説明

送液装置

【課題】 液体の位置を検出し、流路内でより速やか、かつ安定して液体を移動させる送液装置を提供する。
【解決手段】本発明によれば,微細流路の液体を送液する送液装置であって、前記流路の一部分に互いに分離して形成された第1及び第2の電極と、前記流路の他の部分に形成され、その表面が疎液性である疎液性膜と、第1の電極と第2の電極との間及び第1の電極と疎液性膜との間に選択的に電圧を印加する制御部と、前記制御部が第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、第1及び第2の電極の間に流れる電流を検出して流路における液体を検知する第1の液体検知部と、を備え、前記制御部は、第1の液体検知部が液体を検知したとき、第1の電極と前記疎液性膜との間への電圧の印加を行い、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液する送液装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、送液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣により引き起こされるメタボリックシンドロームが社会的な問題となっている。このメタボリックシンドロームの発症には、アディポネクチンが関連するとされ、血液中のアディポネクチンの量を免疫分析法で測定することが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。免疫分析法は、医療分野、生化学分野、アレルゲンなどの分野で用いられ、特にタンパク質の測定方法として、ELISA(酵素免疫測定法)、CLEIA(化学発光酵素免疫測定法)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、LTIA(ラテックス免疫比濁法)等が広く用いられている。しかしながら、この免疫分析法は、操作が煩雑であり、また、分析に時間を要する。
【0003】
このような背景から、タンパク質の測定装置として、マイクロオーダーの流路を基板に形成し、この流路に抗体等を固定化するマイクロ分析チップ、つまり、送液装置の開発が期待されている。例えば、親水性の流路面を有する基板を備え、界面張力と毛管現象を利用することにより送液する送液装置(マイクロ分析チップ)技術が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
【0004】
この送液装置(マイクロ分析チップ)について図面を用いて説明する。図42は、従来の送液装置の断面を示す図である。図42に示すように、この送液装置は、疎水性領域501が一部に形成された親水性の流路面を有する第1の基板1000と、流路面と対向する位置は親水性にされ、疎水性領域501に対向する位置に作動電極500が形成された第2の基板400と、を備えている。また、第2の基板400には、作動電極500と分離して参照電極600が形成されている。図42は、第1の基板1000と第2の基板400との間(流路内)に、送液対象であるサンプル溶液1100が入っている状態を示している。
【0005】
図42の(1)に示すように、サンプル溶液1100が流路内を毛細管力により移動するときに、参照電極600と作動電極500との間に電圧が印加されていない状態では、サンプル溶液1100は疎水性領域501と作動電極500で挟まれた空間を越えることができない。このため、疎水性領域501と作動電極500で挟まれた空間においてサンプル溶液1100の移動が停止する。
【0006】
一方、図42の(2)に示すように、参照電極600と作動電極500との間に電圧が印加されると、作動電極500の表面が親水化し濡れやすくなるので、サンプル溶液1100は作動電極500の表面に広がり、流路に浸透する。このため、サンプル溶液1100は作動電極500を超えて移動する。このように、従来のマイクロ分析チップは、電圧が印加されると基板(作動電極)に対する液体の接触角が小さくなる(つまり濡れやすくなる)という現象に着目し、電極と流体との界面を電極の電位により制御すること(エレクトロウェッティング)で、送液機構を実現している。
なお、この送液装置の作動電極は、流路におけるバルブ(液の停止・移動の切り替えを行なうもの)のような役割を果たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2005/038457公報
【特許文献2】WO2005/038458公報
【特許文献3】特開2006−220606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の送液装置では、送液対象である液体が流路内のどの位置にあるのか把握できないため、充分に時間が経過したことを前提に、参照電極600と作動電極500との間に電圧を印加する必要がある。また、参照電極600と作動電極500との間に電圧を印加しても、送液対象である液体が作動電極を通過したのかどうか把握できないため、適切な電圧が印加されたのかどうか把握することが難しい。このため、流路内における液体の位置を検出し、流路内で液体を、より速やかかつ安定して移動させる送液装置が望まれる。
【0009】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、流路内における液体の位置を検出し、流路内でより速やか、かつ安定して液体を移動させる送液装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によれば、微細流路の液体を送液する送液装置であって、前記流路の一部分に互いに分離して形成された第1及び第2の電極と、前記流路の他の部分に形成され、その表面が疎液性である疎液性膜と、第1の電極と第2の電極との間及び第1の電極と疎液性膜との間に選択的に電圧を印加する制御部と、前記制御部が第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、第1及び第2の電極の間に流れる電流を検出して流路における液体を検知する第1の液体検知部と、を備え、前記制御部は、第1の液体検知部が液体を検知したとき、第1の電極と前記疎液性膜との間への電圧の印加を行い、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液することを特徴とする送液装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
この発明の送液装置は、微細流路の液体を送液する送液装置であって、前記流路の一部分に互いに分離して形成された第1及び第2の電極と、前記流路の他の部分に形成され、その表面が疎液性である疎液性膜と、第1の電極と第2の電極との間及び第1の電極と疎液性膜との間に選択的に電圧を印加する制御部と、前記制御部が第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、第1及び第2の電極の間に流れる電流を検出して流路における液体を検知する第1の液体検知部と、を備え、前記制御部は、第1の液体検知部が液体を検知したとき、第1の電極と前記疎液性膜との間への電圧の印加を行い、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液するので、第1の液体検知部により第1及び第2の電極上における液体の有無を検知でき、また、その検知結果に基づいて第1の電極と前記疎液性膜との間への電圧の印加を行い送液することができる。このため、流路内における液体の位置を検出し、流路内でより速やか、かつ安定して液体を移動させる送液装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る送液装置の概念的な平面図である。
【図2】この発明の第1の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図3】この発明の第2の実施形態に係る送液装置の概念的な平面図である。
【図4】この発明の第2の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図5】この発明の第2の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図6】この発明の第2の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図7】この発明の第2の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図8】この発明の第3の実施形態に係る送液装置を説明するための概念的な断面図である。
【図9】この発明の第3の実施形態に係る送液装置を説明するための概念的な断面図である。
【図10】この発明の第4の実施形態に係る送液装置の概念的な平面図である。
【図11】この発明の第4の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図12】この発明の第4の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図13】この発明の第5の実施形態に係る送液装置の概念的な平面図である。
【図14】この発明の第5の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図15】この発明の第5の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図16】この発明の第5の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図17】この発明の第5の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図18】この発明の第6の実施形態に係る送液装置の概念的な平面図である。
【図19】この発明の第6の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図20】この発明の第6の実施形態に係る変形例の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図21】この発明の第7の実施形態に係る送液装置の概念的な平面図である。
【図22】この発明の第7の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図23】この発明の第7の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図24】この発明の第8の実施形態に係る送液装置の概念的な平面図である。
【図25】この発明の第8の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図26】この発明の第8の実施形態に係る送液装置の動作を説明するための概念的な断面図である。
【図27】この発明の第8の実施形態に係る変形例の概念的な平面図である。
【図28】この発明の第9の実施形態に係る送液チップの概念的な平面図及び断面図である。
【図29】この発明の第9の実施形態に係る送液チップに用いている基板の概念的な平面図である。
【図30】この発明の第9の実施形態に係る送液チップの流路の一部を拡大して表示した平面図である。
【図31】この発明の第9の実施形態に係る送液チップ及び検体分析装置の斜視図である。
【図32】この発明の第9の実施形態に係る検体分析装置のブロック図である。
【図33】この発明の第9の実施形態に係る検体分析装置の動作を説明するためのフロー図である。
【図34】この発明の第9の実施形態に係る検体分析装置の動作を説明するためのフロー図である。
【図35】この発明の第9の実施形態における検体分析装置の変形例の動作を説明するためのフロー図である。
【図36】この発明の第9の実施形態における検体分析装置の変形例の動作を説明するためのフロー図である。
【図37】この発明の第9の実施形態における検体分析装置の変形例の動作を説明するためのフロー図である。
【図38】この発明の第9の実施形態における検体分析装置の変形例の動作を説明するためのフロー図である。
【図39】この発明の第9の実施形態に係る検体分析装置で行った実験条件を説明するためのグラフである。
【図40】この発明の第9の実施形態に係る検体分析装置で行った実験結果を説明するためのグラフである。
【図41】この発明の第9の実施形態に係る検体分析装置で行った実験条件及び結果を説明するためのグラフである。
【図42】従来の送液装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の送液装置は、微細流路の液体を送液する送液装置であって、前記流路の一部分に互いに分離して形成された第1及び第2の電極と、前記流路の他の部分に形成され、その表面が疎液性である疎液性膜と、第1の電極と第2の電極との間及び第1の電極と疎液性膜との間に選択的に電圧を印加する制御部と、前記制御部が第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、第1及び第2の電極の間に流れる電流を検出して流路における液体を検知する第1の液体検知部と、を備え、前記制御部は、第1の液体検知部が液体を検知したとき、第1の電極と前記疎液性膜との間への電圧の印加を行い、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液することを特徴とする。
【0014】
ここで、微細流路には、例えば、互いに対向して配置された基板と基板との間の空間、基板に設けられた溝(凹部)の空間、基板内部に設けられた空洞部(管)の空間が含まれる。送液対象である液体が流路の濡れ性(液体の流路に対する界面張力)と毛細管現象により送液されるので、流路は、その表面が親液性であることが好ましく、また、その大きさは、幅及び高さが約1μm〜5mmであることが好ましい。
【0015】
また、この発明の送液装置が送液する液体は、例えば、血液、洗浄液、基質を含む液等の電解質溶液であり、水溶液が含まれる。この発明の送液装置は、第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加することにより送液を制御するので、必ずしも水溶液や電解質溶液に限定されない。つまり、この発明の送液装置は、誘電体でもある液体に対して電圧を印加することにより、前記疎液性膜等の送液を制御する膜を帯電させてその表面の液体に対する濡れ性(親和性)を変化させる装置であるから、送液対象である液体には、油性の液体や有機溶媒、いわゆる非水溶液、非水溶媒も含まれる。例えば、アルコール類やケトン類等の有機溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等がこの発明でいう液体に含まれる。
