説明

送電用避雷装置

【課題】直列ギャップが外部環境の影響を受けないで、安定な放電特性を得ることができ、かつ放電後に生じる続流を抑制遮断できる送電用避雷装置を提供する。
【解決手段】鉄塔の支持アームに取り付けられ、送電線を支持する支持碍子及び避雷要素部と、避雷要素部の下部に接続された放電部と、避雷要素部と放電部との間に設けられた避雷要素側放電電極と、支持碍子と放電部の下部に取り付けられた課電側放電電極6と、支持碍子の上端に取り付けられ、課電側放電電極6の端部と対向する放電電極とを備え、放電部は、内部に放電空間18を形成した絶縁碍管15を有し、絶縁碍管15の内部に避雷要素側放電電極と課電側放電電極6との間で直列ギャップを形成した送電用避雷装置において、絶縁碍管15の上端は密閉し、下端は放電空間18を外部に開放した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電系統において、鉄塔上に設置される送電用避雷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、送電系統において、鉄塔上に設置される送電用避雷装置は、雷サージ侵入防止と瞬停対策として効果を発揮している。今日の情報化社会において、停電防止を確保するためには送電系統への雷撃時に避雷装置が確実に動作することが必要である。
【0003】
この送電用避雷装置は、酸化亜鉛を収納した避雷要素が送電線支持碍子連と並列に鉄塔に取り付けられている。近年、処理能力を上回るサージにより避雷装置本体が万一破壊した後でも再送電する必要があるため、避雷装置本体と直列に気中ギャップ(直列ギャップ)を備えている送電用避雷装置が主流になっている。
【0004】
図9は、従来の直列ギャップ付き送電用避雷装置を示す概略図である。
送電線1は、鉄塔の支持アーム5の先端部に取り付けられた支持碍子2を介して支持されている。また、支持碍子2の上下両端部には、ギャップ長Gを有する一対のアークホーン3が互いに対向するようにして取り付けられている。アークホーン3は、ホーン間に雷電流を通電させて、支持碍子2の破壊を防ぐが、これのみでは、アークホーン3間に地絡電流が流れ続けることになる。
【0005】
そのため、鉄塔のもう一方側には、取付金具7を介して避雷要素部4と直列ギャップ9が設けられる。支持碍子2の下端部に送電線1と電気的に接続された課電側放電電極6が取り付けられ、避雷要素部4の下端部に避雷要素側放電電極8が取り付けられる。課電側放電電極6の端部は、アークホーン3の対向する放電電極の一方である。直列ギャップ9は、避雷要素側放電電極8と課電側放電電極6との間にアークホーン3のギャップ長Gより短いギャップ長gを有する。直列ギャップ9は、通常の運転電圧が印加されても放電しないが、過大雷サージ発生時に放電し、避雷要素部4の電圧非線形特性により、アークの続流を遮断し瞬時停電が防止できる(例えば特許文献1)。
【0006】
しかし、上記した直列ギャップ付き送電用避雷装置には、風等の振動で直列ギャップ9のギャップ長gが変わり、所要の放電特性が確保されず、また、鳥獣の侵入により直列ギャップ9が短絡するリスクも高いという問題がある。更に、避雷要素部4の外被上の過酷な汚損により直列ギャップ9に過大な電流が流れ、アークの続流の遮断に失敗することがある。
【0007】
そこで、直列ギャップ9を露出せず、電極を絶縁容器内に対向させ外気と遮断した構造とし、風等の影響で長さが変わることを防いだ放電部を備えた送電用避雷装置が知られている(特許文献2参照)。
【0008】
図10は、特許文献2に開示された放電部を備えた送電用避雷装置を示す図であり、(a)は概略図、(b)は放電部の断面図である。
鉄塔に支持碍子2を介して送電線1を支持し、支持碍子2と並列に避雷要素部4と直列ギャップを有する放電部10の直列接続体を接続する。放電部10は、絶縁筒に端板を取り付けた絶縁容器31の内部を真空にするか又は内部に絶縁ガスを封入し、両端板に避雷要素側放電電極32と課電側放電電極極33を対向して支持して構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−17549号公報
【特許文献2】特開平7−57576号公報
【特許文献3】特開2008−251715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した従来例のような、直列ギャップを有する放電部を備えた送電用避雷装置では、電極を絶縁容器内に対向させ外気と遮断した構造であるが、絶縁容器内の圧力が上昇すると放電後に内部気体を放出することができず、続流を抑制遮断できない場合が生ずる。
【0011】
