説明

近接場光記録素子、近接場光ヘッド及び情報記録再生装置

【課題】小型化を図りながら低コストで容易に製造できると共に、近接場光を効率良く発生させて、書き込みの信頼性を向上すること。
【解決手段】平面視四角形状に形成され、外部から光束が導入される底面30aと、該底面より小さな面積で平面視四角形状に形成された端面30bと、底面及び端面の頂点をそれぞれ結んで形成された4つの側面30cとを有するコア30と、4つの側面のうち、いずれかの側面上に形成された金属膜31と、金属膜が形成された側面に隣接する2つの側面上に形成され、両者の間に磁界を発生させる第1及び第2の磁極32、33とを備え、金属膜が形成されている側面が磁気記録媒体の移動方向に平行になるようにコアが配され、コアの端面が、光束が導入されたときに近接場光を発生させるサイズに形成されている近接場光記録素子20を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場光を利用して磁気記録媒体に各種の情報を超高密度で記録することができる近接場光記録素子、該近接場光記録素子を有する近接場光ヘッド及び該近接場光ヘッドを有する情報記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ機器におけるハードディスク等の容量増加に伴い、単一記録面内における情報の記録密度が増加している。例えば、磁気ディスクの単位面積当たりの記録容量を多くするためには、面記録密度を高くする必要がある。ところが、記録密度が高くなるにつれて、記録媒体上で1ビット当たりの占める記録面積が小さくなっている。このビットサイズが小さくなると、1ビットの情報が持つエネルギーが、室温の熱エネルギーに近くなり、記録した情報が熱揺らぎ等のために反転したり、消えてしまったりする等の熱減磁の問題が生じてしまう。
【0003】
一般的に用いられてきた面内記録方式では、磁化の方向が記録媒体の面内方向に向くように磁気を記録する方式であるが、この方式では上述した熱減磁による記録情報の消失等が起こり易い。そこで、このような不具合を解消するために、記録媒体に対して垂直な方向に磁化信号を記録する垂直記録方式に移行しつつある。この方式は、記録媒体に対して、単磁極を近づける原理で磁気情報を記録する方式である。この方式によれば、記録磁界が記録膜に対してほぼ垂直な方向を向く。垂直な磁界で記録された情報は、記録膜面内においてN極とS極とがループを作り難いため、エネルギー的に安定を保ち易い。そのため、この垂直記録方式は、面内記録方式に対して熱減磁に強くなっている。
【0004】
しかしながら、近年の記録媒体は、より大量且つ高密度情報の記録再生を行いたい等のニーズを受けて、さらなる高密度化が求められている。そのため、隣り合う磁区同士の影響や、熱揺らぎを最小限に抑えるために、保磁力の強いものが記録媒体として採用され始めている。そのため、上述した垂直記録方式であっても、記録媒体に情報を記録することが困難になっていた。
【0005】
そこで、この不具合を解消するために、近接場光により磁区を局所的に加熱して一時的に保磁力を低下させ、その間に書き込みを行うハイブリッド磁気記録方式(近接場光アシスト磁気記録方式)が提供されている。このハイブリッド磁気記録方式は、微小領域と、近接場光ヘッドに形成された光の波長以下のサイズに形成された光学的開口との相互作用により発生する近接場光を利用する方式である。このように、光の回折限界を超えた微小な光学的開口、即ち、近接場光発生素子を有する近接場光ヘッドを利用することで、従来の光学系において限界とされていた光の波長以下となる領域における光学情報を扱うことが可能となる。よって、従来の光情報記録再生装置等を超える記録ビットの高密度化を図ることができる。
なお、近接場光発生素子は、上述した光学的微小開口によるものだけでなく、例えば、ナノメートルサイズに形成された突起部により構成しても構わない。この突起部によっても、光学的微小開口と同様に近接場光を発生させることができる。
【0006】
上述したハイブリッド磁気記録方式による記録ヘッドとしては、各種のものが提供されているが、その1つとして、光スポットのサイズを縮小して記録密度の増大化を図った磁気記録ヘッドが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
この磁気記録ヘッドは、主に主磁極と、補助磁極と、螺旋状の導体パターンが絶縁体の内部に形成されたコイル巻線と、照射されたレーザ光から近接場光を発生させる金属散乱体と、金属散乱体に向けてレーザ光を照射する平面レーザ光源と、照射されたレーザ光を集束させるレンズとを備えている。これら各構成品は、ビームの先端に固定されたスライダの先端面に取り付けられている。
【0007】
主磁極は、一端側が記録媒体に対向した面となっており、他端側が補助電極に接続されている。つまり、主磁極及び補助電極は、1本の磁極(単磁極)を垂直方向に配置した単磁極型垂直ヘッドを構成している。また、コイル巻線は、磁極と補助電極との間を一部が通過するように補助電極に固定されている。これら磁極、補助電極及びコイル巻線は、全体として電磁石を構成している。
主磁極の先端には、金等からなる上記金属散乱体が取り付けられている。また、金属散乱体から離間した位置に上記平面レーザ光源が配置されると共に、該平面レーザ光源と金属散乱体との間に上記レンズが配置されている。
上述した各構成品は、スライダの先端面側から、補助磁極、コイル巻線、主磁極、金属散乱体、レンズ、平面レーザ光源の順に取り付けられている。
【0008】
このように構成された磁気記録ヘッドを利用する場合には、近接場光を発生させると同時に記録磁界を印加することで、記録媒体に各種の情報を記録している。
即ち、平面レーザ光源からレーザ光を照射させる。このレーザ光は、レンズによって集束され、金属散乱体に照射される。すると金属散乱体は、内部の自由電子がレーザ光の電場によって一様に振動させられるのでプラズモンが励起されて先端部分に近接場光を発生させる。その結果、記録媒体の磁気記録層は、近接場光によって局所的に加熱され、一時的に保磁力が低下する。
また、上記レーザ光の照射と同時に、コイル巻線の導体パターンに駆動電流を供給することで、主磁極に近接する記録媒体の磁気記録層に対して記録磁界を局所的に印加する。これにより、保磁力が一時的に低下した磁気記録層に各種の情報を記録することができる。つまり、近接場光と磁場との協働により、記録媒体への記録を行うことができる。
【0009】
更に、上述した磁気記録ヘッドに対して、さらに予熱機構を組み合わせた磁気記録ヘッドも知られている(例えば、特許文献3参照)。
この磁気記録ヘッドは、上述した主磁極と補助磁極との間に、予熱機構である抵抗ヒータを備えている。この抵抗ヒータは、主磁極及び金属散乱体に比べて先端面積が大きいので、加熱する対象領域が広く温度勾配が低い。そのため、抵抗ヒータは、記録媒体の磁気記録層に対して、予め予熱する程度の熱しか加えることができないようになっている。
