説明

送電線用スペーサ

【課題】アイ金具と連結されるクレビス部の摩耗を抑制できる送電線用スペーサを提供する。
【解決手段】送電線を把持する把持部2と、把持部2を開閉する開閉機構部5と、互いに間隔をあけて対向配置される一対の突片31U、31Lを有して開閉機構部5と一体のクレビス部3とを備えるクランプ部1と、一対の突片31U、31Lの間に介在される端部を有するアイ金具6と、クレビス部3の両突片31U、31Lとアイ金具6とを貫通する連結軸4とを備える送電線用スペーサである。突片31U、31Lの構成材料よりも高硬度の材料からなり、一対の突片31U、31Lの内面でアイ金具6との対向面の少なくとも一方に一体に固定される摩耗防止カラー7Aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多導体の送電線の各々を所定の間隔に支持するための送電線用スペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
超高圧大容量の架空送電線路では、1相当たりの導体数が複数の多導体からなる送電線が使用されている。このような多導体の送電線の電気的、機械的特性を安定に保つために、その各導体相互の間隔を一定に保持する送電線用スペーサ10Pが用いられる。その送電線用スペーサ10Pは、複数のクランプ部1とアイ金具6とを備え、各クランプ部1は、図6に示すように、送電線(図示略)を把持する把持部2と、略U字状に形成されて隙間を有するクレビス部3とを備える。このような各クランプ部1は、アイ金具6を介して環状フレーム100に支持される(例えば特許文献1参照)。環状フレーム100は、各フレーム本体110の両端を、支持部材120を介して矩形枠状に連結して構成され、その各頂点に備える支持部材120にアイ金具6の一端側をナット130で固定することにより、各クランプ部1をそれぞれ所定の間隔をおいて支持する。
【0003】
ところで、送電線には、サブスパン振動、微風振動などの振動が作用する。それらの振動に伴い、クレビス部3とアイ金具6との連結個所には荷重が繰り返し作用する。通常、把持部2、開閉機構部5、およびクレビス部3からなるクランプ部1はアルミニウム合金の鋳物で、アイ金具6は鋼で構成されており、上述の荷重が連結個所に作用すると、硬度の低いクレビス部3が摩耗したり変形したりする。このようなクランプ部1の損傷が進行すると、クランプ部1がアイ金具6から脱落する虞があった。
【0004】
そのため、送電線用スペーサ10Pには、クレビス部3の摩耗対策が施されている。例えば、クレビス部3を構成する一対の突片31U,31Lと、両突片31U,31Lの間に嵌め込まれるアイ金具6とを連結軸4で貫通し、その連結軸4の外側に圧縮ばね45を嵌め込み、この圧縮ばね45でクレビス部3の一方の突片31L側からアイ金具6をクレビス部3の他方の突片31U側に付勢する。さらに、連結軸4に外嵌されるステンレス製のワッシャWを、アイ金具6と他方の突片31Uとの間に介在させている。このワッシャWにより、アイ金具6がクレビス部3の突片31Uに直接当接することを抑制して、クレビス部3の摩耗対策を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-148044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の圧縮ばねとワッシャの組合せは、クレビス部の摩耗に一定の効果を奏する。しかしながら、上述の摩耗対策でも十分とはいえず、クレビス部の摩耗をより一層抑制するための対策が求められている。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、アイ金具と連結されるクレビス部の摩耗を抑制できる送電線用スペーサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述したクレビス部の摩耗の発生箇所と発生メカニズムについて鋭意検討を行った。その結果、摩耗は鋼製であるアイ金具とアルミニウム合金製のクレビス部との金属材料同士からなる連結箇所で高頻度に発生し、特に、クレビス部の内面とアイ金具の表面との間の構造がクレビス部の摩耗に関与していることが判明した。クレビス部の内面のうち、ワッシャに対向する上の突片側は、主にワッシャのずれによって摩耗が発生する。ワッシャ自体はクレビス部と独立した部材であり、クレビス部に対してずれなどの動きを生じ得る。