aに示すように導電性膜を片側のみ配置した場合、実線e2は両側に配置した場合を示す。図26の結果から、導電性膜を片側のみに配置する場合においても増幅効果が得られることがわかる。但し、両側に配置する例と比べて増幅率が下がるため、両側に配置することが望ましいといえる。
【0058】
[5]第5の実施形態(直線偏光でない場合)
第1〜第4の実施形態では、基準線Lの方向と照射光の偏光方向が一致している場合であるが、照射光が円偏光の場合について検討した結果を説明する。散乱体の形状を図16B、16C、図16Dに示す例と同じとし、偏光方向以外の条件は第一の実施形態と同じとする。対応する図面を図27A〜Cに示す。図27A〜Cにおいて、図16B〜Cと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。照射光の偏光方向は図27A〜Cに示すとおり時間と共に偏光方向が矢印Rで示すように左回りに変化する円偏光とした。これらの形状において導電性膜の有無で増幅率の変化を評価したところ、図27Aに示す例ではa×(nb/λ)=0.29で増幅率1.8倍、図27Bではa×(nb/λ)=0.31で1.7倍、図27Cではa×(nb/λ)=0.32で1.62倍、第1の実施形態の結果と同じ増幅率が得られる。これは円偏光の照射光内に、第1の実施形態の直線偏光と同じ成分が含まれているため、それに応答して増幅するためである。つまり、照射光が直線偏光以外であっても、増幅効果を得ることが出来る。なお、照射光が楕円偏光の際は、楕円の長軸方向を基準線Lの方向と合わせることで、効率よく表面プラズモンを励起でき、より強い近接場光を得ることが出来る。
【0059】
[6]第6の実施形態(基準線から傾いた直線偏光の場合)
第1〜第4の実施形態では、基準線Lの方向と照射光の偏光方向が一致している場合であるが、図28に示すように、照射光が直線偏光であり、かつ散乱体10の基準線Lに沿う方向と照射光の偏光方向pとが一致せず、すなわち非平行である場合も考えられる。この例について検討した結果を説明する。この場合においても、図29Aに示すように、散乱体10の基準線Lとほぼ平行な縁部21Aを有する導電性膜20を設ける構成とすることが考えられる。この場合、導電性膜の有無で比較すると、第1の実施形態と同じ条件にて1.8倍の増幅率が得られる。図29Aにおいて、図9と対応する部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0060】
これに対し、図29Bに示すように、基準線Lと照射光の偏光方向pが一致しない場合は、照射光の偏光方向pを基準とし、導電性膜20の散乱体10に臨む縁部として、偏光方向pとほぼ平行な縁部21Cを有する配置としてもよい。図示の例においては偏光方向pと、散乱体10の基準線Lとの成す角度を20°としており、散乱体10の重心Gを通り偏光方向pと平行な線を破線L’として示す。ここで、散乱体10から導電性膜20までの最短距離をa’、照射光の偏光方向p及び進行方向kに垂直となる方向の散乱体10の最大幅をwとし、またa=a’+w/2で表されるaを定義する。また導電性膜20の散乱体10に臨む縁部21Cの照射光の偏光方向と略平行となる部分の長さをm、照射光の偏光方向と垂直な方向の導電性膜20の平均幅をnとする。その他の条件を第1の実施形態と同じとしたとき、第1の実施形態と同様に、導電性膜20を設けない場合と比較して1.8倍の増幅率が得られる。よって、基準線Lの方向と直線偏光の照射光の偏光方向が一致しない場合には基準線Lの代わりに偏光方向を基準としてもよいことが分かる。
すなわちこの場合、散乱体10に照射される光の偏光方向pと、導電性膜20の散乱体10に臨む側の縁部21Cの少なくとも一部とが、導電性膜20が形成されている面に垂直な方向、図29Bの例では照射光の進行方向kから見て略平行となるように配置すればよいことが分かる。
【0061】
ここで、図29Bの例において、導電性膜20を設けない場合と比較して、上述したように1.8倍の増幅率が得られているが、散乱体の長さm及び幅n、導電性膜の縁部との距離a及びbについても図9A及びBに示す実施形態の例と同様の増幅結果を得る。したがって、この場合においても、導電性膜の前記散乱体に臨む縁部のうち、散乱体に照射される光の偏光方向に対して45°を超える90°以下を成す縁部における散乱体からの最短距離をbとしたとき、
b≧0.2×λ/nb
を満たすことによって、増幅率の低下を抑えることができる。
【0062】