このように構成された磁気記録ヘッドによれば、予め抵抗ヒータによって磁気記録層を予熱できるので、近接場光を発生させる金属散乱体における発熱を低減することができる。よって、温度上昇による金属散乱体の劣化や、損傷の可能性等を低下させることができ、耐久性の向上化を図ることができる。
【特許文献1】特開2004−158067号公報
【特許文献2】特開2005−4901号公報
【特許文献3】特開2005―78689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来の磁気記録ヘッドには、まだ以下の課題が残されていた。
即ち、上記特許文献1及び2に記載されている磁気記録ヘッドでは、金属散乱体が、走査方向の最後端に位置するように主磁極の外側に設けられているので、磁気記録層に情報を記録する際に、記録磁界を印加している位置に対して効率良く加熱を行うことが困難なものであった。つまり、記録媒体の回転に伴って磁気記録層は、補助磁極、磁極、金属散乱体の順に移動するので、近接場光で加熱される前に記録磁界が印加されてしまう。そのため、記録磁界が印加された領域外に、近接場光による加熱温度のピーク位置がきてしまい、書き込みの信頼性が劣るものであった。
特に、近接場光による温度勾配は、記録媒体の走査方向に対して遅れる傾向にあるので、加熱温度のピーク位置が金属散乱体の真下からずれてしまうと考えられる。この点を考慮すると、実際には加熱温度のピーク位置が記録磁界の印加領域からさらに外れる方向にずれてしまい、正確な書き込みを行えない可能性が高かった。
【0011】
一方、特許文献3に記載されている磁気記録ヘッドは、主磁極と補助磁極との間に抵抗ヒータ等の予熱機構を備えているので、上述した書き込みの信頼性の問題点を解消する構成にはなっているが、その反面、構成品としてさらに予熱機構が加わるので、構成がさらに煩雑になり大型化してしまう不都合があった。
【0012】
更に、上記特許文献1から3に記載されている磁気記録ヘッドでは、記録トラック幅をより小さくしてさらなる高密度記録化を図ろうとする場合、両磁極の間隔を狭めたり、金属散乱体のサイズをさらに小さく設計したりする等、構成品自体のサイズをさらに微細化する必要がある。そのため、製造の困難化や高コスト化を招いてしまい、容易に行えるものではなかった。
【0013】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、小型化を図りながら低コストで容易に製造できると共に、近接場光を効率良く発生させて、書き込みの信頼性が向上した近接場光記録素子、近接場光ヘッド及び情報記録再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明に係る近接場光記録素子は、導入された光束から近接場光を発生させて、一定方向に回転する磁気記録媒体を加熱すると共に、該磁気記録媒体に磁界を与えて磁化反転を生じさせ情報を記録させる近接場光記録素子であって、平面視四角形状に形成され、外部から前記光束が導入される底面と、該底面より小さな面積で平面視四角形状に形成され、底面から所定距離離間した位置に配された端面と、底面及び端面の頂点をそれぞれ結んで形成された4つの側面とを有する光透過性のコアと、前記4つの側面のうち、いずれかの側面上に形成された金属膜と、前記4つの側面のうち、前記金属膜が形成された側面に隣接する2つの側面上に形成され、両者の間に磁界を発生させる第1の磁極及び第2の磁極とを備え、前記コアが、前記金属膜が形成されている側面が前記記録媒体の移動方向に平行になるように配され、前記コアの端面が、前記光束が導入されたときに前記近接場光を発生させるサイズに形成されていることを特徴とするものである。
【0015】
この発明に係る近接場光記録素子においては、四角錐台状に形成されたコアを利用することで近接場光を発生させることができると共に、回転する磁気記録媒体に対して情報の書き込みを行うことができる。
まずコアの底面及び端面は、共に平面視四角形状(例えば、長方形、平行四辺形や台形形状)に形成されている。この際端面は、底面よりも小さいサイズに形成されているので、4つの側面は端面に向かうにしたがって、向い合う側面との間隔が漸次狭まる斜面状態となっている。そして、4つの側面のうちいずれかの側面上には、金等の金属膜が形成されている。また、コアは、金属膜が形成された側面が磁気記録媒体の移動方向に対して平行となるように向きが調整されている。
【0016】
更に、金属膜が形成された側面に隣接する2つの側面上には、第1及び第2の磁極が形成されている。よって、第1の磁極及び第2の磁極は、磁気記録媒体の移動方向に沿って並ぶようになっている。この際、コアの端面のサイズは、光束が底面側から導入されたときに近接場光を発生させるサイズ(光束の波長よりも小さい微小開口となる大きさ)に形成されている。そのため、両磁極の間隔(磁気ギャップ)は、磁気記録媒体の表面に対向する端面において近接した状態になっている。つまり、微小な磁気ギャップを作り出している。
【0017】
ここで記録を行う場合には、まず光透過性のコアの内部に底面側から光束を導入する。コアの内部に導入された光束は、底面側から端面側に向かって進み、端面から近接場光として外部に漏れ出す。また、これと同時にコアの内部に導入された光束は、側面上に形成された金属膜にも入射する。金属膜に光束が入射すると、該金属膜には表面プラズモンが励起される。励起された表面プラズモンは、共鳴効果によって増強されながら金属膜の表面とコアの側面との界面を端面に向かって伝播する。そして、コアの端面に達した時点で光強度の強い近接場光となって外部に漏れ出す。
【0018】
特に、金属膜を伝播した近接場光の方が、直接底面から端面に向かって透過した後生じた近接場光よりも光強度が強いので、磁気記録媒体の加熱に貢献する光となる。また、金属膜が形成されているコアの側面は、上述したように磁気記録媒体の移動方向に平行となっているので、加熱に貢献する光強度の強い近接場光を、磁気記録媒体の移動方向に沿ってライン状に発生させることができる。つまり、磁気記録媒体のトラック方向に沿ってライン状に発生させることができる。この近接場光によって磁気記録媒体は、局所的に加熱されて一時的に保磁力が低下する。
【0019】
また、上述した光束の導入と同時に、第1の磁極及び第2の磁極は両磁極間に磁界を発生させる。これにより、両磁極間の磁気ギャップには、磁気記録媒体に向けて磁界が漏れ出す。この際、上述したように磁気ギャップは、コアの側面に両磁極が形成されていることで、微小な隙間となっている。そのため、磁気ギャップに発生した洩れ磁界は、磁気記録媒体に対して局所的に作用する。これにより、近接場光によって保磁力が低下した磁気記録媒体の局所的な位置に対して、ピンポイントで洩れ磁界を作用させることができる。なお、洩れ磁界は、記録する情報に応じて向きが反転する。そして、磁気記録媒体は、洩れ磁界を受けると、洩れ磁界の方向に応じて磁化の方向が反転する。その結果、情報の記録を行うことができる。つまり、近接場光と両磁極で発生した洩れ磁界とを協働させた、近接場光アシスト磁気記録方式により情報の記録を行うことができる。
【0020】