そのため、送電線から伝わる振動により、クレビス部とワッシャとの相対的な動きが生じると、高硬度のワッシャが低硬度のクレビス部を摩耗させることがある。一方、クレビス部の内面のうち、圧縮ばねが設けられている下の突片側は、通常は圧縮ばねの付勢によりアイ金具との間に一定の隙間が形成されている。しかし、送電線から伝わる振動により圧縮ばねが収縮されると、高硬度のアイ金具が低硬度のクレビス部に接触して、クレビス部の内面を摩耗させる。これらクレビス部の各内面の摩耗がある程度進行して、クレビス部の両突片とアイ金具との間のガタが大きくなると、クレビス部の摩耗は加速度的に進行して、最終的にクランプ部がアイ金具から離脱し、脱落に至ることがある。本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。
【0009】
本発明の送電線用スペーサは、クランプ部と、アイ金具と、連結軸とを備える。クランプ部は、送電線を把持する把持部と、把持部を開閉する開閉機構部と、把持部又は開閉機構部の少なくとも一方と一体化されて、互いに間隔をあけて対向配置される一対の突片を有し、略U字状に形成されて隙間を設けるクレビス部とを備える。アイ金具は、前記クレビス部の一対の突片の隙間に介在される端部を有する。連結軸は、前記クレビス部の一対の突片とアイ金具とを貫通する。そして、このスペーサは摩耗防止カラーを備え、そのカラーは、前記突片の構成材料よりも高硬度の材料からなり、前記一対の突片の内面でアイ金具との対向面の少なくとも一方に一体に固定されることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、摩耗防止カラーがクレビス部に一体に固定されていることで、送電線用スペーサが振動を受けても、摩耗防止カラーがクレビス部に対して移動することがなく、ワッシャを用いていた従来の送電線用スペーサに比べてクレビス部の摩耗を大幅に抑制できる。
【0011】
本発明の送電線用スペーサにおいて、前記クレビス部は鋳造材で構成され、前記摩耗防止カラーは、前記一対の突片の内面でアイ金具との対向面の少なくとも一方に、鋳ぐるみにより固定されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、摩耗防止カラーがクレビス部と鋳ぐるみにより強固に一体化されるため、クレビス部の摩耗防止を効果的に実現できる。
【0013】
本発明の送電線用スペーサにおいて、前記クレビス部はアルミニウム又はアルミニウム合金からなる鋳造材で構成され、前記摩耗防止カラーはステンレス、チタン、又はチタン合金などの金属材料からなる構成が挙げられる。
【0014】
この構成によれば、クレビス部をアルミニウム又はアルミニウム合金で構成することにより、軽量の送電線用スペーサとすることができる。また、摩耗防止カラーをステンレス、チタン又はチタン合金などの金属材料で、アイ金具と同等以上の硬度を有する材質の上記金属材料とすることで、耐食性に優れ、かつアイ金具との接触に対して高い耐摩耗性を備える。
【0015】
本発明の送電線用スペーサにおいて、前記クレビス部は、前記一対の突片の端部をつなぐ連結片を有し、前記摩耗防止カラーは、前記連結片から一対の突片にわたる範囲において、断面逆コ状に形成されている構成が挙げられる。
【0016】
この構成によれば、アイ金具に対向する一対の突片の各々に摩耗防止カラーが配されることで、いずれの突片の摩耗も抑制することができる。また、連結片にも摩耗防止カラーを固定することで、より一層強固に摩耗防止カラーをクレビス部に固定することができる。更に、振動により圧縮ばねが収縮されても圧縮ばね側の突片が摩耗されず、クレビス部の両突片とアイ金具との間にガタが起こらない。
【発明の効果】
【0017】
本発明の送電線用スペーサによれば、アイ金具と連結されるクレビス部の摩耗を大幅に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1に係る送電線用スペーサの要部構成図である。
【図2】図1のスペーサに用いる摩耗防止カラーを示し、(A)は正面図、(B)は底面図である。
【図3】実施形態2に係る送電線用スペーサのクレビス部を拡大して示し、(A)は正面図、(B)は(A)図のB-B矢視図である。
【図4】図3のスペーサに用いる摩耗防止カラーを示し、(A)は正面図、(B)は底面図である。
【図5】実施形態3に係る送電線用スペーサに用いる摩耗防止カラーを示し、(A)は正面図、(B)は底面図である。