また、散乱体に照射される光の偏光方向と略平行となる導電性膜の縁部までの散乱体からの最短距離をa’、散乱体に照射される光の偏光方向及び進行方向に垂直となる方向の散乱体の最大幅をwとしたとき、a=a’+w/2で表される距離aが、
0.1×λ/nb≦a≦0.6×λ/nb
を満たすことが望ましい。このように距離aを選定することによって、近接場光の増幅率を1.2以上とすることが可能となる。
【0063】
また、導電性膜の散乱体に臨む縁部の散乱体に照射される光の偏光方向と略平行となる部分の長さをmとしたとき、
m≧0.3×λ/nb
を満たすことが望ましい。
更に、散乱体に照射される偏光方向と垂直な方向の導電性膜の平均幅をnとしたとき、
n≧0.08×λ/nb
を満たすことが望ましい。このようにm及びnを選定することで、同様に近接場光の増幅率を1.2倍以上とすることが可能となる。
【0064】
また、導電性膜の散乱体に照射される光の偏光方向と略平行となる縁部までの散乱体からの最短距離をa’、散乱体に照射される光の偏光方向及び進行方向に垂直となる方向の散乱体の最大幅をwとして、距離aをa=a’+w/2とし、導電性膜の散乱体に臨む縁部のうち、前記散乱体に照射される光の偏光方向に対して45°を超える90°以下を成す縁部における前記散乱体からの最短距離をbとしたとき、
a≦b
を満たすことによって、増幅率の低下を招くことなく、同様に近接場光の増幅率を1.2倍以上とすることが可能となる。
【0065】
なお、偏光方向pが散乱体10の基準線Lと平行な場合と比較すると、偏光方向が20°傾いている場合は、導電性膜を設けない場合で近接場光強度のピーク値が0.88倍程度に減少する。これに対し、導電性膜を設ける場合は図29A及びBに示す例では共にピーク値が1.6倍(0.88×1.8)程度となる。つまり、散乱体10の基準線Lはできるだけ照射光の偏光方向と平行とすることが望ましく、平行でない場合においても、導電性膜を設けることによって、近接場光を増幅できることがわかる。
【0066】
また、散乱体の基準線Lと照射光の偏光方向pとの傾斜角度は20°以下程度であれば、導電性膜を配置することによる近接場光の増幅効果が得られることがわかる。更にこのこことから、散乱体の基準線Lと照射光の偏光方向pとがほぼ平行である場合に、配置する導電性膜の散乱体に臨む縁部は、基準線Lに対する傾斜角度が±20°程度以下であれば、同様に近接場光の増幅効果が得られることが予測できる。したがって、上述の如く、散乱体に臨む縁部の距離aとして、傾斜角度が±20°以下の縁部について規定するものである。
【0067】
[7]第7の実施形態
第7の実施形態として、導電体を配置して近接場光強度の増幅を図るとともに、磁界発生用のコイルの役割を兼ねる例について説明する。
例えば図30に示すように、基体1上に段差1Sを設け、この段差1Sに跨って散乱体を設け、更にその周囲を取り巻くように導電性膜を配置する。図30において、図24と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
このような構成として導電性膜20に電流を流すと、図31に示すように、導電性膜20の周囲に磁界Hが発生し、特に近接場光発生領域、すなわちこの場合散乱体10の第1の領域11に垂直磁界Hvを発生させることができる。図31において、図30と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。このような構成を情報記録媒体に対する近接場光発生装置として用いることにより、熱アシスト磁気記録が可能となる。その際、散乱体10は発生させる近接場光が強くなるように、導電性膜20は抵抗による損失が小さくなるように構成することが望ましいため、それぞれの条件に好適となるよう異なる材質の導電体で構成しても良い。
【0068】
図31に示す例では、散乱体10を取り囲む磁界発生用の導電性膜は1つすなわち1巻き分設ける場合であるが、同様の役割を果たす磁界発生用の導電性膜を複数設けてもよい。複数設ける場合はそれぞれの発生磁界が重ね合わされることから、より大きな磁界を発生させることができる。
【0069】
図30に近い形状として、図13において説明した平面構成とする例を検討すると、増幅率は前述の図14に示す結果と同様となる。前述した通り、距離bは100nm以上なるべく大きくし、また、距離a(a=a’+w/2)をある範囲内に選定することで大きな増幅率が得られる。
【0070】