特に、従来とは異なり、両磁極の間で近接場光を発生させることができるので、洩れ磁界が局所的に作用する範囲内に、近接場光による加熱温度のピーク位置を入れることができる。しかも近接場光による加熱の温度勾配が磁気記録媒体の移動方向に対して遅れたとしても、加熱温度のピーク位置を洩れ磁界の範囲内に留めておくことができる。従って、磁気記録媒体の局所的な位置に対して確実に記録を行うことができ、信頼性の向上化及び
磁気記録媒体のさらなる高密度化を図ることができる。
【0021】
また、側面に形成した金属膜によって磁気記録媒体のトラック方向に沿った、ライン状の強い近接場光を発生させることができるので、隣接するトラックに記録された情報に影響を与えることなく、所望するトラックに対して情報を正確に記録することができる。
また、金属膜の表面とコアの側面との界面に近接場光を発生させているので、各構成品の設計サイズ自体に直接影響を受けることがない。つまり、コアの端面のサイズを極端に微細化する等の作り込みを行わなくても、これら物理的な設計に影響されることなく、容易にライン状の近接場光を発生させることができる。よって、記録トラック幅をさらに小さくすることができ、製造の容易化及び低コスト化を図りながら、さらなる高密度記録化に貢献することができる。
また、コアの側面に両磁極を形成するだけで、近接場光の発生と洩れ磁界の発生とを同時に達成することができるので、従来のように複雑な構成にすることなく、シンプルな構造にすることができる。よって、構成を簡略化することができ、小型化を図ることができる。
【0022】
上述したように、本発明に係る近接場光記録素子によれば、小型化を図りながら低コストで容易に製造することができると共に、近接場光を効率良く発生させて、書き込みの信頼性を向上することができる。
【0023】
また、本発明に係る近接場光記録素子は、上記本発明の近接場光記録素子において、前記金属膜が、前記第1の磁極又は前記第2の磁極の少なくともいずれか一方の電極上に形成されていることを特徴とするものである。
【0024】
この発明に係る近接場光記録素子においては、金属膜が、コアの側面上だけに形成されているのではなく、第1の磁極又は第2の磁極のうち、少なくともいずれか一方の電極上にも形成されているので、表面プラズモンの伝播によって少なくとも一方の磁極のより近傍に近接場光を発生させることができる。よって、近接場光と洩れ磁界とを、より効率良く協働させることができ、書き込みの信頼性をさらに高めることができる。
【0025】
また、本発明に係る近接場光記録素子は、上記本発明の近接場光記録素子において、前記第1の磁極が、前記第2の磁極よりも前記移動方向側に位置すると共に、第2の磁極よりも前記磁気記録媒体の表面に対向する面積が小さく形成されて、該第1の磁極側で前記情報の記録を行うことを特徴とするものである。
【0026】
この発明に係る近接場光素子においては、第1の磁極が第2の磁極よりも、磁気記録媒体の移動方向側(進行側)に位置している。また、磁気記録媒体の表面に対向する面積は、第2の磁極よりも第1の磁極の方が小さく形成されており、第1の磁極側で情報の記録を行うようになっている。つまり、第1の磁極が主磁極として機能し、第2の磁極は補助磁極として機能するようになっている。
磁気記録媒体に記録を行う際には、第1の磁極側から発生した磁束が磁気記録媒体に作用するので、磁化を表面に対して垂直な方向に向けた状態で記録を行うことができる。なおこの磁束は、磁気記録媒体を経由して第2の磁極に戻る。この際、小さな面積に形成された第1の磁極でのみ記録が行われるので、磁化の方向に影響を与えることがない。
このように、垂直磁気記録方式により情報の記録を行うことができ、熱揺らぎ現象の影響を受け難く、安定した記録を行うことができる。よって、書き込みの信頼性をさらに高めることができる。
【0027】
また、本発明に係る近接場光ヘッドは、上記本発明のいずれかの近接場光記録素子と、前記磁気記録媒体の表面から所定距離だけ浮上した状態で配置され、磁気記録媒体の表面に対向する対向面を有するスライダと、前記底面側から前記コア内に前記光束を導入させる光束導入手段と、磁性材料から形成され、前記第1の磁極と前記第2の磁極とを接続する磁気回路と、前記情報に応じて変調された電流が供給され、前記磁気回路を中心として該磁気回路の周囲を巻回するコイルとを備え、前記コアが、前記スライダの対向面に底面が面接触した状態で固定されていることを特徴とするものである。
【0028】
この発明に係る近接場光ヘッドにおいては、スライダが対向面を磁気記録媒体の表面に対向させた状態で、該磁気記録媒体の表面から所定距離だけ浮上した状態で配置されている。そして、近接場光記録素子のコアが、スライダの対向面に底面を面接触させた状態で固定されている。これにより、コアは、端面を磁気記録媒体の表面に対向させながら、磁気記録媒体上を浮遊した状態となっている。
記録を行う場合には、まず光束導入手段によりコアの内部に底面側から光束を導入する。この際、光束導入手段は、従来の光の入れ方とは異なり、スライダの上面側からコアの端面に向けて略一直線に光束を容易且つ確実に導入できるので、効率良く近接場光を発生させることができる。
また、光束の導入と同時に、記録する情報に応じて変調した電流をコイルに供給する。すると電磁石の原理により、電流磁界が磁気回路内に磁束を発生させるので、両磁極間に磁界が生じる。これにより、両磁極の磁気ギャップ間に洩れ磁界を確実に発生させることができる。
【0029】
特に、小型化を図りながら低コストで容易に製造できる近接場光記録素子を備えているので、近接場光ヘッド自体の小型化、低コスト化及び製造の容易化をも図ることができる。また、近接場光を効率良く発生させて、書き込みの信頼性が向上した近接場光記録素子でもあるので、同様に近接場光ヘッド自体の書き込みの信頼性が高まって高品質化を図ることができる。
【0030】
また、本発明に係る近接場光ヘッドは、上記本発明の近接場光ヘッドにおいて、前記磁気回路が、前記スライダの対向面に垂直な方向に沿う垂直回路部を一部に有し、前記コイルが、前記対向面に沿って広がるように、前記垂直回路部の周囲を螺旋状に巻回した状態で形成されていることを特徴とするものである。
【0031】
この発明に係る近接場光ヘッドにおいては、第1の磁極と第2の磁極とを接続する磁気回路の一部が、スライダの対向面に垂直な方向に沿う垂直回路部となっている。そして、コイルは、スライダの対向面に沿って広がるように、垂直回路部を中心として該垂直回路部の周囲を螺旋状に巻回した状態で形成されている。つまり、コイルは、スライダの対向面に対して平行した状態となっている。
よって、コイルの巻線を増やしたとしても。スライダの厚みに影響しないので、薄型化を図りながら洩れ磁界の強度を高めることができる。また、垂直面ではなく水平面にコイルを作製できるので、特別な方法を用いずとも従来の方法で容易に作製を行える。そのため、コイルを細くしたり巻線を増やしたりする等、設計の自由度を向上することができる。また、コイルを自由に設計できるため、磁気回路についても幅を太くする等自由に設計を行い易い。このように、磁気回路及びコイルを状況に応じて自由に設計でき、信頼性のある電磁石を製造することができる。
【0032】