【図6】(A)は従来の送電線用スペーサの全体構成図、(B)はその要部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0020】
[実施形態1]
{概要}
図1に示すように、本発明の送電線用スペーサは、送電線を把持するクランプ部1と、クランプ部1を環状フレームに取り付けるアイ金具6とを備え、図6に示す環状フレーム100に複数のクランプ部1を取り付けて使用される点で、従来の送電線用スペーサ10Pと同様の構成である。このスペーサの特徴の一つは、クランプ部1がアイ金具6と連結されるクレビス部3に摩耗防止カラー7Aが一体に固定されている点にある。以下、各構成要素を詳しく説明する。
【0021】
{アイ金具}
アイ金具6は環状フレーム100(図6)にクランプ部1を取り付けるための連結部材である。このアイ金具6は、一端にクランプ部1と連結される連結舌片61を備え、他端にフレーム100の支持部材120(図6)に連結される雄ねじ部62を備え、中間にフランジ部63を備える。連結舌片61には、後述する連結軸4が貫通する貫通孔61Hが形成されている。アイ金具6の金属材料は、本例では、鋼を用いている。
【0022】
{クランプ部}
クランプ部1は、送電線を把持する把持部2と、この把持部2を開閉する開閉機構部5と、アイ金具6に把持部2及び開閉機構部5を連結するクレビス部3とを備える。ここでは、先にクレビス部3について説明し、把持部2と開閉機構部5については後述する。また、本例では、把持部2の基部21、開閉機構部5の枠部51、およびクレビス部3とを一体成型したものであるが、機械強度が確保できれば、各部を分割部材として成型し、それら分割部材を組み立てた構造のものでも良い。
【0023】
(クレビス部)
このクレビス部3は、開閉機構部5を介して把持部2と反対側にあり、互いに間隔をあけて対向して配置される一対の突片31U、31Lと、両突片31U、31L間をつなぐ連結片32とを備え、その両突片31U、31Lに隙間を形成する略U字状の構造からなるクランプ部1の構成部位である。各突片31U、31Lには、後述する連結軸4に貫通される軸孔31Hが形成されている。この軸孔31Hのうち、突片31Lの軸孔31Hの内径は突片31Uの軸孔31Hの内径よりも大きく、かつ突片31Lの軸孔31Hは、アイ金具6側との対向面に位置する内面側の径が小さく、連結軸4の頭部42側に位置する外面側の径が大きい、全体として段付き孔の構造になっている。アイ金具6の連結舌片61は、両突片31U、31Lの間に形成した隙間に嵌め込まれ、後述する連結軸4により、クレビス部3に遊動自在に取り付けられる。また、一方の突片31Uには、連結軸4と突片31Uとを固定するピン44を挿入するためのピン孔43が形成されている。このクレビス部3はアルミニウム合金(例えば、AC4C-T6やAC7A-F)の鋳造材により構成されている。そして、このクレビス部3の両突片31U、31Lの内面とその両突片31U、31Lの端部にある連結片32にわたる範囲において、後述する摩耗防止カラー7Aが一体に固定されている。また、本例では、クレビス部3が開閉機構部5のみと一体化されているが、把持部2のみと一体化、あるいは把持部2と開閉機構部5の両方と一体化されていても良い。
【0024】
(連結軸)
連結軸4は、上述した連結舌片61、両突片31U、31Lと共に摩耗防止カラー7Aを貫通して、クレビス部3とアイ金具6とを連結する。この連結軸4は、長手方向に径が一様な軸部41と、その一端に形成された頭部42とを備える。軸部41はクレビス部3の上記段付き孔の小径側に差し込まれ、頭部42は段付き孔の大径側に突出しないよう埋没する状態にて嵌め込まれる。また、軸部41の先端にはピン孔43が形成されている。このピン孔43と一方の突片31Uのピン孔にピン44を貫通することで、連結軸4の先端は一方の突片31Uに固定される。さらに、軸部41の外周には圧縮ばね45が嵌め込まれている。この圧縮ばね45は、一端が頭部42に、他端がアイ金具6の連結舌片61に当接され、連結舌片61を突片31U側に付勢する。
【0025】
(摩耗防止カラー)
摩耗防止カラー7Aは、クレビス部3の両突片31U、31Lの内面に一体に固定されることで、アイ金具6の連結舌片61がクレビス部3の内面に直接接触することを防止し、その内面が摩耗することを抑制する。
【0026】
