説明

送信ビーム形成装置、受信ビーム形成装置および測位装置

【課題】マルチパス波を有効に活用して電波を照射する目標地点に応じて最適な送信ビーム形成荷重を選択して送信することでマルチパスの影響を低減し高い電力で送信できる送信ビーム形成装置、受信ビーム形成装置及び測位装置を得る。
【解決手段】送信波形を生成する信号生成手段1、信号を分配する分配器2、分配器の出力を送信するための送信器3、1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能な送信アンテナ4、送信アンテナから目標地点に向けて送信される電波を増幅して送信する複数のリピータアンテナ10、送信時の送信電力が最大となるビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、目標地点に応じて送信電力が最大となる送信ビーム形成荷重を電波環境データベースから抽出する送信ビーム荷重抽出手段7、抽出された送信ビーム形成荷重を用いて送信アンテナの指向性を制御する指向性制御手段8を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電波を照射する目標地点に応じて最適な送信ビーム形成荷重を選択して送信するための送信ビーム形成装置、並びに受信ビーム形成装置および測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のビーム形成装置として、直接目標方向を指向するようにビームを形成するものがある(例えば、非特許文献1参照)。このビーム形成装置を用いて目標方向へビームを形成すると、目標に直接到達する波と山などに反射して到達する波(マルチパス波と呼ぶ)とが干渉して目標に到達する電波が大きく減衰するという課題があった。
【0003】
【非特許文献1】吉田孝監修、改訂 レーダ技術、電子情報通信学会、1996年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、従来の送信ビーム形成装置では、マルチパス波の影響を考慮せず、直接目標方向を指向するようにビームを形成するので、目標へ到達する直接波とマルチパス波が干渉して目標到達電力が低下するという問題点があった。
【0005】
また、電波に照射される目標から電波の送信源を観測すると、直接波が支配的であるために、容易に到来方向を計測することが出来、電波の送信源が発見されやすいという課題があった。
【0006】
また、従来の受信ビーム形成装置では、マルチパス波を考慮せずにビーム形成を行うために直接波しか抽出できず受信レベルが低いという課題があった。
【0007】
さらに、従来の測位装置では、直接波の到来方向を測定して測位を行っていたが、マルチパスの影響で到来方向推定精度が低下し、測位精度が低下する課題があった。
【0008】
この発明は前記のような課題を解決するためになされたもので、従来不要波とされたマルチパス波を有効に活用して、電波を照射する目標地点に応じて最適な送信ビーム形成荷重を選択して送信することでマルチパスの影響を低減して高い電力で送信できる送信ビーム形成装置を得ることを目的とする。
【0009】
また、マルチパス波を用いて目標に電波を照射することで、目標から発見されにくい送信ビーム形成装置を得ることを目的とする。
【0010】
また、受信時においては、目標の位置に応じて電波環境データベースから受信ビーム形成荷重を抽出して受信ビーム形成を行うことでマルチパスの影響を低減して高い電力で受信する受信ビーム形成装置を得ることを目的とする。
【0011】
さらに、上記受信信号を荷重合成する場合に電力が最大となる最大比合成ビーム荷重と相関が高い受信ビーム荷重を上記データベースと照合することにより、マルチパス環境化において目標の測位をすることができる測位装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る送信ビーム形成装置は、送信波形を生成する信号生成手段と、前記信号生成手段により生成された信号を分配する分配器と、前記分配器の出力を送信するための送信器と、1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能な送信アンテナと、前記送信アンテナから目標地点に向けて送信される電波を増幅して送信する複数のリピータアンテナと、前記送信アンテナから前記複数のリピータアンテナを介して目標地点に電波を送信する場合に送信電力が最大となるビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、前記目標地点に応じて送信電力が最大となる送信ビーム形成荷重を前記電波環境データベースから抽出する送信ビーム荷重抽出手段と、前記送信ビーム荷重抽出手段により抽出された送信ビーム形成荷重を用いて前記送信アンテナの指向性を制御する指向性制御手段とを備えたものである。
【0013】
また、送信波形を生成する信号生成手段と、前記信号生成手段により生成された信号を分配する分配器と、前記分配器の出力を送信するための送信器と、1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能な送信アンテナと、前記送信アンテナと目標との間に設けられて、到来する信号を反射する反射板と、前記送信アンテナから前記反射板を介して目標地点に電波を送信する場合に送信電力が最大となるビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、前記目標地点に応じて送信電力が最大となる送信ビーム形成荷重を前記電波環境データベースから抽出する送信ビーム荷重抽出手段と、前記送信ビーム荷重抽出手段により抽出された送信ビーム形成荷重を用いて前記送信アンテナの指向性を制御する指向性制御手段とを備えたものである。
【0014】