なお、情報記録媒体に対して熱アシスト記録を行う場合は、近接場光を照射する位置において所望の温度上昇が生じるには時間的な遅延が生じる。したがって、近接場光照射位置と、印加する磁界の強度ピーク位置とは多少ずれていることが望ましい。図32にこの様子を模式的に示す。図32において横軸は時間tであり、実線f1は照射光強度、実線f2は照射面温度を示す。それぞれのピーク位置にずれが生じていることが分かる。この時間遅延により生じる距離的なずれは、情報記録媒体の記録密度、記録及び/又は再生時の線速等の条件にもよるが、概ね10nmから100nm程度と見積もることができる。
本発明の近接場光発生装置において導体を散乱体の周囲に設ける場合は、上述の各例から明らかなように、10nmから100nmの範囲の距離的なずれをもって磁界強度ピーク位置と近接場光強度ピーク位置とを配置構成することが可能である。
したがって、情報記録媒体の記録及び/又は再生に適した近接場光の増幅及び磁界発生を行うことができるといえる。
【0071】
以上説明した実施形態例は全て散乱体及び導体が光透過性の基体の表面に形成される例を示すが、散乱体及び導電性膜の一部あるいは全てが光透過性の基体に埋め込まれる形状となっていてもよい。
また、散乱体及び導電性膜は、集光素子上の集光点、光導波路の終端、共振器の近傍、半導体レーザの出射面近傍、光検出器の受光面近傍のいずれかに形成されていてもよい。このような構成とすることによって、散乱体に対して所望の強度の光を効率よく照射することが可能となり、また各部を一体化することによって、光学的調整作業の簡易化を図ることが可能となる。
【0072】
なお、いずれの場合においても、図2〜図4において説明した導電性膜を設けることにより生じる光強度の増幅効果を考慮すると、導電性膜は散乱体が形成される面とほぼ同一の面上に形成されることが望ましいといえる。
【0073】
上述の第4及び第7の実施形態においては、散乱体を段差のある基体上に設ける例であり、段差の上面側すなわち近接場光を照射する被照射体に対してより近接する面において、被照射体に照射する近接場光の強度を高めることができる場合である。散乱体を平坦な面上に配置する場合においても、導電性膜の配置を工夫することによってこのような効果を期待することができる。
図33にこの場合の散乱体10及び導電性膜20の概略平面構成図を示す。図33において、図13と対応する部分には同一の符号を付して重複説明を省略する。この例では、散乱体10の長手方向の一端である近接場光発生位置Nに対し、その他端の近接場光発生位置N’側において、導電性膜20の縁部21Bを近接させる配置とするものである。すなわち、位置N側における縁部21B1との最短距離をb1、位置N’側における縁部21B2との最短距離をb2とすると、
b1<b2
とするものである。このように距離b1及びb2を選定することによって、目的とする位置での近接場光強度増幅への影響を一方では弱め、一方ではつよめるように制御することができる。より好ましくは、照射光の波長をλ、散乱体10に至る媒質の屈折率をnbとするとき、
b1≧0.2×λ/nb
b2<0.2×λ/nb
とすればよいといえる。
【0074】
なお、図33においては、縁部21A側の散乱体10との距離aを均一とする例を示すが、この限りではない。距離aを位置N’側において必要以上に近接させるか又は離間させるなど、増幅効果を得るために適切な距離範囲とは異なる距離に選定してもよい。また、例えば上述の第4及び第7の実施形態と同様に、段差を有する基体上に散乱体を形成してもよい。すなわち、目的とする近接場光発生箇所とは異なる発生箇所において、散乱体の位置を、距離aについては近接場光を照射する被照射体から離間させ、距離bについては導電性膜の距離を選定することによって増幅効果を抑えるか低減させる構成としてもよい。
【0075】
[8]第8の実施形態
次に、本発明の近接場光発生装置を適用した情報記録再生装置の一例について説明する。図34に本発明の実施形態例に係る情報記録再生装置の概略斜視構成図を示す。図34に示すように、この情報記録再生装置200は、情報記録媒体51と対向して散乱体及び導体が設けられる基体1と、散乱体及びその周囲に設ける導体に光源からの出射光Lを導く機能を有する光学系110とを有する。なお、散乱体及び導電性膜の形状及び配置構成は、上述の各実施形態例において説明した構成とすることができる。
【0076】