【0016】
また、疎液性とは、液体と相互作用が小さく親和性が小さい性質をいう。従って、疎液性膜とは、送液装置の送液対象である液体と相互作用が小さく親和性が小さい膜をいう。例えば、疎液性膜には、水溶液や電解質溶液の場合、疎水性膜、油の場合、疎油性膜が該当する。この発明の送液装置は、これらの疎液性膜を帯電させることによりその膜質を変化させて上記液体の送液の制御を行う。なお、親液性とは、送液装置の液体と相互作用が大きく親和性が大きい性質をいう。
また、疎液性膜には、疎液性の物質で形成された膜のほか、これに替えて、例えば、電極である金属膜の表面が表面処理された場合の、その表面層のような、膜の表面が疎液性である膜が含まれる。親液性膜についても同様である。
【0017】
また、この発明の実施形態において、前記疎液性膜が第1の電極と第2の電極の間に配置され、前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液し、第1の液体検知部が電流を検出して液体を検知してもよい。この実施形態によれば、第1及び第2の電極上における液体の有無を検知することにより、疎液性膜上を液体が通過したことを検出できる。このため、安定して液体を移動させる送液装置を提供できる。
【0018】
また、この発明の実施形態において、前記疎液性膜が第1の電極から第2の電極よりも離れて配置され、前記制御部は、第1の液体検知部が液体を検知したときに、第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液してもよい。この実施形態によれば、第1及び第2の電極上における液体の有無を検知することにより、疎液性膜に電圧を印加するタイミングを検出できる。これにより、より速やかに液体を移動させる送液装置を提供できる。
【0019】
また、この発明の実施形態において、前記流路の他の部分に第1及び第2の電極と分離して形成された第3の電極をさらに備え、前記疎液性膜が第3の電極上に形成され、前記制御部が第3の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液するであってもよい。この実施形態によれば、第3の電極と前記疎液性膜とが層状構造をとるので、前記疎液性膜に対する電圧の印加がより容易となる。
【0020】
また、第1の電極と第3の電極との間に流れる電流を検出して液体を検知する第2の液体検知部をさらに備え、前記疎液性膜が第3の電極の一部を覆うように第3の電極上に形成され、前記制御部が第3の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間へ電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液し、第2の液体検知部が電流を検出して流路における液体を検知してもよい。
この実施形態によれば、第1の液体検知部は、第1の電極と第2の電極との間に流れる電流を検出するとともに、前記制御部が第3の電極を介して、第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、第2の液体検知部が第1の電極と第3の電極との間に流れる電流を検出する。したがって、第1及び第2の電極上における液体の有無を検知できるだけでなく、疎液性膜が第3の電極の一部を覆い、その部分が第1の電極側にあるときは、第1の電極と第3の電極との間に流れる電流を検出することにより、疎液性膜上を液体が通過したことも検出できる。また、疎液性膜が第3の電極の一部を覆い、その部分が第1の電極と反対の側にあるときは、第1の電極と第3の電極との間に流れる電流を検出することにより、疎液性膜に電圧を印加するタイミングも検出できる。
【0021】
また、この実施形態において、前記流路の他の部分に第1及び第2の電極と分離して形成され、第1の電極から第2の電極及び疎液性膜よりも離れて配置された第4の電極と、第1の電極と第4の電極との間に流れる電流を検出して第1及び第4の電極上の流路における液体を検知する第3の液体検知部と、をさらに備え、前記制御部は、第1の電極と第4の電極との間にさらに選択的に電圧を印加し、第1の液体検知部が液体を検知したときに、前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液し、第3の液体検知部が電流を検出して流路における液体を検知してもよい。
この実施形態によれば、第1の液体検知部が、第1の電極と第2の電極との間に流れる電流が所定の値となったことを検知したときに、前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、第3の液体検知部が第1の電極と第4の電極との間に流れる電流を検出するので、疎液性膜に電圧を印加するタイミングを検出できるとともに、疎液性膜上を液体が通過したことを検出できる。このため、流路内における液体の位置を検出し、流路内で液体を、より速やかかつ安定して移動させる送液装置を提供できる。
【0022】
また、この発明の送液装置は、前記疎液性膜が第2の電極上に第2の電極の一部を覆うように形成され、前記制御部は、第2の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間へ電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液してもよい。
これにより、疎液性膜が第2の電極の一部を覆い、その部分が第1の電極側にあるときは、第1の液体検知部が第1の電極と第2の電極との間に流れる電流を検出することにより、疎液性膜上を液体が通過したことを検出できる。また、疎液性膜が第2の電極の一部を覆い、その部分が第1の電極と反対の側にあるときは、第1の液体検知部が第1の電極と第2の電極との間に流れる電流を検出することにより、疎液性膜に電圧を印加するタイミングを検出できる。
【0023】
また、この発明の送液装置は、前記疎液性膜は、絶縁破壊を起こす絶縁体の膜であり、第2の電極上に第2の電極の全部を覆うように形成され、前記制御部は、第2の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間に前記絶縁体の破壊電圧以上の電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液し、第1の液体検知部が電流を検出して流路における液体を検知してもよい。前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に前記絶縁体の破壊電圧以上の電圧を印加するので、疎液性膜上を液体が通過できるとともに前記疎液性膜が絶縁破壊され、第2の電極が液体と電気的に接触する。このため、第1の電極と前記疎液性膜との間に破壊電圧以上の前記電圧を印加し、液体と電気的に接触した第2の電極と第1の電極との間に流れる電流を検出することにより、疎液性膜上の液体を通過させるとともに疎液性膜上を液体が通過したことを検出できる。
【0024】
また、この発明の送液装置は、前記疎液性膜は、多孔質膜であり、第2の電極上に第2の電極を覆うように形成され、前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ、第1の液体検知部が電流を検出して流路における液体を検知してもよい。前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加することにより液体が前記疎液性膜を通過するとともに液体が多孔質膜である前記疎液性膜に浸透し、第2の電極が液体と電気的に接触する。このため、前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、第1の液体検知部が第1の電極と第2の電極との間に流れる電流を検出することにより、前記疎液性膜上の液体を通過させるとともに前記疎液性膜上を液体が通過したことを検出できる。
【0025】
また、この発明の送液装置は、前記流路の他の部分に第1及び第2の電極と分離して形成された第3の電極をさらに備え、前記疎液性膜が第3の電極上に形成された場合に、その疎液性膜に替えて、第3の電極を疎液性処理して形成した電極表面層を備えてもよいし、また、前記疎液性膜が第2の電極上に第2電極の一部を覆うように形成された場合に、その疎液性膜に替えて、第2の電極を疎液性処理して形成した電極表面層を備えてもよい。なお、疎液性処理には、例えば、電極表面を荒すような薬液処理(酸やアルカリ溶液使用)やアッシング処理が該当する。
【0026】
また、この発明の送液装置は、前記制御部が選択的に印加する電圧の大きさを制御する電圧制御部をさらに備え、前記電圧制御部は、前記制御部により第1の電極と第2の電極との間へ電圧が印加され、かつ第1の液体検知部により液体が検知されないときに、前記制御部が第1の電極と疎液性膜との間に印加する電圧を大きくする。この構成によれば、前記電圧制御部が第1の電極と疎液性膜との間に十分な電圧が印加されるように前記電圧を大きくするので、この送液装置は送液を安定して行うことができる。
【0027】
また、この発明の送液装置が第2の液体検知部を備える場合に、前記電圧制御部は、前記制御部により第3の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間へ電圧が印加され、かつ第2の液体検知部により流路における液体が検知されないときに、前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に印加する電圧を大きくする。この構成によれば、前記電圧制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に十分な電圧が印加されるように前記電圧を大きくするので、この送液装置は送液を安定して行うことができる。
【0028】
また、この発明の送液装置は、前記流路を振動させる振動源と、前記振動源の振動を制御する振動制御部とをさらに備え、前記振動制御部は、前記制御部により第1の電極と第2の電極との間へ電圧が印加され、かつ第1の液体検知部により液体が検知されないときに、前記振動源を振動させる。この構成によれば、第1の液体検知部により液体が検知されず、第1の電極と前記疎液性膜との間に十分な電圧が印加されない場合であっても、この送液装置は、流路を振動させることにより、送液を安定して行うことができる。
【0029】
また、この発明の送液装置が第2の液体検知部を備える場合に、前記振動制御部は、前記制御部により第3の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間へ電圧が印加され、かつ第2の液体検知部により流路における液体が検知されないときに、前記振動源を振動させる。この構成によれば、第2の液体検知部により液体が検知されず、第1の電極と前記疎液性膜との間に十分な電圧が印加されない場合であっても、この送液装置は、流路を振動させることにより、送液を安定して行うことができる。
【0030】
また、この発明の送液チップは、前記発明の送液装置に用いるための送液チップであり、微細流路と、前記流路の一部分に設けられ、流路の液体を前記流路に供給する供給部と、前記流路の他の部分に設けられ、前記液体を前記流路から排出する排出部と、前記供給部と前記排出部との間の前記流路に設けられ、前記液体の特性を分析するための電極が形成された分析部と、をさらに備え、前記供給部と前記分析部との間又は前記分析部と前記排出部との間の前記流路に、第1及び第2の電極並びに疎液性膜が設けられたことを特徴とする。
この発明によれば、第1及び第2の電極並びに疎液性膜が設けられているので、第1及び第2の電極上における液体の有無を検知できるチップを提供できる。このため、流路内における液体の位置を検出し、流路内でより速やか、かつ安定して液体を移動させる送液装置に適したチップを提供できる。
ここで、分析部の電極は、複数の電極であってもよく、例えば、作用電極、参照電極、対向電極であってもよい。
【0031】
また、この発明の実施形態において、前記流路がメイン流路とサブ流路とで構成され、前記サブ流路が前記メイン流路に合流するように配置され、前記供給部が前記サブ流路に配置され、前記排出部及び前記分析部が前記メイン流路に配置され、前記送液装置の第1及び第2の電極並びに疎液性膜が前記供給部から前記メイン流路と前記サブ流路との合流部までの間の前記サブ流路に配置されてもよいし、前記サブ流路に設けられ、流路に空気を入れる空気孔をさらに備えてもよい。さらに、前記空気孔が設けられたサブ流路の大きさはメイン流路の大きさよりも小さくてもよい。
これらの送液チップは、例えば、メタボリックシンドローム判定用の送液チップであり、サンプル溶液(例:血液を前処理し希釈した液)、洗浄液、基質を送液し、タンパク質濃度の測定に用いられる。
【0032】
また、この発明の検体分析装置は、前記発明の送液チップを用いて検体を分析する検体分析装置であって、前記供給部と前記分析部との間の、第1及び第2の電極並びに疎液性膜と接続され、第1の電極と第2の電極との間及び第1の電極と疎液性膜との間に選択的に電圧を印加する駆動回路と、前記駆動回路が、前記供給部と前記分析部との間の、第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、第1及び第2の電極の間に流れる電流を検出して流路における液体を検知する送液動作検知回路と、前記送液動作検知回路が液体を検知したときに、前記分析部の電極に流れる電流を検出して液体の電気化学的特性を検出する電気化学的検出回路と、を備えることを特徴とする。
この発明によれば、電気化学的検出回路で液体の電気化学的特性(例えば、タンパク質濃度)を検出するので、流路内における液体の位置を検出し、流路内でより速やか、かつ安定して液体を移動させるとともに、液体の電気化学的特性も検出する検体分析装置が提供される。
また、この発明の検体分析装置は、送液動作検知回路が前記送液チップにおける分析部の電極に接続され、送液動作検知回路が前記分析部の電極に流れる電流を検出して流路における液体を検知してもよい。つまり、前記送液動作検知回路に替えて、送液動作検知回路は、前記駆動回路が第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、前記分析部の電極に流れる電流を検出して流路における液体を検知する回路であってもよい。
【0033】