また、送信波形を生成する信号生成手段と、前記信号生成手段により生成された信号を分配する分配器と、前記分配器の出力を送信するための送信器と、1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能な送信アンテナと、前記送信アンテナの周囲の地形の反射状態を考慮して目標地点に電波を送信する場合に送信電力が最大となるビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、前記目標地点に応じて送信電力が最大となる送信ビーム形成荷重を前記電波環境データベースから抽出する送信ビーム荷重抽出手段と、前記送信ビーム荷重抽出手段により抽出された送信ビーム形成荷重を用いて前記送信アンテナの指向性を制御する指向性制御手段とを備えたものである。
【0015】
また、送信波形を生成する信号生成手段と、前記信号生成手段により生成された信号を分配する分配器と、前記分配器の出力を送信するための送信器と、1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能なアンテナと、前記アンテナを介して信号を受信する受信器と、目標からの受信電力が最大となる受信ビーム形成荷重を求め、求められた受信ビーム形成荷重を送信ビーム形成荷重とする送信ビーム荷重抽出手段と、前記送信ビーム形成荷重を用いて前記アンテナの指向性を制御する指向性制御手段とを備えたものである。
【0016】
また、この発明に係る受信ビーム形成装置は、1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能なアンテナと、前記アンテナに接続される受信器と、受信した信号波形を増幅して送信するリピータアンテナと、前記リピータアンテナを介してある地点から送信される電波を受信する場合に受信電力が最大となる受信ビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、目標地点から適切な受信ビーム荷重を前記電波環境データベースから抽出する受信ビーム荷重抽出手段と、前記受信ビーム荷重を用いて前記アンテナの指向性を制御する指向性制御手段と、前記受信器の出力を合成する合成器とを備えたものである。
【0017】
さらに、この発明に係る測位装置は、1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能なアンテナと、前記アンテナに接続される受信器と、受信した信号波形を増幅して送信するリピータアンテナと、上記リピータアンテナを介してある地点から送信される電波を受信する場合に受信電力が最大となる受信ビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、前記受信信号を荷重合成する場合に電力が最大となる受信ビーム荷重を求まる受信ビーム荷重計算手段と、前記受信ビーム荷重と最も類似する荷重を前記電波環境データベースから求め、この荷重に対応する地点を抽出する地点抽出手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、従来不要波とされたマルチパス波を有効に活用して、地形からの反射やリピータアンテナを介してある地点に電波を送信する場合に送信電力が最大となる送信アンテナのビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースを備え、電波を照射する目標地点に応じて最適な送信ビーム形成荷重を選択して送信することでマルチパスの影響を低減して高い電力で送信できる。また、マルチパス波を用いて目標に電波を照射することで、目標から発見されにくい送信ビーム形成装置を得ることができる。
【0019】
また、受信時においては、目標の位置に応じて電波環境データベースから受信ビーム形成荷重を抽出して受信ビーム形成を行うことでマルチパスの影響を低減して高い電力で受信する受信ビーム形成装置を得ることができる。
【0020】
さらに、上記受信信号を荷重合成する場合に電力が最大となる最大比合成ビーム荷重と相関が高い受信ビーム荷重を上記データベースと照合することにより、マルチパス環境化において目標の測位をすることができる測位装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による送信ビーム形成装置を示す図である。1は送信波形を生成する信号生成手段、2は信号を各サブアンテナに分割する分配器、3は送信器、4はサブアンテナであり、これがアレーアンテナである場合にはその指向性を可変とするため複数の素子アンテナ5と複素荷重乗算手段6で構成される。サブアンテナ4は、開口面アンテナの場合はアンテナが1つでも良いが、方向を変えるような機械式の駆動部分を有する。8はサブアンテナの指向性を制御する指向性制御手段である。指向性制御はDBF(Digital Beam Forming)の場合送信器はアンテナの直前に処理を行うのが普通であり、そのように構成してもよいが、簡単のため、ここでは、図1に示すように送信器の後で指向性制御を行う例を説明する。
【0022】
また、7は、送信ビーム荷重抽出手段であり、サブアレーで構成される送信アンテナの全体のビーム形成を制御するものである。具体的には、ここのサブアンテナの送信信号の位相と振幅を制御することで行われる。サブアンテナ単体の指向性制御を含めて全体の指向性を制御することも可能である。9は電波環境データベース、10は受信した信号を増幅して送信するリピータアンテナである。電波環境データベース9では、ある地点にある周波数でリピータアンテナ10を介して送信する場合に最も電力を大きくできる送信ビーム制御荷重を保管している。
【0023】
従来、目標方向へ電波を指向する場合、図9に示すように送信ビーム荷重を制御して目標方向で電波の位相が合うように送信することで目標に照射される電力を増大させるものであった。例えば、簡単のため、サブアンテナを無指向性とし、m番目のサブアンテナが方向θに電波を送信する場合の基準点に対する位相差をφとすると、m番目のサブアンテナの方向θに送信される信号x(t)は、信号生成手段1で生成される信号s(t)として次式(1)で表される。ここに、tは時間因子である。また、wはm番目のサブアンテナに乗じる複素数の送信ビーム形成荷重である。
【0024】
【数1】