また、本発明に係る情報記録再生装置は、上記本発明の近接場光ヘッドと、前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に移動可能とされ、該磁気記録媒体の表面に平行で且つ互いに直交する2軸回りに回動自在な状態で、前記近接場光ヘッドを先端側で支持するビームと、前記光束導入手段に対して前記光束を入射させる光源と、前記ビームの基端側を支持すると共に、該ビームを前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に向けて移動させるアクチュエータと、前記磁気記録媒体を前記一定方向に回転させる回転駆動部と、前記コイルに前記電流を供給すると共に前記光源の作動を制御する制御部とを備えていることを特徴とするものである。
【0033】
この発明に係る情報記録再生装置においては、回転駆動部により磁気記録媒体を一定方向に回転させた後、アクチュエータによりビームを移動させて近接場光ヘッドをスキャンさせる。そして、近接場光ヘッドを磁気記録媒体上の所望する位置に配置させる。この際、近接場光ヘッドは、磁気記録媒体の表面に平行で且つ互いに直交する2軸回りに回動自在な状態、即ち、2軸を中心として捻れることができるようにビームに支持されている。よって、磁気記録媒体にうねりが生じたとしても、うねりに起因する風圧変化を捩じりによって吸収でき、近接場光ヘッドを安定して浮上させることができる。
【0034】
その後、制御部は光源を作動させると同時に、情報に応じて変調した電流をコイルに供給する。これにより、近接場光ヘッドは、近接場光と洩れ磁界とを協働させて、磁気記録媒体に情報を記録することができる。
特に、上述した近接場光記録素子を有する近接場光ヘッドを備えているので、小型化、低コスト化を図ることができ、また、書き込みの信頼性が高まって高品質化を図ることができる。
【発明の効果】
【0035】
この発明に係る近接場光記録素子によれば、小型化を図りながら低コストで容易に製造することができると共に、近接場光を効率良く発生させて、書き込みの信頼性を向上することができる。
また、本発明に係る近接場光ヘッド及び情報記録再生装置によれば、上述した近接場光記録素子を備えているので、小型化及び低コスト化を図ることができると共に、書き込みの信頼性が高まって高品質化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明に係る近接場光記録素子、近接場光ヘッド及び情報記録再生装置の一実施形態を、図1から図9を参照して説明する。なお、本実施形態の情報記録再生装置1は、垂直記録層d2を有するディスク(磁気記録媒体)Dに対して、垂直記録方式で書き込みを行う場合を例に挙げて説明する。
【0037】
本実施形態の情報記録再生装置1は、図1に示すように、後述する近接場光記録素子20を有する光近接場光ヘッド2と、ディスク面(磁気記録媒体の表面)D1に平行なXY方向に移動可能とされ、ディスク面D1に平行で且つ互いに直交する2軸(X軸、Y軸)回りに回動自在な状態で近接場光ヘッド2を先端側で支持するビーム3と、光導波路4の基端側から該光導波路4に対して光束Lを入射させる光信号コントローラ(光源)5と、ビーム3の基端側を支持すると共に、該ビーム3をディスク面D1に平行なXY方向に向けてスキャン移動させるアクチュエータ6と、ディスクDを一定方向に回転させるスピンドルモータ(回転駆動部)7と、情報に応じて変調した電流を後述するコイル24に対して供給すると共に、光信号コントローラ5の作動を制御する制御部8と、これら各構成品を内部に収容するハウジング9とを備えている。
【0038】
ハウジング9は、アルミニウム等の金属材料により、上面視四角形状に形成されていると共に、内側に各構成品を収容する凹部9aが形成されている。また、このハウジング9には、凹部9aの開口を塞ぐように図示しない蓋が着脱可能に固定されるようになっている。
凹部9aの略中心には、上記スピンドルモータ7が取り付けられており、該スピンドルモータ7に中心孔を嵌め込むことでディスクDが着脱自在に固定される。凹部9aの隅角部には、上記アクチュエータ6が取り付けられている。このアクチュエータ6には、軸受10を介してキャリッジ11が取り付けられており、該キャリッジ11の先端にビーム3が取り付けられている。そして、キャリッジ11及びビーム3は、アクチュエータ6の駆動によって共に上記XY方向に移動可能とされている。
なお、キャリッジ11及びビーム3は、ディスクDの回転停止時にアクチュエータ6の駆動によって、ディスクD上から退避するようになっている。また、近接場光ヘッド2とビーム3とで、サスペンション12を構成している。また、光信号コントローラ5は、アクチュエータ6に隣接するように凹部9a内に取り付けられている。そして、このアクチュエータ6に隣接して、上記制御部8が取り付けられている。
【0039】
上記近接場光ヘッド2は、図2及び図3に示すように、近接場光記録素子20と、ディスク面D1から所定距離Hだけ浮上した状態で配置され、ディスク面D1に対向する対向面21aを有するスライダ21と、後述するコア30の底面30a側からコア30内に光束を導入させる光束導入手段22と、磁性材料から形成され、後述する第1の磁極32と第2の磁極33とを接続させる磁気回路23と、磁気回路23を中心として該磁気回路23の周囲を巻回するコイル24とを備えている。
【0040】
上記近接場光記録素子20は、導入された光束Lから近接場光Rを発生させてディスクDを加熱すると共に、ディスクDに磁界を与えて磁化反転を生じさせ情報を記録させるものである。即ち、近接場光記録素子20は、図4から図6に示すように、近接場光Rを発生させるコア30と、コア30に形成された金属膜31と、コア30に形成された第1の磁極32及び第2の磁極33とを備えている。
【0041】
コア30は、石英ガラス等の光透過性材料に形成されており、底面30aと端面30bと4つの側面30cとを有する四角錐台状に形成されている。具体的には、少なくとも互いに平行な2辺を一組有するように平面視正方形状に形成され、ディスク面D1に平行な状態で配されて光束Lが導入される底面30aと、該底面30aより小さな面積で同一形状(平面視正方形状)に形成され、底面30aから所定距離離間した位置に配された端面30bと、底面30a及び端面30bの頂点をそれぞれ結んで形成された4つの側面30cとを有するように加工されている。
但し、コア30の底面30a及び端面30bは、正方形状に限定されるものではなく、平面視四角形状に形成されていれば構わない。例えば、平面視、長方形状、平行四辺形状や台形状であっても構わない。また、底面30a及び端面30bは、共に平面視四角形状に形成されていればよく、同じ形状でなくても構わない。
【0042】
コア30の端面30bは、光束Lが内部に導入されたときに近接場光Rを発生させるサイズに形成されている。即ち、コア30の端面30bの開口サイズは、光束Lの波長よりも遥かに微細なサイズ(例えば、一辺が数十nm程度のサイズ)となるように設計されており、通常の伝播光を透過させることがないが、近接場光Rを近傍に漏れ出させることを可能にしている。
【0043】
