説明

近接場分光装置

【課題】 本発明は、効率的に真のスペクトル情報を得ることのできる近接場分光装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 試料24の近接場スペクトル情報を得る際は該試料24とプローブ12先端を近接場25領域内の所定距離に近接させ、バックグラウンドスペクトル情報を得る際は近接場領25域外の所定距離に離隔させるZ軸走査手段18,20と、近接場スペクトル情報よりバックグラウンドスペクトル情報を差し引き、該バックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得る演算手段46と、を備え、該バックグラウンド情報取得手段は試料24とプローブ12先端を近接場領域25外の所定距離に離隔中に、対応する測定部位のバックグラウンドスペクトル情報を得ることを特徴とする近接場分光装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近接場分光装置、特に近接場分光におけるバックグラウンド補正に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一般的な光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡とは異なる原理に基づく走査型近接場光学顕微鏡が開発され、これは一般的な顕微鏡では困難であった光の波長より小さなものを観察することができ、その応用が期待されている。
この走査型近接場光学顕微鏡は、いわゆる近接場波を検出するものであり、例えば微小な試料が平坦な基板の上に置かれており、該試料に基板裏面から全反射が生じるような角度で光を入射させると、伝搬光はすべて反射するが、基板及び試料表面付近には近接場波と呼ばれる表面波が発生する。この表面波は試料表面の周りの光の波長以内の距離の領域に局在している。
【0003】
そこで、先の鋭いプローブを近接場波の場の中に差し込んで近接場波を散乱させ、その散乱光強度を測定することによりプローブ先端と試料表面との距離を規定することができる。
したがって、前記散乱光の強度が一定となるようにしつつプローブの走査を行うことにより、該プローブ先端位置は試料表面の凹凸を的確に反映するものとなる。しかも、プローブ先端は近接場波の場に存在するのみであり、試料そのものには接触していないため、試料に対して非接触、非破壊でかつ光の波長の値より小さいものを観察できるものである。
【0004】
また最近では、この走査型近接場光学顕微鏡に分光分析器等を接続することにより、前記試料測定面の形状の把握と共に、試料とプローブ先端を近接場領域内に近接させることにより散乱する近接場光を採取し、採取された散乱光を分光し、スペクトル情報を得ることができるので、その成分等まで分析を行うことも可能であり、各種の分野で応用が行なわれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、試料の各測定部位における高低情報、及び成分情報を同時取得可能な近接場分光装置にあっても、スペクトル形状の精度向上、測定の効率化等のより一層の向上が望まれていたものの、従来はこれを解決することのできる適切な技術が存在しなかった。
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は効率的に試料の真のスペクトル情報を得ることのできる近接場分光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが近接場分光におけるスペクトル形状の精度向上等について鋭意検討を重ねた結果、その解決のかぎが近接場分光におけるバックグラウンド除去、装置のドリフト等の影響を低減することにあるとの知見に至った。
【0007】
特に近接場分光では、散乱した近接場光を採取ないしプローブ先端より近接場光をしみ出させるために光ファイバプローブが多く用いられているが、この光ファイバプローブに光が入ると、その発光によるバックグラウンドがスペクトルに重なるため、試料のスペクトル形状に精度低下が生じる。このため、所定の離隔距離でのバックグラウンド情報を得、試料のスペクトルを補正することにより、近接場分光におけるスペクトル形状の精度向上が図られるとの知見に至った。
【0008】
そして、このバックグラウンドの影響を効率的に除去するためには、プローブ先端位置の、ある測定部位への移動中に、つまりZ軸方向位置の変調時にバックグラウンド情報を取得することが、例えば測定時間の短縮化、装置のドリフトの影響の低減等の観点から好ましいことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、前記目的を達成するために本発明にかかる近接場分光装置は、近接場情報取得手段と、バックグラウンド情報取得手段と、Z軸走査手段と、演算手段と、を備える。そして、前記バックグラウンド情報取得手段は、前記Z軸走査手段により試料とプローブ先端をZ軸方向に離隔し近接場領域外の所定距離に離隔中に、対応する測定部位のバックグラウンドスペクトル情報を得ることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記近接場情報取得手段は、試料とプローブ先端を近接場領域内に近接させることにより散乱する近接場光を採取し、採取された散乱光を分光し、試料の近接場スペクトル情報を得る。
前記Z軸走査手段は、前記試料とプローブ先端を離隔ないし近接させるZ軸方向に走査し、前記近接場情報取得手段により近接場スペクトル情報を得る際は、前記試料とプローブ先端を近接場領域内の所定距離に近接させ、前記バックグラウンド情報取得手段によりバックグラウンドスペクトル情報を得る際は、前記試料とプローブ先端を近接場領域外の所定距離に離隔させる。
【0010】
