近視野光ヘッド及びその製造方法
【課題】 本発明の課題は、高速で高密度な情報の記録及び再生が可能な近視野光ヘッドを量産性良く作製することである。
【解決手段】 錐状のチップと略同じ高さを有するストッパーをチップの周囲に設け、チップおよびストッパーを覆った接触体の一部を外部の力により変位させ、変位した接触体の一部をチップ先端近傍の遮光膜に接触させることで開口を形成する。一括で多くの開口を形成できる本作製方法は、量産性に優れ、かつ、本作製方法で形成した開口が高光効率で高分解能な構造であることから、高密度で高速な記録/再生が可能な近視野光ヘッドを量産性良く作製できる。
【解決手段】 錐状のチップと略同じ高さを有するストッパーをチップの周囲に設け、チップおよびストッパーを覆った接触体の一部を外部の力により変位させ、変位した接触体の一部をチップ先端近傍の遮光膜に接触させることで開口を形成する。一括で多くの開口を形成できる本作製方法は、量産性に優れ、かつ、本作製方法で形成した開口が高光効率で高分解能な構造であることから、高密度で高速な記録/再生が可能な近視野光ヘッドを量産性良く作製できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、近視野光の相互作用を利用し、メディア上の情報の記録・再生を行う近視野光ヘッド及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光を用いた情報記録再生装置は、大容量化・小型化の方向へと進化しており、そのため記録ビットの高密度化が要求されている。その対策として、青紫色半導体レーザやSIL(Solid Immersion Lens)を用いた研究がおこなわれているが、これらの技術では光の回折限界の問題により、現在の記録密度の数倍程度の向上しか望めない。これに対し、光の回折限界を超えた微小領域の光学情報を扱う技術として近視野光を利用した情報記録再生方法が期待されている。
【0003】
この技術では、微小領域と近視野光ヘッドに形成した光の波長以下サイズの光学的開口との相互作用により発生する近視野光を利用する。これにより、従来の光学系において限界とされていた光の波長以下となる領域における光学情報を扱うことが可能となり、光メモリの高密度化が期待できる。簡単に、再生の原理を紹介する。一般にコレクションモードといわれる方法では、まず、メディア表面に散乱光を照射することで、メディア表面の微小マークの構造に応じて近視野光をその周辺に局在させる。この近視野光と微小開口とを光学的に相互作用させ散乱光に変換し、開口を通して検出することで、データ再生が可能となる。また、イルミネーションモードといわれる方法では、微小開口に伝搬光を照射することで微小開口周辺に近視野光を生成させる。その近視野光をメディア表面に近接させ、メディア表面に記録された微小な光学情報と相互作用させる。そこで散乱された光を別途設けたデテクタで検出することでも再生可能である。さらに、情報の記録方法としては、微小開口より生成される近視野光をメディア表面に照射させ、メディア上の微小な領域の形状を変化させたり(ヒートモード記録)、微小な領域の屈折率あるいは透過率を変化させる(フォトンモード記録)ことにより行う。これら、光の回折限界を超えた光学的微小開口を有する近視野光ヘッドを用いることにより、従来の光情報記録再生装置を超える記録ビットの高密度化が達成される。
【0004】
このような光情報の記録再生を行う近視野光ヘッドを作製する場合、分解能や信号のSNに直接影響する微小開口形成が重要な工程となる。微小開口の作製方法の一つとして、特開平5-21201に開示されている方法が知られている。この方法の開口作製方法は、遮光膜を堆積させた先鋭光波ガイドを圧電アクチュエータによって良好に制御された非常に小さな押しつけ量で硬い平板に押しつけることによって、先端の遮光膜を塑性変形させている。
【0005】
また、別の開口の形成方法として、特開平11-265520に開示されている方法がある。この方法の開口の形成方法は、突起を覆った遮光膜の先端付近に、側面方向からFIB(Focused Ion Beam)を照射し、突起先端の遮光膜を除去することによって行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-21201号公報
【特許文献2】特開平11-265520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開平5-21201の方法によれば、光波ガイド一本ずつしか開口を形成する事ができない。また、移動分解能が数nmの圧電アクチュエータによって押し込み量を制御する必要があるため、開口形成装置をその他の装置や空気などの振動による影響が少ない環境におかなくてはならない。また、光伝搬体ロッドが平板に対して垂直に当たるように調整する時間がかかってしまう。また、移動量の小さな圧電アクチュエータの他に、移動量の大きな機械的並進台が必要となる。さらに、移動分解能が小さな圧電アクチュエータをもちいて、押し込み量を制御するさいに、制御装置が必要であり、かつ、制御して開口を形成するためには数分の時間がかかる。したがって、開口作製のために、高電圧電源やフィードバック回路などの大がかりな装置が必要となる。加えて、開口形成にかかるコストが高くなる問題があった。
【0008】
また、特開平11-265520の方法によれば、加工対象は平板上の突起であるが、FIBを用いて開口を形成しているため、一つの開口の形成にかかる時間が10分程度と長い。また、FIBを用いるために、試料を真空中におかなければならない。従って、開口作製にかかる作製コストが高くなる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、光学的微小開口を有する近視野光ヘッド及びその製造方法において、メディアに向かって先鋭化された錐状のチップと、チップの頂点近傍に存在し、メディアと近視野光を介して相互作用する光学的な開口と、光学的な開口を除き、チップを覆う遮光膜と、チップと略同じ高さを有する複数のストッパーとを有する近視野光ヘッドにおいて、チップ及びストッパーの少なくとも一部を覆う略平板の少なくとも一部を変形させ、チップ頂点近傍の遮光膜に接触させることで、光学的な開口を形成する工程を有している。
【0010】
従って、前記チップと略同じ高さを有するストッパーによって前記平面の微小変位を容易に制御でき、特別な制御装置を必要とせずに、光学的な微小開口を精度良く、所定の力を与えるような単純な装置にて短時間で容易に作製でき、近視野光ヘッドを低コストで作製できる。
【0011】
また、前記光学的な開口を形成する工程にて、複数の近視野光ヘッドにおける複数の光学的な開口を、同時に形成している。
【0012】
従って、チップ及びストッパーに一括して同時にほぼ同一の力を加えることで、一度に複数の光学的な開口を形成でき、開口一つあたりの加工時間を短縮できる。よって、開口形成に費やすコストをさらに低減できる。
【0013】
また、近視野光ヘッド内に、複数の光学的な開口が存在し、光学的な開口を形成する工程にて、複数の光学的な開口を形成している。
【0014】
従って、複数の開口を同時形成することで、開口形成工程を低コスト化し、量産性に優れたヘッドを供給できることに加え、本発明に係わる近視野光ヘッドを光メモリ用ヘッドとして使用する場合に、ヘッドの高速な掃引を行わずに、高速な情報の記録かつ再生を可能とする。
【0015】
また、チップと前記ストッパーとを、同一の工程にて、同時に形成している。また、チップとストッパーとを同一材料としている。
【0016】
従って、チップとストッパーとを一括同時形成できることから、チップとストッパーの高さの差を制御でき、任意の大きさの光学的な開口を精密に作製できる。このことから歩留まりの向上が期待できる。
【0017】
また、前記光学的な開口を形成する工程にて光学的な開口を形成することで、平板にて変形させられた遮光膜の一部からチップの一部が突出している。
【0018】
従って、突起の形状による特徴的な近視野光の空間分布が生じ、これを利用して効果的な照射範囲を決定できる。高密度なメモリにおいては、周囲に近視野光が局在する先鋭化した突起をメディアに近接させることで、突起先端の曲率半径と同程度の高空間分解能で、データ再生・記録が可能となり、高密度化が実現する。
【0019】
また、近視野光ヘッドの一部がメディアとの相対運動により浮上力を受け、光学的な開口とメディアとの距離を一定に保つ手段として、浮上力を利用している。また、ストッパーの一部が浮上力を受ける近視野光ヘッドの一部を構成する。
【0020】
従って、メディアを高速に再生させながら、メディアとの間隔を一定にかつその距離を十分近接した状態に保てることから、高速な処理が達成される。さらにハードディスクドライブのような構成にすることで、小型化も実現する。
【発明の効果】
【0021】
チップ1とストッパー2の高さ、および、力Fを制御する事によって、分解能の高いアクチュエータを用いなくても、簡単に開口8を形成する事ができる。また、チップ1とストッパー2の高さが良好に制御されるため、開口8の作製歩留まりが向上した。また、本発明の実施の形態1で説明したワーク1000は、フォトリソグラフィ工程によって作製可能なため、ウエハなどの大きな面積を有する試料に、複数個作製することが可能であり、力Fを一定にすることによって複数個作製されたワーク1000それぞれに対して均一な開口径の開口8を形成する事ができる。また、力Fの大きさを変えることが非常に簡単なため、複数個作製されたワーク1000に対して個別に開口径の異なる開口8を形成する事が可能である。
【0022】
また、単純に力Fを加えるだけで開口が形成されるため、開口作製にかかる時間は数10秒以下と非常に短い。また、本発明の実施の形態1によれば、加工雰囲気を問わない。従って、大気中で加工する事が可能でありすぐに光学顕微鏡などで加工状態を観察できる。また、走査型電子顕微鏡中で加工することによって、光学顕微鏡よりも高い分解能で加工状態を観察することも可能である。また、液体中で加工することによって、液体がダンパーの役目をするため、より制御性の向上した加工条件が得られる。
【0023】
また、ワーク1000が複数個作製された試料に対して、一括で力Fを加えることによって、開口径のそろった開口8を一度に複数個作製する事も可能である。一括で加工する場合、ウエハ一枚あたりのワーク1000の数にもよるが、開口1個あたりの加工時間は、数100ミリ秒以下と非常に短くなる。
【0024】
また、実施の形態1に示した近視野光ヘッドでは、開口をエアーベアリング面と同じ高さに形成できることから、ヘッドの浮上量程度まで開口をメディアに近接できる。また、実施の形態1で示した作製方法で形成した微小な開口の形状は遮光膜より突出しかつ先端が先鋭化されており、先端径程度の光分解能(50nm以下)が実現する。さらに、チップは、光透過率の高い石英材料である。また、屈折率約1.5有し、頂角約90°の角度で形成されており、光から見た場合、光減衰が大きいカットオフ領域は小さくなる。このことから、開口での光効率が向上し、微小マークの高速再生或いは記録が可能となる。
【0025】
また、実施の形態1に係る近視野光ヘッドは、フォトリソグラフィ等に代表される微細加工を利用したシリコンプロセスにて作製可能であり、量産に適したヘッドとなる。また、図1から図7で示した方法で、安定した均一な大きさの開口を低コストで作製できることから量産化が容易となり、低価格で、信頼性に優れた近視野光ヘッドを大量に供給できる。さらに、微小開口を安定して容易に形成でき、且つその光効率が高いことから、記録ビットの高密度化とディスクの小径化を加え、光記録再生装置自体の小型化と軽量化が実現する。
【0026】
加えて、実施の形態2に係る近視野光ヘッドでは、ストッパーを形成する必要は無い。よって、さらに歩留まりが向上し、低価格な近視野光ヘッドおよび高密度光メモリ装置を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1に係る開口の形成方法について説明した図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る開口の形成方法について説明した図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る開口の形成方法について説明した図である。