図34に示す例においては、情報記録媒体51は例えばディスク状とされ、回転駆動部120上の図示しない載置台上に載置固定されて、回転軸121を中心に高速で回転するようになされる。散乱体を設ける基体1は、例えば情報記録媒体51と散乱体の近接場光発生位置との間隔が数10nm以下になるよう保ちながら高速に情報記録媒体51と相対的に走行できるように例えばスライダ状に形成され、サスペンション122に取り付けられる。このサスペンション122の弾性力により、基体1が情報記録媒体51側に所望の微小な間隔をもって対向される構成とする。サスペンション122は図示しないが情報記録再生装置200内に支持される。そして、基体1の導電体を設ける側とは反対側の裏面から、光源(図示せず)を有する光学系110によって、入射光Lを入射させる構成とする。
【0077】
この光学系110の一例の概略構成図を図35に示す。図35に示す例においては、光源101と、その出射光路上に集光レンズ等の集光素子103、ビームスプリッタ104が配置され、ビームスプリッタ104による反射光路上に、偏光子105、集光素子106及び受光部107がこの順に配置される場合を示す。光源101から出射された光は集光素子103によって集光されて、ビームスプリッタ104を通過して基体1の散乱体及び導電性膜の少なくとも一部に照射され、表面プラズモンを励起して近接場光を情報記録媒体51の所定の領域、すなわち記録トラックの所定位置上に照射する。情報記録媒体51から反射された光は、光学系110のビームスプリッタ104において反射されて、例えば偏光子105を通過して集光素子106により受光部107上に集光されて検出される。なお、この光学系110は基体1と一体に形成して、基体1と共に図34に示すサスペンション122に取り付ける構成としてもよい。
【0078】
情報記録媒体51として光磁気記録媒体を用い、本発明構成の情報記録再生装置の散乱体を用いて近接場光照射を行い、更に磁界発生部による磁界の印加により磁気記録膜の磁化の向きを変化させることによって記録マークを形成することができる。再生は、情報記録媒体51から戻ってくる光の強度変化を図35に示す構成の光学系110の受光部107において検出することにより行う。すなわち、近接場光が情報記録媒体51により散乱される割合が、記録マークの有無により変化するので、その散乱光の強度変化を検出することにより再生を行う。図35に示す光学系110においては、情報記録媒体51からの信号光は、ビームスプリッタ104により入射光と分離し、偏光子105及び集光素子106を通過させた後、受光部107で検出する。ここで、情報記録媒体51からの信号光の偏光方向が、入射光の偏光方向と異なっている場合、図35に示すように偏光子105を光路中に置き、偏光子105の偏光方向が入射光の偏光方向に対し直角になるようにすると、コントラストを向上させることができる。
【0079】
上述の情報記録再生装置200において、情報記録媒体51としては光磁気記録媒体に限定されるものではなく、磁気記録媒体を用いてもよい。また、その他相変化媒体、色素媒体等を用いることも可能である。
また、本発明の情報記録再生装置においては、再生専用の磁気再生ヘッドを別途設けてもよい。このように磁気再生ヘッドを用いることにより、上述した光学系110における光検出用の光学部品が不要になるため、装置を小型化することができる。また、記録専用の情報記録装置として構成することももちろん可能である。
【0080】
図36A及びBに、散乱体及び導電性膜を半導体レーザの出射面近傍に形成した場合の斜視構成図及び側面構成図を示す。ここでは、半導体レーザ150の出射面に光透過性のある基体1が設けられ、その基体1の表面に散乱体10及び導電性膜20が形成される。半導体レーザ150のクラッド層151,153に挟まれた活性層152の出射端面から光が基体1の散乱体10に向かって照射される。このような構成とすることにより、半導体レーザ150からの出射ビームが直接散乱体10及び導電性膜20に照射され、散乱体10の表面に近接場光を発生させることが出来る。導電性膜20は前述の通り磁界発生手段を兼ねてもよく、この半導体レーザ150を浮上スライダの側面に配置することにより、熱アシスト記録用のヘッドを構成することが出来る。例えば熱アシストによる磁気記録を行った場合には、再生は別途設けた磁気再生ヘッドを使用してもよい。
【0081】
以上説明したように、本発明の近接場光発生装置、近接場光発生方法及び情報記録再生装置によれば、以下の効果が得られる。
1.散乱体と導電性膜との距離に対する増幅率の変化が緩やかであり、導電体の配置精度は許容範囲が広いので、散乱体の形状を工夫して近接場光の強度を増幅する場合と比較すると、散乱体の形状の精度よりも格段に大きい許容度をもって容易に製造することが可能であり、したがって容易に近接場光を増幅することが可能となる。
