説明

送電線用スペーサー

【課題】可動部分の耐磨耗性を格段に向上させて耐久性を向上させた送電線用スペーサーを提供する。
【解決手段】導体を保持する保持部1と、断面U字状のクレビス部2と、を具える複数のクランプ3が、中間部に鍔部7を有する軸状の連結部材6を介して、フレーム4の軸受部5にそれぞれ所定の間隔をおいて支持されるようにした送電線用スペーサーであって、クランプ3のクレビス部2と、クレビス部2に嵌入される連結部材6の一端との間、又は、フレーム4の軸受部5に嵌入固定される連結部材6の鍔部7と、軸受部5との間、の少なくとも何れか一方の間に、フッ素系樹脂シートT1,T2,T3を介在させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多導体送電線の各導体を、それぞれ所定の間隔をおいて支持するための送電線用スペーサーに関する。
【背景技術】
【0002】
超高圧大容量の架空送電線では、1相当たりの導体数が複数の多導体送電線に構成される。このような多導体送電線の電気的、機械的特性を安定に保つために、その各導体相互の間隔を一定に保持する送電線用スペーサーが用いられる。その送電線用スペーサーは、例えば図4に示すように、導体(図示省略)を挟持状態に保持する保持部1と、略U字状に形成されて隙間を有するクレビス部2と、を具える複数のクランプ3が、矩形枠状に形成されるフレーム4の各頂点に、それぞれ所定の間隔をおいて支持されるように構成される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような送電線用スペーサーには、単純な軸方向荷重の繰り返しだけでなく、主としてサブスパン振動、微風振動、それに伴う各導体の張力変動などが同時に作用し、線路方向や線路直角方向等の様々な荷重要素が繰り返し作用する。このような複雑な荷重が作用することによって、初期状態では、フレッティング磨耗(擦過磨耗)により隙間が増大し、ガタが発生する。一旦、ガタが発生すると、その後は、繰り返し衝撃が加重されて疲労破壊へと進展する。連結部の磨耗が大きくなれば、磨耗が急激に増大するため、ナットや割りピンが損傷したり、クランプ本体が損傷して、クランプがフレームから脱落したり、導体に損傷が与えられるようなトラブルが発生する。
【0004】
このようなことから、送電線用スペーサーには、磨耗対策が施される。上記従来例では、クランプ3をフレーム4の軸受部5に連結するための連結部材(I金具)6の鍔部7を軸受部5に弾発的に付勢摺接させるためのスプリング8を設けている。また、クレビス部2の隙間に挿入される連結部材6の一端を固定するためのI金具ピン9に巻装させたスプリング10によって、その一端をクレビス部2の内壁面に付勢している。このような構成により、送電線用スペーサーにおける可動部分の耐磨耗性の向上が図られる。尚、導体は、保持部1の本体と開閉自在な蓋部材11とによって挟持され、その蓋部材11は、回動自在な掛止部材12によって閉状態に掛止される。その掛止部材12は、戻しバネ14の弾発力によって上方に付勢される筒状部材13の下端に支持され、押さえボルト15によって、筒状部材13の上下位置を調整することにより、導体に対する蓋部材11の挟持状態を調整できるようになっている。
【特許文献1】特開2005−198358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例では、上述のような磨耗対策が施されても、なお可動部分における耐磨耗性を充分に向上させることができなかった。特に、クランプ3は、アルミ合金の鋳造によって形成されるため比較的に硬度が低く、上述のように、スプリング10によって付勢される鋼製の連結部材6によって、クレビス部2の内壁面が磨耗するのを効果的に防ぐことはできなかった。また、スプリング8によって、連結部材(I金具)6の鍔部7を軸受部5に弾発的に付勢摺接させても、軸受部5の磨耗を充分に防止することはできなかった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされ、可動部分の耐磨耗性を格段に向上させて耐久性を向上させた送電線用スペーサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、導体を保持する保持部と、断面U字状のクレビス部と、を具える複数のクランプが、中間部に鍔部を有する軸状の連結部材を介して、フレームの軸受部にそれぞれ所定の間隔をおいて支持されるようにした送電線用スペーサーであって、
前記クランプのクレビス部と、該クレビス部に嵌入される連結部材の一端との間、又は、前記フレームの軸受部に嵌入される連結部材の鍔部と、前記軸受部との間、の少なくとも何れか一方の間に、フッ素系樹脂シートを介在させたことを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、送電線用スペーサーを多導体送電線の各導体間に架設した状態では、可動部分となるクレビス部と前記連結部材の間、又は、前記連結部材の中間部に形成される鍔部と前記フレームの軸受部との間、の少なくとも何れか一方の間に、摩擦係数の低いフッ素系樹脂シートが介在される。従って、それらの可動部分に種々の荷重要素が繰り返し作用しても、可動部分における摩擦抵抗が低減される。これにより、可動部分の磨耗が低減され、疲労破壊への進行が緩和され、耐久性が向上する。このようなフッ素系樹脂シートとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が適材である。
