説明

退色性塗料組成物及びその塗装方法

【解決課題】塗料組成物の塗布時には着色されてその塗布状態を容易に視認することができると共に、塗布後には容易に退色させることができ、塗料組成物の塗り残し、塗りムラ、重ね塗り時の塗料のタレ等の問題がなく、膜厚管理が容易な退色性塗料組成物及びその塗装方法を提供する。
【解決手段】塗料組成物中に塗装時の加熱によって退色する加熱退色性着色剤が固形分濃度5質量%以下の範囲で含有されている退色性塗料組成物である。また、透明塗膜を形成する塗料組成物を用いると共に加熱によって消色する加熱退色性着色剤を用いた退色性塗料組成物を被塗装物の表面に塗布し、次いで80〜250℃の温度で加熱乾燥し、この加熱乾燥により被塗装物表面に塗布された退色性塗料組成物中の着色剤を退色させて透明塗膜を形成する塗装方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗料組成物の塗装工程において、塗料組成物の塗布時には着色されてその塗布状態を容易に視認することができると共に、塗布後の加熱乾燥によって退色(消色又は変色)して透明塗膜又は所定の着色塗膜を形成することができる退色性塗料組成物及びその塗装方法に係り、特に限定されるものではないが、スプレー塗装等のポストコート塗装に有利に用いることができ、塗料組成物の塗り残し、塗りムラ、重ね塗り時の塗料のタレ等の問題がなく、膜厚管理が容易な退色性塗料組成物及びその塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料組成物をスプレー塗装や刷毛塗り塗装等により被塗装物の表面にポストコート塗装する際に、塗料組成物が透明であったり、あるいは、塗料組成物の色が被塗装物表面の色と同じか近い色であると、塗料組成物の塗布作業の進行過程を目視で確認するのが難しいため、塗り残しや塗りムラ、更には重ね塗り時の塗料組成物のタレ等の問題を起こすことなく、塗料組成物を被塗装物表面に均一に塗装することは困難である。
【0003】
そこで、従来においても、このような問題を解決するための幾つかの方法が提案されている。
例えば、特開平5-25,899号公報や特開平11-12,065号公報においては、透明塗料に退色性色素を添加して着色し、退色性色素が光化学反応、雨水による流出、自然退色によって退色させる方法が提案されている。しかしながら、この方法においては、塗膜厚の分布を色の濃淡で目視することにより膜厚管理がし易いという特長はあるが、屋外環境での自然退色を前提にしているため、退色に日数を要するという問題がある。
【0004】
また、特開2005-23,155号公報、特開2001-321,676号公報、及び特開2004-256,674号公報においては、透明塗料中に光触媒によって消色可能な色素を含有させ、塗装時には着色することにより目視確認を容易にし、塗装後には着色した色を光触媒作用で消色させる方法が提案されている。しかしながら、この方法においては、光触媒作用を利用することにより光化学反応や自然退色による退色方法よりも退色時間が短くなるという利点はあるが、太陽光中の紫外線の働きによって退色させる方法であるため、塗料の塗布ムラを無くすることはできても、十分な太陽光が照射されないと退色速度が遅くなり、また、被塗装物が平面でないと場所によって太陽光の照射具合が不均一になり退色性にムラが生じる等の問題がある。
【0005】
更に、特開2002-285,098号公報には、塗布用樹脂組成物中に水溶性食用染料を添加し、乾燥状態で一定時間以上紫外線照射することによりこの水溶性食用染料を退色させ、塗布後少なくとも1時間は着色状態を保持し、少なくとも製品として出荷されるまでには退色せしめる方法が提案されている。しかしながら、この方法には、退色させるために一定時間の紫外線照射や屋外暴露が必須であり、紫外線の届き難い場所での使用や、形状が複雑で紫外線の届き難い箇所がある塗装材についての使用に問題があるほか、大きな塗装材の場合は退色処理が大掛かりになってコストが嵩むという問題がある。
【0006】
