説明

近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂

【課題】 透明フィルム基材として広く使用されるPET等との樹脂フィルムとの密着性が良く、しかも近赤外線吸収剤を安定に含有することができる近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂を提供すること
【解決手段】
下記(A)の低分子量(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して、下記(B)の高分子量(メタ)アクリル系ポリマーを1〜30重量部含有せしめてなる近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂。
(A)メチルメタクリレートを70質量%以上(共)重合した、重量平均分子量5万〜
30万の低分子量(メタ)アクリル系ポリマー、
(B)メチルメタクリレートを90質量%以上(共)重合した、重量平均分子量40万 〜150万の高分子量(メタ)アクリル系ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂に関し、更に詳細には、プラズマディスプレイパネルなどの近赤外線を放出するデバイスの表面や、建物のガラスに貼付し、近赤外線を吸収する近赤外線吸収フィルムに使用される近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネルや、液晶パネルを利用した薄型テレビが普及されつつある。このうち、プラズマディスプレイパネルは、大型の薄型テレビに有利に使用されているが、このものは、近赤外線(以下、「NIR」という)を不要輻射として放出するという問題があり、テレビのリモコンなど周辺機器の誤作動を招くという問題があった。
【0003】
このNIRを有効に遮蔽し、可視光のみを透過させるために、近赤外線吸収フィルム(NIRフィルム)が使用されている。このNIRフィルムは、色素等のNIR吸収剤をマトリックス樹脂中に均一分散させ、これを透明プラスチックフィルム上に塗布することによって得られるものであるが、以下のような問題があった。
【0004】
すなわち、NIRフィルムのマトリックス樹脂として、ポリエステル系、メタクリル系等の透明性が高く、かつ染料安定性の高いものを使用した場合、このものはガラス転移点温度(Tg)が高く、柔軟性に劣るため、クラックや基材への密着性(浮き、ハガレ)の問題が生じるという欠点があった。また、機能性フィルムとして多層化する必要があるため、粘着材層をさらに積層する必要があるという問題もあった。
【0005】
一方、柔軟性が高く、粘着剤層の積層不要な低Tgバインダー樹脂を使用し、その粘着剤層にNIR染料を添加することも行われていたが、染料安定性が悪化し、近赤外線吸収能が低下し、樹脂が着色するという問題が生じていた。
【0006】
最近、染料耐久性の良好なバインダー樹脂として、いくつかのものが報告されている。例えば、染料退色が少なく、湿熱時の発泡、白濁、ハガレが抑制されたNIRフィルム用バインダー樹脂として、(メタ)アクリル系モノマーと脂環構造含有モノマーを共重合したものが報告されている(特許文献1)。しかし、本文献の実施例中での染料濃度が低く、その評価温度も60℃と低いため、十分な性能が得られていないものと考えられる。
【0007】
また、特許文献2の実施例には、染料の安定性が高く、基材密着性の良好なNIRフィルム用バインダー樹脂として、(メタ)アクリル系モノマーと脂環構造含有モノマーを共重合したアクリル系ポリマーにMMAホモポリマーをブレンドしたものが記載されている。しかし、本発明者らの確認したところでは、このものも特許文献1と同様、染料の安定性、基材密着性が十分ではないものであった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−182793
【特許文献2】特開2005−239999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、透明フィルム基材として広く使用されるPETとの密着性が良く、しかもNIR吸収剤を安定に含有することができるNIR用バインダー樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、種々のポリマーをブレンドし、その接着性や、各種NIR吸収用染料に対する、特に湿熱条件下での褪色抑制作用を検索していたところ、特定の(メタ)アクリル系ポリマーを組み合わせた樹脂は、優れた接着性とNIR吸収用染料の褪色防止性に優れたものであることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、下記(A)の低分子量(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して、下記(B)の高分子量(メタ)アクリル系ポリマーを1〜30重量部含有せしめてなるNIR用バインダー樹脂である。
(A)メチルメタクリレートを70質量%以上(共)重合した、重量平均分子量5万〜
30万の低分子量(メタ)アクリル系ポリマー、
(B)メチルメタクリレートを90質量%以上(共)重合した、重量平均分子量40万 〜150万の高分子量(メタ)アクリル系ポリマー。
【発明の効果】
【0012】