本発明の目的は、直列ギャップが外部環境の影響を受けないで、安定な放電特性を得ることができ、かつ放電後に生じる続流を確実に抑制遮断できる送電用避雷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の送電用避雷装置は、鉄塔の支持アームに取り付けられ、送電線を支持する支持碍子及び避雷要素部と、前記避雷要素部の下部に接続された放電部と、前記避雷要素部と前記放電部との間に設けられた避雷要素側放電電極と、前記支持碍子と前記放電部の下部に取り付けられた課電側放電電極と、前記支持碍子の上端に取り付けられ、前記課電側放電電極の端部と対向する放電電極とを備え、前記放電部は、内部に放電空間を形成した絶縁碍管を有し、前記絶縁碍管の内部に前記避雷要素側放電電極と前記課電側放電電極との間で直列ギャップを形成した送電用避雷装置において、前記絶縁碍管の上端は密閉し、下端は前記放電空間を外部に開放したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、放電部の直列ギャップは外部環境の影響を受けないので、安定的な放電特性を得ることが可能であり、また、過大な雷サージ発生時、放電部内の対向電極間に気中放電が発生して放電部空間内の圧力が上昇しても、内部気体を放電部下端から放出することにより続流を確実に抑制遮断できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1における送電用避雷装置を示す概略図。
【図2】同送電用避雷装置の放電部の断面図。
【図3】本発明の実施形態2における送電用避雷装置の放電部の断面図。
【図4】本発明の実施形態3における送電用避雷装置の放電部の断面図。
【図5】本発明の実施形態4における送電用避雷装置の避雷要素部と放電部の正面図。
【図6】本発明の実施形態5における送電用避雷装置の放電部の断面図。
【図7】本発明の実施形態5における他の例である送電用避雷装置の放電部の断面図。
【図8】本発明の実施形態6における送電用避雷装置の放電部の正面図。
【図9】従来の直列ギャップ付き送電用避雷装置を示す概略図。
【図10】従来の放電部を備えた送電用避雷装置を示す概略図及び放電部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の一例について、図面を参照して具体的に説明する。なお、図9,10に示した従来例と同一の部材に関しては同一符号を付し、説明を省略する。また、実施形態2以降では、実施形態1と共通する点については説明を省略する。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1における送電用避雷装置を示す概略図、図2は、同送電用避雷装置の放電部の断面図である。
避雷要素部4は、高分子外被23を有し、放電部10は、避雷要素部4の下部にあり、直列に接続されている。避雷要素部4と放電部10との間に避雷要素側放電電極8が設けられる。支持碍子2と放電部10の下端部には、送電線1と電気的に接続された課電側放電電極6が取り付けられる。放電部10は、絶縁碍管15と、避雷要素側放電電極8の一部である突状電極16と、課電側放電電極6の一部である突状電極17と、内部の放電空間18とからなり、従来の直列ギャップに相当する放電間隙を有する。絶縁碍管15は、高分子外被11と、耐圧絶縁筒12及び両端の絶縁端板13,14からなる。突状電極16は、避雷要素側放電電極8本体と一体又は別体であり、別体の場合は電気的に接続される。同様に、突状電極17は、課電側放電電極6本体と一体又は別体であり、別体の場合は電気的に接続される。
【0017】
突状電極16は、絶縁碍管15の上端に挿入され、絶縁端板13に固定され、絶縁碍管15の上端は、密閉される。突状電極17は、絶縁碍管15の下端に挿入され、絶縁端板14との間に一定の隙間が保持される。この隙間は、放電空間18を外部に開放する通気口20としている。また、絶縁碍管15の下端部は、課電側放電電極6に対し金属製の支持ロッド19を介して支持されている。
【0018】
以上の構成により、支持ロッド19と避雷要素側放電電極8により、絶縁碍管15の位置が固定されるため、突状電極16,17間に所定の放電間隙が維持される。すなわち、風などの振動に対して放電間隙の長さが変動しない。
また、放電部10は、放電間隙が絶縁碍管15の内部の放電空間18に配置されるので、鳥獣の侵入等による短絡を防止することができる。
【0019】
このように、放電間隙が外部環境の影響を受けないので、安定的な放電特性を得ることが可能となる。また、過大な雷サージの発生時、放電部10内の突状電極16,17間に気中放電が発生して、放電空間18内の圧力が上昇しても、内部気体を通気口20から放出することにより続流を確実に抑制遮断できる。