このように、これまでにも退色性塗料組成物については幾つかの提案がなされているが、いずれも退色方法が太陽光や紫外線等に依存するものであり、退色処理に少なくとも数時間から1日以上の長時間を要するほか、退色が完了するまでの時間が自然環境に左右されたり、特別な設備を要して必要以上のコストが掛かるという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開平5-25,899号公報
【特許文献2】特開平11-12,065号公報
【特許文献3】特開2005-23,155号公報
【特許文献4】特開2001-321,676号公報
【特許文献5】特開2004-256,674号公報
【特許文献6】特開2002-285,098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、塗料組成物の塗装工程において、塗料組成物の塗布時には着色されてその塗布状態を容易に視認することができると共に、塗布後には容易に退色させることができ、塗料組成物の塗り残し、塗りムラ、重ね塗り時の塗料のタレ等の問題がなく、膜厚管理が容易な退色性塗料組成物について鋭意検討した結果、塗料組成物中に塗装時の加熱によって退色する加熱退色性着色剤を所定の割合で添加することにより、退色させるための特別な操作や時間を必要とすることなく、塗料組成物の塗装工程における加熱乾燥によって、塗料組成物中の加熱退色性着色剤を容易にかつ確実に退色(消色又は変色)させて透明塗膜又は所定の着色塗膜を形成することができることを見い出し、本発明を完成した。
【0009】
また、このような退色性塗料組成物がスプレー塗装等のポストコート塗装に有利に用いることができることを見い出し、本発明を完成した。
【0010】
従って、本発明の目的は、塗料組成物の塗布時には着色されてその塗布状態を容易に視認することができると共に、塗布後には容易に退色させることができ、塗料組成物の塗り残し、塗りムラ、重ね塗り時の塗料のタレ等の問題がなく、膜厚管理が容易な退色性塗料組成物を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、退色させるための特別な操作や時間を必要とすることなく、塗料組成物の塗装工程における加熱乾燥によって、塗料組成物中の加熱退色性着色剤を容易にかつ確実に退色(消色又は変色)させて透明塗膜又は所定の着色塗膜を形成することができる退色性塗料組成物を提供することにある。
【0012】
更に、本発明の他の目的は、スプレー塗装等のポストコート塗装に有利に用いることができる退色性塗料組成物を提供することにある。
更にまた、このような退色性塗料組成物を用いて被塗装物表面に透明塗膜を形成する塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、塗料組成物中に塗装時の加熱によって退色する加熱退色性着色剤が固形分濃度5質量%以下の範囲で含有されていることを特徴とする退色性塗料組成物である。
【0014】
また、本発明は、透明塗膜を形成する塗料組成物を用いると共に加熱によって消色する加熱退色性着色剤を用いた退色性塗料組成物を被塗装物の表面に塗布し、次いで80〜250℃の温度で加熱乾燥し、この加熱乾燥により被塗装物表面に塗布された退色性塗料組成物中の着色剤を退色させて透明塗膜を形成することを特徴とする塗装方法である。
【0015】
本発明において、加熱退色性着色剤が添加される塗料組成物は、被塗装物の表面に塗装される際に、透明であるために、あるいは、被塗装物表面の色と同じか近い色であるために、塗料組成物の塗布作業の進行過程を目視で確認するのが難しく、塗り残しや塗りムラ、更には重ね塗り時の塗料組成物のタレ等の問題を起こし易く、また、膜厚管理の難しい塗料組成物であり、基本的には塗料樹脂とこの塗料樹脂を溶解し、あるいは、分散する溶剤成分とからなるものである。
【0016】
そして、この塗料組成物については、特に制限されるものではないが、被塗装物表面に直接に塗装する際に、あるいは、上塗り塗装を前提としたプライマー塗装をする際に、スプレー塗装等のポストコート塗装を行う上で、好ましくは、ノンクロムであって耐食性に優れ、VOC排出量低減化が可能であり、しかも、塗布ムラ、ハジキ、タレ等の問題がなくて塗装作業性にも優れた水含有量50質量%以上の水系塗料組成物であるのがよく、より好ましくは、塗料樹脂、造膜助剤及び水を含む水含有量50質量%以上の水系塗料組成物であり、上記塗料樹脂がその固形分中にシリコンを0.01〜5質量%の割合で含むと共に、造膜助剤が3〜15質量%の割合で含有されている水系塗料組成物であるのがよい。