【0025】
方向θへ伝搬する電波y(t)は、各サブアンテナから送信する信号が合成されるので次式(2)のように表される。w=1なら、式(2)から、各アンテナで異なる位相φの複素数の和なので、方向θへの送信電力は小さくなる。方向θへの送信電力を最大化するための条件は位相を合わせて足すことであり、最適な荷重は、式(3)で与えられる。
【0026】
【数2】

【0027】
式(3)の送信ビーム荷重を設定することにより、サブアンテナで構成されるアンテナは方向θに指向性を持ち、この方向に高い電力で送信できる。
【0028】
このように他に反射体がない前提では、目標を照射する電波は直接波が支配的であり、目標側で測角処理などにより容易に送信側の位置が分かるため、電波の送信装置が目標から発見されやすいという課題がある。
【0029】
また、目標が低高度である場合や山などの反射物がある場合、目標に直接到達する電波に加え、山や地表面などに反射して目標に到達するマルチパス波が存在し、これらが直接波と干渉するため目標照射電力が著しく低下する問題がある。
【0030】
この発明は、これらの課題を解決するため、図1に示すように、送信アンテナの周辺にリピータアンテナ10を配置し、受信した信号を増幅して目標へ送信する。また、リピータアンテナ10を介してある地点に電波を送信する場合に、最適なビーム形成荷重は一意に定まるので、これをデータベースとして保管する電波環境データベース9を備える。運用時においては、自分が電波を照射したい位置に対応した最適な送信ビーム荷重をデータベースから呼び出して設定することで直接波とマルチパス波の干渉による目標照射電力の低下を抑えることができる。また、リピータアンテナ10を介することで信号を増幅することが可能であり、より大きな電力で送信することができる。
また、目標から観測すると目標に到達する電波はリピータアンテナ10を介して到来するので多方向から到来し、送信元の位置を推定することは難しくなる。このため、目標から発見されずに電波を送信することが可能となる。
【0031】
m番目のサブアンテナ4から照射されてk番目のリピータアンテナ10を介して地点pに到達する電波の位相差をφm、kとし、振幅をam、kとすると、式(4)のように表される。このように、一つのアンテナから送信されて地点pに到達する電波は複数の振幅位相の和として表されるので、式(1)で示した反射波がない場合に比較して複雑となる。また、マルチパス波の振幅位相の和は、目標地点の位置と周波数で定まる量で、式(1)のように方位、周波数から一意に決まるものではない。しかしながら、目標地点および周波数が定まれば、マルチパス波を加味した位相振幅は一意に定まるので、これらを式(3)で示したように位相を合わせて足すことで電力を最大化するための複素荷重が一意に定まる。
【0032】
地点pにおける観測信号y(t)は、各サブアンテナ4から送信される信号の合成波となるので、式(5)のように表される。m番目のサブアンテナ4に乗じる複素荷重wは、位相を合わせ振幅に応じた大きさを乗じる場合に最大となるので、式(6)のように式(4)の係数の複素共役数を与えればよい。
【0033】
これら荷重を要素としてもつベクトルを式(7)に示すようにWとすれば、電波環境データベース9では、地点p、周波数fに対して最適な荷重ベクトルWを求め、W(p、f)として格納する。
【0034】
【数3】