2.同様に、散乱体の基準線Lで規定される方向に対して略平行となる対向面を有する導電性膜はある大きさ以上であればよく、その形状精度の許容範囲が広いので、散乱体の形状を工夫する場合と比較すると容易に製造することが可能であり、容易に近接場光の増幅が可能となる。
すなわち本発明によれば、散乱体自体の形状構成を複雑化してその製造を煩雑化することなく、導電性膜を適切な条件をもって散乱体の近傍に配置することによって、近接場光の強度を容易且つ確実に高めることができるといえる。
【0082】
3.種々の形状の散乱体に対して近接場光の増幅効果が得られ、また複数の散乱体を使用した近接場光発生装置、近接場光発生方法及び情報記録再生装置に適用する場合においても、同様に近接場光の増幅効果があり、更に光利用効率の高い近接場光発生装置を得ることができる。
【0083】
4.増幅効果をもつ導電性膜の形状自由度が高いことから、磁界発生手段の役割をもたせることが可能で且つ容易であり、機能集積化に有利である。
5.散乱体近傍に導電性膜によって磁界を発生させる際、導電性膜で囲まれた領域全体に磁界を発生させることができるため、近接場光発生箇所と磁界発生箇所の相対位置の最適化、すなわち微小な位置合わせをする必要なく、製造の簡易化を図ることができる。
【0084】
なお、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本発明は情報記録装置のみならず近接場光を使用する応用装置に適用可能であり、例えば近接場光学顕微鏡、近接場光露光装置等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の一例の概略斜視構成図である。
【図2】A〜Cは本発明の近接場光発生装置における照射光強度及び近接場光の増幅効果の説明図である。
【図3】A及びBは比較例の照射光強度の説明図である。
【図4】A〜Dは本発明の実施形態に係る近接場光発生装置及び比較例における照射光強度の増幅効果を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の散乱体及び導電性膜の一例の形状及び配置構成の説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の一例の要部の概略平面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置における導電性膜の長さに対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置における導電性膜の平均幅に対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図9】A及びBは本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の一例の要部の概略平面図及び概略断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置における散乱体と導電性膜との距離に対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図11】比較例による近接場光発生装置の一例の要部の概略平面図である。
【図12】比較例による近接場光発生装置における散乱体と導電性膜との距離に対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図13】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の一例の要部の概略平面図である。
【図14】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置における散乱体と導電性膜との距離に対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図15】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の一例の要部の概略断面図である。
【図16】A〜Dは本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の散乱体の各例の概略平面図である。