【0017】
このような水系塗料組成物において、塗料樹脂は、固形分中にシリコンを0.01質量%以上5質量%以下、好ましくは0.5質量%以上3質量%以下の割合で含むものであればよく、それがシリコン含有樹脂のみで構成されていても、また、このシリコン含有樹脂とその他の例えばアクリル、ウレタン、ポリエステル等のシリコン非含有樹脂との混合物であってもよいが、所定のシリコン含有量を達成するために好ましくはシリコン含有樹脂のみで構成される。シリコン含有量が0.01重量部より少ないと耐食性が低下し、反対に、5重量部より多いと塗膜が硬くなって塗膜の密着性が低下する。
【0018】
また、上記シリコン含有樹脂としては、例えば、アクリルシリコーン系、ウレタンシリコーン系、有機樹脂変性シリコーン系、シリカ・有機樹脂複合系、アルカリシリケート系、シリカ系等の樹脂を挙げることができ、これらはその1種のみを単独で用いることができるほか、2種以上の混合物として用いることもできる。これらのシリコン含有樹脂については、耐食性の観点から、好ましくはアクリルシリコーン系エマルジョンである。
【0019】
また、上記造膜助剤としては、例えば、カルビトール、ブチルカルビトール、酢酸カルビトール、酢酸ブチルカルビトール等のカルビトール系、酢酸ブチルセルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テキサノール、ソルフィット等を挙げることができ、その1種のみを単独で用いることができるほか、2種以上の混合物として用いることもできる。この造膜助剤は、塗料組成物中に3重量%以上15重量%以下、好ましくは5重量%以上10重量%以下の範囲で含有されていることが必要であり、含有量が3重量%より少ないとスプレー塗装時に塗装ムラが生じ均一な外観が得られなくなり、反対に、15重量%を超えると、効果が飽和し、また、塗料組成物中の有機溶剤量が多くなることからVOC排出量低減化が難しくなる。
【0020】
更に、上記水系塗料組成物については、必要により主としてタレ防止をより確実にするレオロジー調整剤として増粘剤を添加してもよい。この目的で用いられる増粘剤としては、例えば、モンモリロナイト系粘土鉱物、これらの鉱物を含むベントナイト、コロイド状アルミナ等の無機充填剤系増粘剤、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヘキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系増粘剤、ウレタン樹脂系、ポリエーテル樹脂系、ウレタン変性ポリエーテル系等の会合型増粘剤、ポリエーテルポリオール系ウレタン樹脂系等の特殊高分子非イオン型増粘剤、ノニオン系等の界面活性剤系増粘剤、アクリル酸系増粘剤等を挙げることができ、これらはその1のみを使用できるほか、2種以上混合して用いることもできる。この増粘剤の使用量は、塗料樹脂の固形分100質量部に対して5質量部以下、好ましくは2.5重量部以下の範囲であるのがよく、5重量部を超えて添加すると、塗膜の耐食性が低下する。
【0021】
そして、上記水系塗料組成物は、そのままで、あるいは、必要に応じて着色顔料、フィラー、体質顔料、溶剤、消泡剤、紫外線吸収剤、湿潤剤、酸化防止剤、防菌剤、防かび剤、防藻剤、レベリング剤等の添加剤を配合して、種々の基材の表面に塗布することができ、特に成形加工等の手段で製品の形状に形成された基材の表面に塗装する、いわゆるポストコート塗装用として好適に用いることができる。本発明の水系塗料組成物は、基材の表面に直接ポストコート塗装してもよく、また、プライマー塗料としてポストコート塗装してもよい。
【0022】