前記演算手段は、前記近接場情報取得手段で得た近接場スペクトル情報より、前記バックグラウンド情報取得手段で得たバックグラウンドスペクトル情報を差し引き、該バックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得る。
なお、本発明においては、前記測定部位として前記試料測定面上に複数の測定面を設定し、前記プローブ先端を試料測定面上でZ軸と直交するX,Y軸方向に走査するXY軸走査手段を備える。そして、前記近接場情報取得手段は、前記Z軸走査手段により試料とプローブ先端を近接場領域内の所定距離に近接させた状態で、前記XY軸走査手段によりプローブ先端を測定面のX方向及びY方向に走査させ、該測定面の近接場スペクトル情報を得る。
【0011】
前記バックグラウンド補正手段は、プローブ先端の次の測定面への移動時の、前記Z軸走査手段により試料とプローブ先端をZ軸方向に離隔し近接場領域外の所定距離に離隔中に、プローブ先端の移動元ないし移動先の測定面のためのバックグラウンドスペクトル情報を得る。
【0012】
前記演算手段は、前記各測定面の近接場スペクトル情報より、対応する各バックグラウンドスペクトル情報を差し引き、各測定面について、対応する各バックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得ることが好適である。
また本発明においては、前記測定部位として前記試料測定面上に複数の測定行をX,Y軸平面内の一軸方向に設定し、前記プローブ先端を試料測定面上でZ軸と直交するX,Y軸方向に走査するXY軸走査手段を備える。そして、前記近接場情報取得手段は、各測定行より順次、近接場スペクトル情報を得る。
【0013】
前記バックグラウンド補正手段は、プローブ先端の次の測定行への移動時の、前記Z軸走査手段により試料とプローブ先端をZ軸方向に離隔し近接場領域外の所定距離に離隔中に、プローブ先端の移動元ないし移動先の測定行のためのバックグラウンドスペクトル情報を得る。
前記演算手段は、前記各測定行の近接場スペクトル情報より、対応する各バックグラウンドスペクトル情報を差し引き、各測定行について、対応する各バックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得ることが好適である。
【0014】
また本発明においては、前記測定部位として前記試料測定面上に複数の測定点を設定し、前記プローブ先端を試料測定面上でZ軸と直交するX,Y軸方向に走査するXY軸走査手段を備える。そして、前記近接場情報取得手段は、前記各測定点より順次、近接場スペクトル情報を得る。
前記バックグラウンド補正手段は、プローブ先端の次の測定点への移動時の、前記Z軸走査手段により試料とプローブ先端をZ軸方向に離隔し近接場領域外の所定距離に離隔中に、プローブ先端の移動元ないし移動先の測定点のためのバックグラウンドスペクトル情報を得る。
【0015】
前記演算手段は、前記各測定点の近接場スペクトル情報より、対応する各バックグラウンドスペクトル情報を差し引き、各測定点について対応する各バックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得ることが好適である。
また本発明においては、光距離特性取得手段と、選択手段と、を備える。そして、前記バックグラウンド情報取得手段によりバックグラウンドスペクトル情報を得る際は、前記Z軸走査手段により試料測定面とプローブ先端間のZ軸方向の離隔距離を前記選択手段で選択された距離とすることが好適である。
【0016】
ここで、前記光距離特性取得手段は、前記Z軸走査手段により試料測定面とプローブ先端間の離隔距離を変えながら、該試料のスペクトル情報を取得することにより光と距離の関係を得る。
また、前記選択手段は、前記光距離特性取得手段で得た光と距離の関係より、所望の光特性が得られる距離を選択する。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明にかかる近接場分光装置によれば、Z軸走査手段により試料とプローブ先端をZ軸方向に離隔し近接場領域外の所定距離に離隔中に、バックグラウンド情報取得手段により、測定部位のバックグラウンドスペクトル情報を得、対応する測定部位の近接場スペクトル情報を補正することとしたので、ドリフトの影響を低減し、且つ近接場スペクトル情報よりバックグラウンドを効率的に除去することができる。
また本発明においては、Z軸走査手段により試料とプローブ先端間の距離を変えながら、光距離特性取得手段によりスペクトルと距離の関係を得ることにより、バックグラウンドを測定すべき試料とプローブ先端の距離を的確に知ることができるので、近接場分光におけるバックグラウンド補正時のスペクトル情報の劣化を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる近接場分光装置の概略構成の説明図である。
【図2】図1に示した近接場分光装置によるバックグラウンドスペクトル情報取得時、及び近接場スペクトル取得時の、試料とプローブ先端のZ軸方向位置の説明図である。
【図3】図1に示した近接場分光装置による測定面毎の走査の説明図である。
【図4】,
【図5】図1に示した近接場分光装置による測定行毎の走査の説明図である。
【図6】,
【図7】図1に示した近接場分光装置による測定点毎の走査の説明図である。
【図8】図1に示した近接場分光装置で用いるのに適した光距離特性測定手段の説明図である。
【図9】図8に示した光距離特性測定手段で得られる光−距離特性の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の好適な一実施形態について説明する。
図1には本発明の一実施形態にかかる近接場分光装置の概略構成が示されている。なお、本実施形態においては、プローブとして先端よりしみ出した近接場光を試料測定部位で散乱ないし反射させ、その散乱ないし反射光を採取する光ファイバプローブを用いる。