また、この発明の検体分析装置は、前記発明の送液チップを用いて検体を分析する検体分析装置であって、前記分析部と前記排出部の間の、第1の電極と第2の電極との間及び第1の電極と疎液性膜との間に選択的に電圧を印加する駆動回路と、前記駆動回路が、前記分析部と前記排出部の間の、第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、第1の電極と第2の電極との間に流れる電流を検出して流路における液体を検知する送液動作検知回路と、前記分析部の電極に流れる電流を検出して液体の電気化学的特性を検出する電気化学的検出回路と、を備え、前記電気化学的検出回路が液体の電気化学的特性を検出したときに、前記駆動回路が、前記分析部と前記排出部の間の、第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加してもよい。
また、前記電気化学的検出回路は、血液に含まれるタンパク質の濃度を検出してもよい。例えば、前記電気化学的検出回路が分析部の電極(例えば、作用電極、参照電極、対向電極)に接続され、送液チップにサンプル溶液(例:血液を前処理し希釈した液)、洗浄液、基質が送液されて、前記電気化学的検出回路がタンパク質の濃度を検出してもよい。この発明の検体分析装置は、例えば、メタボリックシンドローム判定に用いられる。
【0034】
なお、この明細書では、送液装置とは、流路内の液体を送る装置をいい、流路内の液体の流量を制御したり液体の流れを遮断したりする装置を意味する。また、送液チップとは、液体を送る流路を備える構造物をいい、単一の基板で構成された構造物や複数の基板で構成された構造物がこれに含まれる。
以下、図面に示す実施形態を用いて、この発明を詳述する。
【0035】
(第1の実施形態)
この発明の第1の実施形態に係る送液装置について図1及び図2を参照して説明する。図1は、この実施形態に係る送液装置を説明するための平面図である。図2は、この実施形態に係る送液装置の動作を説明するための断面図である。
図1に示すように、この実施形態に係る送液装置は、第1の基板1と、第1の基板1に対向して配置され流路2(溝)が設けられた第2の基板11とで構成されている。この実施形態に係る送液装置では、第2の基板11は流路2に送液対象である液体を閉じ込める蓋として機能し、第1の基板1と第2の基板11とにより流路2が形成されている。この蓋として機能する第2の基板11には、前記流路2の一方の端部に対応する位置に送液対象である液体を供給するための供給孔12が形成され、また、前記流路2の他方の端部に対応する位置に送液対象である液体を排出するための排出孔13が形成されている。
【0036】
また、この供給孔12に対応する第1の基板1の一部に第1の電極3が形成され、供給孔12と排出孔13との間の流路2上の位置に対応する第1の基板1の一部に、第2の電極4が形成されている。つまり、流路2の一部に、第1の電極3が形成され、第1の電極3と分離した位置に、つまり、流路2の他の一部に、第2の電極4が形成されている。また、流路2の別の一部には、その表面が疎水性の性質を示す疎水性膜7が形成され、この実施形態では、疎水性膜7は、流路2上に形成された第3の電極5上に形成され、第3の電極5全体を覆うように形成されている。第1の電極3、第2の電極4、第3の電極5は、第1の基板1の端部(外周辺)までそれぞれ配線が延在され(引き出し電極)、配線の末端には端子(電極パッド)が形成され、各端子は送液制御装置8に接続されている。
【0037】
第1の基板1は、ガラス基板で形成され、第2の基板11は、PDMS基板で形成されている。(なお、PDMSはポリジメチルシロキサンの略称である。)第1の基板1及び第2の基板11は、特に材質は限定されないが、流路2に送液対象である液体の特性を検出する検出部を設け、この検出部で光学的な測定(例えば、流路2内の液体、つまり、被検液に励起光を照射し励起光により発生する蛍光を検出して目的物質の量を測定する)を行う場合、蛍光の検出を妨げにくい材質の基板を用いるとよい。透明または半透明の材質を用いることが好ましく、例えば、ガラス、石英、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、フィルム等を用いることが好ましい。特に、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂は、透明性、成型性の観点から好ましい。また、流路内で静電気が発生すると、送液対象の液体の電気化学的検出で誤測定等のデメリットが生じる。このため、この実施形態では、できるだけ静電気の発生しにくい基板として、第1の基板1にガラス基板を用い、第2の基板11にPDMS基板を用いている。なお、電気化学的検出を行う場合、透明または半透明という光学的な材質の制約はない。後述する金属膜の形成の観点から基板の材質を適宜選択してもよい。
【0038】
流路2は、第2の基板11に溝(凹部)を形成し、この溝を第1の基板1で覆うことにより形成されている。この溝の幅、深さは特に限定されず、微細な流路であればよい。つまり送液対象である液体の濡れと毛細管力により液体が流路に浸透していくことができる大きさで適宜形成すればよい。例えば、その幅、深さを1μm〜5mm程度に設定するとよい。この実施形態では、深さを20〜60μmにするのがより好ましい。この溝は、例えば、基板に直接加工を行う方法、機械加工による方法、レーザー加工による方法、薬品やガスによるエッチングによる方法、金型を用いた射出成型、プレス成型、鋳造による方法等により形成でき、特に、金型を用いる方法、エッチングを用いる方法が形状寸法の再現性の観点から好ましい。
【0039】
第1の電極3、第2の電極4は、それぞれ、銀/塩化銀、金の金属膜で形成され、第3の電極5は、金の金属膜で形成されている。これらの第1の電極3、第2の電極4、第3の電極5は、それぞれ参照電極、センサー電極、作動電極として機能する。電極を構成する金属膜に電流を流したときに電位の変化を小さくして電位を安定化させるために、第1の電極3は、銀/塩化銀の材料で形成されている。この銀/塩化銀のほかに、金、カーボン、ビスマスの材料で形成されてもよい。また、電圧を印加した状態において水素等の発生が少なく、電極を構成する金属膜が劣化しにくいことから、第2の電極4は、金の材料で形成されている。この第2の電極4は、金のほか、カーボン、ビスマスの材料で形成されてもよい。さらに、第3の電極5は、第2の電極と同様に、金の金属膜で形成されているが、この電極も金のほか、カーボン、ビスマスの材料からなる膜で形成されてもよい。
【0040】
また、これらの第1の電極3、第2の電極4、第3の電極5は、第2の基板11に設けられた流路2に対応する第1の基板1上の各位置に形成されている。これらの第1の電極3、第2の電極4、第3の電極5は、第1の基板1、第2の基板11のいずれに形成されてもよいが、凹凸のある基板に電極を構成する金属膜を形成することは一般的には難しい。このため、この実施形態では平坦である第1の基板に形成している。これらの第1の電極3、第2の電極4、第3の電極5(金属膜)は、周知の蒸着、あるいはスパッタ等で形成し、周知のフォトリソ工程により、各位置にパターンニングすることにより形成できる。なお、これらの第1の電極3、第2の電極4、第3の電極5(金属膜)は、金属を含有するペーストを印刷して形成してもよい。例えば、銀等の金属粉末、低融点ガラス粉末、有機バインダー及び有機溶剤を混合させたペーストを印刷、焼成して金属膜を形成してもよい。第1の電極3、第2の電極4、第3の電極5は電極として機能する程度に金属を含有するものであればよく、特に製造方法に限定されない。
【0041】
疎水性膜7は、第3の電極5を覆うように、第3の電極5上に形成されている。この疎水性膜7は、誘電性の性質を有し、第3の電極5に電位が印加されることにより、疎水性膜7を介して送液対象である液体に電位を印加する。この実施形態では、疎水性膜7にフッ素系被膜(商品名CYTOP:旭硝子製)を用いている。通常、フッ素系化合物、チオール系化合物、その他疎水性の官能基のいずれかを有する薄膜が用いられる。
【0042】
疎水性膜7は、第3の電極5(例えば金の材料で形成された金属膜)よりも液体の接触角が大きい膜であれば特に限定されないが、第3の電極5に電位を印加しない状態で流路にある液体を浸透させないようにするために(つまり、疎水性膜7をバルブとして機能させるようにするために)、純水(比抵抗が25℃で18kΩ・cmの特性を示す水)に対して接触角が80度以上である疎水性膜を用いるとよい。例えば、接触角を90度よりも大きくすることができる物質で疎水性膜を形成するとよい。具体的には、接触フッ素含有物質またはチオール基を含む物質で形成するとよい。また、この疎水性膜7は、第3の電極の表面に生じるカーボン堆積物などからなる薄膜でもよい。一般に金属表面を自然空気に曝すとその金属の表面にカーボン堆積物などからなる薄膜(接触角60度〜85度)が形成される。この薄膜(一般的には1nm以下の極めて薄い膜)は、接触角が上記純水に対して90度より小さいが、上記純水に対する接触角が60〜85度と親水性度合いが低いので、疎水性膜7をバルブとして十分に機能させることができる。このため、第3の電極の表面に生じるカーボン堆積物などからなる薄膜(第3の電極の表面層)を用いるとよい。また、第3の電極に印加する電圧も小さくできるので、カーボン堆積物などからなる薄膜を用いると便宜である。
なお、第3の電極に印加する電圧も小さくするため、疎水性膜7の厚みを100nm以下にするとよい。また、非水溶液(例えば、油)の送液に、この実施形態に係る送液装置を用いる場合、疎水性膜の替わりに、第3の電極をアッシング処理して形成した金属表面層を用いるとよい。例えば、接触角が80度より小さい膜を用いるとよい。
【0043】
また、図1に示すように、疎水性膜7は、第1の電極3から第2の電極4よりも離れて配置されている。つまり、供給孔12から流路に送液対象の液体が供給され、疎水性膜7まで液体が浸透したとき、第1の電極3の表面と第2の電極4の表面は液体と接触するように配置されている。このため、第1の電極3と第2の電極4との間に流れる電流を検出することにより、液体が第2の電極を通過したことを検出できる構造となっている。
【0044】
送液制御装置8は、第1の電極3、第2の電極4、第3の電極5からそれぞれ配線された端子(電極パッド)に接続されている。また、送液制御装置8は、第1の電極3と第2の電極4とに接続されたスイッチ82(SW82)と、第2の電極4と第3の電極5とに接続されたスイッチ81(SW81)と、スイッチ82及びスイッチ81を介して、第1の電極3、第2の電極4、第3の電極5に接続された電源87(電圧印加装置)と、スイッチ82と電源87(電圧印加装置)との間に接続された電流検出部86(例えば、電流計)とで構成されている(図2)。また、送液制御装置8は、電流検出部86に接続され、電流検出部86から入力を受けるとともにスイッチ81及びスイッチ82に接続され、スイッチを制御するSW制御部85をさらに備えている。
この送液制御装置8は、電流検出部86が第1の電極3と第2の電極4との間に流れる電流を検出し、その検出された電流値が所定の値以上であれば、SW制御部85はスイッチを制御して電源に第1の電極3と疎水性膜7との間に電圧を印加させる。この電圧の印加は、第3の電極5を介して行われる。制御部が印加する電圧は、金属膜や疎水性膜7の構成により異なるが、この実施形態の構成の場合、例えば、3V以下の電圧であればよい。疎水性膜が上記のカーボン堆積物などからなる薄膜の場合、1V以下の電圧でもよい。
【0045】
次に、図2を用いて第1の実施形態に係る送液装置の動作を説明する。図2の(1)は、供給孔12から送液対象の液体が供給され、液体が第2の電極4付近まで浸透した状態を示している。また、図2の(2)は、液体が第2の電極4付近まで浸透したときに疎水性膜7に電圧を印加した状態を示している。
【0046】
図2(1)に示すように、SW制御部85は、まずスイッチ82をオンし、スイッチ81をオフする。供給孔12から送液対象の液体が供給され、時間が経過すると、液体が第2の電極4付近まで浸透する。SW制御部85は、供給孔12から送液対象の液体が供給された段階で、スイッチ82をオンし、第1の電極3と第2の電極4との間に流れる電流を測定する。液体が第2の電極4付近まで浸透すると、第1の電極3と第2の電極4は液体に接触する。このため、第1の電極3と第2の電極4との間に電流がある一定の電流値以上の電流が流れる(例えば、電流値の変化がピーク状を示す電流が流れる)。通常、1μA〜10μA程度の電流が流れ、電流検出部86がこの電流を検出する。これにより、送液制御装置8は、液体が疎水性膜7(バルブ)付近に達したことを検知できる。液体は疎水性膜7の濡れ性(疎水性)により、先に浸透することができず、疎水性膜7付近にとどまる。
【0047】
次いで、図2(2)に示すように、SW制御部85は電流検出部86の上記電流の検出により、スイッチ82をオフし、スイッチ81をオンする。スイッチ81がオンされると、第1の電極3と疎水性膜7との間に電圧(例えば1.5V程度)が、第3の電極5を介して印加されることになる。つまり、疎水性膜7に表面電荷が誘起される。このため、疎水性膜7の液体に対する濡れ性が変化し液体が疎水性膜7上に浸透することができる。液体は疎水性膜7上を通過する。
なお、この実施形態では、SW制御部85は電流検出部86の上記電流の検出により、スイッチ82をオフしスイッチ81をオンすると説明したが、SW制御部85はスイッチ82をオンしスイッチ81をオンしてもよい。ただし、第2の電極4から第3の電極5への電位の影響や第2の電極4から液体への電流の影響がある場合には、スイッチ82をオフすることが好ましい。
【0048】
次に、スイッチ82と第1の電極3と第2の電極4との間に流れる電流について説明する。この実施形態では、複数の流路からなる送液装置を前提としているため、第1の電極3と第2の電極4との距離が8mm程度で設けられており、第1の電極3と第3の電極5との距離は10mm程度(流路長程度)と長い。このため、第1の電極3と第3の電極5との間(流路)にある液体の電気抵抗は非常に大きくなる(1MΩ以上)。したがって、第1の電極3と第2の電極4との距離も同程度になる。このように液体の電気抵抗が大きい場合、液体が電解質溶液であっても液体は電気的に中性になり第1の電極3と第2の電極4との間で電気化学反応が起こりにくくなる。(これは電解質の濃度の高低にかかわらず2電極間の溶液抵抗に大きく依存する。)このため、第1の電極3と第2の電極4との間に流れる電流は短時間にピーク状の変化を示すものの、そのピーク状の電流は小さく、その後減衰して電流が流れなくなる。このため、この実施形態に係る装置でこの電流を検出できる時間はほんの一瞬となる。したがって、スイッチ82をオンにしている時間は短時間でも充分であり、スイッチ82をオンしてからオフするまでの時間は長時間である必要はないことになる。
【0049】