摩耗防止カラー7Aの形状は、上述したとおりアイ金具6の連結舌片61がクレビス部3の内面に直接接触しないようにすれば良く、例えば、クレビス部3を構成する各突片31U、31Lの内面がアイ金具6の連結舌片61と接触する箇所である対向する面の少なくとも一方の面(突片31U面、又は突片31L面)を覆うことができる形状であればよい。本例では、図2に示すように、互いに対向する一対の環状片71U、71Lだけでなく、両環状片71(71U、71L)をつなぐ連結片72を備える断面逆コ状の摩耗防止カラー7Aとしている。各環状片71U、71Lが両突片31U、31Lの対向面を覆い、連結片72が両突片31U、31Lを連結する連結片32に一体化される。断面逆コ状の金属片であれば、環状片だけの摩耗防止カラーに比べて、クレビス部3と摩耗防止カラー7Aとの接触面積を増加でき、同カラー7Aをクレビス部3に強固に固定することができる。特に、連結片72が平板状で、クレビス部3の連結片32の内面(アイ金具6の連結舌片61と対向する面)が湾曲面の場合、連結片72の大半が連結片32内に埋没されるため、一層強固に摩耗防止カラー7Aをクレビス部3に固定できる。
【0027】
その他、連結片72を有しない摩耗防止カラーでも良い。例えば、両突片31U、31Lの対向面の各々と一体化される環状板で摩耗防止カラーを構成しても良い。この環状板のカラーを一体化する突片31U、31Lは、双方とすることが好ましいが、いずれか一方の突片31U(31L)にのみ環状板のカラーを設ける場合、連結軸4の先端側、つまり突片31Uに環状板のカラーを一体化することが好ましい。これは、圧縮ばね45が連結舌片61を突片31U側に常時付勢するため、突片31Uは連結舌片61により圧接されることとなり、突片31Lは連結舌片61との接触が緩和されるからである。
【0028】
また、各環状片71U、71Lには、連結軸4の貫通孔71HU、71HLが形成されている。この貫通孔71HLの内径は貫通孔71HUの内径よりも大きい。これは、貫通孔71HLの内側には、連結軸4の軸部41の外側に嵌められる圧縮ばね45が挿通されるためである。
【0029】
この摩耗防止カラー7Aの材料としては、クレビス部3の構成材料よりも高硬度の材料が選択される。アイ金具6(連結舌片61)が繰り返しクレビス部3に接触することで、クレビス部3が摩耗することを効果的に抑制するためである。本例では、摩耗防止カラー7Aをステンレス(例えばSUS304)で構成している。この摩耗防止カラー7Aの材質は、アイ金具6(連結舌片61)の材質と同等以上の硬度であることも好ましい。摩耗防止カラー7A自体がアイ金具6(連結舌片61)との接触により摩耗することを抑制するためである。また、後述するように、摩耗防止カラー7Aを鋳ぐるみによりクレビス部3に一体化する場合、クレビス部3の構成材料よりも高融点の材料で摩耗防止カラー7Aを構成する必要がある。摩耗防止カラー7Aの構成材料の融点がクレビス部3の構成材料の融点よりも低ければ、鋳ぐるみ時に摩耗防止カラー7Aも溶融されてしまうからである。なお、本例では、摩耗防止カラー7Aとしてステンレスを用いたが、チタン又はチタン合金などの金属材料でも良い。
【0030】
摩耗防止カラー7Aをクレビス部3に一体に固定する方法としては、接着剤による接着、プレスによる圧入が利用できるが、本例では、クランプ部1と共に摩耗防止カラー7Aを鋳ぐるむことで固定している。すなわち、クランプ部1のうち、クレビス部3と一体で、アルミニウム合金から構成される金属部材を鋳造する際に、金型内に摩耗防止カラー7Aを配置しておき、アルミニウム合金の溶湯を摩耗防止カラー7Aの所定箇所に接触させることで、クレビス部3の鋳造に伴って摩耗防止カラー7Aを一体化させる。
【0031】
本例では、この鋳ぐるみにより、環状片71Uの突片31Uとの対向面や環状片71Lの突片31Lとの対向面だけでなく、各環状片71U、71Lの厚み方向に沿った面、即ち、内周面および外周面もクレビス部3を構成するアルミニウム合金に接合されている。そして、各環状片71U、71Lの互いに対向する表面と各突片31U、31Lの互いに対向する内面のうち摩耗防止カラー7Aに覆われていない面とは、実質的に面一となっている。この構成により、摩耗防止カラー7Aとクレビス部3との接触面積を広く確保し、摩耗防止カラー7Aを含むクレビス部3の内面、つまりアイ金具6との接触面をほぼ平面にすることができる。また、摩耗防止カラー7Aの連結片72の大半は、クレビス部3の連結片32に埋設されている。本例のクレビス部3では、その連結片32の内面が、連結片72に接する円弧状の湾曲面で構成されているからである。この構成によれば、連結片72における湾曲面との接点近傍を除き、連結片72の大半がクレビス部3に埋設されるため、摩耗防止カラー7Aをクレビス部3に強固に一体化することができる。