【0020】
同図に示す近接場光学顕微鏡(近接場分光装置)10は、離隔情報取得手段と、近接場情報取得手段を備える。
前記離隔情報取得手段は、例えば光ファイバプローブ12と、近接場ヘッド14と、Z軸位置制御用光学系16と、XYZステージ18と、ステージコントローラ20と、コンピュータ本体22を備える。
【0021】
前記XYZステージ18と、ステージコントローラ20等は、試料24とプローブ12先端を離隔ないし近接させるZ軸方向に走査し、離隔情報及びスペクトル情報を得る際は、試料24とプローブ12先端を近接場領域内の所定距離に近接させる。
【0022】
本実施形態では、XYZステージ18上には試料24が載置され、先の鋭いプローブ12を近接場光25の場の中に差し込んで近接場光25を散乱させる。このとき、近接場ヘッド14によりプローブ12はその共振周波数で微小振動させている。Z軸方向位置制御用光学系16によりプローブ12先端に光26を照射し、そのプローブ12先端からの変調された反射光28を検出し、その光よりプローブ12先端の振動振幅の変化を検出する。プローブ12先端の振動振幅が一定となるようにしつつ、ステージコントローラ20によるXYZピエゾステージ18の駆動によりプローブ12の走査を行う。これによりXYZステージ18等より各測定点のXY位置情報と同時に、各測定点における高低情報をコンピュータ本体22のハードディスク(HDD)30の離隔情報記憶部32に得る。これによりプローブ12先端と試料24測定面との距離を規定することができる。
【0023】
前記近接場情報取得手段は、例えば励起レーザ36と、光ファイバプローブ(プローブ)12と、分光器38と、検出器40と、コンピュータ本体22と、XYZステージ(XY軸走査手段,Z軸走査手段)18と、ステージコントローラ(XY軸走査手段,Z軸走査手段)20を備える。
【0024】
そして、励起レーザ36からのレーザ光42は、ファイバプローブ12に入射され、プローブ12先端の開口より近接場光25がしみだす。この近接場光25は、プローブ12先端の光の波長よりも狭い領域に局在しており、ステージコントローラ20によりプローブ12先端と試料測定面24を光の波長よりも狭い領域(近接場領域内)まで近接させると、プローブ先端12よりしみだした光25は試料測定面24にで散乱ないし反射され、その散乱光ないし反射光44はプローブ12先端の開口より集光され、分光器38で分光される。分光された光は、検出器40で検出され、その光強度は分光器38より得られる波長情報と共に、コンピュータ本体22のHDD30の近接場情報記憶部42に記憶される。
【0025】
このように近接場光学顕微鏡10は、前記離隔情報取得手段と、前記近接場情報取得手段を備えることにより、試料表面の各測定部位における高低情報及び成分情報を同時に取得することができる。そして、コンピュータ本体22は、前述のようにして得られたマッピング測定結果をディスプレイ45に表示することができる。
【0026】
ところで、このような近接場光学顕微鏡10にあっても、試料のスペクトル形状の精度向上、測定の効率化等はより一層の向上が望まれていたが、従来の近接場光学顕微鏡においては、その光信号の強弱をマッピング測定するだけであり、バックグラウンド補正するという概念はなかった。
また測定時間の長いマッピング測定では、バックグラウンドスペクトルが時間を追って序々に変化するため、測定の途中でバックグラウンドスペクトルをアップデートする必要があった。
【0027】
そこで、本発明において特徴的なことは、試料のスペクトル形状の精度向上、測定時間の短縮化、装置のドリフトの影響の低減を図るため、前記マッピング測定中の、プローブ先端位置の、ある測定部位への移動毎に、つまりZ軸方向位置変調時にバックグラウンド情報を取得し、これを対応する測定部位のバックグラウンド補正に用いたことである。
【0028】
このために本実施形態においては、バックグラウンド情報取得手段と、Z軸走査手段と、演算手段を備える。
前記バックグラウンド情報取得手段は、例えば励起レーザ36と、光ファイバプローブ12と、分光器38と、検出器40と、コンピュータ本体22を備える。
前記Z軸走査手段は、例えばXYZステージ18と、ステージコントローラ20等よりなり、試料24とプローブ12先端を離隔ないし近接させるZ軸方向に走査する。バックグラウンドスペクトル情報を得る際は、試料24とプローブ12先端を近接場領域外の所定距離に離隔させる。
【0029】
そして、励起レーザ36からのレーザ光42は、ファイバプローブ12に入射され、プローブ先端の開口より近接場光25がしみ出している。ステージコントローラ20によりXYZステージ18をZ軸方向に駆動し、試料24とプローブ先端12位置を近接場領域外の所定距離に離隔させた状態のバックグラウンドスペクトル情報を分光器38と検出器40により得る。これをコンピュータ本体22のHDD30のバックグラウンド情報記憶部44に記憶する。
【0030】
前記演算手段は、例えばコンピュータ本体22のCPU46等よりなり、近接場情報記憶部42の、ある測定部位の近接場スペクトル情報より、バックグラウンド情報記憶部44の、対応するバックグラウンドスペクトル情報を差し引き、その測定部位についてバックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得る。
【0031】
すなわち、本実施形態では、ある測定部位の近接場スペクトル情報を得るときは、図2(A)に示すようにステージコントローラ20によりXYZステージ18を+Z軸方向、図中上方に駆動し、同図(B)に示すように試料24の測定部位とプローブ先端12位置の距離H1を、近接場領域W内の所定距離に近接させる。
【0032】