【図4】ワーク1000の製造方法について説明した図である。
【図5】ワーク1000の製造方法について説明した図である。
【図6】ワーク1000の作製方法におけるチップ1とストッパー2の高さの関係を説明する図である。
【図7】ワーク1000の作製方法におけるチップ1とストッパー2の高さの関係を説明する図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る作製方法で光学的開口を形成した記録メモリ用近視野光ヘッドの概略図である。
【図9】本発明の実施の形態1に係る作製方法で光学的な開口を形成したメモリ用近視野光ヘッドを搭載した光記憶再生装置の一例を示す。
【図10】本発明の実施の形態1に係わる近視野光ヘッドを高速回転したメディア上で走査させたときの側面から見た図である。
【図11】本発明の実施の形態1に係る作製方法で光学的開口を形成した近視野光ヘッド構造の一例を示す。
【図12】本発明の実施の形態1に係る作製方法で光学的開口を形成した近視野光ヘッド構造の一例を示す。
【図13】本発明の実施の形態1に係る作製方法で光学的開口を形成した近視野光ヘッド構造の一例を示す。
【図14】本発明の実施の形態1に係る近視野光ヘッドの作製方法の一例を示す。
【図15】本発明の実施の形態1に係る作製方法で形成した開口の断面図を示す。
【図16】本発明の実施の形態2に係る作製方法で光学的開口を形成した近視野光ヘッド構造の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の開口の形成方法について、添付の図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1に係わる近視野光ヘッドの開口形成方法について図1から図3を用いて説明する。図1に示す、ワーク1000は、基板4上に形成された透明層5、透明層5の上に形成された錐状のチップ1および尾根状のストッパー2、チップ1、ストッパー2および透明層5の上に形成された遮光膜3からなる。なお、ワーク1000において、透明層5は、必ずしも必要ではなく、その場合、遮光膜3は、チップ1、ストッパー2および基板4上に形成される。また、遮光膜3は、チップ1にだけ堆積されていてもよい。
【0029】
チップ1の高さH1は、数mm以下であり、ストッパー2の高さH2は、数mm以下である。高さH1と高さH2の差は、100nm以下である。チップ1とストッパー2の間隔は、数mm以下である。また、遮光膜3の厚さは、遮光膜3の材質によって異なるが、数10nmから数100nmである。
【0030】
チップ1、ストッパー2および透明層5は、二酸化ケイ素や窒化珪素、或いはダイヤモンドなどの可視光領域において透過率の高い誘電体や、ジンクセレンやシリコンなどの赤外光領域において透過率の高い誘電体や、フッ化マグネシウムやフッ化カルシウムなどの紫外光領域において透過率の高い材料を用いる。また、チップ1の材料は、開口を通過する光の波長帯において少しでもチップ1を透過する材料であれば用いることができる。また、チップ1、ストッパー2および透明層5は、同一の材料で構成されても良いし、別々の材料で構成されても良い。例えば、チップ1が酸化珪素で、ストッパー2が単結晶シリコンで構成されていても良い。さらに、ストッパー2が、単結晶シリコンと酸化珪素の2層構造のように、複数の材料から構成されていても良い。特に、ストッパー2には、光を
透過させる必要はなく、構成材料の中には、遮光する材料、例えば金属やそれらの合金が含まれていても構わない。また、チップが多種類の誘電体から構成されていても、勿論構わない。遮光膜3は、たとえば、アルミニウム、クロム、金、白金、銀、銅、チタン、タングステン、ニッケル、コバルトなどの金属や、それらの合金を用いる。また、基板4は透明な材料でも良く、チップ1、ストッパー2、透明層5、基板4が同一材料であっても構わない。
【0031】
図2は、開口を形成する方法において、チップ1上の遮光膜3を塑性変形させている状態を示した図である。図1で示したワーク1000の上に、チップ1および少なくともストッパー2の一部を覆い、かつ、少なくともチップ1およびストッパー2側が平面である板6を載せ、さらに板6の上には、押し込み用具7を載せる。押し込み用具7にチップ1の中心軸方向に力Fを加えることによって、板6がチップ1に向かって移動する。チップ1と板6との接触面積に比べて、ストッパー2と板6との接触面積は、数100〜数万倍も大きい。したがって、与えられた力Fは、ストッパー2によって分散され、結果として板6の変位量は小さくなる。板6の変位量が小さいため、遮光膜3が受ける塑性変形量は非常に小さい。また、チップ1およびストッパー2は、非常に小さな弾性変形を受けるのみである。力Fの加え方は、所定の重さのおもりを所定の距離だけ持ち上げて、自由落下させる方法や、所定のバネ定数のバネを押し込み用具7に取り付け、所定の距離だけバネを押し込む方法などがある。板6の材料としては、Al・Cr・Au・Wなどの金属、2酸化珪素・窒化珪素・ダイヤモンドなどの誘電体、あるいはシリコン・ゲルマニウム・ガリウム砒素等の半導体材料やセラミック材料あるいは、その他可視光領域で透明な材料が使用される。特に、板6が、遮光膜よりも堅く、チップ1およびストッパー2よりも柔らかい材料である場合、チップ1およびストッパー2が受ける力は、板6によって吸収されるため、板6の変位量がより小さくなり、遮光膜3の塑性変形量を小さくすることが容易となる。
【0032】
図3は、力Fを加えた後に、板6および押し込み用具7を取り除いた状態を示した図である。遮光膜3の塑性変形量が非常に小さく、チップ1およびストッパー2が弾性変形領域でのみ変位しているため、チップ1の先端に開口8が形成される。開口8の大きさは、数nmからチップ1を通過する光の波長の回折限界程度の大きさである。なお、上記では、押し込み用具7とワーク1000の間に板6が挿入されていたが、板6を除去して直接押し込み用具7で押し込むことによっても同様に開口8を形成できることは、いうまでもない。開口8に光を導入するために、基板4をチップ1の形成面と反対側からエッチングすることによって透明体5またはチップ1の少なくとも一部を露出させて、開口8への光の導入口を形成する。また、基板4を透明材料103で構成することによって、光の導入口を形成する工程を省くことができるのは言うまでもない。
【0033】
以上説明したように、本発明の開口作製方法によれば、ストッパー2によって板6の変位量を良好に制御することができ、かつ、板6の変位量を非常に小さくできるため、大きさが均一で小さな開口8をチップ1先端に容易に作製することができる。また、基板側から光を照射して、開口8から近視野光を発生させることができる。
【0034】
次に、ワーク1000の製造方法を図4と図5を用いて説明する。図4は、基板材料104上に透明材料103を形成したのち、チップ用マスク101およびストッパー用マスク102を形成した状態を示している。図4(a)は上面図を示しており、図4(b)は、図4(a)のA-A'で示す位置における断面図を示している。透明材料103は、気相化学堆積法(CVD)や物理気相堆積法(PVD)やスピンコートによって基板材料104上に形成する。また、透明材料103は、固相接合や接着などの方法によっても基板材料104上に形成することができる。次に、透明材料103上にフォトリソグラフィ工程によって、チップ用マスク101及びストッパー用マスク102を形成する。チップ用マスク101とストッパー用マスク102は、同時に形成しても良いし、別々に形成しても良い。
【0035】
チップ用マスク101およびストッパー用マスク102は、透明材料103の材質と次工程で用いるエッチャントによるが、フォトレジストや窒化膜などを用いる。透明材料103は、二酸化ケイ素やダイヤモンドなどの可視光領域において透過率の高い誘電体や、ジンクセレンやシリコンなどの赤外光領域において透過率の高い誘電体や、フッ化マグネシウムやフッ化カルシウムなどの紫外光領域において透過率の高い材料を用いる。
【0036】
チップ用マスク101の直径は、たとえば数mm以下である。ストッパー用マスク102の幅W1は、たとえば、チップ用マスク101の直径と同じかそれよりも数10nm〜数μmだけ小さい。また、ストッパー用マスク102の幅W1は、チップ用マスク101の直径よりも数10nm〜数μmだけ大きくてもよい。また、ストッパー用マスク102の長さは、数10μm以上である。
【0037】
図5は、チップ1およびストッパー2を形成した状態を示している。図5(a)は上面図であり、図5(b)は、図5(a)のA -A'で示す位置の断面図である。チップ用マスク101およびストッパー用マスク102を形成した後、ウエットエッチングによる等方性エッチングによってチップ1およびストッパー2を形成する。透明材料103の厚さとチップ1およびストッパー2の高さの関係を調整することによって、図1に示す透明層5が形成されたり、形成されなかったりする。チップ1の先端半径は、数nmから数100nmである。この後、遮光膜をスパッタや真空蒸着などの方法で堆積する事によって、図1に示すワーク1000を形成する事ができる。また、遮光膜3をチップ1にだけ堆積する場合、遮光膜3の堆積工程において、チップ1上に遮光膜が堆積するような形状を有するメタルマスクを乗せてスパッタや真空蒸着などを行う。また、ワーク1000のチップが形成された面の全面に遮光膜3を堆積した後、チップ1にだけ遮光膜3が残るようなフォトリソグラフィ工程を用いても、チップ1上にだけ遮光膜3を形成する事ができることは言うまでもない。
【0038】
図6および図7は、上記で説明したワーク1000の作製方法におけるチップ1とストッパー2の高さの関係を説明する図である。なお、以下では、チップ用マスク101の直径が、ストッパー用マスク102の幅よりも小さい場合について説明する。図6は、図5(a)で説明した工程において、チップ1とストッパー2だけを示した図であり、図7は、図6中B-B'で示す位置のチップ1と、図6中C-C'で示す位置のストッパー2の断面図である。図7(a)は、チップ1がちょうど形成された状態を示した図である。ストッパー用マスク102の幅は、チップ用マスク101の直径よりも大きいため、図7(a)の状態では、ストッパー2の上面には、平らな部分が残り、この平らな部分上にストッパー用マスク102が残っている。しかしながら、チップ用マスク101は、チップ1との接触面積が非常に小さくなるため、はずれてしまう。図7(a)の状態では、チップ1の高さH11とストッパー2の高さH22は、同じである。
【0039】
図7(b)は、図7(a)の状態からさらにエッチングを進め、ストッパー2上面の平らな部分がちょうどなくなった状態を示している。図7(a)の状態からさらにエッチングを行うと、チップ用マスク101が無いチップ1の高さH111は、徐々に低くなっていく。一方、ストッパー用マスクが残っているストッパー2の高さH222は、H22と同じままである。ストッパー2の上面の平らな部分の幅は、徐々に狭くなり、断面形状は図7(b)に示すように、三角形になる。このときのチップ1とストッパー2の高さの差ΔHは、チップ用マスク101の直径とストッパー用マスク102の幅の差、および、チップ1とストッパー2の先端角によって異なるが、おおよそ1000nm以下程度である。
【0040】
図7(c)は、図7(b)の状態からさらにエッチングを進めた状態を示している。チップ1の高さH1111は、高さH111よりも低くなる。同様に、ストッパーH2222の高さも、高さH222よりも小さくなる。しかし、高さH1111と高さH2222の減少量は、同じであるため、チップ1とストッパー2の高さの差ΔHは、変化しない。なお、ストッパー用マスク102の幅が、チップ用マスク101よりも小さい場合は、チップ1とストッパー2の高さの関係が逆になるだけである。また、チップ用マスク101とストッパー用マスク102が等しい場合は、チップ1とストッパー2の高さが等しくなることは言うまでもない。
【0041】
本発明のワーク1000の作製方法によれば、フォトリソグラフィ工程によってチップ1とストッパー2の高さの差ΔHを良好に制御することができる。したがって、図1から図3で説明した開口作製方法において、板6の変位量を良好に制御することができる。
【0042】
