説明

送信用アンテナ装置

【課題】ドライブ回路に接続された並列共振回路を有し、電磁結合により受信側への通信を行う送信用アンテナ装置において、装置の小型化を図る。
【解決手段】並列共振回路を構成するインダクタンス要素を互いに並列接続された複数のコイル要素20から構成し、また、コイル要素20を複数の分割コイル要素22から構成する。並列接続されたコイル要素20を互いに相互誘導の作用下に配置し、並列接続されたコイル要素の合成のインダクタンスを互いの相互インダクタンスによって調整されたインダクタンスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブ回路に接続された並列共振回路を有し、電磁結合により受信側への通信を行う送信用アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の送信用アンテナ装置としては、特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1においては、位相シフトキーイング方式に基づいて変調した送信信号で、電磁結合用の並列共振回路を駆動して、送信信号の発信を行っている。
【0003】
このような並列共振回路で構成される送信用アンテナ装置において、並列共振回路のインダクタンス要素を構成するコイルは、ループ状に巻回された円形コイルが使用される。電磁結合のための磁束は、コイルの開口面積、巻数、電流によって決まる。
【0004】
かかる送信用アンテナ装置において、装置の小型化を図る場合、円形コイルの外形を小さくすることが考えられる。しかしながら、円形コイルの外形を小さくすると、それに応じて開口面積が小さくなるために、磁束が小さくなり、受信装置に対する通信距離及び通信可能オフセット距離(即ち、通信距離に直交する横幅距離)が小さくなる、という問題がある。
【0005】
そこで、コイルの巻数を増加させることが考えられるが、巻数を増やすと、コイル抵抗が上がるためにインダクタンスを流れる電流が下がり、結果として、磁束を確保することができず、受信側との通信距離及び通信可能オフセット距離を確保し、または通信距離及び通信可能オフセット距離をのばすことができない、という問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開平9−83381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明はかかる課題に鑑みなされたもので、その目的は、通信距離及び通信可能オフセット距離を確保しつつ装置を小型化することができ、または装置を大型化することなく通信距離及び通信可能オフセット距離をのばすことができ、または、装置の小型化と共に通信距離及び通信可能オフセット距離をのばすことができる送信用アンテナ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、ドライブ回路に接続された並列共振回路を有し、電磁結合により受信側への通信を行う送信用アンテナ装置において、
並列共振回路を構成するインダクタンス要素を互いに並列接続された複数のコイル要素から構成し、並列接続されたコイル要素を互いの相互誘導の作用下に配置し、並列接続されたコイル要素の合成のインダクタンスを相互インダクタンスによって調整されたインダクタンスとすることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のものにおいて、前記複数のコイル要素を、互いに積層して配置することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のものにおいて、前記コイル要素をさらに、互いに直列接続された複数の分割コイル要素から構成することを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のものにおいて、前記分割コイル要素を、互いに積層して配置することを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のものにおいて、前記コイル要素または前記分割コイル要素を、矩形形状に巻回されたコイルから構成することを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のものにおいて、前記コイル要素または分割コイル要素を、プリントエッチングにより形成されたコイルパターンで構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インダクタンス要素を構成するコイル要素の外形を小さくし、結果として開口面積を小さくし、巻数を増やしたとしても、そのコイル要素を並列接続することにより、合成のコイル抵抗を小さくすることができる。一方、合成のインダクタンスに関しては、相互インダクタンスを利用して調整して、所定のインダクタンスに維持する。これによって、送信用アンテナ装置の小型化を図りつつも、インダクタンス要素を流れる電流の低下を防ぎ、磁束を維持して、通信距離及び通信可能オフセット距離を維持することができる。
【0015】
または、インダクタンス要素を構成するコイル要素の開口面積を維持し、巻数を増やしたとしても、そのコイル要素を並列接続することにより、合成のコイル抵抗を小さくすることができる。一方、合成のインダクタンスに関しては、相互インダクタンスを利用しこれを調整して、所定のインダクタンスに維持する。これによって、インダクタンス要素を流れる電流を大きくすることができ、磁束を大きくして、通信距離及び通信可能オフセット距離をのばすことができる。
【0016】
さらには、巻数の増加、及び並列接続する段数などを調整することで、送信用アンテナ装置の小型化を図ると共に通信距離及び通信可能オフセット距離をのばすことができる。
【0017】
コイル抵抗を小さくすることができるので、Qを大きくすることができて、電力効率を上げることができる。
【0018】
コイル要素を互いに積層して配置することにより、相互誘導による作用を互いのコイル要素に与えることができる。
【0019】
また、コイル要素をさらに互いに直列接続された複数の分割コイル要素から構成することにより、各分割コイル要素の巻数を抑え、各分割コイル要素の開口面積の減少を防ぐことができる。
【0020】
分割コイル要素を互いに積層して配置することにより、各分割コイル要素の開口面積の減少を防ぐことができる。
【0021】
また、矩形形状にコイルを巻回することにより、円形形状に比較して、小さい外形寸法で開口面積を確保することができる。
【0022】
プリントエッチングにより形成されたコイルパターンを用いることにより、積層に適したものとし、コイル抵抗を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は、本発明の基本原理を表すための説明図である。
【0024】
例えば、送信機10と受信機30としては、送信機としてリーダライタとし、受信機としてデータの格納された不揮発性メモリを有するメモリタグまたはメモリカードとすることができる。
【0025】
送信機10は、ドライブ回路12と、ドライブ回路12に接続された並列共振回路14とを有している。並列共振回路14は、キャパシタンス要素16とインダクタンス要素18とが並列に接続されており、この並列共振回路14が送信用アンテナ装置を構成しており、図2に示すように、インダクタンス要素18によって形成される磁束Φによって受信機の受信用アンテナ装置であるインダクタンス要素32に電流が誘導されることにより、通信が行われる。
送信用アンテナ装置によって受信機側に形成される磁束Φは、
【0026】
【数1】