本発明のNIR用バインダー樹脂は、これに含まれるNIR染料の退色を抑制しながら、PETへの密着性が向上するため、湿熱条件下においてもNIRフィルムの退色やその剥がれを抑制できる。また、高濃度にNIR染料を含有しても耐退色性が良好で、NIRフィルム中に高濃度に染料を含有せしめることができる。
【0013】
更に、本発明のNIR用バインダー樹脂は、高分子量ポリマーをブレンドしたことにより、塗工性などの作業性が向上したものである。
【0014】
更にまた、重量平均分子量40から150万のメチルメタクリレートポリマーとしてPMMA粒子を用いると、より均一な組成となり、部分的な剥がれ、クラックが生じないなど、より優れた性能のものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のNIR用バインダー樹脂において使用される、重量平均分子量(Mw)5万から30万の(メタ)アクリル系ポリマー(以下、「成分(A)」という)は、メチルメタクリレートを70質量%以上共重合したものである。
【0016】
この(メタ)アクリル系ポリマー(A)の第1の様態としては、メチルメタクリレート(以下、「モノマー(a−1)」ということがある)を80〜100質量%の割合で(共)重合したポリマーが使用される。この態様において、(メタ)アクリル系ポリマー(A)には、モノマー(a−1)の他に、このモノマー(a−1)と共重合可能なモノマーを使用することができる。共重合可能なモノマーは、(メタ)アクリル系ポリマー(A)中に、0〜20質量%の割合で使用することができる。
【0017】
モノマー(a−1)と共重合可能なモノマーとしては、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ(メタ)アクリレート;ブトキシジエチレンギリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシエチレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシエチルアクリレート(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基を含有するモノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を含有するモノマー;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基を含有するモノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するモノマー;酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0018】
これら共重合可能なモノマーのうち、メチルメタクリレートであるモノマー(a−1)との共重合性、相溶性が良好なアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシ(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレートを使用することが好ましく、さらには、近赤外線吸収染料の安定性が良好であり、湿熱時に樹脂層の白化を起こしにくいアルキル(メタ)アクリレート、中でも、t−ブチル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0019】
なお、スチレンのようなモノマー(a−1)と相溶性の悪いモノマーや、水酸基、アミノ基、アミド基など近赤外線吸収染料の安定性を悪化させる官能基含有モノマーを使用すると、湿熱時の樹脂層の白化、近赤外線吸収染料の褪色、樹脂層の着色が生じるおそれがあるため、このようなモノマーは、(メタ)アクリル系ポリマーの5質量%以下、さらには1質量%以下の割合で使用することが好ましく、さらには使用しないことが好ましい。
【0020】
(メタ)アクリル系ポリマー(A)の第2の態様としては、モノマー(a−1)であるメチルメタクリレート70〜95質量%と、複素環および/または脂環構造を有するモノマー(以下、「モノマー(a−2)」ということがある)5〜30質量%の割合で共重合したポリマーを挙げることができる。
【0021】
複素環および/または脂環構造を有するモノマー(a−2)としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル−α−エトキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシルフェニル(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでも、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0022】
さらに、上記のモノマー(a−1)と共重合可能なモノマーを使用することができる。
【0023】
上記(メタ)アクリル系ポリマー(A)は、重量平均分子量5万〜30万のポリマーであり、好ましくは、重量平均分子量5万〜20万のポリマーである。分子量が5万に満たないと、ポリマー(B)をブレンドしても、フィルムに成形した場合に十分な柔軟性が得られずクラックの発生や、基材との密着不良による浮きやハガレが生じるおそれがあり、分子量が30万より大きいと、ポリマー(B)とブレンドした場合の粘度が高くなり過ぎ、作業性が悪くなり、塗工すじなどの不具合が生じるおそれがある。