【0035】
ここに、肩字の*は複素共役、Tは転置をそれぞれ表す。運用時においては、自分が電波を送信したい地点pと使用する周波数fに応じて電波環境データベース9より荷重ベクトルW(p、f)を呼び出し、指向性制御手段8により送信器3の出力の位相振幅制御を行って送信することで、地点pに対して最適なビーム送信を行うことができる。なお、先に述べたようにDBF送信を行う場合には、送信器3より以前に複素数の荷重を乗じるようにしてもよい。
【0036】
また、リピータアンテナ10においては、図2に示すように、受信した信号を増幅する増幅手段11と共に位相を制御する位相制御手段12を備えることで、送信時だけでなくリピート時にも位相を制御することができ、高い自由度で制御が可能であり、より高い電力を目標地点に送信することが可能となる。
【0037】
以上説明したように、電波の送信時においてリピータアンテナ10を介して電波を送信するように構成し、地点に応じて送信電力を最大化するための送信ビーム形成荷重をデータベースとしてもち、送信時において、目標とする地点に応じて最適な送信ビーム形成荷重をデータベースより呼び出してビーム形成を行うので、高い電力で目標地点に電波を送信することができる。また、目標から観測すると電波が多方向から到来するので、電波の送信源が発見されにくいという利点がある。
【0038】
なお、図3に示すように、電波を反射する反射板を適当な位置に配置することでも、リピータアンテナ10を用いた場合と同様に、目標に対して多方向から電波を照射することができる。また、このようなマルチパス環境において最適な送信ビーム荷重を電波環境データベースとして持ち、電波を送信した目標地点に応じて送信ビーム形成を行うことで、マルチパスの影響を抑え高い電力で目標とする地点に電波を送信することができる。
【0039】
また、図4に示すように、山など、送信アンテナの周辺に反射体が存在している場合には、サブアンテナの指向性を意図的に山へ向けることで効果的にマルチパス波を利用して目標に他方向から電波を照射することができる。また、この場合においても、マルチパス環境において最適な送信ビーム荷重を電波環境データベースとして持ち、電波を送信した目標地点に応じて送信ビーム形成を行うことで、マルチパスの影響を抑え高い電力で目標とする地点に電波を送信することができる。
【0040】
また、これまで、送信ビーム形成について説明したが、送信と受信に対称性が存在することを考慮すれば同様な構成で受信ビーム形成を有効に行うことができる。すなわち、図1において、送信器3に代えて受信器を用い、分配器2に代えて合成器を用い、その出力信号を持って受信信号とする。この場合においても、地点pから電波が送信される場合において各アンテナにおける受信位相振幅特性から受信電力が最大化する受信ビーム形成荷重をデータベースとしてもち、観測している地点に応じてこの受信ビーム形成荷重を呼び出して受信ビーム形成すれば、高い受信電力で受信することができる。
【0041】
なお、送信と受信の対称性から、地点pに最適送信するための送信ビーム形成荷重と地点pから最適受信するための受信ビーム形成荷重は同一であるので、送信と受信で別々のデータベースを持つ必要はなく、同じ電波環境データベース9を用いればよい。
【0042】
また、受信の最適なビーム形成荷重は、最大比合成荷重として別の手段で知ることができるから、この最大比合成荷重と前記データベースとの比較照合を行うことで、電波の送信源の位置を知ることができる。
【0043】
これは、先に説明したようにマルチパスが存在することにより、最適なビーム形成荷重と目標とする地点に対応して決まる性質を逆に利用したものである。仮にマルチパス波が存在しない場合には最適なビーム形成荷重と電波の方向が対応することから、目標の方向を知ることができるが、その位置までは知ることができない。
【0044】
なお、最大比合成荷重による受信ビーム形成荷重は、次のように求める。まず、m番目のサブアンテナ4の受信信号x(t)とし、このうちの何れか一つまたは別途用意するアンテナを参照アンテナとしてこの受信信号をx(t)とする。このとき、m番目のサブアンテナ4に乗じる複素数の荷重wは次式(8)で与えられる。ここに、E[]は時間平均を表す。
【0045】
【数4】