で表すことができる。ここで、Bは磁束密度、μ0は透磁率、N、D、Aはそれぞれインダクタンス要素18のコイル巻数、半径、開口面積、Xは送信機10と受信機30との間の距離、Iはインダクタンス要素18のコイルを流れる電流である。
【0027】
(1)式から、磁束Φは、コイル巻数N、開口面積Aに依存し、コイル巻数N及び開口面積Aが大きくなれば大きくなることが分かる。
【0028】
送信用アンテナ装置の小型化を図るために、インダクタンス要素18の外形を小さくすると、開口面積Aは小さくなり、磁束Φは小さくなってしまう。磁束Φの低下を防ぐためには、コイル巻数Nを増やす必要がある。
【0029】
次に、並列共振回路について検討する。
【0030】
図3に示すように、供給電流をI0、インダクタンス要素18のインダクタンスをL、コイル抵抗をR、キャパシタンス要素16のキャパシタンスをC、共振周波数ω0、ドライブ回路12からの供給電圧をV0とする。
供給電流I0は、
【0031】
【数2】


と表すことができる。また、循環電流ILは、
【0032】
【数3】


と表すことができ、Qは、
【0033】
【数4】


と表すことができる。
【0034】
(3)、(4)式より、コイル抵抗Rを小さくすれば、循環電流ILを大きくすることができ、Qも大きくすることができることが分かる。
【0035】
しかしながら、上述のように、開口面積Aを小さくしつつ磁束Φの低下を防ぐためには、コイル巻数Nを増やすことが必要であるが、そうすると、コイル抵抗Rが大きくなり、循環電流ILが小さくなる、というジレンマとなる。
【0036】
以上の通り、装置の小型化を図り、通信距離をのばす、ということは相反する問題である。
【0037】
そこで本発明では、インダクタンス要素18として、図4に示したように、複数の並列接続されたコイル要素20から構成し、これらコイル要素20を積層する。
【0038】
さらに、各コイル要素20は、互いに直列接続された複数の分割コイル要素22から構成し、これらの分割コイル要素22を積層する。
【0039】
各分割コイル要素22は、平面基板24にプリントエッチングによりコイルパターン26が形成されたものとし、コイルパターンは、矩形形状を描くようにする。また、コイルパターン26上に銅管等を半田付けすることにより、コイル抵抗をなるべく小さくすると好ましい。
【0040】
コイルパターン26が形成された基板24は、適宜、スペーサ28を介して積層され、これによって、並列接続されるコイル要素20が互いの相互誘導の作用下に配置されるようにする。
【0041】
以上のように構成される送信用アンテナ装置の作用を説明する。
各コイル要素20を並列接続することによって、全体のコイル抵抗Rは、1つのコイル要素20の抵抗よりも小さくすることができる。
【0042】
2つのコイル要素20を並列接続する場合を例にとって説明する。
2つのコイル要素20のコイル抵抗をそれぞれR1、R2とすると、合成のコイル抵抗Rは、
【0043】
【数5】


となり、1つのコイル要素20のコイル抵抗のときよりも小さくすることができる。
【0044】
一方、インダクタンスに関しても、同様に、並列接続により全体のインダクタンスが小さくなるが、相互誘導の作用下に配置することで、相互インダクタンスにより調整したインダクタンスとすることができる。2つのコイル要素20のインダクタンスをそれぞれL1、L2とし、相互インダクタンスをMとすると、
合成のインダクタンスLは、
【0045】
【数6】


となる。相互インダクタンスは、コイル要素20同士の距離に依存するからスペーサ28を適宜調整することにより、インダクタンスLが小さくなりすぎないように調整する。
【0046】