【0032】
この鋳ぐるみを行う際、金型の一部として、クレビス部3の内面を形成する中子が用いられるが、鋳造により各突片31U、31Lに軸孔31Hを形成する必要は無い。つまり、クレビス部の鋳造が完了した時点では、軸孔31Hがなく、摩耗防止カラー7Aの貫通孔71HU、71HLの内側はアルミニウム合金で充填された状態となっていても良い。この軸孔31Hは、鋳造後の突片31U、31Lに切削などにより形成すれば良いためである。切削により軸孔31Hを形成することで、精度良く軸孔31Hを形成できる。
【0033】
(把持部)
把持部2は、クレビス部3と一体の基部21と、この基部21に一端側が揺動可能に連結される蓋部22と、蓋部22を基部21に対して揺動自在に支持する枢軸23とを備える。
【0034】
基部21は送電線を把持する円弧形状の凹部を備える。蓋部22は凹部の円弧形状をしており、円弧の一端側が基部21に枢軸23を介して揺動可能に連結され、他端側に後述する開閉機構部5の係合ピン52bが係合する切欠22Cが形成されている。枢軸23を支点として蓋部22を揺動させることにより、蓋部22を基部21に対して開閉するようになっている。蓋部22を基部21に対して閉じた際、基部21と蓋部22の間には送電線を挟持するための略円形の保持空間が形成される。
【0035】
(開閉機構部)
開閉機構部5は、基部21と蓋部22との間の保持空間に送電線を配置させた状態で基部21と蓋部22を閉じ、基部21と蓋部22で送電線を一定の把持力で把持できるようにすると共に、蓋部22を基部21に対して開くことができるようにするための機構である。
【0036】
開閉機構部5は、図1に示すように、基部21とクレビス部3とを一体につなぐ枠部51と、枠部51内で蓋部22を基部21に向けて引き付ける引付部52と、引付部52を付勢する圧縮ばね53と、押しボルト54とを備える。
【0037】
引付部52は、枠部51の内部で往復動作する円柱部材52aと、この円柱部材52aの軸方向一端側に揺動可能に取り付けられる先端に突部を有するT型の係合ピン52bとを備える。円柱部材52aの軸方向他端側には、圧縮ばね53の他端を保持するフランジ状のばね座52cが形成されている。
【0038】
圧縮ばね53は、その付勢力で蓋部22を基部21に引き付ける方向に円柱部材52aを付勢する。係合ピン52bが蓋部22の切欠22Cに係合した状態で、この圧縮ばね53の付勢により円柱部材52aをばね座52c側に押圧することで、蓋部22が基部21へ向けて引き付けられて、蓋部22が閉じられる。
【0039】
一方、押しボルト54は、枠部51の端部に螺合され、圧縮ばね53の付勢力に抗して円柱部材52aを蓋部22側に移動させる。この押しボルト54は、枠部51に外部からねじ込むことにより、押しボルト54の先端が円柱部材52aのばね座52cに接触される。
【0040】
蓋部22を開く場合、押しボルト54を円柱部材52aに向けてねじ込むことにより、圧縮ばね53の付勢力に反して円柱部材52aが押しボルト54で押されて係合ピン52b側に移動し、係合ピン52bによる蓋部22の基部21側への引き付けを解除する。この状態で、係合ピン52bを蓋部22の切欠22Cから外れる方向に揺動させることにより、蓋部22を基部21に対して開くことができる。
【0041】
逆に蓋部22を閉じる場合、蓋部22を開いた状態で、蓋部22と基部21との間の保持空間に送電線を配置し、蓋部22を閉じる。次に、係合ピン52bを蓋部22の切欠22Cに係合するように揺動させておいて、押しボルト54を円柱部材52aから離れていく方向に移動させる。この押しボルト54の移動により、円柱部材52aが圧縮ばね53の付勢力により移動し、係合ピン52bが蓋部22を基部21側に引き付けて、蓋部22が閉じられた状態に保持される。
【0042】
{作用効果}
上記の送電線用スペーサによれば、クレビス部3の内面に摩耗防止カラー7Aが一体に固定されているため、アイ金具6の連結舌片61がクレビス部3の内面に直接当接することを抑制し、クレビス部3の摩耗を効果的に抑制することができる。
【0043】
クレビス部3の各突片31U、31Lの互いに対向する内面のいずれもが摩耗防止カラー7Aの環状片71U、71Lで覆われているため、いずれの突片31U、31Lにおいてもアイ金具6との直接接触による摩耗を抑制することができる。