以上に述べたように、本実施形態によれば、放電間隙の放電特性が安定し、送電用避雷装置の動作性能を向上することができる。
【0020】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態2における放電部の断面図である。
実施形態1の放電部10において、図2に示した絶縁碍管15の下端に挿入される突状電極17と絶縁端板14の代わりに、課電側放電電極6の一部であるリング状電極21を配置し、このリング状電極21は、支持ロッド19を介して課電側放電電極6本体と電気的に接続されている。リング状電極21の中心部は、放電空間18を外部に開放する通気口20としている。更に、耐圧絶縁筒12は、上端に挿入した突状電極16の周囲に密着して固定される程度の内径を有する。
【0021】
以上の構成により、過大な雷サージの発生時、突状電極16とリング状電極21の間で放電空間18の沿面に放電されて、避雷装置が動作する。放電時、放電空間18内の圧力が上昇しても、内部気体を通気口20から放出することにより続流を確実に抑制遮断できる。単純な沿面放電を利用するので、放電空間18の内径を短縮することが可能となる。すなわち、避雷装置はより一層のコンパクト化を達成できる。
【0022】
(実施形態3)
図4は、本発明の実施形態3における放電部の断面図である。
実施形態1の放電部10において、図2に示した絶縁碍管15の下端に挿入される突状電極17と支持ロッド19の代わりに、課電側放電電極6の一部である中空突状電極22を挿入し、その中空突状電極22は、課電側放電電極6本体と電気的に接続して固定されている。中空突状電極22の中空部は、放電空間18を外部に開放する通気口20としている。
【0023】
以上の構成により、過大な雷サージの発生時、放電空間18の内部にある密閉端の突状電極16と、開放端の中空突状電極22の間に気中放電されて、避雷装置が動作する。放電時、放電空間18内の圧力が上昇しても、内部気体を通気口20から放出することにより続流を確実に抑制遮断できる。また、支持ロッド19が省けるので、製造コストを削減することが可能となる。
【0024】
(実施形態4)
図5は、本発明の実施形態4における避雷要素部と放電部の構成図である。
放電部10において、絶縁碍管15の高分子外被11を、避雷要素部4の高分子外被21と一体化としている。また、避雷要素側放電電極8は直接的に絶縁碍管14の上部密閉端に挿入し、突状電極16と一体化している。
【0025】
以上の構成により、避雷要素部4と絶縁碍管15を所定の型にセットし、この型に液状高分子を注入、熱硬化することにより、高性能外被材の一斉製造を可能にした。
その結果、避雷装置の機械強度と品質信頼性を高めることができ、しかも製造コストの低減を図ることも可能となる。また、放電部10と避雷要素部4は一体化とするので、より一層のコンパクト化を達成でき、現地での取り付け工事は簡単になる。更に、避雷装置全体の漏れ距離を増加するとともに、超重汚損地区にも表面漏れ電流を抑制することにより放電部10の放電時の続流を確実に遮断できる。
【0026】
(実施形態5)
図6,7は、本発明の実施形態5における放電部の断面図である。
実施形態2の放電部10に対して、絶縁碍管15の内壁表面、具体的には耐圧絶縁筒12の内壁表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)層24を設ける(図6)。また、実施形態3の放電部10に対して、絶縁碍管15の内壁表面、及び突状電極16、中空突状電極22の先端部を除く表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)層24を設ける(図7)。プロセス条件を選定して適宜作製されたDLCは、硬度が高い、耐薬品性が高くて腐蝕に強い、ガス透過性が低い、電気絶縁性が高いといった、共通の特性を持っている(例えば特許文献3参照)。
【0027】
以上の構成により、放電部10の放電発生時、絶縁碍管15の耐圧力強度が増強でき、また、電極の金属蒸気へのバリヤー作用もある。更に、実施形態2に対して、絶縁碍管15の内壁に緻密なDLC層24を形成することで、沿面放電の不安定性を解消し、安定した沿面放電特性を得ることが可能となる。また、実施形態3に対して、突状電極16、中空突状電極22の先端部を除く表面にDLC層24を形成することで、電界最大部と電子発射部は電極の先端中央に集中するため絶縁碍管15の内部の間隙が安定的な気中放電特性を得ることが可能となる。
なお、実施形態1の放電部10に対しても、本実施形態を適用することが可能である。
