説明

送り螺子機構

【課題】螺子軸を短縮でき、軽量、低コストで、かつ、省スペースな送り螺子機構を提供することである。
【解決手段】螺子軸2と、螺子軸2に形成した螺子溝3に螺合されるボール螺子ナット5と、螺子軸2の回転を抑制するスプライン10とを備えた送り螺子機構において、スプライン10は、螺子軸2の外周であって螺子溝3間に設けられるとともに軸方向に沿って並べて配置されて列を成す突条4と、螺子軸2の外周に摺接するとともに突条4の通過を許容する凹部11bを備えたスプラインナット11とを備えて構成され、ボール螺子ナット5の内周には突条4の通過を許容する螺旋溝5dを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送り螺子機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種送り螺子機構は、たとえば、アクチュエータ等に具現化され、モータの回転運動を直線運動に変換する際に用いられている。具体的には、螺子軸と、螺子軸の外周に形成した螺子溝に螺合するボール螺子ナットとを備えており、ボール螺子ナットをモータ等によって回転駆動すると、螺子軸が軸方向に直線駆動されるようになっている。
【0003】
このような送り螺子機構にあっては、ボール螺子ナットを回転駆動することによって螺子軸を直線駆動させるが、螺子軸がボール螺子ナットとともに共回りしてしまうと螺子軸を直線駆動させることができないので、螺子軸の回転を防止する必要がある。
【0004】
そして、螺子軸の回転を防止するために、螺子軸の螺子溝を避ける位置、具体的には、螺子軸の一端の外周に軸方向に沿うスプライン溝を形成して、当該スプライン溝に嵌合するスプラインナットを設けている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−6824号公報(図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように上記従来の送り螺子機構にあっては、螺子軸の外周の異なる位置に螺子溝とスプライン溝と別々に有しており、ボール螺子ナットは、螺子軸の外周に装着されるスプラインナットから離れた位置に螺合されている。
【0006】
ここで、螺子軸を軸方向にストロークさせることを考えた場合、螺子軸の長さは、送り螺子機構におけるストローク長とボール螺子ナット長およびスプラインナット長を加えた長さに、ボール螺子ナットとスプラインナットとの間の距離に等しい長さを重畳した長さに設定しなくてはならず、螺子軸におけるボール螺子ナットとスプラインナットとの間の距離に等しい長さは送り螺子機構におけるストローク長に貢献しない無駄長さとなる。
【0007】
すなわち、従来の送り螺子機構にあっては、ボール螺子ナットとスプラインナットとが螺子軸上に離れて装着されているので、その分、無駄に螺子軸の長さを確保しなくてならず、送り螺子機構の重量が嵩み、コスト高であり、加えて、ボール螺子ナットおよびスプラインナットを保持する筐体も大型となって無駄にスペースを消費していた。
【0008】
そこで、本発明は、上記の不具合を勘案して創案されたものであって、その目的とするところは、螺子軸を短縮でき、軽量、低コストで、かつ、省スペースな送り螺子機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、螺子軸と、螺子軸に形成した螺子溝に螺合されるボール螺子ナットと、螺子軸の回転を抑制するスプラインとを備えた送り螺子機構において、スプラインは、螺子軸の外周であって螺子溝間に設けられるとともに軸方向に沿って並べて配置されて列を成す突条と、螺子軸の外周に摺接するとともに突条の通過を許容する凹部を備えたスプラインナットとを備えて構成され、ボール螺子ナットの内周には突条の通過を許容する螺旋溝を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の送り螺子機構によれば、ボール螺子ナットとスプラインナットとの間の距離を短く設定することが可能となり、その分、螺子軸のストロークに寄与しない無駄部分を省くことができ、螺子軸の長さを短縮することができる。
【0011】
また、ストローク長を確保しつつ螺子軸の長さを短く設定することが可能であるので、送り螺子機構の重量を軽量にすることができるとともに、コストも低減でき、加えて、送り螺子機構を小型化でき省スペース化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態における送り螺子機構の側面図である。図2は、一実施の形態における送り螺子機構の螺子軸の側面図である。図3は、一実施の形態における送り螺子機構の螺子軸の断面図である。図4は、一実施の形態における送り螺子機構のボール螺子ナットの断面図である。図5は、一実施の形態における送り螺子機構のスプラインナットの平面図である。