【0044】
摩耗防止カラー7Aの連結片72の大半がクレビス部3の連結片32の内部に埋設されるように、鋳ぐるみで同カラー7Aとクレビス部3とを一体化しているため、同カラー7Aをクレビス部3に強固に一体化することができる。
【0045】
[実施形態2]
次に、実施形態1とは異なる形状の摩耗防止カラーを用いた本発明送電線用スペーサの実施形態を図3及び図4に基づいて説明する。
【0046】
この実施形態は、摩耗防止カラー7Bの形状と同カラー7Bの固定されたクレビス部3の形状が実施形態1との相違点で、他の構成は実施形態1と共通であるため、この相違点を中心に説明し、他の構成については説明を省略する。
【0047】
図3、図4に示すように、このスペーサの摩耗防止カラー7Bは、環状片71U、71L及び連結片72を備える点で図2の摩耗防止カラー7Aと共通するが、環状片71U、71Lの開放縁の形状が角落としされた四角形状であり、さらに環状片71U、71Lの開放縁側の両側に折り曲げ片71Fを備える点が相違する。環状片71Uの折り曲げ片71Fと環状片71Lの折り曲げ片71Fは互いに離れる向き(図4の上下方向)に伸延するよう折り曲げられている。
【0048】
この摩耗防止カラー7Bもクレビス部3の両突片31U、31L及び連結片32に一体に鋳込まれて固定されている。ここで、環状片71U、71Lの折り曲げ片以外の箇所は各突片31U、31Lの内面に沿って固定されるが、各折り曲げ片71Fは各環状片71U、71Lと直交する方向に伸延して各突片31U、31L内に埋設されている。よって、本例の送電線用スペーサでも実施形態1の送電線用スペーサと同様の効果が得られることに加え、各折り曲げ片71Fのクレビス部3に対するアンカー効果が期待でき、一層摩耗防止カラー7Bをクレビス部3に強固に固定できる。
【0049】
なお、図3(B)から明らかなように、摩耗防止カラー7Bの連結片72の大半がクレビス部3の連結片32に埋設されている。摩耗防止カラー7Bの連結片72が平板状であるのに対し、クレビス部の連結片32の内面は、連結片72の内面に接する円弧状の湾曲面で構成されているからである。よって、実施形態1と同様に、摩耗防止カラー7Bをクレビス部3に強固に固定できる。
【0050】
[実施形態3]
さらに、上記両実施形態とは異なる形状の摩耗防止カラーについて図5に基づいて説明する。この摩耗防止カラー7Cは実施形態1で用いた摩耗防止カラー7Aと近似した形状で、クレビス部への固定状態も実施形態1と共通であるため、以下の説明は摩耗防止カラー7Cについてのみ行う。
【0051】
この摩耗防止カラー7Cが実施形態1で用いた摩耗防止カラー7Aと相違する点は、各環状片71U、71Lに複数の凹部71Cと凸部71Pを形成している点である。すなわち、各環状片71U、71Lの内面側に凹部71Cを、外面側に凸部71Pを備える。この凹部71Cと凸部71Pは、互いに各環状片71U、71Lの表裏の対応する位置に形成されている。このような摩耗防止カラー7Cは、両環状片71U、71Lと連結片72とが平板としてつながる素材板を用意し、素材板の片面から反対面に向かって鍛造等により凹部71Cを形成し、それに伴って反対面に凸部71Pを形成する。その後、この素材板を折り曲げて断面逆コ状にすれば、摩耗防止カラー7Cが得られる。
【0052】
この摩耗防止カラー7Cは、凸部71Pがクレビス部の各突片31U、31Lに埋設されるため、実施形態1で用いた摩耗防止カラー7Aに比べて各突片31U、31Lと各環状片71U、71Lとの接触面積を増加し、凸部71Pのアンカー効果も期待できるため、摩耗防止カラー7Cをクレビス部3に一層強固に固定することができる。勿論、本例の送電線用スペーサでも実施形態1の送電線用スペーサと同様の効果が得られる。
【0053】
本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で必要に応じて種々の変更が可能である。例えば、接着剤により摩耗防止カラーとアイ金具とを一体化する場合、金属用の接着剤により両者を接着することが挙げられる。その際、摩耗防止カラーの表面のうち、クレビス部の内面と対向する対向面だけでなく、摩耗防止カラーの厚み方向に沿った面(連結片側の内周面、および突片の対向面を除いた外周面であり、クレビス部の内面全体)も接着面となるよう、予めクレビス部に摩耗防止カラーが嵌め込まれる凹部を形成しておくことが好ましい。その凹部の形状は、摩耗防止カラーの環状片の外形に対応した形状であることが好ましい。