【0024】
また、(メタ)アクリル系ポリマー(A)のガラス転移点温度(Tg)は、0℃〜110℃の範囲であるが、Tgが高い場合は、その分子量はあまり大きくないことが好ましい。従って、本発明で用いる(メタ)アクリル系ポリマー(A)は、Tgが0℃以上50℃未満の場合は、分子量が5〜30万の範囲であることが、Tgが50℃以上110℃未満である場合は、分子量が5〜20万の範囲であることが好ましい。
【0025】
この(メタ)アクリル系ポリマー(A)は、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、分散重合、塊状重合等、公知の方法で製造することができるが、(メタ)アクリル系ポリマー(B)とのブレンド工程の作業性や、近赤外線吸収染料を添加するときの安定性の観点から溶液重合で製造することが好ましい。
【0026】
一方、本発明で使用する(メタ)アクリル系ポリマー(B)としては、モノマー(a−1)を90質量%以上(共)重合したポリマーが使用される。この(メタ)アクリル系ポリマー(B)には、メチルメタクリレートであるモノマー(a−1)の他に、このモノマーと共重合可能なモノマーを使用することができる。
【0027】
(メタ)アクリル系ポリマー(B)の製造に当たり使用される共重合可能なモノマーとしては、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル−α−エトキシ(メタ)アクリレート等のアルコキシ(メタ)アクリレート;ブトキシジエチレンギリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシエチレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシエチルアクリレート(メタ)アクリレート、シクロヘキシルフェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基を含有するモノマージメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を含有するモノマー;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基を含有するモノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するモノマー;酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0028】
このうち、メチルメタクリレートとの共重合性、相溶性が良好で、近赤外線吸収染料の安定性も良好な、アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシ(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0029】
上記(メタ)アクリル系ポリマー(B)は、重量平均分子量40万〜150万のポリマーであり、好ましくは、重量平均分子量60万〜100万のポリマーである。分子量が40万に満たないと、フィルムに成形した場合にフィルムの柔軟性や基材への密着性が不十分となるおそれがあり、分子量が150万より大きいと、バインダー樹脂の粘度が高くなり過ぎ(メタ)アクリル系ポリマー(A)や近赤外線吸収染料との均一なブレンドが困難となり、また、塗工時に塗工すじが生じるなど作業性が悪くなる。
【0030】
この(メタ)アクリル系ポリマー(B)は、(メタ)アクリル系ポリマー(B)は、実質的に未架橋の粒子(PMMA粒子)であることが、分子量の制御、溶剤やポリマー溶液への分散性の点で好ましく、平均粒子径1〜100μmの粒子であることが好ましい。
【0031】
上記(メタ)アクリル系ポリマー(B)は、溶液重合、懸濁重合、分散重合、塊状重合等、従来公知の方法で製造することができるが、特に、懸濁重合で製造することが好ましい。
【0032】
本発明のNIR用バインダー樹脂は、上記成分(A)100重量部に対し、1〜30重量部、好ましくは、5〜20重量部の成分(B)を常法により配合、混合することにより製造される。成分(B)の配合量が、1重量部以下では、基材との密着性および柔軟性に欠ける場合があり、また、30重量部を超える場合は、バインダー樹脂の粘度が高くなりすぎ、作業性が悪くなって塗工すじなどを生じる場合があって、何れも好ましくない。また、成分(B)として、上記のPMMA粒子を使用した場合は、NIR用バインダー樹脂がより均一な組成となり、部分的な剥がれや、クラックの発生をより高いレベルで防止することが可能となる。
【0033】
かくして得られる本発明のNIR用バインダー樹脂は、例えば、適当な有機溶媒に溶解ないしは懸濁された後、NIR吸収剤(近赤外線吸収染料)等と混合し、次いで、支持体フィルムに塗工し、乾燥して有機溶媒を除去することにより、NIRフィルムを調製することができる。
【0034】
本発明のバインダー樹脂に混合して使用されるNIR吸収剤としては、800〜1200nmに吸収極大波長を有する近赤外線吸収染料が挙げられ、具体的には、フタロシアニン系色素、ジインモニウム系色素、ジチオール金属錯体系色素、ナフタロシアニン系色素、アントラキノン系色素等が挙げられる。
【0035】