なお、液体が電解質溶液であり、電極間の距離が10μm〜1mm程度であり、かつ、溶液の電気抵抗が低い(10kΩ以下)場合には、一般的な電気化学反応の原理に従って電流が流れる。例えば、1Vよりも低い電圧を2電極間にかけた場合、まず、2電極間に電解質イオンの瞬間移動が起こり、ピーク状の電流が生じる。次いで2電極と溶液との界面に電気二重層を形成し充電状態となる。このときには電流が流れない。電圧を徐々に上げていくと2電極と溶液との界面で電解反応(水溶液の場合、水の電気分解)が始まり、各々の電極表面に電荷が過剰に形成される。この過剰の電荷を打ち消そうとして、溶液中の陽イオンは陰極に、溶液中の陰イオンは陽極に向かって移動する。従って、電流が流れることを前提にして、スイッチ82をオンしてからオフするまでの時間を定めればよい。 また、流路が帯電する場合や流路と液体の界面に電流の通り道が生じる等場合には、液体が非電解質であっても電流が流れる。この場合、スイッチ82をオンしてからオフするまでの時間は液体の性質に応じて適宜決定することになる。
【0050】
(第2の実施形態)
この発明の第2の実施形態に係る送液装置について図3〜図7を参照して説明する。図3は、この実施形態に係る送液装置を説明するための平面図である。図4〜図7は、この実施形態に係る送液装置の動作を説明するための断面図である。
図3に示すように、この実施形態に係る装置の構成は、第1の実施形態に係る装置とほぼ同様であるが、第1の実施形態に係る装置と、第2の電極4、第3の電極5、疎水性膜7の配置が相違する。つまり、疎水性膜7が第1の電極3と第2の電極4との間に配置され、第3の電極5も第1の電極3と第2の電極4との間に配置されている。疎水性膜7は、第3の電極5上に配置され、第3の電極5全体を覆うように形成されている。
【0051】
これら膜の配置の相違により送液制御装置8の制御も第1の実施形態と相違している。これについて、図4〜図7を用いて第2の実施形態に係る送液装置の動作を説明する。図4の(1)は、供給孔12から送液対象の液体が供給され、液体が第3の電極5付近まで浸透した状態を示している。また、図4の(2)は、液体が第3の電極5付近まで浸透したときに疎水性膜7に電圧を印加した状態を示している。図5の(3)は、液体が第2の電極4付近まで浸透したときに第2の電極4に電圧を印加した状態を示している。図6〜図7は、液体が第3の電極5付近まで浸透したときに液体がそれ以上浸透しない場合の状態を示している。
なお、制御部8の各構成要素の接続関係は、実施形態1と同様であるが、スイッチの果たす作用がやや異なることから、図4では、スイッチ82をスイッチ83と表示している。
【0052】
まず、図4(1)に示すように、SW制御部85はスイッチ81及びスイッチ83をオフする。供給孔12から送液対象の液体が供給されると、スイッチ81がオフされているので、時間が経過しても、第3の電極5の近傍で液体の浸透が停止し、液体は第3の電極5より先に浸透しない。
【0053】
次いで、図4(2)に示すように、SW制御部85はスイッチ81をオンする。スイッチ1がオンされると、第1の電極3と疎水性膜7との間に電圧(例えば1.5V程度)が、第3の電極5を介して印加されることになる。疎水性膜7の液体に対する濡れ性が変化し、液体は疎水性膜7上に浸透することができ、液体は疎水性膜7上を通過する。
【0054】
次いで、SW制御部85はスイッチ83をオンする。液体が第2の電極4に達した際に、第1の電極3と第2の電極4は液体に接触するので、第1の電極3と第2の電極4との間に電流が流れ始める。図5(3)に示すように、液体が流路に浸透し液体が第2の電極4を覆うと、ある一定の電流値以上の電流が流れる。この電流を電流検出部86が検出する(例えば、電流値の変化がピーク状のときそのピーク付近の電流を検出する)ことにより、送液制御装置8は、液体が疎水性膜7(バルブ)を通過し、第2の電極4に達したことを検知できる。
【0055】
一方、所定の時間を経過しても、図6及び図7に示すように、液体が疎水性膜7手前で止まったまま浸透しない場合や電流検出部86が電流を検出できない場合(例えば、電流が弱い場合)がある。このような場合、送液制御装置8は、検出された電流値に基づいて電源87(電圧印加装置)が印加する電圧を上げてもよい。この構成について、第3の実施形態で説明する。
【0056】
(第3の実施形態)
この発明の第3の実施形態に係る送液装置について、図6〜図9を参照して説明する。図6及び図7は、送液装置の動作を説明するための断面図である。図8は、この実施形態に係る送液装置を説明するための断面図である。図9は、この実施形態における送液制御装置の変形例を説明するための断面図である。
なお、図8の(A)に第3の実施形態に係る送液装置の構成を示し、図8の(B)及び(C)に電圧制御部の例を示している。
【0057】
上記で説明したように、液体が疎水性膜7手前で止まったまま浸透しない場合や電流検出部86が電流を検出できない場合(例えば、電流が弱い場合)がある。例えば、図6に示すように、SW制御部85がスイッチ81をオンして、第1の電極3と疎水性膜7との間に電圧(例えば1.5V程度)が、第3の電極5を介して印加されても、第3の電極5の近傍で液体の浸透が停止したままで、液体は第3の電極5より先に浸透しないことがある。この現象は、第3の電極5上に配置されている疎水性膜7表面の帯電状態が十分でないため、親水化が足りないことにより生じる。つまり、疎水性膜の親水化の性能にばらつきがあるので、所定の電圧が印加されても疎水性膜7表面が十分親水化できないことにより生じる。この場合、図7のように、SW制御部85がスイッチ83をオンしても第1の電極3と第2の電極4との間に電流が流れず、送液制御装置は、電流検出部86により液体が浸透したことを検知できない。
【0058】
そこで、図8の(A)に示すように、第2の実施形態の電源(電圧印加装置)に代えて電圧制御部88を設ける。この実施形態に係る装置は、電源に代えて電圧制御部88を設けている。つまり、電圧制御部88は、スイッチと第1の電極との間に配置され、これらに接続されるとともに、SW制御部85に接続されている。電圧制御部88は、SW制御部85から、電流検出部86が検出した電流に基づいた信号を受ける。この信号により、電圧制御部88は、第3の電極5と第1の電極3との間へ印加する電圧を制御する。つまり、電圧制御部88は、第1の電極3と疎水性膜7との間に第3の電極5を介して印加する電圧を制御する。
【0059】
電圧制御部88は、所定の電圧よりも高い電圧を第1の電極3と第3の電極5との間に印加するように制御する。例えば、ステップ的に電圧を上昇させるよう制御する。 また、電圧制御部88が第1の電極3と疎水性膜7との間に1.5Vから0.1Vづつ高い電圧(例えば、1秒おきに1.5V〜5Vまでの範囲内)を印加するように制御する。この電圧の印加により、疎水性膜7の液体に対する濡れ性が変化し、液体は疎水性膜7上に浸透する。これにより、液体が疎水性膜7上を通過する。このとき、上記で説明したようにSW制御部85は既にスイッチ83をオンにしているので、送液制御装置8は、疎水性膜7上を通過した液体が第2の電極4に達したことを検知できる。
【0060】
電圧制御部88による電圧の制御によっても、液体が疎水膜7上を液体が通過せず電流検出部から所定の電流が検出されない場合、送液制御装置8は、送液制御装置8の動作(電圧の印加、電流の測定・判断、スイッチの開閉)を停止させてもよいし、エラー信号を発してもよい。
【0061】
なお、この実施形態は、電圧制御部88を除いて第2の実施形態とその構成は同じである。また、電圧制御部88は、電源と、その電源からの電圧を変圧する変圧器と、変圧器を制御する制御部とにより構成される。
電圧制御部88は、例えば、図8の(B)及び(C)に示すような構成であってもよい。つまり、図8の(B)に示すように、電圧制御部88は、電源と可変抵抗とで構成され、可変抵抗が電源と直列に接続され、SW制御部85からの信号に基づいて可変抵抗の抵抗が変更される構成であってもよい。また、図8の(C)に示すように、第1のスイッチング素子と所定の電圧を出力する電源とからなる回路(以下、第1電源回路という)と、第2のスイッチング素子と前記所定の電圧と異なる電圧を出力する電源とからなる回路(以下、第2電源回路という)とで構成され、SW制御部85からの信号に基づいて、第1又は第2のスイッチング素子をオンにする構成であってもよい。所望の電圧となるように、第1及び第2電源回路のほか、スイッチング素子と電源とからなる電源回路をさらに追加してもよいことは言うまでもない。
(送液制御装置の変形例)
【0062】
送液制御装置8は、図9に示すように、第1の基板に振動を与え、その振動を制御する振動制御部89がさらに設けられてもよい。例えば、送液装置は、第1の基板1に接触するように(又はその付近に)設置された振動発生器90(例えば、小型モーターと錘から構成される回転型振動モーターなど)を備え、電流検出部86で検出された電流に基づいて、この振動発生器90を制御する振動制御部89を備えてもよい。図9に示すように、振動制御部89は、電流検出部86に接続されたSW制御部85と振動発生器90とに接続され、SW制御部85からの入力により振動発生器90を制御するように構成されている。このような構成を採用することにより、疎水性膜が十分帯電していても液体が疎水性膜7上に浸透しない場合に液体を浸透させることができる。振動制御部89の振動の制御により、送液装置の第3の電極5(作動電極)付近に振動が与えられ、液体が疎水性膜7上を通過することができる。本発明の振動制御部と振動発生器は、例えば、携帯電話に用いられている既製のバイブレータで置き換えることができる。このバイブレータは小型モーターの軸に偏芯回転をさせるための錘がついている。
なお、このとき、SW制御部85はスイッチ83をオンするとよい。これにより、第3の電極5上を通過した液体を第2の電極4で検知することができる。
【0063】
なお、電圧制御部88による電圧の制御や振動制御部89による振動の制御によっても、液体が疎水膜7上を液体が通過せず電流検出部から所定の電流が検出されない場合、送液制御装置8は、送液制御装置8の動作(電圧の印加、電流の測定・判断、スイッチの開閉)を停止させてもよいし、エラー信号を発してもよい。
【0064】
(第4の実施形態)
この発明の第4の実施形態に係る送液装置について図10〜図12を参照して説明する。図10は、この実施形態に係る送液装置を説明するための平面図である。図11及び図12は、この実施形態に係る送液装置の動作を説明するための断面図である。
図10に示すように、この実施形態に係る装置の構成は、第1の実施形態に係る装置とほぼ同様であるが、第1の実施形態に係る装置と、疎水性膜7の配置が相違している。つまり、疎水性膜7が第3の電極5の一部を覆うように第3の電極5上に配置されている。 疎水性膜7は、第3の電極5と平面的に一部が重なるように配置され、第1の電極3側に配置されている。このため、送液制御装置8の制御も第2の実施形態と同様に第1の実施形態と相違している。これについて、図11及び図12を用いて第2の実施形態に係る送液装置の動作を説明する。図11は、供給孔12から送液対象の液体が供給され、液体が第2の電極4付近まで浸透した状態を示している。また、図12は、液体が第3の電極5付近まで浸透したときの状態を示している。
【0065】
まず、図11に示すように、SW制御部85はスイッチ82をオンし、スイッチ81をオフする。供給孔12から送液対象の液体が供給されると、スイッチ82がオンされているので、送液制御装置8は液体の有無を検出できる。つまり、時間が経過すると、第1の電極3及び第2の電極4が液体に接触するため、送液制御装置8の電流検出部861は、第1の電極3と第2の電極4との間に流れる電流を検出できる。
【0066】
次いで、図12に示すように、送液制御装置8の電流検出部861が第1の電極3と第2の電極4との間に流れる電流が一定の値以上であることを検出すると、送液制御装置8のSW制御部85はスイッチ82をオフし、スイッチ81をオンする。第3の電極5に電圧が印加され(例えば、1.5V程度)、疎水性膜7の濡れ性が変化するために、液体は疎水性膜7上を通過できる。液体が疎水性膜7上を通過すると、第3の電極5に液体が接触するようになるため、第1の電極3と第3の電極5との間に電流が流れ始める。液体が浸透し液体が第3の電極5を覆うと、ある一定の電流値以上の電流が流れる。この電流を電流検出部862が検出する(例えば、電流値の変化がピーク状のときそのピーク付近の電流を検出する)ことにより、送液制御装置8は、液体が第3の電極5を通過したことを検知できる。
【0067】
なお、スイッチ81は液体が第3の電極5を通過したことを検知したあと、これをオフにしてもよい。また、第3の実施形態と同様に、所定の時間を経過しても、電流が検出できない場合や電流が弱い場合、送液制御装置8は、検出された電流値に基づいて電源87(電圧印加装置)が印加する電圧をあげてもよい(検出された電流値に比例する電圧を印加するように制御したり、ステップ的に電圧を上昇させたりしてもよい)。また、送液制御装置8が送液制御装置8の動作(電圧の印加、電流の測定・判断、スイッチの開閉)を停止させてもよいし、エラー信号を発してもよい。
【0068】
(第5の実施形態)
この発明の第5の実施形態に係る送液装置について図13〜図17を参照して説明する。図13は、この実施形態に係る送液装置を説明するための平面図である。図14〜図17は、この実施形態に係る送液装置の動作を説明するための断面図である。
図13に示すように、この実施形態に係る装置の構成は、第1の実施形態に係る装置とほぼ同様の構成を備えるが、第1の実施形態と、さらに第4の電極6を備える点で相違している。第4の電極6は、基板1の流路2(溝)上に対応する部分に、第1及び第2の電極と異なる位置、つまり、第1の電極3、第2の電極4、第3の電極5よりも供給孔12から離れた位置に配置され、第4の電極6は、スイッチ83を介してSW制御部85と電源87(電圧印加装置)とに接続されている。
【0069】
次に、図14〜図17を用いて第5の実施形態に係る送液装置の動作を説明する。図14は、供給孔12から送液対象の液体が供給され、液体が第2の電極4付近まで浸透した状態を示している。また、図15は、液体が第3の電極5付近まで浸透したときの状態を示している。さらに、図16は、液体が第4の電極8付近まで浸透したときの状態を示しており、図17は、液体が第4の電極8を完全に覆った状態を示している。
【0070】
まず、図14に示すように、送液制御装置8のSW制御部85は、スイッチ82をオンする。このとき、スイッチ81及びスイッチ83はオフされている。スイッチ82は第2の電極4に接続されているため、供給孔12から送液対象の液体が供給され、液体が第2の電極4に接触すると、第1の電極3と第2の電極4との間に電流が流れる。送液制御装置8の電流検出部861は、この電流を検出する(例えば、電流値の変化がピーク状のとき一定値以上に電流値となったことを検出する)。