本実施形態では、この測定部位の測定後、次の測定部位にプローブ先端位置を移動させるとき、同図(C)に示すようにステージコントローラ20によりXYZステージ18をZ軸方向、図中下方に駆動し、試料24の測定部位とプローブ先端12位置を近接場領域W外の、所定距離H2に離隔させるZ軸方向位置変調時に、対応する測定部位のバックグラウンドスペクトルを得る。
【0033】
本実施形態では、ある測定部位について、同図(A)に示すような状態で得られた近接場スペクトル情報より、同図(C)に示すような状態で得られたバックグラウンドスペクトル情報を差し引きする。これにより対応する測定部位について、バックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得ることができる。本実施形態では、これを各測定部位について繰返す。
【0034】
このように本実施形態では、マッピング測定中のZ軸方向位置変調時、つまりある測定部位の近接場スペクトル採取後から次の測定部位にプローブ12先端位置を移動させる際の、試料24とプローブ12先端位置が近接場領域外の所定距離H2に離隔している時に、対応する測定部位のバックグラウンドスペクトル情報を得ることとした。これにより本実施形態では、全ての測定部位の近接場スペクトル情報の取得後に一のバックグラウンドスペクトル測定を別途行い、全ての測定部位について一のバックグラウンドスペクトル情報を用いて一様の補正を行うものに比較し、装置系のドリフトの影響を低減し、各測定部位についてバックグラウンドの影響が大幅に除去された真の近接場スペクトルを効率的に得ることができる。
【0035】
特に複数の測定部位の測定については、マッピング測定中のZ軸方向位置変調時に、バックグラウンドスペクトル情報を得るので、従来の近接場スペクトル情報のみの測定時間とがほぼ同じであるにもかかわらず、近接場スペクトル情報とバックグラウンドスペクトル情報を得ることができる。
なお、各バックグラウンドスペクトル情報は、プローブ先端位置の移動元又は移動先の測定部位から得られた近接場スペクトル情報のバックグラウンド補正に用いることができる。
【0036】
以下、試料測定面上でのプローブ先端位置の種々の走査の具体例について説明する。
<面走査>
試料の測定領域に複数の測定面を設定し、近接場情報取得手段により各測定面より順次、近接場スペクトル情報を得る。つまり測定面毎のマッピング測定を行う。
【0037】
なお、図3は、ある測定部位としての測定面を示す。同図中、実線はプローブ先端と測定面を近接場領域内に近接させマッピング測定時の、測定面上のプローブ先端位置の移動軌跡を示す。破線で示された円印はプローブ先端と測定面を近接場領域外の所定距離に離隔させた状態のバックグラウンド測定点を示す。
同図に示すように測定面A1のためのバックグラウンド測定点Q1では、プローブ先端位置を測定面の近接場領域外の所定距離に離隔させ、バックグラウンドスペクトル情報を得る。
【0038】
前記バックグラウンド測定後、X軸駆動によりプローブ先端を第1測定面A1の始点P1上方に位置させ、Z軸駆動によりプローブ先端を始点P1上の近接場領域内の所定距離に近接させる。
第1測定面A1とプローブ先端位置の離隔距離を保ちながら、プローブ先端位置を第1測定面A1の始点P1から終点Pnまで、図中実線のようにX方向及びY方向に走査させ、第1測定面A1の近接場スペクトル情報を得る。このとき、XYZステージ等より測定面A1上のXY座標が得られ、検出器で得られた光強度は、分光器より得られる波長情報と共に記憶されることにより、測定面A1の各測定部位における近接場スペクトル情報が得られる。
【0039】
第1測定面A1の近接場スペクトル情報の取得後、次の第2測定面の近接場スペクトル情報の取得を行うため、第1測定面A1の終点Pn上では、Z軸方向位置変調によりプローブ先端位置を終点Pn上方の、近接場領域外の所定距離に離隔させ、第2測定面のためのバックグラウンドスペクトル情報を得る。第2測定面のためのバックグラウンドスペクトル情報の取得後、XY軸駆動によりプローブ先端位置を次の第2測定面上の始点の上方に位置させ、Z軸駆動によりプローブ先端を始点上の近接場領域内の所定距離に近接させる。
【0040】
第2測定面とプローブ先端位置の離隔距離を保ちながら、前記第1測定面と同様プローブ先端位置を該測定面の始点から終点までX方向及びY方向に走査させ、第2測定面の近接場スペクトル情報を得る。
このように本実施形態では、各測定面のマッピング測定中のZ軸方向位置変調時、つまりある測定面の近接場スペクトル情報の取得後から次の測定面の近接場スペクトル情報取得前の、プローブ先端位置が近接場領域外の所定距離に離隔中に、プローブ先端位置の移動元ないし移動先の測定面のバックグラウンドスペクトル情報を得る。
【0041】
そして、本実施形態では、CPUがその測定面の近接場スペクトル情報より、対応するバックグラウンドスペクトル情報を差し引き、その測定面についてバックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得る。これを各測定面について繰返す。
【0042】
この結果、本実施形態では、全ての測定面の近接場スペクトル情報の取得後に別途バックグラウンド測定を行い、全ての測定面について一のバックグラウンドスペクトル情報を用いて一様にバックグラウンド補正を行うものに比較し、装置系のドリフトの影響を低減し、各測定面についてバックグラウンドの影響が大幅に除去された真の近接場スペクトルを得ることができる。
【0043】
しかも、本実施形態では、試料の測定領域に複数の測定面を設定し、近接場情報取得手段により各測定行より順次、近接場スペクトル情報を得る際は、各測定面のマッピング測定中のZ軸方向位置変調時に、前述のようにしてバックグラウンドスペクトル情報の取得を行うので、全てのマッピング測定終了後に別途バックグラウンド測定を行うものに比較し、測定時間をマッピング測定のみの時間とほぼ同じ時間まで、大幅に短縮することができる。
【0044】