中でも、NIR吸収剤として、近赤外線吸収性能が高く、可視光領域の透過率の高い、ジインモニウム系染料を使用することが好ましい。ジインモニウム系染料は非常に染料褪色を起こしやすい染料であるが、本発明のバインダー中に分散することで、褪色を抑えることができる。
【0036】
上記ジインモニウム系染料としては、下記式(I)で表される、850〜1200nmに吸収極大波長を有する化合物を使用することが好ましい。
【0037】
【化1】

(式中、Rは互いに同一もしくは異なって、水素、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、フェニル基もしくはハロゲン化アルキル基を示し、Xは陰イオンを示す。nは1又は2の数である)
【0038】
上記式(I)において、Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、neo−ペンチル基、シクロペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−iso−プロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−iso−プロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチル1−iso−プロピルブチル基、2−メチル−1−iso−プロピル基、1−t−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基等の炭素数1〜20の直鎖、分岐または環状のアルキル基が挙げられ、
【0039】
また、基Rのアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基、フリル基、ピリジル基等が挙げられ、ハロゲン化アルキル基としては、フッ化アルキル基、塩化アルキル基、臭化アルキル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、アルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、3−エトキシプロピル基、メトキシエトキシメチル基、エトキシエトキシエチル基、ジメトキシメチル基、ジエトチキシメチル基、ジメトキシエチル基、ジエトキシエチル基等が挙げられる。
【0040】
更に、基Xの陰イオンとしては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、プロピル硫酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ベンゼンスルフィン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酢酸イオン、安息香酸イオン、シュウ酸イオン、コハク酸イオン、マロン酸イオン、オレイン酸イオン、ステアリン酸イオン、クエン酸イオン、ペンタクロロスズ酸イオン、クロロスルホン酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン等が挙げられ、中でも、トリフルオロメタンスルホン酸イオンなどの、ハロゲン含有陰イオンを使用することが好ましい。
【0041】
また、支持体フィルムとしても特に制約はないが、ポリエステル系、アクリル系、セルロース系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリカーボネート系、フェノール系、ウレタン系等のプラスチックフィルム、またはこれらの任意の2種類以上を貼り合わせたものが挙げられる。好ましくは、耐熱性、柔軟性のバランスが良好なポリエステル系フィルムであり、より好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルムである。
【0042】
なお、NIR吸収剤を含むNIR用バインダー樹脂の、塗工、乾燥後の厚さは、透明度を高く維持するためには、1ないし100μm程度が好ましく、特に、10ないし50μmが好ましい。
【0043】
本発明のNIR用バインダー樹脂は、染料であるNIR吸収剤の、特に湿熱時における褪色を防止しながら、PET等各種フィルムに対する優れた密着性を有するものである。しかも、本発明のNIR用バインダー樹脂は、高濃度でNIR吸収剤を含有しても耐褪色性が良好であり、NIR吸収効果が高いNIRフィルムを調製することが可能である。
【0044】
また、本発明のNIR用バインダー樹脂の調製において、成分(B)としてPMMA粒子を使用すると、より高い剥がれ防止作用、クラック防止作用を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、製造例、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらに何ら制約されるものではない。
【0046】
製 造 例 1
撹拌機、環流冷却管、温度計および窒素道入管を備えたフラスコに、メチルメタクリレート(MMA)80重量部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)20重量部および溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)233重量部を仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながらフラスコ内の内容物を80℃に昇温した。