本発明の退色性塗料組成物は、このような塗料組成物中に、塗装時の加熱によって退色する加熱退色性着色剤を固形分濃度5質量%以下の範囲で添加して形成されるが、この目的で用いられる加熱退色性着色剤については、それが塗装工程の加熱乾燥により容易にかつ確実に退色(消色又は変色)するものであればよく、好ましくは通常の塗装工程で行われる加熱乾燥時の温度である80℃以上250℃以下、より好ましくは100℃以上230℃以下の温度で容易にかつ確実に退色(消色又は変色)するものであればよく、例えば、230℃以下の温度で分解して退色する有機系の染料、食用色素、顔料等を挙げることができる。
【0023】
この加熱退色性着色剤の添加量については、使用する加熱退色性着色剤の種類によっても異なるが、通常5質量%以下、好ましくは2.5質量%以下であるのがよく、5質量%を超えて添加しても塗装時に視認できる着色の効果が飽和してコストアップを招くだけである。
【0024】
本発明の退色性塗料組成物においては、好ましくは塗料組成物が透明塗膜を形成する塗料組成物であると共に、加熱退色性着色剤が加熱によって消色する加熱退色性着色剤であるのがよく、この場合には、退色性塗料組成物を被塗装物の表面に塗布し、次いで80〜250℃の温度で加熱乾燥し、この加熱乾燥により被塗装物表面に塗布された退色性塗料組成物中の着色剤を退色させて透明塗膜を形成することができる。
【0025】
本発明の退色性塗料組成物が塗布される基材については、特に限定されないが、好適には金属材料や無機材料である。基材がアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム基材である場合、例えば圧延材、押出形材、ダイカスト材、鋳物材等や、これらを適宜加工した加工材等が挙げられる。
【0026】
基材としてアルミニウム基材が用いられる場合、本発明の退色性塗料組成物をポストコート塗装する前に、予めアルミニウム基材の表面にアルカリ性溶液、酸性溶液、界面活性剤等を含む中性溶液等による前処理や、これらの前処理を2種以上組み合わせた前処理を施してもよく、この前処理の際にアルミニウム基材の表面がエッチングされても、エッチングされなくてもよい。また、前処理の前後に、更には2種以上の前処理を行う場合には各前処理の間にそれぞれ水洗を行なってもよく、この際に用いる水については工業用水、地下水、水道水、イオン交換水等のいずれでもよい。更に、前処理後又は水洗後には、必要により、エアーブロー、ドライヤー、オーブン等の強制乾燥手段で、あるいは、室温で放置する自然乾燥により乾燥してもよい。
【0027】
また、上記の前処理の後、アルミニウム基材の表面に塗膜層を形成する前に陽極酸化処理を行ってもよい。陽極酸化処理としては、酸性浴の建浴に硫酸、シュウ酸、クロム酸、ホウ酸等を用いる公知の方法が適用可能であり、また、低温で高い電解電圧を付与して皮膜の溶解を抑えた硬質アルマイト処理も適用することができる。
【0028】
更に、上記陽極酸化皮膜については、この皮膜が、厚さ方向に沿って細径の通電孔が多数内包された多孔性であるため、陽極酸化皮膜が形成された後直ちに、公知の方法で封孔処理を行って通電孔を封孔してもよい。また、上記陽極酸化皮膜はその表面に着色が施されたものであってもよく、この着色が施された陽極酸化皮膜としては、例えば陽極酸化皮膜が電解着色された電解着色陽極酸化皮膜等が挙げられる。
【0029】
更にまた、アルミニウム基材の表面に塗膜層を形成する前に、アルミニウム基材の粗面化処理を行ってもよい。粗面化処理の具体的な方法としては、例えば、サンドペーパー、不織布研磨材等による研磨、アルミナ等のセラミックス、砂、金属、プラスチック、ガラス、植物種子等の粒子を用いるブラスト処理、例えば酸やアルカリ等のエッチング液を用いるエッチング処理、例えば少なくとも一方のロール表面が粗面化された一対の圧延ロールを用いてこの粗面化表面を基材表面に転写させるエンボスロール圧延処理等の種々の方法を挙げることができる。また、粗面化処理を施した後、シンナー等による溶剤洗浄、上述した前処理、陽極酸化処理、乾燥等を行ってもよい。
【0030】
