送りねじ
【課題】 ねじ山加工以外の煩雑な加工を行うことなく、かつ送りねじの寿命の低下を防止することが望まれている。
【解決手段】 ねじに螺合するナットが、ねじの材料よりもヤング率の小さい材料で形成されている。ねじとナットとの間の空間に潤滑剤が充填される。ねじとナットの、相互に対向するフランク面同士を近づけるように作用する力によってナットのねじ山が弾性変形し、ねじ及びナットの一方から他方に力が伝達される。
【解決手段】 ねじに螺合するナットが、ねじの材料よりもヤング率の小さい材料で形成されている。ねじとナットとの間の空間に潤滑剤が充填される。ねじとナットの、相互に対向するフランク面同士を近づけるように作用する力によってナットのねじ山が弾性変形し、ねじ及びナットの一方から他方に力が伝達される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を直線運動に変換する送りねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ山の頂面に、周方向に等ピッチで複数の孔を形成した送りねじが、特許文献1に開示されている。孔が形成された部分の剛性が低下し、荷重によるたわみ量が大きくなる。このため、荷重が加わると、ねじ歯面(フランク面)に、周方向に周期的なへこみ変形が生じる。この変形によって、くさび形の空間が形成され、くさび形の空間に潤滑油が充填される。くさび形の形状に応じて油膜圧力が発生し、対向する2つのフランク面が油膜圧力を介して支えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−230297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ねじ山の頂面に、剛性を低下させるほどの大きさの孔を形成するために、ねじ山加工の他に煩雑な加工が必要になる。また、ねじ山の頂面に孔を形成すると、その部分の機械的強度が低下してしまう。機械的強度の低下は、送りねじの寿命の低下を招く。
【0005】
ねじ山加工以外の煩雑な加工を行うことなく、かつ送りねじの寿命の低下を防止することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
ねじと、
前記ねじの材料よりもヤング率の小さい材料で形成され、前記ねじに螺合するナットと、
前記ねじと前記ナットとの間の空間に充填される潤滑剤と、
を有し、
前記ねじと前記ナットの、相互に対向するフランク面同士を近づけるように作用する力によって前記ナットのねじ山が弾性変形し、前記ねじ及び前記ナットの一方から他方に力が伝達される送りねじが提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
ねじと、
前記ねじよりも剛性の低い材料で形成され、前記ねじに螺合するナットと、
前記ねじと前記ナットとの間の空間に充填される潤滑剤と、
を有し、
前記ナットのフランク面及び前記ねじのフランク面の少なくとも一方のフランク面に、周方向に対して交差する複数の溝が形成されている送りねじが提供される。
【0008】
本発明のさらに他の観点によると、
ねじと、
前記ねじよりも剛性の低い材料で形成され、前記ねじに螺合するナットと、
前記ねじと前記ナットとの間の空間に充填される潤滑剤と、
を有し、
前記ねじ及び前記ナットのうち一方の部材のねじ山の山頂と、それに対向するねじ溝の谷底との間隔が周方向に増減しており、前記間隔が極小値をとる位置が、一周内に少なくとも2箇所存在する送りねじが提供される。
【発明の効果】
【0009】
ナットのねじ山を弾性変形させることにより、弾性流体潤滑状態を実現させやすくなり、送りねじの安定動作を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1による送りねじを用いた直動機構の概略図である。
【図2】(2A)は、実施例1による送りねじの概略図であるり、(2B)はその展開図である。
【図3】実施例1による送りねじの、ナットのねじ山とねじのねじ溝の部分の断面図である。
【図4】(4A)は、実施例2による送りねじの概略図であるり、(4B)はその展開図である。
【図5】(5A)は、実施例3による送りねじの概略図であるり、(5B)はその展開図である。
【図6】(6A)は、実施例4による送りねじの概略図であるり、(6B)はその展開図である。
【図7】(7A)は、実施例5による送りねじの概略図であるり、(7B)はその展開図である。
【図8】実施例6による送りねじの概略図である。
【図9】実施例6の変形例によるねじの断面図である。
【図10】実施例7による送りねじの概略図である。
【図11】実施例8による送りねじのねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像を示す線図である。
【図12】実施例9による送りねじのねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像を示す線図である。
【図13】実施例10による送りねじのねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像を示す線図である。
【図14】ストライベック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1に、実施例1による送りねじを用いた直動機構の概略図を示す。なお、この直動機構には、他の実施例による送りねじも適用される。筒状の外装10の中に、可動体11の一方の端部が挿入されている。可動体11は、外装10に対して軸方向に直進移動可能に支持されている。外装10内にねじ12が挿入され、ねじ12は、軸受け15A及び15Bにより、ねじ軸を中心として回転可能に支持されている。ねじ12にナット13が螺合している。ナット13は、可動体11に固定され、ねじ軸を回転中心としたナット13の回転運動が禁止される。ねじ12及びナット13が格納された外装10内の空間は、潤滑油(潤滑剤)14で満たされている。
【0013】
電動機16の回転力(トルク)が減速機18を介してねじ12に伝達される。ブレーキシステム17が、電動機16の回転軸の回転速度を減速させるか、または回転を停止させる。ねじ12が回転すると、ナット13及び可動体11が、ねじ軸に平行な方向に移動する。
【0014】
図2Aに、ねじ12及びナット13の概略図を示す。ねじ12は1条ねじであり、リードLと、ピッチPとが等しい。ねじ12の一方のフランク面(第1のフランク面)21と、ナット13の一方のフランク面(第1のフランク面)24とが対向し、ねじ12の他方のフランク面(第2のフランク面)22と、ナット13の他方のフランク面(第2のフランク面)25とが対向する。ナット13に用いられている材料のヤング率は、ねじ12に用いられている材料のヤング率よりも小さい。
【0015】
図2Bに、ねじ12のねじ山、及びナット13のねじ溝の展開図を示す。横軸は、周方向の位置を、基準方位を0°とした角度座標で表し、縦軸は、ねじ軸方向の位置を表す。この展開図は、ねじ12及びナット13の有効径を持つ仮想円筒面上におけるねじ山及びねじ溝を示す。ナット13のねじ軸方向の寸法は、リードLとほぼ等しい。
【0016】
ナット13のリード角βNが、ねじ12のリード角βSよりも大きい。このため、ねじ12の第1のフランク面21と、ナット13の第1のフランク面24との間隔は、周方向に関して一定にはならない。図2Bにおいて、ねじ12の第1のフランク面21と、ナット13の第1のフランク面24との間隔は、左に向かって徐々に狭まっており、くさび形の空間が画定される。
【0017】