【0047】
次いで、開始剤V601(和光純薬工業(株)製)0.65重量部を添加して、フラスコ内の温度を80℃に保ったまま6時間反応させ(メタ)アクリル系ポリマーを得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは80℃、重量平均分子量は8万であった。
【0048】
製 造 例 2
メチルメタクリレート(MMA)55重量部、メタクリル酸(MAA)2重量部、ジシクロペンタニルメタアクリレート(DCPMA)10重量部および2−エチルヘキシルメタクリレート(2EHA)33重量部を使用した以外は、製造製1と同様にして(メタ)アクリル系ポリマーを得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは44℃、重量平均分子量は10万であった。
【0049】
製 造 例 3
メチルメタクリレート(MMA)85重量部およびn−ブチルアクリレート(n−BMA)15重量部を使用した以外は、製造製1と同様にして(メタ)アクリル系ポリマーを得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは84℃で、重量平均分子量は8万であった。
【0050】
製 造 例 4
メチルメタクリレート(MMA)60重量部、ジシクロペンタニルメタアクリレート(DCPMA)15重量部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)15重量部および2−エチルヘキシルメタクリレート(2EHA)10重量部を使用した以外は、製造製1と同様にして(メタ)アクリル系ポリマーを得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは91℃、重量平均分子量は8万であった。
【0051】
製 造 例 5
メチルメタクリレート(MMA)65重量部およびエチルヘキシルメタクリレート(EHMA)35重量部を使用した以外は、製造例1と同様にして(メタ)アクリル系ポリマーを得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは54℃、重量平均分子量は8万であった。
【0052】
製 造 例 6
撹拌機、環流冷却管、温度計および窒素道入管を備えたフラスコに、メチルメタクリレート(MMA)80重量部およびメチルアクリレート(MA)20重量部と、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)133重量部および酢酸エチル100重量部を仕込み、フラスコ内に窒素ガスを導入しながらフラスコ内の内容物を69℃に昇温した。
【0053】
次いで、開始剤V601(和光純薬工業(株)製)0.65重量部を添加して、反応温度を69〜80℃に保ち、6時間反応させ(メタ)アクリル系ポリマーを得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは80℃、重量平均分子量は40万であった。
【0054】
製 造 例 7
開始剤V601(和光純薬工業(株)製)1.0重量部使用し、反応温度を85〜90℃にした以外は、製造例6と同様にして(メタ)アクリル系ポリマーを得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは80℃、重量平均分子量は1万であった。
【0055】
製 造 例 8
メチルメタクリレート(MMA)30重量部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)70重量部を使用した以外は、製造製1と同様にして(メタ)アクリル系ポリマーを得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは70℃、重量平均分子量は10万であった。
【0056】
製 造 例 9
撹拌機、環流冷却管および温度計を備えたフラスコに、メチルメタクリレート(MMA)100重量部、イオン交換水200重量部、ポリビニルアルコール0.2重量部および開始剤ラウリルパーオキサイド(LPO)1.0重量部を仕込み、分散させた。
【0057】
次いで、フラスコ内の温度を68℃に昇温し、反応温度を68〜91℃に保ちながら、6時間反応させ、平均粒子径5μmの未架橋の(メタ)アクリル系ポリマー粒子を得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは105℃、重量平均分子量は30万であった。
【0058】
製 造 例 10
スチレン100重量部、イオン交換水400重量部、開始剤ベンゾイルパーオキサイド(BPO)5重量部を使用した以外は製造例9と同様にして、平均粒子径10μmの未架橋のスチレン系ポリマーを得た。得られたポリマーのTgは、100℃、重量平均分子量は、20万であった。
【0059】
製 造 例 11
メチルメタアクリレート(MMA)100重量部、イオン交換水400重量部、ポリビニルアルコール0.4重量部および開始剤ラウリルパーオキサイド(LPO)0.4重量部を使用した以外は製造例9と同様にして、平均粒子径5μmの未架橋の(メタ)アクリル系ポリマーを得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは105℃、重量平均分子量は60万であった。
【0060】