また、4つの側面30cのうち、互いに平行な2辺のうちの1辺を有する側面30c上には、上記金属膜31が形成されている。なお、本実施形態では、図示したように底面30a及び端面30bが上面視正方形状に形成されているので、どの側面30cに金属膜31を形成しても構わない。この金属膜31は、例えばAu膜であり、コア30の側面30c上に蒸着等によって成膜されている。
【0044】
そして、残り3つの側面30cのうち、金属膜31が形成された側面30cに隣接する2つの側面30c上には、両者の間に磁界を発生させる上記第1の磁極32及び第2の磁極33が形成されている。両磁極32、33は、磁性体材料を蒸着等の薄膜成膜技術によって側面30c上に形成されたものである。
なお、第2の磁極33の膜厚が、第1の磁極32の膜厚よりも厚くなるように膜厚が調整されている。これにより、第1の磁極32は、第2の磁極33よりもディスク面D1に対向する面積は小さく形成されるようになっている。つまり、第1の磁極32を主磁極として機能させると共に、第2の磁極33を補助磁極として機能させている。
【0045】
また、上述したようにコア30の端面30bは、底面30aよりも小さいサイズで該底面30aと同じ形状に形成されているので、4つの側面30cは端面30bに向かうにしたがって向い合う側面30cとの間隔が漸次狭まる斜面状態となっている。特に、コア30の端面30bのサイズは、近接場光Rを発生させる極微小サイズであるので、端面30bにおける両磁極32、33の間隔(磁気ギャップ)Gは非常に近接した状態となっている。つまり、微小な磁気ギャップGとなっている。
【0046】
このように構成されたコア30は、図2及び図3に示すように、底面30aをスライダ21の対向面21aに面接触させた状態で固定されている。この際、コア30は、金属膜31が形成されている側面30cが、スライダ21の長手方向、即ち、ディスクDの移動方向に平行になるように固定されている。そのため、第1の磁極32及び第2の磁極33は、ディスクDの移動方向に沿って並ぶように配置された状態となっている。但し、本実施形態のコア30は、第1の磁極32が第2の磁極33よりもディスクDの移動方向側(進行方向側)に位置するように向きが調整された後、固定されている。
【0047】
上記スライダ21は、コア30と同様に石英ガラス等の光透過性材料によって直方体状に形成されている。このスライダ21は、対向面21aをディスクD側にした状態で、ジンバル部35を介してビーム3の先端にぶら下がるように支持されている。このジンバル部35は、ディスク面D1に垂直なZ方向、X軸回り及びY軸回りにのみ変位するように動きが規制された部品である。これによりスライダ21は、上述したようにディスク面D1に平行で且つ互いに直交する2軸(X軸、Y軸)回りに回動自在とされている。
【0048】
スライダ21の対向面21aには、回転するディスクDによって生じた空気流の粘性から、浮上するための圧力を発生させる凸条部21bが形成されている。本実施形態では、レール状に並ぶように、長手方向に沿って延びた凸条部21bを2つ形成している場合を例にしている。但し、この場合に限定されるものではなく、スライダ21をディスク面D1から離そうとする正圧とスライダ21をディスク面D1に引き付けようとする負圧とを調整して、スライダ21を最適な状態で浮上させるように設計されていれば、どのような凹凸形状でも構わない。なお、この凸条部21bの表面はABS(Air Bearing Surface)と呼ばれる面とされている。
【0049】
スライダ21は、この2つの凸条部21bによってディスク面D1から浮上する力を受けていると共に、ビーム3によってディスク面D1側に押さえ付けられる力を受けている。スライダ21は、この両者の力のバランスによって、上述したようにディスク面D1から所定距離H離間した状態で浮上するようになっている。
【0050】
また、上述したようにスライダ21の対向面21aには、底面30aを面接触させた状態でコア30が固定されているので、コア30の端面30bも同様にスライダ21の対向面21a及びディスク面D1に対して平行状態となっている。この際、端面30bの高さが凸条部21bの高さと同じになるように、コア30の高さが設定されている。
なお、コア30とスライダ21とをそれぞれ別々に作製した後、互いを固定しても構わないし、石英ガラス等から一体的に作製しても構わない。特に、一体的に作製することで、製造工程の簡略化、製造時間の短縮化等を図ることができるので、より好ましい。
【0051】
また、スライダ21の上面には、コア30の真上に当たる位置にレンズ36が形成されている。このレンズ36は、例えば、グレースケールマスクを用いたエッチングによって形成される非球面のマイクロレンズである。更に、スライダ21の上面には、光ファイバー等の光導波路4が取り付けられている。この光導波路4は、先端が略45度にカットされたミラー面4aとなっており、該ミラー面4aがレンズ36の真上に位置するように取り付け位置が調整されている。そして、光導波路4は、ビーム3及びキャリッジ11等を介して光信号コントローラ5に引き出されて接続されている。
これにより光導波路4は、光信号コントローラ5から入射された光束Lを先端側まで導き、ミラー面4aで反射させて向きを変えた後、レンズ36に出射することができるようになっている。また、出射された光束Lは、レンズ36によって集束した後、スライダ21を透過してコア30の底面30aに導入されるようになっている。即ち、光導波路4及びレンズ36は、上述した光束導入手段22を構成している。
【0052】
上記磁気回路23は、図3に示すように、磁性材料によりスライダ21内にパターニングされて形成されている。この磁気回路23は、両端がそれぞれ第1の磁極32及び第2の磁極33に接続されていると共に、図7に示すように、回路の略中間付近にあたる一部分が、スライダ21の対向面21aに垂直な方向に沿って折り曲げられた垂直回路部23aとなっている。
【0053】
そして、コイル24は、磁気回路23のうち上述した垂直回路部23aの周囲を螺旋状に巻回した状態で、スライダ21の対向面21aに沿うように形成されている。この際コイル24は、ショートしないように、隣り合う線材間、磁気回路23との間が絶縁状態とされている。また、このコイル24は、ビーム3やキャリッジ11を介して制御部8に電気的に接続されており、該制御部8から情報に応じて変調された電流が供給されるようになっている。即ち、磁気回路23及びコイル24は、全体として電磁石を構成している。
【0054】
また、スライダ21の先端面30bには、図2及び図3に示すように、ディスクDの垂直記録層d2から洩れ出ている磁界の大きさに応じて電気抵抗が変換する磁気抵抗効果膜37が形成されている。この磁気抵抗効果膜37は、コア30の端面30bと略同じ幅で形成されている。また、この磁気抵抗効果膜37には、図示しないリード膜等を介して制御部8からバイアス電流が供給されている。これにより制御部8は、ディスクDから洩れ出た磁界の変化を電圧の変化として検出することでき、この電圧の変化から信号の再生を行っている。即ち、磁気抵抗効果膜37は、再生素子として機能している。