この構成によって、従来の共振並列回路と比較して、インダクタンスLを変えずに(よって共振周波数を変えずに)、コイル抵抗Rのみを小さくすることができる。
【0047】
そのため、各コイル要素20の巻数Nを増やして各コイル要素20を小型化することによって、装置全体を小型化することができる。また、コイル抵抗が小さくなるために、循環電流ILを増加させて、磁束を増加させ、通信距離(図2のx方向)、通信可能オフセット距離(図2のy方向の送信側コイルと受信側コイルの通信可能距離)をのばすことができる。さらには、Qが大きくなるために、電力効率も上げることができる。
【0048】
さらに、各コイル要素20を、積層した分割コイル要素22の直列和で構成することによって、コイル巻数を増加させるのに伴い、開口面積Aが必要以上に小さくなることを防ぐことができる。即ち、平面基板24にコイルパターン26を形成する場合、外形寸法を大きくしないように内側にコイルパターン26を形成して巻数を増やすと、開口面積Aがその分小さくなってしまう。そこで、各コイル要素20をそれぞれ平面基板24に形成されたコイルパターン26からなる複数(M個)の分割コイル要素22とし、各コイル要素20の巻数Nに対して、各分割コイル要素22の巻数をN/Mとすることにより、開口面積Aの減少を抑えることができる。
【0049】
また、直列接続された分割コイル要素22を積層することで、これらの分割コイル要素22同士の相互誘導の影響も受けるために、この分割コイル要素22間(同じコイル要素20内の分割コイル要素22同士の相互インダクタンス、及び異なるコイル要素20内の分割コイル要素22同士の相互インダクタンスを含む)との相互インダクタンスを利用して、インダクタンスLを確保することができる。
【0050】
また、コイルパターン26は、円形形状ではなく、矩形形状となるようにすることにより、外形寸法に対する開口面積Aを大きく確保することができる。
【0051】
以上の並列共振回路からなる送信用アンテナ装置は、長中波帯(500kHz以下)及び短波帯(13.56MHz)の通信に使用することができ、また、変調方式が振幅変調(ASK)や周波数変調(FSK)、位相変調(PSK)の並列共振回路の送信ドライブ回路として使用できる。
【実施例】
【0052】
比較例1
基板にプリントエッチングにより円形形状のコイルパターン(2巻)が形成された1つのコイル要素によってインダクタンス要素を構成した。円形形状のコイルパターンの外形の直径は248mmとした。
【0053】
実施例1
基板にプリントエッチングにより円形形状のコイルパターン(4巻)が形成された1つのコイル要素をスペーサを介して3個積層し、それらを並列接続することによってインダクタンス要素を構成した。円形形状のコイルパターンの外形の直径は190mmとした。
【0054】
実施例2
プリントエッチングにより形成された正方形形状のコイルパターン(4巻)が形成されたコイル要素をスペーサを介して3枚積層し、それらを並列接続することによってインダクタンス要素を構成した。正方形形状のコイルパターンの外形の一辺の長さは190mmとした。
【0055】
実施例3
プリントエッチングにより形成された正方形形状のコイルパターン(2巻)が形成された分割コイル要素をスペーサを介して2枚積層して直列接続することによってコイル要素(合計4巻)を構成し、さらにそのコイル要素をスペーサを介して3枚積層し、それらを並列接続することによって、合計6枚の基板の積層からなるインダクタンス要素を構成した。正方形形状のコイルパターンの外形の一辺の長さは190mmとした。
【0056】
いずれの実施例においても、それぞれの開口面積に対して巻数及びコイル要素及び/または分割コイル要素の間隔を調整することにより、合成のインダクタンスLがほぼ同じ(4μH)になるようにした。
【0057】
【表1】