ねじ12の第1のフランク面21とナット13の第1のフランク面24とを近づけるように作用するトルクが、ねじ12に与えられた場合について考察する。具体的には、図2Bにおいて、ねじ12の第1のフランク面21が左向きに移動する。フランク面の間を満たしている潤滑油も左向きに流動し、フランク面の間隔が狭くなっている部分の面圧が局所的に高まる。ここで、「面圧」とは、油膜を介してフランク面同士が及ぼし合う圧力を意味する。局所的に面圧が高くなることにより、ねじ12の第1のフランク面21及びナット13の第1のフランク面24が弾性変形する。ナット13のヤング率がねじ12のヤング率よりも小さいため、特にナット13の第1のフランク面24の弾性変形量が大きくなる。
【0018】
図14に、ストライベック線図を示す。横軸は軸受特性数ηN/pを表し、縦軸は摩擦係数を表す。ここで、ηは潤滑油の粘度を示し、Nはねじの回転数を示し、pは面圧を示す。軸受特性数が大きくなる方向に向かって、境界潤滑領域R1、混合潤滑領域R2、及び流体潤滑領域R3がこの順番に並ぶ。
【0019】
境界潤滑領域R1では、金属の摩擦面同士の接触が生じ、摩擦係数が高くなる。流体潤滑領域R3では、摩擦面同士が油膜を挟んで離れて対向する。この領域では、軸受特性数の低下に伴って、摩擦係数が低下する。境界潤滑領域R1と流体潤滑領域R3との間の混合潤滑領域R2では、境界潤滑と、流体潤滑とが同時に起こっている。混合潤滑領域R2では、軸受特性数の低下と共に、摩擦係数が急激に増加する。一例として、面圧pが高くなるか、回転数Nが低下すると、軸受特性数が低下して摩擦係数が急激に大きくなってしまう。一例として、金属面同士の接触が生じ、送りねじの寿命低下につながる。
【0020】
流体潤滑領域R3のうち、軸受特性数が小さい一部の領域に、弾性流体潤滑(EHL)領域R4が定義される。この領域では、摩擦面を画定する金属が油圧によって弾性変形し、摩擦面同士が接触しない。このため、安定した動作が可能になる。
【0021】
実施例1においては、相互に対向する第1のフランク面21と24とで挟まれた空間がくさび形になっている。これにより、油膜を介して、面圧が局所的に高まる。流体潤滑領域R3で動作していたフランク面の面圧が、全域で均等に高くなると、動作点が混合潤滑領域R2内のQ1に移動する。このため、金属面同士の接触の危険度が高まる。実施例1では、面圧が均等に高くなるのではなく、局所的に高くなるため、第1のフランク面21、24に弾性変形が生じやすくなる。弾性変形が生じた部分では、フランク面と潤滑油との接触面積が増大することにより、面圧pが低下し、動作点がEHL領域R4内のQ2に移動する。このため、送りねじの安定した動作が可能になる。
【0022】
ねじ12のもう一方の第2のフランク面22、及びナット13のもう一方の第2のフランク面25との位置関係も、第1のフランク面21、24の位置関係と同一である。このため、第2のフランク面22と25とを近づけるように作用するトルクが、ねじ12に与えられた場合(ねじ12を反対向きに回転させた場合)も、同様の効果が得られる。
【0023】
図3に、ねじ12の1つのねじ溝、及びナット13の1つのねじ山の断面図を示す。ねじ12及びナット13のねじ山の軸断面の形状は、ほぼ長方形である。ねじ12の第1のフランク面21とナット13の第1のフランク面24とを近づけるように作用するトルクが、ねじ12に与えられると、図3において、ナット13のねじ山に軸方向の力が加わる。ナット13に、ねじ12よりもヤング率の低い材料が用いられているため、ナット13のねじ山が軸方向に湾曲し易い。
【0024】
このため、ねじ12の第1のフランク面21と、ナット13の第1のフランク面24との間隔は、中心軸から離れる向きに狭くなる。ねじ12が回転すると、潤滑油14が、遠心力によって中心軸から遠ざかる向きに流動する。第1のフランク面21と24との間隔が、中心軸から離れる向きに狭くなっているため、潤滑油14を第1のフランク面21と24との間に安定して保持することができる。
【0025】
実施例1で用いるねじ12及びナット13は、一般的なねじ及びナットのねじ溝の加工技術を用いて製造することが可能である。
【実施例2】
【0026】
図4Aに、実施例2による送りねじのねじ12及びナット13の概略図を示す。実施例2のねじ12は1条ねじであり、リードLとピッチPとは等しい。ナット13のねじ軸方向の寸法は、リードLの約3倍である。ナット13の軸方向の寸法が、実施例1の場合に比べて長い。このため、実施例1のように、ねじ12のリード角とナット13のリード角とを異ならせると、ねじ12とナット13とが螺合しなくなる。
【0027】
図4Bに、ねじ12のねじ山、及びナット13のねじ溝の展開図を示す。横軸は、周方向の位置を、基準方位を0°とした角度座標で表し、縦軸は、ねじ軸方向の位置を表す。図2Bと同様に、この展開図は、ねじ12及びナット13の有効径を持つ仮想円筒面上におけるねじ山及びねじ溝を示す。
【0028】
第1のフランク面21と24との間隔が周方向に変動している。間隔の変動は、周期的であり、その周期は360°である。角度座標が0°、360°、720°の位置Pc、すなわち、周方向に関して同じ位置で、第1のフランク面21と24との間隔が極小値をとる。
【0029】
第1のフランク面21と24との間隔が極小値をとる位置Pcの両側にくさび形の空間が画定される。ねじ12を回転させると、一方のくさび形の空間から、間隔が極小値を示す位置Pcに向かって潤滑油が流入する。このため、実施例1の場合と同様に、間隔が極小値をとる位置Pcにおいて、面圧が局所的に高くなり、第1のフランク面21及び24が弾性変形する。これにより、送りねじの安定した動作が可能になる。
【0030】
第2のフランク面22と25と間隔も、同様に周方向に変動している。このため、ねじ12を反対方向に回転させた場合にも、同様に、送りねじの安定した動作が可能になる。
【実施例3】
【0031】
図5Aに、実施例3による送りねじのねじ12及びナット13の概略図を示し、図5Bに、ねじ12のねじ山、及びナット13のねじ溝の展開図を示す。以下、実施例2による送りねじとの相違点に着目して説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0032】
実施例3では、図5Bに示すように、角度座標が0°、480°、960°の位置で、第1のフランク面21と24との間隔が極小値を示す。すなわち、周方向に関して異なる位置で、第1のフランク面21と24との間隔が極小値を示す。このため、第1のフランク面21と24との面圧が局所的に高くなる位置が、周方向の一箇所に集中せず、分散する。特に、実施例3では、間隔が極小値を示す位置Pcが、周方向に関して均一に分布するため、面圧が局所的に高くなる位置が、周方向に均等に分散する。このため、送りねじの動作を、より安定化させることができる。
【実施例4】
【0033】
図6Aに、実施例4による送りねじの、ねじ12及びナット13の概略図を示す。実施例4のねじ12は多条ねじ(図6Aには4条ねじを示す。)であり、リードLがピッチPの整数倍(図6Aでは4倍)である。ナット13のねじ軸方向の寸法は、リードLとほぼ等しい。
【0034】
図6Bに、ねじ12及びナット13のねじ山の展開図を示す。横軸は、周方向の位置を、基準方位を0°とした角度座標で表し、縦軸は、ねじ軸方向の位置を表す。図2Bと同様に、この展開図は、ねじ12及びナット13の有効径を持つ仮想円筒面上におけるねじ山及びねじ溝を示す。
【0035】
ねじ12に4本のねじ山20、30、40、50が形成されている。ねじ山20の一方の第1のフランク面21と、それに対向するナット13の第1のフランク面24との間隔は、図2Bに示した実施例1の場合と同様に、周方向に変動し、間隔が極小値を示す位置Pc1の角度座標は0°である。他のねじ山30、40、50の、第1のフランク面21と同一方向を向くフランク面と、それに対向するナット13のフランク面との間隔も、同様に、それぞれ角度座標0°の位置Pc2、Pc3、Pc4で極小値を示す。