次に、近視野光ヘッドを用いた情報記録再生装置における、再生(情報の読出し)及び記録(情報の書き込み)方法を説明する。開口近辺の詳細は記していないが、図1から図7にて説明した方法で光学的な開口を作製した高密度メモリ用近視野光ヘッドの概略図を図8に示す。
【0043】
図8では、いわゆるイルミネーションモード用いて再生する様子を描いている。ここで近視野光ヘッド11に入射する光は、メディアに対し略平行な方向から入射される。勿論、メディア対し略垂直な方向、あるいは斜め方向から入射されても構わない。近視野光ヘッド11内には、導波路13が備えられ、外部から入射した光はこの導波路13により微小開口12へと伝搬される。微小開口12へと照射された光は、近視野光として微小開口12近傍に局在するようになる。この近視野光を情報が記録されたメディア14の表面に近接させ、メディア14表面の形状あるいは物性的な光学構造を介して相互作用させることで、近視野光が散乱され、その散乱した伝搬光を別途設けた検出器15で受光する。このときの近視野光は、微小開口12の大きさ程度の分解能をもつことから、光の回折限界を超えた微小光学情報を再生することができる。
【0044】
また、いわゆるコレクションモードのように、メディア14表面に伝搬光を照射することで発生する近視野光を、微小開口12との相互作用で散乱させ、その散乱光を導波路13内を伝搬させて情報を検出することでも、上述と同様に情報再生は可能である。
【0045】
さらに、再生に限らず、メディアへの記録も可能である。この場合は、導波路13を通じ変調した光を微小開口12に導き、その信号に合わせ近視野光を生成させる。この変調した近視野光によってメディア14側で反応が起きれば、記録が可能となる。例えば、メディア14表面にGeSbTeの相変化膜が形成されている場合、近視野光の照射により局所的に180度を超え、当初アモルファス(非結晶)状態であったGeSbTe膜がクリスタル(結晶)状態に変化し、反射率が0.43から0.53へと約0.1増加する。この特性を利用して開口径程度の微小マークをメディア上に記録していく。
【0046】
ここで、近視野光ヘッド11を搭載した光情報記憶再生装置の一例を図9に示す。まず、走査方法について説明する。近視野光ヘッド11は、HDDで用いられる浮上スライダー構造をしており、メディア側の面内には、空気流による浮上力を受ける2本のエアーベアリング面が形成されている。そのため、図9に示すように、アーム16の先端に取り付けた近視野光ヘッド11は、高速回転により発生する空気の流体運動により受ける浮上力とアーム16による負荷荷重により、メディア14との距離を常に一定に保つことが可能となる。シークやトラッキングについては、モータ付きの回転軸17によりアーム16をメディア半径方向に動かすことにより、近視野光ヘッド11をメディア14上の任意の場所に走査したり、トラックの追従をすることができる。続いて光の伝搬方法について説明する。まず、図には示さないが小型の半導体レーザより発振した光は、アーム16内に取り付けた光導波路18を伝搬し、近視野光ヘッド11内へと導かれる。この光は、近視野光ヘッド11内の導波路13を経由して、メディア側の面内に形成された微小開口12に照射される。この微小開口12近辺で近視野光に変換される。メディア14が微小開口12に近接した状態にあると、近視野光とメディア14表面の微小領域との間に相互作用が生じて近視野光は散乱させる。図には示していないが、この散乱光は、近視野光ヘッド11内もしくは近視野光ヘッド11近傍、あるいはディスク14の裏面側に設けた受光素子で受光される。この受光素子にて散乱された光情報は、電気信号に変換され、信号処理回路を通して再生される。
【0047】
つづいて、近視野光ヘッドが高速回転しているメディア上を微小浮上しているときの姿勢を側面から見た図を図10に示す。メディア14を高速に回転させていくと、近視野光ヘッド11とメディア14との間に空気の流体運動が起こる。この結果、近視野光ヘッド11のメディア側の面はメディア14側から大きな圧力を受け、近視野光ヘッド11が浮上する。この浮上力に対し、逆にアーム16側からメディア14方向に一定の負荷荷重を近視野光ヘッド11に与えることで、力のバランスが保たれ、メディア14表面との距離を常に一定に保つことが可能となる。図10では、このときの近視野光ヘッド11の姿勢を示している。メディア14が白抜きの矢印方向へ運動することで、メディア14と近視野光ヘッド11間に空気の流れが生じるが、そのときのエアーベアリング面19が受ける圧力の分布から、その入り口側(流入端)では、出口側(流出端)に比べ、メディア14との間隔が大きくなる。そこでヘッド自体が図10のように傾き、空気流の流出端側では、エアーベアリング面19とメディア14との間隔が小さくなる。この間隔の小さいところに、微小開口12を設けることで、微小開口12とメディア14との距離がより近接し、高分解能で情報の再生が可能となる。
【0048】
次に、図11に図1から図7で説明した方法で光学的な開口を作製した近視野光ヘッドの一例を示す。図11では、近視野光ヘッド20のメディアに対向する面を上面として描かれている。近視野光ヘッド20は、近視野光を発生・検出する微小開口24と、その微小開口24が頂点に形成され、微小開口24へ光を伝搬するチップ21と、図中には示さないが、微小開口24を除きチップを覆い光を遮光するとともに開口への光を集光する効果をもつ金属膜と、開口作製の際に度あたりの役目を果たすストッパー22と、メディア方向からの浮上力を受けるエアーベアリング面23とで構成されている。
【0049】
近視野光を用いて情報再生するためには、微小開口24近傍に局在する近視野光とメディア上の光学情報を相互作用させるために、微小開口24をメディアに近接させる必要がある。さらに、高速走査させ、その距離を一定に保つことが要求される。そこで、近視野光ヘッドのメディアに対向する面内に、図11に示すような2つのエアーベアリング面23を設けている。このエアーベアリング面23は、図10で示したようにメディアとの相対運動により一定の浮上圧力を受け、このエアーベアリング面23を設けた近視野光ヘッド20は微小浮上を保持することが可能となり、その浮上量(エアーベアリング面とメディアとの距離)を100nm以下に制御することができる。ここで、エアーベアリング面23の高さとチップ21の高さをほぼ一致させることで、微小開口とメディアとの距離を常に安定して近接させ、高速走査させることが可能となる。
【0050】
図11における近視野光ヘッドの微小開口は、図1から図7で説明したように、ストッパー22を利用してチップ先端の遮光膜を変形させる方法で形成する。そこで、チップ21の周辺にチップとほぼ同程度の高さをもつストッパー22を設けている。ストッパーは図6と同様に、チップ周辺に4本形成される。ここで、微小開口24を形成するために、チップ21とストッパー22とをほぼ同程度の高さに形成する必要があり、また、開口をメディアに近接させために、チップ21とエアーベアリング面23とをほぼ同程度の高さに形成する必要がある。ストッパー22、チップ21、エアーベアリング面23のそれぞれの高さを揃えることは、それぞれの材料を同一とし、かつ同時にエッチングすることで形成可能である。
【0051】
また、図11に示す近視野光ヘッド20において、ストッパー22は、チップ21上方より見たときに十字のように4本配置されているが、図12に示す近視野光ヘッド30のように3本のストッパー25を形成しても構わない。勿論、3本や4本に限らず、それ以上の複数本形成されていても構わない。あるいは、図13に示す近視野光ヘッド40のように、チップを中心として1本のストッパー26をドーナッツ状に形成しても良い。これらストッパーは、チップからそれぞれのストッパーへの距離が同距離になるように配置する。押し込み治具の押し込まれ量は、各ストッパーからの距離が等距離の点で最大となり、かつ、その量を制御することが可能となるからである。
【0052】
ここで、図11で説明した実施の形態1に係わる近視野光ヘッドの作製方法の一例を図14にて説明する。図14は、図11中のAA'の断面を示している。まず、基板51には、透明材料を選択する(図14−P101)。硝子や石英、その他、紫外、可視、赤外の帯域で、透明な光学材料が適切である。特にここでは、石英基板を選択した場合で説明する。次に、図14−P102のように、半導体プロセスで使用されるフォトリソグラフィ工程にて、チップ用、ストッパー用、エアーベアリング面用のマスクパターン52を形成する。マスク材料には感光性フォトレジストを使用し、半導体プロセスのフォトリソグラフィ技術を用いることで寸法精度の高いマスクパターン52の形成が可能である。酸化珪素との密着性を考慮し、ネガ性のレジストを使用する方が好ましいが、もちろんポジ性のレジストを使用しても構わない。レジストの厚みは、厚みばらつきを容易に制御できる1μm程度が適切である。また、窒化珪素をマスク材として使用するときは、基板上に窒化珪素を積層し、フォトリソグラフィ工程にて形成したフォトレジストのパターンに合わせ、窒素珪素を加工することで、マスクパターン52は形成される。チップ及びストッパー用のマスクパターン52の形状は、図4とほぼ同様である。
【0053】
次に、図14−P103のように、石英の基51板をエッチングして表面にチップ53、ストッパー54、エアーベアリング面55を形成する。その後、マスク材を剥離した状態が、図14−P103の状態である。図14−P103のように基板51の断面方向から観察していくと、チップ53は高さの低い台形から、高さがだんだんと高くなるとともに、上辺が短くなっていき、その後三角形のチップ53となる。この台形から三角形になったときには、チップ53の頂点の高さがストッパー54およびエアーベアリング面55の高さと一致しており、このときエッチングを終了する。チップ53の頂角は110から70°の範囲で作製可能である。この角度の調整は、マスクパターン52と石英の基板51との密着性を制御することで実現する。エッチングには湿式のエッチングを用いても、乾式のエッチングを用いても構わない。湿式のエッチングでは、エッチャントとして、バッファーふっ酸(弗化水素酸と弗化アンモニウムの混合液)を使用し、アンダーエッチング量のコントロールにより任意のチップを形成する。乾式のエッチングでは、ガス種、流量の選択、プラズマのRFパワー、真空度がそれぞれ微妙にチップ形状に影響する。この乾式のエッチングにおいて、弗化ガスや塩化ガスによる化学反応を利用したエッチングを用いても良いし、スパッタのような物理反応を利用したエッチングを用いても良い。
【0054】
次に、図14−P104のように、チップ53を遮光する金属膜56をチップ側表面全体に積層する。積層する方法として、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、あるいはめっき法等を用いる。薄く、均一に積層でき、グレインを小さく抑えることができることから、真空蒸着法を主に使用する。この積層法により、100nmから1μm程度の範囲において、任意の厚みに積層する。積層する材料は、アルミニウム、金、銀、銅、白金、チタン、タングステン、クロム、およびそれらの合金が主要材料であるが、密着性を良くするためやグレインを抑えるために、微量であるがシリコンのような不純物を含ませる場合もある。
【0055】
次に、図14−P105のように、チップ53以外の場所に積層した金属膜56を除去する。フォトリソグラフィにてチップ53上にだけマスクパターンを形成し、残りの部分に露出した金属膜56をエッチングにより除去し、その後マスクを除去してチップ53上にだけ金属膜56を残す。エアーベアリング面55上あるいはストッパー54上の金属膜56を除去することで、チップ53頂点の高さと、エアーベアリング面55あるいはストッパー54の高さの一致を保つことが可能となる。
【0056】
最後に、図14−P106のように、図1から図7にて説明した方法で、チップ53頂点に光学的な開口57を形成する。ここでは、その詳細は省略する。
【0057】