製 造 例 12
メチルメタアクリレート(MMA)100重量部、イオン交換水400重量部、ポリビニルアルコール0.4重量部および開始剤ラウリルパーオキサイド(LPO)0.25重量部を使用した以外は製造例9と同様にして、平均粒子径5μmの未架橋の(メタ)アクリル系ポリマーを得た。得られた(メタ)アクリル系ポリマーのTgは105℃、重量平均分子量は80万であった。
【0061】
実 施 例 1
下記表1に示す組成で、NIR用バインダー樹脂(以下、「NIR用樹脂」ということがある)を調製した。得られた各樹脂について、下記方法で透過率、密着性および塗工性を調べた。この結果を表2に示す。
【0062】
NIR用樹脂組成:
【表1】

【0063】
評 価 方 法 :
< 透過率 >
表1の各樹脂を、PETフィルム(厚さ25μm)上に、乾燥厚が10μmとなるように塗工し、NIRフィルムを調製した。まず、このNIRフィルムの1100nmおよび430nmの透過率を、紫外可視分光光度計UVmini―1240(島津製作所(株))で測定し、初期透過率とした。
【0064】
次いで、各NIRフィルムを、80℃×90%RHで300hr放置した後、再度1100nm、430nmの透過率を、紫外可視分光光度計UV mini―1240(島津製作所(株)で測定し、湿熱後透過率とした。
【0065】
< 密着性 >
樹脂の基材フィルムへの密着性を基盤目テープ法により評価した。まず、表1で得られた樹脂を機材フィルム(03PEEW、帝人フィルム社製)に乾燥厚が25μmになるように塗工し、23℃で24時間乾燥させた。次いで、樹脂塗膜側に幅1mmの傷を基盤目状(100マス)に作った後、基材フィルム側をガラス板に両面テープで固定した。更に、基盤目状の傷の付いた塗膜に市販のテープ(Scotch 3M社製)を密着させ、このテープを90゜剥離(接着面に対し、垂直方向に引っ張り、剥離させる)で剥がしたときの塗膜の剥がれにより密着性を評価した。評価は、剥離が0〜15%未満、15〜35%未満、35〜65%未満および65%以上の4段階で行った。
【0066】
< 塗工性 >
表1の各樹脂を基材フィルム(03PEEW 帝人フィルム社製)に乾燥厚が25μmになるように塗工したときの、表面状態を目視で評価した。
【0067】
結 果 :
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のNIR用バインダー樹脂は、湿熱時におけるNIR吸収剤の褪色を防止しながら、PET等各種フィルムに対する優れた密着性を有するもので、しかも、高濃度でNIR吸収剤を含有させることが可能なものである。
【0069】
従って、本発明のバインダー樹脂を用いて調製されるNIRフィルム等は、PDPディスプレイを始め、NIRを遮蔽する目的のフィルムとして利用価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)の低分子量(メタ)アクリル系ポリマー100重量部に対して、下記(B)の高分子量(メタ)アクリル系ポリマーを1〜30重量部含有せしめてなる近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂。
(A)メチルメタクリレートを70質量%以上(共)重合した、重量平均分子量5万〜
30万の低分子量(メタ)アクリル系ポリマー、
(B)メチルメタクリレートを90質量%以上(共)重合した、重量平均分子量40万 〜150万の高分子量(メタ)アクリル系ポリマー。
【請求項2】
前記低分子量(メタ)アクリル系ポリマー(A)が、メチルメタクリレートを80質量%以上(共)重合したポリマーである請求項1記載の近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂。
【請求項3】
前記低分子量(メタ)アクリル系ポリマー(A)が、70〜95質量%のメチルメタクリレートと、5〜30質量%の複素環及び/又は脂環構造を有するモノマーを共重合したポリマーである請求項1記載の近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂。
【請求項4】
前記低分子量(メタ)アクリル系ポリマー(A)が、ガラス転移温度が0℃以上50℃未満のものである、請求項3記載の近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂。
【請求項5】
前記低分子量(メタ)アクリル系ポリマー(A)が、ガラス転移温度が50℃以上110℃未満であり、重量平均分子量が5万〜20万である、請求項3記載の近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂。
【請求項6】
前記高分子量(メタ)アクリレートポリマー(B)が、実質的に未架橋の粒子である請求項1〜5の何れかの項記載の近赤外線吸収フィルム用バインダー樹脂
【請求項7】
更に、ジインモニウム系近赤外線吸収染料を含有する請求項1〜6の何れかの項記載の近赤外線級フィルム用バインダー樹脂。

【公開番号】特開2008−38068(P2008−38068A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216553(P2006−216553)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】