【0036】
フランク面の間隔は、角度座標が180°の位置で極大値をとり、360°の位置で極小値に戻る。
【0037】
多条ねじの各ねじ山とねじ溝において、実施例1の場合と同様に、相互に対向するフランク面の間にくさび形の空間が画定される。従って、実施例1の場合と同様に、送りねじの安定した動作が可能になる。
【実施例5】
【0038】
図7Aに、実施例5による送りねじの、ねじ12及びナット13の概略図を示す。実施例5のねじ12は、実施例4と同様に多条ねじである。以下、実施例4による送りねじとの相違点に着目して説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0039】
図7Bに、ねじ12及びナット13のねじ山の展開図を示す。横軸は、周方向の位置を、基準方位を0°とした角度座標で表し、縦軸は、ねじ軸方向の位置を表す。図6Bと同様に、この展開図は、ねじ12及びナット13の有効径を持つ仮想円筒面上におけるねじ山及びねじ溝を示す。
【0040】
ねじ山20の第1のフランク面21と、それに対向するナット13の第1のフランク面24との間隔は、角度座標が0°の位置Pc1で極小値を示す。ねじ山30の、第1のフランク面21と同じ方向を向くフランク面と、それに対向するナット13のフランク面との間隔は、角度座標が270°の位置Pc4で極小値を示す。ねじ山40、50のフランク面については、それぞれ角度座標が180°、90°の位置Pc3、Pc2で極小値を示す。フランク面の間隔は、角度座標に対して単調に増加する。
【0041】
実施例5では、フランク面に作用する面圧が局所的に高くなる位置を、周方向に関して分散させることができる。特に、実施例5では、間隔が極小値を示す位置Pc1〜Pc4が周方向に関して均等に分散しているため、面圧が局所的に高くなる位置も、周方向に関して均等に分散する。このため、実施例3の場合と同様に、送りねじの動作を、より安定化させることができる。
【0042】
また、実施例5では、フランク面の間隔の周方向の変動が単調であるため、実施例1の場合と同様に、一般的なねじ及びナットのねじ溝の加工技術を用いて製造することが可能である。
【実施例6】
【0043】
図8Aに、実施例6による送りねじのねじ軸に垂直な断面図を示す。ねじ12とナット13とが螺号している。実施例1の場合と同様に、ナット13に用いられている材料のヤング率は、ねじ12に用いられている材料のヤング率よりも小さい。ねじ12にねじ山20が形成されている。なお、ねじ山20については、断面図ではなく、第1のフランク面21を正面から見た図を示している。ねじ12は右ねじであり、ねじ12を時計回りに回転させると、ナット13が手前に移動する。このとき、図8Aに現れている第1のフランク面21から、それに対向するナット13のフランク面に、ナット13を軸方向に移動させる力が加わる。
【0044】
第1のフランク面21に、複数の溝60が形成されている。溝60は、反時計回りに回転しながらねじ軸に近づくような渦巻き形状にされている。ねじ12を時計回りに回転させると、第1のフランク面21と、それに対向するナット13のフランク面との間の潤滑油は、ねじ軸12に対して相対的に反時計回りに流動する。潤滑油が、ねじ12に対して反時計回りに流動しながら、溝60内に流れ込む。このとき、溝60の段差部の面圧が局所的に高くなる。このため、実施例1の場合と同様に、ねじ12及びナット13のフランク面に弾性変形が生じる。これにより、図14に示した弾性流体潤滑状態が実現され、送りねじの動作を安定させることができる。
【0045】
また、実施例6においては、潤滑油が、溝60に沿ってねじ12の中心に向かって流動する。このため、潤滑油が遠心力によって外側へ偏在してしまうことが防止される。
【0046】
図8Bに、図8Aの第1のフランク面21とは反対向きの第2のフランク面22に形成された溝61を破線で示す。なお、図8Bは、図8Aと同様に第1のフランク面21が正面となる向きで観察した状態を示しており、第2のフランク面22は、紙面の裏側を向いている。
【0047】
溝61の各々は、時計回りに回転しながらねじ軸に近づくような渦巻き形状にされている。このように、第1のフランク面21に形成された溝60と、第2のフランク面22に形成された溝61とでは、渦巻きの回転方向が逆である。なお、第2のフランク面22を正面に見た状態(図8Bにおいて紙面の裏側から見た状態)では、図8Aに示した溝60と同様に、反時計回りに回転しながらねじ軸に近づくように、渦巻き形状にされている。
【0048】
ねじ12を反時計回りに回転させると、ナット13が紙面の表側から裏側に向かって移動する。このとき、第2のフランク面22から、それに対向するナット13のフランク面に、ナット13を軸方向に移動させる力が加わる。このフランク面の間の潤滑油は、ねじ12に対して相対的に時計回りに流動する。このとき、潤滑油は、溝61に沿ってねじ12の中心に向かって流動する。このため、潤滑油が遠心力によって外側へ偏在してしまうことが防止される。
【0049】
実施例6では、溝60、61を渦巻状にしたが、必ずしも渦巻状にする必要は無い。潤滑油が集中することによって、局所的に面圧が高くれば、弾性流体潤滑状態を実現することが可能である。
【0050】
また、第1のフランク面21内に、半径方向の全域に亘って溝を形成する必要はなく、例えば図9Aに示すように、第1のフランク面21のうち、外周側の一部分にのみ溝62を形成してもよい。また、図9Bに示すように、頂点が周方向を向くシェブロン形状の溝63を形成してもよい。この場合、シェブロン形状は、周方向に流動する潤滑油が、シェブロン形状の頂点に集まる向きとすることが好ましい。
【実施例7】
【0051】
図10に、実施例7による送りねじのねじ軸に垂直な断面図を示す。実施例6では、ねじ12のフランク面に溝が形成されていたが、実施例7では、ナット13のフランク面に溝64が形成されている。
【0052】
ナット13の第1のフランク面24を正面から見たとき、溝64は、反時計回りにねじ12の中心に近づく渦巻状である。ねじ12を反時計回りに回転させると、ねじ12の第1のフランク面から、ナット13の第1のフランク面24に力が加わり、ナット13が紙面の表側から裏側に向かって移動する。潤滑油は、ナット13に対して相対的に反時計回りに流動するとともに、溝64内に流入して、ねじ12の中心に向かって流動する。
【0053】
このため、実施例6の場合と同様に、弾性流体潤滑状態を実現すると共に、潤滑油の外周側への偏在を防止することができる。
【0054】
なお、ねじ12のフランク面と、ナット13のフランク面との両方に溝を形成してもよい。
【実施例8】
【0055】
図11に、実施例8による送りねじのねじ12及びナット13の、ねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像を示す。実施例1の場合と同様に、ナット13に用いられている材料のヤング率は、ねじ12に用いられている材料のヤング率よりも小さい。ねじ12のねじ山の山頂の投影像70、ねじ溝の谷底の投影像71、及びナット13のねじ山の山頂の投影像73は、円周状であるが、ナット13のねじ溝の谷底の投影像72は、楕円状である。このため、ねじ12の山頂とナット13の谷底との間隔は、周方向に増減する。一例として、ねじ12の山頂の投影像70の半径(ねじ12の外径)をrとしたとき、ナット13のねじ溝の谷底の投影像72の長半径aは1.0022rであり、短半径bは1.0010rである。
【0056】