【0013】
図1に示すように、一実施の形態における送り螺子機構1は、螺子軸2と、螺子軸2に形成した螺子溝3に螺合されるボール螺子ナット5と、螺子軸2の回転を抑制するスプライン10とを備えて構成されている。
【0014】
また、スプライン10は、螺子軸2の外周に設けた突条4と、螺子軸2の外周に摺接するとともに突条4の通過を許容する凹部11bを備えたスプラインナット11とを備えて構成されている。
【0015】
以下、詳細に説明すると、螺子軸2は、図1から図3に示すように、円柱状に形成されるとともに、その外周に螺旋状の螺子溝3が形成されている。さらに、この螺子軸2の外周の螺子溝3間に、軸線に沿って、すなわち、螺子軸2の直線運動方向に沿って、並べて配置されて列を形成する突条4が、図示するところでは、螺子軸2の軸回りに等間隔をもって六列設けられている。また、突条4は、螺子溝3に沿う辺と軸方向に沿う辺で形成される平行四辺形形状とされており、突条4の軸方向幅は、螺子溝3間の軸方向幅より小さい寸法に設定されている。突条4の形状は、軸方向幅が螺子溝3間の軸方向幅より小さい寸法に設定されれば任意とされてよい。
【0016】
なお、螺子溝3は、螺子軸2がストロークする範囲でボール螺子ナット5に螺合する部位に設けられており、図示したところでは、螺子軸2の図2中右端には形成されていない。また、突条4の列の数は、任意とされてよい。
【0017】
ボール螺子ナット5は、図1および図4に示すように、筒体5aの内周に設けた螺子軸2の螺子溝3に対向する螺旋状の通路5bと、筒体5a内に設けられ上記通路の両端を連通する図示しない循環路と、該通路および循環路に収容されるとともに螺子溝3を走行する複数のボール5cとを備えて構成され、各ボール5cは、上記ループ状に形成された通路5bと循環路を循環することができるようになっている。さらに、このボール螺子ナット5にあっては、螺子軸2の外周に設けた突条4の通過を許容可能なように、筒体5aの内周に、螺旋溝5dが形成されている。なお、突条4の軸方向幅の寸法が、螺子溝3間の軸方向幅より小さく設定されているので、このように筒体5aのボール5cが収容される通路5b間に螺旋溝5dを形成することが可能である。
【0018】
つづき、螺子軸2の回り止めとして機能するスプライン10におけるスプラインナット11は、図1および図5に示すように、螺子軸2の外周に摺接する筒体11aと、筒体11aの内周に設けられて螺子軸2の突条4の軸方向への通過を許容する凹部11bとを備えて構成され、凹部11bは、突条4の形状、詳しくは突条4を軸方向から見た形状に符合する形状とされており、突条4の列数と同数である6つ設けられている。
【0019】
したがって、スプラインナット11内に螺子軸2を挿入すると、スプラインナット11の各凹部11b内に各列の突条4が侵入して、螺子軸2の周方向への回転が規制される。そして、ボール5cを螺子溝3内に走行させるようにして、ボール螺子ナット5を螺子軸2に螺合させて、ボール螺子ナット5をモータ等によって回転駆動すると、螺子軸2はスプライン10によって回転が規制されるので軸方向の直線運動を呈することになる。
【0020】
そして、この送り螺子機構1にあっては、ボール螺子ナット5のボール5cが走行する螺子溝3とは干渉しない突条4と、突条4に符合する凹部11bを備えたスプラインナット11とでスプライン10を構成しているので、螺子軸2の直線運動時において騒音や振動を生じさせることが無く、送り螺子機構1の劣化を促進させてしまうことも無い。
【0021】
また、上述したように、螺子軸2の外周にボール螺子ナット5の螺合用の螺子溝3とスプライン10用の突条4とを共存させることができるので、騒音および振動の発生を防止しつつ、ボール螺子ナット5とスプラインナット11とを螺子軸2上の至近に配置させることができる。
【0022】