【図17】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置における散乱体と導電性膜との距離に対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図18】近接場光発生装置の比較例における散乱体と導電性膜との距離に対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図19】A〜Dは本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の散乱体の各例の概略平面図である。
【図20】A及びBは本発明の実施形態に係る近接場光発生装置における散乱体と導電性膜との距離に対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図21】A及びBは近接場光発生装置の比較例における散乱体と導電性膜との距離に対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図22】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の一例の要部の概略平面図である。
【図23】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置における散乱体と導電性膜との距離に対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図24】A及びBは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例の要部の概略平面図及び概略断面図である。
【図25】A及びBは本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の各例の要部の概略斜視図である。
【図26】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置における散乱体と導電性膜との距離に対する近接場光の増幅率の変化を示す図である。
【図27】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置における散乱体の各例の概略平面構成図である。
【図28】散乱体と照射光の偏光方向との位置関係を示す説明図である。
【図29】A及びBは本発明の実施形態に係る近接場光発生装置における散乱体及び導電性膜の各例の概略平面構成図である。
【図30】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の一例の要部の概略斜視図である。
【図31】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の一例の要部の概略斜視図である。
【図32】被照射体上の近接場光強度と照射面温度の時間分布を示す図である。
【図33】本発明の実施形態に係る近接場光発生装置の一例の要部の概略平面構成図である。
【図34】本発明の実施形態に係る情報記録再生装置の一例の概略斜視構成図である。
【図35】本発明の実施形態に係る情報記録再生装置の一例の概略構成図である。
【図36】A及びBは本発明の実施形態に係る情報記録再生装置の一例の概略斜視構成図及び側面図である。
【図37】従来の散乱体の一例の概略斜視構成図である。
【図38】従来の散乱体を用いた近接場光の発生原理を説明する概略構成図である。
【符号の説明】
【0086】
1.基体、1S.段差、10.散乱体、11.第1の領域、12.第2の領域、20.導電性膜、21.縁部、21A〜21C.縁部、51.情報記録媒体、100.近接場光発生装置、101.光源、102.コリメータレンズ、103.集光素子、104.ビームスプリッタ、105.偏光子、106.集光素子、107.受光部、110.光学系、200.情報記録再生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射により近接場光を発生させるための導電性の散乱体と、導電性膜とを備え、
前記近接場光の発生箇所と前記散乱体の重心とを結ぶ直線を基準線としたとき、前記基準線と前記導電性膜の前記散乱体に臨む側の縁部の少なくとも一部とが、前記導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となる
ことを特徴とする近接場光発生装置。
【請求項2】