このようにして、量産性良く、微小開口を有する近視野光ヘッドが作製できる。ここで、図15に、図1から図7で説明した作製方法で形成した開口の断面図を示す。図15(a)では、押し込み治具に押され変形した板58により、金属膜59が押し込まれ、かつ、チップ60自体も弾性変形している様子を示し、図15(b)では、板58を取り外した後の様子を示す。チップ60先端が板58に接触し、上方より力が加わると、チップ60先端近辺の金属膜59は、塑性変形をおこし、図15(a)のように、チップ60先端近辺の金属膜59が、その周辺に追いやられ、チップ60先端が板58に直接接触する。押し込み治具から板58に伝わった力は、チップ60自体にもかかり、チップ60はその力により弾性変形を起し、多少縮む。この状態から、板58を外すと、金属膜59は塑性変形したまま周囲に追いやられた形を残すが、弾性変形したチップ60は力が開放され、元の形状に戻る。この結果、図15(b)のように、チップ60の先端が金属膜59より少し突出した形状となる。
【0058】
近視野光は、この突出したチップの周辺に発生する。図14で説明した作製方法によりチップ頂点はエアーベアリング面と同じ高さに形成されており、チップ周囲に発生した近視野光をヘッド量の浮上量とほぼ同距離まで近接させることが可能となる。エアーベアリング面の設計次第では、20nm以下の浮上量が可能であり、開口周辺に発生する近視野光のビームスポット径を広げずにメディアに照射することが可能となる。また、その分解能は、先鋭化されたチップ頂点の曲率半径にも依存する。チップの先端径は、50nm以下に作製可能であることから、それに相当する光分解能(50nm以下)の実現が可能となる。また、石英製のチップは頂角約90°の角度で形成される。光は、屈折率約1.46、頂角90°のチップ内を伝搬し、開口へ到達する。この開口へ到達するまでに、波長以下サイズの領域(カットオフ領域)で大きな光減衰が起こるが、この高い屈折率と広い頂角により、光から見た場合、カットオフ領域は減少しており、その結果、開口での光効率が向上する。
【0059】
以上説明したように、実施の形態1で説明した近視野光ヘッドの作製方法においては、ヘッド内にストッパーを設ける構成にし、そのストッパーをチップ1と同じ高さに形成し、そのストッパー2を利用して板6の変位量を小さくすることができるため、分解能の高いアクチュエータを用いなくても、大きさが均一で微小な開口8をチップ1先端に形成する事が容易である。また、チップ1とストッパー2の高さが良好に制御されるため、開口8の作製歩留まりが向上する。また、ワーク1000は、フォトリソグラフィ工程によって作製可能なため、ウエハなどの大きな面積を有する試料に、複数個作製することが可能であり、力Fを一定にすることによって複数個作製されたワーク1000それぞれに対して均一な開口径の開口8を形成する事ができる。また、力Fの大きさを変えることが非常に簡単なため、複数個作製されたワーク1000に対して個別に開口径の異なる開口8を形成する事が可能である。また、単純に力Fを加えるだけで開口8が形成されるため、開口作製にかかる時間は数秒から数10秒と非常に短い。さらに、このような作製方法では、加工雰囲気を問わない。従って、大気中で加工する事が可能でありすぐに光学顕微鏡などで加工状態を観察できる。また、走査型電子顕微鏡中で加工することによって、光学顕微鏡よりも高い分解能で加工状態を観察することも可能である。また、液体中で加工することによって、液体がダンパーの役目をするため、より制御性の向上した加工条件が得られる。また、ワーク1000が複数個作製された試料に対して、一括で力Fを加えることによって、開口径のそろった開口8を一度に複数個作製する事も可能である。一括で加工する場合、ウエハ一枚あたりのワーク1000の数にもよるが、開口1個あたりの加工時間は、数100ミリ秒以下と非常に短くなる。
【0060】
また、近視野光を利用した光メモリ装置では、その光分解能は、近接距離や開口形状に大きく依存する。実施の形態1に示した近視野光ヘッドでは、開口をエアーベアリング面と同じ高さに形成できることから、ヘッドの浮上量程度まで開口をメディアに近接できる。また、その開口形状は遮光膜より突出しかつ先端が先鋭化(50nm以下)されている。近視野光は、先端径に依存した分布で発生する。本実施の形態1に示す近視野光ヘッドでは、この先鋭化した先端を微小浮上させることが可能であり、開口を微小化した場合、先端径程度の光分解能(50nm以下)が実現する。さらに、実施の形態1に示した近視野光ヘッドでは、チップは、屈折率約1.46を有し、頂角約90°の角度で形成されており、光学的に見た場合、光減衰が大きいカットオフ領域は小さくなる。また石英は、光透過率の高い材料である。このことから、開口での光効率が向上し、高速再生、記録が可能となる。
【0061】
また、実施の形態1に係る近視野光ヘッドは、フォトリソグラフィ等に代表される微細加工を利用したシリコンプロセスにて作製可能であり、量産に適したヘッドとなる。また、図1から図7で示した方法で、安定した均一な大きさの開口を低コストで作製できることから量産化が容易となり、低価格で、信頼性に優れた近視野光ヘッドを大量に供給できる。さらに、微小開口を安定して容易に形成できることから、記録ビットの高密度化とディスクの小径化を加え、光記録再生装置自体の小型化と軽量化が実現する。
(実施の形態2)
図16に実施の形態2に係わる近視野光ヘッドの概略図を示す。図16では、エアーベアリング面27及びチップ28を上面として描いている。本実施の形態2に係る近視野光ヘッド50では、エアーベアリング面27の一部に溝29が形成されており、その一部の溝29にはチップ28が形成されている。実施の形態1で示したストッパーは形成されていない。図16では、円形の溝29が形成されているが、円形に限らず、三角形、四角形あるいは多角形であっても構わない。しかし、チップ28は、常にその中心に配置される。また、図16では2つの溝29が描かれているが、2つに限らず、1つまたは、複数個形成されていても構わない。しかし、エアーベアリング面27が受ける浮上力の左右のバランスを保つためには、図16のように2本のエアーベアリング面27では左右同じ位置に溝29を形成することが望まれる。溝29の位置は、チップ28位置から決定した。エアーベアリング面27は、図10に示すように流体の流出端側の方がメディアに近接される。チップ28は、エアーベアリング面27の流出端側に位置する方が望ましい。そこで、図16では、チップ28位置に相当する位置に溝29を形成してある。また、溝29の大きさは、エアーベアリング面27が受ける浮上力を考慮に入れて設計され、その径および一辺の大きさは、10μmから300μm程度とする。
【0062】
実施の形態2に係る近視野光ヘッドでは、実施の形態1に係る近視野光ヘッドのようなストッパーは形成してない。開口形成におけるストッパーの役割は、エアーベアリング面27の一部が兼務する。実施の形態2に係る近視野光ヘッドの作製方法は、実施の形態1に係る近視野光ヘッドの作製方法と同様であり、図14に示すプロセスで作製され、エアーベアリング面27とチップ28はほぼ同じ高さに形成される。そこで、ストッパーは形成されないが、チップ28周りに形成されているエアーベアリング面27が、ストッパーと同様な役割を果たし、押し込み治具で押される板は、エアーベアリング面27とチップ28上を覆い、エアーベアリング面27の一部を支点として変形され、チップ28頂点の金属膜に接触する。チップ28は、板の変位量が最大で、かつ基板に対して平行に変位する位置、つまりエアーベアリング面27内に形成された溝29のほぼ中心に形成される。
【0063】
また、エアーベアリング面27上の遮光膜はあっても良いし、無くても構わない。遮光膜が無い場合、エアーベアリング面27からの漏れ光が検出器で検出される場合は、検出器近傍にピンホールを挿入し、外乱となる要因を低減させることで対応できる。
【0064】
以上説明したように、実施の形態2に係る近視野光ヘッドでは、エアーベアリング面の一部がストッパーの役割を担っており、ストッパーを形成していない。よって、ストッパーを形成する必要はなく、エアーベアリング面の高さとチップの高さを合わせるだけでよく、作製工程が簡易化する。さらに、開口形成方法は、実施の形態1と同様でありその効果も同様である。
【符号の説明】
【0065】
1、21、28、53、60 チップ
2、22、25、26、54 ストッパー
3 遮光膜
4、51 基板
5 透明層
6、58 板
7 押し込み用具
8、57 開口
11、20,30,40、50 近視野光ヘッド
12、24 微小開口
13 導波路
14 メディア
15 検出器
16 アーム
17 回転軸
18 光導波路
19、23、27、55 エアーベアリング面
29 溝
52 マスクパターン
56、59 金属膜
101 チップ用マスク
102 ストッパー用マスク
103 透明材料
104 基板材料
1000 ワーク
F 力
H1 チップの高さ
H2 ストッパーの高さ
【技術分野】
【0001】
この発明は、近視野光の相互作用を利用し、メディア上の情報の記録・再生を行う近視野光ヘッド及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光を用いた情報記録再生装置は、大容量化・小型化の方向へと進化しており、そのため記録ビットの高密度化が要求されている。その対策として、青紫色半導体レーザやSIL(Solid Immersion Lens)を用いた研究がおこなわれているが、これらの技術では光の回折限界の問題により、現在の記録密度の数倍程度の向上しか望めない。これに対し、光の回折限界を超えた微小領域の光学情報を扱う技術として近視野光を利用した情報記録再生方法が期待されている。
【0003】
この技術では、微小領域と近視野光ヘッドに形成した光の波長以下サイズの光学的開口との相互作用により発生する近視野光を利用する。これにより、従来の光学系において限界とされていた光の波長以下となる領域における光学情報を扱うことが可能となり、光メモリの高密度化が期待できる。簡単に、再生の原理を紹介する。一般にコレクションモードといわれる方法では、まず、メディア表面に散乱光を照射することで、メディア表面の微小マークの構造に応じて近視野光をその周辺に局在させる。この近視野光と微小開口とを光学的に相互作用させ散乱光に変換し、開口を通して検出することで、データ再生が可能となる。また、イルミネーションモードといわれる方法では、微小開口に伝搬光を照射することで微小開口周辺に近視野光を生成させる。その近視野光をメディア表面に近接させ、メディア表面に記録された微小な光学情報と相互作用させる。そこで散乱された光を別途設けたデテクタで検出することでも再生可能である。さらに、情報の記録方法としては、微小開口より生成される近視野光をメディア表面に照射させ、メディア上の微小な領域の形状を変化させたり(ヒートモード記録)、微小な領域の屈折率あるいは透過率を変化させる(フォトンモード記録)ことにより行う。これら、光の回折限界を超えた光学的微小開口を有する近視野光ヘッドを用いることにより、従来の光情報記録再生装置を超える記録ビットの高密度化が達成される。
【0004】
このような光情報の記録再生を行う近視野光ヘッドを作製する場合、分解能や信号のSNに直接影響する微小開口形成が重要な工程となる。微小開口の作製方法の一つとして、特開平5-21201に開示されている方法が知られている。この方法の開口作製方法は、遮光膜を堆積させた先鋭光波ガイドを圧電アクチュエータによって良好に制御された非常に小さな押しつけ量で硬い平板に押しつけることによって、先端の遮光膜を塑性変形させている。
【0005】
また、別の開口の形成方法として、特開平11-265520に開示されている方法がある。この方法の開口の形成方法は、突起を覆った遮光膜の先端付近に、側面方向からFIB(Focused Ion Beam)を照射し、突起先端の遮光膜を除去することによって行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-21201号公報
【特許文献2】特開平11-265520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開平5-21201の方法によれば、光波ガイド一本ずつしか開口を形成する事ができない。また、移動分解能が数nmの圧電アクチュエータによって押し込み量を制御する必要があるため、開口形成装置をその他の装置や空気などの振動による影響が少ない環境におかなくてはならない。また、光伝搬体ロッドが平板に対して垂直に当たるように調整する時間がかかってしまう。また、移動量の小さな圧電アクチュエータの他に、移動量の大きな機械的並進台が必要となる。さらに、移動分解能が小さな圧電アクチュエータをもちいて、押し込み量を制御するさいに、制御装置が必要であり、かつ、制御して開口を形成するためには数分の時間がかかる。したがって、開口作製のために、高電圧電源やフィードバック回路などの大がかりな装置が必要となる。加えて、開口形成にかかるコストが高くなる問題があった。