【0046】
以上説明したように、電波をリピータアンテナ10または反射体を介してマルチパスを受信するようにし、受信の最適なビーム形成荷重を計算する最大比合成荷重計算手段と、前記電波環境データベース9を照合して電波の位置を測定する測位手段を備えることで、電波の送信源の位置を測定することができる。
【0047】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2を示す構成図である。ここでは、山に反射するマルチパス波を示しているが、図1に示したリピータアンテナを利用する方式や図3で示した反射板を利用する構成においても同様に利用することができる。本実施の形態2では、実施の形態1(例えば図4)の構成に加えて受信器を備えており、受信信号を利用して送信ビーム形成荷重を決定する構成となっている。
【0048】
実施の形態1の構成では、地点に応じて最適な送信ビーム形成荷重を選択していたが、目標の位置が未知な場合には、最適な送信ビーム形成荷重を求めることができない。そこで、本実施の形態2では、受信信号を用いて最適な送信ビーム形成を行うものである。先に説明したように受信と送信には対称性があるため、受信の最適ビームは、送信の最適ビームとなるので、受信電力が最大化する荷重を送信ビーム形成に用いればよい。受信電力を最大化するための受信ビーム形成荷重は、式(8)と同様に最大比合成荷重を求めればよい。
【0049】
図5の構成は、簡単に送信ビームを決定できるメリットがある反面、S/Nや目標以外からの反射波の影響を受けやすく精度の劣化を生じやすい課題がある。
そこで、図6の構成は、図5の構成に加え、さらに電波環境データベースを備え、前記最大比合成により求めた受信ビーム形成荷重と類似するものを電波環境データベースから抽出し、その荷重を送信ビーム形成荷重として用いるものである。このように電波環境データベースを参照して送信ビーム形成荷重を設定することで、S/Nの影響や他の反射波の影響を受けにくく正確な送信ビーム形成を行って目標に照射電力を高めることができる。また、目標の位置が未知の場合にもビーム形成が可能であり、実施の形態1の構成で捜索するよりも低い演算量で高速に送信ビーム形成をすることができる効果がある。
【0050】
実施の形態3.
図7は、この発明の実施の形態3を説明する図である。実施の形態3においては図4に示した構成に加え、ビーム形成荷重の候補を抽出するビーム荷重候補抽出手段15と、これらビーム形成荷重の中から目標方向へ直接波を送信するレベルが最も低いものを選択する荷重選択手段16を備えたものである。
【0051】
電波環境データベースでは、式(4)で示したように各サブアンテナの位相振幅の複素共役数を要素としてもつ荷重ベクトルが地点および周波数毎に保存されている。ここで、式(9)、式(10)に示すように位相振幅に関する係数をcとし、これを要素として持つベクトル
【0052】
【数5】