前記散乱体及び前記導電性膜が、光透過性の基体の一面上に配置されたことを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項3】
前記散乱体に照射される光の波長をλ、前記散乱体に照射する光が前記散乱体に至るまでの媒質の屈折率をnbとし、前記導電性膜の前記散乱体に臨む縁部のうち、前記基準線に対して45°を超える90°以下を成す縁部における前記散乱体からの最短距離をbとすると、
b≧0.2×λ/nb
を満たすことを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項4】
前記散乱体に照射される光の波長をλ、前記散乱体に照射する光が前記散乱体に至るまでの媒質の屈折率をnbとし、前記導電性膜の前記基準線と略平行となる縁部までの前記散乱体からの最短距離をa’、前記散乱体に照射される光の進行方向及び前記基準線に垂直となる方向の前記散乱体の最大幅をwとすると、a=a’+w/2で表される距離aが、
0.1×λ/nb≦a≦0.6×λ/nb
を満たすことを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項5】
前記散乱体に照射される光の波長をλ、前記散乱体に照射する光が前記散乱体に至るまでの媒質の屈折率をnbとし、前記導電性膜の前記散乱体に臨む縁部の前記基準線と略平行となる部分の長さをmとすると、
m≧0.3×λ/nb
を満たすことを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項6】
前記散乱体に照射される光の波長をλ、前記散乱体に照射する光が前記散乱体に至るまでの媒質の屈折率をnbとし、前記基準線と垂直な方向の前記導電性膜の平均幅をnとすると、
n≧0.08×λ/nb
を満たすことを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項7】
前記導電性膜の前記基準線と略平行となる縁部までの前記散乱体からの最短距離をa’、前記散乱体に照射される光の進行方向及び前記基準線に垂直となる方向の前記散乱体の最大幅をwとして、距離aをa=a’+w/2とし、
前記導電性膜の前記散乱体に臨む縁部のうち、前記基準線に対して45°を超える90°以下を成す縁部における前記散乱体からの最短距離をbとすると、
a≦b
を満たすことを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項8】
前記散乱体における近接場光の発生箇所が2以上であり、
前記発生箇所のうち1箇所の近接場光の発生箇所と、他の近接場光の発生箇所とにおける、前記導電性膜の前記散乱体に臨む縁部のうち前記基準線に対して45°を超える90°以下を成す縁部までの最短距離を、それぞれb1及びb2とすると、
b1>b2
を満たすことを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項9】
前記導電性膜に電流を流すことによって、前記散乱体の周囲に磁界を発生させることを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項10】
前記散乱体と前記導電性膜の材質が異なることを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項11】
前記散乱体及び前記導電性膜が集光素子上の集光点、光導波路の終端、共振器の近傍、半導体レーザの出射面近傍、光検出器の受光面近傍の何れかに形成されたことを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項12】
近接場光を発生させるための導電性の散乱体と、導電性膜とを用いて、
前記近接場光の発生箇所と前記散乱体の重心とを結ぶ直線を基準線としたとき、前記基準線と前記導電性膜の前記散乱体に臨む側の縁部の少なくとも一部とを、前記導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となるように配置して、
前記散乱体に発生する近接場光の強度を、前記導電性膜が配置されない場合と比較して増幅する
ことを特徴とする近接場光発生方法。
【請求項13】
光の照射により近接場光を発生させるための導電性の散乱体と、導電性膜とを備え、
前記散乱体に照射される光の偏光方向と、前記導電性膜の前記散乱体に臨む側の縁部の少なくとも一部とが、前記導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となる