【0008】
また、特開平11-265520の方法によれば、加工対象は平板上の突起であるが、FIBを用いて開口を形成しているため、一つの開口の形成にかかる時間が10分程度と長い。また、FIBを用いるために、試料を真空中におかなければならない。従って、開口作製にかかる作製コストが高くなる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、光学的微小開口を有する近視野光ヘッド及びその製造方法において、メディアに向かって先鋭化された錐状のチップと、チップの頂点近傍に存在し、メディアと近視野光を介して相互作用する光学的な開口と、光学的な開口を除き、チップを覆う遮光膜と、チップと略同じ高さを有する複数のストッパーとを有する近視野光ヘッドにおいて、チップ及びストッパーの少なくとも一部を覆う略平板の少なくとも一部を変形させ、チップ頂点近傍の遮光膜に接触させることで、光学的な開口を形成する工程を有している。
【0010】
従って、前記チップと略同じ高さを有するストッパーによって前記平面の微小変位を容易に制御でき、特別な制御装置を必要とせずに、光学的な微小開口を精度良く、所定の力を与えるような単純な装置にて短時間で容易に作製でき、近視野光ヘッドを低コストで作製できる。
【0011】
また、前記光学的な開口を形成する工程にて、複数の近視野光ヘッドにおける複数の光学的な開口を、同時に形成している。
【0012】
従って、チップ及びストッパーに一括して同時にほぼ同一の力を加えることで、一度に複数の光学的な開口を形成でき、開口一つあたりの加工時間を短縮できる。よって、開口形成に費やすコストをさらに低減できる。
【0013】
また、近視野光ヘッド内に、複数の光学的な開口が存在し、光学的な開口を形成する工程にて、複数の光学的な開口を形成している。
【0014】
従って、複数の開口を同時形成することで、開口形成工程を低コスト化し、量産性に優れたヘッドを供給できることに加え、本発明に係わる近視野光ヘッドを光メモリ用ヘッドとして使用する場合に、ヘッドの高速な掃引を行わずに、高速な情報の記録かつ再生を可能とする。
【0015】
また、チップと前記ストッパーとを、同一の工程にて、同時に形成している。また、チップとストッパーとを同一材料としている。
【0016】
従って、チップとストッパーとを一括同時形成できることから、チップとストッパーの高さの差を制御でき、任意の大きさの光学的な開口を精密に作製できる。このことから歩留まりの向上が期待できる。
【0017】
また、前記光学的な開口を形成する工程にて光学的な開口を形成することで、平板にて変形させられた遮光膜の一部からチップの一部が突出している。
【0018】
従って、突起の形状による特徴的な近視野光の空間分布が生じ、これを利用して効果的な照射範囲を決定できる。高密度なメモリにおいては、周囲に近視野光が局在する先鋭化した突起をメディアに近接させることで、突起先端の曲率半径と同程度の高空間分解能で、データ再生・記録が可能となり、高密度化が実現する。
【0019】
また、近視野光ヘッドの一部がメディアとの相対運動により浮上力を受け、光学的な開口とメディアとの距離を一定に保つ手段として、浮上力を利用している。また、ストッパーの一部が浮上力を受ける近視野光ヘッドの一部を構成する。
【0020】
従って、メディアを高速に再生させながら、メディアとの間隔を一定にかつその距離を十分近接した状態に保てることから、高速な処理が達成される。さらにハードディスクドライブのような構成にすることで、小型化も実現する。
【発明の効果】
【0021】
チップ1とストッパー2の高さ、および、力Fを制御する事によって、分解能の高いアクチュエータを用いなくても、簡単に開口8を形成する事ができる。また、チップ1とストッパー2の高さが良好に制御されるため、開口8の作製歩留まりが向上した。また、本発明の実施の形態1で説明したワーク1000は、フォトリソグラフィ工程によって作製可能なため、ウエハなどの大きな面積を有する試料に、複数個作製することが可能であり、力Fを一定にすることによって複数個作製されたワーク1000それぞれに対して均一な開口径の開口8を形成する事ができる。また、力Fの大きさを変えることが非常に簡単なため、複数個作製されたワーク1000に対して個別に開口径の異なる開口8を形成する事が可能である。
【0022】
また、単純に力Fを加えるだけで開口が形成されるため、開口作製にかかる時間は数10秒以下と非常に短い。また、本発明の実施の形態1によれば、加工雰囲気を問わない。従って、大気中で加工する事が可能でありすぐに光学顕微鏡などで加工状態を観察できる。また、走査型電子顕微鏡中で加工することによって、光学顕微鏡よりも高い分解能で加工状態を観察することも可能である。また、液体中で加工することによって、液体がダンパーの役目をするため、より制御性の向上した加工条件が得られる。
【0023】
また、ワーク1000が複数個作製された試料に対して、一括で力Fを加えることによって、開口径のそろった開口8を一度に複数個作製する事も可能である。一括で加工する場合、ウエハ一枚あたりのワーク1000の数にもよるが、開口1個あたりの加工時間は、数100ミリ秒以下と非常に短くなる。
【0024】
また、実施の形態1に示した近視野光ヘッドでは、開口をエアーベアリング面と同じ高さに形成できることから、ヘッドの浮上量程度まで開口をメディアに近接できる。また、実施の形態1で示した作製方法で形成した微小な開口の形状は遮光膜より突出しかつ先端が先鋭化されており、先端径程度の光分解能(50nm以下)が実現する。さらに、チップは、光透過率の高い石英材料である。また、屈折率約1.5有し、頂角約90°の角度で形成されており、光から見た場合、光減衰が大きいカットオフ領域は小さくなる。このことから、開口での光効率が向上し、微小マークの高速再生或いは記録が可能となる。
【0025】
また、実施の形態1に係る近視野光ヘッドは、フォトリソグラフィ等に代表される微細加工を利用したシリコンプロセスにて作製可能であり、量産に適したヘッドとなる。また、図1から図7で示した方法で、安定した均一な大きさの開口を低コストで作製できることから量産化が容易となり、低価格で、信頼性に優れた近視野光ヘッドを大量に供給できる。さらに、微小開口を安定して容易に形成でき、且つその光効率が高いことから、記録ビットの高密度化とディスクの小径化を加え、光記録再生装置自体の小型化と軽量化が実現する。
【0026】
加えて、実施の形態2に係る近視野光ヘッドでは、ストッパーを形成する必要は無い。よって、さらに歩留まりが向上し、低価格な近視野光ヘッドおよび高密度光メモリ装置を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1に係る開口の形成方法について説明した図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る開口の形成方法について説明した図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る開口の形成方法について説明した図である。
【図4】ワーク1000の製造方法について説明した図である。
【図5】ワーク1000の製造方法について説明した図である。
【図6】ワーク1000の作製方法におけるチップ1とストッパー2の高さの関係を説明する図である。
【図7】ワーク1000の作製方法におけるチップ1とストッパー2の高さの関係を説明する図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る作製方法で光学的開口を形成した記録メモリ用近視野光ヘッドの概略図である。
【図9】本発明の実施の形態1に係る作製方法で光学的な開口を形成したメモリ用近視野光ヘッドを搭載した光記憶再生装置の一例を示す。
【図10】本発明の実施の形態1に係わる近視野光ヘッドを高速回転したメディア上で走査させたときの側面から見た図である。
【図11】本発明の実施の形態1に係る作製方法で光学的開口を形成した近視野光ヘッド構造の一例を示す。
【図12】本発明の実施の形態1に係る作製方法で光学的開口を形成した近視野光ヘッド構造の一例を示す。
【図13】本発明の実施の形態1に係る作製方法で光学的開口を形成した近視野光ヘッド構造の一例を示す。
【図14】本発明の実施の形態1に係る近視野光ヘッドの作製方法の一例を示す。
【図15】本発明の実施の形態1に係る作製方法で形成した開口の断面図を示す。
【図16】本発明の実施の形態2に係る作製方法で光学的開口を形成した近視野光ヘッド構造の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の開口の形成方法について、添付の図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1に係わる近視野光ヘッドの開口形成方法について図1から図3を用いて説明する。図1に示す、ワーク1000は、基板4上に形成された透明層5、透明層5の上に形成された錐状のチップ1および尾根状のストッパー2、チップ1、ストッパー2および透明層5の上に形成された遮光膜3からなる。なお、ワーク1000において、透明層5は、必ずしも必要ではなく、その場合、遮光膜3は、チップ1、ストッパー2および基板4上に形成される。また、遮光膜3は、チップ1にだけ堆積されていてもよい。
【0029】
チップ1の高さH1は、数mm以下であり、ストッパー2の高さH2は、数mm以下である。高さH1と高さH2の差は、100nm以下である。チップ1とストッパー2の間隔は、数mm以下である。また、遮光膜3の厚さは、遮光膜3の材質によって異なるが、数10nmから数100nmである。
【0030】
チップ1、ストッパー2および透明層5は、二酸化ケイ素や窒化珪素、或いはダイヤモンドなどの可視光領域において透過率の高い誘電体や、ジンクセレンやシリコンなどの赤外光領域において透過率の高い誘電体や、フッ化マグネシウムやフッ化カルシウムなどの紫外光領域において透過率の高い材料を用いる。また、チップ1の材料は、開口を通過する光の波長帯において少しでもチップ1を透過する材料であれば用いることができる。また、チップ1、ストッパー2および透明層5は、同一の材料で構成されても良いし、別々の材料で構成されても良い。例えば、チップ1が酸化珪素で、ストッパー2が単結晶シリコンで構成されていても良い。さらに、ストッパー2が、単結晶シリコンと酸化珪素の2層構造のように、複数の材料から構成されていても良い。特に、ストッパー2には、光を
透過させる必要はなく、構成材料の中には、遮光する材料、例えば金属やそれらの合金が含まれていても構わない。また、チップが多種類の誘電体から構成されていても、勿論構わない。遮光膜3は、たとえば、アルミニウム、クロム、金、白金、銀、銅、チタン、タングステン、ニッケル、コバルトなどの金属や、それらの合金を用いる。また、基板4は透明な材料でも良く、チップ1、ストッパー2、透明層5、基板4が同一材料であっても構わない。
【0031】
図2は、開口を形成する方法において、チップ1上の遮光膜3を塑性変形させている状態を示した図である。図1で示したワーク1000の上に、チップ1および少なくともストッパー2の一部を覆い、かつ、少なくともチップ1およびストッパー2側が平面である板6を載せ、さらに板6の上には、押し込み用具7を載せる。押し込み用具7にチップ1の中心軸方向に力Fを加えることによって、板6がチップ1に向かって移動する。チップ1と板6との接触面積に比べて、ストッパー2と板6との接触面積は、数100〜数万倍も大きい。したがって、与えられた力Fは、ストッパー2によって分散され、結果として板6の変位量は小さくなる。板6の変位量が小さいため、遮光膜3が受ける塑性変形量は非常に小さい。また、チップ1およびストッパー2は、非常に小さな弾性変形を受けるのみである。力Fの加え方は、所定の重さのおもりを所定の距離だけ持ち上げて、自由落下させる方法や、所定のバネ定数のバネを押し込み用具7に取り付け、所定の距離だけバネを押し込む方法などがある。板6の材料としては、Al・Cr・Au・Wなどの金属、2酸化珪素・窒化珪素・ダイヤモンドなどの誘電体、あるいはシリコン・ゲルマニウム・ガリウム砒素等の半導体材料やセラミック材料あるいは、その他可視光領域で透明な材料が使用される。特に、板6が、遮光膜よりも堅く、チップ1およびストッパー2よりも柔らかい材料である場合、チップ1およびストッパー2が受ける力は、板6によって吸収されるため、板6の変位量がより小さくなり、遮光膜3の塑性変形量を小さくすることが容易となる。