【0071】
次いで、図15に示すように、SW制御部85は、第1の電極3と第2の電極4との間の電流が一定値を超えたと判断すると、スイッチ81をオンし、スイッチ82をオフする。スイッチ82は第3の電極5に接続されているため、第3の電極5を介して疎水性膜7に電圧(例えば、1.5V程度の電圧)が印加されると、疎水性膜7の濡れ性が変化する。これにより、液体は疎水性膜7上を通過し始める。時間が経過すると、第4の電極6に液体が達する。
【0072】
次いで、図16に示すように、SW制御部85は、スイッチ83をオンする。スイッチ83は、第4の電極6に配線を介して接続されているため、液体が第4の電極6に接触すると、第1の電極3と第4の電極6との間で電流が流れ始める。液体が浸透し第4の電極6を覆うと、この電流はある一定値以上の値を示すようになる。図17に示すように、送液制御装置8は、電流検出部862でこれを検出し、これにより、液体が第4の電極6を通過したことを検知できる。
【0073】
なお、スイッチ83は液体が第4の電極8を通過したことを検知したあとオフにしてもよい。また、第3〜第4の実施形態と同様に、所定の時間を経過しても、電流が検出できない場合や電流が弱い場合、送液制御装置8は、検出された電流値に基づいて電源87(電圧印加装置)が印加する電圧をあげてもよい(検出された電流値に比例する電圧を印加するように制御したり、ステップ的に電圧を上昇させたりしてもよい)。また、送液制御装置8が送液制御装置8の動作(電圧の印加、電流の測定・判断、スイッチの開閉)を停止させてもよいし、エラー信号を発してもよい。
【0074】
(第6の実施形態)
この発明の第6の実施形態に係る送液装置について図18〜図20を参照して説明する。図18は、この実施形態に係る送液装置を説明するための平面図である。図19は、この実施形態に係る送液装置の動作を説明するための断面図である。図20は、この実施形態の変形例の動作を説明するための断面図である。
図18に示すように、この実施形態に係る装置の構成は、第1の実施形態と比較して、電極の数、配置が相違している。つまり、第1の電極3と第2の電極4が流路の一部に互いに分離して形成され、疎水性膜7が第2の電極4を覆うように形成されている。疎水性膜7は、第1の電極3側、すなわち、供給孔12側に配置され、第2の電極4と平面的に一部が重なるように配置されている。さらに、送液制御装置8は、第1の電極3及び第2の電極4に、それらから延在された配線の端子を介して接続され、送液制御装置8の電源87(電圧印加装置)は、第1の電極3にスイッチ81を介して接続され、さらに、第2の電極4に電流検出部86を介して接続されている。
【0075】
次に、図19を用いて第6の実施形態に係る送液装置の動作を説明する。図19の(1)は、供給孔12から送液対象の液体が供給され、液体が第2の電極上の疎水性膜7近傍まで浸透した状態を示している。また、図19の(2)は、液体が第2の電極4を完全に覆った状態を示している。
【0076】
まず、図19(1)に示すように、送液制御装置8のSW制御部85はスイッチ81をオフする。供給孔12から液体が供給され時間が経過すると、液体は第1の電極3の上を超えて浸透し、第2の電極上の疎水性膜7近傍まで浸透する。液体は疎水性膜7の濡れ性(疎水性)により、先に浸透することができず、疎水性膜7付近にとどまる。
【0077】
次いで、図19(2)に示すように、送液制御装置8のSW制御部85はスイッチ81をオンする。スイッチ81は第2の電極4に配線を介して接続されているので、第2の電極4に電圧が印加され(例えば、1.5V程度)、第2の電極4上の疎水性膜7は濡れ性が変化する。このため、液体は、疎水性膜7上を通過し、疎水性膜7に覆われていない第2の電極4の上まで達する。液体が第2の電極4に接触すると、第1の電極3と第2の電極4との間に電流が流れ始める。液体が第2の電極4の上を完全に覆うと、この電流はある一定の電流値をこえるような電流となる。送液制御装置8がこの電流を電流検出部86で検出する(例えば、電流値の変化がピーク状のときそのピーク付近の電流を検出する)ことにより、液体が疎水性膜7及び第2の電極4を通過したことを検知できる。
【0078】
なお、スイッチ81は液体が第2の電極4を通過したことを検知したあとオフにしてもよい。また、第3〜第5の実施形態と同様に、所定の時間を経過しても、電流が検出できない場合や電流が弱い場合、送液制御装置8は、検出された電流値に基づいて電源87(電圧印加装置)が印加する電圧をあげてもよい(検出された電流値に比例する電圧を印加するように制御したり、ステップ的に電圧を上昇させたりしてもよい)。また、送液制御装置8が送液制御装置8の動作(電圧の印加、電流の測定・判断、スイッチの開閉)を停止させてもよいし、エラー信号を発してもよい。
【0079】
第6の実施形態の場合、第2の電極4の一部を親水性膜41で覆う形態であってもよい。つまり、第2の電極4における第1の電極3側の一部に疎水性膜をつけて疎水化し、その他の部分を親水化してもよい。例えば、第2の電極4であるAu(金)の一部に疎水性膜をつけて疎水化してもよい。その他の部分はアッシング処理で親水化する。なお、非水溶液(例えば、油)を送液する送液装置の場合、疎水膜7をアッシング処理をしたAu金属膜の表面層に、親水性膜41をAu金属膜にそれぞれと置き替えればよい。次に、図20にこの形態の断面図を示し、動作を説明する。
【0080】
図20(1)に示すように、まず、送液制御装置8のSW制御部85はまずスイッチ81をオフする。この状態の場合、供給孔12から供給された液体は、第2の電極4の疎水化された部分で浸透が停止する。次いで、図20(2)に示すように、送液制御装置8のSW制御部85がスイッチ81をオンすると、第2の電極4に電圧(例えば1.5V程度)が印加されるので、第2の電極4の疎水化された部分は、その部分の濡れ性が変化する。このため、液体は、第2の電極4の疎水化された部分を通過し、第2の電極4の親水膜41まで浸透する。この親水膜41は液体に接触すると、絶縁破壊を起こし第1の電極3と第2の電極4との間に電流が流れる。
【0081】
送液制御装置8は、この電流を電流検出部86で検出することにより、液体が第2の電極4を通過したことを検知できる。例えば、電流の変化がピーク状の場合、電流値がある一定値を超えたことを送液制御装置8が検出することにより、液体が第2の電極4を通過したことを検知できる。
【0082】
(第7の実施形態)
この発明の第7の実施形態に係る送液装置について図21〜図23を参照して説明する。図21は、この実施形態に係る送液装置を説明するための平面図である。図22,図23は、この実施形態に係る送液装置の動作を説明するための断面図である。
図21に示すように、この実施形態に係る装置の構成は、第6の実施形態と同様の構成であるが、この実施形態の疎水性膜は、絶縁破壊を起こす絶縁膜71で覆われている点で相違している。また、その位置も相違している。つまり、この実施形態の疎水性膜は、絶縁破壊を起こす絶縁膜71であり、第2の電極4上にこの金属膜4を覆うように形成されている。
この絶縁破壊を起こす絶縁膜71には、例えば、薄いフルオロカーボン膜(膜面内に数10〜数100nm径の多数のピンホール有り)を用いる。厚さ5nmの薄膜を形成すると、3V程度で静電破壊を起こす絶縁膜71を形成できる。
【0083】
次に、図22、図23を用いて第7の実施形態に係る送液装置の動作を説明する。図22の(1)は、供給孔12から送液対象の液体が供給され、液体が絶縁膜71近傍まで浸透した状態を示している。また、図22の(2)は、液体が絶縁膜71の一部を覆った状態を示している。図23の(3)は、液体が絶縁膜71を完全に覆った状態を示し、図23の(4)は、液体が絶縁膜71の一部を完全に通過し浸透した状態を示している。
【0084】
まず、図22(1)に示すように、送液制御装置8のSW制御部85はスイッチ81をオフする。供給孔12から液体が供給され時間が経過すると、液体は第1の電極3の上を超えて浸透し、第2の電極上の絶縁膜71近傍まで達する。この絶縁膜71は疎水性の膜でもあるため、液体は絶縁膜71の濡れ性(疎水性)により、先に浸透することができず、絶縁膜71付近にとどまる。
【0085】
次いで、図22(2)に示すように、送液制御装置8のSW制御部85はスイッチ81をオンする。スイッチ81は配線を介して第2の電極4に接続されているので、所定の電圧(例えば3V)が印加されると、絶縁膜71が絶縁破壊を起こす。このため、絶縁膜71の表面の電荷状態が変化し、その表面が親水化して液体が絶縁膜71の上に浸透し絶縁膜71を通過し始める。このとき、図23(3)に示すように、親水化した絶縁膜71のみならず第2の電極4の親水性のある表面一部が液体に露出し、液体がこれに接触することになる。このため、第1の電極3と第2の電極4との間に電流が流れ始める。図23(4)に示す状態(液体が絶縁膜71を通過して第2の電極4の上を完全に覆う状態)で、送液制御装置8が電流検出部86でこの電流を検出することにより、液体が疎水性膜7及び第2の電極4を通過したことを検知できる。例えば、電流の変化がピーク状の場合、電流値がある一定値を超えたことを送液制御装置8が検出することにより、液体が第2の電極4を通過したことを検知できる。
【0086】
なお、スイッチ81は液体が第2の電極4を通過したことを検知したあとオフにしてもよい。また、第3〜第6の実施形態と同様に、所定の時間を経過しても、電流が検出できない場合や電流が弱い場合、送液制御装置8は、検出された電流値に基づいて電源87(電圧印加装置)が印加する電圧をあげてもよい(検出された電流値に比例する電圧を印加するように制御したり、ステップ的に電圧を上昇させたりしてもよい。また、送液制御装置8が送液制御装置8の動作(電圧の印加、電流の測定・判断、スイッチの開閉)を停止させてもよいし、エラー信号を発してもよい。
【0087】
(第8の実施形態)
この発明の第8の実施形態に係る送液装置について図24〜図27を参照して説明する。図24は、この実施形態に係る送液装置を説明するための平面図である。図25,図26は、この実施形態に係る送液装置の動作を説明するための断面図である。図27は、この実施形態の変形例の平面図である。
【0088】
図24に示すように、この実施形態に係る装置の構成は、第6及び第7の実施形態と同様の構成であるが、この実施形態の疎水性膜73は、多孔質膜である点で相違している。 この実施形態の疎水性膜73は、多孔質膜であり、第2の電極4上にこの金属膜4を覆うように形成されている。疎水性膜73は、第2の電極4の上面(流路側の面)のみならず側面も覆い、第2の電極4が流路空間に触れないよう疎水性膜73は、第2の電極4全体を覆っている。この実施形態では、疎水性膜73としてCYTOPもしくは耐圧のある酸化チタン膜(細孔径数10nm〜数100nm)を用いているが、多孔質膜は、疎水性があり多孔質な膜ならば特に限定されない。例えば、エアロゾルから成る自然堆積膜、水素終端などの疎水処理したシリコン窒化膜、シリコン酸化膜、シリコン炭化膜、酸化チタン膜、酸化亜鉛膜などを用いるとよい。また、疎水性の高いシリコーン樹脂やフッ素樹脂による薄膜を用いてもよい。
【0089】
次に、図25、図26を用いて第7の実施形態に係る送液装置の動作を説明する。図25の(1)は、供給孔12から送液対象の液体が供給され、液体が絶縁膜73近傍まで浸透した状態を示している。また、図25の(2)は、液体が絶縁膜73の一部を覆った状態を示している。図26の(3)は、液体が絶縁膜73を完全に覆った状態を示している。
【0090】
まず、図25(1)に示すように、送液制御装置8のSW制御部はスイッチ81をオフする。供給孔12から液体が供給され時間が経過すると、液体は第1の電極3の上を超えて浸透し、第2の電極上の疎水性膜73近傍まで達する。この疎水性膜73は多孔質膜であるが、その表面が疎水性であるため、液体は疎水性膜73近傍から先に浸透できない。また、液体は疎水性膜73が有する微細な孔(多孔)にも浸透できない。
【0091】
次いで、図25(2)に示すように、送液制御装置8のSW制御部85はスイッチ81をオンする。スイッチ81は配線を介して第2の電極4に接続されているので、スイッチ81がオンされると所定の電圧(例えば1.5V程度)が第2の電極4に印加される。これにより、疎水性膜73の表面の電荷状態が変化し、その表面が親水化して液体が疎水性膜73上に浸透し始める。また、疎水性膜73は多孔質膜でもあるため、疎水性膜73が有する微細な孔を通して疎水性膜73内にも液体が浸透し始める。時間が経過すると、疎水性膜73の上に液体が浸透するとともに、疎水性膜73内に浸透した液体が疎水性膜73の下部にある第2の電極4の表面まで浸透する。このため、第1の電極3と第2の電極4との間に電流が流れ始める。
【0092】
さらに、図26(3)に示すように、液体が疎水性膜73上を覆うとともに液体が疎水性膜73の微細な孔全体に浸透すると、第1の電極3と第2の電極4との間に流れる電流はさらに増加する。送液制御装置8がこの電流を電流検出部86で検出し、制御部8が一定の量の電流(例えば、電流の変化がピーク状であるときそのピーク付近の一定の電流値を超えたことを検出する)を検出することにより、液体が疎水性膜7及び第2の電極4を通過したことを送液制御装置8が検知できる。
【0093】
なお、スイッチ81は液体が第2の電極4を通過したことを検知したあとオフにしてもよい。また、第2〜第7の実施形態と同様に、所定の時間を経過しても、電流が検出できない場合や電流が弱い場合、送液制御装置8は、検出された電流値に基づいて電源87(電圧印加装置)が印加する電圧をあげてもよい(検出された電流値に比例する電圧を印加するように制御したり、ステップ的に電圧を上昇させたりしてもよい)。また、送液制御装置8が送液制御装置8の動作(電圧の印加、電流の測定・判断、スイッチの開閉)を停止させてもよいし、エラー信号を発してもよい。
【0094】
この第8の実施形態では、第1の電極3を銀/塩化銀の材料で形成しているが、図27に示すように、この第1の電極3を銀/塩化銀の材料で形成するだけでなく、多孔質膜である疎水性膜73で覆ってもよい。図27に示す変形例は、第2の電極4のみならず、第1の電極3も多孔質膜である疎水性膜73で覆っている。第1の電極3、第2の電極4、それぞれの位置で、疎水性膜73が各金属膜全体を覆っている。このような変形例も、疎水性膜73が有する微細な孔を通して疎水性膜73内にも液体が浸透するので、第1の電極3と第2の電極4とに電源87(電圧印加装置)を接続して各金属膜に電圧を印加すると、各金属膜上にある疎水性膜73表面における電荷状態を変化させることができる。これにより、疎水性膜73内に液体を浸透させることができる。したがって、液体が第2の電極4上を通過することができる。