実施例8においては、ねじ12のねじ山の山頂と、ナット13のねじ溝の谷底との間に、くさび形の空間が形成される。ねじ12のねじ山の山頂と、ナット13のねじ溝の谷底との間隔が極小値を示す位置において、面圧が局所的に高くなる。これにより、弾性流体潤滑状態を実現することができる。実施例8による送りねじは、径方向の荷重が印加される場合に、ねじ12のねじ山の山頂と、ナット13のねじ溝の谷底との接触を防止することができる。例えば、送りねじが、ねじ軸を水平にした状態、または鉛直方向から傾いた状態で使用される場合に、上記効果が顕著に現れる。
【0057】
くさび形空間を形成する十分な効果を得るために、(a−r)/(b−r)を、2〜4の範囲内とすることが好ましい。
【0058】
実施例8では、ナット13のねじ溝の谷底の投影像72を楕円形状にしたが、ナット13のねじ溝の谷底と、ねじ12のねじ山の山頂との間にくさび形の空間が形成される楕円以外の形状としてもよい。例えば、谷底と山頂との間隔が、1リード内において3箇所以上で極小値をとるようにしてもよい。
【実施例9】
【0059】
図12に、実施例9による送りねじのねじ12のねじ山の山頂、及びナット13のねじ溝の谷底を、ねじ軸に垂直な仮想平面に垂直投影した像を示す。以下、実施例8による送りねじとの相違点に着目して説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0060】
実施例9のねじ12は、多条ねじ、例えば4条ねじであり、4本のねじ山を有する。第1〜第4のねじ山の山頂に、それぞれナットのねじ溝の第1〜第4の谷底が対向する。第1〜第4のねじ山の山頂の、ねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像70は円周状である。第1〜第4の谷底の、ねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像72A〜72Dは楕円状である。垂直投影像72A〜72Dの長軸は、90°ずつずれた方位を向いている。このため、ねじのねじ山の山頂と、ナットのねじ溝の谷底との間隔が極小値をとる位置が、中心角にして90°の間隔で分布する。これにより、径方向のいずれの向きの荷重に対しても、山頂と谷底との間で弾性流体潤滑状態を実現し易くなる。
【実施例10】
【0061】
図13に、実施例10による送りねじのねじ12のねじ山の山頂、及びナット13のねじ溝の谷底を、ねじ軸に垂直な仮想平面に垂直投影した像を示す。以下、実施例9による送りねじとの相違点に着目して説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0062】
実施例9では、垂直投影像72A〜72Dが楕円状であったが、実施例10では、第1〜第4の谷底の垂直投影像72A〜72Dがすべて円周状である。また、実施例9では、楕円状の垂直投影像72A〜72Dの中心が、ねじ山の山頂の垂直投影像70の中心と一致していたが、実施例10では、垂直投影像72A〜72Dは、それぞれねじ山の山頂の垂直投影像70の中心に対して、0°、90°、180°、270°の方位に偏心している。このため、山頂と谷底との間隔が極小値をとる位置が、中心角にして90°の間隔で分布する。これにより、実施例9の場合と同様に、径方向のいずれの向きの荷重に対しても、山頂と谷底との間で弾性流体潤滑状態を実現し易くなる。
【0063】
実施例1〜実施例9では、潤滑剤として潤滑油を用いた事例を示したが、その他に流体潤滑及び弾性流体潤滑が生じる潤滑剤、例えばグリース等を用いてもよい。
【0064】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0065】
10 外装
11 可動体
12 ねじ
13 ナット
14 潤滑油
15A、15B 軸受け
16 電動機
17 ブレーキシステム
18 減速機
20 ねじ山
21 ねじの第1のフランク面
22 ねじの第2のフランク面
24 ナットの第1のフランク面
25 ナットの第2のフランク面
30、40、50 ねじ山
60、61、62、63、64 溝
70 ねじの山頂の投影像
71 ねじの谷底の投影像
72 ナットの谷底の投影像
73 ナットの山頂の投影像
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を直線運動に変換する送りねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ山の頂面に、周方向に等ピッチで複数の孔を形成した送りねじが、特許文献1に開示されている。孔が形成された部分の剛性が低下し、荷重によるたわみ量が大きくなる。このため、荷重が加わると、ねじ歯面(フランク面)に、周方向に周期的なへこみ変形が生じる。この変形によって、くさび形の空間が形成され、くさび形の空間に潤滑油が充填される。くさび形の形状に応じて油膜圧力が発生し、対向する2つのフランク面が油膜圧力を介して支えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−230297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ねじ山の頂面に、剛性を低下させるほどの大きさの孔を形成するために、ねじ山加工の他に煩雑な加工が必要になる。また、ねじ山の頂面に孔を形成すると、その部分の機械的強度が低下してしまう。機械的強度の低下は、送りねじの寿命の低下を招く。
【0005】
ねじ山加工以外の煩雑な加工を行うことなく、かつ送りねじの寿命の低下を防止することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
ねじと、
前記ねじの材料よりもヤング率の小さい材料で形成され、前記ねじに螺合するナットと、
前記ねじと前記ナットとの間の空間に充填される潤滑剤と、
を有し、
前記ねじと前記ナットの、相互に対向するフランク面同士を近づけるように作用する力によって前記ナットのねじ山が弾性変形し、前記ねじ及び前記ナットの一方から他方に力が伝達される送りねじが提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
ねじと、
前記ねじよりも剛性の低い材料で形成され、前記ねじに螺合するナットと、
前記ねじと前記ナットとの間の空間に充填される潤滑剤と、
を有し、
前記ナットのフランク面及び前記ねじのフランク面の少なくとも一方のフランク面に、周方向に対して交差する複数の溝が形成されている送りねじが提供される。
【0008】
本発明のさらに他の観点によると、
ねじと、
前記ねじよりも剛性の低い材料で形成され、前記ねじに螺合するナットと、
前記ねじと前記ナットとの間の空間に充填される潤滑剤と、
を有し、
前記ねじ及び前記ナットのうち一方の部材のねじ山の山頂と、それに対向するねじ溝の谷底との間隔が周方向に増減しており、前記間隔が極小値をとる位置が、一周内に少なくとも2箇所存在する送りねじが提供される。
【発明の効果】
【0009】
ナットのねじ山を弾性変形させることにより、弾性流体潤滑状態を実現させやすくなり、送りねじの安定動作を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1による送りねじを用いた直動機構の概略図である。
【図2】(2A)は、実施例1による送りねじの概略図であるり、(2B)はその展開図である。
【図3】実施例1による送りねじの、ナットのねじ山とねじのねじ溝の部分の断面図である。
【図4】(4A)は、実施例2による送りねじの概略図であるり、(4B)はその展開図である。
【図5】(5A)は、実施例3による送りねじの概略図であるり、(5B)はその展開図である。