【0055】
なお、本実施形態のディスクDは、少なくとも、ディスク面D1に垂直な方向に磁化容易軸を有する垂直記録層d2と、高透磁率材料からなる軟磁性層d3との2層で構成される垂直2層膜ディスクを使用する。このようなディスクDとしては、例えば、図2に示すように、基板d1上に、軟磁性層d3と、中間層d4と、垂直記録層d2と、保護層d5と、潤滑層d6とを順に成膜したものを使用する。
基板d1としては、例えば、アルミ基板やガラス基板等である。軟磁性層d3は、高透磁率層である。中間層d4は、垂直記録層d2の結晶制御層である。垂直記録層d2は、垂直異方性磁性層となっており、例えばCoCrPt系合金が使用される。保護層d5は、垂直記録層d2を保護するためのもので、例えばDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)膜が使用される。潤滑層d6は、例えば、フッ素系の液体潤滑材が使用される。
【0056】
次に、このように構成された情報記録再生装置1により、ディスクDに各種の情報を記録再生する場合について以下に説明する。
まず、スピンドルモータ7を駆動させてディスクDを一定方向に回転させる。次いで、アクチュエータ6を作動させて、キャリッジ11を介してビーム3をXY方向にスキャンさせる。これにより、図1に示すように、ディスクD上の所望する位置に近接場光ヘッド2を位置させることができる。この際、近接場光ヘッド2は、スライダ21の対向面21aに形成された2つの凸条部21bによって浮上する力を受けると共に、ビーム3等によってディスクD側に所定の力で押さえ付けられる。近接場光ヘッド2は、この両者の力のバランスによって、図2に示すようにディスクD上から所定距離H離間した位置に浮上する。
【0057】
また、近接場光ヘッド2は、ディスクDのうねりに起因して発生する風圧を受けたとしても、ジンバル部35によってZ方向、XY軸回りに変位することができるようになっているので、うねりに起因する風圧を吸収することができる。そのため、近接場光ヘッド2を安定した状態で浮上させることができる。
【0058】
ここで、情報の記録を行う場合、制御部8は光信号コントローラ5を作動させると共に、情報に応じて変調した電流をコイル24に供給する。
まず、光信号コントローラ5は、制御部8からの指示を受けて光束Lを光導波路4の基端側から入射させる。入射した光束Lは、光導波路4内を先端側に向かって進み、図2に示すようにミラー面4aで略90度向きを変えて光導波路4内から出射する。出射した光束Lは、レンズ36によって集束された状態でスライダ21内部を透過すると共に、レンズ36の略真下に設けられた近接場光記録素子20のコア30の内部に底面30a側から入射する。つまり、光束Lは、光束導入手段22によってスライダ21の上面側から略一直線状にコア30に向かって導入される。
【0059】
コア30の内部に導入された光束は、底面30a側から端面30b側に向かって進み、図8に示すように、ディスク面D1に対向する端面30bから近接場光Rとして外部に漏れ出す。また、これと同時にコア30の内部に導入された導入された光束は、側面30c上に形成された金属膜31にも入射する。金属膜31に光束が入射すると、該金属膜31には表面に表面プラズモンが励起される。励起された表面プラズモンは、共鳴効果によって増強されながら金属膜31の表面とコア30の側面30cとの界面を端面30bに向かって伝播する。そして、コア30の端面30bに達した時点で光強度の強い近接場光Rとなって外部に漏れ出す。
【0060】
特に、金属膜31を伝播した近接場光Rの方が、直接底面30aから端面30bに向かって透過した後生じた近接場光Rよりも光強度が強いので、ディスクDの加熱により貢献する光となる。また、金属膜31が形成されているコア30の側面30cは、上述したようにディスクDの移動方向に平行となっているので、加熱に貢献する光強度の強い近接場光RをディスクDの移動方向に沿ってライン状に発生させることができる。つまり、図9に示すように、ディスクDのトラック方向に沿ってライン状に発生させることができる。この近接場光Rによって、ディスクDは局所的に加熱されて一時的に保磁力が低下する。
【0061】
なお、両磁極32、33を光非透過性の材料から形成することが好ましい。こうすることで、両磁極32、33が形成された側面30cから光束がコア30の外部に洩れてしまうことを防止することができ、導入された光束を効率良く金属膜31に入射させて、強い近接場光Rを効率良く発生させることができる。
【0062】
一方、制御部8によってコイル24に電流が供給されると、電磁石の原理により電流磁界が磁気回路23内に磁束を発生させるので、両磁極32、33間に磁界が生じる。すると、第1の磁極32側から発生した磁束が、図8に示すように、ディスクDの垂直記録層d2を真直ぐ通り抜けて軟磁性層d3に達する。これによって、垂直記録層d2の磁化をディスク面D1に対して垂直に向けた状態で記録を行うことができる。また、軟磁性層d3に達した磁束は、該軟磁性層d3を経由して第2の磁極33に戻る。この際、第2の磁極33に戻るときには磁化の方向に影響を与えることはない。これは、ディスク面D1に対向する第2の磁極33の面積が、第1の磁極32よりも大きいので磁束密度が大きく磁化を反転させるほどの力が生じないためである。つまり、第1の磁極32側でのみ記録を行うことができる。
【0063】
その結果、近接場光Rと両磁極32、33で発生した磁界とを協働させた近接場光アシスト磁気記録方式により情報の記録を行うことができる。しかも本実施形態では、垂直記録方式で記録を行うので、熱揺らぎ現象等に影響を受け難く、安定した記録を行うことができる。よって、書き込みの信頼性を高めることができる。
【0064】
次に、ディスクDに記録された情報を再生する場合には、スライダ21の先端面に形成されている磁気抵抗効果膜37が、ディスクDの垂直記録層d2から洩れ出ている磁界を受けて、その大きさに応じて電気抵抗が変化する。よって、磁気抵抗効果膜37の電圧が変化する。これにより制御部8は、ディスクDから洩れ出た磁界の変化を電圧の変化として検出することができる。そして制御部8は、この電圧の変化から信号の再生を行うことで、情報の再生を行うことができる。
【0065】
特に、光束導入手段22は、従来の光の入れ方とは異なり光束Lをスライダ21の上面側からコア30の端面30bに向けて略一直線に光束を容易且つ確実に導入できるので、効率良く近接場光Rを発生させることができる。
また、スライダ21の対向面21aにコア30を固定すると共に、コア30の側面30cに両磁極32、33を形成するだけで、近接場光Rの発生と洩れ磁界の発生とを同時に達成することができるので、従来のように複雑な構成にすることなく、シンプルな構造にすることができる。よって、構成を簡略化することができ、小型化を図ることができる。
【0066】
また、磁気ギャップGは、コア30の側面30cに両磁極32、33が形成されていることで、微小な隙間になっている。そのため、第1の磁極32に発生した磁界は強度が強く、また、近接場光Rによって保磁力が低下したディスクDの局所的な位置に対して、ピンポイントで磁界を正確に作用させることができる。