【0095】
(第9の実施形態)
次に、第1〜第8の実施形態の構成を複数の流路を有する送液チップ(マイクロ分析チップ)並びに送液制御装置及び検体分析装置(第9の実施形態)について図28〜図34を参照して説明する。図28は、この実施形態に係る送液チップを説明するための平面図及び断面図である。図29は、この実施形態に係る送液チップを構成する基板の平面図である。図30は、送液チップの流路の一部(流路合流点)を拡大して表示した図である。
【0096】
図28の(1)に示すように、この実施形態に係る送液チップは、基板115に設けられた流路、つまり、メイン流路114及びサブ流路104,105,106と、流路104,105,106,114の一部に設けられ液体を供給する供給部101,102,103と、流路の他の部分、つまり、メイン流路114の端部に設けられ、液体を排出する排出部107と、供給部101,102,103と排出部107との間、つまり、供給部101,102,103とメイン流路114との間の流路104,105,106に設けられた送液部と、送液部よりも排出部107側の流路114に設けられ液体の特性を分析する分析部113と、を備えている。また、この送液チップは、図示しないが制御部(送液制御装置)と接続され、全体として送液装置を構成している。
【0097】
なお、ここでいう送液部とは、第1〜第8の実施形態で説明した第1及び第2の電極並びに疎水性膜で構成される送液の構造をいい、具体的には、流路の一部に互いに分離して形成された第1及び第2の電極と、流路のその他の部分に形成され、その表面が疎水性である疎水性膜とで構成される。さらに第2の電極又は第4の電極を含んでもよい(以下、これらの構造を送液部という)。
【0098】
また、図29の(1)に示すように、メイン流路114及びサブ流路104,105,106,109,112が、サブ流路104,105,106,109,112がメイン流路114に合流するように配置され、全体として流路を構成している。これらの流路は第2の基板115に形成された溝を第1の基板116が覆うことにより形成されている。つまり、図28の(2)に示すように、溝が形成された第2の基板115に、電極が形成された第1の基板116を重ねることにより流路が形成されている。
これらの流路は、幅が0.5mm、高さが50μmの溝で形成されている。これら流路は、幅が1μm〜5mm程度、高さが1μm〜5mm程度の大きさの溝を第2の基板115に形成して設けるとよい。溝の大きさは、分析対象の液体(又は分析に用いる液体)の粘度、界面張力等の特性を考慮して決定すればよい。
【0099】
また、流路に供給される液体の量から、メイン流路114の溝の幅は、サブ流路104,105,106の溝の幅よりも大きくなるように形成され、これらの溝は、それぞれ流路内(メイン流路114、サブ流路104,105,106,109,112)において、一定の大きさ(幅及び深さ)の溝に形成されている。この実施形態では、メイン流路114の溝の幅がサブ流路104の溝の幅よりも大きく、また、サブ流路104の溝の幅がサブ流路105,106の溝の幅よりも大きく形成されている。
なお、メイン流路114の溝の幅が1μm〜5mmの場合、サブ流路104,105,106の溝の幅は、1μm〜1mmにするとよい。流路の溝を形成するにあたり、流路の溝の高さを考慮して基板の厚さを決めればよいが、この基板には、第1の基板が約0.1〜10mm、第2の基板が約0.01〜10mmの厚みの基板を用いるとよい。
【0100】
また、図29の(1)で示されるように、流路が形成された第2の基板115には、流路104,105,106,114,109,112が形成されているほか、供給部101,102,103, 排出部107,空気孔111が形成されている。サブ流路104,105,106,109,112の一端がメイン流路114につながっており、サブ流路104,105,106,109,112のもう一方の端が供給部101,102,103, 排出部107,空気孔111につながっている。このため、供給部から分析対象である液体が供給されると、液体は、供給部101,102,103からサブ流路104,105,106を経て、メイン流路114,サブ流路109の順で排出部107へ至ることになる。一方、サブ流路112,空気孔111は、流路内の通気のための経路であるので、液体はこの経路に至らない。なお、この実施形態では、分析対象である液体の供給経路としてサブ流路が3つ設けられているが分析に必要な液体の数に合わせてサブ流路の数を適宜調整してもよい。
【0101】
また、図29の(1)に示すように、供給部101,102,103が流路104,105,106,114の一部に設けられている。この実施形態では、第2の基板115に形成された円筒状(断面が円形)の貫通孔が流路104,105,106の端部に配置されて供給部101,102,103を形成している。ここから分析対象の液体が供給される。
【0102】
また、排出部107がメイン流路114の端部にサブ流路109を介して設けられている。
図29の(1)及び(2)に示すように、第2の基板115に形成された直方体(断面が長方形)の貫通孔により形成されている。この排出部107で分析部113を通過した液体を排出する。この実施形態では、排出部107には、液体の排出を速やかに行うため、吸収体132が形成されている。この吸収体は液体を吸収する材料から構成されている。例えば、高分子吸収体や、多孔性物質、親水性メッシュ、海綿体、綿、濾紙等、その他毛細管力を利用し液体を吸収する材料を用いる。この吸収体が液体を吸収することにより、液体がチップ外部へ流出することを防止できる。
【0103】
また、空気孔111が流路112の一部に設けられている。この空気孔111も供給部と同様に円筒状(断面が円形)の貫通孔が流路112の端部に配置されて空気孔を形成している。また、流路112の溝はメイン流路114の溝よりもその幅が狭く、流路104,105,106よりもその幅が大きくなるように形成されている。送液部に液体が浸透すると流路内の通気(気圧)により各送液部の送液が安定して行われないことがあるが、この空気孔111を設けると、このような不安定な送液が少なくなる。また、流路112の溝はメイン流路114の溝よりもその幅が狭いので、液体が空気孔側に送液されにくくなる。このため、空気孔111を設けることが好ましく、また、流路112の溝はメイン流路114の溝よりもその幅が狭いほうがよい。
さらに、流路内の通気のための経路に液体が進入すると、通気できないため、図28(2)および図29(2)に示すように、空気孔111とメイン流路114との間にある流路112に疎水領域(疎水性膜)131を形成するとよい。
なお、この空気孔111の流路は溝の高さが1μm〜5mm程度、幅が1μm〜1mm程度にするとよい。また、この貫通孔の直径は10μm以上であればよい。
【0104】
また、送液部が液体の供給経路である3つのサブ流路104,105,106にそれぞれ配置され、この送液部には、この明細書の第6の実施形態に係る送液部が用いられている。
図29の(2)に示すように、この送液部は、供給部に対応する位置に設けられた第1の電極126,127,128と、メイン流路114とサブ流路104,105,106との合流部近傍の各サブ流路に設けられた第2の電極120,121,122と、図30に示すように第2の電極120,121,122上にその一部を覆うように形成された疎水性膜135,136,137とを備えている。第1の電極126,127,128は供給部101,102,103に対応する基板116上の位置に配置され、供給部よりも流路側(流路内部)に配置されている。
また、液体を排出する経路であるサブ流路109にも、メイン流路114内に一定時間液体をためるため、送液部が形成されている。この送液部は、メイン流路114とサブ流路109との合流部側のメイン流路114に設けられた第1の電極129と、サブ流路109に設けられた第2の電極123と、この第2の電極123上にその一部を覆うように形成された疎水性膜(図示せず)とを備え、メイン流路114からの液体の排出の弁として機能する。
これら個々の構成は第6の実施形態で説明した構成と同じである。第3の電極や第4の電極をさらに配置してもよく、第6の実施形態に係る送液部のほか、この送液部には第1〜第5及び第7〜第8の実施形態で説明した送液部を用いてもよい。
【0105】
また、これら個々の構成のうち、第2の電極120,121,122,123の大きさは、図30に示すように、サブ流路104,105,106,109よりも大きく形成され、これらサブ流路は、第2の電極が設けられた位置でその大きさが小さく形成されている。つまり、供給部側での一定の大きさであった流路が第2の電極が形成された位置でその幅が細くなり、くびれが構成されている。このような構成を備えることにより、第2の電極を介して疎水性膜に電圧が印加されていない状態で、より液体が停止しやすくなる。 このため、第2の電極上で流路の大きさ(幅)が小さくなるよう形成するとよい。また、流路は第2の電極が形成された位置で一度その幅が細くなり、メイン流路側(液体が送られる方向)に向かって徐々に太くなっている。流路の合流部で液体が流れやすくするため、液体が送られる方向に向かって流路の大きさが太くなるように流路を形成するとよい。
【0106】
なお、サブ流路104,105,106の一部に形成された第2の電極120,121,122は、第6の実施形態に係る送液部の構成の一部に相当する。図30に示すように、第2の電極120,121,122は、サブ流路側の表面の一部が疎水性膜135,136,137で覆われており、他の部分で電極表面が露出している。この露出している電極表面が第6の実施形態で示した液体を検知する電極の役割を果たしている。
一方、疎水性膜135,136,137で覆われている部分において、第2の電極120,121,122がEWバルブの作動電極となり、バルブの開閉を行う役割を果たしている。つまり、第2の電極120,121,122は、バルブの開閉を行うとともに、液体が通過したかどうかを検知する役割も果たす。第2の電極120,121,122及び疎水性膜135,136,137がサブ流路104,105,106に配置されることにより、それぞれのサブ流路にある液体がメイン流路に入っていく、あるいは出て行く制御が可能になるのである。
【0107】
また、これら個々の構成、つまり、第1の電極126,127,128,129及び第2の電極120,121,122,123には、図29の(2)で示すように、それぞれ配線が設けられ、その端部に端子が形成されている。この端子は制御部に接続され、制御部が送液部を制御するように構成されている。なお、この配線・端子を金の材料で形成すると、送液装置の作成で検出電極などの工程を併用でき、より容易な工程で作成できる。この金材料のほか、白金、アルミニウム、銅などの材料を含んだ導電性材料を用いて形成してもよい。
【0108】
この実施形態では、送液装置を分析装置として用いるため、流路に分析部が設けられている。この分析部113は、送液部104,105,106よりも排出部107側の流路114に設けられ液体の特性を分析する(図28の(1)を参照)。
図29(2)に示すように、分析部113は、金属膜で形成された作用電極117,参照電極118,対向電極119で構成され、これらはメイン流路114に形成されている。これらはそれぞれ配線に接続され、基板116の端部に形成された端子に接続されている。これらの電極を用いて、3電極測定方法によるタンパク質などの測定をすることができる。
なお、この実施形態では、電極を用いた分析部を例としてあげているが、例えば、光学的な分析に用いるため、分析部に透明電極を設けてもよいし、またフィルター等の電極以外の構造物を設けてもよい。
【0109】
次に、図31、図32を用いて、この実施形態に係る送液チップ(マイクロ分析チップ)の制御を行う検体分析装置について説明する。
図31は、この実施形態に係る送液チップ及び検体分析装置の斜視図である。図32は、検体分析装置のブロック図である。メタボリックシンドロームの発症に関わるアディポネクチン等の特定タンパク質の分析に用いる。
【0110】
この実施形態の検体分析装置は、メタボリックシンドロームの発症に関わるアディポネクチン等の特定タンパク質の分析に用いる送液チップ(マイクロ分析チップ)の制御部を備える。この装置で使用する送液チップは、アディポネクチン等の特定タンパク質の分析のための分析部を備えることから、検体分析装置の制御部は、第1〜第8の実施形態の制御部と基本的には同じであるが、第1〜第8の実施形態の制御部と分析部の制御部も備える点で相違している。
【0111】
図31に示すように、検体分析装置51は、マイクロ分析チップ50(送液チップ)が挿入されて使用される(図31(1))。マイクロ分析チップ50が検体分析装置51に挿入されることにより、マイクロ分析チップ50が検体分析装置51に接続される(図31(2))。マイクロ分析チップ50は、端部に入出力用の端子(図28参照)を備え、この端子により、マイクロ分析チップ50と検体分析装置51とが接続される。
【0112】
図32に示すように、検体分析装置51は、送液制御装置8を含んでいる。つまり、検体分析装置51は、送液動作検知回路とバルブ駆動回路と装置制御部とを有する送液制御装置を含み、これらが電気化学的検出回路95に接続されている。また、送液動作検知回路及びバルブ駆動回路並び電気化学的検出回路95は、マイクロ分析チップ50に端子を介して接続されている。
【0113】
送液動作検知回路865は、マイクロ分析チップ50から送液動作の信号を受け、送液動作の状態を検知する。また、バルブ駆動回路855は、マイクロ分析チップ50にバルブ(送液部)を駆動する信号を出力し、マイクロ分析チップ50のバルブを開放する。さらに、電気化学的検出回路95は、マイクロ分析チップ50に供給された検体(分析対象の液体)に関する信号をマイクロ分析チップ50から受け、分析電気化学的な信号を検出する。これらの回路は、装置制御部に接続されており、装置制御部とこれらの回路との間で動作フローのデータが入出力され、装置制御部がこれらの回路の動作フローを制御する。
なお、送液動作検知回路865は、第1〜第8の実施形態における電流検出部86に相当する回路であり、バルブ駆動回路855は、第1〜第8の実施形態におけるスイッチ(812、82等)及びSW制御部85に相当する回路である。
【0114】
また、装置制御部は、読み出し専用記憶部(例えば、ROM)に接続されており、この読み出し専用記憶部から動作フローデータを読み出す。これにより、各回路の動作フローの適否を判断する。この装置制御部は、CPU、MPUあるいはマイクロコントローラー等で構成される。尚、マイクロコントローラーは、データ記憶部と読み出し専用記憶部と表示用回路を包括したものが汎用化されている。
【0115】