【0053】
をステアリングベクトルと呼ぶ。地点pにおける最適な荷重W(p)は、地点pから送信される電波の直接波およびマルチパス波の合成波のステアリングベクトルの複素共役で与えられる。
【0054】
【数6】

【0055】
マルチパス環境においては、図7に示すように例えば地点Aにおいて電力が高くなるように送信すると、その他の地点の例えばBやCにおいても電力が高くなる性質がある。すなわち、逆に考えると地点Aで電力が高くなる送信荷重は複数存在することを意味しており、このような候補をビーム荷重候補手段では抽出する。ビーム荷重候補抽出手段15では、地点Aに対応する荷重ベクトルW(A)と他の地点pに対応する荷重ベクトルW(p)の内積r(p)を式(11)により求め、この値が大きい地点の荷重ベクトルW(p)を候補として抽出する。
【0056】
ビーム選択手段16では、得られたビーム候補の中から直接目標に照射される電波が最も小さいものを選択する。目標の方向に直接放射される電力は、目標方向のステアリングベクトルを
【0057】
【数7】

【0058】
とするとき、式(12)に示すr(p)の大きさから知ることができる。
【0059】
【数8】

【0060】
ここに、肩字のHは複素共役転置を示す。そこで、まず、地点Aで電力が大きいビーム荷重候補を抽出し、その中から式(12)の値が最小となるものを選択する。
【0061】
以上説明したような処理を行うことにより、目標に対して多方向から高い電力で電波を送信することができ、直接目標に到来する電波が小さいことから、目標から発見されにくいという効果がある。
【0062】
実施の形態4.
図8は、この発明の実施の形態4を説明する図である。実施の形態4では図1で示した電波環境データベース9とは異なる送信ビーム荷重を登録している電波環境データベース17を備えている。図1に示す構成では、リピータアンテナ10を介して目標に照射される電力が最大化するような荷重を式(6)および式(7)に従って各地点および周波数毎に計算しデータベースに格納していた。本実施の形態4では、さらに目標から発見されにくくするため、送信するアンテナパターンにおいて、目標方向に直接送信される方向の利得を下げ、リピータアンテナ10を介して目標に到達する電波だけで目標に送信するようにしたものである。
【0063】
このような送信ビーム荷重の生成方法について以下に説明する。まず、式(9)および式(10)で示したようにリピータアンテナを介して送信される電波に関わるステアリングベクトルを
【0064】
【数9】

【0065】
とし、目標とする地点に直接電波を送信する方向のステアリングベクトルを
【0066】
【数10】

【0067】
とする。このときサブアンテナmから信号s(t)を目標方向に直接送信する場合の擬似信号xdm(t)を下記のように仮定する。
【0068】
【数11】

ここで、n(t)は雑音成分であり、ここでは電力が1となるように設定する。また、cdm(t)はステアリングベクトル
【0069】
【数12】

【0070】
のm番目の要素である。信号s(t)も自分自身で仮定する信号であり、雑音との電力比(SNR)によって感度を調整できる。擬似信号xdm(t)から式(14)のような信号ベクトルXdmを生成し相関行列Rを求めると式(15)のようになる。
【0071】
【数13】

【0072】
ここに、pは、信号s(t)の電力であり、IはM次の単位行列である。ここでは、擬似信号を用いて相関行列Rの導出を説明したが、目標方向のステアリングベクトル
【0073】
【数14】

【0074】
を用いて式(15)に従って直接導出すればよい。
【0075】
式(15)で導出した相関行列Rを用いて、リピータアンテナを介するステアリングベクトル
【0076】
【数15】