ことを特徴とする近接場光発生装置。
【請求項14】
前記散乱体及び前記導電性膜が、光透過性の基体の一面上に配置されたことを特徴とする請求項13記載の近接場光発生装置。
【請求項15】
前記散乱体に照射される光の波長をλ、前記散乱体に照射する光が前記散乱体に至るまでの媒質の屈折率をnbとし、前記導電性膜の前記散乱体に臨む縁部のうち、前記散乱体に照射される光の偏光方向に対して45°を超える90°以下を成す縁部における前記散乱体からの最短距離をbとすると、
b≧0.2×λ/nb
を満たすことを特徴とする請求項13記載の近接場光発生装置。
【請求項16】
前記散乱体に照射される光の波長をλ、前記散乱体に照射する光が前記散乱体に至るまでの媒質の屈折率をnbとし、前記散乱体に照射される光の偏光方向と略平行となる前記導電性膜の縁部までの前記散乱体からの最短距離をa’、前記散乱体に照射される光の偏光方向及び進行方向に垂直となる方向の前記散乱体の最大幅をwとすると、a=a’+w/2で表される距離aが、
0.1×λ/nb≦a≦0.6×λ/nb
を満たすことを特徴とする請求項13記載の近接場光発生装置。
【請求項17】
前記散乱体に照射される光の波長をλ、前記散乱体に照射する光が前記散乱体に至るまでの媒質の屈折率をnbとし、前記導電性膜の前記散乱体に臨む縁部の前記散乱体に照射される光の偏光方向と略平行となる部分の長さをmとすると、
m≧0.3×λ/nb
を満たすことを特徴とする請求項13記載の近接場光発生装置。
【請求項18】
前記散乱体に照射される光の波長をλ、前記散乱体に照射する光が前記散乱体に至るまでの媒質の屈折率をnbとし、前記散乱体に照射される偏光方向と垂直な方向の前記導電性膜の平均幅をnとすると、
n≧0.08×λ/nb
を満たすことを特徴とする請求項13記載の近接場光発生装置。
【請求項19】
前記導電性膜の前記散乱体に照射される光の偏光方向と略平行となる縁部までの前記散乱体からの最短距離をa’、前記散乱体に照射される光の偏光方向及び進行方向に垂直となる方向の前記散乱体の最大幅をwとして、距離aをa=a’+w/2とし、
前記導電性膜の前記散乱体に臨む縁部のうち、前記散乱体に照射される光の偏光方向に対して45°を超える90°以下を成す縁部における前記散乱体からの最短距離をbとすると、
a≦b
を満たすことを特徴とする請求項13記載の近接場光発生装置。
【請求項20】
前記散乱体における近接場光の発生箇所が2以上であり、
前記発生箇所のうち1箇所の近接場光の発生箇所と、他の近接場光の発生箇所とにおける、前記導電性膜の前記散乱体に臨む縁部のうち前記散乱体に照射される光の偏光方向に対して45°を超える90°以下を成す縁部までの最短距離を、それぞれb1及びb2とすると、
b1>b2
を満たすことを特徴とする請求項13記載の近接場光発生装置。
【請求項21】
前記導電性膜に電流を流すことによって、前記散乱体の周囲に磁界を発生させることを特徴とする請求項13記載の近接場光発生装置。
【請求項22】
前記散乱体と前記導電性膜の材質が異なることを特徴とする請求項13記載の近接場光発生装置。
【請求項23】
前記散乱体及び前記導電性膜が集光素子上の集光点、光導波路の終端、共振器の近傍、半導体レーザの出射面近傍、光検出器の受光面近傍の何れかに形成されたことを特徴とする請求項13記載の近接場光発生装置
【請求項24】
近接場光発生させるための導電性の散乱体と、導電性膜とを用いて、
前記散乱体に照射される光の偏光方向と、前記導電性膜の前記散乱体に臨む側の縁部の少なくとも一部を、前記導電性膜が形成されている面に垂直な方向から見て略平行となるように配置して、
前記散乱体に発生する近接場光の強度を、前記導電性膜が配置されない場合と比較して増幅する
ことを特徴とする近接場光発生方法。
【請求項25】
光源と、情報記録媒体と対向する散乱体と、前記散乱体に前記光源からの出射光を導く機能を有する光学系とを有し、
前記散乱体から発生する近接場光を前記情報記録媒体の所定位置に照射して記録及び/又は再生が行われ、
前記散乱体の近傍に導電性膜を備え、前記導電性膜がない場合と比較して前記散乱体が配置される位置の光強度が大きくなるように前記導電性膜が配置された
ことを特徴とする情報記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図4】
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