なお、本実施形態では、得られたバックグラウンドスペクトル情報は、そのプローブ先端位置の移動元又は移動先の測定面から得られた近接場スペクトル情報のどちらのバックグラウンド補正にも用いることができる。
また前記構成では、ある測定面の始点付近のバックグラウンド測定点より採取したバックグラウンドスペクトル情報を用いて、その測定面の近接場スペクトル情報を補正した例について説明したが、その測定面の終点付近のバックグラウンド測定点より採取したバックグラウンドスペクトルを用いてもよい。
【0045】
また本実施形態では、各測定面の近接場スペクトル情報を、対応する各バックグラウンドスペクトル情報でバックグラウンド補正するのであれば、任意の時期にバックグラウンド補正することができる。例えば各測定面の近接場スペクトル情報が得られる毎にリアルタイムに、対応するバックグラウンドスペクトル情報で補正を行いディスプレイにマッピング測定結果を順次表示したり、全ての測定面の近接場スペクトル情報が得られた後に、対応するバックグラウンドスペクトル情報で補正を行いディスプレイにマッピング測定結果を一度に表示したりできる。
【0046】
<行走査>
図4に示すように試料の測定領域に複数の測定行L1〜Lnを図中X軸方向に設定し、近接場情報取得手段により各測定行L1〜Lnより順次、近接場スペクトル情報を得る。つまり測定行Li毎のマッピング測定を行う。
なお、同図中、実線はプローブ先端と試料を近接場領域内に近接させマッピング測定時の、試料上のプローブ先端位置の移動軌跡を示す。破線はプローブ先端位置と試料を近接場領域外の所定距離に離隔させた状態のプローブ先端位置の移動軌跡を示す。破線で示された円印は、プローブ先端位置と試料を近接場領域外の所定距離に離隔させた状態のバックグラウンド測定点を示す。
【0047】
同図に示すように試料の測定領域を一の測定行Li毎に走査する。すなわち、まず第1測定行L1の近接場スペクトル情報の取得前、第1測定行L1のためのバックグラウンドスペクトル情報の取得を、プローブ先端位置と試料を近接場領域外の所定距離に離隔させ、バックグラウンド測定点Q1より行う。
【0048】
バックグラウンド測定後、XY軸駆動により第1測定行L1の始点P11上方に位置させ、第1測定行L1の始点P11では、Z軸駆動によりプローブ先端位置を近接場領域内に近接させ、近接場スペクトル情報の採取を開始する。すなわち、この離隔距離を保ちながら、プローブ先端を第1測定行L1上で終点PnまでX軸方向に走査する。このとき、XYZステージ等より測定行L1のXY座標が得られ、検出器で得られた光強度は、分光器より得られる波長情報と共に記憶されることにより、測定行L1の各測定部位における近接場スペクトル情報が得られる。
【0049】
第1測定行L1上の終点P1nの近接場スペクトル情報の取得後、次の第2測定行L2の近接場スペクトル情報の取得を行うため、終点P1nでは、Z軸駆動によりプローブ先端位置を近接場領域外の所定距離に離隔させる。そして、XY軸駆動により、例えば図中左斜め方向にプローブ先端位置を移動し、次の第2測定行L2上の始点P21の上方に位置させる。
【0050】
ここで、本実施形態では、プローブ先端位置を次の測定行に移動の際の、近接場領域外の所定距離に離隔させた状態で、例えば第2測定行のためのバックグラウンドスペクトル情報をバックグラウンド測定点Q2より得る。
本実施形態では、各測定行のマッピング測定中のZ軸方向位置変調時、つまりある測定行の近接場スペクトル情報取得後から次の測定行の近接場スペクトル情報取得前の、プローブ先端位置が近接場領域外の所定距離に離隔している時に、プローブ先端位置の移動元の測定行L1ないし移動先の測定行L2のためのバックグラウンドスペクトル情報を得る。
【0051】
そして、本実施形態では、CPUが、ある測定行の近接場スペクトル情報より、対応するバックグラウンドスペクトル情報を差し引き、その測定行について対応するバックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得る。本実施形態では、これを各測定行について繰返す。
したがって、本実施形態では、各測定行のマッピング測定中のZ軸方向位置変調時の近接場領域外の所定距離に離隔中に、プローブ先端位置の移動元ないし移動先の測定行のためのバックグラウンドスペクトル情報を得、これを各測定行について行なうこととした。
【0052】
この結果、本実施形態では、全ての測定行の近接場スペクトル情報の取得後に別途バックグラウンド測定を行い、全ての測定行について一のバックグラウンドスペクトル情報を用いて一様にバックグラウンド補正を行うものに比較し、装置系のドリフトの影響を低減し、各測定行についてバックグラウンドの影響が大幅に除去された真の近接場スペクトルを得ることができる。
【0053】
しかも、本実施形態では、試料の測定領域に複数の測定行を設定し、近接場情報取得手段により各測定行より順次、近接場スペクトル情報を得る際は、各測定行のマッピング測定中のZ軸方向位置変調時の近接場領域外の所定距離に離隔中に、前述のようなバックグラウンドスペクトル情報の取得を行うので、別途、バックグラウンド測定を行うものに比較し、測定時間を近接場スペクトル情報のみの取得時間とほぼ同じ時間まで、大幅に短縮することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、あるバックグラウンドスペクトル情報は、そのプローブ先端位置の移動元又は移動先の測定行から得られた近接場スペクトル情報のどちらのバックグラウンド補正にも用いることができる。
【0055】
また本実施形態では、各測定行の近接場スペクトル情報を、対応する各バックグラウンドスペクトル情報でバックグラウンド補正するのであれば、任意の時期にバックグラウンド補正することができる。例えば各測定行の近接場スペクトル情報が得られる毎にリアルタイムに、対応するバックグラウンドスペクトル情報で補正を行いディスプレイにマッピング測定結果を順次表示したり、全ての測定行の近接場スペクトル情報が得られた後に、対応するバックグラウンドスペクトル情報で補正を行いディスプレイにマッピング測定結果を一度に表示したりできる。