また、電気化学的検出回路95は、データ記憶部と読み出し専用記憶部と表示部とも接続されている。データ記憶部は、電気化学的検出回路95で検出されたデータを記憶し、表示部は、電気化学的検出回路95で検出されたデータを表示する。この表示部は、ディスプレイとスピーカーとで構成され、視覚的な表示のほか、音声的な表示も行う。
【0116】
次に、図33〜図38を用い、メタボリックシンドロームの発症に関わるアディポネクチン等の特定タンパク質を分析する例を挙げて、この実施形態に係る検体分析装置の動作を説明する。
図33は、検体分析装置の動作を説明するためのフロー図(前半のフロー図)であり、図34は、図33に示すフローにさらに続くフローを示す図(後半のフロー図)である。また、図35、36は、検体分析装置が電圧制御部を備える場合のフロー図であり、図37、38は、検体分析装置が振動制御部を備える場合(ただし、電圧制御部は備えない)のフロー図である。図35〜図38は、第3の実施形態の送液制御装置を検体分析装置に適用した例に相当する。
この実施形態での検体分析装置の制御フローは、基本的に第1〜第8の実施形態で示した制御部のフローと同様のフローであるが、上記で説明したように、送液チップ(マイクロ分析チップ)に複数の送液部があり、また分析部も備えることから、複数の送液部の制御と分析部の制御を行う点で相違している。メタボリックシンドロームの発症に関わるアディポネクチン等の特定タンパク質を分析する例で、以下説明する。
【0117】
まず、供給部101,102,103にそれぞれサンプル溶液、洗浄液、基質が供給されると、検体分析装置は送液部を用いて供給部101のサンプル溶液を送液する。つまり、検体分析装置(バルブ駆動回路855)はサブ流路104にある第2の電極120と第1の電極126との間に電圧を印加する(ステップ1)。例えば、1.5Vの電圧を印加する。このとき、第1の電極126が電位的にHigh、第2の電極120が電位的にはLowとする。これにより、流路104をサンプル液が通過し始める。このため、サブ流路104からメイン流路114にサンプル溶液が送液される。なお、この実施形態でいうサンプル溶液とは、例えば、被験者の血液を前処理し希釈した溶液である。
【0118】
次いで、検体分析装置(送液動作検知回路865)は、分析部113にある作用電極117,参照電極118,対向電極119を用いて電気的にサンプル液を検知する(サンプル検知。ステップ2)。サンプル液が検知されない場合、検体分析装置は、エラー信号を表示部に表示し、その後電源を切る(あるいは送液動作を停止させる)。サンプル液が検知された場合、検体分析装置は、検知後3分間この状態を保持する。尚、サンプル検知を省いて、3分間の保持動作を行ってもよい。この3分間の保持動作により、電極に予め固定化された1次抗体に分析対象となる血中特定タンパク質が反応しくっつく。このとき、サンプル液には血液を前処理した際、酵素標識した2次抗体が入っており、電極に固定化された1次抗体とくっついた血中特定タンパク質に更にくっつくことになる。
なお、この実施形態に係る検体分析装置51では、作用電極117,参照電極118,対向電極119が送液動作検知回路865及び電気化学的検出回路95に接続され、ステップ2では、送液動作検知回路865が作用電極117,参照電極118,対向電極119を用いて電気的にサンプル液を検知している。このステップ2は、送液動作検知回路865が第2の電極120と第1の電極126との間の電流を測定して一定の電流が流れたか否かを確認してもよい。
【0119】
次いで、検体分析装置(バルブ駆動回路855)は、液体を排出する経路であるサブ流路109の第2の電極123と第1の電極129との間に電圧を印加する(ステップ3)。例えば、1.5Vの電圧を印加する。第1の電極がHigh、第2の電極がLowという条件は上記と同じである。これにより、サブ流路109をサンプル液が通過し始める。
【0120】
次いで、検体分析装置(送液動作検知回路865)は、サンプル液が排出部に送液されたか否かを検知する(流路109排出検知。ステップ4)。つまり、検体分析装置(送液動作検知回路865)は第2の電極123と第1の電極129との間の電流を測定して一定の電流が流れたか否かを確認する。排出部への送液が検知されない場合、検体分析装置は、エラー信号を表示部に表示し(ステップE)、その後電源を切る(あるいは送液動作を停止させる)。排出部への送液が検知された場合、次のステップに進む。
【0121】
なお、検体分析装置が電圧制御部を備えるときに、排出部への送液が検知されない場合は、図35に示すように、第2の電極123と第1の電極129との間の電圧をさらに高い電圧に変更し、上記ステップ3に戻る(図35の高電圧印加。以下、高電圧印加フローという。)。このフローは、排出部への送液が検知されるまで、又は第2の電極123と第1の電極129との間の電圧が所定の電圧になるまで、続けられる。所定の電圧になっても、排出部への送液が検知されない場合、つまり、所定の時間(例えば、電圧印加直後、1分〜3分)以内に検知できなかった場合、エラー信号を表示し(後述するステップE)、その後、電源を切る、あるいは送液動作を停止させる。
また、検体分析装置が振動制御部を備えるときに排出部への送液が検知されない場合は、図37に示すように、振動制御部がマイクロ分析チップ50に接触するように設けた振動発生器を振動させ(以下、振動ステップという)、所定の時間経過後、検体分析装置は、サンプル液が排出部に送液されたか否かを検知する(つまり、ステップ4に戻る)。排出部への送液が検知されるまで、振動制御部が振動発生器を振動させ、所定の時間(例えば、1分以内)を経過しても排出部への送液が検知されない場合、ステップEに進む。
【0122】
次いで、検体分析装置(バルブ駆動回路855)は、送液部を用いて供給部102の洗浄易を送液する。つまり、検体分析装置(バルブ駆動回路855)は、サブ流路105にある第2の電極121と第1の電極127との間に電圧を印加する(ステップ5)。例えば、1.5Vの電圧を印加する。第1の電極がHigh、第2の電極がLowという条件は上記と同じである。これにより、流路105を洗浄液が通過し始める。
【0123】
検体分析装置(送液動作検知回路865)は、洗浄液がメイン流路114に送液されたか否かを検知する(洗浄液注入検知。ステップ6)。つまり、検体分析装置(送液動作検知回路865)は第2の電極121と第1の電極127との間の電流を測定して一定の電流が流れたか否かを確認する。メイン流路114への送液が検知されない場合、検体分析装置は、エラー信号を表示部に表示し(ステップE)、その後電源を切る(あるいは送液動作を停止させる)。メイン流路114への送液が検知された場合、次のステップに進む。
【0124】
なお、検体分析装置が電圧制御部を備えるときに、メイン流路114への送液が検知されない場合は、図35に示すように、第2の電極121と第1の電極127との間の電圧をさらに高い電圧に変更し、上記ステップ5に戻る。このフローは、上記高電圧印加フローと同様のフローで進む。
また、検体分析装置が振動制御部を備えるときに排出部への送液が検知されない場合は、図37に示すように、上記振動ステップと同様のステップに進む。
【0125】
次いで、検体分析装置(バルブ駆動回路855)は、サブ流路109(液体排出経路)の第2の電極123と第1の電極129との間に電圧を印加する(ステップ7)。このときの電圧等の条件は、上記の第2の電極123と第1の電極129との電圧印加と同じである。これにより、洗浄液が排出部107に送液され始める。
【0126】
次いで、検体分析装置(送液動作検知回路865)は、洗浄液が排出部に送液されたか否かを検知する(流路109排出検知。ステップ8)。つまり、検体分析装置(送液動作検知回路865)は第2の電極123と第1の電極129との間の電流を測定して一定の電流が流れたか否かを確認する。排出部への送液が検知されない場合、検体分析装置は、エラー信号を表示部に表示し(ステップE)、その後電源を切る(あるいは送液動作を停止させる)。排出部への送液が検知された場合、次のステップに進む。
【0127】
なお、検体分析装置が電圧制御部を備えるときに、排出部への送液が検知されない場合は、図35に示すように、第2の電極123と第1の電極129との間の電圧をさらに高い電圧に変更し、上記ステップ7に戻る。このフローは、上記高電圧印加フローと同様のフローで進む。
また、検体分析装置が振動制御部を備えるときに排出部への送液が検知されない場合は、図37に示すように、上記振動ステップと同様のステップに進む。
【0128】
次いで、検体分析装置(バルブ駆動回路855)は、送液部を用いて供給部103の基質を送液する。つまり、サブ流路106にある第2の電極122と第1の電極128との間に電圧を印加する(ステップ9)。例えば、1.5Vの電圧を印加する。第1の電極がHigh、第2の電極がLowという条件は上記と同じである。これにより、流路106を基質が通過し始める。メイン流路114に基質が送液される。
【0129】
検体分析装置(送液動作検知回路865)は、基質がメイン流路114に送液されたのか否かを検知する(基質注入検知、ステップ10)。つまり、検体分析装置(送液動作検知回路865)は、第2の電極122と第1の電極128との間の電流を測定して一定の電流が流れたか否かを確認する。基質が検知されない場合、検体分析装置は、エラー信号を表示部に表示し(ステップE)、その後電源を切る(あるいは送液動作を停止させる)。基質が検知された場合、検体分析装置は、検知後、3分間メイン流路114に基質を保持する。この間、測定すべき血中特定タンパク質は、酵素標識した2次抗体とくっつくことによって酵素標識されているため、基質はこの酵素と反応し反応生成物を生成する。
【0130】
なお、検体分析装置が電圧制御部を備えるときに、基質が検知されない場合は、図35に示すように、第2の電極122と第1の電極128との間の電圧をさらに高い電圧に変更し、上記ステップ9に戻る。このフローは、上記高電圧印加フローと同様のフローで進む。
また、検体分析装置が振動制御部を備えるときに基質が検知されない場合は、図37に示すように、上記振動ステップと同様のステップに進む。
【0131】
次いで、検体分析装置(電気化学的検出回路95)は、分析部113にある作用電極117,参照電極118,対向電極119を用いて電気化学的な測定(3電極測定方法)を行う(ステップ11)。尚、酵素基質反応で生成された反応生成物の濃度が血中特定タンパク質の濃度に対応しており、電気化学的に測定することができる。電気化学的な測定で電流値が検出されない場合、検体分析装置はエラー信号を表示部に表示し(ステップE)、その後電源を切る(あるいは送液動作を停止させる)。電流値が検出された場合、検体分析装置は次のステップに進む。
その後、検体分析装置は、表示部に測定した電流値やグラフを表示したり、測定データから特定タンパク質の濃度を算出したりする。また、検体分析装置は、特定タンパク質の濃度を算出するための参照データを読出し専用記憶部あるいはデータ記憶部から読み出したり、測定した特定タンパク質の濃度をデータとしてデータ記憶部に記憶させたりする。
【0132】
(実証実験1)
第9の実施形態に係る送液制御装置及び検体分析装置を用いて、メタボリックシンドロームの発症に関わるアディポネクチンの濃度を測定し、血中濃度を定量化する実験を行った。予めメイン流路114内の検出電極117に抗体(R&D MAB10651)を固定させた。抗体の固定方法は、37℃で10分間インキュベーションし物理吸着固定により実施した。そして、血液サンプルを用意し、前処理を経てアディポネクチンを抽出し酵素標識抗体との混合液を作製した。そして、下記の手順で測定を行った。
【0133】
(作業手順)
(1)第1の導入流路104からアディポネクチン(血漿を前処理して抽出した成分)と酵素(ALP)標識抗体(2.5μg/mL)との混合液2μLを、メイン流路114に導入した。5分間停止した後、排出した。
(2)第2の導入流路105から、洗浄用のトリス緩衝溶液(THAM(tris hydroxymethyl aminomethane):10mM、NaCl:137mM、MgCl:1mM、PH9.0)2μLを、メイン流路114に導入し、その後排出した。
(3)第3の導入流路106から基質(pAPP(p-Aminophenyl phospphate))溶液(1mM)2μLを、メイン流路14に導入して、メイン流路14に停止させた。
(4)5分後に、酵素と基質とが反応して生成されるpAP(p-Aminophenol)を、検出部電極で電気化学的(サイクリックボルタンメトリー法)検出を行い、ピーク電流値を測定した。
【0134】
また、メタボリックシンドロームの発症に関わるアディポネクチンの濃度の測定には3電極測定方法を用いた。具体的には、この3電極測定方法としてサイクリックボルタンメトリー(以下CV測定という)を用いた。このCV測定は、サンプル溶液に電圧をかけるための3つの電極、つまり、作用電極、参照電極及び対向電極を用いる測定方法であり、参照電極には一定の範囲の電位変化を与え、一方、電流は流さないようにしておき、作用電極と対向電極との間に電圧の変化を与えて電流値の変化を検出する測定方法である。
【0135】
図39にこの実証実験で用いたCV測定における電圧変化(入力)を示す。また、図40にこの実証実験で得られた結果を示す。図40の(A)は、健常者の血漿AをサンプルにしたときのCV測定結果であり、図40の(B)は、健常者の血漿BをサンプルにしたときのCV測定結果である。図39に示すように、作用電極117と対向電極119間に径時的に三角波の電位差を与えた。このとき、得られる電流−電圧特性曲線は作用電極117にくっついているアディポネクチンの量の影響で、図40に示すようなヒステリシス曲線を描いた。
【0136】
使用したサンプルは2種類の血漿で、健常者(BMI=20kg/m2)の血漿Aと肥満者(BMI=40kg/m2)の血漿Bである。この2種類の血漿をそれぞれ前処理した後、第9の実施形態に係るマイクロ分析チップに注入し(検体分析装置に装着済み)、図33及び図34に示すフローでCV測定を行った。2種類のサンプルのCV測定結果を比べたところ、図40に示すように、肥満者の方が明らかに小さな曲線を描いていた(図40 (B))。
【0137】
このCV測定結果をもとに被験者各々の血中アディポネクチン濃度を算出したところ、健常者は12μg/ml、肥満者は2μg/mlという結果が得られた。通常、メタボリック症候群とされる人はこのアディポネクチンの量が血中で大幅に低下することがわかっており、このことが第9の実施形態に係るマイクロ分析チップおよび検体分析装置で確認することができた。また、この実験により、第9の実施形態に係るマイクロ分析チップおよび検体分析装置を用いて、マイクロ分析チップの流路内におけるアディポネクチン等の混合液の位置を検出することができ、流路内でより速やか、かつ安定してアディポネクチン等の混合液を通過させることができることが確認できた。