本発明において、退色性塗料組成物がポストコート塗装された塗装材は、基材表面に退色性塗料組成物が直接ポストコート塗装された単独の塗膜層を有する塗装材であっても、また、基材表面に退色性塗料組成物がプライマー塗料としてポストコート塗装され、その上に他の塗料組成物が上塗り塗料として塗装された2層以上の塗膜層を有する塗装材であってもよい。本発明の退色性塗料組成物がプライマー塗膜である場合、その上の1層又は2層以の塗膜層を上塗り塗料としては、特に制限はなく、例えばアクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、エポキシ系、フッソ系、アクリルシリコーン系、ウレタンシリコーン系、アクリルウレタンシリコーン系、アルカリシリケート系、コロイダルシリカ等を使用したシリカゾル系、酸化チタン系、セラミックス系等の塗料を挙げることができ、有機系、有機・無機ハイブリッド系、無機系等のいずれでもよい。
【0031】
基材の表面にポストコート塗装を行う塗装方法についても特に制限はなく、例えばスプレーコート法、刷毛塗り法、スピンコート法、浸漬法、静電塗装法等の公知の方法を採用することができる。また、塗装後の乾燥は、塗料に応じた乾燥条件で行うことができ、例えばエアーブロー、ドライヤー、熱風乾燥炉、遠赤外線炉等を用いて室温〜250℃及び5分〜24時間の乾燥条件で行なうことができる。
【0032】
更に、本発明の退色性塗料組成物をポストコート塗装する際の膜厚については、塗膜形成後の膜厚で1μm以上25μm以下、好ましくは5μm以上20μm以下であり、膜厚が1μmより薄いと均一に塗装できず、反対に、25μmより厚いと性能が飽和し、必要以上の膜厚となってコスト高の問題を招く。
【発明の効果】
【0033】
本発明の退色性塗料組成物は、塗料組成物の塗装工程において、塗料組成物の塗布時には着色されてその塗布状態を容易に視認することができると共に、塗布後には容易に退色させることができ、塗料組成物の塗り残し、塗りムラ、重ね塗り時の塗料のタレ等の問題がなく、膜厚管理が容易であると共に、塗装時の加熱によって塗料組成物中の加熱退色性着色剤を容易にかつ確実に退色(消色又は変色)させることができ、被塗装物の表面に透明塗膜や被塗装物表面の着色と同じあるいは近い着色塗膜を形成する塗装作業がきわめて容易になる。それ故、本発明の退色性塗料組成物は、スプレー塗装等のポストコート塗装に有利に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0035】
[実施例1〜3及び比較例1〜2]
〔退色性塗料組成物の調製〕
塗料樹脂としてアクリル系エマルジョン(ダイセル化学工業社製商品名:アクアブリッドUX-110;塗料樹脂濃度48.5質量%及び水分濃度51.5質量%)(塗料樹脂A)又はアクリルシリコーン系エマルジョン(ダイセル化学工業製商品名社製商品名:アクアブリッド4790;塗料樹脂濃度50.2質量%、水分濃度49.8質量%及び固形分中Si含有量0.06質量%)(塗料樹脂B)を使用し、また、加熱退色性着色剤として退色性赤色着色剤(アイゼン保土谷社製商品名:ビートレッド、固形分濃度50質量%)(着色剤C)、食用青色2号(アイゼン保土谷製社製、固形分100質量%)(着色剤D)又は大日精化工業社製商品名:EP708ブルー(固形分濃度23質量%)(着色剤E)を使用し、更に、造膜助剤としてテキサノール(造膜助剤F)又はブチルカルビトール(造膜助剤G)を使用し、更にまた、増粘剤としてサンノプコ社製商品名:シックナー612(固形分濃度40質量%)(増粘剤H)を使用し、また、水として脱イオン水を使用し、表1に示す割合で混合し、実施例1〜3及び比較例1〜2の退色性塗料組成物を調製した。
【0036】
〔アルミニウム塗装材の調製〕
被塗装物として250mm×200mm×1.0mmの大きさのアルミニウム板(JIS 5052;アルミニウム基材)を用意し、前処理としてアセトンで超音波洗浄して乾燥し、次いで、前処理後のアルミニウム板を縦吊りし、スプレーガン(アネスト岩田社製スプレーガンW61-2G)を用いて上記各実施例1〜3又は各比較例1〜2の退色性塗料組成物をプライマー塗料として、焼付後の膜厚が約10μmになるようにスプレー塗装(ポストコート塗装)し、10分間セッティングの後、190℃で10分間焼付乾燥させた。
【0037】
次に、上記各実施例1〜3又は各比較例1〜2の退色性塗料組成物でプライマー塗装されたアルミニウム板の上に、上塗りとして、ホワイト色のセラミック系ハイブリッド塗料(大日本塗料社製商品名:Vハード#500)を焼付後の膜厚が約25μmになるようにスプレー塗装を行い、10分間セッティングの後、160℃で30分焼付乾燥し、アルミニウム塗装材を作製した。