【0056】
また、本実施形態では、バックグラウンド測定点は、前記測定時間の短縮化の観点から次の測定行へのプローブ先端位置の移動途中の、前記バックグラウンド測定点に設定することが好ましいが、そのほか、所定の離隔距離があれば、図5に示すようにバックグラウンド測定点Qiは、各測定行Liの始点の付近ないし終点の近くに設定することができる。
【0057】
<点走査>
図6に示すように試料の測定領域に複数の測定点を設定し、近接場情報取得手段により各測定点より順次、近接場スペクトル情報を得る。つまり測定点毎のマッピング測定を行う。
【0058】
なお、同図中、実線で示される各点は、プローブ先端位置と試料測定面を近接場領域内に近接させ、近接場スペクトル情報を得る測定点を示す。破線で示される円印は、プローブ先端位置と試料測定面を近接場領域外の所定距離に離隔させた状態のバックグラウンド測定点を示す。
同図に示すように試料の測定領域を各測定点毎に走査する。すなわち、まず第1測定点P1上方では、プローブ先端位置を近接場領域外の所定距離に離隔させ、XY軸駆動により、図中破線に示すように第1測定点P1上方の周囲で、プローブ先端位置を旋回させている間に、バックグラウンド測定点Q1より測定点P1のためのバックグラウンドスペクトル情報を得る。
【0059】
本実施形態では、バックグラウンド測定点Q1よりバックグラウンドスペクトル情報の取得後、XY軸駆動により、第1測定点P1の上方にプローブ先端を位置させる。そして、Z軸駆動によりプローブ先端位置を第1測定点P1上の、近接場領域内の所定距離に近接させ、近接場スペクトル情報を取得する。このとき、XYZ等より測定点P1のXY座標が得られ、検出器で得られた光強度は、分光器より得られる波長情報と共に記憶されることにより、測定点P1におけるスペクトル情報が得られる。
【0060】
本実施形態では、第1測定点P1の近接場スペクトル情報の取得後、次の第2測定点P2の近接場スペクトル情報の取得を行うため、第1測定点P1上では、Z軸駆動によりプローブ先端位置を近接場領域外の所定距離に離隔させ、X軸駆動によりプローブ先端位置を第2測定点P2の上方に位置させる。
第2測定点P2の上方では、プローブ先端位置を近接場領域外の所定距離に離隔させた状態で、XY軸駆動により図中破線に示すように第2測定点P2上方の周囲を旋回させている間に、バックグラウンド測定点Q2より測定点P2のためのバックグラウンドスペクトル情報を得る。
【0061】
本実施形態では、バックグラウンド測定点Q2よりバックグラウンドスペクトル情報の取得後、XY軸駆動によりプローブ先端位置を第2測定点P2の上方に位置させる。Z軸駆動によりプローブ先端位置を第2測定点P2上の近接場領域内の所定距離に近接させる。第2測定点P2の近接場スペクトル情報を取得する。
このように本実施形態では、各測定点のマッピング測定中のZ軸方向位置の変調時に、つまりある測定点の近接場スペクトル情報の取得後から次の測定点の近接場スペクトル情報の取得前の、プローブ先端位置が近接場領域外の所定距離に離隔している時に、プローブ先端位置の移動元ないし移動先の測定点のためのバックグラウンドスペクトル情報を得る。
【0062】
そして、本実施形態では、CPUが、その測定点の近接場スペクトル情報より、対応するバックグラウンドスペクトル情報を差し引き、その測定点について対応するバックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得る。これを各測定点について繰返す。
したがって、本実施形態では、各測定点のマッピング測定中のZ軸方向位置の変調時の、プローブ先端位置の次の測定点への移動時の近接場領域外の所定距離に離隔中に、プローブ先端位置の移動元ないし移動先の測定点のためのバックグラウンドスペクトル情報を得、これを各測定点について行なうこととした。
【0063】
この結果、本実施形態では、全ての測定点の近接場スペクトル情報を得た後に別途バックグラウンド測定を行い、全ての測定点について一のバックグラウンドスペクトル情報を用いて一様にバックグラウンド補正を行うものに比較し、装置系のドリフトの影響を低減し、各測定点についてバックグラウンドの影響が大幅に除去された真の近接場スペクトルを得ることができる。
【0064】
しかも、本実施形態では、試料の測定領域に複数の測定点を設定し、近接場情報取得手段により各測定点より順次、近接場スペクトル情報を得る際は、各測定点のマッピング測定中のZ軸方向位置の変調時に、前述のようなバックグラウンドスペクトル情報の取得を行うので、別途、バックグラウンド測定を行うものに比較し、測定時間を通常のマッピング測定のみの時間とほぼ同じ時間まで、大幅に短縮することができる。
【0065】
なお、本実施形態では、プローブ先端位置の移動元の測定点から移動先の測定点への移動時に得たバックグラウンドスペクトル情報は、そのプローブ先端位置の移動元又は移動先の測定点から得られた近接場スペクトル情報のどちらのバックグラウンド補正にも用いることができる。
【0066】
また本実施形態では、各測定点の近接場スペクトル情報を、対応する各バックグラウンドスペクトル情報でバックグラウンド補正するのであれば、任意の時期にバックグラウンド補正することができる。例えば各測定点の近接場スペクトル情報が得られる毎にリアルタイムに、対応するバックグラウンドスペクトル情報で補正を行いディスプレイにマッピング測定結果を順次表示したり、全ての測定点の近接場スペクトル情報が得られた後に、対応するバックグラウンドスペクトル情報で補正を行いディスプレイにマッピング測定結果を一度に表示したりできる。
【0067】