なお、ここで、ボール螺子ナットとボールスプラインナットとを用い、しかも、ボール螺子ナットとボールスプラインナットとを至近に配置する場合について考えると、螺子溝とボールスプライン溝とを交差させることになって、ボール螺子ナットに螺旋状に保持されたボール列に螺子溝内を走行させ、他方のボールスプラインナットに直線状に保持されたボール列にスプライン溝内を走行させなくてはならない。そして、螺子溝とスプライン溝の深さが異なる場合には、浅い溝を走行するボール螺子ナットあるいはボールスプラインナットに保持されるボールが、螺子溝とスプライン溝とが交差する交差点を通過する際に深い溝側に落ち込んでから浅い溝内に復帰するような運動が繰り返されるので、これが騒音や振動を引き起こし送り螺子機構を劣化させる一因となる。また、螺子溝とスプライン溝の深さを同じに設定しても、ボールのガタによって、ボール螺子ナットのボールが螺子溝とスプライン溝とが交差する交差点を通過する際にスプライン溝内に誘導されたり、反対に、ボールスプラインナットのボールが螺子溝とスプライン溝とが交差する交差点を通過する際に螺子溝内に誘導されたりする懸念があり、やはり、これが騒音や振動を引き起こして送り螺子機構を劣化させる一因となりかねない。
【0023】
これに対して、本実施の形態の送り螺子機構1にあっては、上述したように、騒音および振動の発生を防止しつつ、ボール螺子ナット5とスプラインナット11とを螺子軸2上の至近に配置させることができるため、図1に示したように、ボール螺子ナット5とスプラインナット11との間の距離hを短く設定することが可能となり、その分、螺子軸2のストロークに寄与しない無駄部分を省くことができ、螺子軸2の長さを短縮することができる。
【0024】
詳しくは、螺子軸2を軸方向にストロークさせることを考えた場合、螺子軸2の長さは、ボール螺子ナット5およびスプラインナット11の長さおよびストローク長2Lに距離hに等しい長さを重畳した長さに設定しなくてはならないので、螺子軸2におけるボール螺子ナット5とスプラインナット11との間の距離hは螺子軸2のストローク長に貢献しない無駄長さとなるが、上記距離hを短く設定できるので、螺子軸2の長さを短縮することができるのである。
【0025】
さらに、螺子軸2のボール螺子ナット5とスプラインナット11との間に位置する部分は、ボール螺子ナット5の回転駆動によって捩れが生じる部分であり、距離hが短くなればなるほど、捩れが生じる部分が短くなることになる。
【0026】
ここで、上記螺子軸2は、捩れによってバネ要素としても機能することから、捩れる区間が長くなるほど、ボール螺子ナット5の回転に対する螺子軸2の直線運動の応答に時間がかかることになるが、上記したように、ボール螺子ナット5とスプラインナット11とを至近に配置することで螺子軸2の捩れる区間を短くすることができるので、送り螺子機構1における直線運動の応答性が向上する。
【0027】
また、ストローク長を確保しつつ螺子軸2の長さを短く設定することが可能であるので、送り螺子機構1の重量を軽量にすることができるとともに、コストも低減でき、加えて、送り螺子機構1を小型として省スペース化することができる。
【0028】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】一実施の形態における送り螺子機構の側面図である。
【図2】一実施の形態における送り螺子機構の螺子軸の側面図である。
【図3】一実施の形態における送り螺子機構の螺子軸の断面図である。
【図4】一実施の形態における送り螺子機構のボール螺子ナットの断面図である。
【図5】一実施の形態における送り螺子機構のスプラインナットの平面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 送り螺子機構
2 螺子軸
3 螺子溝
4 突条
5 ボール螺子ナット
5a ボール螺子ナットにおける筒体
5b ボール螺子ナットにおける通路
5c ボール螺子ナットにおけるボール
5d ボール螺子ナットにおける螺旋溝
10 スプライン
11 スプラインナット
11a スプラインナットにおける筒体
11b スプラインナットにおける凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺子軸と、螺子軸に形成した螺子溝に螺合されるボール螺子ナットと、螺子軸の回転を抑制するスプラインとを備えた送り螺子機構において、スプラインは、螺子軸の外周であって螺子溝間に設けられるとともに軸方向に沿って並べて配置されて列を成す突条と、螺子軸の外周に摺接するとともに突条の通過を許容する凹部を備えたスプラインナットとを備えて構成され、ボール螺子ナットの内周には突条の通過を許容する螺旋溝を形成したことを特徴とする送り螺子機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−222211(P2009−222211A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70562(P2008−70562)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】