【0028】
(実施形態6)
実施形態1ないし5のいずれかにおいて、絶縁碍管15の高分子外被11と耐圧絶縁筒12が光透過性材料からなる。
【0029】
以上の構成により、放電部10の放電発生時、絶縁碍管15の内部の電極間間隙を外部から観測ができる。すなわち、雷サージ発生時、避雷装置の動作性能を監視することが可能となる。
【0030】
(実施形態7)
図8は、本発明の実施形態7における放電部の構成図である。
実施形態1ないし6のいずれかにおいて、課電側放電電極6に光・熱センサ25を設ける。
【0031】
以上の構成により、放電部10の放電発生時、絶縁碍管15の通気口20〜20から放出される光あるいは熱気流を検出でき、放電の回数と時刻を記録することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
1…送電線、2…支持碍子、3…アークホーン、4…避雷要素部、5…支持アーム、 6…課電側放電電極、7…取付金具、8…避雷要素側放電電極、9…直列ギャップ、10…放電部、11…高分子外被、12…耐圧絶縁筒、13,14…絶縁端板、15…絶縁碍管、16,17…突状電極、18…放電空間、19…支持ロッド、20,20,20…通気口、21…リング状電極、22…中空突状電極、23…高分子外被、24,24…DLC層、25…光・熱センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塔の支持アームに取り付けられ、送電線を支持する支持碍子及び避雷要素部と、前記避雷要素部の下部に接続された放電部と、前記避雷要素部と前記放電部との間に設けられた避雷要素側放電電極と、前記支持碍子と前記放電部の下端部に取り付けられた課電側放電電極と、前記支持碍子の上端部に取り付けられ、前記課電側放電電極の端部と対向する放電電極とを備え、前記放電部は、内部に放電空間を形成した絶縁碍管を有し、前記絶縁碍管の内部に前記避雷要素側放電電極と前記課電側放電電極との間で直列ギャップを形成した送電用避雷装置において、
前記絶縁碍管の上端は密閉し、下端は前記放電空間を外部に開放したことを特徴とする送電用避雷装置。
【請求項2】
前記絶縁碍管の上下両端にそれぞれ前記避雷要素側放電電極と前記課電側放電電極の突状電極を挿入し、下端の前記突状電極の周囲を開放部としたことを特徴とする請求項1の記載の送電用避雷装置。
【請求項3】
前記絶縁碍管の上端に前記避雷要素側放電電極の突状電極を挿入し、下端に前記課電側放電電極のリング状電極を配置し、前記リング状電極の中心部を開放部とし、更に、前記絶縁碍管は、前記上端に挿入した突状電極の周囲に密着る内径を有することを特徴とする請求項1の記載の送電用避雷装置。
【請求項4】
前記絶縁碍管の上端に前記避雷要素側放電電極の突状電極を挿入し、下端に前記課電側放電電極の中空突状電極を挿入し、前記中空突状電極の中空部を開放部としたことを特徴とする請求項1の記載の送電用避雷装置。
【請求項5】
前記絶縁碍管は、その高分子外被が前記避雷要素部の高分子外被と一体化し、かつ、上端に挿入される突状電極を前記避雷要素側放電電極と一体化することを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の送電用避雷装置。
【請求項6】
前記絶縁碍管の内壁表面にダイヤモンドライクカーボン層を設けたことを特徴とする請求項3に記載の送電用避雷装置。
【請求項7】
前記絶縁碍管の内壁表面及び前記突状電極の先端部を除く表面にダイヤモンドライクカーボン層を設けたことを特徴とする請求項2に記載の送電用避雷装置。
【請求項8】
前記絶縁碍管の内壁表面、前記突状電極の先端部を除く表面及び前記中空突状電極の先端部を除く表面にダイヤモンドライクカーボン層を設けたことを特徴とする請求項4に記載の送電用避雷装置。
【請求項9】
前記絶縁碍管は、光透過性材料からなることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の送電用避雷装置。
【請求項10】
前記課電側放電電極に光・熱センサを設けることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の送電用避雷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−187375(P2011−187375A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53207(P2010−53207)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】