【0054】
その他、摩耗防止カラーをプレスによりクレビス部に圧入する場合、摩耗防止カラーの構成材料(例えばステンレス)をクレビス部の構成材料(例えばアルミニウム合金)よりも高硬度の材料とし、摩耗防止カラーがクレビス部を塑性変形させるような十分な圧力で同カラーを押圧する。それにより、クレビス部に摩耗防止カラーの形状に応じた局部的な凹所を形成させて、摩耗防止カラーが部分的にクレビス部に埋設されるようにすればよい。プレスを利用する場合、摩耗防止カラーは環状片だけからなり、連結片を有しない構成であることが好ましい。連結片がなければ、一対の環状片を互いに離れる方向に押圧することで、クレビス部を構成する各突片に各環状片を圧入しやすい。さらに、このプレスによる摩耗防止カラーとクレビス部との一体化は、接着剤による接着と併用して行うこともできる。より具体的には、予め摩耗防止カラーとクレビス部の各対向面の少なくとも一方に接着剤を塗布しておき、その状態で摩耗防止カラーをクレビス部の内面に圧入すれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の送電線用スペーサは、複数の架空送電線を所定の間隔に保持する送電線用スペーサとして利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 クランプ部
2 把持部
21 基部 22 蓋部 22C 切欠 23 枢軸
3 クレビス部
31U、31L 突片 31H 軸孔 32 連結片
4 連結軸
41 軸部 42 頭部 43 ピン孔 44 ピン 45 圧縮ばね
5 開閉機構部
51 枠部 52 引付部 52a 円柱部材 52b 係合ピン 52c ばね座
53 圧縮ばね 54 押しボルト
6 アイ金具
61 連結舌片 61H 貫通孔 62 雄ねじ部 63 フランジ部
7A、7B、7C 摩耗防止カラー
71、71U、71L 環状片 71HU、71HL 貫通孔 71C 凹部 71P 凸部
71F 折り曲げ片
72 連結片
10P 送電線用スペーサ
100 環状フレーム
110 フレーム本体 120 支持部材 130 ナット
W ワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線を把持する把持部と、把持部を開閉する開閉機構部と、把持部又は開閉機構部の少なくとも一方と一体化されて、互いに間隔をあけて対向配置される一対の突片を有し、略U字状に形成されて隙間を設けるクレビス部とを備えるクランプ部と、
前記クレビス部の一対の突片の隙間に介在される端部を有するアイ金具と、
前記クレビス部の一対の突片とアイ金具とを貫通する連結軸とを備える送電線用スペーサであって、
前記突片の構成材料よりも高硬度の材料からなり、前記一対の突片の内面でアイ金具との対向面の少なくとも一方に一体に固定される摩耗防止カラーを備えることを特徴とする送電線用スペーサ。
【請求項2】
前記クレビス部は鋳造材で構成され、
前記摩耗防止カラーは、前記一対の突片の内面でアイ金具との対向面の少なくとも一方に、鋳ぐるみにより固定されていることを特徴とする請求項1に記載の送電線用スペーサ。
【請求項3】
前記クレビス部はアルミニウム又はアルミニウム合金からなる鋳造材で構成され、
前記摩耗防止カラーはステンレス、チタン、又はチタン合金などの金属材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の送電線用スペーサ。
【請求項4】
前記クレビス部は、前記一対の突片の端部をつなぐ連結片を有し、
前記摩耗防止カラーは、前記連結片から一対の突片にわたる範囲において断面逆コ状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の送電線用スペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−66309(P2013−66309A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203860(P2011−203860)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000213884)住電朝日精工株式会社 (24)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【Fターム(参考)】