【0038】
[比較例3]
比較例3では、プライマー塗料としての退色性塗料組成物を塗装せず、上記上塗り塗装のみを行ってアルミニウム塗装材を作製した。
【0039】
このようにして調製された各実施例1〜3又は各比較例1〜3のアルミニウム塗装材について、アルミニウム板(アルミニウム基材)の表面に退色性塗料組成物をスプレー塗装した際の塗装後の外観評価と、プライマー焼付塗装後の外観(退色性)評価と、上塗り塗料焼付後の塗膜外観評価を行った。
結果を表1に示す。
【0040】
なお、退色性塗料組成物のスプレー塗装後の外観評価について、塗料の塗り残しは、○:塗り残しないもの、×:塗り残しがあるもので評価し、塗りムラについては、○:ムラが無く外観が均一なもの、×:ムラがあって外観が不良なもので評価し、また、タレについては、○:塗料のタレがなく外観が良好なもの、×:塗料のタレが発生し外観が不良なもので評価した。また、プライマー焼付塗装後の外観(退色性)評価は、○:塗装前に比べ塗膜の色が退色または消色しクリア塗料になったもの、×:塗装前に比べ塗膜の色が変わらないものとして評価した。更に、上塗り塗料焼付後の塗膜外観評価は、○:色についてプライマー塗膜の色の影響が無く、比較例3のホワイト塗膜と比べ目視で色がほとんど変わらないもの、×:プライマー塗膜の着色の影響を受け、比較例3のホワイト塗膜と比べ目視で色が異なるものとして評価した。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の退色性塗料組成物及びその塗装方法によれば、退色させるための特別な操作や時間を必要とすることなく、塗料組成物の塗装工程での加熱を利用して、塗料組成物の塗布時には着色されてその塗布状態を容易に視認することができると共に、塗布後には容易に退色させることができ、塗料組成物の塗り残し、塗りムラ、重ね塗り時の塗料のタレ等の問題がなく、膜厚管理を極めて容易に行うことができ、その工業的価値の高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料組成物中に塗装時の加熱によって退色する加熱退色性着色剤が固形分濃度5質量%以下の範囲で含有されていることを特徴とする退色性塗料組成物。
【請求項2】
塗料組成物が、水含有量50質量%以上の水系塗料組成物である請求項1に記載の退色性塗料組成物。
【請求項3】
塗料組成物が、塗料樹脂、造膜助剤及び水を含む水含有量50質量%以上の水系塗料組成物であり、上記塗料樹脂がその固形分中にシリコンを0.01〜5質量%の割合で含むと共に、造膜助剤が3〜15質量%の割合で含有されている請求項1又は2に記載の退色性塗料組成物。
【請求項4】
塗料樹脂が、シリコン含有樹脂からなる請求項3に記載の退色性塗料組成物。
【請求項5】
シリコン含有樹脂が、アクリルシリコーン系エマルジョンである請求項4に記載の退色性塗料組成物。
【請求項6】
増粘剤が、塗料樹脂の固形分100質量部に対して5質量部以下の範囲で含まれている請求項3〜5のいずれかに記載の退色性塗料組成物。
【請求項7】
塗料組成物が、プライマー塗料である請求項1〜6のいずれかに記載の退色性塗料組成物。
【請求項8】
塗料組成物が透明塗膜を形成する塗料組成物であると共に、加熱退色性着色剤が塗装時の加熱によって消色する加熱退色性着色剤である請求項1〜7のいずれかに記載の退色性塗料組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の退色性塗料組成物を被塗装物の表面に塗布し、次いで80〜250℃の温度で加熱乾燥し、この加熱乾燥により被塗装物表面に塗布された退色性塗料組成物中の着色剤を退色させて透明塗膜を形成することを特徴とする塗装方法。

【公開番号】特開2007−169354(P2007−169354A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365792(P2005−365792)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】