また前記構成では、プローブ先端位置を所定の離隔距離で測定点上方の周囲を旋回させている時に、対応する測定点のバックグラウンドスペクトル情報を得た例について説明したが、プローブ先端を所定の離隔距離で測定点の上方で旋回させることなく、図7に示すように近接場領域外の所定の離隔距離に離隔した各バックグラウンド測定点Qiより、対応する測定点Piのバックグラウンドスペクトル情報を得ることもできる。
【0068】
以上のように本実施形態にかかる近接場分光装置によれば、複数の各測定部位毎のマッピング測定中のZ軸方向位置の変調時に、つまりプローブ先端位置の次の測定部位への移動時の、近接場領域外の所定距離に離隔中に、プローブ先端位置の移動元ないし移動先の測定部位のバックグラウンド補正のためのバックグラウンドスペクトル情報を得、これを各測定部位について行なうこととした。
【0069】
この結果、本実施形態では、全ての測定部位の近接場スペクトル情報の取得後に別途バックグラウンド測定を行い、全ての測定部位について一のバックグラウンドスペクトル情報を用いて一様にバックグラウンド補正を行うものに比較し、装置系のドリフトの影響を低減し、各測定部位についてバックグラウンドの影響が大幅に除去された真の近接場スペクトルを得ることができる。
【0070】
しかも、本実施形態では、試料の測定領域に複数の測定部位を設定し、近接場情報取得手段により各測定点より順次、近接場スペクトル情報を得る際は、プローブ先端位置の次の測定部位への移動時の、近接場領域外の所定距離に離隔中に、前述のようなバックグラウンドスペクトルの取得を行うので、別途バックグラウンド測定を行うものに比較し、測定時間を通常のマッピング測定のみの時間とほぼ同じ時間まで、大幅に短縮することができる。
【0071】
<光距離特性>
ところで、近接場分光においては、プローブと試料の距離が離れている場合は、試料からの信号は格段に減少することが考えられるが、従来は具体的にどのくらいの距離になると、どのくらいスペクトルが得られるかを測定する機能は持っていなかった。
【0072】
一方、バックグラウンド補正は、近接場分光における光特性と距離の関係を慎重に考慮して行わなければ、バックグラウンドを除去するというよりも、むしろ近接場スペクトルの波形の劣化を引起してしまうこと、バックグラウンド除去を適切に行えないこと等がある。このため、近接場分光における光と距離の関係は、特にバックグラウンドスペクトルを定義するときに重要である。
【0073】
そこで、本実施形態では、前述のような光と距離の関係を測定し、波形の劣化を伴うことなくバックグラウンドを適切に除去するため、図8に示すように光距離特性取得手段と、選択手段を備える。なお、前記図1と対応する部分には符号100を加えて示し説明を省略する。
前記光距離特性取得手段は、例えば励起レーザ136と、光ファイバプローブ112と、分光器138と、検出器140と、コンピュータ本体122と、XYZステージ118と、ステージコントローラ120を備える。
【0074】
そして、本実施形態では、ステージコントローラ120によりプローブ112先端と試料24測定面を光の波長よりも狭い領域(近接場領域内)まで近接させると、プローブ先端112よりしみだした光125は試料124測定面にで散乱ないし反射される。その散乱光ないし反射光144はプローブ112先端の開口より集光され、分光器138で分光される。分光された光は、検出器140で検出される。その光強度は分光器138より得られる波長情報と共に、コンピュータ本体122のHDD130の光距離特性情報記憶部150に記憶される。
【0075】
このとき、本実施形態では、ステージコントローラ120によりXYZステージ118をZ軸方向に駆動し、試料124測定面とプローブ112先端間の離隔距離を変えながら、スペクトル情報を取得する。このスペクトル情報をステージコントローラ120等より得られるZ軸座標と共に光距離特性記憶部150に記憶する。
【0076】
このようにして図9に示すような光と距離の関係を得る。例えば同図に示すように、プローブ先端位置と試料測定面との離隔距離が近づくにつれ、得られるスペクトルの起伏は多くなってくるが、離隔するにつれ、それは平坦となっていく。このような光と距離の関係を把握することができる。
選択手段は、例えば入力デバイス152等よりなり、前記光距離特性記憶部150に得た光と離隔距離の関係より、所望の光特性が得られる距離を選択する。これによりバックグラウンドを測定すべき距離を的確に選択することができる。
【0077】
そして、本実施形態では、前記バックグラウンド情報取得手段によるバックグラウンドスペクトルの取得を行う際は、CPU146は光距離特性記憶部150にアクセスし、試料とプローブ先端間の離隔距離を、前述のようにして選択された所望の光特性が得られる距離とする。これにより、バックグラウンドを測定すべきプローブ先端と試料の離隔距離を的確に知ることができ、その的確な所定の離隔距離でバックグラウンドスペクトルを得るので、近接場分光におけるバックグラウンド補正時のスペクトル情報の劣化を大幅に低減することができる。
【0078】
さらに、本実施形態では、プローブ先端と試料表面間が、プローブ112先端に発生した近接場光と試料124表面の相互作用する距離より離れているとスペクトルは取れるが、ピークの形が違う。プローブ112先端と試料124表面を近づけると、突然得られるスペクトルのピークの変化が生じることがあり、これをプローブ先端に発生した近接場光と試料表面の相互作用として確認することができる。
【0079】
なお、前記構成では、プローブとしてファイバプローブを用いた例について説明したが、任意のプローブに適用することができる。また前記構成では、イルミネーション−コレクションモードを例について説明したが、任意の測定モードに適用することができる。特に全反射プリズムを設け全反射測定に適用し、前記構成と同様の効果を得ることもできる。