【0009】
前記連結部材の一端側面を、前記クレビス部の内壁面に付勢当接させるための弾発部材を設けてもよい。このようにすれば、外力が作用した場合に、連結部材の一端側面とクレビス部の内壁面との間でのガタ付きの発生を抑制することができるため、クレビス部の内壁面及び連結部材の磨耗が低減される。
【0010】
前記弾発部材の付勢端と前記連結部材の対応面との間に、フッ素系樹脂シートを介在させてもよい。このようにすれば、弾発部材の付勢端と連結部材の対応面との間の摩擦抵抗が低減されるため、外力が作用した場合に、その部分の磨耗が低減される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の送電線用スペーサーによれば、クレビス部と前記連結部材の間、又は、前記連結部材の中間部に形成される鍔部と前記フレームの軸受部との間、の少なくとも何れか一方の間に、フッ素系樹脂シートを介在させるので、それらの可動部分に種々の荷重要素が繰り返し作用しても、可動部分における摩擦抵抗が低減されるため、可動部分の磨耗が低減され、疲労破壊への進行が緩和され、耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る送電線用スペーサーについて図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
図1は、送電線用スペーサーの構成説明図である。この送電線用スペーサーは、図示のように、導体(図示省略)を保持する保持部1と、断面U字状のクレビス部2と、を具える4つのクランプ3が、中間部に鍔部7を有する軸状の連結部材6を介して、四角枠状のフレーム4(図3参照)に、それぞれ所定の間隔をおいて支持されるように構成される。その連結部材6は、一端がクレビス部2の隙間に挿入連結されて他端がフレーム4の四隅に設けられる軸受部5にねじ込み固定されると共に、弾発部材10によって、連結部材6の一端側面がクレビス部2の対向する内壁面に向けて付勢されている。
【0014】
このような構成にあって、可動部分となる3ヶ所、即ち、クレビス部2の内壁面と連結部材6の一端側面との間、弾発部材10の付勢端と連結部材6の対応面との間、及び、連結部材6の鍔部7とフレーム4に設けられる軸受部5との間、にそれぞれ摩擦係数の低いフッ素系樹脂シート(例えばポリテトラフルオロエチレン)T1,T2,T3を介在させている。このように、可動部分となる上記3ヶ所に、フッ素系樹脂シートT1,T2,T3を介在させているので、それらの可動部分に種々の荷重要素が繰り返し作用しても、可動部分の摩擦抵抗が低減されるため、可動部分の磨耗が低減され、疲労破壊への進行が緩和され、送電線用スペーサーの耐久性が向上する。
【0015】
より詳しく説明すると、クレビス部2の隙間に嵌入される連結部材6の一端は、ヘッド部9a付きのI金具ピン9に貫通され、そのI金具ピン9は、クレビス部2の両側壁21,22間に差し渡されて、その先端が、止めピンpによって、側壁21に固定される。これにより、連結部材6の一端が、I金具ピン9のまわりに回動自在な状態でクレビス部2に固定される。そして、図2(a)に拡大して示すように、クレビス部2の内壁面2aと連結部材6の一端側面6aとの間に、フッ素系樹脂シートT1がI金具ピン9に被嵌した状態で介装される。
【0016】
一方、I金具ピン9のヘッド部9aには、ピン軸に被嵌されるコイルスプリングからなる弾発部材10が抜け止め状態に係止され、図2(b)に拡大して示すように、コイルスプリング10の付勢端と連結部材6の対応面6bとの間に、金属製のワッシャwに接着等によって一体化されたフッ素系樹脂シートT2が介装される。このような構成では、両方のフッ素系樹脂シートT1,T2は、コイルスプリング10の付勢力によって、クレビス部2の内壁面2aと連結部材6の一端側面6aとの間、及び、コイルスプリング10の付勢端と連結部材6の対応面6bとの間に、挟圧された状態に保持される。従って、特に、接着剤による固定は不要であるが、一方のフッ素系樹脂シートT1は、クレビス部2の内壁面2aに接着してもよい。
【0017】
そして、連結部材6の鍔部7と、フレーム4に設けられる軸受部5との間には、図2(c)に拡大して示すように、フッ素系樹脂シートT3が、連結部材6の軸部に被嵌した状態で介装される。その連結部材6の軸先端に形成されたねじ部に螺合する鍔付きナット16と、軸受部5の開口周辺の縮径部との間には、連結部材6の軸部に被嵌されたコイルスプリング8が掛張されている。従って、フッ素系樹脂シートT3は、連結部材6の鍔部7と、フレーム4の軸受部5との間に挟圧された状態に保持される。この場合も、特に、そのフッ素系樹脂シートT3を接着剤等で固定する必要はないが、軸受部5に接着させてもよい。