【0077】
に関わる信号成分を残しつつ、直接目標に到達するステアリングベクトル
【0078】
【数16】

【0079】
に関わる信号成分を最小化するような荷重を求める。このような方向拘束付き最小化アルゴリズムとして、「小川恭孝、菊間信良、“アダプティブアンテナ理論の進展と今後の展望、”電子情報通信学会論文誌B-II、vol. J75-B-II、No.11、pp.721-732、Nov. 1992.」に示されるDCMP(Directionally Constrained Minimization of Power)を用いることができる。拘束ベクトルをステアリングベクトル
【0080】
【数17】

【0081】
とし、相関行列Rを用いてDCMPによる荷重ベクトルW(p、f)は式(16)のように与えられる。
【0082】
【数18】

【0083】
電波環境データベースでは、式(16)に従って各地点pおよび周波数f毎に荷重ベクトルを求め、データベースとして保管する。運用時においては目標とする地点および周波数に応じてビーム形成荷重をデータベースから呼び出し送信ビーム形成を行う。
【0084】
以上説明したように、DCMPを用いて、リピータアンテナを介するステアリングベクトル
【0085】
【数19】

【0086】
に関わる信号成分を残しつつ、直接目標に到達するステアリングベクトル
【0087】
【数20】

【0088】
に関わる信号成分を最小化するような送信ビーム荷重を用いて送信ビーム形成を行うので、目標に対して多方向から高い電力で電波を送信することができ、直接目標に到来する電波が小さくすることで、目標から発見されにくいという効果がある。
【0089】
なお、ここでは、リピータアンテナを介して送信する場合を示したが、図3や図4で示したように反射板や地形からの反射を介して送信する場合にももちろん適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】この発明の実施の形態1による送信ビーム形成装置を示す図である。
【図2】図1の変形例を示す図である。
【図3】図1の変形例を示す図である。
【図4】図1の変形例を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態2による送信ビーム形成装置を示す図である。
【図6】図5の変形例を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態3による送信ビーム形成装置を示す図である。
【図8】この発明の実施の形態4による送信ビーム形成装置を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
1 信号生成手段、2 分配器、3 送信器、4 サブアンテナ、5 素子アンテナ、6 複素荷重乗算手段、7 送信ビーム荷重抽出手段、8 指向性制御手段、9,17 電波環境データベース、10 リピータアンテナ、11 増幅手段、12 位相制御手段、13 反射板、14 受信器、15 ビーム荷重候補抽出手段、16 荷重選択手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波形を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段により生成された信号を分配する分配器と、
前記分配器の出力を送信するための送信器と、
1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能な送信アンテナと、
前記送信アンテナから目標地点に向けて送信される電波を増幅して送信する複数のリピータアンテナと、
前記送信アンテナから前記複数のリピータアンテナを介して目標地点に電波を送信する場合に送信電力が最大となるビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、
前記目標地点に応じて送信電力が最大となる送信ビーム形成荷重を前記電波環境データベースから抽出する送信ビーム荷重抽出手段と、
前記送信ビーム荷重抽出手段により抽出された送信ビーム形成荷重を用いて前記送信アンテナの指向性を制御する指向性制御手段と
を備えた送信ビーム形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の送信ビーム形成装置において、
前記リピータアンテナの受信信号を増幅する増幅器と、
前記リピータアンテナの受信信号の位相を制御する位相制御手段と
を備えたことを特徴とする送信ビーム形成装置。
【請求項3】
送信波形を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段により生成された信号を分配する分配器と、
前記分配器の出力を送信するための送信器と、
1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能な送信アンテナと、
前記送信アンテナと目標との間に設けられて、到来する信号を反射する反射板と、
前記送信アンテナから前記反射板を介して目標地点に電波を送信する場合に送信電力が最大となるビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、