【図6】(6A)は、実施例4による送りねじの概略図であるり、(6B)はその展開図である。
【図7】(7A)は、実施例5による送りねじの概略図であるり、(7B)はその展開図である。
【図8】実施例6による送りねじの概略図である。
【図9】実施例6の変形例によるねじの断面図である。
【図10】実施例7による送りねじの概略図である。
【図11】実施例8による送りねじのねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像を示す線図である。
【図12】実施例9による送りねじのねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像を示す線図である。
【図13】実施例10による送りねじのねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像を示す線図である。
【図14】ストライベック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1に、実施例1による送りねじを用いた直動機構の概略図を示す。なお、この直動機構には、他の実施例による送りねじも適用される。筒状の外装10の中に、可動体11の一方の端部が挿入されている。可動体11は、外装10に対して軸方向に直進移動可能に支持されている。外装10内にねじ12が挿入され、ねじ12は、軸受け15A及び15Bにより、ねじ軸を中心として回転可能に支持されている。ねじ12にナット13が螺合している。ナット13は、可動体11に固定され、ねじ軸を回転中心としたナット13の回転運動が禁止される。ねじ12及びナット13が格納された外装10内の空間は、潤滑油(潤滑剤)14で満たされている。
【0013】
電動機16の回転力(トルク)が減速機18を介してねじ12に伝達される。ブレーキシステム17が、電動機16の回転軸の回転速度を減速させるか、または回転を停止させる。ねじ12が回転すると、ナット13及び可動体11が、ねじ軸に平行な方向に移動する。
【0014】
図2Aに、ねじ12及びナット13の概略図を示す。ねじ12は1条ねじであり、リードLと、ピッチPとが等しい。ねじ12の一方のフランク面(第1のフランク面)21と、ナット13の一方のフランク面(第1のフランク面)24とが対向し、ねじ12の他方のフランク面(第2のフランク面)22と、ナット13の他方のフランク面(第2のフランク面)25とが対向する。ナット13に用いられている材料のヤング率は、ねじ12に用いられている材料のヤング率よりも小さい。
【0015】
図2Bに、ねじ12のねじ山、及びナット13のねじ溝の展開図を示す。横軸は、周方向の位置を、基準方位を0°とした角度座標で表し、縦軸は、ねじ軸方向の位置を表す。この展開図は、ねじ12及びナット13の有効径を持つ仮想円筒面上におけるねじ山及びねじ溝を示す。ナット13のねじ軸方向の寸法は、リードLとほぼ等しい。
【0016】
ナット13のリード角βNが、ねじ12のリード角βSよりも大きい。このため、ねじ12の第1のフランク面21と、ナット13の第1のフランク面24との間隔は、周方向に関して一定にはならない。図2Bにおいて、ねじ12の第1のフランク面21と、ナット13の第1のフランク面24との間隔は、左に向かって徐々に狭まっており、くさび形の空間が画定される。
【0017】
ねじ12の第1のフランク面21とナット13の第1のフランク面24とを近づけるように作用するトルクが、ねじ12に与えられた場合について考察する。具体的には、図2Bにおいて、ねじ12の第1のフランク面21が左向きに移動する。フランク面の間を満たしている潤滑油も左向きに流動し、フランク面の間隔が狭くなっている部分の面圧が局所的に高まる。ここで、「面圧」とは、油膜を介してフランク面同士が及ぼし合う圧力を意味する。局所的に面圧が高くなることにより、ねじ12の第1のフランク面21及びナット13の第1のフランク面24が弾性変形する。ナット13のヤング率がねじ12のヤング率よりも小さいため、特にナット13の第1のフランク面24の弾性変形量が大きくなる。
【0018】
図14に、ストライベック線図を示す。横軸は軸受特性数ηN/pを表し、縦軸は摩擦係数を表す。ここで、ηは潤滑油の粘度を示し、Nはねじの回転数を示し、pは面圧を示す。軸受特性数が大きくなる方向に向かって、境界潤滑領域R1、混合潤滑領域R2、及び流体潤滑領域R3がこの順番に並ぶ。
【0019】
境界潤滑領域R1では、金属の摩擦面同士の接触が生じ、摩擦係数が高くなる。流体潤滑領域R3では、摩擦面同士が油膜を挟んで離れて対向する。この領域では、軸受特性数の低下に伴って、摩擦係数が低下する。境界潤滑領域R1と流体潤滑領域R3との間の混合潤滑領域R2では、境界潤滑と、流体潤滑とが同時に起こっている。混合潤滑領域R2では、軸受特性数の低下と共に、摩擦係数が急激に増加する。一例として、面圧pが高くなるか、回転数Nが低下すると、軸受特性数が低下して摩擦係数が急激に大きくなってしまう。一例として、金属面同士の接触が生じ、送りねじの寿命低下につながる。
【0020】
流体潤滑領域R3のうち、軸受特性数が小さい一部の領域に、弾性流体潤滑(EHL)領域R4が定義される。この領域では、摩擦面を画定する金属が油圧によって弾性変形し、摩擦面同士が接触しない。このため、安定した動作が可能になる。
【0021】
実施例1においては、相互に対向する第1のフランク面21と24とで挟まれた空間がくさび形になっている。これにより、油膜を介して、面圧が局所的に高まる。流体潤滑領域R3で動作していたフランク面の面圧が、全域で均等に高くなると、動作点が混合潤滑領域R2内のQ1に移動する。このため、金属面同士の接触の危険度が高まる。実施例1では、面圧が均等に高くなるのではなく、局所的に高くなるため、第1のフランク面21、24に弾性変形が生じやすくなる。弾性変形が生じた部分では、フランク面と潤滑油との接触面積が増大することにより、面圧pが低下し、動作点がEHL領域R4内のQ2に移動する。このため、送りねじの安定した動作が可能になる。
【0022】
ねじ12のもう一方の第2のフランク面22、及びナット13のもう一方の第2のフランク面25との位置関係も、第1のフランク面21、24の位置関係と同一である。このため、第2のフランク面22と25とを近づけるように作用するトルクが、ねじ12に与えられた場合(ねじ12を反対向きに回転させた場合)も、同様の効果が得られる。
【0023】
図3に、ねじ12の1つのねじ溝、及びナット13の1つのねじ山の断面図を示す。ねじ12及びナット13のねじ山の軸断面の形状は、ほぼ長方形である。ねじ12の第1のフランク面21とナット13の第1のフランク面24とを近づけるように作用するトルクが、ねじ12に与えられると、図3において、ナット13のねじ山に軸方向の力が加わる。ナット13に、ねじ12よりもヤング率の低い材料が用いられているため、ナット13のねじ山が軸方向に湾曲し易い。
【0024】
このため、ねじ12の第1のフランク面21と、ナット13の第1のフランク面24との間隔は、中心軸から離れる向きに狭くなる。ねじ12が回転すると、潤滑油14が、遠心力によって中心軸から遠ざかる向きに流動する。第1のフランク面21と24との間隔が、中心軸から離れる向きに狭くなっているため、潤滑油14を第1のフランク面21と24との間に安定して保持することができる。
【0025】
実施例1で用いるねじ12及びナット13は、一般的なねじ及びナットのねじ溝の加工技術を用いて製造することが可能である。
【実施例2】
【0026】