【0018】
フッ素系樹脂シートT1,T2,T3は、例えば2.4mm厚程度のものを使用することができる。その摩擦係数(静摩擦係数及び動摩擦係数共に)は低く、自己潤滑性があり、メンテナンスフリーで長期の使用が可能であり、また、広い温度範囲に適用可能である。その厚さについては、使用条件に応じて適宜に選択可能であり設計の自由度が高く、金属材に対して強力に接着することもできる。従って、前述したように、ワッシャと一体化させてもよく、単独で、可動部分の滑動面に貼り付けてもよく、接着することなく、挟圧状態に保持させて使用してもよい。このようなフッ素系樹脂シートT1,T2,T3は、安価に調達できるため、本発明の送電線用スペーサーを安価に提供することができる。
【0019】
尚、本発明は、実施の形態に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜、必要に応じて改良、変更等は自由である。例えば、フッ素系樹脂シートは、二枚重ねにして使用してもよい。この場合は、相互に自己潤滑性を備えるため、より一層の耐久性の向上を図ることができる。また、本発明の送電線用スペーサーは、実施の形態に示すように、3ヶ所にフッ素系樹脂シートT1,T2,T3を設けなくてもよく、クランプ3のクレビス部2と、該クレビス部2に嵌入される連結部材6の一端との間、又は、フレーム4の軸受部5に嵌入される連結部材6の鍔部7と、軸受部5との間、の少なくとも何れか一方の間に、フッ素系樹脂シートが介在されていればよい。従って、例えばクレビス部2と、該クレビス部2に嵌入される連結部材6の一端との間では、フッ素系樹脂シートT1,T2の何れか一方を省略してもよい。また、連結部材6の鍔部7と、軸受部5との間に介装されるフッ素系樹脂シートT3が省略されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の送電線用スペーサーは、摩擦係数の低いフッ素系樹脂シートを可動部分に介在させて高い耐久性を備えるので、例えば超高圧大容量架空送電線に好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る送電線用スペーサーの要部構成の説明図である。
【図2】同フッ素系樹脂シートが介在される各可動部分の拡大説明図で、(a)はクレビス部と連結部材の一端との間、(b)は弾発部材の付勢端と連結部材の対応面との間、(c)は連結部材の鍔部と軸受部との間、にそれぞれフッ素系樹脂シートを介在させた状態を示す。
【図3】送電線用スペーサー全体の説明図である。
【図4】従来の送電線用スペーサーの要部構成の説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 保持部 2 クレビス部 2a 内壁面 3 クランプ 4 フレーム
5 軸受部 6 連結部材 6a 一端側面 6b 対応面 7 鍔部
8 スプリング 9 I金具ピン 9a ヘッド部 10 スプリング
11 蓋部材 12 掛止部材 13 は筒状部材 14 戻しバネ
15 押さえボルト 16 鍔付きナット 21,22 側壁
T1,T2,T3 フッ素系樹脂シート w ワッシャ p 止めピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を保持する保持部と、断面U字状のクレビス部と、を具える複数のクランプが、中間部に鍔部を有する軸状の連結部材を介して、フレームの軸受部にそれぞれ所定の間隔をおいて支持されるようにした送電線用スペーサーであって、
前記クランプのクレビス部と、該クレビス部に嵌入される連結部材の一端との間、又は、前記フレームの軸受部に嵌入される連結部材の鍔部と、前記軸受部との間、の少なくとも何れか一方の間に、フッ素系樹脂シートを介在させたことを特徴とする送電線用スペーサー。
【請求項2】
前記連結部材の一端側面を、前記クレビス部の内壁面に付勢当接させるための弾発部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の送電線用スペーサー。
【請求項3】
前記弾発部材の付勢端と前記連結部材の対応面との間に、フッ素系樹脂シートを介在させたことを特徴とする請求項2に記載の送電線用スペーサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−148044(P2009−148044A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321287(P2007−321287)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000213884)住電朝日精工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】