また、両磁極32、33の間で近接場光Rを発生させることができるので、磁界が局所的に作用する範囲内に、近接場光Rによる加熱温度のピーク位置を入れることができる。しかも近接場光Rによる加熱の温度勾配がディスクDの移動方向に対して遅れたとしても、図9(点線は近接場光Rの発生領域を示し、実線は近接場光Rによる加熱温度分布を示し、2点鎖線は両磁界から発する磁界強度分布を図示している)に示すように、加熱温度のピーク位置を第1の磁極32に近づけることができる。従って、書き込み可能領域Aが、第1の磁極32の略真下となり、ディスクの局所的な位置に対して確実に記録を行うことができる。
【0067】
また、コア30の側面30cに形成した金属膜31によって、ディスクDのトラック方向に沿ったライン状の強い近接場光Rを発生することができるので、隣接するトラックに記録された情報に影響を与えることなく、所望するトラックに対して情報を正確に記憶することができる。
また、金属膜31の表面とコア30の側面30cとの界面に近接場光Rを発生させているので、各構成品の設計サイズ自体に直接影響を受けることがない。つまり、コア30の端面30bのサイズを極端に微細化する等の作り込みを行わなくても、これら物理的な設計に影響されることなく、容易にライン状の近接場光Rを発生させることができる。具体的には、図8に示すように、コア30の端面30bの幅がW1であったとしても、金属膜31によって生じた光強度の強いライン状の近接場光RはW2程度の幅となる。よって、記録トラック幅をさらに小さくすることができ、製造の容易化及び低コスト化を図りながら、さらなる高密度記録化を図ることができる。
【0068】
また、コイル24は、図7に示すように、磁気回路23の垂直回路部23aの周囲を螺旋状に巻回した状態で形成され、スライダ21の対向面21aに対して平行している。よって、コイル24の巻線を増やしたとしても、スライダ21の厚みに影響しないので、薄型化を図りながら磁界の強度を高めることができる。また、垂直面ではなく水平面にコイル24を作製できるので、特別な方法を用いずとも従来の方法で容易に作製を行える。そのため、コイル24を細くしたり巻線を増やしたりする等、設計の自由度を向上することができる。また、コイル24を自由に設計できるため、磁気回路23についても幅を太くする等自由に設計を行い易い。このように、磁気回路23及びコイル24を状況に応じて自由に設計でき、信頼性のある電磁石を製造することができる。
【0069】
上述したように本実施形態の近接場光記録素子20によれば、小型化を図りながら低コストで容易に製造することができると共に、近接場光Rを効率良く発生させて、書き込みの信頼性を向上することができる。
また、本実施形態の近接場光ヘッド2及び情報記録再生装置1によれば、上述した近接場光記録素子20を備えているので、小型化及び低コスト化を図ることができると共に、書き込みの信頼性が高まって高品質化を図ることができる。
【0070】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0071】
例えば、上記実施形態では、コア30の底面30a及び端面30bの形状を上面視正方形状としたが、この場合に限られるものではない。例えば、図10に示すように、上面視平行四辺形状や、図11に示すように、上面視台形状に形成しても構わない。更には、図12に示すように、4辺のいずれもが平行関係とならない上面視四角形状に形成しても構わない。このように、底面30a及び端面30bが平面視四角形状に形成されていれば、コア30をどのような形状に形成しても構わない。また、底面30a及び端面30bを共に同一形状にする必要もなく、それぞれ異なる四角形状に形成しても構わない。
但し、いずれの場合であっても、金属膜31が形成された側面30cに隣接する2つの側面30c上に第1の磁極32及び第2の磁極33を形成する。こうすることで、金属膜31が形成された側面30cをディスクDの移動方向に平行に配置したときに、ライン状に発生した近接場光Rと第1の磁極32からの磁界とを効率良く協働させることができる。つまり、近接場光Rによる加熱温度のピーク位置と磁界の位置とを、スポット的に重ね合わせることができるので、記録トラック幅を小さくしながら、書き込みの正確性をも向上させることができる。
【0072】
また、上記実施形態では、金属膜31をコア30の側面30c上にのみ形成したが、この場合に限られず、図13に示すように、金属膜31をコア30の側面30c上だけでなく、第1の磁極32及び第2の磁極33上を覆うように形成しても構わない。
こうすることで、表面プラズモンの伝播によって両磁極32、33のより近傍に近接場光Rを発生させることができる。よって、第1の磁極32から生じる磁界と近接場光Rによる加熱温度のピーク位置とをよりスポット的に重ね合わせ易くなる。そのため、近接場光Rと磁界とを、より効率良く協働させることができ、書き込みの信頼性をさらに高めることができる。
なお、両電極32、33上を同時に覆うのではなく、第1の磁極32又は第2の磁極のうち、少なくともいずれか一方の電極上を覆うように金属膜31を形成しても構わない。但し、上述したように両電極32、33上を覆うことが好ましい。
【0073】
また、上記各実施形態では、垂直記録方式で記録を行う場合を例にして説明したが、この記録方式に限られず、面内記録方式にも適用可能なものである。
但し、この場合には、図14に示すように、第1の磁極32及び第2の磁極33の膜厚を同じ厚さにする。また、この場合に使用するディスクDとしては、基板d1上に、下地層d7、磁気記録層d8、保護層d5及び潤滑層d6を順に成膜したものを使用すると良い。なお、下地層d7は、磁気記録層d8が薄くても良好な磁気特性をだすためのもので、例えばCr合金系が使用される。また、磁気記録層d8は、保磁力を高めるため、例えばCoCrPtTaやCoCrPtB等のCoCr系合金が使用される。
【0074】
この方式でディスクDに記録を行う場合であっても、図9に示した場合と同様に、金属膜31とコア30の側面30cとの界面に、光強度の強いライン状の近接場光Rを発生させることができる。また、両磁極32、33間の磁気ギャップGには、ディスクDに向けて磁界が漏れ出す。特に、磁気ギャップGは、コア30の側面30cに両磁極32、33が形成されていることで、微小な隙間となっている。そのため、近接場光Rによって保磁力が低下したディスクDの局所的な位置に対して、ピンポイントで洩れ磁界を作用させることができる。その結果、面内記録方式により情報の記録を行うことができる。
また、この記録方式であっても、洩れ磁界が作用する領域内に、近接場光Rによる加熱温度のピーク位置を入れることができるので、書き込みの信頼性を向上することができる。更に、金属膜31とコア30の側面30cとの界面に近接場光Rを発生させているので、やはり記録トラック幅を小さくすることができ、高密度記録化を図ることができる。
【0075】
また、上記実施形態では、光信号コントローラ5をハウジング9内に取り付け、光束導入手段22を構成する光導波路4の基端側から光束Lを入射させることで、コア30に該光束Lを導いた構成を採用したが、この場合に限定されるものではない。