図4Aに、実施例2による送りねじのねじ12及びナット13の概略図を示す。実施例2のねじ12は1条ねじであり、リードLとピッチPとは等しい。ナット13のねじ軸方向の寸法は、リードLの約3倍である。ナット13の軸方向の寸法が、実施例1の場合に比べて長い。このため、実施例1のように、ねじ12のリード角とナット13のリード角とを異ならせると、ねじ12とナット13とが螺合しなくなる。
【0027】
図4Bに、ねじ12のねじ山、及びナット13のねじ溝の展開図を示す。横軸は、周方向の位置を、基準方位を0°とした角度座標で表し、縦軸は、ねじ軸方向の位置を表す。図2Bと同様に、この展開図は、ねじ12及びナット13の有効径を持つ仮想円筒面上におけるねじ山及びねじ溝を示す。
【0028】
第1のフランク面21と24との間隔が周方向に変動している。間隔の変動は、周期的であり、その周期は360°である。角度座標が0°、360°、720°の位置Pc、すなわち、周方向に関して同じ位置で、第1のフランク面21と24との間隔が極小値をとる。
【0029】
第1のフランク面21と24との間隔が極小値をとる位置Pcの両側にくさび形の空間が画定される。ねじ12を回転させると、一方のくさび形の空間から、間隔が極小値を示す位置Pcに向かって潤滑油が流入する。このため、実施例1の場合と同様に、間隔が極小値をとる位置Pcにおいて、面圧が局所的に高くなり、第1のフランク面21及び24が弾性変形する。これにより、送りねじの安定した動作が可能になる。
【0030】
第2のフランク面22と25と間隔も、同様に周方向に変動している。このため、ねじ12を反対方向に回転させた場合にも、同様に、送りねじの安定した動作が可能になる。
【実施例3】
【0031】
図5Aに、実施例3による送りねじのねじ12及びナット13の概略図を示し、図5Bに、ねじ12のねじ山、及びナット13のねじ溝の展開図を示す。以下、実施例2による送りねじとの相違点に着目して説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0032】
実施例3では、図5Bに示すように、角度座標が0°、480°、960°の位置で、第1のフランク面21と24との間隔が極小値を示す。すなわち、周方向に関して異なる位置で、第1のフランク面21と24との間隔が極小値を示す。このため、第1のフランク面21と24との面圧が局所的に高くなる位置が、周方向の一箇所に集中せず、分散する。特に、実施例3では、間隔が極小値を示す位置Pcが、周方向に関して均一に分布するため、面圧が局所的に高くなる位置が、周方向に均等に分散する。このため、送りねじの動作を、より安定化させることができる。
【実施例4】
【0033】
図6Aに、実施例4による送りねじの、ねじ12及びナット13の概略図を示す。実施例4のねじ12は多条ねじ(図6Aには4条ねじを示す。)であり、リードLがピッチPの整数倍(図6Aでは4倍)である。ナット13のねじ軸方向の寸法は、リードLとほぼ等しい。
【0034】
図6Bに、ねじ12及びナット13のねじ山の展開図を示す。横軸は、周方向の位置を、基準方位を0°とした角度座標で表し、縦軸は、ねじ軸方向の位置を表す。図2Bと同様に、この展開図は、ねじ12及びナット13の有効径を持つ仮想円筒面上におけるねじ山及びねじ溝を示す。
【0035】
ねじ12に4本のねじ山20、30、40、50が形成されている。ねじ山20の一方の第1のフランク面21と、それに対向するナット13の第1のフランク面24との間隔は、図2Bに示した実施例1の場合と同様に、周方向に変動し、間隔が極小値を示す位置Pc1の角度座標は0°である。他のねじ山30、40、50の、第1のフランク面21と同一方向を向くフランク面と、それに対向するナット13のフランク面との間隔も、同様に、それぞれ角度座標0°の位置Pc2、Pc3、Pc4で極小値を示す。
【0036】
フランク面の間隔は、角度座標が180°の位置で極大値をとり、360°の位置で極小値に戻る。
【0037】
多条ねじの各ねじ山とねじ溝において、実施例1の場合と同様に、相互に対向するフランク面の間にくさび形の空間が画定される。従って、実施例1の場合と同様に、送りねじの安定した動作が可能になる。
【実施例5】
【0038】
図7Aに、実施例5による送りねじの、ねじ12及びナット13の概略図を示す。実施例5のねじ12は、実施例4と同様に多条ねじである。以下、実施例4による送りねじとの相違点に着目して説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0039】
図7Bに、ねじ12及びナット13のねじ山の展開図を示す。横軸は、周方向の位置を、基準方位を0°とした角度座標で表し、縦軸は、ねじ軸方向の位置を表す。図6Bと同様に、この展開図は、ねじ12及びナット13の有効径を持つ仮想円筒面上におけるねじ山及びねじ溝を示す。
【0040】
ねじ山20の第1のフランク面21と、それに対向するナット13の第1のフランク面24との間隔は、角度座標が0°の位置Pc1で極小値を示す。ねじ山30の、第1のフランク面21と同じ方向を向くフランク面と、それに対向するナット13のフランク面との間隔は、角度座標が270°の位置Pc4で極小値を示す。ねじ山40、50のフランク面については、それぞれ角度座標が180°、90°の位置Pc3、Pc2で極小値を示す。フランク面の間隔は、角度座標に対して単調に増加する。
【0041】
実施例5では、フランク面に作用する面圧が局所的に高くなる位置を、周方向に関して分散させることができる。特に、実施例5では、間隔が極小値を示す位置Pc1〜Pc4が周方向に関して均等に分散しているため、面圧が局所的に高くなる位置も、周方向に関して均等に分散する。このため、実施例3の場合と同様に、送りねじの動作を、より安定化させることができる。
【0042】
また、実施例5では、フランク面の間隔の周方向の変動が単調であるため、実施例1の場合と同様に、一般的なねじ及びナットのねじ溝の加工技術を用いて製造することが可能である。
【実施例6】
【0043】
図8Aに、実施例6による送りねじのねじ軸に垂直な断面図を示す。ねじ12とナット13とが螺号している。実施例1の場合と同様に、ナット13に用いられている材料のヤング率は、ねじ12に用いられている材料のヤング率よりも小さい。ねじ12にねじ山20が形成されている。なお、ねじ山20については、断面図ではなく、第1のフランク面21を正面から見た図を示している。ねじ12は右ねじであり、ねじ12を時計回りに回転させると、ナット13が手前に移動する。このとき、図8Aに現れている第1のフランク面21から、それに対向するナット13のフランク面に、ナット13を軸方向に移動させる力が加わる。
【0044】
第1のフランク面21に、複数の溝60が形成されている。溝60は、反時計回りに回転しながらねじ軸に近づくような渦巻き形状にされている。ねじ12を時計回りに回転させると、第1のフランク面21と、それに対向するナット13のフランク面との間の潤滑油は、ねじ軸12に対して相対的に反時計回りに流動する。潤滑油が、ねじ12に対して反時計回りに流動しながら、溝60内に流れ込む。このとき、溝60の段差部の面圧が局所的に高くなる。このため、実施例1の場合と同様に、ねじ12及びナット13のフランク面に弾性変形が生じる。これにより、図14に示した弾性流体潤滑状態が実現され、送りねじの動作を安定させることができる。
【0045】
また、実施例6においては、潤滑油が、溝60に沿ってねじ12の中心に向かって流動する。このため、潤滑油が遠心力によって外側へ偏在してしまうことが防止される。
【0046】
図8Bに、図8Aの第1のフランク面21とは反対向きの第2のフランク面22に形成された溝61を破線で示す。なお、図8Bは、図8Aと同様に第1のフランク面21が正面となる向きで観察した状態を示しており、第2のフランク面22は、紙面の裏側を向いている。
【0047】