【0032】
図3は、力Fを加えた後に、板6および押し込み用具7を取り除いた状態を示した図である。遮光膜3の塑性変形量が非常に小さく、チップ1およびストッパー2が弾性変形領域でのみ変位しているため、チップ1の先端に開口8が形成される。開口8の大きさは、数nmからチップ1を通過する光の波長の回折限界程度の大きさである。なお、上記では、押し込み用具7とワーク1000の間に板6が挿入されていたが、板6を除去して直接押し込み用具7で押し込むことによっても同様に開口8を形成できることは、いうまでもない。開口8に光を導入するために、基板4をチップ1の形成面と反対側からエッチングすることによって透明体5またはチップ1の少なくとも一部を露出させて、開口8への光の導入口を形成する。また、基板4を透明材料103で構成することによって、光の導入口を形成する工程を省くことができるのは言うまでもない。
【0033】
以上説明したように、本発明の開口作製方法によれば、ストッパー2によって板6の変位量を良好に制御することができ、かつ、板6の変位量を非常に小さくできるため、大きさが均一で小さな開口8をチップ1先端に容易に作製することができる。また、基板側から光を照射して、開口8から近視野光を発生させることができる。
【0034】
次に、ワーク1000の製造方法を図4と図5を用いて説明する。図4は、基板材料104上に透明材料103を形成したのち、チップ用マスク101およびストッパー用マスク102を形成した状態を示している。図4(a)は上面図を示しており、図4(b)は、図4(a)のA-A'で示す位置における断面図を示している。透明材料103は、気相化学堆積法(CVD)や物理気相堆積法(PVD)やスピンコートによって基板材料104上に形成する。また、透明材料103は、固相接合や接着などの方法によっても基板材料104上に形成することができる。次に、透明材料103上にフォトリソグラフィ工程によって、チップ用マスク101及びストッパー用マスク102を形成する。チップ用マスク101とストッパー用マスク102は、同時に形成しても良いし、別々に形成しても良い。
【0035】
チップ用マスク101およびストッパー用マスク102は、透明材料103の材質と次工程で用いるエッチャントによるが、フォトレジストや窒化膜などを用いる。透明材料103は、二酸化ケイ素やダイヤモンドなどの可視光領域において透過率の高い誘電体や、ジンクセレンやシリコンなどの赤外光領域において透過率の高い誘電体や、フッ化マグネシウムやフッ化カルシウムなどの紫外光領域において透過率の高い材料を用いる。
【0036】
チップ用マスク101の直径は、たとえば数mm以下である。ストッパー用マスク102の幅W1は、たとえば、チップ用マスク101の直径と同じかそれよりも数10nm〜数μmだけ小さい。また、ストッパー用マスク102の幅W1は、チップ用マスク101の直径よりも数10nm〜数μmだけ大きくてもよい。また、ストッパー用マスク102の長さは、数10μm以上である。
【0037】
図5は、チップ1およびストッパー2を形成した状態を示している。図5(a)は上面図であり、図5(b)は、図5(a)のA -A'で示す位置の断面図である。チップ用マスク101およびストッパー用マスク102を形成した後、ウエットエッチングによる等方性エッチングによってチップ1およびストッパー2を形成する。透明材料103の厚さとチップ1およびストッパー2の高さの関係を調整することによって、図1に示す透明層5が形成されたり、形成されなかったりする。チップ1の先端半径は、数nmから数100nmである。この後、遮光膜をスパッタや真空蒸着などの方法で堆積する事によって、図1に示すワーク1000を形成する事ができる。また、遮光膜3をチップ1にだけ堆積する場合、遮光膜3の堆積工程において、チップ1上に遮光膜が堆積するような形状を有するメタルマスクを乗せてスパッタや真空蒸着などを行う。また、ワーク1000のチップが形成された面の全面に遮光膜3を堆積した後、チップ1にだけ遮光膜3が残るようなフォトリソグラフィ工程を用いても、チップ1上にだけ遮光膜3を形成する事ができることは言うまでもない。
【0038】
図6および図7は、上記で説明したワーク1000の作製方法におけるチップ1とストッパー2の高さの関係を説明する図である。なお、以下では、チップ用マスク101の直径が、ストッパー用マスク102の幅よりも小さい場合について説明する。図6は、図5(a)で説明した工程において、チップ1とストッパー2だけを示した図であり、図7は、図6中B-B'で示す位置のチップ1と、図6中C-C'で示す位置のストッパー2の断面図である。図7(a)は、チップ1がちょうど形成された状態を示した図である。ストッパー用マスク102の幅は、チップ用マスク101の直径よりも大きいため、図7(a)の状態では、ストッパー2の上面には、平らな部分が残り、この平らな部分上にストッパー用マスク102が残っている。しかしながら、チップ用マスク101は、チップ1との接触面積が非常に小さくなるため、はずれてしまう。図7(a)の状態では、チップ1の高さH11とストッパー2の高さH22は、同じである。
【0039】
図7(b)は、図7(a)の状態からさらにエッチングを進め、ストッパー2上面の平らな部分がちょうどなくなった状態を示している。図7(a)の状態からさらにエッチングを行うと、チップ用マスク101が無いチップ1の高さH111は、徐々に低くなっていく。一方、ストッパー用マスクが残っているストッパー2の高さH222は、H22と同じままである。ストッパー2の上面の平らな部分の幅は、徐々に狭くなり、断面形状は図7(b)に示すように、三角形になる。このときのチップ1とストッパー2の高さの差ΔHは、チップ用マスク101の直径とストッパー用マスク102の幅の差、および、チップ1とストッパー2の先端角によって異なるが、おおよそ1000nm以下程度である。
【0040】
図7(c)は、図7(b)の状態からさらにエッチングを進めた状態を示している。チップ1の高さH1111は、高さH111よりも低くなる。同様に、ストッパーH2222の高さも、高さH222よりも小さくなる。しかし、高さH1111と高さH2222の減少量は、同じであるため、チップ1とストッパー2の高さの差ΔHは、変化しない。なお、ストッパー用マスク102の幅が、チップ用マスク101よりも小さい場合は、チップ1とストッパー2の高さの関係が逆になるだけである。また、チップ用マスク101とストッパー用マスク102が等しい場合は、チップ1とストッパー2の高さが等しくなることは言うまでもない。
【0041】
本発明のワーク1000の作製方法によれば、フォトリソグラフィ工程によってチップ1とストッパー2の高さの差ΔHを良好に制御することができる。したがって、図1から図3で説明した開口作製方法において、板6の変位量を良好に制御することができる。
【0042】
次に、近視野光ヘッドを用いた情報記録再生装置における、再生(情報の読出し)及び記録(情報の書き込み)方法を説明する。開口近辺の詳細は記していないが、図1から図7にて説明した方法で光学的な開口を作製した高密度メモリ用近視野光ヘッドの概略図を図8に示す。
【0043】
図8では、いわゆるイルミネーションモード用いて再生する様子を描いている。ここで近視野光ヘッド11に入射する光は、メディアに対し略平行な方向から入射される。勿論、メディア対し略垂直な方向、あるいは斜め方向から入射されても構わない。近視野光ヘッド11内には、導波路13が備えられ、外部から入射した光はこの導波路13により微小開口12へと伝搬される。微小開口12へと照射された光は、近視野光として微小開口12近傍に局在するようになる。この近視野光を情報が記録されたメディア14の表面に近接させ、メディア14表面の形状あるいは物性的な光学構造を介して相互作用させることで、近視野光が散乱され、その散乱した伝搬光を別途設けた検出器15で受光する。このときの近視野光は、微小開口12の大きさ程度の分解能をもつことから、光の回折限界を超えた微小光学情報を再生することができる。
【0044】
また、いわゆるコレクションモードのように、メディア14表面に伝搬光を照射することで発生する近視野光を、微小開口12との相互作用で散乱させ、その散乱光を導波路13内を伝搬させて情報を検出することでも、上述と同様に情報再生は可能である。
【0045】
さらに、再生に限らず、メディアへの記録も可能である。この場合は、導波路13を通じ変調した光を微小開口12に導き、その信号に合わせ近視野光を生成させる。この変調した近視野光によってメディア14側で反応が起きれば、記録が可能となる。例えば、メディア14表面にGeSbTeの相変化膜が形成されている場合、近視野光の照射により局所的に180度を超え、当初アモルファス(非結晶)状態であったGeSbTe膜がクリスタル(結晶)状態に変化し、反射率が0.43から0.53へと約0.1増加する。この特性を利用して開口径程度の微小マークをメディア上に記録していく。
【0046】
ここで、近視野光ヘッド11を搭載した光情報記憶再生装置の一例を図9に示す。まず、走査方法について説明する。近視野光ヘッド11は、HDDで用いられる浮上スライダー構造をしており、メディア側の面内には、空気流による浮上力を受ける2本のエアーベアリング面が形成されている。そのため、図9に示すように、アーム16の先端に取り付けた近視野光ヘッド11は、高速回転により発生する空気の流体運動により受ける浮上力とアーム16による負荷荷重により、メディア14との距離を常に一定に保つことが可能となる。シークやトラッキングについては、モータ付きの回転軸17によりアーム16をメディア半径方向に動かすことにより、近視野光ヘッド11をメディア14上の任意の場所に走査したり、トラックの追従をすることができる。続いて光の伝搬方法について説明する。まず、図には示さないが小型の半導体レーザより発振した光は、アーム16内に取り付けた光導波路18を伝搬し、近視野光ヘッド11内へと導かれる。この光は、近視野光ヘッド11内の導波路13を経由して、メディア側の面内に形成された微小開口12に照射される。この微小開口12近辺で近視野光に変換される。メディア14が微小開口12に近接した状態にあると、近視野光とメディア14表面の微小領域との間に相互作用が生じて近視野光は散乱させる。図には示していないが、この散乱光は、近視野光ヘッド11内もしくは近視野光ヘッド11近傍、あるいはディスク14の裏面側に設けた受光素子で受光される。この受光素子にて散乱された光情報は、電気信号に変換され、信号処理回路を通して再生される。
【0047】
つづいて、近視野光ヘッドが高速回転しているメディア上を微小浮上しているときの姿勢を側面から見た図を図10に示す。メディア14を高速に回転させていくと、近視野光ヘッド11とメディア14との間に空気の流体運動が起こる。この結果、近視野光ヘッド11のメディア側の面はメディア14側から大きな圧力を受け、近視野光ヘッド11が浮上する。この浮上力に対し、逆にアーム16側からメディア14方向に一定の負荷荷重を近視野光ヘッド11に与えることで、力のバランスが保たれ、メディア14表面との距離を常に一定に保つことが可能となる。図10では、このときの近視野光ヘッド11の姿勢を示している。メディア14が白抜きの矢印方向へ運動することで、メディア14と近視野光ヘッド11間に空気の流れが生じるが、そのときのエアーベアリング面19が受ける圧力の分布から、その入り口側(流入端)では、出口側(流出端)に比べ、メディア14との間隔が大きくなる。そこでヘッド自体が図10のように傾き、空気流の流出端側では、エアーベアリング面19とメディア14との間隔が小さくなる。この間隔の小さいところに、微小開口12を設けることで、微小開口12とメディア14との距離がより近接し、高分解能で情報の再生が可能となる。
【0048】