【0058】
以上のように、比較例1と比較して実施例1,2,3は、コイル抵抗が下がり、いずれも通信距離がほとんど変わらずに、装置の小型化が達成されていることが分かる。さらに、実施例3は、小型化が達成されると共に通信距離がのびていることが分かる。
【0059】
また、実施例3は比較例と比較して、図2のx=370mm地点でのy方向における通信可能オフセット距離ものばすことができ、横幅方向の通信可能範囲も広がったことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の基本原理を表す送信機と受信機の説明用ブロック図である。
【図2】本発明の基本原理を表す送信用アンテナ装置と受信用アンテナ装置の説明図である。
【図3】並列共振回路を表す回路図である。
【図4】本発明による並列共振回路を有する送信用アンテナ装置の回路図である。
【図5】本発明による送信用アンテナ装置の具体的構成例を表す斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
12 ドライブ回路
14 並列共振回路
16 キャパシタンス要素
18 インダクタンス要素
20 コイル要素
22 分割コイル要素
26 コイルパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブ回路に接続された並列共振回路を有し、電磁結合により受信側への通信を行う送信用アンテナ装置において、
並列共振回路を構成するインダクタンス要素を互いに並列接続された複数のコイル要素から構成し、並列接続されたコイル要素を互いの相互誘導の作用下に配置し、並列接続されたコイル要素の合成のインダクタンスを相互インダクタンスによって調整されたインダクタンスとすることを特徴とする送信用アンテナ装置。
【請求項2】
前記複数のコイル要素を、互いに積層して配置することを特徴とする請求項1記載の送信用アンテナ装置。
【請求項3】
前記コイル要素をさらに、互いに直列接続された複数の分割コイル要素から構成することを特徴とする請求項1または2記載の送信用アンテナ装置。
【請求項4】
前記分割コイル要素を、互いに積層して配置することを特徴とする請求項3記載の送信用アンテナ装置。
【請求項5】
前記コイル要素または前記分割コイル要素を、矩形形状に巻回されたコイルから構成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の送信用アンテナ装置。
【請求項6】
前記コイル要素または分割コイル要素を、プリントエッチングにより形成されたコイルパターンで構成することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の送信用アンテナ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−124261(P2010−124261A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296260(P2008−296260)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000003388)東京計器株式会社 (103)
【Fターム(参考)】