溝61の各々は、時計回りに回転しながらねじ軸に近づくような渦巻き形状にされている。このように、第1のフランク面21に形成された溝60と、第2のフランク面22に形成された溝61とでは、渦巻きの回転方向が逆である。なお、第2のフランク面22を正面に見た状態(図8Bにおいて紙面の裏側から見た状態)では、図8Aに示した溝60と同様に、反時計回りに回転しながらねじ軸に近づくように、渦巻き形状にされている。
【0048】
ねじ12を反時計回りに回転させると、ナット13が紙面の表側から裏側に向かって移動する。このとき、第2のフランク面22から、それに対向するナット13のフランク面に、ナット13を軸方向に移動させる力が加わる。このフランク面の間の潤滑油は、ねじ12に対して相対的に時計回りに流動する。このとき、潤滑油は、溝61に沿ってねじ12の中心に向かって流動する。このため、潤滑油が遠心力によって外側へ偏在してしまうことが防止される。
【0049】
実施例6では、溝60、61を渦巻状にしたが、必ずしも渦巻状にする必要は無い。潤滑油が集中することによって、局所的に面圧が高くれば、弾性流体潤滑状態を実現することが可能である。
【0050】
また、第1のフランク面21内に、半径方向の全域に亘って溝を形成する必要はなく、例えば図9Aに示すように、第1のフランク面21のうち、外周側の一部分にのみ溝62を形成してもよい。また、図9Bに示すように、頂点が周方向を向くシェブロン形状の溝63を形成してもよい。この場合、シェブロン形状は、周方向に流動する潤滑油が、シェブロン形状の頂点に集まる向きとすることが好ましい。
【実施例7】
【0051】
図10に、実施例7による送りねじのねじ軸に垂直な断面図を示す。実施例6では、ねじ12のフランク面に溝が形成されていたが、実施例7では、ナット13のフランク面に溝64が形成されている。
【0052】
ナット13の第1のフランク面24を正面から見たとき、溝64は、反時計回りにねじ12の中心に近づく渦巻状である。ねじ12を反時計回りに回転させると、ねじ12の第1のフランク面から、ナット13の第1のフランク面24に力が加わり、ナット13が紙面の表側から裏側に向かって移動する。潤滑油は、ナット13に対して相対的に反時計回りに流動するとともに、溝64内に流入して、ねじ12の中心に向かって流動する。
【0053】
このため、実施例6の場合と同様に、弾性流体潤滑状態を実現すると共に、潤滑油の外周側への偏在を防止することができる。
【0054】
なお、ねじ12のフランク面と、ナット13のフランク面との両方に溝を形成してもよい。
【実施例8】
【0055】
図11に、実施例8による送りねじのねじ12及びナット13の、ねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像を示す。実施例1の場合と同様に、ナット13に用いられている材料のヤング率は、ねじ12に用いられている材料のヤング率よりも小さい。ねじ12のねじ山の山頂の投影像70、ねじ溝の谷底の投影像71、及びナット13のねじ山の山頂の投影像73は、円周状であるが、ナット13のねじ溝の谷底の投影像72は、楕円状である。このため、ねじ12の山頂とナット13の谷底との間隔は、周方向に増減する。一例として、ねじ12の山頂の投影像70の半径(ねじ12の外径)をrとしたとき、ナット13のねじ溝の谷底の投影像72の長半径aは1.0022rであり、短半径bは1.0010rである。
【0056】
実施例8においては、ねじ12のねじ山の山頂と、ナット13のねじ溝の谷底との間に、くさび形の空間が形成される。ねじ12のねじ山の山頂と、ナット13のねじ溝の谷底との間隔が極小値を示す位置において、面圧が局所的に高くなる。これにより、弾性流体潤滑状態を実現することができる。実施例8による送りねじは、径方向の荷重が印加される場合に、ねじ12のねじ山の山頂と、ナット13のねじ溝の谷底との接触を防止することができる。例えば、送りねじが、ねじ軸を水平にした状態、または鉛直方向から傾いた状態で使用される場合に、上記効果が顕著に現れる。
【0057】
くさび形空間を形成する十分な効果を得るために、(a−r)/(b−r)を、2〜4の範囲内とすることが好ましい。
【0058】
実施例8では、ナット13のねじ溝の谷底の投影像72を楕円形状にしたが、ナット13のねじ溝の谷底と、ねじ12のねじ山の山頂との間にくさび形の空間が形成される楕円以外の形状としてもよい。例えば、谷底と山頂との間隔が、1リード内において3箇所以上で極小値をとるようにしてもよい。
【実施例9】
【0059】
図12に、実施例9による送りねじのねじ12のねじ山の山頂、及びナット13のねじ溝の谷底を、ねじ軸に垂直な仮想平面に垂直投影した像を示す。以下、実施例8による送りねじとの相違点に着目して説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0060】
実施例9のねじ12は、多条ねじ、例えば4条ねじであり、4本のねじ山を有する。第1〜第4のねじ山の山頂に、それぞれナットのねじ溝の第1〜第4の谷底が対向する。第1〜第4のねじ山の山頂の、ねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像70は円周状である。第1〜第4の谷底の、ねじ軸に垂直な仮想平面への垂直投影像72A〜72Dは楕円状である。垂直投影像72A〜72Dの長軸は、90°ずつずれた方位を向いている。このため、ねじのねじ山の山頂と、ナットのねじ溝の谷底との間隔が極小値をとる位置が、中心角にして90°の間隔で分布する。これにより、径方向のいずれの向きの荷重に対しても、山頂と谷底との間で弾性流体潤滑状態を実現し易くなる。
【実施例10】
【0061】
図13に、実施例10による送りねじのねじ12のねじ山の山頂、及びナット13のねじ溝の谷底を、ねじ軸に垂直な仮想平面に垂直投影した像を示す。以下、実施例9による送りねじとの相違点に着目して説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0062】
実施例9では、垂直投影像72A〜72Dが楕円状であったが、実施例10では、第1〜第4の谷底の垂直投影像72A〜72Dがすべて円周状である。また、実施例9では、楕円状の垂直投影像72A〜72Dの中心が、ねじ山の山頂の垂直投影像70の中心と一致していたが、実施例10では、垂直投影像72A〜72Dは、それぞれねじ山の山頂の垂直投影像70の中心に対して、0°、90°、180°、270°の方位に偏心している。このため、山頂と谷底との間隔が極小値をとる位置が、中心角にして90°の間隔で分布する。これにより、実施例9の場合と同様に、径方向のいずれの向きの荷重に対しても、山頂と谷底との間で弾性流体潤滑状態を実現し易くなる。
【0063】
実施例1〜実施例9では、潤滑剤として潤滑油を用いた事例を示したが、その他に流体潤滑及び弾性流体潤滑が生じる潤滑剤、例えばグリース等を用いてもよい。
【0064】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0065】
10 外装
11 可動体
12 ねじ
13 ナット
14 潤滑油
15A、15B 軸受け
16 電動機
17 ブレーキシステム
18 減速機
20 ねじ山
21 ねじの第1のフランク面
22 ねじの第2のフランク面
24 ナットの第1のフランク面
25 ナットの第2のフランク面
30、40、50 ねじ山
60、61、62、63、64 溝
70 ねじの山頂の投影像
71 ねじの谷底の投影像
72 ナットの谷底の投影像
73 ナットの山頂の投影像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじと、