次に、図11に図1から図7で説明した方法で光学的な開口を作製した近視野光ヘッドの一例を示す。図11では、近視野光ヘッド20のメディアに対向する面を上面として描かれている。近視野光ヘッド20は、近視野光を発生・検出する微小開口24と、その微小開口24が頂点に形成され、微小開口24へ光を伝搬するチップ21と、図中には示さないが、微小開口24を除きチップを覆い光を遮光するとともに開口への光を集光する効果をもつ金属膜と、開口作製の際に度あたりの役目を果たすストッパー22と、メディア方向からの浮上力を受けるエアーベアリング面23とで構成されている。
【0049】
近視野光を用いて情報再生するためには、微小開口24近傍に局在する近視野光とメディア上の光学情報を相互作用させるために、微小開口24をメディアに近接させる必要がある。さらに、高速走査させ、その距離を一定に保つことが要求される。そこで、近視野光ヘッドのメディアに対向する面内に、図11に示すような2つのエアーベアリング面23を設けている。このエアーベアリング面23は、図10で示したようにメディアとの相対運動により一定の浮上圧力を受け、このエアーベアリング面23を設けた近視野光ヘッド20は微小浮上を保持することが可能となり、その浮上量(エアーベアリング面とメディアとの距離)を100nm以下に制御することができる。ここで、エアーベアリング面23の高さとチップ21の高さをほぼ一致させることで、微小開口とメディアとの距離を常に安定して近接させ、高速走査させることが可能となる。
【0050】
図11における近視野光ヘッドの微小開口は、図1から図7で説明したように、ストッパー22を利用してチップ先端の遮光膜を変形させる方法で形成する。そこで、チップ21の周辺にチップとほぼ同程度の高さをもつストッパー22を設けている。ストッパーは図6と同様に、チップ周辺に4本形成される。ここで、微小開口24を形成するために、チップ21とストッパー22とをほぼ同程度の高さに形成する必要があり、また、開口をメディアに近接させために、チップ21とエアーベアリング面23とをほぼ同程度の高さに形成する必要がある。ストッパー22、チップ21、エアーベアリング面23のそれぞれの高さを揃えることは、それぞれの材料を同一とし、かつ同時にエッチングすることで形成可能である。
【0051】
また、図11に示す近視野光ヘッド20において、ストッパー22は、チップ21上方より見たときに十字のように4本配置されているが、図12に示す近視野光ヘッド30のように3本のストッパー25を形成しても構わない。勿論、3本や4本に限らず、それ以上の複数本形成されていても構わない。あるいは、図13に示す近視野光ヘッド40のように、チップを中心として1本のストッパー26をドーナッツ状に形成しても良い。これらストッパーは、チップからそれぞれのストッパーへの距離が同距離になるように配置する。押し込み治具の押し込まれ量は、各ストッパーからの距離が等距離の点で最大となり、かつ、その量を制御することが可能となるからである。
【0052】
ここで、図11で説明した実施の形態1に係わる近視野光ヘッドの作製方法の一例を図14にて説明する。図14は、図11中のAA'の断面を示している。まず、基板51には、透明材料を選択する(図14−P101)。硝子や石英、その他、紫外、可視、赤外の帯域で、透明な光学材料が適切である。特にここでは、石英基板を選択した場合で説明する。次に、図14−P102のように、半導体プロセスで使用されるフォトリソグラフィ工程にて、チップ用、ストッパー用、エアーベアリング面用のマスクパターン52を形成する。マスク材料には感光性フォトレジストを使用し、半導体プロセスのフォトリソグラフィ技術を用いることで寸法精度の高いマスクパターン52の形成が可能である。酸化珪素との密着性を考慮し、ネガ性のレジストを使用する方が好ましいが、もちろんポジ性のレジストを使用しても構わない。レジストの厚みは、厚みばらつきを容易に制御できる1μm程度が適切である。また、窒化珪素をマスク材として使用するときは、基板上に窒化珪素を積層し、フォトリソグラフィ工程にて形成したフォトレジストのパターンに合わせ、窒素珪素を加工することで、マスクパターン52は形成される。チップ及びストッパー用のマスクパターン52の形状は、図4とほぼ同様である。
【0053】
次に、図14−P103のように、石英の基51板をエッチングして表面にチップ53、ストッパー54、エアーベアリング面55を形成する。その後、マスク材を剥離した状態が、図14−P103の状態である。図14−P103のように基板51の断面方向から観察していくと、チップ53は高さの低い台形から、高さがだんだんと高くなるとともに、上辺が短くなっていき、その後三角形のチップ53となる。この台形から三角形になったときには、チップ53の頂点の高さがストッパー54およびエアーベアリング面55の高さと一致しており、このときエッチングを終了する。チップ53の頂角は110から70°の範囲で作製可能である。この角度の調整は、マスクパターン52と石英の基板51との密着性を制御することで実現する。エッチングには湿式のエッチングを用いても、乾式のエッチングを用いても構わない。湿式のエッチングでは、エッチャントとして、バッファーふっ酸(弗化水素酸と弗化アンモニウムの混合液)を使用し、アンダーエッチング量のコントロールにより任意のチップを形成する。乾式のエッチングでは、ガス種、流量の選択、プラズマのRFパワー、真空度がそれぞれ微妙にチップ形状に影響する。この乾式のエッチングにおいて、弗化ガスや塩化ガスによる化学反応を利用したエッチングを用いても良いし、スパッタのような物理反応を利用したエッチングを用いても良い。
【0054】
次に、図14−P104のように、チップ53を遮光する金属膜56をチップ側表面全体に積層する。積層する方法として、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、あるいはめっき法等を用いる。薄く、均一に積層でき、グレインを小さく抑えることができることから、真空蒸着法を主に使用する。この積層法により、100nmから1μm程度の範囲において、任意の厚みに積層する。積層する材料は、アルミニウム、金、銀、銅、白金、チタン、タングステン、クロム、およびそれらの合金が主要材料であるが、密着性を良くするためやグレインを抑えるために、微量であるがシリコンのような不純物を含ませる場合もある。
【0055】
次に、図14−P105のように、チップ53以外の場所に積層した金属膜56を除去する。フォトリソグラフィにてチップ53上にだけマスクパターンを形成し、残りの部分に露出した金属膜56をエッチングにより除去し、その後マスクを除去してチップ53上にだけ金属膜56を残す。エアーベアリング面55上あるいはストッパー54上の金属膜56を除去することで、チップ53頂点の高さと、エアーベアリング面55あるいはストッパー54の高さの一致を保つことが可能となる。
【0056】
最後に、図14−P106のように、図1から図7にて説明した方法で、チップ53頂点に光学的な開口57を形成する。ここでは、その詳細は省略する。
【0057】
このようにして、量産性良く、微小開口を有する近視野光ヘッドが作製できる。ここで、図15に、図1から図7で説明した作製方法で形成した開口の断面図を示す。図15(a)では、押し込み治具に押され変形した板58により、金属膜59が押し込まれ、かつ、チップ60自体も弾性変形している様子を示し、図15(b)では、板58を取り外した後の様子を示す。チップ60先端が板58に接触し、上方より力が加わると、チップ60先端近辺の金属膜59は、塑性変形をおこし、図15(a)のように、チップ60先端近辺の金属膜59が、その周辺に追いやられ、チップ60先端が板58に直接接触する。押し込み治具から板58に伝わった力は、チップ60自体にもかかり、チップ60はその力により弾性変形を起し、多少縮む。この状態から、板58を外すと、金属膜59は塑性変形したまま周囲に追いやられた形を残すが、弾性変形したチップ60は力が開放され、元の形状に戻る。この結果、図15(b)のように、チップ60の先端が金属膜59より少し突出した形状となる。
【0058】
近視野光は、この突出したチップの周辺に発生する。図14で説明した作製方法によりチップ頂点はエアーベアリング面と同じ高さに形成されており、チップ周囲に発生した近視野光をヘッド量の浮上量とほぼ同距離まで近接させることが可能となる。エアーベアリング面の設計次第では、20nm以下の浮上量が可能であり、開口周辺に発生する近視野光のビームスポット径を広げずにメディアに照射することが可能となる。また、その分解能は、先鋭化されたチップ頂点の曲率半径にも依存する。チップの先端径は、50nm以下に作製可能であることから、それに相当する光分解能(50nm以下)の実現が可能となる。また、石英製のチップは頂角約90°の角度で形成される。光は、屈折率約1.46、頂角90°のチップ内を伝搬し、開口へ到達する。この開口へ到達するまでに、波長以下サイズの領域(カットオフ領域)で大きな光減衰が起こるが、この高い屈折率と広い頂角により、光から見た場合、カットオフ領域は減少しており、その結果、開口での光効率が向上する。
【0059】
以上説明したように、実施の形態1で説明した近視野光ヘッドの作製方法においては、ヘッド内にストッパーを設ける構成にし、そのストッパーをチップ1と同じ高さに形成し、そのストッパー2を利用して板6の変位量を小さくすることができるため、分解能の高いアクチュエータを用いなくても、大きさが均一で微小な開口8をチップ1先端に形成する事が容易である。また、チップ1とストッパー2の高さが良好に制御されるため、開口8の作製歩留まりが向上する。また、ワーク1000は、フォトリソグラフィ工程によって作製可能なため、ウエハなどの大きな面積を有する試料に、複数個作製することが可能であり、力Fを一定にすることによって複数個作製されたワーク1000それぞれに対して均一な開口径の開口8を形成する事ができる。また、力Fの大きさを変えることが非常に簡単なため、複数個作製されたワーク1000に対して個別に開口径の異なる開口8を形成する事が可能である。また、単純に力Fを加えるだけで開口8が形成されるため、開口作製にかかる時間は数秒から数10秒と非常に短い。さらに、このような作製方法では、加工雰囲気を問わない。従って、大気中で加工する事が可能でありすぐに光学顕微鏡などで加工状態を観察できる。また、走査型電子顕微鏡中で加工することによって、光学顕微鏡よりも高い分解能で加工状態を観察することも可能である。また、液体中で加工することによって、液体がダンパーの役目をするため、より制御性の向上した加工条件が得られる。また、ワーク1000が複数個作製された試料に対して、一括で力Fを加えることによって、開口径のそろった開口8を一度に複数個作製する事も可能である。一括で加工する場合、ウエハ一枚あたりのワーク1000の数にもよるが、開口1個あたりの加工時間は、数100ミリ秒以下と非常に短くなる。
【0060】
また、近視野光を利用した光メモリ装置では、その光分解能は、近接距離や開口形状に大きく依存する。実施の形態1に示した近視野光ヘッドでは、開口をエアーベアリング面と同じ高さに形成できることから、ヘッドの浮上量程度まで開口をメディアに近接できる。また、その開口形状は遮光膜より突出しかつ先端が先鋭化(50nm以下)されている。近視野光は、先端径に依存した分布で発生する。本実施の形態1に示す近視野光ヘッドでは、この先鋭化した先端を微小浮上させることが可能であり、開口を微小化した場合、先端径程度の光分解能(50nm以下)が実現する。さらに、実施の形態1に示した近視野光ヘッドでは、チップは、屈折率約1.46を有し、頂角約90°の角度で形成されており、光学的に見た場合、光減衰が大きいカットオフ領域は小さくなる。また石英は、光透過率の高い材料である。このことから、開口での光効率が向上し、高速再生、記録が可能となる。
【0061】
また、実施の形態1に係る近視野光ヘッドは、フォトリソグラフィ等に代表される微細加工を利用したシリコンプロセスにて作製可能であり、量産に適したヘッドとなる。また、図1から図7で示した方法で、安定した均一な大きさの開口を低コストで作製できることから量産化が容易となり、低価格で、信頼性に優れた近視野光ヘッドを大量に供給できる。さらに、微小開口を安定して容易に形成できることから、記録ビットの高密度化とディスクの小径化を加え、光記録再生装置自体の小型化と軽量化が実現する。
(実施の形態2)