例えば、図15に示すように、光束導入手段22をレンズ36だけで構成し、該レンズ36とジンバル部35との間に光信号コントローラ5を設けても構わない。なお、この場合には、ビーム3に沿って配線等を這わせることで、光信号コントローラ5と制御部8とを電気的に接続すれば良い。この場合であっても、光信号コントローラ5から光束導入手段22に対して光束Lを確実に入射させることができる。特に、光束Lをレンズ36に直接入射できるので、より効率良く近接場光を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る近接場光記録素子を有する近接場光ヘッドを備えた情報記録再生装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す近接場光ヘッドの拡大断面図である。
【図3】図2に示す近接場光ヘッドを、ディスク面側から見た図である。
【図4】図3に示す近接場光ヘッドの近接場光記録素子をコアの端面側から見た上面図である。
【図5】図4に示す近接場光記録素子の斜視図である。
【図6】図4に示す近接場光記録素子の端面側の拡大図である。
【図7】図3に示す近接場光ヘッドのコイルと磁気回路との取付位置関係を示す断面図である。
【図8】図2に示す近接場光ヘッドによりディスクに記録を行っている最中の状態を示す図であって、コアを中心とした拡大断面図である。
【図9】ディスクに記録を行っている際の近接場光と磁界との関係を示した図である。
【図10】本発明に係る近接場光記録素子の変形例を示す図であって、底面及び端面が平行四辺形状に形成されたコアを端面側から見た拡大図である。
【図11】本発明に係る近接場光記録素子の変形例を示す図であって、底面及び端面が台形状に形成されたコアを端面側から見た拡大図である。
【図12】本発明に係る近接場光記録素子の変形例を示す図であって、4辺のいずれもが平行関係とならないように底面及び端面が四角形状に形成されたコアを端面側から見た拡大図である。
【図13】本発明に係る近接場光記録素子の変形例を示す図であって、金属膜がコアの側面だけでなく第1の磁極及び第2の磁極上を覆うように形成されている近接場光記録素子をコアの端面側から見た拡大図である。
【図14】本発明に係る近接場光記録素子の変形例を示す図であって、面内記録方式によりディスクに記録を行っている最中の状態を示す、コアを中心とした拡大断面図である。
【図15】本発明に係る近接場光ヘッドの変形例を示す図であって、レンズとジンバル部との間に光信号コントローラが設けられた近接場光ヘッドの断面図である。
【符号の説明】
【0077】
D ディスク(磁気記録媒体)
D1 ディスク面(磁気記録媒体の表面)
L 光束
R 近接場光
1 情報記録再生装置
2 近接場光ヘッド
3 ビーム
5 光信号コントローラ(光源)
6 アクチュエータ
7 スピンドルモータ(回転駆動部)
8 制御部
20 近接場光記録素子
21 スライダ
21a 対向面
22 光束導入手段
23 磁気回路
23a 垂直回路部
24 コイル
30 コア
30a コアの底面
30b コアの端面
30c コアの側面
31 金属膜
32 第1の磁極
33 第2の磁極








【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入された光束から近接場光を発生させて、一定方向に回転する磁気記録媒体を加熱すると共に、該磁気記録媒体に磁界を与えて磁化反転を生じさせ情報を記録させる近接場光記録素子であって、
平面視四角形状に形成され、外部から前記光束が導入される底面と、該底面より小さな面積で平面視四角形状に形成され、底面から所定距離離間した位置に配された端面と、底面及び端面の頂点をそれぞれ結んで形成された4つの側面とを有する光透過性のコアと、
前記4つの側面のうち、いずれかの側面上に形成された金属膜と、
前記4つの側面のうち、前記金属膜が形成された側面に隣接する2つの側面上に形成され、両者の間に磁界を発生させる第1の磁極及び第2の磁極とを備え、
前記コアは、前記金属膜が形成されている側面が前記記録媒体の移動方向に平行になるように配され、
前記コアの端面は、前記光束が導入されたときに前記近接場光を発生させるサイズに形成されていることを特徴とする近接場光記録素子。
【請求項2】
請求項1に記載の近接場光記録素子において、
前記金属膜は、前記第1の磁極又は前記第2の磁極上の少なくともいずれか一方の電極上にも形成されていることを特徴とする近接場光記録素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の近接場光記録素子において、
前記第1の磁極が、前記第2の磁極よりも前記移動方向側に位置すると共に、第2の磁極よりも前記磁気記録媒体の表面に対向する面積が小さく形成されて、該第1の磁極側で前記情報の記録を行うことを特徴とする近接場光記録素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の近接場光記録素子と、
前記磁気記録媒体の表面から所定距離だけ浮上した状態で配置され、磁気記録媒体の表面に対向する対向面を有するスライダと、
前記底面側から前記コア内に前記光束を導入させる光束導入手段と、
磁性材料から形成され、前記第1の磁極と前記第2の磁極とを接続する磁気回路と、
前記情報に応じて変調された電流が供給され、前記磁気回路を中心として該磁気回路の周囲を巻回するコイルとを備え、
前記コアは、前記スライダの対向面に底面が面接触した状態で固定されていることを特徴とする近接場光ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の近接場光ヘッドにおいて、
前記磁気回路は、前記スライダの対向面に垂直な方向に沿う垂直回路部を一部に有し、
前記コイルは、前記対向面に沿って広がるように、前記垂直回路部の周囲を螺旋状に巻回した状態で形成されていることを特徴とする近接場光ヘッド。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の近接場光ヘッドと、
前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に移動可能とされ、該磁気記録媒体の表面に平行で且つ互いに直交する2軸回りに回動自在な状態で、前記近接場光ヘッドを先端側で支持するビームと、
前記光束導入手段に対して前記光束を入射させる光源と、
前記ビームの基端側を支持すると共に、該ビームを前記磁気記録媒体の表面に平行な方向に向けて移動させるアクチュエータと、
前記磁気記録媒体を前記一定方向に回転させる回転駆動部と、
前記コイルに前記電流を供給すると共に前記光源の作動を制御する制御部とを備えていることを特徴とする情報記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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