前記ねじの材料よりもヤング率の小さい材料で形成され、前記ねじに螺合するナットと、
前記ねじと前記ナットとの間の空間に充填される潤滑剤と、
を有し、
前記ナットのねじ山に、前記ヤング率の相違により前記ナットのねじ山を弾性変形させつつ、前記ねじ及び前記ナットの一方から他方に力を伝達させる弾性変形促進部を備える送りねじ。
【請求項2】
前記弾性変形促進部において、前記ねじと前記ナットの、相互に対向するフランク面同士を近づけるように作用する力によって前記ナットのねじ山が弾性変形する請求項1に記載の送りねじ。
【請求項3】
前記ねじ及び前記ナットの周方向に関して、フランク面の面圧が局所的に高くなることによって前記ナットのねじ山が弾性変形する請求項1または2に記載の送りねじ。
【請求項4】
前記ねじのフランク面と、該フランク面に対向する前記ナットのフランク面との間隔が周方向に変化し、該フランク面の間隔が相対的に狭い領域において面圧が高くなることにより、前記ナットのねじ山が弾性変形する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項5】
前記ねじのリード角と、前記ナットのリード角とが異なっており、前記ねじのフランク面と前記ナットのフランク面との間隔が最小になる部分において前記ナットのねじ山が弾性変形する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項6】
前記ナットのフランク面と、前記ねじのフランク面との間隔が、周方向に変動しており、周方向に関して異なる複数の位置で、フランク面の間隔が極小になる請求項1乃至5のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項7】
前記ねじが多条ねじであり
前記ナットの第1のねじ山のフランク面と、それに対向する前記ねじのフランク面との第1の間隔が周方向に変動しており、前記第1のねじ山とは異なる第2のねじ山のフランク面と、それに対向する前記ねじのフランク面との第2の間隔が周方向に変動しており、前記第1の間隔が極小になる周方向の位置と、前記第2の間隔が極小になる周方向の位置とが異なっている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項8】
前記弾性変形促進部は、前記ナットのフランク面及び前記ねじのフランク面の少なくとも一方のフランク面に形成され、周方向に対して交差する複数の溝を含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項9】
1つのフランク面に形成された複数の前記溝は、同一方向に回転しながら前記ねじの中心に近づく渦巻き形状にされている請求項8に記載の送りねじ。
【請求項10】
1つのねじ山の一方のフランク面と、他方のフランク面では、前記溝の渦巻きの向きが反対である請求項8または9に記載の送りねじ。
【請求項11】
前記弾性変形促進部は、前記ねじ及び前記ナットのうち一方の部材のねじ山の山頂と、それに対向するねじ溝の谷底との間隔が周方向に増減しており、前記間隔が極小値をとる位置が、一周内に少なくとも2箇所存在する構成を含む請求項1乃至10のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項12】
前記ねじが多条ねじであり、
前記一方の部材の1本のねじ山の山頂と、それに対向する1本のねじ溝の谷底との間隔が極小値をとる位置と、他の1本のねじ山の山頂と、それに対向する1本のねじ溝の谷底との間隔が極小値をとる位置とが、周方向に関して異なっている請求項11に記載の送りねじ。
【請求項1】
ねじと、
前記ねじの材料よりもヤング率の小さい材料で形成され、前記ねじに螺合するナットと、
前記ねじと前記ナットとの間の空間に充填される潤滑剤と、
を有し、
前記ナットのねじ山に、前記ヤング率の相違により前記ナットのねじ山を弾性変形させつつ、前記ねじ及び前記ナットの一方から他方に力を伝達させる弾性変形促進部を備える送りねじ。
【請求項2】
前記弾性変形促進部において、前記ねじと前記ナットの、相互に対向するフランク面同士を近づけるように作用する力によって前記ナットのねじ山が弾性変形する請求項1に記載の送りねじ。
【請求項3】
前記ねじ及び前記ナットの周方向に関して、フランク面の面圧が局所的に高くなることによって前記ナットのねじ山が弾性変形する請求項1または2に記載の送りねじ。
【請求項4】
前記ねじのフランク面と、該フランク面に対向する前記ナットのフランク面との間隔が周方向に変化し、該フランク面の間隔が相対的に狭い領域において面圧が高くなることにより、前記ナットのねじ山が弾性変形する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項5】
前記ねじのリード角と、前記ナットのリード角とが異なっており、前記ねじのフランク面と前記ナットのフランク面との間隔が最小になる部分において前記ナットのねじ山が弾性変形する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項6】
前記ナットのフランク面と、前記ねじのフランク面との間隔が、周方向に変動しており、周方向に関して異なる複数の位置で、フランク面の間隔が極小になる請求項1乃至5のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項7】
前記ねじが多条ねじであり
前記ナットの第1のねじ山のフランク面と、それに対向する前記ねじのフランク面との第1の間隔が周方向に変動しており、前記第1のねじ山とは異なる第2のねじ山のフランク面と、それに対向する前記ねじのフランク面との第2の間隔が周方向に変動しており、前記第1の間隔が極小になる周方向の位置と、前記第2の間隔が極小になる周方向の位置とが異なっている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項8】
前記弾性変形促進部は、前記ナットのフランク面及び前記ねじのフランク面の少なくとも一方のフランク面に形成され、周方向に対して交差する複数の溝を含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項9】
1つのフランク面に形成された複数の前記溝は、同一方向に回転しながら前記ねじの中心に近づく渦巻き形状にされている請求項8に記載の送りねじ。
【請求項10】
1つのねじ山の一方のフランク面と、他方のフランク面では、前記溝の渦巻きの向きが反対である請求項8または9に記載の送りねじ。
【請求項11】
前記弾性変形促進部は、前記ねじ及び前記ナットのうち一方の部材のねじ山の山頂と、それに対向するねじ溝の谷底との間隔が周方向に増減しており、前記間隔が極小値をとる位置が、一周内に少なくとも2箇所存在する構成を含む請求項1乃至10のいずれか1項に記載の送りねじ。
【請求項12】
前記ねじが多条ねじであり、
前記一方の部材の1本のねじ山の山頂と、それに対向する1本のねじ溝の谷底との間隔が極小値をとる位置と、他の1本のねじ山の山頂と、それに対向する1本のねじ溝の谷底との間隔が極小値をとる位置とが、周方向に関して異なっている請求項11に記載の送りねじ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−220385(P2011−220385A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87453(P2010−87453)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
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