また前記構成では、プローブの位置を固定しXYZステージを移動した例について説明したが、XYZステージを固定し、プローブの位置を移動するものに適用することができる。
【0080】
また前記構成ではスペクトル情報という表現を用いたが、インターフェログラムに対して逆フーリエ変換を行うことによりスペクトルを得、該スペクトルに対してバックグラウンド補正を行う場合と、インターフェログラムに対してバックグラウンド補正を行い、バックグラウンドが除去されたインターフェログラムに対して逆フーリエ変換を行うことによりバックグラウンドが除去されたスペクトルを得る場合の両方の場合に適用することができる。
【0081】
また前記各構成では、各測定部位への移動の際は、まずZ軸駆動のみにより移動元の測定部位上で所定の離隔距離まで上方に離隔させた後、XY軸駆動のみにより次の測定部位に移動させた例について説明したが、Z軸駆動とXY軸駆動を組合せて、移動元の測定部位の近接位置より移動先の測定部位の離隔位置まで同時にプローブ先端を移動させることもできる。
【符号の説明】
【0082】
10 近接場光学顕微鏡(近接場分光装置)
12 光ファイバプローブ(近接場、バックグラウンド情報取得手段)
18 XYZステージ(近接場、バックグラウンド情報取得手段,Z軸走査手段,XY軸走査手段)
20 ステージコントローラ(近接場,バックグラウンド情報取得手段,Z軸走査手段,XY軸走査手段)
22 コンピュータ本体(近接場,バックグラウンド情報取得手段)
36 励起レーザ(近接場,バックグラウンド情報取得手段)
38 分光器(近接場,バックグラウンド情報取得手段)
40 検出器(近接場,バックグラウンド情報取得手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料測定面上を行走査することにより近接場スペクトル測定とバックグラウンド測定を行う近接場分光装置であって、
試料の試料測定面上にX軸及びY軸からなるXY平面と、該XY平面に直交するZ軸とを設定し、該試料測定面上でプローブ先端をX軸又はY軸方向に走査するXY軸走査手段と、
前記試料と前記プローブ先端を離隔ないし近接させ、Z軸方向に走査するZ軸走査手段と、
前記Z軸走査手段によって前記試料と前記プローブ先端を近接場領域内の所定距離に近接させることにより散乱する近接場光を採取し、該近接場光を分光し、前記試料の近接場スペクトル情報を得る近接場情報取得手段と、
前記Z軸走査手段により前記試料測定面と前記プローブ先端間のZ軸方向の離隔距離を前記試料から前記プローブ先端を近接場領域外の所定距離に離隔させてバックグラウンドスペクトル情報を得るバックグラウンド情報取得手段と、
前記近接場情報取得手段で得た近接場スペクトル情報より、前記バックグラウンド情報取得手段で得たバックグラウンドスペクトル情報を差し引き、該バックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得る演算手段と、を備え、
測定部位として前記試料測定面上に複数の測定行をX軸又はY軸に並行、かつ同一走査方向に設定し、
前記近接場情報取得手段は、各測定行より順次、近接場スペクトル情報を得、
前記バックグラウンド情報取得手段は、前記プローブが次の測定行へ移動する時に前記Z軸走査手段により前記試料から前記プローブ先端をZ軸方向に前記近接場領域外の所定距離に離隔し、測定が終了した測定行と、次の測定行との行間で前記プローブがプローブ先端の移動元ないし移動先の測定行のためのバックグラウンドスペクトル情報を得、
前記演算手段は、前記各測定行の近接場スペクトル情報より、対応する各バックグラウンドスペクトル情報を差し引き、前記各測定行について、対応する各バックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得ることを特徴とする近接場分光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の近接場分光装置において、
前記Z軸走査手段により前記試料測定面と前記プローブ先端間の離隔距離を変えながら前記近接場情報取得手段により前記試料のスペクトル情報を得て、近接場散乱光に起因するスペクトルのピークの変化をみることにより該スペクトルと前記離隔距離との関係を得る光距離特性取得手段と、
前記光距離特性取得手段で得た前記スペクトルと前記離隔距離の関係より、近接場スペクトル又はバックグラウンドスペクトルが得られる距離を選択する選択手段と、
前記近接場情報取得手段で得た近接場スペクトル情報より、前記バックグラウンド情報取得手段で得たバックグラウンドスペクトル情報を差し引き、該バックグラウンドが除去された真の近接場スペクトル情報を得る演算手段と、をさらに備え、
前記近接場情報取得手段は、前記光距離特性取得手段が近接場スペクトルと前記離隔距離との関係を得る時、又は、前記選択手段により近接場スペクトルが得られる距離が選択された時に、前記試料の近接場スペクトル情報を得ており、
前記バックグラウンド情報取得手段は、前記選択手段によりバックグラウンドスペクトルが得られる距離が選択された時に、バックグラウンドスペクトル情報を得ることを特徴とする近接場分光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−42486(P2012−42486A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262539(P2011−262539)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【分割の表示】特願2001−301989(P2001−301989)の分割
【原出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(000232689)日本分光株式会社 (87)