図16に実施の形態2に係わる近視野光ヘッドの概略図を示す。図16では、エアーベアリング面27及びチップ28を上面として描いている。本実施の形態2に係る近視野光ヘッド50では、エアーベアリング面27の一部に溝29が形成されており、その一部の溝29にはチップ28が形成されている。実施の形態1で示したストッパーは形成されていない。図16では、円形の溝29が形成されているが、円形に限らず、三角形、四角形あるいは多角形であっても構わない。しかし、チップ28は、常にその中心に配置される。また、図16では2つの溝29が描かれているが、2つに限らず、1つまたは、複数個形成されていても構わない。しかし、エアーベアリング面27が受ける浮上力の左右のバランスを保つためには、図16のように2本のエアーベアリング面27では左右同じ位置に溝29を形成することが望まれる。溝29の位置は、チップ28位置から決定した。エアーベアリング面27は、図10に示すように流体の流出端側の方がメディアに近接される。チップ28は、エアーベアリング面27の流出端側に位置する方が望ましい。そこで、図16では、チップ28位置に相当する位置に溝29を形成してある。また、溝29の大きさは、エアーベアリング面27が受ける浮上力を考慮に入れて設計され、その径および一辺の大きさは、10μmから300μm程度とする。
【0062】
実施の形態2に係る近視野光ヘッドでは、実施の形態1に係る近視野光ヘッドのようなストッパーは形成してない。開口形成におけるストッパーの役割は、エアーベアリング面27の一部が兼務する。実施の形態2に係る近視野光ヘッドの作製方法は、実施の形態1に係る近視野光ヘッドの作製方法と同様であり、図14に示すプロセスで作製され、エアーベアリング面27とチップ28はほぼ同じ高さに形成される。そこで、ストッパーは形成されないが、チップ28周りに形成されているエアーベアリング面27が、ストッパーと同様な役割を果たし、押し込み治具で押される板は、エアーベアリング面27とチップ28上を覆い、エアーベアリング面27の一部を支点として変形され、チップ28頂点の金属膜に接触する。チップ28は、板の変位量が最大で、かつ基板に対して平行に変位する位置、つまりエアーベアリング面27内に形成された溝29のほぼ中心に形成される。
【0063】
また、エアーベアリング面27上の遮光膜はあっても良いし、無くても構わない。遮光膜が無い場合、エアーベアリング面27からの漏れ光が検出器で検出される場合は、検出器近傍にピンホールを挿入し、外乱となる要因を低減させることで対応できる。
【0064】
以上説明したように、実施の形態2に係る近視野光ヘッドでは、エアーベアリング面の一部がストッパーの役割を担っており、ストッパーを形成していない。よって、ストッパーを形成する必要はなく、エアーベアリング面の高さとチップの高さを合わせるだけでよく、作製工程が簡易化する。さらに、開口形成方法は、実施の形態1と同様でありその効果も同様である。
【符号の説明】
【0065】
1、21、28、53、60 チップ
2、22、25、26、54 ストッパー
3 遮光膜
4、51 基板
5 透明層
6、58 板
7 押し込み用具
8、57 開口
11、20,30,40、50 近視野光ヘッド
12、24 微小開口
13 導波路
14 メディア
15 検出器
16 アーム
17 回転軸
18 光導波路
19、23、27、55 エアーベアリング面
29 溝
52 マスクパターン
56、59 金属膜
101 チップ用マスク
102 ストッパー用マスク
103 透明材料
104 基板材料
1000 ワーク
F 力
H1 チップの高さ
H2 ストッパーの高さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メディアに向かって先鋭化された錐状のチップと、
前記チップの頂点近傍に存在し、前記メディアと近視野光を介して相互作用する光学的な開口と、
前記光学的な開口を除き、前記チップを覆う遮光膜と、
前記チップと略同じ高さを有する複数のストッパーと、
を有する近視野光ヘッドの製造方法において、
前記チップ及び前記ストッパーの少なくとも一部を覆う略平板の少なくとも一部を変形させ、前記チップ頂点近傍の前記遮光膜に接触させることで、前記光学的な開口を形成する工程を有することを特徴とする近視野光ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記光学的な開口を形成する工程にて、複数の前記近視野光ヘッドにおける複数の前記光学的な開口を、同時に形成することを特徴とする請求項1に記載の近視野光ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記近視野光ヘッド内に複数の前記光学的な開口が存在し、前記光学的な開口を形成する工程にて、前記複数の光学的な開口を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の近視野光ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記チップと前記ストッパーを同時に同一の工程にて形成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の近視野光ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記チップと前記ストッパーを同一材料とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の近視野光ヘッドの製造方法。
【請求項6】
メディアに向かって先鋭化された錐状のチップと、
前記チップを覆う遮光膜と、
前記チップと略同じ高さを有する複数のストッパーと、
前記チップ及び前記ストッパーの少なくとも一部を覆う略平板の少なくとも一部を変形させ、前記チップ頂点近傍の前記遮光膜に接触させることで形成した光学的な開口と、
を有することを特徴とする近視野光ヘッド。
【請求項7】
複数の前記近視野光ヘッドにおける複数の前記光学的な開口を、同時に形成することを特徴とする請求項6に記載の近視野光ヘッド。
【請求項8】
前記近視野光ヘッド内に複数の前記光学的な開口が存在していることを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の近視野光ヘッド。
【請求項9】
前記チップと前記ストッパーを同時に同一の工程にて形成することを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1つに記載の近視野光ヘッド。
【請求項10】
前記チップと前記ストッパーを同一材料とすることを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1つに記載の近視野光ヘッド。
【請求項11】
前記光学的な開口を形成する工程にて前記光学的な開口を形成することで、前記平板にて変形させられた前記遮光膜の一部から前記チップの一部が突出していることを特徴とする請求項6から請求項10のいずれか一つに記載の近視野光ヘッド。
【請求項12】
前記近視野光ヘッドの一部が前記メディアとの相対運動により浮上力を受け、前記光学的な開口と前記メディアとの距離を一定に保つ手段として、前記浮上力を利用することを特徴とする請求項6から請求項11のいずれか一つに記載の近視野光ヘッド。
【請求項13】
前記ストッパーの一部が、前記浮上力を受けることを特徴とする請求項12に記載の近視野光ヘッド。
【請求項1】
メディアに向かって先鋭化された錐状のチップと、
前記チップの頂点近傍に存在し、前記メディアと近視野光を介して相互作用する光学的な開口と、
前記光学的な開口を除き、前記チップを覆う遮光膜と、
前記チップと略同じ高さを有する複数のストッパーと、
を有する近視野光ヘッドの製造方法において、
前記チップ及び前記ストッパーの少なくとも一部を覆う略平板の少なくとも一部を変形させ、前記チップ頂点近傍の前記遮光膜に接触させることで、前記光学的な開口を形成する工程を有することを特徴とする近視野光ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記光学的な開口を形成する工程にて、複数の前記近視野光ヘッドにおける複数の前記光学的な開口を、同時に形成することを特徴とする請求項1に記載の近視野光ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記近視野光ヘッド内に複数の前記光学的な開口が存在し、前記光学的な開口を形成する工程にて、前記複数の光学的な開口を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の近視野光ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記チップと前記ストッパーを同時に同一の工程にて形成することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の近視野光ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記チップと前記ストッパーを同一材料とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の近視野光ヘッドの製造方法。
【請求項6】
メディアに向かって先鋭化された錐状のチップと、
前記チップを覆う遮光膜と、
前記チップと略同じ高さを有する複数のストッパーと、
前記チップ及び前記ストッパーの少なくとも一部を覆う略平板の少なくとも一部を変形させ、前記チップ頂点近傍の前記遮光膜に接触させることで形成した光学的な開口と、
を有することを特徴とする近視野光ヘッド。
【請求項7】
複数の前記近視野光ヘッドにおける複数の前記光学的な開口を、同時に形成することを特徴とする請求項6に記載の近視野光ヘッド。
【請求項8】
前記近視野光ヘッド内に複数の前記光学的な開口が存在していることを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の近視野光ヘッド。
【請求項9】
前記チップと前記ストッパーを同時に同一の工程にて形成することを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1つに記載の近視野光ヘッド。
【請求項10】
前記チップと前記ストッパーを同一材料とすることを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1つに記載の近視野光ヘッド。
【請求項11】
前記光学的な開口を形成する工程にて前記光学的な開口を形成することで、前記平板にて変形させられた前記遮光膜の一部から前記チップの一部が突出していることを特徴とする請求項6から請求項10のいずれか一つに記載の近視野光ヘッド。
【請求項12】
前記近視野光ヘッドの一部が前記メディアとの相対運動により浮上力を受け、前記光学的な開口と前記メディアとの距離を一定に保つ手段として、前記浮上力を利用することを特徴とする請求項6から請求項11のいずれか一つに記載の近視野光ヘッド。
【請求項13】
前記ストッパーの一部が、前記浮上力を受けることを特徴とする請求項12に記載の近視野光ヘッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−49803(P2010−49803A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276753(P2009−276753)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【分割の表示】特願2000−371828(P2000−371828)の分割
【原出願日】平成12年12月6日(2000.12.6)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【分割の表示】特願2000−371828(P2000−371828)の分割
【原出願日】平成12年12月6日(2000.12.6)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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