【0138】
(実証実験2)
さらに、第9の実施形態に係るマイクロ分析チップおよび検体分析装置を用いて、クロノアンペロメトリーにより、サンプル(血漿)中のアディポネクチン濃度を電気化学的に測定し、その血中濃度の定量化を行った。具体的な測定を以下に示す。
上記CV測定と同様に、電極構成はほぼ同じで、参照電極118は通常一定の電位が付与されており、作用電極117と対向電極119間での電位差によって検出される電流値の変化を測定したものである。
図41に測定条件(電圧変化)及び測定結果を示す。
【0139】
図41(1)に示すように、作用電極117と対向電極119間に瞬時に立ち上がるステップ電位を付与し、その電位差をしばらくの間維持させた。このとき、作用電極17にくっついているアディポネクチンの量の影響で、得られた電流値の変化は、図41(2)に示すような曲線を描き、ある程度の範囲で一定値に収束した。
【0140】
CV測定と同様に、使用したサンプルは2種類の血漿で健常者(BMI=20kg/m2)の血漿Aと肥満者(BMI=40kg/m2)の血漿Bである。この2種類の血漿をそれぞれ前処理し、その後、第9の実施形態に係るマイクロ分析チップに注入した(検体分析装置に装着済み)。そして、図33及び図34に示すフロー(図33、図34参照)にて、クロノアンペロメトリーで測定を行なった。2つの測定結果を比べたところ、肥満者の方が明らかに低い値を示していた(図41(2))。
【0141】
この測定結果をもとに被験者各々の血中アディポネクチン濃度を算出したところ、健常者は10μg/m l、肥満者は2μg/mlというCV測定とほぼ同様の結果が得られた。(測定精度は±20%程度であった)
【0142】
また、この実験でも、第9の実施形態に係るマイクロ分析チップおよび検体分析装置を用いて、マイクロ分析チップの流路内におけるアディポネクチン等の混合液の位置を検出することができ、流路内でより速やか、かつ安定してアディポネクチン等の混合液を移動させることができることが確認できた。
【0143】
第1〜第9の実施形態及び実証実験1及び2では、送液装置で水溶液を送液することを前提に説明したが、この発明は水溶液を送液することに限定されない。例えば、この発明の送液装置を油の送液に用いる場合、疎水性膜を疎油性膜に、流路の表面を親油性の表面に、それぞれ置き換えて構成してもよい。
また、以上の実施形態で示した種々の特徴は、互いに組み合わせることができる。1つの実施形態中に複数の特徴が含まれている場合、そのうちの1又は複数個の特徴を適宜抜き出して、単独で又は組み合わせて、本発明に採用することができる。
【符号の説明】
【0144】
1 第1の基板
11 第2の基板
12 供給孔
13 排出孔
2 流路
3 第1の電極
4 第2の電極
5 第3の電極
6 第4の電極
7 疎水性膜
71 絶縁破壊を起こす絶縁膜
73 多孔質膜
8 送液制御装置
50 マイクロ分析チップ
51 検体分析装置
81,82,83 スイッチ
85 スイッチ制御部(SW制御部)
855 バルブ駆動回路
86,861,862 電流検出部
865 送液動作検知回路
87 電源
88 電圧制御部
89 振動制御部
90 振動発生器
95 電気化学的検出回路
101,102,103 供給部
104,105,106,109,112 サブ流路(流路)
114 メイン流路(流路)
107 排出部
111 空気孔
113 分析部
115 第2の基板
116 基板
120,121,122,123 第2の電極
126,127,128,129 第1の電極
131 疎水領域(疎水性膜)
135,136,137 疎水性膜
132 吸収体
15 マイクロ分析チップ(送液チップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細流路の液体を送液する送液装置であって、
前記流路の一部分に互いに分離して形成された第1及び第2の電極と、
前記流路の他の部分に形成され、その表面が疎液性である疎液性膜と、
第1の電極と第2の電極との間及び第1の電極と疎液性膜との間に選択的に電圧を印加する制御部と、
前記制御部が第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、第1及び第2の電極の間に流れる電流を検出して流路における液体を検知する第1の液体検知部と、
を備え、
前記制御部は、第1の液体検知部が液体を検知したとき、第1の電極と前記疎液性膜との間への電圧の印加を行い、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液することを特徴とする送液装置。
【請求項2】
前記疎液性膜が第1の電極と第2の電極の間に配置され、
前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液し、第1の液体検知部が電流を検出して液体を検知する請求項1に記載の送液装置。
【請求項3】
前記疎液性膜が第1の電極から第2の電極よりも離れて配置され、
前記制御部は、第1の液体検知部が液体を検知したときに、第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液する請求項1に記載の送液装置。
【請求項4】
前記流路の他の部分に第1及び第2の電極と分離して形成された第3の電極をさらに備え、
前記疎液性膜が第3の電極上に形成され、
前記制御部が第3の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液する請求項1〜3の何れか1つに記載の送液装置。
【請求項5】
第1の電極と第3の電極との間に流れる電流を検出して液体を検知する第2の液体検知部をさらに備え、
前記疎液性膜が第3の電極の一部を覆うように第3の電極上に形成され、
前記制御部が第3の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間へ電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液し、第2の液体検知部が電流を検出して流路における液体を検知する請求項4に記載の送液装置。
【請求項6】
前記流路の他の部分に第1及び第2の電極と分離して形成され、第1の電極から第2の電極及び疎液性膜よりも離れて配置された第4の電極と、
第1の電極と第4の電極との間に流れる電流を検出して第1及び第4の電極上の流路における液体を検知する第3の液体検知部と、
をさらに備え、
前記制御部は、第1の電極と第4の電極との間にさらに選択的に電圧を印加し、
第1の液体検知部が液体を検知したときに、前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液し、第3の液体検知部が電流を検出して流路における液体を検知する請求項3に記載の送液装置。
【請求項7】
前記疎液性膜が第2の電極上に第2の電極の一部を覆うように形成され、
前記制御部は、第2の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間へ電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液する請求項1に記載の送液装置。
【請求項8】
前記疎液性膜は、絶縁破壊を起こす絶縁体の膜であり、第2の電極上に第2の電極の全部を覆うように形成され、
前記制御部は、第2の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間に前記絶縁体の破壊電圧以上の電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ液体を送液し、第1の液体検知部が電流を検出して流路における液体を検知する請求項1に記載の送液装置。
【請求項9】
前記疎液性膜は、多孔質膜であり、第2の電極上に第2の電極を覆うように形成され、
前記制御部が第1の電極と前記疎液性膜との間に電圧を印加し、それによって前記疎液性膜の疎液性を変化させ、第1の液体検知部が電流を検出して流路における液体を検知する請求項1に記載の送液装置。
【請求項10】
請求項4に記載の疎液性膜に替えて、第3の電極を疎液性処理して形成した電極表面層を備えた送液装置。
【請求項11】
請求項7に記載の疎液性膜に替えて、第2の電極を疎液性処理して形成した電極表面層を備えた送液装置。
【請求項12】
前記制御部が選択的に印加する電圧の大きさを制御する電圧制御部をさらに備え、
前記電圧制御部は、前記制御部により第1の電極と第2の電極との間へ電圧が印加され、かつ第1の液体検知部により液体が検知されないときに、第1の電極と疎液性膜との間に印加する電圧を大きくする請求項1〜9の何れか1つに記載の送液装置。
【請求項13】
前記電圧制御部は、前記制御部により第3の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間へ電圧が印加され、かつ第2の液体検知部により流路における液体が検知されないときに、第1の電極と前記疎液性膜との間に印加する電圧を大きくする請求項12に記載の送液装置。
【請求項14】
前記流路を振動させる振動源と、
前記振動源の振動を制御する振動制御部とをさらに備え、
前記振動制御部は、前記制御部により第1の電極と第2の電極との間へ電圧が印加され、かつ第1の液体検知部により液体が検知されないときに、前記振動源を振動させる請求項1〜9の何れか1つに記載の送液装置。
【請求項15】
前記振動制御部は、前記制御部により第3の電極を介して第1の電極と前記疎液性膜との間へ電圧が印加され、かつ第2の液体検知部により流路における液体が検知されないときに、前記振動源を振動させる請求項14に記載の送液装置。
【請求項16】
微細流路と、
前記流路の一部分に設けられ、流路の液体を前記流路に供給する供給部と、
前記流路の他の部分に設けられ、前記液体を前記流路から排出する排出部と、前記供給部と前記排出部との間の前記流路に設けられ、前記液体の特性を分析するための電極が形成された分析部と、
をさらに備え、
前記供給部と前記分析部との間又は前記分析部と前記排出部との間の前記流路に、第1及び第2の電極並びに疎液性膜が設けられた請求項1に記載の送液装置に用いるための送液チップ。
【請求項17】
前記流路がメイン流路とサブ流路とで構成され、前記サブ流路が前記メイン流路に合流するように配置され、
前記供給部が前記サブ流路に配置され、
前記排出部及び前記分析部が前記メイン流路に配置され、
請求項1に記載の第1及び第2の電極並びに疎液性膜が前記供給部から前記メイン流路と前記サブ流路との合流部までの間の前記サブ流路に配置された請求項16に記載の送液チップ。
【請求項18】
前記サブ流路に設けられ、流路に空気を入れる空気孔をさらに備えた請求項16に記載の送液チップ。
【請求項19】
前記空気孔が設けられたサブ流路の大きさはメイン流路の大きさよりも小さい請求項18に記載の送液チップ。
【請求項20】
メタボリックシンドローム判定用の請求項16〜19の何れか1つに記載の送液チップ。
【請求項21】
請求項16に記載の送液チップを用いて検体を分析する検体分析装置であって、
前記供給部と前記分析部との間の、第1及び第2の電極並びに疎液性膜と接続され、第1の電極と第2の電極との間及び第1の電極と疎液性膜との間に選択的に電圧を印加する駆動回路と、
前記駆動回路が、前記供給部と前記分析部との間の、第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、第1及び第2の電極の間に流れる電流を検出して流路における液体を検知する送液動作検知回路と、
前記送液動作検知回路が液体を検知したときに、前記分析部の電極に流れる電流を検出して液体の電気化学的特性を検出する電気化学的検出回路と、
を備える検体分析装置。
【請求項22】
請求項16に記載の送液チップを用いて検体を分析する検体分析装置であって、
前記供給部と前記分析部との間の、第1の電極と第2の電極との間及び第1の電極と疎液性膜との間に選択的に電圧を印加する駆動回路と、
前記駆動回路が、前記供給部と前記分析部との間の、第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、前記分析部の電極に流れる電流を検出して流路における液体を検知する送液動作検知回路と、
前記送液動作検知回路が液体を検知したときに、前記分析部の電極に流れる電流を検出して液体の電気化学的特性を検出する電気化学的検出回路と、
を備える検体分析装置。
【請求項23】
請求項16に記載の送液チップを用いて検体を分析する検体分析装置であって、
前記分析部と前記排出部の間の、第1の電極と第2の電極との間及び第1の電極と疎液性膜との間に選択的に電圧を印加する駆動回路と、
前記駆動回路が、前記分析部と前記排出部の間の、第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加したときに、第1の電極と第2の電極との間に流れる電流を検出して流路における液体を検知する送液動作検知回路と、
前記分析部の電極に流れる電流を検出して液体の電気化学的特性を検出する電気化学的検出回路と、
を備え、
前記電気化学的検出回路が液体の電気化学的特性を検出したときに、前記駆動回路が、前記分析部と前記排出部の間の、第1の電極と第2の電極との間へ電圧を印加する検体分析装置。
【請求項24】
前記電気化学的検出回路は、血液に含まれるタンパク質の濃度を検出する請求項21〜23のいずれか1つに記載の検体分析装置。
【請求項25】
メタボリックシンドローム判定用の請求項21〜24のいずれか1つに記載の検体分析装置。

【図1】
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【図3】
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【図10】
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【図13】
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【図18】
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【図21】
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【図24】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図26】
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