前記目標地点に応じて送信電力が最大となる送信ビーム形成荷重を前記電波環境データベースから抽出する送信ビーム荷重抽出手段と、
前記送信ビーム荷重抽出手段により抽出された送信ビーム形成荷重を用いて前記送信アンテナの指向性を制御する指向性制御手段と
を備えた送信ビーム形成装置。
【請求項4】
送信波形を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段により生成された信号を分配する分配器と、
前記分配器の出力を送信するための送信器と、
1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能な送信アンテナと、
前記送信アンテナの周囲の地形の反射状態を考慮して目標地点に電波を送信する場合に送信電力が最大となるビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、
前記目標地点に応じて送信電力が最大となる送信ビーム形成荷重を前記電波環境データベースから抽出する送信ビーム荷重抽出手段と、
前記送信ビーム荷重抽出手段により抽出された送信ビーム形成荷重を用いて前記送信アンテナの指向性を制御する指向性制御手段と
を備えた送信ビーム形成装置。
【請求項5】
送信波形を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段により生成された信号を分配する分配器と、
前記分配器の出力を送信するための送信器と、
1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能なアンテナと、
前記アンテナを介して信号を受信する受信器と、
目標からの受信電力が最大となる受信ビーム形成荷重を求め、求められた受信ビーム形成荷重を送信ビーム形成荷重とする送信ビーム荷重抽出手段と、
前記送信ビーム形成荷重を用いて前記アンテナの指向性を制御する指向性制御手段と
を備えた送信ビーム形成装置。
【請求項6】
請求項5に記載の送信ビーム形成装置において、
前記アンテナから目標地点に電波を送信する場合に送信電力が最大となるビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースをさらに備え、
前記送信ビーム荷重抽出手段は、目標からの受信電力が最大となる受信ビーム形成荷重を求め、求められた受信ビーム形成荷重を参照して送信ビーム荷重を前記電波環境データベースから抽出する
ことを特徴とする送信ビーム形成装置。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の送信ビーム形成装置において、
電波を照射する目標地点において到達する電力がほぼ最大となる複数の送信ビーム荷重の候補を抽出するビーム荷重候補抽出手段と、
前記ビーム荷重候補抽出手段により抽出された送信ビーム荷重のうち、目標方向に直接送信するレベルが最も低い送信ビーム荷重を選択するビーム選択手段と
をさらに備えたことを特徴とする送信ビーム形成装置。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の送信ビーム形成装置において、
前記電波環境データベースは、反射体またはリピータアンテナを介して目標に向けて電波を送信する場合に、送信電力を高く、かつ目標地点に直接到達する電波の送信電力が低くなるようなビーム荷重をデータベースとして持つ
ことを特徴とする送信ビーム形成装置。
【請求項9】
1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能なアンテナと、
前記アンテナに接続される受信器と、
受信した信号波形を増幅して送信するリピータアンテナと、
前記リピータアンテナを介してある地点から送信される電波を受信する場合に受信電力が最大となる受信ビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、
目標地点から適切な受信ビーム荷重を前記電波環境データベースから抽出する受信ビーム荷重抽出手段と、
前記受信ビーム荷重を用いて前記アンテナの指向性を制御する指向性制御手段と、
前記受信器の出力を合成する合成器と
を備えた受信ビーム形成装置。
【請求項10】
1つまたは複数のアンテナで構成され、指向方向制御が可能なアンテナと、
前記アンテナに接続される受信器と、
受信した信号波形を増幅して送信するリピータアンテナと、上記リピータアンテナを介してある地点から送信される電波を受信する場合に受信電力が最大となる受信ビーム形成荷重をデータベースとして持つ電波環境データベースと、
前記受信信号を荷重合成する場合に電力が最大となる受信ビーム荷重を求まる受信ビーム荷重計算手段と、
前記受信ビーム荷重と最も類似する荷重を前記電波環境データベースから求め、この荷重に対応する地点を抽出する地点抽出手段と
を備えた測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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